末梢性神経障害の治療方法
本発明は、不適切な補体活性化に関連する疾患の治療、特に末梢性神経障害の治療における、補体タンパク質C5に結合する剤の使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不適切な補体活性化に関連する疾患の治療、特に末梢性神経障害の治療における補体タンパク質C5に結合する剤の使用に関する。
【0002】
明細書本文において言及され、本明細書の最後にリストで示す全ての文献を、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【背景技術】
【0003】
補体系は、異物の侵入に対する身体の自然防御機構の重要な一部分であり、炎症プロセスにも関係するものである。血清中及び細胞表面の30を越えるタンパク質は、補体系の機能及び調節に関係している。有益なプロセスと病的なプロセスの双方に関連する可能性を有する補体系の約35の公知成分と同様、補体系自体が、血管形成、血小板活性化、糖代謝及び精子形成と同様に多様な機能を有する少なくとも85種の生物学的経路と相互作用することが最近明らかになってきた[1]。
【0004】
補体系は、異種抗原の存在下で活性化される。3種の活性化経路:(1)IgM及びIgGの複合体によって、或いは炭水化物の認識によって活性化される古典経路;(2)非自己の表面(特定の調節分子を欠く)によって、並びに細菌内毒素によって活性化される代替経路;及び(3)病原体の表面上のマンノース残基へのマンナン結合レクチン(MBL)の結合によって活性化されるレクチン経路、が存在する。この3種の経路には、急性炎症メディエーター(C3a及びC5a)の放出並びに細胞膜傷害複合体(MAC)の形成の原因となる、細胞表面上の類似のC3コンベルターゼ及びC5コンベルターゼの形成による補体活性化の発生の原因となるイベントの平行したカスケードがある。古典経路及び代替経路に関係する平行したカスケードについては、図1に示す。
【0005】
補体は、望ましくない局所的組織破壊につながる一定の状況の下で不適切に活性化する可能性がある。急性膵炎、アルツハイマー病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、喘息、成人呼吸窮迫症候群、火傷、クローン病、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、虚血再潅流障害、多系統臓器不全、多発性硬化症、重症筋無力症、虚血性発作、心筋梗塞、乾癬、関節リウマチ、敗血症性ショック、全身性エリテマトーデス、卒中発作、血管漏出症候群、移植拒絶、並びに心肺バイパス手術における不適切な免疫応答等の、多種多様な疾患及び障害において、不適切な補体活性化が役割を果たすことは、明らかにされてきた。このように、長年の間、補体系の不適切な活性化は治療的介入の標的となってきており、異なる補体カスケードを標的とする補体阻害剤が、治療に用いるために数多く開発中である。
【0006】
虚血性発作及び心筋梗塞において、身体は、脳又は心臓の死んだ組織を異物と認識し補体を活性化するが、これは更なる局部損傷をもたらしてしまう。同様に、心肺バイパス手術において身体は機械のプラスチック表面を異物と認識し補体を活性化させ血管障害を招く可能性がある。自己免疫疾患では、身体は誤って自分自身を異物と認識し補体を活性化して局部組織の損傷をもたらす(例えば、関節リウマチにおける関節破壊や重症筋無力症における筋力低下)。
【0007】
末梢神経系においては、幾つかのタイプの神経疾患は自己免疫を起源とし、循環するミエリン抗原やシュワン細胞抗原に対する自己抗体が検出されている[2]。補体は、免疫関与後天性ヒト脱髄神経炎の一種であるギラン−バレー症候群モデルの実験的アレルギー性神経炎(EAN)で見られる炎症性脱髄のエフェクタであると考えられている[3]。
【0008】
末梢性神経障害は慢性の場合があり、数ヶ月或いは数年に亘りゆっくりと発現する。この病態の例としては、CIDPとして知られている慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害がある。末梢性神経障害は、時に急性で数日のうちに非常に急速に発現し、感染後の脱髄多発神経根筋障害がその一例であるがこれはギラン−バレー症候群(GBS)としてよく知られている。CIDPはかつて「慢性化したGBS」と理解されていたが、GBSの関連病態であると考えられている。
【0009】
GBSは稀な病態(罹患率は合衆国で年間10万人あたり1〜2名、即ち約3000名)である。GBSの約半数のケースは細菌感染やウイルス感染の後に発症する。GBSは自己免疫障害であり、末梢神経を囲む髄鞘を傷つける抗体が体によって産生される。髄鞘は軸索を囲む脂性物質であり、神経に沿って走る信号の速度を増加させる。
【0010】
これらの抗体が抗原(髄鞘)と反応すると、補体系が活性化されC5が産生される。C5はC5aとC5bに分解し、C5bはC5b−9(膜攻撃複合体)となる。C5aは白血球を引き寄せ、C5b−9は血管壁を開いて白血球を組織に侵入させる。白血球は、適度に刺激されると破壊性のサイトカインを放出し、神経の局部的損傷をもたらす。
【0011】
臨床的には、GBSは脚や腕の脱力感と痺れやチクチクした痛みを特徴とし、脚、腕、上半身、顔の感覚や動きの喪失を伴うこともある。GBSの最初の症状は通常、足先と手の指の痺れやチクチクした痛み(知覚異常)であって、その後数日に亘って腕や脚に脱力感が進行する。ある患者は足先と脚にのみ知覚異常を経験するが、別の患者は体の一方の側にのみ症状を有する。
【0012】
これらの症状はこのフェーズに留まることもあり、その場合、歩行にのみやや困難を覚え、松葉杖や歩行ステッキを必要とするようになる。しかし病状は時に進展し、腕や脚が完全に麻痺してしまう。約四分の一の割合で麻痺が胸にまで至り、呼吸筋を凍りつかせるので、患者は人工呼吸器に依存せざるを得なくなる。もし嚥下筋も侵された場合には、栄養管も必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
GBSは医療上危急であり、多くの患者は診断後、すぐに集中治療室に入れられる。GBSは自然に緩解する場合もあるが、回復を助けるために数々の治療が行われている。GBSやCIDPの患者の多くは血漿分離交換法(血漿を交換する)や高用量の免疫グロブリン投与で治療される。極端なケースでは脳脊髄液の濾過を行う。人工呼吸器、血漿分離交換法、免疫グロブリンはいずれも非常に高価である。
【0014】
よって、COPDやGBS等の末梢性神経障害に対する現行の治療を改善する剤が強く要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って本発明は、末梢性神経障害を治療又は予防する方法であって、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量を、それを必要とする被験体に投与することを含む方法を提供するものである。
【0016】
本発明はまた、末梢性神経障害を治療又は予防するための医薬の製造における、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量の使用を提供するものである。
【0017】
本発明における末梢性神経障害は、感染後脱髄多発神経根筋障害(ギラン−バレー症候群)、ミラー・フィッシャー症候群、急性炎症性脱髄多発神経根筋障害(AIDP)、慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害(CIDP)、糖尿病性神経障害、尿毒性掻痒症、多発性運動神経障害、異常蛋白血性神経障害、抗Hu神経障害、ジフテリア後の脱髄神経障害、多発性硬化症、放射線ミエロパシー、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、横断脊髄炎、運動ニューロン疾患、皮膚筋炎からなる群から選択される。
【0018】
好ましくは、前記末梢性神経障害はギラン−バレー症候群及び慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害からなる群から選択される。
【0019】
前記剤は、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防ぐ作用をすることが好ましい。
【0020】
補体C5タンパク質は、本明細書においてはC5とも称し、C5コンベルターゼ酵素(それ自身C3aから生成される)、即ち代替経路の比較的早期の産物によって分解される(図1)。この分解産物としては、アナフィラトキシンC5a、並びに細胞膜傷害複合体(MAC)としても知られる溶解性複合体C5b−9が挙げられる。C5aは、好中球遊走能及び好酸球遊走能、好中球活性化、毛細血管透過性増加並びに好中球アポトーシスの阻害を含む多くの病理的炎症過程に関係する高反応性ペプチドである[4]。
【0021】
MACは、関節リウマチ[5,6]、増殖性糸球体腎炎[7]、特発性膜性腎症[8]、タンパク尿[9]、急性軸索損傷後の脱髄[10]等の他の重要な病理過程と関連しており、異種移植後の急性移植片拒絶の原因ともなる[11]。
【0022】
C5aは、補体関連の障害の分野において特段の関心の的になってきた[12]。C5aは多くの疾病と関連していることが周知であるが、ヒトにおけるその欠乏の影響は限定されているように思われる。C5a受容体又はC5a受容体を結合及び阻害するモノクローナル抗体及び低分子は、各種の自己免疫疾患を治療するために開発されてきた。しかし、これらの分子によってMACの放出は阻止されない。
【0023】
対照的に、本発明の第1のアスペクトに係るC5に結合する剤の投与によって、C5aペプチド及びMACの生成は阻害される。驚くべきことに、C5a及びMACの阻害は、末梢性神経障害に関連する臨床症状を軽減させることが判明した。更に、C5が補体の古典経路及び代替経路の後期の産物であるため、C5の阻害が、カスケードにおける比較的早期の産物を標的とする際の随伴感染のリスクと関連している可能性は低い[13]。
【0024】
C5に結合する剤の能力は、本技術分野で知られている標準的インビトロアッセイ、例えば標識C5を含むゲル上でタンパク質を培養した後にウエスタンブロット法を行うことによって測定することができる。好ましくは、C5に結合する本発明の剤のIC50は0.2mg/mL未満であり、好ましくは0.1mg/mL未満、好ましくは0.05mg/mL未満、好ましくは0.04mg/mL未満、好ましくは0.03mg/mL未満、好ましくは0.02mg/mL、好ましくは1μg/mL未満、好ましくは100ng/mL未満、好ましくは10ng/mL未満、更により好ましくは1ng/mL未満である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
