説明

有機EL素子

【課題】駆動電圧の低減および長寿命化が可能な有機EL素子を提供する。
【解決手段】有機EL素子10は、陽極と、陰極(Al層17)と、陽極と陰極との間に配置され発光層を含む有機層20とを備える。陽極のうち少なくとも有機層20側が、透光性の酸化物半導体層(ITO層12)からなる。酸化物半導体層と有機層20との間に二酸化モリブデン層13が配置されている。そして、二酸化モリブデン層13を厚さが均一な層であると仮定したときの二酸化モリブデン層13の厚さが2nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、柔軟、薄い、軽量という利点を持つディスプレイや光源が作製できる点から大きな注目を集めている。しかし、有機EL素子にはまだ課題が多く、その利用を発展させるためには、さらなる特性向上が求められている。
【0003】
有機EL素子の特性を向上させる1つの方法として、陽極とホール輸送層との界面に、ホール注入層を挿入する方法が知られている。そして、ホール注入層としてMoO3層を用いることによって、特性を向上できることが報告されている(特許文献1および2、非特許文献1〜5)。しかし、従来から一般的に用いられてきたMoO3層は、膜厚が2〜50nmの範囲であった。
【0004】
特許文献2に記載の発明は、有機EL素子の高輝度化および省電力化を目的としている。特許文献2には、基板とは反対側に光を発するトップエミッション型の有機EL素子が開示されている。この有機EL素子では、アルミニウムからなる陽極と、有機層と、ITOからなる陰極とが、この順に基板上に形成されている。有機層で生じた光は、陰極を通って外部に発せられる。陽極と有機層との間には、Mo酸化物層(厚さがたとえば3.5〜1000オングストローム)が配置されている。上記トップエミッション型の有機EL素子の陽極がITOなどの透明電極を含むと、発光層から陽極側に向かった光は外部に発せられるまでに透明電極を2回透過する。そのため、特許文献2には、上記トップエミッション型の有機EL素子の陽極がITOなどの透明電極を含むと、透明電極による光吸収が問題となることが記載されている(特許文献2の[0004]段落)。また、特許文献2には、陽極にITOを用いると電流密度が低下するという問題が生じることが記載されている(特許文献2の[0005]段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−32618号公報
【特許文献2】特開2006−344774号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tokitoら、 J. Phys. D: Appl. Phys. 29, 2750 (1996年)
【非特許文献2】Miyashitaら、 Jpn. J. Appl. Phys. 44, 3682 (2005年)
【非特許文献3】Chenら、Appl. Phys. Lett. 87, 241121 (2005年)
【非特許文献4】Satohら、 Jpn. J. Appl. Phys. 45, 1829 (2006年)
【非特許文献5】Youら、 J. Appl. Phys. 101, 026105 (2007年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、有機EL素子では、消費電力の低減および素子の長寿命化が課題となっている。このような状況において、本発明は、駆動電圧の低減および長寿命化が可能な有機EL素子を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者らは、透光性の酸化物半導体層(陽極)と有機層との間に非常に薄い二酸化モリブデン層を配置することによって、酸化モリブデン層の効果として従来から知られている効果とは全く異なる優れた効果が得られることを見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置され発光層を含む有機層とを備える有機EL素子であって、前記陽極のうち少なくとも前記有機層側が、透光性の酸化物半導体層からなり、前記酸化物半導体層と前記有機層との間に二酸化モリブデン層が配置されており、前記二酸化モリブデン層を厚さが均一な層であると仮定したときの前記二酸化モリブデン層の厚さが2nm以下である。
【0010】
