説明

有毒物質の除染装置及び除染方法

【課題】被汚染物や除染装置に損傷を与え難く、装置の小型化を図ることができる有毒物質の除染装置及び除染方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る有毒物質の除染装置1は、有毒物質に汚染された被汚染物2を反応性の酸化剤雰囲気で除染する有毒物質の除染装置であって、被汚染物2を収容する除染室3と、除染室3に酸化剤を蒸気雰囲気で供給する酸化剤供給装置4と、除染室3に酸化力を向上させる添加剤を供給する添加剤供給装置5と、除染室3内の蒸気を酸化剤供給装置4に循環させる循環装置6と、除染室3内を排気する排気装置7と、を有し、循環装置6は、除染処理中に蒸気を循環させ、酸化剤供給装置4は、除染室3内における酸化剤の平均濃度が一定となるように間欠的に酸化剤を供給するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有毒物質の除染装置及び除染方法に関し、特に、有毒物質に汚染された被汚染物を反応性の酸化剤雰囲気で除染する有毒物質の除染装置及び除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有毒物質は、一般に、コレラ菌等のバクテリア、ボツリヌス毒素等の毒素、黄熱病等のウイルスを含む生物系有毒物質と、VXガス等の神経作用剤、マスタードガス等のびらん剤、ホスゲン等の窒息剤、塩化シアン等の血液作用剤、アダムサイト等の嘔吐剤を含む化学系有毒物質と、に分類される。これらの有毒物質に汚染された被汚染物の多くは、種々の酸化剤により、不活性化又は無害化されて除染される(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
【0003】
特許文献1には、有毒物質に汚染された野外設備に、酸化剤溶液を液体又は発泡体の状態で噴霧し、一定時間経過後に水洗する除染方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、オゾンと過酸化水素とを含む活性水をダイオキシン含有ガス(焼却炉の排ガス等)に散布する除染方法が記載されている。また、特許文献2には、過酸化水素/オゾンの使用量比が0.1〜2程度であること、前記活性水には強力な酸化力を有するOHラジカルが含まれていること、短寿命のOHラジカルを効果的にダイオキシン類の酸化分解に活用することによりオゾン及び過酸化水素の使用量を低減することができること等が記載されている。
【0005】
特許文献3には、生物学的に活性な物質(有毒物質)の残渣を不活性化する方法であって、蒸気相にある強力な酸化剤(例えば、過酸化水素等のペルオキシ化合物を含むもの)で酸化する工程と、アルカリガス(例えば、アンモニア)を前記蒸気相の酸化剤に添加してphを調整する工程と、を有する除染方法が記載されている。また、前記蒸気相には、オゾン、アルケン、アルデヒド、ハロゲン等の増強剤が添加されてもよいことが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、液体酸化剤供給器、蒸発器、密閉箱、ドライヤ、ポンプ、他の化学物質の供給源等を備えた除染装置が開示されている。ポンプは、蒸発器と密閉箱との間で蒸気を循環させる機能を有し、ドライヤは循環される蒸気を乾燥する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6245957号明細書
【特許文献2】特開2003−311125号公報
【特許文献3】特許第4255385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された除染方法は被汚染物が野外設備であり、特許文献2に記載された除染方法は被汚染物が排ガスであり、他の被汚染物(例えば、衣服、装備品、電子機器等)には適用し難いという問題があった。特に、被汚染物が水に弱い電子機器等の場合には、特許文献1や特許文献2に記載したような液体の酸化剤を使用した除染方法は使用することができない。
【0009】
また、特許文献3に記載された除染装置では、ドライヤが配置されており、装置が大型化し易いという問題がある。特に、酸化剤の濃度が高い場合(例えば、1000〜2000ppm以上)の場合には、蒸気中の過酸化水素がすぐに飽和し易いことから、ドライヤ、乾燥機、除湿機等の蒸気の湿度を低減できる装置が必須となる。
