説明

有機EL表示装置及び有機EL表示装置の製造方法

【課題】積層型の有機EL表示装置において、正孔注入特性を向上させる。
【解決手段】基板10と、一方の主面が陰極、他方の主面が陽極となる第1電極40と、陽極である第2電極20と、前記第1電極の陰極となる主面及び前記第2電極に狭持された第1有機層30と、陰極である第3電極60と、前記第1電極の陽極となる主面及び前記第3電極に狭持された第2有機層50と、を有する有機EL表示装置において、前記第1電極の陽極となる主面の仕事関数を、前記第1電極の陰極となる主面の仕事関数より高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置とその製造方法に関する。特に、一対の電極に狭持された有機層が積層された有機EL表示装置であって、有機層を狭持する電極の仕事関数に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一対の電極間に狭持された有機層を有する有機EL表示装置において、複数の有機層を積層することにより、異なる発色が可能となる事が知られている。
【0003】
特許文献1に開示の多色発光素子においては、電子輸送層の上に仕事関数の低い金属層を配置する構造が提案されている。なお、仕事関数とは、固体内にある電子を、固体の外に取出すために必要な最小限のエネルギーの大きさのことである。
【0004】
これを具体的に説明する。
【0005】
図12に特許文献1(特開2001−273979号公報)の図12Cを引用する。同図において、基板150上に、第2電極152、青色発光を含む第1有機層156、第1電極160、緑色発光を含む第2有機層164、第3電極170、が順に積層されている。
【0006】
ここで、第1電極160を160Mと160Iの2層構成としている。そして、電子注入性を上げ、駆動電圧を下げるために、電子輸送層158の上に仕事関数が4.0[eV]未満の金属層160M(Ag/Mg)と、その上にITO(160I)を積層する構造が提案されている。
【特許文献1】特開2001−273979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1では、緑色を発光させる時に、第1電極は、第2有機層に正孔を注入しているが、先述したITOの仕事関数に関しては、何ら開示されていない。そのため、この第1電極には正孔を効果的に注入することに関しては、何ら開示も示唆もされていない。
【0008】
それゆえに、第1電極は、有機層に正孔が注入し難く、駆動電圧が高くなってしまう恐れがある。
【0009】
そのため本発明の目的は、積層型の有機EL表示装置において、有機層と有機層に挟まれる電極の電子注入性を向上させることのみならず、正孔の注入性を向上させる。これにより、低電圧で駆動し、良好な表示特性が得られる有機EL表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために以下を提供する。
【0011】
基板と、一方の主面が陰極、他方の主面が陽極となる第1電極と、
陽極である第2電極と、前記第1電極の陰極となる主面及び前記第2電極に狭持された第1有機層と、陰極である第3電極と、
前記第1電極の陽極となる主面及び前記第3電極に狭持された第2有機層と、を有する有機EL表示装置において、
前記第1電極の陽極となる主面の仕事関数は、前記第1電極の陰極となる主面の仕事関数より高いことを特徴とする有機EL表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、電極からの電子注入性のみならず、正孔注入性をも向上させる。これにより、駆動電圧を低減させることができるので、電源電圧を低減でき、低消費電力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る表示装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0014】
なお、本明細書で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用する。
【0015】
また、以下に説明する実施形態は、発明の一つの実施形態であって、これらに限定されるものではない。また、以下に説明する実施形態を組み合わせる事も、本発明に含まれる。
【0016】
(実施例1)
図1は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。この図を用いて、本実施形態の表示装置の製造方法について説明する。
【0017】
図1において、本実施例の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0018】
10は基板、20は第2電極(陽極)、30は第1有機層、40は第1電極、50は第2有機層、60は第3電極(陰極)、90は保護層、100は電源手段を示している。
【0019】
