説明

木製容器の製造方法

【課題】箍がずれたり本体からはずれたりすることのない桶などの木製容器を比較的簡易な手法で製造する方法を提供する。
【解決手段】桶の本体11の外周側面に、箍12を嵌入させることのできる凹部14を形成する。次に、圧縮装置20を用いて、本体11の圧縮を行う。このとき、開口側を下にして、圧縮装置20の設置台21上に本体11を載置する。また、本体11の外周側面に形成された凹部14の下方が加圧部材22によって加圧されるように、設置台21の高さを調節する。そして、加圧部材22を本体11の中心軸方向へと移動させる。次に、本体11が圧縮されている状態で、凹部14の位置で箍12を本体11に周着させる。次に、本体11の圧縮を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桶などの木製容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、桶,樽,櫃(ひつ)などの木製容器が広く利用されている。これら木製容器は、複数枚の側板を円筒状に組み合わせることによって形成されている。そして、それら複数枚の側板が円筒状に組み合わされた状態で固定されるよう、外周側面に銅製などの箍(たが)が周着されている。
【0003】
図9は、従来の桶の側部断面図である。この桶90は、外周側面が全体としてテーパ状に形成された本体91と、本体91の外周側面に周着された2つの箍(たが)92と、本体91の内部に装着された底板93とによって構成されている。本体91への箍(たが)92の周着については、典型的には次のようにして行われる。まず、テーパ状に形成された本体91のうち直径の短い方の一端側から箍92を嵌め込む。そして、図10に示すように木槌99などによって箍92を叩くことによって、本体91の外周側面上の所望の位置に箍92を配置させる。これにより、複数枚の側板が組み合わされて形成されている本体91が箍92によって外周側面から強く締められることになり、それら複数枚の側板は固定された状態となる。
【0004】
ところで、木材には、乾燥することによって収縮し、水分を吸収することによって膨張するという性質がある。このため、桶は、繰り返し使用されることによって、収縮と膨張とが繰り返される。その結果、桶全体のサイズが小さくなることや桶の形状が変形することがある。これにより、箍92が本体91からはずれたり、箍92の位置にずれが生じたりするので、箍92を再度本体91に周着させる作業が必要となる。
【0005】
特開2002−283303号公報には、側板に溝を設け当該溝に箍を密着させる構成とすることにより箍のずれを防止する木桶の発明が開示されている。また、特開昭52−126386号公報には、「周囲壁に溝を設け、凹リングを加熱・膨張させて溝内に嵌め込み、その後、凹リングを冷却させることによって凹リングを溝中に嵌合させる」という木製容器の製法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−283303号公報
【特許文献2】特開昭52−126386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特開2002−283303号公報には、本体に箍を周着させる方法が全く開示されていない。このため、特開2002−283303号公報に開示された構成の桶をどのようにすれば実現することができるのかが不明である。また、当該構成の桶が仮に実現されたとしても、箍が溝部に密着せず、箍としての機能が充分には得られないことが考えられる。
【0008】
また、特開昭52−126386号公報によると、凹リングを加熱する工程と凹リングを冷却する工程が必要となる。このため、凹リングが溝中に嵌合するまでには相当の時間を要する。また、加熱時・冷却時の温度の調節も困難となる。
【0009】
そこで、本発明は、箍がずれたり本体からはずれたりすることのない桶などの木製容器を比較的簡易な手法で製造する方法を提供することを目的とする、
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、テーパ状に形成された外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法であって、
前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程と、
前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を圧縮する本体圧縮工程と、
前記本体が圧縮されている状態で、前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程と、
前記本体の圧縮を解除する圧縮解除工程と
を含むことを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、
