有機EL素子、有機EL素子の製造方法、有機EL装置、電子機器
【課題】断面形状が安定した異種の有機薄膜からなる機能層を備え、輝度むらがない発光が得られる有機EL素子、有機EL素子の製造方法、有機EL装置、電子機器を提供すること。
【解決手段】有機EL素子20は、素子基板1上において陽極としての画素電極23と陰極としての共通電極27との間に配置され、発光層24Lを含む異種の有機薄膜が積層された機能層24と、機能層24を区画する隔壁部36とを備え、有機薄膜は、隔壁部36によって区画された膜形成領域Aに機能層形成材料を含む液状体を塗布し乾燥することにより形成され、隔壁部36は、隔壁部36の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部36aを有し、隔壁部36の最上面35aと段差部36aの上面34aとに撥液性が付与され、段差部36aを除く側壁の表面は、段差部36aの上面に比べて親液性を有している。
【解決手段】有機EL素子20は、素子基板1上において陽極としての画素電極23と陰極としての共通電極27との間に配置され、発光層24Lを含む異種の有機薄膜が積層された機能層24と、機能層24を区画する隔壁部36とを備え、有機薄膜は、隔壁部36によって区画された膜形成領域Aに機能層形成材料を含む液状体を塗布し乾燥することにより形成され、隔壁部36は、隔壁部36の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部36aを有し、隔壁部36の最上面35aと段差部36aの上面34aとに撥液性が付与され、段差部36aを除く側壁の表面は、段差部36aの上面に比べて親液性を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、有機EL素子の製造方法、有機EL装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記有機EL素子の製造方法として、バンク(隔壁)で囲まれた領域に薄膜材料液を充填して薄膜層を形成する薄膜形成方法を用いて、有機EL素子の発光層を含む機能層を形成した例が開示されている(特許文献1および特許文献2)。
【0003】
特許文献1では、機能層が正孔輸送層と有機半導体層(発光層)とからなる例が示されており、上記バンクが薄膜材料液(正孔輸送層材料や有機半導体材料を含む)に対して親和性を示す親和層と非親和性を示す非親和層の積層構造を有している。当該積層構造は、機能層における異なる材料層の数に対応して繰り返し積層されている。最下層の親和層の厚みは、薄膜材料液を乾燥して得ようとする薄膜の厚みとほぼ同程度となっている。また、最下層の親和層上に積層された非親和層と親和層とを合わせた厚みは、次に積層される薄膜の厚みとほぼ同程度となっている。
つまり、バンク内に塗布された薄膜材料液を乾燥させると、対応して設けた親和層の側壁でピニングされ、非親和層ではピニングされないので、安定した膜断面形状を有する薄膜とその積層構造を実現できるとしている。
【0004】
特許文献2では、基板上に配置される複数の有機EL素子の画素開口を区画する絶縁性の個別隔壁と、該個別隔壁と間隔を置いてその周囲に形成された共通隔壁とを有し、共通隔壁が撥液性材料で形成され、共通隔壁で包囲された領域に発光層形成材料を含む液体を塗布して乾燥することにより、個別隔壁を覆うように発光層が配置されている。これにより複数の有機EL素子における発光層の厚さをより均一にすることができるとしている。また、個別隔壁が親液層と撥液層とを積層させたものでもよいとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−271753号公報
【特許文献2】特開2008−135255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のバンクの構成では、最下層の薄膜上に次の薄膜を積層形成しようとする場合、次の薄膜材料液が非親和層を高さ方向において越えるように充填されなければ、乾燥過程において非親和層上の次の親和層において確実にピニングされない。つまり、実際には、所定量の薄膜材料液をバンクで囲まれた領域にむらなく充填しないと、積層構造の機能層における各層を高さ方向において所望の位置で形成することが難しいという課題がある。
【0007】
上記特許文献2の個別隔壁と共通隔壁とを有する構成では、単一の発光色が得られる複数の有機EL素子を形成する場合には有効だが、隣り合う有機EL素子間で異なる発光色を得ようとする場合には不適当である。また、個別隔壁によって規定される発光領域の大きさや配置が共通隔壁との配置関係で制限されるため、所定の開口率を確保しようとする表示装置等には不向きであるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例の有機EL素子は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記機能層を区画する隔壁部とを備えた有機EL素子であって、前記有機薄膜は、前記隔壁部によって区画された膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を塗布し乾燥することにより形成され、前記隔壁部は、前記隔壁部の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部を有し、前記隔壁部の最上面と前記段差部の上面とに撥液性が付与され、前記段差部を除く前記側壁の表面は、前記段差部の上面に比べて親液性を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、隔壁部の側壁に設けられた段差部が膜形成領域における液状体充填時の目安となる。また、段差部の上面には撥液性が付与され、段差部の下方側と上方側の側壁は段差部の上面に比べて親液性を有しているので、段差部を挟んで液状体のピニング位置を確実に分けることが可能となる。したがって、段差部を挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜が得られる。すなわち、断面形状が安定した異種の有機薄膜を有する機能層を備え、輝度むらが低減された有機EL素子を提供できる。
【0011】
[適用例2]上記適用例の有機EL素子において、前記段差部の上面は、前記隔壁部の最上面に比べて低い撥液性を有することが好ましい。
この構成によれば、段差部の下方側に成膜された有機薄膜の上にさらに次の有機薄膜を形成するために膜形成領域に液状体を塗布したときに、撥液性を有する段差部の上面を比較的容易に越えることができ、むらなく液状体が充填される。すなわち、次の有機薄膜の断面形状をより安定したものとすることができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、第1隔壁部と、前記第1隔壁部上に設けられ、前記第1隔壁部よりも幅狭に設けられた第2隔壁部とを有し、前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、隔壁部を下層側を構成する第1隔壁部と上層側を構成する第2隔壁部に分けて設けているため、上面が撥液性を有する段差部を容易に構成できる。
【0013】
[適用例4]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられた第1隔壁部と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、基板上の構造物を利用し、その上に第2隔壁部を設けているので、構造物を避けて隔壁部を構成する場合に比べて、無駄なスペースを発生させずに、段差部を構成することができる。
なお、構造物としては、陽極を取り囲むように基板上に設けられる各種の配線や有機EL素子の駆動回路を構成するスイッチング素子や保持容量などに用いられる半導体層、これらの配線や半導体層を覆う絶縁膜などが積層されたものが挙げられる。
【0014】
[適用例5]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられ、高さが前記構造物よりも低い第1隔壁部とを有し、前記構造物と前記第1隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記構造物の上面と、前記第1隔壁部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、構造物を隔壁部の一部として積極的に利用して、第1隔壁部とで段差部を構成することができる。言い換えれば、構造物上に第2隔壁部を設けなくてよいので、隔壁部の構成を簡略化できる。
【0015】
[適用例6]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、前記構造物と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記第2隔壁部の上面と、露出した前記構造物の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、構造物と構造物上に設けた第2隔壁部とにより段差部を構成するので、第1隔壁部を設ける場合に比べて、隔壁部の構成を簡略化できる。
【0016】
[適用例7]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられ、高さが前記構造物よりも低い第1隔壁部と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、前記構造物と前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
前述したように基板上に設けられる構造物は、主に無機材料により構成されているため、液状体に対して親液性を示しやすい。この構成によれば、基板上の高さ方向において、第1隔壁部と第2隔壁部との間に親液性を示す構造物が露出しているので、液状体が第1隔壁部を越えて膜形成領域に充填されると露出した構造物の表面において容易にピニングされる。すなわち、基板上の高さ方向において位置が安定した有機薄膜が得られる。
【0017】
[適用例8]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物を内包すると共に、前記隔壁部の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部を有し、前記隔壁部の最上面と前記段差部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、構造物を内包して側壁に段差部を有する隔壁部を構成する。とりわけ、構造物が立体的に小さい場合には、構造物を内包することによって所望の高さの隔壁部を無理なく構成できる。
【0018】
[適用例9]本適用例の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層を備えた有機EL素子の製造方法であって、前記陽極を区画すると共に上面が撥液性を有するように第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、上面が撥液性を有すると共に前記第1隔壁部よりも狭い幅の第2隔壁部を前記第1隔壁部上に形成する第2隔壁部形成工程と、前記第1隔壁部および前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この方法によれば、第1隔壁部と第2隔壁部とにより膜形成領域を区画する隔壁部の側壁に段差部が形成される。この段差部が機能層形成工程において、膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を充填する際の目安となる。また、第1隔壁部の上面は撥液性を有しているので、該上面を挟んだ下方側と上方側とに液状体のピニング位置を確実に分けることが可能となる。したがって、該上面を挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜を形成することができる。すなわち、断面形状が安定した異種の有機薄膜を有する機能層を備え、輝度むらが低減された有機EL素子を製造できる。
【0020】
[適用例10]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程および前記第2隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を熱処理する工程と、熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部、前記第2隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする。
この方法によれば、塗布膜に含まれた撥液剤は、加熱を受け表層に向かって熱拡散する性質があるので、有機材料からなる隔壁部にフッソ系の処理ガスを用いて撥液性を付与する方法に比べて、安定的に撥液性を付与できる。また、加熱後の塗布膜をパターニングして第1隔壁部、第2隔壁部を形成するので、それぞれの上面に撥液性を付与し、それぞれの側壁は上面に比べて撥液性を弱めることができる。したがって、上面と側壁とで液状体に対する濡れ性を異ならせることができる。
【0021】
[適用例11]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程は、前記第2隔壁部形成工程に比べて前記塗布膜に含まれる撥液剤の量を少なくして前記第1隔壁部を形成することが好ましい。
この方法によれば、第1隔壁部の撥液性が第2隔壁部に比べて低くなる。したがって、第1隔壁部の下方側に成膜された有機薄膜の上にさらに次の有機薄膜を形成するために膜形成領域に液状体を塗布したときに、撥液性を有する第1隔壁部の上面を比較的容易に越えることができ、むらなく液状体を充填できる。すなわち、次に形成される有機薄膜の断面形状をより安定したものとすることができる。
【0022】
[適用例12]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第2隔壁部形成工程は、感光性樹脂材料を用いて前記第2隔壁部を前記第1隔壁部上にパターニング形成する工程と、前記第2隔壁部の上面に撥液層を転写する工程とを含むとしてもよい。
この方法によれば、撥液性の付与方法を第1隔壁部と第2隔壁部とで変えるので、付与される撥液性を比較的容易に異ならせることができる。例えば、第2隔壁部に比べて、第1隔壁部の撥液性を低くすることが容易にできる。
また、第2隔壁部を撥液剤を含む感光性樹脂材料で形成する場合に比べて、熱処理を必要としないので、省エネルギーに貢献できる。
【0023】
[適用例13]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物を挟んだ内側と外側とに前記第1隔壁部を形成し、前記第2隔壁部形成工程は、前記構造物上に前記第2隔壁部を形成するとしてもよい。
この方法によれば、基板上の構造物を利用し、その上に第2隔壁部を形成するので、構造物を避けて隔壁部を形成する場合に比べて、無駄なスペースを発生させずに、隔壁部を形成することができる。
【0024】
[適用例14]本適用例の他の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、前記構造物を挟んだ内側と外側とに前記構造物よりも高さが低い第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、前記第1隔壁部の上面と前記構造物の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、前記第1隔壁部および前記構造物からなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
この方法によれば、構造物を隔壁部の一部として積極的に利用して、第1隔壁部とで段差部を構成することができる。言い換えれば、第2隔壁部形成工程が不要となり、隔壁部の形成工程を簡略化できる。
【0026】
[適用例15]本適用例の他の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、前記構造物上に第2隔壁部を形成する第2隔壁部形成工程と、前記第2隔壁部の上面と前記構造物の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、前記構造物と前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
この方法によれば、構造物と構造物上に形成した第2隔壁部とにより段差部を形成できるので、第1隔壁部形成工程が不要となり、隔壁部の形成工程を簡略化できる。
【0028】
[適用例16]本適用例の他の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、前記構造物を挟んだ内側と外側とに前記構造物よりも高さが低い第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、前記構造物上に第2隔壁部を形成する第2隔壁部形成工程と、前記第1隔壁部の上面と前記第2隔壁部の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、前記第1隔壁部と前記構造物と前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
この方法によれば、基板上の高さ方向において、第1隔壁部と第2隔壁部との間に親液性を示す構造物が露出することになるので、膜形成領域において第1隔壁部を越えるように液状体を充填すると露出した構造物の表面において容易にピニングされる。すなわち、基板上の高さ方向において位置が安定した有機薄膜を形成することができる。
【0030】
[適用例17]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記撥液性付与工程は、撥液性を付与する前記上面に撥液層を転写するとしてもよい。
この方法によれば、隔壁部における最上面すなわち頭頂部と段差部の上面とに選択的に且つほぼ同時に撥液層を形成することができる。
【0031】
[適用例18]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を熱処理する工程と、熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部を形成する工程とを含むとしてもよい。
この方法によれば、構造物の高さよりも低い第1隔壁部の上面に確実に撥液性を付与することができる。
【0032】
[適用例19]本適用例の他の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周側に設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、前記陽極を区画すると共に、前記構造物を立体的に内包して前記構造物よりも高さが高い頭頂部と前記頭頂部との間の側壁に段差部とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、前記隔壁部の前記頭頂部と前記段差部の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、前記隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0033】
この方法によれば、構造物を内包することによりその高さを利用して隔壁部の側壁に段差部を形成できると共に任意の高さを有する隔壁部を形成できる。また、該段差部が膜形成領域に液状体を充填する際の目安となる。また、段差部の上面は撥液性を有しているので、該上面を挟んだ下方側と上方側とに液状体のピニング位置を確実に分けることが可能となる。したがって、該上面を挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜を形成することができる。すなわち、断面形状が安定した異種の有機薄膜を有する機能層を備え、輝度むらが低減された有機EL素子を製造できる。
【0034】
[適用例20]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記撥液性付与工程は、前記隔壁部の前記頭頂部と前記段差部の上面とに撥液層を転写するとしてもよい。
この方法によれば、隔壁部の頭頂部と段差部の上面とにほぼ同時に撥液層を形成できる。
【0035】
