説明

有機EL素子および有機ELディスプレイ

【課題】架橋前には有機溶媒に可溶であり、架橋後に有機溶媒に不溶となる正孔輸送性高分子を用い、発光効率が高く、素子寿命の長い有機EL素子を提供する。
【解決手段】基板1上に、陽極2と、正孔注入層3と、発光層4、陰極5とがこの順序で積層されており、正孔注入層が、下記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子からなる有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子および有機ELディスプレイに関するものである。特に、正孔輸送性高分子を用いた高効率で長寿命な有機EL素子および有機ELディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子は、携帯電話、携帯音楽プレーヤーおよび車載オーディオなどへの搭載が進み、有機EL素子の市場は拡大している。最近では、11インチの有機ELテレビが商品化され、液晶テレビ、プラズマテレビに続く第3のテレビ技術として注目されている。
【0003】
有機EL素子は、大別して、低分子材料を用いる低分子EL素子と高分子材料を用いる高分子EL素子の2種類に分類できる。
現在、実用化されている有機EL素子はほとんどすべてが低分子EL素子であり、複数の真空蒸着装置を連結した製造ラインによって製造されている。
一方、高分子EL素子は、発光効率と素子寿命の問題があり、実用化には至っていない。しかし、製造方法として、溶液からの塗布法、たとえば、スピンコート法、インクジェット法、フレキソ法、ノズルコート法などの印刷法を適用することができるため、大面積の有機EL素子を低コストに製造できる可能性があり、有機EL素子の応用展開を拡大させる抜本的な手段として期待されている。
【0004】
高分子EL素子の基本構造は、発光層と正孔注入層の2層構造である。発光層には、蛍光量子収率が高く電荷輸送性が優れ、かつ有機溶媒に可溶で薄膜形成能に優れた高分子材料が用いられる。その代表例が、フルオレンやフェニレンビニレン系の高分子骨格をベースに、アセン、芳香族アミン、チオフェンなどの構造を導入した共重合体である。
【0005】
一方、正孔注入層はITOなどの陽極からの正孔を発光層へ注入する役割を担う。正孔注入層に要求される条件は、たとえば、(1)優れた正孔輸送能力を有する、(2)陽極の仕事関数に近い最高占有分子軌道(HOMO)準位を有する、(3)耐熱性が高い、(4)電気化学的に安定である、などである。
【0006】
代表例な正孔注入層は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)、ポリピロール、芳香族アミン系高分子などである。いずれの高分子も、電子供与性のドーパントとの混合体であり、高導電性となっている。特に、PEDOT:PSSはポリスルフォン酸との混合物(PEDOT:PSS)として広く用いられている。
【0007】
このPEDOT:PSSは、水溶液にして基板上に塗布した後、加熱乾燥等により有機溶媒に不溶な薄膜として形成される。加熱乾燥されたPEDOT:PSS薄膜の上に、有機溶液からなる塗布液を塗布法で塗布して発光層を形成したとしても、PEDOT:PSS層は侵されることが無く、2層構造を形成することができる。そのため、ITOなどの陽極からPEDOT:PSS層を通して正孔を効率よく発光層に注入することができる。
【0008】
一方、陰極側から発光層へは電子が注入され、発光層で正孔と電子の両者が再結合することで有機分子の励起状態が生成される。そして、この励起状態が基底状態に戻るときに発光が起こる。
【0009】
PEDOT:PSSを正孔注入層として用いた高分子EL素子は、比較的に高い発光効率と素子寿命が達成されている。しかし、製造工程において、PEDOT:PSSは有機ELでは大敵な水を使っている。また、界面での化学反応や硫黄の拡散、励起状態の消光などの諸問題が指摘されている。
【0010】
このような事情を鑑みて、PEDOT:PSSのような従来の水溶性の正孔輸送性高分子ではなく、架橋前には有機溶媒に可溶であり、架橋後に有機溶媒に不溶となる正孔輸送性高分子を用いた有機EL素子が検討された。
たとえば、特許文献1には、三級芳香族アミン構造を有する正孔輸送性高分子とそれを用いた有機EL素子が開示されている。また、特許文献2には、フルオレン−トリフェニルアミンからなるホール輸送性ポリマーが記載されている。さらに、特許文献3には、重合性基として末端スチレン基を含むフルオレンオリゴマー、あるいはトリフェニルアミン溶液で成膜された後、架橋反応により不溶化されることにより、複数層を形成することができる構成について開示されている。
【0011】
また、特許文献4には、架橋型ポリカルバゾールとそれを用いた有機エレクトロニクスデバイスについて開示されている。ここでは、PEDOT:PSSの上に可溶性ポリカルバゾールを成膜した後、これを加熱して難溶性ポリカルバゾール誘導体が得られることが記載されている。カルバゾール誘導体は、非常に高い正孔移動度を有するので、この難溶性ポリカルバゾール誘導体を有機EL素子に好適に用いることができる。さらにまた、特許文献5には、可溶性PPV前駆体を塗布した後、熱的架橋により正孔輸送材を得ることについて開示されている。
【0012】
さらに、特許文献6には、フルオレン−トリアリールアミンからなるポリマーを、保護層かつホール輸送性ポリマーとして、PEDOT:PSSと発光層との間に挿入する構成が開示されている。このような保護層を用いることにより、PSSから発光層へのプロトンまたはスルホン酸塩基の浸入を抑制することができ、素子寿命を向上させることができる。
しかし、これらの材料及び構成を用いても、架橋前には有機溶媒に可溶であり、架橋後に有機溶媒に不溶となる正孔輸送性高分子を用いた有機EL素子は、依然として発光効率が十分でなく、また、素子寿命も十分でなかった。
【特許文献1】特開2005−42004号公報
【特許文献2】米国特許第5034296号明細書
【特許文献3】米国特許第6107452号明細書
【特許文献4】特開2006−257196号公報
【特許文献5】特開平10−511718号公報
【特許文献6】特表2005−537628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、高分子EL素子が抱える効率と寿命の改善である。発光層と接する部分に、従来の高導電性材料(例えばPEDOT:PSS)に代わる新しい正孔輸送性高分子を用いることで、正孔と電子の再結合確率を向上させることができ、また分子励起状態を効率的に輻射(放射)遷移させることができる。さらにまた、より化学的に安定な分子構造とすることで長寿命となる。
【0014】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、架橋前には有機溶媒に可溶であり、架橋後に有機溶媒に不溶となる正孔輸送性高分子を用い、発光効率が高く、素子寿命の長い有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、正孔注入層用の新しい正孔輸送性高分子を開発し、従来のものと置き換えるあるいは従来の高導電性の正孔注入層と発光層との間に薄く挿入する構成を検討した。
正孔注入層用の新しい正孔輸送性高分子は、水ではなく有機溶媒に可溶であること、HOMOとLUMOのエネルギーギャップが大きい、高い正孔輸送性を有し、かつ薄膜形成後は有機溶媒に不溶となることが必要である。また、発光層への正孔注入を容易にするためにHOMOが陽極のイオン化ポテンシャルに近い値であることが望ましい。
【0016】
正孔注入層用の新しい正孔輸送性高分子は、具体的には、有機溶媒に可溶なポリカルバゾール誘導体であって、薄膜形成後に化学反応させて有機分子間を結合させ、有機溶媒等に不溶な重合体となる。
ポリカルバゾール誘導体のカルバゾール環は、本質的に正孔輸送性の能力を有する分子構造であって、これに分子間の結合反応を起こす反応部位を付加する。反応部位は加熱することで、分子間あるいは分子内の他の反応部位と化学反応し結合する。その結果、正孔輸送性を保持したままで有機溶媒に不溶となり、低電圧駆動かつ高効率、長寿命の有機EL素子を実現できる。
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。すなわち、
本発明の有機EL素子は、基板上に、陽極と、正孔注入層と、発光層と、陰極とがこの順序で積層されており、前記正孔注入層が、下記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子からなることを特徴とする。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
[式(1)中、nは1〜1000の整数であり、xとyの比率は任意であり、Rは置換基であって、水素原子または置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基のいずれかであり、ArおよびArは、各々独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。
また、Xは、触媒の有る無しに関係なく、光あるいは熱によりクロスリンクが可能な重合性官能基をもった置換基であり、ビニル基、トリフルオロビニル基、アクリル基、メタクリル基、オキセタン基、あるいはエポキシ基などを有する、置換されていてもよいアルキル基、置換されてもよいアルコキシ基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、aおよびbは各々独立に1〜5の整数を示す。
さらに、Arは、上記一般式(2)に示されるカルバゾール環を含むモノマー部位であり、隣接するモノマー部位と2,7−位、または3,6−位を介して結合する。
【0021】
式(2)中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、R、Rは、各々独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、あるいは置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、または、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン基(フッ素、塩素あるいは臭素)、芳香族アミノ基、芳香族ビニル基を示し、hおよびiは各々独立に、0〜3の整数を示す。]
【0022】
本発明の有機EL素子は、前記正孔輸送性高分子が、有機溶媒に不溶であることを特徴とする。
【0023】
本発明の有機EL素子は、前記正孔輸送性高分子が、上記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子前駆体を加熱して、分子内または分子間で重合基を架橋させることにより形成されることを特徴とする。
【0024】
本発明の有機EL素子は、前記重合基がビニル基であることを特徴とする。
【0025】
本発明の有機EL素子は、前記正孔輸送性高分子前駆体が、有機溶媒に可溶であることを特徴とする。
【0026】
本発明の有機EL素子は、前記正孔注入層と前記陽極の間に別の正孔注入層を挿入することを特徴とする。
【0027】
本発明の有機ELディスプレイは、先に記載の有機EL素子を、基板上にマトリックス状に形成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
上記の構成によれば、架橋前には有機溶媒に可溶であり、架橋後に有機溶媒に不溶となる正孔輸送性高分子を用い、発光効率が高く、素子寿命の長い有機EL素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態である有機EL素子の一例について説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態である有機EL素子の一例を説明する断面模式図である。
図1に示すように、本発明の実施形態である有機EL素子11は、基板1上に、陽極2、正孔注入層3、発光層4、陰極5を順次積層してなる。
【0030】
(基板)
基板1は、透明な材料で、空気、水分などを遮断する特性に優れた材料を用いることができる。ガラス、石英などの無機材料の基板に限らず、プラスチック基板や金属薄膜などを使用することができる。
【0031】
(陽極)
陽極2は、基板1の一面に薄膜として形成されている。陽極2の材料としては、有機層への正孔注入を容易にするため、仕事関数の大きな材料が望ましい。仕事関数は、少なくとも4.0eV以上であることが好ましい。一般にはガラス基板上に形成され、光を透過させる必要があるので、透明あるいは半透明材料であることが好ましい。ただし、光を有機EL素子の上面から取り出すトップエミッション構造の場合は透明な材料を用いる必要はない。具体的には、インジウム−錫−酸化物(以下、ITO)、インジウム−亜鉛−酸化物(以下、IZO)、酸化インジウム、酸化スズが好ましいが、金、白金、銀、あるいは他の金属との合金の薄膜を用いてもよい。
【0032】
(正孔注入層)
正孔注入層3は、正孔注入能の高い有機材料から構成される。また、電界を印加することにより、陽極2から正孔を正孔注入層3内に高効率で取り込み、正孔注入層3内から発光層4に正孔を高効率に注入することができる材料である。
【0033】
<正孔輸送性高分子>
正孔注入層3は、上記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子からなる。
上記一般式(1)中、nは1〜1000の整数であり、xとyの比率は任意であり、Rは置換基であって、水素原子または置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基のいずれかであり、置換されていてもよいアルキル基としては、直鎖または分岐した炭素数1〜15のアルキル基を挙げることができる。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−デシル、2−メチルヘキシル、2−エチルヘキシル、2−n−プロピルヘキシル、2−n−ブチルヘキシル、2−エチルデシル、3−エチルヘキシルなどが例示され、さらにこれらの置換基がXで示される重合性官能基で置換されていてもよいアルキル基が挙げられる。
置換されていてもよいアルコキシ基としては、直鎖または分岐した炭素数1〜15のアルコキシ基を挙げることができる。例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、n−オクチルオキシ、n−デシルオキシ、2−メチルヘキシルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、2−n−プロピルヘキシルオキシ、2−n−ブチルヘキシルオキシ、2−エチルデシルオキシ、3−エチルヘキシルオキシ、フェノキシなどが例示され、さらにこれらの置換基がXで示される重合性官能基で置換されていてもよいアルコキシ基が挙げられる。
さらに、Rとして、好ましくは、水素、メチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチルなどが挙げられる。
【0034】
上記一般式(1)中、ArおよびArは、各々独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。たとえば、ベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン、フルオレン、フラン、チオフェン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、カルバゾールなどが挙げられる。
ArおよびArとしては、好ましくは、下記一般式(3−1)〜(3−6)に示される置換されていてもよい二価の置換基である。
【0035】
【化3】

