説明

木質耐震壁

【課題】枠材から板材へ伝達される荷重が、板材の圧縮ストラットの形成を助けることができる木質耐震壁を提供する。
【解決手段】それぞれ矩形の各角部が面取りされた八角形状に形成されて重ねて設置された一対の木板12,12と、T字鋼をウェブ13aがフランジ13bよりも内側となる向きでフランジ13bの内面が一対の木板12,12の端面12aに沿って八角形状に枠組みして形成されるとともにウェブ13aが一対の木板12,12の間に介装されて一対の木板12,12とそれぞれ接合された枠材13と、角部に相当する形状に形成され角部に相当する位置に配されるとともに枠材13のフランジ13bに接合された接合用プレート(鋼板)14と、を備える木質耐震壁ユニット11を有し、枠材13は、矩形の面取りされた部分に位置するフランジ13bの面取り部13dが矩形の対角線と直交する向きに配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質構造の構造物に設けられる木質耐震壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質構造の建物に耐震性能を高めるために設けられる、単板積層材(LVL)や直交層入りの単板積層材(LVB)、構造用合板などの木板を、矩形状に枠組みされた鋼製の枠材の内部に設置した木質耐震壁が知られている。
例えば、特許文献1には、溝型鋼を矩形状に枠組みした矩形枠材と、この矩形枠材の中に設置された木質系面材とを備える木質耐震壁が開示されている。この木質耐震壁では、木質系面材は、一対の木質系の板材と、一対の板材の間に介装されて該板材に接着される薄鋼板とのサンドイッチ構造に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−161596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、木質耐震壁の板材は、外力が加わったときに、斜め方向(対角方向)の圧縮ストラット(圧縮束)が形成されることで、外力を効率よく負担することができる。このため、枠材から板材に伝達する荷重の方向がこの圧縮ストラットの方向であると、枠材から板材へ伝達される荷重が圧縮ストラットの形成を助けることになる。
しかしながら、特許文献1に開示された木質耐震壁では、枠材と板材との接触面が水平面または垂直面となるため、枠材から板材へ伝達される水平荷重は、この枠材の鉛直面から板材に水平方向に伝達され、圧縮ストラットの形成をほとんど助けるものではなかった。
【0005】
本発明は、上述する事情に鑑みてなされたもので、枠材から板材へ伝達される荷重が、板材の圧縮ストラットの形成を助けることができる木質耐震壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る木質耐震壁は、木質構造の構造物に設けられる木質耐震壁であって、それぞれ矩形の各角部が面取りされた八角形状に形成されて重ねて設置された一対の木板と、T字鋼をウェブがフランジよりも内側となる向きで該フランジの内面が前記一対の木板の端面に沿って前記八角形状に枠組みして形成されるとともに前記ウェブが前記一対の木板の間に介装されて該一対の木板とそれぞれ接合された枠材と、前記角部に相当する形状に形成され該角部に相当する位置に配されるとともに前記枠材のフランジに接合された鋼板と、を備える木質耐震壁ユニットを有し、前記枠材は、前記矩形の面取りされた部分に位置する前記フランジの面取り部が前記矩形の対角線と直交する向きに配設されていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、枠材は、フランジの面取り部が矩形の対角線と直交する向きに配設されていることにより、枠材に水平荷重が作用すると、フランジの面取り部から木板へ伝達される荷重が、矩形の対角線の方向に伝達されるため、木板の圧縮ストラットの形成を助けることができる。このため、枠材から木板への荷重伝達が効率よく行われることになり、耐震性能を高めることができる。
【0008】
また、本発明に係る木質耐震壁では、複数の前記木質耐震壁ユニットが同一鉛直面状に水平方向および鉛直方向の1つ以上の方向に配列されていてもよい。
このようにすることにより、木質耐震壁を所望の大きさとすることができるとともに、各木質耐震壁ユニットに圧縮ストラットが形成され耐震性能を高めることができる。
【0009】
また、本発明に係る木質耐震壁では、隣り合う前記木質耐震壁ユニットは、隣り合う前記鋼板どうしが接合されていることが好ましい。
