説明

有機ELパネルおよびその製造方法

【課題】 遮光マスクを用いることなく、簡便にシール材に紫外線を照射することができると共に、有機発光層が紫外線に暴露されることを防止して、有機ELパネルの劣化を抑制した有機ELパネルとその製造方法を提供する。
【解決手段】 陽極電極11、有機発光層5、陰極電極8、絶縁層6、及び隔壁7が形成された有機EL素子基板2と、有機EL素子基板2に対向する封止基板3と、封止基板3の外周部に配設され、有機EL素子基板2と封止基板3とを封止するシール材4とを備え、絶縁層6が、紫外線吸収剤を含有する有機ELパネル1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELパネルおよびその製造方法に関するものであり、特に、シール材に紫外線を照射して、有機EL素子基板と封止基板とを封止した有機ELパネルとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、有機EL素子基板と封止基板とを封止して有機ELパネルを作製する際には、紫外線硬化型樹脂からなるシール材を用いていた。このシール材に紫外線を照射して有機ELパネルを封止する際、有機EL素子基板上に形成された有機発光層が紫外線に暴露されると、有機発光層の劣化が促進されて、ダークフレームを発生し、輝度低下や画素の縮小、有機ELパネルの寿命低下を生じるという問題があった。
【0003】
そこで、有機発光層を紫外線に暴露させることなく、シール材を封止する方法として、図4に示したように、封止基板3側から、2〜3mmの開口部21,21・・・を有する遮光マスク20を介して、シール材4,4・・・に紫外線を照射する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に係る紫外線照射方法にあっては、遮光マスク20が石英ガラスとクロムからなる高価なものであり、作業の手間がかかり、また製造コストが上昇するという問題があった。
【0005】
そこで、図5に示したように、有機EL素子基板2上に形成したアルミニウム等の金属材料からなる陰極電極8を利用して、遮光マスクを用いることなく、封止基板3側からシール材4に紫外線を照射する方法が考えられる。この場合、有機発光層5上には陰極電極8が積層されているため、陰極電極8の真上から垂直に入射した紫外線は、金属材料からなる陰極電極8表面で反射されて、有機発光層5には到達せず、有機発光層5に紫外線が入射することはないと考えられる。
【特許文献1】特開2001−319776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法にあっては、紫外線は陰極電極8の真上から垂直に入射するものだけではなく、斜め上方から入射する光や、散乱、回折により回り込んで水平方向近辺から入射する場合がある。このため、陰極電極8だけで遮光マスクを用いないと遮光が不充分となり、例えば、斜め上方から入射した紫外線が、隔壁17と絶縁層16とを透過して、絶縁層16に隣接した有機発光層5の側面に入射し、有機発光層5を劣化させる問題があった。そのため、遮光マスクを用いることなく、紫外線を照射する方法は未だ提案されていなかった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、遮光マスクを用いることなく、簡便にシール材に紫外線を照射することができると共に、封止基板側斜め上方から入射した紫外線が、絶縁層を透過して、絶縁層に隣接した有機発光層の側面に入射することにより、有機発光層が紫外線に暴露されることを防止して、有機ELパネルの劣化を抑制した有機ELパネルとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、陽極電極、有機発光層、陰極電極、絶縁層、及び隔壁が形成された有機EL素子基板と、前記有機EL素子基板に対向する封止基板と、前記封止基板の外周部に配設され、前記有機EL素子基板と前記封止基板とを封止するシール材とを備えた有機ELパネルであって、前記絶縁層が、紫外線吸収剤を含有することを特徴とする有機ELパネルである。
【0009】
請求項2にかかる発明は、前記隔壁が、紫外線吸収剤を含有する請求項1に記載の有機ELパネルである。
【0010】
