説明

有機EL発光装置、及びその製造方法

【課題】比較的簡単な処理でもって、有機層に含まれる有機化合物をより適切に配向させることができ、発光の取り出し効率を向上させることができる有機EL発光装置等を提供する。
【解決手段】基板1の上に、一対の電極3a,3bと、これら電極間に積層された有機層4とを備える有機EL発光装置である。基板1側の下部電極3aは、樹脂製の絶縁体7により複数の要素電極30に区画されている。ラビング処理を行うことにより、絶縁体7の表面には一定方向に延びる筋状の溝が複数形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)発光装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶デバイスの分野では、液晶分子群を一定方向に配向させるために、液晶を挟む2枚のガラス板の表面上に配向膜を設け、これを一定方向に擦る、所謂ラビング(Rubbing)処理が行なわれている。
【0003】
一方、有機ELデバイスの分野では、発光分子を配向させることによって発光の取り出し効率が向上することが報告されている(非特許文献1)。そして、発光の取り出し効率の向上を実現するために、例えば、電極(陽極)の表面にラビング処理を施して、その上に形成される有機層中の有機化合物に対し、分子配列の制御を試みたものがある(特許文献1)。具体的には、陽極であるITOの表面に、ラビング装置のローラーに巻き付けたレイヨン布で一方向に擦る処理を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.−S.Kim et al.,J.Appl.Phys.88,1073,2000
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−100976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電極は一般に硬度が高いものが多いため、特許文献1のように、電極の表面にラビング処理を施して、電極の表面を適切な状態に安定して加工するのは容易ではない。電極の硬度に合わせてラビング強度を高めることもできるが、ラビング強度を高めると、加工精度が低下してばらつきが大きくなり易いし、電極上のダストが増加し、ダークスポット等を招く要因ともなる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、比較的簡単な処理でもって、有機層に含まれる有機化合物の分子をより適切に配向させることができ、発光の取り出し効率を向上させることができる有機EL発光装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、電極の上に樹脂製の絶縁体を設け、その絶縁体の表面に一定方向に延びる複数の筋状の溝を形成した。
【0009】
具体的には、本発明は、基板の上に、一対の電極と、これら電極間に積層され、少なくとも発光層を含む1層以上の有機層とを備え、前記電極間に電圧を印加することによって前記発光層が発光する有機EL発光装置であって、前記一対の電極のうち、前記基板側の下部電極は、該下部電極よりも上側に突出する樹脂製の絶縁体により複数の要素電極に区画されていて、前記絶縁体の表面に、一定方向に延びる筋状の溝が複数形成されている。
【0010】
係る構成の有機EL発光装置によれば、下部電極の上側に形成される絶縁体は、樹脂製であるため、通常、金属等で形成される下部電極に比べて大幅に硬度を低くすることができる。従って、弱い力で加工することができ、微細な形状であっても容易に、しかも安定して加工することができる。その結果、絶縁体の表面には、一定方向に延びる複数の筋状の溝を精度高く形成することができる。
【0011】
下部電極の上側に突出した絶縁体の表面に、一定方向に延びる複数の筋状の溝が精度高く形成されていると、筋状の溝がその上に形成される有機層中の分子に作用し、静電引力や配位結合等の相互作用や分子配列によって配向性を向上させることができる。その結果、駆動電圧の低下や電流効率の向上等、発光の取り出し効率を向上させることが可能になる。なお、ここでいう溝は溝幅がナノレベルの微細なものであり、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて確認することができる。
【0012】
具体的には、前記複数の溝はラビング処理によって形成することができる。そうすれば、容易な作業でもって、絶縁体の表面に一定方向に延びる複数の筋状の溝を精度高く形成することができる。液晶の製造ラインにおけるラビング装置をそのまま利用できるので、汎用性にも優れる。
