説明

有機EL装置、電子機器

【課題】機械的強度が強く、電気的特性に優れた有機EL装置を提供する。
【解決手段】本発明の有機EL装置1は、第1基材10Aと、第1基材10A上に設けられた回路層64と、回路層64上に設けられた複数の有機EL素子60と、複数の有機EL素子60を封止する薄膜封止層66と、を有する第1基板10を備えた有機ELパネル2を有し、回路層64は、複数の有機EL素子60と接続された複数の駆動素子15を含み、薄膜封止層66は、回路層64上に形成された樹脂層68と、樹脂層68の上方を覆って回路層64と接触する無機ガスバリア層69と、を含み、第1基材10Aはガラス基板で構成されており、第1基材10Aの厚みが20μm以上50μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置、電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置は薄型、軽量な自発光素子として、携帯電話機やパーソナルコンピュータ、車載用モニター等への応用が期待されている。最近では、高耐熱性のガラス基板を50μm〜100μm程度まで薄型化し、周辺駆動回路を内蔵したフレキシブルで高機能な有機EL装置の開発も進められている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このような薄型のガラス基板を用いた有機EL装置は、機械的な衝撃に弱く、厚みも薄いため取り扱い性が難しいという問題があった。特許文献2では、類似の構造を有する液晶装置において、薄型ガラス基板を用いた液晶パネルを0.3mmの厚い偏光板で補強し、これらをラミネートフィルムで挟んで一体化した構造が提案されている(特許文献2の図7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−58489号公報
【特許文献2】特許第4131639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような有機EL装置は、ガラス基板が薄すぎると、ディンプルやピットと呼ばれる欠陥が顕在化し、また、ラミネートフィルムで液晶パネルを挟むときの圧力によってガラス基板が割れやすくなる。
【0006】
一方、ガラス基板が厚すぎると、十分な可撓性を付与できなくなり、フレキシブル性が得られなくなると共に、有機ELパネルを発光させたときの熱によって、ガラス基板が変形しにくくなり、有機EL素子を駆動する駆動素子に悪影響を与える場合がある。
【0007】
すなわち、薄型のガラス基板を用いた有機ELパネルでは、TFT等の駆動素子が形成された回路層上に有機EL素子を形成し、その上に有機EL素子を封止する薄膜封止層を形成する構造が知られているが、薄膜封止層は、基板表面を平坦化する平坦化樹脂層と、平坦化樹脂層の表面に形成された無機ガスバリア層によって形成されており、発光時の熱によって、平坦化樹脂層が膨張し、回路層に形成された駆動素子を圧迫するのである。
【0008】
薄型のガラス基板を用いた場合には、このような駆動素子に加わる圧力をガラス基板が撓むことで緩和することができるが、ガラス基板の可撓性が低くなると、このような効果が得られにくくなり、駆動素子が破壊されたり、駆動素子の電気的特性が劣化してしまう惧れがあった。特に、ラミネートフィルムで覆われた有機ELパネルは、発光時の熱がこもり易いので、通常の有機ELパネルに比べて、熱膨張の影響が大きく、特別の配慮が必要となる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、機械的強度が強く、電気的特性に優れた有機EL装置、電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の有機EL装置は、第1基材と、前記第1基材上に設けられた回路層と、前記回路層上に設けられた複数の有機EL素子と、前記複数の有機EL素子を封止する薄膜封止層と、を有する第1基板を備えた有機ELパネルを有し、前記回路層は、前記複数の有機EL素子と接続された複数の駆動素子を含み、前記薄膜封止層は、前記回路層上に形成された樹脂層と、前記樹脂層の上方を覆って前記回路層と接触する無機ガスバリア層と、を含み、前記第1基材はガラス基板で構成されており、前記第1基材の厚みが20μm以上50μm以下であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、有機ELパネルの第1基板の基材として、厚みが20μm以上50μm以下のガラス基板を用いているため、プラスチックフィルム等の樹脂基板と同等の高い可撓性を付与しつつ、発光時の樹脂層の熱膨張によって駆動素子に加わる圧力を緩和し、駆動素子の電気的特性を安定化させることが可能な有機EL装置が提供できる。
【0012】
すなわち、第1基材の厚みが20μmよりも薄くなると、ディンプルやピットと呼ばれる欠陥が多くなり、発光欠陥が顕著になる。また、50μmよりも厚くなると、十分な可撓性を付与できなくなると共に、第1基材上に形成された種々の樹脂層、例えば有機EL素子を覆う平坦化樹脂層や、第2基板との間に充填される封止樹脂層等が、発光時の熱によって膨張し、有機EL素子を駆動する駆動素子を圧迫する惧れがある。しかし、20μm以上50μm以下の厚みでは、発光欠陥が1個以下となり、殆ど欠陥のない優れた発光特性が得られており、高歩留まりな有機EL装置を提供することが可能である。
【0013】
本発明の有機EL装置においては、前記有機ELパネルは、前記複数の有機EL素子の上方を覆う封止樹脂層と、前記封止樹脂層を介して前記第1基板と接着された第2基板と、を有し、前記第2基板は、厚みが20μm以上50μm以下のガラス基板からなる第2基材を含むことが望ましい。
【0014】
この構成によれば、第2基材として透湿性が低く優れた耐熱性を有するガラス基板を用いながら、プラスチックフィルム等の樹脂基板と同等の高い可撓性を付与することができる。また、平坦化樹脂層や封止樹脂層の熱膨張による影響を第1基板だけでなく第2基板でも緩和することができる。そのため、さらに電気的特性に優れた有機EL装置が提供できる。
【0015】
本発明の有機EL装置においては、前記有機ELパネルを挟み込むように配置され、前記有機ELパネルに直接又は接着剤層を介して密着しこれを内部に封入する、少なくとも一方が透明な一対の可撓性のフィルムシートをさらに有することが望ましい。
【0016】
この構成によれば、機械的強度が高く、封止性能に優れた有機EL装置が提供できる。この場合、第1基材の厚みが薄過ぎると、有機ELパネルを一対のフィルムシートで挟み込む際の圧力によって第1基材に割れ等が発生する惧れがあるが、本発明の有機EL装置では第1基材の厚みが20μm以上50μm以下であるので、このような圧力によって殆ど割れが発生せず、高歩留まりな有機EL装置が提供できる。
