説明

木質化粧板及びその製造方法

【課題】突板に対するクリア層の剥離強度がより十分に高められてなる木質化粧板を提供する。
【解決手段】突板12の裏面に、合成樹脂製の基材層26を射出成形により積層形成する一方、該突板12の表面14に、2液硬化型アクリルウレタン塗料からなる塗膜層16を積層形成し、更に、該塗膜層16の突板12側とは反対側の面に、アクリル樹脂からなるクリア層24を射出成形により積層形成して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質化粧板とその製造方法とに係り、特に、合成樹脂製の基材層上に、木質の突板と透明な合成樹脂からなるクリア層とが積層形成されてなる木質化粧板と、そのような木質化粧板の有利な製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の物品の外観や見栄えの向上を図るために用いられる化粧板の一種として、木目調の加飾が施されてなる化粧板があり、例えば、家具や家電製品の表面材等として、或いは自動車用内装部品等として利用されてきている。そして、一般に、そのような化粧板には、表面が傷付き難くされていることが求められ、また、とりわけ、高級家具や高級乗用車用内装部品等として利用されるものに対しては、よりリアルな木質感を有していることが要求される。
【0003】
それらの要求を満たし得る化粧板としては、硬質の合成樹脂からなる基材層に対して、薄肉の木質の突板が積層され、更に、かかる突板の表面に、保護層としての透明なクリア層が積層形成されてなる木質化粧板が、知られている。この木質化粧板では、クリア層によって、表面の耐傷付き性が高められていると共に、リアルウッドの突板が用いられていることによって、よりリアルな木質感が得られるようになっているのである。
【0004】
ところが、そのような従来の木質化粧板の多くのものは、クリア層が、クリア塗料を用いたスプレー塗装を複数回に亘って行うこと等によって形成されているため、クリア層の形成工程が煩雑であった。しかも、スプレー塗装によって形成される塗膜層では、平滑な表面を得ることが困難なため、クリア層を塗膜層にて形成する場合には、塗装工程の後の研磨工程が必須となっていた。それ故、表面にクリア塗膜が形成された突板が基材層に積層されてなる、従来の木質化粧板にあっては、その製造時の工程数が多く、そのために、製造コストが嵩み、且つ生産性の低いものとなってしまうことが避けられなかったのである。
【0005】
かかる状況下、例えば、特開平3−30922号公報(特許文献1)には、各種機器のキャビネットや家具等の表面材に利用される化粧板として、木質の突板の表面に、透明な合成樹脂製のクリア層が、また、その裏面に、合成樹脂製の基材層が、それぞれ射出成形により積層形成されてなる木質化粧板が明らかにされている。このような木質化粧板にあっては、1回の射出成形工程を行うだけで、クリア層が突板の表面に積層形成され、しかも、成形型のキャビティ面を鏡面化することによって、クリア層に対する研磨工程が省略される。そのため、かかる木質化粧板では、突板表面にクリア塗膜が形成されてなる従来品に比して、大幅な工数削減と十分な低コスト化が有利に実現され得るのである。
【0006】
ところが、前記公報に開示の木質化粧板においては、クリア層を構成する透明樹脂が、突板と化学的に接着乃至は固着することがなく、突板表面の凹凸部や孔部等に食い込む、所謂アンカー効果によって、突板と接合しているに過ぎなかった。しかも、突板の裏面に基材層を射出成形する一次成形を行った後、突板表面にクリア層を射出成形する二次成形を行う場合には、一次成形時の射出圧によって、突板表面の凹凸部や孔部が潰れてしまうことがあり、そうなった場合には、クリア層の突板表面に対するアンカー効果を十分に得られなくなることさえもあったのである。
【0007】
それ故、突板表面にクリア層を直接に射出成形してなる従来の木質化粧板は、突板表面とクリア層との接合強度が十分なものであるとは言い難いものであった。従って、温度変化や湿度変化の著しい過酷な環境下で使用される物品、例えば、場所によっては、氷点下から100℃を超える程の大幅な温度変化が生ずる自動車の車室内に設置される自動車用内装部品等として、従来の木質化粧板を使用した場合には、クリア層が、突板から剥離してしまう恐れがあったのである。
【0008】
なお、特開平5−131487公報(特許文献2)には、突板の表面とクリア層との間にプライマー樹脂をベースとした着色剤からなる着色層を介装することで、突板表面とクリア層の密着性の改善が図られてなる木質化粧板が、明らかにされている。ところが、かかる木質化粧板では、着色剤のベース樹脂たるプライマー樹脂として、熱可塑性のビニルブチラール樹脂が使用されているところから、この木質化粧板にあっても、100℃を超える高温に晒される箇所での使用が余儀なくされる自動車用内装部品等に用いた場合に、クリア層が突板表面から剥離してしまうといった危惧が払拭しきれなかったのである。また、着色層が積層形成された突板表面に対してクリア層を射出成形する際に、着色層が軟化流動し、それによって、意匠性が低下する恐れさえもあったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−30922号公報
【特許文献2】特開平5−131487公報報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、突板の裏面と表面に、樹脂基材層と透明樹脂からなるクリア層とが、それぞれ射出成形により積層形成されてなる木質化粧板において、突板に対するクリア層の剥離強度がより十分に高められるように改良された構造を提供することにある。また、本発明は、そのような木質化粧板を有利に製造する方法を提供することをも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、木質の突板の表面に、透明な合成樹脂からなるクリア層が射出成形により積層形成される一方、該突板の裏面に、合成樹脂製の基材層が射出成形により積層形成されてなる木質化粧板において、前記クリア層が、アクリル樹脂にて構成されていると共に、該クリア層と前記突板の表面との間に、2液硬化型アクリルウレタン塗料からなる塗膜層が介装されていることを特徴とする木質化粧板を、その要旨とするものである。
【0012】
