有機EL表示装置およびその製造方法
【課題】駆動電圧を抑えつつ発光効率および寿命特性を向上させることが可能な有機EL表示装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下部電極14上に正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する。赤色,緑色および青色有機EL素子10R,10G,10Bについて、正孔輸送層16BR,16BG,16BB上に低分子材料を含む赤色,緑色および青色の発光層16CR,16CG,16CBを塗布法により形成したのち、各発光層16CR,16CG,16CBの全面に電子輸送層16Dを蒸着法により形成する。電子輸送層16D上に電子注入層16Eおよび上部電極17を形成する。
【解決手段】下部電極14上に正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する。赤色,緑色および青色有機EL素子10R,10G,10Bについて、正孔輸送層16BR,16BG,16BB上に低分子材料を含む赤色,緑色および青色の発光層16CR,16CG,16CBを塗布法により形成したのち、各発光層16CR,16CG,16CBの全面に電子輸送層16Dを蒸着法により形成する。電子輸送層16D上に電子注入層16Eおよび上部電極17を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス(EL;Electro Luminescence)現象を利用して発光する有機EL表示装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信産業の発達が加速するにつれて、高度な性能を有する表示素子が要求されている。その中で、次世代表示素子として注目されている有機EL素子は自発発光型表示素子として視野角が広くてコントラストが優秀なだけでなく応答時間が速いという長所がある。
【0003】
有機EL素子を形成する発光層等に用いられる材料は、低分子材料と高分子材料に大別される。一般に、低分子材料の方がより高い発光効率、長寿命を示すことが知られている。
【0004】
また、その有機膜は低分子材料では真空蒸着法等の乾式法(蒸着法)、高分子材料ではスピンコーティング方式、インクジェット方式またはノズルコート方式等の湿式法(塗付法)やフレキソ印刷、オフセット印刷等の印刷法により成膜されている。
【0005】
真空蒸着法は、有機薄膜の形成材料を溶媒に溶解させる必要がなく、成膜後に溶媒を除去する工程が不要という利点がある。但し、真空蒸着法はメタルマスクによる塗り分けが難しく、特に大型のパネルの作製における設備製造コストが高いため、大画面基板への適用が難しく、量産にも難があるなどの欠点を有していた。そこで表示画面の大面積化が比較的容易な塗布法が注目されている。
【0006】
インクジェット方式を代表とした塗布方式における初期の構造は、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)等の正孔注入材料からなる正孔注入層上に各種発光色を呈する発光材料からなる発光層が塗布形成され、更にアルカリ金属を介してアルミニウム等からなるカソード電極が形成されていた。この初期構造の改良として、PEDOT/PSSからの劣化因子の抑制および正孔注入を調整するためのインターレイヤーと呼ばれる正孔輸送性を有する高分子材料層の挿入が一般化されていた。このような有機EL素子は「アノード電極/正孔輸送層/インターレイヤー/発光層/電子注入層/カソード電極」の積層構造となっており、この積層構造のうちアノード電極から発光層までは塗付法により、電子注入層およびカソード電極は蒸着法により形成されていた。
【0007】
この積層構造では、カソード電極から電子注入層を介し直接電子を発光層に注入することによって以下の問題が生じていた。まず、第1に、発光層とカソード電極が直接接することによりクエンチング等が発生するため発光層の厚みを厚くし実際の発光位置とカソード電極との距離を一定以上離す必要があったが、これにより駆動電圧が増大する。第2に、カソード電極から発光層へ直接電子を注入する際の電子注入性は、LiF,MgF2,NaF,MgAg,MgO,Li2O3,SrF2,Ca,Ba,BaO,Cs等の無機系アルカリ金属を中心とした電子注入層で制御される。赤,緑,青等の3色で構成されるディスプレイでは、電子注入層を色ごとに塗訳することが難しいため上記無機系アルカリ金属から1材料を選択し各色の共通層として形成する。しかし、各色に最適な無機系アルカリ金属はそれぞれ異なるため、3色全てにおいて最良の特性を得ることはできず、特定の色で発光効率の低下や寿命特性等のデバイス特性が悪化するという問題があった。
【0008】
これらの問題を解決するために、例えば特許文献1において、発光層上に電子輸送性の材料からなる電子輸送層を蒸着法によって形成し、上記アルカリ金属を中心とした電子注入層を電子輸送層とカソード電極との間に配置した有機EL素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−344869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の有機EL素子では発光効率を向上させることは困難であり、更に、発光層への電子の注入量が不足することによって寿命特性が悪化するという問題があった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、駆動電圧を抑えつつ発光効率および寿命特性を向上させることが可能な有機EL表示装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による有機EL表示装置は、以下の(A)〜(E)の構成要素を備えたものである。
(A)基板に、複数の有機EL素子の各々ごとに設けられた複数の下部電極
(B)下部電極の上に有機EL素子ごとに設けられた正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層
(C)正孔注入・輸送層上に有機EL素子ごとに設けられると共に、低分子材料を含む複数の有機発光層
(D)複数の有機発光層上の全面に設けられた電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層
(E)電子注入・輸送層上に設けられた上部電極
【0013】
本発明による有機EL表示装置の製造方法は、以下の(A)〜(E)の工程を含むものである。
(A)基板に複数の下部電極を複数の有機EL素子の各々ごとに形成する工程
(B)下部電極上に正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層を有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程
(C)正孔注入・輸送層上に低分子材料を含む複数の有機発光層を有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程
(D)複数の有機発光層の全面に電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層を蒸着法により形成する工程
(E)電子注入・輸送層の全面に上部電極を形成する工程
【0014】
本発明の有機EL表示装置およびその製造方法では、各色の有機発光層に低分子材料を添加することにより、上部電極から有機発光層への電子の注入効率が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機EL表示装置およびその製造方法によれば、各色の発光層に低分子材料を添加するようにしたので、上部電極から有機発光層への電子の注入効率が向上する。これにより、発光層への電子の注入量が増加するため発光効率および寿命特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を表す図である。
【図2】図1に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図3】図1に示した表示領域の構成を表す断面図である。
【図4】図1に示した有機EL表示装置の製造方法の流れを表す図である。
【図5】図4に示した製造方法を工程順に表す断面図である。
【図6】図5に続く工程を表す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した有機EL表示装置の製造方法の流れを表す図である。
【図9】上記実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図10】上記実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図11】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図12】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図13】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図14】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して以下の順に詳細に説明する。
1.第1の実施の形態
(各色発光層上に電子注入・輸送層を形成した有機EL表示装置)
2.第2の実施の形態
(各色発光層と電子注入・輸送層との間にホールブロック層を形成した有機EL表示装置)
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る有機EL表示装置1の構成を表すものである。この有機EL表示装置1は、有機ELテレビジョン装置などとして用いられるものであり、例えば、基板11の上に、表示領域110として、後述する複数の赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bがマトリクス状に配置されたものである。表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。
【0019】
表示領域110内には画素駆動回路140が設けられている。図2は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、後述する下部電極14の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。すなわち、この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された赤色有機EL素子10R(または緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10B)とを有する。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0020】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0021】
また、表示領域110には、赤色の光を発生する赤色有機EL素子10Rと、緑色の光を発生する緑色有機EL素子10Gと、青色の光を発生する青色有機EL素子10Bとが、順に全体としてマトリクス状に配置されている。なお、隣り合う赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0022】
図3は図1に示した表示領域110の断面構成を表したものである。赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bは、それぞれ、基板11の側から、上述した画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、陽極としての下部電極14、隔壁15、後述する発光層16C(赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CB)を含む有機層16および陰極としての上部電極17がこの順に積層された構成を有している。
【0023】
このような赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bは、保護層30により被覆され、更にこの保護層30上に熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層(図示せず)を間にしてガラスなどよりなる封止用基板40が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。
【0024】
基板11は、その一主面側に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bが配列形成される支持体であって、公知のものであって良く、例えば、石英、ガラス、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられる。この中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類、もしくはポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、透水性や透ガス性を抑える積層構造、表面処理を行うことが必要である。
【0025】
下部電極14は、基板11上に、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに設けられている。下部電極14は、例えば、積層方向の厚み(以下、単に厚みと言う)が10nm以上1000nm以下であり、クロム(Cr),金(Au),白金(Pt),ニッケル(Ni),銅(Cu),タングステン(W)あるいは銀(Ag)などの金属元素の単体または合金が挙げられる。また、下部電極14は、これらの金属元素の単体または合金よりなる金属膜と、インジウムとスズの酸化物(ITO)、InZnO(インジウム亜鉛オキシド)、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金などの透明導電膜との積層構造を有していてもよい。なお、下部電極14が陽極として使われる場合には、下部電極14は正孔注入性の高い材料により構成されていることが望ましい。但し、アルミニウム(Al)合金のように、表面の酸化皮膜の存在や、仕事関数が大きくないことによる正孔注入障壁が問題となる材料においても、適切な正孔注入層16Aを設けることによって下部電極14として使用することが可能である。
【0026】
隔壁15は、下部電極14と上部電極17との絶縁性を確保すると共に発光領域を所望の形状にするためのものである。更に、後述する製造工程においてインクジェット方式またはノズルコート方式等による塗布を行う際の隔壁としての機能も有している。隔壁15は、例えば、SiO2等の無機絶縁材料よりなる下部隔壁15Aの上に、ポジ型感光性ポリベンゾオキサゾール,ポジ型感光性ポリイミドなどの感光性樹脂よりなる上部隔壁15Bを有している。隔壁15には、発光領域に対応して開口が設けられている。なお、有機層16ないし上部電極17は、開口だけでなく隔壁15の上にも設けられていてもよいが、発光が生じるのは隔壁15の開口だけである。
【0027】
赤色有機EL素子10Rの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AR,正孔輸送層16BR,赤色発光層16CR,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。緑色有機EL素子10Gの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AG,正孔輸送層16BG,緑色発光層16CG,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。青色有機EL素子10Bの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AB,正孔輸送層16BB,青色発光層16CB,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。これらのうち電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eは、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの共通層として設けられている。
【0028】
正孔注入層16AR,16AG,16ABは、各発光層16CR,16CG,16CBへの正孔注入効率を高めるためのものであると共に、リークを防止するためのバッファ層であり、下部電極14の上に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに設けられている。
【0029】
正孔注入層16AR,16AG,16ABの厚みは例えば5nm〜100nmであることが好ましく、より好ましくは8nm〜50nmである。正孔注入層16AR,16AG,16ABの構成材料は、電極や隣接する層の材料との関係で適宜選択すればよく、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリキノリン、ポリキノキサリンおよびそれらの誘導体、芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体などの導電性高分子、金属フタロシアニン(銅フタロシアニン等)、カーボンなどが挙げられる。
【0030】
正孔注入層16AR,16AG,16ABに用いられる材料が高分子材料である場合には、その高分子材料の重量平均分子量(Mw)は1万〜30万の範囲であればよく、特に5000〜20万程度が好ましい。また、2000〜1万程度のオリゴマーを用いてもよいが、Mwが5000未満では正孔輸送層以後の層を形成する際に、正孔注入層が溶解してしまう虞がある。また30万を超えると材料がゲル化し、成膜が困難になる虞がある。
【0031】
正孔注入層16AR,16AG,16ABの構成材料として使用される典型的な導電性高分子としては、例えばポリアニリン、オリゴアニリンおよびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などのポリジオキシチオフェンが挙げられる。この他、エイチ・シー・スタルク製Nafion(商標)で市販されているポリマー、または商品名Liquion(商標)で溶解形態で市販されているポリマーや、日産化学製エルソース(商標)や、綜研化学製導電性ポリマーベラゾール(商標)などがある。
【0032】
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BR,16BG,16BBは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBへの正孔輸送効率を高めるためのものである。正孔輸送層16BR,16BG,16BBは、正孔注入層16AR,16AG,16ABの上に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに設けられている。
【0033】
正孔輸送層16BR,16BG,16BBの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは15nm〜150nmである。正孔輸送層16BR,16BG,16BBを構成する高分子材料としては、有機溶媒に可溶な発光材料、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリシランまたはそれらの誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールなどを用いることができる。
【0034】
更に好ましくは、それぞれ上下に接する正孔注入層16AR,16AG,16ABおよび各色の発光層16CR,16CG、16CBとの密着性が良好であり、有機溶媒に可溶な性質を有する式(1)で表わされる高分子材料が挙げられる。
【0035】
【化1】
(A13〜A16は、芳香族炭化水素基またはその誘導体が1〜10個結合した基、あるいは複素環基またはその誘導体が1〜15個結合した基である。nおよびmは0〜10000の整数であり、n+mは10〜20000の整数である。)
【0036】
また、n部およびm部の配列順序は任意であり、例えばランダム重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。更に、nおよびmは5〜5000の整数であることが好ましく、より好ましくは10〜3000の整数である。また、n+mは10〜10000の整数であることが好ましく、より好ましくは20〜6000の整数である。
【0037】
更に、式(1)で表わされる化合物におけるA13〜A16が示す芳香族炭化水素基の具体例としては、例えばベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、あるいはこれらの誘導体、またはフェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。複素環基の具体例としては、例えばチオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、あるいはこれらの誘導体が挙げられる。
【0038】
また式(1)で表わされる化合物におけるA13〜A16が置換基を有する場合、この置換基は、例えば炭素数1〜12の直鎖あるいは分岐のアルキル基、アルケニル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基等であることが好ましい。
【0039】
式(1)に示した化合物の具体例としては、例えば以下の式(1−1)〜式(1−3)に示した化合物、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4'−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB,式(1−1))、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N'−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N'−{1,4−ジフェニレン})](式(1−2))、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO,式(1−3))が好ましいが、この限りではない。
【0040】
【化2】
【0041】
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBでは、電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり発光する。赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは15nm〜150nmである。赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBは高分子(発光)材料に低分子材料が添加された混合材料により構成されている。ここで低分子材料とは、モノマーまたはこのモノマーを2〜10個結合したオリゴマーとし、1万以下の重量平均分子量を有するものが好ましい。なお、重量平均分子量が上記範囲を超えた低分子材料を必ずしも除外するものではない。
【0042】
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBは、詳細は後述するが、例えばインクジェット等の塗付法により形成する。その際、高分子材料および低分子材料を例えばトルエン、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン)、ブサイドクメン(1,2,4−トリメチルベンゼン)、ジハイドロベンゾフラン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、1−メチルナフタレン、p−アニシルアルコール、ジメチルナフタレン、3-メチルビフェニル、4−メチルビフェニル、3−イソプロピルビフェニル、モノイソプロピルナフタレンなどの有機溶媒に少なくとも1種類以上使って溶解し、この混合溶液を用いて形成する。
【0043】
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを構成する高分子材料(発光ユニット)としては、例えばポリフルオレン系高分子誘導体や、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体等の発光性高分子が挙げられる。特に本実施の形態では、一重項励起子から発光する高分子発光層として、赤色発光層16CRにAmerican Dye Source社製の商品名ADS111RE(商標;式(2−1))、緑色発光層16CGに同社製の商品名ADS109GE(商標;式(2−2))、青色発光層16CBに同社製の商品名ADS136BE(商標;式(2−3))が挙げられる。なお、ここで用いられる高分子材料は共役系高分子だけに限らず、ペンダント形の非共役系高分子および色素混合型の非共役系高分子も含み、近年開発が進められている、中心にコアの分子を配しデンドロンと呼ばれる側鎖から構成されるデンドリマー型の高分子発光材料であってもよい。また、高分子材料に含まれる置換基は限定されず、式(2−1),式(2−2),式(2−3)に示した主骨格に対して必要に応じて電子輸送性および/または正孔輸送性を有する置換基を含んでいてもよい。更に、発光部位に関しては、一重項励起子から発光するもの、三重項励起子から発光するものおよびこの両者から発光するものがあるが、本実施の形態の各発光層16CR,16CG,16CBはいずれの発光部位を含んでいてもよい。