[適用例21]本適用例の有機EL装置は、上記適用例の有機EL素子、または上記適用例の有機EL素子の製造方法を用いて製造された有機EL素子を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、輝度むらが低減された有機EL素子を有しているので、安定した発光特性が得られる有機EL装置を提供できる。
【0036】
[適用例22]本適用例の電子機器は、上記適用例の有機EL装置を搭載したことを特徴とする。
この構成によれば、安定した発光特性が得られる有機EL装置が搭載されているので、例えば、有機EL装置を表示部として用いるならば、見栄えのよい表示が可能な電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】有機EL装置の構成を示す概略正面図。
【図2】有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】有機EL素子の構成を示す模式図。
【図4】実施例1の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図5】実施例1の有機EL素子の製造方法を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(f)は実施例1の有機EL素子の製造方法を示す概略断面図。
【図7】(g)〜(k)は実施例1の有機EL素子の製造方法を示す概略断面図。
【図8】実施例2の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図9】(a)および(b)は実施例2の変形例の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図10】実施例3の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図11】(a)〜(c)は実施例3の有機EL素子における隔壁部の形成方法を説明する図。
【図12】実施例4の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図13】実施例5の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図14】実施例6の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図15】(a)は実施例7の有機EL素子の構造を示す概略断面図、(b)および(c)は実施例7の有機EL素子の製造方法を説明する概略断面図。
【図16】隔壁部の配置について説明する概略平面図。
【図17】(a)および(b)は他の隔壁部の配置について説明する概略平面図。
【図18】(a)は電子機器の一例としての携帯型電話機を示す図、(b)は電子機器の一例としての薄型テレビを示す図。
【図19】(a)〜(e)は従来の有機EL素子の構造と機能層の形成方法を説明する概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0039】
(第1実施形態)
<有機EL装置>
本実施形態の有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を備えた有機EL装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1は有機EL装置の構成を示す概略正面図、図2は有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図、図3は有機EL素子の構成を示す模式図である。
【0040】
図1に示すように、本実施形態の有機EL装置10は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の発光(発光色)が得られる発光画素7を有している。発光画素7は略矩形状であり、発光領域(表示領域)6においてマトリクス状に配置されている。同色の発光が得られる発光画素7が図面上において垂直方向(列方向あるいは発光画素の長手方向)に配列し、異なる発光色の発光画素7が図面上において水平方向(行方向あるいは発光画素の短手方向)にR,G,Bの順で配列している。すなわち、異なる発光色の発光画素7が所謂ストライプ方式で配置されている。なお、異なる発光色の発光画素7の平面形状と配置は、これに限定されるものではない。
【0041】
このような有機EL装置10を表示装置として用いるならば、異なる発光色が得られる3つの発光画素7を1つの表示画素単位として、それぞれの発光画素7は電気的に制御される。これによりフルカラー表示が可能となる。
【0042】
図2に示すように、有機EL装置10は、発光画素7を駆動するスイッチング素子として薄膜トランジスター(Thin Film Transistor、以下TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型の有機EL装置である。
【0043】
有機EL装置10は、走査線駆動部3に接続された複数の走査線31と、データ線駆動部4に接続された複数のデータ線41と、各走査線31に並列して設けられた複数の電源線42と、を備えている。互いに絶縁され交差する走査線31とデータ線41とによって区画された領域に対応して設けられた駆動回路部によって発光画素7の発光制御が行われている。
【0044】
駆動回路部は、走査線31を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用のTFT11と、このTFT11を介してデータ線41から供給される画素信号を保持する保持容量13と、該保持容量13によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用のTFT12とを備えている。この駆動用のTFT12を介して電源線42に電気的に接続したときに該電源線42から駆動電流が流れ込む陽極としての画素電極23と、この画素電極23と陰極としての共通電極27との間に挟み込まれた機能層24とを有している。
【0045】
走査線31が駆動されてスイッチング用のTFT11がオン状態になると、そのときのデータ線41の電位が保持容量13に保持され、該保持容量13の状態に応じて、駆動用のTFT12のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用のTFT12を介して、電源線42から画素電極23に電流が流れ、さらに機能層24を介して共通電極27に電流が流れる。機能層24は、これを流れる電流量に応じて発光する。すなわち、画素電極23と共通電極27と機能層24とにより、発光単位としての有機EL素子20が構成されている。なお、駆動回路部の構成は、これに限定されるものではなく、例えば、3つ以上の薄膜トランジスターを含むものでもよい。
【0046】
図3に示すように、有機EL素子20は、駆動回路部(図示省略)が形成された基板としての素子基板1上に設けられている。素子基板1上において、画素電極23と共通電極27との間に機能層24が配置されている。本実施形態における機能層24は、異種の有機薄膜である正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lが順に積層されたものである。
本実施形態の機能層24は、機能層形成材料を含む液状体を画素電極23を含む膜形成領域に塗布して乾燥することにより形成されている。機能層24において輝度むらが少ない安定した発光を得るには、各有機薄膜の断面形状にむらがない状態で成膜されていることが重要である。とりわけ、発光層24Lの断面形状にむらがある、すなわち膜厚むらがあると、膜厚の薄い部分の電気的な抵抗が小さくなり、その部分を流れる電流が大きくなって輝度むらが生ずる。あるいは、発光層24Lにおける発光寿命を縮めてしまうおそれがある。
【0047】
図19(a)〜(e)は従来の有機EL素子の構造と機能層の形成方法を説明する概略断面図である。各有機薄膜の断面形状を安定化させるために、特許文献1(特開平11−271753号公報)では、図19(a)に示すように、画素電極23を取り囲んで隔壁部60を設けることにより機能層が形成される膜形成領域Aを区画した。隔壁部60は、機能層形成材料を含む液状体に対して親和性(親液性)を示す親和層61と、当該液状体に対して非親和性(撥液性)を示す非親和層62とが順に積層されたものである。具体的には、親和層61は親和性を示すSiO2などの無機材料を用いて形成され、非親和層62は非親和性を示すレジストなどの有機材料を用いて形成されている。
【0048】
図19(b)に示すように、まず初めに隔壁部60で区画された膜形成領域Aに液状体70を塗布すると、親和層61の側壁に液状体70が馴染み(濡れ)、非親和層62の側壁に液状体70が馴染まない(弾かれる)。そして、図19(c)に示すように、液状体70の乾燥後に親和層61の側壁部分で係止(ピニング)された例えば正孔注入層24hを安定した断面形状で形成できるとしている。正孔注入層24h上に次の有機薄膜を積層形成する場合にも同様な作用・効果が得られるとしている。
【0049】
ところが、図19(d)に示すように、膜形成領域Aに次の液状体80を充填したときに、非親和層62を越えて次の親和層61に掛かるように液状体80を充填しないと、例えば図19(e)に示すように、乾燥後に一方の端部は次の親和層61にピニングされているものの、他方の端部が次の親和層61に届かないことが発生する。
特許文献1には、このような隔壁部60に対してフッソ系の処理ガスでさらに表面処理を施し、非親和層62のバンク形成面(すなわち側壁)における液状体の接触角をさらに大きくする技術が開示されている。しかしながら、このような表面処理を施せば、液状体80はますます非親和層62を越えることが困難になり、次の親和層61に届き難くなるおそれがある。さらには、親和層61と非親和層62とを積層して得られた隔壁部60の側壁がほぼ面一な状態では余計に難しいと考えられる。つまり、異種の有機薄膜を安定した断面形状で積層することは、なかなか難しい。
【0050】
そこで発明者は、膜形成領域Aを区画する隔壁部の構成とその表面における撥液性や親液性の付与のしかたを工夫することにより、液状体の塗布法を用いて異種の有機薄膜を安定した断面形状で成膜可能な有機EL素子20の構造並びにその製造方法を開発した。以降、実施例を挙げて説明する。
【0051】
(実施例1)
図4は実施例1の有機EL素子の構造を示す概略断面図、図5は実施例1の有機EL素子の製造方法を示すフローチャート、図6(a)〜(f)および図7(g)〜(k)は有機EL素子の製造方法を示す概略断面図である。
【0052】
図4に示すように、実施例1の有機EL素子20は、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36と、隔壁部36により区画された膜形成領域Aに設けられた機能層24と、機能層24と隔壁部36とを覆うように設けられた共通電極27とを有している。
素子基板1は、透明なガラスやプラスチックなどの基板が用いられている。
画素電極23はITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜を用いて形成され、共通電極27は不透明なAl(アルミニウム)などの反射性を有する金属材料を用いて形成されている。すなわち、有機EL素子20は、機能層24における発光が共通電極27により反射して素子基板1側から取り出されるボトムエミッション型である。
隔壁部36は、第1隔壁部34と、第1隔壁部34上に設けられ、第1隔壁部34よりも幅狭に設けられた第2隔壁部35とを有している。第1隔壁部34と第2隔壁部35とにより段差部36aが構成されている。
第1隔壁部34の上面34aと、第2隔壁部35の上面35aとに撥液性が付与されている。また、第2隔壁部35の上面35aに対して第1隔壁部34の上面34aは低い撥液性を有している。
すなわち、隔壁部36は、その断面形状において側壁に段差部36aを有している。その上面34aは、素子基板1の表面に対してほぼ平行で平であると共に、隔壁部36の頭頂部に比べて低い撥液性を有している。撥液性は頭頂部と段差部36aの上面34aとに付与されている。隔壁部36の側壁は、段差部36aの上面34aに比べてその下方側と上方側とで液状体に対してさらに低い撥液性(言い換えれば、親液性)を示す。隔壁部36の頭頂部は、第2隔壁部35の上面35aに相当するので、以降、頭頂部35aと呼ぶこともある。
【0053】
図5に示すように、有機EL素子20の製造方法は、隔壁部36を形成する隔壁部形成工程(ステップS1)と、画素電極23上に正孔注入層24hを形成する正孔注入層形成工程(ステップS2)と、正孔注入層24h上に中間層24mを形成する中間層形成工程(ステップS3)と、中間層24m上に発光層24Lを形成する発光層形成工程(ステップS4)と、発光層24Lを覆うように共通電極27を形成する共通電極形成工程(ステップS5)とを備えている。ステップS2〜ステップS4が機能層形成工程に相当する。
【0054】
ステップS1の隔壁部形成工程は、図6(a)に示すように、まず素子基板1の画素電極23が設けられた側の表面を覆うように撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて、塗布膜34Pを形成する。塗布膜34Pの厚みh1はおよそ2μmである。このような塗布膜34Pの形成方法としては、液状の感光性樹脂材料をスピンコート法やロールコート法などにより均一に塗布して乾燥させ成膜する方法が挙げられる。
感光性樹脂材料としては例えばフェノール系やエポキシ系あるいはポリイミド系の所謂レジスト材料が挙げられる。また、撥液剤としては、例えばフッ素系化合物が挙げられ、本実施形態では、DIC社製のフッ素系添加剤R−30を用いた。該撥液剤の主成分はパーフルオロアルキル系材料である。含有量がおよそ0.2wt%となるように上述したレジスト材料の溶液(以降、レジスト溶液と呼ぶ)に該撥液剤を添加した。
【0055】
次に、成膜された塗布膜34Pを熱処理する。加熱温度は、およそ100℃〜120℃である。熱処理工程は、新たな工程ではなく所謂ポストベークの温度を含有された撥液剤の熱拡散を考慮して設定したものである。熱処理を施すことによって、図6(b)に示すように、撥液剤は塗布膜34Pの表層に向かって熱拡散する性質を持っている。したがって、塗布膜34Pの表面近傍では撥液剤の濃度が高く、バルクでは濃度が低下した状態が得られる。図6(b)では塗布膜34Pにおける撥液剤の拡散状態をグラデーションで表した。撥液剤の拡散状態は、実際には目に見えるものではないが、IMAなどの表面分析を行うことで解明することができる。
【0056】
そして、塗布膜34Pをフォトリソグラフィー法により露光・現像することにより、図6(c)に示すように、所望の幅を有する第1隔壁部34を形成する。これにより、第1隔壁部34の上面34aに撥液性が付与され、上面34aに比べて撥液性が低下した側壁34bを形成することができる。
【0057】
続いて、第1隔壁部34を形成したと同様な方法で第2隔壁部35を形成する。具体的には、図6(d)に示すように、撥液剤を含むレジスト溶液を用いて第1隔壁部34を覆うように塗布膜35Pを形成し、同じく熱処理を施す。塗布膜35Pの厚みh2はおよそ1〜2μmである。このときの撥液剤の含有量はおよそ1.0wt%であり、第1隔壁部34を形成したときに比べて濃度を高くしている。
【0058】
次に図6(e)に示すように、塗布膜35Pをフォトリソグラフィー法により露光・現像して、第1隔壁部34に比べて幅が狭い第2隔壁部35を第1隔壁部34上に形成する。
素子基板1の表面に平行な方向における第1隔壁部34間の間隔L1に比べて第2隔壁部35間の間隔L2を大きく設定することで、隔壁部36の側壁に段差部36aが形成される。段差部36aの上面34aは撥液性が維持されている。また、隔壁部36の頭頂部すなわち第2隔壁部35の上面35aは、撥液剤の濃度を高くしたことにより、段差部36aの上面34aに比べて高い撥液性を有する。
【0059】
なお、第1隔壁部34の厚みh1と第2隔壁部35の厚みh2は、塗布される液状体の種類とその濃度や膜形成領域Aに対する充填量を考慮して決められるものである。段差部36aの幅L3は、段差部36aを乗り越えた液状体のピニング性を考慮すると、およそ1μm以上が望ましい。さらに、隣接する膜形成領域A間で塗布された液状体が混じり合わないように第2隔壁部35の幅L4を設定することが望ましい。そして、ステップS2へ進む。
【0060】
ステップS2の正孔注入層形成工程では、図6(f)に示すように、隔壁部36により区画された膜形成領域Aに正孔注入層形成材料を含む液状体70を塗布する。所定量の液状体70を確実に膜形成領域Aに充填するため、本実施形態では、吐出ヘッド50のノズルから液状体70を液滴として膜形成領域Aに吐出する液滴吐出法(インクジェット法)が採用されている。吐出ヘッド50は所謂インクジェットヘッドと呼ばれるものであって、複数の微細なノズルを有し、ノズルから膜形成領域Aに向けて液滴が吐出される。画素電極23上に着弾した液状体70は、膜形成領域Aにおいて濡れ広がると共に液滴の吐出が進むに連れて表面張力により盛り上がる。また、段差部36aが液状体70の充填における目安となり、段差部36aの上面34aを越えない程度に充填される。段差部36aの上面34aは撥液性を有しているので、液状体70は上面34aを越え難く、たとえ越えたとしても弾かれて第1隔壁部34によって区画された膜形成領域Aに収容される。また、第1隔壁部34の側壁34bは、上面34aに比べて撥液性が低いのでむらなく液状体70を充填することが可能である。
【0061】
液状体70をむらなく膜形成領域Aに行き渡らせるために、液状体70を塗布する前にO2(酸素)を処理ガスとするプラズマ処理を施してもよい。これにより、無機材料からなる画素電極23の表面と、撥液剤の濃度が低い第1隔壁部34の側壁34b(第2隔壁部35の側壁35b)とに親液性を付与することができる。
【0062】
図7(g)に示すように、所定量の液状体70が膜形成領域Aに塗布された素子基板1をランプアニールや減圧乾燥などの方法で乾燥して、熱処理(200℃、10分程度)を施すことにより、正孔注入層24hを成膜する。乾燥過程で液状体70は第1隔壁部34の側壁34bにおいて確実にピニングされるので、断面形状が安定しほぼ一定の膜厚を有する正孔注入層24hが得られる。
【0063】
液状体70は、例えば溶媒としてジエチレングリコールと水(純水)とを含み、正孔注入層形成材料として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)を0.5wt%含んだ溶液である。粘度がおよそ20mPa・s以下となるように溶媒の割合が調整されている。
このような液状体70を用いて加熱乾燥後に膜厚がおよそ50nmの正孔注入層24hを形成した。
なお、PEDOT/PSS以外の正孔注入層形成材料としては、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体が挙げられる。そして、ステップS3へ進む。
【0064】
ステップS3の中間層形成工程では、図7(h)に示すように、隔壁部36により区画された膜形成領域Aに中間層形成材料を含む液状体80を同じく吐出ヘッド50から液滴として吐出した。液状体80は、段差部36aを越え第2隔壁部35で区画された膜形成領域Aにむらなく充填可能な所定量を吐出する。隔壁部36の最上面である頭頂部35aが他の部分に比べて最も高い撥液性を有しており、液状体80は頭頂部35aを乗り越えない程度に吐出される。
【0065】
液状体80は、溶媒として例えばシクロヘキシルベンゼンに中間層形成材料として正孔輸送性を示す例えばポリオレフィン系ポリマー蛍光材料やトリフェニルアミン系ポリマーを0.1wt%含んだ溶液である。
そして、図7(i)に示すように、液状体80が塗布された素子基板1を減圧乾燥して、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で熱処理(130℃、1時間程度)を施すことにより、膜厚がおよそ10nmの中間層24mを成膜する。段差部36aを越えた液状体80は、段差部36aの上面34aが平坦であり、且つ第2隔壁部35の側壁35bが親液性を有しているので乾燥に伴って側壁35bとの接触界面が後退し難い。それゆえに側壁35bにおいて確実にピニングされる。その結果、先に成膜された正孔注入層24hの表面に沿って断面形状が安定した中間層24mが得られる。そして、ステップS4へ進む。
【0066】
