説明

木質板の乾燥処理方法

【課題】木質板の厚さや熱板の温度が制限されることなく乾燥時間の短縮が図れると同時に、木質板の材質改良を連続的に行うことのできる木質板の乾燥処理方法を提供する。
【解決手段】木質板10の裏側2から厚さ方向中心に向けて、かつ少なくとも1つの端面3へと連通するように溝部7を形成する木質板加工工程100と、溝部7を形成した木質板10を2枚用意し、2枚の木質板10a,10bの裏側2a,2b同士を向かい合わせるとともに、一方の木質板10aの表側1aを上向きに、他方の木質板10bの表側1bを下向きにした状態で、上下2枚の熱板20a,20bを有する熱板プレスの間に挿入し、熱板プレスにより2枚の木質板10a,10bを熱圧して乾燥する熱圧乾燥工程200とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質板の乾燥処理方法に関するものである。より詳しくは、熱板プレスを用いて木質板を乾燥させ、さらに材質改良を行う乾燥処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築材料等に用いる木質板を乾燥処理するために、乾燥機を用いた乾燥処理が行われてきた。また、エネルギー効率や乾燥時間などを向上させるために、極薄い単板に、熱圧プレスを用いて乾燥処理を行うことが試みられてきた。
しかし、熱板プレスを用いた単板の乾燥処理を行う場合には、急激な加熱により大量に発生する蒸気をいかに外部に放出するかが問題となっている。
【0003】
これに対する対応策として、適当な時間間隔でプレスを軽く開き、内部の蒸気を放散する、いわゆる「息抜き」が行われている。
【0004】
また、他の対応策として、特許文献1には、熱板と単板類の間に「蒸気逃し用部材」を挿入して、蒸気を放出する発明が開示されている。
図9は、「蒸気逃し用部材」を用いた熱板プレスに単板を挿入した状態を示す正面図である。熱板プレスの2枚の熱板60a,60bの間に単板50が挿入されており、さらに熱板60a,60bと単板50の間に蒸気逃し用部材70a,70bが挿入されている。
蒸気逃し用部材70a,70bは、熱の伝導がほとんど阻害されず、蒸気の通過が可能な特殊なメッシュにより形成されており、熱圧時に単板50の表面から蒸気を放出できるようになっている。
【特許文献1】特開昭62−299689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の「息抜き」を行う方法を厚みのある木質板に用いると、熱板より遠く、相対的に低温となる木質板の中層に高圧の蒸気が集まり、息抜き時に圧締圧(プレスの圧力)を瞬間的に開放するだけでも、木質板内部で蒸気の急激な膨張が起こり、木質板を内部から爆砕することになってしまう。
従って、この方法では、熱板の温度を極端に高くすることはできない。また、木質板の厚さも厚くすることができず、通常その適用範囲は1mm以下の薄い板に限られてしまう。
【0006】
一方、熱板と木質板の間に「蒸気逃し用部材」を挿入する方法の場合には、乾燥中に圧締圧(プレスの圧力)を緩めなくてもよいため、熱板温度を多少高めても、木質板が爆砕する心配はない。従って、木質板の厚さ方向の水分傾斜が許容範囲内に低下するまで、時間をかけて熱圧し続けさえすれば、木質板の乾燥割れを避けることができる。
しかし、この場合も、木質板の中層に集まっている蒸気を木質板の表面から放散させることに変わりはないため、木質板が厚くなればなるほど乾燥時間が長くなり、効率が悪くなってしまう。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、木質板の厚さや熱板の温度が制限されることなく乾燥時間の短縮が図れると同時に、木質板の材質改良を連続的に行うことのできる木質板の乾燥処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る発明の木質板の乾燥処理方法は、木質板(10)に、その少なくとも1つの端面(3)へと連通するように空間部(8)を形成する木質板加工工程(100)と、前記木質板(10)を熱板プレスの間に挿入し、前記熱板プレスにより前記木質板(10)を熱圧して乾燥する熱圧乾燥工程(200)とを有することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記木質板加工工程(100)において、前記空間部(8)を前記木質板(10)の表裏面の一方(2)に連通又は近接させて