また、本発明の第2の有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置され発光層を含む有機層とを備える有機EL素子であって、前記陽極のうち少なくとも前記有機層側が、透光性の酸化物半導体層からなり、前記酸化物半導体層と前記有機層との界面に、前記酸化物半導体層と前記有機層とが部分的に接触するように不均一に形成された二酸化モリブデン層が配置されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、駆動電圧の低減および長寿命化が可能な有機EL素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例で作製した有機EL素子の構造を模式的に示す図である。
【図2】実施例で使用したα−NPDの構造を示す図である。
【図3】二酸化モリブデン層の仮想厚さと駆動電圧との関係を示すグラフである。
【図4】二酸化モリブデン層の仮想厚さとエネルギー変換効率との関係を示すグラフである。
【図5】二酸化モリブデンの仮想厚さと輝度の維持率との関係を示すグラフである。
【図6】二酸化モリブデンの仮想厚さと駆動時間T90との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態および実施例に限定されない。以下の説明では、特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0014】
[有機EL素子]
以下、本発明の第1および第2の有機EL素子に共通する事項について説明する。本発明の有機EL素子は、陽極と、陰極と、有機層とを備える。有機層は、陽極と陰極との間に配置されており、発光層を含む。陽極のうち少なくとも有機層側は、透光性の酸化物半導体層からなる。そして、酸化物半導体層と有機層との間には、二酸化モリブデン層が配置されている。すなわち、本発明の有機EL素子は、酸化物半導体層/二酸化モリブデン層/有機層という積層構造を有する。なお、典型的な一例では、二酸化モリブデン層が不均一に形成されており、酸化物半導体層と有機層との界面において、酸化物半導体層と有機層とが部分的に接触している。
【0015】
酸化物半導体の好ましい例としては、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウム錫)、アルミニウムを添加した酸化亜鉛(AZO)、およびインジウムを添加した酸化亜鉛(IZO)が挙げられる。これらの材料で形成された膜は、透明導電膜と呼ばれることもある。これらの中でもITOは、良好な特性が得られるため好ましい。
【0016】
陽極は、ホールを注入するための電極である。陽極は、酸化物半導体層のみで形成されてもよい。陽極の典型的な一例は、ITOや、アルミニウムを添加した酸化亜鉛(AZO)や、インジウムを添加した酸化亜鉛(IZO)のみで形成されている。ただし、陽極は多層膜で形成されてもよい。たとえば、アルミニウムなどの金属層と、その上に形成された酸化物半導体層(AZO層、IZO層またはITO層)とを含む陽極を用いてもよい。
【0017】
有機層は、実質的に有機化合物で構成される層である。ただし、有機層には、無機化合物(ドーパントなど)が添加されていてもよい。
【0018】
有機層は、発光層に加えて他の層を含んでもよい。たとえば、有機層は、ホール輸送層、電子輸送層および電子注入層から選ばれる少なくとも1つの層を含んでもよい。また、二酸化モリブデン層はホール注入層として機能すると考えられるが、本発明の効果が得られる限り、本発明の有機EL素子は、二酸化モリブデン層に加えて他のホール注入層を含んでもよい。それらの層は、陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極の順に積層される。なお、陽極(酸化物半導体層を含む)、陰極および発光層以外の層は状況によって省略可能である。これらは、基板(たとえば透明基板であり、たとえばガラス基板)の上に、陽極側から順に積層されてもよいし、陰極側から順に積層されてもよい。本発明の効果が得られる限り、これらの層の材料には特に限定がなく、たとえば公知の有機材料を用いることができる。
【0019】
発光層で生じた光が基板側から出射される場合には、基板として、透光性の材料からなる基板が用いられる。たとえば、ガラス基板や、ポリイミド基板などの樹脂基板を用いることができる。発光層で生じた光が基板側とは反対側から出射される場合には、基板は透光性であってもよいし、透光性でなくてもよい。
【0020】
