説明

材料試験機および材料試験機の標線測定方法

【課題】 標線のプロファイルの全域を利用して標線の位置を正確に測定することが可能な材料試験機および材料試験機の標線測定方法を提供する。
【解決手段】 カメラにより撮影した画像データから標線のプロファイルを表す関数fを作成する関数作成部61と、この関数作成部61により作成した関数fを1より大きな数で累乗して関数gを得る累乗部62と、予め定めた直交する2つの関数と関数gとの相関をそれぞれ算出し、得られた2つの算出結果の比に基づいて標線の位置を演算する位置演算部63を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片の伸びを測定するための材料試験機および材料試験機の標線測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試験片に引張荷重を付与して、その伸びを計測する材料試験機は、例えば、テーブル上にモータの回転により同期して回転自在に立設された一対のねじ棹と、それらのねじ棹にナットを介して上下動可能に支持されたクロスヘッドと、テーブルとクロスヘッドのそれぞれに連結されたつかみ具等の治具とから構成される。そして、試験片の両端をつかみ具に把持させた状態でクロスヘッドを移動させることにより、引張荷重を試験片に与える試験が実行される。
【0003】
このような材料試験機においては、試験片の伸びを測定するために、試験片の表面に標線が形成されたシールが、所定の間隔で2枚貼着される。そして、この試験片の画像がカメラにより撮影される。ここで使用される標線としては、白地に黒の標線を使用したり、黒地に白の標線を使用する等のように、標線を二値画像として表現したものが使用される(特許文献1参照)。
【0004】
この試験片の画像における一対の標線の位置情報に基づいて標線間の距離が測定され、この距離の変化量により、試験片に対する引張力の付与方向における試験片の変位量である伸びが測定される。また、試験片の両端縁の位置情報に基づいて両端縁間の距離が測定され、この距離の変化量により、試験片に対する引張力の付与方向と直交する方向における試験片の変位量である幅の変位量が測定される。
【0005】
また、無彩色または有彩色の連続的な階調分布が所定の対称軸を挟んでいる画像からなる標線を測定し、互いに直交する関数を利用して標線の位置を演算する標線測定装置も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−094719号公報
【特許文献2】特開2009−216494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
標線として、無彩色または有彩色の連続的な階調分布が所定の対称軸を挟んでいる画像からなるものを使用する場合、標線自体の作成に手間がかかる。このため、一般的には、白黒二値の画像からなる標線が使用されている。
【0008】
このため、従来の材料試験機においては、図15に示すように、標線が付された試験片をカメラにより撮影し、撮影された画像データから標線のプロファイルを作成し、このプロファイルにおける増加部分と減少部分の曲線に接する直線を求め、これらの直線の交点Aを標線の座標位置として特定していた。
【0009】
しかしながら、このような手法をとった場合には、直線を求めるための元データとなるプロファイル部分の特定が難しいという問題がある。すなわち、このプロファイルの領域を小さくすると直線のバラツキが大きくなり、プロファイルの領域を大きくすると直線の特定が困難となる。
【0010】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、標線のプロファイルの全域を利用して標線の位置を正確に測定することが可能な材料試験機および材料試験機の標線測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、標線が付された試験片をカメラにより撮影し、標線を含む画像を画像処理することにより標線の位置を演算する材料試験機において、前記カメラにより撮影した画像データから前記標線のプロファイルを表す関数fを作成する関数作成手段と、前記関数作成手段により作成した関数fを1より大きな数で累乗して関数gを得る累乗手段と、予め定めた直交する2つの関数と関数gとの相関をそれぞれ算出し、得られた2つの算出結果の比に基づいて前記標線の位置を演算する位置演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記位置演算手段は、前記関数gとcos(k)との相関をX相関として計算するとともに、前記関数gとsin(k)との相関をY相関として計算し、これらのX相関とY相関のベクトル位相を求めることにより前記標線の位置を演算する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、標線が付された試験片をカメラにより撮影し、標線を含む画像を画像処理することにより標線の位置を演算する材料試験機の標線測定方法において、標線が付された試験片をカメラで撮影することにより標線を含む画像データを得る撮影工程と、前記撮影工程で得た画像データから前記標線のプロファイルを表す関数fを作成する関数作成工程と、前記関数作成工程において作成した関数fを1より大きな数で累乗して関数gを得る累乗工程と、予め定めた直交する2つの関数と関数gとの相関をそれぞれ算出し、得られた2つの算出結果の比に基づいて前記標線の位置を演算する位置演算工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記位置演算工程においては、前記関数gとcos(k)との相関をX相関として計算するとともに、前記関数gとsin(k)との相関をY相関として計算し、これらのX相関とY相関のベクトル位相を求めることにより前記標線の位置を演算する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1から請求項4に記載の発明によれば、標線のプロファイルの全域を利用して標線の位置を測定することができ、標線の位置をより正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係る材料試験機の概要図である。
