説明

有機EL表示装置の製造方法

【課題】有機EL表示ディスプレイパネルの早期劣化を抑制することのできる有機EL表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】有機EL表示ディスプレイパネルを形成した後、有機EL表示ディスプレイパネルの画素電極102と対向電極107に電圧を印加した状態で有機EL表示ディスプレイパネルを有機発光材料のガラス転移温度より低い温度雰囲気の中に放置して有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置は、基板上に複数の有機EL素子が形成された有機EL表示ディスプレイパネルを有しているのが一般的である。この有機EL表示ディスプレイパネルの有機EL素子は、二つの対向する電極の間に有機発光材料からなる有機発光層が形成され、有機発光層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率よくかつ信頼性のある素子を作製するには有機発光層の膜厚が重要である。また、これを用いてカラーディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。
【0003】
一般的に、ディスプレイ用の基板として、パターニングされた感光性ポリイミドがサブピクセルを区画するように隔壁状に形成されているものを用いる。その際、隔壁パターンは陽極として成膜されている透明電極のエッジ部を覆うように形成される。
次に正孔キャリアを注入するための正孔注入層を成膜する方法として、ドライ成膜法とウェット成膜法の2種類があるが、ウェット成膜法を用いる場合、一般的に水に分散されたポリチオフェンの誘導体が用いられる。ドライ成膜法の場合は、正孔輸送能力を有した有機材料や金属酸化物などの無機物が蒸着法やスパッタリング法を用いて正孔注入層が成膜される。ドライコーティングの場合は比較的簡便に均一に全面コーティングが可能である。
【0004】
次に電極から正孔注入層に注入された正孔の発光層へのスムーズな注入と、後に成膜する対向電極から注入される電子が正孔輸送層に流れ込まないように発光層界面でせき止める役割として、正孔注入層と発光層との間に正孔輸送層が形成される。形成方法としては正孔注入層と同様である。
有機発光層を形成する方法も同様にドライ成膜法とウェット成膜法の2種類があるが、均一な成膜が容易なドライ成膜である真空蒸着法を用いる場合、微細パターンのマスクを用いてパターニングする必要があり、大型基板や微細パターニングが非常に困難である。
【0005】
そこで、最近では高分子材料を溶剤に溶かして塗工液にし、これをウェット成膜法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。高分子材料の塗液を用いてウェット成膜法で有機発光層を含む発光媒体層を形成する場合の層構成は、陽極側から正孔輸送層、有機発光層と積層する2層構成が一般的である。このとき、有機発光層はカラーパネル化するために赤(R)、緑(G)、青(B)のそれぞれの発光色をもつ有機発光材料を溶剤中に溶解または安定して分散してなる有機発光インキを用いて塗り分けることができる(特許文献1、2参照)。
【0006】
電極の間には有機発光層以外にもキャリア注入層(キャリア輸送層とも呼ばれる)が形成される。キャリア注入層とは電極から有機発光層へ電子を注入させる際に、電子の注入量を制御あるいは、もう一方の電極から有機発光層へ正孔が注入される際に、正孔の注入量を制御するのに用いられる層で、電極と有機発光層の間に挿入される層を指す。電子注入層としては、キノリノール誘導体の金属錯体などの電子輸送性の有機物や、Ca、Baなどの仕事関数の比較的小さい例えばアルカリ金属などが用いられ、あるいはこれらの機能を持つ層を複数積層する場合もある。
【0007】
有機EL表示ディスプレイパネルの基板上に形成される有機EL素子は、図1に示すように、基板101上に画素電極(第一電極)102を有し、この画素電極102の上に正孔注入層104、正孔輸送層105、有機発光層106、対向電極(第二電極)107が積層された状態で形成されている。画素電極102は基板101上に形成された隔壁103によって画素(サブピクセル)単位に区分されている。このような複数の有機EL素子からなる有機EL表示ディスプレイパネルを所定の輝度で点灯させると、時間に対する輝度低下の割合は初めての点灯直後からが最も大きく、ディスプレイパネルの焼きつきを招くという問題がある。
【0008】
これを解決する手段として、エージング法として所定の輝度で所定の時間発光させることにより、初期の輝度低下を起こした後のものを製品としていた。しかし、初期の輝度劣化を起こさせることは効率の低下を伴うことと等しく、ある程度劣化させた状態を製品としての初期状態とするため本来の素子の性能が生かしきれないという問題があった。
有機EL素子を安定化させる方法として、階段状の波形で順電圧を駆動電圧の値まで印加することが提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では発光する領域まで電界をかけており、有機発光材料の劣化が懸念される。また、他の安定化方法として、有機電界発光素子を50℃以上有機化合物の融点以下で加熱処理することが提案されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では輝度の半減時間が18〜25時間と大きな改善はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−14794号公報
