説明

有機EL素子

【課題】 本発明は、簡単な構成により、発光強度のピーク半値幅が狭く、且つ高い輝度を有するようにした有機EL素子を提供することを目的とする。
【解決手段】 互いに屈折率の異なる二種類の材料から成る薄膜が交互に積層されることにより構成された多層膜ミラー12と、この多層膜ミラーの表面に順次に形成された透明電極14,少なくとも一層以上の発光層15を含む複数の有機層,陰極層16及び反射ミラーと、を含んでおり、上記多層膜ミラー及び反射ミラーにより微小共振器が構成されている有機EL素子10であって、上記多層膜ミラー12の反射率が80%以上であって、上記反射ミラーの反射率が85%以上であると共に、上記多層膜ミラーの反射率より大きくなるように、有機EL素子10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子、特に半透過ミラー及び反射ミラーから成る微小共振器構造を備えた有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己発光型の表示素子として、近年、有機物発光層に対して電流を注入して、電気エネルギーを光エネルギーに変換して発光する有機EL素子が開発され、特に芳香族ジアミンから成る有機正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体から成る有機発光層とを含む有機EL素子により、それまでのアントラセン等を用いた電界発光素子と比較して、発光効率が向上するようになってきている。
【0003】
さらに、例えば特許文献1等によれば、このような有機EL素子に対して、微小共振器構造を採用したものが開示されており、光の干渉効果を利用して、特定の波長にて、比較的発光強度が高く且つスペクトル半値幅が狭い光を取り出すことができる。
【0004】
このような共振器構造を備えた有機EL素子は、例えば図8に示すように構成されている。
即ち、図8において、有機EL素子1は、透明基板2上に順次に真空蒸着法等によって形成された半透過ミラー3,透明電極層4,正孔輸送層5,有機発光層6及び反射ミラーとしても機能する陰極層7から構成されている。
【0005】
上記透明基板2は、ガラス,プラスチック等の透明材料から成り、所定の厚さに形成されている。
【0006】
上記半透過ミラー3は、例えば屈折率の異なる二種類の酸化物,窒化物または半導体の薄膜を交互に積層させることにより構成された多層膜ミラーが主に使用される。
ここで、上記半透過ミラー3は、具体的には例えばTiO2 とSiO2 、SiNX とSiO2 、Ta2 5 とSiO2 、あるいはGaAsとGaInAsの組合せにより構成されている。
このようにして、半透過ミラー3を構成する各薄膜の厚さ(光学長)を、発光部から出射する光の波長λに対して、λ/4に設定することにより、高い反射率が得られることになる。
【0007】
上記透明電極4は、例えばニッケル,金,白金,パラジウムやこれらの合金、または酸化スズ(SnO2 )、ヨウ化銅等の仕事関数の大きな金属やそれらの合金,化合物、そしてさらにポリピロール等の導電性ポリマー等から形成され得るが、一般的には多くの場合ITOから構成されており、陽極側の電極として機能するようになっている。
【0008】
上記正孔輸送層5は、上記透明電極4(陽極)側からホールが注入されやすくすると共に、電子をブロックする機能を有している。
上記有機発光層6は、後述する陰極層7から電子が注入されやすくする機能を備えている。
【0009】
上記陰極層7は、好ましくは電子注入に有効な材料、例えば電子注入効率の向上を図ることができる仕事関数の比較的小さな金属材料(低仕事関数金属材料)から構成され、例えばアルミニウム,マグネシウム,マグネシウムインジウム合金,マグネシウムアルミニウム合金、マグネシウム銀合金や、アルミニウムリチウム合金等が使用され、例えば真空蒸着法やスパッタリング法の所謂ドライプロセスによって、成膜され得る。
【0010】
このような構成の有機EL素子1によれば、透明電極4及び陰極層7の間に直流電圧が印加されると、透明電極4から注入されたホールと、陰極層7から注入された電子が、有機層である正孔輸送層5及び有機発光層6内にて、電子−ホールの再結合を生じさせる。その結果、電気エネルギーが光エネルギーに変換されて、有機発光層6から光が放出されることになる。
そして、この光が、半透過ミラー3と反射ミラーとして機能する陰極層7により構成される微小共振器により、特定波長のみが共振により強調され、有機EL素子1の外部に出射することになる。
【0011】
