説明

有機EL素子の製造方法及び製造装置

【課題】工程数を短縮し素子作製時間を短縮させるための有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板10と、基板10上に設けられ、第1の電極(陽極11)と、少なくとも発光層14を含む有機化合物層18と、第2の電極(陰極17)と、がこの順に積層されてなる発光部と、封止部材よりなり該発光部を封止する封止部(封止膜19)と、から構成される有機EL素子1の製造方法であって、有機化合物層18の形成工程を開始してから、該第2の電極の形成工程を経て、該封止部の形成工程までの間に、光照射による光エージング工程を並行して行うことを特徴とする、有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、略して「有機EL素子」という。)の製造方法、及びに有機EL素子の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、発光輝度が高いこと、薄型であること、消費電力を低減することが可能であること、という特徴を有している。このため有機EL素子は次世代の発光素子として注目されている。
【0003】
ところで有機EL素子の主要部は、陰極と、陽極と、陰極と陽極との間に挟持され発光層を含む有機化合物層と、からなる。このような有機EL素子の場合、陰極と陽極との間に電圧を印加すると、陰極より電子が、陽極より正孔(ホール)が、それぞれ発光層に注入され、印加された電場により発光層中を移動し再結合する。この再結合の際に生じた励起子(エキシトン)によって発光が起こる。
【0004】
しかし、現在の所、有機EL素子は長時間にわたって発光強度を一定に保つことができないという問題点がある。その発光強度の時間変化は非特許文献1にあるように初期に急激な発光強度の変化を示す初期劣化と、長期にわたってゆっくりと強度の減少する長期劣化が存在する。このため、発光素子として実用する場合は、駆動開始直後の初期劣化を事前に起こさせておくエージング処理が行われる。
【0005】
ここで特許文献1及び特許文献2に開示されているように、エージング処理は有機ELを通常の駆動条件で実施される。またエージング時間を短縮するために通常よりも負荷のかかる条件で実施される場合もある。しかし、いずれの条件でも電流を有機EL主要部(発光部)だけではなく駆動用TFTにも流すため、有機EL主要部のエージングだけではなく、駆動用TFTも劣化させるという問題点があった。
【0006】
そこで駆動用TFTの劣化を防ぎつつエージングを行う方法として、特許文献3では素子主要部を封止後、光照射を行う光エージングが提案されている。有機EL素子を構成する有機化合物層に光照射を行うと、有機化合物層が発光するというフォトルミネッセンス(以下、略して「PL」という場合がある。)という現象が生じる。このPLは光を有機層に照射することによって有機化合物層中の分子が励起され、励起された分子が基底状態に戻る時に有機化合物層が発光する現象と考えられている。従って、PLとELとでは発光波長は同一ではないものの、類似したメカニズムで発光が起こっており、共に有機化合物層はエージングを受け安定化すると考えられる。しかも、有機化合物層に光を照射しながらエージング処理をすることができるため、OLEDを駆動させるためのTFTには電流を流す必要がなく、TFTを劣化させることを防止することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−198172号公報
【特許文献2】特開2002−203672号公報
【特許文献3】特開2007−012464号公報
【非特許文献1】Applied Physics Letters,70,1665(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、有機EL素子を作製する場合、生産性を高めるために、工程数を短縮したり、エージングを含めた素子作製時間を短縮したりする必要がある。図5は、従来の有機EL素子の作製工程の概略を示すフロー図である。図5のフロー図において、(a)は真空蒸着法で有機EL素子を作製する場合の一般的なフローを示している。ここで特許文献3に記載されている光エージングを使った場合、有機EL素子の作製工程は図5(b)に示されるフローとなる。ここで(a)と(b)とを比較すると、(b)は、通電エージング工程を省略することができるが、代わりに光エージング工程を追加する必要がある。このため両者の工程数は同じであるので、特許文献3に記載されている光エージングは有機EL素子の生産性を高める方法とは言い難い。
【0009】
本発明は上記問題を鑑みなされたものであり、工程数を短縮し素子作製時間を短縮させるための有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機EL素子の製造方法は、基板と、