なお、本発明の有利な態様の一つによれば、前記突板の裏面に、該突板よりも剛性の高いシートからなる補強層が接着されており、前記基材層が、該補強層を介して、該突板の裏面に積層形成される。そして、好ましくは、かかる補強層が、金属薄板にて構成されることとなる。
【0013】
また、本発明の望ましい態様の一つによれば、溶融樹脂の含浸性を有する接合層が、該突板の裏面に固着した状態で、該突板と該基材層との間に介装される。なお、基材層が、補強層を介して突板の裏面に積層形成される場合には、接合層が、補強層の突板側とは反対側に固着した状態で、補強層と基材層との間に介装されることとなる。
【0014】
そして、本発明は、木質の突板の表面に、透明な合成樹脂からなるクリア層が射出成形により積層形成される一方、該突板の裏面に、合成樹脂製の基材層が射出成形により積層形成されてなる木質化粧板を製造する方法であって、(a)前記突板の表面に、2液硬化型アクリルウレタン塗料からなる塗膜層を形成すると共に、該塗膜層を、流動性は有しないものの、完全には硬化していない不完全硬化状態にまで硬化させる工程と、(b)前記突板の表面に不完全硬化状態で形成されている前記塗膜層の該突板側とは反対側の面にて、キャビティ面の一部が構成された第一の成形キャビティを形成した後、該第一の成形キャビティ内に、溶融状態のアクリル樹脂を射出充填して、固化させる一方、該塗膜層を完全に硬化させることにより、該突板の表面に、完全硬化状態の該塗膜層を介して、前記クリア層を積層形成する工程と、(c)前記突板の裏面側に第二の成形キャビティを形成した後、該第二の成形キャビティ内に、前記基材層を与える合成樹脂を溶融状態において射出充填して、該溶融状態の合成樹脂を固化させることにより、該突板の裏面に、該基材層を積層形成する工程とを含むことを特徴とする木質化粧板の製造方法をも、また、その要旨とするものである。
【0015】
なお、本発明の好ましい態様の一つによれば、前記突板の裏面に前記基材層を積層形成するのに先立って、溶融樹脂の含浸性を有する接合層を該突板の裏面に固着する工程が実施される。また、そのような接合層の突板裏面への固着工程が実施される場合には、かかる接合層を介して、基材層を突板の裏面に積層形成した後、塗膜層を介して、クリア層を突板の表面に積層形成する工程を実施することが、望ましい。
【0016】
また、本発明の有利な態様の一つによれば、クリア層の形成前に、基材層を突板の裏面に積層形成する際に、不完全硬化状態の塗膜層が形成された突板が、第一の型が有する第一のキャビティ形成部と、第二の型が有する第二のキャビティ形成部との間に形成される前記第二の成形キャビティ内に、該第一のキャビティ形成部に載置された状態で収容されると共に、該第一の型の温度が該第二の型の温度よりも低い温度に設定された状態下で、該第二の成形キャビティ内に、該基材層を与える前記合成樹脂が溶融状態で射出充填されることとなる。なお、この場合には、第一の型の温度が、第二の型の温度よりも、10〜30℃低い温度に設定されていることが、望ましい。また、好ましくは、第一のキャビティ形成部と第二のキャビティ形成部のうちの少なくとも何れか一方が、凹所形態を有して構成される。そして、それらのうちの凹所形態を有しないものは、平面形態を有していても良い。
【発明の効果】
【0017】
すなわち、本発明に従う木質化粧板にあっては、突板表面に積層形成される塗膜層中に含まれるイソシアネートが、突板の木質組織乃至は繊維組織を構成するセルロース中の水酸基とウレタン結合し、それによって、突板と塗膜層とが、化学的に強固に接合される。また、塗膜層中にアクリル樹脂が含まれるため、この塗膜層中のアクリル樹脂と、クリア層を構成するアクリル樹脂とを、クリア層の射出成形時に融着させることが可能となり、以て、塗膜層とクリア層も、同一樹脂の分子レベルでの混ざり合いにより強固に接合される。そして、それにより、突板表面とクリア層とが、塗膜層を介して、化学的に強固に接合され得ることとなる。しかも、塗膜層が、熱硬化性のアクリルウレタン樹脂にて構成されているため、かかる塗膜層が熱可塑性樹脂にて構成される場合とは異なって、木質化粧板を高温環境下で使用しても、クリア層が突板表面から剥離し易くなってしまうことが、有利に解消され得る。
【0018】
従って、かくの如き本発明に従う木質化粧板においては、突板に対するクリア層の剥離強度がより十分に且つ効果的に高められ得るのである。
【0019】
そして、本発明に従う木質化粧板の製造方法では、クリア層が、不完全硬化状態の塗膜層を介して、突板表面に射出成形される。そのため、かかる射出成形時に、塗膜層中のアクリル樹脂とクリア層を形成するアクリル樹脂とが有利に熱融着される。また、塗膜層が、射出成形時の熱で軟化流動することもない。更に、突板表面に対するクリア層の射出成形時に、突板と塗膜層とが、上記のようにして、化学的に強固に接合される。
【0020】
従って、かくの如き本発明に従う木質化粧板の製造方法によれば、突板に対するクリア層の剥離強度が飛躍的に高められてなる木質化粧板を、所望の意匠性を十分に確保しつつ、低コストに且つ効率的に製造することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に従う木質化粧板の一実施形態を示す縦断面説明図である。
【図2】図1に示された木質化粧板の一部を構成する本木シートを示す縦断面説明図である。
【図3】図1に示された木質化粧板を製造する際に実施される工程の一例を示す説明図であって、図2に示された本木シートを、基材層成形キャビティ内に収容配置した状態を示している。
【図4】図3に示された工程に引き続いて実施される工程を示す説明図であって、本木シートが収容配置された基材層成形キャビティ内に、基材層を形成する溶融樹脂を射出充填した状態を示している。
【図5】図4に示された工程に引き続いて実施される工程を示す説明図であって、本木シートの裏面に基材層が積層形成された中間成形体を、クリア層成形キャビティ内に収容配置した状態を示している。
【図6】図5に示された工程に引き続いて実施される工程を示す説明図であって、中間成形体が収容配置されたクリア層成形キャビティ内に、クリア層を形成する溶融樹脂を射出充填した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0023】