好ましくは、C5に結合する剤は、吸血性節足動物に由来する。「吸血性節足動物」という用語には、昆虫、マダニ、シラミ、ノミ及びコダニ等、それぞれに適合した宿主から血粉を取る全ての節足動物が包含される。好ましくは、前記剤はマダニに由来し、好ましくはマダニのカズキダニ(Ornithodoros moubata)に由来する。
【0026】
本発明の一実施態様においては、C5に結合する剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸を含むタンパク質であるか又はこのタンパク質の機能的等価物である。C5に結合する剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸から構成されるタンパク質であるか又はこのタンパク質の機能的等価物であることができる。
【0027】
別の一実施態様においては、本発明の本実施態様で用いられるタンパク質は、図2のアミノ酸配列の1〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるか、又はその機能的等価物とすることができる。図2に示すタンパク質の配列の最初の18アミノ酸は、C5に対する結合活性には必要ないシグナル配列を形成することから、例えば組換えタンパク質産生の効率性のために、任意的にこれを省くことができる。
【0028】
図2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質は、本明細書においてEV576タンパク質とも称されるが、マダニのOrnithodoros moubataの唾液腺から単離された。EV576は、リポカリンファミリーの中でも遠縁のメンバーであり、補体活性化を阻害することが明らかにされた最初のリポカリンファミリーのメンバーである。EV576タンパク質はC5に結合することによりC5コンベルターゼによるC5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防止し、C5aペプチド及びMACの双方の作用を阻害することにより、補体代替経路、補体古典経路及び補体レクチン経路を阻害する。本明細書で用いられる「EV576タンパク質」という用語は、シグナル配列の有無に拘わらず図2に示される配列を意味する。
【0029】
EV576タンパク質、及び補体の活性化を阻害するこのタンパク質の能力については文献[19]に開示されており、そこではEV576タンパク質は、「OmCIタンパク質」と呼ばれた。EV576タンパク質が末梢性神経障害の治療及び予防に驚くほど効果的であることが、このたび明らかになった。本明細書に提示するデータは、ラットにおける実験的自己免疫神経炎(EAN)の病態亢進期における投与でも、EV576が臨床症状の重篤度を下げることを示している。このように、EV576は、末梢性神経障害の治療・予防に関してヒトの有力な治療剤となりうる。
【0030】
末梢性神経障害の治療におけるEV576の驚くべき有効性は、C5の結合、それによるC5a及びMACの生成の阻害によってEV576が作用するという事実に起因すると考えられる。
【0031】
本発明の更なる実施態様によれば、前記剤は、EV576タンパク質をコードする核酸分子又はその機能的等価物であってよい。例えば、遺伝子治療を用いて、インビボとエクスビボのいずれにおいても被験体内の関連細胞によるEV576タンパク質の体内産生を生じさせることができる。他の一法は、治療遺伝子が血流内又は筋組織内に直接注射された「裸の(naked)DNA」を投与することである。
【0032】
そのような核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の53〜507番塩基を含むか又はそれから構成されることが好ましい。このヌクレオチド配列は、図2のEV576タンパク質をシグナル配列なしにコードする。図2のヌクレオチド配列の最初の54塩基は、補体阻害活性に必要ないシグナル配列をコードする。核酸分子はまた、シグナル配列を有するタンパク質をコードする、図2の核酸配列の1〜507番塩基を含むか又はそれから構成されることができる。
【0033】
EV576タンパク質はラット、マウス及びヒトの血清中においてC5と結合してC5コンベルターゼによる分解を防止し、そのIC50は約0.02mg/mLであることが示されている。C5に対する結合能を有するEV576タンパク質の機能的等価物としてはIC50が0.2mg/mL未満であるものが好ましく、好ましくは0.1mg/mL未満、好ましくは0.05mg/mL未満、好ましくは0.02mg/mL未満、好ましくは1μg/mL未満、好ましくは100ng/mL未満、好ましくは10ng/mL未満、更により好ましくは1ng/mL未満である。
【0034】
一観点において、本明細書で用いられる「機能的等価物」という用語は、C5に結合し、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防止する能力を有するEV576タンパク質のホモログ及び断片を示す。「機能的等価物」という用語はまた、EV576タンパク質と構造的に同等である分子又はEV576タンパク質と同等若しくは同一の3次構造、特にC5と結合するEV576タンパク質の1箇所以上の活性部位の環境において同等若しくは同一の構造、を含む合成分子等の分子を意味する。
【0035】
「ホモログ」という用語には、図2において明示的に特定されるEV576配列のパラログ及びオーソログという意味が包含されるものとするが、例えばその配列としては、リピケファルス-アッペンジクラトス(Rhipicephalus appendiculatus)、クリイロコイタマダニ(R.sanguineus)、R.bursa、アメリカアムブリオマ(A.americanum)、A.cajennense、ヘブライキララマダニ(A.hebraeum)、オウシマダニ(Boophilus microplus)、ウシマダニ(B.annulatus)、B.decoloratus、アミメカクマダニ(Dermacentor reticulatus)、アンダーソン・カクマダニ(D.andersoni)、D.marginatus、アメリカイヌカクマダニ(D.variabilis)、Haemaphysalis inermis、Ha.leachii、点状ダニ(Ha.punctata)、Hyalomma anatolicum anatolicum、Hy.dromedarii、Hy.marginatum marginatum、Ixodes ricinus、シュルツェマダニ(I.persulcatus)、I.scapularis、I.hexagonus、ペルシャダニ(Argas persicus)、ハトヒラタダニ(A.reflexus)、Ornithodoros erraticus、O.moubata moubata、O.m.porcinus及びO.savignyi等の他のマダニ種からのEV576タンパク質配列が挙げられる。また、「ホモログ」という用語には、イエカ属(Culex)、ハマダラカ属(Anopheles)及びヤブカ属(Aedes)等の蚊種、特にCulex quinquefasciatus、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)及びAnopheles gambiae;Ctenocephalides felis(ネコノミ)等のノミ種;ウマバエ;チョウバエ;ブユ;ツェツェバエ;シラミ;コダニ;ヒル;及び扁虫からの同等のEV576タンパク質配列も包含されるものとする。ネイティブEV576タンパク質は、18kDa付近の別の3形態のO.moubataの中に存在すると考えられ、「ホモログ」という用語には、EV576のこれらの他の形態が包含されるものとする。
【0036】
図2に示すEV576配列のホモログの同定方法は当業者に明らかである。例えば、ホモログは、公的及び民間のどちらの配列データベースによっても、そのホモロジー検索によって同定することができる。公的に利用可能なデータベースを使用するのが便利である。但し、特に民間の或いは商業的に利用可能なデータベースが公的なデータベースにないデータを含む場合、民間の或いは商業的に利用可能なデータベースも同様に有用である。一次データベースは、一次ヌクレオチド又はアミノ酸の配列データが蓄積される場所であり、公的に又は商業的に利用可能となっている。公的に利用可能な一次データベースの例としては、GenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、EMBLデータベース(http://www.ebi.ac.uk/)、DDBJデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)、SWISS−PROTタンパク質データベース(http://expasy.hcuge.ch/)、PIR(http://pir.georgetown.edu/)、TrEMBL(http://www.ebi.ac.uk/)、TIGRデータベース(http://www.tigr.org/tdb/index.htmlを参照すること)、NRL−3Dデータベース(http://www.nbrfa.georgetown.edu)、Protein Data Base(http://www.rcsb.org/pdb)、NRDBデータベース(ftp://ncbi.nlm.nih.gov/pub/nrdb/README)、OWLデータベース(http://www.biochem.ucl.ac.uk/bsm/dbbrowser/OWL/)等が挙げられ、並びに二次データベースとしては、PROSITE(http://expasy.hcuge.ch/sprot/prosite.html)、PRINTS(http://iupab.leeds.ac.uk/bmb5dp/prints.html)、Profiles(http://ulrec3.unil.ch/software/PFSCAN#form.html)、Pfam(http://www.sanger.ac.uk/software/pfam)、Identify(http://dna.stanford.edu/identify/)及びBlocks(http://www.blocks.fhcrc.org)データベース等が挙げられる。商業的に利用可能なデータベース又は民間のデータベースの例としては、PathoGenome(ゲノム・セラピューティックス社)及びPathoSeq(インサイト・ファーマシューティカルズ社のもの)等が挙げられる。
【0037】
一般に、2種のポリペプチド間(好ましくは、活性部位等の特定領域上)の同一性が30%を超える場合、これは機能的等価性を示唆していると判断され、従って2種のタンパク質が相同的であることが示唆される。好ましくは、ホモログであるタンパク質は、図2に示すEV576タンパク質配列との配列同一性の程度が60%を超えるものである。より好ましいホモログは、図2に示すEV576タンパク質配列との同一性の程度が、それぞれ70%、80%、90%、95%、98%又は99%を超えるものである。本明細書においては、パーセントによる同一性とは、NCBI(国立バイオテクノロジー情報センター;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)が指定しているデフォルトパラメータを用いるBLASTバージョン2.1.3を用いて測定されるものである[Blosum62マトリックス;ギャップ・オープン・ペナルティ=11及びギャップ・エクステンション・ペナルティ=1]。
【0038】
図2に示すEV576タンパク質配列のホモログとしては、例えば1、2、3、4、5、7、10以上の多くのアミノ酸の野生型配列からアミノ酸が置換、挿入又は欠失した変異体が挙げられるが、これは、これら変異体がC5に結合する能力を有する場合に限る。従って、変異体としては、有害な方法でタンパク質の機能又は活性に影響を与えることのない保存的アミノ酸置換を含むタンパク質が挙げられる。この用語はまた、天然の生物学的変異体(例えばEV576タンパク質が由来する種の範囲内の対立遺伝子変異体又は地理的変異体)を含むものとする。C5に結合する能力が改善した変異体は、タンパク質配列内の特異的残基の計画的な又は誘導された変異によって設計することもできる。
【0039】
EV576タンパク質の断片、並びにEV576タンパク質のホモログの断片は、もしその断片がC5に結合する能力を有しているならば、「機能的等価物」の用語に包含される。断片としては、150未満のアミノ酸、125未満のアミノ酸、100未満のアミノ酸、75未満のアミノ酸、50未満のアミノ酸、或いは更に25以下のアミノ酸であるEV576タンパク質配列に由来するポリペプチドを挙げることができるが、それは、これらの断片が補体C5と結合する能力を有している場合に限る。このような断片としては、上述のように、図2において本明細書で明示的に同定されているO.moubataのEV576タンパク質の断片だけでなく、このタンパク質のホモログの断片も挙げられる。ホモログのこのような断片は、一般に図2のEV576タンパク質配列の断片との同一性が60%を超えるものである。但し、より好ましくは、ホモログの断片は、図2のEV576タンパク質配列の断片との同一性の程度がそれぞれ70%、80%、90%、95%、98%又は99%超を示すものである。勿論、改善された断片は、野生型配列の計画的な変異又は断片化の後、適切な活性アッセイによって合理的に設計することができる。断片はEV576と比べて、C5に対する親和性が同等以上である場合やC5に対するIC50が同等以上である場合がある。
【0040】
本発明に従って用いられる機能的等価物は融合タンパク質であってよく、それは、例えば異種タンパク質配列のためのコード配列にEV576タンパク質をフレーム単位でコードするポリヌクレオチドのクローン化によって得られる。「異種」という用語は、本明細書において用いられる場合、EV576タンパク質又はその機能的等価物以外の全てのポリペプチドを示すものとする。N末端かC末端のいずれかの可溶性融合タンパク質に含まれ得る異種配列の例としては:膜結合型タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、細胞外タンパク質のドメイン、シグナル配列、エクスポート配列、或いは親和性クロマトグラフィーによる精製を可能にする配列等が挙げられる。これらの配列は、それらに融合するタンパク質の特異的生物活性を大きく低下させることなく追加特性を付与するために融合タンパク質に共通に含まれることから、発現プラスミド内のこれらの異種の配列の多くは、商業的に入手可能である[14]。このような追加特性の例としては、体液内でより長く続く半減期、細胞外局所化、或いはヒスチジン又はHAタグ等のタグによって可能となるより簡単な精製方法等が挙げられる。
【0041】
EV576タンパク質及びその機能的等価物は、宿主細胞における発現によってリコンビナント形態で調製することができる。このような発現方法は、当業者によく知られており、文献[15]や[16]に詳述されている。EV576タンパク質及びその機能的等価物のリコンビナント形態物は、好ましくは非グリコシル化される。
【0042】
本発明のタンパク質及び断片は、タンパク質化学の従来方法を用いて調製することもできる。例えばタンパク質断片は、化学合成によって調製することができる。融合タンパク質の生成方法は、本技術分野において標準的なものであり当業者によく知られている。例えば、一般的な分子生物学的、微生物学的組換えDNA技術及び免疫学的技法の多くは、文献[15]や[17]に見ることができる。
【0043】
本発明の方法又は使用においてC5に結合する剤が投与される被験体は、好ましくは哺乳類、好ましくはヒトである。また、C5に結合する剤が投与される被験体は、糖尿病、脈管炎、異常蛋白血症、遺伝性運動知覚神経障害等の、末梢性神経障害に関連する更なる疾患も患っていてよい。
【0044】
前記剤は治療的又は予防的に有効な量で投与される。「治療的に有効な量」という用語は、対象となる疾患を治療又は改善するために必要な剤の量をいう。本明細書において用いられる「予防的に有効な量」という用語は、対象となる疾患を予防するために必要な剤の量をいう。
【0045】
好ましくは、前記剤の投与量は、被験体内においてできる限り多くの利用可能なC5、より好ましくは全ての利用可能なC5に結合するのに十分な量である。好ましくは、提供される前記剤の投与量は、被験体内の全ての利用可能なC5に結合するために必要なモル投与量の少なくとも2倍である。提供される前記剤の投与量は、被験体内の全ての利用可能なC5に結合するために必要なモル投与量の2.5倍、3倍、又は4倍とすることができる。好ましくは、前記投与量は、0.0001mg/kg(薬物の質量対患者の質量)〜20mg/kg、好ましくは0.001mg/kg〜10mg/kg、より好ましくは0.1mg/kg〜1mg/kgである。
【0046】
必要な投与頻度は、関係する剤の半減期によって決まる。前記剤がEV576タンパク質又はその機能的等価物である場合、その投与は、連続点滴やボーラス投与、或いは1日1回、1日2回、或いは2、3、4日に1回、更には5、6、7、10、15又は20日以上毎に1回行うことができる。
【0047】
正確な用量及び投与頻度は、投与時の患者の状態によって決めてもよい。用量を決定する際に考慮し得る要素としては、患者の疾病状態の重症度、患者の健康状態、年齢、体重、性別、食事、投与期間及び投与頻度、薬物の併用、反応感度、及び治療に対する患者の忍容性又は反応が挙げられる。正確な量は、ルーチン試験で決定することができるが、最終的には臨床医に判断する責任がある。
【0048】
前記剤は、医薬的に許容しうる担体の一部として一般的に投与されるものである。本明細書において用いられる用語「医薬的に許容しうる担体」は、担体自体が毒性影響を誘起することがなく且つ医薬組成物が投与を受ける個体に有害な抗体の産生の原因となることがない限り、遺伝子、ポリペプチド、抗体、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、不活性ウイルス粒子、その他の剤を包含する。医薬的に許容しうる担体には更に、水や生理的食塩水、グリセロール、エタノール等の液体、湿潤剤や乳化剤、pH緩衝物質等の補助物質等を含有させることができる。よって、投与経路に応じて用いられる医薬担体は様々である。医薬組成物は担体によって、患者による摂取を助ける錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤に調製することができる。医薬的に許容しうる担体については、文献[18]に詳細な考察を見ることができる。
【0049】
前記剤は、公知のいずれの投与経路によっても送達することができる。前記剤は非経口経路(例えば皮下、腹腔内、静脈内又は筋肉内における注射、又は組織の間質腔への送達)によって送達することができる。また、前記組成物は病変部に投与することもできる。その他の投与形態としては、経口及び肺内投与、坐薬、経皮性又は経皮的塗布、針、ハイポスプレー等を挙げることができる。
【0050】
一実施態様においては、前記剤は経静脈的に用量13mg/kg投与し、その後12時間ごとに腹腔内に4mg/kg投与する。
【0051】
C5に結合する前記剤は単独で投与するか、又は末梢性神経障害患者の治療に現在使用されている他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与することもできる。例えば前記剤は、免疫グロブリンの点滴と組み合わせて、或いは血漿分離交換法等の処置と組み合わせて投与することができる。各薬物治療を組み合わせることにより、疾患の治療に対する相加効果又は相乗効果を得ることが出来る。
【0052】
従って本発明は、治療において使用するための次の(i)及び(ii)、即ち(i)C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物、及び(ii)免疫グロブリン、を提供するものである。
【0053】
本発明はまた、末梢性神経障害を治療するための医薬の製造における(i)及び(ii)の使用、即ち(i)C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物、及び(ii)免疫グロブリン、の使用を提供するものである。
【0054】
C5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物と同時に、順次的に、又は別々に投与することができる。例えば、C5に結合する前記剤は他の(一種以上の)薬物の投与前又は投与後に投与することができる。
【0055】
従って本発明は、被験体における末梢性神経障害を治療するための医薬の製造におけるC5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物の使用を提供するものであって、ここで前記被験体は、免疫グロブリン治療を予め受けているものである。本発明はまた、被験体における末梢性神経障害を治療するための医薬の製造における、免疫グロブリンの使用を提供するものであって、ここで前記被験体は、C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物による治療を予め受けているものである。
【0056】
C5に結合する前記剤は、末梢性神経障害が関連する他の疾患(糖尿病や脈管炎、異常蛋白血症、遺伝性運動知覚神経障害等)の治療に現在使用されている他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与することもできる。C5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物と同時に、順次的に又は別々に投与することができる。例えばC5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物の投与前又は投与後に投与することができる。
【0057】
次に、実施例によって本発明の各アスペクト及び実施態様をより詳細に説明する。本発明の範囲から逸脱することなく細部を変更することができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】補体活性化の古典経路及び代替経路の概略図。酵素成分はダークグレーで示し、アナフィラトキシンは星形で囲んで示す。
【図2】EV576の一次配列。シグナル配列に下線を施す。システイン残基を太字で示す。ヌクレオチド番号とアミノ酸番号を右側に示す。
【図3A】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。A)陰イオン交換クロマトグラフィー。
【図3B】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。B)フラクションの古典的溶血アッセイ。
【図3C】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。C)還元型SDS−PAGE。
【図3D】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。D)RP−HPLC。
【図4A】EV576の作用機序。A)C3a産生に影響なし。
【図4B】EV576の作用機序。B)C5a産生の防止。
【図4C】EV576の作用機序。C)C5と直接結合。
【図5A】組換えEV576。A)組換えEV576(rEV576)によって、補体はネイティブEV576と同程度に効果的に阻害される。
【図5B】組換えEV576。B)EV576の構造。
【図6A】実験的自己免疫神経炎モデルにおけるrEV576の効果。A)対照動物との比較における、rEV576処置動物の体重減少。
【図6B】実験的自己免疫神経炎モデルにおけるrEV576の効果。B)対照動物との比較における、rEV576処置動物の臨床スコア。
【実施例】
【0059】
1.作用機序及び阻害濃度
文献[19]に開示されているように、EV576は、ヒメダニ類のOrthinodoros moubataの唾液腺抽出物を用いて、古典的溶血アッセイ(図3)により補体阻害活性があることが判明した唾液腺抽出物フラクションをSDS−PAGE及びRP−HPLCに付すことにより精製した。
【0060】
EV576は、ヒトとモルモットの両方の古典的経路及び代替経路を阻害する。EV576は、C3aの産生速度には影響を及ぼさないが(図4A)C5からC5aへの分解を防止する(図4B)。
【0061】
補体の古典経路と代替経路を阻害するEV576の能力は、補体C5(C5aとC5b−9の前駆体)に分子が結合することによりもたらされる。EV576は、IC50約0.02mg/mLでC5に直接結合する(図4C)。各種血清因子が演じる正確な結合機構と副次的役割(あるとすれば)は研究中である。
【0062】
グリコシル化部位が除去された組換えEV576(rEV576)(除去されていない場合は酵母発現系においてグリコシル化される)は、非グリコシル化ネイティブタンパク質と同程度の活性を有する(図5A)。
【0063】
EV576はその構造からリポカリンファミリーの中でも遠縁のメンバーであることが確認され、モウバチン(O.moubata由来の血小板凝集阻害剤)との同一性は46%である(図5B)。リポカリンはヒメダニ類のタンパク質の巨大な群であり、その機能については稀な例外を除いて不明である。
【0064】
2.実験的自己免疫神経炎に対するEV576の効果
文献[20]に記載された方法に従ってラットに実験的自己免疫神経炎(EAN)を誘発させた。
【0065】
170μgの末梢神経ミエリンP0蛋白ペプチド106〜124と1.5mgのヒト結核菌(フロインド不完全アジュバンド添加)をLewisラットに注射した(0日目)。接種から11日目、動物の93%は臨床スコアの階級で2であった。進行麻痺(麻痺/衰弱)は次のように分けた。0=病態なし;1=尾の弛緩;2=中程度の不全対麻痺;3=激しい不全対麻痺;4=四肢不全麻痺又は死亡。11日目にラットに次の注射投与を行った。a)静脈投与(3mg/匹)の後に腹腔内投与(0.1mg/匹)を12時間間隔で7日間、又はb)静脈投与(0.3mg/匹)の後に腹腔内投与(0.1mg/匹)を12時間間隔で7日間、又はc)PBS。コントロール群は全て未処置とした。処置は7日間に限定し、その後は中止した。使用動物は38日目まで追跡しそこで安楽死させた。ラットの体重変化と臨床グレードについて評価した。
【0066】
処置を始めて最初の10日で全ての動物の体重が減少した。体重は17〜18日目から38日目まで回復しつづけ、38日目には元の体重に戻った(図6a)。処置群同士の間には有意な差は見られなかった。
【0067】
11日目迄には93%の動物が臨床スコア2となり、平均スコアは2.17であった。処置は11日から18日まで行った。17日目と18日目に、両積極処置群(即ち高用量と低用量のrEV576で処置した群)はいずれも未処置群(P<0.001)、PBS処置群(P<0.01)に比べ統計的に有意な低い臨床スコアを示した。両積極処置群(即ち高用量と低用量のrEV576)の間には差はなかった(図6b参照)。
【0068】
このように、iv/ipで投与されたrEV576は、病態進行期(即ち臨床スコア2の時期)での投与であっても臨床症状を低減させた。より早期に処置すればより大きな効果が得られると考えられる。よって、rEV576はGBSやCIDP等の末梢性神経障害に罹患したヒトの治療の可能性を示している。
【0069】
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[18] Remington's Pharmaceutical Sciences; Mack Pub. Co., N.J. 1991
[19] WO2004/106369
[20] Zhu, J. et al. Acta Neurologica Scandinavica, 1994. 90: p. 19-25
【技術分野】
【0001】
本発明は、不適切な補体活性化に関連する疾患の治療、特に末梢性神経障害の治療における補体タンパク質C5に結合する剤の使用に関する。
【0002】
明細書本文において言及され、本明細書の最後にリストで示す全ての文献を、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【背景技術】
【0003】
補体系は、異物の侵入に対する身体の自然防御機構の重要な一部分であり、炎症プロセスにも関係するものである。血清中及び細胞表面の30を越えるタンパク質は、補体系の機能及び調節に関係している。有益なプロセスと病的なプロセスの双方に関連する可能性を有する補体系の約35の公知成分と同様、補体系自体が、血管形成、血小板活性化、糖代謝及び精子形成と同様に多様な機能を有する少なくとも85種の生物学的経路と相互作用することが最近明らかになってきた[1]。
【0004】
補体系は、異種抗原の存在下で活性化される。3種の活性化経路:(1)IgM及びIgGの複合体によって、或いは炭水化物の認識によって活性化される古典経路;(2)非自己の表面(特定の調節分子を欠く)によって、並びに細菌内毒素によって活性化される代替経路;及び(3)病原体の表面上のマンノース残基へのマンナン結合レクチン(MBL)の結合によって活性化されるレクチン経路、が存在する。この3種の経路には、急性炎症メディエーター(C3a及びC5a)の放出並びに細胞膜傷害複合体(MAC)の形成の原因となる、細胞表面上の類似のC3コンベルターゼ及びC5コンベルターゼの形成による補体活性化の発生の原因となるイベントの平行したカスケードがある。古典経路及び代替経路に関係する平行したカスケードについては、図1に示す。
【0005】
補体は、望ましくない局所的組織破壊につながる一定の状況の下で不適切に活性化する可能性がある。急性膵炎、アルツハイマー病、アレルギー性脳脊髄炎、同種移植、喘息、成人呼吸窮迫症候群、火傷、クローン病、糸球体腎炎、溶血性貧血、血液透析、遺伝性血管浮腫、虚血再潅流障害、多系統臓器不全、多発性硬化症、重症筋無力症、虚血性発作、心筋梗塞、乾癬、関節リウマチ、敗血症性ショック、全身性エリテマトーデス、卒中発作、血管漏出症候群、移植拒絶、並びに心肺バイパス手術における不適切な免疫応答等の、多種多様な疾患及び障害において、不適切な補体活性化が役割を果たすことは、明らかにされてきた。このように、長年の間、補体系の不適切な活性化は治療的介入の標的となってきており、異なる補体カスケードを標的とする補体阻害剤が、治療に用いるために数多く開発中である。
【0006】
虚血性発作及び心筋梗塞において、身体は、脳又は心臓の死んだ組織を異物と認識し補体を活性化するが、これは更なる局部損傷をもたらしてしまう。同様に、心肺バイパス手術において身体は機械のプラスチック表面を異物と認識し補体を活性化させ血管障害を招く可能性がある。自己免疫疾患では、身体は誤って自分自身を異物と認識し補体を活性化して局部組織の損傷をもたらす(例えば、関節リウマチにおける関節破壊や重症筋無力症における筋力低下)。
【0007】
末梢神経系においては、幾つかのタイプの神経疾患は自己免疫を起源とし、循環するミエリン抗原やシュワン細胞抗原に対する自己抗体が検出されている[2]。補体は、免疫関与後天性ヒト脱髄神経炎の一種であるギラン−バレー症候群モデルの実験的アレルギー性神経炎(EAN)で見られる炎症性脱髄のエフェクタであると考えられている[3]。
【0008】
末梢性神経障害は慢性の場合があり、数ヶ月或いは数年に亘りゆっくりと発現する。この病態の例としては、CIDPとして知られている慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害がある。末梢性神経障害は、時に急性で数日のうちに非常に急速に発現し、感染後の脱髄多発神経根筋障害がその一例であるがこれはギラン−バレー症候群(GBS)としてよく知られている。CIDPはかつて「慢性化したGBS」と理解されていたが、GBSの関連病態であると考えられている。
【0009】
GBSは稀な病態(罹患率は合衆国で年間10万人あたり1〜2名、即ち約3000名)である。GBSの約半数のケースは細菌感染やウイルス感染の後に発症する。GBSは自己免疫障害であり、末梢神経を囲む髄鞘を傷つける抗体が体によって産生される。髄鞘は軸索を囲む脂性物質であり、神経に沿って走る信号の速度を増加させる。
【0010】
これらの抗体が抗原(髄鞘)と反応すると、補体系が活性化されC5が産生される。C5はC5aとC5bに分解し、C5bはC5b−9(膜攻撃複合体)となる。C5aは白血球を引き寄せ、C5b−9は血管壁を開いて白血球を組織に侵入させる。白血球は、適度に刺激されると破壊性のサイトカインを放出し、神経の局部的損傷をもたらす。
【0011】
臨床的には、GBSは脚や腕の脱力感と痺れやチクチクした痛みを特徴とし、脚、腕、上半身、顔の感覚や動きの喪失を伴うこともある。GBSの最初の症状は通常、足先と手の指の痺れやチクチクした痛み(知覚異常)であって、その後数日に亘って腕や脚に脱力感が進行する。ある患者は足先と脚にのみ知覚異常を経験するが、別の患者は体の一方の側にのみ症状を有する。
【0012】
これらの症状はこのフェーズに留まることもあり、その場合、歩行にのみやや困難を覚え、松葉杖や歩行ステッキを必要とするようになる。しかし病状は時に進展し、腕や脚が完全に麻痺してしまう。約四分の一の割合で麻痺が胸にまで至り、呼吸筋を凍りつかせるので、患者は人工呼吸器に依存せざるを得なくなる。もし嚥下筋も侵された場合には、栄養管も必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
GBSは医療上危急であり、多くの患者は診断後、すぐに集中治療室に入れられる。GBSは自然に緩解する場合もあるが、回復を助けるために数々の治療が行われている。GBSやCIDPの患者の多くは血漿分離交換法(血漿を交換する)や高用量の免疫グロブリン投与で治療される。極端なケースでは脳脊髄液の濾過を行う。人工呼吸器、血漿分離交換法、免疫グロブリンはいずれも非常に高価である。
【0014】
よって、COPDやGBS等の末梢性神経障害に対する現行の治療を改善する剤が強く要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って本発明は、末梢性神経障害を治療又は予防する方法であって、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量を、それを必要とする被験体に投与することを含む方法を提供するものである。
【0016】
本発明はまた、末梢性神経障害を治療又は予防するための医薬の製造における、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量の使用を提供するものである。
【0017】
本発明における末梢性神経障害は、感染後脱髄多発神経根筋障害(ギラン−バレー症候群)、ミラー・フィッシャー症候群、急性炎症性脱髄多発神経根筋障害(AIDP)、慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害(CIDP)、糖尿病性神経障害、尿毒性掻痒症、多発性運動神経障害、異常蛋白血性神経障害、抗Hu神経障害、ジフテリア後の脱髄神経障害、多発性硬化症、放射線ミエロパシー、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、横断脊髄炎、運動ニューロン疾患、皮膚筋炎からなる群から選択される。
【0018】
好ましくは、前記末梢性神経障害はギラン−バレー症候群及び慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害からなる群から選択される。
【0019】
前記剤は、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防ぐ作用をすることが好ましい。
【0020】
補体C5タンパク質は、本明細書においてはC5とも称し、C5コンベルターゼ酵素(それ自身C3aから生成される)、即ち代替経路の比較的早期の産物によって分解される(図1)。この分解産物としては、アナフィラトキシンC5a、並びに細胞膜傷害複合体(MAC)としても知られる溶解性複合体C5b−9が挙げられる。C5aは、好中球遊走能及び好酸球遊走能、好中球活性化、毛細血管透過性増加並びに好中球アポトーシスの阻害を含む多くの病理的炎症過程に関係する高反応性ペプチドである[4]。
【0021】
MACは、関節リウマチ[5,6]、増殖性糸球体腎炎[7]、特発性膜性腎症[8]、タンパク尿[9]、急性軸索損傷後の脱髄[10]等の他の重要な病理過程と関連しており、異種移植後の急性移植片拒絶の原因ともなる[11]。
【0022】
C5aは、補体関連の障害の分野において特段の関心の的になってきた[12]。C5aは多くの疾病と関連していることが周知であるが、ヒトにおけるその欠乏の影響は限定されているように思われる。C5a受容体又はC5a受容体を結合及び阻害するモノクローナル抗体及び低分子は、各種の自己免疫疾患を治療するために開発されてきた。しかし、これらの分子によってMACの放出は阻止されない。
【0023】
対照的に、本発明の第1のアスペクトに係るC5に結合する剤の投与によって、C5aペプチド及びMACの生成は阻害される。驚くべきことに、C5a及びMACの阻害は、末梢性神経障害に関連する臨床症状を軽減させることが判明した。更に、C5が補体の古典経路及び代替経路の後期の産物であるため、C5の阻害が、カスケードにおける比較的早期の産物を標的とする際の随伴感染のリスクと関連している可能性は低い[13]。
【0024】
C5に結合する剤の能力は、本技術分野で知られている標準的インビトロアッセイ、例えば標識C5を含むゲル上でタンパク質を培養した後にウエスタンブロット法を行うことによって測定することができる。好ましくは、C5に結合する本発明の剤のIC50は0.2mg/mL未満であり、好ましくは0.1mg/mL未満、好ましくは0.05mg/mL未満、好ましくは0.04mg/mL未満、好ましくは0.03mg/mL未満、好ましくは0.02mg/mL、好ましくは1μg/mL未満、好ましくは100ng/mL未満、好ましくは10ng/mL未満、更により好ましくは1ng/mL未満である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
好ましくは、C5に結合する剤は、吸血性節足動物に由来する。「吸血性節足動物」という用語には、昆虫、マダニ、シラミ、ノミ及びコダニ等、それぞれに適合した宿主から血粉を取る全ての節足動物が包含される。好ましくは、前記剤はマダニに由来し、好ましくはマダニのカズキダニ(Ornithodoros moubata)に由来する。
【0026】
本発明の一実施態様においては、C5に結合する剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸を含むタンパク質であるか又はこのタンパク質の機能的等価物である。C5に結合する剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸から構成されるタンパク質であるか又はこのタンパク質の機能的等価物であることができる。
【0027】
別の一実施態様においては、本発明の本実施態様で用いられるタンパク質は、図2のアミノ酸配列の1〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるか、又はその機能的等価物とすることができる。図2に示すタンパク質の配列の最初の18アミノ酸は、C5に対する結合活性には必要ないシグナル配列を形成することから、例えば組換えタンパク質産生の効率性のために、任意的にこれを省くことができる。
【0028】
図2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質は、本明細書においてEV576タンパク質とも称されるが、マダニのOrnithodoros moubataの唾液腺から単離された。EV576は、リポカリンファミリーの中でも遠縁のメンバーであり、補体活性化を阻害することが明らかにされた最初のリポカリンファミリーのメンバーである。EV576タンパク質はC5に結合することによりC5コンベルターゼによるC5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防止し、C5aペプチド及びMACの双方の作用を阻害することにより、補体代替経路、補体古典経路及び補体レクチン経路を阻害する。本明細書で用いられる「EV576タンパク質」という用語は、シグナル配列の有無に拘わらず図2に示される配列を意味する。
【0029】
EV576タンパク質、及び補体の活性化を阻害するこのタンパク質の能力については文献[19]に開示されており、そこではEV576タンパク質は、「OmCIタンパク質」と呼ばれた。EV576タンパク質が末梢性神経障害の治療及び予防に驚くほど効果的であることが、このたび明らかになった。本明細書に提示するデータは、ラットにおける実験的自己免疫神経炎(EAN)の病態亢進期における投与でも、EV576が臨床症状の重篤度を下げることを示している。このように、EV576は、末梢性神経障害の治療・予防に関してヒトの有力な治療剤となりうる。
【0030】
末梢性神経障害の治療におけるEV576の驚くべき有効性は、C5の結合、それによるC5a及びMACの生成の阻害によってEV576が作用するという事実に起因すると考えられる。
【0031】
本発明の更なる実施態様によれば、前記剤は、EV576タンパク質をコードする核酸分子又はその機能的等価物であってよい。例えば、遺伝子治療を用いて、インビボとエクスビボのいずれにおいても被験体内の関連細胞によるEV576タンパク質の体内産生を生じさせることができる。他の一法は、治療遺伝子が血流内又は筋組織内に直接注射された「裸の(naked)DNA」を投与することである。
【0032】
そのような核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の53〜507番塩基を含むか又はそれから構成されることが好ましい。このヌクレオチド配列は、図2のEV576タンパク質をシグナル配列なしにコードする。図2のヌクレオチド配列の最初の54塩基は、補体阻害活性に必要ないシグナル配列をコードする。核酸分子はまた、シグナル配列を有するタンパク質をコードする、図2の核酸配列の1〜507番塩基を含むか又はそれから構成されることができる。
【0033】
EV576タンパク質はラット、マウス及びヒトの血清中においてC5と結合してC5コンベルターゼによる分解を防止し、そのIC50は約0.02mg/mLであることが示されている。C5に対する結合能を有するEV576タンパク質の機能的等価物としてはIC50が0.2mg/mL未満であるものが好ましく、好ましくは0.1mg/mL未満、好ましくは0.05mg/mL未満、好ましくは0.02mg/mL未満、好ましくは1μg/mL未満、好ましくは100ng/mL未満、好ましくは10ng/mL未満、更により好ましくは1ng/mL未満である。
【0034】
一観点において、本明細書で用いられる「機能的等価物」という用語は、C5に結合し、C5コンベルターゼによる補体C5の補体C5aと補体C5b−9への分解を防止する能力を有するEV576タンパク質のホモログ及び断片を示す。「機能的等価物」という用語はまた、EV576タンパク質と構造的に同等である分子又はEV576タンパク質と同等若しくは同一の3次構造、特にC5と結合するEV576タンパク質の1箇所以上の活性部位の環境において同等若しくは同一の構造、を含む合成分子等の分子を意味する。
【0035】
「ホモログ」という用語には、図2において明示的に特定されるEV576配列のパラログ及びオーソログという意味が包含されるものとするが、例えばその配列としては、リピケファルス-アッペンジクラトス(Rhipicephalus appendiculatus)、クリイロコイタマダニ(R.sanguineus)、R.bursa、アメリカアムブリオマ(A.americanum)、A.cajennense、ヘブライキララマダニ(A.hebraeum)、オウシマダニ(Boophilus microplus)、ウシマダニ(B.annulatus)、B.decoloratus、アミメカクマダニ(Dermacentor reticulatus)、アンダーソン・カクマダニ(D.andersoni)、D.marginatus、アメリカイヌカクマダニ(D.variabilis)、Haemaphysalis inermis、Ha.leachii、点状ダニ(Ha.punctata)、Hyalomma anatolicum anatolicum、Hy.dromedarii、Hy.marginatum marginatum、Ixodes ricinus、シュルツェマダニ(I.persulcatus)、I.scapularis、I.hexagonus、ペルシャダニ(Argas persicus)、ハトヒラタダニ(A.reflexus)、Ornithodoros erraticus、O.moubata moubata、O.m.porcinus及びO.savignyi等の他のマダニ種からのEV576タンパク質配列が挙げられる。また、「ホモログ」という用語には、イエカ属(Culex)、ハマダラカ属(Anopheles)及びヤブカ属(Aedes)等の蚊種、特にCulex quinquefasciatus、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)及びAnopheles gambiae;Ctenocephalides felis(ネコノミ)等のノミ種;ウマバエ;チョウバエ;ブユ;ツェツェバエ;シラミ;コダニ;ヒル;及び扁虫からの同等のEV576タンパク質配列も包含されるものとする。ネイティブEV576タンパク質は、18kDa付近の別の3形態のO.moubataの中に存在すると考えられ、「ホモログ」という用語には、EV576のこれらの他の形態が包含されるものとする。
【0036】
図2に示すEV576配列のホモログの同定方法は当業者に明らかである。例えば、ホモログは、公的及び民間のどちらの配列データベースによっても、そのホモロジー検索によって同定することができる。公的に利用可能なデータベースを使用するのが便利である。但し、特に民間の或いは商業的に利用可能なデータベースが公的なデータベースにないデータを含む場合、民間の或いは商業的に利用可能なデータベースも同様に有用である。一次データベースは、一次ヌクレオチド又はアミノ酸の配列データが蓄積される場所であり、公的に又は商業的に利用可能となっている。公的に利用可能な一次データベースの例としては、GenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、EMBLデータベース(http://www.ebi.ac.uk/)、DDBJデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)、SWISS−PROTタンパク質データベース(http://expasy.hcuge.ch/)、PIR(http://pir.georgetown.edu/)、TrEMBL(http://www.ebi.ac.uk/)、TIGRデータベース(http://www.tigr.org/tdb/index.htmlを参照すること)、NRL−3Dデータベース(http://www.nbrfa.georgetown.edu)、Protein Data Base(http://www.rcsb.org/pdb)、NRDBデータベース(ftp://ncbi.nlm.nih.gov/pub/nrdb/README)、OWLデータベース(http://www.biochem.ucl.ac.uk/bsm/dbbrowser/OWL/)等が挙げられ、並びに二次データベースとしては、PROSITE(http://expasy.hcuge.ch/sprot/prosite.html)、PRINTS(http://iupab.leeds.ac.uk/bmb5dp/prints.html)、Profiles(http://ulrec3.unil.ch/software/PFSCAN#form.html)、Pfam(http://www.sanger.ac.uk/software/pfam)、Identify(http://dna.stanford.edu/identify/)及びBlocks(http://www.blocks.fhcrc.org)データベース等が挙げられる。商業的に利用可能なデータベース又は民間のデータベースの例としては、PathoGenome(ゲノム・セラピューティックス社)及びPathoSeq(インサイト・ファーマシューティカルズ社のもの)等が挙げられる。
【0037】
一般に、2種のポリペプチド間(好ましくは、活性部位等の特定領域上)の同一性が30%を超える場合、これは機能的等価性を示唆していると判断され、従って2種のタンパク質が相同的であることが示唆される。好ましくは、ホモログであるタンパク質は、図2に示すEV576タンパク質配列との配列同一性の程度が60%を超えるものである。より好ましいホモログは、図2に示すEV576タンパク質配列との同一性の程度が、それぞれ70%、80%、90%、95%、98%又は99%を超えるものである。本明細書においては、パーセントによる同一性とは、NCBI(国立バイオテクノロジー情報センター;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)が指定しているデフォルトパラメータを用いるBLASTバージョン2.1.3を用いて測定されるものである[Blosum62マトリックス;ギャップ・オープン・ペナルティ=11及びギャップ・エクステンション・ペナルティ=1]。
【0038】
図2に示すEV576タンパク質配列のホモログとしては、例えば1、2、3、4、5、7、10以上の多くのアミノ酸の野生型配列からアミノ酸が置換、挿入又は欠失した変異体が挙げられるが、これは、これら変異体がC5に結合する能力を有する場合に限る。従って、変異体としては、有害な方法でタンパク質の機能又は活性に影響を与えることのない保存的アミノ酸置換を含むタンパク質が挙げられる。この用語はまた、天然の生物学的変異体(例えばEV576タンパク質が由来する種の範囲内の対立遺伝子変異体又は地理的変異体)を含むものとする。C5に結合する能力が改善した変異体は、タンパク質配列内の特異的残基の計画的な又は誘導された変異によって設計することもできる。
【0039】
EV576タンパク質の断片、並びにEV576タンパク質のホモログの断片は、もしその断片がC5に結合する能力を有しているならば、「機能的等価物」の用語に包含される。断片としては、150未満のアミノ酸、125未満のアミノ酸、100未満のアミノ酸、75未満のアミノ酸、50未満のアミノ酸、或いは更に25以下のアミノ酸であるEV576タンパク質配列に由来するポリペプチドを挙げることができるが、それは、これらの断片が補体C5と結合する能力を有している場合に限る。このような断片としては、上述のように、図2において本明細書で明示的に同定されているO.moubataのEV576タンパク質の断片だけでなく、このタンパク質のホモログの断片も挙げられる。ホモログのこのような断片は、一般に図2のEV576タンパク質配列の断片との同一性が60%を超えるものである。但し、より好ましくは、ホモログの断片は、図2のEV576タンパク質配列の断片との同一性の程度がそれぞれ70%、80%、90%、95%、98%又は99%超を示すものである。勿論、改善された断片は、野生型配列の計画的な変異又は断片化の後、適切な活性アッセイによって合理的に設計することができる。断片はEV576と比べて、C5に対する親和性が同等以上である場合やC5に対するIC50が同等以上である場合がある。
【0040】
本発明に従って用いられる機能的等価物は融合タンパク質であってよく、それは、例えば異種タンパク質配列のためのコード配列にEV576タンパク質をフレーム単位でコードするポリヌクレオチドのクローン化によって得られる。「異種」という用語は、本明細書において用いられる場合、EV576タンパク質又はその機能的等価物以外の全てのポリペプチドを示すものとする。N末端かC末端のいずれかの可溶性融合タンパク質に含まれ得る異種配列の例としては:膜結合型タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常部領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、細胞外タンパク質のドメイン、シグナル配列、エクスポート配列、或いは親和性クロマトグラフィーによる精製を可能にする配列等が挙げられる。これらの配列は、それらに融合するタンパク質の特異的生物活性を大きく低下させることなく追加特性を付与するために融合タンパク質に共通に含まれることから、発現プラスミド内のこれらの異種の配列の多くは、商業的に入手可能である[14]。このような追加特性の例としては、体液内でより長く続く半減期、細胞外局所化、或いはヒスチジン又はHAタグ等のタグによって可能となるより簡単な精製方法等が挙げられる。
【0041】
EV576タンパク質及びその機能的等価物は、宿主細胞における発現によってリコンビナント形態で調製することができる。このような発現方法は、当業者によく知られており、文献[15]や[16]に詳述されている。EV576タンパク質及びその機能的等価物のリコンビナント形態物は、好ましくは非グリコシル化される。
【0042】
本発明のタンパク質及び断片は、タンパク質化学の従来方法を用いて調製することもできる。例えばタンパク質断片は、化学合成によって調製することができる。融合タンパク質の生成方法は、本技術分野において標準的なものであり当業者によく知られている。例えば、一般的な分子生物学的、微生物学的組換えDNA技術及び免疫学的技法の多くは、文献[15]や[17]に見ることができる。
【0043】
本発明の方法又は使用においてC5に結合する剤が投与される被験体は、好ましくは哺乳類、好ましくはヒトである。また、C5に結合する剤が投与される被験体は、糖尿病、脈管炎、異常蛋白血症、遺伝性運動知覚神経障害等の、末梢性神経障害に関連する更なる疾患も患っていてよい。
【0044】
前記剤は治療的又は予防的に有効な量で投与される。「治療的に有効な量」という用語は、対象となる疾患を治療又は改善するために必要な剤の量をいう。本明細書において用いられる「予防的に有効な量」という用語は、対象となる疾患を予防するために必要な剤の量をいう。
【0045】
好ましくは、前記剤の投与量は、被験体内においてできる限り多くの利用可能なC5、より好ましくは全ての利用可能なC5に結合するのに十分な量である。好ましくは、提供される前記剤の投与量は、被験体内の全ての利用可能なC5に結合するために必要なモル投与量の少なくとも2倍である。提供される前記剤の投与量は、被験体内の全ての利用可能なC5に結合するために必要なモル投与量の2.5倍、3倍、又は4倍とすることができる。好ましくは、前記投与量は、0.0001mg/kg(薬物の質量対患者の質量)〜20mg/kg、好ましくは0.001mg/kg〜10mg/kg、より好ましくは0.1mg/kg〜1mg/kgである。
【0046】
必要な投与頻度は、関係する剤の半減期によって決まる。前記剤がEV576タンパク質又はその機能的等価物である場合、その投与は、連続点滴やボーラス投与、或いは1日1回、1日2回、或いは2、3、4日に1回、更には5、6、7、10、15又は20日以上毎に1回行うことができる。
【0047】
正確な用量及び投与頻度は、投与時の患者の状態によって決めてもよい。用量を決定する際に考慮し得る要素としては、患者の疾病状態の重症度、患者の健康状態、年齢、体重、性別、食事、投与期間及び投与頻度、薬物の併用、反応感度、及び治療に対する患者の忍容性又は反応が挙げられる。正確な量は、ルーチン試験で決定することができるが、最終的には臨床医に判断する責任がある。
【0048】
前記剤は、医薬的に許容しうる担体の一部として一般的に投与されるものである。本明細書において用いられる用語「医薬的に許容しうる担体」は、担体自体が毒性影響を誘起することがなく且つ医薬組成物が投与を受ける個体に有害な抗体の産生の原因となることがない限り、遺伝子、ポリペプチド、抗体、リポソーム、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、不活性ウイルス粒子、その他の剤を包含する。医薬的に許容しうる担体には更に、水や生理的食塩水、グリセロール、エタノール等の液体、湿潤剤や乳化剤、pH緩衝物質等の補助物質等を含有させることができる。よって、投与経路に応じて用いられる医薬担体は様々である。医薬組成物は担体によって、患者による摂取を助ける錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤に調製することができる。医薬的に許容しうる担体については、文献[18]に詳細な考察を見ることができる。
【0049】
前記剤は、公知のいずれの投与経路によっても送達することができる。前記剤は非経口経路(例えば皮下、腹腔内、静脈内又は筋肉内における注射、又は組織の間質腔への送達)によって送達することができる。また、前記組成物は病変部に投与することもできる。その他の投与形態としては、経口及び肺内投与、坐薬、経皮性又は経皮的塗布、針、ハイポスプレー等を挙げることができる。
【0050】
一実施態様においては、前記剤は経静脈的に用量13mg/kg投与し、その後12時間ごとに腹腔内に4mg/kg投与する。
【0051】
C5に結合する前記剤は単独で投与するか、又は末梢性神経障害患者の治療に現在使用されている他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与することもできる。例えば前記剤は、免疫グロブリンの点滴と組み合わせて、或いは血漿分離交換法等の処置と組み合わせて投与することができる。各薬物治療を組み合わせることにより、疾患の治療に対する相加効果又は相乗効果を得ることが出来る。
【0052】
従って本発明は、治療において使用するための次の(i)及び(ii)、即ち(i)C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物、及び(ii)免疫グロブリン、を提供するものである。
【0053】
本発明はまた、末梢性神経障害を治療するための医薬の製造における(i)及び(ii)の使用、即ち(i)C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物、及び(ii)免疫グロブリン、の使用を提供するものである。
【0054】
C5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物と同時に、順次的に、又は別々に投与することができる。例えば、C5に結合する前記剤は他の(一種以上の)薬物の投与前又は投与後に投与することができる。
【0055】
従って本発明は、被験体における末梢性神経障害を治療するための医薬の製造におけるC5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物の使用を提供するものであって、ここで前記被験体は、免疫グロブリン治療を予め受けているものである。本発明はまた、被験体における末梢性神経障害を治療するための医薬の製造における、免疫グロブリンの使用を提供するものであって、ここで前記被験体は、C5に結合する剤、好ましくはEV576タンパク質又はその機能的等価物による治療を予め受けているものである。
【0056】
C5に結合する前記剤は、末梢性神経障害が関連する他の疾患(糖尿病や脈管炎、異常蛋白血症、遺伝性運動知覚神経障害等)の治療に現在使用されている他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与することもできる。C5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物と同時に、順次的に又は別々に投与することができる。例えばC5に結合する前記剤は、他の(一種以上の)薬物の投与前又は投与後に投与することができる。
【0057】
次に、実施例によって本発明の各アスペクト及び実施態様をより詳細に説明する。本発明の範囲から逸脱することなく細部を変更することができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】補体活性化の古典経路及び代替経路の概略図。酵素成分はダークグレーで示し、アナフィラトキシンは星形で囲んで示す。
【図2】EV576の一次配列。シグナル配列に下線を施す。システイン残基を太字で示す。ヌクレオチド番号とアミノ酸番号を右側に示す。
【図3A】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。A)陰イオン交換クロマトグラフィー。
【図3B】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。B)フラクションの古典的溶血アッセイ。
【図3C】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。C)還元型SDS−PAGE。
【図3D】EV576のマダニ唾液腺抽出物(SGE)からの精製。D)RP−HPLC。
【図4A】EV576の作用機序。A)C3a産生に影響なし。
【図4B】EV576の作用機序。B)C5a産生の防止。
【図4C】EV576の作用機序。C)C5と直接結合。
【図5A】組換えEV576。A)組換えEV576(rEV576)によって、補体はネイティブEV576と同程度に効果的に阻害される。
【図5B】組換えEV576。B)EV576の構造。
【図6A】実験的自己免疫神経炎モデルにおけるrEV576の効果。A)対照動物との比較における、rEV576処置動物の体重減少。
【図6B】実験的自己免疫神経炎モデルにおけるrEV576の効果。B)対照動物との比較における、rEV576処置動物の臨床スコア。
【実施例】
【0059】
1.作用機序及び阻害濃度
文献[19]に開示されているように、EV576は、ヒメダニ類のOrthinodoros moubataの唾液腺抽出物を用いて、古典的溶血アッセイ(図3)により補体阻害活性があることが判明した唾液腺抽出物フラクションをSDS−PAGE及びRP−HPLCに付すことにより精製した。
【0060】
EV576は、ヒトとモルモットの両方の古典的経路及び代替経路を阻害する。EV576は、C3aの産生速度には影響を及ぼさないが(図4A)C5からC5aへの分解を防止する(図4B)。
【0061】
補体の古典経路と代替経路を阻害するEV576の能力は、補体C5(C5aとC5b−9の前駆体)に分子が結合することによりもたらされる。EV576は、IC50約0.02mg/mLでC5に直接結合する(図4C)。各種血清因子が演じる正確な結合機構と副次的役割(あるとすれば)は研究中である。
【0062】
グリコシル化部位が除去された組換えEV576(rEV576)(除去されていない場合は酵母発現系においてグリコシル化される)は、非グリコシル化ネイティブタンパク質と同程度の活性を有する(図5A)。
【0063】
EV576はその構造からリポカリンファミリーの中でも遠縁のメンバーであることが確認され、モウバチン(O.moubata由来の血小板凝集阻害剤)との同一性は46%である(図5B)。リポカリンはヒメダニ類のタンパク質の巨大な群であり、その機能については稀な例外を除いて不明である。
【0064】
2.実験的自己免疫神経炎に対するEV576の効果
文献[20]に記載された方法に従ってラットに実験的自己免疫神経炎(EAN)を誘発させた。
【0065】
170μgの末梢神経ミエリンP0蛋白ペプチド106〜124と1.5mgのヒト結核菌(フロインド不完全アジュバンド添加)をLewisラットに注射した(0日目)。接種から11日目、動物の93%は臨床スコアの階級で2であった。進行麻痺(麻痺/衰弱)は次のように分けた。0=病態なし;1=尾の弛緩;2=中程度の不全対麻痺;3=激しい不全対麻痺;4=四肢不全麻痺又は死亡。11日目にラットに次の注射投与を行った。a)静脈投与(3mg/匹)の後に腹腔内投与(0.1mg/匹)を12時間間隔で7日間、又はb)静脈投与(0.3mg/匹)の後に腹腔内投与(0.1mg/匹)を12時間間隔で7日間、又はc)PBS。コントロール群は全て未処置とした。処置は7日間に限定し、その後は中止した。使用動物は38日目まで追跡しそこで安楽死させた。ラットの体重変化と臨床グレードについて評価した。
【0066】
処置を始めて最初の10日で全ての動物の体重が減少した。体重は17〜18日目から38日目まで回復しつづけ、38日目には元の体重に戻った(図6a)。処置群同士の間には有意な差は見られなかった。
【0067】
11日目迄には93%の動物が臨床スコア2となり、平均スコアは2.17であった。処置は11日から18日まで行った。17日目と18日目に、両積極処置群(即ち高用量と低用量のrEV576で処置した群)はいずれも未処置群(P<0.001)、PBS処置群(P<0.01)に比べ統計的に有意な低い臨床スコアを示した。両積極処置群(即ち高用量と低用量のrEV576)の間には差はなかった(図6b参照)。
【0068】
このように、iv/ipで投与されたrEV576は、病態進行期(即ち臨床スコア2の時期)での投与であっても臨床症状を低減させた。より早期に処置すればより大きな効果が得られると考えられる。よって、rEV576はGBSやCIDP等の末梢性神経障害に罹患したヒトの治療の可能性を示している。
【0069】
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[18] Remington's Pharmaceutical Sciences; Mack Pub. Co., N.J. 1991
[19] WO2004/106369
[20] Zhu, J. et al. Acta Neurologica Scandinavica, 1994. 90: p. 19-25
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢性神経障害を治療又は予防する方法であって、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量を、それを必要とする被験体に投与することを含む方法。
【請求項2】
末梢性神経障害を治療又は予防するための医薬の製造における、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量の使用。
【請求項3】
前記剤は、補体C5がC5コンベルターゼによって補体C5aと補体C5b−9とに分解されるのを防ぐ作用をする、請求項1に記載の方法又は請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記剤はIC500.2mg/mL未満でC5に結合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項5】
前記剤は吸血性節足動物に由来する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項6】
C5に結合する前記剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるタンパク質であるか、又はこのタンパク質の機能的等価物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項7】
C5に結合する前記剤は、図2のアミノ酸配列の1〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるタンパク質であるか、又はこのタンパク質の機能的等価物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項8】
前記剤は、請求項6又は7に記載のタンパク質をコードする核酸分子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項9】
前記核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の53〜507番塩基を含むか又はそれから構成される、請求項8に記載の方法又は使用。
【請求項10】
前記核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の1〜507番塩基を含むか又はそれから構成される、請求項9に記載の方法又は使用。
【請求項11】
前記被験体は哺乳類であり、好ましくはヒトである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項12】
前記剤は、被験体内においてできる限り多くの利用可能なC5、より好ましくは全ての利用可能なC5に結合するのに十分な用量で投与される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項13】
前記剤は、経静脈的に用量13mg/kg投与され、その後12時間ごとに腹腔内に4mg/kg投与される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項14】
C5に結合する前記剤は、末梢性神経障害の治療のための他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項15】
前記他の薬物は免疫グロブリンである、請求項14に記載の使用方法。
【請求項16】
C5に結合する前記剤は、前記他の薬物と同時に、順次的に、又は別々に投与される、請求項14又は15に記載の使用方法。
【請求項17】
前記末梢性神経障害は、感染後脱髄多発神経根筋障害(ギラン−バレー症候群)、ミラー・フィッシャー症候群、急性炎症性脱髄多発神経根筋障害(AIDP)、慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害(CIDP)、糖尿病性神経障害、尿毒性掻痒症、多発性運動神経障害、異常蛋白血性神経障害、抗Hu神経障害、ジフテリア後の脱髄神経障害、多発性硬化症、放射線ミエロパシー、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、横断脊髄炎、運動ニューロン疾患、皮膚筋炎からなる群から選択される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項18】
前記末梢性神経障害は、ギラン−バレー症候群と慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害からなる群から選択される、請求項17に記載の方法又は使用。
【請求項1】
末梢性神経障害を治療又は予防する方法であって、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量を、それを必要とする被験体に投与することを含む方法。
【請求項2】
末梢性神経障害を治療又は予防するための医薬の製造における、補体C5に結合する剤の治療又は予防に有効な量の使用。
【請求項3】
前記剤は、補体C5がC5コンベルターゼによって補体C5aと補体C5b−9とに分解されるのを防ぐ作用をする、請求項1に記載の方法又は請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記剤はIC500.2mg/mL未満でC5に結合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項5】
前記剤は吸血性節足動物に由来する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項6】
C5に結合する前記剤は、図2のアミノ酸配列の19〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるタンパク質であるか、又はこのタンパク質の機能的等価物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項7】
C5に結合する前記剤は、図2のアミノ酸配列の1〜168番アミノ酸を含む若しくはそれから構成されるタンパク質であるか、又はこのタンパク質の機能的等価物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項8】
前記剤は、請求項6又は7に記載のタンパク質をコードする核酸分子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項9】
前記核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の53〜507番塩基を含むか又はそれから構成される、請求項8に記載の方法又は使用。
【請求項10】
前記核酸分子は、図2のヌクレオチド配列の1〜507番塩基を含むか又はそれから構成される、請求項9に記載の方法又は使用。
【請求項11】
前記被験体は哺乳類であり、好ましくはヒトである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項12】
前記剤は、被験体内においてできる限り多くの利用可能なC5、より好ましくは全ての利用可能なC5に結合するのに十分な用量で投与される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項13】
前記剤は、経静脈的に用量13mg/kg投与され、その後12時間ごとに腹腔内に4mg/kg投与される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項14】
C5に結合する前記剤は、末梢性神経障害の治療のための他の薬物の投与も伴う治療計画の一部として投与される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項15】
前記他の薬物は免疫グロブリンである、請求項14に記載の使用方法。
【請求項16】
C5に結合する前記剤は、前記他の薬物と同時に、順次的に、又は別々に投与される、請求項14又は15に記載の使用方法。
【請求項17】
前記末梢性神経障害は、感染後脱髄多発神経根筋障害(ギラン−バレー症候群)、ミラー・フィッシャー症候群、急性炎症性脱髄多発神経根筋障害(AIDP)、慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害(CIDP)、糖尿病性神経障害、尿毒性掻痒症、多発性運動神経障害、異常蛋白血性神経障害、抗Hu神経障害、ジフテリア後の脱髄神経障害、多発性硬化症、放射線ミエロパシー、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、横断脊髄炎、運動ニューロン疾患、皮膚筋炎からなる群から選択される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法又は使用。
【請求項18】
前記末梢性神経障害は、ギラン−バレー症候群と慢性炎症性脱髄多発神経根筋障害からなる群から選択される、請求項17に記載の方法又は使用。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【公表番号】特表2010−502686(P2010−502686A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527207(P2009−527207)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003401
【国際公開番号】WO2008/029167
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(509064657)ヴァーレイ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003401
【国際公開番号】WO2008/029167
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(509064657)ヴァーレイ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
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