【図2】試験片10とビデオカメラ28の位置関係を説明するための平面概略図である。
【図3】制御部33を構成する要素のうち、本願発明を実行するための主要部を示すブロック図である。
【図4】この発明に係る標線測定方法を利用して試験片10の伸びを測定する材料試験の工程を示すフローチャートである。
【図5】試験片10における標線11の撮影状態を示す模式図である。
【図6】関数fと関数gとを示すグラフである。
【図7】関数mを数式8および数式9によりXY平面に投影したグラフである。
【図8】関数fのグラフである。
【図9】関数gのグラフである。
【図10】関数fを数式8および数式9によりXY平面に投影したグラフである。
【図11】関数gを数式8および数式9によりXY平面に投影したグラフである。
【図12】関数fのグラフである。
【図13】関数gのグラフである。
【図14】関数gを数式8および数式9によりXY平面に投影したグラフである。
【図15】従来の標線の座標の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る材料試験機の概要図である。また、図2は、試験片10とビデオカメラ28の位置関係を説明するための平面概略図である。
【0018】
この材料試験機は、テーブル18と、床面に立設された一対の支柱19と、各支柱19の内部において回転可能に立設された図示しない一対のねじ棹と、これらのねじ棹に沿って移動可能なクロスヘッド23と、このクロスヘッド23を移動させて試験片10に対して試験力を付与するための負荷機構30とを備える。
【0019】
クロスヘッド23は、一対のねじ棹に対して、図示を省略したナットを介して連結されている。各ねじ棹の下端部は負荷機構30に連結されており、負荷機構30の動力源からの動力が、一対のねじ棹に伝達される構成となっている。一対のねじ棹が同期して回転することにより、クロスヘッド23は、これら一対のねじ棹に沿って昇降する。
【0020】
クロスヘッド23には、試験片10の上端部を把持するための上つかみ具21が付設されている。一方、テーブル18には、試験片10の下端部を把持するための下つかみ具22が付設されている。引っ張り試験を行う場合には、試験片10の両端部をこれらの上つかみ具21および下つかみ具22により把持した状態で、クロスヘッド23を上昇させることにより、試験片10に試験力(引張荷重)を負荷する。
【0021】
このときに、試験片10に作用する試験力はロードセル24によって検出され、制御回路31を介して制御部33に入力される。また、試験片10は、CCD素子を有するビデオカメラ28により撮影され、その画像は制御部33に入力される。
【0022】
ビデオカメラ28には、光学系を構成するレンズ27が付設されている。これらのビデオカメラ28およびレンズ27は、支柱19に配設されたアーム29に支持されている。また、これらのビデオカメラ28およびレンズ27は、試験片10の必要な領域が撮影可能となるように、支柱19におけるアーム29の固定角度および屈曲度を調整できる構成となっている。そして、図2に示すように、ビデオカメラ28は、装置本体に対して斜め45度程度傾いた状態で、上つかみ具21および下つかみ具22によりその両端が把持された試験片10の表面に対して、レンズ27の正面が正対する位置に配設される。
【0023】
制御部33は、ROM、RAM等の記憶装置およびCPU等を備えるコンピュータ等によって構成される。制御部33には、液晶ディスプレイ等の表示装置である表示部35、マウスおよびキーボード等を有する入力部34およびビデオカメラ28、制御回路31が接続される。制御回路31は、ロードセル24からの試験力データ、クロスヘッド23の位置情報を制御部33に送信する。そして、制御部33は、ビデオカメラ28の撮影画像データを取り込んでデータ処理を実行し、試験片10における標線間の距離の変位量や幅の変位量を演算するとともに、その結果を試験力やクロスヘッド23の位置情報等とともに表示部35に表示する。
【0024】
図3は、制御部33を構成する要素のうち、本願発明を実行するための主要部を示すブロック図である。この制御部33は、後述する各工程を実行するための関数作成部61、累乗部62、位置演算部63および伸び演算部64を備える。
【0025】
次に、上述した材料試験機において、この発明に係る標線測定方法を使用して試験片10の伸びを測定する工程について説明する。図4は、この発明に係る標線測定方法を利用して試験片10の伸びを測定する材料試験の工程を示すフローチャートである。また、図5は、試験片10における標線11の撮影状態を示す模式図である。
【0026】
試験片10の伸びを測定するために標線11の位置を測定するには、最初に、標線11が付された試験片10をカメラで撮影することにより(ステップS1)、図5に示すように、標線11を含む計算領域12の画像データを取り込み、この画像データから標線11のプロファイルPRを得る。
【0027】
次に、撮影工程で得た計算領域の画像データから、図3に示す関数作成部61により、標線11のプロファイルを表す関数fを作成する(ステップS2)。この実施形態においては、データ数をn個として関数f(k=0,1,2,・・・n−1)を求める。
【0028】
そして、計算領域12の画像データにおける標線11の背景部分のノイズを抑えるために、図3に示す累乗部62により、関数作成工程において作成した関数fを1より大きな数で累乗して関数gを得る(ステップS3)。この実施形態においては、下記の数式1により関数gを求めている。
【0029】
【数1】