このようにすることにより、木質耐震壁ユニットどうしを容易に接合することができるとともに、鋼板を木質耐震壁ユニットどうしの接合に使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、枠材は、フランジの面取り部が矩形の対角線と直交する向きに配設されていることにより、枠材に水平荷重が作用すると、フランジの面取り部から木板へ伝達される荷重が、矩形の対角線の方向に伝達されるため、木板の圧縮ストラットの形成を助けることができる。このため、枠材から木板への荷重伝達が効率よく行われることになり、耐震性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態による木質耐震壁の一例を示す図である。
【図2】(a)は本発明の実施形態による木質耐震壁ユニットの一例を示す正面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図3】木板および枠材の形状を説明する図である。
【図4】(a)、(b)は木質耐震壁ユニットどうしの接合を説明する図である。
【図5】実施形態による木質耐震壁ユニットに水平荷重が作用した様子を説明する図である。
【図6】従来の木質耐震壁ユニットに水平荷重が作用した様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による木質耐震壁について、図1乃至図6に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による木質耐震壁1は、水平方向および鉛直方向に配列された複数の木質耐震壁ユニット11を備えている。図中の2は構造物の柱、3は構造物の梁を示していて、木質耐震壁1は、水平方向に隣り合う柱2,2間および上下方向に隣り合う梁3,3間に設置されている。
【0013】
図2(a)、(b)に示すように、木質耐震壁ユニット11は、八角形状に形成され互いに重なるように設置された一対の木板12,12と、一対の木板12,12の端面12aに沿って八角形状に枠組みされた枠材13と、枠材13に取り付けられた接合用プレート(鋼板)14(図2(b)参照)と、を備えている。
ここで、一対の木板12,12および枠材13の形状となる八角形は、図3に示すような略正方形21の各角部22を面取りすることで形成された八角形23で、面取りされて形成された面取り部24は、略正方形21の対角線25と直交するように構成されている。
【0014】
図2に戻り、一対の木板12,12は、それぞれLVL(単板積層材)やLVB(直交層入りLVL)、構造用合板などで形成されている。
枠材13は、断面形状がT字状のT型鋼をそのウェブ13aが内側となり、フランジ13bが外側となるように枠組みされている。そして、枠材13は、フランジ13bの内面13cが、一対の木板12,12の端面12aと当接するように設置され、フランジ13bと一対の木板12,12とが直交している。
このため、一対の木板12,12の外形と、枠材13のフランジ13bの内形とが同一となっている。
【0015】
また、枠材13は、ウェブ13aが、一対の木板12,12の外縁部12b側に挟まれていて、一対の木板12,12の外縁部12b側とそれぞれ接合されている。
本実施形態では、枠材13のウェブ13aと一対の木板12,12の外縁部12b側とは、ボルト18aおよびナット18bで接合されている(図2(a)、(b)以外では、ボルト18aおよびナット18bを省略する)。
なお、ボルト18aおよびナット18bの位置や個数は任意に設定されてよい。また、枠材13のウェブ13aと一対の木板12,12の外縁部12b側とは、ボルト18aおよびナット18bに代わって、ドリフトピン、鋲、接着剤などで接合されていてもよい。
【0016】
接合用プレート14は、枠材13のフランジ13bの外側に取り付けられた鋼板で、角部22(図3参照)に相当する三角形状に形成され、この角部22(図3参照)に相当する位置に設置されている。このため、枠材13と接合用プレート14とが合わさった外形は、略正方形21(図3参照)を構成している。
この接合用プレート14は、木質耐震壁ユニット11に外力が作用したときに、枠材13の面取り部13dにその外力を伝達可能に構成されているとともに、複数の木質耐震壁ユニット11が配列されて木質耐震壁1を構成するときに、隣り合う木質耐震壁ユニット11の接合用プレート14と接合可能に構成されている。
【0017】
次に、複数の木質耐震壁ユニット11が同一鉛直面内において水平方向および鉛直方向に配列されるときの木質耐震壁ユニット11どうしを接合する方法について説明する。
まず、木質耐震壁ユニット11を水平方向および鉛直方向に配列する。
このとき、図4(a)および(b)に示すように、4つの木質耐震壁ユニット11の接合用プレート14が突き合わされることになる。そして、これらの4つの接合用プレート14は、突き合わされると、略菱形(本実施形態では略正方形、図4(b)中の26が示す形)を形成することになる。
【0018】
続いて、この菱形と同形に形成された添設プレート15を、突き合わされた4つの接合用プレート14の両面にそれぞれ設置し、各接合用プレート14と添設プレート15とを接合する。
