説明

木造建築物の外壁における外断熱工法及び外断熱構造

【課題】木造建築物の室内に安定した温度環境を創出することができる、木造建築物における外壁の外断熱工法を提供する。
【解決手段】木製の柱4が間隔をおいて複数立設される木造建築物の外壁1における外断熱工法であって、柱4間に蓄熱体が配置されるとともに、蓄熱体7の室外側には断熱材8が配置される。蓄熱体7は、押出成形により形成されたセメント系押出成形板であって、押出方向に延びる中空部7aを有している。蓄熱体7と断熱材8との間には、隣接する柱4を繋ぐ合板11が配置され、蓄熱体7としてのセメント系押出成形板は、中空部7aに挿通した金具12によって、合板11に固定される。また蓄熱体7と断熱材8とを間隔をおいて配置することで、蓄熱体7と断熱材8との間に空気層15を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の外壁における外断熱工法及び外断熱構造に関する。特に、木造建築物の室内に安定した温度環境を創出できる外断熱工法及び外断熱構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建造物の断熱工法として外断熱工法が知られている。この外断熱工法は、外壁の外周に断熱材を設けることで、その内側の躯体に蓄えられた熱を室外に逃がさず室内に向かわせるようにしたものである。
【0003】
この外断熱工法を熱容量の大きなコンクリート建築に適用した場合には、コンクリートの熱容量の大きさから、断熱材の内側に位置するコンクリート躯体に蓄えられる熱量が大きいため、その熱が室内に向かうことで、室内に安定した温度環境を創出することができる。このため、外断熱工法は、省エネルギー対策や結露防止のために効果的な工法として、コンクリート建築に広く用いられている。
【0004】
これに対して木造建築物では、充填断熱工法や外張り断熱工法と呼ばれる断熱工法が主として採用されている。充填断熱工法では、特許文献1に開示されているように、グラスウールなどの繊維系断熱材が外壁を構成する柱間に充填され、外張り断熱工法では、特許文献2に開示されているように、発泡ポリスチレン等の板状断熱材が柱の室外側に張り付けられる。
【0005】
【特許文献1】特開平09−235794号公報
【特許文献2】特開2002−070197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで充填断熱工法は、柱の外側に断熱材を設置するものではないため、柱に蓄熱された熱は室外に放出されてしまう。このため、充填断熱工法は、安定した温度環境を創出すべく柱に蓄えられた熱を有効に利用するものではない。
【0007】
また外張り断熱工法では、外断熱工法と同様、柱の外側に断熱材が設置されることで、柱に蓄えられた熱は室内に向かうようになる。しかしながら、外張り断熱工法は、柱を構成する木材の熱容量が小さいことに起因して、上述の外断熱工法と同様の効果を発揮するものではない。すなわち、熱容量の小ささから柱に蓄熱される熱はコンクリートに比して小さいため、柱に蓄えられた熱が室内に放出されたとしても、安定した室内の温度環境を創出することができない。このため、外張り断熱工法は、木造建築に対して有効な省エネルギー対策となり得ず、また結露により建材が腐食する問題を生じさせるものとなっている。
【0008】
本発明は、木造建築物の室内に安定した温度環境を創出することができる、木造建築物の外壁における外断熱工法及び外断熱構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1観点による木造建築物の外壁における外断熱工法は、木製の柱が間隔をおいて複数立設される木造建築物の外壁における外断熱工法であって、前記柱間に蓄熱体が配置されるとともに、該蓄熱体の室外側に断熱材が配置されることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記蓄熱体は、レンガ、コンクリート板、又はコンクリートブロックであることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記蓄熱体は、押出成形により形成されたセメント系押出成形板であって、押出方向に延びる中空部を有していることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記蓄熱体と前記断熱材との間に、隣接する柱を繋ぐ合板が配置され、前記セメント系押出成形板は、前記中空部に挿通した金具によって、前記合板に固定されることを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記蓄熱体と前記断熱材とを間隔をおいて配置することで、前記蓄熱体と前記断熱材との間に空気層を構成することを特徴とする。
