説明

有機EL素子及びその製造方法、画像表示装置及びその製造方法

【課題】印刷性が良く、開口率の高い有機EL素子及び画像表示装置を提供する。
【解決手段】基板11と、基板11上に形成され、画素領域を有する第一電極12と、基板11上に形成され、第一電極12を区画する隔壁23と、画素領域上に形成され、少なくとも有機材料からなる発光層を含み、少なくとも一層がライン状パターンで印刷された発光媒体層19と、発光媒体層19上に形成され、発光媒体層19を覆うように成膜された第二電極17とを備え、隔壁23は、発行媒体層19のライン状パターンと平行に形成された、少なくとも一部に逆テーパー形状を有する第一隔壁23Aと、第一隔壁23Aと直交に形成された、順テーパー形状を有する第二隔壁23Bとによって構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子及びその製造方法、並びに画像表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、直流低電圧駆動による高輝度発光が可能な発光素子である有機電界発光素子(以下、有機EL素子と称する)の開発が進められている。有機EL素子は、対向する二つの電極と、それら電極間に設けられた有機材料からなる有機発光層を有する簡便な構造によって構成されている。この有機EL素子においては、電極間に電流を流すことによって、有機発光層内で電荷が再結合し、発光となり、この発光光が光透過性電極から取り出される。
【0003】
このような構造を有する有機EL素子においては、前記有機発光層の両側に直接両電極が配置された構造を採用してもよいが、単位電流当たりの輝度或いは単位電力当たりの光束(以下、発光効率と称す)を増大するために、注入層、輸送層又はブロック層、或いは注入層、輸送層及びブロック層の各層配置された構造が採用されることが多い。具体的には、正孔注入層、正孔輸送層又は正孔ブロック層、或いは各層が陽極と発光層との間に設けられた構造が挙げられる。或いは、電子注入層、電子輸送層又は電子ブロック層、或いは各層が陰極と発光層との間に設けられた構造が挙げられる。有機EL素子においては、両電極間に挟まれた上記複数層を含む構造体の全体が、発光媒体層と呼ばれている。
【0004】
有機EL素子の種類は、有機発光層に用いられる有機材料に応じて、低分子有機発光材料を用いた有機EL素子(以下、低分子有機EL素子と称する)と、高分子有機発光材料を用いた有機EL素子(以下、高分子有機EL素子と称する)とに大別される。
低分子有機EL素子の発光媒体層を形成する方法においては、一般的に真空蒸着法等のドライコーティング法を用いて薄膜が形成される。このような低分子有機EL素子を形成する方法において、発光媒体層のパターニングが必要である場合は、メタルマスク等を用いて、マスクの開口部に応じたパターンを有する層が形成される。しかしながら、このようなパターニング方法においては、基板の面積が増加するほど、メタルマスク等の部材自体の精度により、所望のパターニング精度を得ることが難しいという問題がある。
【0005】
高分子有機EL素子の発光媒体層を形成する方法においては、例えば有機発光材料が溶剤に溶された塗工液を準備し、ウェットコーティング法を用いて塗工液を基板上に塗布し、薄膜を形成する方法が試みられている。薄膜を形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、突出コート法、ディップコート法、ノズルプリント法、インクジェット法、各種印刷法等が知られている。しかしながら、これらのウェットコーティング法を用いる場合においては、高精細に薄膜をパターニングしたり、RGBからなる3色を別々に塗布して薄膜を形成したりすることが難しい。そのため、高分子有機EL素子を形成する方法においては、複数の材料を別々に塗布しながらパターニングすることが可能な印刷法を用いて薄膜を形成することが最も有効であると考えられる。
【0006】
さらに、有機EL素子においては基板としてガラス基板を用いることが多い。このため、各種印刷法のなかでもグラビア印刷法等のように金属製の印刷版等の硬い版を直接基板に接触させる方法は、有機EL素子を形成する方法に適していない。一方、弾性を有するゴムブランケットを用いるオフセット印刷法、同じく弾性を有するゴム版、又は感光性樹脂版を用いる凸版印刷法は、高分子有機EL素子を形成する方法に適している。実際に、これらの印刷法による試みとして、オフセット印刷による方法(特許文献1)、凸版印刷による方法(特許文献2)等が提唱されている。
【0007】
ウェットコーティング法を用いて高精細に薄膜をパターニングする必要がある画像表示装置を作製する場合、表示画素を縦横に多数形成し、発光させることで画像を表示する。そのために発光媒体層などを表示画素電極(以下、画素電極と称す)上に選択的に配し、各画素に独立した有機EL素子を形成する。その際、材料を各画素に均一に配し、均一に発光させる為、予め各画素を区画する隔壁を設ける手法が一般的に用いられている。画素電極は一般的に長方形が用いられる。白表示の画素形状は正方形が望ましいのに対して、フルカラー表示を行うには赤、緑、青色に発光する3種類の有機EL素子が各画素内に配置されている必要がある。前記隔壁は画素電極の周辺を区画するように設けられる。
【0008】
前記隔壁は各画素を区画する以外にも、特にウェットコーティング法では、発光媒体層となる塗工液を陽極上に塗布することで形成する場合、隣接する各画素に塗工液が浸入しないようにする必要がある。隣り合う各画素に塗工液が浸入することを防止するために、各画素を隔壁によって規定し、隔壁によって規定された領域内に塗工液を塗布する方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【特許文献3】特開2006−252988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載されるように、高分子有機EL素子は画素電極表面を底部として、基板側が先太りの凸型(順テーパー)形状の隔壁を設ける手法が一般的に用いられている。しかしながら、このような順テーパー形状の隔壁によって規定された画素領域内に塗工液を塗布して、発光媒体層を形成する場合、画素領域内の膜厚が不均一になるという問題がある。即ち、塗工液は乾燥する過程で、隔壁に引き寄せられる。その結果、形成された発光媒体層の画素領域中央部の厚みが減少し、発光媒体層表面が凹曲状になる。表面が凹曲状になると、画素領域内の膜厚均一性が損なわれる。
【0011】
このような不均一な膜厚の発光媒体層を有する有機EL素子に電流を流した場合、膜厚の薄い中央部のみが発光し、膜厚の厚い隔壁近傍は発光しない。したがって、画素内の発光媒体層の膜厚が均一でない場合、画素領域に対して発光している領域(以下、開口率と称す)が減少し、発光効率が低下する。非発光領域の割合としては、上述したように画素電極を膜面方向から見た形状は長方形が一般的なため、画素領域の長辺方向に広く非発光領域が形成される。
【0012】
またノズルプリンティング法や凸版印刷法を含む各種印刷法で発光媒体層を形成する場合、印刷機の構造としては印刷版を設置した版胴又は塗工ユニットを被印刷基板に対して水平に移動させることで成膜する方法か、版胴または塗工ユニットを固定し、被印刷基板を移動させることで成膜する方法の二種類が用いられる。有機EL素子の作製においては、印刷方向に対して垂直方向に形成された隔壁へ塗工液を塗布することは免れない。前述の各種印刷方法は被形成基材と塗工ユニット(ノズル部または印刷版)との距離を一定に保つことで良好な印刷性が得られるが、印刷方向の被印刷面に凹凸が存在すると、印刷性が低下してしまう。
【0013】
そこで、本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであって、開口率が高く、印刷性がよい有機EL素子及びその製造方法並びに画像表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明は、発光媒体層の少なくとも一層をライン状パターンで印刷する有機EL素子であって、第一電極を区画する隔壁が、前記ライン状パターンと平行に形成された、少なくとも一部に基板側が先細りの逆テーパー形状を有する第一隔壁と、前記第一隔壁と直交に形成された、基板側が先太りの順テーパー形状を有する第二隔壁とで構成されたことを特徴とする。
【0015】
本発明において、「逆テーパー」とは、基板水平面と平行な隔壁の頭頂部の幅よりも、側面部の幅が一部でも狭くなっている、つまり基板側が先細りの構造を意味する。例えば図5a〜cに逆テーパー形状の一例を示す。図5aは頭頂部の幅が最も広く、底部の膜厚方向にしたがって幅が狭くなっている。図5bは頭頂部と底部の膜厚間で一部だけ頭頂部よりも幅が狭くなっている。また、図5cのように一部だけでなく、側面部に複数の凹凸を形成してもよい。
【0016】
本発明において、「順テーパー」とは、基板水平面と平行な隔壁の頭頂部の幅よりも、底部の幅が広くなっている、つまり基板側が先太りの構造を意味する。例えば図5d〜fに順テーパー形状の一例を示す。図5dは頭頂部の幅が最も広く、底部の膜厚方向にしたがって幅が広くなっている。図5eは頭頂部が曲面である順テーパー形状である。また、図5fのように頭頂部が多角形であっても、底部の幅が広がっていればよい。
