説明

有機EL素子、有機EL素子製造方法

【課題】スパッタリング法により電荷注入層の表面に電極層を形成しても、発光効率が低下しない技術を提供する。
【解決手段】本発明の有機EL素子60は、基板21を有し、当該基板21上には第一の電極層22と、第一の発光部61と、中間電極層30と、第二の発光部62と、第二の電極層23とを有している。電圧を印加し、第一、第二の発光部61、62を発光させると、外部で両方の光が合わされた強い放射光が観察される。第一、第二の発光部61、62は、母材有機材料70と電荷注入性金属材料71とが混合された薄膜からなる第二、第四の電荷注入層28、29を有している。この第二、第四の電荷注入層28、29の表面に、中間電極層30や第二の電極層23をスパッタリングにより形成しても、発光効率は低下しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL素子の技術分野に係り、特に電荷注入層の表面に電極層を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の有機EL素子としては、図6の符号101ようなものが知られている。
この有機EL素子101は、基板102上に、第一の電極層103と、第一の発光部120と、中間電極層111と、第二の発光部121と、第二の電極層104とが積層されている。
【0003】
第一、第二の発光部120、121は、第一、第二の電荷輸送発光層105、106を有しており、第一、第二の電荷輸送発光層105、106の基板102側の表面には第一、第二の正孔注入層107、108がそれぞれ配置され、反対側の表面には第一、第二の電子注入層109、110がそれぞれ配置されている。
中間電極層111は、異なる極性の第一の電子注入層109と第二の正孔注入層108を離間させ、第一の電子注入層109と第二の正孔注入層108とを電気的に接続させている。
【0004】
第一の電極層103と第二の電極層104の間に電圧を印加すると、第一の電極層103に接触する第一の正孔注入層107と中間電極層111に接続された第一の電子注入層109の間、第二の電極層104に接触する第二の電子注入層110と中間電極層111に接続された第二の正孔注入層108の間に電圧が印加され、第一、第二の正孔注入層107、108から第一、第二の電荷輸送発光層105、106に正孔が注入され、第一、第二の電子注入層109、110から第一、第二の電荷輸送発光層105、106に電子が注入される。注入された正孔と電子は、第一、第二の電荷輸送発光層105、106内でそれぞれ再結合し、発光する。
【0005】
ここでは、基板102は透明であり、基板102上の第一の電極層103と、第二の電荷輸送発光層106と、その間の各層107、105、109、111、108は透明であり、第一の電荷輸送発光層105で放射された光は、第一の電荷輸送発光層105から、第一の正孔注入層107と、第一の電極層103とを透過して基板102の外部に放射される。第二の電荷輸送発光層106で放射された光は、第二の電荷輸送発光層106から基板102の間の各層108、111、109、105、107を透過して、基板102の外部に放射される。第二の電荷輸送発光層106からの光は第一の電荷輸送発光層105からの光と同じ側に放射され、有機EL素子101の外側であって基板102側の位置では両方の光が合わされた強い放射光が観察される。
【0006】
第一の電子注入層109の表面に中間電極層111のような金属からなる薄膜を形成する方法としては、スパッタリング法がある。
第一の電子注入層109は、電子注入性を有する金属化合物からなる薄膜であり、第一の電荷輸送発光層105は有機化合物からなる薄膜で構成されており、金属ターゲットをスパッタリングして金属からなる中間電極層111を、有機化合物の薄膜である第一の電子注入層109の表面に成膜すると、蒸着法で成膜したときよりも発光効率が低下することが知られている。
【0007】
このような理由から、第一の電子注入層109の表面に中間電極層111を形成する際には、蒸着法が用いられている。
しかし、蒸着法では成膜速度が遅い等の問題があり、蒸着法と遜色ない発光効率を維持したまま、中間電極層111をスパッタリング法で形成できる技術が求められている。
【特許文献1】特開2004−79538号公報