前記本体圧縮工程では、前記外周側面のうち直径が比較的短い部分を上方に配置した状態で、前記外周側面のうち前記凹部が形成されている部分の下方が加圧されることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、
前記本体圧縮工程では、前記外周側面を加圧する加圧面と該加圧面にほぼ垂直な平坦面とからなる加圧部材によって前記本体が圧縮され、
前記箍取り付け工程では、前記加圧部材の平坦面上に前記箍が載置されることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1から第3までのいずれかの発明において、
前記木製容器は桶であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記第1の発明によれば、木製容器本体の外周側面が加圧されることにより、本体が全体として中心方向に圧縮される。このため、通常であれば本体に嵌め込むことができないような大きさ(内径)の箍であっても、本体への取り付けが可能となる。また、本体が圧縮されている状態のときに箍が本体に取り付けられ、その後、本体の圧縮が解除される。このため、本体が箍によって強く締められる。さらに、箍は、凹部に嵌入された状態で、本体の外周側面に周着される。このため、本体が乾燥によって収縮しても、箍が本体からはずれることや箍の位置にずれが生じることが効果的に防止される。
【0015】
上記第2の発明によれば、本体圧縮工程では、凹部の位置から見て外周側面の直径の大きい側の凹部近傍が加圧される。また、その加圧される部分は、凹部よりも下方に位置する。このため、本体の上方側から箍の嵌め込みを行うことによって、容易に箍が本体に取り付けられる。
【0016】
上記第3の発明によれば、加圧面にほぼ垂直な平坦面を有する加圧部材によって本体の圧縮が行われ、その圧縮が行われた状態で、本体への箍の取り付けのために加圧部材の平坦面上に箍が載置される。これにより、本体への箍の取り付けが容易となる。
【0017】
上記第4の発明によれば、上記第1から第3までのいずれかの発明と同様の効果が得られる桶が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造される桶の斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】上記実施形態において、桶を製造する手順を示すフローチャートである。
【図4】上記実施形態において、桶本体に凹部を形成する方法について説明するための図である。
【図5】上記実施形態における圧縮装置の上面模式図である。
【図6】上記実施形態において、本体の圧縮から圧縮の解除までの工程について説明するための図である。
【図7】上記実施形態において、箍取り付け工程について説明するための図である。
【図8】上記実施形態における効果について説明するための図である。
【図9】従来の桶の側部断面図である。
【図10】従来例において、桶の本体に箍を周着させる方法を説明するための図である。
【図11】従来例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0020】
<1.桶の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る「(木製容器としての)桶の製造方法」によって作製される桶10を斜め上方から見た斜視図である。また、図2は、図1のA−A線断面図である。この桶10は、外周側面が全体としてテーパ状に形成された本体11と、本体11の外周側面に周着された銅製の2つの箍(たが)12と、本体11の内部に装着された底板13とによって構成されている。外周側面の直径に着目すると、図1や図2における上端での直径D1は下端での直径D2よりも大きくなっている。例えば、直径D1は18〜78cmとなっており、直径D2は17〜75cmとなっている(但し、D1>D2)。なお、以下においては、図1や図2における上端側を「開口側」といい、下端側を「底板側」という。
【0021】
本体11は、複数の柾目板で形成されている。それら複数の柾目板に関し、互いに隣接する柾目板は側端面どうしが突き合わされた状態で接合されている。本体11の外周側面には、図2に示すように、箍12の厚さよりも大きい深さを有する凹部14が、2つの箍12のそれぞれに対応するように形成されている。そして、それら2つの箍12が、その凹部14に嵌入した状態で、本体11の外周側面に周着されている。これにより、上記複数の柾目板で形成されている本体11が箍12によって外周側面から強く締められることになり、それら複数の柾目板は固定された状態となっている。なお、説明の便宜上、図6および図8においては、2つの箍12のうち一方の箍12に対応する凹部14のみを示している。
【0022】
<2.桶の製造方法>