【0017】
有機EL素子にあっては、基板と、前記基板上に形成され、画素領域を有する第一電極と、前記基板上に形成され、前記第一電極を区画する隔壁と、前記画素領域上に形成され、少なくとも有機材料からなる発光層を含み、少なくとも一層がライン状パターンで印刷された発光媒体層と、前記発光媒体層上に形成され、発光媒体層を覆うように成膜された第二電極とを備え、前記隔壁は、前記ライン状パターンと平行に形成された、少なくとも一部に逆テーパー形状を有する第一隔壁と、前記第一隔壁と直交に形成された、順テーパー形状を有する第二隔壁とによって構成される、ことが好ましい。
【0018】
また、前記第一隔壁の膜厚は、0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
また、前記第二隔壁の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
また、前記第一隔壁の高さが前記第二隔壁の高さよりも高いことが好ましい。
また、前記発光媒体層の膜厚は、前記第二隔壁の総膜厚より薄いことが好ましい。
また、前記第一電極は、透明な電極であり、前記第一電極と前記第二電極との間において、前記発光媒体層が形成されていることが好ましい。
【0019】
また、前記第二電極は透明な電極であり、前記第一電極と前記第二電極との間において、前記発光媒体層が形成されていることが好ましい。
画像表示装置にあっては、前記有機EL素子を表示素子として用いることが好ましい。
有機EL素子の製造方法にあっては、基板上に第一電極を形成し、前記基板上に有する第一電極を形成し、前記基板上に前記第一電極を区画する隔壁を形成し、前記画素領域状に少なくとも有機材料からなる発光層を含み、少なくとも一層をライン状パターンで印刷して発光媒体層を形成し、前記発光媒体層上に当該発光媒体層を覆うように第二電極を成膜して形成する有機EL素子の製造方法であって、前記隔膜として、前記ライン状パターンと平行で、前記基板側が先細りの逆テーパー形状を少なくとも一部に有する第一隔壁と、前記第一隔壁と直交に形成され、前記基板側が先太りの順テーパー形状を有する第二隔壁と、を形成することが好ましい。
【0020】
画像表示装置の製造方法にあっては、前記有機EL素子の製造方法を用いて、表示素子を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、隔壁が、発行媒体層のライン状パターンと平行に形成された、少なくとも一部に逆テーパー形状を有する第一隔壁と、前記第一隔壁と直交に形成された、順テーパー形状を有する第二隔壁によって構成されたことで、開口率が高く、発光効率が良好な有機EL素子及び画像表示装置を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る有機EL素子を用いた画像表示装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る有機EL素子を用いた画像表示装置の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る有機EL素子の説明図であって、(a)はボトムエミッション型の有機EL素子の積層構造を示す縦断面図、(b)はトップエミッション型の有機EL素子の積層構造を示す縦断面図である。
【図4】本発明に係る有機EL素子の隔壁の説明図であって、(a)は平面図、(b)は(a)のb−b断面図、(c)は(a)のc−c断面図である。
【図5】本発明に係る有機EL素子の隔壁の説明図であって、(a)〜(c)は第1隔壁の縦断面図、(d)〜(f)は第2隔壁の縦断面図である。
【図6】本発明に係る凸版印刷装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1は、本発明に係る有機EL素子を用いた画像表示装置の一実施形態を示す縦断面図である。この断面は、図4のa−a断面に相当する。
【0024】
図1に示す有機EL素子を用いた表示装置50は、基板11、第一電極(陽極、画素電極)12、第一隔壁23A、第二隔壁23B、正孔輸送層14、発光層16、第二電極(陰極)17、発光媒体層19(図3a参照)、及び封止体28を含む。第一電極12は、基板11に画素毎に設けられている。第1隔壁23A、第2隔壁23Bからなる隔壁23は、第一電極12の画素間を区画する。正孔輸送層14は、第一電極12の上方に形成されている。発光層16は、正孔輸送層14の上に形成されている。第二電極17は、発光層16の全面を被覆するように形成されている。隔壁23は第一隔壁23A、第二隔壁23Bを含む。発光媒体層19は、正孔輸送層14、発光層16を含む。封止体28は、第二電極17を覆うように基板11と接触している。
【0025】
封止体28としては、図1に示すように有機EL素子を覆う封止キャップ26を用いて、封止キャップ26内に不活性ガスが封入された構造が採用される。
図2は、本発明に係る有機EL素子を用いた画像表示装置の他の実施形態を示す縦断面図である。この断面は、図4のa−a断面に相当する。
図2に示す有機EL素子を用いた画像表示装置51は、前記図1に示す画像表示装置50と同様に電極、発光媒体層、及び隔壁を含む。表示装置51においては、第二電極17を覆うように樹脂層21が設けられ、樹脂層21を介して基板11に封止板29が貼り合わされている。この画像表示装置51においては、樹脂層21及び封止板29が封止体28を構成する。
【0026】
図1及び図2においては、各画素に流す電流量を制御するためのスイッチング素子(薄膜トランジスタ)が第一電極に接続されている(不図示)。
以下の説明においては、第一電極12及び第二電極17の間に発光媒体層19が挟まれている領域を発光領域或いは有機EL素子と称し、隔壁23を含む有機EL素子のアレイ全体を表示領域と称する。
【0027】
図1及び図2において、発光媒体層19は、第一電極(陽極)12と第二電極(陰極)17に挟まれた層である。図3に示す積層構造においては、正孔輸送層14及び発光層16が発光媒体層19に相当する。これ以外にも、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層等の層を適宜加えてもよい。
例えば、図1に示す構造においては、透明電極(陽極)12上に順に積層された正孔輸送層14と発光層16の二層によって発光媒体層19が構成されているが、正孔注入層と発光層16の二層によって発光媒体層19が構成されてもよい。また、正孔注入層、正孔輸送層14、及び発光層16が順次積層された三層によって発光媒体層19が構成されてもよい。また、一つの層が、上記複数の層の各々の機能を有していてもよい。例えば、発光媒体層19において、発光層16が正孔輸送機能を有してもよい。また、発光媒体層19が正孔注入層及び電子輸送層から構成され、正孔注入層及び電子輸送層の界面で発光する構成を採用してもよい。電極間に存在する層であって、電極間においてキャリア(正孔、電子)を移動させる層であれば、この層は、発光媒体層に該当する。
【0028】
発光媒体層19の膜厚は、発光層16単層から構成される場合も、多層構造の場合も、発光媒体層全体として10nm以上1000nm以下である。10nm未満である場合、第一電極12表面の算術平均粗さ(以下、表面粗さと称す)が大きいとき、膜形状が不均一になり第二電極17との間にリークパスが形成され、ショートが起こりやすくなる。1000nm超過である場合、発光媒体層19自体が高抵抗となり電流が流れづらく、輝度と発光効率が低下する。これらのことを踏まえると、好ましくは50〜500nmである。
【0029】
図1及び図2に示す有機EL素子を用いた画像表示装置においては、パターニングされた電極毎に、赤(R)、緑(G)、青(B)の発光波長に対応するようにそれぞれパターニングされた発光層16R、16G、16Bが形成されている。これによって、フルカラー表示が可能な画像表示装置が実現される。このような表示方式以外の構造としては、青色発光層及び色素変換層を用いた色素変換方式を用いてもよい。また、白色に発光する複数の有機EL素子の各々に対応させて、カラーフィルタが設けられた構造を採用してもよい。
【0030】
図3a及び図3bは、本発明の有機EL素子の積層部分、即ち、発光領域を示す断面図である。
図3aは、ボトムエミッション型の有機EL素子を示し、基板11上に第一電極12、発光媒体層19、及び第二電極17が順に積層された構造を示す。第一電極12、発光媒体層19、及び第二電極17がこの順番に積層されている発光媒体層19の構造において、正孔輸送層14及び発光層16以外にもインターレイヤ15、或いはその他の発光媒体層が各層の間に配置されてもよい。第二電極17は、光非透過性電極である。第二電極17の材料として金属等の反射率の高い材料を用いることにより、第二電極17に向けて発光された光を第二電極17で反射させて、光透過性電極である第一電極12を通じて、有機EL素子の外部へ発光光を出射することができる。このため、光取り出し効率を向上させることができる。