【0017】
また、一対のフィルムシートの間に有機ELパネルを封入する構成では、発光時の熱が外部に放出されにくくなり、有機ELパネルの温度が100℃近くにまで上昇することがあるが、このような場合でも、第1基材の厚みを20μm以上50μm以下とすれば、発光時の樹脂層の熱膨張によって駆動素子に加わる圧力を緩和し、駆動素子の電気的特性を安定化させることが可能な有機EL装置が提供できる。
【0018】
本発明の電子機器は、上述した本発明の有機EL装置を備えていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、機械的強度が強く、電気的特性に優れた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機EL装置の分解斜視図である。
【図2】有機EL装置の平面図である。
【図3】図2のA−A′線に沿う断面図である。
【図4】有機ELパネルの詳細構成を示す有機EL装置の断面図である。
【図5】有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図6】有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図7】有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図8】有機EL装置の製造方法の説明図である。
【図9】発光時の熱膨張によって有機ELパネルが変形する様子を示す模式図である。
【図10】表示部の温度と基板の変形量との関係を示す図である。
【図11】基材の厚みと発光欠陥の発生数との関係を示す図である。
【図12】本発明の電子機器の一例であるブック型ディスプレイの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。かかる実施の形態は本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではない。下記の実施形態において、各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0022】
なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定して、各部材の位置関係を説明する。この際、水平面内における所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。本実施形態の場合、X軸方向を走査線の延在方向、Y軸方向をデータ線の延在方向、Z軸方向を観察者による有機ELパネルの観察方向としている。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る有機EL装置1の分解斜視図である。有機EL装置1は、有機ELパネル2と、有機ELパネル2の端部に接続された配線基板3(3A,3B,3C)と、有機ELパネル2と配線基板3とを間に挟み込んで一体に保持する封止体4(第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4B)と、を備えている。なお、有機EL装置1には、フレームその他の付帯機器が必要に応じて付設されるが、図1ではそれらの図示は省略している。
【0024】
有機ELパネル2は、互いに対向する第1基板10と第2基板20とを備えている。第1基板10と第2基板20とが対向する対向領域の周縁部には、平面視矩形枠状のシール材30が設けられている。第1基板10と第2基板20とはシール材30によって互いに接着されている。第1基板10、第2基板20及びシール材30によって囲まれる空間(セルギャップ)には、封止樹脂が封入されている。
【0025】
シール材30の内側には表示領域Adが設けられている。表示領域Adには、X軸方向に延びる複数の走査線12とY軸方向に延びる複数のデータ線11とが平面視格子状に設けられている。走査線12とデータ線11との交差部には、赤色、緑色又は青色のいずれかの色に対応したサブ画素が設けられている。各サブ画素には有機EL素子が形成されており、赤色、緑色、青色のいずれかの光を発するようになっている。第1基板10上には、このようなサブ画素がマトリクス状に配置されており、これら複数のサブ画素によって表示領域Adが形成されている。それぞれのサブ画素にはTFT(Thin Film Transistor)等の画素スイッチング素子(駆動素子)が設けられているが、図1ではそれらの図示は省略している。
【0026】
表示領域Adとシール材30との間には、走査線駆動回路13A,13Bが設けられている。走査線駆動回路13A,13Bは、表示領域AdのX方向両側に1つずつ設けられている。走査線駆動回路13A,13Bは、Y方向に沿って形成され、表示領域AdからX方向に延在された複数の走査線12が、一走査線12毎に、左右のいずれかの走査線駆動回路13A,13Bのいずれかと接続されている。走査線駆動回路13A,13Bは、表示領域Adに設けられた画素スイッチング素子と共に、低温ポリシリコン技術を用いて第1基板10上に一体に形成されている。
【0027】
第1基板10には、第2基板20の外側へ張り出す張出し部10cが設けられている。張出し部10cには、各々が複数の外部端子からなる複数の端子部19A,19B,19Cが設けられている。端子部19A,19B,19Cのうち張出し部10cの中央部に設けられた端子部19Aは、各々がデータ線11と接続された複数の外部端子を含み、その左右両側に設けられた端子部19B,19Cは、それぞれ一対の走査線駆動回路13A,13Bのいずれかと接続された複数の外部端子を含んでいる。
【0028】
それぞれの端子部19A,19B,19Cには、接着剤7A,7B,7Cを介して複数の配線基板3A,3B,3Cのいずれかが接続されている。端子部19Aに接続された配線基板3Aにはデータ線駆動回路である半導体チップ6が実装されている。接着剤7A,7B,7Cは、ACF(Anisotropic Conductive Film;異方性導電膜)等の導電性の接着剤が用いられるが、配線基板3A,3B,3Cの外部端子と端子部19A,19B,19Cの外部端子の一方又は双方を突起状に形成し、両者を直接接触させて導通させる場合には、NCF(Non-Conductive Film;非導電膜)等の絶縁性の接着剤を用いることもできる。突起状の端子としては、特開2006ー196570号公報に記載されているような、突起状に形成された樹脂コアの表面を導電膜で覆ったバンプ電極を好適に用いることができる。