このとき、共振する光の波長は、半透過ミラー3と反射ミラーとしての陰極層7との間の距離に依存して決定される。従って、使用する光の波長に合わせて、透明電極4や有機層である正孔輸送層5及び有機発光層6の膜厚を調整し、あるいは透明電極4と半透過ミラー3との間に、透明なバッファ層を挿入することによって、所望の光の波長を強調して有機EL素子1の有機発光層6から出射させることが可能である。
【0012】
図9は、上述した有機EL素子1および微小共振器構造を有さない有機EL素子の発光スペクトルを示すグラフである。
図9において、符号A,Bで示す有機EL素子1の発光スペクトルでは、上述した半透過ミラー3及び反射ミラーとしての陰極層7により微小共振器構造を有していることから、上記発光スペクトルの半値幅が比較的狭くなって、色純度が高くなる。
また、発光スペクトルのピーク強度は、図9に符号Cで示す、微小共振器構造を備えない有機EL素子のピーク強度と比較して、高くなる傾向にある。また、有機EL素子1に対する観察角度を0度から20度まで変化させたとき、発光ピーク波長は、符号Aから符号Bで示すように、短波長側にシフトする。
これにより、観察角度毎に種々色の発光が観察され得るということが分かる。
【0013】
これに対して有機層5,6を含む有機層5は、例えばトリスアルミニウム(8−ヒドロキシキナリナト)アルミニウム(以下、Alq3という)や、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)1,1’−ビフェニル−4−4’−ジアミン(以下、TPDという)等の低分子系材料、そしてポリパラフェニレンビニレン(PPVという)等の高分子系材料から構成されることによって、高輝度発光,多色発光等の研究開発が活発になされ、一部で実用化もされている。
【特許文献1】特許第3274527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このような構成の有機EL素子1においては、有機層を構成する有機材料の選定とは別に、微小共振器に関して、半透過ミラーの反射率を高めることにより、半値幅の比較的狭い発光スペクトルを得ることができるが、半値幅を狭くする分だけ光が遮断される結果、有機EL素子全体として輝度が低下してしまい、効率の良い発光が得られなくなってしまう。
【0015】
本発明は、以上の点から、簡単な構成により、発光強度のピーク半値幅が狭く、且つ高い輝度を有するようにした有機EL素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的は、本発明によれば、互いに屈折率の異なる二種類の材料から成る薄膜が交互に積層されることにより構成された多層膜ミラーと、この多層膜ミラーの表面に順次に形成された透明電極層,少なくとも一層以上の発光層を含む複数の有機層,陰極層及び反射ミラーと、を含んでおり、上記多層膜ミラー及び反射ミラーにより微小共振器が構成されている有機EL素子であって、上記多層膜ミラーの反射率が80%以上であって、上記反射ミラーの反射率が85%以上であると共に、上記多層膜ミラーの反射率より大きいことを特徴とする、有機EL素子により、達成される。
【0017】
本発明による有機EL素子は、好ましくは、上記反射ミラーの反射率が90%以上である。
【0018】
本発明による有機EL素子は、好ましくは、上記反射ミラー及び陰極層が一体に金属薄膜により構成されている。
【0019】
本発明による有機EL素子は、好ましくは、上記陰極層が、上記反射ミラーと別体に、半透明または透明電極として構成されている。
【0020】
本発明による有機EL素子は、好ましくは、上記陰極層が、導電性金属から成る半透膜または透明導電膜から構成されており、上記反射ミラーが、上記陰極層上にて互いに屈折率の異なる二種類の材料の組合せから成る少なくとも一組以上の誘電体層が成膜され、好ましくはさらにこの誘電体層上に成膜された銀,アルミニウム,金,銅またはロジウムあるいはこれらの合金から成る金属層から構成されており、上記反射ミラーの反射率が90%以上である。
【発明の効果】
【0021】
上記構成によれば、上記多層膜ミラーの反射率が80%以上であって、上記反射ミラーの反射率が85%以上であることから、上記多層膜ミラー及び反射ミラーの間で、有機層内の発光層から出射した光が比較的高い反射率で効率良く反射を繰り返すことにより共振して、発光スペクトルの半値幅が狭くなると共に、発光強度が効率的に高められることになる。
ここで、多層膜ミラーの反射率が高いほど、発光スペクトルのピーク波長における発光強度が高くなるが、輝度は緩やかに低下することになる。
また、反射ミラーの反射率が多層膜ミラーの反射率より小さくなると、上記ピーク波長における発光強度及び輝度が大きく低下することになる。