ステップS4の発光層形成工程では、図7(j)に示すように、隔壁部36により区画された膜形成領域Aに発光層形成材料を含む液状体90を吐出ヘッド50から液滴として吐出した。液状体90は、段差部36aを越え第2隔壁部35で区画された膜形成領域Aにむらなく充填可能な所定量を吐出する。もちろん、液状体90も隔壁部36の頭頂部35aを乗り越えない程度に吐出される。
【0067】
液状体90は、溶媒中に赤色、緑色、青色の蛍光または燐光を発光する発光層形成材料を含んだものを用いる。好適な発光層形成材料としては、ポリオレフィン系ポリマー蛍光材料やポリフルオレン誘導体(PF)が挙げられる。なお、PF以外の発光層形成材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、PEDOT等のポリチオフェニレン誘導体、ポリメチルフェニレンシラン(PMPS)等を用いることができる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素等の高分子材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクドリン等低分子材料をドープしたものを用いてもよい。
実施例1では、溶媒としてのシクロヘキシルベンゼンにポリオレフィン系ポリマー蛍光材料を0.7wt%含んだ溶液を用いた。粘度はおよそ14mPa・sである。
【0068】
そして、図7(k)に示すように、液状体90が塗布された素子基板1を減圧乾燥して、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で熱処理(130℃、1時間程度)を施すことにより、膜厚がおよそ80nmの発光層24Lを成膜する。段差部36aを越えた液状体90は液状体80と同様に乾燥に伴って接触界面が第2隔壁部35の側壁35bにおいて確実にピニングされ、先に成膜された中間層24mの表面に沿って断面形状が安定した発光層24Lが得られる。なお、液状体90は、発光色ごとに供給される吐出ヘッド50から対応する同色の膜形成領域Aに対して吐出されることは言うまでもない。そして、ステップS5へ進む。
【0069】
ステップS5の共通電極形成工程では、図4に示すように、形成された各色の発光層24Lと隔壁部36とを覆うように陰極としての共通電極27を形成する。これにより有機EL素子20が完成する。
共通電極27の材料としては、Ca、Ba、Mg、Al等の金属とLiF等のフッ化物とを組み合わせて用いるのが好ましい。特に機能層24に近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいMg、Alを形成するのが好ましい。また、共通電極27の上にSiO2、SiN等の保護層を積層してもよい。このようにすれば、共通電極27の酸化を防止することができる。
共通電極27の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法等が挙げられる。特に機能層24の熱による損傷を防止できるという点では、蒸着法が好ましい。
実施例1では、Caをおよそ5nm、Alをおよそ300nm、この順に蒸着して反射性を有する共通電極27を形成した。
【0070】
駆動回路部と有機EL素子20とが形成された素子基板1と、封止基板とを接合することにより有機EL装置10が完成する。
【0071】
このような実施例1の有機EL素子20の製造方法によれば、機能層24における正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lをそれぞれ安定した膜厚および断面形状で歩留りよく形成することができる。すなわち、異なる発光色ごとに輝度むらが低減されたボトムエミッション型の有機EL素子20を有する有機EL装置10を歩留りよく製造することができる。
【0072】
(実施例2)
次に、実施例2の有機EL素子およびその製造方法について図8および図9を参照して説明する。図8は実施例2の有機EL素子の構造を示す概略断面図、図9(a)および(b)は実施例2の変形例の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細な説明は省略する。また、図8および図9では、共通電極27の図示を省略している。
実施例2の有機EL素子は、実施例1に対して画素電極23の周囲に設けられた構造物を活用した例である。
【0073】
図8に示すように、実施例2の有機EL素子20Aは、素子基板1上に設けられた画素電極23と、画素電極23を平面的に含んだ膜形成領域Aを区画する隔壁部36Bと、膜形成領域Aに設けられた機能層24とを備えている。
【0074】
隔壁部36Bは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40と、構造物40を挟んだ内側と外側とに設けられた第1隔壁部34cと、構造物40上に設けられた第2隔壁部35とにより構成されている。構造物40を挟んだ内側とは図8において機能層24が設けられた側である。実際には、冒頭で説明したように有機EL装置10は、異なる発光色が得られる発光画素7(図1参照)がストライプ状に配置されているので、異なる発光色の発光画素7間に設けられた構造物40の内側と外側とにはそれぞれ異なる発光色が得られる機能層24が設けられている。また、同じ発光色の発光画素7間に設けられた構造物40の内側と外側とにはそれぞれ同じ発光色が得られる機能層24が設けられている。第1隔壁部34cの配置について言い換えるならば、平面的に見て構造物40の外縁に沿って機能層24が形成される側に第1隔壁部34cが設けられている。構造物40の外側に機能層24を設ける必要がなければ第1隔壁部34cを設けなくてもよい。
【0075】
第1隔壁部34cと第2隔壁部35は、実施例1と同様に撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて形成されている。画素電極23と構造物40とを覆うように該感光性樹脂材料からなる塗布膜を素子基板1上に形成する。塗布膜の膜厚がほぼ構造物40の高さと同程度となるように成膜する。そして、熱処理を施した後に塗布膜を露光・現像して高さが構造物40とほぼ同じで、画素電極23を区画する第1隔壁部34cを形成する。現像工程では、構造物40の上面が露出するように現像を行う。
【0076】
次に、再び撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて、画素電極23と第1隔壁部34cと構造物40とを覆うように塗布膜を形成して熱処理を施す。そして、熱処理された塗布膜を露光・現像して構造物40上に構造物40とほぼ同じ幅の第2隔壁部35を形成する。これにより、構造物40を挟んで形成された第1隔壁部34cと構造物40上に形成された第2隔壁部35とにより、側壁部分に段差部36Baを構成する。
【0077】
上記感光性樹脂材料における撥液剤の含有量は、実施例1と同様に、第1隔壁部34cの場合がおよそ0.2wt%、第2隔壁部35の場合がおよそ1.0wt%である。また、構造物40に外周に沿って設けられた第1隔壁部34cの幅は1μm以上とすることが望ましい。
【0078】
これにより、上面34a’の撥液性が頭頂部35aよりも低くほぼ平らな段差部36Baを得ることができる。
【0079】
したがって、実施例1と同様に機能層形成材料を含む異種の液状体70,80,90を順に膜形成領域Aに塗布して乾燥させ熱処理を施すことにより、画素電極23上に安定した断面形状を有する正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lを形成することができる。
【0080】
画素電極23の周囲に設けられる構造物40としては、図2に示したように、駆動回路部を構成する走査線31、データ線41、電源線42の主たる配線や、TFT11,12や保持容量13などの素子が考えられる。特に上記配線は、Alなどの低抵抗金属材料が用いられ、配線抵抗を確保するためにも数百nmから数千nm(数μm)の厚みで設けられる。また、図2に示すように、走査線31に対して並行する電源線42を実際に設ける場合には、走査線31を形成した後に、これに重なるように絶縁層を介して電源線42を積層することがある。したがって、構造物40は、単一の構成だけでなく、複数の構成の積層体をも含むものである。
【0081】
このように構造物40を隔壁部36Bの一部として利用することにより、構造物40とは別に実施例1のような隔壁部36を設ける場合に比べて、素子基板1上のスペースを有効に使って有機EL素子20Aを構成することができる。
また、実施例1では、第1隔壁部34の上面34aに第2隔壁部35の前駆体である塗布膜35Pを形成する際に、上面34aの撥液性によってレジスト溶液が弾かれて塗布むらとなるおそれがあった。これに対して、実施例2では、低抵抗金属材料や絶縁層、あるいは半導体層などの無機材料から構成される構造物40上に塗布膜を形成するので、形成面において塗布むらを生ずることなく、安定した形状の第2隔壁部35が得られる。
【0082】
構造物を隔壁部の一部として利用する実施例2の変形例としては、図9(a)のように、第1隔壁部34cの高さが構造物40’の高さと必ずしも一致しないケースが考えられる。変形例の有機EL素子20A’は、素子基板1上に設けられた画素電極23と、画素電極23を平面的に含む膜形成領域Aを区画する隔壁部36Cと、膜形成領域Aに設けられた機能層24とを備えている。
【0083】
隔壁部36Cは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40’と、構造物40’を挟んだ内側と外側とに設けられ、構造物40’の高さよりも高い第1隔壁部34cと、構造物40’上に設けられた第2隔壁部35cとにより構成されている。第1隔壁部34cと第2隔壁部35cにより段差部36Caが構成されている。
【0084】
すなわち、構造物40’の高さが第1隔壁部34cの所望の高さと合致しない場合には、隔壁部36Cとしての高さを確保するため、構造物40’上に第2隔壁部35cの高さを調整して設ければよい。
【0085】
また、前述したように、構造物が駆動回路部を構成する配線等からなる場合、走査線31や電源線42の延在方向と、データ線41の延在方向とでは構造物の高さが異なることも考えられるので、構造物を含む隔壁部を設ける方向によって、図8と図9(a)とが混在することもあり得る。
【0086】
さらには、図9(b)に示すように、構造物40’に設けられる第2隔壁部35dの幅は、必ずしも構造物40’の幅と等しくなくてもよい。例えば、変形例の有機EL素子20A”は、素子基板1上に設けられた画素電極23と、画素電極23を平面的に含む膜形成領域Aを区画する隔壁部36Dと、膜形成領域Aに設けられた機能層24とを備えている。
【0087】
隔壁部36Dは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40’と、構造物40’を挟んだ内側と外側とに設けられ、構造物40’の高さよりも高い第1隔壁部34cと、構造物40’上に設けられた第2隔壁部35dとにより構成されている。
【0088】
第2隔壁部35dの幅は、構造物40’の幅よりも狭い。したがって、第1隔壁部34cと構造物40’と第2隔壁部35dとにより、隔壁部36Dの側壁に溝状の段差部36Daが構成される。隔壁部36Dにより区画された膜形成領域Aに段差部36Daを越えるように液状体80,90を充填すると、溝状の段差部36Daによって液状体80,90が受け止められ、第2隔壁部35dの側壁35bに確実にピニングして、中間層24mや発光層24Lを成膜することができる。
【0089】
なお、前述したように構造物を含む隔壁部を形成する方向によって図8、図9(a)、図9(b)に示した隔壁部36B,36C,36Dの中から選んで組み合わせてもよい。
【0090】
次に説明する実施例3〜実施例7は、実施例1や実施例2に対して隔壁部の構成並びに隔壁部に対する撥液性の付与方法を異ならせた例である。実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0091】
(実施例3)
図10は実施例3の有機EL素子の構造を示す概略断面図、図11(a)〜(c)は実施例3の有機EL素子における隔壁部の形成方法を説明する図である。なお、図10では共通電極27の図示を省略している。
【0092】
図10に示すように、実施例3の有機EL素子20Cは、素子基板1上に設けられた画素電極23と、画素電極23を平面的に含む膜形成領域Aを区画する隔壁部36Eと、膜形成領域Aに設けられた機能層24とを備えている。
【0093】
隔壁部36Eは、画素電極23を区画する第1隔壁部34と、第1隔壁部34上に設けられ、第1隔壁部34よりも幅が狭い第2隔壁部35と、第2隔壁部35上に設けられた撥液層35eとにより構成されている。第1隔壁部34と第2隔壁部35とにより隔壁部36Eの側壁に段差部36Eaが構成されている。段差部36Eaの上面34aには撥液性が付与されている。
【0094】
機能層24は、実施例1と同様に、隔壁部36Eで区画された膜形成領域Aに機能層形成材料を含む液状体70,80,90を順次塗布して乾燥させ、熱処理することにより形成された正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lを有している。正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lは、隔壁部36Eの側壁において安定した位置でピニングされ、それぞれ安定した断面形状を有している。
【0095】
実施例3における隔壁部36Eの形成方法は、図11(a)に示すように、実施例1と同様にして撥液剤を含む感光性樹脂材料(レジスト材料)を用いて塗布膜を形成し、熱処理された塗布膜を露光・現像することにより、上面34aに撥液性が付与された第1隔壁部34を形成する。そして、撥液剤を含まない感光性樹脂材料を用いて、第1隔壁部34が形成された素子基板1の表面を覆うように塗布膜を形成し、露光・現像することにより、第1隔壁部34上に幅が狭い第2隔壁部35を形成する。
【0096】
次に、図11(b)に示すように、撥液剤が基材上に塗布されて成膜化された転写部材を周面にゴムなどの弾性体が設けられた転写ローラーによって、成膜化された撥液剤が第2隔壁部35の上面35aに押し付けられるように押圧する。これにより、図11(c)に示すように、基材上に成膜化された撥液剤が第2隔壁部35の上面35aに転写され、撥液層35eが形成される。
【0097】
したがって、第1隔壁部34の上面34aに対する撥液性の付与方法と第2隔壁部35の上面35aに対する撥液性の付与方法とが異なっている。
【0098】
実施例3では、基材として厚さ約20μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を用い、PETフィルム上に、フッ素系化合物を含有した撥液剤をバーコーターで約80nmの厚さで塗布し、約100℃で加熱乾燥して成膜化した。なお、撥液剤としては、住友スリーエム社製のノベック(登録商標)EGC−1720を用いている。なお、撥液剤としてはシリコーン化合物を含むものも採用することができる。
【0099】
このような隔壁部36Eの構成ならびに形成方法によれば、熱拡散により第2隔壁部35の上面35aに撥液性を付与する場合に比べて、素子基板1に対する熱処理の工程を減らすことができ、省エネルギーに貢献できる。また、隔壁部36Eにおける頭頂部(上面)35aの撥液性と段差部36Eaの上面34aの撥液性の水準を容易に異ならせることができる。熱拡散によって付与される撥液性に比べて転写法によって形成された撥液層35eの方が高い撥液性を容易に実現できる。また、選択的に撥液層35eを形成できるので第2隔壁部35自体の親液性を確保できる。
【0100】
なお、実施例3では、第2隔壁部35の上面に転写法を用いて撥液層35eを形成したが、第2隔壁部35と同様に、撥液剤を含まない第1隔壁部34上に撥液層を転写法により形成してもよい。さらに熱処理の工程を減らすことができる。
【0101】
(実施例4)
図12は実施例4の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。なお、隔壁部の構成が重要なので他の実施例と同じである共通電極27や機能層24の図示を省略している。
【0102】
図12に示すように、実施例4の有機EL素子20Dは、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36Fを有している。
【0103】
隔壁部36Fは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物43と、構造物43を挟んで内側と外側とに設けられ、構造物43の高さよりも低い第1隔壁部34dとにより構成されている。構造物43の上面には撥液層43aが設けられ、第1隔壁部34dの上面には撥液層34eが設けられている。
隔壁部36Fの側壁において、構造物43と第1隔壁部34dとにより段差部36Faが構成されている。
【0104】
撥液層43aおよび撥液層34eは、実施例3に示した転写法により形成されている。構造物43と第1隔壁部34dとの高さの差、つまり段差部36Faの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層43aと撥液層34eとを形成することができる。
また、転写法を用いて第1隔壁部34dの上面に撥液層34eを形成すると、該上面の構造物43の側壁43bに近い側には転写され難い。つまり、段差部36Faの側壁43b寄りに撥液層34eがない撥液性が低い部分が形成される。
【0105】
また、段差部36Faを越えた部分の構造物43の側壁43bは、主に無機材料を用いて構造物43が形成されているため、液状体80,90に対して親液性を示す。
したがって、隔壁部36Fによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Faが目安となり、段差部36Faを挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0106】
実施例4によれば、実施例2に比べて第2隔壁部35を形成しなくてもよいので、構成ならびに形成方法が簡略化された隔壁部36Fを提供できる。
【0107】
(実施例5)
図13は実施例5の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。なお、隔壁部の構成が重要なので他の実施例と同じである共通電極27や機能層24の図示を省略している。
【0108】
図13に示すように、実施例5の有機EL素子20Eは、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36Gを有している。
【0109】
隔壁部36Gは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物44と、構造物44上に設けられ、構造物44よりも幅が狭い第2隔壁部35とにより構成されている。隔壁部36Gの側壁において、構造物44と第2隔壁部35とにより段差部36Gaが構成されている。
【0110】
段差部36Gaの上面に撥液層44aが設けられ、第2隔壁部35の上面に撥液層35eが設けられている。撥液層44aおよび撥液層35eは、実施例3に示した転写法により形成されている。構造物44上における第2隔壁部35の高さ、つまり段差部36Gaの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層44aと撥液層35eとを形成することができる。
構造物44は、前述したように主に無機材料が用いられており、その側壁44bは親液性を示す。
また、転写法を用いて構造物44の上面に撥液層44aを形成すると、第2隔壁部35の側壁35bに近い側には転写され難い。つまり、段差部36Gaの側壁35b寄りに撥液層44aがない親液性を有する部分が露出する。
【0111】
したがって、隔壁部36Gによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Gaが目安となり、段差部36Gaを挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0112】
実施例5によれば、実施例2に比べて第1隔壁部34cを形成しなくてもよいので、構成ならびに形成方法が簡略化された隔壁部36Gを提供できる。
【0113】
(実施例6)
図14は実施例6の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。なお、隔壁部の構成が重要なので他の実施例と同じである共通電極27や機能層24の図示を省略している。
【0114】