【0029】
なお、NCFを用いる場合には、NCFとして透光性のものを用いれば、配線基板3A,3B,3Cの外部端子と端子部19A,19B,19Cの外部端子とをアライメントする際に、配線基板3A,3B,3Cの外部端子と端子部19A,19B,19Cの外部端子との平面的な重なり具合を直接確認できるためアライメントが容易になり、また精度も向上することができる。
【0030】
有機ELパネル2の外面側には、有機ELパネル2と密着してこれを内部に封入する可撓性の封止体4が設けられている。封止体4は、有機ELパネル2と配線基板3A,3B,3Cとを挟み込むように配置された一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bを備えている。一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bのうち、少なくとも観察側に配置された第1可撓性シート部材4Aは透明な材料で構成されている。
【0031】
第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bは、一面側に接着剤層42A,42Bが形成された可撓性のフィルムシート41A,41Bによって構成されている。接着剤層42A,42Bを構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂等の種々の材料を用いることができるが、本実施形態では、熱可塑性樹脂を用いることとする。熱可塑性樹脂からなる接着剤層を備えたフィルムシートは、一般にラミネートフィルムと呼ばれている。
【0032】
第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bは、それぞれ有機ELパネル2よりも広い面積で形成されている。第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bは、配線基板3A,3B,3Cの端子部19A,19B,19Cと接続された側とは反対側の端部(半導体チップ6が実装された部分を含む)を外部に露出させた状態で、有機ELパネル2の外側となる周縁部で接着剤層42A,42Bによって互いに接着されている。
【0033】
また、有機ELパネル2の周縁部に位置する配線基板3A,3B,3Cの表裏両面、すなわち第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと対向する面には、それぞれ接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cが設けられている。そして、配線基板3A,3B,3Cに設けられた接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cと、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bに設けられた接着剤層42A,42Bと、を用いて、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと配線基板3A,3B,3Cとが互いに接着されている。接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂等の種々の材料を用いることができるが、本実施形態では、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることとする。
【0034】
図2は有機EL装置1の平面図である。第1可撓性シート部材4A側から見て有機ELパネル2の周縁部には、第1可撓性シート部材4A(接着剤層42A)と第2可撓性シート部材4B(接着剤層42B)との接着部71と、第1可撓性シート部材4A(接着剤層42A)と配線基板3A,3B,3C(接着剤層8A,8B,8C)との接着部72とが、有機ELパネル2の外周を構成する4つの辺に沿って隙間無く連続的に形成されている。また、第2可撓性シート部材4B側から見て有機ELパネル2の周縁部には、第2可撓性シート部材4B(接着剤層42B)と配線基板3A,3B,3C(接着剤層9A,9B,9C)との接着部が接着部72と重なる位置に設けられている。さらに、接着部71,72とシール材30とにより囲まれる空間には第3封止樹脂層43が封入され、当該空間が封止されている。そして、このような構成により、有機ELパネル2が一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの内部、すなわち封止体4の内部に気密に封入されている。
【0035】
図3は図2のA−A′線に沿う断面図である。有機ELパネル2の第2基板20の主面と第1基板10の主面には、それぞれ第1可撓性シート部材4Aと第2可撓性シート部材4Bとが密着して配置されている。第1可撓性シート部材4Aと第2可撓性シート部材4Bは、有機ELパネル2の端部で湾曲し、直接又は配線基板3Aを介して密着している。第1可撓性シート部材4Aと第2可撓性シート部材4Bとが密着する部分は、接着剤層42Aと接着剤層42Bとにより接着され、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと配線基板3Aとが密着する部分は、接着剤層42A,42Bと接着剤層8A,9Aとにより接着されている。
【0036】
有機ELパネル2の端部には、有機ELパネル2と配線基板3Aとの間の段差や、それらの端部形状に起因して生じた隙間4Hが形成されている。このような隙間4Hには、第1封止樹脂層43が設けられている。第1封止樹脂層43は、第1基板10の端面、第2基板20の端面、及びシール材30の端面をそれぞれ覆って、第1基板10及び第2基板20の外周全体を取り囲むように設けられている。有機ELパネル2の外周部には、このような第1封止樹脂層43が隙間4Hを埋めるように設けられており、これにより、有機ELパネル2の端部が第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと配線基板3Aと封止樹脂層43とによって封止されるようになっている。
【0037】
また、第1可撓性シート部材4Aと第2可撓性シート部材4Bとの端面には、両者の境界部を覆って第2封止樹脂層44が設けられている。第2封止樹脂層44は、第1可撓性シート部材4Aと第2可撓性シート部材4Bとの境界部、及び第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと配線基板3Aとの境界部をそれぞれ覆って、封止体4の外周全体を取り囲むように設けられている。そして、第1封止樹脂層43と第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと配線基板3Aと協働して高い封止性能を実現している。