【特許文献2】特開平5−182764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機EL表示ディスプレイパネルにおいて、点灯直後から時間に対する輝度低下の割合が大きくディスプレイパネルの焼きつきを招くという問題があるため、輝度の時間に対する変化が小さくなるまでエージングを行う必要がある。初期の輝度劣化は層構造における各界面の不安定性が主要因と考えられているが、従来のエージング方法では単純に加速点灯試験により劣化させる手法が用いられており、界面の安定化に伴って発光材料自体の劣化も生じていた。そこで本発明では、界面の安定化を加速しつつ発光材料の劣化を抑制することができるエージング方法を用いた有機EL表示装置の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、基板と、該基板の上に形成された複数の画素電極と、該画素電極の各々と対向する対向電極と、該対向電極と前記画素電極との間に有機発光材料からなる有機発光層を有する発光媒体層とを含む有機EL表示ディスプレイパネルを備えた有機EL表示装置の製造方法であって、前記有機EL表示ディスプレイパネルを形成した後、前記画素電極と前記対向電極に電圧を印加した状態で前記有機EL表示ディスプレイパネルを前記有機発光材料のガラス転移温度より低い温度雰囲気の中に放置して前記有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の有機EL表示装置の製造方法において、前記有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うに際して、前記有機発光層の発光輝度が1cd/m2以下となる電圧を前記画素電極と前記対向電極に印加することを特徴とする。
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の有機EL表示装置の製造方法において、前記有機発光層の発光効率が10%以上低下するまで前記有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法において、前記有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを600nm以下の波長成分を含まない光源下で行うことを特徴とする。
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法において、前記発光媒体層の少なくとも有機発光層をウェット成膜法により形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機EL表示ディスプレイパネルを形成した後、画素電極と対向電極に電圧を印加した状態で有機EL表示ディスプレイパネルを有機発光材料のガラス転移温度より低い温度雰囲気の中に放置して有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことにより、通常使用時の状態で行われるエージングとは異なり、初期の輝度劣化の主要因である層界面の変化のみを加速させて有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことができる。そして、有機発光材料のガラス転移温度より低い温度雰囲気の中で有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことにより、図2に示すように、逆電圧あるいは低電圧領域では正孔か電子のどちらかのキャリアが過剰状態であり、有機発光層でほとんど再結合することなく電流が流れるため、有機発光材料にダメージを与えることなく発光層に電界を加えることが可能となり、層界面の安定化のみを行うことができる。従って、エージングによる有機EL表示ディスプレイパネルの早期劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】有機EL表示ディスプレイパネルの構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の作用効果を説明するための図である。
【図3】有機EL表示ディスプレイパネルに用いられるTFT付き基板の構造を模式的に示す断面図である。
【図4】有機EL表示ディスプレイパネルを製造する際に用いられる凸版印刷装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明に係る有機EL表示装置の製造方法について説明する。
図1は、有機EL表示ディスプレイパネルの構造を模式的に示す図である。図1に示す有機EL表示ディスプレイパネルは基板101上に複数の有機EL素子を有し、各有機EL素子は画素電極102、発光媒体層108および対向電極107から構成されている。
画素電極102は基板101の上に形成されており、有機EL表示ディスプレイパネルの画素電極を形成するために、基板101上に形成された隔壁103によって画素単位に区画されている。
【0017】
発光媒体層108は画素電極102の上に形成されており、この発光媒体層108の上に対向電極107が画素電極102と対向して形成されている。そして、発光媒体層108は電子あるいは正孔を注入するためのキャリア注入層104を有し、このキャリア注入層104は画素電極102の上に形成されている。
また、発光媒体層108はキャリア注入層104の上に形成されたキャリア輸送層105と、このキャリア輸送層105の上に形成された有機発光層106とを有し、キャリア輸送層105は正孔をキャリア注入層104から有機発光層106へ輸送するためのものである。
【0018】
