説明

有機EL装置の製造方法、電子機器

【課題】 レーザエッチングを利用して有機EL装置を製造する際における使用材料の節約及び製造プロセスの簡略化を達成し得る製造技術を提供すること。
【解決手段】 有機EL装置の製造方法であって、導電性を有する第1の膜(2)を形成する第1工程と、絶縁性を有する第2の膜(3)を第1の膜上に形成する第2工程と、第1の膜及び第2の膜をレーザエッチングによって整形することにより、第1の電極(2a)及び当該第1の電極の上面を覆う被膜(3a)を形成する第3工程と、被膜を第1の電極の外縁に沿った部分のみが残留するように整形する第4工程と、第1の電極を囲む隔壁(5)を形成する第5工程と、隔壁の内側であって第1の電極上に発光層(7)を形成する第6工程と、発光層上に第2の電極(8)を形成する第7工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一又は複数の有機EL(Electro Luminescence)素子を備える有機EL装置の製造方法及び当該有機EL装置を備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置は、従来の液晶表示装置等の平面型表示装置を超える性能を備える表示装置を実現するためのキーデバイスとして注目されている。この有機EL装置は、二の電極(陰極、陽極)の間に有機高分子等からなる発光層を介在させてなる有機EL素子を含んで構成されている。有機EL素子を構成する電極(特に陽極)は、スズドープ酸化インジウム(ITO)膜などの透明導電膜を用いて形成される場合が多い。かかる電極のパターニングには、従来はフォトリソグラフィ技術が利用されていた。しかし、フォトリソグラフィ技術には多くの機械設備や薬品等が必要となるため、近年では、コスト面や環境保護の点でより有利なレーザ照射によるパターニング(レーザエッチング)が注目されている。このレーザエッチングとは、レーザ光の照射によって加工対象物にアブレーションを生じさせることにより形状整形を行う加工技術である
【0003】
上述したレーザエッチングでは、加工領域周辺にデブリと呼ばれる飛散物が付着し、製品の品質を低下させる原因になるという不都合がある。このため、上記デブリの付着を防止するために様々な手法が提案されている。例えば、特開平8−187588号公報(特許文献1)には、被加工物の表面に有機薄膜を形成しておき、この有機薄膜を介して被加工物の所定領域にレーザ光を照射してアブレーション加工を行い、その後有機薄膜を除去する、という内容のレーザ加工方法が開示されている。この技術によれば、アブレーション加工により発生したデブリは有機薄膜の表面に付着するので、有機薄膜の除去によりデブリも共に除去される。
【0004】
【特許文献1】特開平8−187588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、有機薄膜は主として加工時におけるデブリの付着を防止する機能のみを担うものであり、アブレーション加工の後には除去する必要がある。このため、使用材料の節約や製造プロセスの簡略化といった観点からは更なる改良の余地が残されていた。
【0006】
そこで、本発明は、レーザエッチングを利用して有機EL装置を製造する際における使用材料の節約及び製造プロセスの簡略化を達成し得る製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様の本発明は、第1の電極と第2の電極との間に発光層を介在させてなる有機EL素子を有する有機EL装置の製造方法であって、導電性を有する第1の膜を形成する第1工程と、絶縁性を有する第2の膜を上記第1の膜上に形成する第2工程と、上記第1の膜及び上記第2の膜をレーザエッチングによって整形することにより、上記第1の電極及び当該第1の電極の上面を覆う被膜を形成する第3工程と、上記被膜を上記第1の電極の外縁に沿った部分のみが残留するように整形する第4工程と、上記第1の電極を囲む隔壁を形成する第5工程と、上記隔壁の内側であって上記第1の電極上に上記発光層を形成する第6工程と、上記発光層上に上記第2の電極を形成する第7工程と、を含む。
【0008】
