説明

材料及び当該材料を含むグレージング

本発明は、少なくとも一方の面を薄膜のスタックでコーティングしたガラス基材を含む材料であって、前記薄膜のスタックが、前記基材から外側へ、少なくとも1つの下方の誘電体層、金属又は金属窒化物からなる少なくとも1つの機能層、少なくとも1つの上方の誘電体層、及びアナターゼ型に少なくとも部分的に結晶化された少なくとも1つの酸化チタン層を含み、前記金属又は金属窒化物が、Nb、NbN、W、WN、Ta、TaN又はこれらの任意の合金若しくは固溶体に基づくものである材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒層でコーティングされたガラス基材を含む材料の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒層、特には酸化チタンに基づく光触媒層は、それをコーティングした基材に自己洗浄及び防汚特性を付与することが知られている。2つの特性は、それらの有利な特徴の原因となるものである。第一に、酸化チタンは光触媒的であり、すなわち適切な放射線のもとで、一般的には紫外線放射のもとで有機化合物の分解反応を触媒することができる。この光触媒活性は、電子と正孔の対を生み出すことによって層中で引き起こされる。さらに、酸化チタンは、この同じタイプの放射線を照射された場合に極めて顕著な親水性を有する。この強い親水性により、無機物の汚れを流水、例えば雨水のもとで除去することが可能である。このような材料、特にはグレージング上のこのような材料が、例えば欧州特許出願公開第0850204号明細書において記載されている。
【0003】
このような自己洗浄及び防汚特性と太陽光制御特性を組み合わせたグレージングが公知である。「太陽光制御」という語は、窓を通過して住居の部屋及び乗り物の乗員室を温める可能性のある太陽エネルギーの量を低減する機能を意味すると解される。このような特性を備えた窓により、上記の部屋又は乗員室の必要以上の過熱を防ぐことが可能となり、適切な場合には空調と関連したエネルギー消費を制限することが可能となる。したがって、着色ガラス上に光触媒層を堆積することが国際公開第03/050056号から公知であるものの、着色ガラスは光透過率/エネルギー透過率の比に対応する選択率が低い。一方の面に光触媒層を含みそしてもう一方の面に太陽光制御コーティングを含む一般に「二重コーティング」窓と呼ばれるものもある。このような配置の利点は、しばしば不十分な耐候性を有する太陽光制御コーティングが窓の面2上、それゆえ建物の内側に配置されることで保護され、一方で、光触媒コーティングが面1上、すなわち建物の外側にあるということであり、それは最も有用である。しかしながら、このようなグレージングは変換の困難を伴う。というのも、下方の面に堆積された層又は多層は運搬工程の際、特には運搬用ローラーとの接触によって損傷を受けるリスクがあるからである。それゆえ、同じ面、それゆえ面1上に太陽光制御機能と自己洗浄機能を有するグレージングを提供できることが有用であろう。しかしながら、この課題を解決しようとする試みは、得られる多層の不十分な耐候性のために、これまでのところ無駄なものであることがわかっている。
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の目的は、上記の欠点がない太陽光制御グレージングに組み込むことができる光触媒材料を提供することである。本発明の第2の目的は、EN1096−2(2001)基準に従った優れた耐候性を示す太陽光制御グレージングを提供することである。本発明の第3の目的は、透過及び/又は反射において中間の色合いを有する材料を提供することである。
【0005】
これらの目的は、少なくとも一方の面を薄膜の多層でコーティングしたガラス基材を含む材料であって、前記薄膜の多層が、前記基材から順に、少なくとも1つの下方の誘電体層、金属又は金属窒化物からなる少なくとも1つの機能層、少なくとも1つの上方の誘電体層、及びアナターゼ型に少なくとも部分的に結晶化された少なくとも1つの酸化チタン層を含み、前記金属又は金属窒化物が、Nb、NbN、W、WN、Ta、TaN又はこれらの任意の合金若しくは固溶体に基づくものである材料によって解決される。
【0006】
驚くべきことに、誘電体層及び酸化チタン層と組み合わせて選択される金属又は窒化物により、優れた耐候性を得ることが可能となり、試験の56日後でさえ、EN1096−2(2001)基準の要件を満たすことが可能となる。結果として、このようなグレージングは、多層が面1上、すなわち建物の外側にあるように配置することができ、光触媒層は汚れ及び大気汚染に関する役割を十分に果たすことができる。それゆえ、この組み合わせにより、自己洗浄及び防汚特性と太陽光制御特性の両方を有するが、従来技術から公知の「二重コーティング」グレージングの欠点がないグレージングを提供することが可能となる。