図14に示すように、実施例6の有機EL素子20Fは、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36Hを有している。
【0115】
隔壁部36Hは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物45と、構造物45を挟んで内側と外側とに設けられ、構造物45の高さよりも低い第1隔壁部34dと、構造物45上に設けられ、構造物45よりも幅がわずかに狭い第2隔壁部35により構成されている。第1隔壁部34dの上面には撥液層34eが設けられ、第2隔壁部35の上面には撥液層35eが設けられている。
隔壁部36Hの側壁において、第1隔壁部34dと構造物45と第2隔壁部35とにより段差部36Haが構成されている。
【0116】
撥液層34eおよび撥液層35eは、実施例3に示した転写法により形成されている。第1隔壁部34dの上面と第2隔壁部35の上面との高さの差、つまり段差部36Haの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層34eと撥液層35eとを形成することができる。
また、転写法を用いて第1隔壁部34dの上面に撥液層34eを形成すると、該上面の構造物45の側壁に近い側には転写され難い。つまり、段差部36Haの構造物45寄りに撥液層34eがない撥液性が低い部分が形成される。
【0117】
また、段差部36Haを越えた部分の構造物45は、主に無機材料を用いて形成されているため、液状体80,90に対して親液性を示す。
したがって、隔壁部36Hによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Haが目安となり、段差部36Haを挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0118】
実施例6によれば、段差部36Haにおいて親液性を有する2段の段差を形成することができる。
【0119】
(実施例7)
図15(a)は実施例7の有機EL素子の構造を示す概略断面図、同図(b)および(c)は実施例7の有機EL素子の製造方法を説明する概略断面図である。なお、図15(a)では他の実施例と同じである共通電極27や機能層24の図示を省略している。
【0120】
図15(a)に示すように、実施例7の有機EL素子20Hは、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36Kを有している。
【0121】
隔壁部36Kは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物46を立体的に内包している。その頭頂部の幅は構造物46の幅とほぼ等しく、頭頂部から素子基板1に至る側壁には、素子基板1の表面とほぼ平行で平らな上面36pを有する段差部36Kaが設けられている。段差部36Kaを挟んで上下に傾斜した側壁36n,36qが設けられている。頭頂部と段差部36Kaの上面とには、撥液層36mが設けられている。
【0122】
このような隔壁部36Kの形成方法としては、画素電極23や構造物46が形成された素子基板1の表面を感光性樹脂材料で覆って塗布膜を形成する。塗布膜を露光・現像して構造物46を内包する隔壁部36Kを形成する。隔壁部36Kの側面に段差部36Kaや傾斜した側壁36n,36qを形成する方法としては、当該部分に対応して露光量を変化させる方法が挙げられる。例えば、ポジ型の感光性樹脂材料を用いた塗布膜であれば、塗布膜を完全に残したい部分はフォトマスクにおいて遮光する。現像により塗布膜を初期の膜厚より減膜させて残したい部分は光の透過率が減少するようにフォトマスクを形成しておく。
【0123】
上記のようにして形成された隔壁部36Kの頭頂部と段差部36Kaの上面とに、実施例3で示した転写法を用いて撥液層36mを形成する。
【0124】
さらに、隔壁部36Kが形成された素子基板1を酸素を処理ガスとするプラズマ処理などの表面処理を施せば、側壁36n,36qに親液性を付与することも可能である。
【0125】
そして、図15(b)に示すように、隔壁部36Kにより区画された膜形成領域Aに液状体70を塗布する。液状体70は段差部36Kaを越えず、且つ側壁36qにより区画された膜形成領域Aにむらなく行き渡るように充填する。段差部36Kaの上面には撥液層36mが形成されているので、液状体70は段差部36Kaを越え難い。塗布された液状体70を乾燥し熱処理することで、図15(c)に示すように側壁36qの部分でピニングされ、断面形状が安定した正孔注入層24hが得られる。
【0126】
次に、図15(c)に示すように、隔壁部36Kにより区画された膜形成領域Aに液状体80を塗布する。液状体80は段差部36Kaを越え、且つ側壁36nにより区画された膜形成領域Aにむらなく行き渡るように充填する。隔壁部36Kの頭頂部には撥液層36mが形成されているので、液状体80は頭頂部を越え難い。塗布された液状体80を乾燥し熱処理することで、側壁36nの部分でピニングされ、断面形状が安定した中間層24mが得られる。
液状体90を膜形成領域Aに塗布して発光層24Lを形成する場合にも、液状体80と同様に塗布すれば、側壁36nの部分でピニングされ、断面形状が安定した発光層24Lが得られる。
【0127】
実施例7によれば、隔壁部36Kを第1隔壁部34や第2隔壁部35に分けて形成せず、一度のフォトリソ(露光・現像)工程で形成できるので、生産性を向上させることができる。
【0128】
上記実施例1〜上記実施例7によれば、いずれも膜形成領域Aを区画する隔壁部の側壁に設けられた段差部を目安として、異なる有機薄膜のピニング位置をそれぞれ安定させ、断面形状が安定した機能層24を得ることができる。
【0129】
また、上記実施例1〜上記実施例7のうち、隔壁部に対する撥液性の付与方法が共通する例えば実施例4〜実施例7の中から組み合わせて適用してもよい。
【0130】
上記実施例1〜上記実施例7は、いずれも段差部を有する隔壁部によって画素電極23が平面的に含まれる膜形成領域Aを区画したが、これに限定されるものではない。図16および図17(a)および(b)は隔壁部の配置について説明する概略平面図である。
【0131】
図16に示すように、機能層24が設けられる膜形成領域Aが略矩形状である場合、例えば実施例1の隔壁部36における段差部36aは、膜形成領域Aの短辺側(短手側)に沿って設けてもよい。つまり、膜形成領域Aの長辺側(長手側)に沿うB−B’線で切った断面図が図4に相当する。膜形成領域Aの短辺側(短手側)に沿うC−C’線で切った断面図では、段差部36aがない構造となる。
【0132】
膜形成領域Aが平面的に略矩形状であるとき、膜形成領域Aに液状体を充填してゆくと、長辺側から先に溢れてしまう。また、短辺側に液状体を濡れ広がらせることが難しく塗布むらが生じ易い。したがって、短辺側に沿って液状体を確実に充填するのが難しいので、短辺側に沿った隔壁部36に段差部36aを設けて充填の目安とすることが、ピニング位置を安定させて断面形状が安定した有機薄膜を形成することに繋がる。
膜形成領域Aが短手や長手方向を特定し難い例えば平面的に円形であるならば、円周に沿って段差部36aを有する隔壁部36を形成することが望ましい。
【0133】
また、実施例1では1つの膜形成領域Aを隔壁部36によって区画したが、これに限定されない。例えば、図17(a)および(b)に示すように、第1隔壁部34によって個々の有機EL素子20が設けられる領域を区画し、同じ発光色が得られる複数の有機EL素子20を含むように第2隔壁部35を第1隔壁部34上に設けてもよい。
【0134】
異なる発光色の有機EL素子20R,20G,20Bに共通する正孔注入層24hは、第1隔壁部34で区画された領域に液状体70を塗布して形成する。正孔注入層24h上に積層される中間層24mや発光層24Lは、第2隔壁部35により区画された領域に液状体80,90を塗布して形成する。このようにすれば、液状体80,90が塗布される領域が拡張されるので、同色の有機EL素子20に亘ってより安定した断面形状の中間層24mや発光層24Lを含む機能層24を得ることができる。
【0135】
(第2実施形態)
<電子機器>
次に本実施形態の電子機器について、図18を参照して説明する。図18(a)は電子機器の一例としての携帯型電話機を示す図、同図(b)は電子機器の一例としての薄型テレビを示す図である。
【0136】
図18(a)に示すように、本実施形態の電子機器としての携帯型電話機500は、操作ボタン503を備えた本体502と、本体502にヒンジを介して折畳式に取り付けられた表示部501とを備えている。
表示部501には、上記第1実施形態の有機EL装置10が搭載されている。
したがって、機能層24における異種の有機薄膜が安定した断面形状で形成されている有機EL素子20を有しているので、発光寿命が長く見栄えのよい携帯型電話機500を提供することができる。
【0137】
図18(b)に示すように、本実施形態の他の電子機器としての薄型テレビ1000は、表示部1001に上記第1実施形態の有機EL装置10が搭載されている。
したがって、優れた耐久寿命と美しいフルカラー表示が可能な薄型テレビ1000を提供することができる。
【0138】
なお、有機EL装置10が搭載される電子機器は、携帯型電話機500や薄型テレビ1000に限定されず、例えば、パーソナルコンピューターや携帯型情報端末、ナビゲーター、ビューワーなどの表示部を有する電子機器が挙げられる。
【0139】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0140】
(変形例1)上記第1実施形態において、有機EL素子20は、陽極としての画素電極23と陰極としての共通電極27との間に設けられ、発光層24Lを含む異種の有機薄膜が積層された機能層24を有する構成としたが、これに限定されない。例えば、陰極である共通電極27と発光層24Lとの間に正孔ブロック層、電子輸送層を蒸着法により積層してもよい。正孔ブロック層としては、BAlq、BCPなどが挙げられ、電子輸送層としてはAlq3などが挙げられる。正孔ブロック層は、発光層24Lから正孔が漏れることを抑制する機能を有する。電子輸送層は、発光層24Lに対する電子の輸送性(注入性)を向上させる機能を有する。言い換えれば、陽極と陰極との間に配置されたものを機能層とするならば、機能層は異種の有機薄膜からなるものに限定されず、有機薄膜と無機薄膜とを組み合わせて積層されたものでもよい。
【0141】
(変形例2)上記第1実施形態において、有機EL素子20はボトムエミッション型であることに限定されない。例えば、画素電極23と共通電極27とをそれぞれ透明性を有するようにITOなどを用いて形成する。好ましくは、さらに素子基板1において画素電極23の下層に反射層を設ける。これにより、機能層24における発光が反射層で反射し、共通電極27側から射出するトップエミッション型としてもよい。
【0142】
(変形例3)上記第1実施形態の例えば実施例1において、隔壁部36の側壁に設けられる段差部36aは1段だけに限定されない。機能層24における異種の有機薄膜の構成に応じて、複数の段差部36aを設けてもよい。
【0143】
(変形例4)上記第1実施形態の実施例3では、第1隔壁部34上に形成された第2隔壁部35の上面に転写法により撥液層35eを形成したが、第2隔壁部35と撥液層35eとの積層体を形成する方法は、これに限定されない。例えば、図11(b)に示した転写部材として基材の表面に対して撥液層、感光性樹脂層が順に形成されたものを用いる。これを第1隔壁部34を覆うように転写した後に、露光・現像して第2隔壁部35と撥液層35eとの積層体を形成してもよい。この方法は、上面34aに撥液性が付与された第1隔壁部34を形成する方法としても採用できる。
【符号の説明】
【0144】
1…基板としての素子基板、10…有機EL装置、20…有機EL素子、23…陽極としての画素電極、24…機能層、24h…正孔注入層、24m…中間層、24L…発光層、27…陰極としての共通電極、34…第1隔壁部、34a…第1隔壁部の上面、34e…撥液層、34P…塗布膜、35…第2隔壁部、35a…第2隔壁部の上面または隔壁部の最上面あるいは頭頂部、35e…撥液層、35P…塗布膜、36…隔壁部、36a…段差部、40…構造物、70,80,90…液状体、500…電子機器としての携帯型電話機、1000…電子機器としての薄型テレビ、A…膜形成領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、有機EL素子の製造方法、有機EL装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記有機EL素子の製造方法として、バンク(隔壁)で囲まれた領域に薄膜材料液を充填して薄膜層を形成する薄膜形成方法を用いて、有機EL素子の発光層を含む機能層を形成した例が開示されている(特許文献1および特許文献2)。
【0003】
特許文献1では、機能層が正孔輸送層と有機半導体層(発光層)とからなる例が示されており、上記バンクが薄膜材料液(正孔輸送層材料や有機半導体材料を含む)に対して親和性を示す親和層と非親和性を示す非親和層の積層構造を有している。当該積層構造は、機能層における異なる材料層の数に対応して繰り返し積層されている。最下層の親和層の厚みは、薄膜材料液を乾燥して得ようとする薄膜の厚みとほぼ同程度となっている。また、最下層の親和層上に積層された非親和層と親和層とを合わせた厚みは、次に積層される薄膜の厚みとほぼ同程度となっている。
つまり、バンク内に塗布された薄膜材料液を乾燥させると、対応して設けた親和層の側壁でピニングされ、非親和層ではピニングされないので、安定した膜断面形状を有する薄膜とその積層構造を実現できるとしている。
【0004】
特許文献2では、基板上に配置される複数の有機EL素子の画素開口を区画する絶縁性の個別隔壁と、該個別隔壁と間隔を置いてその周囲に形成された共通隔壁とを有し、共通隔壁が撥液性材料で形成され、共通隔壁で包囲された領域に発光層形成材料を含む液体を塗布して乾燥することにより、個別隔壁を覆うように発光層が配置されている。これにより複数の有機EL素子における発光層の厚さをより均一にすることができるとしている。また、個別隔壁が親液層と撥液層とを積層させたものでもよいとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−271753号公報
【特許文献2】特開2008−135255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のバンクの構成では、最下層の薄膜上に次の薄膜を積層形成しようとする場合、次の薄膜材料液が非親和層を高さ方向において越えるように充填されなければ、乾燥過程において非親和層上の次の親和層において確実にピニングされない。つまり、実際には、所定量の薄膜材料液をバンクで囲まれた領域にむらなく充填しないと、積層構造の機能層における各層を高さ方向において所望の位置で形成することが難しいという課題がある。
【0007】
上記特許文献2の個別隔壁と共通隔壁とを有する構成では、単一の発光色が得られる複数の有機EL素子を形成する場合には有効だが、隣り合う有機EL素子間で異なる発光色を得ようとする場合には不適当である。また、個別隔壁によって規定される発光領域の大きさや配置が共通隔壁との配置関係で制限されるため、所定の開口率を確保しようとする表示装置等には不向きであるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例の有機EL素子は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記機能層を区画する隔壁部とを備えた有機EL素子であって、前記有機薄膜は、前記隔壁部によって区画された膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を塗布し乾燥することにより形成され、前記隔壁部は、前記隔壁部の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部を有し、前記隔壁部の最上面と前記段差部の上面とに撥液性が付与され、前記段差部を除く前記側壁の表面は、前記段差部の上面に比べて親液性を有することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、隔壁部の側壁に設けられた段差部が膜形成領域における液状体充填時の目安となる。また、段差部の上面には撥液性が付与され、段差部の下方側と上方側の側壁は段差部の上面に比べて親液性を有しているので、段差部を挟んで液状体のピニング位置を確実に分けることが可能となる。したがって、段差部を挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜が得られる。すなわち、断面形状が安定した異種の有機薄膜を有する機能層を備え、輝度むらが低減された有機EL素子を提供できる。
【0011】
[適用例2]上記適用例の有機EL素子において、前記段差部の上面は、前記隔壁部の最上面に比べて低い撥液性を有することが好ましい。
この構成によれば、段差部の下方側に成膜された有機薄膜の上にさらに次の有機薄膜を形成するために膜形成領域に液状体を塗布したときに、撥液性を有する段差部の上面を比較的容易に越えることができ、むらなく液状体が充填される。すなわち、次の有機薄膜の断面形状をより安定したものとすることができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、第1隔壁部と、前記第1隔壁部上に設けられ、前記第1隔壁部よりも幅狭に設けられた第2隔壁部とを有し、前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、隔壁部を下層側を構成する第1隔壁部と上層側を構成する第2隔壁部に分けて設けているため、上面が撥液性を有する段差部を容易に構成できる。
【0013】
[適用例4]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられた第1隔壁部と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、基板上の構造物を利用し、その上に第2隔壁部を設けているので、構造物を避けて隔壁部を構成する場合に比べて、無駄なスペースを発生させずに、段差部を構成することができる。
なお、構造物としては、陽極を取り囲むように基板上に設けられる各種の配線や有機EL素子の駆動回路を構成するスイッチング素子や保持容量などに用いられる半導体層、これらの配線や半導体層を覆う絶縁膜などが積層されたものが挙げられる。
【0014】
[適用例5]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられ、高さが前記構造物よりも低い第1隔壁部とを有し、前記構造物と前記第1隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記構造物の上面と、前記第1隔壁部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、構造物を隔壁部の一部として積極的に利用して、第1隔壁部とで段差部を構成することができる。言い換えれば、構造物上に第2隔壁部を設けなくてよいので、隔壁部の構成を簡略化できる。
【0015】
[適用例6]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、前記構造物と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記第2隔壁部の上面と、露出した前記構造物の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、構造物と構造物上に設けた第2隔壁部とにより段差部を構成するので、第1隔壁部を設ける場合に比べて、隔壁部の構成を簡略化できる。
【0016】
[適用例7]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられ、高さが前記構造物よりも低い第1隔壁部と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、前記構造物と前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
前述したように基板上に設けられる構造物は、主に無機材料により構成されているため、液状体に対して親液性を示しやすい。この構成によれば、基板上の高さ方向において、第1隔壁部と第2隔壁部との間に親液性を示す構造物が露出しているので、液状体が第1隔壁部を越えて膜形成領域に充填されると露出した構造物の表面において容易にピニングされる。すなわち、基板上の高さ方向において位置が安定した有機薄膜が得られる。