ホール輸送層の材料としては、芳香族アミン誘導体を用いることができる。たとえば、トリフェニルアミン誘導体(TPD、α−NPD、β−NPD、MeO−TPD、TAPC)、フェニルアミン4量体(TPTE)、スターバースト型トリフェニルアミン誘導体(m−MTDADA、NATA、1−TNATA、2−TNATA)、スピロ型トリフェニルアミン誘導体(Spiro−TPD、Spiro−NPD、Spiro−TAD)、ルブレン、ペンタセン、銅フタロシアニン(CuPc)、チタニウムオキサイドフタロシアニン(TiOPc)、アルファ−セキシチオフェン(α−6T)を用いることができる。発光層の材料としては、たとえば、アルミノキノリノール錯体(Alq3)、カルバゾール誘導体(MCP、CBP、TCTA)、トリフェニルシリル誘導体(UGH2、UGH3)、イリジウム錯体(Ir(ppy)3、Ir(ppy)2(acac)、FIrPic、Fir6、Ir(piq)3、Ir(btp)2(acac))、ルブレン、クマリン誘導体(Coumarin6、C545T)、キナクリドン誘導体(DMQA)、ピラン誘導体(DCJTB)、ユーロピウム錯体(Eu(dbm)3(phen))が挙げられる。電子輸送層の材料としては、たとえば、キノリノール錯体(Alq3、BAlq、Liq)、オキサジアゾール誘導体(OXD−7、PBD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナントロリン誘導体(BCP、BPhen)、リンオキサイド誘導体(POPy2)、トリアジン誘導体(TRZ、DPT,MPT)が挙げられる。有機化合物からなる電子注入層の材料としては、たとえば、リチウムフェナンスリジオネート(Liph)が挙げられる。これらの材料は、それぞれの特性を考慮して選択され組み合わされる。なお、1つの化合物が、異なる構成を有する素子において異なる機能を奏する層の材料となる場合がある。たとえば、Alq3は、発光層の材料となることもあるし、電子輸送層の材料となることもあるし、発光層と電子輸送層とを兼ねる層の材料となることもある。
【0021】
なお、本発明の有機EL素子は、無機物からなる無機層を含んでもよい。その無機層は、有機層を構成する各層の層間に配置されていてもよいし、有機層と電極(陽極および/または陰極)との間に配置されていてもよい。たとえば、電子注入層は、無機物からなる層であってもよい。電子注入層に用いることができる無機材料としては、たとえば、リチウム、セシウム、バリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、酸化リチウムおよびセシウムカーボネート(Cs2CO3)が挙げられる。
【0022】
陰極は、電子を注入するための電極である。陰極の材料としては、導電性を有する材料を用いることができ、たとえば、アルミニウム、銀、ネオジウム−アルミニウム合金、金−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金といった金属が挙げられる。陰極は、多層膜で形成されてもよい。
【0023】
本発明の典型的な一例では、発光層で生じた光が陽極側から出射される。ただし、本発明の効果が得られる限り、発光層で生じた光が陰極側から出射されてもよい。その場合には、陰極は、透光性の導電性材料(たとえば上述した酸化物半導体や膜厚の薄い金属電極)で形成される。
【0024】
本発明の有機EL素子の一例では、有機層のうち陽極に隣接する層(陽極に最も近い層)はホール輸送層である。その場合には、二酸化モリブデン層は、陽極とホール輸送層との間に配置される。本発明の有機EL素子の他の一例では、有機層のうち陽極に隣接する層は発光層である。その場合には、二酸化モリブデン層は、陽極と発光層との間に配置される。本発明の有機EL素子の一例では、有機層が、陽極に隣接するホール輸送層を含み、そのホール輸送層がα−NPDからなる。すなわち、その一例では、有機層に含まれる層のうち陽極に最も近い層がα−NPDからなる。また、有機層に含まれる層のうち陽極に最も近い層は、α−NPD、TPD、2−TNATA、α−6T、およびCuPcからなる群より選ばれるいずれか1つからなるものであってもよく、それらからなる群より選ばれる少なくとも1つからなるものであってもよい。二酸化モリブデンと組み合わせるホール輸送層の材料として特に好ましいのは、α−NPD、TPD、および2−TNATAである。
【0025】
一例では、二酸化モリブデン層は、組成式がMoO2で表される二酸化モリブデンからなる。しかし、二酸化モリブデン(MoO2)を原料とする気相成膜法によって二酸化モリブデン層を形成すると、酸素の割合が上記組成式よりも少なくなる場合がある。その場合も、形成される層は一般的に二酸化モリブデン層と呼ばれるため、この明細書では、組成式がMoOx(x≦2)で表される酸化モリブデンからなる層、たとえば、当該組成式のxを四捨五入すると2になるような酸化モリブデンからなる層を、二酸化モリブデン層という。典型的な一例では、本発明の二酸化モリブデン層は、組成式がMoO2(1.5≦x≦2)で表されるニ酸化モリブデンからなる。
