説明

木質化粧板及びその製造方法

【課題】より高度な意匠性と重厚な木質感とが有利に発揮され得ると共に、突板の意匠面が十分に保護され得る木質化粧板を提供する。
【解決手段】基材に固着された突板14の意匠面18に、シーラー層22とトップコート層26とを、該意匠面18に存在する導管の開口部20を埋めない厚さで積層形成して、それらシーラー層22とトップコート層26とに対して、該導管開口部20に対応した凹部32,30をそれぞれ設けると共に、該シーラー層22を、該突板14中の水酸基を有する成分や該突板14の水分と、ポリイソシアネートとの硬化反応により生成された硬化物にて形成して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質化粧板及びその製造方法に係り、特に、硬質の基材上に固着された木質の突板の意匠面にシーラー層とトップコート層とを積層形成してなる木質化粧板の改良された構造と、そのような木質化粧板の有利な製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、木目等の美しい模様を有する木材(突板)を基材表面に貼り付けて得られる木質化粧板は、高級な木質の表面を、手軽に且つ低コストに得ることが出来るところから、自動車用内装部品や家具、建築材、家電製品等の様々な製品の表面材として、広く利用されてきている。
【0003】
そして、そのような木質化粧板にあっては、一般に、クリア塗装(クリア塗料を用いた塗装)により、突板の意匠面に、それを保護する透明な塗膜からなるトップコート層が積層形成されて、突板意匠面(化粧板表面)の傷付き等が防止されると共に、突板意匠面に光沢が付与され得るようになっている(例えば、下記特許文献1参照)。また、多くの場合、かかる木質化粧板においては、突板とトップコート層との間にシーラー層が形成されて、突板に対するトップコート層の密着性の向上等が、図られている。なお、かかるシーラー層は、一般に、突板に対して優れた付着性を発揮するポリウレタンにて形成される。
【0004】
ところで、各種の木質製品の意匠面に対する塗装方法(塗装仕上げ)の一種として、木質製品の意匠面において開口する導管を塗料で埋めないように塗装する(仕上げる)、所謂オープンポア塗装(オープンポア仕上げ)が、知られている。このオープンポア塗装が施された木質製品においては、意匠面に、導管の開口部に対応した微小乃至は微細な凹部(凹溝を含む。以下同一の意味において使用する。)が形成され、それによって、深みのある陰影や凹凸感のある肌触りが得られるようになり、以て、更に優れた意匠性と、より自然で且つ重厚な木質感とが、効果的に発揮され得るのである。
【0005】
ところが、上記せる従来の木質化粧板において、より優れた意匠性と自然で且つ重厚な木質感とを得るべく、透明な塗膜からなるトップコート層をオープンポア塗装によって形成した場合、つまり、導管の開口部に対応した凹部を有するように、トップコート層を形成した場合には、以下の如き問題が生ずる恐れがあった。
【0006】
すなわち、意匠面をオープンポア塗装によって塗装する場合には、意匠面の導管の開口部が塗料にて埋まらないように、塗膜の膜厚を十分に薄くする必要がある。それ故、木質化粧板の突板の意匠面に積層形成されるトップコート層をオープンポア塗装によって形成する際には、突板意匠面の導管の開口部が埋まらないように、トップコート層の厚さが十分に薄くされる。このため、トップコート層がオープンポア塗装によって形成された木質化粧板においては、トップコート層の厚さが薄くされた分だけ、トップコート層の硬度が低下してしまい、その結果、トップコート層が、突板意匠面を保護する役割を十分に果たせなくなって、突板意匠面が傷付き易くなるといった弊害が惹起される懸念があったのである。
【0007】
なお、木質化粧板において、トップコート層の厚さを増大させれば、トップコート層の硬度が高められて、かかるトップコート層による突板意匠面の保護機能が十分に確保され得る。しかしながら、その場合には、導管の開口部に対応した凹部の深さが小さくなってしまうか、或いはそのような凹部の形成が困難となってしまい、最早、かかるトップコート層がオープンポア塗装によって形成されたものとは言えなくなる。そして、その結果、トップコート層がオープンポア塗装によって形成された木質化粧板において得られるべき意匠性と木質感の向上が、到底、望めなくなってしまうのである。
【0008】