該基板上に設けられ、第1の電極と、少なくとも発光層を含む有機化合物層と、第2の電極と、がこの順に積層されてなる発光部と、
封止部材よりなり該発光部を封止する封止部と、から構成される有機EL素子の製造方法であって、
該有機化合物層の形成工程を開始してから、該第2の電極の形成工程を経て、該封止部の形成工程までの間に、光照射による光エージング工程を並行して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、工程数を短縮し素子作製時間を短縮させるための有機EL素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の製造方法によって製造される有機EL素子は、基板と、該基板上に設けられ、第1の電極と、少なくとも発光層を含む有機化合物層と、第2の電極と、がこの順に積層されてなる発光部と、封止部材よりなり該発光部を封止する封止部と、から構成される。
【0013】
本発明の製造方法によって製造される有機EL素子について、図面を参照しながら以下に説明する。
【0014】
図1は、本発明の製造方法により製造される有機EL素子の例を示す断面模式図である。図1の有機EL素子1は、基板10上に、第1の電極である陽極11、正孔注入層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16及び第2の電極である陰極17がこの順に積層されている。尚、以下の説明において、正孔注入層12、正孔輸送層13、発光層14及び電子輸送層15がこの順に積層されている積層体を、有機化合物層18ということがある。
【0015】
図1の有機EL素子1は、陽極11、有機化合物層18及び陰極17が大気中の水分や酸素と接触するのを防ぐために、基板10上に、陽極11と、有機化合物層18と、陰極17と、からなる発光部を覆うように、封止手段(封止部19)を設けて封止を行う。
【0016】
一方、陽極11と陰極17とには、素子制御部(図示せず)が接続されており、陽極11と陰極17とに任意の電圧を印加することができる。図1の有機EL素子1は、有機化合物層18に含まれる発光層14で発光した光を基板10側から放出する、いわゆるボトムエミッション方式の有機EL素子である。
【0017】
以下に、有機EL素子の構成部材について説明する。
【0018】
図1の有機EL素子1において、基板10は、ガラス基板等の透明基板上にTFT素子からなる駆動素子や各種配線等を形成して構成されたものであり、これら駆動素子や各種配線の上に絶縁層や平坦化膜を介して陽極11を形成したものである。尚、基板10に適用可能な材料としては、上記透明なガラス以外にも、石英、サファイア、あるいはポリエステル、ポリアクリレート等の透明な合成樹脂等が挙げられる。
【0019】
陽極11は、基板10上にパターニングされて形成され、かつTFT素子からなる駆動素子や各種配線等と電気接続されるものである。尚、陽極11には透明電極が用いられ、この透明電極の構成材料として、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)等が挙げられる。
【0020】
尚、基板10とは反対の側から発光を取り出す、いわゆるトップエミッション方式の場合には、基板10を構成する材料は不透明であってもよい。この場合、基板10を構成する材料として、アルミナ等のセラミック、ステンレス等の金属シートに表面酸化等の絶縁処理を施したもの等が用いられる。この場合、陽極11は遮光性や光反射性の材料で形成することができる。
【0021】
有機化合物層18は、発光層14のみで構成されていてもよいが、図1の有機EL素子1のように、正孔注入層12、正孔輸送層13、電子輸送層15等の複数の機能層を含めて形成すると発光効率が上がるので好ましい。有機化合物層18の構成材料としては、公知の材料(正孔注入・輸送材料、発光材料、電子注入・輸送材料)を使用することができる。
【0022】
陰極17は、電極のみから構成されていてもよいが、有機化合物層18と陰極17との間に無機材料からなる電子注入層16等を設けてもよい。例えば、有機化合物層18上に、フッ化リチウムからなる薄膜と、アルミニウムからなる薄膜と、を順次形成して、電子注入層16と、陰極17と、をそれぞれ形成してもよい。
【0023】
陽極11と、有機化合物層18と、陰極17と、からなる発光部を覆うように、設けられる封止手段(封止部19)は、図1に示される有機EL素子1のように中空封止であってもよいが、固体封止であってもよい。また、有機EL素子がトップエミッション型である場合、封止部19は光取り出し側に設けることになるので、例えば、セラミックや酸化窒化珪素等の透明な材料により形成するのが好ましい。