【0026】
二酸化モリブデン層は、たとえば、MoO2を蒸着源とする真空蒸着法や、スパッタリング法などの気相成膜法で形成できる。なお、MoO2を蒸着源とする真空蒸着法で二酸化モリブデン層を形成した場合、形成される二酸化モリブデン層の酸素濃度が蒸着源(MoO2)の酸素濃度よりも減少し、上記MoOxで表される二酸化モリブデン層が形成される場合がある。
【0027】
[有機EL素子の製造方法]
本発明の有機EL素子の製造方法に限定はなく、たとえば公知の方法によって製造してもよい。有機層および無機層は、真空蒸着法やスパッタリング法といった気相成膜法で形成してもよい。また、有機層は、有機材料を含む溶液を塗布することによって形成してもよい。
【0028】
[第1の有機EL素子における二酸化モリブデン層]
本発明の第1の有機EL素子は、二酸化モリブデン層を厚さが均一な層であると仮定したときの二酸化モリブデン層の厚さが2nm以下であることを特徴とする。以下、二酸化モリブデン層を厚さが均一な層であると仮定したときの二酸化モリブデン層の厚さを、「仮想厚さ」という場合がある。仮想厚さは、0.1nm以上や0.25nm以上であってもよく、また、2nm未満や1.5nm以下や1nm以下や0.5nm以下であってもよい。たとえば、仮想厚さは、0.25nm〜1nmの範囲や、0.25nm〜0.5nmの範囲にあってもよい。
【0029】
酸化物半導体層と有機層との間に二酸化モリブデン層を配置することによって、駆動電圧の低減と長寿命化が可能であるが、二酸化モリブデン層の仮想厚さを2nm以下とすることによって、特に長寿命化が可能である。二酸化モリブデン層による長寿命化の効果は、二酸化モリブデン層の仮想厚さが1nm以下(たとえば0.25nm〜1nm)の場合に顕著になり、0.5nm以下(たとえば0.25nm〜0.5nm)の場合に特に顕著になる。
【0030】
二酸化モリブデン層は、たとえば、蒸着法やスパッタリング法といった気相成膜法で形成してもよい。二酸化モリブデン層を、その厚さを測定しながら形成することは難しい場合がある。そのため、気相成膜法で二酸化モリブデン層を形成する場合には、予め成膜速度を測定しておき、その成膜速度から成膜すべき時間を算出し、その時間だけ成膜することによって二酸化モリブデン層の厚さを制御してもよい。実施例では、この方法で見積もられた二酸化モリブデン層の厚さを「仮想厚さ」としている。
【0031】
本発明の第1の有機EL素子では、酸化物半導体層と有機層との界面に二酸化モリブデン層が形成されている。この二酸化モリブデン層は、酸化物半導体層と有機層とが部分的に接触するように、酸化物半導体層と有機層との界面に不均一に形成されていてもよい。二酸化モリブデン層が不均一に形成されている状態の例については、第2の有機EL素子の説明において述べる。
【0032】
[第2の有機EL素子における二酸化モリブデン層]
本発明の第2の有機EL素子は、酸化物半導体層と有機層との界面に、酸化物半導体層と有機層とが部分的に接触するように不均一に形成された二酸化モリブデン層が配置されていることを特徴とする。
【0033】
第2の有機EL素子では、酸化物半導体層と有機層との界面には、二酸化モリブデン層が不均一に形成されている。すなわち、第2の有機EL素子では、二酸化モリブデン層は、酸化物半導体層と有機層との界面の全体に形成されているのではなく、その界面の一部のみに形成されている。二酸化モリブデン層は、酸化物半導体層と有機層との界面(酸化物半導体層の表面)において、島状に形成されていてもよい。また、二酸化モリブデン層が形成されている部分と二酸化モリブデン層が形成されていない部分とが、まだらになるように形成されていてもよい。
【0034】
第2の有機EL素子では、二酸化モリブデン層が形成されている部分が均一に分散していることが好ましい。たとえば、酸化物半導体層と有機層との界面において、任意に10μm角(好ましくは0.5μm角)の領域を選択したときに、二酸化モリブデン層が形成されている領域と二酸化モリブデン層が形成されていない領域とが必ず含まれるように、それらの領域が均一に分散していることが好ましい。
【0035】
二酸化モリブデン層は不均一に形成されているため、その厚さは一定ではない。しかし、不均一な厚さの二酸化モリブデン層をならして均一な厚さの層にしたと仮定したときの二酸化モリブデン層の厚さ(上記「仮想厚さ」)は2nm以下である。仮想厚さは、0.1nm以上や0.25nm以上であってもよく、また、2nm未満や1.5nm以下や1nm以下や0.5nm以下であってもよい。たとえば、仮想厚さは、0.25nm〜1nmの範囲や、0.25nm〜0.5nmの範囲にあってもよい。
【0036】