【特許文献1】特開2002−347007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述せる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、トップコート層がオープンポア塗装にて形成されることによって、より高度な意匠性と自然で且つ重厚な木質感とが有利に発揮され得るだけでなく、突板の意匠面が十分に保護されて、かかる意匠面の損傷等が効果的に防止され得る木質化粧板を提供することにある。また、本発明にあっては、そのような木質化粧板を、より手軽に且つ低コスト製造する方法を提供することをも、その解決課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の如き課題を解決するために様々な検討を行う中で、トップコート層の突板意匠面への密着性の向上等を目的として、それら突板意匠面とトップコート層との間に形成されるシーラー層の硬度を高めることにより、シーラー層に、突板意匠面を保護する役割を、トップコート層と共に分担させることを着想した。そして、そのような高硬度のシーラー層の形成材料について、本発明者等が更に研究を重ねた結果、ポリイソシアネートの硬化剤のみを突板意匠面に塗布して生成されるポリイソシアネートの硬化物からなるシーラー層が、従来の一般的なシーラー層、即ち、ポリオールの主剤とポリイソシアネートの硬化剤とを混合した混合物を突板意匠面に塗布して生成される、ポリオールとポリイソシアネートとの硬化物(ポリウレタン)からなるシーラー層よりも、十分に高い硬度を有するようになることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その要旨とするところは、導管が開口する意匠面を備えた木質の突板が、該意匠面とは反対側の面において、硬質の基材上に固着されると共に、該突板の意匠面に、該意匠面を保護する透明な塗膜からなるトップコート層が、シーラー層を介して積層形成されてなる木質化粧板において、前記トップコート層と前記シーラー層とが、前記突板の意匠面に対して、該意匠面における前記導管の開口部を埋めない厚さで積層形成されて、それらトップコート層とシーラー層とに対して、該導管の開口部に対応した凹部がそれぞれ設けられていると共に、該シーラー層が、該突板中の水酸基を有する成分や該突板の水分と、ポリイソシアネートとの硬化反応により生成された硬化物にて、形成されていることを特徴とする木質化粧板にある。
【0012】
なお、本発明に従う木質化粧板の好ましい態様の一つによれば、前記突板の意匠面を着色するための着色層が、前記シーラー層と前記トップコート層との間に更に形成される。
【0013】
そして、本発明にあっては、(a)硬質の基材を準備する工程と、(b)導管が開口する意匠面を備えた木質の突板を、該意匠面とは反対側の面において、前記基材上に固着する工程と、(c)前記突板の前記意匠面上に、ポリイソシアネートを、該意匠面における前記導管の開口部を埋めない厚さで塗布して、該ポリイソシアネートを、該突板中の水酸基を有する成分や該突板の水分と硬化反応させることにより、該ポリイソシアネートの硬化物を生成せしめて、該突板の意匠面上に、該ポリイソシアネートの硬化物からなるシーラー層を積層形成すると共に、該シーラー層の該突板側とは反対側の表面に、該突板の前記意匠面における導管の開口部に対応した第一凹部を形成する工程と、(d)前記シーラー層の前記突板側とは反対側の表面上に、クリア塗料を、該表面に形成された前記第一凹部を埋めない厚さで塗布して、透明な塗膜を形成することにより、該透明な塗膜からなる、前記突板の意匠面を保護するトップコート層を、該シーラー層上に積層形成すると共に、該トップコート層の該シーラー層側とは反対側の表面に、該シーラー層の該第一凹部に対応した第二凹部を形成する工程とを含むことを特徴とする木質化粧板の製造方法をも、また、その要旨とするところである。
【0014】
なお、かかる本発明に従う木質化粧板の製造方法の有利な態様の一つによれば、前記突板の意匠面に前記シーラー層が積層形成された後、該突板の意匠面を着色するための着色層が、該シーラー層の該突板側とは反対側の面に積層形成され、その後、該着色層のシーラー層側とは反対側の面に対して、前記クリア塗料が塗布されて、前記透明な塗膜が形成されることにより、該透明な塗膜からなる前記トップコート層が、該シーラー層の該突板側とは反対側の面上に、該着色層を介して積層形成される。
【発明の効果】
【0015】
すなわち、本発明に従う木質化粧板にあっては、トップコート層とシーラー層側とが、突板の意匠面に対して、導管の開口部を埋めない厚さで積層形成されて、それらトップコート層とシーラー層とに対して、導管の開口部に対応した凹部が形成されている。すなわち、トップコート層とシーラー層とが、突板の意匠面に対して、オープンポア塗装によって形成されている。それ故、かかる木質化粧板では、トップコート層に形成された凹部により、表面に、深みのある陰影や凹凸感のある肌触りが生ぜしめられ、以て、更に優れた意匠性が発揮され得ると共に、より自然で且つ重厚な木質感が得られることとなる。