【0010】
また、特許文献1〜3に記載された除染方法において、一般に酸化剤の濃度が高く、被汚染物や除染装置(特に、除染室)に金属部品が含まれる場合には、錆び等の損傷を与え易いという問題もあった。かかる錆びは、機器を劣化させるだけでなく、機能不全に至らしめる場合もあった。
【0011】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、被汚染物や除染装置に損傷を与え難く、装置の小型化を図ることができる有毒物質の除染装置及び除染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、有毒物質に汚染された被汚染物を反応性の酸化剤雰囲気で除染する有毒物質の除染装置であって、前記被汚染物を収容する除染室と、該除染室に酸化剤を蒸気雰囲気で供給する酸化剤供給装置と、前記除染室に酸化力を向上させる添加剤を供給する添加剤供給装置と、前記除染室内の蒸気を前記酸化剤供給装置に循環させる循環装置と、前記除染室内を排気する排気装置と、を有し、前記循環装置は、除染処理中に前記蒸気を循環させ、前記酸化剤供給装置は、前記除染室内における酸化剤の平均濃度が一定となるように間欠的に酸化剤を供給する、ことを特徴とする有毒物質の除染装置が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、有毒物質に汚染された被汚染物を反応性の酸化剤雰囲気で除染する有毒物質の除染方法であって、前記被汚染物を除染室に収容し、前記除染室に蒸気を除湿することなく循環させながら酸化剤を間欠的に平均濃度が一定となるように供給し、前記除染室に酸化力を向上させる添加剤を供給し、前記除染室内の被汚染物を前記添加剤を含む前記酸化剤の蒸気雰囲気で除染する、ことを特徴とする有毒物質の除染方法が提供される。
【0014】
上述した本発明に係る有毒物質の除染装置及び除染方法において、例えば、前記酸化剤は過酸化水素であり、前記添加剤はオゾンである。
【0015】
また、前記過酸化水素は、例えば、1000mg/リットル未満の濃度である。また、前記過酸化水素と前記オゾンとの混合比は、例えば、4:1〜7:1の範囲内に調整される。
【0016】
上述した本発明に係る有毒物質の除染装置において、前記除染室は、室内の温度を調節する空調装置を有していてもよい。また、前記循環装置及び前記排気装置は、前記酸化剤及び前記添加剤を除去するフィルタを有していてもよい。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明に係る有毒物質の除染装置及び除染方法によれば、酸化剤と添加剤とを混合させることにより、ラジカルを発生させて酸化力を向上させることができる。また、除染室の蒸気を循環させつつ酸化剤を間欠的に供給することにより、低濃度の酸化剤であっても、除染に必要な酸化剤の濃度を略一定に維持することができる。したがって、低濃度の酸化剤を使用したことにより、被汚染物や除染装置に金属部品が含まれる場合であっても、錆び等の損傷を抑制することができる。
【0018】
さらに、低濃度の酸化剤を使用しつつ酸化力を向上させたことにより、酸化剤を含む蒸気が飽和に達し難くいため、ドライヤ、乾燥機、除湿機等の蒸気の湿度を低減する大型の装置が不要となり、装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係る有毒物質の除染装置の概略構成図である。
【図2】過酸化水素とオゾンとの混合ガスの除染性能を示す図であり、(a)はCEPSに対する除染性能、(b)はマラチオンに対する除染性能、を示している。
【図3】除染室内の過酸化水素蒸気の濃度の推移を示す図であり、(a)は過酸化水素蒸気を一回だけ供給した場合、(b)は過酸化水素蒸気を間欠的に供給した場合、を示している。