【0024】
次に、本発明の製造方法について説明する。以下、有機EL素子の製造工程をたどりながら本発明の製造方法について説明する。
【0025】
(1)第1の電極の形成工程
有機EL素子を製造する際は、まず基板上に第1の電極(陽極11)を形成する。具体的には、ガラス等からなる基板10上にTFT素子や各種配線等を形成する。次に、層間絶縁層や平坦化膜を形成した後、真空蒸着法等によってITO等の電極材料を成膜し、さらにパターニングする。以上のプロセスで陽極11を形成する。尚、陽極11となる電極材料の成膜方法や陽極11のパターンニングの方法は、公知の方法を採用することができる。
【0026】
(2)有機化合物層の形成工程
上記(1)により基板10上に第1の電極となる陽極11を形成した後、この基板について清浄化等の適切な前処理を施した後、真空蒸着を行う有機EL素子の製造装置内にこの基板を移動させる。図2は、本発明の一実施形態である有機EL素子の製造装置を示す概略図である。図2の製造装置20は、真空蒸着を行うチャンバ21と、チャンバ21内に設けられ基板を固定する基板ホルダー22と、を備える。またこのチャンバ21の周辺には、真空蒸着時に使用する蒸着セル23と、光エージングを行うための光照射器24と、チャンバ21内部の圧力を計測する圧力計25と、を備える。さらにこのチャンバ21の周辺には、チャンバ21内部の排気を行うロータリーポンプ(RP)及びターボポンプ(TMP)も備える。
【0027】
陽極11が形成されている基板をチャンバ21内に移動した後、有機化合物層18を形成する。有機化合物層18を構成する各層の形成方法は、公知の方法を採用することができる。
【0028】
(3)光エージング工程
本発明の製造方法は、有機化合物層の形成工程を開始してから、第2の電極の形成工程を経て、封止部の形成工程までの間に、光照射による光エージング工程を並行して行う特徴とする。
【0029】
光エージング工程を行う時期について図面を参照しながら説明する。図3は、本発明の製造方法の具体例を示すフロー図である。図3に示されるように、光エージング工程を行う時期は、下記(i)〜(iii)より選択することができる。
【0030】
(i)有機化合物層の形成工程を開始してから第2の電極の形成工程が完了するまで(図3(a))
(ii)有機化合物層の形成工程を開始してから第2の電極の形成工程を行う直前まで(図3(b))
(iii)有機化合物層の形成工程を開始してから封止部の形成工程を行う直前まで(図3(c))
ただし、光エージング工程を行う時期は、上記(i)〜(iii)に限定されるものではない。
【0031】
有機化合物層の構成材料のうち、光エージングの効果がもっとも顕著な層が、例えば、発光層14である場合は、まず光エージングを行わずに、蒸着セル23を用いた真空蒸着法により、正孔注入層12と、正孔輸送層13と、を順次形成する。次に、基板に対して発光層14の光エージングを行うために適した波長、強度を有する光の照射を開始する。この光の照射と同時に、発光層14の真空蒸着も開始する。
【0032】
発光層14を蒸着・成膜している間に光エージングを行うだけでは光エージングの効果を十分に得られない場合は、電子輸送層15、電子注入層16及び陰極17を真空蒸着法で順次蒸着・成膜している間においても基板に対して光照射を行うのが好ましい。光エージングの効果を十分に得られるからである。
【0033】
また、十分なエージングの効果を得るために、有機化合物層の形成工程と第2の電極の形成工程との間、又は第2の電極の形成工程と封止部の形成工程との間に、所定の時間光エージングのみを行ってもよい。このように光エージング工程のみを行う工程を別途設けたとしても、封止部の形成工程までの間に光照射を行わなかった場合と比較すると光エージングを行う時間を短縮することができるので、結果として、タクトタイムを短縮することができる。
【0034】
次に、光エージング工程において使用される光について説明する。光エージング工程において使用される光の波長は、好ましくは、以下のように決定する。
【0035】
即ち、光照射により光エージング工程において使用される光は、有機化合物層の構成材料が有するUV−VISスペクトルのうち最も長波長側のピーク波長から±20nmの範囲内にある波長の光である。ここで有機化合物層の構成材料とは、有機化合物層が単一の層からなる場合は、その有機化合物層を構成する有機材料をいう。また有機化合物層が複数の層から構成される場合は、各層の構成材料である有機材料のうちUV−VISスペクトルを測定したときに、最も長波長側のピーク波長(以下、エージング波長ということがある。)を有する構成材料をいう。
【0036】