【0007】
好ましくは、基材はガラス板である。板は平坦であってもよいし又は湾曲していてもよく、任意の寸法、特には1mよりも大きい寸法を有することができる。ガラスは好ましくはソーダ石灰シリカタイプのものであるが、他のタイプのガラス、例えばホウケイ酸ガラス又はアルミノケイ酸ガラスを使用することもできる。ガラスは、クリア(透明)又はエクストラクリアであることができるか、又は着色されていてもよく、例えば青色、緑色、琥珀色、青銅色又は灰色に着色されていてもよい。ガラス板の厚さは典型的には0.5〜19mm、特には2〜12mm又は実際的には4〜8mmである。
【0008】
薄膜の多層は銀又は銅層を含まないことが好ましい。というのも、これらの層はグレージングに不十分な耐候性を与えるリスクがあるからであり、これは、多層をグレージングの面1に配置しなければならない場合に特に不利である。
【0009】
最も良い結果、特に耐候性の観点で最もよい結果は、金属又は金属窒化物が、NbN、Nb、WN及びWから選択される場合に得られる。これらの金属又は窒化物はまた、可視光及び赤外領域において良好な吸収特性を有する。金属又は金属窒化物層の厚さは、意図される光透過率に応じて適合されるべきである。それは典型的には3〜50nm、特には5〜30nm又は5〜20nmである。材料の光透過率は好ましくは5〜70%、特には10〜60%である。
【0010】
前記又は各下方の誘電体層は、基材からのアルカリ金属イオンの拡散から金属又は窒化物層を保護すること、並びに酸化及び剥離から基材を保護することを意図するものである。好ましくは、1つ又は2つの上方の誘電体層が用いられる。前記又は各上方の誘電体層は、金属又は窒化物層の固有の反射を低減すること、並びに腐食及び機械的な攻撃(引っかき、摩耗など)から金属又は窒化物層を保護することを意図するものである。好ましくは、少なくとも1つの下方の誘電体層及び/又は少なくとも1つの上方の誘電体層は、ケイ素の酸化物、窒化物又は酸窒化物、アルミニウムの酸化物、窒化物又は酸窒化物、酸化スズ、及びスズと亜鉛の混合酸化物から選択される。窒化ケイ素は、優れた機械的及び焼き戻し抵抗性を提供し、マグネトロンスパッタリングによって容易に堆積することができるので好ましい。これらの層のそれぞれは、純粋な層又はドープされた層であることができる。したがって、シリカ又は窒化ケイ素層にそれらのスパッタ堆積を促進させるためにアルミニウムなどの原子をドープすることが多い。前記若しくは各下方の誘電体層及び/又は前記若しくは各上方の誘電体層の厚さは、好ましくは5〜100nm、特には10〜50nmである。
【0011】
機能層が金属、特にはニオブ又はニオブに基づく層である場合には、機能層と当該機能層に最も近い上方の誘電体層との間、又は同様に機能層と当該機能層に最も近い下方の誘電体層との間にブロック層を配置することが好ましい。このブロック層は、可能性のある熱処理の際、例えば強化の際に機能金属層の酸化又は窒化を防ぐことを意図するものである。このブロック層は、非常に薄く、好ましくは厚さが1〜5nmである。好ましくは、ブロック層は、チタン、クロム、及びニッケル−クロム合金から選択される金属からなる。機能層が金属からなる場合には、1つ又は複数のブロック層を存在させることで多層を強化可能なものとすることができ、それは多層が強化の前後で同様の光学特性を有することを意味する。
【0012】
機能層は、特にはそれが窒化物層である場合には、それ自体を追加の窒化物層、例えば窒化ニオブ、窒化タンタル、窒化ジルコニウム又は窒化クロムからなる追加の窒化物層によって囲むことができる。この追加の層により、場合によっては、反射特性、特には色度値をより容易に調整することが可能である。
【0013】
好ましくは、少なくとも1つのシリカ層が、少なくとも1つの上方の誘電体層とアナターゼ型に少なくとも部分的に結晶化された少なくとも1つの酸化チタン層との間、及び/又は基材と当該基材に最も近い下方の誘電体層との間に配置される。この追加の層により、コーティングの光触媒活性を改善することが可能である。第2の代わりとなる態様では、シリカ層の可能性のある厚さの変化による多層の反射における色の変化が最小限に抑えられる。しかしながら、第1の代わりとなる態様では、シリカ層の厚さ及び均一性は、多層の反射における色を適切に制御するために完全に制御されなければならない。前記又は各シリカ層は、好ましくは5〜100nm、特には10〜40nmの厚さを有する。シリカ層は、純粋な又はドープされた層であることができ、例えばアルミニウム原子をドープすることができる。