【0022】
上記反射ミラーの反射率が90%以上である場合には、反射ミラーでの反射効率がさらに高められることによって、発光スペクトルのピーク波長における発光強度がさらに増大することになる。
【0023】
上記反射ミラー及び陰極層が一体に金属薄膜により構成されている場合に、上記反射ミラーおよび陰極層は、有機層に対して電子注入が行え、使用する光の波長に於ける反射率は高い程良い。上記反射ミラーは、使用する光の波長に合せて銀,アルミニウム,金,銅またはロジウム及びこれらの合金から構成することができる。また、その反射率は90%以上に設定されることにより、簡単な構成で高い反射率が得られることになる。設定される反射率の上限は特にないが、これより反射率が低いと発光ピーク強度及び輝度は低下してしまう。又、Li,Ca,Sr,Cs等の仕事関数の低い金属、或いはLiF,CaF,LiO等の仕事関数の低い金属の弗化物又は酸化物を電子注入層として有機層上に薄く成膜し、その上に反射ミラー及び陰極層を形成しても良い。反射ミラー及び陰極層の厚さとしては電子注入を十分行え、尚かつ反射率が低下しない一定以上の厚さがあれば良く、100nm以上有ればよい。上限としては限りが無いが、100〜500nm程度が好ましい。
【0024】
上記陰極層が、上記反射ミラーと別体に、半透明または透明電極として構成されている場合には、上記反射ミラーは、導電性を考慮することなく、最適な材料によって形成され得ることになる。
【0025】
上記陰極層は、導電性金属から成る半透膜または透明導電膜から構成されており、その上に反射ミラーを形成する。半透明な電極材料としては、銀,白金などが挙げられる。又透明な電極材料としてはITO,IZO,ZnO,SnO2 等の透明導電膜を用いることができる。上記反射ミラーとしては銀,アルミニウム,金,銅,ロジウム及びこれらの合金から成る金属層を用いることができる。上記反射ミラーの反射率が90%以上である場合には、反射ミラー及び多層膜ミラーの間での共振効果がより一層高められることによって、発光スペクトルのピーク波長における発光強度そして輝度がより一層高められることになる。
また、これら金属材料よりも更に高い反射率を得るため、屈折率の異なる2種類の組み合わせからなる誘導体層を少なくとも1層以上成膜した構造か、或いはこの誘導体層の上に更に銀,アルミニウム,金,銅,ロジウム及びこれらの合金から成る金属層を成膜して成る反射ミラーとしても良い。この反射ミラーの構造により95%以上の反射率を実現することができる。尚、屈折率の異なる誘電体層に使用される材料は上記多層膜ミラーに使用される材料が用いられる。
【0026】
このようにして、本発明によれば、従来の微小共振器構造を備えた有機EL素子と比較して、半値幅が狭くても、発光スペクトルのピーク波長における発光強度が高められ得ることになり、高輝度の発光が得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の好適な実施形態を図1乃至図7を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明による有機EL素子の一実施形態の構成を示している。
図1において、有機EL素子10は、透明基板11上に順次に真空蒸着法等によって形成された半透過ミラー12,陽極としての透明電極13,正孔輸送層14,有機発光層15及び反射ミラーとしても機能する陰極層16から構成されている。
【0029】
上記透明基板11は、透明または半透明なガラス,PET,ポリカーボネイト,非晶質ポリオレフィン等の材料から成り、必要な強度を得るために所定の厚さに形成されている。
【0030】
上記半透過ミラー12は、例えば屈折率の異なる二種類の酸化物,窒化物または半導体の薄膜を交互に積層させることにより構成された多層膜ミラーが主に使用される。
ここで、上記半透過ミラー12は、具体的には例えばTiO2 とSiO2 、SiNX とSiO2 、Ta2 5 とSiO2 、あるいはGaAsとGaInAsの組合せにより構成されている。尚、上記半透過ミラー12は、さらにSiO,Al2 3 ,ZrO2 ,Sb2 3 ,TiO,HfO2 ,Y2 3 ,MgO,CeO2 ,Nb2 5 ,MgF,SrF2 ,BaF2 等から互いに屈折率の異なる二種類の組合せを適宜に選択して形成されるようにしてもよい。
このようにして、半透過ミラー12を構成する多層膜ミラーの各薄膜の厚さ(光学長)を、発光部から出射する光の波長λに対して、λ/4に設定することにより、高い反射率が得られることになる。
【0031】
そして、このような構成の半透過ミラー12は、例えば図2にて符号Aで示すような反射率特性を有している。