尚、光照射に使用される光の波長を、上記のエージング波長から±20nmの範囲内に制限する理由については後述する。また、エージングを行う層の構成材料の吸収ピーク波長よりも50nm以上短波長側の光は、フィルター等を用いて照射しないようにすることが好ましい。尚、光照射に使用される光の波長を決定する方法は、上記した方法に限定されるものではない。対象となる構成材料の光吸収について同等の物理量を得られる手法であればよい。
【0037】
有機EL素子は、通常は複数の有機材料から構成される。ここで光照射(光エージング)に使用される光の波長は、有機材料に依存して異なるため、エージングを行う有機材料にあわせた光の波長を用いる事によって、特定の有機材料のみエージングする事が可能である。また、有機化合物層18の構成材料である複数の有機材料のうち、特定の材料のみを光エージングするためには、構成材料である有機材料の光の吸収波長がそれぞれずれており、かつ、照射する光の半値幅がそのずれに対して十分狭いことが望ましい。そのために、特定の範囲における波長の光のみ照射できるようにフィルターを用いてもよい。
【0038】
一方、光照射に使用される光の強度は、成膜した有機材料の昇華を防ぐために、サンプル位置(照射位置)において1W/cm2以下にするのが好ましい。
【0039】
さらに、本発明の製造方法において、光エージングを行う際は、好ましくは、真空蒸着装置内の真空度を1×10-3Pa以下とする。このように真空蒸着装置内の真空度を制御することにより、光エージングを行う際に、有機化合物層18が酸素や、水分等と反応するのを防ぐことができる。ここで、真空蒸着中の光エージングを行う場合の真空度は次のように定義される。具体的には、蒸着に用いるセルが空の状態で、セルの温度を有機化合物層の蒸着・成膜時の温度まで加熱した状態における装置内の真空度をいう。本発明は、このときの真空度が上記条件を満たすような状態で、有機化合物層成膜時に光エージングを行うことを特徴とする。
【0040】
以上に示したように、本発明の製造方法によれば、有機化合物層の形成工程と光エージング工程を同時に行うことができる。また、有機化合物層の形成工程が終了するまでに光エージングが完了できない場合においても、有機化合物層の形成工程又は第2の電極の形成工程の後に所定の時間で行う光エージング工程における光照射時間を短縮することができる。
【0041】
有機EL素子の構成材料を劣化させる主な要因は、大気中に含まれる水、酸素であると考えられる。このため、光エージングは、本来ならば特許文献3に開示されているように、水、酸素が有機EL素子中に混入しない封止工程終了後に行うのが望ましい。しかし、本発明の製造方法では、蒸着装置内の真空度が10-3Pa以下であるので、光エージングによる構成材料の劣化の主要因となり得る程度に蒸着装置内に水や酸素が存在することはない。従って、光エージング工程を有機化合物層の形成工程や第2の電極の形成工程と並行して行うことができる。
【0042】
また本発明の製造方法では、有機EL素子の駆動回路であるTFTに電流を流すことなく光エージング工程を行うことができる。従って、光エージング工程を行ったとしてもTFTが劣化することはない。さらに本発明の製造方法では、有機EL素子のドライバIC(Integrated circuit)を実装せずに光エージング工程を行うことができる。このため、光エージング工程後に有機EL素子が不良となったとしてもドライバICの損失を防げるので、製造コストを低減することができる。
【0043】
なおかつ、本発明の製造方法では、電極層、封止層がない状態で有機化合物層を光エージングすることが可能である。したがって、電極層、封止層の光吸収、反射による妨害を抑えることができる。それにより、光エージングの効率を向上させることができる。
【0044】
次に、本発明の製造方法で使用される有機EL素子の製造装置について説明する。
【0045】
本発明の製造方法で使用される有機EL素子の製造装置としては、先程説明した図2の製造装置20を挙げることができる。
【0046】
図2の製造装置において、光照射器24としては、光エージングを行うのに適当な波長の光を発することができるLED、高圧水銀ランプ等が使用可能である。また多種の有機材料に対応するため、材料に応じて照射する光の波長や強度を変化させる手段を設けてもよい。尚、光照射器4をチャンバ1内に取り付けることができない場合は、光照射器4をチャンバ1外に設置する必要がある。このとき照射波長の透過率が90%以上のビューポートを通して、基板に光照射を行ってもよい。また、光の照射面積を調整するために、光照射を行う光路の途中にレンズ等を設けてもよい。
【0047】
尚、基板ホルダー22と蒸着セル23とを結ぶ直線に対し、±30°以内の入射角で光照射を行う光照射手段を(光照射器24)備えるのが望ましい。このように入射角を設定しないと、マスクを使用して有機化合物層を成膜する際に、有機化合物層が成膜される領域と、光エージングされる領域が一致しない場合があるためである。