【0044】
【化3】
【0045】
また、上記以外の発光ユニットとしては、アントラセン,ナフタレン,フェナントレン,ピレン,テトラセン,コロネン,クリセン,フルオレセイン,ペリレン,フタロペリレン,ナフタロペリレン,ペリノン,フタロペリノン,ナフタロペリノン,ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン,クマリンモキサジアゾール,アルダジン,ビスベンゾキサゾリン,ビススチリル,ピラジン,シクロペンタジエン,キノリン金属錯体,アミノキノリン金属錯体,ベンゾキノリン金属錯体,イミン,ジフェニルエチレン,ビニルアントラセン,ジアミノカルバゾール,ピラン,チオピラン,ポリメチン,メロシアニン,イミダゾールキレート化オキシノイド化合物,キナクリドン,ルブレン等の芳香族炭化水素、または複素環式化合物が挙げられる。更に、三重項励起状態を伴う発光ユニットを用いることができる。三重項励起状態を伴う発光ユニットとしては、イリジウム金属錯体等の金属錯体を含む化合物が多いが、金属錯体の含有も含めこの限りではない。三重項励起状態から発光する高分子発光材料の具体例としては、赤色りん光発光材料としてRPP(式(3−1))、緑色りん光発光材料としてGPP(式(3−2))、青色りん光発光材料としてBPP(式(3−3))等が挙げられる。
【0046】
【化4】
【0047】
また、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを構成する高分子材料には低分子材料を添加することが好ましい。これにより、電子輸送層16Dから赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへの正孔および電子の注入効率が向上する。以下にその原理を説明する。
【0048】
高分子材料のみから構成される赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBの上部に低分子材料からなる電子輸送層16Dを形成した場合には、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBのエネルギー準位と、電子輸送層16Dのエネルギー準位との差は大きい。このため、電子輸送層16Dと赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CB各々との間の正孔または電子の注入効率は非常に低く、前述のように、本来の高分子材料からなる発光層が有する特性を十分に得ることができないという問題があった。本実施の形態では、この正孔または電子の注入特性を向上させるために、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBが有するエネルギー準位と、電子輸送層16Dが有するエネルギー準位との差を小さくする低分子材料(モノマーまたはオリゴマー)を赤色発光層16CR,緑色発光層16DGおよび青色発光層16CBに添加するものである。ここでは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CRおよび青色発光層16CBの最高占有分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;HOMO)準位および最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital;LUMO)準位と、電子輸送層16DのHOMO(最高占有分子軌道)準位および最低非占有分子軌道(LUMO)準位と赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに添加する低分子材料のHOMO(最高占有分子軌道)準位および最低非占有分子軌道(LUMO)準位との関係を考慮する。具体的には、添加する低分子材料として、赤色発光層16CRまたは緑色発光層16CGそれぞれのLUMOより深い値を有すると共に、電子輸送層16DのLUMOより浅い値を有し、かつ、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBそれぞれのHOMOより深い値を有すると共に、電子輸送層16DのHOMOより浅い値を有する化合物を選択する。
【0049】
但し、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに用いる材料は、上記HOMOおよびLUMOの値による基準に必ずしも制限されない。例えば発光層26CR,26CG,26CBと電子輸送層26Dとの間に後述するホールブロック層26Fを設ける場合にはこの限りではない。具体的には、電子輸送性を示すホールブロック層26FのLUMOは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBの低分子材料より浅くても構わない。また、発光層26Cに混合する低分子材料は単独で混合するとは限らず、エネルギー準位の異なる材料を複数種類混合して用いることにより、正孔および電子の輸送が円滑に行われる。
【0050】
また、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに添加する低分子材料は、低分子化合物が同じ反応または類似の反応を連鎖的に繰り返すことにより生じた高分子量の重合体または縮合体の分子からなる化合物以外のものであって、分子量が実質的に単一であるものを指す。また、上記低分子材料は加熱による分子間の新たな化学結合は生じず、単分子で存在する。このような低分子材料の重量平均分子量(Mw)は1万以下であることが好ましい。更に、高分子材料/低分子材料の分子量比が10以上であることが好ましい。これは分子量の大きい、例えば5万以上の材料に比べてある程度小さい分子量の材料のほうが多様な特性を有し、正孔または電子の移動度やバンドギャップあるいは溶媒への溶解度などを調整しやすいためである。また、低分子材料の添加量は、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに用いられる高分子材料:低分子材料の混合比率が、その重量比で20:1以上1:1以下になるようにすることが好ましい。高分子材料:低分子材料の混合比率が20:1未満では、低分子材料の添加による効果が低くなるためである。また、この混合比率が1:1を超える場合には、発光材料としての高分子材料が有する特性が得られにくくなるためである。
【0051】
上述のように、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへ低分子材料を添加することにより、正孔および電子のキャリアバランスを調整することがより簡易になる。これにより、後述する電子輸送層16Dを形成することによって起こる、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへの電子注入性の低下および正孔輸送性の低下が抑制される。即ち、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの発光効率および寿命の低下、駆動電圧の上昇が抑制される。
【0052】
このような低分子材料としては、例えばベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマーあるいはオリゴマーを用いることができる。
【0053】
さらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、ヘキサシアノアザトリフェニレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6-テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノ4、4、4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N、N、N’、N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N、N、N’、N’−テトラフェニル−4、4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2、2’−チエニルピロール)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
さらに好ましくは、下記の式(4)〜式(6)で表わされる低分子材料が挙げられる。
【0055】
【化5】
(A1〜A3は芳香族炭化水素基、複素環基またはそれらの誘導体である。)
【0056】
【化6】
(Zは含窒素炭化水素基あるいはその誘導体である。L1は2価の芳香族環基が1ないし4個結合した基、具体的には1〜4個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A4およびA5は、芳香族炭化水素基あるいは芳香族複素環基、またはその誘導体である。但し、A4およびA5は互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【0057】
【化7】
(L2は2価の芳香族環基が2ないし6個結合した基である。具体的には2〜6個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A6〜A9は、芳香族炭化水素基あるいは複素環基、またはその誘導体が1〜10個結合した基である。)
【0058】
式(4)に示した化合物の具体例としては、以下の式(4−1)〜式(4−48)などの化合物が挙げられる。
【0059】
【化8】
【0060】
【化9】
【0061】
【化10】
【0062】
式(5)に示した化合物の具体例としては、以下の式(5−1)〜式(5−166)などの化合物が挙げられる。なお、ここでL1に結合する含窒素炭化水素基として、例えばカルバゾール基やインドール基を有する化合物を挙げたがこれに限らない。例えばイミダゾール基を用いてもよい。
【0063】
【化11】
【0064】
【化12】
【0065】
【化13】
【0066】
【化14】
【0067】
【化15】
【0068】
【化16】
【0069】
【化17】
【0070】
【化18】
【0071】
【化19】
【0072】
【化20】
【0073】
【化21】
【0074】
【化22】
【0075】
【化23】
【0076】
式(6)に示した化合物の具体例としては、以下の式(6−1)〜式(6−45)などの化合物が挙げられる。
【0077】
【化24】
【0078】
【化25】
【0079】
【化26】
【0080】
【化27】
【0081】
また、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへ添加する低分子材料としては、式(7)に表わされる化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0082】
【化28】
(R24〜R29は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数20以下のアルキル基、アルケニル基、カルボニル基を有する基、カルボニルエステル基を有する基、アルコキシル基を有する基、シアノ基を有する基、ニトロ基を有する基、あるいはそれらの誘導体、炭素数30以下のシリル基を有する基、アリール基を有する基、複素環基を有する基、アミノ基を有する基あるいはそれらの誘導体である。)
【0083】
式(7)で表わされる化合物におけるR24〜R29が示すアリール基を有する基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フルオレニル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基、9−ナフタセニル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、4−ピレニル基、1−クリセニル基、6−クリセニル基、2−フルオランテニル基、3−フルオランテニル基、2−ビフェニルイル基、3−ビフェニルイル基、4−ビフェニルイル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−t−ブチルフェニル基等が挙げられる。
【0084】
また、R24〜R29が示す複素環基を有する基としては、ヘテロ原子として酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)を含有する5員環または6員環の芳香環基であり、炭素数2〜20の縮合多環芳香環基が挙げられる。このような複素環基としては、例えばチエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、キノキサリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾチアゾール基が挙げられる。代表的なものとしては,1−ピロリル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、ピラジニル基、2−ピリジニル基、3−ピリジニル基、4−ピリジニル基、1−インドリル基、2−インドリル基、3−インドリル基、4−インドリル基、5−インドリル基、6−インドリル基、7−インドリル基、1−イソインドリル基、2−イソインドリル基、3−イソインドリル基、4−イソインドリル基、5−イソインドリル基、6−イソインドリル基、7−イソインドリル基、2−フリル基、3−フリル基、2−ベンゾフラニル基、3−ベンゾフラニル基、4−ベンゾフラニル基、5−ベンゾフラニル基、6−ベンゾフラニル基、7−ベンゾフラニル基、1−イソベンゾフラニル基、3−イソベンゾフラニル基、4−イソベンゾフラニル基、5−イソベンゾフラニル基、6−イソベンゾフラニル基、7−イソベンゾフラニル基、キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、1−イソキノリル基、3−イソキノリル基、4−イソキノリル基、5−イソキノリル基、6−イソキノリル基、7−イソキノリル基、8−イソキノリル基、2−キノキサリニル基、5−キノキサリニル基、6−キノキサリニル基、1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、4−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基、1−フェナンスリジニル基、2−フェナンスリジニル基、3−フェナンスリジニル基、4−フェナンスリジニル基、6−フェナンスリジニル基、7−フェナンスリジニル基、8−フェナンスリジニル基、9−フェナンスリジニル基、10−フェナンスリジニル基、1−アクリジニル基、2−アクリジニル基、3−アクリジニル基、4−アクリジニル基、9−アクリジニル基、などが挙げられる。
【0085】
R24〜R29が示すアミノ基を有する基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アラルキルアミノ基などのいずれでもよい。これらは、炭素数1〜6個の脂肪族炭化水素基および/または1〜4個の芳香環基を有することが好ましい。このような基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ビスビフェニリルアミノ基、ジナフチルアミノ基が挙げられる。なお、上記置換基は2以上の置換基からなる縮合環を形成していてもよく、さらにその誘導体でもよい。
【0086】
式(7)に示した化合物の具体例としては、以下の式(7−1)〜式(7−51)などの化合物が挙げられる。
【0087】
【化29】
【0088】
【化30】
【0089】
【化31】
【0090】
更に、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへ添加する低分子材料としては、電子輸送能を有する化合物を用いることができる。具体的には、下記の式(8)〜式(10)で表わされるベンゾイミダゾール誘導体(式(8)),ピリジルフェニル誘導体(式(9)),ビピリジン誘導体(式(10))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
【化32】
(A10は水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜60個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Bは単結合、2価の芳香族環基あるいはその誘導体である。R7,8は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。)
【0092】
【化33】
(A11は芳香族環が2ないし5個縮合したn価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R9〜R13は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、A11またはR15〜R19のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R15〜R19は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR9〜R13のいずれか1つに結合する遊離原子価である。nは2以上の整数であり、n個のピリジルフェニル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【0093】
【化34】
(A12は芳香族環が2ないし5個縮合したm価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R20〜R24は各々独立して水素原子あるはハロゲン原子、A12またはR25〜R29のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R25〜R29は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR20〜R24のいずれか1つに結合する遊離原子価である。mは2以上の整数であり、m個のビピリジル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【0094】
式(8)に示した化合物の具体例としては、以下の式(8−1)〜式(8−49)などの化合物が挙げられる。なお、式(8−1)から式(8−43)におけるAr(α)は式(8)中のR7,R8を含むベンゾイミダゾール骨格に、Bは式(8)中のBに対応する。Ar(1)およびAr(2)は式(8)中のA10に対応し、Ar(1),Ar(2)の順にBに結合する。
【0095】
【化35】
【0096】
【化36】
【0097】
【化37】
【0098】
【化38】
【0099】
【化39】
【0100】
【化40】
【0101】
式(9)に示した化合物の具体例としては、以下の式(9−1)〜式(9−81)などの化合物が挙げられる。
【0102】
【化41】
【0103】
【化42】
【0104】
【化43】
【0105】
【化44】
【0106】
【化45】
【0107】
式(10)に示した化合物の具体例としては、以下の式(10−1)〜式(10−17)などの化合物が挙げられる。
【0108】
【化46】
【0109】
また、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへ添加する低分子材料としては、上記式(8)〜式(10)で表わされる化合物の他に、例えば下記の式(11)で表わされるピラゾール誘導体が挙げられる。
【0110】
【化47】
(R30〜R32は水素原子、1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数1〜6個の炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。)
【0111】
式(11)で表わされる化合物におけるR30〜R32が示す芳香族炭化水素基を有する基としては、例えば、フェニル基、2-メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2、4,5−トリメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスラセニル基、2−アンスラセニル基、9−アンスラセニル基、9−フェンスレニル基等が挙げられるが上記に限定されるものでもない。なお、R30〜R32は同一であっても、異なっていてもよい。
【0112】
式(11)に示した化合物の具体例としては、同一分子中に2個以上4個未満のピラゾール構造を含む以下の式(11−1)〜式(11−5)等の化合物が挙げられる。
【0113】
【化48】
【0114】
更にまた、りん光発光材料を用いることができる。具体的には、ベリリウム(Be),ホウ素(B),亜鉛(Zn),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),金(Au),銀(Ag),パラジウム(Pd),白金(Pt),アルミニウム(Al),ガドリニウム(Ga),イットリウム(Y),スカンジウム(Sc),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),オスミウム(Os),イリジウム(Ir)等の金属元素を少なくとも1種含む金属錯体が挙げられる。更に具体的には、式(12−1)〜式(12−29)に表わされる化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0115】
【化49】
【0116】
【化50】
【0117】
なお、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに添加する低分子材料は1種類だけでなく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0118】
電子輸送層16Dは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBへの電子輸送効率を高めるためのものであり、青色発光層16CBの全面に共通層として設けられている。電子輸送層16Dの厚みは素子の全体構成にもよるが、例えば5nm〜300nmであることが好ましく、さらに好ましくは10nm〜170nmである。
【0119】
電子輸送層16Dの材料としては、優れた電子輸送能を有する有機材料を用いることが好ましい。発光層16Cへの電子の輸送効率を高めることにより、後述する電界強度による赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bにおける発光色の変化が抑制される。このような有機材料としては、具体的には電子移動度が10-6cm2/Vs以上1.0×10-1cm2/Vs以下の含窒素複素環誘導体を用いることができる。
【0120】
また、電子輸送層16Dに用いる有機材料は1種類だけでなく、複数種類を混合または積層して用いてもよい。更にまた、上記化合物は後述する電子注入層16Eに用いてもよい。
【0121】
電子注入層16Eは、電子注入効率を高めるためのものであり、電子輸送層16Dの全面に共通層として設けられている。電子注入層16Eの材料としては、例えばリチウム(Li)の酸化物である酸化リチウム(LiO2)や、セシウム(Cs)の複合酸化物である炭酸セシウム(Cs2CO3)、さらにはこれらの酸化物及び複合酸化物の混合物を用いることができる。また、電子注入層16Eは、このような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属の酸化物及び複合酸化物、フッ化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物及び複合酸化物、フッ化の混合物や合金として安定性を高めて使用してもよい。更に、上記電子輸送層16Dの材料として挙げた式(8−1)〜式(11−5)に示した有機材料を用いてもよい。
【0122】
上部電極17は、例えば、厚みが2nm以上15nm以下であり、金属導電膜により構成されている。具体的には、Al,Mg,CaまたはNaの合金が挙げられる。中でも、マグネシウムと銀との合金(Mg−Ag合金)は、薄膜での導電性と吸収の小ささとを兼ね備えているので好ましい。Mg−Ag合金におけるマグネシウムと銀との比率は特に限定されないが、膜厚比でMg:Ag=20:1〜1:1の範囲であることが望ましい。また、上部電極17の材料は、AlとLiとの合金(Al−Li合金)でもよい。
【0123】
更に、上部電極17は、アルミキノリン錯体、スチリルアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等の有機発光材料を含有した混合層でもよい。この場合には、さらに第3層としてMgAgのような光透過性を有する層を別途有していてもよい。なお、上部電極17は、アクティブマトリックス駆動方式の場合、有機層16と隔壁15とによって、下部電極14と絶縁された状態で基板11上にベタ膜状に形成され、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの共通電極として用いられる。