【特許文献2】特開2006−302506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために創作されてものであり、その目的は、スパッタリング法により電荷注入層の表面に電極層を形成しても発光効率が低下しない技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために研究したところ、本発明の発明者は、従来技術の有機EL素子では、第一の電子注入層と第一の電荷輸送発光層の界面では材料の組成変化が急峻である点に起因する、と予想した。
即ち、発光効率が低下するのは、電荷注入層と電荷輸送発光層の界面が、電極層の形成の際に、スパッタリング粒子が入射する影響で、電極層を形成する前の界面の状態に対して大きく変化し、その結果、電荷注入層から電荷輸送発光層への電荷の注入効率が低下することが原因であると予想した。
【0010】
そこで、発光効率を低下させないためには、スパッタリングによって電極層を形成する際に、電荷注入層が電荷輸送発光層の表面に形成されたときの状態が維持されるようにすればよい。
【0011】
本発明は、上記観点から創作されたものであり、基板と、前記基板上に配置された第一の電荷注入層と、前記第一の電荷注入層の表面に配置された第一の電荷輸送発光層と、前記第一の電荷輸送発光層の表面に配置された第二の電荷注入層と、前記第二の電荷注入層上に配置された第三の電荷注入層と、前記第三の電荷注入層の表面に配置された第二の電荷輸送発光層と、前記第二の電荷輸送発光層の表面に配置された第四の電荷注入層とを有し、前記第一、第三の電荷注入層は、同極性であって、正孔と電子のうちいずれか一方の電荷を注入する材料からなる薄膜で構成され、前記第二、第四の電荷注入層は、同極性であって、正孔と電子のうち前記第一、第三の電荷注入層とは反対の極性の電荷を注入する材料からなる薄膜で構成され、前記第一の電荷輸送発光層には前記第一、第二の電荷注入層から正孔と電子が注入され、前記第二の電荷輸送発光層には前記第三、第四の電荷注入層から正孔と電子が注入され、正孔と電子は前記第一、第二の電荷輸送発光層内でそれぞれ再結合し、前記第一、第二の電荷輸送発光層がそれぞれ発光し、放射光が外部で観察される有機EL素子であって、前記第二の電荷注入層は、正孔又は電子を前記第一の電荷輸送発光層に注入する電荷注入性金属材料と、前記電荷注入性金属が注入する極性の電荷を輸送する母材有機材料とが混合された薄膜で構成された有機EL素子である。
また、本発明は、前記第二の電荷注入層の前記電荷注入性金属材料はリチウムである有機EL素子である。
また、本発明は、前記第二の電荷注入層の前記母材有機材料は、前記第一の電荷輸送発光層のうち、少なくとも前記第二の電荷注入層と接触する部分に含まれている有機EL素子である。
また、本発明は、前記母材有機材料はAlq3である有機EL素子である。
また、本発明は、前記第二の電荷注入層は、前記母材有機材料の蒸気と、前記電荷注入性金属材料の蒸気とが、成膜対象物の表面に一緒に到達し、形成された有機EL素子である。
また、本発明は、前記第二の電荷注入層の表面に、金属ターゲットをスパッタリングし、形成された金属からなる薄膜で構成された透明な中間電極層を有する有機EL素子である。
また、本発明は、基板と、前記基板上に配置された第一の電荷注入層と、前記第一の電荷注入層の表面に配置された第一の電荷輸送発光層と、前記第一の電荷輸送発光層の表面に配置された第二の電荷注入層と、前記第二の電荷注入層上に配置された第三の電荷注入層と、前記第三の電荷注入層の表面に配置された第二の電荷輸送発光層と、前記第二の電荷輸送発光層の表面に配置された第四の電荷注入層とを有し、前記第一、第三の電荷注入層は、同極性であって、正孔と電子のうちいずれか一方の電荷を注入する材料からなる薄膜で構成され、前記第二、第四の電荷注入層は、同極性であって、正孔と電子のうち前記第一、第三の電荷注入層とは反対の極性の電荷を注入する材料からなる薄膜で構成され、前記第一の電荷輸送発光層には前記第一、第二の電荷注入層から正孔と電子が注入され、前記第二の電荷輸送発光層には前記第三、第四の電荷注入層から正孔と電子が注入され、正孔と電子は前記第一、第二の電荷輸送発光層内でそれぞれ再結合し、前記第一、第二の電荷輸送発光層がそれぞれ発光し、放射光が外部で観察される有機EL素子を形成する有機EL素子製造方法であって、真空槽内に前記第一の電荷輸送発光層が露出された成膜対象物を配置し、前記真空槽内には第一、第二の蒸発源が配置され、前記第一の蒸発源と前記第二の蒸発源には、母材有機材料と電荷注入性金属材料が別々に配置され、真空雰囲気で、前記母材有機材料と、前記電荷注入性金属材料とを加熱し、前記母材有機材料の蒸気と、前記電荷注入性金属材料の蒸気とを前記真空槽内にそれぞれ放出させ、前記第一の電荷輸送発光層上に、前記母材有機材料の蒸気と、前記電荷注入性金属材料の蒸気とを一緒に到達させ、前記母材有機材料と前記電荷注入性金属材料とが混合された薄膜からなる前記第二の電荷注入層を形成する有機EL素子製造方法である。