なお、発光媒体層108としては、陰極と発光層の間に電子注入層や正孔ブロック層(正孔輸送層)、陽極と発光層の間に正孔注入層や電子ブロック層(正孔輸送層)等を必要に応じて形成したものであってもよい。
このような有機EL素子を画素(サブピクセル)として配列することにより、有機EL表示ディスプレイパネルを形成することができる。そして、各画素を構成する発光層106を例えばR(赤)、G(緑)、B(青)の3色に塗り分けることで、フルカラーの有機EL表示ディスプレイパネルを作製することができる。
【0019】
以下、有機EL表示装置として、画素電極102を陽極、対向電極107を陰極としたアクティブマトリクス駆動型有機EL表示装置について説明する。この場合、画素電極102は画素ごとに第一隔壁103で区画され、対向電極107は第一隔壁103上に形成された第二隔壁で分離形成された電極となる。また、発光媒体層108のキャリア注入層104は正孔輸送性の正孔注入層となる。また、画素電極側を陽極とした逆構造の有機EL素子としてもよい。この場合、キャリア注入層104は電子輸送性の電子注入層となる。
【0020】
<基板>
図3は、有機EL表示ディスプレイパネルに用いられるTFT付き基板の構造を模式的に示す断面図である。図3に示す基板(バックプレーン)308は、薄膜トランジスタ(TFT)と有機EL表示ディスプレイパネルの画素電極(下部電極)102とを有し、TFTと画素電極102は電気的に接続されている。
TFTや、その上方に構成されるアクティブマトリクス駆動型有機EL表示装置は支持体(基板)101で支持される。支持体101としては機械的強度、絶縁性を有し寸法安定性に優れた支持体であれば如何なる材料も使用することができる。例えば、ガラスや石英、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシート、または、これらプラスチックフィルムやシートに酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸窒化珪素などの金属酸窒化物、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などの高分子樹脂膜を単層もしくは積層させた透光性基材や、アルミニウム、ステンレスなどの金属箔、シート、板や、前記プラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属膜を積層させた非透光性基材などを用いることができる。
【0021】
光取出しをどちらの面から行うかに応じて支持体の透光性を選択すればよい。これらの材料からなる支持体は、有機EL表示装置内への水分の侵入を避けるために、無機膜を形成したり、フッ素樹脂を塗布したりして、防湿処理や疎水性処理を施してあることが好ましい。特に、発光媒体層108への水分の侵入を避けるために、支持体における含水率およびガス透過係数を小さくすることが好ましい。
【0022】
支持体101の上に設けられる薄膜トランジスタは、公知の薄膜トランジスタを用いることができる。具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層311、ゲート絶縁膜309及びゲート電極314から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。薄膜トランジスタの構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
【0023】
活性層311は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料又はチオフエンオリゴマー、ポリ(p−フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することができる。これらの活性層は、例えば、アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方法、SiH4ガスを用いてLPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法、Si26ガスを用いてLPCVD法により、また、SiH4ガスを用いてPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニールし、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)、減圧CVD法又はLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000℃以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にn+ポリシリコンのゲート電極314を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)等が挙げられる。
【0024】
ゲート絶縁膜309としては、通常、ゲート絶縁膜として使用されているものを用いることができ、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiO2や、ポリシリコン膜を熱酸化して得られるSiO2等を用いることができる。
ゲート電極314としては、通常、ゲート電極として使用されているものを用いることができ、例えばアルミ、銅等の金属やチタン、タンタル、タングステン等の高融点金属、あるいはポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。
【0025】