【0038】
封止樹脂層43,44は、例えば、一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bを加熱圧着したときに、接着剤層42A,42Bが軟化して形成されるように接着剤層42A,42Bの膜厚を設定するか、または、積極的に隙間4Hや第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの端面に封止樹脂を充填しても良い。例えば、有機ELパネル2を第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bで挟み込む際に、有機ELパネル2の端部に封止樹脂を配置し、一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bでその封止樹脂を押し広げることで、有機ELパネル2の端部及び第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの境界部に隙間なく封止樹脂層を配置することができる。
【0039】
図4は、有機EL装置1の詳細構成を示す断面図である。有機ELパネル2は、第1基板10と第2基板20とが対向して配置され、第1基板10と第2基板20とが接着層36を介して接着され一体化されたものである。
【0040】
第1基板10上には複数の有機EL素子60が形成されている。有機EL素子60は、陽極(画素電極)としての第1電極16と陰極(共通電極)としての第2電極18とにより、例えば白色の光を発生する有機発光層17を挟持した構成を有する。第1基板10上には、複数の有機EL素子60を覆うように薄膜封止層66が形成されている。
【0041】
有機EL素子60は、第1基板10上ではマトリクス状に規則的に配列され表示領域Adを構成している。表示領域Lの外側の領域は非表示領域である。なお、有機EL素子60は、R(赤)、G(緑)、B(青)の3種類の有基材料を使い分けて3種類の有機EL素子、例えば赤色光を発生する有機EL素子、緑色光を発生する有機EL素子、青色光を発生する有機EL素子としても良い。
【0042】
第1基板10は、第1基材10Aを備えている。第1基材10Aは、ガラス基板やプラスチック基板等の絶縁性基板、或いは、ステンレス板やアルミ板等の導電性基板を用いることができる。第1基材10Aは厚みを薄くすることにより可撓性を付与されている。
【0043】
本実施形態では、低温ポリシリコン技術を用いて周辺駆動回路内蔵型の有機ELパネルを製造するので、第1基材10Aとして耐熱性の高いガラス基板を用いている。この場合、第1基材10Aの厚みは10μm以上100μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下、より好ましくは20μm以上40μm以下である。
【0044】
例えば、第1基材10Aの厚みが20μmよりも薄くなると、ディンプルやピットと呼ばれる欠陥が多くなり、発光欠陥が顕著になる。
【0045】
また、50μmよりも厚くなると、第1基材10Aに十分な可撓性を付与できなくなると共に、第1基材10A上に形成された種々の樹脂層、例えば有機EL素子60を覆う有機緩衝層68や、第2基板20との間に充填される第3封止樹脂層35等が、発光時の熱によって膨張し、有機EL素子60を駆動する画素スイッチング素子15を圧迫する惧れがある。
【0046】
50μmよりも薄いガラス基板を用いた場合には、画素スイッチング素子15に加わる圧力をガラス基板が撓むことで緩和することができるが、ガラス基板の可撓性が低くなると、このような効果が得られにくくなり、駆動素子が破壊されたり、駆動素子の電気的特性が劣化してしまう惧れがある。特に、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bで覆われた有機ELパネル2は発光時の熱がこもり易いので、通常の有機ELパネルに比べて、特別の配慮が必要となる。
【0047】
出願人は、このような第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bを用いた場合の特殊性に鑑み、ガラス基板の厚みと発光欠陥の発生数との関係を検討した。そして、ガラス基板の厚みが20μm以上50μm以下である場合に、特に良好な機械的強度と電気的特性が得られることが明らかになった。
【0048】
すなわち、ガラス基板の厚みが20μmよりも薄い場合には、ディンプル等の影響による発光欠陥が多くなり、50μmよりも厚くなると、TFT等の画素スイッチング素子15の破損や電気的特性の劣化が生じ、20μm以上50μm以下の厚みでは、発光欠陥が1個以下となり、殆ど欠陥のない優れた発光特性が得られた。また、上記の厚みにおいては、有機ELパネル2を一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bに挟み込む際の圧力によって殆ど割れが発生せず、高歩留まりな有機EL装置1が提供できた。
【0049】
以上のように、20μm以上50μm以下の厚みのガラス基板を用いることで、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bを用いた場合のように、発光時の熱の影響が顕著になる有機EL装置1においても良好な機械的強度と優れた電気的特性が得られるようになる。
【0050】
第1基材10A上には、無機絶縁層14と樹脂平坦化層63とからなる回路層64が形成されている。無機絶縁層14は、例えば酸化珪素(SiO)や窒化珪素(SiN)等の珪素化合物により形成されている。無機絶縁層14上には、複数の有機EL素子60に1対1で対応する複数の薄膜トランジスタ(TFT)からなる画素スイッチング素子15と、有機EL素子60の第2電極18と接続される第2電極接続配線18Aとが形成されている。また、図1に示した走査線12、データ線12、走査線駆動回路13A,13Bや、第1電極16に電流を供給する電源線等もこの層に形成されている。
【0051】
無機絶縁層14上には、Al(アルミニウム)合金等からなる金属反射層62が内装された樹脂平坦化層63が形成されている。樹脂平坦化層63は、絶縁性の樹脂材料、例えば感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂等により形成されている。
【0052】