なお、第2電極20は反射電極である。反射電極とは、電極自身が反射性を有する材料からなるものに限らず、ITO,IZOなどの透明導電性材料からなる電極下部に反射性の薄膜を積層したものも含んでそう呼称する。また、第3電極60側から、発光した光を取出すため、第3電極は光取出し電極として機能し、トップエミッション型の有機EL表示装置を構成している。以下の実施例においても同様である。
【0020】
なお、本実施例の有機層30及び有機層50は3層構成となっており、基板10上に正孔輸送層/発光層/電子輸送層の順で積層されている。また、同図は一つの画素を模式的に示している。
【0021】
また、有機EL表示装置としては、第2電極20から第3電極60までを含む画素を、並列に複数並べると良い。
【0022】
<基板10及び第2電極20について>
基板10及び陽極として機能する第2電極20について説明する。
【0023】
必要に応じてTFT等のスイッチング素子が形成された基板上には、第2電極20(陽極)が形成されている。第2電極20としては、光反射性の部材であることが好ましく、例えばCr、Al、Ag、Au、Pt等の材料からなることが好ましい。反射率が高い部材であるほど、光取り出し効率を向上できるからである。
【0024】
また、2つの異なる材料、すなわち第2電極20の第1有機層30側を透過性の高い、材料とし、かつ第2電極20の基板10側を反射性の高い材料という構成からなる第2電極としても良い。
【0025】
<第1有機層30について>
次に、第1有機層30について説明する。
【0026】
上記のような基板10及び第2電極20に対して、公知の手段(例えば、蒸着やインクジェット等)により、第1有機層30を堆積する。ここで、第1有機層は、正孔輸送材料、有機発光材料、電子輸送材料の順に基板10上に積層されている。さらに、第1有機層は、発光効率の観点からアモルファス膜であることが好ましい。
【0027】
各色(R/G/B)の有機発光材料は次のようなものが用いられる。トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリーレン、芳香族縮合多環化合物、芳香族複素環化合物、芳香族複素縮合環化合物、金属錯体化合物等及びこれらの単独オリゴ体あるいは複合オリゴ体である。但し、本発明の構成として例示の材料に限定されるものではない。
【0028】
正孔輸送材料としては、フタロシアニン化合物、トリアリールアミン化合物、導電性高分子、ペリレン系化合物、Eu錯体等が使用できるが、本発明の構成として限定されるものではない。
【0029】
電子輸送材料の例としては、アルミに8−ヒドロキシキノリンの3量体が配位したAlq3、アゾメチン亜鉛錯体、ジスチリルビフェニル誘導体系等を使用できる。
【0030】
なお、第1有機層の膜厚は0.05μm〜0.3μm程度が良く、好ましくは0.05〜0.15μm程度である。
【0031】
<第1電極40について>
次に、本発明の特徴でもある第1電極40について説明する。
【0032】
ここでは、透明導電膜を成膜、及び、パターニングを行い、第1電極40を形成している。このとき、第1電極40の保護層90側である陽極となる主面の仕事関数は、第1電極40の基板10側である陰極となる主面の仕事関数より、高くするように形成している。
【0033】
これは、例えば、以下の方法により実現される。透明導電膜としてIZOの成膜時に、酸素流量を段階的に増加させる。これにより、酸素流量が少ないIZOからなる電極よりも、酸素流量が多いIZOからなる電極の方が、より高い仕事関数を得ることができる。
【0034】
このように第1有機層30の正孔輸送層に対して仕事関数の高い陽極を配置させることにより、正孔注入性を向上させることができるので、駆動電圧を低減させることができる。これにより、電源電圧を低減できると共に、低消費電力化を図ることも可能となるのである。
【0035】
また、第1電極40の陰極側は、仕事関数が低いため、電子注入性も高い状態となっている。
【0036】
ここで、先述した第1電極には、第2有機層に正孔を注入する特性の向上が求められることを述べたが、一般的にはITO、IZOなどの透明導電膜の正孔注入性を向上させる方法としては、紫外線照射、酸素プラズマ、等がある。しかしながら、積層型の有機EL表示装置においては、第1電極の基板側に有機層が配置されている。そのため、上記、正孔注入性を向上させる方法では、第1有機層が削られ、所望の特性が得られない、という問題がある。
【0037】
一方、本実施例では、第1電極を成膜した時点で正孔注入性が向上している。そのため、成膜後に、正孔注入性を高めるための表面処理等をする必要がなく、作製工程を短縮できる。加えて、表面処理が無いため、第1有機層への損傷も低減させることができるのである。
【0038】
また、第1電極40の材料としては、光透過性を確保するために透過率の高い材料が好ましい。例えば、ITO、IZO、ZnOなどの透明導電膜や、ポリアセチレンなどの有機導電膜からなることが好ましい。さらに、Ag、Alなどの金属を10nm〜30nm程度に形成した半透過膜でもよい。
【0039】
先述したITO、IZO、ZnOなどの透明導電膜は、低消費電力化を図るために、電極として用いるため抵抗が低い特性と、光の取出し効率を高めるため透過率の高い特性と、の両方を満足する組成が好ましい。