かかる製造方法によれば、レーザエッチング時には第1の電極となるべき第1の膜が第2の膜によって覆われているので、レーザエッチングによって生じた飛散物(デブリ)が第1の電極に付着することがない。また、第2の膜は、その後更に整形して第1の電極の外縁近傍を覆う被膜とすることにより、例えば、隔壁と第1の電極との境界部において発光層等の成膜不良が生じた際における第1の電極と第2の電極との短絡を防止する機能を担うものとして流用することができる。したがって、レーザエッチングを利用して有機EL装置を製造する際における使用材料の節約及び製造プロセスの簡略化を達成することが可能となる。
【0009】
好ましくは、上記第1の膜及び上記第2の膜はともに透光性を有し、上記第2の膜の屈折率n2が上記第1の膜の屈折率n1よりも小さい。このような条件は、例えば、第1の膜をスズドープ酸化インジウムで構成し、第2の膜を酸化硅素又は窒化硅素で構成することによって実現し得る。
【0010】
これにより、第1の膜と第2の膜との界面におけるレーザ光の反射を抑制し、加工に要するエネルギーをより低下させることが可能となる。
【0011】
また、上記レーザエッチングに用いるレーザ光の波長をλとすると、上記第2の膜の膜厚は、(λ/n2)×(1/4)程度又はその奇数倍とされることが好ましい。
【0012】
このような膜厚調整を行うことにより、第1の膜と第2の膜との界面におけるレーザ光の反射をより効果的に抑制することが可能となる。
【0013】
第2の態様の本発明は、上記第1の態様の本発明にかかる製造方法によって製造される有機EL装置を備える電子機器である。ここで「電子機器」とは、電気回路や表示部などを備えた機器一般をいい、例えば、ICカード、携帯電話、ビデオカメラ、パーソナルコンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、テレビジョン装置、ファクシミリ、デジタルスチルカメラ、PDA、電子手帳等が該当する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の態様について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、一実施形態の有機EL装置の製造方法について説明する工程断面図である。本実施形態では、予め画素領域を有機材料などからなる隔壁(バンク)によって囲んでおき、この隔壁の内側に材料液体を滴下し、固化させることによって発光層等を形成する方法を利用した有機EL装置の製造方法について説明する。
【0016】
(第1の膜形成工程)
まず、所定の素子形成面上(本例ではガラス基板1の一方面上)に、導電材料を有する第1の膜2を形成する(図1(A))。具体的には、本実施形態では第1の膜2として、スパッタ法や蒸着法などの成膜方法を用いてITO(スズドープ酸化インジウム)膜などの透明導電膜を形成する。第1の膜2の膜厚は、例えば50〜100nm程度とする。
【0017】
(第2の膜形成工程)
次に、第1の膜2の上に、絶縁性を有する第2の膜3を形成する(図1(B))。ここで、本工程において形成される第2の膜3は、後工程においてレーザエッチングを行う関係上、使用するレーザ光の波長(例えば数百nm程度)に対してある程度の透光性を有することが望ましい。また、当該第2の膜3は、後に有機EL素子の構成要素の一つとして機能する関係上、絶縁性及び親液性を有することが望まれる。これらの要望を満たす第2の膜3として、本実施形態では、CVD法や塗布法などの成膜方法を用いて酸化硅素(SiO2)膜又は窒化硅素(SiN)膜などの絶縁膜を形成する。
【0018】
(レーザエッチング工程)
次に、第1の膜2及び第2の膜3をレーザエッチングによって整形することにより、第1の電極2a及び当該第1の電極2aの上面を覆う被膜3aを形成する(図1(C))。このレーザエッチングは、例えば以下のような条件で行われる。波長532nmのレーザ光を出射するレーザ発振器を用い、周波数が10kHzのときのパルスエネルギーが10μJとなるようにアッテネータで出力を調整する。焦点距離が100mmの平凸レンズと10倍のビームエクスパンダを用い、焦点位置のビームのスポット径が10μm程度となるようにする。また、パルス間のピッチが5μm程度となるように、ワーク(ガラス基板1等)を50mm/秒の速度で移動させる。このようなレーザ光を第1の膜2及び第2の膜3に対して照射することにより、レーザ光が照射された部分の第1の膜2及び第2の膜3にアブレーションが生じ、当該部分が同時に除去される。このとき、図示のように、レーザエッチングによって生じる飛散物(デブリ)4は被膜3aの上に付着することになり、飛散物4の第1の電極2への付着を回避できる。
【0019】
ここで、本実施形態では、第1の膜2及び第2の膜3はともに上記レーザ光の波長(532nm)をある程度透過させる性質(透光性)を有する。よって、照射されたレーザ光は第2の膜3をある程度透過して第1の膜2にも到達するので、第1の膜2と第2の膜3とはほぼ同時に加工される。このとき、第2の膜3の屈折率n2が第1の膜2の屈折率n1よりも小さいという関係(n1>n2)が満たされるようにしておくと、第1の膜2と第2の膜3との界面におけるレーザ光の反射を抑制し、加工をより効率よく行うことが可能となる。この点、本実施形態では、上記レーザ光の波長域における第1の膜2(ITO膜)の屈折率n1は2.1〜2.2程度であり、第2の膜3(酸化硅素膜又は窒化硅素膜)の屈折率n2は、1.46程度(酸化硅素膜の場合)又は2.0程度(窒化硅素膜の場合)であるため、上記の関係(n1>n2)が満たされている。これにより、加工に必要なレーザ光のエネルギーを低下させることが可能となる。したがって、低出力のレーザ発振器を用いて本工程を行うことが可能となり、製造コストの削減を図ることができる。また、レーザ光を複数のビームに分岐して複数箇所を同時に加工する場合においては、分岐後の各ビームのエネルギーが小さくて済むので、ビーム分岐数をより多くして1回のビーム走査による加工箇所を増やし、スループットを向上させることが可能となる。
【0020】
なお、本工程のレーザエッチングに用いるレーザ光の波長をλとすると、第2の膜3はその膜厚が(λ/n2)×(1/4)程度又はその奇数倍となるように形成されることが好ましい。例えば、第2の膜3として酸化硅素膜(n2=1.46)を選択し、レーザ光の波長λとして532nmを選択した場合には、第2の膜3の膜厚の好適値は、約90nm、270nm、…となる。かかる条件を満足することにより、レーザ光の反射が抑制され、レーザエッチング時のレーザ光の使用効率を更に向上させることが可能となる。
【0021】
(被膜整形工程)
次に、第1の電極2aを覆う被膜3aを当該第1の電極2aの外縁に沿った部分のみが残留するように整形する。本工程は周知のフォト・エッチング技術を用いて行われる。すなわち、レジスト膜を露光及び現像することにより、被膜3aの残留させたい部分を覆うエッチングマスクを形成し、当該エッチングマスクを介してエッチング(ドライ又はウェット)を行い、その後エッチングマスクを除去する。これにより、被膜3aが所望形状にパターニングされ、第1の電極2aの大部分が露出する。このとき、被膜3aの部分的除去に伴って、当該部分に付着していた飛散物4も同時に除去されるので、第1の電極2aの露出面は図示のように飛散物4の付着のない清浄な表面となる。また、本工程における整形後の被膜3aは、後述する隔壁5と第1の電極2aとの境界部における第1の電極2aと第2の電極8との短絡を防止する機能を担う。
【0022】
(隔壁形成工程)
次に、ガラス基板1の一方面上であって第1の電極2aの周囲に当該第1の電極2aを囲む隔壁5を形成する(図1(E))。本実施形態の隔壁5は、第1の電極2aの上側領域を露出させ、それ以外の領域を覆うように形成される。この隔壁5は、例えば以下のようにして形成できる。まず、ガラス基板1の一方面に第1の電極2a等を全て覆うようにして、感光性を有する樹脂材料を用いて樹脂膜を形成する。次に、フォトマスクを介して光(例えば、紫外線)を照射し、その後現像処理を行う。なお、樹脂材料としては、絶縁性を有するものであれば如何なるものも採用し得るが、例えばアクリル樹脂やポリイミド樹脂などの耐熱性及び耐溶媒性を備える樹脂が好適に用いられる。
【0023】
(親液化・撥液化処理工程)
次に、第1の電極2aの表面及び被膜3aの表面を親液性にし、隔壁5の表面を撥液性にするための処理を行う。具体的には、第1の電極2a及び被膜3aに対してO2プラズマ処理などの親液化処理を行った後、隔壁5の表面に対してCF4プラズマ処理などの撥液化処理を行うとよい。これらの処理によって、第1の電極2a及び被膜3aの各表面は親液性を示し、隔壁5の表面は弗素化されることにより撥液性を示すようになる。これにより、後述する発光層等の形成工程において液体吐出法を採用する場合に、液体材料のパターニングが良好となる。
【0024】
(発光層等の形成工程)
次に、隔壁5によって画定される空間の内側であって第1の電極2aの上側に、正孔輸送層6及び発光層7を形成する(図1(F))。本実施形態では、上述したように液滴吐出法(インクジェットプロセス)を採用して正孔輸送層6及び発光層7が形成される。具体的には、液滴吐出装置を用いて、正孔輸送層6又は発光層7を形成するための液体材料を隔壁5の内側に適量供給し、その後、乾燥処理又は熱処理によって固化させる。正孔輸送層6の構成材料としては、ポリエチレンジオキシチオフェンなどのポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸などの混合物や、芳香族アミン誘導体(TPD、α−TPD等)、MTDATA、銅フタロシアニン、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、フェニルアミン誘導体、などを例として挙げることができる。また、発光層7の構成材料としては、ポリフルオレン系高分子誘導体、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、などを例として挙げることができる。また、発光層7を赤色に発光させるには、ローダミン、DCMの誘導体、ナイルレッドなどを上記の発光層構成材料に添加するとよい。同様に、発光層を緑色に発光させるには、キナクリドン、クマリン6などを上記の発光層構成材料に添加するとよい。同様に、発光層を青色に発光させるには、ペリレン、テトラフェニルブタジエンなどを上記発光層構成材料に添加するとよい。
【0025】
(第2の電極等の形成工程)
次に、発光層7の上側に電子注入層(図示省略)及び第2の電極8を形成する(図1(F))。これらの電子注入層及び第2の電極8は、例えばスパッタ法や蒸着法などの成膜方法を用いて形成される。電子注入層としては、例えばCa、LiF、Mg、Sr、Ceなどの薄膜(例えば数nm程度)が挙げられる。また、第2の電極8は、導電性を有する膜であればよく、特にAl、Ag、Au、Mg、Mg−Ag合金などの金属膜が好適であるなお、トップエミッション構造を採用する場合には、第2の電極8としては、ITO膜などの透明導電膜を採用することが好適である。
【0026】
(封止工程)
その後、必要に応じて、上記各工程を経て得られた有機EL装置に封止処理を行う(図示省略)。例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中において、ガラス基板1の一方面側に封止基板を貼り付けることにより、封止がなされる。封止基板としては、例えば石英ガラス、硼酸塩ガラス、燐珪酸ガラス、珪酸塩ガラスなどの各種の透明なガラス材料からなる基板、又はポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの各種樹脂材料からなる基板を用いることができる。あるいは、封止基板に代えてこれと同等の組成を有する薄膜(封止膜)を形成してもよい。これらの封止基板等により、大気中の水分や酸素等の異物から有機EL素子を保護するガスバリア構造を実現できる。
【0027】
次に、上述した本実施形態にかかる製造方法を用いて製造される有機EL装置の具体例をより詳細に説明する。
【0028】
図2は、有機EL装置の配線構造の平面模式図である。図2に示す有機EL装置100は、複数の走査線101と、走査線に直交して配置される複数の信号線102と、信号線102に並列に延びる複数の電源線103と、各走査線101と各信号線102との交点付近にそれぞれ設けられる画素領域Aと、を含んで構成されている。すなわち、本例の有機EL装置100は、複数の画素がマトリクス状に配列されてなるアクティブマトリクス型の表示装置である。
【0029】
各走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路105が接続されている。また、各信号線には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路104が接続されている。各画素領域Aには、走査線101を介して走査信号がゲートに供給されるスイッチングトランジスタ112と、このスイッチングトランジスタ112を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量capと、この保持容量capによって保持された画素信号がゲートに供給される駆動用トランジスタ113と、この駆動用トランジスタ113を介して電源線103に電気的に接続されたときに当該電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(陽極)21と、この画素電極21と対向電極(陰極)25との間に挟み込まれた機能層110と、が設けられている。これらの画素電極21と対向電極25と機能層110によって発光素子(有機EL素子)が構成されている。なお、機能層110は正孔輸送層、発光層、電子注入層等からなる。
【0030】
この有機EL装置100では、走査線101が駆動されてスイッチングトランジスタ112がオン状態となると、そのときの信号線102の電位が保持容量capに保持され、この保持容量capの状態に応じて、駆動用トランジスタ113のオン/オフ状態が決まる。そして、駆動用トランジスタ113のチャネルを介して、電源線103から画素電極21に電流がながれ、さらに機能層110を介して陰極25に電流がながれる。機能層110は、この流れる電流量に応じて発光する。各機能層110の発光状態を制御することにより、所望の画像表示を行うことができる。
【0031】
図3は、図2に示した有機EL装置100の画素領域の構造を説明するための断面図であり、特に機能層110付近の構造をより詳細に示すものである。図3に示すように、有機EL装置100は、上述したスイッチングトランジスタ112等を構成するTFT(薄膜トランジスタ)や走査線101等を構成する配線が形成された駆動回路部10と、有機EL素子が形成された発光素子部20と、からなる。
【0032】
駆動回路部10は、有機EL用基板11と平坦化絶縁層13とを含んで構成されている。有機EL用基板11は、その一方面に有機EL素子を駆動するためのTFTや配線等が形成されている。このような基板としては、石英ガラス、硼酸塩ガラス、燐珪酸ガラス、珪酸塩ガラスなどの各種の透明なガラス材料からなる基板、又はポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの各種樹脂材料からなる基板、或いは、単結晶を含む各種セラミックス材料や各種金属材料などからなる基板を用いることができる。TFT12は、多結晶シリコン等からなる半導体膜15、ソース/ドレイン電極16、17、ゲート電極18、ゲート絶縁膜19を含んで構成されており、ゲート電極18への印加電圧に応じた電流を有機EL素子へ供給し、有機EL素子の発光制御を行う。平坦化絶縁層13は、有機EL用基板11上に設けられたTFT12や配線などの上側を平坦にし、発光素子部20の形成を容易にするために設けられるものである。当該機能を達成するために、平坦化絶縁層13は、例えば2μm〜5μm程度の厚さに形成される。この平坦化絶縁層13としては、SOG(spin on glass)膜やPSG(phospho silicate glass)膜などの無機膜を用いてもよく、ポリイミド樹脂膜やアクリル樹脂膜などの有機膜を用いてもよく、これらの積層膜を用いてもよい。この平坦化絶縁層13には、有機EL用基板11上に形成されたTFT12と、平坦化絶縁層13上に形成される発光素子部20との間を電気的に接続するためのコンタクトホール14が設けられている。
【0033】
発光素子部20は、陽極21、正孔輸送層23、発光層24、電子注入層(図示省略)、陰極25、被膜27及び隔壁28を含んで構成されている。この発光素子部20は、平坦化絶縁層13の上面を素子形成面として、上述した本実施形態にかかる製造方法(図1参照)を用いることによって形成されるものである。なお、発光素子部20の各構成要素の詳細については上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0034】
次に、上述した有機EL装置100を備えた電子機器の具体例について説明する。
【0035】