【0124】
保護層30は、例えば厚みが2〜3μmであり、絶縁性材料または導電性材料のいずれにより構成されていてもよい。絶縁性材料としては、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-xNx)、アモルファスカーボン(α−C)などが好ましい。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護膜となる。
【0125】
封止用基板40は、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの上部電極17の側に位置しており、接着層(図示せず)と共に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bを封止するものである。光を封止基板の上方から取り出すトップエミッション方式では、封止用基板40は、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bで発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板40には、例えば、カラーフィルタおよびブラックマトリクスとしての遮光膜(いずれも図示せず)が設けられており、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bで発生した光を取り出すと共に、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10B並びにその間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっている。なお、光を下部電極から取り出すボトムエミッション方式では、封止基板40の可視光に対する透過性は問わない。
【0126】
カラーフィルタは、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bに対応して順に配置されている。赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これら赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。
【0127】
更に、カラーフィルタにおける透過率の高い波長範囲と、共振器構造MC1から取り出したい光のスペクトルのピーク波長λとは一致している。これにより、封止用基板40から入射する外光のうち、取り出したい光のスペクトルのピーク波長λに等しい波長を有するもののみがカラーフィルタを透過し、その他の波長の外光が各色の有機EL素子10R,10G,10Bに侵入することが防止される。
【0128】
遮光膜は、例えば黒色の着色剤を混入した光学濃度が1以上の黒色の樹脂膜、または薄膜の干渉を利用した薄膜フィルタにより構成されている。このうち黒色の樹脂膜により構成するようにすれば、安価で容易に形成することができるので好ましい。薄膜フィルタは、例えば、金属,金属窒化物あるいは金属酸化物よりなる薄膜を1層以上積層し、薄膜の干渉を利用して光を減衰させるものである。薄膜フィルタとしては、具体的には、Crと酸化クロム(III)(Cr2O3)とを交互に積層したものが挙げられる。
【0129】
この有機EL表示装置1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0130】
図4は、この有機EL表示装置の製造方法の流れを表したものであり、図5および図6は図4に示した製造方法を工程順に表したものである。まず、上述した材料よりなる基板11の上に駆動トランジスタTr1を含む画素駆動回路140を形成し、例えば感光性樹脂よりなる平坦化絶縁膜(図示せず)を設ける。
【0131】
(下部電極14を形成する工程)
次いで、基板11の全面に例えばITOよりなる透明導電膜を形成し、この透明導電膜をパターニングすることにより、図5(A)に示したように、下部電極14を赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに形成する(ステップS101)。その際、下部電極14を、平坦化絶縁膜(図示せず)のコンタクトホール(図示せず)を介して駆動トランジスタTr1のドレイン電極と導通させる。
【0132】
(隔壁15を形成する工程)
続いて、同じく図5(A)に示したように、下部電極14上および平坦化絶縁膜(図示せず)上に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法により、S
iO2 等の無機絶縁材料を成膜し、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてパターニングすることにより、下部隔壁15Aを形成する。
【0133】
そののち、同じく図5(A)に示したように、下部隔壁15Aの所定位置、詳しくは画素の発光領域を囲む位置に、上述した感光性樹脂よりなる上部隔壁15Bを形成する。これにより、上部隔壁15Aおよび下部隔壁15Bよりなる隔壁15が形成される(ステップS102)。
【0134】
隔壁15を形成したのち、基板11の下部電極14および隔壁15を形成した側の表面を酸素プラズマ処理し、その表面に付着した有機物等の汚染物を除去して濡れ性を向上させる。具体的には、基板11を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、続いて大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(O2プラズマ処理)を行う。
【0135】
(撥水化処理を行う工程)
プラズマ処理を行ったのち、撥水化処理(撥液化処理)を行う(ステップS103)ことにより、特に上部隔壁15Bの上面及び側面の濡れ性を低下させる。具体的には、大気圧下で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CF4プラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基板11を室温まで冷却することで、上部隔壁15Bの上面及び側面を撥液化し、その濡れ性を低下させる。
【0136】
なお、このCF4プラズマ処理においては、下部電極14の露出面および下部隔壁15Aについても多少の影響を受けるが、下部電極14の材料であるITOおよび下部隔壁15Aの構成材料であるSiO2などはフッ素に対する親和性に乏しいため、酸素プラズマ処理で濡れ性が向上した面は濡れ性がそのままに保持される。
【0137】
(正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する工程)
撥水化処理を行ったのち、図5(B)に示したように、上部隔壁15Bに囲まれた領域内に、上述した材料よりなる正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する(ステップS104)。この正孔注入層16AR,16AG,16ABは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に正孔注入層16AR,16AG,16ABの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるインクジェット方式や、ノズルコート方式を用いることが好ましい。
【0138】
具体的には、例えばインクジェット方式により、正孔注入層16AR,16AG,16ABの形成材料であるポリアニリンやポリチオフェン等の溶液または分散液を下部電極14の露出面上に配する。その後、熱処理(乾燥処理)を行うことにより、正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する。
【0139】
熱処理においては、溶媒または分散媒を乾燥後、高温で加熱する。ポリアニリンやポリチオフェン等の導電性高分子を用いる場合、大気雰囲気、もしくは酸素雰囲気が好ましい。酸素による導電性高分子の酸化により、導電性が発現しやすくなるためである。
【0140】
加熱温度は、150℃〜300℃が好ましく、さらに好ましくは180℃〜250℃である。時間は、温度、雰囲気にもよるが、5分〜300分程度が好ましく、さらに好ましくは、10分〜240分である。この乾燥後の膜厚みは、5nm〜100nmが好ましい。さらに好ましくは、8nm〜50nmである。
【0141】
(正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成する工程)
正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成したのち、図5(C)に示したように、正孔注入層16AR,16AG,16ABの上に、上述した高分子材料を含む正孔輸送層16BR,16BG,16BBを赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの各々ごとに形成する(ステップS105)。この正孔輸送層16BR,16BG,16BBは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に正孔輸送層16BR,16BGの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるインクジェット方式や、ノズルコート方式を用いることが好ましい。
【0142】
具体的には、例えばインクジェット方式により、正孔輸送層16BR,16BG,16BBの形成材料である高分子ポリマーおよび低分子材料の混合溶液または分散液を正孔注入層16AR,16AG,16ABの露出面上に配する。その後、熱処理(乾燥処理)を行うことにより、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成する。
【0143】
熱処理においては、溶媒または分散媒を乾燥後、高温で加熱する。塗布する雰囲気や溶媒を乾燥、加熱する雰囲気としては、窒素(N2)を主成分とする雰囲気中が好ましい。酸素や水分があると、作成された有機EL表示装置の発光効率や寿命が低下する虞がある。特に、加熱工程においては、酸素や水分の影響が大きいため、注意が必要である。酸素濃度は、0.1ppm以上100ppm以下が好ましく、50ppm以下であればより好ましい。100ppmより多い酸素があると、形成した薄膜の界面が汚染され、得られた有機EL表示装置の発行効率や寿命が低下する虞がある。また、0.1ppm未満の酸素濃度の場合、素子の特性は問題ないが、現状の量産のプロセスとして、雰囲気を0.1ppm未満に保持するための装置コストが多大になる可能性がある。
【0144】
また、水分については、露点が例えば−80℃以上−40℃以下であることが好ましい。更に、−50℃以下であればより好ましく、−60℃以下であれば更に好ましい。−40℃より高い水分があると、形成した薄膜の界面が汚染され、得られた有機EL表示装置の発光効率や寿命が低下する虞がある。また、−80℃未満の水分の場合、素子の特性は問題ないが、現状の量産のプロセスとして、雰囲気を−80℃未満に保持するための装置コストが多大になる可能性がある。
【0145】
加熱温度は、100℃〜230℃が好ましく、さらに好ましくは100℃〜200℃である。少なくとも、正孔注入層16AR,16AG,16AB形成時の温度よりも低いことが好ましい。時間は、温度、雰囲気にもよるが、5分〜300分程度が好ましく、さらに好ましくは、10分〜240分である。乾燥後の膜厚みは、素子の全体構成にもよるが、10nm〜200nmが好ましい。さらに、15nm〜150nmであればより好ましい。
【0146】
(赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを形成する工程)
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成したのち、図5(D)に示したように、赤色有機EL素子10Rの正孔輸送層16BRの上に上述した高分子材料および低分子材料の混合材料よりなる赤色発光層16CRを形成する。また、同様に緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BG,16BBの上にそれぞれ上述した高分子材料および低分子材料の混合材料よりなる緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを形成する(ステップS106)。赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるノズルコート方式や、インクジェット方式を用いることが好ましい。
【0147】
具体的には、例えばインクジェット方式により、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBの形成材料である高分子材料および低分子材料を、例えば1重量%になるように、キシレンとシクロヘキシルベンゼンを2:8に混合した溶媒に溶解した混合溶液または分散液を正孔輸送層16BR,16BG,16BBの露出面上に配する。その後、上記赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成する工程で説明した熱処理(乾燥処理)と同様の方法および条件の熱処理を行うことにより、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを形成する。
【0148】
上記各工程において、乾燥と加熱とは別個の工程として分けて行うことが好ましい。理由として、乾燥工程では、塗布したウエット膜が、非常に流動しやすいために、膜ムラが起きやすいからである。好ましい乾燥工程は、常圧で均一に真空乾燥する方法であり、さらに、乾燥中に風などをあてずに乾燥させることが望ましい。加熱工程では、ある程度、溶媒が飛んで流動性が低下し、硬化した膜になっており、そこからゆっくりと、熱をかけることにより、微量に残存している溶媒を取り除いたり、発光材料や正孔輸送層の材料を分子レベルで再配列を起こさせることが可能となる。
【0149】
(電子輸送層16D,電子注入層16Eおよび上部電極17を形成する工程)
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを形成したのち、図6(A),図6(B)および図6(C)に示したように、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBの全面に、蒸着法により、上述した材料よりなる電子輸送層16D,電子注入層16Eおよび上部電極17を形成する(ステップS107,S108,S109)。
【0150】
上部電極17を形成したのち、下地に対して影響を及ぼすことのない程度に、成膜粒子のエネルギーが小さい成膜方法、例えば蒸着法やCVD法により、保護層30を形成する。例えば、アモルファス窒化シリコンからなる保護層30を形成する場合には、CVD法によって2〜3μmの膜厚に形成する。この際、有機層16の劣化による輝度の低下を防止するため、成膜温度を常温に設定すると共に、保護層30の剥がれを防止するために膜のストレスが最小になる条件で成膜することが望ましい。
【0151】
電子輸送層16D,電子注入層16E,上部電極17および保護層30は、マスクを用いることなく全面にベタ膜として形成される。また、電子輸送層16D,電子注入層16E,上部電極17および保護層30の形成は、望ましくは、大気に暴露されることなく同一の成膜装置内において連続して行われる。これにより大気中の水分による有機層16の劣化が防止される。
【0152】
なお、下部電極14と同一工程で補助電極(図示せず)を形成した場合、補助電極の上部にベタ膜で形成された有機層16を、上部電極17を形成する前にレーザアブレーションなどの手法によって除去してもよい。これにより上部電極17を補助電極に直接接続させることが可能となり、接触性が向上する。
【0153】
保護層30を形成したのち、例えば、上述した材料よりなる封止用基板40に、上述した材料よりなる遮光膜を形成する。続いて、封止用基板40に赤色フィルタ(図示せず)の材料をスピンコートなどにより塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングして焼成することにより赤色フィルタを形成する。続いて、赤色フィルタ(図示せず)と同様にして、青色フィルタ(図示せず)および緑色フィルタ(図示せず)を順次形成する。
【0154】
そののち、保護層30の上に、接着層(図示せず)を形成し、この接着層を間にして封止用基板40を貼り合わせる。以上により図1ないし図3に示した有機EL表示装置1が完成する。
【0155】
この有機EL表示装置1では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bに駆動電流Idが注入され、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、下面発光(ボトムエミッション)の場合には下部電極14および基板11を透過して、上面発光(トップエミッション)の場合には上部電極17,カラーフィルタ(図示せず)および封止用基板40を透過して取り出される。
【0156】
従来の有機EL素子では、発光層は高分子材料を用いて塗布方式により、また、電子輸送層は低分子材料を用いて蒸着法式により形成されており、電子輸送層から各色の発光層への電子注入効率が低かった。これは、前述のように高分子材料と低分子材料とのエネルギー準位の差、あるいは形成方法の違いによって塗布方式で形成した発光層界面に環境汚染等が発生し、電子の輸送に大きな障壁ができてしまうためである。これにより、従来の有機EL素子は発光効率が低く、寿命も短かった。これは有機ELディスプレイの基本性能として大きな問題となる。
【0157】
これに対して本実施の形態では、各色の発光層16Cに低分子材料を添加しているため、発光層16Cと電子輸送層16Dとのエネルギー準位の差が小さくなり、上部電極17から発光層16Cへの電子の注入効率が向上する。これにより、各色の発光層16Cに注入される正孔と電子のキャリアバランスが最適になり、発光効率および寿命特性の向上が可能となる。
【0158】
このように本実施の形態の有機EL表示装置1では、各色の発光層16Cに低分子材料を添加するようにしたので、上部電極17から発光層16Cへの電子の注入効率が向上する。従って、発光層16Cへの電子の注入量が向上すると共に、形成方法の違いによる発光層16Cと電子輸送層16Dとの界面の環境汚染等による障壁の発生が抑制される。即ち、従来用いられている印刷方式の有機EL素子の課題であった、発光層16Cへの安定且つ効率的な電子の注入が可能となるため、発光効率および寿命特性が向上する。これにより、発光効率や寿命等のデバイス特性が良好な有機ELディスプレイを作製することが可能となる。
【0159】
(第2の実施の形態)
以下、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。本発明の第2の実施の形態に係る有機EL表示装置の全体構成は図示しないが、第1の実施の形態と同様に、例えば基板11の上に複数の赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bがマトリクス状に配置された表示領域が形成されている。表示領域内には画素駆動回路が設けられている。
【0160】
また、表示領域には、赤色の光を発生する赤色有機EL素子20Rと、緑色の光を発生する緑色有機EL素子20Gと、青色の光を発生する青色有機EL素子20Bとが、順に全体としてマトリクス状に配置されている。なお、隣り合う赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0161】
また、表示領域の周辺には第1の実施の形態と同様に、映像表示用のドライバである信号線駆動回路および走査線駆動回路が設けられている。
【0162】
図7は第2の実施の形態における有機EL表示装置2の表示領域の断面構成を表したものである。赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bは、第1の実施の形態と同様に、それぞれ、基板11の側から、画素駆動回路の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、陽極としての下部電極14、隔壁15、後述する発光層26Cを含む有機層26および陰極としての上部電極17がこの順に積層された構成を有している。有機層26を除く基板11,下部電極14,隔壁15,上部電極17,保護層30および封止用基板40は第1の実施の形態と同様の構成である。
【0163】
本実施の形態における有機EL表示装置2は、赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBと、これら各発光層26CR,26CG,26CBの全面に設けられた電子輸送層26Dとの間にホールブロック層26Fが設けられている点が第1の実施の形態と異なる。
【0164】
具体的には、赤色有機EL素子20Rの有機層26は、例えば、第1の実施の形態における赤色有機EL素子10Rと同様に下部電極14の側から順に、正孔注入層26AR,正孔輸送層26BR,赤色発光層26CR,ホールブロック層26F,電子輸送層26Dおよび電子注入層26Eを積層した構成を有する。緑色有機EL素子20G(および青色有機EL素子20B)の有機層26も赤色有機EL素子20Rと同様に、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層26AG(26AB),正孔輸送層26B(26BB)G,緑色発光層26CG(青色発光層26CB),ホールブロック層26F,電子輸送層26Dおよび電子注入層26Fを積層した構成を有する。これらのうちホールブロック層26F,電子輸送層26Dおよび電子注入層26Eは、赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bの共通層として設けられている。
【0165】
ホールブロック層26Fは、発光層26Cから電子輸送層26Dへの正孔の透過を抑え、発光層26Cでの正孔と電子の再結合の確率を向上させるものである。このホールブロック層26Fは、赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBの全面に共通層として設けられている。ホールブロック層26Fの厚みは、素子全体の構成にもよるが、例えば1nm〜30nmであることが好ましく、さらに好ましくは5nm〜10nmである。
【0166】
ホールブロック層26Fは蒸着法を用いて形成するため、低分子材料、特にモノマーを用いることが好ましい。オリゴマーまたは高分子材料のような重合された分子は蒸着中分解が起こる虞があるためである。なお、ホールブロック層26Fに用いる低分子材料は分子量の異なる2種以上の材料を混合して用いてもよい。
【0167】
ホールブロック層26Fに用いられる低分子材料としては、第1の実施の形態において説明した電子輸送層16Dに用いた低分子材料と同様に、電子移動度が10-6cm2/Vs以上1.0×10-1cm2/Vs以下の含窒素複素環誘導体を用いることができる。具体的には、上記の式(8)〜式(10)で表わされるベンゾイミダゾール誘導体(式(8)),ピリジルフェニル誘導体(式(9)),ビピリジン誘導体(式(10))または、カルバゾール誘導体(式(5))、ピラゾール誘導体(式(11))等が挙げられる。特に、発光層26Cから電子輸送層26Dへの正孔の透過を効果的に抑えるために、HOMOとLUMOとの準位間のギャップが電子注入・輸送層26Dよりも大きな、具体的には2.8以上3.5以下となる材料を用いることが好ましい。
【0168】
有機EL表示装置2は、図8に示した流れ図のように上記第1の実施の形態で記載したステップS106とステップS107との間に後述するホールブロック層26Fを形成する工程(ステップS201)を加えることにより製造することができる。
【0169】
(ホールブロック層26Fを形成する工程)
赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBまで形成したのち、蒸着法により、これら各色の発光層26CR,26CG,26CBの全面に、上述した低分子材料よりなるホールブロック層26Fを共通層として形成する(ステップS201)。
【0170】
なお、ホールブロック層26Fは上記第1の実施の形態における電子輸送層16D,電子注入層16E,上部電極17および保護層30と同様にマスクを用いることなく全面にベタ膜として形成される。また、ホールブロック層26Fの形成条件も上記第1の実施の形態における上記各層16D,16E,17,30と同様に、望ましくは、大気に暴露されることなく同一の成膜装置内において連続して行われる。これにより大気中の水分による有機層26の劣化が防止される。
【0171】
本実施の形態の有機EL表示装置2では、第1の実施の形態の効果に加えて以下の効果を奏する。各色の発光層26CR,26CG,26CBと電子輸送層26Dとの間にHOMOとLUMOとの準位間のギャップが大きい材料からなるホールブロック層26Fを形成するようにした。これにより、各色の発光層26CR,26CG,26CBから電子輸送層26Dへの正孔の透過が抑制され、発光層26Cでの正孔と電子との再結合の確率が向上する。即ち、赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20Gおよび青色有機EL素子20Bの発光効率が向上するため、これら有機EL素子20R,20G,20Bを配列形成してなるカラー有機EL表示装置のさらなる発光効率の向上が可能になる。