ここで、半透過ミラー12の反射率特性は、その高反射率領域が、図2にて符号Bで示す有機発光層15の発光特性(後述)の発光領域全体を覆うように、選定されている。
また、半透過ミラー12の反射率特性は、その有機発光層15からの光の波長域で80%以上の反射率を有している。これより低い反射率の場合、ピーク波長における発光強度が低下してしまう。
【0032】
上記透明電極13は、仕事関数の大きな導電材料から構成され、好ましくは例えばITO,SnO2 ,ZnO等の透明導電膜が使用されるが、金等の半透明膜であってもよい。
ここで、上記透明電極13は、好ましくは発光部からの光に対して透過率が80%以上になるように構成され、厚さは例えば10乃至500nm程度に選定される。
【0033】
上記正孔輸送層14は、上記透明電極13(陽極)側からホールが注入されやすくすると共に、電子をブロックする機能を有している。
そして、上記正孔輸送層14は、好ましくは正孔移動度が高く、透明で且つ成膜性の良好であって、例えばTPD等のトリフェニルアミン誘導体や、フタロシアニン,銅フタロシアニン等のポリオレフィン系化合物,ヒドラゾン誘導体,アリールアミン誘導体等が使用される。
【0034】
尚、上記正孔輸送層14は、正孔注入機能を有する第一の層と、正孔輸送機能を有する第二の層とに分割して、個別に備えるようにしてもよい。
この場合、第一の層は、透明電極13(陽極)からの正孔の注入を容易にする機能を有し、第二の層は、正孔を輸送する機能及び電子を妨げる機能を有する。
尚、この第一の層及び第二の層は、好ましくはそれぞれ10乃至200nm程度の膜厚を有する。
【0035】
上記有機発光層15は、再結合による発光効率の高いこと、薄膜性が良好であること、そして輸送材料との界面で強い相互作用の無いことが望ましく、例えばアルミキレート錯体(Alq3),ジスチリルビフェニル誘導体(DPVBi)等のジスチリルアリーレン(DSA)系の誘導体,キナクリドン誘導体,ルブレン,クマリン,ペリレン系等の材料が使用され、またこれらの材料を単層または二種類以上を混合して使用され得る。
上記有機発光層15は、好ましくは例えば10乃至200nm程度の膜厚を有している。
尚、上記有機発光層15は、多層に積層されていてもよい。
これにより、上記有機発光層15は、図2にて符号Bで示すような発光スペクトルを有しており、そのピーク波長は521nmである。
【0036】
上記陰極層16は、有機層に対して電子注入を行なうことができると共に、上記有機発光層15からの光の波長における反射率が高い材料、例えば銀,アルミニウム,金,銅及びロジウムまたはこれらの合金から構成される。
そして、上記陰極層16は、85%以上、好ましくは90%以上の反射率を備えている。反射率がこれより低いと、発光スペクトルのピーク波長における発光強度そして輝度が低下してしまう。
また、上記陰極層16は、反射ミラーとしての反射率が、有機発光層15からの光の波長にて、前述した半透過ミラー(多層膜ミラー)12の反射率より高く選定されている。陰極層16の反射率が半透過ミラー12の反射率より低いと、発光スペクトルのピーク波長における発光強度そして輝度が低下してしまう。
【0037】
尚、上記陰極層16と有機発光層15との間にて、Li,Ca,Sr,Cs等の仕事関数の低い金属、あるいはLiF,CaF,LiO等の仕事関数の低い金属のフッ化物または酸化物から成る電子注入層を有機発光層15上に成膜してもよい。
【0038】
そして、上記陰極層16は、有機発光層15に対する電子注入を十分に行なうことができ、且つ反射率が低下しない程度の厚さがあればよく、例えば100乃至500nm程度の膜厚を有している。
【0039】
尚、上記陰極層16は反射ミラーとしての機能を有しているが、これに限らず、陰極層16とは別体に反射ミラーを設けるようにしてもよい。
この場合、有機発光層15の上に、半透明または透明な電極(陰極)を形成し、その上に反射ミラーを形成すればよい。
ここで、半透明な電極は、例えば銀,白金等の薄膜から構成され、透明電極は、ITO,IZO,ZnO,SnO2 等から構成され得る。
【0040】
これに対して、反射ミラーは、銀,アルミニウム,金,銅及びロジウムあるいはこれらの合金から成る金属膜から構成される。
また、さらに反射率を高めるために、反射ミラーは、互いに屈折率の異なる二種類の組合せから成る誘電体層を少なくとも一組以上成膜し、あるいはさらに上記誘電体層の上に銀,アルミニウム,金,銅及びロジウムまたはこれらの合金から成る金属膜を成膜することにより、構成される。これにより、例えば95%以上の反射率が得られる。
【0041】