【0040】
ここで、上記の両方の特性を満たすような透明導電膜であるIZOを、スパッタにて成膜する時の一般的な条件を示す。
【0041】
成膜装置の容量、ターゲット、圧力、出力、等で条件は変化するが、現在使用しているスパッタ装置においては、アルゴン流量80−100sccmに対して、酸素流量を0.09−0.2sccmの比で成膜する。こうすることで、低い抵抗値で、且つ、透過率の高い組成を得ている。
【0042】
また、第1電極40の成膜は、ULVAC製のスパッタ装置を用いた。成膜は、IZOターゲットを用い、成膜時圧力1.8Pa、アルゴン流量100sccm、カソード出力850W、カソード電圧250V、の条件下で、酸素流量0.09sccmで成膜した。続けて、酸素流量0.09sccmの時と同一膜厚で、酸素流量5sccmに変えて成膜した。
【0043】
仕事関数の測定は、理研計器製、FAC1を用いた。酸素流量0.09sccm条件下のIZOの仕事関数は4.4eV、酸素流量5sccm条件下のIZOの仕事関数は5.7eVであった。
【0044】
これにより、第1電極40の陽極となる主面の仕事関数は、第1電極40の陰極となる主面の仕事関数より、高くなる。
【0045】
なお、第1電極40の陽極となる主面の仕事関数は、5.5[eV]以上が好ましい。これにより、正孔注入性を高めることができるからである。
また、第1電極40の陽極となる主面の仕事関数は、より好ましくは5.5[eV]以上5.8[eV]以下が好ましい。これは、仕事関数が高いと正孔の注入性が高まるが、その一方で仕事関数が高すぎると、電極としての抵抗が上がり、駆動電圧が大きくなってしまう恐れがあるからである。(以下の実施例においても同様である。)
なお、電極の表面の仕事関数と、電極の内部の仕事関数とは、同材料、同条件で作製した場合同じであるため、本実施例における仕事関数は、電極の表面を測定することにより得ている。例えば、IZOを成膜する際に、成膜条件を一定であれば、成膜の開始、途中、終了の各点で、同じ仕事関数が得られる。つまり、一方の主面と内部の仕事関数が同じである。
【0046】
次に、第1電極40のパターニング方法について説明する。
【0047】
上記パターニングとしては、電極材料を加熱し、メタルマスクを使用して蒸着によって形成しても、または電極材料を成膜したのち、レーザー加工により不要な電極部分を除去しても良い。
【0048】
<第2有機層50について>
次に、第1有機層30と同様の方法で、第2有機層50、を堆積する。第2有機層50は第1有機層30と異なる発色を呈する有機発光材料を用いる。これにより、1つの画素で2つの発色が可能となる。
【0049】
<第3電極60について>
次に、陰極として機能する第3電極60をスパッタ等により形成する。第3電極60の材料としては、第1電極40と同様に透過率の高い材料が好ましい。さらに保護膜90として、窒化酸化シリコンを成膜し、有機EL表示装置を得た。
【0050】
<電源手段100と駆動方法について>
このようにして形成された有機EL表示装置の第2電極20、第1電極40、第3電極60を電源手段100と接続する。
【0051】
ここで、第1有機層30を発光させる場合には、第2電極20と第1電極40に電源手段100により電圧を加える。
【0052】
ここで、第1有機層30を発光させる場合には、第2電極20の陽極となる主面から正孔が注入される。この時、第2電極20の陽極となる主面の仕事関数は、陰極となる第3電極40の主面の仕事関数よりも高く、正孔注入性が高くなるため低駆動電圧が可能となる。
【0053】
また、これと同時に第1電極40の陰極となる主面から電子が注入される。第1電極40の陰極となる主面の仕事関数は、陽極となる第2電極20の主面の仕事関数よりも低く、電子注入性が高いため、低電圧駆動が可能となる。
【0054】
次に、第2有機層50を発光させる場合には、第1電極40と第3電極60に電源手段100により電圧を加える。
【0055】
ここでも、第1有機層30の場合と同様に第2有機層50を発光させる時、第1電極40の陽極となる主面から正孔が注入される。この時、第1電極40の陽極となる主面の仕事関数は高く、正孔注入性が高くなるため低駆動電圧が可能となる。
【0056】
また、これと同時に第3電極60の陰極となる主面から電子が注入される。第1電極40の陽極となる主面の仕事関数は、第1電極40の陰極となる主面の仕事関数より高く、正孔注入性が高いため、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化を図ることができる。
【0057】
なお、本実施例では、第2電極20が基板10と接する構成を示したが、第3電極60が基板10と接する構成のトップエミッション型の有機EL表示装置でもよい。その場合、第3電極60が反射電極となり、第2電極20側から光を取出す構成となる。
【0058】
(実施例2)
図2は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。
【0059】
同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0060】