また、本発明は、前記第二の電荷注入層の表面に、金属ターゲットをスパッタリングして、金属からなる薄膜で構成された中間電極層を形成する請求項7記載の有機EL素子製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
スパッタリング法によって電荷注入層の表面に電極層を形成しても、発光効率は低下しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図5(h)は、本発明の有機EL素子60の断面図である。
この有機EL素子60は、板状の基板21を有しており、当該基板21の上には、第一の電極層22が設けられている。第一の電極層22上には第一の発光部61が配置されており、第一の発光部61上には中間電極層30が配置されており、中間電極層30上には第二の発光部62が配置されており、第二の発光部62上には第二の電極層23が配置されている。
【0014】
第一、第二の発光部61、62は、第一、第二の電荷輸送発光層24、25を有しており、第一、第二の電荷輸送発光層24、25の基板21側の表面には第一、第三の電荷注入層26、27がそれぞれ配置され、反対側の表面には第二、第四の電荷注入層28、29がそれぞれ配置されている。
【0015】
第三の電荷注入層27の基板21側の表面にはさらに第一の補助電荷注入層37が密着されている。また、第一の発光部61では第二の電荷注入層28が中間電極層30に密着されており、第二の発光部62では第一の補助電荷注入層37が中間電極層30に密着されている。
【0016】
第一、第三の電荷注入層26、27は、互いに同極性であって、正孔と電子のどちらか一方の電荷を接触する第一、第二の電荷輸送発光層24、25に注入できる物質を含有しており、第二、第四の電荷注入層28、29は、互いに同極性であって、第一、第三の電荷注入層26、27とは逆の極性の電荷を接触する第一、第二の電荷輸送発光層24、25に注入する物質を含有している。
【0017】
従って、第一、第三の電荷注入層26、27が正孔を注入可能な物質を含有している場合は、第二、第四の電荷注入層28、29が電子を注入可能な物質を含有する。このとき、第一、第三の電荷注入層26、27に正電圧が印加され、第二、第四の電荷注入層28、29に負電圧が印加されたときに、第一〜第四の電荷注入層26〜29が接触する第一、第二の電荷輸送発光層24、25に第一、第三の電荷注入層26、27から正孔が注入され、第二、第四の電荷注入層28、29から電子が注入される。
【0018】
また、第一、第三の電荷注入層26、27が電子を注入可能な物質を含有する場合は、第二、第四の電荷注入層28、29が正孔を注入可能な物質を含有し、第一、第三の電荷注入層26、27に負電圧が印加され、第二、第四の電荷注入層28、29に正電圧が印加されたときに、第一〜第四の電荷注入層26〜29が接触する第一、第二の電荷輸送発光層24、25に第一、第三の電荷注入層26、27から電子が注入され、第二、第四の電荷注入層28、29から正孔が注入される。
【0019】
第一の補助電荷注入層37は、第三の電荷注入層27が第二の電荷輸送発光層25に注入する電荷と同じ極性の電荷を注入可能な金属を含有し、第三の電荷注入層27と同極性の電圧が印加され、第三の電荷注入層27に電荷を注入し、第三の電荷注入層27から第二の電荷輸送発光層25への電荷の注入量を増加させている。
第一の補助電荷注入層37は、上述したように、第三の電荷注入層27と密着している。
【0020】
第二の電荷注入層28が第一の電荷輸送発光層24に電子を注入可能な物質を含有し、第三の電荷注入層27が第二の電荷輸送発光層25に正孔を注入可能な物質を含有する場合は、第一の補助電荷注入層37を構成する物質の仕事関数は、中間電極層30を構成する物質の仕事関数よりも大きい。
【0021】
また、第二の電荷注入層28が第一の電荷輸送発光層24に正孔を注入可能な物質を含有し、第三の電荷注入層27が第二の電荷輸送発光層25に電子を注入可能な物質を含有する場合は、第一の補助電荷注入層37を構成する物質の仕事関数は、中間電極層30を構成する物質の仕事関数よりも小さい。