尚、上記互いに屈折率の異なる誘電体層の材料は、前述した半透過ミラー(多層膜ミラー)12に使用される材料と同じ材料であってもよい。
また、この場合も、上記陰極と反射ミラーとの間に、前述の電子注入層を備えるようにしてもよい。
【0042】
本発明実施形態による有機EL素子10は、以上のように構成されており、透明電極13及び陰極層16の間に直流電圧が印加されると、透明電極13から正孔輸送層14を介して注入されたホールと、陰極層16から注入された電子が、有機層である有機発光層15内にて、電子−ホールの再結合を生じさせる。その結果、電気エネルギーが光エネルギーに変換されて、有機発光層15から光が放出されることになる。
そして、この光が、半透過ミラー12と反射ミラーとして機能する陰極層16により構成される微小共振器により、特定波長のみが共振により強調されることにより、ピーク波長の半値幅が狭くなる。
【0043】
このとき、半透過ミラー12の反射率が80%以上であり、陰極層16の反射率が85%以上、好ましくは90%以上であることから、半透過ミラー12及び陰極層16での光の反射効率が向上する。従って、半透過ミラー12及び陰極層16から成る微小共振器内で反射を繰り返しても、光損失が抑制されることになるので、共振効果が高められることになり、ピーク波長における発光強度が高められることになる。
また、陰極層16(反射ミラー)の反射率が、半透過ミラー12の反射率より高いことから、光の取出し効率が向上することになり、有機EL素子10からの光の輝度が高められることになる。
【0044】
上述した有機EL素子10について、いくつかの実験例及び半透過ミラーのない比較例により、その効果を評価した。
【実験例1】
【0045】
ガラス基板上に、SiO2 (膜厚94nm)/TiO2 (膜厚63nm)の組合せによる誘電体膜を六組、EB蒸着により成膜して半透過ミラー(多層膜ミラー)12を作製した。この多層膜ミラー12の反射率特性は、図3に示すように、有機発光層15の発光スペクトルのピーク波長(521nm)にて94%の反射率であった。
この多層膜ミラー12の上に、ITOによる透明電極13をスパッタ法により76nmの膜厚で成膜し、ITO基板を作製した。この透明電極13の抵抗値は、25Ω/□である。
【0046】
続いて、このITO基板を所定の形状にエッチングした後、アセトン,イソプロピルアルコール等で超音波洗浄し、乾燥させ、さらにUV−O3 洗浄した後、真空蒸着槽内にセットし、1×10-5Torrに減圧した。
そして、このITO基板上に、まず正孔輸送層としてα−NPDを0.2乃至0.4nm/秒のレートで111nmの膜厚に蒸着し、続いて緑色発光層としてクマリン誘導体をドープしたAlq3を0.2乃至0.4nmのレートで5nmの膜厚に蒸着し、次に電子輸送層としてAlq3を0.2乃至0.4nmのレートで69nmの膜厚に蒸着し、さらに電子注入層としてLiを1nm蒸着し、陰極層として銀を200nmの膜厚に蒸着した。
ここで、陰極としての銀は、上記ピーク波長521nmにおける反射率が96%であった。
【実験例2】
【0047】
上記実験例1に対して、多層膜ミラーを、SiO2 (膜厚94nm)/TiO2 (膜厚63nm)の組合せによる誘電体膜を四組、EB蒸着により成膜することにより、作製した。他の条件は、実験例1と同じである。
この場合、ピーク波長521nmにおける多層膜ミラーの反射率を、84%とした。
【実験例3】
【0048】
上記実験例1に対して、多層膜ミラーを、SiO2 (膜厚94nm)/TiO2 (膜厚63nm)の組合せによる誘電体膜を三組、EB蒸着により成膜することにより、作製した。他の条件は、実験例1と同じである。
この場合、ピーク波長521nmにおける多層膜ミラーの反射率を、70%とした。
【実験例4】
【0049】
上記実験例1に対して、多層膜ミラーを、SiO2 (膜厚94nm)/TiO2 (膜厚63nm)の組合せによる誘電体膜を六組、EB蒸着により成膜することにより、作製した。他の条件は、実験例1と同じである。
この場合、ピーク波長521nmにおける多層膜ミラーの反射率を、98%とした。
【比較例1】
【0050】
これに対して、ガラス基板上に、誘電体膜を成膜せず、直接に透明電極13を成膜した。他の条件は、実験例1と同じであるが、多層膜ミラーのない、即ち微小共振器構造のない有機EL素子とした。
【実験例5】
【0051】
上記実験例1に対して、陰極としてAlを膜厚200nm蒸着した。他の条件は、実験例1と同じである。
この場合、ピーク波長521nmにおける反射ミラーの反射率を、91%とした。
【比較例2】
【0052】
これに対して、ガラス基板上に、誘電体膜を成膜せず、直接に透明電極13を成膜した。他の条件は、実験例5と同じであるが、微小共振器構造のない有機EL素子とした。