【0031】
図3bは、トップエミッション型の有機EL素子を示し、基板11上に反射層31、第一電極12、正孔輸送層14、インターレイヤ15、発光層16、及び第二電極17がこの順に積層されている。これらの層が、この順番に積層されている発光媒体層19の構造において、その他の層が複数の層の間に配置されてもよい。第二電極17は光透過性電極である。第一電極12に向けて発光された光は、第一電極12を透過して反射層で反射され、第二電極17を通じて、有機EL素子の外部へ出射される。一方、第二電極17に向けて発光された光は、同様に第二電極を透過して有機EL素子の外部へ出射される。
【0032】
以下の説明においては、ボトムエミッション型の有機EL素子を例として本発明を説明するが、基板11上に反射層31、光被透過性電極である第一電極12と第二電極17の材料として透明導電膜が用いられたトップエミッション型に本発明の構造を適用することも可能である。
以下に、本発明に係る有機EL素子及び画像表示装置に用いられる具体的な材料及び形成方法について説明する。
【0033】
基板11の材料は、例えば、ガラスや石英、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシート、あるいは、トップエミッション型の有機EL素子の場合には、これに加えて、上記のプラスチックフィルムやシートに酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸窒化珪素等の金属酸窒化物、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等の高分子樹脂膜を単層もしくは積層させた光透過性基板や、アルミニウムやステンレス等の金属箔、シート、板、プラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属膜を積層させた光非透過性基板等を用いることができる。なお、本発明においては、上記の材料に限定されず、他の材料が用いられてもよい。
【0034】
表示装置50がボトムエミッション型である場合、発光媒体層19において生じた発光光は、基板11に隣接する電極を通じて、表示装置50の外部に取り出される。一方、トップエミッション型の場合、発光光は、基板11と対向する電極を通じて、外部に取り出される。上記材料からなる基板11においては、表示装置50内への水分や酸素の浸入を防止するために、基板11全面もしくは片面に無機膜を形成する処理、或いは樹脂を塗布する処理等により、防湿処理又は疎水性処理が予め施されていることが好ましい。特に、発光媒体層19への水分の浸入を避けるために、基板11における含水率、水蒸気透過率及びガス透過係数が小さいことが好ましい。
【0035】
本発明に係る第一電極12は、基板11上に成膜され、必要に応じてパターニングによって形成される。第一電極12は、隔壁23によって区画され、各画素(サブピクセル)に対応した画素電極である。またフラットパネルディスプレイなどに表示装置50を用いる場合、基板11と第一電極12間にアクティブマトリクス駆動で発光を制御する為の薄膜トランジスタを形成し、前記薄膜トランジスタと第一電極12を接続しても良い。
【0036】
第一電極12の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やIZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、AZO(亜鉛アルミニウム複合酸化物)等の金属複合酸化物や、金、白金等の金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂等に分散した微粒子分散膜が使用される。また、第一電極12の構造としては、単層構造もしくは積層構造が採用される。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウム等の前駆体を前記基板上に塗布後、熱分解によって酸化物を形成する塗布熱分解法等により、第一電極12を形成することもできる。
【0037】
第一電極12が陽極である場合、有機EL素子の特性上、電荷注入が行いやすいようにITO等の仕事関数が高い材料を選択することが好ましい。アクティブマトリクス駆動の有機EL表示装置においては、第一電極12の材料が低抵抗の材料であることが好ましく、例えば、シート抵抗で20Ω・sq以下である材料が第一電極12の材料として好適に用いることが可能である。発光光は第一電極12を通過し、基材から放出されるため、第一電極12は高透過率であることが好ましい。透過率としては、反射率としては、可視光波長領域の全平均で70%以上であることが好ましく、80%以上であれば好適に反射層として用いることが可能である。
【0038】
第一電極12の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のドライコーティング法又は、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等のウェットコーティング法等、既存の成膜法を用いることができる。なお、本発明においては、上記の方法に限定されず、他の方法が用いられてもよい。なお、基板11の周辺に形成され、第一電極12に接続されている取り出し電極12’は、同一工程で、かつ、同一材料で形成することが可能である。
【0039】
第一電極12のパターニング方法としては、材料又は成膜方法に応じて、マスク蒸着法、フォトリソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法等の既存のパターニング法が用いられる。また、必要に応じてUV処理、プラズマ処理等を用いて、第一電極12の表面を活性化させてもよい。
トップエミッション型の場合、第一電極12の下部に反射層31(図3b参照)を形成することが好ましい。反射層の材料としては、高反射率の材料を用いることが好ましく、例えば、Cr、Mo、Al、Ag、Ta、Cu、Ti、Niが採用される。また、反射層の構造としては、上記材料を一種以上含んだ単膜、積層膜、合金膜、上記材料からなる膜にSiO、SiO2、TiO2等の保護膜が形成された構造が採用される。反射率としては、可視光波長領域の全平均で80%以上であることが好ましく、90%以上であれば好適に反射層として用いることが可能である。
【0040】
反射層の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のドライコーティング法又は、インクジェット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等のウェットコーティング法等、既存の成膜法を用いることができる。なお、本発明においては、上記の方法に限定されず、他の方法が用いられてもよい。
【0041】
反射層のパターニング方法としては、材料又は成膜方法に応じて、マスク蒸着法、フォトリソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法等の既存のパターニング法を用いることができる。
本発明に係わる隔壁23は図4aに示すように、第一隔壁23Aと第二隔壁23Bの2種類の隔壁により構成されている。各画素に対応した発光領域を区画するように隔壁23が形成されている。隔壁23は、複数の画素の各々を仕切る仕切部材として機能する。ウェットコーティング法によって発光媒体層を各画素に配置する場合、上記のように隔壁23が設けられているので、互いに隣接する画素間において混色を防ぐことが可能になる。また、隔壁23は逆テーパー形状を有する第一隔壁23Aと順テーパー形状を有する第二隔壁23Bの二層構造で設けられ、後述のように表示領域全面に形成される発光媒体層における画素領域内での膜厚均一性を向上させ、開口率を向上させる。
【0042】
隔壁23は、第一電極12の端部を覆うように形成されていることが好ましい。一般的に、アクティブマトリクス駆動の有機EL表示装置50においては、各画素に第一電極12が形成されており、各画素の面積をできるだけ広くするために、第一電極12の画素領域が露出されている面積を大きくしている。このため、隔壁23は、第一電極12の端部を覆うように形成されている。隔壁23の最も好ましい平面形状は、格子状である。隔壁23は、互いに隣接する画素電極12を区切るように画素電極12の間に配置されている。また各画素の第一電極12に接続されている薄膜トランジスタ(不図示)の保護層として機能させても良い。
【0043】
第一隔壁23Aを構成する材料は無機材料や感光性樹脂材料が挙げられる。第一隔壁23Aの無機材料としては、具体的には、酸化シリコン、酸化スズ、酸化アルミ、酸化チタン等の無機酸化物、窒化シリコン、窒化チタン、窒化モリブデン等の無機窒化物、窒化酸化シリコンのような無機窒化酸化物といった材料があげられるが、これらに限定するものでは無い。これら無機材料のなかでも特に好適なのが窒化シリコン、酸化シリコン、酸化チタンである。また、有機EL素子の表示品位を向上させるために、遮光性を有する材料を上記の無機材料に含有させる、または第一隔壁23Aの底部、頭頂部、側面部など隔壁の一部または全てに形成しても良い。