樹脂平坦化層63上の金属反射層62と平面的に重なる領域には、有機EL素子60の第1電極16(画素電極)が形成されている。第1電極16は、正孔注入性の高いITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物により形成されている。第1電極16は、樹脂平坦化層63及び無機絶縁層14を貫通するコンタクトホール(図示略)を介して、第1基材10A上の画素スイッチング素子15に接続されている。
【0053】
樹脂平坦化層63上(回路層64上)には、有機EL素子60を区画するために、例えばアクリル樹脂等からなる絶縁性の隔壁層61が形成されている。隔壁層61は、第1電極16の上部を露出させる複数の開口部61Hを有している。
【0054】
開口部61Hと隔壁層61による凹凸形状に沿って、隔壁層61及び第1電極16の上面を覆うように有機発光層17が形成されている。
【0055】
有機発光層17は、電界により注入された正孔と電子との再結合により励起して発光する発光層を含むものである。有機発光層17は、発光層以外の層をも含む多層構造とすることも可能である。発光層以外の層としては、正孔を注入し易くするための正孔注入層、注入された正孔を発光層へ輸送し易くするための正孔輸送層、電子を注入し易くするための電子注入層、注入された電子を発光層へ輸送し易くするための電子輸送層等、上記の再結合に寄与する層が挙げられる。
【0056】
有機発光層17の発光層としては、低分子系有機EL材料あるいは高分子系有機EL材料が挙げられる。
【0057】
低分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に低いものである。また、高分子系有機EL材料は、正孔と電子との再結合により励起して発光する有機化合物のうち、分子量が比較的に高いものである。
【0058】
これら低分子系有機EL材料あるいは高分子系有機EL材料は、有機EL素子60の発する色の光(白色光)に応じた物質となっている。発光層における再結合に寄与する層の材料は、この層に接する層の材料に応じた物質となっている。
【0059】
有機発光層17上には、有機発光層17をその凹凸形状に沿って覆うように、第2電極18が形成されている。第2電極18は、例えば有機発光層17へ電子を注入し易くするための電子注入バッファ層と、電子注入バッファ層上に形成された電気抵抗の小さい導電層とを有する。
【0060】
電子注入バッファ層は、例えば、LiF(フッ化リチウム)やCa(カルシウム)、MgAg(マグネシウム‐銀合金)により形成されている。また、導電層は、例えばITOやAl等の金属により形成された電気抵抗の小さい導電層である。導電層は表示領域Adの全面に形成されたものでなくても良く、例えば、MgとAgの合金からなる透明度の高い第1導電層を表示領域Adの全面に形成し、Al等からなる低抵抗で透明度の低い第2導電層を補助電極として隔壁層61と重なる部分にストライプ状に形成しても良い。
【0061】
第2電極18は、表示領域Adの周縁部(非表示領域)に形成されたAl等の無機導電膜からなる第2電極接続配線18Aと接続されている。第2電極接続配線18Aは、図示略の引き回し配線を介して端子部19B,19C(図1参照)と接続されている。第2電極接続配線18Aは、矩形に形成された表示領域Adの3辺(図1に示した端子部19Aが形成されていない辺)に沿って連続的に形成されている。
【0062】
第2電極17は、表示領域Adの全面を覆って、表示領域Adの周囲を囲む第2電極接続配線12に接続されている。また、第2電極17は、隔壁層61のうち、特に最外周を形成する部分、すなわち有機発光層17の最外周位置のものの外側部を覆った状態でこれを囲む部分(以下、囲み部材ともいう)の回路層64上で露出する部位全体を覆って形成されており、これにより、第2電極18が、前記囲み部材と共に、表示領域Adに設けられた複数の有機EL素子60の外側を封止している。特に、有機EL素子60は、無機絶縁層14上に形成され、第2電極18の外周部は無機絶縁層14と接触しているため、複数の有機EL素子60の底面、上面、側面の全てが無機膜で覆われることになり、高い封止性能が実現される。
【0063】
第2電極18上には、無機絶縁層14、樹脂平坦化層63及び有機EL素子60の第2電極18を覆う薄膜封止層66が形成されている。薄膜封止層66は、第2電極17の回路層64上で露出する部位全体を覆って無機絶縁層14と接する電極保護層67と、電極保護層67の少なくとも表示領域Adに形成された部分を覆う有機緩衝層(平坦化樹脂層)68と、有機緩衝層68の回路層64上で露出する部位全体を覆って、電極保護層67又は無機絶縁層14と接する無機ガスバリア層69とを備えている。
【0064】
電極保護層67は、無基材料、例えば、珪素酸窒化物(SiON)等の珪素化合物により構成されている。
【0065】
有機緩衝層68は、隔壁層61とその開口部61Hによる凹凸形状を埋めるように形成され、回路層64上の凹凸を平坦化している。また、無機ガスバリア層69に密着し、かつ機械的衝撃に対して緩衝機能を有する。有機緩衝層68を構成する材料としては、例えばエポキシ化合物等の透明性が高く、透湿性の低い樹脂を用いることができる。
【0066】
無機ガスバリア層69は、無基材料、特に、透光性、ガスバリア性、耐水性を考慮して、例えばSiON等により形成されている。
【0067】
薄膜封止層66は、第2電極17と共に、外部から有機EL素子へ水分や酸素が浸入しないようにするための封止部材として機能する。薄膜封止層66のうち無機ガスバリア層69は、有機緩衝層67によって平坦化された面に形成されており、電極保護層67に比べてステップカバレッジ性がよく、高い封止機能が得られる。特に、有機緩衝層68で機械的衝撃が緩和されるため、クラック等も生じにくく、長期にわたって優れた封止性能を維持することが可能である。
【0068】
また、無機ガスバリア層69は、直接又は無機膜である電極保護層67を介して無機絶縁層14と接しているため、無機ガスバリア層69と無機絶縁層14との界面から水分や酸素が浸入する惧れは少ない。そのため、同じく無機絶縁層14と接して形成される第2電極17と協働して極めて高い封止性能を実現することができる。
【0069】
第1基板10の薄膜封止層66が形成された面には、第2基板20が対向して配置されている。第2基板20は、接着層36を介して第1基板10上の薄膜封止層66と接着されている。
【0070】
第2基板20は、例えば透明ガラス基板または透明プラスチック基板等の光透過性を有する材料で構成された第2基材20Aを備えている。本実施形態では、第2基板20による封止性能を良好にするために、プラスチック基板に比べて透湿性の低いガラス基板を用い、これを薄くすることにより、可撓性を付与している。この場合、第2基材20Aの厚みは10μm以上100μm以下、好ましくは20μm以上50μm以下、より好ましくは20μm以上40μm以下である。