【実験例6】
【0053】
上記実験例5に対して、陰極としてAlを真空度5×10-5Torr程度にて膜厚200nm蒸着した。他の条件は、実験例5と同じである。
この場合、ピーク波長521nmにおける反射ミラーの反射率を、85%とした。
【比較例3】
【0054】
これに対して、ガラス基板上に、誘電体膜を成膜せず、直接に透明電極13を成膜した。他の条件は、実験例6と同じであるが、微小共振器構造のない有機EL素子とした。
【実験例7】
【0055】
上記実験例5に対して、陰極としてAlを真空度5×10-5Torr程度にて膜厚200nm蒸着した。他の条件は、実験例5と同じである。
この場合、ピーク波長521nmにおける反射ミラーの反射率を、71%とした。
【比較例4】
【0056】
これに対して、ガラス基板上に、誘電体膜を成膜せず、直接に透明電極13を成膜した。他の条件は、実験例7と同じであるが、微小共振器構造のない有機EL素子とした。
【0057】
このようにして、実験例1〜7においては、図4の表に示すように、半透過ミラー(多層膜ミラー)及び陰極層(反射ミラー)の双方の反射率をそれぞれ変化させた有機EL素子が作製されることになる。
【0058】
ここで、まず実験例1乃至4の結果に基づいて、反射ミラーの反射率を96%に固定して、多層膜ミラーの反射率を変化させた場合について考察する。
上記実験例1及び比較例1で作製した有機EL素子について、25mA/cm2 通電時における発光特性は、図5に示す通りである。
即ち、実験例1の場合、微小共振器構造の効果によって、521nmにピークを有する半値幅の狭い発光特性となり、輝度1550cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.365W/m2 ・srという値が得られた。
これに対して、比較例1では、微小共振器構造を持たないことから、輝度2100cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.0673W/m2 ・srという値が得られた。
従って、実験例1では、比較例1に対する特性の比率が、輝度0.74倍,521nmにおける発光強度5.42倍であった。
即ち、多層膜ミラーの反射率を94%,反射ミラーの反射率を96%とすることにより、輝度及びピーク波長における発光強度が共に高い値となった。
【0059】
また、実験例2と比較例1との比較において、実験例2では、521nmにピークを有する半値幅の狭い発光特性となり、輝度1909cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.234W/m2 ・srという値が得られた。
従って、実験例2では、比較例1に対する特性の比率が、輝度0.91倍,521nmにおける発光強度3.47倍であった。
即ち、多層膜ミラーの反射率を84%,反射ミラーの反射率を96%とすることにより、実験例1より輝度が上昇し、ピーク波長における発光強度はやや低下したが、輝度及びピーク波長における発光強度が共に良好な比較的高い値となった。ここで、輝度の上昇は、半値幅が実験例1よりも少し広くなったことによるものである。
【0060】
さらに、実験例3と比較例1との比較において、実験例3では、521nmにピークを有する半値幅の狭い発光特性となり、輝度1921cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.128W/m2 ・srという値が得られた。
従って、実験例3では、比較例1に対する特性の比率が、輝度0.91倍,521nmにおける発光強度1.90倍であった。
即ち、多層膜ミラーの反射率を70%,反射ミラーの反射率を96%とすることにより、実験例2と同等の輝度となり、ピーク波長における発光強度はさらに低下した。
【0061】
また、実験例4と比較例1との比較において、実験例4では、521nmにピークを有する半値幅の狭い発光特性となり、輝度790cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.199W/m2 ・srという値が得られた。
従って、実験例4では、比較例1に対する特性の比率が、輝度0.376倍,521nmにおける発光強度2.96倍であった。
即ち、多層膜ミラーの反射率を98%,反射ミラーの反射率を96%と、多層膜ミラーの反射率を反射ミラーの反射率より高くすることにより、実験例1より輝度及びピーク波長における発光強度が低下する結果となった。
【0062】