【0014】
好ましい多層は以下のとおりである。
− ガラス/Si34/NbN/Si34/TiO2
− ガラス/Si34/NbN/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/NbN/Si34/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/NbN/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/Si34/WN/Si34/TiO2
− ガラス/Si34/WN/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/WN/Si34/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/WN/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/Si34/Ti/Nb/Ti/Si34/TiO2
− ガラス/Si34/Ti/Nb/Ti/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/Ti/Nb/Ti/Si34/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/Ti/Nb/Ti/Si34/SiO2/TiO2
【0015】
本発明による多層のこれら限定的でない例では、チタンブロック層をクロム層で置き換えてもよい。多層の種々の層に関する厚さの範囲は上に与えられたとおりであり、明細書の負担とならないようにここでは繰り返さない。
【0016】
酸化チタンは、純粋な又はドープされた酸化チタンであることができ、例えば、遷移金属(例えばW、Mo、V、Nb)、ランタニドイオン、貴金属(例えば白金又はパラジウムなど)あるいは窒素又は炭素原子をドープすることができる。これらドーピングの種々の形態により、材料の光触媒活性を向上させることができるか、又は酸化チタンのバンドギャップを可視光領域に近い波長の方へ若しくはこの範囲内にシフトさせることができる。
【0017】
酸化チタン層は、通常、基材上に堆積された多層のうちの最後の層、言い換えると、基材から最も離れた多層のうちの層である。これは、光触媒層を大気及びその汚染物質と接触させることが重要であるからである。しかしながら、非常に薄い一般的には不連続又は多孔質の層を光触媒層の上に堆積させることが可能である。この非常に薄い層は、例えば、材料の光触媒活性を向上させることを意図した貴金属に基づく層であることができる。それはまた、薄い親水性層、例えば国際公開第2005/040058号及び同第2007/045805号に教示されるようなシリカからなる薄い親水性層であることもできる。
【0018】
酸化チタン層の厚さは、好ましくは5〜50nm、特には5〜20nmである。
【0019】
基材の一方の面上だけに多層を使用することで、堆積プロセスを相当に簡単にすることができ、そのコストを低減することができ、そして運搬又はハンドリングの際の損傷のリスクを回避することができる。
【0020】
本発明による材料は、好ましくは2〜70%、特には5〜65%のエネルギー透過率(NF EN 410(1998)による)基準を有する。
【0021】
本発明の別の主題は、多層の層がマグネトロンスパッタリング又は化学気相成長(CVD)によって堆積される材料を得るための方法である。
【0022】
スパッタリングプロセス、特にはマグネトロンスパッタリングプロセスでは、プラズマの励起種により、コーティングされるべき基材に対面して配置されたターゲットの原子が剥ぎ取られる。酸化チタン層を堆積させるために、ターゲットは特には金属チタン又はTiOxからなることができ、プラズマは酸素を含有する必要がある(このプロセスは反応性スパッタリングと称される)。Si34又はSiO2層をそれぞれアルゴンと窒素又はアルゴンと酸素を含有するプラズマ中で、アルミニウムをドープしたシリコンターゲットを用いて堆積させることも可能である。金属又は窒化物からなる機能層は、それぞれ不活性雰囲気(例えばアルゴン)又は窒素を含有する反応性雰囲気中で金属ターゲットを用いて堆積させることができる。
【0023】
頭字語CVDによって一般に示される化学気相成長は、基材の熱作用のもとで分解するガス状前駆体に基づく熱分解プロセスである。酸化チタンの場合には、前駆体は、例えば四塩化チタン、チタンテトライソプロポキシド、又はチタンテトラオルトブトキシドであることができる。
【0024】
