説明

有機EL表示装置

【課題】トップエミッション型有機EL装置で、閾値電圧や発光開始電圧の変動及び輝度ムラの発生を抑制した有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】素子基板2の主面に配置された下部電極52と、この下部電極52上に配置された多層構造の有機EL層51と、この有機EL層51上に配置された透光性の上部電極53とを備え、前記有機EL層51の前記下部電極52と接する層をV25層6からなるホール注入層とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置に係り、特にトップエミッション型有機EL表示素子を備えた有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネル型の表示装置として液晶表示装置(LCD)やプラズマ表示装置(PDP)、電界放出型表示装置(FED)、有機EL表示装置(OLED)などが実用化ないしは実用化研究段階にある。中でも、有機EL表示装置は薄型・軽量の自発光型表示装置の典型としてこれからの表示装置として極めて有望な表示装置である。
【0003】
有機EL表示装置には、所謂ボトムエミッション型とトップエミッション型とがある。ボトムエミッション型の有機EL表示装置は、TFT基板を構成するガラス基板を好適とする絶縁基板の主面に、第1の電極または一方の電極としての透明電極(ITO等)、電界の印加で発光する多層の有機膜(有機発光層とも言う)、第2の電極または他方の電極としての反射性の金属電極を順次積層した発光機構で有機EL素子が構成される。この有機EL素子をマトリクス状に多数配列し、それらの積層構造を覆って封止缶と称する他の基板あるいは封止膜を設け、上記発光構造を外部の雰囲気から遮断している。そして、例えば前記一方の電極の透明電極を陽極とし、他方の電極の金属電極を陰極として両者の間に電界を印加することで有機多層膜にキャリア(電子と正孔)が注入され、該有機多層膜が発光する。この発光を前記ガラス基板側から外部に出射する。
【0004】
一方、トップエミッション型の有機EL表示装置は、上記した一方の電極を反射性を有する金属電極とし、他方の電極をITO等の透明電極とし、両者の間に電界を印加することで発光層が発光し、この発光を上記他方の電極側から出射する構成としている。トップエミッション型では、前記絶縁基板上の駆動回路上も発光エリアとして利用できる特徴を有している。又、トップエミッション型では、ボトムエミッション型における封止缶に対応する構成として、ガラス板を好適とする透明板が使用出来る。
【0005】
この種の有機EL表示装置は、図5にその一例を示すように封止基板81と素子基板82とをシール材83でシールする構成が採られている。ここで図5は有機EL表示装置の一例の光出射方向に平行方向の模式断面図である。
【0006】
この図5の構成で、前記封止基板81の素子基板82と対面する内面には掘り込み81aが設けられ、この掘り込み81a内に乾燥材組立体84が固定されている。この乾燥材組立体84は例えばCaO(酸化カルシュウム)やSr(ストロンチウム)等からなる乾燥材86と例えば粘着剤等の接合部材87からなり、この接合部材87で前記封止基板81に固着して保持する構成となっている。この乾燥材組立体84及び接合部材87は透明である。
【0007】
一方、素子基板82の主面、すなわち前記封止基板81と対面し図示しないTFT素子等を形成した面には、発光素子部85が配置されている。この発光素子部85は素子基板82側から反射性の金属膜からなる下部電極88、発光層を持つ有機多層膜89及び透明な上部電極90を順次積層した構成となっている。
【0008】
このような構成において、乾燥材組立体84は前記有機多層膜89の吸水による性能低下を阻止するため組み込まれている。
【0009】
この種の有機EL表示装置に関し、特許文献1ではトップエミッション型有機EL表示素子で透明な上部電極に接して酸化バナジウム等の遷移金属系の酸化物等からなる無機材料を含むホール注入層を配置した構成が、又特許文献2ではボトムエミッション型で、ITOの下部電極を陽極に用い、上部電極に反射性の電極を用いた構成が開示されている。
【特許文献1】特開2005−32618号公報
【特許文献2】特開平9−63771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このようなトップエミッション型有機EL表示装置では、上部電極を陰極とし下部電極を陽極とし、この下部電極に反射率の高いAl(アルミニウム)を用い、このAl上に仕事関数の高いITO膜やIZO膜を積層する構成が提案されている。
【0011】
この構成では、ITO膜やIZO膜は絶縁性が低いことから画素分離に制約が求められ、それに対処するため積層する多層構造の有機EL層や上部電極の製造工程中に前記ITO膜やIZO膜を含む膜に異物の吸着や汚染が生じ、これらに起因する閾値電圧や発光開始電圧の変動、輝度ムラの発生等が見られその対策が求められている。
【0012】
本発明の目的は、上述した問題を解決し、長期的に閾値電圧や発光開始電圧が安定し、輝度ムラの無い優れた発光特性を持つ有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明はトップエミッション型有機EL表示装置で、下部電極をAl又はAl合金から構成し、この下部電極上にV25層からなるホール注入層を積層し、このV25層のホール注入層上にホール輸送層等の多層構造の有機EL層を配置し、更に透光性で且つ陰極となる上部電極を積層した構成としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明はAl又はAl合金から構成され陽極となる下部電極に接してV25層からなるホール注入層を積層した構成としたことにより、