中間電極層30の第一の補助電荷注入層37が形成される面とは反対側の面に、後述する第二の補助電荷注入層を形成してもよい。
【0022】
第二の補助電荷注入層を構成する物質と中間電極層30を構成する物質との仕事関数の大小関係は、第一の補助電荷注入層37を構成する物質と中間電極層30を構成する物質との仕事関数の大小関係と逆である。
【0023】
中間電極層30は、金属材料からなる薄膜で構成されており、異なる極性の第二の電荷注入層28と第一の補助電荷注入層37とを離間させ、第二の電荷注入層28と第三の電荷注入層27とを第一の補助電荷注入層37を介して電気的に接続させている。
【0024】
第一の電極層22と、第二の電極層23を電源63に接続し、第一の電極層22と第二の電極層23の間に電圧を印加すると、第一の電極層22と接触する第一の電荷注入層26と中間電極層30に接続された第二の電荷注入層28の間、及び、第二の電極層23と接触する第四の電荷注入層29と中間電極層30に接続された第三の電荷注入層27の間に電圧が印加される。
【0025】
各電荷注入層26〜29に印加される電圧は、各電荷注入層26〜29に含有される物質が第一、第二の電荷輸送発光層24、25に注入可能な電荷を注入させる極性であり、注入された電荷は、第一、第二の電荷輸送発光層24、25内部でそれぞれ再結合し、発光するように構成されている。
【0026】
第一、第二の電荷輸送発光層24、25は、第一、第二の発光層31、32を有しており、第一、第二の発光層31、32の基板21側の表面には第一、第三の電荷輸送層33、34がそれぞれ配置され、反対側の面には第二、第四の電荷輸送層35、36がそれぞれ配置されて、構成されている。
【0027】
第一、第二の電荷輸送発光層24、25内では、注入された電荷は、第一〜第四の電荷輸送層33〜36内を輸送されて、第一、第二の発光層31、32にそれぞれ輸送され、第一、第二の発光層31、32にそれぞれ到達すると内部でそれぞれ再結合し、発光する。
【0028】
ここでは、基板21はガラス基板であり、基板21上の第一の電極層22と、第二の電荷輸送発光層25と、その間の各層24、26〜28、30、37は透明であり、第一の電荷輸送発光層24で放射された光は、第一の電荷輸送発光層24から、第一の電荷注入層26と、第一の電極層22とを透過して基板21の外部に放射される。第二の電荷輸送発光層25で放射された光は、第二の電荷輸送発光層25から基板21の間の各層27、37、30、28、24、26、22を透過して、基板21の外部に放射される。第二の電荷輸送発光層25からの光は第一の電荷輸送発光層24からの光と同じ側に放射され、有機EL素子60の外側であって基板21側の位置では両方の光が合わされた強い放射光が観察される。
【0029】
本発明では、後述するように、第二、第四の電荷注入層28、29は、母材有機材料70と電荷注入性金属材料71が混合された薄膜で構成されている。電荷注入性金属材料71は電荷注入性を有しており、母材有機材料70は電荷注入性金属材料71が注入する電荷と同じ極性の電荷を輸送する有機材料である。
【0030】
図1の符号1は、本発明の有機EL素子60の製造装置を示している。
この製造装置1は搬送室2を有しており、搬送室2には、搬出室3と、搬入室4と、第一、第二の蒸着装置5、6、スパッタ装置7とがそれぞれ接続されている。
搬送室2内には基板搬送ロボット9が配置されており、各室2〜7間で基板の搬入、搬出ができるように構成されている。
【0031】
図3(a)に示す成膜対象物20は、基板21を有しており、基板21の表面には第一の電極層22が形成されている。成膜対象物20は、予め、複数枚、搬入室4に配置されている。
各室2〜7は大気から遮断され、真空排気されている。
【0032】
以下に、図を参照にして、本発明の有機EL素子60の形成工程を説明する。
成膜対象物20を搬入室4から第一の蒸着装置5内に移動する。第一の蒸着装置5内には、第一の電荷注入層26と、第一の電荷輸送層33と、第一の発光層31と、第二の電荷輸送層35とを構成する有機化合物がそれぞれ配置された4つの蒸発源が配置されている。
【0033】
第一の電荷注入層26の組成に対応する有機化合物が配置された蒸発源から有機化合物の蒸気を放出させ、第一の電極層22の表面に有機薄膜からなる第一の電荷注入層26を形成する。
【0034】