【0071】
第2基材20Aの第1基板10と対向する面には、カラーフィルタ層21が形成されている。カラーフィルタ層21は、赤色サブ画素、緑色サブ画素、青色サブ画素にそれぞれ対応して、赤色着色層22R、緑色着色層22G、青色着色層22Bがマトリクス状に規則的に配列された構成を有する。また、カラーフィルタ層21は、各着色層22R,22G,22Bの周囲を囲む位置に、より具体的には隔壁層61に対応する領域にブラックマトリクス層(遮光層)23を備えている。ブラックマトリクス層23を構成する材料としては、例えばCr(クロム)等を用いることができる。
【0072】
着色層22R,22G,22Bは、第1電極16上に形成された白色の有機発光層17に対向して平面的に重なるように配置されている。これにより、複数の有機発光層17から発せられた光は、それぞれに対応する着色層22R,22G,22Bを透過し、赤色光、緑色光、青色光の各色光として観察者側に出射されるようになっている。
【0073】
また、カラーフィルタ層21は、着色層22R,22G,22B及びブラックマトリクス層23上を覆うオーバーコート層24と、オーバーコート層24上を覆う無機ガスバリア層25とを備えている。
【0074】
オーバーコート層24は、表示領域Adの内側から非表示領域の周辺のシール材30の形成領域近傍まで延設されている。オーバーコート層24は、例えばアクリルやポリイミド等の樹脂材料により形成されている。無機ガスバリア層25は、無基材料、例えば、珪素酸窒化物(SiON)等の珪素化合物により形成されている。
【0075】
接着層36は、第2基板20の外周に沿って枠状に形成されたシール材30と、シール材30の枠内の領域に隙間なく充填された第3封止樹脂層35とにより構成されている。
【0076】
第3封止樹脂層35は、第1基板10と第2基板20との間に設けられて薄膜封止層66の少なくとも表示領域Adに対応する部位を覆うものである。第3封止樹脂層35の材料としては、例えばウレタン系樹脂やアクリル系樹脂に硬化剤としてイソシアネートを添加した低弾性樹脂を用いることができる。
【0077】
シール材30は、第1基板10と第2基板20との間に、第3封止樹脂層35を囲むように非表示領域に設けられたものである。シール材30の材料としては、水分透過率が低い材料、例えばエポキシ系樹脂に硬化剤として酸無水物を添加し、促進剤としてシランカップリング剤を添加した高接着性の接着剤を用いることができる。
【0078】
第1基材10Aと第2基材20Aの外面には、それぞれ第2可撓性シート部材4Bと第1可撓性シート部材4Aとが密着している。
【0079】
本実施形態の場合、薄膜封止層66の表面から第2基板20と密着する第1可撓性シート部材4Aの表面までの各部材の厚みの総和と、有機EL素子60の第1電極16が回路層64と接する部分から第1基板10と密着する第2可撓性シート部材4Bの表面までの各部材の厚みの総和と、が互いに等しくなるように設計されている。
【0080】
ここでいう「厚み」とは、サブ画素の中心部に位置する厚みをいい、サブ画素の中心部とは、個々の有機EL素子60において、第1電極16と有機発光層17と第2電極18とが第1基材10Aの法線方向(Z方向)から見て互いに重なる領域の中心部、すなわち有機EL素子60の発光領域の中心部を意味する。
【0081】
具体的には、第2可撓性シート部材4Bの厚みをW1、第1基材10Aの厚みをW2、回路層64の厚みをW3、第1可撓性シート部材4Aの厚みをW4、第2基材20Aの厚みをW5、カラーフィルタ層21の厚みをW6、カラーフィルタ層21と薄膜封止層66との間に介在する第3封止樹脂層35の厚みをW7とすると、W1とW2とW3の総和T1は、W4とW5とW6とW7との総和T2と等しくなるように設計されている。
【0082】
このようにした場合、回路層64上に形成された複数の有機EL素子60と、その表面に形成された薄膜封止層66とにより形成される発光素子部65が、有機ELパネル2と一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bとにより構成される表示体モジュールの厚み方向(Z方向)の略中央部に配置されことになる。そのため、表示体ジュールに曲げ方向の応力が加わった場合に、その応力が発光素子部65の上層側及び下層側に均一に分散され、発光素子部65自体に加わる応力は最小限に抑えられる。そのため、曲げに対して発光特性が変化しにくく、安定した発光特性を維持することができる。
【0083】
なお、各サブ画素の中心部に位置する各部材の「厚み」は、全てのサブ画素について均一に制御されるべきものであるが、製造誤差によりバラツキが生じる場合には、(ダミー画素の類を除外する意味で)実質的に表示に寄与する全てのサブ画素について厚みW1〜W7を測定し、その平均的な厚みを上記の厚みW1〜W7とすれば良い。この場合、「平均的な厚み」とは、単なる平均値だけではなく、統計的なバラツキを考慮して、バラツキの大きい部分、すなわち許容されたバラツキの範囲を超えた部分を除外した後の平均の厚みを上記のW1〜W7としても良いことは言うまでもない。
【0084】
図5〜図8は有機EL装置1の製造方法の説明図である。図5〜図8では、有機EL装置1の製造方法のうち、有機ELパネル2と配線基板3A,3B,3Cとを第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bで一体化する工程を中心に説明する。なお、以下の説明では、図1を参照しつつ説明を行う。
【0085】
まず、図5に示すように、ガラス基板を薄くして可撓性を付与した有機ELパネル2の端部に配線基板3A,3B,3Cを接続し、有機ELパネル2と配線基板3A,3B,3Cとの積層体を第1可撓性シート部材4Aと第2可撓性シート部材4Bとの間に配置する。薄型ガラス基板を用いた有機ELパネル2の作製方法は、特許文献1,2等に記載された公知の方法を用いることができる。
【0086】
次に、図6に示すように、前記積層体を有機ELパネル2の配線基板3A,3B,3Cが接続される側とは反対側の端部から一対の加圧ローラー81,82の間に挿入する。そして、第1可撓性シート部材4Aと第2可撓性シート部材4Bとの互いに対向する面に接着剤層42A,42B及び接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cを介在させ、配線基板3A,3B,3Cの一部(端子部19A,19B,19Cと接続された側とは反対側の端部)を第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの外部に露出させた状態で、一対の加圧ローラー81,82によって前記積層体を加熱しつつ加圧する。