【図4】過酸化水素の蒸気線図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る有毒物質の除染装置の概略構成図であり、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図4を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係る有毒物質の除染装置の概略構成図である。また、図2は、過酸化水素とオゾンとの混合ガスの除染性能を示す図であり、(a)はCEPSに対する除染性能、(b)はマラチオンに対する除染性能、を示している。また、図3は、除染室内の過酸化水素蒸気の濃度の推移を示す図であり、(a)は過酸化水素蒸気を一回だけ供給した場合、(b)は過酸化水素蒸気を間欠的に供給した場合、を示している。また、図4は、過酸化水素の蒸気線図である。
【0021】
本発明の第一実施形態に係る有毒物質の除染装置1は、図1に示したように、有毒物質に汚染された被汚染物2を反応性の酸化剤雰囲気で除染する有毒物質の除染装置であって、被汚染物2を収容する除染室3と、除染室3に酸化剤を蒸気雰囲気で供給する酸化剤供給装置4と、除染室3に酸化力を向上させる添加剤を供給する添加剤供給装置5と、除染室3内の蒸気を酸化剤供給装置4に循環させる循環装置6と、除染室3内を排気する排気装置7と、を有し、循環装置6は、除染処理中に蒸気を循環させ、酸化剤供給装置4は、除染室3内における酸化剤の平均濃度が一定となるように間欠的に酸化剤を供給するように構成されている。
【0022】
前記被汚染物2は、有毒物質が付着した物体であり、除染を必要とする物体である。例えば、衣服、装備品、電子機器、自動車、航空機等の物体又はその一部である。また、有毒物質とは、バクテリア、毒素、ウイルス等の生物系有毒物質や、神経作用剤、びらん剤、窒息剤、血液作用剤、嘔吐剤等の化学系有毒物質を意味する。本実施形態では、特に、錆びや液体に弱い電子機器等の被汚染物2であっても除染可能である。
【0023】
前記除染室3は、一定の空間を区画可能な容器又は部屋である。また、除染処理に使用する酸化剤や添加剤が、大気に放出可能な濃度の基準が定められている物質である場合には、除染室3は密閉可能に構成される。かかる除染室3は、自動車等の乗物により運搬可能であってもよいし、クリーンルーム内に設置されていてもよいし、野外で組立可能であってもよい。また、除染室3が広い空間を有する場合には、内部に拡散ファンを配置するようにしてもよい。
【0024】
前記酸化剤供給装置4は、除染室3に酸化剤を蒸気雰囲気で供給する装置である。例えば、酸化剤が過酸化水素の場合には、酸化剤供給装置4内に35%過酸化水素水を供給し、酸化剤供給装置4内のヒータにより加熱して過酸化水素水を蒸発させ、所定の濃度になった過酸化水素蒸気を除染室3に供給する。また、酸化剤供給ライン41には、制御弁42が配置されており、制御弁42の開閉によって、過酸化水素蒸気(酸化剤)の供給及び停止をコントロールできるようになっている。また、酸化剤供給ライン41に、酸化剤蒸気を送気するためのファンやポンプを配置するようにしてもよい。なお、酸化剤供給装置4に供給される過酸化水素水は35%濃度のものに限定されるものではなく、例えば、20〜50%濃度の範囲内で適宜選択することができる。
【0025】
前記添加剤供給装置5は、除染室3に酸化力を向上させる添加剤を供給する装置である。添加剤には、例えば、オゾンガスが使用されるが、アルカリ、アルケン、アルデヒド、ハロゲン等の他の物質であってもよい。また、添加剤供給装置5は、添加剤供給ライン51を介して除染室3に接続されており、添加剤供給ライン51に配置された制御弁52により供給量がコントロールされる。なお、添加剤がオゾンガスの場合には、添加剤供給装置5はオゾン発生装置である。オゾンガス発生装置は、無声放電空間に酸素ガスを流すことによって酸素の一部をイオン化し、通常の酸素と結合させて、オゾンガスを生成し、除染室3に供給する。
【0026】
ここで、酸化剤である過酸化水素に添加剤であるオゾンを混合させた混合ガスの除染性能について、図2を参照しつつ説明する。ここで、図2(a)は、マスタードガスの擬剤であるCEPSに対する試験結果を示し、図2(b)は、VXガスの擬剤であるマラチオンに対する試験結果を示している。なお、「擬剤」とは、「対象としている有毒物質と性質が一部類似した微生物や物質で、人体や環境に影響を与えないもの」を意味する。
【0027】