【0036】
上記一般式(3−1)〜(3−6)中、RおよびRは、水素、炭素数1〜10の置換されていてもよいアルキル基を示し、c、dおよびeは各々独立に1〜3の整数を示す。
【0037】
上記一般式(1)中、Xは、触媒の有る無しに関係なく、光あるいは熱によりクロスリンクが可能な重合性官能基(重合基)をもった置換基であり、ビニル基、トリフルオロビニル基、アクリル基、メタクリル基、オキセタン基、あるいはエポキシ基などを有する、置換されていてもよいアルキル基、置換されてもよいアルコキシ基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、aおよびbは各々独立に1〜5の整数を示す。
Xとしては、たとえば、好ましくは下記一般式(4−1)〜(4−6)を挙げることができる。
【0038】
【化4】

【0039】
上記一般式(4−1)〜(4−6)中、YおよびZは各々独立に単結合、酸素、窒素、硫黄、あるいは置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、Rは水素、炭素数1〜10の置換されていてもよいアルキル基を示し、fは0〜10の整数を示す。
Xとしては、さらに好ましくは下記一般式(5)で表される重合性官能基をもった置換基が挙げられる。
【0040】
【化5】

【0041】
上記一般式(5)中、Zは単結合、酸素原子を示し、gは0〜10の整数を示す。
このような重合性官能基をもった置換基としては、例えば、下記一般式(6−1)〜(6−7)などが例示される。
【0042】
【化6】