【0030】
図6は、上述した関数fと関数gとを示すグラフである。図6(a)は関数fを示し、図6(b)は関数gを示している。これらの図からも明らかなように、関数gは、関数fに比べ標線11のプロファイルのピーク値が強調されている。
【0031】
次に、図3に示す位置演算部63により、直交する2つの関数と関数gとの相関をそれぞれ算出し、得られた2つの算出結果の比に基づいて標線11の位置を演算する(ステップS4)。
【0032】
より具体的には、最初に、関数gとcos(k)との相関をX相関として数式2により計算するとともに、関数gとsin(k)との相関をY相関として数式3により計算する。これは、関数gとej・(2πk/n)との相関をとることと等価である。
【0033】
【数2】

【0034】
【数3】

【0035】
そして、下記の数式4によりX相関xとY相関yとの比をとってX相関とY相関のベクトル位相を求めることにより、標線の位置Pを求める。なお、数式4におけるWは、計算領域12の高さを示している。
【0036】
【数4】

【0037】
以上の動作を図5に示す両方の標線11に対して実行することにより、両方の標線11の位置を求めた後に、図3に示す位置演算部63により、両標線11の位置の差分により標線11間の距離を測定し、この距離の変化量に基づいて試験片10の伸びを演算する(ステップS5)。
【0038】
次に、上述した計算方法により標線の位置を演算できる理由について説明する。
【0039】
まず、単位波形に対する位置計算を検討する。関数m(k=0,1,2・・・n−1)を下記の数式5とする。
【0040】
【数5】

【0041】
とej・(2πk/n)との相関をとる。すなわち、関数mとcos(k)との相関をX相関として数式6により計算するとともに、関数mとsin(k)との相関をY相関として数式7により計算する。
【0042】
【数6】