形成し、前記熱圧乾燥工程(200)において、前記熱板プレスで前記木質板(10)の表裏面の他方(1)から熱圧することを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明の木質板の乾燥処理方法は、木質板(10)の裏側(2)から厚さ方向中心に向けて、かつ少なくとも1つの端面(3)へと連通するように溝部(7)を形成する木質板加工工程(100)と、前記溝部(7)を形成した木質板(10)を2枚用意し、前記2枚の木質板(10a,10b)の裏側(2a,2b)同士を向かい合わせるとともに、一方の木質板(10a)の表側(1a)を上向きに、他方の木質板(10b)の表側(1b)を下向きにした状態で、上下2枚の熱板(20a,20b)を有する熱板プレスの間に挿入し、前記熱板プレスにより前記2枚の木質板(10a,10b)を熱圧して乾燥する熱圧乾燥工程(200)とを有することを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一つに記載の発明において、前記熱圧乾燥工程(200)において、前記木質板(10)に10〜30%の範囲内の圧縮ひずみを与えながら熱圧して乾燥させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一つに記載の発明において、前記熱圧乾燥工程(200)の後、さらに熱板(20)で熱圧を続けて前記木質板(10)の寸法安定性を向上させる寸法安定化工程(300)を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に係る発明は、請求項5に記載の発明において、前記寸法安定化工程(300)で前記木質板(10)の寸法安定性を向上させた後、寸法安定化後の木質板(10)に漂白液又は調色液を塗布し熱板(20)の余熱で熱圧して前記木質板(10)の色を調整する色調整工程(400)を設けたことを特徴とする。
【0014】
なお、括弧内の記号は、発明を実施するための最良の形態および図面に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、木質板加工工程で、木質板に、その少なくとも1つの端面へと連通するように空間部を形成するので、この空間部を熱圧乾燥時に発生する蒸気の逃げ道とすることができる。そして、熱圧乾燥工程で熱板プレスにより木質板を熱圧して乾燥することができる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、空間部を木質板の表裏面の一方に連通又は近接させて形成するとともに、熱板プレスで木質板の表裏面の他方から熱圧するので、蒸気の逃げ道である空間部を熱板プレスの熱板から遠い位置に配置することができる。そして、この状態で熱板プレスにより熱圧して乾燥するので、木質板内部に発生する蒸気は、熱板から遠い空間部に向けて移動し、連通した端面から放出される。従って、木質板の厚さや熱板の温度が制限されることなく、蒸気を適切に放出することができ、乾燥時間を短縮することができる。
【0017】
また、請求項3に記載の発明によれば、木質板加工工程で、木質板の裏側から厚さ方向中心に向けて、かつ少なくとも1つの端面へと連通するように溝部を形成するので、この溝部を熱圧乾燥時に発生する蒸気の逃げ道とすることができる。
また、熱圧乾燥工程で、まず溝部を形成した2枚の木質板の裏側同士を向かい合わせるので、2枚の木質板を合わせた複合板の厚さ方向中心に、蒸気の逃げ道である溝部を配置することができる。そして、一方の木質板の表側を上向きに、他方の木質板の表側を下向きにした状態で、上下2枚の熱板を有する熱板プレスの間に挿入するので、蒸気の逃げ道である溝部を上下2枚の熱板から最も遠い位置に配置することができる。
この状態で熱板プレスにより熱圧して乾燥するので、木質板内部に発生する蒸気は、熱板と接する木質板の表側から、熱板から最も遠い裏側の溝部に向けて移動し、連通した端面から放出される。従って、木質板の厚さや熱板の温度が制限されることなく、蒸気を適切に放出することができ、乾燥時間を短縮することができる。
【0018】
また、請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一つに記載の発明の作用効果に加えて、熱圧乾燥工程において、木質板に10〜30%の範囲内の圧縮ひずみを与えながら熱圧して乾燥させるので、木質板の乾燥割れを防止することができる。