請求項3にかかる発明は、請求項1または2に記載の有機ELパネルを製造する方法であって、有機EL素子基板に紫外線吸収剤を含有した絶縁層を形成する工程と、前記有機EL素子基板と前記封止基板とを紫外線硬化型のシール材を介して重ね合わせる工程と、前記封止基板側から遮光マスクを用いることなく、紫外線を前記シール材に照射して、前記有機EL素子基板と前記封止基板とを封止する工程を有することを特徴とする有機ELパネルの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機ELパネルとその製造方法によれば、絶縁層に紫外線吸収剤を含有させることにより、封止基板側斜め上方から入射した紫外線が、絶縁層を透過することがないため、この紫外線が絶縁層に隣接した有機発光層の側面に入射することはなく、有機発光層が紫外線に暴露されることを防止することができ、有機ELパネルの劣化を抑制することができる。
【0012】
また、本発明によれば、陰極電極を有機発光層上に形成したことにより、封止基板側から垂直に入射した紫外線を陰極電極表面で反射できるため、遮光マスクを用いることなく、有機発光層が紫外線に直接暴露されることを防止することができ、安価で簡便にシール材に紫外線を照射することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る有機ELパネルの一例を示して、詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る有機ELパネル1の概略断面図である。本実施形態に係る有機ELパネル1は、有機EL素子基板2と、有機EL素子基板2に対向する封止基板3と、有機EL素子基板2と封止基板3とを封止するシール材4とから概略構成されている。
【0015】
図2は、本実施形態に係る有機EL素子基板2の概略斜視図である。有機EL素子基板2上には、陽極電極11、有機発光層5,5・・・、陰極電極8,8・・・、絶縁層6,6・・・、及び隔壁7,7・・・が形成されている。
【0016】
有機EL素子基板2は、厚さ0.4〜1.1mmの透明なガラス基板からなり、その上には、厚さ0.1〜0.2μmのITO等の透明な陽極電極11が、ストライプ状にパターニングされて形成されている。有機EL素子基板2の下部側は、いわゆる視認側に当たる。そして、陽極電極11上には、発光部10に対応して形成された厚さ100〜200nmの有機発光層5,5・・・と、有機発光層5,5・・・同士の間に格子状に形成された厚さ0.5〜1.0μmの絶縁層6,6・・・とが設けられている。
【0017】
有機発光層5,5・・・は自発光源となるものである。有機発光層5,5・・・上には、厚さ0.1〜0.3μmのアルミニウム等の不透明な金属材料からなる陰極電極8,8・・・が形成されていて、陽極電極11と陰極電極8とで有機発光層5を挟み込んで印加できるようになっている。
【0018】
有機発光層5上の陰極電極8を、不透明な金属材料で形成することにより、シール材4に紫外線を照射する際に、封止基板3側から紫外線を照射しても、真上から垂直に入射する大半の紫外線を陰極電極8表面で反射することができる。その結果、有機発光層5が直接紫外線に暴露されるのを防止すると共に、遮光マスクを用いることなく、紫外線を照射することができる。
【0019】
また、絶縁層6,6・・・は、隣り合った発光部10同士の陽極電極11と陰極電極8間とでショートが発生しないように、有機発光層5,5・・・同士の間に格子状台形型に形成されている。絶縁層6,6・・・は、ベースとなる絶縁性を有する透明なポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂等に、紫外線吸収剤を含有させたものである。
【0020】
絶縁層6中における紫外線吸収剤の含有量は、絶縁層の形成精度の観点やコストの観点から、0.5〜5質量%であるのが好ましい。紫外線吸収剤とは、300〜400nmの波長の紫外線を吸収し、それ自身は紫外線を吸収しても何ら変質しない無機化合物または有機化合物である。
【0021】
このような無機化合物としては、酸化亜鉛、酸化セリウム等が挙げられる。また、有機化合物としては、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、フェニルサリシレート等のサリチル酸系紫外線吸収剤などを用いることができる。
【0022】
絶縁層6に紫外線吸収剤を含有させることにより、シール材4に紫外線を照射する際に、封止基板側斜め上方から入射し絶縁層6を透過する紫外線を、ほとんど吸収することができるため、遮光マスクを用いなくとも紫外線が絶縁層6を透過して、絶縁層6に隣接した有機発光層5の側面に到達するのを防止することができる。その結果、有機発光層5が紫外線に暴露されるのを防止することができ、有機発光層5の劣化によるダークフレームの発生、輝度低下、画素の縮小、有機ELパネルの寿命低下を防止することができる。