先ず、図1には、本発明に従う木質化粧板の一例として、自動車用内装部品に用いられる木質化粧板の一部が、縦断面形態において概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態の木質化粧板10は、突板12の意匠面14たる表面に、下塗り層16が積層形成される一方、突板12の裏面に、補強層18と接合層20とが積層形成された本木シート22を有している。そして、この本木シート22の表面(下塗り層16の突板12側とは反対側の面)に、クリア層24が、また、その裏面(接合層20の補強層18側とは反対側の面)に、基材層26が、それぞれ射出成形により積層形成されている。換言すれば、ここでは、木質化粧板10が、基材層26の表面上に、接合層20と補強層18と突板12と下塗り層16とクリア層24とが、その順番で積層形成された矩形平板状の積層構造体にて構成されている。また、かかる木質化粧板10は、2.0〜7.0mm程度の厚さを有している。なお、以下からは、便宜上、突板12の意匠面14側となる木質化粧板10の図1での上側の面を表面と言い、その反対側の面を裏面と言うこととする。
【0024】
より具体的には、本木シート22の突板12は、木質化粧板10に対して、リアルな木質感を与えるために設けられるものであって、例えば、オバンコール、ブビンガ、バーズアイメープル、カーリーメープル、ホワイトアッシュ、サペリマホガニー、タモ、スギ、ヒノキ、チェリー、チーク等の木目の美しい様々な天然木を、板目や柾目、杢目等の所望の木目が現われるように、0.1〜0.5mm程度の厚さでスライスして得られる平板材からなっている。なお、図1及び後述する図2乃至図6では、本実施形態の木質化粧板10の構造の理解を容易とするために、突板12を始めとした各層の厚さが、クリア層24や基材層26の厚さと比較して、実際とは異なる誇張された大きさで示されていることが理解されるべきである。
【0025】
補強層18は、0.1〜0.5mm程度の厚さを有するアルミニウムの薄板からなり、突板12と略同じ大きさの矩形平板形態を呈している。そして、そのような補強層18が、木材と金属とを強固に接着可能な公知の接着剤からなる接着剤層28を介して、突板12の裏面に接着されている。
【0026】
なお、後述するように、本実施形態の木質化粧板10においては、基材層26が、本木シート22をインサート品としたインサート射出成形により、本木シート22の裏面側に積層形成されるのであるが(図3及び図4参照)、その際に、成形型(34)内に形成される基材層成形キャビティ(46)内への本木シート22の収容操作を迅速且つスムーズに実施する上において、本木シート22が、ある程度の剛性を有していることが望ましい。そこで、本実施形態の木質化粧板10では、所定の剛性を有する補強層18が、突板12の裏面に積層されることによって、本木シート22の剛性確保が図られている。
【0027】
従って、補強層18は、本木シート22に所望の剛性を付与し得る程度の剛性を有し、且つ基材層26の射出成形時の圧力や熱によって損傷しないものであれば、その材質が、何等限定されるものではない。即ち、補強層18としては、例えば、鉄や銅等の他の金属薄板や、ポリプロピレンやABS樹脂等の硬質の樹脂シート、或いは不織布、更にはガラス繊維やカーボン繊維等の繊維シート等が、アルミニウムの薄板に代えて、何れも採用可能なのである。
【0028】
また、補強層18が、高い伝熱性を有する材質のものである場合には、後述するように、突板12の表面に対して、クリア層24を、下塗り層16を介して射出成形する際に(図5及び図6参照)、クリア層24の溶融樹脂の熱が、成形金型(52)と補強層18の両方に奪われるようになり、それによって、溶融樹脂の熱影響による突板12の意匠面14の変色等の不具合の発生が、効果的に防止され得るようになる。それ故、補強層18は、上記の如き剛性を備えた材料の中でも、特に、高い伝熱性を有する金属薄板にて構成されていることが、より望ましいのである。なお、補強層18は、本発明において必須のものではなく、省略可能である。
【0029】
接合層20は、ここでは、例えば、クラロウォールナットやマンガシロノ等の木目の粗い天然目を、木目の向きに制限を加えることなく、0.1〜0.5mm程度の厚さでスライスして得られる、突板12と略同じ大きさの矩形平板材からなっている。そして、そのような接合層20は、木材と金属とを強固に接着可能な公知の接着剤からなる接着剤層30を介して、補強層18の裏面(突板12側とは反対側の面)に接着されている。
【0030】
上記したように、本実施形態の木質化粧板10においては、基材層26が積層形成される突板12の裏面に、アルミニウム薄板からなる補強層18が接着されている。それ故、基材層26は、突板12の裏面側に、補強層18を介して、射出成形により積層形成されることとなる。ところが、基材層26を構成する樹脂材料は、常に、金属材料との接合性乃至は密着性に優れたものが選択されるわけではない。そのため、基材層26を補強層18に対してダイレクトに積層形成した場合には、それら基材層26と補強層18との間の接合性乃至は密着性が不充分となる可能性がある。そこで、ここでは、基材層26に対する接合性乃至は密着性に優れた接合層20が、基材層26と補強層18との間に介装されるように、補強層18の裏面に積層形成されているのである。
【0031】
すなわち、本実施形態では、接合層20が、表面に凹凸部や孔部をより多く有する木目の粗い木板にて構成されていることで、かかる接合層20上への基材層26の射出成形時に、基材層26を形成する溶融樹脂が、接合層20の表面の凹凸部や孔部、或いは木質繊維等に、確実に食い込んだり含浸したりするようになっている。そして、それにより、アンカー効果が有利に発揮されて、基材層26が、接合層20に対して強固に接合し、ひいては接合層20と補強層18とを介して、突板12に対しても、基材層26が強固に接合するようになっているのである。
【0032】
なお、接合層20は、補強層18よりも、合成樹脂製の基材層26に対する接合性乃至は密着性が高いものであれば、その材質が、特に限定されるものではない。それ故、本実施形態の木質化粧板10ように、補強層18がアルミニウム薄板からなる場合には、接合層20として、例えば、木綿からなる天然織布、或いはガラス繊維やカーボン繊維等を編織した繊維シート、更には各種の不織布等が、木板に代えて採用可能である。また、補強層18が各種の織布や不織布等にて構成される場合、若しくは補強層18が設けられない場合には、接合層20を省略することもできる。勿論、接合層20を公知の接着剤にて構成しても良い。