(1)V25層から有機層、電子注入層、上部電極まで真空中で一貫して形成できるので各層の接合部を清浄に保持でき、電圧印加により移動する界面イオン等が少ないため閾値の変化が発生しない。
(2)閾値電圧や発光開始電圧が長期的に安定し、発光特性の優れた長寿命の有機EL表示装置を可能にした。
(3)輝度ムラの発生が抑制される。
(4)下部電極の光反射率を最大限に確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態につき、実施例の図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1乃至図3は、本発明の有機EL表示装置の一実施例の概略構造を説明する模式図で、図1は光出射方向に平行方向の断面図、図2は図1の発光素子側の断面図、図3は有機EL層の拡大断面図である。図1乃至図3において、参照符号1は封止基板、2は素子基板、3はシール材、4は乾燥材、5は発光素子部、51は有機EL層、52は反射特性を持つ下部電極、53は透光性を有する上部電極、54は突堤状のバンク、6はV25層、7は封止空間である。
【0017】
前記封止基板1は透光性を有する例えばガラス材から構成され、その詳細は後述する素子基板2とシール材3を介して接合し、これら両基板1,2及びシール材3で囲まれた領域を封止空間7としている。前記封止基板1は透明な乾燥材4を内表面1aに保持し封止空間7内の水分を収容する構成となっている。又、前記封止基板1と接合する素子基板2は、前記封止基板1と対向する部位に発光部を含む表示素子部5を備えている。
【0018】
この素子基板2は、図2に一例の詳細を示すように、主面に窒化シリコンSiN膜21、酸化シリコンSiO2膜22を成膜した透明なガラスを好適とする基板であり、前記したTFT基板となるものである。この酸化シリコンSiO2膜22の上のスイッチング素子領域に半導体膜23がパターン形成されている。半導体膜23を覆ってゲート絶縁膜24が形成され、ゲート絶縁膜24の上にゲート25がパターニングされ、さらにその上を覆って絶縁性の平坦化膜26が成膜されている。配線27はスイッチング素子のドレイン電極となるスイッチング素子間の配線(スイッチ間配線、信号配線、ドレイン配線)、又、配線28はソース電極でかつスイッチング素子間の配線兼シールド部材(スイッチ間配線兼シールド部材)を示し、平坦化膜26とゲート絶縁膜24を貫通するコンタクトホールを通して半導体膜23に接続されている。スイッチ間配線27とスイッチ間配線兼シールド部材28を覆って絶縁膜29が成膜されている。30はTFT基板である。
【0019】
このTFT基板30上に下部電極52、V25層6、このV25層6を含む多層構造の有機EL膜51、上部電極53及び画素分離突起のバンク54がそれぞれ配置されている。
【0020】
先ず、Al又はAl合金からなり画素電極となる平板状の下部電極52はその一端側52aを前記絶縁膜29に設けたコンタクトホールを通してスイッチ間配線兼シールド部材28に接続し、他端側52bを隣接するTFT素子(図示せず)側へ延在配置している。この下部電極52は前記発光素子部5の一部を構成し、陽極として機能する。
【0021】
この下部電極52の一部を覆って突堤状のバンク54が積層されている。このバンク54は例えば酸化シリコン膜や窒化シリコン膜等の無機絶縁材料で構成されて前記下部電極52の中央部分52cを除く前記一端側52a及び他端側52bの先端部分を覆う配置となっている。このバンク54で区画された下部電極52の中央部分52cに対応する発光部位が発光エリア8を形成する。この発光エリア8はバンク54によって分離されている。
【0022】
一方、前記下部電極52の前記バンク54で区画され表面が露呈した前記中央部分52c部分を覆って前記V25層6が配置されている。このV25層6は前記バンク54を乗り越えて図示しない隣接する画素単位まで共通に配置されている。
【0023】
このV25層6は蒸着によって形成することが出来、その膜厚は1nm乃至30nmが実用的である。又、膜厚が5nm〜10nmであればより効果的である。この膜厚が1nm未満では下部電極が陽極として機能しない恐れがあり、又30nmを超えると反射特性及び導通特性の低下の恐れがある。
【0024】
又、Al又はAl合金からなる下部電極52上にV25層6を被着した構成では、AlとV25との仕事関数差だけ閾値電圧がやや高くなる傾向にある。しかしながら、閾値電圧の経時変化が少なく、結果的に制御が容易となる特徴を備えている。
【0025】
このV25層6を覆い、このV25層6をホール注入層とする有機EL層51及び共通電極であるIZO膜からなる透光性の上部電極53をそれぞれ積層した構成となっている。この上部電極53は陰極として機能する。
【0026】
ここで、前記V25層6から上部電極53までの形成は、一貫して真空中で行い、大気に曝す事無く実施できる。
【0027】
前記一貫して形成できることは、異物の付着を回避できることは勿論のこと、界面が汚染されていないので、発光開始電圧の上昇を回避でき、長寿命化に寄与できる。
【0028】
前記V25層6をホール注入層とする有機EL層51はその一例の詳細を図3に示す。図3に示す有機EL層51は、下部電極52に接してホール注入層としてV25層6が配置され、その上に順次ホール輸送層51a、発光層51b、電子輸送層51c、電子注入層51dがそれぞれ積層され、最上層には上部電極53が共通電極として形成されている。
【0029】
上記構成で、前記上部電極53は透光性を備えた構成で陰極として機能し、画素電極の下部電極52は反射特性を備えて陽極として機能する。
【0030】