【0043】
また、上記に示す芳香族炭化水素基あるいは芳香族複素環基に置換されていてもよい置換基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、メトキシ、エトキシ、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル、フルオレン、ベンジル、フェネチル、フラン、チオフェン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、カルバゾール、ジフェニルアミンあるいはトリフェニルアミンなどに代表される芳香族アミン化合物、スチレンなどに代表される芳香族ビニル化合物などが例示される。
【0044】
上記一般式(1)中、Arは上記一般式(2)に示されるカルバゾール環を含むモノマー部位であり、隣接するモノマー部位と2,7−位、または3,6−位を介して結合する。
上記一般式(2)中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、R、Rは、各々独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、あるいは置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、または、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン基(フッ素、塩素あるいは臭素)、芳香族アミノ基、芳香族ビニル基を示し、hおよびiは各々独立に、0〜3の整数を示す。
【0045】
置換されていてもよいアルキル基としては、直鎖または分岐した炭素数1〜15のアルキル基を挙げることができる。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−デシル、2−メチルヘキシル、2−エチルヘキシル、2−n−プロピルヘキシル、2−n−ブチルヘキシル、2−エチルデシル、3−エチルヘキシルなどが例示される。さらにこれらの置換基がXで示される重合性官能基で置換されていてもよいアルキル置換基が挙げられる。
【0046】
置換されていてもよいアルコキシ基としては、直鎖または分岐した炭素数1〜15のアルコキシ基を挙げることができる。例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、n−オクチルオキシ、n−デシルオキシ、2−メチルヘキシルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、2−n−プロピルヘキシルオキシ、2−n−ブチルヘキシルオキシ、2−エチルデシルオキシ、3−エチルヘキシルオキシ、フェノキシなどが例示される。さらにこれらの置換基がXで示される重合性官能基で置換されていてもよいアルコキシ基が挙げられる。
【0047】
置換されていてもよい芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基が挙げられる。例えば、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル、ベンジル、フルオレン、フェネチル、ジフェニルアミンあるいはトリフェニルアミンなどに代表される芳香族アミン化合物、スチレンなどに代表される芳香族ビニル化合物などが例示される。
【0048】
置換されていてもよい芳香族複素環基としては、炭素数4〜30の芳香族複素環基が挙げられる。例えば、フラン、チオフェン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、カルバゾールなどが例示される。
【0049】
また、上記に示す芳香族炭化水素基、または芳香族複素環基に置換されていてもよい置換基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、メトキシ、エトキシ、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル、フルオレン、ベンジル、フェネチル、フラン、チオフェン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ジフェニルアミンあるいはトリフェニルアミンなどに代表される芳香族アミン化合物、スチレンなどに代表される芳香族ビニル化合物などが例示され、さらにこれらの置換基にXで示される重合性官能基が置換されていてもよい置換基が挙げられる。
【0050】
Arとしてより好ましくは、下記一般式(7−1)〜(7−12)および下記一般式(8−1)〜(8−16)などが例示される。
【0051】
【化7】

【0052】
【化8】

【0053】
上記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子は、本質的に正孔輸送能を有する分子構造であるカルバゾール環を有するポリカルバゾール誘導体である。そのため、正孔輸送性に優れた正孔注入層3とすることができる。
【0054】
カルバゾール環には、トリフェニルアミン構造を有する置換基が付加されている。さらに、トリフェニルアミン構造を有する置換基には、各々独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基であるArおよびArを介して、重合性官能基をもった置換基Xが付加されている。重合基は、分子内または分子間で他の反応部位と化学反応して、正孔輸送性高分子鎖を網の目のように結合して、有機溶媒に不溶な重合体を形成する。
そのため、有機溶媒に溶解させて調整した発光層溶液を、この正孔輸送性高分子上に塗布しても、正孔注入層3を溶解させないようにすることができる。そのため、有機溶媒に溶解させて調整した発光層溶液を正孔注入層3に塗布して、正孔注入層3上に発光層4を積層した有機EL素子を作成することができる。
【0055】
<正孔輸送性高分子前駆体>
正孔輸送性高分子は、正孔輸送性高分子前駆体を加熱して、分子内または分子間で重合基を架橋させることにより形成される。
正孔輸送性高分子前駆体は、上記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有しており、カルバゾール環およびその置換体からなる基本分子構造を繰り返し単位(モノマー単位)とする。カルバゾール環およびその置換体からなる基本分子構造は、本質的に正孔輸送能を有する分子構造である。
【0056】
カルバゾール環およびその置換体からなる基本分子構造には、トリフェニルアミン構造を有する置換基が付加されている。また、トリフェニルアミンのフェニル基に置換されたアルキル鎖末端部には重合基(反応部位)が設けられており、加熱することで、この重合基(反応部位)が分子内または分子間の他の反応部位と架橋反応して、重合体を形成する。
【0057】
正孔輸送性高分子前駆体の重合基(反応部位)は、ビニル基であることが好ましい。加熱により、分子内または分子間で重合基を架橋させることにより容易に重合体からなる正孔輸送性高分子を形成することができる。
ビニル基の架橋反応は、加熱により、一つのビニル基の2重結合が開き、他のビニル基と結合することで起こる。正孔輸送性高分子前駆体からなる薄膜においては、多数のビニル基を有する正孔輸送性高分子が複数存在するので、それぞれ隣接するビニル基同士で架橋反応を起こす。その結果、網の目構造の重合体からなる正孔輸送性高分子が形成される。
このようにして形成した正孔輸送性高分子は、カルバゾール環およびトリフェニルアミン置換基からなる分子構造が保持されるので、高い正孔輸送性を保持することができる。そのため、発光効率を大幅に改善することができる。
【0058】
なお、正孔輸送性高分子前駆体の溶液に、重合開始剤等を添加してもよい。さらに、架橋反応において、補助的に波長400nm以下の紫外線を照射してもよい。どちらも、架橋反応を促進させることができる。
【0059】
正孔輸送性高分子前駆体は、有機溶媒に可溶である。正孔輸送性高分子前駆体は、分子内または分子間の架橋がされていないとともに、親水基も分子内に有していないので、有機溶媒に容易に溶解・分散させることができる。たとえば、正孔輸送性高分子前駆体は、クロロホルム、ヘキサン、トルエン、ジクロロベンゼンなどの有機溶媒に0.1〜5質量%の濃度で可溶である。
正孔輸送性高分子前駆体を溶解した溶液をスピンコート法などの塗布法を用いて基板上に塗布することにより、均一な正孔輸送性高分子前駆体の薄膜を形成することができる。また、有機溶媒に溶解させた溶液を用いることにより、有機EL素子から水の影響を排除して、有機EL素子の寿命を向上させることができる。
【0060】
正孔注入層3に用いる正孔輸送性高分子前駆体の具体例は、たとえば、下記一般式(9)〜(11)に示されるものである。
【0061】
【化9】