【0013】
更に具体的には、前記下部電極は、金属酸化物又は金属を用いて形成することができる。金属酸化物等であれば電気伝導性に優れるし、従来の素材をそのまま流用できるからである。本発明では、下部電極に筋状の溝を形成しなくてよいため、その硬度等、加工適性を考慮する必要もない。
【0014】
また、前記絶縁体の表面に、前記有機層が積層され、前記有機層のうち、前記絶縁体の表面と接する第1の層が、結晶性、或いは分子配向性を有する有機化合物を用いて形成するのが好ましい。その場合、前記結晶性、或いは分子配向性を有する有機化合物が、棒状の分子構造を有するのがより好ましい。そうすれば、絶縁体の表面に形成された複数の筋状の溝の作用により、有機層の配向性をより向上させることができる。例えば、有機化合物が棒状の分子構造を有する場合には、有機化合物が溝に入り込んで配列し易いため、配向性が向上する。
【0015】
更には、前記有機層が2層以上で構成され、前記結晶性、或いは分子配向性を有する有機化合物が、共役系の化合物からなり、前記有機層のうち、少なくとも前記第1の層の表面と接する層に、共役系の化合物が含まれているようにしておくとよい。そうすれば、共役系の化合物どうしの相互作用により、第1の層の有機化合物の配列が、その上に形成される層の有機化合物の配列に影響し、連鎖的に各層の配向性を向上させることができるため、有機層の全体の配向性を向上させることができる。
【0016】
また、前記絶縁体の表面に積層されている前記有機層の表面には、更に、金属酸化物又は金属からなる上部電極が積層されているようにしておけばよい。従来と同様に上部電極を形成すればよいため、作業性に優れる。
【0017】
前記第1の層に含まれる前記有機化合物の配向角は、2°〜90°の範囲内となるように設定することができる。例えば、絶縁体の表面に形成する複数の筋状の溝が延びる方向と、絶縁体の表面に直接接する有機化合物とを選定すれば配向角を調整することができるので、有機EL発光装置の仕様に応じて発光の取り出し効率を向上させることができる。
【0018】
例えば、前記有機化合物が、前記下部電極に対して略平行に配列しているようにすれば、正孔をホッピングし易くさせることができる。
【0019】
このような構成の有機EL発光装置は、例えば、前記基板の上に、前記下部電極を形成する工程と、前記下部電極が形成された前記基板の上に、前記絶縁体を形成する工程と、前記下部電極及び前記絶縁体が形成された基板に対し、ラビング処理を行うラビング工程と、を含み、前記ラビング工程において、前記下部電極及び前記絶縁体のうち、実質的に、前記絶縁体だけに前記複数の溝が形成されるようにラビング処理が行われる製造方法により製造することができる。
【0020】
下部電極が形成された基板の上には、樹脂製の絶縁体が形成されているので、これに対してラビング処理を施すことで、絶縁体の表面に、上述したような複数の溝を容易に、しかも精度高く形成することができる。なお、ここでいう実質的とは、下部電極の表面には複数の溝は形成しなくともよいが、結果として、実効性には欠けるものの、下部電極の表面にも溝が形成される場合もあるため、そのような場合を考慮したものである。
【0021】
前記下部電極及び前記絶縁体が形成され、ラビング処理が施された前記基板の上に、前記有機層を形成する有機層形成工程、を更に含み、前記有機層形成工程において、前記第1の層を形成した後、該層を形成している有機化合物の融解温度以上の温度で所定時間保持する処理を行うのが好ましい。
【0022】
そうすれば、第1の層を形成している有機化合物の分子が自由に変位できるようになって分子配列が再構成されるので、絶縁体の表面に形成されている複数の筋状の溝による作用をより効果的に発揮させることができ、配向性をより安定して向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明を適用した有機EL発光装置によれば、比較的簡単な処理でもって、有機層の配向性を高めることができ、発光の取り出し効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した有機EL表示パネルの概略斜視図である。
【図2】図1における矢印X方向から見た概略断面図である。
【図3】絶縁体の構造を説明するための模式図である。
【図4】有機膜等の積層構成を示す模式図である。
【図5】有機化合物の分子の配列を説明するための概念図である。