図4は、有機EL装置100を備えた電子機器の具体例を示す斜視図である。図4(A)は、電子機器の一例である携帯電話機を示す斜視図である。この携帯電話機1000は、本実施形態にかかる有機EL装置100を用いて構成された表示部1001を備えている。図4(B)は、電子機器の一例である腕時計を示す斜視図である。この腕時計1100は、本実施形態にかかる有機EL装置100を用いて構成された表示部1101を備えている。図4(C)は、電子機器の一例である携帯型情報処理装置1200を示す斜視図である。この携帯型情報処理装置1200は、キーボード等の入力部1201、演算手段や記憶手段などが格納された本体部1202、及び本実施形態にかかる有機EL装置100を用いて構成された表示部1203を備えている。
【0036】
このように本実施形態によれば、レーザエッチング時には第1の電極2aとなるべき第1の膜2が第2の膜3によって覆われているので、レーザエッチングによって生じた飛散物(デブリ)8が第1の電極2aに付着することがない。また、第2の膜3は、その後更に整形して第1の電極2aの外縁近傍を覆う被膜3aとすることにより、例えば、隔壁5と第1の電極2aとの境界部において発光層7等の成膜不良が生じた際における第1の電極2aと第2の電極8との短絡を防止する機能を担うものとして流用することができる。したがって、レーザエッチングを利用して有機EL装置を製造する際における使用材料の節約及び製造プロセスの簡略化を達成することが可能となる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施形態では発光層等の形成を液滴吐出法によって行っていたが、これ以外の方法(例えばマスク蒸着法)を採用してもよい。またこの場合には、親液化・撥液化処理工程を省略することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】一実施形態の有機EL装置の製造方法について説明する工程断面図である。
【図2】有機EL装置の配線構造の平面模式図である。
【図3】有機EL装置の画素領域の構造を説明するための断面図である。
【図4】有機EL装置を備えた電子機器の具体例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1…ガラス基板、2…第1の膜、2a…第1の電極、3…第2の膜、3a…被膜、4…飛散物(デブリ)、5…隔壁、6…正孔輸送層、7…発光層、8…第2の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極との間に発光層を介在させてなる有機EL素子を備える有機EL装置の製造方法であって、
導電性を有する第1の膜を形成する第1工程と、
前記第1の膜上に、絶縁性を有する第2の膜を形成する第2工程と、
前記第1の膜及び前記第2の膜をレーザエッチングによって整形することにより、前記第1の電極及び当該第1の電極の上面を覆う被膜を形成する第3工程と、
前記被膜を前記第1の電極の外縁に沿った部分のみが残留するように整形する第4工程と、
前記第1の電極を囲む隔壁を形成する第5工程と、
前記隔壁の内側であって前記第1の電極上に前記発光層を形成する第6工程と、
前記発光層上に前記第2の電極を形成する第7工程と、
を含む、有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1の膜及び前記第2の膜はともに透光性を有し、
前記第2の膜の屈折率n2が前記第1の膜の屈折率n1よりも小さい、請求項1に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1の膜は、スズドープ酸化インジウムからなり、
前記第2の膜は、酸化硅素又は窒化硅素からなる、請求項2に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
前記レーザエッチングに用いるレーザ光の波長をλとすると、前記第2の膜の膜厚は、(λ/n2)×(1/4)程度又はその奇数倍とされる、請求項2に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の有機EL装置の製造方法によって製造される有機EL装置を備える電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−48571(P2007−48571A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231248(P2005−231248)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】