【0062】
【化10】

【0063】
【化11】

【0064】
<正孔輸送性高分子の薄膜形成>
まず、正孔輸送性高分子前駆体を溶解した溶液をスピンコート法などの塗布法を用いて基板上に塗布することにより、均一な薄膜を形成できる。
次に、加熱乾燥などを行うことにより、架橋反応をさせて、正孔輸送性高分子からなる薄膜を形成することができる。
【0065】
たとえば、正孔輸送性高分子前駆体をトルエン溶液に溶解して調製した正孔注入層溶液を、スピンコート塗布法を用いて基板上に塗布して薄膜を形成後、80℃の加熱乾燥、さらに200〜300℃の温度で加熱することで、2重結合のビニル基が分子間および分子内で架橋反応を起して、正孔輸送性高分子からなる薄膜を形成することができる。
【0066】
図3は、上記方法による薄膜形成過程における微視的構造の変化を模式的に示した図である。
図3(a)は、正孔輸送性高分子前駆体を溶液に溶解させた状態を示す模式図であって、独立した高分子鎖21が示され、高分子鎖21に重合基22が結合されている。
図3(b)は、正孔輸送性高分子前駆体の溶液を基板上にスピンコート法などで塗布して薄膜を形成した後、加熱乾燥させた後の状態を示す模式図である。独立した高分子鎖21は、架橋部22aにより別の高分子鎖23と結合することにより、網の目のような構造が形成される。
【0067】
正孔注入層3(第2正孔注入層32)の仕事関数は、ITO(仕事関数4.8eV)などの陽極2から発光層4への注入を容易にする値が好ましく、具体的には、仕事関数5.0−5.5eVが好ましい。
正孔注入層3(第2正孔注入層32)の仕事関数は、発光層4のHOMO準位(薄膜のイオン化ポテンシャル)に合わせて分子設計して、決定することができる。たとえば、正孔注入層3のカルバゾール環の置換基Rの種類および位置を変えたり、置換体と無置換体の共重合比(n:m)を変えることにより、正孔注入層3の仕事関数を制御することができる。
【0068】
(発光層)
発光層4としては、有機溶媒の溶液から塗布法で塗布することができる高分子の発光材料を用いることが好ましい。
たとえば、フルオレン系やフェニレンビニレン系の高分子、特にアセン、チオフェン、芳香族アミンとの共重合体であって、長鎖のアルキルやアルコキシ基を付加された共役系高分子の発光材料を用いることができる。これらの材料は、電界発光させることで、それぞれ分子構造に依存した発光スペクトルを示す。
【0069】
このような共役系高分子の発光材料以外に、リン光発光する高分子を使用することもできる。また、低分子の発光材料でも塗布形成できる発光材料が開発されており、これらを用いてもよい。さらに、発光層4の形成方法としては、上記の塗布法などによるウェットプロセスだけでなく、真空蒸着法などのドライプロセスを用いてもよい。
【0070】
(陰極)
陰極5の材料としては、仕事関数が少なくとも4.5eV以下となる仕事関数の低いLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属やMg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属を用いるのが、電子注入性の観点から好ましい。また、化学的に安定なAl等を用いてもよい。
しかしながら、前記仕事関数の低い金属は、空気中の酸素や水分などと反応しやすく、安定性に欠けるので、MgAgなどの合金、あるいはLiF、LiO、CsFなどの前記金属を含む化合物などとして形成することが好ましい。
【0071】
一般には、陰極5は、安定性と電子注入性を両立させるために、2種以上の材料を積層した構造が用いられている。それらの材料については、特開平2−15595号公報、特開平5−121172号公報等に記載されている。
たとえば、CsやBa等の金属薄層(0.01〜100nm程度)をAlの前に挟むことや、LiFなどのアルカリ金属フッ化物や、Alなどのアルカリ土類金属酸化物を金属の前に挟むことも広く行われている。さらには、有機化合物とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との混合層を金属の前に注入層として設けてもよい。
【0072】
陽極2と陰極5は、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の公知の方法で形成できる。また、電極(特にEL透過電極)のパターニングは、フォトリソグラフィー等による化学的エッチング、レーザー等を用いた物理的エッチング等により行うのが好ましい。また、メタル製のシャドーマスクを重ねて真空蒸着やスパッタリング等を行なってパターニングしてもよい。
【0073】
有機ELディスプレイは、上記の材料および構成を有する有機EL素子を、基板上にマトリックス状に形成してなることが好ましい。
上記の材料および構成を有する有機EL素子を、基板上にマトリックス状に形成することにより、架橋前には有機溶媒に可溶であり、架橋後に有機溶媒に不溶となる正孔輸送性高分子を用い、発光効率が高く、素子寿命の長い有機EL素子を画素ごとに形成することができるので、低電圧駆動であり、発光効率が高く、素子寿命が長く、消費電力が少なく、信頼性の高い有機ELディスプレイとすることができる。
【0074】
(正孔阻止層(正孔ブロック層)、電子輸送層)
なお、発光層4と陰極5との間に、正孔阻止層または電子輸送層のいずれかの層を単独であるいは組み合わせて挿入しても良い。
正孔阻止層としては、発光層4の内部をホッピング移動してきた正孔を阻止することができる有機薄膜が好ましい。たとえば、発光層4の基底状態のHOMO準位と、正孔阻止層の基底状態のHOMO準位とを比較して、正孔阻止層の基底状態のHOMO準位が発光層4の基底状態のHOMO準位よりも深い材料であれば、正孔阻止層として使用することができる。このエネルギー差のために、移動してきた正孔が正孔阻止層の中への浸入を防ぐことができるためである。正孔阻止層の中への浸入を阻止された正孔は、発光層4の内部に滞留し、励起子の生成に寄与する。
【0075】
正孔阻止層(正孔ブロック層)として用いることができる有機材料は、前記条件を満足する一般的な電子輸送材を用いることができる。たとえば、2,2’,2”−(1,3,5−ベンゼントリイル)−トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール](以下、TPBI)などを用いることができる。
【0076】
また、電子輸送層は、電子輸送能が高い有機材料であり、電界を印加しても破壊されること無く、薄膜として安定に存在することのできる材料が好ましい。たとえば、前記電子輸送層の材料として、トリス−(8−ヒドロキシキノリン)−アルミニウム(以下、Alq)などを挙げることができる。
【0077】
<アクティブタイプのディスプレイ>
なお、有機EL画素ごとに2個以上の薄膜トランジスタ(TFT)を配置してアドレスと駆動を行うアクティブタイプのディスプレイとしてもよい。また、有機薄膜トランジスタを用いてもよく、さらにまた、プラスチック基板を適用してもよい。
【0078】
また、アクティブタイプのディスプレイとした場合には、基板側でTFTを配置したことにより開口率が低下するので、発光を基板と反対側の面(基板を下面としたときの上面)から取り出すトップエミッション構造としてもよい。この場合、一般には、上面側に透明電極を用い、基板側の電極として不透明な金属を用いる。
【0079】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態である有機EL素子の別の一例を説明する断面模式図である。
図2に示すように、本発明の実施形態である有機EL素子12は、正孔注入層3(第2正孔注入層32)と陽極2との間に、別の正孔注入層(第1正孔注入層31)が挿入されているほかは、実施形態1と同様の構成とされている。
別の正孔注入層(第1正孔注入層31)は、膜厚が薄く形成されている。別の正孔注入層(第1正孔注入層31)の材料としては、従来、有機EL素子において用いられていたPEDOT:PSSのような高導電性の正孔輸送性高分子などを用いることができる。
【0080】
発光層4と高導電性のPEDOT:PSSとの間に第2正孔注入層32が形成されているので、発光層4を塗布したときに、第1正孔注入層31を構成するPEDOT:PSSが溶解する問題が生じない。これにより、分子励起状態を効率的に輻射(放射)遷移させることができ、高効率な高分子EL素子を作成することができる。
【0081】
このように、正孔注入層3(第2正孔注入層32)と陽極2の間に別の正孔注入層(第1正孔注入層31)を挿入することが好ましい。
このように正孔注入層を2層構造とすることにより、発光層4への正孔注入効率を向上させて、有機EL素子の発光効率を向上させることができる。
たとえば、PEDOT:PSSは仕事関数が5.1eV程度であり、ITO(仕事関数4.8eV)などの陽極2から、正孔注入層3(仕事関数5.0−5.5eV)への正孔注入の橋渡しをできるため、より低電圧での発光層4への正孔注入が可能となる。
【0082】
以下、本発明の実施形態である有機EL素子の正孔注入層に用いた化合物の合成について説明する。
<化合物の合成>
以下、N,N−ジメチルホルムアミドをDMF、テトラヒドロフランをTHF、N−ブロモコハク酸イミドをNBS、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミンをCHDAと記載する。
なお、2,7−ジクロロカルバゾールは、Macromolecules 2001,34,4680に記載されている既存の方法により合成した。
【0083】
<合成例1:2,7−ジクロロ−3,6−ジブロモカルバゾールの合成>
【0084】
【化12】

【0085】
シュレンクに23.6g(100mmol)の2,7−ジクロロカルバゾールを入れ、容器をアルゴン置換し、そこに250mLのDMFを加え、溶解させた。容器を氷浴で冷却した後、35.6g(200mmol)のNBSを150mLのDMFに溶かした溶液を添加した。氷浴をはずし、室温で攪拌すると6時間ほどで沈殿物が生成した。そのまま24時間攪拌した後に、反応液を濃縮してDMFを取り除き、そこに500mLのエーテルを加え沈殿物を溶解させた。この溶液を500mLの水で3回洗浄した後、エーテル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して硫酸ナトリウムを取り除き、沈殿物が生成するまでエーテル層を濃縮した。沈殿物を濾過し、エーテルで洗浄した後回収した。濾液は濃縮して、生成した沈殿物を再び濾過し、エーテルで洗浄した後回収した。
この操作を繰り返し行い、白色粉末の目的物36.9g(93.7mmol)を回収した(収率94%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料および下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ8.22(s,2H),δ8.07(bs,1H),δ7.55(s,2H)。
【0086】
<合成例2:2,7−ジクロロ−3,6−ジメチルカルバゾールの合成>
【0087】
【化13】

【0088】
アルゴン置換したシュレンクに12.6g(32.0mmol)の2,7−ジクロロ−3,6−ジブロモカルバゾールと0.261g(0.32mmol)のPd(dppf)ジクロロメタン錯体を入れ、そこに100mLのTHFを加えた。シュレンクを−78℃まで冷却し、100mL(96.0mmol)の臭化メチルマグネシウム0.96M−THF溶液を少しずつ添加し、すべて加えた後、室温まで加温した。シュレンクに冷却管を取り付け、24時間還流した。反応液に300mLの水を加え、300mLのクロロホルムで3回抽出した。クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過して硫酸ナトリウムを取り除き、沈殿物が生成するまでクロロホルム層を濃縮した。沈殿物を濾過し、クロロホルムで洗浄した後回収した。濾液は濃縮して、生成した沈殿物を再び濾過し、クロロホルムで洗浄した後回収した。
この操作を繰り返し行い、白色粉末の目的物5.54g(22.5mmol)を回収した(収率70%)。
【0089】
<合成例3:N−(4−トリフェニルアミン)−2,7−ジクロロ−3,6−ジメチルカルバゾールの合成>
【0090】
【化14】

【0091】
アルゴン置換したシュレンクに2.64g(10.0mmol)の2,7−ジクロロ−3,6−ジメチルカルバゾール、3.24g(10.0mmol)の4−ブロモトリフェニルアミン、触媒量のヨウ化銅、6.37g(30.0mmol)のリン酸カリウム、0.114g(1.0mmol)のCHDA、および50mLの1,4−ジオキサンを加え、容器を密閉し、115℃で60時間攪拌した。反応液に200mLの水を加え、200mLのエーテルで3回抽出し、エーテル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して乾燥剤を取り除き、濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン)により単離生成し、白色粉末の目的物3.69g(7.27mmol)を得た(収率73%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料および下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ7.88(s,2H),δ7.38−7.20(m,14H),δ7.12−7.06(m,2H),δ2.53(s,6H)。
【0092】
<合成例4:N−[4−{N,N−ビス(4’−ブロモフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールの合成>
【0093】
【化15】

【0094】
シュレンクに1.52g(3.0mmol)のN−(4−トリフェニルアミン)−2,7−ジクロロ−3,6−ジメチルカルバゾールを入れ、容器をアルゴン置換し、そこに100mLのDMFを加え、溶解させた。容器を氷浴で冷却した後、1.10g(6.2mmol)のNBSを50mLのDMFに溶かした溶液を添加した。氷浴をはずし、室温で攪拌すると4時間ほどで沈殿物が生成した。そのまま24時間攪拌した後に、300mLの水を加え、250mLのエーテルで4回抽出した。エーテル層を300mL程度まで濃縮し、300mLの水で洗浄した。エーテル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過して硫酸ナトリウムを取り除き、エーテル層を濃縮した。
カラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン)により単離生成し、白色粉末の目的物1.53g(2.30mmol)を得た(収率77%)。
【0095】
<合成例5:N−[4−{N,N−ビス(4’−(6−ヘキセニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールの合成>
【0096】
【化16】

【0097】
アルゴン置換したシュレンクにマグネシウム1.0g(41.1mmol)を入れ、そこに30mLのTHFに溶かした1−ブロモ−6−ヘキセン5.0g(30.7mmol)の溶液を、反応熱で還流するくらいの速度で少しずつ滴下した。その後、さらに1時間還流し、グリニャール試薬を調整した。アルゴン置換したシュレンクを新たに用意し、そこに0.665g(1.0mmol)のN−[4−{N,N−ビス(4’−ブロモフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾール、触媒量のPdCl(dppf)および5mLのTHFを入れ、攪拌した。そこへ先に調整したグリニャール試薬を6.0mL(6.0mmol)加え、80℃で48時間攪拌し後に、水を加え、エーテルで抽出した。エーテル層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:へキサン)により単離し、0.257g(0.383mmol)の目的物を得た(収率38%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料および下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ7.88(s,2H),δ7.37(s,2H),δ7.19−7.13(s,10H),δ5.86−5.78(m、2H),δ5.05−4.94(m、4H),δ2.60(t,4H),δ2.53(s,6H),δ2.14−2.08(m,4H),δ1.70−1.62(m,4H),δ1.54(s,2H)δ1.51−1.45(m,H)。
【0098】
<合成例6:N−[4−{N,N−ビス(4’−(5−ペンテニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールの合成>
【0099】
【化17】

【0100】
アルゴン置換したシュレンクにマグネシウム1.0g(41.1mmol)を入れ、そこに30mLのTHFに溶かした1−ブロモ−6−ペンテン5.0g(33.6mmol)の溶液を、反応熱で還流するくらいの速度で少しずつ滴下した。その後、さらに1時間還流し、グリニャール試薬を調整した。アルゴン置換したシュレンクを新たに用意し、そこに0.80g(1.2mmol)のN−[4−{N,N−ビス(4’−ブロモフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾール、触媒量のPdCl2(dppf)および5mLのTHFを入れ、攪拌した。そこへ先に調整したグリニャール試薬を6.0mL(6.0mmol)加え、80℃で48時間攪拌し後に、水を加え、エーテルで抽出した。エーテル層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:へキサン)により単離し、0.541g(0.84mmol)の目的物を得た(収率70%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料および下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ7.88(s,2H),δ7.37(s,2H),δ7.14(s,10H),δ5.91−5.81(m、2H),δ5.07−4.98(m、4H),δ2.61(s,4H),δ2.53(s,6H),δ2.16−2.11(m,4H),δ1.78−1.71(m,4H),δ1.54(s,2H)。
【0101】
<合成例7:N−[4−{N,N−ビス(4’−イソプロピルフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールの合成>
【0102】
【化18】

【0103】
アルゴン置換したシュレンクに1.06g(4.0mmol)の2,7−ジクロロ−3,6−ジメチルカルバゾール、1.63g(4.0mmol)の4−ブロモ−4’,4’’−ジイソプロピルトリフェニルアミン、触媒量のヨウ化銅、2.55g(12.0mmol)のリン酸カリウム、0.045g(0.4mmol)のCHDA、および16mLの1,4−ジオキサンを加え、容器を密閉し、115℃で60時間攪拌した。反応液に100mLの水を加え、100mLのエーテルで3回抽出し、エーテル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して乾燥剤を取り除き、濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン)により単離生成し、白色粉末の目的物1.68g(2.84mmol)を得た(収率71%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料および下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ7.88(s,2H),δ7.37(s,2H),δ7.26−7.13(s,10H),δ2.94−2.87(m、2H),δ2.53(s,6H),δ1.27(d,12H)。
【0104】
<合成例8:N−[4−{N,N−ビス(4’−ホルミルフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールの合成>
【0105】
【化19】

【0106】
アルゴン置換したシュレンクに1.01g(2mmol)のN−(4−トリフェニルアミン)−2,7−ジクロロ−3,6−ジメチルカルバゾール、10mLのDMFおよび、10mLのトルエンを入れ、溶解させた。シュレンクを氷浴で冷却した後、1.84g(12.0mmol)のオキシ塩化リンを滴下した。その後、100℃まで昇温し、20時間攪拌した。反応液を100mLの氷水に滴下し、2Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和した。100mLのエーテルで4回抽出し、エーテル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ろ過、濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:へキサン/ジクロロメタン=1/3)により単離し、0.96g(1.70mmol)の目的物を得た(収率85%)。
【0107】
<合成例9:N−[4−{N,N−ビス(4’−ビニルフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールの合成>
【0108】
【化20】

【0109】
アルゴン置換し氷冷したシュレンクに、0.786g(2.2mmol)のブロモメチルトリフェニルホスフィンと5mLのTHFを入れ、さらに0.247g(2.2mmol)のtert−ブトキシカリウムを加え、攪拌した。THFに溶かした0.564g(1.0mmol)のN−[4−{N,N−ビス(4’−ホルミルフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールを加え、室温で5時間攪拌した後、水を加え、エーテルで抽出した。エーテル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:へキサン)により単離し、0.466g(0.833mmol)の目的物を得た(収率83%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料および下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ7.88(s,2H),δ7.39−7.10(m,13H),δ6.70(dd,1H),δ5.69(d、1H),δ5.21(d,1H),δ2.53(s,6H)。
【0110】
次に、アルゴン置換したシュレンクに0.198g(0.72mmol)のビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、0.112g(0.72mmol)の2,2’−ビピリジルをアルゴン気流中で入れ、1.2mLのDMFを加えた後、室温で30分間攪拌した。そこに、0.2798g(0.5mmol)のN−[4−{N,N−ビス(4’−ビニルフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールを、3.0mLのDMFで溶かした溶液を加え、容器を密閉し、65℃で72時間攪拌した。反応液をメタノール500mL、濃塩酸20mLの混合溶媒に滴下し、24時間攪拌した。沈殿物を濾取して20mLのトルエンに溶解させ、5mL程度まで濃縮した後、500mLのメタノール中に滴下し、再沈殿させた。沈殿物を濾取して100mLのトルエンに溶解させ、100mLの3N−HClで2回洗浄し、さらに超純水で中性になるまで繰り返し洗浄した。続いて100mLのアンモニア水で2回洗浄し、超純水で中性になるまで洗浄した。トルエン溶液を濃縮し、500mLのメタノール中に滴下して、再沈澱処理をした。沈殿物を濾取し、ポリマー0.167gを得た(回収率70%)。
なお、ここで得られたポリマーはTHFに溶けなかったため、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分子量を測定できなかった。
【0111】
<合成例10:3,6−ジクロロカルバゾールの合成>
【0112】
【化21】

【0113】
アルゴン置換したシュレンクに0.836g(5.0mmol)のカルバゾールと1.34g(10.0mmol)のN−クロロコハク酸イミドを入れ、10mLのDMF中で12時間攪拌した。水を加え、エーテルで抽出し、エーテル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過、濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:へキサン/ジクロロメタン=3/1)により単離し、0.848g(3.59mmol)の目的物を得た(収率72%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料と下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ8.09(br,1H),δ7.98(s,2H),δ7.41−7.34(m,4H)。
【0114】
<合成例11:N−(4−トリフェニルアミン)−3,6−ジクロロカルバゾールの合成>
【0115】
【化22】

【0116】
アルゴン置換したシュレンクに0.708g(3.0mmol)の3,6−ジクロロカルバゾール、0.973g(3.0mmol)の4−ブロモトリフェニルアミン、触媒量のヨウ化銅、1.91g(9.0mmol)のリン酸カリウム、0.0343g(0.3mmol)のCHDA、および10mLの1,4−ジオキサンを加え、容器を密閉し、115℃で48時間攪拌した。反応液に200mLの水を加え、200mLのエーテルで3回抽出し、エーテル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して乾燥剤を取り除き、濃縮した後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン)により単離生成し、白色粉末の目的物1.20g(2.50mmol)を得た(収率83%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料と下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ8.04(s,2H),δ7.40−7.20(m,16H),δ7.08(t,2H)。
【0117】
<合成例12:N−[4−{N,N−ビス(4’−ブロモフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジクロロカルバゾールの合成>
【0118】
【化23】

【0119】
シュレンクに1.20g(2.5mmol)の3,6−ジクロロカルバゾール−N−トリフェニルアミンを入れ、容器をアルゴン置換し、そこに25mLのDMFを加え、溶解させた。容器を氷浴で冷却した後、0.890g(5.0mmol)のNBSをDMFに溶かした溶液を添加した。氷浴をはずし、室温で攪拌すると4時間ほどで沈殿物が生成した。そのまま16時間攪拌した後に、100mLの水を加え、100mLのクロロホルムで4回抽出した。クロロホルム層を100mL程度まで濃縮し、100mLの水で3回洗浄した。クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過して硫酸ナトリウムを取り除き、クロロホルム層を濃縮した。固体をヘキサンで洗浄し、白色粉末の目的物1.10g(1.72mmol)を得た(収率69%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料と下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ8.04(s,2H),δ7.45−7.22(m,12H),δ7.04(d,4H)。
【0120】
<合成例13:N−[4−{N,N−ビス(4’−(5−ペンテニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジクロロカルバゾールの合成>
【0121】
【化24】

【0122】
アルゴン置換したシュレンクにマグネシウム1.0g(41.1mmol)入れ、そこに30mLのTHFに溶かした1−ブロモ−5−ペンテン5.0g(33.6mmol)の溶液を、反応熱で還流するくらいの速度で少しずつ滴下した。その後、さらに1時間還流し、グリニャール試薬を調整した。アルゴン置換したシュレンクを新たに用意し、そこに1.00g(1.5mmol)のN−[4−{N,N−ビス(4’−ブロモフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジクロロカルバゾール、触媒量のPdCl(dppf)および5mLのTHFを入れ、攪拌した。そこへ先に調整したグリニャール試薬を5.0mL(5.0mmol)加え、80℃で20時間攪拌し後に、水を加え、エーテルで抽出した。エーテル層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:へキサン/ジクロロメタン=4/1)により単離し、0.879g(1.38mmol)の目的物を得た(収率92%)。
尚、得られた目的物の構造は、使用した原料と下記に示すH−NMRスペクトルデータで確認した。
H−NMR(400MHz.CDCl):δ8.03(s,2H),δ7.42−7.10(m,12H),δ5.91−5.80(m,2H),δ5.07−4.98(m、4H),δ2.61(t,4H),δ2.17−2.10(m,4H),δ1.78−1.70(m,4H),δ1.55(s,4H)。
【0123】
<合成例14:2,7位結合ポリ−N−[4−{N,N−ビス(4’−(6−ヘキセニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチルカルバゾールの合成>
【0124】
【化25】

【0125】
アルゴン置換したシュレンクに0.198g(0.72mmol)のビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、0.112g(0.72mmol)の2,2’−ビピリジルをアルゴン気流中で入れ、1.2mLのDMFを加えた後、室温で30分間攪拌した。そこに、0.202g(0.30mmol)のN−[4−{N,N−ビス(4’−(6−ヘキセニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールを、3.0mLのDMFで溶かした溶液を加え、容器を密閉し、65℃で72時間攪拌した。反応液をメタノール500mL、濃塩酸20mLの混合溶媒に滴下し、24時間攪拌した。沈殿物を濾取して20mLのトルエンに溶解させ、5mL程度まで濃縮した後、500mLのメタノール中に滴下し、再沈殿させた。沈殿物を濾取して100mLのトルエンに溶解させ、100mLの3N−HClで2回洗浄し、さらに超純水で中性になるまで繰り返し洗浄した。続いて100mLのアンモニア水で2回洗浄し、超純水で中性になるまで洗浄した。トルエン溶液を濃縮し、500mLのメタノール中に滴下して、再沈澱処理をした。沈殿物を濾取し、ポリマー0.135gを得た(回収率75%)。
さらに、ここで得られたポリマーの分子量を移動相にTHFを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、標準ポリスチレン換算値で、重量平均分子量(Mw)51,823、数平均分子量(Mn)12,197、分子量分布(Mw/Mn)4.25であった。
【0126】
<合成例15:2,7位結合ポリ−N−[4−{N,N−ビス(4’−(5−ペンテニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチルカルバゾールの合成>
【0127】
【化26】