第一の電荷注入層26を形成した後、第一の電荷輸送層33と、第一の発光層31と、第二の電荷輸送層35の組成に対応する有機化合物の蒸気を各蒸発源から順番に放出させ、第一の電荷注入層26上に、有機薄膜からなる第一の電荷輸送層33と、有機薄膜からなる第一の発光層31と、有機薄膜からなる第二の電荷輸送層35とを、この順序で形成する(図3(b))。
第一の電荷輸送発光層24が形成された成膜対象物20を第一の蒸着装置5内から第二の蒸着装置6の真空槽11内に移動する。
【0035】
図2は、第二の蒸着装置6の内部を説明するための断面図であり、搬入した成膜対象物20は、第二の電荷輸送層35の表面は露出されており、第二の電荷輸送層35を下方に向けて、真空槽11内部の基板ホルダ15に保持させる。
【0036】
真空槽11の内部の、基板ホルダ15の下方には、第一の蒸発源13aと、第二の蒸発源13bとが配置されている。第二の電荷注入層28を構成させる母材有機材料70と電荷注入性金属材料71は、第一の蒸発源13aの蒸発容器72aと第二の蒸発源13bの蒸発容器72bに別々に納められている。
第一、第二の蒸発源13a、13bのヒーターに通電して、第一、第二の蒸発源13a、13b内の母材有機材料70と電荷注入性金属材料71は、予め昇温させておく。
【0037】
成膜対象物20が基板ホルダ15に配置された後、基板ホルダ15と第一、第二の蒸発源13a、13bの間の各シャッター16〜18で遮断した状態で、さらに昇温させ、第一の蒸発源13aと第二の蒸発源13bに設けられた放出口73a、73bから、母材有機材料70の蒸気と電荷注入性金属材料71の蒸気をそれぞれ放出させる。
【0038】
母材有機材料70と電荷注入性金属材料71の蒸発状態と放出速度が安定したところで、基板ホルダ15と第一、第二の蒸発源13a、13bの間の各シャッター16〜18を開け、母材有機材料70の蒸気と電荷注入性金属材料71の蒸気を真空槽11内にそれぞれ放出させる。
【0039】
第一、第二の蒸発源13a、13bは近接されており、基板ホルダ15は両方の蒸気が到達する位置に配置されており、第二の電荷輸送層35の表面に母材有機材料70と電荷注入性金属材料71が混合された薄膜の成長が開始される。
【0040】
予め決められた時間、母材有機材料70と電荷注入性金属材料71が混合された薄膜を成長させ、所定の膜厚となったところで、各シャッター16〜18を閉じ、薄膜の成長を終了させると、母材有機材料70と電荷注入性金属材料71とが混合された薄膜からなる第二の電荷注入層28が形成される(図3(c))。
【0041】
第二の電荷注入層28が形成された成膜対象物20を、真空槽11から第一のスパッタ装置7内に移動させる。真空槽内には電極となる金属材料からなる第一のターゲットと、第三の電荷注入層27と同極性の電荷注入特性を有する金属材料からなる第二のターゲットが配置されており、真空槽内にスパッタリングガスを導入し、第一のターゲットをスパッタリングして、真空槽内で露出する第二の電荷注入層28の表面に金属材料からなり、透明な中間電極層30を形成し(図3(d))、第二のターゲットをスパッタリングして、中間電極層30の表面に金属材料からなる第一の補助電荷注入層37を形成する(図4(e))。
【0042】
第一の補助電荷注入層37が形成された成膜対象物20はスパッタ装置7内から第一の蒸着装置5内に移動させ、第一の電荷注入層26と、第一の電荷輸送層33と、第一の発光層31と、第二の電荷輸送層35とを形成したときと同じ材料を、同じ成膜条件で、同じ順序で蒸気を放出させ、第一の補助電荷注入層37の表面に、それぞれ、第一の電荷注入層26と、第一の電荷輸送層33と、第一の発光層31と、第二の電荷輸送層35と同じ膜厚、同じ組成の第三の電荷注入層27と第三の電荷輸送層34と第二の発光層32と第四の電荷輸送層36とを、この順序で形成する(図4(f))。
【0043】
第二の電荷輸送発光層25が形成された成膜対象物20を第一の蒸着装置5内から第二の蒸着装置6内に移動し、第二の電荷注入層28を形成したときと同じ材料を、同じ成膜条件で、第二の電荷注入層28と同じ膜厚、同じ組成の第四の電荷注入層29を第二の電荷輸送発光層25の表面に形成する(図4(g))。
【0044】
第四の電荷注入層29が形成された成膜対象物20を第二の蒸着装置6内からスパッタ装置7内に移動し、中間電極層30を形成したときと同じ材料を、同じ成膜条件で、同じ組成であり、第二の電極層23を形成する。
第二の電極層23が形成された成膜対象物20をスパッタ装置7内から搬出室3内に移動し、取り出して組み立てると、有機EL素子60が得られる(図5(h))。