本実施例の実施例1と異なる点以下の通りである。
【0061】
第3電極60の一方の主面(基板10側)が陰極となり、他方の主面(保護層90側)が陽極となる点と、第3電極60上に、第3有機層80を形成する点と、第3有機層80上に第4電極70を形成する点と、第4電極70を電源手段100と接続する点である。
【0062】
ここで、第3有機層80は、第1有機層30、及び第2有機層50と異なる発色をする、有機発光材料を用いる。
【0063】
また、第3電極60は、第1電極40と同様に形成する。
【0064】
また、第4電極70はスパッタ等により形成される。第4電極70の材料としては、第1電極40と同様に透過率の高い材料が好ましい。
【0065】
本実施例では、第2電極20が反射電極となり、第4電極70側から光を取出す、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0066】
ここで、第1有機層30を発光させる時、第2電極20の陽極となる主面から正孔が注入され、第1電極40の陰極となる主面(基板10側)から電子が注入される。第1電極40の陰極となる主面の仕事関数は、第2電極20の陽極となる主面の仕事関数より低いため、正孔注入性、及び電子注入性が高くなるため、低電圧駆動が可能となる。
【0067】
また、第1電極40と第3電極60に挟まれた第2有機層50を発光させる時、第1電極40の陽極となる主面(保護層90側)から正孔が注入され、第3電極60の陰極となる主面(基板10側)から電子が注入される。第1電極40の陽極となる主面(保護層90側)の仕事関数は、第1電極40の陰極(基板10側)となる主面の仕事関数と比べて高く、正孔注入性が高い。また、第1電極40の陽極となる主面(保護層90側)の仕事関数は、第3電極60の陰極となる主面(基板10側)の仕事関数と比べて高いため、正孔注入性が高くなるため、低電圧駆動が可能となる。
【0068】
さらに、第3有機層80を発光させる時、第3電極60の陽極となる主面(保護層90側)から正孔が注入され、第4電極70の陰極となる主面(基板10側)から電子が注入される。第3電極60の陽極となる主面の仕事関数は第3電極60の陰極となる主面の仕事関数に比べて高く、正孔注入性が高いため、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0069】
加えて、本実施例により、1つの画素で3色の発色が可能となり、1つの画素で2色の発光する有機EL表示装置より高精細な表示が可能となる。
【0070】
本実施例では、第2電極20が基板10と接する構成を示したが、第4電極70が基板10と接する構成のトップエミッション型の有機EL表示装置でもよい。その場合、第4電極70が反射電極となり、第2電極20側から光を取出す構成となる。
【0071】
(実施例3)
図3は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。
【0072】
同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0073】
本実施例の実施例1と異なる点は、第2電極21にPtを用い、第3電極61にAgを用いた、点である。
【0074】
Ptの仕事関数は5.6eV、Agの仕事関数は4.3eVであり、これにより第2電極21の陽極となる主面の仕事関数は第3電極61の陰極となる主面の仕事関数より高くなる。
【0075】
ここで、第1有機層30を発光させる時、第2電極21の陽極となる主面から正孔が注入され、第1電極40の陰極となる主面(基板10側)から電子が注入される。第2電極21の陽極となる主面(保護層90側)の仕事関数は高く、第1有機層30への正孔注入性が向上し、低電圧駆動が可能となる。
【0076】
次に、第2有機層50を発光させる時、第1電極40の陽極となる主面(保護層90側)から正孔が注入され、第3電極61の陰極(基板10側)となる主面から電子が注入される。第3電極61の陰極となる主面の仕事関数は低く、第2有機層50への電子注入性が向上し、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0077】
(実施例4)
図4は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。
【0078】
同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0079】
本実施例の実施例1と異なる点は、第1電極40を2層とした点である。ここで第1電極40を構成する2層を第1電極41、42とする。
【0080】
具体的に第1電極41、42をULVAC製のスパッタ装置を用いて成膜する方法について説明する。
【0081】
まず、Agのターゲットを用いたスパッタ装置で行った。成膜時圧力0.25Pa、アルゴン流量20sccm、カソード出力70W、の条件下で、23秒間、成膜し、第2電極20側の第1電極41を成膜した。
【0082】