【0033】
基材層26は、ここでは、1.0〜5.0mm程度の厚さを有する不透明なABS樹脂製の矩形平板からなっている。また、この矩形平板状の基材層26は、突板12よりも所定寸法だけ大きな長さと幅とを有している。そして、かかる基材層26が、本木シート22の裏面側において、接合層20に積層形成されている。即ち、突板12の裏面に対して、補強層18と接合層20とを介して積層形成されているのである。
【0034】
また、基材層26には、本木シート22の外周面(側面)の全体を被覆する薄肉の被覆層32が、クリア層24の突板12側の面に固着した状態で、一体形成されている。これにより、突板12の側面が、基材層26の被覆層32にて保護されて、かかる突板12の側面の傷付きや空気との接触が防止されるようになっている。また、そのような基材層26が不透明とされていることで、被覆層32により、本木シート22の外周面の外部から視認が不可能とされて、木質化粧板10の意匠性の向上が図られている。
【0035】
なお、基材層26は、木質化粧板10に対して、自動車用内装部品として適正な剛性と所定の形状とを与えると共に、木質化粧板10の十分な軽量性と良好な成形性とを確保するものである。従って、かかる基材層26の形成材料には、一般に、硬質の樹脂材料が用いられるのであり、そして、それらの中から、汎用的なABS樹脂の他、自動車用内装部品の形成材料として一般に用いられる、例えば、ポリカーボネート/ABS樹脂や、ガラス繊維を含むABS樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ノリル樹脂等の熱可塑性樹脂が、適宜に用いられ得るのである。
【0036】
また、本実施形態においては、本木シート22の外周面を被覆して、クリア層24に固着する被覆層32が基材層26に一体形成されている。それ故、かかる基材層26の形成材料には、上記に例示した熱可塑性樹脂の中でも、クリア層24を形成する透明な樹脂材料と良好に熱融着する樹脂材料が、より好適に用いられる。そして、後述するように、ここでは、クリア層24の形成材料としてアクリル樹脂が用いられているため、基材層26の形成材料としては、具体的には、ABS樹脂や、ポリカーボネート/ABS樹脂、ガラス繊維強化ABS樹脂等が、更に有利に用いられるのである。
【0037】
一方、本木シート22の表面に位置する下塗り層16は、2〜200μm程度の厚さを有している。本発明では、特に、かかる下塗り層16が、イソシアネートを含む2液硬化型アクリルウレタン塗料からなる透明な塗膜層にて構成されている。そして、かかる塗膜層、即ち熱硬化性のアクリルウレタン樹脂からなる下塗り層16が、突板12の意匠面14上に直接に積層形成されている。
【0038】
それ故、下塗り層16は、突板12の意匠面14上に直接に積層形成された状態において、2液硬化型アクリルウレタン塗料に含まれるイソシアネートが、突板12の木質組織乃至は繊維組織を構成するセルロース中に含まれる水酸基とウレタン結合を形成するようになる。また、下塗り層16の一部が、突板12の意匠面14に存在する凹凸部や孔部、或いは木質繊維等に食い込んだり含浸したりする状態となる。かくして、本実施形態の木質化粧板10では、下塗り層16が、突板12と化学的に結合し、また、それに加えて、十分なアンカー効果を発揮する。それによって、下塗り層16と突板12とが、化学的に、更には物理的に極めて強固に接合されている。
【0039】
なお、そのような2液硬化型アクリルウレタン塗料の塗膜層からなる下塗り層16の形成方法は、何等限定されるものではない。即ち、下塗り層16は、2液硬化型アクリルウレタン塗料を、突板12の意匠面14に対して、例えば、ローラや刷毛等を用いて塗布したり、或いは吹付塗装したりする公知の各種の塗装方法の何れかが適宜に採用されて、形成されるのである。
【0040】
クリア層24は、0.5〜5.0mm程度の厚さを有し、本発明では、特に、アクリル樹脂にて構成されている。そして、かかるクリア層24が、突板12の意匠面14に形成された、アクリルウレタン樹脂からなる下塗り層16の突板12側とは反対側の面上に、射出成形により直接に積層形成されている。
【0041】
このようなアクリル樹脂からなるクリア層24は、下塗り層16に対して射出成形されたときに、2液硬化型アクリルウレタン塗料の塗膜層、即ち、アクリルウレタン樹脂からなる下塗り層16が、未だ完全に硬化していない状態となっていると、かかる下塗り層16中のアクリル樹脂と熱融着するようになる。従って、本実施形態の木質化粧板10では、クリア層24と下塗り層16とを同一樹脂の分子レベルで混ざり合わせることによって、それらクリア層24と下塗り層16とをより強固に接合させることが可能となっているのである。
【0042】
ところで、かくの如き構造を有する木質化粧板10は、例えば、以下のような手順に従って製造されることとなる。
【0043】
すなわち、先ず、図2に示されるような構造を有する本木シート22を作製する。この本木シート22の作製に際しては、先ず、平板状の突板12を、所定の木材から切り出す等して、準備する。なお、この突板12を所定の木材から切り出す際には、意匠面14に、所望の木目が現れるように為す。そして、所定の木材から切り出された突板12には、必要に応じて、公知の乾燥工程が施される。
【0044】
また、突板12とは別に、接合層20を構成する平板状の木板を所定の木材から切り出す等して、準備する。なお、木板を所定の木材から切り出す際には、木目の向き等が制限されることはないものの、かかる木材として、突板12を切り出す木材よりも木目の粗いものが選択される。そして、所定の木材から切り出された木板には、必要に応じて、公知の乾燥工程が施される。また、その一方で、補強層18を構成するアルミニウムの薄板を、例えばプレス成形等により、所定のブランク等から切り出して、準備する。
【0045】
次に、木材と金属とを強固に接着可能な公知の接着剤を用いて、突板12の裏面に接着剤層28を形成した後、先に準備されたアルミニウム薄板を、かかる接着剤層28を介して、突板12の裏面に接着する。これにより、突板12の裏面に補強層18を積層形成して、突板12の剛性を高める。
【0046】