【0044】
感光性樹脂材料としては、具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系といった材料が採用される。これらの材料を2種類以上で混合させた樹脂を用いても良い。これらの材料を用いたポジ型レジスト又はネガ型レジストのどちらも用いられる。なお、本発明においては、上記の材料に限定されず、他の材料が用いられてもよい。また有機EL素子の表示品位を向上させるために、遮光性を有する材料を感光性樹脂材料に含有させる、または第一隔壁23Aの底部、頭頂部、側面部など隔壁の一部または全てに形成しても良い。
【0045】
第一隔壁23Aを形成する方法として、無機材料ではスパッタリング法、プラズマCVD法、抵抗加熱蒸着法に代表されるドライコーティング法等の公知の真空成膜法、感光性樹脂材料ではスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の公知の塗布方法を用いることができる。無機材料が含有されたインキを使用する場合、インキを塗布したのち、大気乾燥、加熱乾燥などの焼成工程で溶剤を除去し、隔壁の母体となる無機膜としても良い。
【0046】
第一隔壁23Aを構成する逆テーパー構造を形成するには、無機材料では、反応性イオンビームエッチング、反応性ガスエッチング、反応性イオンエッチングなどに代表されるドライエッチング法を用いることができる。無機膜上に感光性樹脂を塗工し、露光、現像を行ってパターン形成し、パターンをマスクとしてエッチング箇所を限定する。また、腐食溶解する性質を持つ液体の薬品を使ったウェットエッチング法も用いることができる。しかしながら、等方性エッチングが支配的なウェットエッチング法よりも異方性エッチングにより側面形状を選択的に形成することが容易なドライエッチング法が好適に用いる事ができる。
【0047】
感光性樹脂材料では、マスクを用いた露光工程によって感光性樹脂材料がパターニングされ、露光された感光性樹脂材料は現像され、第一隔壁23Aのパターンが形成される。このように第一隔壁23Aのパターンを形成する工程としては、従来公知の露光、現像方法が用いられる。また、焼成工程においては、オーブン、ホットプレート等を用いる従来公知の方法を用いて第一隔壁23Aを焼成することができる。感光性樹脂材料の種類により露光波長は異なるが、逆テーパー構造を形成するにはネガ型感光性樹脂材料が好適に用いることが可能である。
【0048】
第一隔壁23Aの最適な膜厚としては、隔壁材料の種類、第二隔壁の膜厚、発光媒体層の膜厚により異なるが、0.3μm以上5.0μm以下が適当である。0.3μm未満の膜厚においては、発光媒体層の膜厚よりも薄くなる可能性があり、第一隔壁自体が覆われ、発光に寄与しない電流が流れ、発光効率が低下し易くなる。5.0μm超過の膜厚においては、逆テーパー形状を有するため第一電極の対向電極を断線しやすくなる。隔壁の特性としては、絶縁性を有することが必要である。第一隔壁23Aが十分な絶縁性を有していない場合、第一隔壁23Aを通じて互いに隣接する画素電極12の間に電流が流れてしまい表示不良が発生する。隔壁材料などは厚みによっては導電性を有する材料があるため、絶縁性を確保するため0.5μm以上3.0μm以下が好ましい。更に1.0μm以上であれば好適に用いる事ができる。
【0049】
第二隔壁23Bを構成する材料としては感光性樹脂材料や無機材料が上げられる。感光性樹脂材料としては、具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系といった材料が採用される。これらの材料を2種類以上で混合させた樹脂を用いても良い。これらの材料を用いたポジ型レジスト又はネガ型レジストのどちらも用いられる。なお、本発明においては、上記の材料に限定されず、他の材料が用いられてもよい。また有機EL素子の表示品位を向上させるために、遮光性を有する材料を感光性樹脂材料に含有させる、または第二隔壁23Bの底部、頭頂部、側面部など隔壁の一部または全てに形成してもよい。
【0050】
無機材料としては、具体的に、酸化シリコン、酸化スズ、酸化アルミ、酸化チタン等の無機酸化物、窒化シリコン、窒化チタン、窒化モリブデン等の無機窒化物、窒化酸化シリコンのような無機窒化酸化物といった材料があげられるが、これらに限定するものでは無い。これら無機材料のなかでも特に好適なのが窒化シリコン、酸化シリコン、酸化チタンである。また、有機EL素子の表示品位を向上させるために、遮光性を有する材料を上記の無機材料に含有させる、または第二隔壁23Bの底部、頭頂部、側面部など隔壁の一部または全てに形成してもよい。
【0051】
第二隔壁23Bを構成する材料としては、順テーパー形状を形成できれば良い。感光性樹脂材料の形成方法としては、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の公知の塗布方法を用いて塗布される。次に、マスクを用いた露光工程によって感光性樹脂材料がパターニングされ、露光された感光性樹脂材料は現像され、第二隔壁23Bのパターンが形成される。このように第二隔壁23Bのパターンを形成する工程としては、従来公知の露光、現像方法が用いられる。また、焼成工程においては、オーブン、ホットプレート等を用いる従来公知の方法を用いて第二隔壁23Bを焼成することができる。ポジ型感光性樹脂材料であれば順テーパー形状容易に形成でき、好適に用いることが可能である。
【0052】
無機材料では、反応性イオンビームエッチング、反応性ガスエッチング、反応性イオンエッチングなどに代表されるドライエッチング法を用いることができる。無機膜上に感光性樹脂材料を塗工し、露光、現像を行いパターン形成し、パターンをマスクとしてエッチング箇所を限定する。このように従来公知の塗工方法、公知の露光、現像方法が用いられる。また、腐食溶解する性質を持つ液体の薬品を使ったウェットエッチング法も用いることができる。
【0053】
第二隔壁23Bを形成する際には、通常逆テーパー形状の第一隔壁23Aが形成されている。無機材料を用いた場合、第二隔壁に対応する材料を成膜したのち、前記第一隔壁頭頂部までの表面研磨が必要になるため、感光性樹脂材料を用いた前記第二隔壁形成方法が好適に用いる事が可能である。なお、本発明においては、上記の方法に限定されず、第二隔壁に相当する順テーパー形状の隔壁を形成した後、逆テーパー形状の隔壁を形成してもよい。
【0054】
第二隔壁23Bの最適な膜厚としては、隔壁材料の種類、第二隔壁の膜厚、発光媒体層の膜厚により異なるが、0.1μm以上5.0μm以下が適当である。0.1μm未満の膜厚においては、発光媒体層の膜厚よりも薄くなり、発光媒体層内に第一隔壁自体が覆われ、発光に寄与しない電流が流れ、発光効率が低下し易くなる。5.0μm超過の膜厚においては、第二電極の対向電極を断線しやすくなる。隔壁の特性としては、絶縁性を有することが必要である。第二隔壁23Bが十分な絶縁性を有していない場合、第一隔壁23Bを通じて互いに隣接する画素電極の間に電流が流れてしまい表示不良が発生する。隔壁材料などは厚みによっては導電性を有する材料があるため、絶縁性を確保するため0.3μm以上は必要であり、また後述する印刷性を得るためには、1.5μm以下が好ましい。
【0055】
第一電極12と隔壁23端部でのインキの濡れ広がり方は、画素電極表面を水平面として隔壁端部の角度が鈍角ならば水平方向に、鋭角ならば垂直方向に濡れ広がる。水平方向の濡れ上がりよりも、垂直方向の濡れ上がりが小さいため、隔壁を逆テーパー形状とすることで、隔壁内に成膜された発光媒体層が凹形状となることを緩和する。第一電極12周辺全ての隔壁を第一隔壁23Aと同様の逆テーパー形状にすることで、開口率を大きくすることは可能であるが、印刷方向に対して直交方向に鋭角な段差が存在すると、印刷性が低下し、被印刷基板への塗工液転写量が変動するため、結果として均一な発光が得られなくなる。
【0056】
印刷性は前述したように印刷方向の被印刷基板表面に凹凸が形成されていると低下する。特に塗工ユニットである印刷版と被印刷基板を近づけて成膜する印刷法では、印刷面に鋭角な凹凸が存在すると印刷版を傷つける可能性がある。よって印刷方向に配置されている隔壁形状に角部を形成せずに、緩やかな曲面にすることで印刷性を確保できる。また、第二隔壁23Bの膜厚が厚いと鋭角な凹凸が存在しなくとも、印刷性が低下するため、1.5μm以下の膜厚だと好適に用いることが可能である。
【0057】
隔壁を形成した後に陽極として用いている第一電極表面の洗浄と仕事関数の調整とを行うため、基板の前処理工程として、UV処理、プラズマ処理等を行なってもよい。正孔を効率よく発光媒体層に注入するためには、発光媒体層に接触する陽極の表面の仕事関数と、発光媒体層の仕事関数とが、近いことが好ましい。従って、表面処理が施された陽極の表面の仕事関数と、陽極に接する発光媒体層の仕事関数との差が0.5eV以下であることが好ましく、0.2eV以下であることがより好ましい。第一電極としてITOを用いる場合、表面処理前の仕事関数は約4.8eVである。これに対し、後述のように陽極上に発光媒体層として正孔輸送層又は正孔注入層を形成する場合、例えば、酸化モリブデンの仕事関数は約5.8eVである。従って、表面処理前の状態においては、陽極の仕事関数と正孔輸送層の仕事関数との差が大きすぎるため、正孔注入障壁が高くなり、正孔が注入され難い。そこで、表面処理によって陽極の仕事関数を高くし、陽極の仕事関数を正孔輸送層の仕事関数に近づける。