薄膜トランジスタは、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極が3つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、1つの画素中に2つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
薄膜トランジスタは有機EL表示装置のスイッチング素子として機能するように接続されている必要があり、薄膜トランジスタのドレイン電極310と有機EL表示ディスプレイパネルの画素電極102が電気的に接続されている。なお、図中3中符号313はTFTをスイッチング走査するための走査線を示している。
【0026】
<画素電極>
基板の上に画素電極102を成膜し、必要に応じてパターニングを行う。本発明において、画素電極102は隔壁103によって区画され、各画素に対応した画素電極となる。画素電極102の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物や、金、白金などの金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂などに分散した微粒子分散膜を、単層もしくは積層したものをいずれも使用することができる。
【0027】
画素電極102を陽極とする場合にはITOなど仕事関数の高い材料を選択することが好ましい。下方から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション構造の場合は透光性のある材料を選択する必要がある。必要に応じて、画素電極102の配線抵抗を低くするために、銅やアルミニウムなどの金属材料を補助電極として併設してもよい。
画素電極102の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法などを用いることができる。
【0028】
画素電極102のパターニング方法としては、材料や成膜方法に応じて、マスク蒸着法、フォトリソグラフィー法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法などの既存のパターニング法を用いることができる。基板としてTFTを形成したものを用いる場合は、下層の画素に対応して導通を図ることができるように形成することが好ましい。
【0029】
<隔壁>
隔壁103は画素に対応した発光領域を区画するように形成し、画素電極102の端部を覆うように形成することが好ましい。一般的にアクティブマトリクス駆動型の表示装置は各画素(サブピクセル)に対して画素電極が形成され、それぞれの画素ができるだけ広い面積を占有しようとするため、画素電極の端部を覆うように形成される隔壁103の最も好ましい形状は各画素電極を最短距離で区切る格子状を基本とする。
【0030】
隔壁103の形成方法としては、従来と同様、基板上に無機膜を一様に形成し、レジストでマスキングした後、ドライエッチングを行う方法や、基体上に感光性樹脂を積層し、フォトリソ法により所定のパターンとする方法が挙げられる。必要に応じて撥水剤を添加したり、プラズマやUVを照射した後、インクに対する撥液性を付与したりしてもよい。隔壁103の好ましい高さは0.1μm〜10μmであり、より好ましくは0.5μm〜2μm程度である。
【0031】
<キャリア注入層>
キャリア注入層104は画素電極102を覆うようにパターンあるいは全面に成膜される。キャリア注入層104を形成する正孔輸送材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが挙げられる。これらの材料を溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いてキャリア注入層を形成することができる。
【0032】
正孔輸送材料として無機材料を用いる場合、無機材料としては、Cu2O,Cr23,Mn23,FeOx(x〜0.1),NiO,CoO,Pr23,Ag2O,MoO2,Bi23、ZnO,TiO2,SnO2,ThO2,V25,Nb25,Ta25,MoO3,WO3,MnO2等の遷移金属酸化物およびこれらの窒化物、硫化物を一種以上含んだ無機化合物を用いることができる。ただし、無機材料はこれらに限定されるものではない。無機材料は耐熱性および電気化学的安定性に優れている材料が多いため好ましい。これらは単層もしくは複数の層の積層構造、又は混合層として形成することができる。好ましい膜厚は5nm以上であり、より好ましくは15nm程度以上である。
【0033】
<正孔輸送層>
正孔輸送層105の形成法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などのドライ成膜法や、スピンコート法、ゾルゲル法などのウェット成膜法などの既存の成膜法を用いることができるが、本発明はこれらに限定されるものではなく、一般的な成膜法を用いることもできる。
【0034】
画素電極102の上にキャリア注入層104を形成した後、正孔輸送層105をキャリア注入層104の上に形成する。正孔輸送層105に用いる材料としては、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体などの、芳香族アミンを含むポリマーなどが挙げられる。これらの材料を溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いて正孔輸送層105を形成することができる。
【0035】
<有機発光層>
正孔輸送層105を形成した後、有機発光層106を正孔輸送層105の上に形成する。有機発光層106は電流を通すことにより発光する層であり、有機発光層106から放出される表示光が単色の場合、正孔輸送層105を被覆するように形成するが、多色の表示光を得るには必要に応じてパターニングを行うことにより好適に用いることができる。