すなわち、熱圧により木質板の表面に垂直方向の圧縮応力が加わると、木質板内部では、水平方向に拡がるように、ポアソン比に相当する量の横圧縮応力が生じる。一方、熱圧による乾燥過程においては、木質板内部で水平方向の収縮による引張応力が生じる。上記範囲内の圧縮ひずみのもとでは、これら2つの応力が相殺されるので、木質板の乾燥割れを防止することができるのである。
【0019】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一つに記載の発明の作用効果に加えて、熱圧乾燥工程の後、さらに熱板で熱圧を続けて木質板の寸法安定性を向上させる寸法安定化工程を設けたので、木質板の材質改良を連続的に行い、使用時に吸湿による寸法変化率等を改善することができる。
【0020】
また、請求項6に記載の発明によれば、請求項5に記載の発明の作用効果に加えて、寸法安定化工程の後、寸法安定化後の木質板に漂白液又は調色液を塗布し熱板の余熱で熱圧して木質板の色を調整する色調整工程を設けたので、熱圧乾燥工程と寸法安定化工程で木質板の色調が暗褐色等に変化した場合に、漂白や染色を行って使用目的に合致した色に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、図1乃至図6を参照して、本発明の実施形態1に係る木質板の乾燥処理方法について説明する。
図1は、実施形態1に係る木質板の乾燥処理方法を示す工程図である。実施形態1に係る木質板の乾燥処理方法は、木質板加工工程100、熱圧乾燥工程200、寸法安定化工程300、及び色調整工程400から構成されている。
【0022】
最初に木質板加工工程100について説明する。木質板加工工程100は、熱板プレスで乾燥処理を行う前に、事前に木質板を加工処理するものである。
図2及び図3はともに、木質板加工工程100で加工処理を行った後の木質板10を示す斜視図である。
木質板10は、表側1、裏側2、端面3,4及び側面5,6の6面から構成された板材である。そして、木質板加工工程100では、木質板10の裏側2から厚さ方向中心に向けて溝7を形成する。溝7は、端面3から端面4へと連通するように形成されており、裏側2の面が閉じられた場合であっても、端面3から端面4まで通ずるようになっている。
【0023】
なお、本実施形態では、溝7を3本形成したが、その数は特に限定されない。
また、本実施形態においては、端面3から端面4へと連通するように溝7を形成したが、溝7を、側面5から側面6へと連通するように形成してもよい。
なお、溝7を繊維に平行に形成すれば、強度面で有利であり、一方、溝7を繊維を切断する方向に形成すれば、強度は落ちるものの、乾燥しやすくなる。よって用途に合わせて溝7の方向を決めるとよい。
また、溝7を1つの端面(例えば端面3)のみに連通するように形成してもよい。このようにすれば、一方の端面(例えば端面4)に溝7が現れず、意匠性を向上させることができる。ただし、後に説明する熱圧乾燥工程200において蒸気を効率的に放出するためには、2つの端面に連通するように形成しておくことが好ましい。
【0024】
図4は、木質板加工工程100で加工処理を行った後の木質板10を示す正面図である。木質板10に形成する溝部7の深さ、幅、密度等は、個々の最終用途と断面寸法により決定すべきものであるが、好ましい範囲は以下のとおりである。
すなわち、溝の深さDは木質板の厚さTの1/10〜1/2倍、溝の幅Wは2mm〜木質板の厚さT、溝のピッチPは木質板の厚さTの1/2〜2倍とするとよい。
【0025】
次に、熱圧乾燥工程200について説明する。
図5及び図6は、熱圧乾燥工程200において木質板を熱板プレス内に挿入した状態を示す正面図であり、図5はプレス前を、図6はプレス中を示している。
【0026】
熱圧乾燥工程200では、図5に示すように、まず熱板プレス内に木質板10を挿入する。このとき、木質板加工工程100で溝部7を形成した木質板10を2枚用意する。本実施形態では、木質板10aと木質板10bの2枚の木質板を使用する。
そして、木質板10aの裏側2aと木質板10bの裏側2bを向かい合わせる。そうすると、木質板10aと木質板10bを合わせた複合板が完成し、その厚さ方向中心に溝部7a,7bが配置される。さらに、木質板10aの表側1aを上向きに、木質板10bの表側1bを下向きにした状態で、熱板プレス内に挿入する。
【0027】
実施形態1における熱板プレスは、上下2枚の熱板20a,20bを有しており、上側の熱板20aを降下させて、上下から木質板10a,10bを熱圧するようになっている。