【0058】
また、UV処理の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマランプ等が用いられる。本発明ではいずれの光源を用いてもよい。酸素プラズマ処理を用いる場合は、電力、圧力、プラズマ照射時間を調整することにより、陽極の仕事関数を所望に制御することが可能である。なお、酸素プラズマ処理を用いる場合、感光性樹脂材料などの材料によっては陽極の表面処理と同時に、隔壁23において多少のエッチング効果が生じる。このため、陽極の表面処理においては、隔壁23におけるエッチング効果を考慮して処理条件を調整する必要がある。表面処理した第一電極表面は、経時変化により元の状態に戻るため、陽極の表面処理は正孔輸送層14を形成する直前に行うことが好ましい。
【0059】
次に、正孔注入層は透明電極(陽極)から正孔を注入する機能を有する層であり、正孔輸送層は発光層に正孔を輸送する機能を有する層である。これらの層は、正孔注入機能と正孔輸送機能とを共に有する場合がある。この場合、これらの機能の程度に応じてどちらか一方の名称で、或いは両方の名称で機能層が称されている。本発明においては、正孔輸送層と称されている層は、正孔注入層も含む。
【0060】
正孔輸送層を構成する材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の高分子材料を用いることができる。高分子材料は、ウェットコーティング法による成膜工程に使用可能である。このため、正孔注入層又は正孔輸送層を形成する際に高分子材料を用いることが好ましい。このような高分子材料は、水又は溶剤によって分散或いは溶解され、分散液又は溶液として使用される。また、正孔輸送材料として無機材料を用いる場合、Cu2O、Cr23、Mn23、FeOx(x≧0.1)、NiO、CoO、Bi23、SnO2、ThO2、Nb25、Pr23、Ag2O、MoO2、ZnO、TiO2、V25、Nb25、Ta25、MoO3、WO3、MnO2等を用いることができる。
【0061】
正孔輸送層14から正孔輸送層の上層の発光媒体層(例えばインターレイヤや発光層)へ正孔を効率的に注入するために、正孔輸送層14の物性値として、正孔輸送層14が陽極(第一電極12)の仕事関数と同等以上の仕事関数を有することが好ましい。選択される陽極の材料に応じて、正孔輸送層14の適切な物性値は異なるが、4.5eV以上6.5eV以下の仕事関数を有する正孔輸送層14を用いることができる。陽極がITO又はIZOである場合、5.0eV以上6.0eV以下の仕事関数を有する正孔輸送層14が好適に用いることが可能である。また、ボトムエミッション構造では第一電極12を透過させて発光光が取り出されるため、正孔輸送層14の光透過性が低い場合には取り出し効率が低下する。このため、可視光波長領域において、正孔輸送層14の平均光透過性は、75%以上であることが好ましく、85%以上であればより好ましい。この他にも、導電率が10-2〜10-6S/cmであれば好適に用いることができる。
【0062】
正孔輸送層14を形成する方法としては、基板11上の表示領域全面にスピンコート法、ダイコート法、ディッピング法、スリットコート法、ノズルプリント法、又は凸版印刷法等の印刷法が採用される。正孔輸送層14を形成する際には、前記正孔輸送材料が水、有機溶剤、或いはこれらの混合溶剤に溶解されたインキ(液体材料)が用いられる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン、アニソール、メシチレン、テトラリン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル等が使用できる。また、インキには、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0063】
正孔輸送層14が低分子有機材料や無機材料である場合には抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のドライプロセスを用いて形成することができる。ドライプロセスで正孔輸送層14を形成した場合、上層への濡れ性を考慮して必要に応じて、プラズマ照射又はUV照射等の表面処理を施すと好適に用いることができる。
【0064】
発光効率の向上させるために電子ブロック層としてのインターレイヤ15を有機発光層16と正孔輸送層14の間に設けることが好ましい。トップエミッション型の素子構造においては、正孔輸送層14を形成した後に、インターレイヤ15を正孔輸送層14の上に積層することができる。通常、正孔輸送層14を被覆するように、インターレイヤ15は形成されるが、必要に応じてインターレイヤ15をパターニング形成してもよい。
【0065】
インターレイヤ15の材料としては、有機材料ではポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等の、芳香族アミンを含むポリマー等が挙げられる。これらの材料は低分子有機材料であるが、これらの材料を重合させ、高分子量化してもよい。また、無機材料では、Cu2O、Cr23、Mn23、NiO、CoO、Pr23、Ag2O、MoO2、ZnO、TiO2、V25、Nb25、Ta25、MoO3、WO3、MnO2等の遷移金属酸化物及びこれらの窒化物、硫化物を一種以上含んだ無機化合物が挙げられる。なお、本発明においては、上記の材料に限定されず、他の材料が用いられてもよい。
【0066】
インターレイヤ15の材料は、高分子有機材料の場合、溶媒に溶解され、又は安定に分散され、インターレイヤ塗工液として用いられる。インターレイヤの材料を溶解又は分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独又はこれらの混合溶媒が用いられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機インターレイヤ材料の溶解性の観点から好適に用いられる。また、有機インターレイヤインキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0067】
これらインターレイヤの材料として、正孔輸送層14よりも仕事関数が同等以上である材料を選択することが好ましく、更に、有機発光層16よりも仕事関数が同等以下である材料を選択することがより好ましい。この理由は、正孔輸送層14から有機発光層16に向けてキャリアが注入される時に、不必要な注入障壁を形成しないためである。また、有機発光層16から発光に寄与できなかった電荷を閉じ込める効果を得るため、バンドギャップが3.0eV以上である材料を採用することが好ましく、3.5eV以上である材料を採用することより好ましい。
【0068】
インターレイヤ15の形成方法としては、基板11上の表示領域全面にスピンコート法、ダイコート法、ディッピング法、スリットコート法、ノズルプリント法、又は凸版印刷法等の印刷法が採用される。インターレイヤ15を形成する際には、前記インターレイヤ材料が水、有機溶剤、或いはこれらの混合溶剤に溶解された塗工液が用いられる。
インターレイヤ15が低分子有機材料や無機材料である場合には抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のドライプロセスを用いて形成することができる。ドライプロセスでインターレイヤ15を形成した場合、上層への濡れ性を考慮して必要に応じて、プラズマ照射又はUV照射等の表面処理を施すと好適に用いることができる。
【0069】
発光層16においては、第一電極12及び第二電極17の間に印加された電圧によって注入された電子と正孔とが再結合され、この再結合の際に生じる発光光が得られる。発光光は、透光性の電極を透過し、有機EL素子の外部に出射される。互いに隣接する画素の各々に形成される発光層が異なる場合、例えば、RGBのフルカラー表示の表示装置においては、各発光層16R、16G、16Bが第一電極12の各々の画素領域にパターニングによって形成される。
【0070】
発光層16の材料としては、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィリン系、キナクドリン系、N、N’−ジアルキル置換キナクドリン系、ナフタルイミド系、N、N’−ジアリール置換ピロロピロール系等の発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させたものが使用できる。また、発光層16の材料としては、デンドリマー材料、PPV系やPAF系、ポリパラフェニレン系等の高分子有機材料を用いることも可能である。また、発光層16の材料は、水又は溶剤に可溶である材料であることが好ましい。
【0071】