次に、IZOのターゲットを用いたスパッタ装置で行った。成膜時圧力1.8Pa、アルゴン流量100sccm、カソード出力850W、カソード電圧250V、酸素流量5sccmで39秒間、成膜し、第3電極60側の第1電極42とした。
【0083】
ここで、Agの仕事関数は、4.3eVであり、IZOの酸素流量5sccm条件下の仕事関数は5.7eV、であった。これにより、第1電極41の陰極となる仕事関数は、第1電極42の陽極となる仕事関数より、低くなる。
【0084】
以上の構成により、第1有機層30を発光させる時、第2電極20の陽極となる主面から正孔が注入され、第1電極41の陰極となる主面から電子が注入される。第1電極41の陰極となる主面の仕事関数は低く、電子注入性が高いため、低電圧駆動が可能となる。
【0085】
更に、第2有機層50を発光させる時、第1電極42の陽極となる主面から正孔が注入され、第3電極60の陰極となる主面から電子が注入される。第1電極42の陽極となる主面の仕事関数は、第1電極41の陰極となる主面の仕事関数より高く、正孔注入性が高いため、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0086】
また、第1電極42の陽極となる主面の仕事関数は、第3電極60の陰極となる主面の仕事関数よりも高くした方が好ましい。これにより、正孔注入性が高くなるため、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0087】
(実施例5)
図5は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0088】
本実施例の実施例1と異なる点は、第1電極40において、積層方向の中央近傍に、仕事関数の高い主面よりも仕事関数が低く、かつ仕事関数の低い主面よりも仕事関数が高い中間層を新たに設けた点である。すなわち、第1電極40は3層で構成され、夫々を基板10側から第1電極41、43、42とする。
【0089】
具体的に第1電極41、43、42をULVAC製のスパッタ装置を用いて成膜する方法について説明する。
【0090】
まず、Agのターゲットを用いたスパッタ装置で行う。成膜時圧力0.25Pa、アルゴン流量20sccm、カソード出力70W、の条件下で、23秒間、成膜し、第1電極41とした。
【0091】
次に、IZOターゲットを用いたスパッタ装置で行う。成膜時圧力1.8Pa、アルゴン流量100sccm、カソード出力850W、カソード電圧250V、酸素流量0.09sccmの条件下で56秒間、成膜し、第1電極43とした。
【0092】
次に、IZOのターゲットを用いたスパッタ装置で行う。成膜時圧力1.8Pa、アルゴン流量100sccm、カソード出力850W、カソード電圧250V、酸素流量5sccmで39秒間、成膜し、第1電極42とした。
【0093】
第1電極41、43、42の仕事関数は、基板10側から順に、4.3eV、4.4eV、5.7eVとなり、仕事関数が低、中、高、の3層が配置される。
【0094】
仕事関数の高い第1電極42の抵抗は、仕事関数の低い第1電極43と比較して高くなる。ここで、この抵抗が高くなる理由は、膜中の酸素含有量が高く、酸化膜に近づくためであると考えられる。
【0095】
そこで、まず、仕事関数の低い、第1電極41を成膜し、これにより第1有機層30への電子注入性を向上させる。
【0096】
次に、仕事関数の中位の第1電極43を成膜し、低抵抗の導電膜として電極の機能を向上させる。
【0097】
最後に仕事関数の高い第1電極42を成膜し、第2有機層50への正孔注入性を向上させる。
【0098】
これにより、電極の抵抗を下げ、且つ電子、及び正孔の注入性が向上するため、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0099】
また、Agを半透過膜として用いることで、キャビティ効果により色純度が向上し、色再現範囲の広い表示が可能となる。
【0100】
(実施例6)
図6は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。
【0101】
同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0102】
本実施例の実施例1と異なる点は、第1電極44を低い仕事関数から、高い仕事関数に連続して変化させている点である。
【0103】
第1電極44の成膜は、IZOターゲットを用いたスパッタ装置で行う。成膜時圧力1.8Pa、アルゴン流量100sccm、カソード出力850W、カソード電圧250V、酸素流量0.09sccmから成膜を開始し、次第に酸素流量を増加させ、最終的に酸素流量5sccmとして、成膜し、第1電極44とした。
【0104】
酸素流量を連続して増加させるため、低い仕事関数から、高い仕事関数に連続して変化した第1電極44となる。
【0105】
本実施例では、電極内部の組成が連続して変化するため、正孔、電子の移動の障壁が少なく、低電圧で駆動することができ、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0106】
(実施例7)