図3から図7を参照しつつ、本実施形態における桶10の製造方法について説明する。図3は、本実施形態における桶10を製造する手順を示すフローチャートである。なお、図3のステップS10が開始される時点には、既に桶10の本体11は周知の手法で作製されているものと仮定する。また、底板13については、図3のステップS40以降の工程で周知の手法で本体11の内部に装着される。
【0023】
まず、本体11の外周側面に、箍12を嵌入させることのできる凹部14を形成する(ステップS10)。この凹部14の形成は、例えば、本体11の外周側面のうち凹部14を形成したい部分に図4に示すように固定された刃30を当てた状態で、符号35で示す矢印のように本体11を回転させることによって行われる。本体11の回転については、手作業で行うようにしても良いし、機械を用いて行うようにしても良い。なお、典型的には、凹部14の幅は9〜21mm程度であって、凹部14の深さは1〜5mm程度である。この凹部14の深さは、通常、箍12の厚さよりも大きくされる。
【0024】
次に、圧縮装置を用いて、本体11の圧縮を行う(ステップS20)。図5は、圧縮装置の上面模式図である。この圧縮装置は、本体11を載置するための設置台21と、本体11の外周側面から(本体11の)中心軸方向に向かって圧力を加えるための複数個の加圧部材22とを備えている。それら複数個の加圧部材22は、図5(a),(b)に示すように、放射状に配置されている。本体11は、図5(a)に示すように加圧部材22が外側に位置した状態のときに設置台21上に載置される。そして、図5(b)に示すように加圧部材22が内側へと移動することによって、本体11の圧縮が行われる。
【0025】
ところで、本体11の圧縮を行う際には、図6(a)に示すように、開口側を下にして圧縮装置20の設置台21上に本体11を載置する。設置台21については高さの調節が可能となっており、本体11の外周側面に形成された凹部14の下方が加圧部材22によって加圧されるように、設置台21の高さを調節する。その後、図6(b)に示すように、加圧部材22を本体11の中心軸方向へと移動させる。これにより、凹部14の下方に圧力が加えられ、上記複数の柾目板がしなって本体11が全体として中心軸方向に圧縮される。
【0026】
次に、本体11が圧縮されている状態で、凹部14の位置で箍12を本体11に周着させる(ステップS30)。このとき図6(b)や図7(a)に示すように加圧部材22(の加圧面)によって凹部14の下方が加圧されており、また、その加圧部材22の上面は平坦面となっているので、図6(c)や図7(b)に示すように、当該平坦面上に箍12を載置すれば良い。
【0027】
次に、本体11の圧縮を解除する(ステップS40)。具体的には、図6(d)に示すように、加圧部材22を本体11の中心軸方向とは反対方向へと移動させる。これにより、本体11の圧縮は解除され、本体11は圧縮前の形状に復元する。その結果、箍12が凹部14に嵌入し、本体11は箍12によって外周側面から強く締められる。
【0028】
なお、本実施形態においては、ステップS10によって凹部形成工程が実現され、ステップS20によって本体圧縮工程が実現され、ステップS30によって箍取り付け工程が実現され、ステップS40によって圧縮解除工程が実現されている。
【0029】
また、図1に示すように本体11に2つの箍12を取り付ける場合には、ステップS10からステップS40までの工程を2回繰り返しても良いし、ステップS10で2つの凹部14を形成した後にステップS20からステップS40までの工程を2回繰り返しても良い。
【0030】
<3.効果>
本実施形態によれば、箍12は、図2に示すように凹部14に嵌入された状態で、本体11の外周側面に周着されている。このため、本体11が乾燥によって収縮しても、箍12が本体11からはずれることや箍12の位置にずれが生じることが防止される。また、本実施形態によれば、本体11の外周側面が加圧されることにより本体11が全体として中心軸方向に圧縮される。このため、箍12の直径(内径)D3が図8(a)で符号P1で示す部分の本体11の直径D4よりも小さくても、図8(b)で示すように、圧縮によって符号P1で示す部分の本体11の直径はD3よりも小さいD5となるので、本体11への箍12の周着が可能となる。このとき、上面が平坦面となっている加圧部材22によって凹部14の下方が加圧されているので、当該平坦面上に箍12を載置すれば良く、本体11への箍12の取り付けが容易である。さらに、本実施形態によれば、図8(c)に示すように本体11が圧縮されている状態のときに箍12が本体11に取り付けられ、その後、本体11の圧縮が解除される。これにより、図8(d)に示すように、本体11は元の形状に復元し、本体11が箍12によって効果的に強く締められることになる。
【0031】
<4.変形例>
上記実施形態においては、桶についての製造方法を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。テーパ状に形成された本体の外周側面に箍が周着されたものであれば、樽,櫃(ひつ)など桶以外の木製容器の製造方法にも本発明を適用することができる。