図2(a)は、初期濃度10[g/m]のCEPSを処理温度20℃で、A:1000[ppm]の過酸化水素単独で除染した場合、B:400[ppm]の過酸化水素単独で除染した場合、C:400[ppm]の過酸化水素蒸気と100[ppm]のオゾンガスとの混合ガスで除染した場合、におけるCEPSの濃度変化を図示したものである。横軸は時間[分]、縦軸はCEPSの残留濃度[g/m]を示している。なお、Aの試験結果を破線、Bの試験結果を一点鎖線、Cの試験結果を実線、で図示している。
【0028】
酸化剤である過酸化水素単独でCEPSを除染した場合には、低濃度である400[ppm]ではほとんど除染効果が期待できないが、高濃度である1000[ppm]では一定の除染効果が認められる。また、過酸化水素とオゾンガスとの混合ガスでCEPSを除染した場合には、過酸化水素が400[ppm]と低濃度であるにも関わらず、高濃度の過酸化水素単独で除染した場合よりも高い除染効果が得られた。これは、酸化剤に所定の添加剤を加えることにより、OHラジカル等の強い酸化力を有するラジカルが発生することに起因するものと考えられる。
【0029】
図2(b)は、初期濃度10[g/m]のマラチオンを処理温度40℃で、D:2000[ppm]の過酸化水素単独で除染した場合、E:700[ppm]の過酸化水素単独で除染した場合、F:700[ppm]の過酸化水素蒸気と100[ppm]のオゾンガスとの混合ガスで除染した場合、におけるマラチオンの濃度変化を図示したものである。横軸は時間[分]、縦軸はマラチオンの残留濃度[g/m]を示している。なお、Dの試験結果を破線、Eの試験結果を一点鎖線、Fの試験結果を実線、で図示している。
【0030】
酸化剤である過酸化水素単独でマラチオンを除染した場合には、低濃度である700[ppm]ではほとんど除染効果が期待できないが、高濃度である2000[ppm]では多少の除染効果が認められる。また、過酸化水素とオゾンガスとの混合ガスでマラチオンを除染した場合には、過酸化水素が700[ppm]と低濃度であるにも関わらず、高濃度の過酸化水素単独で除染した場合よりも非常に高い除染効果が得られた。これは、酸化剤に所定の添加剤を加えることにより、OHラジカル等の強い酸化力を有するラジカルが発生することに起因するものと考えられる。
【0031】
したがって、酸化剤にラジカルを発生し得る添加剤を混合させることにより、低濃度の酸化剤であっても、優れた除染性能を有することが容易に理解できる。例えば、酸化剤が過酸化水素の場合には、添加剤としてオゾンガスを混合させることが好ましい。また、酸化剤が過酸化水素の場合には、低濃度とは1000[ppm]未満、言い換えれば、1000[mg/リットル]未満を意味する。なお、低濃度の下限については、被汚染物2に付着した除染対象物によって異なるため、一義的に決定することはできないが、概ね200[ppm]未満又は200[mg/リットル]未満の低濃度では、十分な除染効果が期待できないと考えられる。
【0032】
また、酸化剤と添加剤との混合比は、除染対象物、酸化剤及び添加剤の種類によって、それぞれ調整されるものである。例えば、除染対象物が一般的な物質(例えば、マスタードガス又はその擬剤や、VXガス又はその擬剤等)であって、酸化剤が過酸化水素、添加剤がオゾンの場合には、少なくとも、上述の試験結果から、過酸化水素とオゾンとの混合比は、過酸化水素:オゾン=4:1、又は、過酸化水素:オゾン=7:1であれば、高濃度の過酸化水素単独の場合よりも除染性能に優れていることが容易に理解できる。したがって、過酸化水素とオゾンとの混合比は、例えば、4:1〜7:1の範囲内に調整することが好ましい。
【0033】
前記循環装置6は、除染室3内の蒸気(雰囲気ガス)を酸化剤供給装置4に循環させる装置である。具体的には、循環装置6は、例えば、循環ライン61と、制御弁62と、循環ポンプ63と、フィルタ64と、を有する。循環ライン61は、除染室3と酸化剤供給装置4とを連通するラインである。かかる循環ライン61には、除染室3側から順に、制御弁62、循環ポンプ63、フィルタ64が配置されている。制御弁62は、循環ライン61の開閉をコントロールする部品である。循環ポンプ63は、除染室3内の雰囲気ガスを吸気し、酸化剤供給装置4に送気する部品である。かかる循環ポンプ63は、循環ファンであってもよい。
【0034】
また、除染室3内の雰囲気ガスには、過酸化水素等の酸化剤、オゾン等の添加剤、除染により発生した不活性化又は無害化されたガス、蒸気等が含まれる。これらの成分のうち、酸化剤及び添加剤については、混合ガスの濃度を安定させるために、除去して循環させた方が好ましい。そこで、酸化剤供給装置4の上流側にフィルタ64が配置される。