【0128】
アルゴン置換したシュレンクに0.33g(1.20mmol)のビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、0.19g(1.20mmol)の2,2’−ビピリジルをアルゴン気流中で入れ、2.0mLのDMFを加えた後、室温で30分間攪拌した。そこに、0.321g(0.50mmol)のN−[4−{N,N−ビス(4’−(6−ペンテニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールを、5.0mLのDMFで溶かした溶液を加え、容器を密閉し、65℃で72時間攪拌した。反応液をメタノール500mL、濃塩酸20mLの混合溶媒に滴下し、24時間攪拌した。沈殿物を濾取して20mLのトルエンに溶解させ、5mL程度まで濃縮した後、500mLのメタノール中に滴下し、再沈殿させた。沈殿物を濾取して100mLのトルエンに溶解させ、100mLの3N−HClで2回洗浄し、さらに超純水で中性になるまで繰り返し洗浄した。続いて100mLのアンモニア水で2回洗浄し、超純水で中性になるまで洗浄した。トルエン溶液を孔径5μmのメンブレンフィルターでろ過し、続いて孔径1μmのメンブレンフィルターでろ過した。その後、トルエン溶液を5mL程度まで濃縮し、500mLのメタノール中に滴下して、再沈澱処理をした。沈殿物を濾取し、ポリマー0.232gを得た(回収率81%)。
さらに、ここで得られたポリマーの分子量を移動相にTHFを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、標準ポリスチレン換算値で、重量平均分子量(Mw)285,682、 数平均分子量(Mn)26,224、分子量分布(Mw/Mn)10.9であった。
【0129】
<合成例16:2,7位結合ポリ−N−[4−{N,N−ビス(4−イソプロピルフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチルカルバゾールの合成>
【0130】
【化27】

【0131】
アルゴン置換したシュレンクに0.33g(1.20mmol)のビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、0.19g(1.20mmol)の2,2’−ビピリジルをアルゴン気流中で入れ、2.0mLのDMFを加えた後、室温で30分間攪拌した。そこに、0.296g(0.50mmol)のN−[4−{N,N−ビス(4’−イソプロピルフェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチル−2,7−ジクロロカルバゾールを、2.0mLのDMFと4.0mLのTHFで溶かした溶液を加え、容器を密閉し、65℃で72時間攪拌した。反応液をメタノール500mL、濃塩酸20mLの混合溶媒に滴下し、24時間攪拌した。沈殿物を濾取して20mLのトルエンに溶解させ、5mL程度まで濃縮した後、500mLのメタノール中に滴下し、再沈殿させた。沈殿物を濾取して100mLのトルエンに溶解させ、100mLの3N−HClで2回洗浄し、さらに超純水で中性になるまで繰り返し洗浄した。続いて100mLのアンモニア水で2回洗浄し、超純水で中性になるまで洗浄した。トルエン溶液を孔径1μmのメンブレンフィルターでろ過し、その後、トルエン溶液を5mL程度まで濃縮し、500mLのメタノール中に滴下して、再沈澱処理をした。沈殿物を濾取し、ポリマー0.232gを得た(回収率88%)。
さらに、ここで得られたポリマーの分子量を移動相にTHFを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した結果、標準ポリスチレン換算値で、重量平均分子量(Mw)187,640、 数平均分子量(Mn)51,254、分子量分布(Mw/Mn)3.66であった。
【0132】
以下、本発明の実施形態の効果について説明する。
本発明の実施形態である有機EL素子11、12は、基板1上に、陽極2と、正孔注入層3と、発光層4と、陰極5とがこの順序で積層されており、正孔注入層3が、上記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子からなる構成なので、架橋前には有機溶媒に可溶であり、架橋後に有機溶媒に不溶となる正孔輸送性高分子を用い、発光効率が高く、素子寿命の長い有機EL素子とすることができる。特に、発光効率を大幅に改善することができる。
【0133】
本発明の実施形態である有機EL素子11、12は、有機溶媒に不溶である正孔輸送性高分子を用いる構成なので、有機溶媒に溶解させて調整した発光層溶液を前記正孔輸送性高分子からなる正孔注入層3上に塗布することにより、容易に正孔注入層3上に発光層4を積層することができる。
【0134】
本発明の実施形態である有機EL素子11、12は、上記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子前駆体を加熱することにより、分子内または分子間で重合基が架橋されて形成された正孔輸送性高分子からなる正孔注入層3を用いる構成なので、カルバゾール環およびトリフェニルアミン置換基からなる分子構造を保持させて、正孔輸送能を保持することができ、高い正孔輸送性を有する有機EL素子とすることができる。
【0135】
本発明の実施形態である有機EL素子11、12は、正孔輸送性高分子前駆体の重合基がビニル基である構成なので、加熱して分子内または分子間で重合基を架橋させることにより容易に正孔輸送性高分子からなる正孔注入層3を形成することができる。
【0136】
本発明の実施形態である有機EL素子11、12は、正孔輸送性高分子前駆体が有機溶媒に可溶である構成なので、正孔輸送性高分子前駆体を溶解した溶液をスピンコート法などの塗布法を用いて基板上に塗布することにより形成した均一な正孔輸送性高分子前駆体の薄膜を用いて正孔注入層3を形成することができる。また、有機溶媒に溶解させた溶液を用いることにより、有機EL素子から水の影響を排除して、有機EL素子の寿命を向上させることができる。
【0137】
本発明の実施形態である有機EL素子12は、正孔注入層と陽極の間に別の正孔注入層を挿入する構成なので、正孔注入層を2層構造して、発光層4への正孔注入効率を向上させて、有機EL素子の発光効率を向上させることができる。
【0138】
本発明の実施形態である有機ELディスプレイは、有機EL素子11、12を、基板上にマトリックス状に形成してなる構成なので、架橋前には有機溶媒に可溶であり、架橋後に有機溶媒に不溶となる正孔輸送性高分子を用い、発光効率が高く、素子寿命の長い有機EL素子を画素ごとに形成することができるので、低電圧駆動であり、発光効率が高く、素子寿命が長く、消費電力が少なく、信頼性の高い有機ELディスプレイとすることができる。さらに、溶液から湿式法で形成することができるので、容易に大面積化することができる。そのため、バックライトやフラットパネルディスプレイ等の表示装置だけでなく、さらには照明装置等へ応用することができる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0139】
(実施例1)
まず、先に記載した合成方法を用いて、上記一般式(25)に示す2,7位結合ポリ−N−[4−{N,N−ビス(4’−(5−ヘキセニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチルカルバゾールを合成した。
次に、2,7位結合ポリ−N−[4−{N,N−ビス(4’−(5−ヘキセニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチルカルバゾールをトルエン溶液に約1重量%となるように溶解し、正孔注入層溶液を調整した。
次に、酸素と窒素が1ppm以下のグローブボックス中で、厚み150nmのITO膜がパターン形成されたガラス基板上に、前記正孔注入層溶液をスピンコート法により塗布して、厚みが約30nmの正孔注入層を形成した。次に、ホットプレート上にこの薄膜サンプルを置いて、約80℃で1時間乾燥した後に、さらにホットプレートの温度を200℃として1時間ほど架橋反応のための加熱を行った。架橋反応終了後の正孔注入層薄膜にトルエンを滴下して溶解性を調べたところ、ほとんど溶解は認められなかった。
【0140】
次に、下記一般式(28)に示す緑色発光のフルオレン系高分子をジクロロエタン溶液に約1重量%となるように溶解し、発光層溶液を調整した。
次に、前記正孔注入層薄膜上に、前記発光層溶液をスピンコート法により塗布して、厚みが約100nmの発光層を形成した後、100℃で1時間乾燥した。
【0141】
【化28】