その後、接着剤層28を構成する接着剤と同様な接着剤を用いて、補強層18の裏面(突板12側とは反対側の面)に接着剤層30を形成した後、先に準備された木板を、かかる接着剤層30を介して、補強層18の裏面に接着する。これにより、突板12の裏面に、補強層18を介して、接合層20を積層形成する。
【0047】
引き続いて、補強層18と接合層20が裏面に積層形成された突板12の意匠面14上に、2液硬化型アクリルウレタン塗料を公知の手法により塗装して、塗膜層からなる下塗り層16を形成する。これによって、本木シート22を得るのである。なお、この本木シート22においては、前記したように、突板12と下塗り層16とが、化学的及び物理的に強固に接合されている。
【0048】
次に、上記のようにして作製された本木シート22をインサート品として用いたインサート射出成形を実施して、本木シート22の裏面に基材層26を積層形成するのであるが、その際には、例えば、図3に示されるような構造を有する射出成形用の第一の成形型34が用いられる。
【0049】
図3から明らかなように、第一の成形型34は、位置固定の固定型36と、この固定型36に対して、図3中の上下方向に接近/離間可能に対向配置された可動型38とを有している。また、固定型36の可動型38との対向面には、本木シート22よりも一周り大きな固定型側キャビティ形成凹部40が設けられている。一方、可動型38の固定型36との対向面には、基材層26の被覆層32を除いた部分に対応した形状を有する可動型側キャビティ形成凹部42が形成されている。なお、図3中、44はスプルーである。
【0050】
そして、このような構造の第一の成形型34と本木シート22とを用いてインサート射出成形を実施する際には、図3に示されるように、先ず、固定型側キャビティ形成凹部40内に、本木シート22を、下塗り層16が固定型側キャビティ形成凹部40の底面に重ね合わされるように収容する。このとき、本木シート22は、その外周面と固定型キャビティ形成凹部40の内周面との間に、基材層26の被覆層32に対応した形状の隙間が形成されるように配置される。
【0051】
その後、固定型36と可動型38とを型合せすることにより、固定型36と可動型38との間に、第二の成形キャビティとしての基材層成形キャビティ46を形成する。この基材層成形キャビティ46は、キャビティ面が、固定型側キャビティ形成凹部40及び可動型側キャビティ形成凹部42の各内周面と接合層20の裏面と本木シート22の外周面とにて構成されて、基材層26に対応した全体形状を有している。なお、固定型側キャビティ形成凹部40の側面と本木シート22の外周面との間には、被覆層32を与える被覆層成形キャビティ部分48が、基材層成形キャビティ46の一部として形成される。
【0052】
そして、ここでは、特に、基材層成形キャビティ46内に収容された本木シート22の下塗り層16(アクリルウレタン樹脂)が、流動性は有しないものの、完全には硬化していない不完全硬化状態とされていなければならない。また、そのような下塗り層16の不完全硬化状態は、後述する基材層26の射出成形が完了し、更に、クリア層24の形成材料たる溶融樹脂の、後述するクリア層成形キャビティ(62)内への射出充填が完了するまで、維持されている必要がある。
【0053】
下塗り層16の形成材料である2液硬化型アクリルウレタン塗料は、主剤と硬化剤とが混合されて、加熱されることにより、硬化反応が進行して、三次元架橋構造を有する熱硬化性のアクリルウレタン樹脂からなる塗膜層を形成するものである。従って、ここで言う下塗り層16の不完全硬化状態とは、アクリルウレタン樹脂が、常温の状態か、或いは加熱されている状態かに拘わらず、塑性流動することがなく、且つ架橋度が100%未満である状態のことを言う。
【0054】
また、ここで言うアクリルウレタン樹脂の架橋度とは、下記の要領で求められたものを言う。先ず、重量:W0 のアクリルウレタン樹脂を、25℃の酢酸エチル・酢酸ブチル混合液中に、10分間浸漬した後、このアクリルウレタン樹脂を含む溶液を濾紙で濾過する。その後、濾紙上の不溶解分を採取し、真空乾燥した後、不溶解分の重量:W1 を精秤する。そして、その精秤された不溶解分の重量:W1 と、最初に酢酸エチル・酢酸ブチル混合液中に浸漬されたアクリルウレタン樹脂の重量:W0 を下記の式に代入して、架橋度(重量%)を求める。
架橋度(重量%)=(W1/W0)×100
【0055】
すなわち、2液硬化型アクリルウレタン塗料の塗膜層からなる下塗り層16を突板12の意匠面14上に形成してから、本木シート22を、熱風式乾燥炉内等に投入して、例えば、標準硬化条件である50℃×1時間に満たない50℃×30分の条件や90℃×2分等の条件で、硬化操作を実施することにより、下塗り層16を、流動性は喪失しているものの、下塗り層16の架橋度が100%に達していない不完全硬化状態とする。そして、そのような状態において、本木シート22を、固定型側キャビティ形成凹部40内、更には基材層成形キャビティ46内に収容配置するのである。なお、下塗り層16を不完全硬化状態とする硬化条件は、例えば、最終的に得られる木質化粧板10の外観や品質・性能を考慮して、適宜に決定される。
【0056】
本工程で使用される本木シート22の不完全硬化状態とされた下塗り層16(アクリルウレタン樹脂)の架橋度の具体的な値は、特に限定されるものではないものの、本木シート22を作製した時点での下塗り層16の架橋度が、好ましくは85.0〜99.9%程度とされる。何故なら、かかるアクリルウレタン樹脂の架橋度が85.0%未満であると、下塗り層16が軟らか過ぎるため、本木シート22を固定型側キャビティ形成凹部40内に配置したときに、下塗り層16の表面が、かかる固定型側キャビティ形成凹部40の底面との接触状態下で変形する恐れがあるからであり、また、下塗り層16の流動性が完全に喪失できない可能性があるからである。一方、アクリルウレタン樹脂の架橋度が99.9%を超える場合には、未架橋の部分が少な過ぎ、そのために、後述するように、かかる未架橋のアクリルウレタン樹脂中のアクリル樹脂が、クリア層24の射出成形時において、クリア層24を形成するアクリル樹脂との熱融着が不充分となる恐れがあるからである。そして、かかる下塗り層16の架橋度は、85.0〜99.0%程度とされていることが、より好ましく、更に望ましくは85.0〜95.0%程度である。
【0057】