【0036】
有機発光層106を形成する有機発光材料としては、例えばクマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系などの発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または安定に分散させ、有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどの単独またはこれらの混合溶媒が挙げられる。中でもトルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、有機発光インキには必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0038】
上述した高分子材料に加え、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス[8−(パラ−トシル)アミノキノリン]亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレンなどの低分子系発光材料が使用できる。
【0039】
有機発光層106の形成法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などのドライ成膜法や、インクジェット印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などのウェット成膜法など既存の成膜法を用いることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
<発光媒体層の形成方法>
塗布法で発光媒体層108を形成する場合、凸版印刷法を用いることができる。特に、有機発光材料を溶媒に溶解または安定に分散させた有機発光インキを用いて発光層106を各発光色に塗り分ける場合には、隔壁間にインキを転写してパターニングできる凸版印刷法が好適である。
有機EL表示装置を製造する際に好適な凸版印刷装置の一例を図4に示す。この凸版印刷装置600は有機発光材料からなる有機発光インキを画素電極、正孔注入層および正孔輸送層が形成された被印刷基板602の上にパターン印刷するときに用いられるものであって、ステージ601の上に置かれた被印刷基板602の表面上に有機発光インキをパターン印刷するための版銅608と、この版銅608にマウントされた版607の凸部に溶剤で希釈された有機発光インキを付与するアニロックスロール605とを備えている。
【0041】
また、凸版印刷装置600はアニロックスロール605の周面部に接触するインキ供給部を有するインキチャンバ604と、このインキチャンバ604に送り込まれる有機発光インキを収容するインクタンク603を備えており、回転可能に支持されたアニロックスロール605の近傍には、インキチャンバ604のインキ供給部からアニロックスロール605の周面部に供給された有機発光インキを一定厚さにするドクタ606が設けられている。
従って、アニロックスロール605の周面部から版607の凸部に転移した有機発光インキが被印刷基板602上に転移されることで、被印刷基板602上に有機発光層が形成されるようになっている。なお、他の発光媒体層をインキ化して塗工する場合についても同様に上記形成法を用いて形成することができる。
【0042】
<電子注入層>
有機発光層106を形成した後、正孔ブロック層や電子注入層等を形成してもよい。これらの機能層は、有機EL表示装置のディスプレイパネルの大きさ等から任意に選択することができる。正孔ブロック層および電子注入層に用いる材料としては、一般に電子輸送材料として用いられているものであれば良く、トリアゾール系、オキサゾール系、オキサジアゾール系、シロール系、ボロン系等の低分子系材料、フッ化リチウムや酸化リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩や酸化物等を用いて真空蒸着法による成膜が可能である。また、これらの電子輸送性材料およびこれら電子輸送材料をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させトルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて電子注入塗布液とし、印刷法により成膜できる。
【0043】
<対向電極>
次に、対向電極107を形成する。対向電極107を陰極とする場合には、有機発光層106への電子注入効率が高く、仕事関数の低い物質を用いる。具体的にはMg,Al,Yb等の金属を電極材料として用いたり、発光媒体層108と接する界面にLiや酸化Li,LiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層したものを用いてもよい。また、電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数が低いLi,Mg,Ca,Sr,La,Ce,Er,Eu,Sc,Y,Yb等の1種以上の金属と、Ag,Al,Cu等の安定な金属元素との合金系を用いてもよい。具体的には、MgAg,AlLi,CuLi等の合金が使用できる。対向電極107の形成には、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法を用いることができる。
【0044】
<封止体>