このようにして、実験例1乃至4の測定結果から、多層膜ミラーの反射率と輝度及びピーク波長(521nm)における発光強度との関係は、図6に示すようになる。
即ち、多層膜ミラーの反射率が高いほど、ピーク波長における発光強度が高くなると共に、輝度がゆるやかに低下する傾向にあるが、多層膜ミラーの反射率が反射ミラーの反射率より高くなると、上記輝度及びピーク波長における発光強度が共に大きく低下していることが分かる。
【0063】
続いて、実験例1,5乃至7の結果に基づいて、多層膜ミラーの反射率を94%に固定して、反射ミラーの反射率を変化させた場合について考察する。
実験例5と比較例2との比較において、実験例5では、521nmにピークを有する半値幅の狭い発光特性となり、輝度830cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.149W/m2 ・srという値が得られた。
これに対して、比較例2では、微小共振器構造を持たないことから、輝度1922cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.0493W/m2 ・srという値が得られた。
従って、実験例5では、比較例2に対する特性の比率が、輝度0.43倍,521nmにおける発光強度3.02倍であった。
【0064】
また、実験例6と比較例3との比較において、実験例6では、521nmにピークを有する半値幅の狭い発光特性となり、輝度504cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.0826W/m2 ・srという値が得られた。
これに対して、比較例3では、微小共振器構造を持たないことから、輝度1526cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.0374W/m2 ・srという値が得られた。
従って、実験例6では、比較例3に対する特性の比率が、輝度0.33倍,521nmにおける発光強度2.21倍であった。
【0065】
さらに、実験例7と比較例4との比較において、実験例7では、521nmにピークを有する半値幅の狭い発光特性となり、輝度292cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.0362W/m2 ・srという値が得られた。
これに対して、比較例4では、微小共振器構造を持たないことから、輝度1483cd/m2 ,ピーク波長における発光強度0.0372W/m2 ・srという値が得られた。
従って、実験例7では、比較例4に対する特性の比率が、輝度0.20倍,521nmにおける発光強度0.97倍であった。
【0066】
このようにして、実験例1及び5乃至7の測定結果から、陰極層16(反射ミラー)の反射率と輝度及びピーク波長(521nm)における発光強度との関係は、図7に示すようになる。
即ち、陰極層16(反射ミラー)の反射率が高いほど、輝度及びピーク波長における発光強度が高くなる傾向にある。ここで、実験例4の結果を参照すると(図7中にプロット)、反射ミラーの反射率が多層膜ミラーの反射率より低いと、反射ミラー及び多層膜ミラーの双方の反射率が高くなったとしても、上記輝度及びピーク波長はそれほど増大しないことが分かる。つまり、多層膜ミラーの反射率が反射ミラーの反射率より高くなると、上記輝度及びピーク強度の増加率が小さくなる。
これに対して、反射ミラーの反射率が多層膜ミラーの反射率より高いと、上記増加率がより大きくなる。 また、反射ミラーの反射率が85%以上、特に90%以上では、反射ミラーの反射率が高くなると、輝度及びピーク波長における発光強度が急激に増大するが、反射ミラーの反射率が90%以下では輝度及びピーク波長における発光強度の増加率は比較的小さい。従って、反射ミラーの反射率が85%以上であれば、良好な輝度及びピーク波長における発光強度の増大が期待できることになる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
上述した実施形態においては、有機層は、陽極側から順に正孔輸送層14と有機発光層15の二層により構成されているが、これに限らず、上記有機層は、例えば正孔注入層,正孔輸送層,発光層,電子輸送層の四層構造や、正孔注入層,正孔輸送層,発光層の三層構造、正孔輸送層,発光層,電子輸送層の三層構造、さらには発光層を多層積層にしたもの等が可能である。
ここで、電子注入層は、陰極層からの電子が有機層に対して注入されやすくするものである。
また、電子輸送層は、電子輸送機能を有するものであり、アルミキレート錯体(Alq3),ジスチリルビフェニル誘導体(DPVBi),オキサジアゾール誘導体,ビスチリルアントラセン誘導体,ベンゾオキサゾールチオフェン誘導体等が使用され、好ましくは10乃至200nm程度の膜厚を有する。