そして、上記のように、下塗り層16が不完全硬化状態とされている本木シート22を基材層成形キャビティ46内に収容配置したら、図4に示されるように、基材層26を形成する樹脂材料(ここでは、ABS樹脂)の溶融樹脂50を、射出成形機(図示せず)から射出し、スプルー44を通じて、基材層成形キャビティ46内に充填する。その後、その状態で所定時間だけ放置して、溶融樹脂50を固化させることにより、本木シート22の接合層20の裏面上に、基材層26を積層形成する。また、それと共に、本木シート22の外周面上に、被覆層32を、基材層26の一部として形成する。かくして、本木シート22の裏面に基材層26が積層形成されると共に、本木シート22の外周面上に被覆層32が形成されてなる中間成形体51(図5参照)を得る。
【0058】
このような基材層26の形成工程(中間成形体51の成形工程)では、基材層26の射出成形時に、溶融樹脂50の一部が、木目の粗い木板からなる接合層20の裏面に存在する凹凸部や孔部、或いは木質繊維の間等に入り込む。それによって、アンカー効果が有利に発揮されて、基材層26が、接合層20に対して、ひいては突板12を含む本木シート22に対して、より一層強固に接合される。また、基材層26の一部からなる被覆層32が、本木シート22の外周面上に形成されるため、そのような被覆層32にて、突板12の側面の空気との接触が遮断される。更に、基材層26が不透明なABS樹脂等にて構成されることで、本木シート22の外周面が外部から視認されないようになる。
【0059】
また、上記の如き基材層26の形成工程では、基材層26の溶融樹脂の熱によって、下塗り層16の硬化が進行しないように為す必要がある。それには、例えば、本木シート22が、下塗り層16の表面において接触して、載置された状態で収容される固定型側キャビティ形成凹部40を備えた固定型36の温度を20〜30℃程度とする一方、本木シート22とは非接触で離隔配置される可動型キャビティ形成凹部42を有する可動型38の温度を40〜60℃程度として、固定型36の温度を可動型38の温度よりも好ましくは10〜30℃程度低く設定した状態で、インサート射出成形を実施して、基材層26を形成するのである。このような方法を採用することによって、下塗り層16の不完全硬化状態を有利に維持しつつ、基材層26を形成することが可能となる。
【0060】
次に、上記のようにして作製された中間成形体51をインサート品として用いたインサート射出成形を実施して、本木シート22の意匠面14側にクリア層24を積層形成するのであるが、その際には、例えば、図5に示されるような構造を有する射出成形用の第二の成形型52が用いられる。
【0061】
図5から明らかなように、第二の成形型52は、位置固定の固定型54と、この固定型54に対して、図5中の上下方向に接近/離間可能に対向配置された可動型56とを有している。また、固定型54の可動型56との対向面には、中間成形体51を収容可能な収容凹部58が設けられている。一方、可動型56の固定型54との対向面には、クリア層24に対応した形状を有する可動型側キャビティ形成凹部60が形成されている。なお、図5中、44はスプルーである。
【0062】
そして、このような構造の第二の成形型52と中間成形体51とを用いてインサート射出成形を実施する際には、図5に示されるように、先ず、中間成形体51を、固定型54の収容凹部58内に収容する。このとき、下塗り層16の表面(突板12側とは反対側の面)と、かかる下塗り層16の表面に連続する被覆層32の表面とが、収容凹部58の開口部を通じて、固定型54の可動型56との対向面において外部に露呈されるように、中間成形体51が収容凹部58内に配置される。
【0063】
その後、固定型54と可動型56とを型合せすることにより、固定型54と可動型56との間に、第一の成形キャビティとしてのクリア層成形キャビティ62を形成する。このクリア層成形キャビティ62は、キャビティ面が、可動型側キャビティ形成凹部60の内周面と、固定型54の収容凹部58内に収容された中間成形体51の下塗り層16の表面と、被覆層32の表面とにて構成されて、クリア層24に対応した全体形状を有している。
【0064】
次に、図6に示されるように、クリア層24を形成するアクリル樹脂の溶融樹脂64を、射出成形機(図示せず)から射出し、スプルー44を通じて、クリア層成形キャビティ62内に充填する。その後、その状態で所定時間だけ放置して、溶融樹脂64を固化させることにより、本木シート22における突板12の意匠面14上に積層された下塗り層16の表面上に、クリア層24を積層形成する。このとき、溶融樹脂64の熱が、スプルー44の内周面から可動型56と固定型54、更には被覆層32を通じて、伝熱性の高いアルミニウム薄板からなる補強層18に奪われる。かくして、溶融樹脂64の熱により、突板12において、意匠面14が変色する等のダメージを受けることが、良好に防止されるようになる。
【0065】
そして、前記したように、ここでは、特に、先に実施された基材層26の形成工程において終始維持されている下塗り層16の不完全硬化状態が、クリア層24を形成する本工程においても、クリア層成形キャビティ62内への溶融樹脂64の射出充填が完了するまでの間に限って、更に維持されている必要がある。
【0066】
それによって、クリア層成形キャビティ62内に射出充填されたアクリル樹脂の溶融樹脂64が、不完全硬化状態のアクリルウレタン樹脂からなる下塗り層16中のアクリル樹脂と熱融着する。その結果、クリア層24が、下塗り層16に対して同種材質同士による分子レベルでの混ざり合いが生じて強固に結合すると共に、下塗り層16と強固に接合した突板12に対して、下塗り層16を介して強固に接合する。また、クリア層24は、下塗り層16との接合面の外周部において、基材層26の一部からなる被覆層32の表面と、熱融着により固着する。
【0067】
そして、クリア層24が固化される一方で、下塗り層16が、クリア層24を形成する溶融樹脂64の熱により加熱されて、完全に硬化する。つまり、クリア層24が溶融状態から固化するまでの間に、それと並行して、下塗り層16も不完全硬化状態から完全硬化状態となる。かくして、図1に示される如き構造を有する、目的とする木質化粧板10を得るのである。
【0068】