【0016】
そして、本発明に係る木質化粧板においては、シーラー層が、突板中の水酸基を有する成分(例えば、セルロース等)や突板の水分(例えば、突板中に含まれるか又は突板の意匠面に吸着乃至は付着する水分)と、ポリイソシアネートとの硬化反応により生成された硬化物にて形成されているため、従来のポリオールの主剤とポリイソシアネートの硬化剤とを突板意匠面に塗布して生成される、ポリオールとポリイソシアネートとの硬化物からなるシーラー層よりも、十分に高い硬度が確保され得る。それによって、トップコート層がオープンポア仕上げにより形成されているために、その厚さが薄くされて、硬度が低くされているにも拘わらず、十分に高い硬度を有するシーラー層が、かかるトップコート層と共に、突板の意匠面を保護する役割を確実且つ十分に発揮する。そして、その結果として、突板の意匠面が、トップコート層とシーラー層とにて十分に保護され、以て、突板意匠面の傷付き等が、極めて効果的に防止され得る。
【0017】
従って、かくの如き本発明に従う木質化粧板にあっては、高度な意匠性と自然で且つ重厚な木質感とが、より長期に亘って、更に安定的に発揮され得るのである。
【0018】
また、本発明に従う木質化粧板においては、突板の意匠面にポリイソシアネートのみを塗布するだけで、シーラー層が、突板中の水酸基を有する成分や突板の水分とポリイソシアネートとの硬化反応により生成された硬化物にて形成されている。それ故、例えば、ポリオールの主剤とポリイソシアネートの硬化剤との混合物を突板意匠面に塗布して生成される、ポリオールとポリイソシアネートとの硬化物にてシーラー層が形成される場合に比して、シーラー層が、極めて簡単にしかも低コストに形成され得る。
【0019】
そして、本発明に従う木質化粧板の製造方法によれば、高度な意匠性と自然で且つ重厚な木質感とが、より長期に亘って、更に安定的に発揮され得る木質化粧板が、より簡単に且つ低コストに製造され得ることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な一実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0021】
先ず、図1には、本発明に従う木質化粧板の一例として、自動車用内装部品として用いられる木質化粧板10の一部が、縦断面形態において概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態の木質化粧板10は、全体として、3〜6mm程度の厚さを有する矩形形状を呈している。そして、その裏面側部分を構成する基材12を有すると共に、かかる基材12上に、突板14が、接着剤層16を介して固着されている。
【0022】
そこにおいて、基材12は、硬質の材料、例えば、自動車用内装部品の形成材料として、多く用いられるABS樹脂やポリカーボネート/ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、ノリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性の樹脂材料を用いて形成されており、全体として、2〜5mm程度の厚さを有する矩形形状を呈している。なお、図1及び後述する図2乃至図6には、木質化粧板10の全体の厚さや基材12の厚さ、更には、基材12上に積層形成される各層の厚さが、それぞれ、誇張される等して、実際の厚さとは異なるバランスをもって示されていることが理解されるべきである。
【0023】
突板14は、例えば、オバンコール、ブビンガ、バーズアイメープル、カーリーメープル、クラロウォールナット、ホワイトアッシュバール、サペリマホガニー、スギ、ヒノキ、チェリー、チーク等の木目の美しい様々な木材を、板目や柾目、杢目等の所望の木目が現われるように、0.1〜0.3mm程度の厚さでスライスして得られる平板材からなっている。
【0024】
そして、図1及び図2から明らかなように、この突板14においては、厚さ方向の一方側の面が、意匠面18とされており、かかる意匠面18には、そこにおいて開口する導管の開口部20が、多数存在せしめられている。これら多数の導管開口部20は、図2には明示されていないものの、意匠面18上において種々の長さや幅をもって延びる凹溝形態を呈するものや、種々の大きさの穴形態を呈するもの等、様々な種類のものからなっている。また、それら様々な種類の導管開口部20は、何れも、極めて小さな深さを有している。
【0025】