【0014】
本発明の第2観点による木造建築物の外壁における外断熱構造は、木製の柱が間隔をおいて複数立設される木造建築物の外壁における外断熱構造であって、前記柱間に配置された蓄熱体と、該蓄熱体の室外側に配置された断熱材とを有することを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記蓄熱体は、レンガ、コンクリート板、又はコンクリートブロックであることを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記蓄熱体は、押出成形により形成されたセメント系押出成形板であって、押出方向に延びる中空部を有していることを特徴とする。
【0017】
好ましくは、前記蓄熱体と前記断熱材との間に、隣接する柱を繋ぐ合板が配置され、前記セメント系押出成形板は、前記中空部に挿通した金具によって、前記合板に固定されることを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記蓄熱体と前記断熱材とを間隔をおいて配置することで、前記蓄熱体と前記断熱材との間に空気層を構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、木造建築物の外壁を構成する柱間に蓄熱体が配置されるとともに、該蓄熱体の室外側に断熱材が配置されることで、外気温による室内環境への影響が小さく抑えられるとともに、蓄熱体に蓄えられた熱を室外に逃がさず室内に向かわせることが出来る。これにより、室内に安定した温度環境を確実に創出できるため、有効な省エネルギー対策が図られるとともに、柱に生じる結露が小さく抑えられるといった外断熱による効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態における外断熱工法が適用された木造建築物の外壁1の構造を示す斜視図であり、図2は、図1に示すA−A線によって切断した水平断面図であり、図3は、図1に示すB−B線によって切断した鉛直断面図である。
【0022】
外壁1は、軸組工法によって構築された木造建築物の外壁であって、下部横架材2と、上部横架材3(図3参照)と、複数(図1,2では2本のみ示す)の柱4とを備えている。
【0023】
下部横架材2は、コンクリート基礎(図示せず)などの上に設置され、上部横架材3は、下部横架材2の上方に配置されている。
【0024】
複数の柱4は、下部横架材2と上部横架材3との間に間隔をおいて立設されており、それぞれ下部横架材2と上部横架材3とを連結している。
【0025】
柱4の両側面には胴縁5が釘により取り付けられている。胴縁5は、柱4の側面における室外側範囲に沿って立設しており、柱4と胴縁5とによって、柱4の室内側表面4aから室外側に所定高さ凹む段差6が形成されている。
【0026】
隣接する柱4の間には、複数の蓄熱体7が積層配置され、該蓄熱体7よりも室外側には断熱材8が配置される。
【0027】
蓄熱体7は、押出成形により形成されたセメント系押出成形板(以下、セメント系押出成形板7と記す)であって、成形時の押出方向に延びる中空部7aを有している。セメント系押出成形板7は、押出方向の両端7bが段差6に係合するように、隣接する柱4の間に横張りされる(この状態において中空部7aは水平方向に延びる)。セメント系押出成形板7の厚さは段差6の高さと一致するように形成されており、上述のようにセメント系押出成形板7が横張された状態では、図2に示すように、セメント系押出成形板7における室内側表面7cと各柱4の室内側表面4aとは面位置が一致して、これら表面7c,4aにより連続した平坦面が構成される。そして、この平坦面には、その全面を覆うように内装材9(図2,3参照)が接着剤により貼り付けられる。
【0028】
断熱材8は、ポリスチレンフォームやウレタンフォームなどの板材によって構成されたものであって、柱4の外側において木造建築物全体を包み込むように配置され、室外側表面8a(図2,3参照)には外装材10が接着剤によって貼り付けられる。
【0029】
またセメント系押出成形板7と断熱材8との間には、木製の合板11が配置される。合板11は、各柱4に釘付けされることで、隣接する柱4を繋いでいる。そして、セメント系押出成形板7は、金具12が用いられることで合板11に固定され、断熱材8は、合板11の室外側表面11a(図2,3参照)に接着剤によって貼り付けられる。
【0030】