上述した高分子材料に加え、9、10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1、1、4、4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8−(パラ−トシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1、2、3、4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2、5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレン等の低分子系発光材料が使用できる。
【0072】
これらの発光層の材料は、溶媒に溶解され、又は安定に分散され、有機発光塗工液として用いられる。有機発光材料を溶解又は分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独又はこれらの混合溶媒が用いられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機発光材料の溶解性の観点から好適に用いられる。また、有機発光塗工液には、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0073】
各発光層16の材料が低分子有機材料である場合においては、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法等のドライプロセスを用いて発光層16を形成することも可能である。各発光層16の材料が高分子有機材料又は低分子有機材料を高分子に分散させた材料である場合においては、スピンコート法、ダイコート法、ディッピング法、スリットコート法、ノズルプリント法、又は凸版印刷法等の印刷法を用いて発光層16を形成することができる。
【0074】
電子注入層は、陰極から電子を輸送する機能を有する層である。電子輸送層は、発光層に電子を輸送する機能を有する層である。これらの層は、電子輸送機能と電子注入機能とを共に有する場合がある。この場合、これらの機能の程度に応じてどちらか一方の名称で、或いは両方の名称で機能層が称されている。
このような電子注入層又は電子輸送層を構成する材料としては、例えば、1、2、4−トリアゾール誘導体(TAZ)等のニトロ置換フルオレン、ジフェニルキソン誘導体等が挙げられる。
【0075】
次に、発光媒体層19または電子注入層上に、本発明に係る第二電極(対向電極)17を形成した。アクティブマトリクス駆動の有機EL表示装置においては、第二電極は表示領域の全面に形成される。第二電極17の具体的な材料としては、Mg、Al、Yb等の金属単体が用いられる。また、第二電極17と発光媒体層19との間の界面にLi、酸化Li、LiF等の仕事関数が低い金属の酸化物、フッ化物、窒化物などの化合物が1nm程度形成され、安定性・導電性の高いAl又はCuがこの化合物に積層された構造を採用してもよい。また、電子注入効率と安定性とを両立させるため、仕事関数が低いLi、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属1種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系を用いてもよい。具体的に、MgAg、AlLi、CuLi等の合金を使用することができる。また、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、AZO(亜鉛アルミニウム複合酸化物)等の金属複合酸化物からなる透明導電膜を用いることができる。
【0076】
トップエミッション構造を有する有機EL表示装置においては、発光媒体層19から発光された光は、第二電極17を透過する。このため、第二電極17は、可視光波長領域において光透過性を有する必要がある。このため、透明導電膜の膜厚については、可視光波長領域において80%以上の平均光透過性が得られるように膜厚を調節することが好ましい。第二電極17の材料として、Mg、Al、Yb等の金属単体を用いる場合には、膜厚は20nm以下であることが好ましく、2〜7nm以内であることがより好ましい。金属膜の場合の膜厚については、可視光波長領域において70%以上の平均光透過性が得られるように膜厚を調節することが好ましい。
【0077】
第二電極17の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法等のドライプロセスを用いて形成することも可能である。またはスピンコート法、ダイコート法、ディッピング法、スリットコート法、ノズルプリント法、又は凸版印刷法等の印刷法を用いることができる。なお、本発明においては、上記の方法に限定されず、他の方法が用いられてもよい。
【0078】
封止体28は、例えば、第一電極12、隔壁23、発光媒体層19、及び第二電極17が形成された基板11に設けられる。具体的に、基板11の周辺部において、封止体28と基板11とが接着され、封止体28と基板11とが封止される。
トップエミッション構造を有する有機EL表示装置においては、発光媒体層から出射された光は、基板11とは反対側に位置する封止体28を透過し、有機EL表示装置の外部に取り出される。このため、可視光波長領域において高い光透過性が必要である。可視光波長領域において85%以上の平均光透過性が得られていることが好ましい。
【0079】
封止体28の構造として、凹部を有するガラスキャップ又は金属キャップ等の封止キャップ26を用いる場合について説明する。この場合、封止キャップ26の内側の空間に、第一電極12、隔壁23、発光媒体層19、及び第二電極17が配置されるように、封止キャップ26の周辺部と基板11の周辺部と接続され、封止キャップ26と基板11との空間が封止される。封止キャップ26と基板11とは、接着剤を用いて接着される。また、凹部内には、吸湿剤が形成され、窒素ガス等の不活性ガスが充填される。これによって、水分、ガス等が凹部内に浸入することに起因する有機EL素子の劣化を防ぐことができる。
【0080】
また、封止構造として、封止板29及び樹脂層21が用いられた構造を採用してもよい。この場合、第一電極12、隔壁23、発光媒体層19、及び第二電極17が形成された基板11と封止板29との間に樹脂層21が設けられた構造が採用される。この構造を形成する方法としては、封止板29上に樹脂層21を形成し、樹脂層21と基板11とを対向させながら、封止板29と基板11とが貼り合わせる方法が挙げられる。
【0081】
封止体28の材料としては、水分や酸素の透過性が低い基板が用いられる。また、材料の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、耐湿性フィルム等を挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基板の両面にSiOxをCVD法等の既知のドライコーティング法や、ロールコーター法等の既知のウェットコーティング法で形成したフィルム、光透過性の小さいフィルム、吸水性のあるフィルム、又は吸水剤が塗布された重合体フィルム等が挙げられる。耐湿性フィルムの水蒸気透過性は、1×10-6g/m2/day以下であることが好ましい。
【0082】
樹脂層21の材料としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂等からなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物等の熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。樹脂層21を封止板29の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法等を挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を樹脂層21の材料に含有、表面に形成させることもできる。封止板29上に形成される樹脂層21の厚みは、封止される有機EL素子の大きさや形状に応じて任意に決定されるが、2〜500μm程度が望ましい。
【0083】
第一電極12、隔壁23、発光媒体層19、及び第二電極17が形成された基板11と封止体28とを貼り合わせる工程は、不活性ガス雰囲気下あるいは真空下において行われることが好ましい。封止体28の構造として封止板29と樹脂層21からなる2層構造を採用し、樹脂層21の材料として熱可塑性樹脂を使用した場合においては、加熱されたロールを用いて封止体28を基板11に圧着することが好ましい。
【0084】
一方、樹脂層21の材料として熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱されたロールを用いて封止体28を基板11に圧着した後、さらに硬化温度で加熱硬化を行うことが好ましい。
更に、樹脂層21の材料として光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールを用いて封止体28を基板11に圧着した後、さらに光を光硬化性接着樹脂に照射することによって樹脂を硬化することができる。なお、上記の方法においては、封止板29上に樹脂層21を形成したが、基板11上に樹脂層21を形成し、封止板29と基板11とを貼り合わせることも可能である。