【0068】
さらに、上述した実施形態において、陽極層から陰極層の構成は、通常の有機EL素子であるが、複数の発光ユニットを積層した発光素子(以下、MPE素子と云う)についても応用することが可能である。図10に一応用例を示すが、等電位面を形成する層を介して有機EL素子が複数ユニットされる素子に反射ミラー及び多層膜ミラーを形成することにより微小共振器を構成した素子である。MPE素子は、通常の有機EL素子と比較して、有機層の層数が多く、各有機層による吸収により、発光出力が低下する問題を有するため、MPE素子を、微小共振器構造を有するように構成した場合には、発光出力の低下がより大きな問題となる。従って、本発明は、MPE素子を、微小共振器構造を有するように構成した素子においても、特に有用である。
【0069】
このようにして、本発明によれば、簡単な構成により、発光強度のピーク半値幅が狭く、且つ高い輝度を有するようにした有機EL素子が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明による有機EL素子の一実施形態の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の有機EL素子における半透過ミラー(多層膜ミラー)の反射率特性及び有機発光層の発光特性を示すグラフである。
【図3】実験例1による多層膜ミラーの反射率特性を示すグラフである。
【図4】実験例1〜7における多層膜ミラー及び反射ミラーの反射率を示す図表である。
【図5】実験例1及び比較例1による発光特性を示すグラフである。
【図6】実験例1〜実験例4の比較例に対する輝度及びピーク波長における発光強度を示すグラフである。
【図7】実験例1,実験例5〜実験例7の比較例に対する輝度比及びピーク波長における発光強度比を示すグラフである。
【図8】従来の微小共振器構造を備えた有機EL素子の一例の構成を示す概略断面図である。
【図9】図8の有機EL素子における発光特性と微小共振器構造のない場合の発光特性を示すグラフである。
【図10】本発明による実施形態における陽極層から陰極層の構成の一応用例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
10 有機EL素子
11 透明基板
12 半透過ミラー(多層膜ミラー)
13 透明電極
14 正孔輸送層
15 有機発光層
16 陰極層(反射ミラー兼用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに屈折率の異なる二種類の材料から成る薄膜が交互に積層されることにより構成された多層膜ミラーと、この多層膜ミラーの表面に順次に形成された透明電極層,少なくとも一層以上の発光層を含む複数の有機層,陰極層及び反射ミラーと、を含んでおり、上記多層膜ミラー及び反射ミラーにより微小共振器が構成されている有機EL素子であって、
上記多層膜ミラーの反射率が80%以上であって、
上記反射ミラーの反射率が85%以上であると共に、上記多層膜ミラーの反射率より大きい
ことを特徴とする、有機EL素子。
【請求項2】
上記反射ミラーの反射率が90%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
上記反射ミラー及び陰極層が一体に金属薄膜により構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
上記陰極層が、上記反射ミラーと別体に、半透明または透明電極として構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
上記陰極層が、導電性金属から成る半透膜または透明導電膜から構成されており、
上記反射ミラーが、上記陰極層上にて互いに屈折率の異なる二種類の材料の組合せから成る少なくとも一組以上の誘電体層が成膜され、好ましくはさらにこの誘電体層上に成膜された銀,アルミニウム,金,銅またはロジウムあるいはこれらの合金から成る金属層から構成されており、
上記反射ミラーの反射率が90%以上である
ことを特徴とする、請求項5に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−40784(P2006−40784A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221456(P2004−221456)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】