【0017】
[適用例8]上記適用例の有機EL素子において、前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物を内包すると共に、前記隔壁部の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部を有し、前記隔壁部の最上面と前記段差部の上面とに撥液性が付与されているとしてもよい。
この構成によれば、構造物を内包して側壁に段差部を有する隔壁部を構成する。とりわけ、構造物が立体的に小さい場合には、構造物を内包することによって所望の高さの隔壁部を無理なく構成できる。
【0018】
[適用例9]本適用例の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層を備えた有機EL素子の製造方法であって、前記陽極を区画すると共に上面が撥液性を有するように第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、上面が撥液性を有すると共に前記第1隔壁部よりも狭い幅の第2隔壁部を前記第1隔壁部上に形成する第2隔壁部形成工程と、前記第1隔壁部および前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この方法によれば、第1隔壁部と第2隔壁部とにより膜形成領域を区画する隔壁部の側壁に段差部が形成される。この段差部が機能層形成工程において、膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を充填する際の目安となる。また、第1隔壁部の上面は撥液性を有しているので、該上面を挟んだ下方側と上方側とに液状体のピニング位置を確実に分けることが可能となる。したがって、該上面を挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜を形成することができる。すなわち、断面形状が安定した異種の有機薄膜を有する機能層を備え、輝度むらが低減された有機EL素子を製造できる。
【0020】
[適用例10]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程および前記第2隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を熱処理する工程と、熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部、前記第2隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする。
この方法によれば、塗布膜に含まれた撥液剤は、加熱を受け表層に向かって熱拡散する性質があるので、有機材料からなる隔壁部にフッソ系の処理ガスを用いて撥液性を付与する方法に比べて、安定的に撥液性を付与できる。また、加熱後の塗布膜をパターニングして第1隔壁部、第2隔壁部を形成するので、それぞれの上面に撥液性を付与し、それぞれの側壁は上面に比べて撥液性を弱めることができる。したがって、上面と側壁とで液状体に対する濡れ性を異ならせることができる。
【0021】
[適用例11]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程は、前記第2隔壁部形成工程に比べて前記塗布膜に含まれる撥液剤の量を少なくして前記第1隔壁部を形成することが好ましい。
この方法によれば、第1隔壁部の撥液性が第2隔壁部に比べて低くなる。したがって、第1隔壁部の下方側に成膜された有機薄膜の上にさらに次の有機薄膜を形成するために膜形成領域に液状体を塗布したときに、撥液性を有する第1隔壁部の上面を比較的容易に越えることができ、むらなく液状体を充填できる。すなわち、次に形成される有機薄膜の断面形状をより安定したものとすることができる。
【0022】
[適用例12]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第2隔壁部形成工程は、感光性樹脂材料を用いて前記第2隔壁部を前記第1隔壁部上にパターニング形成する工程と、前記第2隔壁部の上面に撥液層を転写する工程とを含むとしてもよい。
この方法によれば、撥液性の付与方法を第1隔壁部と第2隔壁部とで変えるので、付与される撥液性を比較的容易に異ならせることができる。例えば、第2隔壁部に比べて、第1隔壁部の撥液性を低くすることが容易にできる。
また、第2隔壁部を撥液剤を含む感光性樹脂材料で形成する場合に比べて、熱処理を必要としないので、省エネルギーに貢献できる。
【0023】
[適用例13]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物を挟んだ内側と外側とに前記第1隔壁部を形成し、前記第2隔壁部形成工程は、前記構造物上に前記第2隔壁部を形成するとしてもよい。
この方法によれば、基板上の構造物を利用し、その上に第2隔壁部を形成するので、構造物を避けて隔壁部を形成する場合に比べて、無駄なスペースを発生させずに、隔壁部を形成することができる。
【0024】
[適用例14]本適用例の他の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、前記構造物を挟んだ内側と外側とに前記構造物よりも高さが低い第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、前記第1隔壁部の上面と前記構造物の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、前記第1隔壁部および前記構造物からなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
この方法によれば、構造物を隔壁部の一部として積極的に利用して、第1隔壁部とで段差部を構成することができる。言い換えれば、第2隔壁部形成工程が不要となり、隔壁部の形成工程を簡略化できる。
【0026】
[適用例15]本適用例の他の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、前記構造物上に第2隔壁部を形成する第2隔壁部形成工程と、前記第2隔壁部の上面と前記構造物の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、前記構造物と前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
この方法によれば、構造物と構造物上に形成した第2隔壁部とにより段差部を形成できるので、第1隔壁部形成工程が不要となり、隔壁部の形成工程を簡略化できる。
【0028】
[適用例16]本適用例の他の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、前記構造物を挟んだ内側と外側とに前記構造物よりも高さが低い第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、前記構造物上に第2隔壁部を形成する第2隔壁部形成工程と、前記第1隔壁部の上面と前記第2隔壁部の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、前記第1隔壁部と前記構造物と前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0029】
この方法によれば、基板上の高さ方向において、第1隔壁部と第2隔壁部との間に親液性を示す構造物が露出することになるので、膜形成領域において第1隔壁部を越えるように液状体を充填すると露出した構造物の表面において容易にピニングされる。すなわち、基板上の高さ方向において位置が安定した有機薄膜を形成することができる。
【0030】
[適用例17]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記撥液性付与工程は、撥液性を付与する前記上面に撥液層を転写するとしてもよい。
この方法によれば、隔壁部における最上面すなわち頭頂部と段差部の上面とに選択的に且つほぼ同時に撥液層を形成することができる。
【0031】
[適用例18]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記第1隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を熱処理する工程と、熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部を形成する工程とを含むとしてもよい。
この方法によれば、構造物の高さよりも低い第1隔壁部の上面に確実に撥液性を付与することができる。
【0032】
[適用例19]本適用例の他の有機EL素子の製造方法は、基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周側に設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、前記陽極を区画すると共に、前記構造物を立体的に内包して前記構造物よりも高さが高い頭頂部と前記頭頂部との間の側壁に段差部とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、前記隔壁部の前記頭頂部と前記段差部の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、前記隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0033】
この方法によれば、構造物を内包することによりその高さを利用して隔壁部の側壁に段差部を形成できると共に任意の高さを有する隔壁部を形成できる。また、該段差部が膜形成領域に液状体を充填する際の目安となる。また、段差部の上面は撥液性を有しているので、該上面を挟んだ下方側と上方側とに液状体のピニング位置を確実に分けることが可能となる。したがって、該上面を挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜を形成することができる。すなわち、断面形状が安定した異種の有機薄膜を有する機能層を備え、輝度むらが低減された有機EL素子を製造できる。
【0034】
[適用例20]上記適用例の有機EL素子の製造方法において、前記撥液性付与工程は、前記隔壁部の前記頭頂部と前記段差部の上面とに撥液層を転写するとしてもよい。
この方法によれば、隔壁部の頭頂部と段差部の上面とにほぼ同時に撥液層を形成できる。
【0035】
[適用例21]本適用例の有機EL装置は、上記適用例の有機EL素子、または上記適用例の有機EL素子の製造方法を用いて製造された有機EL素子を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、輝度むらが低減された有機EL素子を有しているので、安定した発光特性が得られる有機EL装置を提供できる。
【0036】
[適用例22]本適用例の電子機器は、上記適用例の有機EL装置を搭載したことを特徴とする。
この構成によれば、安定した発光特性が得られる有機EL装置が搭載されているので、例えば、有機EL装置を表示部として用いるならば、見栄えのよい表示が可能な電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】有機EL装置の構成を示す概略正面図。
【図2】有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図3】有機EL素子の構成を示す模式図。
【図4】実施例1の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図5】実施例1の有機EL素子の製造方法を示すフローチャート。
【図6】(a)〜(f)は実施例1の有機EL素子の製造方法を示す概略断面図。
【図7】(g)〜(k)は実施例1の有機EL素子の製造方法を示す概略断面図。
【図8】実施例2の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図9】(a)および(b)は実施例2の変形例の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図10】実施例3の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図11】(a)〜(c)は実施例3の有機EL素子における隔壁部の形成方法を説明する図。
【図12】実施例4の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図13】実施例5の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図14】実施例6の有機EL素子の構造を示す概略断面図。
【図15】(a)は実施例7の有機EL素子の構造を示す概略断面図、(b)および(c)は実施例7の有機EL素子の製造方法を説明する概略断面図。
【図16】隔壁部の配置について説明する概略平面図。
【図17】(a)および(b)は他の隔壁部の配置について説明する概略平面図。
【図18】(a)は電子機器の一例としての携帯型電話機を示す図、(b)は電子機器の一例としての薄型テレビを示す図。
【図19】(a)〜(e)は従来の有機EL素子の構造と機能層の形成方法を説明する概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示している。
【0039】
(第1実施形態)
<有機EL装置>
本実施形態の有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を備えた有機EL装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1は有機EL装置の構成を示す概略正面図、図2は有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図、図3は有機EL素子の構成を示す模式図である。
【0040】
図1に示すように、本実施形態の有機EL装置10は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の発光(発光色)が得られる発光画素7を有している。発光画素7は略矩形状であり、発光領域(表示領域)6においてマトリクス状に配置されている。同色の発光が得られる発光画素7が図面上において垂直方向(列方向あるいは発光画素の長手方向)に配列し、異なる発光色の発光画素7が図面上において水平方向(行方向あるいは発光画素の短手方向)にR,G,Bの順で配列している。すなわち、異なる発光色の発光画素7が所謂ストライプ方式で配置されている。なお、異なる発光色の発光画素7の平面形状と配置は、これに限定されるものではない。
【0041】
このような有機EL装置10を表示装置として用いるならば、異なる発光色が得られる3つの発光画素7を1つの表示画素単位として、それぞれの発光画素7は電気的に制御される。これによりフルカラー表示が可能となる。
【0042】
図2に示すように、有機EL装置10は、発光画素7を駆動するスイッチング素子として薄膜トランジスター(Thin Film Transistor、以下TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス型の有機EL装置である。
【0043】
有機EL装置10は、走査線駆動部3に接続された複数の走査線31と、データ線駆動部4に接続された複数のデータ線41と、各走査線31に並列して設けられた複数の電源線42と、を備えている。互いに絶縁され交差する走査線31とデータ線41とによって区画された領域に対応して設けられた駆動回路部によって発光画素7の発光制御が行われている。
【0044】
駆動回路部は、走査線31を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用のTFT11と、このTFT11を介してデータ線41から供給される画素信号を保持する保持容量13と、該保持容量13によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用のTFT12とを備えている。この駆動用のTFT12を介して電源線42に電気的に接続したときに該電源線42から駆動電流が流れ込む陽極としての画素電極23と、この画素電極23と陰極としての共通電極27との間に挟み込まれた機能層24とを有している。
【0045】
走査線31が駆動されてスイッチング用のTFT11がオン状態になると、そのときのデータ線41の電位が保持容量13に保持され、該保持容量13の状態に応じて、駆動用のTFT12のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用のTFT12を介して、電源線42から画素電極23に電流が流れ、さらに機能層24を介して共通電極27に電流が流れる。機能層24は、これを流れる電流量に応じて発光する。すなわち、画素電極23と共通電極27と機能層24とにより、発光単位としての有機EL素子20が構成されている。なお、駆動回路部の構成は、これに限定されるものではなく、例えば、3つ以上の薄膜トランジスターを含むものでもよい。
【0046】
図3に示すように、有機EL素子20は、駆動回路部(図示省略)が形成された基板としての素子基板1上に設けられている。素子基板1上において、画素電極23と共通電極27との間に機能層24が配置されている。本実施形態における機能層24は、異種の有機薄膜である正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lが順に積層されたものである。
本実施形態の機能層24は、機能層形成材料を含む液状体を画素電極23を含む膜形成領域に塗布して乾燥することにより形成されている。機能層24において輝度むらが少ない安定した発光を得るには、各有機薄膜の断面形状にむらがない状態で成膜されていることが重要である。とりわけ、発光層24Lの断面形状にむらがある、すなわち膜厚むらがあると、膜厚の薄い部分の電気的な抵抗が小さくなり、その部分を流れる電流が大きくなって輝度むらが生ずる。あるいは、発光層24Lにおける発光寿命を縮めてしまうおそれがある。
【0047】
図19(a)〜(e)は従来の有機EL素子の構造と機能層の形成方法を説明する概略断面図である。各有機薄膜の断面形状を安定化させるために、特許文献1(特開平11−271753号公報)では、図19(a)に示すように、画素電極23を取り囲んで隔壁部60を設けることにより機能層が形成される膜形成領域Aを区画した。隔壁部60は、機能層形成材料を含む液状体に対して親和性(親液性)を示す親和層61と、当該液状体に対して非親和性(撥液性)を示す非親和層62とが順に積層されたものである。具体的には、親和層61は親和性を示すSiO2などの無機材料を用いて形成され、非親和層62は非親和性を示すレジストなどの有機材料を用いて形成されている。
【0048】
図19(b)に示すように、まず初めに隔壁部60で区画された膜形成領域Aに液状体70を塗布すると、親和層61の側壁に液状体70が馴染み(濡れ)、非親和層62の側壁に液状体70が馴染まない(弾かれる)。そして、図19(c)に示すように、液状体70の乾燥後に親和層61の側壁部分で係止(ピニング)された例えば正孔注入層24hを安定した断面形状で形成できるとしている。正孔注入層24h上に次の有機薄膜を積層形成する場合にも同様な作用・効果が得られるとしている。
【0049】
ところが、図19(d)に示すように、膜形成領域Aに次の液状体80を充填したときに、非親和層62を越えて次の親和層61に掛かるように液状体80を充填しないと、例えば図19(e)に示すように、乾燥後に一方の端部は次の親和層61にピニングされているものの、他方の端部が次の親和層61に届かないことが発生する。
特許文献1には、このような隔壁部60に対してフッソ系の処理ガスでさらに表面処理を施し、非親和層62のバンク形成面(すなわち側壁)における液状体の接触角をさらに大きくする技術が開示されている。しかしながら、このような表面処理を施せば、液状体80はますます非親和層62を越えることが困難になり、次の親和層61に届き難くなるおそれがある。さらには、親和層61と非親和層62とを積層して得られた隔壁部60の側壁がほぼ面一な状態では余計に難しいと考えられる。つまり、異種の有機薄膜を安定した断面形状で積層することは、なかなか難しい。
【0050】
そこで発明者は、膜形成領域Aを区画する隔壁部の構成とその表面における撥液性や親液性の付与のしかたを工夫することにより、液状体の塗布法を用いて異種の有機薄膜を安定した断面形状で成膜可能な有機EL素子20の構造並びにその製造方法を開発した。以降、実施例を挙げて説明する。
【0051】
(実施例1)
図4は実施例1の有機EL素子の構造を示す概略断面図、図5は実施例1の有機EL素子の製造方法を示すフローチャート、図6(a)〜(f)および図7(g)〜(k)は有機EL素子の製造方法を示す概略断面図である。
【0052】
図4に示すように、実施例1の有機EL素子20は、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36と、隔壁部36により区画された膜形成領域Aに設けられた機能層24と、機能層24と隔壁部36とを覆うように設けられた共通電極27とを有している。
素子基板1は、透明なガラスやプラスチックなどの基板が用いられている。
画素電極23はITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜を用いて形成され、共通電極27は不透明なAl(アルミニウム)などの反射性を有する金属材料を用いて形成されている。すなわち、有機EL素子20は、機能層24における発光が共通電極27により反射して素子基板1側から取り出されるボトムエミッション型である。
隔壁部36は、第1隔壁部34と、第1隔壁部34上に設けられ、第1隔壁部34よりも幅狭に設けられた第2隔壁部35とを有している。第1隔壁部34と第2隔壁部35とにより段差部36aが構成されている。
第1隔壁部34の上面34aと、第2隔壁部35の上面35aとに撥液性が付与されている。また、第2隔壁部35の上面35aに対して第1隔壁部34の上面34aは低い撥液性を有している。
すなわち、隔壁部36は、その断面形状において側壁に段差部36aを有している。その上面34aは、素子基板1の表面に対してほぼ平行で平であると共に、隔壁部36の頭頂部に比べて低い撥液性を有している。撥液性は頭頂部と段差部36aの上面34aとに付与されている。隔壁部36の側壁は、段差部36aの上面34aに比べてその下方側と上方側とで液状体に対してさらに低い撥液性(言い換えれば、親液性)を示す。隔壁部36の頭頂部は、第2隔壁部35の上面35aに相当するので、以降、頭頂部35aと呼ぶこともある。
【0053】
図5に示すように、有機EL素子20の製造方法は、隔壁部36を形成する隔壁部形成工程(ステップS1)と、画素電極23上に正孔注入層24hを形成する正孔注入層形成工程(ステップS2)と、正孔注入層24h上に中間層24mを形成する中間層形成工程(ステップS3)と、中間層24m上に発光層24Lを形成する発光層形成工程(ステップS4)と、発光層24Lを覆うように共通電極27を形成する共通電極形成工程(ステップS5)とを備えている。ステップS2〜ステップS4が機能層形成工程に相当する。
【0054】
ステップS1の隔壁部形成工程は、図6(a)に示すように、まず素子基板1の画素電極23が設けられた側の表面を覆うように撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて、塗布膜34Pを形成する。塗布膜34Pの厚みh1はおよそ2μmである。このような塗布膜34Pの形成方法としては、液状の感光性樹脂材料をスピンコート法やロールコート法などにより均一に塗布して乾燥させ成膜する方法が挙げられる。
感光性樹脂材料としては例えばフェノール系やエポキシ系あるいはポリイミド系の所謂レジスト材料が挙げられる。また、撥液剤としては、例えばフッ素系化合物が挙げられ、本実施形態では、DIC社製のフッ素系添加剤R−30を用いた。該撥液剤の主成分はパーフルオロアルキル系材料である。含有量がおよそ0.2wt%となるように上述したレジスト材料の溶液(以降、レジスト溶液と呼ぶ)に該撥液剤を添加した。
【0055】
次に、成膜された塗布膜34Pを熱処理する。加熱温度は、およそ100℃〜120℃である。熱処理工程は、新たな工程ではなく所謂ポストベークの温度を含有された撥液剤の熱拡散を考慮して設定したものである。熱処理を施すことによって、図6(b)に示すように、撥液剤は塗布膜34Pの表層に向かって熱拡散する性質を持っている。したがって、塗布膜34Pの表面近傍では撥液剤の濃度が高く、バルクでは濃度が低下した状態が得られる。図6(b)では塗布膜34Pにおける撥液剤の拡散状態をグラデーションで表した。撥液剤の拡散状態は、実際には目に見えるものではないが、IMAなどの表面分析を行うことで解明することができる。
【0056】
そして、塗布膜34Pをフォトリソグラフィー法により露光・現像することにより、図6(c)に示すように、所望の幅を有する第1隔壁部34を形成する。これにより、第1隔壁部34の上面34aに撥液性が付与され、上面34aに比べて撥液性が低下した側壁34bを形成することができる。
【0057】
続いて、第1隔壁部34を形成したと同様な方法で第2隔壁部35を形成する。具体的には、図6(d)に示すように、撥液剤を含むレジスト溶液を用いて第1隔壁部34を覆うように塗布膜35Pを形成し、同じく熱処理を施す。塗布膜35Pの厚みh2はおよそ1〜2μmである。このときの撥液剤の含有量はおよそ1.0wt%であり、第1隔壁部34を形成したときに比べて濃度を高くしている。
【0058】
次に図6(e)に示すように、塗布膜35Pをフォトリソグラフィー法により露光・現像して、第1隔壁部34に比べて幅が狭い第2隔壁部35を第1隔壁部34上に形成する。
素子基板1の表面に平行な方向における第1隔壁部34間の間隔L1に比べて第2隔壁部35間の間隔L2を大きく設定することで、隔壁部36の側壁に段差部36aが形成される。段差部36aの上面34aは撥液性が維持されている。また、隔壁部36の頭頂部すなわち第2隔壁部35の上面35aは、撥液剤の濃度を高くしたことにより、段差部36aの上面34aに比べて高い撥液性を有する。
【0059】
なお、第1隔壁部34の厚みh1と第2隔壁部35の厚みh2は、塗布される液状体の種類とその濃度や膜形成領域Aに対する充填量を考慮して決められるものである。段差部36aの幅L3は、段差部36aを乗り越えた液状体のピニング性を考慮すると、およそ1μm以上が望ましい。さらに、隣接する膜形成領域A間で塗布された液状体が混じり合わないように第2隔壁部35の幅L4を設定することが望ましい。そして、ステップS2へ進む。
【0060】
ステップS2の正孔注入層形成工程では、図6(f)に示すように、隔壁部36により区画された膜形成領域Aに正孔注入層形成材料を含む液状体70を塗布する。所定量の液状体70を確実に膜形成領域Aに充填するため、本実施形態では、吐出ヘッド50のノズルから液状体70を液滴として膜形成領域Aに吐出する液滴吐出法(インクジェット法)が採用されている。吐出ヘッド50は所謂インクジェットヘッドと呼ばれるものであって、複数の微細なノズルを有し、ノズルから膜形成領域Aに向けて液滴が吐出される。画素電極23上に着弾した液状体70は、膜形成領域Aにおいて濡れ広がると共に液滴の吐出が進むに連れて表面張力により盛り上がる。また、段差部36aが液状体70の充填における目安となり、段差部36aの上面34aを越えない程度に充填される。段差部36aの上面34aは撥液性を有しているので、液状体70は上面34aを越え難く、たとえ越えたとしても弾かれて第1隔壁部34によって区画された膜形成領域Aに収容される。また、第1隔壁部34の側壁34bは、上面34aに比べて撥液性が低いのでむらなく液状体70を充填することが可能である。
【0061】
液状体70をむらなく膜形成領域Aに行き渡らせるために、液状体70を塗布する前にO2(酸素)を処理ガスとするプラズマ処理を施してもよい。これにより、無機材料からなる画素電極23の表面と、撥液剤の濃度が低い第1隔壁部34の側壁34b(第2隔壁部35の側壁35b)とに親液性を付与することができる。
【0062】
図7(g)に示すように、所定量の液状体70が膜形成領域Aに塗布された素子基板1をランプアニールや減圧乾燥などの方法で乾燥して、熱処理(200℃、10分程度)を施すことにより、正孔注入層24hを成膜する。乾燥過程で液状体70は第1隔壁部34の側壁34bにおいて確実にピニングされるので、断面形状が安定しほぼ一定の膜厚を有する正孔注入層24hが得られる。
【0063】
液状体70は、例えば溶媒としてジエチレングリコールと水(純水)とを含み、正孔注入層形成材料として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体にドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)を加えた混合物(PEDOT/PSS)を0.5wt%含んだ溶液である。粘度がおよそ20mPa・s以下となるように溶媒の割合が調整されている。
このような液状体70を用いて加熱乾燥後に膜厚がおよそ50nmの正孔注入層24hを形成した。
なお、PEDOT/PSS以外の正孔注入層形成材料としては、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体が挙げられる。そして、ステップS3へ進む。
【0064】
ステップS3の中間層形成工程では、図7(h)に示すように、隔壁部36により区画された膜形成領域Aに中間層形成材料を含む液状体80を同じく吐出ヘッド50から液滴として吐出した。液状体80は、段差部36aを越え第2隔壁部35で区画された膜形成領域Aにむらなく充填可能な所定量を吐出する。隔壁部36の最上面である頭頂部35aが他の部分に比べて最も高い撥液性を有しており、液状体80は頭頂部35aを乗り越えない程度に吐出される。
【0065】
液状体80は、溶媒として例えばシクロヘキシルベンゼンに中間層形成材料として正孔輸送性を示す例えばポリオレフィン系ポリマー蛍光材料やトリフェニルアミン系ポリマーを0.1wt%含んだ溶液である。
そして、図7(i)に示すように、液状体80が塗布された素子基板1を減圧乾燥して、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で熱処理(130℃、1時間程度)を施すことにより、膜厚がおよそ10nmの中間層24mを成膜する。段差部36aを越えた液状体80は、段差部36aの上面34aが平坦であり、且つ第2隔壁部35の側壁35bが親液性を有しているので乾燥に伴って側壁35bとの接触界面が後退し難い。それゆえに側壁35bにおいて確実にピニングされる。その結果、先に成膜された正孔注入層24hの表面に沿って断面形状が安定した中間層24mが得られる。そして、ステップS4へ進む。
【0066】
ステップS4の発光層形成工程では、図7(j)に示すように、隔壁部36により区画された膜形成領域Aに発光層形成材料を含む液状体90を吐出ヘッド50から液滴として吐出した。液状体90は、段差部36aを越え第2隔壁部35で区画された膜形成領域Aにむらなく充填可能な所定量を吐出する。もちろん、液状体90も隔壁部36の頭頂部35aを乗り越えない程度に吐出される。
【0067】
液状体90は、溶媒中に赤色、緑色、青色の蛍光または燐光を発光する発光層形成材料を含んだものを用いる。好適な発光層形成材料としては、ポリオレフィン系ポリマー蛍光材料やポリフルオレン誘導体(PF)が挙げられる。なお、PF以外の発光層形成材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、PEDOT等のポリチオフェニレン誘導体、ポリメチルフェニレンシラン(PMPS)等を用いることができる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素等の高分子材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクドリン等低分子材料をドープしたものを用いてもよい。
実施例1では、溶媒としてのシクロヘキシルベンゼンにポリオレフィン系ポリマー蛍光材料を0.7wt%含んだ溶液を用いた。粘度はおよそ14mPa・sである。
【0068】
そして、図7(k)に示すように、液状体90が塗布された素子基板1を減圧乾燥して、例えば窒素などの不活性ガス雰囲気で熱処理(130℃、1時間程度)を施すことにより、膜厚がおよそ80nmの発光層24Lを成膜する。段差部36aを越えた液状体90は液状体80と同様に乾燥に伴って接触界面が第2隔壁部35の側壁35bにおいて確実にピニングされ、先に成膜された中間層24mの表面に沿って断面形状が安定した発光層24Lが得られる。なお、液状体90は、発光色ごとに供給される吐出ヘッド50から対応する同色の膜形成領域Aに対して吐出されることは言うまでもない。そして、ステップS5へ進む。
【0069】
ステップS5の共通電極形成工程では、図4に示すように、形成された各色の発光層24Lと隔壁部36とを覆うように陰極としての共通電極27を形成する。これにより有機EL素子20が完成する。
共通電極27の材料としては、Ca、Ba、Mg、Al等の金属とLiF等のフッ化物とを組み合わせて用いるのが好ましい。特に機能層24に近い側に仕事関数が小さいCa、Ba、LiFの膜を形成し、遠い側に仕事関数が大きいMg、Alを形成するのが好ましい。また、共通電極27の上にSiO2、SiN等の保護層を積層してもよい。このようにすれば、共通電極27の酸化を防止することができる。
共通電極27の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法等が挙げられる。特に機能層24の熱による損傷を防止できるという点では、蒸着法が好ましい。
実施例1では、Caをおよそ5nm、Alをおよそ300nm、この順に蒸着して反射性を有する共通電極27を形成した。
【0070】
駆動回路部と有機EL素子20とが形成された素子基板1と、封止基板とを接合することにより有機EL装置10が完成する。
【0071】
このような実施例1の有機EL素子20の製造方法によれば、機能層24における正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lをそれぞれ安定した膜厚および断面形状で歩留りよく形成することができる。すなわち、異なる発光色ごとに輝度むらが低減されたボトムエミッション型の有機EL素子20を有する有機EL装置10を歩留りよく製造することができる。
【0072】
(実施例2)
次に、実施例2の有機EL素子およびその製造方法について図8および図9を参照して説明する。図8は実施例2の有機EL素子の構造を示す概略断面図、図9(a)および(b)は実施例2の変形例の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細な説明は省略する。また、図8および図9では、共通電極27の図示を省略している。
実施例2の有機EL素子は、実施例1に対して画素電極23の周囲に設けられた構造物を活用した例である。
【0073】
図8に示すように、実施例2の有機EL素子20Aは、素子基板1上に設けられた画素電極23と、画素電極23を平面的に含んだ膜形成領域Aを区画する隔壁部36Bと、膜形成領域Aに設けられた機能層24とを備えている。
【0074】
隔壁部36Bは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40と、構造物40を挟んだ内側と外側とに設けられた第1隔壁部34cと、構造物40上に設けられた第2隔壁部35とにより構成されている。構造物40を挟んだ内側とは図8において機能層24が設けられた側である。実際には、冒頭で説明したように有機EL装置10は、異なる発光色が得られる発光画素7(図1参照)がストライプ状に配置されているので、異なる発光色の発光画素7間に設けられた構造物40の内側と外側とにはそれぞれ異なる発光色が得られる機能層24が設けられている。また、同じ発光色の発光画素7間に設けられた構造物40の内側と外側とにはそれぞれ同じ発光色が得られる機能層24が設けられている。第1隔壁部34cの配置について言い換えるならば、平面的に見て構造物40の外縁に沿って機能層24が形成される側に第1隔壁部34cが設けられている。構造物40の外側に機能層24を設ける必要がなければ第1隔壁部34cを設けなくてもよい。
【0075】
第1隔壁部34cと第2隔壁部35は、実施例1と同様に撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて形成されている。画素電極23と構造物40とを覆うように該感光性樹脂材料からなる塗布膜を素子基板1上に形成する。塗布膜の膜厚がほぼ構造物40の高さと同程度となるように成膜する。そして、熱処理を施した後に塗布膜を露光・現像して高さが構造物40とほぼ同じで、画素電極23を区画する第1隔壁部34cを形成する。現像工程では、構造物40の上面が露出するように現像を行う。
【0076】
次に、再び撥液剤を含む感光性樹脂材料を用いて、画素電極23と第1隔壁部34cと構造物40とを覆うように塗布膜を形成して熱処理を施す。そして、熱処理された塗布膜を露光・現像して構造物40上に構造物40とほぼ同じ幅の第2隔壁部35を形成する。これにより、構造物40を挟んで形成された第1隔壁部34cと構造物40上に形成された第2隔壁部35とにより、側壁部分に段差部36Baを構成する。
【0077】
上記感光性樹脂材料における撥液剤の含有量は、実施例1と同様に、第1隔壁部34cの場合がおよそ0.2wt%、第2隔壁部35の場合がおよそ1.0wt%である。また、構造物40に外周に沿って設けられた第1隔壁部34cの幅は1μm以上とすることが望ましい。
【0078】
これにより、上面34a’の撥液性が頭頂部35aよりも低くほぼ平らな段差部36Baを得ることができる。
【0079】
したがって、実施例1と同様に機能層形成材料を含む異種の液状体70,80,90を順に膜形成領域Aに塗布して乾燥させ熱処理を施すことにより、画素電極23上に安定した断面形状を有する正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lを形成することができる。
【0080】
画素電極23の周囲に設けられる構造物40としては、図2に示したように、駆動回路部を構成する走査線31、データ線41、電源線42の主たる配線や、TFT11,12や保持容量13などの素子が考えられる。特に上記配線は、Alなどの低抵抗金属材料が用いられ、配線抵抗を確保するためにも数百nmから数千nm(数μm)の厚みで設けられる。また、図2に示すように、走査線31に対して並行する電源線42を実際に設ける場合には、走査線31を形成した後に、これに重なるように絶縁層を介して電源線42を積層することがある。したがって、構造物40は、単一の構成だけでなく、複数の構成の積層体をも含むものである。
【0081】
このように構造物40を隔壁部36Bの一部として利用することにより、構造物40とは別に実施例1のような隔壁部36を設ける場合に比べて、素子基板1上のスペースを有効に使って有機EL素子20Aを構成することができる。
また、実施例1では、第1隔壁部34の上面34aに第2隔壁部35の前駆体である塗布膜35Pを形成する際に、上面34aの撥液性によってレジスト溶液が弾かれて塗布むらとなるおそれがあった。これに対して、実施例2では、低抵抗金属材料や絶縁層、あるいは半導体層などの無機材料から構成される構造物40上に塗布膜を形成するので、形成面において塗布むらを生ずることなく、安定した形状の第2隔壁部35が得られる。
【0082】
構造物を隔壁部の一部として利用する実施例2の変形例としては、図9(a)のように、第1隔壁部34cの高さが構造物40’の高さと必ずしも一致しないケースが考えられる。変形例の有機EL素子20A’は、素子基板1上に設けられた画素電極23と、画素電極23を平面的に含む膜形成領域Aを区画する隔壁部36Cと、膜形成領域Aに設けられた機能層24とを備えている。
【0083】
隔壁部36Cは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40’と、構造物40’を挟んだ内側と外側とに設けられ、構造物40’の高さよりも高い第1隔壁部34cと、構造物40’上に設けられた第2隔壁部35cとにより構成されている。第1隔壁部34cと第2隔壁部35cにより段差部36Caが構成されている。
【0084】
すなわち、構造物40’の高さが第1隔壁部34cの所望の高さと合致しない場合には、隔壁部36Cとしての高さを確保するため、構造物40’上に第2隔壁部35cの高さを調整して設ければよい。
【0085】
また、前述したように、構造物が駆動回路部を構成する配線等からなる場合、走査線31や電源線42の延在方向と、データ線41の延在方向とでは構造物の高さが異なることも考えられるので、構造物を含む隔壁部を設ける方向によって、図8と図9(a)とが混在することもあり得る。