図2,3に示すように、金具12はボルト13とナット14とによって構成される。ボルト13は、ネジ部13aが合板11及びセメント系押出成形板7に形成された貫通孔に室外側から通されることで、頭部13bが合板11よりも室外側に位置し、ネジ部13aの先端はセメント系押出成形板7の中空部7a内に挿通している。ナット14はネジ部13aの先端に締結され、この結果、セメント系押出成形板7は合板11側(室外側)に押圧されて、その両端7aが胴縁5及び柱4に隙間無く密接する。
【0031】
そして、上述のように金具12によりセメント系押出成形板7が合板11に固定された状態では、セメント系押出成形板7と断熱材8との間に、胴縁5の幅分の空気層15が形成される。空気層15は、図3に示すように下部横架材2の上面2aから上部横架材3の下面3aに至る上下方向の高さを有している。
【0032】
本実施の形態によれば、柱4間に蓄熱体7が配置されるとともに、該蓄熱体7の室外側に断熱材8が配置されることで、外気温による室内環境への影響が小さく抑えられるとともに、蓄熱体7に蓄えられた熱を室外に逃がさず室内に向かわせることが出来る。これにより、室内に安定した温度環境を確実に創出できるため、有効な省エネルギー対策が図られるとともに、柱4など室内の建材に生じる結露が小さく抑えられるといった外断熱による効果が発揮される。そして蓄熱体として熱容量が大きく高い蓄熱性を有するセメント系押出成形板7が使用されることで、確実に安定した温度環境を室内に創出できるため、上述の外断熱による効果は顕著に発揮される。
【0033】
また、セメント系押出成形板7の質量が大きいことから、室外の騒音が室内に伝播することが防止されるため、外壁の遮音性が向上する。またセメント系押出成形板7が高い剛性を有していることにより、セメント系押出成形板7の水平抵抗によって層間変形角が抑制されるため、外壁の剛性が向上する。このため、筋交いなどの補強材を要することなく、外壁の耐震性が向上する。以上のことから、蓄熱体としてセメント系押出成形板7を使用することで、上述の外断熱による効果とともに、遮音効果及び耐震効果が同時に得られる。
【0034】
また、柱4間に蓄熱体7を配置するようにしたことで、蓄熱体7が設置されていない既存の木造建築物にも、外装材など壁外周の仕上げ部分を残した状態で蓄熱体7を組み込むことができる。よって、既存の木造住宅にも、簡易な改築作業を行うことで、上述の外断熱による効果・遮音効果・耐震効果を得ることができる。
【0035】
また、合板11が隣接する柱4を繋ぐように設けられていることから、外壁の剛性がさらに向上する。また合板11にセメント系押出成形板7を固定するようにしていることから、専用のセメント系押出成形板7の支持部材を別途設ける必要がない。これにより、建設コストの縮減が図られる。
【0036】
また、セメント系押出成形板7は、中空部7aを有することで断熱性に優れる。このため、外気温による室内環境の影響をさらに小さく抑えることができる。そして、この中空部7aを金具12の一部(ナット14)を設置する空間として有効利用していることから、高い設計自由度を得る上で有利になる。
【0037】
また、蓄熱体7と断熱材8との間に空気層15が構成されるために、外気温による室内環境への影響をさらに小さく抑えることが出来る。
【0038】
なお本発明は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲において種々改変することができる。
【0039】
例えば、上記の実施形態では、セメント系押出成形板7を柱4間に横張りするようにしたが、セメント系押出成形板7は柱4間に縦張りされてもよい(この状態においてセメント系押出成形板7の中空部7aは鉛直方向に延びる)。
【0040】
また、断熱材8は、合板11の室外側表面11aにウレタンを吹き付けることで構成してもよい。このようにしても、蓄熱体7よりも室外側に断熱材8が配置されることになるため、セメント系押出成形板7に蓄えられた熱は、室外に逃げず室内に向かって放出される。
【0041】
また、セメント系押出成形板7は、段差6を構成する胴縁5の表面に接着材などによって貼着するようにしてもよい。このようにすることで、合板11を省略することが出来るため、部材点数の縮減が図られる。なお合板11を省略した場合には、断熱材8は、柱4の室外側表面に接着され、或いは吹き付けられる。
【0042】
また、蓄熱体7は、セメント系押出成形板だけではなく、レンガ、コンクリート板、コンクリートブロックなど、柱を構成する木製建材よりも大きな熱容量を有するあらゆる建材によって構成することができる。この場合においても、柱4よりも熱容量の大きな建材が断熱材8の内側に配置されるため、従来の外張り断熱工法よりも、大きな外断熱による効果を得ることができる。また、蓄熱体7として、質量が大きく高い剛性を有するレンガやコンクリート板やコンクリートブロックを用いることで、セメント系押出成形板を用いる場合と同様、外断熱による効果とともに、遮音効果、耐震効果を得ることができる。