【0035】
フィルタ64には、酸化剤を分解する触媒64aと、添加剤を分解する触媒64bとが、例えば、直列に配置される。酸化剤が過酸化水素の場合には、触媒64aは、例えば、白金属元素、鉄、銅、コバルト等の金属又は二酸化マンガンであり、過酸化水素を水と酸素とに分解する。また、添加剤がオゾンの場合には、触媒64bは、例えば、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、銅等の金属若しくはそれらの金属酸化物又は活性炭であり、オゾンを酸素分子に分解する。なお、フィルタ64は、酸化剤供給装置4内に配置されていてもよい。
【0036】
前記排気装置7は、除染処理終了後の除染室3内の雰囲気ガスを外部に排気する装置である。具体的には、排気ライン71と、排気ファン72と、制御弁73と、フィルタ74と、を有する。排気ライン71は、除染室3と外部とを連通するラインである。かかる排気ライン71には、除染室3側から順に、排気ファン72、制御弁73、フィルタ74が配置されている。排気ファン72は、除染室3内の雰囲気ガスを吸気し、外部に送気する部品である。かかる排気ファン72は、排気ポンプであってもよい。制御弁73は、排気ライン71の開閉をコントロールする部品である。かかる制御弁73は、除染処理中は閉鎖されており、除染処理終了後に開放される。
【0037】
また、除染室3内の雰囲気ガスには、過酸化水素等の酸化剤、オゾン等の添加剤、除染により発生した不活性化又は無害化されたガス、蒸気等が含まれる。これらの成分のうち、酸化剤及び添加剤については、外部(大気)に放出可能な濃度の基準が定められている場合がある。そこで、排気ライン71には、酸化剤及び添加剤を除去するフィルタ74が配置される。フィルタ74には、循環装置6のフィルタ64を構成する触媒64a,64bと同じ触媒74a,74bを使用することができる。なお、濃度を監視する観点から、フィルタ64の少なくとも下流側に濃度計(図示せず)を配置することが好ましい。
【0038】
次に、上述した有毒物質の除染装置1の作用、すなわち、本発明に係る有毒物質の除染方法について、図1、図3及び図4を参照しつつ説明する。
【0039】
本発明に係る有毒物質の除染方法は、有毒物質に汚染された被汚染物2を反応性の酸化剤雰囲気で除染する有毒物質の除染方法であって、被汚染物2を除染室3に収容し、除染室3に蒸気を除湿することなく循環させながら酸化剤を間欠的に平均濃度が一定となるように供給し、除染室3に酸化力を向上させる添加剤を供給し、除染室3内の被汚染物2を添加剤を含む酸化剤の蒸気雰囲気で除染するものである。
【0040】
かかる除染方法では、酸化剤と酸化力を向上させる添加剤(例えば、ラジカルを発生し得る添加剤)との混合ガスにより被汚染物2を除染していることから、上述したように、低濃度の酸化剤であっても、所定の混合比で添加剤を添加することにより、高濃度の酸化剤と同等又はそれ以上の除染性能を発揮し得る。
【0041】
ところで、上述した有毒物質の除染装置1において、除染室3内に酸化剤である過酸化水素蒸気を一回だけ供給した場合には、図3(a)に示したように、過酸化水素蒸気の濃度は、ある時間でピークを形成するものの徐々に濃度は低下し、除染性能も低下してしまう。そこで、本発明においては、酸化剤である過酸化水素蒸気を間欠的に平均濃度が一定となるように供給している。ここでは、4回のタイミングに分けて過酸化水素蒸気を供給している。
【0042】
一般に、除染対象物の種類と分量が把握できれば、使用する酸化剤、必要な処理濃度及び処理時間を把握することができる。そこで、図3(b)に示したように、平均濃度Av.を一定時間維持できるように間欠的に過酸化水素蒸気を供給する。具体的には、所定のタイミングで酸化剤供給装置4内に35%過酸化水素水を供給(滴下)し、酸化剤供給装置4内のヒータにより加熱して過酸化水素水を蒸発させ、所定の濃度になった過酸化水素蒸気を除染室3に供給する。また、本発明では、蒸気を循環させながら酸化剤を除染室3に供給していることから、無駄なく長時間の運用が可能となる。なお、「平均濃度が一定となるように」とは、「除染に必要な処理濃度と処理時間との積と、図3(b)において塗り潰した部分の面積(積分値)とが一致する状態」を意味する。
【0043】
また、上述したように、本発明では、酸化剤と所定の添加剤との混合ガスにより被汚染物2を除染していることから、低濃度の酸化剤で効果的に除染を行うことができる。ここで、図4の過酸化水素の蒸気線図に示したように、相対湿度が60%である状態Q1(温度20℃)と状態Q2(温度40℃)とについて検討する。
【0044】
状態Q1,Q2のように、過酸化水素蒸気の相対湿度(飽和蒸気圧に対する過酸化水素蒸気圧の分圧)が高い場合、すなわち、高濃度の過酸化水素蒸気の場合、飽和させずに投入できる過酸化水素蒸気量はK1,K2であり、わずかな投入量で飽和に達してしまうことが容易に理解できる。したがって、酸化剤として、高濃度の過酸化水素蒸気を使用した場合、反応して消失した過酸化水素を補充して高濃度に維持するためには、除湿して水分を除去しなければならない。具体的には、酸化剤の蒸気圧状態を、状態Q1,Q2から、例えば、相対湿度が5%である状態Q3に移行させなければならない。
【0045】
このように、高濃度の酸化剤を使用した場合には、酸化剤を補充して長時間除染するためには、必ず除湿しなければ、すぐに飽和に達してしまい、安定した運用を行うことができない。一方、本発明のように、低濃度の酸化剤、すなわち、相対湿度の低い酸化剤蒸気を使用した場合には、飽和に達するまでに十分な投入できる過酸化水素蒸気量K3を確保できることから、繰返し酸化剤を補充しても除湿する必要がない。
【0046】
例えば、従来の高濃度の酸化剤を用いた除染方法では、20mの除染空間に対して、約64リットル/時間の除湿能力が必要になる場合がある。この除湿能力は、産業用除湿機の約3倍、家庭用除湿機の約160倍であり、除湿機の大型化(例えば、容積:約4m)や重量化(例えば、重量:約970kg)を招くこととなる。また、消費電力も多くなり、コストも増加することとなる。さらに、除染空間として、航空機キャビン室を想定した場合、その体積は約300mであり、約940リットル/時間の除湿能力が必要となり、さらに装置の大型化(例えば、容積:約60m)や重量化(例えば、重量:約14t)を招くこととなる。
【0047】
しかしながら、上述した本発明の除染方法によれば、低濃度の酸化剤を使用しつつ酸化力を向上させたことにより、酸化剤を含む蒸気が飽和に達し難くいため、ドライヤ、乾燥機、除湿機等の蒸気の湿度を低減する大型の装置が不要となり、除染装置1の小型化や軽量化を図ることができる。また、上述した本発明の除染方法によれば、除染室3の蒸気を循環させつつ酸化剤を間欠的に供給することにより、低濃度の酸化剤であっても、除染に必要な酸化剤の平均濃度を略一定に維持することができる。したがって、低濃度の酸化剤を使用したことにより、被汚染物2や除染装置1に金属部品が含まれる場合であっても、錆び等の損傷を抑制することができる。
【0048】
なお、上述した有毒物質の除染装置1は、酸化剤供給装置4、添加剤供給装置5、循環装置6及び排気装置7の各機器(制御弁等の付属品も含む)は、図示しない制御装置によって、上述した除染方法を実行するように構成されていてもよい。
【0049】
続いて、本発明の他の実施形態に係る有毒物質の除染装置1について説明する。ここで、図5は、本発明の他の実施形態に係る有毒物質の除染装置の概略構成図であり、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態、を示している。
【0050】
図5(a)に示した第二実施形態は、除染室3に室内の温度を調節する空調装置8を配置したものである。かかる空調装置8は、いわゆるエアコンディショナーであり、除染室3内の温度を、20〜60℃の温度域内の一定温度、好ましくは常温又は室温程度に保持する。この温度域は、被汚染物2に損傷を与えず、且つ、過酸化水素とオゾンとの混合ガスが効果的に被汚染物2を除染できる温度域である。一般に、除染の処理温度は、高い方が除染性能に優れることが知られているが、具体的には、除染対象物、酸化剤及び添加剤の種類によって適宜調整される。なお、空調装置8は、温度調節機能の他に除湿機能を備えているものであってもよいが、本発明の除染方法では除湿機能を使用する必要はない。ただし、除染装置1の故障時等のように異常な高湿度になった場合や過酸化水素蒸気の蒸気線図に大きな影響を与えない程度で使用する場合には、空調装置8の除湿機能を使用してもよい。