【0086】
さらには、図9(b)に示すように、構造物40’に設けられる第2隔壁部35dの幅は、必ずしも構造物40’の幅と等しくなくてもよい。例えば、変形例の有機EL素子20A”は、素子基板1上に設けられた画素電極23と、画素電極23を平面的に含む膜形成領域Aを区画する隔壁部36Dと、膜形成領域Aに設けられた機能層24とを備えている。
【0087】
隔壁部36Dは、画素電極23の周囲に設けられた構造物40’と、構造物40’を挟んだ内側と外側とに設けられ、構造物40’の高さよりも高い第1隔壁部34cと、構造物40’上に設けられた第2隔壁部35dとにより構成されている。
【0088】
第2隔壁部35dの幅は、構造物40’の幅よりも狭い。したがって、第1隔壁部34cと構造物40’と第2隔壁部35dとにより、隔壁部36Dの側壁に溝状の段差部36Daが構成される。隔壁部36Dにより区画された膜形成領域Aに段差部36Daを越えるように液状体80,90を充填すると、溝状の段差部36Daによって液状体80,90が受け止められ、第2隔壁部35dの側壁35bに確実にピニングして、中間層24mや発光層24Lを成膜することができる。
【0089】
なお、前述したように構造物を含む隔壁部を形成する方向によって図8、図9(a)、図9(b)に示した隔壁部36B,36C,36Dの中から選んで組み合わせてもよい。
【0090】
次に説明する実施例3〜実施例7は、実施例1や実施例2に対して隔壁部の構成並びに隔壁部に対する撥液性の付与方法を異ならせた例である。実施例1と同じ構成には同じ符号を付して詳細の説明は省略する。
【0091】
(実施例3)
図10は実施例3の有機EL素子の構造を示す概略断面図、図11(a)〜(c)は実施例3の有機EL素子における隔壁部の形成方法を説明する図である。なお、図10では共通電極27の図示を省略している。
【0092】
図10に示すように、実施例3の有機EL素子20Cは、素子基板1上に設けられた画素電極23と、画素電極23を平面的に含む膜形成領域Aを区画する隔壁部36Eと、膜形成領域Aに設けられた機能層24とを備えている。
【0093】
隔壁部36Eは、画素電極23を区画する第1隔壁部34と、第1隔壁部34上に設けられ、第1隔壁部34よりも幅が狭い第2隔壁部35と、第2隔壁部35上に設けられた撥液層35eとにより構成されている。第1隔壁部34と第2隔壁部35とにより隔壁部36Eの側壁に段差部36Eaが構成されている。段差部36Eaの上面34aには撥液性が付与されている。
【0094】
機能層24は、実施例1と同様に、隔壁部36Eで区画された膜形成領域Aに機能層形成材料を含む液状体70,80,90を順次塗布して乾燥させ、熱処理することにより形成された正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lを有している。正孔注入層24h、中間層24m、発光層24Lは、隔壁部36Eの側壁において安定した位置でピニングされ、それぞれ安定した断面形状を有している。
【0095】
実施例3における隔壁部36Eの形成方法は、図11(a)に示すように、実施例1と同様にして撥液剤を含む感光性樹脂材料(レジスト材料)を用いて塗布膜を形成し、熱処理された塗布膜を露光・現像することにより、上面34aに撥液性が付与された第1隔壁部34を形成する。そして、撥液剤を含まない感光性樹脂材料を用いて、第1隔壁部34が形成された素子基板1の表面を覆うように塗布膜を形成し、露光・現像することにより、第1隔壁部34上に幅が狭い第2隔壁部35を形成する。
【0096】
次に、図11(b)に示すように、撥液剤が基材上に塗布されて成膜化された転写部材を周面にゴムなどの弾性体が設けられた転写ローラーによって、成膜化された撥液剤が第2隔壁部35の上面35aに押し付けられるように押圧する。これにより、図11(c)に示すように、基材上に成膜化された撥液剤が第2隔壁部35の上面35aに転写され、撥液層35eが形成される。
【0097】
したがって、第1隔壁部34の上面34aに対する撥液性の付与方法と第2隔壁部35の上面35aに対する撥液性の付与方法とが異なっている。
【0098】
実施例3では、基材として厚さ約20μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を用い、PETフィルム上に、フッ素系化合物を含有した撥液剤をバーコーターで約80nmの厚さで塗布し、約100℃で加熱乾燥して成膜化した。なお、撥液剤としては、住友スリーエム社製のノベック(登録商標)EGC−1720を用いている。なお、撥液剤としてはシリコーン化合物を含むものも採用することができる。
【0099】
このような隔壁部36Eの構成ならびに形成方法によれば、熱拡散により第2隔壁部35の上面35aに撥液性を付与する場合に比べて、素子基板1に対する熱処理の工程を減らすことができ、省エネルギーに貢献できる。また、隔壁部36Eにおける頭頂部(上面)35aの撥液性と段差部36Eaの上面34aの撥液性の水準を容易に異ならせることができる。熱拡散によって付与される撥液性に比べて転写法によって形成された撥液層35eの方が高い撥液性を容易に実現できる。また、選択的に撥液層35eを形成できるので第2隔壁部35自体の親液性を確保できる。
【0100】
なお、実施例3では、第2隔壁部35の上面に転写法を用いて撥液層35eを形成したが、第2隔壁部35と同様に、撥液剤を含まない第1隔壁部34上に撥液層を転写法により形成してもよい。さらに熱処理の工程を減らすことができる。
【0101】
(実施例4)
図12は実施例4の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。なお、隔壁部の構成が重要なので他の実施例と同じである共通電極27や機能層24の図示を省略している。
【0102】
図12に示すように、実施例4の有機EL素子20Dは、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36Fを有している。
【0103】
隔壁部36Fは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物43と、構造物43を挟んで内側と外側とに設けられ、構造物43の高さよりも低い第1隔壁部34dとにより構成されている。構造物43の上面には撥液層43aが設けられ、第1隔壁部34dの上面には撥液層34eが設けられている。
隔壁部36Fの側壁において、構造物43と第1隔壁部34dとにより段差部36Faが構成されている。
【0104】
撥液層43aおよび撥液層34eは、実施例3に示した転写法により形成されている。構造物43と第1隔壁部34dとの高さの差、つまり段差部36Faの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層43aと撥液層34eとを形成することができる。
また、転写法を用いて第1隔壁部34dの上面に撥液層34eを形成すると、該上面の構造物43の側壁43bに近い側には転写され難い。つまり、段差部36Faの側壁43b寄りに撥液層34eがない撥液性が低い部分が形成される。
【0105】
また、段差部36Faを越えた部分の構造物43の側壁43bは、主に無機材料を用いて構造物43が形成されているため、液状体80,90に対して親液性を示す。
したがって、隔壁部36Fによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Faが目安となり、段差部36Faを挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0106】
実施例4によれば、実施例2に比べて第2隔壁部35を形成しなくてもよいので、構成ならびに形成方法が簡略化された隔壁部36Fを提供できる。
【0107】
(実施例5)
図13は実施例5の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。なお、隔壁部の構成が重要なので他の実施例と同じである共通電極27や機能層24の図示を省略している。
【0108】
図13に示すように、実施例5の有機EL素子20Eは、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36Gを有している。
【0109】
隔壁部36Gは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物44と、構造物44上に設けられ、構造物44よりも幅が狭い第2隔壁部35とにより構成されている。隔壁部36Gの側壁において、構造物44と第2隔壁部35とにより段差部36Gaが構成されている。
【0110】
段差部36Gaの上面に撥液層44aが設けられ、第2隔壁部35の上面に撥液層35eが設けられている。撥液層44aおよび撥液層35eは、実施例3に示した転写法により形成されている。構造物44上における第2隔壁部35の高さ、つまり段差部36Gaの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層44aと撥液層35eとを形成することができる。
構造物44は、前述したように主に無機材料が用いられており、その側壁44bは親液性を示す。
また、転写法を用いて構造物44の上面に撥液層44aを形成すると、第2隔壁部35の側壁35bに近い側には転写され難い。つまり、段差部36Gaの側壁35b寄りに撥液層44aがない親液性を有する部分が露出する。
【0111】
したがって、隔壁部36Gによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Gaが目安となり、段差部36Gaを挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0112】
実施例5によれば、実施例2に比べて第1隔壁部34cを形成しなくてもよいので、構成ならびに形成方法が簡略化された隔壁部36Gを提供できる。
【0113】
(実施例6)
図14は実施例6の有機EL素子の構造を示す概略断面図である。なお、隔壁部の構成が重要なので他の実施例と同じである共通電極27や機能層24の図示を省略している。
【0114】
図14に示すように、実施例6の有機EL素子20Fは、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36Hを有している。
【0115】
隔壁部36Hは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物45と、構造物45を挟んで内側と外側とに設けられ、構造物45の高さよりも低い第1隔壁部34dと、構造物45上に設けられ、構造物45よりも幅がわずかに狭い第2隔壁部35により構成されている。第1隔壁部34dの上面には撥液層34eが設けられ、第2隔壁部35の上面には撥液層35eが設けられている。
隔壁部36Hの側壁において、第1隔壁部34dと構造物45と第2隔壁部35とにより段差部36Haが構成されている。
【0116】
撥液層34eおよび撥液層35eは、実施例3に示した転写法により形成されている。第1隔壁部34dの上面と第2隔壁部35の上面との高さの差、つまり段差部36Haの段差がμmオーダーなので、1回の転写によって撥液層34eと撥液層35eとを形成することができる。
また、転写法を用いて第1隔壁部34dの上面に撥液層34eを形成すると、該上面の構造物45の側壁に近い側には転写され難い。つまり、段差部36Haの構造物45寄りに撥液層34eがない撥液性が低い部分が形成される。
【0117】
また、段差部36Haを越えた部分の構造物45は、主に無機材料を用いて形成されているため、液状体80,90に対して親液性を示す。
したがって、隔壁部36Hによって区画された膜形成領域Aに液状体70,80,90を充填する際に、段差部36Haが目安となり、段差部36Haを挟んだ下方側と上方側とに成膜後の断面形状が安定した異種の有機薄膜(正孔注入層24h、中間層24m、発光層24L)が得られる。
【0118】
実施例6によれば、段差部36Haにおいて親液性を有する2段の段差を形成することができる。
【0119】
(実施例7)
図15(a)は実施例7の有機EL素子の構造を示す概略断面図、同図(b)および(c)は実施例7の有機EL素子の製造方法を説明する概略断面図である。なお、図15(a)では他の実施例と同じである共通電極27や機能層24の図示を省略している。
【0120】
図15(a)に示すように、実施例7の有機EL素子20Hは、素子基板1上に設けられた画素電極23を区画する隔壁部36Kを有している。
【0121】
隔壁部36Kは、素子基板1上において画素電極23の周囲に設けられた構造物46を立体的に内包している。その頭頂部の幅は構造物46の幅とほぼ等しく、頭頂部から素子基板1に至る側壁には、素子基板1の表面とほぼ平行で平らな上面36pを有する段差部36Kaが設けられている。段差部36Kaを挟んで上下に傾斜した側壁36n,36qが設けられている。頭頂部と段差部36Kaの上面とには、撥液層36mが設けられている。
【0122】
このような隔壁部36Kの形成方法としては、画素電極23や構造物46が形成された素子基板1の表面を感光性樹脂材料で覆って塗布膜を形成する。塗布膜を露光・現像して構造物46を内包する隔壁部36Kを形成する。隔壁部36Kの側面に段差部36Kaや傾斜した側壁36n,36qを形成する方法としては、当該部分に対応して露光量を変化させる方法が挙げられる。例えば、ポジ型の感光性樹脂材料を用いた塗布膜であれば、塗布膜を完全に残したい部分はフォトマスクにおいて遮光する。現像により塗布膜を初期の膜厚より減膜させて残したい部分は光の透過率が減少するようにフォトマスクを形成しておく。
【0123】
上記のようにして形成された隔壁部36Kの頭頂部と段差部36Kaの上面とに、実施例3で示した転写法を用いて撥液層36mを形成する。
【0124】
さらに、隔壁部36Kが形成された素子基板1を酸素を処理ガスとするプラズマ処理などの表面処理を施せば、側壁36n,36qに親液性を付与することも可能である。
【0125】
そして、図15(b)に示すように、隔壁部36Kにより区画された膜形成領域Aに液状体70を塗布する。液状体70は段差部36Kaを越えず、且つ側壁36qにより区画された膜形成領域Aにむらなく行き渡るように充填する。段差部36Kaの上面には撥液層36mが形成されているので、液状体70は段差部36Kaを越え難い。塗布された液状体70を乾燥し熱処理することで、図15(c)に示すように側壁36qの部分でピニングされ、断面形状が安定した正孔注入層24hが得られる。
【0126】
次に、図15(c)に示すように、隔壁部36Kにより区画された膜形成領域Aに液状体80を塗布する。液状体80は段差部36Kaを越え、且つ側壁36nにより区画された膜形成領域Aにむらなく行き渡るように充填する。隔壁部36Kの頭頂部には撥液層36mが形成されているので、液状体80は頭頂部を越え難い。塗布された液状体80を乾燥し熱処理することで、側壁36nの部分でピニングされ、断面形状が安定した中間層24mが得られる。
液状体90を膜形成領域Aに塗布して発光層24Lを形成する場合にも、液状体80と同様に塗布すれば、側壁36nの部分でピニングされ、断面形状が安定した発光層24Lが得られる。
【0127】
実施例7によれば、隔壁部36Kを第1隔壁部34や第2隔壁部35に分けて形成せず、一度のフォトリソ(露光・現像)工程で形成できるので、生産性を向上させることができる。
【0128】
上記実施例1〜上記実施例7によれば、いずれも膜形成領域Aを区画する隔壁部の側壁に設けられた段差部を目安として、異なる有機薄膜のピニング位置をそれぞれ安定させ、断面形状が安定した機能層24を得ることができる。
【0129】
また、上記実施例1〜上記実施例7のうち、隔壁部に対する撥液性の付与方法が共通する例えば実施例4〜実施例7の中から組み合わせて適用してもよい。
【0130】
上記実施例1〜上記実施例7は、いずれも段差部を有する隔壁部によって画素電極23が平面的に含まれる膜形成領域Aを区画したが、これに限定されるものではない。図16および図17(a)および(b)は隔壁部の配置について説明する概略平面図である。
【0131】
図16に示すように、機能層24が設けられる膜形成領域Aが略矩形状である場合、例えば実施例1の隔壁部36における段差部36aは、膜形成領域Aの短辺側(短手側)に沿って設けてもよい。つまり、膜形成領域Aの長辺側(長手側)に沿うB−B’線で切った断面図が図4に相当する。膜形成領域Aの短辺側(短手側)に沿うC−C’線で切った断面図では、段差部36aがない構造となる。
【0132】
膜形成領域Aが平面的に略矩形状であるとき、膜形成領域Aに液状体を充填してゆくと、長辺側から先に溢れてしまう。また、短辺側に液状体を濡れ広がらせることが難しく塗布むらが生じ易い。したがって、短辺側に沿って液状体を確実に充填するのが難しいので、短辺側に沿った隔壁部36に段差部36aを設けて充填の目安とすることが、ピニング位置を安定させて断面形状が安定した有機薄膜を形成することに繋がる。
膜形成領域Aが短手や長手方向を特定し難い例えば平面的に円形であるならば、円周に沿って段差部36aを有する隔壁部36を形成することが望ましい。
【0133】
また、実施例1では1つの膜形成領域Aを隔壁部36によって区画したが、これに限定されない。例えば、図17(a)および(b)に示すように、第1隔壁部34によって個々の有機EL素子20が設けられる領域を区画し、同じ発光色が得られる複数の有機EL素子20を含むように第2隔壁部35を第1隔壁部34上に設けてもよい。
【0134】
異なる発光色の有機EL素子20R,20G,20Bに共通する正孔注入層24hは、第1隔壁部34で区画された領域に液状体70を塗布して形成する。正孔注入層24h上に積層される中間層24mや発光層24Lは、第2隔壁部35により区画された領域に液状体80,90を塗布して形成する。このようにすれば、液状体80,90が塗布される領域が拡張されるので、同色の有機EL素子20に亘ってより安定した断面形状の中間層24mや発光層24Lを含む機能層24を得ることができる。
【0135】
(第2実施形態)
<電子機器>
次に本実施形態の電子機器について、図18を参照して説明する。図18(a)は電子機器の一例としての携帯型電話機を示す図、同図(b)は電子機器の一例としての薄型テレビを示す図である。
【0136】
図18(a)に示すように、本実施形態の電子機器としての携帯型電話機500は、操作ボタン503を備えた本体502と、本体502にヒンジを介して折畳式に取り付けられた表示部501とを備えている。
表示部501には、上記第1実施形態の有機EL装置10が搭載されている。
したがって、機能層24における異種の有機薄膜が安定した断面形状で形成されている有機EL素子20を有しているので、発光寿命が長く見栄えのよい携帯型電話機500を提供することができる。
【0137】
図18(b)に示すように、本実施形態の他の電子機器としての薄型テレビ1000は、表示部1001に上記第1実施形態の有機EL装置10が搭載されている。
したがって、優れた耐久寿命と美しいフルカラー表示が可能な薄型テレビ1000を提供することができる。
【0138】
なお、有機EL装置10が搭載される電子機器は、携帯型電話機500や薄型テレビ1000に限定されず、例えば、パーソナルコンピューターや携帯型情報端末、ナビゲーター、ビューワーなどの表示部を有する電子機器が挙げられる。
【0139】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0140】
(変形例1)上記第1実施形態において、有機EL素子20は、陽極としての画素電極23と陰極としての共通電極27との間に設けられ、発光層24Lを含む異種の有機薄膜が積層された機能層24を有する構成としたが、これに限定されない。例えば、陰極である共通電極27と発光層24Lとの間に正孔ブロック層、電子輸送層を蒸着法により積層してもよい。正孔ブロック層としては、BAlq、BCPなどが挙げられ、電子輸送層としてはAlq3などが挙げられる。正孔ブロック層は、発光層24Lから正孔が漏れることを抑制する機能を有する。電子輸送層は、発光層24Lに対する電子の輸送性(注入性)を向上させる機能を有する。言い換えれば、陽極と陰極との間に配置されたものを機能層とするならば、機能層は異種の有機薄膜からなるものに限定されず、有機薄膜と無機薄膜とを組み合わせて積層されたものでもよい。
【0141】