【0172】
(モジュールおよび適用例)
以下、上記実施の形態で説明した有機EL表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態の有機EL表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0173】
(モジュール)
上記実施の形態の有機EL表示装置は、例えば、図9に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、保護層30および封止用基板40から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0174】
(適用例1)
図10は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0175】
(適用例2)
図11は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0176】
(適用例3)
図12は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0177】
(適用例4)
図13は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0178】
(適用例5)
図14は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0179】
(実施例1)
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bを25mm×25mmの基板11上に作製した。
【0180】
まず、基板11としてガラス基板(25mm×25mm)を用意し、この基板11に、下部電極14として、厚み120nmのITOよりなる透明導電膜との2層構造を形成した(ステップS101)。
【0181】
続いて、SiO2等の無機材料を用いて隔壁15Aを、ポリイミド・アクリル・ノボラック等の樹脂材料を用いて隔壁15Bを形成し、隔壁15を形成した(ステップS102)。次に、隔壁15をプラズマ電源と電極を備えた装置に導入し、CF4等のフッ素系のガスを用いてプラズマ処理をすることにより隔壁15の表面を撥水処理した(ステップS103)。
【0182】
次に、正孔注入層16AR,16AG,16ABとして、大気中でノズルコート法により、ND1501(日産化学製ポリアニリン)を15nmの厚みで塗布したのち、220℃、30分間、ホットプレート上で熱硬化させた(ステップS104)。
【0183】
そののち、正孔注入層16AR、16AG、16ABの上に、キシレンおよびテトラヒドロフラン(THF)の各溶媒を重量比1:2で混合した混合溶媒に式(1−1)に示した化合物を1wt%の比率で溶解させた溶液を正孔輸送層16BR、16BG、16BBとしてノズルコート法により塗布した。厚みは、赤色有機EL素子10R用の正孔輸送層16BRは50nm、緑色有機EL素子10G用の正孔輸送層16BGは30nm、青色有機EL素子10B用の正孔輸送層18BBは20nmとした。次に、基板11を負圧の状態まで排気し、溶媒を真空乾燥させた後、180℃、30分で加熱処理した(ステップS105)。
【0184】
続いて、正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成したのち、赤色有機EL素子10Rの正孔輸送層10BRの上に赤色発光層16CRを形成した。具体的にはイリジウム錯体を含む赤色発色の高分子材料RPP(式3−1)に、例えば式(4−23)に示した低分子材料を重量比2:1で添加し、キシレンもしくはキシレンより高い沸点の溶媒に溶解させた溶液もしくはインクで、60nmの厚みでノズルコート法により塗訳印刷した。また、緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BG,16BBの上に緑色発光層16CG,青色発光層16CBを形成した。具体的には、それぞれイリジウム錯体を含む赤色発色の高分子材料GPP(式3−2)またはBPP(式3−3)に例えば式(4−23)に示した低分子材料を重量比2:1で添加し、キシレンもしくはキシレンより高い沸点の溶媒に溶解させた溶液もしくはインクで、50nmの厚みでノズルコート法により塗訳印刷した。続いて、負圧の状態まで排気し、溶媒を真空乾燥させた後、130℃、30分で加熱処理した(ステップS106)。
【0185】
次に、基板11を真空蒸着機に移動させ電子輸送層16D以降の層を蒸着した。
【0186】
まず、赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBを形成したのち、電子輸送層16Dとして、例えば式(8−17)に示した有機材料を真空蒸着法により、15nmの厚みで蒸着させた(ステップS107)。続いて、同じく蒸着法により、電子注入層16EとしてLiFを0.3nmの厚みで成膜し(ステップS108)、上部電極17としてAlを100nmの厚みで形成した(ステップS109)。最後に、CVD法によりSiNよりなる保護層30を3μm形成し、エポキシ樹脂を用いて固体封止を行った。このようにして得られた赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bを組み合わせることによりフルカラー有機EL表示装置(実施例1−1〜1−10)を得た。また、各色の発光層16CR,16CG,16CBに低分子材料を添加しない有機EL表示装置を作製し比較例1−1〜1−3とした。
【0187】
(実施例2)
赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20Gおよび青色有機EL素子20Bを25mm×25mmの基板11上に作製した。
【0188】
まず、基板11としてガラス基板(25mm×25mm)を用意し、この基板11に、下部電極14として、厚み120nmのITOよりなる透明導電膜との2層構造を形成した(ステップS101)。
【0189】
続いて、SiO2等の無機材料を用いて隔壁15Aを、ポリイミド・アクリル・ノボラック等の樹脂材料を用いて隔壁15Bを形成し、隔壁15を形成した(ステップS102)。次に、隔壁15をプラズマ電源と電極を備えた装置に導入し、CF4等のフッ素系のガスを用いてプラズマ処理をすることにより隔壁15の表面を撥水処理した(ステップS103)。
【0190】
次に、正孔注入層26AR,26AG,26ABとして、大気中でノズルコート法により、ND1501(日産化学製ポリアニリン)を15nmの厚みで塗布したのち、220℃、30分間、ホットプレート上で熱硬化させた(ステップS104)。
【0191】
そののち、正孔注入層26AR、26AG、26ABの上に、キシレンおよびテトラヒドロフラン(THF)の各溶媒を重量比1:2で混合した混合溶媒に式(1−1)に示した化合物を1wt%の比率で溶解させた溶液を正孔輸送層26BR、26BG、26BBとしてノズルコート法により塗布した。厚みは、赤色有機EL素子20R用の正孔輸送層26BRは50nm、緑色有機EL素子20G用の正孔輸送層26BGは30nm、青色有機EL素子20B用の正孔輸送層26BBは20nmとした。次に、基板11を負圧の状態まで排気し、溶媒を真空乾燥させた後、180℃、30分で加熱処理した(ステップS105)。
【0192】
続いて、正孔輸送層26BR,26BG,26BBを形成したのち、赤色有機EL素子20Rの正孔輸送層20BRの上に赤色発光層26CRを形成した。具体的にはイリジウム錯体を含む赤色発色の高分子材料RPP(式3−1)に、例えば式(4−13)に示した低分子材料を重量比2:1で添加し、キシレンもしくはキシレンより高い沸点の溶媒に溶解させた溶液もしくはインクで、60nmの厚みでノズルコート法により塗訳印刷した。また、緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BG,16BBの上に緑色発光層16CG,青色発光層16CBを形成した。具体的には、それぞれイリジウム錯体を含む赤色発色の高分子材料GPP(式3−2)またはBPP(式3−3)に例えば式(4−13)に示した低分子材料を重量比2:1で添加し、キシレンもしくはキシレンより高い沸点の溶媒に溶解させた溶液もしくはインクで、50nmの厚みでノズルコート法により塗訳印刷した。続いて、負圧の状態まで排気し、溶媒を真空乾燥させた後、130℃、30分で加熱処理した(ステップS106)。
【0193】
次に、基板11を真空蒸着機に移動させホールブロック層26F以降の層を蒸着した。
【0194】
まず、赤色発光層26CR,緑色発光層26CG,青色発光層26CBを形成したのち、蒸着法により、ホールブロック層26Fとして、フェナンスロリン誘導体である2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン(BCP;式(13))を用いて真空蒸着法により10nmの厚みで蒸着させた(ステップS201)。続いて、同じく蒸着法により、電子輸送層26Dとして、例えば式(7−17)に示した有機材料を真空蒸着法により、15nmの厚みで蒸着させた(ステップS107)。更に、同じく蒸着法により、電子注入層26EとしてLiFを0.3nmの厚みで成膜し(ステップS108)、上部電極17としてAlを100nmの厚みで形成した(ステップS109)。最後に、CVD法によりSiNよりなる保護層30を3μm形成し、エポキシ樹脂を用いて固体封止を行った。このようにして得られた赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bを組み合わせることによりフルカラー有機EL表示装置(実施例2−1)を得た。
【0195】
【化51】
【0196】
実施例1,2として作製した有機EL表示装置1,2の赤色有機EL素子10R,20R,緑色有機EL素子10G,20Gおよび青色有機EL素子10B,20Bについて、電流密度10mA/cm2で定電流駆動させた際の駆動電圧(V)、発光効率(cd/A)および色度座標(x,y)を測定した。また、電流密度20mA/cm2で直流駆動させた際の輝度半減寿命(h)を測定した。なお、上記測定は23±0.5℃で管理された環境下で行った。
【0197】
表1は実施例実施例1−1〜1−10,2,および比較例1−1〜1−3における各層の組成の一覧を示したものである。表2は上記実施例1−1〜1−10,2および比較例1−1〜1−3の測定結果の一覧である。
【0198】
【表1】
【0199】
【表2】
【0200】
表2からわかるように、各色の発光層が高分子材料のみから構成され、且つ電子輸送層が設けられていない従来の有機EL素子である比較例1−1に対して、Alq3からなる電子輸送層を設けた比較例1−2では発光効率および寿命が著しく低下した。これは、上部電極から発光層へ注入される電子が不足したためと考えられる。また、比較例1−3では、比較例1−2の結果を省みて、Alq3に替えて電子注入性が高い電子輸送材料(式(8−17))からなる電子輸送層を設けることにより発光効率および寿命特性が改善された。しかしながら、比較例1−1の結果には及ばず、電子輸送層を設けた効果は全く見られなかった。
【0201】
これに対して、実施例1−1〜1−10では、比較例1−1と比較して発光効率および寿命特性が大幅に改善されていることがわかる。これは、高分子材料からなる各色の発光層16CR,16CG,16CBに低分子材料を添加したことにより、低分子材料からなる電子輸送層16Dから各色の発光層16CR,16CG,16CBへの電子注入障壁が軽減されたことによる。また、発光効率および寿命特性が改善されただけでなく駆動電圧も低減した。
【0202】
更に、実施例2では、ホールブロック層26Fを設けることにより、さらなる発光効率の向上と、比較例1−1と比較して2倍以上寿命特性が向上した。
【0203】
なお、以上のような効果は実施例1−1〜1−10,2において用いた低分子材料に限らず、式(4−1)〜式(12−29)に示したその他の低分子材料においても同様の効果が得られた。また、本実施例1−1〜1−10,2−1,2−2では正孔注入層16AR,16AG,16AB,26AR,26AG,26AB、正孔輸送層16BR,16BG,16BB,26BR,26BG,26BBおよび発光層16CR,16CG,16CB,26CR,26CG,26CBをノズルコート方式を用いて形成したが、塗付方式は限定しない。インクジェット方式、スピンコート方式、スリットコート方式等の塗布方式に限らず、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式または凸版印刷方式等の各種印刷方式だけでなく、にスプレイコート等によって有機EL材料を噴霧し、高精細のマスク等で塗訳を行う噴霧方式を用いて形成した有機EL表示装置でも本実施例の結果と同様の結果が得られた。
【0204】
以上、第1および第2の実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。
【0205】
例えば、上記実施の形態および実施例において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0206】
また、上記実施の形態等では赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBに低分子材料を添加して電子の注入効率を向上させたが、これら各発光層26CR,26CG,26CBに低分子材料を添加せず、各発光層26CR,26CG,26CBと電子輸送層26Dとの間にホールブロック層26Fが設けることでも上記効果を得ることができる。
【0207】
更に、上記実施の形態および実施例では、有機EL素子10R,10G,10B(20R,20G,20B)の構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。例えば、正孔注入層16A(26A)上に正孔輸送層16B(26B)を形成せず、直接発光層16C(26C)を塗布方式により形成してもよい。
【0208】
また、上記実施の形態等では、赤色発光層16CR(26CR),緑色発光層16CG(26CG)および青色発光層16CB(26CB)をそれぞれ対応する有機EL素子10R,10G,10B(20R,20G,20B)に塗布方式により形成したが、青色発光層16CB(26CB)を共通層として赤色発光層16CR(26CR),緑色発光層16CG(26CG)および青色の正孔輸送層16BB(26BB)上の全面に蒸着により形成してもよい。
【0209】
更に、上記実施の形態等では、電子輸送層16D(26D)を1種類の材料からなる単層として形成したが、これに限らず、例えば2種類以上の材料からなる混合層、または異なる材料からなる層を積層した多層構造としてもよい。また、上記実施の形態等では、赤色,緑色および青色の有機EL素子を備えた表示装置について説明したが、例えば本発明は青色有機EL素子と黄色有機EL素子からなる表示装置への適用も可能である。また、白色発光の有機EL素子への適用も可能であり、発光色についての限定はない。
【0210】
更にまた、上記実施の形態では、アクティブマトリクス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の表示装置への適用も可能である。更にまた、アクティブマトリクス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記実施の形態で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【符号の説明】
【0211】
1,2…有機EL表示装置、10R,20R…赤色有機EL素子、10G,20G…緑色有機EL素子、10B,20B…青色有機EL素子、11…基板、14…下部電極、15…隔壁、15A…上部隔壁、15B…下部隔壁、16,26…有機層、16AR,16AG,16AB,26AR,26AG,26AB…正孔注入層、16BR,16BG,16BB,26BR,26BG,26BB…正孔輸送層、16CR,26CR…赤色発光層、16CG,26CG…緑色発光層、16CB,26CB…青色発光層、16D,26D…電子輸送層、16E,26E…電子注入層、26F…ホールブロック層、17…上部電極、30…保護層、40…封止用基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス(EL;Electro Luminescence)現象を利用して発光する有機EL表示装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信産業の発達が加速するにつれて、高度な性能を有する表示素子が要求されている。その中で、次世代表示素子として注目されている有機EL素子は自発発光型表示素子として視野角が広くてコントラストが優秀なだけでなく応答時間が速いという長所がある。
【0003】
有機EL素子を形成する発光層等に用いられる材料は、低分子材料と高分子材料に大別される。一般に、低分子材料の方がより高い発光効率、長寿命を示すことが知られている。
【0004】
また、その有機膜は低分子材料では真空蒸着法等の乾式法(蒸着法)、高分子材料ではスピンコーティング方式、インクジェット方式またはノズルコート方式等の湿式法(塗付法)やフレキソ印刷、オフセット印刷等の印刷法により成膜されている。
【0005】
真空蒸着法は、有機薄膜の形成材料を溶媒に溶解させる必要がなく、成膜後に溶媒を除去する工程が不要という利点がある。但し、真空蒸着法はメタルマスクによる塗り分けが難しく、特に大型のパネルの作製における設備製造コストが高いため、大画面基板への適用が難しく、量産にも難があるなどの欠点を有していた。そこで表示画面の大面積化が比較的容易な塗布法が注目されている。
【0006】
インクジェット方式を代表とした塗布方式における初期の構造は、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)等の正孔注入材料からなる正孔注入層上に各種発光色を呈する発光材料からなる発光層が塗布形成され、更にアルカリ金属を介してアルミニウム等からなるカソード電極が形成されていた。この初期構造の改良として、PEDOT/PSSからの劣化因子の抑制および正孔注入を調整するためのインターレイヤーと呼ばれる正孔輸送性を有する高分子材料層の挿入が一般化されていた。このような有機EL素子は「アノード電極/正孔輸送層/インターレイヤー/発光層/電子注入層/カソード電極」の積層構造となっており、この積層構造のうちアノード電極から発光層までは塗付法により、電子注入層およびカソード電極は蒸着法により形成されていた。
【0007】
この積層構造では、カソード電極から電子注入層を介し直接電子を発光層に注入することによって以下の問題が生じていた。まず、第1に、発光層とカソード電極が直接接することによりクエンチング等が発生するため発光層の厚みを厚くし実際の発光位置とカソード電極との距離を一定以上離す必要があったが、これにより駆動電圧が増大する。第2に、カソード電極から発光層へ直接電子を注入する際の電子注入性は、LiF,MgF2,NaF,MgAg,MgO,Li2O3,SrF2,Ca,Ba,BaO,Cs等の無機系アルカリ金属を中心とした電子注入層で制御される。赤,緑,青等の3色で構成されるディスプレイでは、電子注入層を色ごとに塗訳することが難しいため上記無機系アルカリ金属から1材料を選択し各色の共通層として形成する。しかし、各色に最適な無機系アルカリ金属はそれぞれ異なるため、3色全てにおいて最良の特性を得ることはできず、特定の色で発光効率の低下や寿命特性等のデバイス特性が悪化するという問題があった。
【0008】
これらの問題を解決するために、例えば特許文献1において、発光層上に電子輸送性の材料からなる電子輸送層を蒸着法によって形成し、上記アルカリ金属を中心とした電子注入層を電子輸送層とカソード電極との間に配置した有機EL素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−344869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の有機EL素子では発光効率を向上させることは困難であり、更に、発光層への電子の注入量が不足することによって寿命特性が悪化するという問題があった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、駆動電圧を抑えつつ発光効率および寿命特性を向上させることが可能な有機EL表示装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による有機EL表示装置は、以下の(A)〜(E)の構成要素を備えたものである。
(A)基板に、複数の有機EL素子の各々ごとに設けられた複数の下部電極
(B)下部電極の上に有機EL素子ごとに設けられた正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層
(C)正孔注入・輸送層上に有機EL素子ごとに設けられると共に、低分子材料を含む複数の有機発光層
(D)複数の有機発光層上の全面に設けられた電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層
(E)電子注入・輸送層上に設けられた上部電極
【0013】
本発明による有機EL表示装置の製造方法は、以下の(A)〜(E)の工程を含むものである。
(A)基板に複数の下部電極を複数の有機EL素子の各々ごとに形成する工程
(B)下部電極上に正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層を有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程
(C)正孔注入・輸送層上に低分子材料を含む複数の有機発光層を有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程
(D)複数の有機発光層の全面に電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層を蒸着法により形成する工程
(E)電子注入・輸送層の全面に上部電極を形成する工程
【0014】
本発明の有機EL表示装置およびその製造方法では、各色の有機発光層に低分子材料を添加することにより、上部電極から有機発光層への電子の注入効率が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機EL表示装置およびその製造方法によれば、各色の発光層に低分子材料を添加するようにしたので、上部電極から有機発光層への電子の注入効率が向上する。これにより、発光層への電子の注入量が増加するため発光効率および寿命特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を表す図である。
【図2】図1に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図3】図1に示した表示領域の構成を表す断面図である。
【図4】図1に示した有機EL表示装置の製造方法の流れを表す図である。
【図5】図4に示した製造方法を工程順に表す断面図である。
【図6】図5に続く工程を表す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した有機EL表示装置の製造方法の流れを表す図である。
【図9】上記実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図10】上記実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図11】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図12】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図13】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図14】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して以下の順に詳細に説明する。
1.第1の実施の形態
(各色発光層上に電子注入・輸送層を形成した有機EL表示装置)
2.第2の実施の形態
(各色発光層と電子注入・輸送層との間にホールブロック層を形成した有機EL表示装置)
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る有機EL表示装置1の構成を表すものである。この有機EL表示装置1は、有機ELテレビジョン装置などとして用いられるものであり、例えば、基板11の上に、表示領域110として、後述する複数の赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bがマトリクス状に配置されたものである。表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。
【0019】