【0045】
ここでは、第二、第四の電荷注入層28、29を構成する母材有機材料70としてAlq3[Tris(8−hydroxyquinoline) aluminium]と、電荷注入性金属材料71としてリチウムとが第一、第二の蒸発源13a、13b内に別々に配置されており、それぞれの材料を蒸発させ、Alq3の蒸気とリチウムの蒸気とをそれぞれ放出させ、第二、第四の電荷輸送層35、36の表面に一緒に到達させ、Alq3と、リチウムとが混合された薄膜からなる第二、第四の電荷注入層28、29がそれぞれ形成される。
【0046】
Alq3は電子輸送性を有しており、リチウムは電子注入性を有しており、第二、第四の電荷注入層28、29は第一、第二の電荷輸送発光層24、25に電子を注入、輸送するように構成されている。
この場合、第一、第三の電荷注入層26、27は、第一、第二の電荷輸送発光層24、25に正孔を注入可能な有機化合物からなる薄膜で構成されている。
【0047】
中間電極層30は、ここでは、第一のターゲットを構成する金属にはアルミニウムが用いられており、第二の電荷注入層28の表面には、アルミニウム薄膜で構成された中間電極層30が形成される。
第一の補助電荷注入層37は、ここでは、第二のターゲットを構成する金属には銀が用いられており、中間電極層30の表面には、銀薄膜で構成された第一の補助電荷注入層37が形成される。
【0048】
銀は正孔注入性を有しており、第三の電荷注入層27が注入する電荷の極性と同じ極性の電荷を注入する物質である。
このとき、第一、第三の電荷注入層26、27には正電圧が印加され、第二、第四の電荷注入層28、29には負電圧が印加され、第一、第二の電荷輸送発光層24、25には、第一、第三の電荷注入層26、27から正孔がそれぞれ注入され、第二、第四の電荷注入層28、29から電子がそれぞれ注入される。
【0049】
第二、第四の電荷輸送層35、36の表面に第二、第四の電荷注入層28、29をそれぞれ密着して形成する場合は、第二、第四の電荷輸送層35、36に含有する有機材料と第二、第四の電荷注入層28、29に含有する母材有機材料70とを同じにすると、互いに密着する第二の電荷輸送層35と第二の電荷注入層28と、第四の電荷輸送層36と第四の電荷注入層29とは、同じ母材有機材料70を含有するから、それらの界面での組成変化が緩やかになり、第二、第四の電荷注入層28、29の表面上に、スパッタリング法で薄膜を形成しても、界面は乱されず、特性が劣化しない。
【0050】
第二、第四の電荷注入層28、29を形成する際、第一、第二の蒸発源13a、13bからの単位時間あたりの放出量を一定にすると、膜厚方向に組成の変化がなく、膜厚方向で混合率が一定の第二、第四の電荷注入層28、29が得られる。
【0051】
さらに、第二、第四の電荷注入層28、29を形成する際、第一、第二の蒸発源13a、13bの温度を調節し、電荷注入性金属材料71の蒸気を徐々に増加させると、第二、第四の電荷注入層28、29内の第二、第四の電荷輸送層35、36に近い位置では母材有機材料70の割合が大きく、遠い位置では電荷注入性金属材料71の割合が大きくできる。
【0052】
なお、本発明では、第二の電荷注入層28の表面に中間電極層30を密着して形成したが、それに限定されず、第二の電荷注入層28の表面に、第二の電荷注入層28に含有される電荷注入性金属材料71と同じ極性の電荷を注入する物質の薄膜であって、同極性の電荷を注入する第二の補助電荷注入層を形成し、中間電極層30を第二の補助電荷注入層の表面に形成し、第二の電荷注入層28の電荷注入効率を上昇させてもよい。
【0053】
この第二の補助電荷注入層には、たとえば、第二の電荷注入層28に含まれる電荷注入性金属材料71の薄膜を用いることができる。
第二の電荷注入層28に含有する電荷注入性金属材料71がリチウムである場合は、第二の補助電荷注入層には、リチウムの薄膜やフッ化リチウムの薄膜を用いることができる。
【0054】
第四の電荷注入層29は、第二の電荷注入層28と同様に、膜厚方向に均一にしてもよく、また、第四の電荷注入層29の内部で組成を変化させ、電荷注入性金属材料71の含有率の値が底面では小さく、表面では大きくしてもよい。
また、第四の電荷注入層29の表面に、同極性の金属からなる第二の補助電荷注入層を形成し、この第二の補助電荷注入層の表面上に第二の電極層23を形成してもよい。
【0055】