有機発光層106の有機発光材料は大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまうため、通常は外部と遮断するための封止体を設ける。封止体は例えば封止材上に樹脂層を設けて作製することができる。
封止材としては、水分や酸素の透過性が低い基材である必要がある。また、封止材の一例として、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、耐湿性フィルムなどを挙げることができる。耐湿性フィルムの例として、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルムまたは吸水剤を塗布した重合体フィルムなどを挙げることができ、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10-6g/m2/day以下であることが好ましい。
【0045】
樹脂層の材料の一例として、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン樹脂などからなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、2液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物などの熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。
【0046】
樹脂層を封止材の上に形成する方法の一例として、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。必要に応じて吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることもできる。封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL表示装置の大きさや形状により任意に決定されるが、5〜500μm程度が望ましい。なお、ここでは封止材上に樹脂層として形成したが、有機EL素子側に直接形成することもできる。
【0047】
有機EL表示ディスプレイパネルと封止体との貼り合わせを封止室で行う。封止体を、封止材と樹脂層の2層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好ましい。熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに硬化温度で加熱硬化を行うことが好ましい。光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことができる。
【0048】
<エージング>
次に封止が完了した有機EL表示装置のエージングを行う。画素内輝度が1cd/m2を超えないように画素電極102と対向電極107に順方向の電圧を加えた状態で、有機発光層を形成する有機発光材料の中でガラス転移温度が最も低い有機発光材料のガラス転移温度Tgより低い温度雰囲気の中で有機EL表示装置を放置する。そして、発光効率がおよそ10%〜30%低下したところでエージングを完了する。エージング時の電流電圧はパルス電流、直流を問わないが、一般的には実駆動と同方法でエージングを行う。
エージング時の環境としては、一般的に用いられる有機EL用の有機発光材料のガラス転移温度Tgが200度未満であるため、一般的な加熱装置を用いて80度〜150度程度の環境下に放置される。また、有機発光材料の光劣化を防ぐために600nm以下の光が遮断された環境で行われるのが好ましい。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
以下、本発明の実施例について説明する。
基板として、支持体上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタと、その上方に形成された画素電極とを備えたアクティブマトリクス基板を用いた。基板のサイズは200mm×200mmでその中に対角5インチ、画素数は320×240のディスプレイが中央に配置されており、基板端に取出し電極とコンタクト部が形成されている。
【0050】
この基板上に設けられている画素電極の端部を被覆し、画素を区画するような形状で隔壁を形成した。隔壁の形成は、日本ゼオン社製ポジレジストZWD6216−6をスピンコーターにて基板全面に厚み2μmで形成した後、フォトリソグラフィーによって幅40μmの隔壁を形成した。これにより、サブピクセル数960×240ドット、0.12mm×0.36mmピッチ画素領域が区画された。
【0051】
その後、モリブデンターゲットが設置されているスパッタリング成膜装置に基板を設置し、取り出し電極やコンタクト部に成膜されないように、表示領域上に第一キャリア注入層をパターン成膜した。このときのスパッタ条件は圧力1Pa、電力1kWで酸素のアルゴンガスに対する流量比が30%であった。膜厚を50nmとした。
次に、画素電極が形成された基板を印刷機にセッティングし、濃度1%になるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを絶縁層に挟まれた画素電極の真上にそのラインパターンに合わせて正孔輸送層を画素電極の上に凸版印刷法で形成した。このとき、図4に示す版607として、100線/インチのアニロックスロールおよびピクセルのピッチに対応する感光性樹脂版を使用した。印刷、乾燥後の正孔輸送層の膜厚は20nmとなった。
【0052】