表示領域110内には画素駆動回路140が設けられている。図2は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、後述する下部電極14の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。すなわち、この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された赤色有機EL素子10R(または緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10B)とを有する。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0020】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0021】
また、表示領域110には、赤色の光を発生する赤色有機EL素子10Rと、緑色の光を発生する緑色有機EL素子10Gと、青色の光を発生する青色有機EL素子10Bとが、順に全体としてマトリクス状に配置されている。なお、隣り合う赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0022】
図3は図1に示した表示領域110の断面構成を表したものである。赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bは、それぞれ、基板11の側から、上述した画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、陽極としての下部電極14、隔壁15、後述する発光層16C(赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CB)を含む有機層16および陰極としての上部電極17がこの順に積層された構成を有している。
【0023】
このような赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bは、保護層30により被覆され、更にこの保護層30上に熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層(図示せず)を間にしてガラスなどよりなる封止用基板40が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。
【0024】
基板11は、その一主面側に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bが配列形成される支持体であって、公知のものであって良く、例えば、石英、ガラス、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられる。この中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類、もしくはポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、透水性や透ガス性を抑える積層構造、表面処理を行うことが必要である。
【0025】
下部電極14は、基板11上に、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに設けられている。下部電極14は、例えば、積層方向の厚み(以下、単に厚みと言う)が10nm以上1000nm以下であり、クロム(Cr),金(Au),白金(Pt),ニッケル(Ni),銅(Cu),タングステン(W)あるいは銀(Ag)などの金属元素の単体または合金が挙げられる。また、下部電極14は、これらの金属元素の単体または合金よりなる金属膜と、インジウムとスズの酸化物(ITO)、InZnO(インジウム亜鉛オキシド)、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金などの透明導電膜との積層構造を有していてもよい。なお、下部電極14が陽極として使われる場合には、下部電極14は正孔注入性の高い材料により構成されていることが望ましい。但し、アルミニウム(Al)合金のように、表面の酸化皮膜の存在や、仕事関数が大きくないことによる正孔注入障壁が問題となる材料においても、適切な正孔注入層16Aを設けることによって下部電極14として使用することが可能である。
【0026】
隔壁15は、下部電極14と上部電極17との絶縁性を確保すると共に発光領域を所望の形状にするためのものである。更に、後述する製造工程においてインクジェット方式またはノズルコート方式等による塗布を行う際の隔壁としての機能も有している。隔壁15は、例えば、SiO2等の無機絶縁材料よりなる下部隔壁15Aの上に、ポジ型感光性ポリベンゾオキサゾール,ポジ型感光性ポリイミドなどの感光性樹脂よりなる上部隔壁15Bを有している。隔壁15には、発光領域に対応して開口が設けられている。なお、有機層16ないし上部電極17は、開口だけでなく隔壁15の上にも設けられていてもよいが、発光が生じるのは隔壁15の開口だけである。
【0027】
赤色有機EL素子10Rの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AR,正孔輸送層16BR,赤色発光層16CR,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。緑色有機EL素子10Gの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AG,正孔輸送層16BG,緑色発光層16CG,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。青色有機EL素子10Bの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AB,正孔輸送層16BB,青色発光層16CB,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。これらのうち電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eは、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの共通層として設けられている。
【0028】
正孔注入層16AR,16AG,16ABは、各発光層16CR,16CG,16CBへの正孔注入効率を高めるためのものであると共に、リークを防止するためのバッファ層であり、下部電極14の上に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに設けられている。
【0029】
正孔注入層16AR,16AG,16ABの厚みは例えば5nm〜100nmであることが好ましく、より好ましくは8nm〜50nmである。正孔注入層16AR,16AG,16ABの構成材料は、電極や隣接する層の材料との関係で適宜選択すればよく、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリキノリン、ポリキノキサリンおよびそれらの誘導体、芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体などの導電性高分子、金属フタロシアニン(銅フタロシアニン等)、カーボンなどが挙げられる。
【0030】
正孔注入層16AR,16AG,16ABに用いられる材料が高分子材料である場合には、その高分子材料の重量平均分子量(Mw)は1万〜30万の範囲であればよく、特に5000〜20万程度が好ましい。また、2000〜1万程度のオリゴマーを用いてもよいが、Mwが5000未満では正孔輸送層以後の層を形成する際に、正孔注入層が溶解してしまう虞がある。また30万を超えると材料がゲル化し、成膜が困難になる虞がある。
【0031】
正孔注入層16AR,16AG,16ABの構成材料として使用される典型的な導電性高分子としては、例えばポリアニリン、オリゴアニリンおよびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などのポリジオキシチオフェンが挙げられる。この他、エイチ・シー・スタルク製Nafion(商標)で市販されているポリマー、または商品名Liquion(商標)で溶解形態で市販されているポリマーや、日産化学製エルソース(商標)や、綜研化学製導電性ポリマーベラゾール(商標)などがある。
【0032】
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BR,16BG,16BBは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBへの正孔輸送効率を高めるためのものである。正孔輸送層16BR,16BG,16BBは、正孔注入層16AR,16AG,16ABの上に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに設けられている。
【0033】
正孔輸送層16BR,16BG,16BBの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは15nm〜150nmである。正孔輸送層16BR,16BG,16BBを構成する高分子材料としては、有機溶媒に可溶な発光材料、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリシランまたはそれらの誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールなどを用いることができる。
【0034】
更に好ましくは、それぞれ上下に接する正孔注入層16AR,16AG,16ABおよび各色の発光層16CR,16CG、16CBとの密着性が良好であり、有機溶媒に可溶な性質を有する式(1)で表わされる高分子材料が挙げられる。
【0035】
【化1】
(A13〜A16は、芳香族炭化水素基またはその誘導体が1〜10個結合した基、あるいは複素環基またはその誘導体が1〜15個結合した基である。nおよびmは0〜10000の整数であり、n+mは10〜20000の整数である。)
【0036】
また、n部およびm部の配列順序は任意であり、例えばランダム重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。更に、nおよびmは5〜5000の整数であることが好ましく、より好ましくは10〜3000の整数である。また、n+mは10〜10000の整数であることが好ましく、より好ましくは20〜6000の整数である。
【0037】
更に、式(1)で表わされる化合物におけるA13〜A16が示す芳香族炭化水素基の具体例としては、例えばベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、あるいはこれらの誘導体、またはフェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。複素環基の具体例としては、例えばチオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、あるいはこれらの誘導体が挙げられる。
【0038】
また式(1)で表わされる化合物におけるA13〜A16が置換基を有する場合、この置換基は、例えば炭素数1〜12の直鎖あるいは分岐のアルキル基、アルケニル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基等であることが好ましい。
【0039】
式(1)に示した化合物の具体例としては、例えば以下の式(1−1)〜式(1−3)に示した化合物、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4'−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB,式(1−1))、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N'−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N'−{1,4−ジフェニレン})](式(1−2))、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO,式(1−3))が好ましいが、この限りではない。
【0040】
【化2】
【0041】
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBでは、電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり発光する。赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは15nm〜150nmである。赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBは高分子(発光)材料に低分子材料が添加された混合材料により構成されている。ここで低分子材料とは、モノマーまたはこのモノマーを2〜10個結合したオリゴマーとし、1万以下の重量平均分子量を有するものが好ましい。なお、重量平均分子量が上記範囲を超えた低分子材料を必ずしも除外するものではない。
【0042】
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBは、詳細は後述するが、例えばインクジェット等の塗付法により形成する。その際、高分子材料および低分子材料を例えばトルエン、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン)、ブサイドクメン(1,2,4−トリメチルベンゼン)、ジハイドロベンゾフラン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、1−メチルナフタレン、p−アニシルアルコール、ジメチルナフタレン、3-メチルビフェニル、4−メチルビフェニル、3−イソプロピルビフェニル、モノイソプロピルナフタレンなどの有機溶媒に少なくとも1種類以上使って溶解し、この混合溶液を用いて形成する。
【0043】
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを構成する高分子材料(発光ユニット)としては、例えばポリフルオレン系高分子誘導体や、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体等の発光性高分子が挙げられる。特に本実施の形態では、一重項励起子から発光する高分子発光層として、赤色発光層16CRにAmerican Dye Source社製の商品名ADS111RE(商標;式(2−1))、緑色発光層16CGに同社製の商品名ADS109GE(商標;式(2−2))、青色発光層16CBに同社製の商品名ADS136BE(商標;式(2−3))が挙げられる。なお、ここで用いられる高分子材料は共役系高分子だけに限らず、ペンダント形の非共役系高分子および色素混合型の非共役系高分子も含み、近年開発が進められている、中心にコアの分子を配しデンドロンと呼ばれる側鎖から構成されるデンドリマー型の高分子発光材料であってもよい。また、高分子材料に含まれる置換基は限定されず、式(2−1),式(2−2),式(2−3)に示した主骨格に対して必要に応じて電子輸送性および/または正孔輸送性を有する置換基を含んでいてもよい。更に、発光部位に関しては、一重項励起子から発光するもの、三重項励起子から発光するものおよびこの両者から発光するものがあるが、本実施の形態の各発光層16CR,16CG,16CBはいずれの発光部位を含んでいてもよい。
【0044】
【化3】
【0045】
また、上記以外の発光ユニットとしては、アントラセン,ナフタレン,フェナントレン,ピレン,テトラセン,コロネン,クリセン,フルオレセイン,ペリレン,フタロペリレン,ナフタロペリレン,ペリノン,フタロペリノン,ナフタロペリノン,ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン,クマリンモキサジアゾール,アルダジン,ビスベンゾキサゾリン,ビススチリル,ピラジン,シクロペンタジエン,キノリン金属錯体,アミノキノリン金属錯体,ベンゾキノリン金属錯体,イミン,ジフェニルエチレン,ビニルアントラセン,ジアミノカルバゾール,ピラン,チオピラン,ポリメチン,メロシアニン,イミダゾールキレート化オキシノイド化合物,キナクリドン,ルブレン等の芳香族炭化水素、または複素環式化合物が挙げられる。更に、三重項励起状態を伴う発光ユニットを用いることができる。三重項励起状態を伴う発光ユニットとしては、イリジウム金属錯体等の金属錯体を含む化合物が多いが、金属錯体の含有も含めこの限りではない。三重項励起状態から発光する高分子発光材料の具体例としては、赤色りん光発光材料としてRPP(式(3−1))、緑色りん光発光材料としてGPP(式(3−2))、青色りん光発光材料としてBPP(式(3−3))等が挙げられる。
【0046】
【化4】
【0047】
また、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを構成する高分子材料には低分子材料を添加することが好ましい。これにより、電子輸送層16Dから赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへの正孔および電子の注入効率が向上する。以下にその原理を説明する。
【0048】
高分子材料のみから構成される赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBの上部に低分子材料からなる電子輸送層16Dを形成した場合には、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBのエネルギー準位と、電子輸送層16Dのエネルギー準位との差は大きい。このため、電子輸送層16Dと赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CB各々との間の正孔または電子の注入効率は非常に低く、前述のように、本来の高分子材料からなる発光層が有する特性を十分に得ることができないという問題があった。本実施の形態では、この正孔または電子の注入特性を向上させるために、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBが有するエネルギー準位と、電子輸送層16Dが有するエネルギー準位との差を小さくする低分子材料(モノマーまたはオリゴマー)を赤色発光層16CR,緑色発光層16DGおよび青色発光層16CBに添加するものである。ここでは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CRおよび青色発光層16CBの最高占有分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;HOMO)準位および最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital;LUMO)準位と、電子輸送層16DのHOMO(最高占有分子軌道)準位および最低非占有分子軌道(LUMO)準位と赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに添加する低分子材料のHOMO(最高占有分子軌道)準位および最低非占有分子軌道(LUMO)準位との関係を考慮する。具体的には、添加する低分子材料として、赤色発光層16CRまたは緑色発光層16CGそれぞれのLUMOより深い値を有すると共に、電子輸送層16DのLUMOより浅い値を有し、かつ、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBそれぞれのHOMOより深い値を有すると共に、電子輸送層16DのHOMOより浅い値を有する化合物を選択する。
【0049】
但し、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに用いる材料は、上記HOMOおよびLUMOの値による基準に必ずしも制限されない。例えば発光層26CR,26CG,26CBと電子輸送層26Dとの間に後述するホールブロック層26Fを設ける場合にはこの限りではない。具体的には、電子輸送性を示すホールブロック層26FのLUMOは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBの低分子材料より浅くても構わない。また、発光層26Cに混合する低分子材料は単独で混合するとは限らず、エネルギー準位の異なる材料を複数種類混合して用いることにより、正孔および電子の輸送が円滑に行われる。
【0050】
また、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに添加する低分子材料は、低分子化合物が同じ反応または類似の反応を連鎖的に繰り返すことにより生じた高分子量の重合体または縮合体の分子からなる化合物以外のものであって、分子量が実質的に単一であるものを指す。また、上記低分子材料は加熱による分子間の新たな化学結合は生じず、単分子で存在する。このような低分子材料の重量平均分子量(Mw)は1万以下であることが好ましい。更に、高分子材料/低分子材料の分子量比が10以上であることが好ましい。これは分子量の大きい、例えば5万以上の材料に比べてある程度小さい分子量の材料のほうが多様な特性を有し、正孔または電子の移動度やバンドギャップあるいは溶媒への溶解度などを調整しやすいためである。また、低分子材料の添加量は、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに用いられる高分子材料:低分子材料の混合比率が、その重量比で20:1以上1:1以下になるようにすることが好ましい。高分子材料:低分子材料の混合比率が20:1未満では、低分子材料の添加による効果が低くなるためである。また、この混合比率が1:1を超える場合には、発光材料としての高分子材料が有する特性が得られにくくなるためである。
【0051】
上述のように、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへ低分子材料を添加することにより、正孔および電子のキャリアバランスを調整することがより簡易になる。これにより、後述する電子輸送層16Dを形成することによって起こる、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへの電子注入性の低下および正孔輸送性の低下が抑制される。即ち、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの発光効率および寿命の低下、駆動電圧の上昇が抑制される。
【0052】
このような低分子材料としては、例えばベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマーあるいはオリゴマーを用いることができる。
【0053】
さらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、ヘキサシアノアザトリフェニレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6-テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノ4、4、4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N、N、N’、N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N、N、N’、N’−テトラフェニル−4、4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2、2’−チエニルピロール)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
さらに好ましくは、下記の式(4)〜式(6)で表わされる低分子材料が挙げられる。
【0055】
【化5】
(A1〜A3は芳香族炭化水素基、複素環基またはそれらの誘導体である。)
【0056】
【化6】
(Zは含窒素炭化水素基あるいはその誘導体である。L1は2価の芳香族環基が1ないし4個結合した基、具体的には1〜4個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A4およびA5は、芳香族炭化水素基あるいは芳香族複素環基、またはその誘導体である。但し、A4およびA5は互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【0057】
【化7】
(L2は2価の芳香族環基が2ないし6個結合した基である。具体的には2〜6個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A6〜A9は、芳香族炭化水素基あるいは複素環基、またはその誘導体が1〜10個結合した基である。)
【0058】
式(4)に示した化合物の具体例としては、以下の式(4−1)〜式(4−48)などの化合物が挙げられる。
【0059】
【化8】
【0060】
【化9】
【0061】
【化10】
【0062】
式(5)に示した化合物の具体例としては、以下の式(5−1)〜式(5−166)などの化合物が挙げられる。なお、ここでL1に結合する含窒素炭化水素基として、例えばカルバゾール基やインドール基を有する化合物を挙げたがこれに限らない。例えばイミダゾール基を用いてもよい。
【0063】
【化11】
【0064】
【化12】