一方、そのような突板14と基材12との間に介在せしめられる接着剤層16は、例えば、ウレタン系接着剤等の公知の接着剤にて形成されている。そして、かかる接着剤層16によって、突板14が、意匠面18とは反対側の面において、基材12に固着せしめられているのである。この接着剤層16の厚さは、一般に、15〜35μm程度とされる。
【0026】
また、この基材12に突板14が固着されてなる本実施形態の木質化粧板10においては、突板14の意匠面18上に、シーラー層22と着色層24とトップコート層26とが、その順番で積層形成されている。それら三つの層22,24,26のうちの中間に位置する着色層24は、有色の塗膜からなり、突板14の意匠面18を着色して、意匠面18の色調を整えること等を目的として、意匠面18上に積層されている。なお、このような着色層24を与える有色の塗料の種類は、特に限定されるものではなく、木質化粧板10を所望の色に着色可能なものの中から適宜に選定される。
【0027】
また、かかる着色層24は、突板14の意匠面18に存在する多数の導管開口部20を埋めない厚さ、例えば、30μm以下、好ましくは25μm以下程度の極めて薄い厚さとされている。これにより、着色層24には、突板14の意匠面18の各導管開口部20に対応した位置に、突板14側とは反対側の面において開口する中間凹部28が、多数形成されている。なお、着色層24の厚さが余りに薄いと、突板14の意匠面18の着色効果が十分に得られない恐れがあるところから、着色層24の厚さは、10μm以上程度とされていることが、望ましい。
【0028】
一方、かかる着色層24における突板14の意匠面18側とは反対側の面上に積層されたトップコート層26は、無色透明な塗膜からなっている。そして、突板14の意匠面18の傷付き等を防止して、意匠面18を保護すると共に、かかる意匠面18に光沢や深みを付与する等の役割をもって、木質化粧板10の表面側部分を形成している。なお、このトップコート層26を形成する塗料としては、例えば、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアリレート樹脂等の透明な樹脂層を与える樹脂材料からなるクリア塗料、或いはそれらの樹脂材料を含むクリア塗料が、適宜に用いられる。
【0029】
そして、ここでは、このトップコート層26が、突板14の意匠面18に存在する多数の導管開口部20、更には着色層24の突板14側とは反対側の面に、各導管開口部20に対応して設けられた中間凹部28を、それぞれ埋めない厚さ、例えば、150μm以下程度の極めて薄い厚さとされている。これにより、トップコート層26には、突板14の意匠面18の各導管開口部20に対応した位置に、突板14側とは反対側の表面において開口する、第二凹部たる外側凹部30が、多数形成されている。なお、トップコート層26の厚さが余りに薄いと、トップコート層26による突板14の意匠面18の保護効果が極めて不十分となる恐れがあるところから、トップコート層26の厚さは、100μm以上程度とされていることが、望ましい。
【0030】
シーラー層22は、突板14の意匠面18に対して直接に積層形成されて、突板14と着色層24との間、及び突板14とトップコート層26との間に位置せしめられている。そうして、シーラー層22が、例えば、着色層24を形成する有色の塗料の突板14への染込み等を阻止して、着色層24にて着色された突板14の意匠面18での色ムラの発生を防止する働きや、突板14の意匠面18に対する着色層24とトップコート層26のそれぞれの密着性を高める役割を十分に果たし得るようになっている。
【0031】
また、このシーラー層22は、突板14の意匠面18に存在する多数の導管開口部20を埋めない厚さ、例えば、10μm以下、好ましくは5μm以下程度の極めて薄い厚さとされている。これにより、トップコート層26には、突板14の意匠面18の各導管開口部20に対応した位置に、突板14側とは反対側の表面において開口する、第一凹部たる内側凹部32が、多数形成されている。
【0032】
そして、本実施形態においては、特に、かかるシーラー層22が、基材12に固着された突板14の意匠面18に上記の如き薄い厚さで塗布されたポリイソシアネートと、突板14中のセルロース等の水酸基を有する成分や、突板14中に含まれるか、又は突板14の意匠面18に付着乃至は吸着した水分との硬化反応により生成されたポリイソシアネートの硬化物によって、形成されている。
【0033】
すなわち、ここでは、突板14の意匠面18に塗布されたポリイソシアネートのうちの一部と、突板14中のセルロース等の水酸基を有する成分との間で、下記の化1に示される如き硬化反応が惹起されることにより、ポリイソシアネートの硬化物たるポリウレタンが生成されている。
【化1】

【0034】