【0048】
一方、本発明の有機EL素子の製造装置は、光エージングの進行度を測定するために、光エージング時に材料のPL発光強度を測定する受光機を設けてもよい。
【0049】
尚、光エージングのみではエージングの効果が十分に得られない場合は、素子作製後に通電エージングを行ってもよい。この場合においても、通電エージングのみを行う場合に比べてエージング時間が短縮できるため、素子作製時間の短縮につながる。
【0050】
本発明の製造方法は、有機EL素子1つを製造する場合に限られず、複数の有機EL素子からなる画像表示装置を製造する場合にも適用することができる。画像表示装置を製造する際に光エージングを行う場合は、各素子の構成材料に合わせて、照射するのに最適な波長の光を選択し、光照射時にマスクを使用して必要な領域にのみ光が照射できるようにする。こうすることによって、各素子に対して光エージングを行うことができる。尚、この画像表示装置は本発明の製造方法で製造される有機EL素子のほかに、この有機EL素子の発光を制御する駆動トランジスタを備える表示装置である。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
まず有機EL素子を作製する前に、以下の実験を行った。
【0052】
(1)光エージングに関する実験
青色蛍光材料である4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を約50μg使用し、真空蒸着法により形成した薄膜を、アルミ基板上に固定した。次に、このアルミ基板を真空蒸着装置のチャンバ内に導入した後、チャンバ内の真空度が5×10-5Paとなるまで真空引きを行った。次に、アルミ基板上に固定した薄膜について、大気中で含有している水や酸素を取り除くために、上記薄膜を120℃で1時間加熱した。
【0053】
次に、以下に示す方法により光エージング処理を行った。具体的には、上記アルミ基板上に、光の強度が約18mW/cm2であって波長が365nmの光を照射した。尚、DPVBiの吸光スペクトルのピーク波長が355nmであったため、波長365nmの光を照射した。
【0054】
次に、光エージング処理の効果を確認するために、光エージング処理を行った領域と、処理を行っていない領域のそれぞれにおいて薄膜のフォトルミネッセンス強度(PL強度)を測定した。測定結果を図4に示す。図4に示すように、光エージングを行うことにより、初期段階において通常現れる急激なPL強度の変化が抑制されることが確認できた。
【0055】
(2)有機EL素子の作製
図2に示される有機EL素子を以下に示す方法により作製した。また作製に当たっては図1に示される真空蒸着装置を使用した。
【0056】
まずガラスからなる基板10上に、TFT素子や各種配線等を形成し、さらに層間絶縁層と平坦化膜とを順次形成した。次に、真空蒸着法によりITOを成膜し、さらにパターニングすることによって陽極11を形成した。次に、陽極11が形成されている基板10についてプラズマクリーニング処理を行った後、この基板を図2に示される真空蒸着装置21に搬送した。
【0057】
次に、真空蒸着装置21内の真空度が1×10-5Pa以下に達するまで、ポンプにより排気を行った。
【0058】
次に、真空蒸着装置21内において、陽極11上に、銅フタロシアニン(CuPc)を蒸着・成膜して正孔注入層12を形成した。このとき正孔注入層12の膜厚を15nmとし、蒸着速度を0.2nm/secとした。次に、正孔注入層12上に、α−ナフチル・フェニル・ベンゼン(NPD)を成膜して正孔輸送層13を形成した。このとき正孔輸送層13の膜厚を60nmとし、蒸着速度を0.2nm/secとした。
【0059】
次に、正孔輸送層13上に発光層14を形成した。また、発光層14の形成時に並行して光エージングを行った。光エージングは、具体的には、発光層14の形成時に、発光層14が形成される領域について、光の強度が約20mW/cm2であって波長が505nmの光を照射した。尚、DMQAの吸光スペクトルのピーク波長が510nmであったため、波長505nmの光を照射した。また発光層14の形成方法として、具体的には、上記の光エージングを行いながら、ホストであるアルミキノリノール(Alq3)と、ドーパントであるジメチルキナクリドン(DMQA)と、をDMQAが発光層15全体の1重量%となるように共蒸着した。このとき発光層14の膜厚を30nmとし、蒸着速度を0.2nm/secとした。
【0060】
次に、上記の光照射を継続しつつ、発光層14上にAlq3を成膜して電子輸送層15を形成した。このとき電子輸送層15の膜厚を30nmとし、蒸着速度を0.2nm/secとした。そして、電子輸送層15を形成し終えた後、光照射を終了した。