【図6】(a)〜(d)は、製造方法の主な工程を説明するための図2相当図である。
【図7】第1実施例及び第2実施例の性能評価試験の結果をまとめた表である。
【図8】絶縁体の構造の変形例を説明するための模式図である。
【図9】本実施形態の変形例を示す図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0026】
(有機EL表示装置の基本構成)
図1に、本発明を適用した有機EL表示パネル(有機EL発光装置)を示す。この有機EL表示パネルはベースとなる基板1を備え、その表面に薄い素子膜2が形成されている。素子膜2には、図2に示すように、下部電極3a及び上部電極3bからなる一対の電極と、これら電極間に積層された有機層4とが備えられている。有機層4には発光層42が含まれており、電極3a、3b間に電圧を印加することで発光層42が発光する。素子膜2に設けられた画像等を表示する表示領域には、複数の画素が格子状に配置されていて、各画素の発光を制御することで画像等の表示が可能となっている。
【0027】
本実施形態の有機EL表示パネルは、基板1の側から発光を取り出す、所謂ボトムエミッション型であり、基板1には透光性を有するガラス基板1が用いられている。ただし、基板1はガラス基板に限らず、例えば、透光性を有しない半導体基板等であってもよい。トップエミッション型であれば基板1の反対側から発光が取り出されるため、基板1に透光性は必要ないからである。
【0028】
基板1の上には、複数の島状にパターンニングされた多結晶シリコン半導体膜が形成されている。図示はしないが、これら多結晶シリコン半導体膜の上には、ゲート絶縁膜やゲート電極層がパターニングされている。更に、各多結晶シリコン半導体膜には、ソース領域やドレイン領域が形成され、複数のTFT5,5,…が形成されている。これらTFT5等を覆うように、その上には、平坦化層としても機能する絶縁性の層間絶縁膜6が形成されている。層間絶縁膜6の所定部位には、スルーホール6aが形成されていて、このスルーホール6aを介してTFT5と電気的に接続可能なように、層間絶縁膜6の上に陽極とされる下部電極3aがパターンニングされている。すなわち、本実施形態の下部電極3aは複数の画素電極30(要素電極)からなり、各画素電極30は、互いに所定の隙間を隔てて隣接するように配置されている。下部電極3aは、従来通り、例えばITOや白金など、電気電導性に優れた金属酸化物や金属を用いて形成することができる。なお、本実施形態はボトムエミッション型であるため、下部電極3aには透光性を有するITOが用いられている。
【0029】
下部電極3aがパターンニングされた基板1の上には、樹脂製の絶縁膜がパターンニングされていて、各画素電極30の周りが、これらよりも上側に突出する区画壁部7(絶縁体)によって区画されている。具体的には、区画壁部7は、互いに隣接している2つの画素電極30,30の間から基板1と略直交するように突出している。区画壁部7は、その横断面が突端側に向かうに従って幅が次第に小さくなる先窄まり形状に形成されている。絶縁膜、つまり区画壁部7の素材は、絶縁性に優れ、削れ易い樹脂であればどのような樹脂であってもよい。そのような樹脂としては、例えば、ポリイミド系等の樹脂を挙げることができる。
【0030】
区画壁部7の表面には、一定方向に延びる筋状の溝8が複数形成されている。本実施形態の各溝8は、図3に示すように、基板1に対して垂直方向に延びるように形成されている。各溝8の溝幅や深さはナノレベルである。なお、同図は解りやすくするために各溝8が均等に連続しているように表してあるが、溝8の長さや深さは異なっていてもよいし、隣接する溝8,8間の隙間は不均一であってもよい。要は、微細な筋状の溝8が区画壁部7の表面に複数形成され、それらがいずれも略同じ方向に延びているものであればよい。このような複数の溝8は、例えば、ラビング処理によって形成することができる。
【0031】
図4に示すように、本実施形態の有機層4は、複数の層で形成されている。具体的には、下部電極3a側から順に、正孔輸送層41(第1の層)、発光層42、ブロック層43、電子輸送層44、電子注入層45が積層されている。同図は、画素電極30の上側の有機層4を示しているが、有機層4は、画素電極30の表面だけでなく、区画壁部7の表面も覆うように積層されている。なお、有機層4の上記構成は一例であって必要に応じて様々に構成することができる。
【0032】