また、熱板プレス内には、圧縮ひずみを制限するためのディスタンスバー30a,30bが挿入されている。ディスタンスバー30a,30bの高さを調整することで、所望の圧縮ひずみに達するまで木質板10a,10bの変形を進め、それ以上圧縮しないように制限することができる。
【0028】
木質板10a,10bを挿入した後、図6に示すように、上側の熱板20aを降下させて2枚の熱板20a,20bで挟み込んで、木質板10a,10bを熱圧して乾燥する。熱板20a,20bの温度は100℃以上とする。
乾燥時間の経過と共に乾燥による木質板の収縮と、圧縮クリープによる変形が進み、熱板20aとディスタンスバー30a,30bの間隙は小さくなり、荷重が大きい場合は、最終的に間隙はなくなる。
【0029】
木質板10a,10bに与える圧力は、2〜30kgf/cm2の範囲内の圧力とすることが好ましい。あるいは、木質板10a,10bに与える圧縮ひずみは、10〜30%の範囲内の圧縮ひずみとすることが好ましい。
上記範囲内の圧力あるいは圧縮ひずみを与えることにより、木質板10a,10bの乾燥割れを防止することができる。
すなわち、熱圧により木質板10a,10bの表面に垂直方向の圧縮応力が加わると、木質板内部では、水平方向に拡がるように、ポアソン比に相当する量の横圧縮応力が生じる。一方、熱圧による乾燥過程においては、木質板内部で水平方向の収縮による引張応力が生じる。上記範囲内の圧力あるいは圧縮ひずみのもとでは、これら2つの応力が相殺されるので、木質板10a,10bの乾燥割れを防止することができるのである。
【0030】
ここで、溝部を設けることにより木質板内部に発生する蒸気を効率よく放出できる仕組みについて説明する。
一般に、木質板の表側に熱板を押し当てると,木質板の温度は表面で最も高く、内部、特に、中層部で最も低くなる。高温の部位で気化した水分は、より低温の部位に向かって流れるから、木質板の中層部では蒸気が集中することになる。
今、同じ厚さの2枚の木質板を重ね合わせ、上下に熱板を押し当てて加熱すると、2枚の木質板の境界面はこの複合板の中層であるから、蒸気の最も多く集中している層となる。この境界面に隙間(溝部)を設ければ、2枚の板に発生した蒸気はその隙間(溝部)から効率よく外部に排出できる。熱板温度が高ければ高いほど、蒸気の排出は激しくなる。
【0031】
なお、使用上、裏面の溝が問題になる製品については適用できないが、通常の板製品、例えば、床板、壁板、框材などでは、裏面の多少の溝は許容される。
【0032】
次に、寸法安定化工程300について説明する。
寸法安定化工程300は、熱圧乾燥工程200の後、さらに熱板20a,20bで熱圧を続けて木質板10a,10bの寸法安定性、耐腐朽性、耐虫害性等を向上させるものである。
このときの処理温度と処理時間は、樹種と使用目的により異なるが、熱圧乾燥工程200の後、熱板20a,20bを180〜230℃の温度とし、少なくともさらに3時間熱圧を続けることが好ましい。
なお、熱圧乾燥工程200及び寸法安定化工程300は連続的に進行するものであり、初めは乾燥が進行し、途中から乾燥と寸法安定性向上がともに進み、その後寸法安定化処理のみが行われる。
【0033】
次に、色調整工程400について説明する。
色調整工程400は、寸法安定化工程300で木質板10a,10bの寸法安定性を向上させた後、寸法安定化後の木質板10a,10bに漂白液又は調色液を塗布し熱板で熱圧して、木質板10a,10bの色を調整するものである。
【0034】
寸法安定化工程300で高温の熱圧を続けた結果、処理後の木質板10a,10bの色調が暗褐色に変化する場合がある。
そこで、寸法安定化工程300の後、室温程度まで温度が低下した木質板10a,10bの表面に、酸素系、塩素系などの漂白液を低濃度で塗布する。そして、熱圧乾燥工程200と同様に、熱板プレス内に木質板10a,10bを挿入し、100℃以下の熱板20a,20bにより表面に熱を与え、薬液の拡散を促して木質板10a,10b内部全体を均一に漂白する。なお、このとき与える熱は寸法安定化工程300時よりも低温でよいので、寸法安定化工程300後の熱板の余熱を利用することが可能であり、あらためて熱板を加熱しないで処理することもできる。
同様に、調色液を塗布して熱圧し、使用上好ましい色に染色してもよい。
【0035】
なお、本実施形態においては、寸法安定化工程300の後に色調整工程400を設けたが、寸法安定化工程300を設けない場合であっても、熱圧乾燥工程200での処理により木質板が変色することもあるため、熱圧乾燥工程200の後に色調整工程400を設けて色を調整するようにしてもよい。