図7は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。
【0107】
同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0108】
本実施例の実施例4と異なる点は、第1電極40の、高仕事関数の層の厚さが、低仕事関数の層の厚さよりも薄い、点である。
【0109】
第1電極41の成膜はIZOターゲットを用いたスパッタ装置で行う。まず、成膜時圧力1.8Pa、アルゴン流量100sccm、カソード出力850W、カソード電圧250V、酸素流量0.09sccmの条件下で56秒間、成膜し、第1電極41とした。
【0110】
次に、成膜時圧力1.8Pa、アルゴン流量100sccm、カソード出力850W、カソード電圧250V、酸素流量5sccmで20秒間、成膜し、第1電極42とした。
【0111】
第1電極41は、仕事関数が4.4eV、膜厚600Åであり、第1電極42は、仕事関数は5.7eV、膜厚150Åである。よって高仕事関数の層の厚さが低仕事関数の層の厚さより薄くなる。
【0112】
仕事関数の高い第1電極42の抵抗は、仕事関数の低い第1電極41と比較して高くなる。その理由は膜中の酸素含有量が高く、組成が酸化膜に近づくためである。
【0113】
本実施例では、膜厚の厚い、低仕事関数の第1電極41にて、電極の抵抗を下げるとともに、電子注入性が向上する。さらに高仕事関数の第1電極42にて、正孔の注入性が向上するため、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0114】
(実施例8)
図8は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0115】
本実施例の実施例1と異なる点は、第1有機層32に正孔注入層31、第2有機層50に正孔注入層51を設ける、点である。有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の4層で構成される。
【0116】
正孔注入材料としては、フタロシアニン化合物、トリアリールアミン化合物、導電性高分子、ペリレン系化合物、Eu錯体等が使用できるが、本発明の構成として限定されるものではない。
【0117】
本実施例では、第2電極20形成後に、正孔注入層31を成膜し、続いて第1有機層32を成膜する。また、第1電極40成膜後に、正孔注入層51を成膜し、続いて第2有機層52を成膜する。ここで、第1有機層32、及び第2有機層52は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層で構成される。
【0118】
正孔注入層により、第1有機層32および、第2有機層52への正孔注入の障壁が低下するため、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0119】
(実施例9)
図9は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
【0120】
本実施例の実施例1と異なる点は、第1有機層32に正孔注入層31、電子注入層33を、第2有機層50に正孔注入層51、電子注入層53を設ける、点、である。すなわち、有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の5層で構成される。
【0121】
電子注入材料としては、アルミに8−ヒドロキシキノリンの3量体が配位したAlq3、アゾメチン亜鉛錯体、ジスチリルビフェニル誘導体系等を使用できるが、本発明の構成として限定されるものではない。
【0122】
本実施例では、第2電極20形成後に、正孔注入層31、第1有機層32、電子注入層33を成膜する。また、第1電極40成膜後に、正孔注入層51、第2有機層52、電子注入層53を成膜する。ここで、第1有機層32、及び第2有機層52は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層で構成される。
【0123】
電子注入層により、第1有機層32および、第2有機層52への電子注入の障壁が低下するため、低電圧駆動が可能となり、電源電圧を下げ、低消費電力化できる。
【0124】
(実施例10)
図10は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。同図の有機EL表示装置は、トップエミッション型の有機EL表示装置である。
本実施例の実施例9と異なる点は、電子注入層34、54にアルカリ金属を含む点、である。
【0125】
電子注入層34、54に含有するアルカリ金属としては、リチウム、セシウム、等を用いる事ができるが、アルカリ金属であれば本発明の構成として限定されるものではない。
【0126】
透明導電膜としてはIZO、ITOなどを使用できる。
【0127】
電子注入層34、54にアルカリ金属を含有することにより、電子注入性が向上し、電子注入する障壁が下がり、低電圧駆動が可能となる。
【0128】