次に、有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を濃度1%になるようにトルエンに溶解させたインキを用いて、絶縁層に挟まれた画素電極の真上にそのラインパターンに合わせて有機発光層を正孔輸送層の上に凸版印刷法で形成した。このとき、図4に示す版607として、150線/インチのアニロックスロールおよびピクセルのピッチに対応する感光性樹脂版を使用した。印刷、乾燥後の有機発光層の膜厚は80nmとなった。この工程を計3回繰り返し、R(赤)、G(緑)、B(青)の発光色に対応する有機発光層を各画素に形成した。今回用いた有機発光材料のガラス転移温度は200度未満であった。
【0053】
その後、電子注入層として真空蒸着法でカルシウムを厚み10nmで成膜し、その後、対向電極として厚さ150nmのアルミニウム膜を成膜した。
その後、封止材としてガラス板を対向電極の上に発光領域全てをカバーするように載せ、約90℃で1時間接着剤を熱硬化して封止を行った。こうして得られたアクティブマトリクス駆動型有機EL表示ディスプレイパネルの駆動に必要な電源及び信号を入力するようにIC及び駆動回路を接続しモジュール化した。
【0054】
その後、有機EL表示ディスプレイパネルのエージングとして、画素電極と対向電極に約3.2Vの電圧を印加して画素内輝度が約10cd/m2になるようにセッティング後、温度を100℃に設定されたオーブンの中で有機EL表示ディスプレイパネルを初期の発光効率が6cd/Aから5cd/Aに低下するまで放置した。そのときのエージング時間とエージング後に画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度が半減するまでの時間を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0055】
[実施例2]
実施例1と同様の有機EL表示ディスプレイパネルを作製し、画素電極と対向電極に約3.2Vの電圧を印加して画素内輝度が約10cd/m2になるようにセッティング後、温度を100℃に設定されたオーブンの中で有機EL表示ディスプレイパネルを初期の電流発光効率が6cd/Aから4.5cd/Aに低下するまで放置した。そのときのエージング時間とエージング後に画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度が半減するまでの時間を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
実施例1と同様の有機EL表示ディスプレイパネルを作製し、画素電極と対向電極に約3.2Vの電圧を印加して画素内輝度が約10cd/m2になるようにセッティング後、温度を120℃に設定されたオーブンの中で有機EL表示ディスプレイパネルを初期の電流発光効率が6cd/Aから5cd/Aに低下するまで放置した。そのときのエージング時間とエージング後に画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度が半減するまでの時間を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0057】
[実施例4]
実施例1と同様の有機EL表示ディスプレイパネルを作製し、画素電極と対向電極に約3.2Vの電圧を印加して画素内輝度が約1cd/m2になるようにセッティング後、温度を100℃に設定されたオーブンの中で有機EL表示ディスプレイパネルを初期の電流発光効率が6cd/Aから5cd/Aに低下するまで放置した。そのときのエージング時間とエージング後に画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度が半減するまでの時間を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0058】
[実施例5]
実施例1と同様の有機EL表示ディスプレイパネルを作製し、画素電極と対向電極に約3.2Vの電圧を印加して画素内輝度が約1cd/m2になるようにセッティング後、温度を120℃に設定されたオーブンの中で有機EL表示ディスプレイパネルを初期の電流発光効率が6cd/Aから5cd/Aに低下するまで放置した。そのときのエージング時間とエージング後に画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度が半減するまでの時間を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
実施例1と同様の有機EL表示ディスプレイパネルを作製し、画素電極と対向電極に電圧を印加しない状態で、温度を100℃に設定されたオーブンの中で有機EL表示ディスプレイパネルを初期の電流発光効率が6cd/Aから5cd/Aに低下するまで放置した。そのときのエージング時間とエージング後に画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度が半減するまでの時間を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0060】
[比較例2]
実施例1と同様の有機EL表示ディスプレイパネルを作製し、画素電極と対向電極に約3.2Vの電圧を印加して画素内輝度が約10cd/m2になるようにセッティング後、温度を220℃に設定されたオーブンの中で有機EL表示ディスプレイパネルを初期の電流発光効率が6cd/Aから5cd/Aに低下するまで放置した。そのときのエージング時間とエージング後に画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度が半減するまでの時間を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0061】