また、突板14の意匠面18に塗布されたポリイソシアネートのうち、ポリウレタンの生成に使用されたものを除いた全てのもの、若しくはその一部と、突板14中に含まれる水分や、突板14の意匠面18に付着乃至は吸着された水分との間で、下記の化2に示される如き硬化反応が惹起されて、ポリイソシアネートの硬化物たるポリウレアが生成されている。
【化2】

【0035】
かくして、シーラー層22が、突板14中のセルロース等と水酸基を共用して生成されたポリウレタンと、突板14中や意匠面18上の水分との硬化反応により生成されたポリウレアとを含むポリイソシアネートの硬化物であって、しかも、そのようなポリウレタンとポリウレアとが化学的に結合せしめられてなる無色透明の樹脂層(塗膜)にて、構成されている。そして、それによって、かかるシーラー層22が、例えば、ポリオールの主剤とポリイソシアネートの硬化剤との混合物が硬化せしめられた硬化物からなる従来のシーラー層とは異なって、軟弱な反応体を有することなく、十分に高い硬度をもって形成されているのである。
【0036】
なお、このようなポリイソシアネートの硬化物たるシーラー層22を形成するポリイソシアネートの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の公知のポリイソシアネートが、それぞれ単独で、或いはそれらが組み合わされて、使用され得る。
【0037】
ところで、かくの如き構造とされた木質化粧板10を製造する際には、以下の如き手順に従って、その操作が進められることとなる。
【0038】
先ず、基材12と突板14とを準備する。基材12は、例えば、先に基材12の形成材料として例示した樹脂材料を用いた公知の射出成形を行って、基材12を、目的とする木質化粧板10の全体形状に対応した形状において成形すること等により、準備される。
【0039】
また、突板14は、前記せる如く、意匠面18に、所望の木目が現れ、且つ多数の導管開口部20が存在するように、所定の木材から薄い厚さで切り出される等して、準備される。なお、この突板14は、所定の木材から切り出された後、乾燥処理が施される。また、かかる突板14に対しては、後述する突板14への固着後等における気泡の発生を防ぐために、乾燥処理後、減圧又は加圧下において、フェノール樹脂やメラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂を含浸せしめる含浸処理が、必要に応じて実施される。
【0040】
次に、図3に示されるように、基材12の厚さ方向一方の面に、例えばウレタン系接着剤等の公知の接着剤を塗布した後、突板14を、意匠面18とは反対側の面において重ね合わせた状態で、接着剤を硬化せしめる。これにより、接着剤層16を形成すると共に、、突板14を、意匠面18とは反対側の面において、基材12に固着する。
【0041】
引き続き、図4に示される如く、基材12に固着された突板14の意匠面18上に、ポリイソシアネート34を、かかる意匠面18に存在する多数の導管開口部20を埋めないように(閉塞させないように)、導管開口部20の深さよりも薄い厚さで塗布する。その後、室温で所定時間、放置し、意匠面18上に塗布されたポリイソシアネート34と、突板14中のセルロース等の水酸基を有する成分や、突板14中に含まれる水分、或いは突板14の意匠面18に付着乃至は吸着された水分との間で硬化反応を惹起させて、ポリイソシアネート34の硬化物たるポリウレタンやポリウレアを生成させる。
【0042】
これにより、図5に示されるように、突板14の意匠面18上に、ポリウレタンとポリウレアとが化学的に結合した樹脂層からなるシーラー層22を積層形成する。つまり、オープンポア塗装にて、十分に高い硬度を有するシーラー層22を形成するのである。また、それと共に、突板14の意匠面18に存在する多数の導管開口部20のそれぞれの内面を、シーラー層22の一部にて被覆することにより、シーラー層22の突板14側とは反対側の面における各導管開口部20の形成位置に、内側凹部32をそれぞれ形成する。
【0043】
その後、図5に示されるように、例えば茶色等を呈する有色の塗料を、シーラー層22の突板14側とは反対側の面に、多数の導管開口部20に対応して形成された多数の内側凹部32を埋めないように(閉塞させないように)、内側凹部32の深さよりも薄い厚さで塗布する。これによって、シーラー層22の突板14側とは反対側の面に、着色層24を積層形成する。つまり、オープンポア塗装にて、着色層24を形成するのである。また、それと共に、各内側凹部32の内面を、着色層24の一部にて被覆することにより、着色層24のシーラー層22側とは反対側の面における各内側凹部32(各導管開口部20)の形成位置に、中間凹部28をそれぞれ形成する。
【0044】
次いで、かくして形成された着色層24のシーラー層22側とは反対側の面に、先に例示したクリア塗料を、多数の導管開口部20に対応して形成された多数の中間凹部28を埋めないように(閉塞させないように)、中間凹部28の深さよりも薄い厚さで塗布する。これによって、着色層24のシーラー層22側とは反対側の面に、クリア塗膜を形成し、以て、このクリア塗膜にて、トップコート層26を積層形成する。つまり、オープンポア塗装にて、トップコート層26を形成するのである。また、それと共に、各中間凹部28の内面を、トップコート層26の一部にて被覆することにより、トップコート層26の着色層24側とは反対側の面における各中間凹部28(各導管開口部20)の形成位置に、外側凹部30をそれぞれ形成する。
【0045】
かくして、図1に示されるように、基材12に固着された突板14の意匠面18上に、シーラー層22と着色層24とトップコート層26とが、その順番で積層形成されてなる木質化粧板10を得るのである。
【0046】
このように、本実施形態の木質化粧板10においては、基材12に固着された突板14の意匠面18に対して、シーラー層22と着色層24とトップコート層26とが、それぞれオープンポア塗装されることで積層形成されて、木質化粧板10の表面(意匠面)を与えるトップコート層26に、突板14の意匠面18に存在する多数の導管開口部20に対応した外側凹部30が多数形成されている。それによって、かかる木質化粧板10では、その表面において、深みのある陰影や凹凸感のある肌触りが得られ、以て、更に優れた意匠性と、より自然で且つ重厚な木質感とが、効果的に発揮され得るのである。
【0047】
そして、本実施形態にあっては、特に、トップコート層26がオープンポア塗装により形成されていることで、薄肉とされて、従来品のトップコート層よりも比較的に硬度が低くなっているものの、かかるトップコート層26と突板14の意匠面18との間に、十分に高い硬度を有するシーラー層22が形成されている。それによって、木質化粧板10の表面の保護する役割が、トップコート層26だけでなく、シーラー層22によっても、十分に果たされ得るようになる。そして、その結果、それらトップコート層26とシーラー層22との協働作用により、突板14の意匠面18の傷付き等が、極めて効果的に防止され得る。
【0048】
従って、本実施形態の木質化粧板10にあっては、高度な意匠性と自然で且つ重厚な木質感とが、より長期に亘って、更に安定的に発揮され得るのである。
【0049】
また、かかる木質化粧板10では、基材12に固着された突板14の意匠面18に対して、単に、ポリイソシアネートを塗布するだけで、シーラー層22が形成されているため、例えば、ポリオールの主剤とポリイソシアネートの硬化剤とを突板14の意匠面18に塗布して生成される、ポリオールとポリイソシアネートとの硬化物にてシーラー層が形成される場合に比して、シーラー層22が、極めて簡単にしかも低コストに形成され得る。
【0050】
さらに、本実施形態では、突板14の意匠面18に塗布されたポリイソシアネートが、突板14中のセルロース等の水酸基を有する成分や、突板14中に含まれる水分、或いは突板14の意匠面18に付着乃至は吸着された水分等との間での硬化反応を起こして生成されたポリイソシアネートの硬化物によって、シーラー層22が形成されている。それ故、シーラー層22の形成材料たるポリイソシアネートは、突板14の意匠面18に塗布される前に硬化してしまうようなことが可及的に回避され得る。これに対して、従来、シーラー層の形成材料として用いられていたポリオールとポリイソシアネートとの混合物は、突板14の意匠面18に塗布する前に、それらポリオールとポリイソシアネートとを混合した時点から硬化が進行せしめられる。
【0051】
従って、本実施形態の木質化粧板10にあっては、ポリオールとポリイソシアネートとの混合物を突板14の意匠面18に塗布することで、それらポリオールとポリイソシアネートとの硬化物からなるシーラー層が形成された従来品に比して、シーラー層22の形成時でのシーラー層形成材料の取扱いが、極めて容易となる。これによって、木質化粧板10の製作性の向上が、効果的に図られ得るのである。
【0052】
加えて、本実施形態の木質化粧板10においては、突板14の意匠面18上に、有色の着色層24が、無色透明のシーラー層22を介して積層形成されていることで、突板14の意匠面18、つまり化粧板10の表面が、所望の色に色付けされており、以て、より優れた意匠性が発揮され得る。
【0053】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それはあくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的の記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0054】