また、透明導電膜は光の透過性が高く、発光層を積層する構成においては、光の取り出し効率を上げる事ができる特徴がある。その一方で一般に透明導電膜は金属と比較して、抵抗が高い。そこで、アルカリ金属含有の電子注入層34の上に透明導電膜である第1電極45を配置する事により、抵抗が高い透明導電膜を用いた場合においても、駆動電圧を低下させる事ができるとともに、光取り出し効率を上げる事ができる。
【0129】
(実施例11)
図11は本発明に係る有機EL表示装置の断面を模式的に示した図である。同図の有機EL表示装置は、ボトムエミッション型の有機EL表示装置である。
【0130】
本実施例の実施例1と異なる点は、第1電極40を2層とした点、基板10上の第3電極60から第2電極20までが逆順になっている点、である。
【0131】
なお、本実施例において第2電極20は反射電極である。第3電極60側から、発光した光を取出す、ボトムエミッション型の有機EL表示装置となる。
【0132】
第1電極の形成は、IZOターゲットを用い、成膜時圧力1.8Pa、アルゴン流量100sccm、カソード出力850W、カソード電圧250V、の条件下で、酸素流量5sccmで成膜した。続けて、酸素流量0.09sccmに変えて成膜した。酸素流量5sccm条件下のIZOの仕事関数は5.7eV、酸素流量0.09sccm条件下のIZOの仕事関数は4.4eVであった。
【0133】
仕事関数の高い陽極となる第1電極42は第2有機層と接している。一般的に正孔の注入性を向上させる紫外線照射、酸素プラズマ等の表面処理をする。しかし第2有機層50の上に第1電極42が配置される場合、その界面を成膜後、表面処理をすることができないため、第1電極42の正孔注入性を上げることが困難である。
【0134】
その一方で本実施例においては、第1電極42の成膜時に既に正孔注入性が向上しているため、低電圧駆動が可能となり、低消費電力とすることができる。
【0135】
本実施例では、第3電極60が基板10と接する構成を示したが、第2電極20が基板10と接する構成のボトムエミッション型の有機EL表示装置でもよい。その場合、第3電極60が反射電極となり、第2電極20側から光を取出す構成となる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の第1の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図2】本発明の第2の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図3】本発明の第3の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図4】本発明の第4の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図5】本発明の第5の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図6】本発明の第6の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図7】本発明の第7の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図8】本発明の第8の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図9】本発明の第9の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図10】本発明の第10の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図11】本発明の第11の実施態様に係る有機発光素子を示す図。
【図12】従来の有機発光素子の作製方法を示す図。
【符号の説明】
【0137】
10 基板
20、21 第2電極
30、32 第1有機層
31 正孔注入層
33、34 電子注入層
40、41、42、43、44、45 第1電極
50、52 第2有機層
51 正孔注入層
53、54 電子注入層
60、61 第3電極
70 第4電極
80 第3有機層
90 保護層
100 電源手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
一方の主面が陰極、他方の主面が陽極となる第1電極と、
陽極である第2電極と、
前記第1電極の陰極となる主面及び前記第2電極に狭持された第1有機層と、
陰極である第3電極と、
前記第1電極の陽極となる主面及び前記第3電極に狭持された第2有機層と、を有する有機EL表示装置において、
前記第1電極の陽極となる主面の仕事関数は、前記第1電極の陰極となる主面の仕事関数より高いことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
陰極である第4電極を有し、
前記第3電極は、一方の主面が陰極、他方の主面が陽極であり、
前記第3電極の陽極となる主面及び前記第4電極の陰極となる主面に狭持された第3有機層を有し、