さらに、第四の電荷注入層29は、母材有機材料70と電荷注入性金属材料71との混合薄膜ではなく、たとえばリチウムからなる金属膜で構成させてもよい。
基板21と反対側の第二の電極層23側に光を放射させる場合は、第四の電荷注入層29と第二の電極層23とを透明にすればよい。
【0056】
なお、本発明では、母材有機材料70としてAlq3を用いたが、Alq3に限定されず、電荷注入性金属材料71が第二、第四の電荷輸送層35、36に注入する電荷と同じ極性の電荷を輸送する有機材料であれば用いることができる。
【0057】
第二、第四の電荷輸送層35、36に、Alq3以外の有機化合物が含まれる場合、Alq3を用いてもよいが、第二、第四の電荷輸送層35、36と第二、第四の電荷注入層28、29の組成を連続して変化させることができるから、第二、第四の電荷輸送層35、36に含まれる有機化合物と同じ有機化合物を用いることが望ましい。
【0058】
なお、本発明では、電荷注入性金属材料71としてリチウムを用いたが、リチウムに限定されず、電子注入材料の場合はセシウム等のアルカリ金属元素やマグネシウム等のアルカリ土類金属元素を含有する金属材料を用いることができる。
なお、本発明では、中間電極層30と第二の電極層23の金属材料にアルミニウムを用いたが、アルミニウムに限定されず、他の金属材料を用いることができる。
【0059】
なお、本発明では、第一の補助電荷注入層37の金属材料として銀を用いたが、銀に限定されず、正孔注入材料の場合、ITO(Indium−Tin−Oxide)、IZO(Indium−Zinc−Oxide)、ZnOx(亜鉛酸化物)、SnOx(スズ酸化物)、InOx(インジウム酸化物)等を用いることができる。特に、透明な薄膜を形成できる金属材料であることが望ましい。
【0060】
なお、本発明では、第四の電荷注入層29に金属膜を用いる場合、金属にはリチウムを用いたが、リチウムに限定されず、セシウム、マグネシウムなどの電子注入性の金属の薄膜を用いることができる。さらに金属の薄膜に限らず、フッ化リチウムやフッ化セシウム等の電子注入性の金属化合物の薄膜を用いることができる。
【0061】
なお、本発明では、第一の電極層22には、ITOが用いられており、ITO膜は正孔注入性を有している。第一の電荷注入層26はこのITO膜と接触しているから、第一の電極層22は第一の電荷注入層26の補助電荷注入層としても機能し、正孔注入性が高められている。第一、第三の電荷注入層26、27の電荷注入効率が高ければ、ITO膜や第一の補助電荷注入層37を第一、第三の電荷注入層26、27の表面に形成しなくてもよい。
【0062】
なお、本発明では、製造装置として、別の成膜装置に基板を移動する際に、同じ搬送室2を通して移動させ、基板表面に薄膜を形成する装置(クラスタ型装置)を用いたが、それに限定されず、搬送室2を通らずに複数の成膜装置の間を順番に移動させ、基板表面に薄膜を形成する装置(インライン型装置)を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の有機EL素子の製造装置を説明するためのブロック図
【図2】第二の蒸着装置を説明するための断面図
【図3】(a)〜(d):本発明の有機EL素子の製造工程を説明するための断面図
【図4】(e)〜(g):本発明の有機EL素子の製造工程を説明するための断面図
【図5】(h):本発明の有機EL素子の製造工程を説明するための断面図
【図6】従来の有機EL素子を説明するための断面図
【符号の説明】
【0064】
11…真空槽 13a…第一の蒸発源 13b…第二の蒸発源 20…成膜対象物 21…基板 22…第一の電極層 23…第二の電極層 24…第一の電荷輸送発光層 25…第二の電荷輸送発光層 26…第一の電荷注入層 27…第三の電荷注入層 28…第二の電荷注入層 29…第四の電荷注入層 30…中間電極層 60…有機EL素子 70…母材有機材料 71…電荷注入性金属材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された第一の電荷注入層と、
前記第一の電荷注入層の表面に配置された第一の電荷輸送発光層と、
前記第一の電荷輸送発光層の表面に配置された第二の電荷注入層と、
前記第二の電荷注入層上に配置された第三の電荷注入層と、
前記第三の電荷注入層の表面に配置された第二の電荷輸送発光層と、
前記第二の電荷輸送発光層の表面に配置された第四の電荷注入層とを有し、
前記第一、第三の電荷注入層は、同極性であって、正孔と電子のうちいずれか一方の電荷を注入する材料からなる薄膜で構成され、