(変形例2)上記第1実施形態において、有機EL素子20はボトムエミッション型であることに限定されない。例えば、画素電極23と共通電極27とをそれぞれ透明性を有するようにITOなどを用いて形成する。好ましくは、さらに素子基板1において画素電極23の下層に反射層を設ける。これにより、機能層24における発光が反射層で反射し、共通電極27側から射出するトップエミッション型としてもよい。
【0142】
(変形例3)上記第1実施形態の例えば実施例1において、隔壁部36の側壁に設けられる段差部36aは1段だけに限定されない。機能層24における異種の有機薄膜の構成に応じて、複数の段差部36aを設けてもよい。
【0143】
(変形例4)上記第1実施形態の実施例3では、第1隔壁部34上に形成された第2隔壁部35の上面に転写法により撥液層35eを形成したが、第2隔壁部35と撥液層35eとの積層体を形成する方法は、これに限定されない。例えば、図11(b)に示した転写部材として基材の表面に対して撥液層、感光性樹脂層が順に形成されたものを用いる。これを第1隔壁部34を覆うように転写した後に、露光・現像して第2隔壁部35と撥液層35eとの積層体を形成してもよい。この方法は、上面34aに撥液性が付与された第1隔壁部34を形成する方法としても採用できる。
【符号の説明】
【0144】
1…基板としての素子基板、10…有機EL装置、20…有機EL素子、23…陽極としての画素電極、24…機能層、24h…正孔注入層、24m…中間層、24L…発光層、27…陰極としての共通電極、34…第1隔壁部、34a…第1隔壁部の上面、34e…撥液層、34P…塗布膜、35…第2隔壁部、35a…第2隔壁部の上面または隔壁部の最上面あるいは頭頂部、35e…撥液層、35P…塗布膜、36…隔壁部、36a…段差部、40…構造物、70,80,90…液状体、500…電子機器としての携帯型電話機、1000…電子機器としての薄型テレビ、A…膜形成領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記機能層を区画する隔壁部とを備えた有機EL素子であって、
前記有機薄膜は、前記隔壁部によって区画された膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を塗布し乾燥することにより形成され、
前記隔壁部は、前記隔壁部の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部を有し、
前記隔壁部の最上面と前記段差部の上面とに撥液性が付与され、
前記段差部を除く前記側壁の表面は、前記段差部の上面に比べて親液性を有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記段差部の上面は、前記隔壁部の最上面に比べて低い撥液性を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記隔壁部は、第1隔壁部と、前記第1隔壁部上に設けられ、前記第1隔壁部よりも幅狭に設けられた第2隔壁部とを有し、
前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられた第1隔壁部と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、
前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられ、高さが前記構造物よりも低い第1隔壁部とを有し、
前記構造物と前記第1隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記構造物の上面と、前記第1隔壁部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、
前記構造物と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記第2隔壁部の上面と、露出した前記構造物の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられ、高さが前記構造物よりも低い第1隔壁部と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、
前記構造物と前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物を内包すると共に、前記隔壁部の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部を有し、
前記隔壁部の最上面と前記段差部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項9】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層を備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記陽極を区画すると共に上面が撥液性を有するように第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、
上面が撥液性を有すると共に前記第1隔壁部よりも狭い幅の第2隔壁部を前記第1隔壁部上に形成する第2隔壁部形成工程と、
前記第1隔壁部および前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1隔壁部形成工程および前記第2隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理する工程と、
熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部、前記第2隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1隔壁部形成工程は、前記第2隔壁部形成工程に比べて前記塗布膜に含まれる撥液剤の量を少なくして前記第1隔壁部を形成することを特徴とする請求項10に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2隔壁部形成工程は、感光性樹脂材料を用いて前記第2隔壁部を前記第1隔壁部上にパターニング形成する工程と、前記第2隔壁部の上面に撥液層を転写する工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1隔壁部形成工程は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物を挟んだ内側と外側とに前記第1隔壁部を形成し、
前記第2隔壁部形成工程は、前記構造物上に前記第2隔壁部を形成することを特徴とする請求項9乃至12のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項14】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記構造物を挟んだ内側と外側とに前記構造物よりも高さが低い第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、
前記第1隔壁部の上面と前記構造物の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、
前記第1隔壁部および前記構造物からなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項15】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記構造物上に第2隔壁部を形成する第2隔壁部形成工程と、
前記第2隔壁部の上面と前記構造物の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、
前記構造物と前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項16】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記構造物を挟んだ内側と外側とに前記構造物よりも高さが低い第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、
前記構造物上に第2隔壁部を形成する第2隔壁部形成工程と、
前記第1隔壁部の上面と前記第2隔壁部の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、
前記第1隔壁部と前記構造物と前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項17】
前記撥液性付与工程は、撥液性を付与する前記上面に撥液層を転写することを特徴とする請求項14乃至16のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項18】
前記第1隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理する工程と、
熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項14または請求項16に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項19】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周側に設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記陽極を区画すると共に、前記構造物を立体的に内包して前記構造物よりも高さが高い頭頂部と前記頭頂部との間の側壁に段差部とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、
前記隔壁部の前記頭頂部と前記段差部の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、
前記隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項20】
前記撥液性付与工程は、前記隔壁部の前記頭頂部と前記段差部の上面とに撥液層を転写することを特徴とする請求項19に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項21】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL素子、または請求項9乃至20のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法を用いて製造された有機EL素子を備えたことを特徴とする有機EL装置。
【請求項22】
請求項21に記載の有機EL装置を搭載したことを特徴とする電子機器。
【請求項1】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記機能層を区画する隔壁部とを備えた有機EL素子であって、
前記有機薄膜は、前記隔壁部によって区画された膜形成領域に機能層形成材料を含む液状体を塗布し乾燥することにより形成され、
前記隔壁部は、前記隔壁部の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部を有し、
前記隔壁部の最上面と前記段差部の上面とに撥液性が付与され、
前記段差部を除く前記側壁の表面は、前記段差部の上面に比べて親液性を有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記段差部の上面は、前記隔壁部の最上面に比べて低い撥液性を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記隔壁部は、第1隔壁部と、前記第1隔壁部上に設けられ、前記第1隔壁部よりも幅狭に設けられた第2隔壁部とを有し、
前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられた第1隔壁部と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、
前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられ、高さが前記構造物よりも低い第1隔壁部とを有し、
前記構造物と前記第1隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記構造物の上面と、前記第1隔壁部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、
前記構造物と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記第2隔壁部の上面と、露出した前記構造物の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物と、前記構造物を挟んだ内側と外側とに設けられ、高さが前記構造物よりも低い第1隔壁部と、前記構造物上に設けられた第2隔壁部とを有し、
前記構造物と前記第1隔壁部と前記第2隔壁部とにより前記段差部が構成され、
前記第1隔壁部の上面と、前記第2隔壁部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記隔壁部は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物を内包すると共に、前記隔壁部の厚み方向において側壁に設けられた少なくとも1段の段差部を有し、
前記隔壁部の最上面と前記段差部の上面とに撥液性が付与されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項9】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層を備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記陽極を区画すると共に上面が撥液性を有するように第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、
上面が撥液性を有すると共に前記第1隔壁部よりも狭い幅の第2隔壁部を前記第1隔壁部上に形成する第2隔壁部形成工程と、
前記第1隔壁部および前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1隔壁部形成工程および前記第2隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理する工程と、
熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部、前記第2隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1隔壁部形成工程は、前記第2隔壁部形成工程に比べて前記塗布膜に含まれる撥液剤の量を少なくして前記第1隔壁部を形成することを特徴とする請求項10に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2隔壁部形成工程は、感光性樹脂材料を用いて前記第2隔壁部を前記第1隔壁部上にパターニング形成する工程と、前記第2隔壁部の上面に撥液層を転写する工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1隔壁部形成工程は、前記基板上において前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物を挟んだ内側と外側とに前記第1隔壁部を形成し、
前記第2隔壁部形成工程は、前記構造物上に前記第2隔壁部を形成することを特徴とする請求項9乃至12のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項14】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記構造物を挟んだ内側と外側とに前記構造物よりも高さが低い第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、
前記第1隔壁部の上面と前記構造物の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、
前記第1隔壁部および前記構造物からなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項15】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記構造物上に第2隔壁部を形成する第2隔壁部形成工程と、
前記第2隔壁部の上面と前記構造物の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、
前記構造物と前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項16】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周を囲むように設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記構造物を挟んだ内側と外側とに前記構造物よりも高さが低い第1隔壁部を形成する第1隔壁部形成工程と、
前記構造物上に第2隔壁部を形成する第2隔壁部形成工程と、
前記第1隔壁部の上面と前記第2隔壁部の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、
前記第1隔壁部と前記構造物と前記第2隔壁部とからなる隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項17】
前記撥液性付与工程は、撥液性を付与する前記上面に撥液層を転写することを特徴とする請求項14乃至16のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項18】
前記第1隔壁部形成工程は、撥液剤を含有した感光性樹脂材料を用いて前記基板上に塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理する工程と、
熱処理された前記塗布膜をパターニングして前記第1隔壁部を形成する工程とを含むことを特徴とする請求項14または請求項16に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項19】
基板上において陽極と陰極との間に配置され、発光層を含む異種の有機薄膜が積層された機能層と、前記陽極の外周側に設けられた構造物とを備えた有機EL素子の製造方法であって、
前記陽極を区画すると共に、前記構造物を立体的に内包して前記構造物よりも高さが高い頭頂部と前記頭頂部との間の側壁に段差部とを有する隔壁部を形成する隔壁部形成工程と、
前記隔壁部の前記頭頂部と前記段差部の上面とに撥液性を付与する撥液性付与工程と、
前記隔壁部によって区画された膜形成領域に、機能層形成材料を含む液状体を塗布して乾燥することにより前記有機薄膜を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に前記陰極を形成する陰極形成工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項20】
前記撥液性付与工程は、前記隔壁部の前記頭頂部と前記段差部の上面とに撥液層を転写することを特徴とする請求項19に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項21】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機EL素子、または請求項9乃至20のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法を用いて製造された有機EL素子を備えたことを特徴とする有機EL装置。
【請求項22】
請求項21に記載の有機EL装置を搭載したことを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−103222(P2011−103222A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257715(P2009−257715)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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