【0043】
また、蓄熱体7として中空部を有するコンクリートブロックを用いた場合には、その中空部の断熱機能によって、外気温による室内環境の影響を小さく抑えることができる。
【0044】
また、上記実施形態において空気層15を構成した断熱材8と蓄熱体7との間の空間には、断熱材が配置されてもよい。このようにしても、断熱材8と蓄熱体7との間の空間が、外気温による影響を小さく抑えるために有効利用される。
【0045】
また、内装材9(図2,3参照)は、柱4の室内側表面4aには貼り付けずに、セメント系押出成形板7の室内側表面7cのみに貼り付けられるようにしてもよい。このようにすることで、柱4が露出する室内の外観が得られる。この場合には、セメント系押出成形板7の厚さは、段差6の高さよりも、内装材9の厚さ程度小さく設定される。
【0046】
また、本発明は、柱間に蓄熱体を配置するとともに、該蓄熱体の室外側に断熱材を配置するようにしていることで、複数の柱が間隔をもって立設するあらゆる壁に適用できる。このため、本発明は、上記実施の形態で示した軸組工法によって構成される壁の他に、枠組工法によって構築された壁や、軽量鉄骨系住宅の壁にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態における外断熱工法が適用された木造建築物の外壁を示す斜視図である。
【図2】図1に示すA−A線で切断した水平断面図である。
【図3】図1に示すB−B線で切断した鉛直断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 外壁
4 柱
7 蓄熱体(セメント系押出成形板)
7a 中空部
8 断熱材
11 合板
12 金具
15 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製の柱が間隔をおいて複数立設される木造建築物の外壁における外断熱工法であって、
前記柱間に蓄熱体が配置されるとともに、該蓄熱体の室外側に断熱材が配置されることを特徴とする外断熱工法。
【請求項2】
前記蓄熱体は、レンガ、コンクリート板、又はコンクリートブロックであることを特徴とする請求項1に記載の外断熱工法。
【請求項3】
前記蓄熱体は、押出成形により形成されたセメント系押出成形板であって、押出方向に延びる中空部を有していることを特徴とする請求項1に記載の外断熱工法。
【請求項4】
前記蓄熱体と前記断熱材との間に、隣接する柱を繋ぐ合板が配置され、
前記セメント系押出成形板は、前記中空部に挿通した金具によって、前記合板に固定されることを特徴とする請求項3に記載の外断熱工法。
【請求項5】
前記蓄熱体と前記断熱材とを間隔をおいて配置することで、前記蓄熱体と前記断熱材との間に空気層を構成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の外断熱工法。
【請求項6】
木製の柱が間隔をおいて複数立設される木造建築物の外壁における外断熱構造であって、
前記柱間に配置された蓄熱体と、
該蓄熱体の室外側に配置された断熱材と、
を有することを特徴とする外断熱構造。
【請求項7】
前記蓄熱体は、レンガ、コンクリート板、又はコンクリートブロックであることを特徴とする請求項6に記載の外断熱構造。
【請求項8】
前記蓄熱体は、押出成形により形成されたセメント系押出成形板であって、押出方向に延びる中空部を有していることを特徴とする請求項6に記載の外断熱構造。
【請求項9】
前記蓄熱体と前記断熱材との間に、隣接する柱を繋ぐ合板が配置され、
前記セメント系押出成形板は、前記中空部に挿通した金具によって、前記合板に固定されることを特徴とする請求項8に記載の外断熱構造。
【請求項10】
前記蓄熱体と前記断熱材とを間隔をおいて配置することで、前記蓄熱体と前記断熱材との間に空気層を構成することを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項に記載の外断熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−70922(P2010−70922A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236870(P2008−236870)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】