【0043】
【数7】

【0044】
数式6および数式7に対して数式5を代入して計算すると下記の数式8および数式9となる。
【0045】
【数8】

【0046】
【数9】

【0047】
そして、下記の数式10により標線11の重心位置Pを求めることができる。
【0048】
【数10】

【0049】
この数式10より、標線11の重心の位置Pは、数式5に示すaの位置にあることがわかる。
【0050】
図7は、関数mを数式8および数式9によりXY平面に投影したグラフである。この図7においては、n=30、a=10とした例を示している。
【0051】
この図において数式10は、数式8および数式9における角度位置に相当している。すなわち、(X,Y)=(1,0)を0ラジアンとして左回りに2πa/nラジアンだけ回転したところが数式8および数式9に示すk=aとなる。実際に計算に使用する関数gは、単位波形の線形結合であり、図7の各方向への単位ベクトルの線形結合である。従って、関数gをXY平面に投影したときの全ベクトルの総和の角度位置が標線11部分の重心の位置に等しいことになる。
【0052】
図8は関数fのグラフであり、図9は関数gのグラフである。
【0053】
上述した関数f(k=0,1,2,・・・28,29)を図8に示すとおりとすると、この関数fと上述した数式1より求められる関数gは図9の通りとなる。これらのグラフからも明らかなように、関数fよりも関数gの方が標線11が強調され、背景部分の影響が小さくなっている。
【0054】
図10および図11は、これらの関数fおよび関数gを数式8および数式9によりXY平面に投影したグラフである。これらのグラフからも、関数fよりも関数gの方が標線11が強調され、背景部分の影響が小さくなっていることが明らかとなる。そして、図11からも明らかなように、標線11が中央に対して対象な形をしていた場合には、その濃淡や外形にかかわらず、上述した手法により標線11の重心位置を求めることが可能となることが理解できる。
【0055】
次に、例えば標線11を直接試験片10に書き込んだ場合や試験片10の伸長にともなって標線部分が変形した場合等において、標線11が中央に対して非対称となった場合について検討する。
【0056】
図12は、標線11が非対称であった場合の関数fのグラフであり、図13はそのときの関数gのグラフである。また、図14は、関数gを数式8および数式9によりXY平面に投影したグラフである。
【0057】
上述した関数f(k=0,1,2,・・・28,29)を図12に示すとおりとすると、この関数fと上述した数式1より求められる関数gは図13および図14のとおりとなり、上述した標線11が中央に対して対象となる場合と同様、標線11の重心の位置を求めることが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
10 試験片
11 標線
12 計算領域
18 テーブル
19 支柱
21 上つかみ具
22 下つかみ具
23 クロスヘッド
24 ロードセル
27 レンズ
28 ビデオカメラ
29 アーム
30 負荷手段
31 制御回路
33 制御部
34 入力部
35 表示部
61 関数作成部
62 累乗部
63 位置演算部
64 伸び演算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
標線が付された試験片をカメラにより撮影し、標線を含む画像を画像処理することにより標線の位置を演算する材料試験機において、
前記カメラにより撮影した画像データから前記標線のプロファイルを表す関数fを作成する関数作成手段と、
前記関数作成手段により作成した関数fを1より大きな数で累乗して関数gを得る累乗手段と、
予め定めた直交する2つの関数と関数gとの相関をそれぞれ算出し、得られた2つの算出結果の比に基づいて前記標線の位置を演算する位置演算手段と、
を備えたことを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記位置演算手段は、前記関数gとcos(k)との相関をX相関として計算するとともに、前記関数gとsin(k)との相関をY相関として計算し、これらのX相関とY相関のベクトル位相を求めることにより前記標線の位置を演算する材料試験機。
【請求項3】
標線が付された試験片をカメラにより撮影し、標線を含む画像を画像処理することにより標線の位置を演算する材料試験機の標線測定方法において、
標線が付された試験片をカメラで撮影することにより標線を含む画像データを得る撮影工程と、
前記撮影工程で得た画像データから前記標線のプロファイルを表す関数fを作成する関数作成工程と、
前記関数作成工程において作成した関数fを1より大きな数で累乗して関数gを得る累乗工程と、
予め定めた直交する2つの関数と関数gとの相関をそれぞれ算出し、得られた2つの算出結果の比に基づいて前記標線の位置を演算する位置演算工程と、
を備えたことを特徴とする材料試験機の標線測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の材料試験機の標線測定方法において、
前記位置演算工程においては、前記関数gとcos(k)との相関をX相関として計算するとともに、前記関数gとsin(k)との相関をY相関として計算し、これらのX相関とY相関のベクトル位相を求めることにより前記標線の位置を演算する材料試験機の標線測定方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate