説明

未加硫ゴムの押し出し方法及び押し出し制御装置

【課題】押し出し再開の初期段階において、未加硫ゴムの形状や重量を早期に安定させ、不具合品の発生を抑制することができる未加硫ゴムの押し出し方法及び押し出し制御装置を提供する。
【解決手段】押し出し機により押し出された一定形状の未加硫ゴムを搬送コンベア上に載せて搬送する未加硫ゴムの押し出し方法であって、未加硫ゴムが充填された押し出し機が停止した後に押し出しを再開する時に、未加硫ゴムが一定形状を保つように予め定められた一定の搬送速度で、所定時間または所定長さ未加硫ゴムを搬送する未加硫ゴムの押し出し方法。および前記のように制御する制御手段を備えている未加硫ゴムの押し出し制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール等の押し出し成形物を成形するための未加硫ゴムの押し出し方法及び押し出し制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サイドウォール等の押し出し成形物を製造する場合には、押し出し機、プリフォーマーおよびダイプレート等により未加硫ゴムを一定形状にして押し出した後、搬送コンベアにより搬送する。
【0003】
そして、ゴム替え、プリフォーマー交換、ダイプレート交換などの場合には、未加硫ゴムを充填したまま押し出し機を停止させ、その後に押し出しを再開するようにしている。
【0004】
押し出しを再開する場合、まず、通常の搬送速度である基準速度で開始し、その後押し出し成形物の形状や部分的な重量を作業者がチェックし、搬送コンベアの搬送速度にフィードバックさせる押し出し方法が行われ、押し出し成形物の幅が狭い場合や重量が軽い場合は搬送速度を通常の搬送速度である基準速度よりも遅くなるように制御される。
【0005】
上記より分かる通り、作業者のチェック結果をフィードバックして押し出す再開後の初期段階においては、基準速度で押し出される結果、初期段階の製品については所定の形状や重量から大きく外れることにより不具合品が発生するという問題があった。
【0006】
そこで、押し出し直後に、押し出しゴムと接触するローラーによって押し出し速度を検知し、この押し出し速度によって搬送コンベア速度を制御する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【0007】
しかし、押し出しの再開の初期段階では、吐出ゴムの温度、ダイスウェル(シュリンクの仕方)が定常状態で押し出される場合とは異なるため、搬送速度のフィードバックだけでは所定の形状、重量の押し出し成形物を得ることが難しいという問題があった。
【0008】
また、押し出し成形物には、設定幅に近づけるための搬送速度の変化代が大きく、搬送速度の変化から幅変化へのタイムラグがあるため、早期に安定させることが困難であり、ハンチングの問題が生じていた。また、押し出し再開時には幅変化が大きいため、タイヤ品質(FV)に悪影響を与え、幅不良により、不具合品が発生していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−1198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑み、押し出し再開の初期段階において、未加硫ゴムの形状や重量を早期に安定させ、不具合品の発生を抑制することができる未加硫ゴムの押し出し方法及び押し出し制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、以下の各請求項に示す発明により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、各請求項毎に説明する。
【0012】
請求項1に記載の発明は、
押し出し機により押し出された一定形状の未加硫ゴムを搬送コンベア上に載せて搬送する未加硫ゴムの押し出し方法であって、
前記未加硫ゴムが充填された前記押し出し機が停止した後に押し出しを再開する時に、
前記未加硫ゴムが前記一定形状を保つように予め定められた一定の搬送速度で、所定時間または所定長さ前記未加硫ゴムを搬送することを特徴とする未加硫ゴムの押し出し方法である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、
前記予め定められた一定の搬送速度が、前記押し出し機の停止時間の長さに応じて定められていることを特徴とする請求項1に記載の未加硫ゴムの押し出し方法である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、
前記押し出し機の停止時間の長さに応じて前記停止時間が複数のランクに分類され、各ランク毎に、前記予め定められた一定の搬送速度と、前記所定時間または前記所定長さが設定されていることを特徴とする請求項2に記載の未加硫ゴムの押し出し方法である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、
前記停止時間が30秒〜2時間の範囲で複数のランクに分類され、各ランクにおいて、前記所定長さが10〜30mの範囲内で、前記予め定められた一定の搬送速度が、通常の搬送速度である基準速度の50%以上100%未満の範囲内でそれぞれ設定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の未加硫ゴムの押し出し方法である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、
押し出し機により押し出された一定形状の未加硫ゴムを搬送コンベア上に載せて搬送する未加硫ゴムの押し出し制御装置であって、
前記未加硫ゴムが充填された前記押し出し機が停止した後に押し出しを再開する時に、前記未加硫ゴムが前記一定形状を保つように予め定められた一定の搬送速度で、所定時間または所定長さ前記未加硫ゴムを搬送する制御手段を備えていることを特徴とする未加硫ゴムの押し出し制御装置である。
【0017】
請求項6に記載の発明は、
前記予め定められた一定の搬送速度が、前記押し出し機の停止時間の長さに応じて定められる制御手段を備えていることを特徴とする請求項5に記載の未加硫ゴムの押し出し制御装置である。
【0018】
請求項7に記載の発明は、
前記押し出し機の停止時間の長さに応じて前記停止時間が複数のランクに分類され、各ランク毎に、前記予め定められた一定の搬送速度と、前記所定時間または前記所定長さが設定される制御手段を備えていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の未加硫ゴムの押し出し制御装置である。
【0019】
請求項8に記載の発明は、
前記停止時間が30秒〜2時間の範囲で複数のランクに分類され、各ランクにおいて、前記所定長さが10〜30mの範囲内で、前記予め定められた一定の搬送速度が、通常の搬送速度である基準速度の50%以上100%未満の範囲内でそれぞれ設定される制御手段を備えていることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載の未加硫ゴムの押し出し制御装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、押し出し再開の初期段階において、未加硫ゴムの形状や重量を早期に安定させ、不具合品の発生を抑制することができる未加硫ゴムの押し出し方法及び押し出し制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る未加硫ゴムの押し出し制御装置に備わっている表示装置の表示画面を示す図である。
【図2】実施例および比較例のそれぞれの押し出し成形物の幅変化の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施の形態に基づき、図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。
【0023】
本発明は、再開時の未加硫ゴムの搬送速度を押し出し機の停止時間に基づいて予め定められた速度に減速して、所定時間または所定長さ搬送させることを特徴とするものである。これは、押し出し初期においては、押し出し機からの未加硫ゴムの吐出量が定常状態よりも低下し、その低下の度合いが押し出し再開前の停止時間に依存することを見出したことによる。
【0024】
即ち、再開後の初期段階においては、従来のように押し出し直後の速度をフィードバックさせて制御するのではなく、停止時間の長さより予め判明している適正な速度で所定時間または所定長さ搬送することにより未加硫ゴムの形状や重量を早期に安定させ、不具合品の発生を抑制するものである。
【0025】
上記における搬送速度、所定時間および所定長さは、具体的には、事前の実験や経験則等により、未加硫ゴムの材料毎に作成される押し出し機の停止時間と、搬送速度、前記所定時間および所定長さと、成形性との相関関係について基本データを予め作成し、前記の基本データに基づいて設定される。
【0026】
そして、本発明者の実験によると、わずかな停止時間による適正な搬送速度の差はなく、停止時間を一定の区分に分けてその区分に応じた速度と時間(長さ)を設定しても実用上支障がないことが分かった。
【0027】
このため、実用的に支障のない範囲で停止時間のランク分けを行うことにより、制御内容が複雑化することなく簡易になり、生産現場での作業性を向上させることができる。
【0028】
具体的な一例として、停止時間が30秒〜2時間の範囲である場合、この停止時間を複数のランクに分類し、各ランクにおいて、所定長さを10〜30mの範囲内で適正値に設定し、予め定められた一定の搬送速度を、通常の搬送速度である基準速度の50%以上100%未満の範囲内で適正値に設定することにより、適正な制御が可能になる。
【0029】
(具体的な実施の形態)
以下、具体的な実施の形態について説明する。
【0030】
上記により得られた基本データや停止時間のランク分けのデータは、PC等の演算処理装置に格納して、押し出し制御装置と連動させることにより、前記した適正な制御をより簡便に行うことができる。
【0031】
例えば、最初に、表示装置上から押し出し対象の未加硫ゴムの組成を選択することにより、格納されたデータから対応する制御内容が表示装置上に表示される。
【0032】
図1に表示装置上に表示される制御内容の一例を示す。図1において、搬送速度表示部6の設定値表示部6aには、選択された組成に対応した基準搬送速度が表示される。そして、停止時間水準表示部3(3a〜3c)に、対象となる設備停止時間の水準(区分分け)が具体的に表示され、さらに、制御速度比率表示部4(4a〜4d)に、各区分分けに対応した搬送速度の減速割合が表示される。
【0033】
次に、停止時間表示部5に設備停止時間を自動でカウントすることにより、停止時間水準表示部3からの停止時間に対応した水準が選択され、適応する搬送速度の減速割合に従って、搬送速度表示部6の実速度表示部6bに、再開後に制御すべき具体的な搬送速度が示される。同時に、制御長さ表示部2に減速押し出しを行うコンベア長さが表示される。
【0034】
この表示された搬送速度および長さに基づいて再開後の押し出し成形を行うことにより、押し出し再開の初期段階において、未加硫ゴムの形状や重量を早期に安定させ、不具合品の発生を抑制することができる。なお、減速押し出し完了後は、前記した基準搬送速度による押し出し成形が行われる。
【0035】
このように、本実施の形態に従うことにより、極めて簡便に、停止再開後の押し出しを制御することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例について説明する。
【0037】
1.未加硫ゴムの押し出し
(実施例)
本実施例は、サイドウォールサイズ:AS160T(サイドウォール総幅:160mm、幅公差:±3mm)が搬送コンベアの基準速度(16.4m/min)で押し出されていた機械を2分弱(正確には1分45秒)停止させた後、再開した時の押し出しゴムの幅のばらつきを測定した例である。
【0038】
このとき、再開から長さ20mを押し出すまでは搬送コンベアの速度を基準速度の98%で押し出しを行い、その後は基準速度で押し出しを行い、トータル40mの押し出しゴムを得た。
【0039】
なお、上記した20mの長さおよび基準速度の98%の速度は、予め実験に基づき適正な値として設定された値である。
【0040】
(比較例)
比較のために、2分弱(正確には1分52秒)の設備停止後、基準速度(16.4m/min)のまま押し出しを再開し、40mの押し出しゴムを得た。
【0041】
実施例および比較例により得られた押し出しゴムについて、1m毎にその幅を計測した。図2に計測結果を示す。図2において、縦軸はコントロール幅(サイドウォール総幅:160mm)と各押し出し長さにおける押し出し幅との差(mm)を示しており、横軸は計測位置、即ち、押し出し再開後の押し出し長さ(m)を示している。また、●は実施例の計測結果、■は比較例の計測結果である、
【0042】
図2より、押し出し機の停止時間が2分弱とほぼ同じであるにも拘わらず、比較例では押し出し幅のばらつき(R)が3.9mmであったのに対し、実施例では2.9mmと、減少していることが分かり、本実施例における制御の効果を確認することができた。
【0043】
次に、上記と同様にして、実施例および比較例について30ロットの押し出しを行い、ばらつきのR(平均)とσ(標準偏差)を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、ロット数を多くした場合でも、比較例に比べて実施例では、ばらつきおよびその標準偏差共に小さく、上記制御の効果を確認することができた。
【0046】
そして、上記サイズに押し出された実施例のゴムを用いて、サイズP235/65R18 04T ELS N5 Dのタイヤを製造したところ、FV(St/B)を、従来(比較例で得られたゴムと同じゴムを使用)の4.8本/月から3.3本/月と、実施例で得られたゴムを用いることにより、31%も改善することができ、上記制御がFVの改善にも好影響を及ぼすことが確認できた。
【符号の説明】
【0047】
2 制御長さ表示部
3、3a、3b、3c 停止時間水準表示部
4、4a、4b、4c、4d 制御速度比率表示部
5 停止時間表示部
6 搬送速度表示部
6a 設定値表示部
6b 実速度表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押し出し機により押し出された一定形状の未加硫ゴムを搬送コンベア上に載せて搬送する未加硫ゴムの押し出し方法であって、
前記未加硫ゴムが充填された前記押し出し機が停止した後に押し出しを再開する時に、
前記未加硫ゴムが前記一定形状を保つように予め定められた一定の搬送速度で、所定時間または所定長さ前記未加硫ゴムを搬送することを特徴とする未加硫ゴムの押し出し方法。
【請求項2】
前記予め定められた一定の搬送速度が、前記押し出し機の停止時間の長さに応じて定められていることを特徴とする請求項1に記載の未加硫ゴムの押し出し方法。
【請求項3】
前記押し出し機の停止時間の長さに応じて前記停止時間が複数のランクに分類され、各ランク毎に、前記予め定められた一定の搬送速度と、前記所定時間または前記所定長さが設定されていることを特徴とする請求項2に記載の未加硫ゴムの押し出し方法。
【請求項4】
前記停止時間が30秒〜2時間の範囲で複数のランクに分類され、各ランクにおいて、前記所定長さが10〜30mの範囲内で、前記予め定められた一定の搬送速度が、通常の搬送速度である基準速度の50%以上100%未満の範囲内でそれぞれ設定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の未加硫ゴムの押し出し方法。
【請求項5】
押し出し機により押し出された一定形状の未加硫ゴムを搬送コンベア上に載せて搬送する未加硫ゴムの押し出し制御装置であって、
前記未加硫ゴムが充填された前記押し出し機が停止した後に押し出しを再開する時に、前記未加硫ゴムが前記一定形状を保つように予め定められた一定の搬送速度で、所定時間または所定長さ前記未加硫ゴムを搬送する制御手段を備えていることを特徴とする未加硫ゴムの押し出し制御装置。
【請求項6】
前記予め定められた一定の搬送速度が、前記押し出し機の停止時間の長さに応じて定められる制御手段を備えていることを特徴とする請求項5に記載の未加硫ゴムの押し出し制御装置。
【請求項7】
前記押し出し機の停止時間の長さに応じて前記停止時間が複数のランクに分類され、各ランク毎に、前記予め定められた一定の搬送速度と、前記所定時間または前記所定長さが設定される制御手段を備えていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の未加硫ゴムの押し出し制御装置。
【請求項8】
前記停止時間が30秒〜2時間の範囲で複数のランクに分類され、各ランクにおいて、前記所定長さが10〜30mの範囲内で、前記予め定められた一定の搬送速度が、通常の搬送速度である基準速度の50%以上100%未満の範囲内でそれぞれ設定される制御手段を備えていることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載の未加硫ゴムの押し出し制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43350(P2013−43350A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182195(P2011−182195)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】