これら複数の層のうち、最下層の正孔輸送層41は、結晶性を有する化合物を用いて形成するのが好ましく、特に、棒状の分子構造を有する化合物が好ましい。そうすれば、詳細は後述するが、区画壁部7に形成された複数の溝8により、正孔輸送層41を構成している有機化合物の分子に配向性を付与することができ、その結果、駆動電圧の低下や電流効率の向上等の効果を得ることができる。なお、配向性とは、分子が一定の方向に配列する性状を意味する。
【0033】
その具体例を図5に模式的に示す。同図において、11は棒状の分子構造を有する化合物である(棒状分子11ともいう)。区画壁部7に形成されている本実施形態の複数の溝8は、基板1に対して略垂直方向に延びるように形成されているので、区画壁部7に接する棒状分子11をその溝8に入り込ませ、一定の方向、ここでは基板1に対して略垂直方向に配列させることができる。区画壁部7に接する棒状分子11が略垂直方向に配列すれば、それに接する棒状分子11もエネルギー的に安定する略垂直方向に配列し易くなるため、連鎖的に棒状分子11が略垂直方向に配列する。その結果、区画壁部7の表面の部分だけでなく、下部電極3aの表面の部分の棒状分子11も略垂直方向に配列するようになり、正孔輸送層41の全体にわたって棒状分子11が略垂直方向に配列する。なお、この場合、棒状分子11の配向角は約90°になるが、配向角は、基板1に対する溝8の角度を調整することにより、必要に応じて2°〜90°の範囲内で設定することができる。
【0034】
更には、正孔輸送層41を、例えば、π−π相互作用し易いような、共役系の化合物で形成し、正孔輸送層41以外の発光層42等も共役系の化合物で形成するのが好ましい。そうすれば、化合物どうしの相互作用により、正孔輸送層41の配向性が発光層42等にも及び、有機層4の全体に配向性を付与することができる。
【0035】
電子注入層の表面には、陰極とされる上部電極3bが積層されている。本実施形態の上部電極3bは、素子膜2の少なくとも表示領域の全域に形成されている。上部電極3bもまた、下部電極3aと同様に、金属酸化物や金属を用いて形成されている。本実施形態の有機EL表示パネルはボトムエミッション型であるため、透光性の有無に関係無く上部電極3bの素材を選択できる。トップエミッション型の場合には、上部電極3bに透光性が必要とされるため、透明なITO等を用いて上部電極3bを形成すればよい。
【0036】
有機層4への水分等の浸入を防止するために、図示はしないが、上部電極3bの上方には封止基板等が設けられていて、封止基板等と基板1との間に、窒素ガス等の不活性ガスが封入されている。
(有機EL表示装置の製造方法)
上記構成の有機ELパネルは、例えば、次のような工程を含む製造方法によって製造することができ、図6にその製造方法の主な工程を示す。
(1)基板1の上に下部電極3aを形成する下部電極形成工程
(2)下部電極3aが形成された基板1の上に、区画壁部7を形成する絶縁体形成工程
(3)下部電極3a及び区画壁部7が形成された基板1に対し、ラビング処理を行うラビング工程
(4)下部電極3a及び区画壁部7が形成され、ラビング処理が施された基板1の上に、有機層4を形成する有機層形成工程
なお、下部電極形成工程や区画壁部形成工程については、従来の方法と異ならないため、同図の(a)にこれら工程等後の状態を示し、ここではその具体的な説明は省略する。
【0037】
上記工程のうち、ラビング工程では、同図の(b)や図3に示すように、下部電極3a及び区画壁部7のうち、実質的に、区画壁部7だけに複数の溝8が形成されるようにラビング処理が行われる。すなわち、金属酸化物や金属を用いて形成されている下部電極3aに比べ、削れ易い樹脂を用いて形成されている区画壁部7は、弱い力(ラビング強度)で溝8を形成させることができる。従って、ラビング強度が低くて済む分、加工精度が向上し、安定して高精度な溝8を形成することができる。下部電極3aの表面を傷つけずに済むため、発光特性を損なうおそれがない。特に、ボトムエミッション型の場合、下部電極3aに溝8を形成すると透光性に影響するおそれがあるが、本実施形態ではそのようなおそれがない。なお、このようなラビング処理の条件は、例えば、ラビング装置のローラーの押し込み量やローラーの回転数等を調整して適宜設定することができる。
【0038】
更に、有機層形成工程では、正孔輸送層41を形成した後、正孔輸送層41を形成している有機化合物の融解温度以上の温度で所定時間保持する処理が行われる。具体的には、まず、真空蒸着法等の従来の方法で、下部電極3aや区画壁部7の表面上に正孔輸送層41を形成する。その際、同図の(c)に示すように、正孔輸送層41が棒状の分子構造を有する化合物で形成されている場合には、各棒状分子11はランダムに配列した状態で固定されている。そこで、棒状分子11が自由に変位できるように、その有機化合物の融解温度以上の温度で所定時間保持して、有機化合物を軟化あるいは液状化させる。