【0065】
【化13】
【0066】
【化14】
【0067】
【化15】
【0068】
【化16】
【0069】
【化17】
【0070】
【化18】
【0071】
【化19】
【0072】
【化20】
【0073】
【化21】
【0074】
【化22】
【0075】
【化23】
【0076】
式(6)に示した化合物の具体例としては、以下の式(6−1)〜式(6−45)などの化合物が挙げられる。
【0077】
【化24】
【0078】
【化25】
【0079】
【化26】
【0080】
【化27】
【0081】
また、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへ添加する低分子材料としては、式(7)に表わされる化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0082】
【化28】
(R24〜R29は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数20以下のアルキル基、アルケニル基、カルボニル基を有する基、カルボニルエステル基を有する基、アルコキシル基を有する基、シアノ基を有する基、ニトロ基を有する基、あるいはそれらの誘導体、炭素数30以下のシリル基を有する基、アリール基を有する基、複素環基を有する基、アミノ基を有する基あるいはそれらの誘導体である。)
【0083】
式(7)で表わされる化合物におけるR24〜R29が示すアリール基を有する基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フルオレニル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基、9−ナフタセニル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、4−ピレニル基、1−クリセニル基、6−クリセニル基、2−フルオランテニル基、3−フルオランテニル基、2−ビフェニルイル基、3−ビフェニルイル基、4−ビフェニルイル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−t−ブチルフェニル基等が挙げられる。
【0084】
また、R24〜R29が示す複素環基を有する基としては、ヘテロ原子として酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)を含有する5員環または6員環の芳香環基であり、炭素数2〜20の縮合多環芳香環基が挙げられる。このような複素環基としては、例えばチエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、キノキサリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾチアゾール基が挙げられる。代表的なものとしては,1−ピロリル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、ピラジニル基、2−ピリジニル基、3−ピリジニル基、4−ピリジニル基、1−インドリル基、2−インドリル基、3−インドリル基、4−インドリル基、5−インドリル基、6−インドリル基、7−インドリル基、1−イソインドリル基、2−イソインドリル基、3−イソインドリル基、4−イソインドリル基、5−イソインドリル基、6−イソインドリル基、7−イソインドリル基、2−フリル基、3−フリル基、2−ベンゾフラニル基、3−ベンゾフラニル基、4−ベンゾフラニル基、5−ベンゾフラニル基、6−ベンゾフラニル基、7−ベンゾフラニル基、1−イソベンゾフラニル基、3−イソベンゾフラニル基、4−イソベンゾフラニル基、5−イソベンゾフラニル基、6−イソベンゾフラニル基、7−イソベンゾフラニル基、キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、1−イソキノリル基、3−イソキノリル基、4−イソキノリル基、5−イソキノリル基、6−イソキノリル基、7−イソキノリル基、8−イソキノリル基、2−キノキサリニル基、5−キノキサリニル基、6−キノキサリニル基、1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、4−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基、1−フェナンスリジニル基、2−フェナンスリジニル基、3−フェナンスリジニル基、4−フェナンスリジニル基、6−フェナンスリジニル基、7−フェナンスリジニル基、8−フェナンスリジニル基、9−フェナンスリジニル基、10−フェナンスリジニル基、1−アクリジニル基、2−アクリジニル基、3−アクリジニル基、4−アクリジニル基、9−アクリジニル基、などが挙げられる。
【0085】
R24〜R29が示すアミノ基を有する基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アラルキルアミノ基などのいずれでもよい。これらは、炭素数1〜6個の脂肪族炭化水素基および/または1〜4個の芳香環基を有することが好ましい。このような基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ビスビフェニリルアミノ基、ジナフチルアミノ基が挙げられる。なお、上記置換基は2以上の置換基からなる縮合環を形成していてもよく、さらにその誘導体でもよい。
【0086】
式(7)に示した化合物の具体例としては、以下の式(7−1)〜式(7−51)などの化合物が挙げられる。
【0087】
【化29】
【0088】
【化30】
【0089】
【化31】
【0090】
更に、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへ添加する低分子材料としては、電子輸送能を有する化合物を用いることができる。具体的には、下記の式(8)〜式(10)で表わされるベンゾイミダゾール誘導体(式(8)),ピリジルフェニル誘導体(式(9)),ビピリジン誘導体(式(10))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
【化32】
(A10は水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜60個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Bは単結合、2価の芳香族環基あるいはその誘導体である。R7,8は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。)
【0092】
【化33】
(A11は芳香族環が2ないし5個縮合したn価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R9〜R13は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、A11またはR15〜R19のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R15〜R19は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR9〜R13のいずれか1つに結合する遊離原子価である。nは2以上の整数であり、n個のピリジルフェニル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【0093】
【化34】
(A12は芳香族環が2ないし5個縮合したm価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R20〜R24は各々独立して水素原子あるはハロゲン原子、A12またはR25〜R29のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R25〜R29は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR20〜R24のいずれか1つに結合する遊離原子価である。mは2以上の整数であり、m個のビピリジル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【0094】
式(8)に示した化合物の具体例としては、以下の式(8−1)〜式(8−49)などの化合物が挙げられる。なお、式(8−1)から式(8−43)におけるAr(α)は式(8)中のR7,R8を含むベンゾイミダゾール骨格に、Bは式(8)中のBに対応する。Ar(1)およびAr(2)は式(8)中のA10に対応し、Ar(1),Ar(2)の順にBに結合する。
【0095】
【化35】
【0096】
【化36】
【0097】
【化37】
【0098】
【化38】
【0099】
【化39】
【0100】
【化40】
【0101】
式(9)に示した化合物の具体例としては、以下の式(9−1)〜式(9−81)などの化合物が挙げられる。
【0102】
【化41】
【0103】
【化42】
【0104】
【化43】
【0105】
【化44】
【0106】
【化45】
【0107】
式(10)に示した化合物の具体例としては、以下の式(10−1)〜式(10−17)などの化合物が挙げられる。
【0108】
【化46】
【0109】
また、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBへ添加する低分子材料としては、上記式(8)〜式(10)で表わされる化合物の他に、例えば下記の式(11)で表わされるピラゾール誘導体が挙げられる。
【0110】
【化47】
(R30〜R32は水素原子、1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数1〜6個の炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。)
【0111】
式(11)で表わされる化合物におけるR30〜R32が示す芳香族炭化水素基を有する基としては、例えば、フェニル基、2-メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2、4,5−トリメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスラセニル基、2−アンスラセニル基、9−アンスラセニル基、9−フェンスレニル基等が挙げられるが上記に限定されるものでもない。なお、R30〜R32は同一であっても、異なっていてもよい。
【0112】
式(11)に示した化合物の具体例としては、同一分子中に2個以上4個未満のピラゾール構造を含む以下の式(11−1)〜式(11−5)等の化合物が挙げられる。
【0113】
【化48】
【0114】
更にまた、りん光発光材料を用いることができる。具体的には、ベリリウム(Be),ホウ素(B),亜鉛(Zn),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),金(Au),銀(Ag),パラジウム(Pd),白金(Pt),アルミニウム(Al),ガドリニウム(Ga),イットリウム(Y),スカンジウム(Sc),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),オスミウム(Os),イリジウム(Ir)等の金属元素を少なくとも1種含む金属錯体が挙げられる。更に具体的には、式(12−1)〜式(12−29)に表わされる化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0115】
【化49】
【0116】
【化50】
【0117】
なお、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに添加する低分子材料は1種類だけでなく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0118】
電子輸送層16Dは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBへの電子輸送効率を高めるためのものであり、青色発光層16CBの全面に共通層として設けられている。電子輸送層16Dの厚みは素子の全体構成にもよるが、例えば5nm〜300nmであることが好ましく、さらに好ましくは10nm〜170nmである。
【0119】
電子輸送層16Dの材料としては、優れた電子輸送能を有する有機材料を用いることが好ましい。発光層16Cへの電子の輸送効率を高めることにより、後述する電界強度による赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bにおける発光色の変化が抑制される。このような有機材料としては、具体的には電子移動度が10-6cm2/Vs以上1.0×10-1cm2/Vs以下の含窒素複素環誘導体を用いることができる。
【0120】
また、電子輸送層16Dに用いる有機材料は1種類だけでなく、複数種類を混合または積層して用いてもよい。更にまた、上記化合物は後述する電子注入層16Eに用いてもよい。
【0121】
電子注入層16Eは、電子注入効率を高めるためのものであり、電子輸送層16Dの全面に共通層として設けられている。電子注入層16Eの材料としては、例えばリチウム(Li)の酸化物である酸化リチウム(LiO2)や、セシウム(Cs)の複合酸化物である炭酸セシウム(Cs2CO3)、さらにはこれらの酸化物及び複合酸化物の混合物を用いることができる。また、電子注入層16Eは、このような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属の酸化物及び複合酸化物、フッ化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物及び複合酸化物、フッ化の混合物や合金として安定性を高めて使用してもよい。更に、上記電子輸送層16Dの材料として挙げた式(8−1)〜式(11−5)に示した有機材料を用いてもよい。
【0122】
上部電極17は、例えば、厚みが2nm以上15nm以下であり、金属導電膜により構成されている。具体的には、Al,Mg,CaまたはNaの合金が挙げられる。中でも、マグネシウムと銀との合金(Mg−Ag合金)は、薄膜での導電性と吸収の小ささとを兼ね備えているので好ましい。Mg−Ag合金におけるマグネシウムと銀との比率は特に限定されないが、膜厚比でMg:Ag=20:1〜1:1の範囲であることが望ましい。また、上部電極17の材料は、AlとLiとの合金(Al−Li合金)でもよい。
【0123】
更に、上部電極17は、アルミキノリン錯体、スチリルアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等の有機発光材料を含有した混合層でもよい。この場合には、さらに第3層としてMgAgのような光透過性を有する層を別途有していてもよい。なお、上部電極17は、アクティブマトリックス駆動方式の場合、有機層16と隔壁15とによって、下部電極14と絶縁された状態で基板11上にベタ膜状に形成され、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの共通電極として用いられる。
【0124】
保護層30は、例えば厚みが2〜3μmであり、絶縁性材料または導電性材料のいずれにより構成されていてもよい。絶縁性材料としては、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-xNx)、アモルファスカーボン(α−C)などが好ましい。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護膜となる。
【0125】
封止用基板40は、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの上部電極17の側に位置しており、接着層(図示せず)と共に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bを封止するものである。光を封止基板の上方から取り出すトップエミッション方式では、封止用基板40は、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bで発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板40には、例えば、カラーフィルタおよびブラックマトリクスとしての遮光膜(いずれも図示せず)が設けられており、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bで発生した光を取り出すと共に、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10B並びにその間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっている。なお、光を下部電極から取り出すボトムエミッション方式では、封止基板40の可視光に対する透過性は問わない。
【0126】
カラーフィルタは、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bに対応して順に配置されている。赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これら赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。
【0127】
更に、カラーフィルタにおける透過率の高い波長範囲と、共振器構造MC1から取り出したい光のスペクトルのピーク波長λとは一致している。これにより、封止用基板40から入射する外光のうち、取り出したい光のスペクトルのピーク波長λに等しい波長を有するもののみがカラーフィルタを透過し、その他の波長の外光が各色の有機EL素子10R,10G,10Bに侵入することが防止される。
【0128】
遮光膜は、例えば黒色の着色剤を混入した光学濃度が1以上の黒色の樹脂膜、または薄膜の干渉を利用した薄膜フィルタにより構成されている。このうち黒色の樹脂膜により構成するようにすれば、安価で容易に形成することができるので好ましい。薄膜フィルタは、例えば、金属,金属窒化物あるいは金属酸化物よりなる薄膜を1層以上積層し、薄膜の干渉を利用して光を減衰させるものである。薄膜フィルタとしては、具体的には、Crと酸化クロム(III)(Cr2O3)とを交互に積層したものが挙げられる。
【0129】
この有機EL表示装置1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0130】
図4は、この有機EL表示装置の製造方法の流れを表したものであり、図5および図6は図4に示した製造方法を工程順に表したものである。まず、上述した材料よりなる基板11の上に駆動トランジスタTr1を含む画素駆動回路140を形成し、例えば感光性樹脂よりなる平坦化絶縁膜(図示せず)を設ける。
【0131】
(下部電極14を形成する工程)
次いで、基板11の全面に例えばITOよりなる透明導電膜を形成し、この透明導電膜をパターニングすることにより、図5(A)に示したように、下部電極14を赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに形成する(ステップS101)。その際、下部電極14を、平坦化絶縁膜(図示せず)のコンタクトホール(図示せず)を介して駆動トランジスタTr1のドレイン電極と導通させる。
【0132】
(隔壁15を形成する工程)
続いて、同じく図5(A)に示したように、下部電極14上および平坦化絶縁膜(図示せず)上に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法により、S
iO2 等の無機絶縁材料を成膜し、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてパターニングすることにより、下部隔壁15Aを形成する。
【0133】
そののち、同じく図5(A)に示したように、下部隔壁15Aの所定位置、詳しくは画素の発光領域を囲む位置に、上述した感光性樹脂よりなる上部隔壁15Bを形成する。これにより、上部隔壁15Aおよび下部隔壁15Bよりなる隔壁15が形成される(ステップS102)。
【0134】
隔壁15を形成したのち、基板11の下部電極14および隔壁15を形成した側の表面を酸素プラズマ処理し、その表面に付着した有機物等の汚染物を除去して濡れ性を向上させる。具体的には、基板11を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、続いて大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(O2プラズマ処理)を行う。
【0135】
(撥水化処理を行う工程)
プラズマ処理を行ったのち、撥水化処理(撥液化処理)を行う(ステップS103)ことにより、特に上部隔壁15Bの上面及び側面の濡れ性を低下させる。具体的には、大気圧下で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CF4プラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基板11を室温まで冷却することで、上部隔壁15Bの上面及び側面を撥液化し、その濡れ性を低下させる。
【0136】
なお、このCF4プラズマ処理においては、下部電極14の露出面および下部隔壁15Aについても多少の影響を受けるが、下部電極14の材料であるITOおよび下部隔壁15Aの構成材料であるSiO2などはフッ素に対する親和性に乏しいため、酸素プラズマ処理で濡れ性が向上した面は濡れ性がそのままに保持される。
【0137】
(正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する工程)
撥水化処理を行ったのち、図5(B)に示したように、上部隔壁15Bに囲まれた領域内に、上述した材料よりなる正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する(ステップS104)。この正孔注入層16AR,16AG,16ABは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に正孔注入層16AR,16AG,16ABの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるインクジェット方式や、ノズルコート方式を用いることが好ましい。
【0138】
具体的には、例えばインクジェット方式により、正孔注入層16AR,16AG,16ABの形成材料であるポリアニリンやポリチオフェン等の溶液または分散液を下部電極14の露出面上に配する。その後、熱処理(乾燥処理)を行うことにより、正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する。
【0139】
熱処理においては、溶媒または分散媒を乾燥後、高温で加熱する。ポリアニリンやポリチオフェン等の導電性高分子を用いる場合、大気雰囲気、もしくは酸素雰囲気が好ましい。酸素による導電性高分子の酸化により、導電性が発現しやすくなるためである。
【0140】
加熱温度は、150℃〜300℃が好ましく、さらに好ましくは180℃〜250℃である。時間は、温度、雰囲気にもよるが、5分〜300分程度が好ましく、さらに好ましくは、10分〜240分である。この乾燥後の膜厚みは、5nm〜100nmが好ましい。さらに好ましくは、8nm〜50nmである。
【0141】
(正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成する工程)
正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成したのち、図5(C)に示したように、正孔注入層16AR,16AG,16ABの上に、上述した高分子材料を含む正孔輸送層16BR,16BG,16BBを赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの各々ごとに形成する(ステップS105)。この正孔輸送層16BR,16BG,16BBは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に正孔輸送層16BR,16BGの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるインクジェット方式や、ノズルコート方式を用いることが好ましい。
【0142】
具体的には、例えばインクジェット方式により、正孔輸送層16BR,16BG,16BBの形成材料である高分子ポリマーおよび低分子材料の混合溶液または分散液を正孔注入層16AR,16AG,16ABの露出面上に配する。その後、熱処理(乾燥処理)を行うことにより、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成する。
【0143】
熱処理においては、溶媒または分散媒を乾燥後、高温で加熱する。塗布する雰囲気や溶媒を乾燥、加熱する雰囲気としては、窒素(N2)を主成分とする雰囲気中が好ましい。酸素や水分があると、作成された有機EL表示装置の発光効率や寿命が低下する虞がある。特に、加熱工程においては、酸素や水分の影響が大きいため、注意が必要である。酸素濃度は、0.1ppm以上100ppm以下が好ましく、50ppm以下であればより好ましい。100ppmより多い酸素があると、形成した薄膜の界面が汚染され、得られた有機EL表示装置の発行効率や寿命が低下する虞がある。また、0.1ppm未満の酸素濃度の場合、素子の特性は問題ないが、現状の量産のプロセスとして、雰囲気を0.1ppm未満に保持するための装置コストが多大になる可能性がある。