【0032】
<5.従来技術との対比>
最後に、本発明と従来技術との相違点、当該相違点に基づく本発明の有利な効果について説明する。上述のように、特開2002−283303号公報には、側板に溝を設け当該溝に箍を密着させる構成とすることにより箍のずれを防止する木桶の発明が開示されているが、本体に箍を周着させる方法が全く開示されていない。これに関して、図11を参照しつつ説明する(なお、図11は、特開2002−283303号公報の図3に対応する図である。)。ここでは、図11に示すように、桶の本体下端部における直径をDaとする。この桶において箍を溝部に密着させようとすると、箍の直径は図11に示すようにDbとなる。このとき、DbはDaよりも小さい。このため、箍を本体に嵌め込むことができず、特開2002−283303号公報に開示された構成の桶は得られない。一方、箍の直径を図11に示すようにDaよりも大きいDcにした場合には、箍を本体に嵌め込むことは可能となる。しかしながら、箍が溝部に密着しないので、本体は外周側面から強くは締められない。すなわち、この場合には、箍としての機能が充分には得られない。また、箍が溝部に密着していないため、乾燥によって本体が僅かに収縮しただけで、箍が本体からはずれたり、箍の位置にずれが生じることが考えられる。これに対し、本発明によると、桶の本体が全体として中心軸方向に圧縮されるので、箍の直径が桶の本体下端部における直径より小さい場合でも、箍を本体に取り付けることが可能となる。また、本体が圧縮されている状態で箍が本体の凹部に取り付けられた後、その圧縮が解除されて本体は元の形状に復元するので、本体は箍によって強く締められる。これにより、箍が本体からはずれることや箍の位置にずれが生じることが効果的に抑制される。
【0033】
特開昭52−126386号公報に開示された発明では、本体に形成された溝部に凹リング(箍に相当)を嵌め込む手法として、「凹リングを加熱によって膨張させて溝部に嵌め込み、その後、凹リングを冷却させて溝部に嵌合させる」という手法が採用されている。これに対し、本発明では、箍の変形が行われるのではなく、箍を取り付ける対象物である桶本体の変形(圧縮)が行われる。このように、両発明における手法は大きく異なっている。また、特開昭52−126386号公報に開示された発明によると、凹リングの加熱・冷却が必要となるので、本体への凹リングの取り付けが完了するまでに相当の時間を要し、かつ、加熱・冷却の温度の調節が困難となる。これに対し、本発明のように桶本体を圧縮することやその圧縮を解除することは容易かつ短時間で行われるので、本発明によれば、本体に形成された凹部への箍の嵌め込みが、容易かつ短時間で行われる。
【符号の説明】
【0034】
10…桶
11…(桶の)本体
12…箍
13…底板
14…凹部
20…圧縮装置
21…設置台
22…加圧部材
30…刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーパ状に形成された外周側面を有する本体に箍を周着してなる木製容器を製造する方法であって、
前記箍が嵌入可能な凹部を前記外周側面に周設する凹部形成工程と、
前記外周側面を前記本体の中心方向に向かって加圧することにより前記本体を圧縮する本体圧縮工程と、
前記本体が圧縮されている状態で、前記箍を前記凹部の位置で前記本体に周着させる箍取り付け工程と、
前記本体の圧縮を解除する圧縮解除工程と
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記本体圧縮工程では、前記外周側面のうち直径が比較的短い部分を上方に配置した状態で、前記外周側面のうち前記凹部が形成されている部分の下方が加圧されることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記本体圧縮工程では、前記外周側面を加圧する加圧面と該加圧面にほぼ垂直な平坦面とからなる加圧部材によって前記本体が圧縮され、
前記箍取り付け工程では、前記加圧部材の平坦面上に前記箍が載置されることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記木製容器は桶であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−208262(P2010−208262A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59197(P2009−59197)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【特許番号】特許第4335972号(P4335972)
【特許公報発行日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(509072755)
【Fターム(参考)】