堆積工程の後に、好ましくは熱処理、特には強化、曲げ又はアニーリングタイプの熱処理が続くか、あるいは特に酸化チタン層がスパッタリングによって堆積された場合にはレーザー放射又は火炎を用いた迅速な処理が続く。この熱処理は酸化チタンをアナターゼ型に結晶化することを意図するものである。迅速な熱処理は、好ましくは国際公開第2008/096089号に記載されるような処理である。
【0025】
本発明の別の主題は、本発明による少なくとも1つの材料を含むグレージングである。このグレージングは、単一グレージングであってもよいし又は多重グレージング(特には二重又は三重グレージング)であってもよく、それは、複数のガラス板を含むことができ、それによってガス充填空間を提供できることを意味する。グレージングはまた、積層され、強化され(tempered)、強化され(toughened)及び/又は曲げられていてもよい。単一又は多重グレージングの場合には、太陽光制御コーティングは好ましくは面1上に堆積される。
【0026】
こうして得られた太陽光制御グレージングはまた、自己洗浄、防汚及び防曇特性を有し、雨天におけるより優れた視覚性を提供する。機能層が金属、例えばNbからなる場合には、それによって多層の放射率は低下し、典型的には0.5以下又は0.3の値まで低下する。それゆえ、多層は太陽光制御及び低E(低放射率)の両方の特性を有する。多層が面1上に堆積される場合には、低E特性は、特には二重グレージングが傾いている(例えば屋根又は玄関に組み入れられている)場合には、二重グレージングの表面上の凝縮(曇り及び/又は霜降り)を制限するのに特に有利である。面1上に低E層が存在することで、夜間の外部との熱交換を制限することができ、それゆえガラスの表面温度を露点よりも高く維持することが可能である。したがって、曇り又は霜降りの外観は大きく低減され、さらには完全に排除される。
【0027】
単一グレージングの場合には、多層は面2上に堆積することもでき、洗浄を容易にし、そして防曇特性を提供する。
【0028】
本発明に従ってコーティングされた基材のもう一方の面、又は適切な場合には多重グレージングの別の基材の面を、別の機能層又は機能層を含む多層でコーティングすることができる。それらは特には別の光触媒層、例えば本発明による別の多層であることができる。それはまた、熱機能、特には太陽光制御又は低E機能を有する層又は多層、例えば誘電体層で保護された銀層を含む多層であることもできる。それはまた、鏡層、特には銀に基づく鏡層であることもできる。最後に、それは、スパンドレルガラスとも呼ばれる壁クラッディングパネルから製造するためのグレージングを不透明にすることを意図したラッカー又はエナメルであることができる。スパンドレルガラスは、不透明でないグレージングの隣にカーテンウォールとして配置され、美観の観点から均一な全体的に光沢のある壁を得ることを可能とする。
【0029】
最後に、本発明の主題は、建物又は乗り物(地上、空中又は鉄道の乗り物)のための太陽光グレージングとしての本発明によるグレージングの使用である。本発明によるグレージングは好ましくは面1上に使用され、それは多層が建物又は乗り物の外側に配置されることを意味する。建物の分野の場合には、グレージングは好ましくは玄関、カーテンウォール又は屋根として用いられる。自動車用途に関しては、グレージングは有利には屋根を形成することができる。
【0030】
本発明は、以下の限定的でない例を考慮してより良く理解されるであろう。
【実施例】
【0031】
すべての例は、比較例か本発明かに関わらず、出願人によって「Planilux」の商品名で販売されている透明なガラス基材上にマグネトロンスパッタリング堆積によって製造される。
【0032】
窒化ケイ素層は、アルミニウム8wt%をドープしたシリコンターゲットを用いてアルゴン45%と窒素55%から構成される雰囲気中で得られる。ニオブ層は、ニオブターゲットからアルゴン雰囲気中で得られる。窒化ニオブ層は、同じタイプのターゲットを使用するが、アルゴン45%と窒素55%から構成される雰囲気中で作製される。チタン層は、チタンターゲットを用いてアルゴン雰囲気中で得られる。酸化チタン層自体は、チタンターゲットからアルゴンと酸素から構成される雰囲気中で得られるか、又は準化学量論的な酸化チタンからなるターゲットから酸素1%を含むアルゴン雰囲気中で得られる。シリカ層は、アルミニウム8wt%をドープしたシリコンターゲットを用いてアルゴン75%と酸素25%から構成される雰囲気中で得られる。
【0033】
[第1系列の例]
表1は、比較例C1及び本発明による例1〜5の組成及び厚さを示すものである。多層は表の順番において製造し、第1行は基材から最も離れた層に対応し、最後の行は基材と接触している層に対応する。本明細書の他の部分にあるように、厚さはnmで表される物理的な厚さである。
【0034】
【表1】