【0085】
封止板29を用いて基板11上の有機EL素子を封止する前工程として、又は上記のような封止工程に代えて、例えば、パッシベーション膜からなる封止体28を形成してもよい。この場合、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法又はCVD法等のドライプロセスを用いて、窒化珪素膜、酸化珪素膜、窒化酸化珪素膜等の無機薄膜からなるパッシベーション膜が形成される。また、パッシベーション膜と上記の封止構造とが組み合わされた構造を採用することも可能である。パシベーション膜の膜厚としては、例えば、0.5μ〜5.0μmに設定される。パシベーション膜の透湿性、水蒸気光透過性等に応じて適した膜厚は異なるが、1.0μ〜3.0μmの膜厚が好適である。トップエミッション型の構造においては、上記の特性に加え、光透過性を考慮して封止構造における材料の種類を選択して膜厚を調整する必要がある。可視光波長領域において、全平均の光透過性は70%以上であることが好ましい。
【0086】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
次に、上述した本発明の有機EL表示装置の実施例について説明する。なお本発明は下記の実施例によって制限されない。ここでは、実施例1と比較例1を参照し、有機EL素子の実施例について説明する。
【0087】
[実施例1]
まず、対角が2.2インチサイズのガラス基板(透光性基板)を準備した。このガラス基板上に、スパッタ法を用いてITO(インジウム−錫酸化物)薄膜を基板全面に形成した。次にフォトリソグラフィ法と酸溶液によるエッチング法とを用いてITO薄膜をパターニングした。これによって、複数のラインパターンを有する画素電極を形成した。この複数のラインパターンにおいて、線幅は136μmであり、互いに隣接する線の間隔は30μmである。約40mm角であるガラス基板上には、192本のITOラインが形成されている。
【0088】
次に、第一隔壁23Aを以下のように形成した。基板全面が成膜されるように、CVD法を用いてSiNを成膜した。CVD法においては、純度99.9999のSiH4、NH3、H2ガスを用いた。チャンバ内の基板はホットプレートにより加熱し、基板表面が130℃になるように調節を行った。プラズマ電力を1.5kWで500秒間成膜すること1.5μmの膜厚を得た。この時、真空度は150PaとなるようにSiH4、NH3、H2を1:2:10の比率で供給した。形成されたSiN膜はITOと基板表面の段差により凹凸となっている為、表面研磨を行い基板面から1.3μmまで平坦化処理を行った。
【0089】
平坦化処理を行った第一隔壁上にボジ型感光性レジスト(日本ゼオン製、ZEP520A)を全面にスピンコートした。スピンコート条件として、4000rpmで50秒間回転させた後、ホットプレートにより180℃で5分間ベーキングを行い薄膜とした。レジスト膜形成後に、画素電極パターンの長辺と平行となる部分のみを残して露光、現像、洗浄を行い、レジストパターンを形成した。
【0090】
レジストパターン形成後、反応性イオンエッチングにより第一隔壁の逆テーパー形状を形成する。反応性ガスはフッ素と酸素を用いた。フッ素ガス及び酸素ガスの混合ガスをチャンバ内に導入する。各流量を調整し、フッ素ガスの流量を100sccmとし、酸素ガスの流量を400sccmとし、チャンバ内の圧力が10Paになるように調節を行った。また、高周波電源から13.56MHzの高周波電力700Wを印加した。隔壁部以外の窒化シリコン膜がドライエッチングにより除去され、基板からのテーパー角度が150度となり、頭頂部が37μm、底部が34μmの逆テーパー形状の第一隔壁23Aが形成された。ドライエッチングの後、レジストの剥離を行った。
【0091】
次に、第二隔壁23Bを以下のように形成した。基板全面にポジ型感光性ポリイミド(東レ社製フォトニース、DL−1000)をスピンコートした。スピンコートの条件として、ガラス基板を110rpmで5秒間回転させた後に、ガラス基板を450rpmで20秒間回転させた。ポジ型感光性ポリイミドの膜厚は1.5μmである。第一隔壁23Aと直行するようなフォトマスクを準備し、フォトリソグラフィ法を用いて基板の全面に塗布された感光性樹脂材料をi線ステッパーにより200mJ/cm2露光した。露光した後現像を行い、オーブンを用いて、230℃30分の条件で焼成し、第一隔壁23A間に第二隔壁23Bを得た。こうして形成された第二隔壁は、頭頂部からの順テーパー形状角度が50度となり、頭頂部が21μm、底部が30μm、膜厚が1.3μmとなった。
【0092】
次に、ITOの表面処理として、紫外線照射を行った。UV/O3洗浄装置を用いて隔壁が形成されたガラス基板に紫外線照射を3分間行った。紫外線照射前のITOの仕事関数は、4.8eVであった。紫外線照射前のITOの仕事関数は、5.3eVであった。
次に、正孔輸送層14を形成した。正孔輸送層14を構成する無機材料として酸化モリブデンを用いた。表示領域の全面が成膜されるように、スパッタリング法を用いて無機材料を20nm成膜した。スパッタリング法おいては、純度99.9%のモリブデン金属ターゲットを用いて、不活性ガスであるアルゴンと反応性ガスである酸素をスパッタリング装置のチャンバ内に供給した。また、リアクティブDCマグネトロンスパッタ法を用いて酸化モリブデンをアクティブマトリックス基板101上に成膜した。ターゲットの電力密度は、1.3W/cm2である。チャンバ内に供給される混合ガスの比率としては、アルゴンが2であるのに対して、酸素が1である。スパッタリング時の真空度が0.3Paとなるように、チャンバに設けられた排気バルブを調整し、チャンバに供給されるガスの量を調節した。酸化モリブデンの膜厚は、スパッタリング時間を調整することにより、制御した。パターニング工程においては、33mm×33mmの開口を有するメタルマスクを用いた。
【0093】
次に、有機発光材料として、ポリフェニレンビニレン誘導体を採用し、この材料の濃度が1%になるように、この材料がトルエンに溶解された有機発光インキを準備した。このインキ用いて、第一隔壁と画素電極が配置されている方向に一致するように、凸版印刷法を用いて発光層を印刷した。印刷工程の後に乾燥された発光層の膜厚は、100nmであった。
【0094】
次に、発光層の上にCa、Alからなる陰極層のラインパターンを形成した。具体的には、陰極層のラインパターンと画素電極のラインパターンとが直交するように、抵抗加熱蒸着法を用いるマスク蒸着によって陰極層を形成した。
最後に、外部の酸素又は水分から保護するために、上記のように形成された有機EL構成体を、ガラスキャップと接着剤とを用いて密閉封止し、有機EL表示装置を作製した。
【0095】
このように得られた有機EL表示装置の表示領域の周辺部においては、画素電極毎に接続されている陽極側の取り出し電極と、陰極層に接続されている陰極側の取り出し電極とが設けられている。これら取り出し電極を電源に接続し、有機EL表示素子を点灯かつ表示させ、点灯状態及び表示状態を確認した。
このように得られた有機EL素子を駆動したところ、7Vの駆動電圧で、750cd/cm2の輝度が得られ、発光効率は12cd/Aであった。発光画素を撮影した画像の発光面積と、設計の画素電極面積から開口率を計算した結果、75%となった。
【0096】
[比較例1]
まず、実施例1と同様に、ガラス基板を準備し、画素電極を形成した。
次に、比較例1においては、逆テーパー形状の第一隔壁23Aを形成せずに、基板全面にポジ型感光性ポリイミド(東レ社製フォトニース、DL−1000)をスピンコートした。スピンコートの条件として、ガラス基板を110rpmで5秒間回転させた後に、ガラス基板を450rpmで20秒間回転させた。ポジ型感光性ポリイミドの膜厚は1.5μmである。実施例1の第一隔壁23Aと第二隔壁23Bを合わせたパターンになるように露光、現像と行い隔壁23を得た。こうして形成された隔壁は、基板表とのテーパー角度が45度となり、頭頂部が15μm、底部が35μm、膜厚が1.3μmとなった。
【0097】
次に、実施例1と同様に、ITOの表面処理、正孔輸送層、発光層、及び陰極層を形成した。
このように得られた有機EL表示素子を駆動したところ、7Vの駆動電圧で、500cd/cm2の輝度が得られ、発光効率は10cd/Aであった。発光画素を撮影した画像の発光面積と、設計の画素電極面積から開口率を計算した結果、55%となった。
【0098】
次に、実施例2と比較例2を参照し、アクティブマトリクス駆動型有機EL表示装置の例である有機EL表示装置の実施例について説明する。
[実施例2]
まず、アクティブマトリクス基板を準備した。このアクティブマトリクス基板においては、第一電極(画素電極)としてITO薄膜が形成されており、ITO薄膜は基板内部のTFTと接続されている。表示領域のサイズは対角6インチであり、画素数は320×240である。
【0099】