【0039】
そうすることで、同図の(d)に示すように、区画壁部7の表面に接する棒状分子11が溝8部に入り込み、一定方向(本実施形態では略垂直方向)に再配列される。それに伴って、連鎖的にその他の棒状分子11もエネルギー的に安定な同方向に配列されていき、正孔輸送層41の全体の棒状分子11が略垂直方向に配列するようになって配向性が向上する。
【0040】
また、正孔輸送層41が、π−π相互作用し易いような、共役系の化合物で形成されていて、例えば、その上に積層される発光層42も、同様に共役系の化合物で形成されている場合には、一定の方向に配列される棒状分子11との相互作用により、発光層42の化合物の分子配列も影響を受けるため、有機層4の全体の配向性をより向上させることができる。発光層42だけでなく、電子輸送層44等も共役系の化合物で形成すれば、正孔輸送層41の棒状分子11の配列の影響を有機層4の全体にわたって及ばすことができ、有機層4の全体の配向性をよりいっそう向上させることができる。
【0041】
このように、本発明によれば、比較的簡単な処理でもって、有機層4に含まれる有機化合物の分子をより適切に配向させることができ、発光の取り出し効率を向上させることができる。
【0042】
(第1実施例)
基板1にガラス基板を使用し、このガラス基板の上に、プラズマCVD法によりシリコン半導体膜を形成した。形成したシリコン半導体膜に対して結晶化処理を施し、多結晶シリコン半導体膜を形成した。続いて、多結晶シリコン半導体膜をエッチング処理し、複数の島状のパターンを形成した。次に、複数の島状パターンに形成した多結晶シリコン半導体膜の上に、ゲート絶縁膜及びゲート電極層を順次形成し、エッチング処理によってパターニングを行った。ドーピングにより島状パターンの多結晶シリコン半導体膜の各島に、ソース領域及びドレイン領域を形成し、複数のTFT5,5,…を作製した。
【0043】
TFT5を覆うように層間絶縁膜6を形成した。層間絶縁膜6の上に、スルーホール6aを介してTFT5と電気的に接続されるように、ITOを用いて画素電極30を形成した。画素電極30の周りが区画壁部7によって囲まれるように、ポリイミド系の樹脂を用いて絶縁膜をパターニングした。
【0044】
次に、絶縁膜の表面を、所定のラビング装置のローラーに巻きつけたレイヨン布で一方向に擦る処理を行った(ラビング処理)。具体的には、押し込み量を0.6mm、ローラーの回転数を200rpmに設定し、5mm/sの送り速度で、略垂直方向に延びる溝8が区画壁部7に形成されるように、基板1にローラーを1回送り込み、ラビング処理を行った。ラビング処理した基板1は、超音波洗浄を行った後、減圧下において200℃で3時間加熱した。
【0045】
冷却後、有機層4を形成した。具体的には、まず、真空蒸着により、α-NPD(ビフェニル系化合物)を用いて、30nm(蒸着速度:1Å/sec)の膜厚の正孔輸送層41を画素電極30及び区画壁部7の表面に形成した。その後、減圧下において、α-NPDが融解する融解温度以上の条件で、30分間加熱保持した。その際、分光エリプソメータを用いて、正孔輸送層41の配向性が向上していることを確認した。
【0046】
続いて、共蒸着により、ホストとしてのCBPと、ドーパントとしてのIr(ppy)3とを用いて、30nm(CBPの蒸着速度:1Å/sec、Ir(ppy)3の蒸着速度:0.1Å/sec)の膜厚の発光層42を形成した。次に、ブロック層43として、BCPを10nm(蒸着速度:1Å/sec)の膜厚で形成し、その後、電子輸送層44として、Alq3を40nm(蒸着速度:1Å/sec)の膜厚で形成した。次に、真空蒸着により、LiFを用いて、0.5nm(蒸着速度:1Å/sec)の膜厚の電子注入層45を形成した。最後に、Alを用いて、100nmの膜厚の上部電極3bを形成した。
【0047】
(第2実施例)
本実施例では、第1の層を形成する化合物に、棒状分子11を含む共役系の化合物を使用した。ラビング処理を行った基板1を超音波洗浄し、減圧下で加熱(200℃、3時間)する工程までは第1実施例と同じであるため、有機層4を形成するそれ以後の工程から説明する。
【0048】
本実施例では、正孔輸送層41の形成前に、第1の層として正孔注入層を形成した。すなわち、真空蒸着により、分子配向性を有し、棒状分子11を含むビフェニル系化合物を用いて、10nm(蒸着速度:1Å/sec)の膜厚の正孔注入層を画素電極30及び区画壁部7の表面に形成した。その後、減圧下において、上記化合物が融解する融解温度以上の条件で、30分間加熱保持した。