【0035】
下表2は、比較例C1及び本発明による例1〜5の光学特性を与えるものである。これらの特性は以下のとおりである。
− 光透過率(TL)、ガラス側の光反射率(RL(g))、多層側の光反射率(RL(m))及びNF EN 410(1998)基準に従ったエネルギー透過率(TE)、並びに
− 発光体D65のもとCIE−1931標準観測者によって算出された(ガラス側及び多層側の透過及び反射における)対応する色度値L*、a*及びb*
【0036】
【表2】

【0037】
次いで、例C1及び1〜5の試料を620℃の温度で10分間アニーリング処理にさらした。
【0038】
下表3は、このアニーリング処理後の比較例C1及び本発明による例1〜5の光学特性を示すものである。下表3はまた、アニーリングによって生じる透過及び反射における色の変化を示している。これらの変化は(アニーリング前後の色度値における差の平方の合計の平方根に対応する)量ΔE*によって表される。下付き文字t、g及びmは、それぞれ透過、ガラス側の反射及び多層側の反射に対応する。
【0039】
【表3】

【0040】
低いΔE*の値は、多層の比色特性がアニーリング処理によって有意には変化しないことを示している。
【0041】
比較例C1及び本発明による試料1〜5の光触媒活性を以下の試験に従って測定した。
【0042】
メチレンブルー水溶液を密封したセル内においてコーティングされた基材(当該基材はセルの底面を形成している)と接触した状態に置いた。30分間紫外線に曝露した後、メチレンブルーの濃度を光透過率を測定することによって決定した。g・l-1・min-1の単位で表される光触媒活性は、単位曝露時間あたりのメチレンブルー濃度の減少に対応する。
【0043】
下表4は得られた結果を示すものである。
【0044】
【表4】

【0045】
それゆえ、第2の誘電体層と光触媒層との間にシリカ層を存在させることで、コーティングの光触媒活性を大幅に向上させることが可能である。SIMS(二次イオン質量分析法)分析により、光触媒層中のナトリウム量がシリカ層が存在する場合に非常に少ないことを確認した。
【0046】
[第2系列の例]
表5は、比較例C2並びに本発明による例6及び7の組成及び厚さを示すものである。多層は表の順番において製造し、第1行は基材から最も離れた層に対応し、最後の行は基材と接触している層に対応する。本明細書の他の部分にあるように、厚さはnmで表される物理的な厚さである。
【0047】
【表5】