このように、本実施形態の木質化粧板10にあっては、突板12とクリア層24とが、下塗り層16を介して、化学的にも、物理的にも強固に接合されており、それによって、クリア層24の突板12に対する剥離強度が、十分に且つ効果的に高められている。それ故、木質化粧板10が、氷点下から100℃以上もの著しい温度変化が起きる車室内に設置される自動車用内装部品として、長期に亘って使用されても、クリア層24が、突板12の意匠面14から剥離してしまうようなことが、極めて効果的に防止され得る。
【0069】
また、かかる木質化粧板10では、クリア層24の射出成形時に、下塗り層16が、流動性が失われた状態で、不完全硬化しているため、クリア層24を形成する溶融樹脂64と共に、下塗り層16が流動することが回避され得る。そして、その結果、クリア層24を通じて外部から視認され得る下塗り層16に流動跡等が発生して、意匠性が低下するようなことが、効果的に防止され得る。
【0070】
さらに、本実施形態においては、突板12の裏面にアルミニウム薄板からなる補強層18が設けられて、本木シート22の剛性が、そのような補強層18を有しないものに比して有利に高められている。これによって、固定型側キャビティ形成凹部40内の所定位置への本木シート22の配置作業を行う際に、その作業性の向上が有利に図られている。
【0071】
また、本実施形態の木質化粧板10では、突板12と基材層26との間に、アルミニウム薄板からなる補強層18が介装されているにも拘わらず、かかる補強層18と基材層26との間に、基材層26との接着性に優れた木板からなる接合層20が介装されていることによって、突板12と基材層26とが、強固に接合されている。このため、車室内でも温度変化の激しい箇所に、木質化粧板10が使用されても、突板12と基材層26とが剥離するようなことも、効果的に防止され得る。
【0072】
さらに、本実施形態では、本木シート22の突板12の意匠面14上にクリア層24を射出成形するのに先立って、基材層26が、本木シート22の接合層20の裏面上に射出成形されている。このため、例えば、基材層26の射出成形前にクリア層24を射出成形する場合とは異なって、クリア層24の射出成形時に、クリア層24を形成するアクリル樹脂の溶融樹脂64の射出圧によって、接合層20の裏面に存在する凹凸部や孔部が潰れてしまうようなことが有利に回避され、以て、そのような凹凸部や孔部の潰れによりアンカー効果が低下して、基材層26の接合層20に対する接合性が低下してしまうようなことが、未然に防止され得ることとなる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態に関する具体的な記載によって、何等限定的に解釈されるものではない。
【0074】
例えば、補強層18と接合層20は省略可能である。なお、補強層18や接合層20を省略する場合にあっても、望ましくは、基材層26の射出成形操作が、クリア層24の射出成形操作に先立って実施される。
【0075】
また、下塗り層16を形成する2液硬化型アクリルウレタン塗料中に、所定の顔料を添加、混合して、下塗り層16を着色しても良い。更に、下塗り層16は、透明な2液硬化型アクリルウレタン塗料を用いて透明な状態で形成し、この下塗り層16の突板12側とは反対側の面上に、顔料が添加、混合された2液硬化型アクリルウレタン塗料からなる着色層を更に形成しても良い。この場合には、着色層を不完全硬化状態とした状態で、クリア層24の射出成形が実施されることとなる。
【0076】
更にまた、突板12を公知の方法で染色したり、或いは突板12の意匠面14にワイピング等により顔料を染み込ませるようにしても良い。
【0077】
加えて、本発明は、自動車用内装部品以外にも、家具や建築材、家電製品等の各種の物品の表皮材として用いられる木質化粧板の何れに対しても、有利に適用され得る。
【0078】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、また、言うまでもないところである。
【0080】
先ず、オバンコールの天然木を0.2mmの厚さでスライスして、長さ×幅が100mm×70mmの3枚の平板材を得た。これら3枚の平板材を、突板として、準備した。また、それとは別に、クロラウォールナットを0.2mmの厚さでスライスして、準備された突板と同じ大きさを有するものの、それよりは木目の粗い3枚の平板材を得た。そして、それら3枚の平板材を、接合層を構成する木板として、準備した。更に、突板や木板と同じ大きさを有すると共に、厚さが0.3mmとされた3枚のアルミニウム薄板を作製し、それら3枚のアルミニウム薄板を、補強層を構成する金属板として、準備した。
【0081】
そして、準備された3枚の突板のそれぞれの裏面に対して、準備されたアルミニウム薄板を、市販の接着剤によりそれぞれ接着した後、それら各アルミニウム薄板の突板側とは反対側の面に対して、準備された木板を、市販の接着剤によりそれぞれ接着した。これにより、突板の裏面に、アルミニウム薄板からなる補強層と、木目の粗い木板からなる接合層とが積層形成されてなる3枚の積層シートを得た。
【0082】
引き続いて、3枚の積層シートのうちの1枚を用い、この1枚の本木シートの突板の意匠面上に、市販の2液硬化型アクリルウレタン塗料を、吹付塗装により、20μmの厚さで塗装して、2液硬化型アクリルウレタン塗料の塗膜層からなる下塗り層を形成した。その後、この下塗り層が突板の意匠面上に積層形成された積層シートを熱風式乾燥炉内に投入し、90℃で2分間加熱して、下塗り層を、流動性は有しないものの、完全には硬化していない不完全硬化状態とした。これにより、突板の裏面に、補強層と接合層とが積層形成される一方、突板の意匠面に、2液硬化型アクリルウレタン塗料の塗膜層からなる下塗り層が不完全硬化状態で積層形成された本木シートAを得た。
【0083】
一方、上記した本木シートAの作製工程とは別に、ビニルブチラール樹脂をベースとした着色剤を調製した。即ち、市販のビニルブチラール樹脂5重量部と、メタノール50重量部と、トルエン50重量部とを混合し、更にこれに着色顔料を添加して、ビニルブチラール樹脂をベースとした着色剤を調製した。そして、先に作製された積層シートのうちの1枚を用い、この積層シートの突板の意匠面上に、上記のようにして調製した着色剤を、吹付塗装により50〜100g/m2 の塗布量で塗装して、着色層を形成した。そして、これを自然乾燥により完全に硬化させた。これにより、突板の裏面に、補強層と接合層とが積層形成される一方、突板の意匠面に、ビニルブチラール樹脂をベースとした着色層が完全硬化状態で積層形成された本木シートBを得た。