例えば、前記実施形態では、突板14が、その意匠面18側とは反対側の裏面において、基材12に対して直接に固着されていたが、例えば、図6に示されるように、突板14の意匠面18とは反対側の裏面に裏打ち層36を接着し、この裏打ち層36を介して、突板14を基材12に固着しても良い。
【0055】
なお、この裏打ち層36としては、一般に、厚さ:0.1〜0.2mm程度のクラフト紙や樹脂含浸紙等の紙、織布や不織布等の布帛、或いは樹脂フィルムや金網等が適宜に用いられ得る。このような裏打ち層36を突板14の裏面に固着することによって、突板14の搬送工程における損傷等が有利に防止され得ると共に、木質化粧板10の作製後に、突板14が乾燥して、割れ破損や波打ち変形が惹起されることも、効果的に防止され得ることとなる。
【0056】
また、前記実施形態では、着色層24が、シーラー層22上に形成された塗膜によって構成されていたが、例えば、シーラー層22上に有色の樹脂フィルムを貼り付けて、この有色の樹脂フィルムにて、着色層24を形成しても良い。なお、着色層24を樹脂フィルムにて形成する場合にあっても、かかる樹脂フィルムの表面に中間凹部28を形成する必要がある。また、着色層24は、本発明において必須のものではない。
【0057】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、また、言うまでもないところである。
【0059】
先ず、ABS樹脂を用いた射出成形を行って、長さ×幅×厚さが100mm×70mm×3mmの矩形平板状を呈する基材を2枚成形して、準備した。また、その一方で、オバンコール材を、板目や柾目、杢目等の所望の木目が現われ、且つ表面に、多数の導管開口部が存在するように、0.3mmの厚さでスライスして、2枚の平板材を得た。そして、それら2枚の平板材を、それぞれ突板として、準備した。
【0060】
次いで、それら2枚の基材のそれぞれの厚さ方向一方の面上に、ウレタン系接着剤を15μm以上の厚さで塗布した後、先に準備された突板を、それぞれ1枚ずつ重ね合わせて、接着(固着)した。これにより、突板が基材に接着されてなると共に、突板の基材側とは反対側の面が意匠面とされて、この意匠面に多数の導管開口部が存在せしめられてなる2枚の接合体を得た。
【0061】
その後、それら2枚の接合体のうちの1枚を用い、かかる1枚の接合体における突板の意匠面上に、ポリイソシアネートたる市販のMDIを10μmの厚さで塗布した。そして、かかるMDIと、突板中のセルロース等の水酸基を有する成分や、突板中に含まれる水分、或いは突板の意匠面に付着乃至は吸着された水分等との間での硬化反応を惹起せしめて、ポリイソシアネートの硬化物を生成させた。これにより、突板の意匠面上に、ポリイソシアネートの硬化物からなるシーラー層を積層形成した。そして、その後、このシーラー層に対する研磨を行って、かかるシーラー層を5μmの厚さとした。
【0062】
次に、シーラー層の突板側とは反対側の面上に、市販の茶色の塗料を25μmの厚さで塗布して、着色層を形成した。その後、この着色層上に、市販のアクリル樹脂を100μmの厚さで塗布して、トップコート層を形成した。かくして、シーラー層がポリイソシアネートとの硬化物からなる、本発明に従う構造を有する木質化粧板(本発明例)を得た。
【0063】
次に、残りの1枚の接合体を用い、かかる1枚の接合体における突板の意匠面上に、市販の2液ウレタンシーラーの主剤(ポリオール)と硬化剤(ポリイソシアネート)とを混合した混合物を10μmの厚さで塗布した。そして、かかる混合物を硬化せしめて、ポリオールとポリイソシアネートの硬化物を生成させた。これにより、突板の意匠面上に、ポリオールとポリイソシアネートの硬化物からなるシーラー層を積層形成した。その後、このシーラー層に対する研磨を行って、かかるシーラー層を5μmの厚さとした。
【0064】
次に、本発明例の木質化粧板における着色層とトップコート層の形成工程と同様にして、着色層とトップコート層とを、シーラー層上に積層形成した。これにより、シーラー層がポリオールとポリイソシアネートとの硬化物からなる、従来構造を有する木質化粧板(比較例)を得た。
【0065】
そして、かくして得られた本発明例の木質化粧板と比較例の木質化粧板とを用い、JIS K 5400に規定される鉛筆引っかき試験に基づいて、各木質化粧板の表面の硬度を調べた。その結果、本発明例の木質化粧板表面の鉛筆硬度が5B〜6Bであった。これに対して、比較例の木質化粧板表面の鉛筆硬度が7B以下で、本発明例の木質化粧板表面の鉛筆硬度よりも明らかに小さな値となっていた。
【0066】