【0049】
次に、真空蒸着により、α-NPDを用いて、20nm(蒸着速度:1Å/sec)の膜厚の正孔輸送層41を正孔注入層の表面に形成した。その後の発光層42等は第1実施例と同様に作製した。
【0050】
(性能評価試験)
上述した第1実施例及び第2実施例の各素子試料(実施例)と、ラビング処理だけを行わず、それ以外は同じ条件とした素子(比較例)を作製し、それぞれ特性の比較を行った。その評価結果を図7に示す。
【0051】
同図に示すように、第1実施例では、1000cd/m2の発光時における駆動電圧を比べると、実施例では2.7V、比較例では3.0Vとなり、比較例の方が高かった。また、電流効率は、実施例では65cd/A、比較例では60cd/Aとなり、実施例の方が高かった。一方、CIE色度は、いずれも0.37、0.60となり、両者で相違は認められなかった。従って、ラビング処理を行うことにより、同一色度で駆動電圧の低電圧化と電流効率の向上とを達成できることが確認された。
【0052】
第2実施例では、1000cd/m2の発光時における駆動電圧を比べると、実施例では2.3V、比較例では3.1Vとなり、比較例の方が高かった。また、電流効率は、実施例では80cd/A、比較例では58cd/Aとなり、実施例の方が高かった。一方、CIE色度は、第1実施例と同様、いずれも0.37、0.60となり、両者で相違は認められなかった。従って、ラビング処理を行うことにより、同一色度で駆動電圧の低電圧化と電流効率の向上とを達成できることが確認された。しかも、電流効率については、第1実施例よりも大きな向上効果が認められた。
【0053】
第1実施例では、多数の溝8,8,…が形成された区画壁部7の上に正孔輸送層41を積層し、融解させたことで、静電引力や配位結合等の相互作用や分子配列により、正孔輸送層41を含む有機層4の全体の配向性が向上し、駆動電圧の低下等の効果が得られたものと考えられる。一方、第2実施例では、多数の溝8,8,…が形成された区画壁部7の上に、第1実施例よりも配向し易い、棒状分子11を含む共役系の化合物を用いて層を形成したことで、より配向性が向上し、電流効率の更なる向上効果が得られたものと考えられる。
【0054】
なお、本発明にかかる有機EL表示装置等は、前記の実施形態等に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0055】
例えば、第2実施例では、区画壁部7に、基板1に対して略垂直方向に延びる溝8が形成されるようにラビング処理が行われ、棒状分子11の配向角が略90°となるように設定した。しかし、ラビング処理で擦る角度と、化合物の種類とを選定すれば、様々な配向角で配向性を向上させることが可能である。例えば、図8に示すように、区画壁部7に、基板1に対して略平行な複数の溝8を形成してもよい。そうすれば、配向角を小さくすることができ、例えば、2°等の配向角に設定することもできる。特に、正孔がホッピングしやすいように、下部電極3aに対して略平行な水平方向に分子が配向するように並べた方が望ましい。
【0056】
前記実施形態等では、画像等を表示する表示装置を例示したが、本発明は、単色を発光する有機EL照明パネル(有機EL照明装置)にも適用できる。
【0057】
図9に、そのような有機EL照明パネルを示す。同図に示すように、この有機EL照明パネルでは、基板1の上に、その表面の全体を覆うように下部電極3aが積層されている。その下部電極3aの表面には、複数の要素電極30A,30A,…が形成されるように絶縁膜がパターンニングされている。具体的には、下部電極3aの表面上に、所定間隔ごとに区画壁部7が形成されている。互いに隣接する区画壁部7,7によって周りが区画されて、所定間隔ごとに下部電極3aが露出し、複数の要素電極30A,30A,…が形成されている。
【0058】
前記実施形態と同様に、区画壁部7の表面には複数の筋状の溝8が形成されている。そして、下部電極3aや区画壁部7が形成された基板1の上には、前記実施形態と同様に、有機層4や上部電極3b等が形成されている。
【0059】
この有機EL照明パネルでも、有機層4の配向性を向上させることができるので、駆動電圧の低電圧化と電流効率の向上とを実現することができる。なお、このとき、区画壁部7を透光性に優れた透明の樹脂を用いるとよい。そうすれば、要素電極30Aの部分だけでなく、区画壁部7の部分からも発光を取り出すことができ、発光効率を高めることができる。
【0060】