【0023】
この絶縁層6,6・・・の上には、隣接する陰極電極間の配線を区分するため、帯状逆台形型の隔壁7,7・・・が設けられている。隔壁7は、絶縁層6と同じ材質からなるのが好ましい。絶縁層6のみならず隔壁7にも上記と同様の紫外線吸収剤を同量含有させることができる。絶縁層6と隔壁7に紫外線吸収剤を含有させることにより、封止基板側斜め上方から入射し隔壁7と絶縁層6とを透過する紫外線を、さらに吸収して、絶縁層6に隣接した有機発光層5の側面が紫外線に暴露されるのを完全に防止することができる。
【0024】
有機EL素子基板2を覆うように、ガラス、アクリル系樹脂などからなる透明な封止基板3が設けられている。封止基板3の形状は、平板状の基板の中央部をざぐり、外周部の厚みが中央部の厚みより厚くなっており、外周部には、厚さ10〜20μmのエポキシ系、アクリル系等の紫外線硬化型樹脂からなるシール材4が配設されている。そして、有機EL素子基板2と封止基板3とは、シール材4によって封止されている。
【0025】
また、本実施形態に係る有機ELパネル1では、封止基板3の内側に捕水剤9を設けて、有機ELパネル1内の水分を吸湿できるようになっている。
【0026】
本実施形態に係る有機ELパネル1は、紫外線吸収剤を含有させた絶縁層6と、不透明な金属材料からなる陰極電極8とを、有機EL素子基板2上に形成したことにより、遮光マスクを用いることなく封止基板3側から紫外線を照射しても、垂直方向及び斜め上方方向から入射した紫外線を反射、吸収して、有機発光層5が紫外線に暴露されるのを防止することができる。その結果、有機発光層5の劣化によるダークフレームの発生、輝度低下、画素の縮小、有機ELパネルの寿命低下を防止することができる。
【0027】
次に、本実施形態に係る有機ELパネル1の製造方法について、以下に説明する。この有機ELパネル1の製造方法は、封止基板3の外周部にシール材4を配設し、有機EL素子基板2と封止基板3とを重ね合わせる工程と、封止基板3側から遮光マスクを用いることなく、紫外線をシール材4に照射して、有機EL素子基板2と封止基板3とを封止する工程を有するものである。
【0028】
まず、ガラス基板からなる有機EL素子基板2上に、ITOをスパッタにより成膜し、エッチングによりパターニングして陽極電極11を形成する。
【0029】
次いで、感光性のポリイミド溶液等に紫外線吸収剤を混ぜた溶液を、スピンコーティングにより塗布し、フォトリソグラフィーでパターニングして、陽極電極11上に絶縁層6を形成する。この絶縁層6の上に隔壁7を成膜、フォトリソグラフィーで形成する。この時、露光時間やエッチングの液温、時間を変更することで、隔壁7の逆台形型の形状を変化させることができる。
【0030】
さらに、陽極電極11上の発光部10に対応した部分に、蒸着または湿式塗布により有機発光層5を形成する。その後、有機発光層5上に、陰極電極8を蒸着する。
【0031】
あらかじめ内側に捕水剤9を設けておいた封止基板3の外周部に、紫外線硬化型樹脂からなるシール材4をディスペンサにより塗布した後、有機EL素子基板2と封止基板3とを重ね合わせる。
【0032】
封止基板3側から遮光マスクを用いることなく、波長300〜400nm、照射量5000〜10000mJ/cmの紫外線をシール材4に照射して、有機EL素子基板2と封止基板3とを封止する。その後、シール材4の硬化をより促進させるため、例えば、80℃のクリーンオーブン中で1時間熱処理を施してもよい。
【0033】
本実施形態に係る有機ELパネルの製造方法によれば、紫外線照射時に遮光マスクを用いる必要がないため、安価で簡便に作業を行うことができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0035】
[実施例1]
ポリイミド樹脂(商品名東レ社製フォトニーズDL−1000)に2質量%の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンを含有させ、絶縁層と隔壁を形成した。また陰極電極にはアルミニウムを蒸着して用いて、有機EL素子基板を作製した。
【0036】
この有機EL素子基板に、あらかじめシール材を塗布した封止基板を重ね合わせ、遮光マスクを用いないで、封止基板側から、主波長が365nmの紫外線を照射量6000mJ/cmで照射して、シール材を硬化させ、有機ELパネルを作製した。