【0144】
また、水分については、露点が例えば−80℃以上−40℃以下であることが好ましい。更に、−50℃以下であればより好ましく、−60℃以下であれば更に好ましい。−40℃より高い水分があると、形成した薄膜の界面が汚染され、得られた有機EL表示装置の発光効率や寿命が低下する虞がある。また、−80℃未満の水分の場合、素子の特性は問題ないが、現状の量産のプロセスとして、雰囲気を−80℃未満に保持するための装置コストが多大になる可能性がある。
【0145】
加熱温度は、100℃〜230℃が好ましく、さらに好ましくは100℃〜200℃である。少なくとも、正孔注入層16AR,16AG,16AB形成時の温度よりも低いことが好ましい。時間は、温度、雰囲気にもよるが、5分〜300分程度が好ましく、さらに好ましくは、10分〜240分である。乾燥後の膜厚みは、素子の全体構成にもよるが、10nm〜200nmが好ましい。さらに、15nm〜150nmであればより好ましい。
【0146】
(赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを形成する工程)
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成したのち、図5(D)に示したように、赤色有機EL素子10Rの正孔輸送層16BRの上に上述した高分子材料および低分子材料の混合材料よりなる赤色発光層16CRを形成する。また、同様に緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BG,16BBの上にそれぞれ上述した高分子材料および低分子材料の混合材料よりなる緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを形成する(ステップS106)。赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるノズルコート方式や、インクジェット方式を用いることが好ましい。
【0147】
具体的には、例えばインクジェット方式により、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBの形成材料である高分子材料および低分子材料を、例えば1重量%になるように、キシレンとシクロヘキシルベンゼンを2:8に混合した溶媒に溶解した混合溶液または分散液を正孔輸送層16BR,16BG,16BBの露出面上に配する。その後、上記赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成する工程で説明した熱処理(乾燥処理)と同様の方法および条件の熱処理を行うことにより、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを形成する。
【0148】
上記各工程において、乾燥と加熱とは別個の工程として分けて行うことが好ましい。理由として、乾燥工程では、塗布したウエット膜が、非常に流動しやすいために、膜ムラが起きやすいからである。好ましい乾燥工程は、常圧で均一に真空乾燥する方法であり、さらに、乾燥中に風などをあてずに乾燥させることが望ましい。加熱工程では、ある程度、溶媒が飛んで流動性が低下し、硬化した膜になっており、そこからゆっくりと、熱をかけることにより、微量に残存している溶媒を取り除いたり、発光材料や正孔輸送層の材料を分子レベルで再配列を起こさせることが可能となる。
【0149】
(電子輸送層16D,電子注入層16Eおよび上部電極17を形成する工程)
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBを形成したのち、図6(A),図6(B)および図6(C)に示したように、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBの全面に、蒸着法により、上述した材料よりなる電子輸送層16D,電子注入層16Eおよび上部電極17を形成する(ステップS107,S108,S109)。
【0150】
上部電極17を形成したのち、下地に対して影響を及ぼすことのない程度に、成膜粒子のエネルギーが小さい成膜方法、例えば蒸着法やCVD法により、保護層30を形成する。例えば、アモルファス窒化シリコンからなる保護層30を形成する場合には、CVD法によって2〜3μmの膜厚に形成する。この際、有機層16の劣化による輝度の低下を防止するため、成膜温度を常温に設定すると共に、保護層30の剥がれを防止するために膜のストレスが最小になる条件で成膜することが望ましい。
【0151】
電子輸送層16D,電子注入層16E,上部電極17および保護層30は、マスクを用いることなく全面にベタ膜として形成される。また、電子輸送層16D,電子注入層16E,上部電極17および保護層30の形成は、望ましくは、大気に暴露されることなく同一の成膜装置内において連続して行われる。これにより大気中の水分による有機層16の劣化が防止される。
【0152】
なお、下部電極14と同一工程で補助電極(図示せず)を形成した場合、補助電極の上部にベタ膜で形成された有機層16を、上部電極17を形成する前にレーザアブレーションなどの手法によって除去してもよい。これにより上部電極17を補助電極に直接接続させることが可能となり、接触性が向上する。
【0153】
保護層30を形成したのち、例えば、上述した材料よりなる封止用基板40に、上述した材料よりなる遮光膜を形成する。続いて、封止用基板40に赤色フィルタ(図示せず)の材料をスピンコートなどにより塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングして焼成することにより赤色フィルタを形成する。続いて、赤色フィルタ(図示せず)と同様にして、青色フィルタ(図示せず)および緑色フィルタ(図示せず)を順次形成する。
【0154】
そののち、保護層30の上に、接着層(図示せず)を形成し、この接着層を間にして封止用基板40を貼り合わせる。以上により図1ないし図3に示した有機EL表示装置1が完成する。
【0155】
この有機EL表示装置1では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bに駆動電流Idが注入され、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、下面発光(ボトムエミッション)の場合には下部電極14および基板11を透過して、上面発光(トップエミッション)の場合には上部電極17,カラーフィルタ(図示せず)および封止用基板40を透過して取り出される。
【0156】
従来の有機EL素子では、発光層は高分子材料を用いて塗布方式により、また、電子輸送層は低分子材料を用いて蒸着法式により形成されており、電子輸送層から各色の発光層への電子注入効率が低かった。これは、前述のように高分子材料と低分子材料とのエネルギー準位の差、あるいは形成方法の違いによって塗布方式で形成した発光層界面に環境汚染等が発生し、電子の輸送に大きな障壁ができてしまうためである。これにより、従来の有機EL素子は発光効率が低く、寿命も短かった。これは有機ELディスプレイの基本性能として大きな問題となる。
【0157】
これに対して本実施の形態では、各色の発光層16Cに低分子材料を添加しているため、発光層16Cと電子輸送層16Dとのエネルギー準位の差が小さくなり、上部電極17から発光層16Cへの電子の注入効率が向上する。これにより、各色の発光層16Cに注入される正孔と電子のキャリアバランスが最適になり、発光効率および寿命特性の向上が可能となる。
【0158】
このように本実施の形態の有機EL表示装置1では、各色の発光層16Cに低分子材料を添加するようにしたので、上部電極17から発光層16Cへの電子の注入効率が向上する。従って、発光層16Cへの電子の注入量が向上すると共に、形成方法の違いによる発光層16Cと電子輸送層16Dとの界面の環境汚染等による障壁の発生が抑制される。即ち、従来用いられている印刷方式の有機EL素子の課題であった、発光層16Cへの安定且つ効率的な電子の注入が可能となるため、発光効率および寿命特性が向上する。これにより、発光効率や寿命等のデバイス特性が良好な有機ELディスプレイを作製することが可能となる。
【0159】
(第2の実施の形態)
以下、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。本発明の第2の実施の形態に係る有機EL表示装置の全体構成は図示しないが、第1の実施の形態と同様に、例えば基板11の上に複数の赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bがマトリクス状に配置された表示領域が形成されている。表示領域内には画素駆動回路が設けられている。
【0160】
また、表示領域には、赤色の光を発生する赤色有機EL素子20Rと、緑色の光を発生する緑色有機EL素子20Gと、青色の光を発生する青色有機EL素子20Bとが、順に全体としてマトリクス状に配置されている。なお、隣り合う赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0161】
また、表示領域の周辺には第1の実施の形態と同様に、映像表示用のドライバである信号線駆動回路および走査線駆動回路が設けられている。
【0162】
図7は第2の実施の形態における有機EL表示装置2の表示領域の断面構成を表したものである。赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bは、第1の実施の形態と同様に、それぞれ、基板11の側から、画素駆動回路の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、陽極としての下部電極14、隔壁15、後述する発光層26Cを含む有機層26および陰極としての上部電極17がこの順に積層された構成を有している。有機層26を除く基板11,下部電極14,隔壁15,上部電極17,保護層30および封止用基板40は第1の実施の形態と同様の構成である。
【0163】
本実施の形態における有機EL表示装置2は、赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBと、これら各発光層26CR,26CG,26CBの全面に設けられた電子輸送層26Dとの間にホールブロック層26Fが設けられている点が第1の実施の形態と異なる。
【0164】
具体的には、赤色有機EL素子20Rの有機層26は、例えば、第1の実施の形態における赤色有機EL素子10Rと同様に下部電極14の側から順に、正孔注入層26AR,正孔輸送層26BR,赤色発光層26CR,ホールブロック層26F,電子輸送層26Dおよび電子注入層26Eを積層した構成を有する。緑色有機EL素子20G(および青色有機EL素子20B)の有機層26も赤色有機EL素子20Rと同様に、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層26AG(26AB),正孔輸送層26B(26BB)G,緑色発光層26CG(青色発光層26CB),ホールブロック層26F,電子輸送層26Dおよび電子注入層26Fを積層した構成を有する。これらのうちホールブロック層26F,電子輸送層26Dおよび電子注入層26Eは、赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bの共通層として設けられている。
【0165】
ホールブロック層26Fは、発光層26Cから電子輸送層26Dへの正孔の透過を抑え、発光層26Cでの正孔と電子の再結合の確率を向上させるものである。このホールブロック層26Fは、赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBの全面に共通層として設けられている。ホールブロック層26Fの厚みは、素子全体の構成にもよるが、例えば1nm〜30nmであることが好ましく、さらに好ましくは5nm〜10nmである。
【0166】
ホールブロック層26Fは蒸着法を用いて形成するため、低分子材料、特にモノマーを用いることが好ましい。オリゴマーまたは高分子材料のような重合された分子は蒸着中分解が起こる虞があるためである。なお、ホールブロック層26Fに用いる低分子材料は分子量の異なる2種以上の材料を混合して用いてもよい。
【0167】
ホールブロック層26Fに用いられる低分子材料としては、第1の実施の形態において説明した電子輸送層16Dに用いた低分子材料と同様に、電子移動度が10-6cm2/Vs以上1.0×10-1cm2/Vs以下の含窒素複素環誘導体を用いることができる。具体的には、上記の式(8)〜式(10)で表わされるベンゾイミダゾール誘導体(式(8)),ピリジルフェニル誘導体(式(9)),ビピリジン誘導体(式(10))または、カルバゾール誘導体(式(5))、ピラゾール誘導体(式(11))等が挙げられる。特に、発光層26Cから電子輸送層26Dへの正孔の透過を効果的に抑えるために、HOMOとLUMOとの準位間のギャップが電子注入・輸送層26Dよりも大きな、具体的には2.8以上3.5以下となる材料を用いることが好ましい。
【0168】
有機EL表示装置2は、図8に示した流れ図のように上記第1の実施の形態で記載したステップS106とステップS107との間に後述するホールブロック層26Fを形成する工程(ステップS201)を加えることにより製造することができる。
【0169】
(ホールブロック層26Fを形成する工程)
赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBまで形成したのち、蒸着法により、これら各色の発光層26CR,26CG,26CBの全面に、上述した低分子材料よりなるホールブロック層26Fを共通層として形成する(ステップS201)。
【0170】
なお、ホールブロック層26Fは上記第1の実施の形態における電子輸送層16D,電子注入層16E,上部電極17および保護層30と同様にマスクを用いることなく全面にベタ膜として形成される。また、ホールブロック層26Fの形成条件も上記第1の実施の形態における上記各層16D,16E,17,30と同様に、望ましくは、大気に暴露されることなく同一の成膜装置内において連続して行われる。これにより大気中の水分による有機層26の劣化が防止される。
【0171】
本実施の形態の有機EL表示装置2では、第1の実施の形態の効果に加えて以下の効果を奏する。各色の発光層26CR,26CG,26CBと電子輸送層26Dとの間にHOMOとLUMOとの準位間のギャップが大きい材料からなるホールブロック層26Fを形成するようにした。これにより、各色の発光層26CR,26CG,26CBから電子輸送層26Dへの正孔の透過が抑制され、発光層26Cでの正孔と電子との再結合の確率が向上する。即ち、赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20Gおよび青色有機EL素子20Bの発光効率が向上するため、これら有機EL素子20R,20G,20Bを配列形成してなるカラー有機EL表示装置のさらなる発光効率の向上が可能になる。
【0172】
(モジュールおよび適用例)
以下、上記実施の形態で説明した有機EL表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態の有機EL表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0173】
(モジュール)
上記実施の形態の有機EL表示装置は、例えば、図9に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、保護層30および封止用基板40から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0174】
(適用例1)
図10は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0175】
(適用例2)
図11は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0176】
(適用例3)
図12は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0177】
(適用例4)
図13は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0178】
(適用例5)
図14は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0179】
(実施例1)
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bを25mm×25mmの基板11上に作製した。
【0180】
まず、基板11としてガラス基板(25mm×25mm)を用意し、この基板11に、下部電極14として、厚み120nmのITOよりなる透明導電膜との2層構造を形成した(ステップS101)。
【0181】
続いて、SiO2等の無機材料を用いて隔壁15Aを、ポリイミド・アクリル・ノボラック等の樹脂材料を用いて隔壁15Bを形成し、隔壁15を形成した(ステップS102)。次に、隔壁15をプラズマ電源と電極を備えた装置に導入し、CF4等のフッ素系のガスを用いてプラズマ処理をすることにより隔壁15の表面を撥水処理した(ステップS103)。
【0182】
次に、正孔注入層16AR,16AG,16ABとして、大気中でノズルコート法により、ND1501(日産化学製ポリアニリン)を15nmの厚みで塗布したのち、220℃、30分間、ホットプレート上で熱硬化させた(ステップS104)。
【0183】
そののち、正孔注入層16AR、16AG、16ABの上に、キシレンおよびテトラヒドロフラン(THF)の各溶媒を重量比1:2で混合した混合溶媒に式(1−1)に示した化合物を1wt%の比率で溶解させた溶液を正孔輸送層16BR、16BG、16BBとしてノズルコート法により塗布した。厚みは、赤色有機EL素子10R用の正孔輸送層16BRは50nm、緑色有機EL素子10G用の正孔輸送層16BGは30nm、青色有機EL素子10B用の正孔輸送層18BBは20nmとした。次に、基板11を負圧の状態まで排気し、溶媒を真空乾燥させた後、180℃、30分で加熱処理した(ステップS105)。
【0184】
続いて、正孔輸送層16BR,16BG,16BBを形成したのち、赤色有機EL素子10Rの正孔輸送層10BRの上に赤色発光層16CRを形成した。具体的にはイリジウム錯体を含む赤色発色の高分子材料RPP(式3−1)に、例えば式(4−23)に示した低分子材料を重量比2:1で添加し、キシレンもしくはキシレンより高い沸点の溶媒に溶解させた溶液もしくはインクで、60nmの厚みでノズルコート法により塗訳印刷した。また、緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BG,16BBの上に緑色発光層16CG,青色発光層16CBを形成した。具体的には、それぞれイリジウム錯体を含む赤色発色の高分子材料GPP(式3−2)またはBPP(式3−3)に例えば式(4−23)に示した低分子材料を重量比2:1で添加し、キシレンもしくはキシレンより高い沸点の溶媒に溶解させた溶液もしくはインクで、50nmの厚みでノズルコート法により塗訳印刷した。続いて、負圧の状態まで排気し、溶媒を真空乾燥させた後、130℃、30分で加熱処理した(ステップS106)。
【0185】
次に、基板11を真空蒸着機に移動させ電子輸送層16D以降の層を蒸着した。
【0186】
まず、赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBを形成したのち、電子輸送層16Dとして、例えば式(8−17)に示した有機材料を真空蒸着法により、15nmの厚みで蒸着させた(ステップS107)。続いて、同じく蒸着法により、電子注入層16EとしてLiFを0.3nmの厚みで成膜し(ステップS108)、上部電極17としてAlを100nmの厚みで形成した(ステップS109)。最後に、CVD法によりSiNよりなる保護層30を3μm形成し、エポキシ樹脂を用いて固体封止を行った。このようにして得られた赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bを組み合わせることによりフルカラー有機EL表示装置(実施例1−1〜1−10)を得た。また、各色の発光層16CR,16CG,16CBに低分子材料を添加しない有機EL表示装置を作製し比較例1−1〜1−3とした。
【0187】
(実施例2)
赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20Gおよび青色有機EL素子20Bを25mm×25mmの基板11上に作製した。
【0188】
まず、基板11としてガラス基板(25mm×25mm)を用意し、この基板11に、下部電極14として、厚み120nmのITOよりなる透明導電膜との2層構造を形成した(ステップS101)。
【0189】
続いて、SiO2等の無機材料を用いて隔壁15Aを、ポリイミド・アクリル・ノボラック等の樹脂材料を用いて隔壁15Bを形成し、隔壁15を形成した(ステップS102)。次に、隔壁15をプラズマ電源と電極を備えた装置に導入し、CF4等のフッ素系のガスを用いてプラズマ処理をすることにより隔壁15の表面を撥水処理した(ステップS103)。
【0190】
次に、正孔注入層26AR,26AG,26ABとして、大気中でノズルコート法により、ND1501(日産化学製ポリアニリン)を15nmの厚みで塗布したのち、220℃、30分間、ホットプレート上で熱硬化させた(ステップS104)。
【0191】
そののち、正孔注入層26AR、26AG、26ABの上に、キシレンおよびテトラヒドロフラン(THF)の各溶媒を重量比1:2で混合した混合溶媒に式(1−1)に示した化合物を1wt%の比率で溶解させた溶液を正孔輸送層26BR、26BG、26BBとしてノズルコート法により塗布した。厚みは、赤色有機EL素子20R用の正孔輸送層26BRは50nm、緑色有機EL素子20G用の正孔輸送層26BGは30nm、青色有機EL素子20B用の正孔輸送層26BBは20nmとした。次に、基板11を負圧の状態まで排気し、溶媒を真空乾燥させた後、180℃、30分で加熱処理した(ステップS105)。
【0192】
続いて、正孔輸送層26BR,26BG,26BBを形成したのち、赤色有機EL素子20Rの正孔輸送層20BRの上に赤色発光層26CRを形成した。具体的にはイリジウム錯体を含む赤色発色の高分子材料RPP(式3−1)に、例えば式(4−13)に示した低分子材料を重量比2:1で添加し、キシレンもしくはキシレンより高い沸点の溶媒に溶解させた溶液もしくはインクで、60nmの厚みでノズルコート法により塗訳印刷した。また、緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BG,16BBの上に緑色発光層16CG,青色発光層16CBを形成した。具体的には、それぞれイリジウム錯体を含む赤色発色の高分子材料GPP(式3−2)またはBPP(式3−3)に例えば式(4−13)に示した低分子材料を重量比2:1で添加し、キシレンもしくはキシレンより高い沸点の溶媒に溶解させた溶液もしくはインクで、50nmの厚みでノズルコート法により塗訳印刷した。続いて、負圧の状態まで排気し、溶媒を真空乾燥させた後、130℃、30分で加熱処理した(ステップS106)。
【0193】
次に、基板11を真空蒸着機に移動させホールブロック層26F以降の層を蒸着した。
【0194】
まず、赤色発光層26CR,緑色発光層26CG,青色発光層26CBを形成したのち、蒸着法により、ホールブロック層26Fとして、フェナンスロリン誘導体である2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナンスロリン(BCP;式(13))を用いて真空蒸着法により10nmの厚みで蒸着させた(ステップS201)。続いて、同じく蒸着法により、電子輸送層26Dとして、例えば式(7−17)に示した有機材料を真空蒸着法により、15nmの厚みで蒸着させた(ステップS107)。更に、同じく蒸着法により、電子注入層26EとしてLiFを0.3nmの厚みで成膜し(ステップS108)、上部電極17としてAlを100nmの厚みで形成した(ステップS109)。最後に、CVD法によりSiNよりなる保護層30を3μm形成し、エポキシ樹脂を用いて固体封止を行った。このようにして得られた赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bを組み合わせることによりフルカラー有機EL表示装置(実施例2−1)を得た。
【0195】
【化51】
【0196】
実施例1,2として作製した有機EL表示装置1,2の赤色有機EL素子10R,20R,緑色有機EL素子10G,20Gおよび青色有機EL素子10B,20Bについて、電流密度10mA/cm2で定電流駆動させた際の駆動電圧(V)、発光効率(cd/A)および色度座標(x,y)を測定した。また、電流密度20mA/cm2で直流駆動させた際の輝度半減寿命(h)を測定した。なお、上記測定は23±0.5℃で管理された環境下で行った。
【0197】