第2の有機EL素子では、二酸化モリブデン層が陽極の全面に形成されていないことが重要である。現在のところ詳細は明らかではないが、二酸化モリブデン層が陽極の表面に点在することによって、予想外の効果が得られると考えられる。そのため、二酸化モリブデン層が均一な膜とならないように、二酸化モリブデン層をごく薄く形成することが重要であると考えられる。
【0037】
第2の有機EL素子の製造において、二酸化モリブデン層を不均一に形成できる限り、二酸化モリブデン層の形成方法に特に限定はない。二酸化モリブデン層は、たとえば、蒸着法やスパッタリング法といった気相成膜法で形成してもよい。真空蒸着法で薄い層(たとえば厚さ1nm以下)を形成すると、不均一な層が形成されると考えられる。
【実施例】
【0038】
実施例では、有機EL素子を作製して特性を評価した。作製した有機EL素子10の構造を、図1に模式的に示す。有機EL素子10は、ガラス基板11、ITO層12(厚さ150nm)、二酸化モリブデン層13、α−NPD層14(厚さ60nm)、Alq3層15(厚さ65nm)、LiF層16(厚さ0.5nm)、およびAl層17(厚さ100nm)を含む。なお、図1では、二酸化モリブデン層13を厚さが均一な層として模式的に示している。
【0039】
α−NPD層14およびAlq3層15は、有機層20を構成する。二酸化モリブデン層13は、ITO層12(陽極)とホール輸送層として機能するα−NPD層14との間に配置されている。発光層の材料には、Alq3(アルミノキノリノール錯体)を用いた。発光層で生じた光は、ITO層12およびガラス基板11を通って素子の外部に出射された。有機EL素子10では、二酸化モリブデン層13に隣接する有機層の材料として、α−NPDを用いた。α−NPDの構造を図2に示す。
【0040】
有機層は圧力1×10-4〜4×10-4Paにおいて真空蒸着法で形成した。無機層(MoO2層を含む)は、圧力1×10-3〜3×10-3Paにおいて真空蒸着法で形成した。二酸化モリブデン層は、MoO2の粉末を材料とする真空蒸着法によって形成した。
【0041】
二酸化モリブデン層の蒸着速度は0.05nm/秒とした。二酸化モリブデン層の蒸着速度は、予め、蒸着速度測定用の厚い膜を形成して求めておいた。
【0042】
二酸化モリブデン層の厚さは、0nm〜10nmの範囲で変化させた。なお、ここでいう「二酸化モリブデン層の厚さ」とは、前述の「仮想厚さ」であり、二酸化モリブデン層を、厚さが均一で凹凸がない層にならしたと仮定したときの厚さである。たとえば、仮想厚さが0.25nmの二酸化モリブデン層は、二酸化モリブデン層が5秒間だけITO層上に堆積するように蒸着装置のシャッターを操作して形成した。二酸化モリブデンの蒸着速度が0.05nm/秒であったため、厚さが均一で凹凸がない層が形成されたと仮定すると、その厚さは0.25nmとなる。実際には均一な厚さの層は形成されず、ITO層上には二酸化モリブデン層が形成されている領域と二酸化モリブデン層が形成されていない領域とが存在すると考えられるが、それらを均一にならしたと仮定すると厚さは0.25nmである。ただし、二酸化モリブデン層は、ある程度以上の厚さになるとほぼ均一に隙間なく形成されると考えられる。
【0043】
作製した有機EL素子について、50mA/cm2の電流密度で素子を駆動させたときの駆動電圧を測定した。二酸化モリブデン層の仮想厚さと駆動電圧との関係を図3に示す。図3には、二酸化モリブデン層の仮想厚さが0nm(二酸化モリブデン層なし)、0.25nm、0.5nm、0.75nm、1.0nm、1.5nm、2.0nm、5nm、および10nmの場合の結果を示す。図3に示すように、仮想厚さが0.25nm以上の二酸化モリブデン層を形成することによって、駆動電圧が大きく低下した。
【0044】
作製した有機EL素子について、50mA/cm2の電流密度で素子を駆動させたときのエネルギー変換効率を求めた。二酸化モリブデン層の仮想厚さとエネルギー変換効率との関係を図4に示す。図4には、二酸化モリブデン層の仮想厚さが0nm(二酸化モリブデン層なし)、0.25nm、0.5nm、0.75nm、1.0nm、1.5nm、2.0nm、5nm、および10nmの場合の結果を示す。
【0045】
図4に示すように、二酸化モリブデン層を用いることによって、エネルギー変換効率が向上した。これは、駆動電圧が低減されたためであると考えられる。エネルギー変換効率は、二酸化モリブデン層の仮想厚さが0.25nm〜5nmの範囲にあるときに特に高かった。
【0046】