前記上部電極53は透光性を備えた構成で陰極として機能するが、前述したIZOに代えて他の透明な導電物質であっても良い。又、この上部電極53は、発光層から出射した光の反射を抑制するため、光の反射率の低い材料から構成されることが望ましい。
【0031】
一方、下部電極52は特性向上のためAl単体ではなく、例えばAl/Nd合金やAl/Si合金等のAl合金を用いることも可能である。
【0032】
発光層51bは、陰極である透明な上部電極53と陽極である下部電極52との間に所定の電圧が印加されたとき,所望の色で発光する材料を用いる。
【0033】
発光層51bの材料としては、赤色発光用として、例えば発光層はAlq3(トリス(8−キノリノレート)アルミニウム)に、DCM−1(4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン)を分散したもの、緑色発光用として、例えばAlq3,Bebq,キナクリドンでドーピングしたAlq3、青色発光用として、例えばDPVBi(4,4'−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル)や、これとBCzVBi(4,4'−ビス(2−カルバゾールビニレン)ビフェニル)からなる材料、或いはジスチリルアリレーン誘導体をホストとし、ジスチリルアミン誘導体をゲストとしてドーピングしたものを用いることができる。
【0034】
又、それぞれの発光層51bにおいて、ホール輸送層51aはα−NPD(N,N'−ジ(α−ナフチル)−N,N'−ジフェニル1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン)や、トリフェニルジアミン誘導体TPD(N,N'−ビス(3−メチルフェニル)1,1'−ビフェニル−4,4'−ジアミン)、電子輸送層51cはAlq3を用いることができる。更に、上記低分子系の材料の他にポリマー系の材料を用いることもできる。
【0035】
このような構成の有機EL層51を備えた有機EL素子では,陽極である下部電極52と陰極である上部電極53とに直流電源を接続し、両電極間に直流電圧を印加すると、下部電極52から注入されたホールと、上部電極53から注入された電子がそれぞれ発光層に到達し,電子−ホールの再結合が生じ所定の波長の発光が生じるものである。
【実施例2】
【0036】
図4は本発明の有機EL表示装置の他の実施例の概略構造を説明する発光素子側の模式断面図で、前述した図と同じ部分には同一記号を付してある。図4に示す実施例2においては、V25層6を含む有機EL層51をバンク54で画素単位毎に区画した構成を特徴としている。その他の構成は図1乃至図3と同一である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の有機EL表示装置の一実施例の概略構造を説明する模式断面図である。
【図2】図1の発光素子側の模式断面図である。
【図3】有機EL層の模式拡大断面図である。
【図4】本発明の有機EL表示装置の他の実施例を説明する模式断面図である。
【図5】従来の有機EL表示装置の概略構造を説明する模式断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1・・・封止基板、2・・・素子基板、3・・・シール材、4・・・乾燥材、5・・・発光素子部、6・・・V25層、7・・・封止空間、8・・・発光エリア、21・・・SiN膜、22・・・SiO2膜、23・・・半導体膜、24・・・ゲート絶縁膜、25・・・セカンドゲート、26・・・平坦化膜、27、28・・・スイッチング素子間の配線、29・・・絶縁膜、30・・・絶縁基板(TFT基板)、51・・・有機EL層、52・・・下部電極、53・・・上部電極、54・・・バンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子基板の主面に配置されたAl又はAl合金からなる下部電極と、この下部電極上に配置された多層構造の有機EL層と、この有機EL層の上層に配置された透光性の上部電極と、前記素子基板と対向配置された封止基板とを備え、前記上部電極側から光を放出する有機EL表示装置であって、
前記多層構造の有機EL層は前記下部電極に接してV25層からなるホール注入層を備えた構成としたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記V25層の膜厚が1nm乃至30nmであることを特徴とする前記請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記有機EL層は前記ホール注入層上にホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層がこの順序で積層された構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記下部電極は陽極であり、上部電極は陰極であることを特徴とする前記請求項1乃至3の何れかに記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記下部電極は画素単位に分離されていることを特徴とする前記請求項1乃至4の何れかに記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記有機EL層は発光層を含み、前記発光層は画素電極間を絶縁する絶縁膜上で分離されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−218470(P2008−218470A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49658(P2007−49658)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】