前記第1電極の陽極となる主面の仕事関数は、前記第3電極の陰極となる主面の仕事関数より高いことを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記基板には、前記第2電極、前記第1有機層、前記第1電極、前記第2有機層、前記第3電極の順に積層されており、前記第2電極は反射電極であり、前記第3電極は光取出し電極であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記基板には、前記第2電極、前記第1有機層、前記第1電極、前記第2有機層、前記第3電極の順に積層されており、前記第2電極は光取出し電極であり、前記第3電極は反射電極であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記第3電極の陰極となる主面の仕事関数は、前記第2電極の陽極となる主面の仕事関数より低いことを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記第1電極は少なくとも仕事関数の異なる2層から構成されることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記第1電極は、仕事関数が夫々異なる3層からなり、前記陽極である第2電極に近づくほど、仕事関数が低く構成されていることを特徴とする請求項6に記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記第1電極は、低い仕事関数から、高い仕事関数に連続して変化することを、特徴とする、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項9】
前記第1電極の高仕事関数の厚さは、低仕事関数の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項6に記載の有機EL表示装置。
【請求項10】
前記第1有機層、及び第2有機層は、少なくとも電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層から構成されることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項11】
前記第1有機層、及び第2有機層は、更に電子注入層を有することを特徴とする請求項10に記載の有機EL表示装置。
【請求項12】
前記第1有機層、及び第2有機層は、アルカリ金属を含む電子注入層を含み、かつ前記第1電極は透明導電膜であることを特徴とする請求項11に記載の有機EL表示装置。
【請求項13】
前記基板に前記第3電極、前記第2有機層、前記第1電極、前記第1有機層、前記第2電極の順に積層されており、前記第3電極は反射電極であり、前記第2電極は光取出し電極であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項14】
前記基板に前記第3電極、前記第2有機層、前記第1電極、前記第1有機層、前記第2電極の順に積層されており、前記第3電極は光取出し電極であり、前記第2電極は反射電極であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項15】
前記第1電極の陽極となる主面の仕事関数は、5.5[eV]以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項16】
前記第1電極の陽極となる主面の仕事関数は、5.8[eV]以下であることを特徴とする請求項15に記載の有機EL表示装置。
【請求項17】
基板上に陽極となる第2電極を形成する工程と、
前記第2電極に第1有機層を形成する工程と、
前記第1有機層に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極に第2有機層を形成する工程と、
前記第2有機層に第3電極を形成する工程とを有する有機EL表示装置の製造方法において、
第2有機層に接し陽極となる第1電極を形成する場合の酸素流量は、前記第1有機層に接し陰極となる前記第1電極を形成する場合の酸素流量よりも多いことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項18】
基板上に陰極となる第3電極を形成する工程と、
前記第3電極に第2有機層を形成する工程と、
前記第2有機層に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極に第1有機層を形成する工程と、
前記第1有機層に第2電極を形成する工程とを有する有機EL表示装置の製造方法において、
第2有機層に接し陽極となる第1電極を形成する場合の酸素流量は、前記第1有機層に接し陰極となる前記第1電極を形成する場合の酸素流量よりも多いことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−10111(P2010−10111A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171737(P2008−171737)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】