【0084】
また、残りの1枚の積層シートの突板の意匠面上には、何等、積層物を形成せず、かかる積層シート、即ち、突板の裏面に補強層と接合層とが積層形成されているだけの積層シートを、本木シートCとした。
【0085】
そして、本木シートAと、図3に示される如き構造を有する射出成形用型とを用い、図4に示されるように、本木シートAをインサート品としたインサート射出成形を公知の手法により実施して、本木シートAの接合層の裏面に、ABS樹脂からなる基材層を積層形成した。
【0086】
なお、この本木シートAに対する基材層の形成工程では、本木シートAがキャビティ面に接触して載置される側の金型(図4における固定型36)の温度を20〜30℃程度とする一方、本木シートAと非接触で離隔位置する、基材層の成形キャビティのキャビティ面を備えた金型(図4における可動型38)の温度を40〜60℃程度として、前者の金型の温度を後者の金型の温度よりも10〜30℃程度低く設定した状態で、基材層の射出成形を実施した。かくして、基材層の射出成形中に、基材層の溶融樹脂の温度により、本木シートAが載置される金型の温度が上昇し、それによって、不完全硬化状態の下塗り層の硬化が進行することが防止され、以て、下塗り層の不完全硬化状態維持されるようにした。
【0087】
その後、基材層が形成された本木シートAと、図5に示される如き構造を有する射出成形用型とを用い、図6に示されるように、基材層が形成された本木シートAをインサート品としたインサート射出成形を公知の手法により実施して、本木シートAの下塗り層の表面に、アクリル樹脂からなるクリア層を積層形成した。かくして、突板とアクリル樹脂からなるクリア層との間に、2液硬化型アクリルウレタン塗料の塗膜層からなる下塗り層が介装されてなる、本発明に従う構造を備えた木質化粧板を得た。そして、この木質化粧板を試験例1とした。
【0088】
また、本木シートBと、図3及び図5に示される如き構造を有する2種類の射出成形用型とを用い、試験例1の木質化粧板を作製する際と同様に、本木シートBをインサート品としたインサート射出成形を実施して、本木シートBの接合層の裏面に、ABS樹脂からなる基材層を積層形成した後、基材層が積層形成された本木シートBをインサート品としたインサート射出成形を実施して、本木シートBの着色層の表面、アクリル樹脂からなるクリア層を積層形成した。かくして、突板とクリア層との間に、ビニルブチラール樹脂をベースとした着色層が介装されてなる、従来構造を備えた目的とする木質化粧板を得た。そして、この木質化粧板を試験例2とした。
【0089】
さらに、本木シートCと、図3及び図5に示される如き構造を有する2種類の射出成形用型とを用い、試験例1や試験例2の木質化粧板を作製する際と同様に、本木シートCをインサート品としたインサート射出成形を実施して、本木シートCの接合層の裏面に、ABS樹脂からなる基材層を積層形成した後、基材層が積層形成された本木シートCをインサート品としたインサート射出成形を実施して、本木シートCの突板の意匠面上に、アクリル樹脂からなるクリア層を直接に積層形成した。かくして、突板の意匠面に対して、クリア層が直接に形成されてなる、従来構造を備えた木質化粧板を得、この木質化粧板を試験例3とした。
【0090】
そして、上記のようにして得られた試験例1〜3の3種類の木質化粧板を用い、それら試験例1〜3の木質化粧板に対して、引っ張り剪断剥離試験をJIS K 6850に準拠して実施し、突板からのクリア層の剥離の有無を調べた。
【0091】
その結果、本発明に従う構造を有する試験例1の木質化粧板では、突板からのクリア層の剥離が、何等認められなかった。これに対して、従来構造を有する試験例2及び3の木質化粧板では、突板からのクリア層の剥離が認められた。これによって、本発明に従う構造を有する木質化粧板において、突板に対するクリア層の剥離強度が、より十分に高められていることが、明確に認識され得るのである。
【符号の説明】
【0092】
10 木質化粧板 12 突板
16 下塗り層 18 補強層
20 接合層 22 本木シート
24 クリア層 26 基材層
34 第一の成形型 46 基材層成形キャビティ
52 第二の成形型 62 クリア層成形キャビティ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質の突板の表面に、透明な合成樹脂からなるクリア層が射出成形により積層形成される一方、該突板の裏面に、合成樹脂製の基材層が射出成形により積層形成されてなる木質化粧板であって、
前記クリア層が、アクリル樹脂にて構成されていると共に、該クリア層と前記突板の表面との間に、2液硬化型アクリルウレタン塗料からなる塗膜層が介装されていることを特徴とする木質化粧板。
【請求項2】
木質の突板の表面に、透明な合成樹脂からなるクリア層が射出成形により積層形成される一方、該突板の裏面に、合成樹脂製の基材層が射出成形により積層形成されてなる木質化粧板を製造する方法であって、
前記突板の表面に、2液硬化型アクリルウレタン塗料からなる塗膜層を形成すると共に、該塗膜層を、流動性は有しないものの、完全には硬化していない不完全硬化状態にまで硬化させる工程と、
前記突板の表面に不完全硬化状態で形成されている前記塗膜層の該突板側とは反対側の面にて、キャビティ面の一部が構成された第一の成形キャビティを形成した後、該第一の成形キャビティ内に、溶融状態のアクリル樹脂を射出充填して、固化させる一方、該塗膜層を完全に硬化させることにより、該突板の表面に、完全硬化状態の該塗膜層を介して、前記クリア層を積層形成する工程と、
前記突板の裏面側に第二の成形キャビティを形成した後、該第二の成形キャビティ内に、前記基材層を与える合成樹脂を溶融状態において射出充填して、該溶融状態の合成樹脂を固化させることにより、該突板の裏面に、該基材層を積層形成する工程と、
を含むことを特徴とする木質化粧板の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−103421(P2013−103421A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249354(P2011−249354)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】