次に、基板上に設けられている第一電極の端部を被覆するように、かつ、複数の画素の各々を区画するように隔壁を形成した。実施例1と同様に第一隔壁と第二隔壁の二層を形成し、この隔壁(第一隔壁、第二隔壁)によって、サブピクセル数が960×240ドットであり、0.12mm×0.36mmの面積を有する画素領域が区画された。TFTを駆動させるためには、TFT上に絶縁層を形成する必要があるが、前記隔壁がTFTの絶縁層としての機能を兼ねてもいる。
【0100】
隔壁が形成されたアクティブマトリックス基板上に実施例1と同様にUV/O3洗浄を行った。
UV/O3洗浄が施されたアクティブマトリックス基板に、実施例1と同様に正孔輸送層を形成した。酸化モリブデンの膜厚は30nmとした。
アクティブマトリックス基板上の表示領域全面が成膜されるように116mm×87mmの開口を有するメタルマスクを用いてパターニングを行った。
【0101】
次に、インターレイヤの材料としてポリビニルカルバゾール誘導体を採用し、この材料の濃度が0.5%になるように、この材料をトルエンに溶解させた。これによって、インターレイヤの材料となるインキを得た。
次に、画素電極、隔壁、及び正孔輸送層が形成された基板を被印刷基板602として、図6に示す凸版印刷装置600にセッティングした。
【0102】
凸版印刷装置600は、アニロックスロール605と、ドクタ606と、感光性樹脂で形成された凸版607と、版胴608とを含む。アニロックスロール605の表面には、インキ層609が塗布される。
被印刷基板602上には、隔壁で囲まれた画素電極が形成され、画素電極上には、正孔輸送層が形成されている。
【0103】
上記インキを用いて、第一隔壁と画素電極が配置されている方向に一致するように、インターレイヤを正孔輸送層上に凸版印刷法を用いて印刷した。このような凸版印刷法においては、300線/インチのアニロックスロール605及び凸版607を使用した。インキが印刷され、かつ、インキが乾燥された後のインターレイヤの膜厚は、20nmであった。
【0104】
次に、有機発光層の有機発光材料として、ポリフェニレンビニレン誘導体を採用し、この材料の濃度が1%になるように、この材料をトルエンに溶解させた。これによって、有機発光層の材料となる有機発光インキを得た。
次に、画素電極102、隔壁203、正孔輸送層104、及びインターレイヤ105が形成された基板101を被印刷基板602として、図6に示す凸版印刷装置600にセッティングした。
【0105】
被印刷基板602上には、隔壁で囲まれたインターレイヤが形成されている。
上記有機発光インキを用いて、インターレイヤ205のラインパターンに一致するように、有機発光層をインターレイヤ上に凸版印刷法を用いて印刷した。このような凸版印刷法においては、150線/インチのアニロックスロール605及び感光性樹脂で形成された凸版607を使用した。インキが印刷され、かつ、インキが乾燥された後の有機発光層の膜厚は80nmであった。
【0106】
次に、真空蒸着法を用いて、第二電極(対向電極)としてカルシウム膜を有機発光層上に5nmの厚さで成膜した。カルシウム膜の形成工程においては、116mm×87mmの開口を有するメタルマスクを用いた。その後、真空蒸着法を用いて、アルミニウム膜をカルシウム膜上に200nmの厚さで形成した。アルミニウム膜の形成工程においては、120mm×90mmの開口を有するメタルマスクを用いた。
【0107】
その後、封止体として、中央部が凹状に加工されたガラス基板を準備した。封止体の凹部内に第二電極(陰極)が配置されるように、封止体とアクティブマトリックス基板とを接合した。また、ガラス基板(封止体)の凹部には、水分又は酸素の浸入に起因する劣化を防止するために、吸湿剤を設置した。
このように得られた有機EL表示装置を駆動したところ、7Vの駆動電圧で700cd/cm2の輝度が得られ、発光効率は11cd/Aであった。発光画素を撮影した画像の発光面積と、設計の画素電極面積から開口率を計算した結果、75%となった。
【0108】
[比較例2]
まず、実施例2と同様に、アクティブマトリックス基板を準備した。次に、比較例1と同様に隔壁を形成した。発光媒体層の成膜工程、封止工程は、実施例2と同様に行われた。
このようにして得られた有機EL表示装置を駆動したところ、7Vの駆動電圧で470cd/cm2の輝度が得られ、発光効率は8cd/Aであった。発光画素を撮影した画像の発光面積と、設計の画素電極面積から開口率を計算した結果、50%となった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上詳述したように、本発明は、画素を区分する隔壁上を含む表示領域全体に所定の発光媒体層が形成された有機EL表示装置において、リーク電流を低減又は抑制することのできる有機EL表示装置及びその製造方法に有用である。また、本発明は、リーク電流を低減させ、素子特性を向上させた有機EL素子、画像表示装置、及び画像表示装置の製造方法に有用である。
【符号の説明】
【0110】
11・・・基板
12・・・第一電極(画素電極)
14・・・正孔輸送層/正孔注入層
15・・・インターレイヤ
16・・・発光層
17・・・第二電極(陰極)
19・・・発光媒体層
21・・・樹脂層
23・・・隔壁
23A・・・第一隔壁
23B・・・第二隔壁
26・・・封止キャップ
28・・・封止体
29・・・封止板
31・・・反射層
50、51・・・表示装置(有機EL素子)
600・・・凸版印刷装置
601・・・ステージ
602・・・被印刷基板
603・・・インキタンク
604・・・インキチャンバ
605・・・アニロックスロール
606・・・ドクタ
607・・・凸版
608・・・版胴
609・・・インキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、画素領域を有する第一電極と、
前記基板上に形成され、前記第一電極を区画する隔壁と、
前記画素領域上に形成され、少なくとも有機材料からなる発光層を含み、少なくとも一層がライン状パターンで印刷された発光媒体層と、
前記発光媒体層上に形成され、発光媒体層を覆うように成膜された第二電極と、
を備え、
前記隔壁は、
前記ライン状パターンと平行に形成され、前記基板側が先細りの逆テーパー形状を少なくとも一部に有する第一隔壁と、
前記第一隔壁と直交に形成され、前記基板側が先太りの順テーパー形状を有する第二隔壁と、
を備えたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL素子であって、
前記第一隔壁の厚みは、0.3μm以上5.0μm以下であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項3】
請求項1に記載の有機EL素子であって、
前記第二隔壁の厚みは、0.1μm以上5.0μm以下であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項4】
請求項2または3に記載の有機EL素子であって、
前記第一隔壁の高さが前記第二隔壁の高さよりも高いことを特徴とする有機EL素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機EL素子であって、
前記発光媒体層の膜厚は、前記第二隔壁の総膜厚より薄いことを特徴とする有機EL素子。
【請求項6】
請求項1に記載の有機EL素子であって、
前記第一電極は、透明な電極であり、
前記第一電極と前記第二電極との間において、前記発光媒体層が形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項7】
請求項1に記載の有機EL素子であって、
前記第二電極は、透明な電極であり、
前記第一電極と前記第二電極との間において、前記発光媒体層が形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項8】
請求項1に記載の有機EL素子を表示素子として用いたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項9】
基板上に第一電極を形成し、
前記基板上に有する第一電極を形成し、
前記基板上に前記第一電極を区画する隔壁を形成し、
前記画素領域状に少なくとも有機材料からなる発光層を含み、少なくとも一層をライン状パターンで印刷して発光媒体層を形成し、
前記発光媒体層上に当該発光媒体層を覆うように第二電極を成膜して形成する有機EL素子の製造方法であって、
前記隔膜として、
前記ライン状パターンと平行で、前記基板側が先細りの逆テーパー形状を少なくとも一部に有する第一隔壁と、
前記第一隔壁と直交に形成され、前記基板側が先太りの順テーパー形状を有する第二隔壁と、
を形成することを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の有機EL素子の製造方法を用いて、表示素子を形成することを特徴とする画像表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−209138(P2012−209138A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74290(P2011−74290)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】