【0087】
そして、接着剤層42A,42B及び接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cを第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと有機ELパネル2及び配線基板3A,3B,3Cとの間の隙間4H(図3参照)に押し広げて隙間4Hを封止すると共に、有機ELパネル2の周縁部で第1可撓性シート部材4Aと第2可撓性シート部材4Bとが対向する部分と、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと配線基板3A,3B,3Cとが対向する部分と、を接着剤層42A,42B及び接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cを用いて接着し、有機ELパネル2を第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの内部に封止する。
【0088】
また、この工程では、接着剤層42A,42B及び接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cの一部を第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの外部にはみ出させ、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの端面に、両者の境界部を封止する第2封止樹脂層44を形成する。
【0089】
図7は、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bを加圧ローラー81,82の搬送方向に沿って進行させ、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの配線基板3A,3B,3C側の端部まで接着した状態を示す図である。この状態において、有機ELパネル2の周縁部は、第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと配線基板3A,3B,3Cと接着剤層42A,42B及び接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cとにより、一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bの内部に気密に封入される。また、接着剤層42A,42B及び接着剤層8A,8B,8C,9A,9B,9Cの一部が流動して第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bと有機ELパネル2との間の隙間を埋めることにより、有機ELパネル2の周縁部が封止される。
【0090】
以上により、有機EL装置1が完成する。図6及び図7に示した封止工程が終了したら、図8に示すように、加圧ローラーを逆方向に回転し、搬入方向とは逆方向に有機EL装置1を取り出す。
【0091】
なお、上記の製造方法では、積層体を加圧する一対の加圧手段として、一対の加圧ローラー81,82を用いたが、加圧手段としてはこのようなものに限定されず、種々の加圧手段を用いることができる。例えば、平板状の加圧部材を前記積層体の両側に配置し、その間に前記積層体を挟んで加圧しても良い。また、加圧ローラー81,82で加熱しつつ加圧したのは、接着剤層42A,42B,8A,8B,8C,9A,9B,9Cとして熱可塑性又は熱硬化性の接着剤を用いたからであるが、接着剤層42A,42B,8A,8B,8C,9A,9B,9Cとして紫外線硬化型の接着剤層を用いた場合には、加熱処理は不要である。
【0092】
さらに、上記の製造方法では、予め接着剤層42A,42B,8A,8B,8C,9A,9B,9Cをフィルムシート41A,41Bや配線基板3A,3B,3Cに形成してから加圧処理をしたが、フィルムシート41A,41Bの間に接着剤を塗布し若しくは滴下しつつ、フィルムシート41A,41Bの貼り合せを行っても良い。フィルムシート41A,41Bと有機ELパネル2とを接着剤層42A,42Bを介さずに直接密着させることにより、明るい表示が可能となる。
【0093】
以上説明した本実施形態の有機EL装置1及びその製造方法によれば、有機ELパネル2の第1基板10及び第2基板20の基材10A,20Aとして、厚みが20μm以上50μm以下のガラス基板を用いているため、プラスチックフィルム等の樹脂基板と同等の高い可撓性を付与しつつ、一対の第1可撓性シート部材4A,第2可撓性シート部材4Bで有機ELパネル2を挟んだときの機械的衝撃に対しても割れにくく、さらに、発光時の平坦化樹脂層68や第3封止樹脂層35の熱膨張によって画素スイッチング素子15に加わる圧力を緩和し、画素スイッチング素子15の電気的特性を安定化させることが可能な有機EL装置1が提供できる。
【0094】
図9は、有機ELパネル2が発光したときの平坦化樹脂層68及び第3封止樹脂層35の熱膨張による応力が第1基材10A及び第2基材20Aの変形によって緩和されることを説明するための模式図である。図9では、説明に必要な構成のみを示し、図4に示した断面図よりも簡略化して記載している。
【0095】
図9において、第1基材10Aと第2基材20Aの厚みは20μm以上50μm以下である。この厚みのガラス基板は高い柔軟性(可撓性)を有し、平坦化樹脂層68や第3封止樹脂層35が発光時の熱によって膨張したときの回路層64に加わる応力を、自身が変形することによって緩和することができる。
【0096】
すなわち、有機ELパネル2が発光すると、その熱によって、有機ELパネル2の内部に含まれる種々の樹脂層、例えば、有機EL素子60を覆う平坦化樹脂層68や、第1基材10Aと第2基材20Aとの間に充填される第3封止樹脂層35等が、発光時の熱によって膨張し、回路層64を圧迫する。この圧力は、回路層64に含まれる画素スイッチング素子等の駆動素子を圧迫し、その電気的特性を劣化させる惧れがある。
【0097】
発光による熱が外部に容易に放出される構造であれば、有機ELパネル2の温度もそれほど高くはならないが、可撓性シート部材で有機ELパネルを覆う構造では、有機ELパネルに発生した熱が外部に放出されにくく、内部に蓄積されやすい。よって、平坦化樹脂層68や第3封止樹脂層35の熱膨張力も大きくなり、回路層64への圧力も大きくなる。
【0098】
本実施形態の有機EL装置では、基材10A,20Aの厚みが非常に薄くなっており、それにより高い柔軟性を有しているため、このような回路層64に加わる圧力は、基材10A,20Aが変形することで緩和することができる。よって、有機ELパネル2の内部に熱がこもり易くなっている構造にも拘わらず、駆動素子の電気的特性の劣化が生じにくく、長時間発光を行っても安定した表示特性が得られるようになる。
【0099】
図10は、発光時の表示部の温度と基材の変形量との関係を説明する説明図である。図10において、横軸は有機ELパネル表示部の温度であり、縦軸は有機ELパネルの表示部の厚み方向の変位量である。
【0100】
例えば、基材として、500μmの厚みのガラス基板を用いた場合、表示部の温度が100℃になっても有機ELパネルの厚みの変動は0.4μm程度であり、殆ど基材は変形しない。一方、基材として、40μmの厚みのガラス基板を用いた場合には、表示部の温度が100℃になったときに有機ELパネルの厚みの変動は4μmであり、基材が大きく変形していることがわかる。
【0101】
表示部の温度は表示部の発光輝度によって変動する。発光輝度が高くなると表示部の温度は高くなり、例えば、表示部の発光輝度を465cd/cmとしたときに、表示部の温度が100℃となる。465cd/cmという発光輝度は、車載用のディスプレイで必要とされるものであるが、このような発光輝度は、今後ますます高輝度化が要求されるパソコンのモニターや携帯用の電子ペーパー等でも十分に想定されるものでる。
【0102】
図11は、基材の厚みと発光欠陥の発生数との関係を示す図である。図11に示すように、基材の厚みが20μmよりも薄くなると、ディンプルやピットと呼ばれる欠陥が多くなり、発光欠陥が顕著になる。また、基材の厚みが50μmよりも厚くなると、基材上に形成された種々の樹脂層、例えば有機EL素子を覆う平坦化樹脂層や、第1基材と第2基材との間に充填される封止樹脂層等が、発光時の熱によって膨張し、有機EL素子を駆動する駆動素子を圧迫する。そのため、多数の発光欠陥が発生する。また、このように厚い基材を用いると、基材に十分な可撓性を付与できなくなり、有機ELパネルを一対の可撓性シート部材の間に挟みこむときの圧力によって基材が破損し易くなる。
【0103】
一方、基材の厚みが20μm以上50μm以下の領域では、発光欠陥が1個以下となり、殆ど欠陥のない優れた発光特性が得られており、また上記厚みにおいては、有機ELパネルを一対の可撓性シート部材に挟み込む際の圧力によって殆ど割れが発生せず、高い歩留まりを有する有機EL装置が提供できた。
【0104】
図12は、有機EL装置1(1A,1B)を備えた電子機器の一例であるブック型のディスプレイ1000の概略構成図である。図12(a)はディスプレイ1000の斜視図であり、図12(b)は電子ディスプレイのコネクター部の構成を示す概略断面図である。
【0105】
ディスプレイ1000は、有機EL装置1(1A,1B)を電子ペーパーとして用いたブック型のディスプレイである。このディスプレイ1000には、本の綴じ代に相当する部分に、電子ペーパー1A,1Bの配線基板3に接続可能なコネクター1002を備えたヒンジ部1001が設けられている。ヒンジ部1001には、コネクター1002が回転軸Axを中心に回転可能に取り付けられており、コネクター1002を回転させることにより、電子ペーパー1A,1Bを通常の紙をめくるようにめくれるようになっている。
【0106】
ヒンジ部1001には複数の電子ペーパー1A,1Bが着脱可能に接続されていても良い。これにより、ルーズリーフのように必要な枚数だけ電子ペーパーを着脱して持ち運べるようになる。
【0107】
なお、本発明の有機EL装置は、上述したブック型のディスプレイに限らず、種々の電子機器に搭載することができる。この電子機器としては例えば、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のディジタルビデオカメラ、カーナビゲーション装置、車載用ディスプレイ、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等があり、前記有機EL装置は、これらの表示手段として好適に用いることができる。さらに、本発明の有機EL装置は、表示デバイス以外のデバイス、例えば、プリンタヘッドの露光ヘッドの光源として用いることもできる。
【符号の説明】
【0108】
1…有機EL装置、2…有機ELパネル、4…封止体、4A,4B…可撓性シート部材、10…第1基板、10A…第1基材、15…画素スイッチング素子(駆動素子)、20…第2基板、20A…第2基材、35…第3封止樹脂層、41A,41B…フィルムシート、60…有機EL素子、64…回路層、66…薄膜封止層、68…有機緩衝層(平坦化樹脂層)、69…無機ガスバリア層、1000…ブック型ディスプレイ(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材と、前記第1基材上に設けられた回路層と、前記回路層上に設けられた複数の有機EL素子と、前記複数の有機EL素子を封止する薄膜封止層と、を有する第1基板を備えた有機ELパネルを有し、
前記回路層は、前記複数の有機EL素子と接続された複数の駆動素子を含み、
前記薄膜封止層は、前記回路層上に形成された樹脂層と、前記樹脂層の上方を覆って前記回路層と接触する無機ガスバリア層と、を含み、
前記第1基材はガラス基板で構成されており、前記第1基材の厚みが20μm以上50μm以下であることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記有機ELパネルは、前記複数の有機EL素子の上方を覆う封止樹脂層と、前記封止樹脂層を介して前記第1基板と接着された第2基板と、を有し、
前記第2基板は、厚みが20μm以上50μm以下のガラス基板からなる第2基材を含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記有機ELパネルを挟み込むように配置され、前記有機ELパネルに直接又は接着剤層を介して密着しこれを内部に封入する、少なくとも一方が透明な一対の可撓性のフィルムシートをさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機EL装置を備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−244694(P2010−244694A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88674(P2009−88674)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】