また、寸法安定化工程300と色調整工程400は、必ずしも設ける必要はない。
【0036】
実施形態1に係る木質板の乾燥処理方法によれば、木質板加工工程100で、木質板10の裏側2から厚さ方向中心に向けて、端面3,4へと連通するように溝部7を形成するので、この溝部7を熱圧乾燥時に発生する蒸気の逃げ道とすることができる。
【0037】
また、熱圧乾燥工程200で、まず溝部7を形成した2枚の木質板10a,10bの裏側2a,2b同士を向かい合わせるので、2枚の木質板10a,10bを合わせた複合板の厚さ方向中心に、蒸気の逃げ道である溝部7a,7bを配置することができる。そして、一方の木質板10aの表側1aを上向きに、他方の木質板10bの表側1bを下向きにした状態で、上下2枚の熱板20a,20bを有する熱板プレスの間に挿入するので、蒸気の逃げ道である溝部7a,7bを上下2枚の熱板20a,20bから最も遠い位置に配置することができる。
【0038】
この状態で熱板プレスにより熱圧して乾燥するので、木質板内部に発生する蒸気は、熱板20a,20bと接する木質板10a,10bの表側1a,1bから、熱板20a,20bから最も遠い裏側2a,2bの溝部7a,7bに向けて移動し、連通した端面3,4から放出される。従って、木質板10a,10bの厚さや熱板の温度が制限されることなく、蒸気を適切に放出することができ、乾燥時間を短縮することができる。
【0039】
また、木質板加工工程100において、溝部7を一方の端面3から他方の端面4へと連通するように形成するので、蒸気の放出を両側の端面3,4から行うことができ、よりスムーズに蒸気を放出することができる。
【0040】
また、熱圧乾燥工程200において、木質板10a,10bに2〜30kgf/cm2の範囲内の圧力を与えながら熱圧して乾燥させることで、木質板10a,10bの乾燥割れを防止することができる。
同様に、熱圧乾燥工程200において、木質板10a,10bに10〜30%の範囲内の圧縮ひずみを与えながら熱圧して乾燥させることで、木質板10a,10bの乾燥割れを防止することができる。
【0041】
また、熱圧乾燥工程200において、熱板プレスの間に圧縮ひずみを制限するディスタンスバー30a,30bを挿入するので、所望の圧縮ひずみに達するまで木質板10a,10bの変形を進めることができる。
【0042】
また、熱圧乾燥工程200の後、さらに熱板20a,20bで熱圧を続けて木質板10a,10bの寸法安定性を向上させる寸法安定化工程300を設けたので、木質板10a,10bの材質改良を連続的に行い、使用時に吸湿による寸法変化率等を改善することができる。
【0043】
また、寸法安定化工程300の後、寸法安定化後の木質板10a,10bに漂白液又は調色液を塗布し熱板20a,20bで熱圧して木質板10a,10bの色を調整する色調整工程400を設けたので、熱圧乾燥工程200と寸法安定化工程300で木質板10a,10bの色調が暗褐色等に変化した場合に、漂白や調色を行って使用目的に合致した色に調整することができる。
【0044】
なお、実施形態1においては、木質板10aと木質板10bの溝部7の形成位置を同一とし、熱板プレス内で向かい合わせたときに、それぞれの溝部7aと溝部7bの位置が対応するようにしたが、2つの木質板の溝部7の形成位置は同一である必要はない。
【0045】
以下、本発明の実施形態1に係る木質板の乾燥処理方法により、木質板を乾燥させた実験結果を示す。
【0046】
木質板の樹種はラジアータパインで板目材または柾目材を用いた。板の寸法は、幅105mm×長さ300mm×厚さ36mmであり、裏側の溝部の加工は、切込み数3本、切込み幅3mm、切込み深さ12mm、切込み間隔は両端からそれぞれ16mm、中央部は32mm間隔とした。
【0047】
このように加工した2枚の木質板について、それぞれの裏側(溝加工された面)同士を向かい合わせに重ねて、表側から熱板で挟み込んだ。この際、圧縮ひずみを制限するために、プレス両側に厚さ62mmのディスタンスバーを挿入した。プレス圧力は3kgf/cm2一定に設定した。
【0048】
熱板温度は215℃に設定した。木質板の温度は100℃付近までは急速に上昇した後、一旦停滞するが、水分の減少とともに徐々に上昇し、最終的に熱板プレスの設定温度215℃に到達した。この状態で3〜4時間保持した後、プレスを解圧して木質板を取り出した。