【0051】
図5(b)に示した第三実施形態は、添加剤供給装置5の添加剤供給ライン51を酸化剤供給装置4の酸化剤供給ライン41に接続したものである。かかる位置に添加剤供給装置5を配置しても、第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
上述した実施形態では、CEPS(マスタードガスの擬剤)及びマラチオン(VXガスの擬剤)に対する除染性能について説明したが、本発明は、過酸化水素とオゾン等の添加剤との混合比、濃度、処理時間等を適宜調整することにより、ラジカルの発生量等を任意に調整することができ、上記以外の有毒物質(例えば、コレラ菌等のバクテリア、ボツリヌス毒素等の毒素、黄熱病等のウイルスを含む生物系有毒物質と、VXガス以外の神経作用剤、マスタードガス以外のびらん剤、ホスゲン等の窒息剤、塩化シアン等の血液作用剤、アダムサイト等の嘔吐剤を含む化学系有毒物質)にも適用することができる。
【0053】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
1 除染装置
2 被汚染物
3 除染室
4 酸化剤供給装置
5 添加剤供給装置
6 循環装置
7 排気装置
8 空調装置
64,74 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有毒物質に汚染された被汚染物を反応性の酸化剤雰囲気で除染する有毒物質の除染装置であって、
前記被汚染物を収容する除染室と、
該除染室に酸化剤を蒸気雰囲気で供給する酸化剤供給装置と、
前記除染室に酸化力を向上させる添加剤を供給する添加剤供給装置と、
前記除染室内の蒸気を前記酸化剤供給装置に循環させる循環装置と、
前記除染室内を排気する排気装置と、を有し、
前記循環装置は、除染処理中に前記蒸気を循環させ、
前記酸化剤供給装置は、前記除染室内における酸化剤の平均濃度が一定となるように間欠的に酸化剤を供給する、
ことを特徴とする有毒物質の除染装置。
【請求項2】
前記酸化剤は過酸化水素であり、前記添加剤はオゾンである、ことを特徴とする請求項1に記載の有毒物質の除染装置。
【請求項3】
前記過酸化水素は、1000mg/リットル未満の濃度である、ことを特徴とする請求項2に記載の有毒物質の除染装置。
【請求項4】
前記過酸化水素と前記オゾンとの混合比は、4:1〜7:1の範囲内に調整される、ことを特徴とする請求項2に記載の有毒物質の除染装置。
【請求項5】
前記除染室は、室内の温度を調節する空調装置を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の有毒物質の除染装置。
【請求項6】
前記循環装置及び前記排気装置は、前記酸化剤及び前記添加剤を除去するフィルタを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の有毒物質の除染装置。
【請求項7】
有毒物質に汚染された被汚染物を反応性の酸化剤雰囲気で除染する有毒物質の除染方法であって、
前記被汚染物を除染室に収容し、
前記除染室に蒸気を除湿することなく循環させながら酸化剤を間欠的に平均濃度が一定となるように供給し、
前記除染室に酸化力を向上させる添加剤を供給し、
前記除染室内の被汚染物を前記添加剤を含む前記酸化剤の蒸気雰囲気で除染する、
ことを特徴とする有毒物質の除染方法。
【請求項8】
前記酸化剤は過酸化水素であり、前記添加剤はオゾンである、ことを特徴とする請求項7に記載の有毒物質の除染方法。
【請求項9】
前記過酸化水素は、1000mg/リットル未満の濃度である、ことを特徴とする請求項8に記載の有毒物質の除染方法。
【請求項10】
前記過酸化水素と前記オゾンとの混合比は、4:1〜7:1の範囲内に調整される、ことを特徴とする請求項8に記載の有毒物質の除染方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−24385(P2012−24385A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166978(P2010−166978)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】