[比較例3]
実施例1と同様の有機EL表示ディスプレイパネルを作製し、画素電極と対向電極に約3.2Vの電圧を印加して画素内輝度が約1000cd/m2になるようにセッティング後、室温25℃の温度雰囲気の中で有機EL表示ディスプレイパネルを初期の電流発光効率が6cd/Aから5cd/Aに低下するまで放置した。そのときのエージング時間とエージング後に画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度が半減するまでの時間を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1〜5ではエージング後の画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度半減時間が10000〜20000hとなるのに対し、画素電極と対向電極に電圧を印加しないでエージング処理を施した比較例1では、エージング後の画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度の半減時間が7000hとなることが表1からわかる。また、放置温度が有機発光材料のガラス転移温度より高い温度でエージング処理を施した比較例2では、エージング後の画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度半減時間が2000hとなることが表1からわかる。
【0064】
従って、実施例1〜5のように、画素電極と対向電極に電圧を印加した状態で有機EL表示ディスプレイパネルを有機発光材料のガラス転移温度より低い温度雰囲気の中に放置して有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことで、層界面の安定化が促進され、エージングによる有機EL表示ディスプレイパネルの早期劣化を抑制して有機EL表示装置の長寿命化を図ることができる。
【0065】
また、実施例4及び実施例5のように、有機発光層の発光輝度が1cd/m2以下となる電圧を画素電極と対向電極に印加して有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことにより、例えば有機発光層の発光輝度が1000cd/m2となる電圧を画素電極と対向電極に印加して有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行った比較例3と比較して、エージング後の画素内輝度を1000cd/m2に設定したときの輝度半減時間が大幅に長くなるので、エージングによる有機EL表示ディスプレイパネルの早期劣化をより効果的に抑制して有機EL表示装置の長寿命化を図ることができる。
【符号の説明】
【0066】
101…基板(支持体)
102…画素電極(第一電極)
103…隔壁
104…キャリア注入層
105…正孔輸送層(キャリア輸送層)
106…有機発光層
107…対向電極(第二電極)
108…発光媒体層
308…TFT付き基板
309…ゲート絶縁膜
310…ドレイン電極
311…活性層
312…ソース電極
313…走査線
314…ゲート電極
600…凸版印刷装置
601…ステージ
602…被印刷基板
603…インキタンク
604…インキチャンバ
605…アニロックスロール
606…ドクタ
607…凸版
608…版胴
609…インキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の上に形成された複数の画素電極と、該画素電極の各々と対向する対向電極と、該対向電極と前記画素電極との間に有機発光材料からなる有機発光層を有する発光媒体層とを含む有機EL表示ディスプレイパネルを備えた有機EL表示装置の製造方法であって、
前記有機EL表示ディスプレイパネルを形成した後、前記画素電極と前記対向電極に電圧を印加した状態で前記有機EL表示ディスプレイパネルを前記有機発光材料のガラス転移温度より低い温度雰囲気の中に放置して前記有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL表示装置の製造方法において、前記有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うに際して、前記有機発光層の発光輝度が1cd/m2以下となる電圧を前記画素電極と前記対向電極に印加することを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機EL表示装置の製造方法において、前記有機発光層の発光効率が10%以上低下するまで前記有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを行うことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法において、前記有機EL表示ディスプレイパネルのエージングを600nm以下の波長成分を含まない光源下で行うことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機EL表示装置の製造方法において、前記発光媒体層の少なくとも有機発光層をウェット成膜法により形成することを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−69435(P2012−69435A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214391(P2010−214391)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】