作製した有機EL素子を50mA/cm2の定電流で駆動し、寿命特性を評価した。二酸化モリブデン層の仮想厚さが0nm、0.25nm、0.5nm、0.75nm、1.0nm、1.5nm、2.0nm、5.0nmおよび10nmの場合の評価結果を図5に示す。図5の横軸は、駆動時間を示している。また、縦軸は、初期の輝度に対する輝度の維持率を示している。なお、仮想厚さが0.75nmの素子は仮想厚さが1.0nmの素子と同様の経過を示した。また、仮想厚さが1.5nmの素子は、仮想厚さが2.0nmの素子と同様の経過を示した。また、仮想厚さが5.0nmの素子は、仮想厚さが10nmの素子と同様の経過を示した。
【0047】
輝度が初期の輝度の90%になるまでの駆動時間(以下、「駆動時間T90」という場合がある)と、二酸化モリブデン層の仮想厚さとの関係を図6に示す。図6には、二酸化モリブデン層の仮想厚さが0nm、0.25nm、0.5nm、0.75nm、1.0nm、1.5nm、2.0nm、5.0nm、および10nmの場合の結果を示す。また、二酸化モリブデン層の仮想厚さと駆動時間T90との関係を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
評価した条件において、二酸化モリブデン層を形成することによって駆動時間T90が長くなった。駆動時間T90は、二酸化モリブデン層の仮想厚さが2.0nm以下の場合により長くなり、1.0nm以下の場合にさらに長くなり、0.5nm以下の場合に特に長くなった。駆動時間T90は、仮想厚さが0.25nmの場合に最も長くなった。二酸化モリブデン層の仮想厚さが2.0nm以下である場合には、二酸化モリブデン層を形成しなかった場合に比べて、駆動時間T90が約3倍以上になった。また、二酸化モリブデン層の仮想厚さが0.25nm〜2.0nmの範囲にある場合、二酸化モリブデン層の仮想厚さが10nmである場合に比べて、駆動時間T90を1.5倍以上にすることができた。また、二酸化モリブデン層の仮想厚さが0.25nm〜0.5nmの範囲にある場合、二酸化モリブデン層の仮想厚さが10nmである場合に比べて、駆動時間T90を2倍以上にすることができた。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、有機EL素子に適用できる。本発明の有機EL素子は従来の有機EL素子に比べて、駆動電圧の低減および長寿命化が可能である。有機EL素子の長寿命化は有機EL素子の長年の課題であり、有機EL素子を利用する産業に本発明が与える影響は非常に大きい。本発明は、たとえば、有機EL素子を用いたディスプレイパネルなどに好ましく用いられる。
【符号の説明】
【0052】
10 有機EL素子
11 ガラス基板
12 ITO層
13 二酸化モリブデン層
14 α−NPD層
15 Alq3
16 LiF層
17 Al層
20 有機層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置され発光層を含む有機層とを備える有機EL素子であって、
前記陽極のうち少なくとも前記有機層側が、透光性の酸化物半導体層からなり、
前記酸化物半導体層と前記有機層との間に二酸化モリブデン層が配置されており、
前記二酸化モリブデン層を厚さが均一な層であると仮定したときの前記二酸化モリブデン層の厚さが2nm以下である、有機EL素子。
【請求項2】
前記酸化物半導体層がITO層である、請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記二酸化モリブデン層を厚さが均一な層であると仮定したときの前記二酸化モリブデン層の厚さが0.25nm〜0.5nmの範囲にある、請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置され発光層を含む有機層とを備える有機EL素子であって、
前記陽極のうち少なくとも前記有機層側が、透光性の酸化物半導体層からなり、
前記酸化物半導体層と前記有機層との界面に、前記酸化物半導体層と前記有機層とが部分的に接触するように不均一に形成された二酸化モリブデン層が配置されている、有機EL素子。
【請求項5】
前記酸化物半導体層がITO層である、請求項4に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−263030(P2010−263030A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111726(P2009−111726)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発、研究テーマ「一次元基板を用いた有機EL照明デバイスとその製造技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】