【0061】
次に、電子輸送層15上にLiFを成膜し電子注入層16を形成した。このとき電子注入層16の膜厚を1nmとした。次に、電子注入層16上に、Alを成膜し陰極17を形成した。このとき陰極17の膜厚を100nmとした。
【0062】
最後に、封止膜19を、封止膜19が発光部を覆うように形成した。以上により、有機EL素子1を製造した。
【0063】
製造した有機EL素子について、上記(1)と同様にPLスペクトルを測定した。図4は、実施例1で作製した有機EL素子におけるフォトルミネッセンス強度(PL強度)の経時変化を示すグラフである。尚、図4のグラフは、光エージングしなかった有機EL素子におけるPL強度の経時変化も併せて記載されている。図4のグラフより、駆動初期において通常現れる急激な発光強度の変化を抑えることができた。このため本発明の製造方法により製造された有機EL素子は、長期にわたって安定な発光強度を得る素子であることが分かった。
【0064】
以上、図面を参照しながら本発明に係る有機EL素子の製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。また上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、設計要求等に基づきそれぞれ変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の製造方法により製造される有機EL素子の例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の一実施形態である有機EL素子の製造装置を示す概略図である。
【図3】本発明の製造方法の具体例を示すフロー図である。
【図4】実施例1で作製した有機EL素子におけるフォトルミネッセンス強度(PL強度)の経時変化を示すグラフである。
【図5】従来の有機EL素子の作製工程の概略を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0066】
1 有機EL素子
10 基板
11 陽極
12 正孔注入層
13 正孔輸送層
14 発光層
15 電子輸送層
16 電子注入層
17 陰極
18 有機化合物層
19 封止膜
21 チャンバ
22 基板ホルダー
23 蒸着セル
24 光照射器
25 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に設けられ、第1の電極と、少なくとも発光層を含む有機化合物層と、第2の電極と、がこの順に積層されてなる発光部と、
封止部材よりなり該発光部を封止する封止部と、から構成される有機EL素子の製造方法であって、
該有機化合物層の形成工程を開始してから、該第2の電極の形成工程を経て、該封止部の形成工程までの間に、光照射による光エージング工程を並行して行うことを特徴とする、有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記光照射で使用する光が、前記有機化合物層の構成材料のUV−VISスペクトルにおける最も長波長側のピーク波長から±20nmの範囲内にある波長の光であることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記光照射で使用する光の強度が、1W/cm2以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2の有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
前記有機化合物層の形成工程と、及び前記第2の電極の形成工程と、を真空蒸着装置内で行い、
該真空蒸着装置内の真空度を10-3Pa以下に制御することを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法により有機EL素子を製造する有機EL素子の製造装置であって、
サンプルと蒸着セルとを結ぶ直線に対し、±30°以内の入射角で光照射を行う光照射手段を備えることを特徴とする、有機EL素子の製造装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法により製造される有機EL素子と、該有機EL素子の発光を制御する駆動トランジスタと、を備えることを特徴とする、画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−86702(P2010−86702A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252373(P2008−252373)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】