前記第二、第四の電荷注入層は、同極性であって、正孔と電子のうち前記第一、第三の電荷注入層とは反対の極性の電荷を注入する材料からなる薄膜で構成され、
前記第一の電荷輸送発光層には前記第一、第二の電荷注入層から正孔と電子が注入され、
前記第二の電荷輸送発光層には前記第三、第四の電荷注入層から正孔と電子が注入され、
正孔と電子は前記第一、第二の電荷輸送発光層内でそれぞれ再結合し、
前記第一、第二の電荷輸送発光層がそれぞれ発光し、
放射光が外部で観察される有機EL素子であって、
前記第二の電荷注入層は、正孔又は電子を前記第一の電荷輸送発光層に注入する電荷注入性金属材料と、前記電荷注入性金属が注入する極性の電荷を輸送する母材有機材料とが混合された薄膜で構成された有機EL素子。
【請求項2】
前記第二の電荷注入層の前記電荷注入性金属材料はリチウムである請求項1記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記第二の電荷注入層の前記母材有機材料は、前記第一の電荷輸送発光層のうち、少なくとも前記第二の電荷注入層と接触する部分に含まれている請求項1又は2いずれか1項記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記母材有機材料はAlq3である請求項1乃至3いずれか1項記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記第二の電荷注入層は、前記母材有機材料の蒸気と、前記電荷注入性金属材料の蒸気とが、成膜対象物の表面に一緒に到達し、形成された請求項1乃至4いずれか1項記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記第二の電荷注入層の表面に、金属ターゲットをスパッタリングし、形成された金属からなる薄膜で構成された透明な中間電極層を有する請求項1乃至5いずれか1項記載の有機EL素子。
【請求項7】
基板と、
前記基板上に配置された第一の電荷注入層と、
前記第一の電荷注入層の表面に配置された第一の電荷輸送発光層と、
前記第一の電荷輸送発光層の表面に配置された第二の電荷注入層と、
前記第二の電荷注入層上に配置された第三の電荷注入層と、
前記第三の電荷注入層の表面に配置された第二の電荷輸送発光層と、
前記第二の電荷輸送発光層の表面に配置された第四の電荷注入層とを有し、
前記第一、第三の電荷注入層は、同極性であって、正孔と電子のうちいずれか一方の電荷を注入する材料からなる薄膜で構成され、
前記第二、第四の電荷注入層は、同極性であって、正孔と電子のうち前記第一、第三の電荷注入層とは反対の極性の電荷を注入する材料からなる薄膜で構成され、
前記第一の電荷輸送発光層には前記第一、第二の電荷注入層から正孔と電子が注入され、
前記第二の電荷輸送発光層には前記第三、第四の電荷注入層から正孔と電子が注入され、
正孔と電子は前記第一、第二の電荷輸送発光層内でそれぞれ再結合し、
前記第一、第二の電荷輸送発光層がそれぞれ発光し、
放射光が外部で観察される有機EL素子を形成する有機EL素子製造方法であって、
真空槽内に前記第一の電荷輸送発光層が露出された成膜対象物を配置し、
前記真空槽内には第一、第二の蒸発源が配置され、
前記第一の蒸発源と前記第二の蒸発源には、母材有機材料と電荷注入性金属材料とが別々に配置され、
真空雰囲気で、前記母材有機材料と、前記電荷注入性金属材料とを加熱し、
前記母材有機材料の蒸気と、前記電荷注入性金属材料の蒸気とを前記真空槽内にそれぞれ放出させ、
前記第一の電荷輸送発光層上に、前記母材有機材料の蒸気と、前記電荷注入性金属材料の蒸気とを一緒に到達させ、前記母材有機材料と前記電荷注入性金属材料とが混合された薄膜からなる前記第二の電荷注入層を形成する有機EL素子製造方法。
【請求項8】
前記第二の電荷注入層の表面に、金属ターゲットをスパッタリングして、金属からなる薄膜で構成された中間電極層を形成する請求項7記載の有機EL素子製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−263123(P2008−263123A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105916(P2007−105916)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】