正孔輸送層41や正孔注入層等は、真空蒸着法に限らず、スピンコート法や、インクジェット法、ノズルコート法、その他のドライプロセス等により形成してあってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 基板
2 素子膜
3a 下部電極
3b 上部電極
4 有機層
5 TFT
6 層間絶縁膜
7 区画壁部(絶縁体)
8 溝
11 棒状分子
30 画素電極(要素電極)
30A 要素電極
41 正孔輸送層
42 発光層
43 ブロック層
44 電子輸送層
45 電子注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に、一対の電極と、これら電極間に積層され、少なくとも発光層を含む1層以上の有機層とを備え、前記電極間に電圧を印加することによって前記発光層が発光する有機EL発光装置であって、
前記一対の電極のうち、前記基板側の下部電極は、該下部電極よりも上側に突出する樹脂製の絶縁体により複数の要素電極に区画されていて、
前記絶縁体の表面に、一定方向に延びる筋状の溝が複数形成されている有機EL発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL発光装置であって、
前記複数の溝がラビング処理によって形成されている有機EL発光装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機EL発光装置であって、
前記下部電極が、金属酸化物又は金属を用いて形成されている有機EL発光装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の有機EL発光装置であって、
前記絶縁体の表面に、前記有機層が積層され、
前記有機層のうち、前記絶縁体の表面と接する第1の層が、結晶性、或いは分子配向性を有する有機化合物を用いて形成されている有機EL発光装置。
【請求項5】
請求項4に記載の有機EL発光装置であって、
前記結晶性、或いは分子配向性を有する有機化合物が、棒状の分子構造を有する有機EL発光装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の有機EL発光装置であって、
前記有機層が2層以上で構成され、
前記結晶性、或いは分子配向性を有する有機化合物が、共役系の化合物からなり、
前記有機層のうち、少なくとも前記第1の層の表面と接する層に、共役系の化合物が含まれている有機EL発光装置。
【請求項7】
請求項4〜請求項6のいずれか1つに記載の有機EL発光装置であって、
前記絶縁体の表面に積層されている前記有機層の表面に、更に、金属酸化物又は金属からなる上部電極が積層されている有機EL発光装置。
【請求項8】
請求項4〜請求項7のいずれか1つに記載の有機EL発光装置であって、
前記第1の層に含まれる前記有機化合物の配向角が、2°〜90°の範囲内となるように設定されている有機EL発光装置。
【請求項9】
請求項8に記載の有機EL発光装置であって、
前記有機化合物が、前記下部電極に対して略平行に配列している有機EL発光装置。
【請求項10】
請求項2〜請求項8のいずれか1つに記載の有機EL発光装置の製造方法であって、
前記基板の上に、前記下部電極を形成する工程と、
前記下部電極が形成された前記基板の上に、前記絶縁体を形成する工程と、
前記下部電極及び前記絶縁体が形成された基板に対し、ラビング処理を行うラビング工程と、
を含み、
前記ラビング工程において、前記下部電極及び前記絶縁体のうち、実質的に、前記絶縁体だけに前記複数の溝が形成されるようにラビング処理が行われる有機EL発光装置の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の有機EL発光装置の製造方法であって、
前記下部電極及び前記絶縁体が形成され、ラビング処理が施された前記基板の上に、前記有機層を形成する有機層形成工程、
を更に含み、
前記有機層形成工程において、
前記第1の層を形成した後、該層を形成している有機化合物の融解温度以上の温度で所定時間保持する処理が行われる有機EL発光装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−34717(P2011−34717A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177847(P2009−177847)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】