【0048】
試料C2並びに6及び7を強化処理にさらした。強化後のこれら試料の光学特性を表6に記載する。
【0049】
【表6】

【0050】
強化した試料C2、6及び7を、EN 1096−2(2001)基準において記載される種々の耐候性試験にさらした。これらは以下の試験であった。
− 「HH」で示されるEN 1096−2(2001)基準のAnnex Bに従った耐凝縮性、
− 「SO2」で示される上記基準のAnnex Cに従った酸の攻撃に対する抵抗性、並びに
− 「NSF」で示される上記基準のAnnex Dに従った中性塩霧中での抵抗性
【0051】
表7は、試験の56日後の目視検査、比色変化、光反射及び光透過の観点における結果を示すものである。「目視検査」の行において、「OK」とは成功すなわち「欠陥なし」を示し、一方で「NOK」は失敗を示している。
【0052】
【表7】

【0053】
強化した試料C2、6及び7を、沸騰している脱塩水中に2時間浸漬することにある促進老化試験にさらした。このような処理による比色変化が表8に与えられる。
【0054】
【表8】

【0055】
本発明による多層は、特に沸騰水の促進老化試験並びに耐凝縮性及び中性塩霧中での抵抗性の試験において、比較例の多層よりも優れた耐候性を一般に有する。それゆえ、酸化チタン層は、光触媒特性を与えることに加えて、本発明によるグレージングの耐候性を相当に改善し、多層を面1上に配置することを可能にする。
【0056】
比較して、複数の窒化ケイ素層の間に銀層を含みそして酸化チタン層で覆われた太陽光制御層は、試験の21後でさえ、NSF、HH及びSO2試験に合格していない。
【0057】
[第3系列の例]
表9は、比較例C3及び本発明による例8の組成及び厚さを示すものである。多層は表の順番において製造し、第1行は基材から最も離れた層に対応し、最後の行は基材と接触している層に対応する。本明細書の他の部分にあるように、厚さはnmで表される物理的な厚さである。
【0058】
【表9】

【0059】
表10は、強化後の例C3及び例8の比色特性及びエネルギー特性を示すものである。「TE」という語はNF EN 410(1998)基準に従ったエネルギー透過率に対応する。
【0060】
【表10】

【0061】
このように強化された試料を、沸騰している脱塩水中に2時間浸漬することにある促進老化試験にさらした。このような処理による比色変化が表11に与えられる。
【0062】
本願明細書において上記したとおり、これらの変化は(アニーリング前後の色度値における差の平方の合計の平方根に対応する)量ΔE*によって表される。下付き文字t、g及びmは、それぞれ透過、ガラス側の反射及び多層側の反射に対応する。
【0063】
【表11】

【0064】
比較の試料は、外観、特に多層側の反射において非常に強い劣化を示したのに対し、本発明による試料はその光学特性において変化を示さなかった。
【0065】
同様に、これらの試料を、EN 1096−2(2001)基準のAnnex Dに記載されるNSF(中性塩霧中)の抵抗性試験にさらした。ガラス側及び多層側の反射における比色変化を図12に示す。
【0066】
【表12】

【0067】
ここでも再び、比較の試料は、本発明による試料とは対照的に、外観において非常に大きな劣化を示した。
【0068】
光触媒層によって得られる優れた耐候性により、太陽光制御グレージングを面1において使用すること、それゆえ建物の外側に多層を有する太陽光制御グレージングが可能となる。
【0069】
さらに、例8は、強化の前後に関わらず、0.2のEN 12898基準に従った垂直放射率を有する。この低い放射率により、グレージングの夜間の外部表面の冷却を制限することができ、結果として多層がグレージングの面1上に配置される場合に凝縮(曇り及び/又は霜降り)を低減又は排除することができる。この効果は、傾いた二重グレージング、例えば屋根又は玄関上の傾いた二重グレージングの場合に特に顕著である。
【0070】
[第4系列の例]
表13は、例9〜12の組成及び厚さを示すものである。多層は表の順番において製造し、第1行は基材から最も離れた層に対応し、最後の行は基材と接触している層に対応する。本明細書の他の部分にあるように、厚さはnmで表される物理的な厚さである。
【0071】
【表13】

【0072】
表14は、例9及び10の比色特性及びエネルギー特性を示すものである。「TE」、「RE」及び「SF」という語は、それぞれNF EN 410(1998)基準に従ったエネルギー透過率、エネルギー反射率及び日射透過率に対応する。
【0073】
【表14】

【0074】
多層9及び10は多層側の反射において特に中性の色合いを有する。
【0075】
表15は例11及び12の光学特性を示す。ΔE*値は、SiO2層に対して±10%の厚さ変動による多層側の反射における色の変化に対応する。
【0076】
【表15】

【0077】
ΔE*値を比較すると、ガラス基材と接触してシリカ層を配置することで、この同じシリカ層の可能性のある厚さ変動による反射における色の変化を最小限に抑えることができることが明らかである。対照的に、シリカ層が光触媒層の下に配置された場合には、厚さの変化によって色が大きく変化してしまう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面を薄膜の多層でコーティングしたガラス基材を含む材料であって、前記薄膜の多層が、前記基材から順に、少なくとも1つの下方の誘電体層、金属又は金属窒化物からなる少なくとも1つの機能層、少なくとも1つの上方の誘電体層、及びアナターゼ型に少なくとも部分的に結晶化された少なくとも1つの酸化チタン層を含み、前記金属又は金属窒化物が、Nb、NbN、W、WN、Ta、TaN又はこれらの任意の合金若しくは固溶体に基づくものである材料。
【請求項2】
前記薄膜の多層が銀又は銅層を含まない、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
金属又は金属窒化物からなる前記機能層の厚さが3〜50nm、特には5〜30nmである、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
前記少なくとも1つの下方の誘電体層及び/又は前記少なくとも1つの上方の誘電体層が、ケイ素の酸化物、窒化物又は酸窒化物、アルミニウムの酸化物、窒化物又は酸窒化物、酸化スズ、及びスズと亜鉛の混合酸化物から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
前記機能層が金属であり、前記機能層と前記機能層に最も近い前記上方の誘電体層との間、又は同様に前記機能層と前記機能層に最も近い前記下方の誘電体層との間にブロック層が配置される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の材料。
【請求項6】
前記ブロック層が、チタン、クロム、及びニッケル−クロム合金から選択される金属からなる、請求項5に記載の材料。
【請求項7】
少なくとも1つのシリカ層が、前記少なくとも1つの上方の誘電体層と前記少なくとも1つの酸化チタン層との間に配置された、請求項1〜6のいずれか1項に記載の材料。
【請求項8】
少なくとも1つのシリカ層が、前記基材と前記基材に最も近い前記下方の誘電体層との間に配置された、請求項1〜7のいずれか1項に記載の材料。
【請求項9】
前記多層が以下のもの、すなわち、
− ガラス/Si34/NbN/Si34/TiO2
− ガラス/Si34/NbN/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/NbN/Si34/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/NbN/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/Si34/WN/Si34/TiO2
− ガラス/Si34/WN/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/WN/Si34/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/WN/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/Si34/Ti/Nb/Ti/Si34/TiO2
− ガラス/Si34/Ti/Nb/Ti/Si34/SiO2/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/Ti/Nb/Ti/Si34/TiO2
− ガラス/SiO2/Si34/Ti/Nb/Ti/Si34/SiO2/TiO2
から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の材料。
【請求項10】
前記酸化チタン層の厚さが5〜50nm、特には5〜20nmである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の材料。
【請求項11】
前記多層の層がマグネトロンスパッタリング又は化学気相成長によって堆積される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の材料を得るための方法。
【請求項12】
堆積工程の後に、熱処理、特には強化、曲げ又はアニーリングタイプの熱処理が続くか、あるいはレーザー放射又は火炎を用いた迅速な処理が続く、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの材料を含むグレージング。
【請求項14】
建物又は乗り物のための太陽光グレージングとしての請求項13に記載のグレージングの使用。
【請求項15】
前記多層が建物又は乗り物の外側に配置された、請求項14に記載の使用。

【公表番号】特表2013−503812(P2013−503812A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528419(P2012−528419)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051852
【国際公開番号】WO2011/030049
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】