【0142】
最後に、電極として、真空蒸着法で、まずCaを10nm成膜した後、Alを100nm連続成膜して、高分子EL素子を作成した。
この高分子EL素子からは電圧を印加することにより均一な緑色の発光が観測された。発光効率(外部量子効率)は0.1%であった。
【0143】
(実施例2−1)
まず、実施例1と同様にして、先に記載した合成方法を用いて、上記一般式(25)に示す2,7位結合ポリ−N−[4−{N,N−ビス(4’−(5−ヘキセニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチルカルバゾールを合成し、その正孔注入層溶液(トルエン溶液、約1重量%)を調整した。
次に、実施例1と同じガラス基板上に、スピンコート法により正孔注入材料PEDOT:PSS(baytorn)を塗布した後、200℃で加熱乾燥させて、30nmの厚みの第1正孔注入層を形成した。
【0144】
次に、スピンコート法で回転数を制御しながら、前記正孔注入層溶液をPEDOT:PSS層の上に塗布して、厚みが約190nmの第2正孔注入層を形成した。次に、ホットプレート上にこの薄膜サンプルを置いて、約60℃で約十分乾燥した後、さらにホットプレートの温度を200℃として1時間ほど架橋反応のための加熱を行った。架橋反応終了後の正孔注入層薄膜にトルエンを滴下して溶解性を調べたところ、ほとんど溶解は認められなかった。
【0145】
次に、上記一般式(28)に示す緑色発光のフルオレン系高分子をジクロロエタン溶液に約1重量%となるように溶解し、発光層溶液を調整した。
次に、前記正孔注入層薄膜上に、前記発光層溶液をスピンコート法により塗布して、厚みが約100nmの発光層を形成した後、100℃で1時間乾燥した。
【0146】
最後に、電極として、真空蒸着法で、まずCaを10nm成膜した後、Alを150nm連続成膜して、高分子EL素子を作成した。
この高分子EL素子からは電圧を印加することにより均一な緑色の発光が観測された。発光効率(外部量子効率)は0.2%であった。
【0147】
(実施例2−2)
スピンコート法で回転数を制御して、第2正孔注入層の膜厚を215nmとして成膜したほかは、実施例2−1と同様にして、高分子EL素子を作成した。
【0148】
(実施例2−3)
スピンコート法で回転数を制御して、第2正孔注入層の膜厚を220nmとして成膜したほかは、実施例2−1と同様にして、高分子EL素子を作成した。
【0149】
(比較例1)
第2正孔注入層を成膜しなかったほかは、実施例2−1と同様にして、高分子EL素子を作成した。
実施例2−1〜実施例2−3および比較例1の有機EL素子の特性を、表1に示す。
【0150】
【表1】

【0151】
(実施例3)
まず、実施例1と同様にして、先に記載した合成方法を用いて、上記一般式(25)に示す2,7位結合ポリ−N−[4−{N,N−ビス(4’−(5−ヘキセニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチルカルバゾールを合成し、その正孔注入層溶液(トルエン溶液、約1重量%)を調整した。
次に、実施例1と同じガラス基板上に、スピンコート法により正孔注入材料PEDOT:PSS(baytorn)を塗布した後、200℃で加熱乾燥させて、30nmの厚みの第1正孔注入層を形成した。
【0152】
次に、スピンコート法で回転数を制御しながら、前記正孔注入層溶液をPEDOT:PSS層の上に塗布して、厚みが約190nmの第2正孔注入層を形成した。次に、ホットプレート上にこの薄膜サンプルを置いて、約60℃で約十分乾燥した後、さらにホットプレートの温度を200℃として1時間ほど架橋反応のための加熱を行った。架橋反応終了後の正孔注入層薄膜にトルエンを滴下して溶解性を調べたところ、ほとんど溶解は認められなかった。
【0153】
次に、下記一般式(29)に示すアダマンタンで連結したフェニルカルバゾール2量体をホスト材料とし、下記一般式(30)に示す青色発光のイリジウム錯体をゲスト材料として、ジクロロエタン溶液に溶解し、発光層溶液を調整した。
次に、前記正孔注入層薄膜上に、前記発光層溶液をスピンコート法により塗布して、厚みが約100nmの発光層を形成した後、100℃で1時間乾燥した。
【0154】
【化29】

【0155】
【化30】

【0156】
次に、下記一般式(31)に示すTPBIを真空蒸着法により10nm成膜して正孔阻止層(正孔ブロック層)を形成した後、下記一般式(32)に示すAlq(キノリノールアルミニウム錯体)を真空蒸着法により30nm成膜して電子注入層を形成した。
【0157】
【化31】

【0158】
【化32】

【0159】
最後に、電極として、真空蒸着法で、まずCaを10nm成膜した後、Alを150nm連続成膜して、高分子EL素子を作成した。
この高分子EL素子からは電圧を印加することにより均一な青色の発光が観測された。発光効率(外部量子効率)は7.5%であった。
【0160】
(実施例4)
実施例2−1の高分子EL素子の構成で有機ELディスプレイを試作した。
まず、10cm角のガラス基板上に陽極となるITOをRFスパッタ法で成膜した後、128本のストライプとなるようにエッチング加工して、陽極線(陽極5)を作成した。
その上に、実施例2−1で示したように、PEDOT:PSSからなる第1正孔注入層(正孔注入層31)、上記一般式(25)に示す2,7位結合ポリ−N−[4−{N,N−ビス(4’−(5−ヘキセニル)フェニル)アミノ}フェニル]−3,6−ジメチルカルバゾールからなる第2正孔注入層(正孔注入層32)、および上記一般式(28)に示す緑色発光のフルオレン系高分子からなる発光層4をスピンコート法で形成した。
最後に、CaとAlとからなる陰極を、真空蒸着法でステンレス製のシャドーマスクを用いて、ITO線と直交するような72本のストライプとなるように形成して、陰極線(陰極2)とした。図4は、この有機ELディスプレイの拡大断面図である。
この陰極線(陰極2)と陽極線(陽極5)に、パッシブ駆動でデューティー比が1/128、フレーム周波数が60Hzとなる映像信号を送ったところ、動画の映像を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明は、有機EL素子に関するものである。特に、有機化合物を用いた高効率で長寿命な有機EL素子に関するものであって、次世代の高品位テレビのような情報ディスプレイや照明器具、光源等へ幅広い応用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の実施形態である有機EL素子の一例を説明する断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態である有機EL素子の一例を説明する断面模式図である。
【図3】本発明の実施形態である有機EL素子に用いられる正孔輸送性高分子の架橋反応の一例を説明する概念図である。
【図4】本発明の実施形態である有機ELディスプレイ拡大断面図である。
【符号の説明】
【0163】
1…基板、2…陽極、3…正孔注入層、4…発光層、5…陰極、11、12…有機EL素子、21…高分子鎖、22…重合基、22a…架橋部、23…高分子鎖、31…第1正孔注入層、32…第2正孔注入層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、陽極と、正孔注入層と、発光層と、陰極とがこの順序で積層されており、
前記正孔注入層が、下記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子からなることを特徴とする有機EL素子。
【化1】

【化2】

[式(1)中、nは1〜1000の整数であり、xとyの比率は任意であり、Rは置換基であって、水素原子または置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基のいずれかであり、ArおよびArは、各々独立に、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示す。
また、Xは、触媒の有る無しに関係なく、光あるいは熱によりクロスリンクが可能な重合性官能基をもった置換基であり、ビニル基、トリフルオロビニル基、アクリル基、メタクリル基、オキセタン基、あるいはエポキシ基などを有する、置換されていてもよいアルキル基、置換されてもよいアルコキシ基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、aおよびbは各々独立に1〜5の整数を示す。
さらに、Arは、上記一般式(2)に示されるカルバゾール環を含むモノマー部位であり、隣接するモノマー部位と2,7−位、または3,6−位を介して結合する。
式(2)中、Rは、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、または置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、R、Rは、各々独立に、水素、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、あるいは置換されていてもよい芳香族複素環基を示し、または、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン基(フッ素、塩素あるいは臭素)、芳香族アミノ基、芳香族ビニル基を示し、hおよびiは各々独立に、0〜3の整数を示す。]
【請求項2】
前記正孔輸送性高分子が、有機溶媒に不溶であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記正孔輸送性高分子が、上記一般式(1)に示されるポリカルバゾール骨格を有する正孔輸送性高分子前駆体を加熱して、分子内または分子間で重合基を架橋させることにより形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記重合基がビニル基であることを特徴とする請求項3に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記正孔輸送性高分子前駆体が、有機溶媒に可溶であることを特徴とする請求項3または請求項4のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記正孔注入層と前記陽極の間に別の正孔注入層を挿入することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機EL素子を、基板上にマトリックス状に形成してなることを特徴とする有機ELディスプレイ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−283509(P2009−283509A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131282(P2008−131282)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月27日 社団法人応用物理学会発行の「2008年(平成20年)春季 第55回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】