表1は実施例実施例1−1〜1−10,2,および比較例1−1〜1−3における各層の組成の一覧を示したものである。表2は上記実施例1−1〜1−10,2および比較例1−1〜1−3の測定結果の一覧である。
【0198】
【表1】
【0199】
【表2】
【0200】
表2からわかるように、各色の発光層が高分子材料のみから構成され、且つ電子輸送層が設けられていない従来の有機EL素子である比較例1−1に対して、Alq3からなる電子輸送層を設けた比較例1−2では発光効率および寿命が著しく低下した。これは、上部電極から発光層へ注入される電子が不足したためと考えられる。また、比較例1−3では、比較例1−2の結果を省みて、Alq3に替えて電子注入性が高い電子輸送材料(式(8−17))からなる電子輸送層を設けることにより発光効率および寿命特性が改善された。しかしながら、比較例1−1の結果には及ばず、電子輸送層を設けた効果は全く見られなかった。
【0201】
これに対して、実施例1−1〜1−10では、比較例1−1と比較して発光効率および寿命特性が大幅に改善されていることがわかる。これは、高分子材料からなる各色の発光層16CR,16CG,16CBに低分子材料を添加したことにより、低分子材料からなる電子輸送層16Dから各色の発光層16CR,16CG,16CBへの電子注入障壁が軽減されたことによる。また、発光効率および寿命特性が改善されただけでなく駆動電圧も低減した。
【0202】
更に、実施例2では、ホールブロック層26Fを設けることにより、さらなる発光効率の向上と、比較例1−1と比較して2倍以上寿命特性が向上した。
【0203】
なお、以上のような効果は実施例1−1〜1−10,2において用いた低分子材料に限らず、式(4−1)〜式(12−29)に示したその他の低分子材料においても同様の効果が得られた。また、本実施例1−1〜1−10,2−1,2−2では正孔注入層16AR,16AG,16AB,26AR,26AG,26AB、正孔輸送層16BR,16BG,16BB,26BR,26BG,26BBおよび発光層16CR,16CG,16CB,26CR,26CG,26CBをノズルコート方式を用いて形成したが、塗付方式は限定しない。インクジェット方式、スピンコート方式、スリットコート方式等の塗布方式に限らず、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式または凸版印刷方式等の各種印刷方式だけでなく、にスプレイコート等によって有機EL材料を噴霧し、高精細のマスク等で塗訳を行う噴霧方式を用いて形成した有機EL表示装置でも本実施例の結果と同様の結果が得られた。
【0204】
以上、第1および第2の実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。
【0205】
例えば、上記実施の形態および実施例において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0206】
また、上記実施の形態等では赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBに低分子材料を添加して電子の注入効率を向上させたが、これら各発光層26CR,26CG,26CBに低分子材料を添加せず、各発光層26CR,26CG,26CBと電子輸送層26Dとの間にホールブロック層26Fが設けることでも上記効果を得ることができる。
【0207】
更に、上記実施の形態および実施例では、有機EL素子10R,10G,10B(20R,20G,20B)の構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。例えば、正孔注入層16A(26A)上に正孔輸送層16B(26B)を形成せず、直接発光層16C(26C)を塗布方式により形成してもよい。
【0208】
また、上記実施の形態等では、赤色発光層16CR(26CR),緑色発光層16CG(26CG)および青色発光層16CB(26CB)をそれぞれ対応する有機EL素子10R,10G,10B(20R,20G,20B)に塗布方式により形成したが、青色発光層16CB(26CB)を共通層として赤色発光層16CR(26CR),緑色発光層16CG(26CG)および青色の正孔輸送層16BB(26BB)上の全面に蒸着により形成してもよい。
【0209】
更に、上記実施の形態等では、電子輸送層16D(26D)を1種類の材料からなる単層として形成したが、これに限らず、例えば2種類以上の材料からなる混合層、または異なる材料からなる層を積層した多層構造としてもよい。また、上記実施の形態等では、赤色,緑色および青色の有機EL素子を備えた表示装置について説明したが、例えば本発明は青色有機EL素子と黄色有機EL素子からなる表示装置への適用も可能である。また、白色発光の有機EL素子への適用も可能であり、発光色についての限定はない。
【0210】
更にまた、上記実施の形態では、アクティブマトリクス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の表示装置への適用も可能である。更にまた、アクティブマトリクス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記実施の形態で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【符号の説明】
【0211】
1,2…有機EL表示装置、10R,20R…赤色有機EL素子、10G,20G…緑色有機EL素子、10B,20B…青色有機EL素子、11…基板、14…下部電極、15…隔壁、15A…上部隔壁、15B…下部隔壁、16,26…有機層、16AR,16AG,16AB,26AR,26AG,26AB…正孔注入層、16BR,16BG,16BB,26BR,26BG,26BB…正孔輸送層、16CR,26CR…赤色発光層、16CG,26CG…緑色発光層、16CB,26CB…青色発光層、16D,26D…電子輸送層、16E,26E…電子注入層、26F…ホールブロック層、17…上部電極、30…保護層、40…封止用基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、複数の有機EL素子の各々ごとに設けられた複数の下部電極と、
前記下部電極の上に前記有機EL素子ごとに設けられた正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層と、
前記正孔注入・輸送層上に前記有機EL素子ごとに設けられると共に、低分子材料を含む複数の有機発光層と、
前記複数の有機発光層上の全面に設けられた電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層と、
前記電子注入・輸送層上に設けられた上部電極と
を備えた有機EL表示装置。
【請求項2】
前記複数の有機発光層と前記電子注入・輸送層との間に設けられると共に、ホールブロック特性を有するホールブロック層を備えた、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記有機発光層は前記低分子材料と共に高分子材料を含み、前記低分子材料は分子量が300以上1万以下の化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記有機発光層に含まれる前記高分子材料と前記低分子材料との分子量比(高分子材料/低分子材料)は10以上である、請求項3に記載の有機EL表示装置
【請求項5】
前記低分子材料は、式(1)で表わされる化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化1】
(A1〜A3は芳香族炭化水素基、複素環基またはそれらの誘導体である。)
【請求項6】
前記低分子材料は、式(2)で表される(但し、式(1)に含まれる化合物を除く)化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化2】
(Zは含窒素炭化水素基あるいはその誘導体である。L1は2価の芳香族環基が1ないし4個結合した基、具体的には1〜4個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A4およびA5は、芳香族炭化水素基あるいは芳香族複素環基、またはその誘導体である。但し、A4およびA5は互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【請求項7】
前記低分子材料は、式(3)で表わされる(但し、式(1)に含まれる化合物を除く)化合物である、請求項1記載の有機EL表示装置。
【化3】
(L2は2価の芳香族環基が2ないし6個結合した基である。具体的には2〜6個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A6〜A9は、芳香族炭化水素基あるいは複素環基、またはその誘導体が1〜10個結合した基である。)
【請求項8】
前記低分子材料は、式(4)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化4】
(R24〜R29は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数20以下のカルボニル基を有する基、カルボニルエステル基を有する基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基あるいはそれらの誘導体、炭素数30以下のシリル基を有する基、アリール基を有する基、複素環基を有する基、アミノ基を有する基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項9】
前記低分子材料は、式(5)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化5】
(A10は水素原子あるはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜60個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Bは単結合、2価の芳香族環基あるいはその誘導体である。R7,8は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項10】
前記低分子材料は、式(6)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化6】
(A11は芳香族環が2ないし5個縮合したn価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R9〜R14は各々独立して水素原子あるはハロゲン原子、A2またはR15〜R19のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R15〜R19は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR9〜14のいずれか1つに結合する遊離原子価である。nは2以上の整数であり、n個のピリジルフェニル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【請求項11】
前記低分子材料は、式(7)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化7】
(A3は芳香族環が2ないし5個縮合したm価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R20〜R24は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、A3またはR25〜R29のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R25〜R29は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR20〜24のいずれか1つに結合する遊離原子価である。mは2以上の整数であり、m個のビピリジル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【請求項12】
前記低分子材料は、式(8)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化8】
(R30〜R32は水素原子、1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数1〜6個の炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項13】
前記低分子材料は、錯体形成可能な金属元素としてベリリウム(Be),ホウ素(B),亜鉛(Zn),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),金(Au),銀(Ag),パラジウム(Pd),白金(Pt),アルミニウム(Al),ガドリニウム(Ga),イットリウム(Y),スカンジウム(Sc),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),オスミウム(Os),イリジウム(Ir)のうちの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項14】
前記ホールブロック層に用いられる化合物は、電子移動度が1.0×10-6cm2/Vs以上1.0×10-1cm2/Vs以下である、請求項1または9乃至11のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。
【請求項15】
前記ホールブロック層は、HOMO(最高被占軌道)とLUMO(最低空軌道)との準位間のギャップが3.0以上3.8以下である、請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項16】
前記有機EL素子は、赤色有機EL素子、緑色有機EL素子、青色有機EL素子、黄色有機EL素子または白色有機EL素子のうちの少なくとも1種である、請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【請求項17】
基板に複数の下部電極を複数の有機EL素子の各々ごとに形成する工程と、
前記下部電極上に正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層を前記有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程と、
前記正孔注入・輸送層上に低分子材料を含む複数の有機発光層を前記有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程と、
前記複数の有機発光層の全面に電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層を蒸着法により形成する工程と、
前記電子注入・輸送層の全面に上部電極を形成する工程と
を含む有機EL表示装置の製造方法。
【請求項18】
前記複数の有機発光層と前記電子注入・輸送層との間に設けられると共に、ホールブロック特性を有するホールブロック層を蒸着法により形成する、請求項17に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項19】
前記塗付法として、吐出方式、印刷方式または噴霧方式を用いる、請求項17に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項1】
基板に、複数の有機EL素子の各々ごとに設けられた複数の下部電極と、
前記下部電極の上に前記有機EL素子ごとに設けられた正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層と、
前記正孔注入・輸送層上に前記有機EL素子ごとに設けられると共に、低分子材料を含む複数の有機発光層と、
前記複数の有機発光層上の全面に設けられた電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層と、
前記電子注入・輸送層上に設けられた上部電極と
を備えた有機EL表示装置。
【請求項2】
前記複数の有機発光層と前記電子注入・輸送層との間に設けられると共に、ホールブロック特性を有するホールブロック層を備えた、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記有機発光層は前記低分子材料と共に高分子材料を含み、前記低分子材料は分子量が300以上1万以下の化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記有機発光層に含まれる前記高分子材料と前記低分子材料との分子量比(高分子材料/低分子材料)は10以上である、請求項3に記載の有機EL表示装置
【請求項5】
前記低分子材料は、式(1)で表わされる化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化1】
(A1〜A3は芳香族炭化水素基、複素環基またはそれらの誘導体である。)
【請求項6】
前記低分子材料は、式(2)で表される(但し、式(1)に含まれる化合物を除く)化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化2】
(Zは含窒素炭化水素基あるいはその誘導体である。L1は2価の芳香族環基が1ないし4個結合した基、具体的には1〜4個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A4およびA5は、芳香族炭化水素基あるいは芳香族複素環基、またはその誘導体である。但し、A4およびA5は互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【請求項7】
前記低分子材料は、式(3)で表わされる(但し、式(1)に含まれる化合物を除く)化合物である、請求項1記載の有機EL表示装置。
【化3】
(L2は2価の芳香族環基が2ないし6個結合した基である。具体的には2〜6個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A6〜A9は、芳香族炭化水素基あるいは複素環基、またはその誘導体が1〜10個結合した基である。)
【請求項8】
前記低分子材料は、式(4)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化4】
(R24〜R29は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数20以下のカルボニル基を有する基、カルボニルエステル基を有する基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基あるいはそれらの誘導体、炭素数30以下のシリル基を有する基、アリール基を有する基、複素環基を有する基、アミノ基を有する基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項9】
前記低分子材料は、式(5)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化5】
(A10は水素原子あるはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜60個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Bは単結合、2価の芳香族環基あるいはその誘導体である。R7,8は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項10】
前記低分子材料は、式(6)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化6】
(A11は芳香族環が2ないし5個縮合したn価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R9〜R14は各々独立して水素原子あるはハロゲン原子、A2またはR15〜R19のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R15〜R19は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR9〜14のいずれか1つに結合する遊離原子価である。nは2以上の整数であり、n個のピリジルフェニル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【請求項11】
前記低分子材料は、式(7)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化7】
(A3は芳香族環が2ないし5個縮合したm価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R20〜R24は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、A3またはR25〜R29のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R25〜R29は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR20〜24のいずれか1つに結合する遊離原子価である。mは2以上の整数であり、m個のビピリジル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【請求項12】
前記低分子材料は、式(8)で表わされる化合物により構成されている、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化8】
(R30〜R32は水素原子、1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数1〜6個の炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項13】
前記低分子材料は、錯体形成可能な金属元素としてベリリウム(Be),ホウ素(B),亜鉛(Zn),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),金(Au),銀(Ag),パラジウム(Pd),白金(Pt),アルミニウム(Al),ガドリニウム(Ga),イットリウム(Y),スカンジウム(Sc),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),オスミウム(Os),イリジウム(Ir)のうちの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項14】
前記ホールブロック層に用いられる化合物は、電子移動度が1.0×10-6cm2/Vs以上1.0×10-1cm2/Vs以下である、請求項1または9乃至11のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。
【請求項15】
前記ホールブロック層は、HOMO(最高被占軌道)とLUMO(最低空軌道)との準位間のギャップが3.0以上3.8以下である、請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項16】
前記有機EL素子は、赤色有機EL素子、緑色有機EL素子、青色有機EL素子、黄色有機EL素子または白色有機EL素子のうちの少なくとも1種である、請求項1または2に記載の有機EL表示装置。
【請求項17】
基板に複数の下部電極を複数の有機EL素子の各々ごとに形成する工程と、
前記下部電極上に正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層を前記有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程と、
前記正孔注入・輸送層上に低分子材料を含む複数の有機発光層を前記有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程と、
前記複数の有機発光層の全面に電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層を蒸着法により形成する工程と、
前記電子注入・輸送層の全面に上部電極を形成する工程と
を含む有機EL表示装置の製造方法。
【請求項18】
前記複数の有機発光層と前記電子注入・輸送層との間に設けられると共に、ホールブロック特性を有するホールブロック層を蒸着法により形成する、請求項17に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項19】
前記塗付法として、吐出方式、印刷方式または噴霧方式を用いる、請求項17に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−104525(P2012−104525A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249205(P2010−249205)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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