各接合用プレート14と添設プレート15との接合は、例えば、接合用プレート14および添設プレート15にボルト孔14a,15aが形成しておいて、ボルト16(図4(a)参照)で接合するようにしてもよい。このとき、ボルト16には、高力ボルトを使用してもよい。
また、接合用プレート14と添設プレート15とをボルト接合に代わって溶接してもよい。
【0019】
そして、4つの接合用プレート14と添設プレート15とが接合されることにより、4つの接合用プレート14どうし接合され、4つの木質耐震壁ユニット11が接合される。
なお、2つの接合用プレート14が水平方向または鉛直方向に付き合わされる場合は、上述した添設プレート15の菱形を対角線で切断した三角形状に形成された添設プレートを取り付ければよい。
【0020】
次に、木質耐震壁ユニット11に水平方向の荷重が作用したときの荷重伝達について説明する。
図5に示すように、木質耐震壁ユニット11の上端部側に水平方向の荷重Pが作用すると、接合用プレート14から枠材13に伝達する。そして、枠材13の面取り部13dに伝達された荷重は、その面に直交する斜め方向に一対の木板12,12に伝達される。
そして、枠材13の面取り部13dから一対の木板12,12に斜め方向に荷重が伝達するため、この伝達された荷重が一対の木板12の圧縮ストラットSの形成を助けることができる。
【0021】
ここで、図6に示すような、矩形の木板32と、矩形の枠材33とを備える従来の木質耐震壁ユニット31では、枠材33から木板32へ水平方向に荷重が伝達するため、この荷重が本実施形態のように木板32の圧縮ストラットの形成を助けることはほとんどない。
【0022】
次に、上述した木質耐震壁1の効果について図面を用いて説明する。
本実施形態による木質耐震壁1によれば、枠材13は、フランジ13bの面取り部13dが略正方形21の対角線25と直交する向きに配設されていることにより、枠材13に水平荷重Pが作用すると、フランジ13bの面取り部13dから木板12へ伝達される荷重が、斜め方向に伝達されるため、木板12の圧縮ストラットの形成を助けることができる。このため、枠材13から木板12への荷重伝達が効率よく行われることになり、耐震性能を高めることができる効果を奏する。
【0023】
また、面取りされた角部22を隣り合う木質耐震壁ユニット11どうしを接合するためのスペースとして使用することができる。
また、木板12に、LVB(直交層入りLVL)または構造用合板を使用すると、木板12の繊維直交方向の層により、枠材13のウェブ13aと接合された木板12の外縁部12b側の繊維方向の割れが防止されるため、木板12と枠材13との接合部の強度および剛性を高めることができる。
【0024】
以上、本発明による木質耐震壁1の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、木質耐震壁1は、複数の木質耐震壁ユニット11が配列されているが、1つの木質耐震壁ユニットで木質耐震壁1を形成してもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 木質耐震壁
11 木質耐震壁ユニット
12 木板
12a 端面
12b 外縁部
13 枠材
13a ウェブ
13b フランジ
13d 面取り部
14 接合用プレート(鋼板)
21 略正方形(矩形)
22 角部
23 八角形
24 面取り部
25 対角線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質構造の構造物に設けられる木質耐震壁であって、
それぞれ矩形の各角部が面取りされた八角形状に形成されて重ねて設置された一対の木板と、
T字鋼をウェブがフランジよりも内側となる向きで該フランジの内面が前記一対の木板の端面に沿って前記八角形状に枠組みして形成されるとともに前記ウェブが前記一対の木板の間に介装されて該一対の木板とそれぞれ接合された枠材と、
前記角部に相当する形状に形成され該角部に相当する位置に配されるとともに前記枠材のフランジに接合された鋼板と、を備える木質耐震壁ユニットを有し、
前記枠材は、前記矩形の面取りされた部分に位置する前記フランジの面取り部が前記矩形の対角線と直交する向きに配設されていることを特徴とする木質耐震壁。
【請求項2】
複数の前記木質耐震壁ユニットが同一鉛直面状に水平方向および鉛直方向の1つ以上の方向に配列されていることを特徴とする請求項1に記載の木質耐震壁。
【請求項3】
隣り合う前記木質耐震壁ユニットは、隣り合う前記鋼板どうしが接合されていることを特徴とする請求項2に記載の木質耐震壁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−237160(P2012−237160A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107597(P2011−107597)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】