このことから、本発明に従う構造を有する木質化粧板が、従来の木質化粧板よりも表面硬度が大きく、それ故に、突板の意匠面が十分に保護されて、かかる意匠面の傷付きが有利に防止され得るものであることが、明確に認識され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に従う構造を有する木質化粧板の部分縦断面説明図である。
【図2】図1における部分拡大説明図である。
【図3】本発明手法に従って、木質化粧板を製造する際に実施される工程の一例を示す説明図であって、基材に突板を固着した状態を示している。
【図4】図3に示された工程に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、突板の意匠面に、ポリイソシアネートを塗布した状態を示している。
【図5】図4に示された工程に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、突板の意匠面に形成されたシーラー層上に、着色層を積層形成した状態を示している。
【図6】本発明に従う構造を有する木質化粧板の別の例を示す図1に対応する図である。
【符号の説明】
【0068】
10 木質化粧板 12 基材
14 突板 16 接着剤層
18 意匠面 20 導管開口部
22 シーラー層 24 着色層
26 トップコート層 28 中間凹部
30 外側凹部 32 内側凹部
34 ポリイソシアネート 36 裏打ち層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導管が開口する意匠面を備えた木質の突板が、該意匠面とは反対側の面において、硬質の基材上に固着されると共に、該突板の意匠面に、該意匠面を保護する透明な塗膜からなるトップコート層が、シーラー層を介して積層形成されてなる木質化粧板において、
前記トップコート層と前記シーラー層とが、前記突板の意匠面に対して、該意匠面における前記導管の開口部を埋めない厚さで積層形成されて、それらトップコート層とシーラー層とに対して、該導管の開口部に対応した凹部がそれぞれ設けられていると共に、該シーラー層が、該突板中の水酸基を有する成分や該突板の水分と、ポリイソシアネートとの硬化反応により生成された硬化物にて、形成されていることを特徴とする木質化粧板。
【請求項2】
前記突板の意匠面を着色するための着色層が、前記シーラー層と前記トップコート層との間に更に形成されている請求項1に記載の木質化粧板。
【請求項3】
硬質の基材を準備する工程と、
導管が開口する意匠面を備えた木質の突板を、該意匠面とは反対側の面において、前記基材上に固着する工程と、
前記突板の前記意匠面上に、ポリイソシアネートを、該意匠面における前記導管の開口部を埋めない厚さで塗布して、該ポリイソシアネートを、該突板中の水酸基を有する成分や該突板の水分と硬化反応させることにより、該ポリイソシアネートの硬化物を生成せしめて、該突板の意匠面上に、該ポリイソシアネートの硬化物からなるシーラー層を積層形成すると共に、該シーラー層の該突板側とは反対側の表面に、該突板の前記意匠面における導管の開口部に対応した第一凹部を形成する工程と、
前記シーラー層の前記突板側とは反対側の表面上に、クリア塗料を、該表面に形成された前記第一凹部を埋めない厚さで塗布して、透明な塗膜を形成することにより、該透明な塗膜からなる、前記突板の意匠面を保護するトップコート層を、該シーラー層上に積層形成すると共に、該トップコート層の該シーラー層側とは反対側の表面に、該シーラー層の該第一凹部に対応した第二凹部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする木質化粧板の製造方法。
【請求項4】
前記突板の意匠面に前記シーラー層を積層形成した後、該突板の意匠面を着色するための着色層を、該シーラー層の該突板側とは反対側の面に積層形成し、その後、該着色層のシーラー層側とは反対側の面に対して、前記クリア塗料を塗布して、前記透明な塗膜を形成することにより、該透明な塗膜からなる前記トップコート層を、該シーラー層の該突板側とは反対側の面上に、該着色層を介して積層形成するようにした請求項3に記載の木質化粧板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−46866(P2010−46866A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212008(P2008−212008)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(593125056)フジゲン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】