【0049】
取り出した木質板は、いずれも干割れが無かったが、暗褐色に変色していた。そこで室温に冷却後、板表面に過酸化水素水と次亜塩素酸ナトリウムを混合した濃度10%の漂白液を塗布した後、再び60℃の熱板プレスに挿入して、圧力3kgf/cm2の一定荷重をかけた。その状態で1分間保持した後、プレスを解圧して木質板を取り出した。
【0050】
以上の処理を行ったもののうち、一部の板について、表面にパテントブルーを4%添加した水溶液を塗布した後、再び60℃の熱板プレスに挿入して、プレス圧力3kgf/cm2の圧力をかけた。その状態で1分間保持した後、プレスを解圧して木質板を取り出した。
【0051】
以上の処理を行って得られた乾燥材の材質を調べた結果は表1の通りである。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、曲げ強度及び曲げヤング率は高温熱処理乾燥によりほとんど変化せず、吸湿による寸法変化率は長さで20%、幅で34%、厚さで71%改善されていることがわかる。
【0054】
次に、図7を参照して、本発明の実施形態2に係る木質板の乾燥処理方法について説明する。
実施形態2に係る木質板の乾燥処理方法は、実施形態1に係る木質板の乾燥処理方法と同様に、図1に示す木質板加工工程100、熱圧乾燥工程200、寸法安定化工程300、及び色調整工程400から構成されているが、木質板加工工程100と熱圧乾燥工程200の内容が異なっている。
【0055】
図7は、実施形態2に係る熱圧乾燥工程200において木質板を熱板プレス内に挿入した状態を示す正面図である。
本実施形態においては、木質板加工工程100で、木質板10の端面3,4へと連通するように空間部8を形成する。なお空間部8は、一方の端面のみに連通していてもよい。また、空間部8は、木質板10の表側及び裏側のいずれにも連通しておらず、内部をボーリング加工によりくり抜いて形成されている。
そして空間部8を形成した木質板10を熱板プレスに挿入する。
【0056】
次に、熱圧乾燥工程200で、熱板20aを降下させて熱圧すると、木質板10は表裏両面から加熱され、内部に発生した蒸気は、空間部8から端面3,4に向けて放出される。
【0057】
実施形態2に係る木質板の乾燥処理方法によれば、木質板加工工程100で、木質板10に、端面3,4へと連通するように空間部8を形成するので、この空間部8を熱圧乾燥時に発生する蒸気の逃げ道とすることができる。そして、熱圧乾燥工程200で熱板プレスにより木質板10を熱圧して乾燥することができる。
【0058】
なお、空間部8を木質板10の表裏面の一方(例えば裏側2)に連通又は近接させて形成するとともに、熱板を片側のみ有する熱板プレスで、木質板10の表裏面の他方(例えば表側1)から熱圧するようにしてもよい。そうすれば、蒸気の逃げ道である空間部8を熱板プレスの熱板から遠い位置に配置することができる。そして、この状態で熱板プレスにより熱圧して乾燥すれば、木質板10内部に発生する蒸気は、熱板から遠い空間部8に向けて移動し、連通した端面3,4から放出される。従って、木質板10の厚さや熱板の温度が制限されることなく、蒸気を適切に放出することができ、乾燥時間を短縮することができる。
【0059】
次に、図8を参照して、本発明の実施形態3に係る木質板の乾燥処理方法について説明する。
実施形態3に係る木質板の乾燥処理方法は、実施形態1に係る木質板の乾燥処理方法と同様に、図1に示す木質板加工工程100、熱圧乾燥工程200、寸法安定化工程300、及び色調整工程400から構成されているが、熱圧乾燥工程200の内容が異なっている。
【0060】
図8は、実施形態3に係る熱圧乾燥工程200において木質板を熱板プレス内に挿入した状態を示す正面図である。
本実施形態においては、木質板加工工程100で溝部7aを形成した木質板10aを1枚のみ用いる。そして、木質板10aの表側1aを上向きに、裏側2aを下向きにした状態で熱板プレスに挿入する。
【0061】
本実施形態の熱板プレスは、上側に熱板20aを有しているが、下側には熱板ではなく単なる支持板40が配置されている。
従って、熱圧乾燥工程200で、熱板20aを降下させて熱圧すると、木質板10aは表側1aから加熱され、内部に発生した蒸気は、溝部7aから端面3,4に向けて放出される。
【0062】
実施形態3に係る木質板の乾燥処理方法によれば、熱圧乾燥工程200で、溝部7aを形成した木質板10aの表側1aを上向きに、裏側2aを下向きにした状態で、上側に熱板20aを有する熱板プレスの間に挿入するので、蒸気の逃げ道である溝部7aを上側の熱板20aから最も遠い位置に配置することができる。