【0037】
この有機ELパネルの評価は、以下の方法で行った。
【0038】
(1)初期ダークフレームの発生
紫外線を照射して封止した直後の画素内のダークフレームの発生を、目視で観察した。図3にダークフレーム33の発生した画素31の例を平面図で示す。符号31は画素、符号33は画素内のダークフレーム、符号7は隔壁、符号6は絶縁層、符号32は点灯部分をそれぞれ表している。この画素31の大きさは、300μm×300μmであった。実施例1では、初期ダークフレーム33の発生は観察されなかった。
【0039】
(2)有機ELパネルの寿命試験
次に、有機ELパネルの寿命試験を行った。封止後の有機ELパネルを90℃の環境下で、光度500cd/mで点灯させた。光度が50%に劣化する時間を寿命時間として計測した。実施例1では、寿命時間は4000時間であった。この時、画素31を観察すると、点灯部分32の輝度は低下していたが、ダークフレーム33の発生はなく、点灯部分32の縮小は見られなかった。
【0040】
[比較例1]
ポリイミド樹脂(商品名東レ社製フォトニーズDL−1000)に紫外線吸収剤を含有させなかった以外は、実施例1と同様にして、絶縁層と隔壁を形成し、有機ELパネルを作製した。また、有機ELパネルの評価も実施例1と同様の方法で行った。
【0041】
この有機ELパネルでは、約1μmの初期ダークフレーム33,33が点灯部分32の両端にそれぞれ観察された。また、寿命試験では、寿命時間は2200時間であり、実施例1の約半分の時間で劣化した。この時、時間が経過するにつれて、隔壁7近傍の有機EL素子の劣化が顕著となり、点灯部分32の輝度が低下すると共にダークフレーム33,33の拡張による点灯部分32の縮小が起った。
【0042】
以上の結果から、本発明の有機ELパネルとその製造方法によれば、遮光マスクを用いることなく、シール材に紫外線を照射しても、ダークフレームを発生することがなく、有機ELパネルの寿命低下を防止できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態に係る有機ELパネルの概略断面図である。
【図2】本実施形態に係る有機EL素子基板の概略斜視図である。
【図3】ダークフレームの発生した画素の例を示した平面図である。
【図4】封止基板側に、開口部を有する遮光マスクを介して、シール材に紫外線を照射して有機ELパネルを封止する従来の有機ELパネル製造方法を示した模式図である。
【図5】遮光マスクを用いることなく、封止基板側から紫外線を照射した場合における従来の有機ELパネルの製造方法での問題点を示した模式図である。
【符号の説明】
【0044】
1 有機ELパネル
2 有機EL素子基板
3 封止基板
4 シール材
5 有機発光層
6 絶縁層
7 隔壁
8 陰極電極
11 陽極電極
20 遮光マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極電極、有機発光層、陰極電極、絶縁層、及び隔壁が形成された有機EL素子基板と、
前記有機EL素子基板に対向する封止基板と、
前記封止基板の外周部に配設され、前記有機EL素子基板と前記封止基板とを封止するシール材とを備えた有機ELパネルであって、
前記絶縁層が、紫外線吸収剤を含有することを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】
前記隔壁が、紫外線吸収剤を含有する請求項1に記載の有機ELパネル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機ELパネルを製造する方法であって、
有機EL素子基板に紫外線吸収剤を含有した絶縁層を形成する工程と、
前記有機EL素子基板と前記封止基板とを紫外線硬化型のシール材を介して重ね合わせる工程と、
前記封止基板側から遮光マスクを用いることなく、紫外線を前記シール材に照射して、前記有機EL素子基板と前記封止基板とを封止する工程を有することを特徴とする有機ELパネルの製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−309957(P2006−309957A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127653(P2005−127653)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】