この状態で熱板プレスにより熱圧して乾燥するので、木質板10a内部に発生する蒸気は、熱板20aと接する木質板10aの表側1aから、熱板20aから最も遠い裏側2aの溝部7aに向けて移動し、連通した端面3,4から放出される。従って、木質板10aの厚さや熱板20aの温度が制限されることなく、蒸気を適切に放出することができ、乾燥時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係る木質板の乾燥処理方法を示す工程図である。
【図2】木質板加工工程で加工処理を行った後の木質板を示す斜視図である。
【図3】木質板加工工程で加工処理を行った後の木質板を示す斜視図である。
【図4】木質板加工工程で加工処理を行った後の木質板を示す正面図である。
【図5】実施形態1に係る熱圧乾燥工程において木質板を熱板プレス内に挿入した状態(プレス前)を示す正面図である。
【図6】実施形態1に係る熱圧乾燥工程において木質板を熱板プレス内に挿入した状態(プレス中)を示す正面図である。
【図7】実施形態2に係る熱圧乾燥工程において木質板を熱板プレス内に挿入した状態(プレス中)を示す正面図である。
【図8】実施形態3に係る熱圧乾燥工程において木質板を熱板プレス内に挿入した状態(プレス中)を示す正面図である。
【図9】従来例に係る木質板の乾燥処理方法を示す正面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 表側
2 裏側
3 端面
4 端面
5 側面
6 側面
7 溝部
8 空間部
10 木質板
20 熱板
30 ディスタンスバー
40 支持板
50 単板
60 熱板
70 蒸気逃し用部材
100 木質板加工工程
200 熱圧乾燥工程
300 寸法安定化工程
400 色調整工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質板に、その少なくとも1つの端面へと連通するように空間部を形成する木質板加工工程と、
前記木質板を熱板プレスの間に挿入し、前記熱板プレスにより前記木質板を熱圧して乾燥する熱圧乾燥工程とを有することを特徴とする木質板の乾燥処理方法。
【請求項2】
前記木質板加工工程において、前記空間部を前記木質板の表裏面の一方に連通又は近接させて形成し、
前記熱圧乾燥工程において、前記熱板プレスで前記木質板の表裏面の他方から熱圧することを特徴とする請求項1に記載の木質板の乾燥処理方法。
【請求項3】
木質板の裏側から厚さ方向中心に向けて、かつ少なくとも1つの端面へと連通するように溝部を形成する木質板加工工程と、
前記溝部を形成した木質板を2枚用意し、前記2枚の木質板の裏側同士を向かい合わせるとともに、一方の木質板の表側を上向きに、他方の木質板の表側を下向きにした状態で、上下2枚の熱板を有する熱板プレスの間に挿入し、前記熱板プレスにより前記2枚の木質板を熱圧して乾燥する熱圧乾燥工程とを有することを特徴とする木質板の乾燥処理方法。
【請求項4】
前記熱圧乾燥工程において、前記木質板に10〜30%の範囲内の圧縮ひずみを与えながら熱圧して乾燥させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか一つに記載の木質板の乾燥処理方法。
【請求項5】
前記熱圧乾燥工程の後、さらに熱板で熱圧を続けて前記木質板の寸法安定性を向上させる寸法安定化工程を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか一つに記載の木質板の乾燥処理方法。
【請求項6】
前記寸法安定化工程で前記木質板の寸法安定性を向上させた後、寸法安定化後の木質板に漂白液又は調色液を塗布し熱板の余熱で熱圧して前記木質板の色を調整する色調整工程を設けたことを特徴とする請求項5に記載の木質板の乾燥処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−18643(P2008−18643A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193450(P2006−193450)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000145437)株式会社ウッドワン (70)
【Fターム(参考)】