説明

束化アクチンを用いたマイクロアクチュエータ

【課題】 束化アクチンの基板上でのin vitro motility assay系とマイクロアクチュエータを提供する。
【解決手段】 表面にミオシンを担持させ、その上に束化アクチンを積載してタンパク質構成体を形成し、この表面を3次元加工して束化アクチンを作動部とするマイクロアクチュエータとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、表面にミオシンを担持し、その上に束化アクチンを積載した基板に関する。より詳しくは、束化アクチンを用いたマイクロアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
ミオシン−アクチン系のマイクロアクチュエーターでは、ミオシンの固相化が重要である。すなわち、ミオシンおよびその活性部位であるHMMが酵素活性を維持したまま、アクチン繊維と相互作用を可能とするように一定の方向および適切な密度で基板上に整列配置されなければならないのである。しなしながら、基板上に直接的にミオシンを整列配置させても、アクチン繊維との相互作用は生じず、規則的な整列およびミオシン活性の維持が実現できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この出願の発明は束化アクチンの基板上でのin vitro motility assay系とマイクロアクチュエータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この出願の発明は上記の課題を解決するために下記の手段を提供する。
【0005】
すなわち、この出願の発明は、第1には、表面にミオシンを担持し、その上に束化アクチンを積載した基板を提供する。第2には基板がガラス製である前記第1発明にかかる基板を提供する。第3には基板表面をニトロセルロースで処理した後にミオシンが固定されてなる前記第2発明にかかる基板の作成方法を提供する。
【0006】
さらに、この出願の発明は、第4には、基板がシリコン製である前記第1発明にかかる基板を提供する。第5には、基板表面をニトロセルロースで処理した後にミオシンが固定されてなる前記第4発明にかかる基板の作成方法を提供する。
【0007】
また、この出願の発明は、第6には、前記第1発明にかかる基板表面を3次元パターン加工してなる束化アクチンを作動部とするマイクロアクチュエータを提供する。第7には、基板がガラス製である前記第6発明にかかるマイクロアクチュエータを、第8には基板がシリコン製である前記第6発明にかかるマイクロアクチュエータをそれぞれ提供する。
【発明の効果】
【0008】
この出願の発明により束化アクチンの基板上でのin vitro motility assay系、および、マイクロアクチュエータが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この出願の発明において、ガラス基板表面の3次元パターンの作成は収束イオンビーム加工法(などの公知技術を適用できる。収束イオンビーム加工法はガリウムイオンを加速してイオンビームとし、細く絞ってサンプル面に照射し、スパッタリングさせることでサンプル面を加工する方法である。この方法は0.1 μmの精度での加工が可能であり、また、走査型イオン顕微鏡による観察を行いながら加工することが可能であるという特徴をもつ。
【0010】
さらに、ガラス基板は、ニトロセルロースによる被覆処理を行う。好ましくはミオシン固定化の前に0.2重量%のコロジオン溶液でガラス基板を処理する。コロジオン溶液は、好ましくは溶質をピロキシリン(ニトロセルロース)、溶媒を酢酸イソアミル(酢酸−3−メチルブチル)とした溶液である。コロジオン溶液をガラス基盤上に直接ピペットで滴下して被覆し、直ちに160℃で乾燥させる。
【0011】
ガラス基板上へのミオシンの固定化は、例えば次の通りとすることができる。すなわちガラス基盤はコロジオン溶液処理後、ワセリンもしくは両面テープをスペーサーとしてスライドグラスに被せ、フローチャンバーを作成する。ここに緩衝液中に希釈したミオシンタンパク質を直接作用させることで固定化する。アクチン繊維のmotility assayはこのチャンバー内にウシ血清アルブミン溶液、蛍光標識アクチン繊維の順で緩衝液を還流し蛍光顕微鏡を用いて行うことができる。観察には、好ましくは高倍率・高開口数(×40倍以上、NA=1以上)の対物レンズを用いる。
【0012】
いっぽう、シリコン基板表面の3次元パターンの作成は反応性イオンエッチング加工法などの半導体作成において適用される公知技術を用いることができる。反応性イオンエッチング加工は、装置に導入したガスに高周波電力(例えば13.56MHzが一般的である)を印加してプラズマ状態とし、そこで生じた+イオンを加速して基板に衝突させ、物理化学的反応を介して基板表面に溝を彫るエッチング反応を促進させる方法である。ガスの圧力を数Pa以下にすると、イオンの運動方向が揃うので、基板に対して垂直方向での加工が可能である。エッチング反応を生じさせるには、被切削物質とガスが反応して揮発性物質が生成することが必須である。従って導入ガスは、好ましくは基板材料と反応しやすく、かつ、揮発性物質を生じやすいフッ素、塩素などのハロゲンを含む化合物を用いることができる。
【0013】
さらに、シリコン基板は、ミオシン固定化の前に、ニトロセルロースによる被覆処理を行う。好ましくは、シリコン基板を十分量のコロジオン溶液で表面処理する。好ましくは0.02重量%以上、より好ましくは0.2重量%のコロジオン溶液で処理を行うが、コロジオン溶液がシリコン基板表面を処理するのに十分な濃度であればよい。コロジオン溶液は、好ましくは溶質をピロキシリン(ニトロセルロース)、溶媒を酢酸イソアミル(酢酸−3−メチルブチル)とした溶液である。コロジオン溶液をシリコン基板上に直接ピペットで滴下して被覆させ、直ちに160℃で乾燥させる。
【0014】
シリコン基板へのミオシン固定化は、例えば次の通りとすることができる。すなわち、シリコン基板はコロジオン処理後、ワセリンもしくは両面テープをスペーサーにしてカバーガラスを被せ、フローチャンバーを作成し、ここに緩衝液中に希釈したミオシンタンパク質を直接作用させることで固定化する。アクチン繊維のmotility assayはこのチャンバー内にウシ血清アルブミン溶液、蛍光標識化アクチン繊維の順番で緩衝液を還流し、蛍光顕微鏡を用いて行う。観察には、高倍率・高開口数(×40倍以上、NA=1以上)の対物レンズを用いる。
【0015】
この出願の発明のミオシンおよびアクチンとしては、任意のアクチン、ミオシンを用いることができる。好適なものとしては、ミオシンとしては、例えばウサギ背筋より精製した骨格筋ミオシンIIや特開2004-57152号公報で公知の組換えミオシンを用いることができる。ミオシンは全長ミオシンに限らず、HMM、S1等の活性部位のみを用いてもよい。
【0016】
アクチンタンパク質としては、例えばウサギ背筋あるいはニワトリ胸筋より精製したアクチンを用いることができる。より好ましくはJ.Neurochem:87 676-685 (2003)で公知の収束化されたアクチン繊維を用いる。アクチン繊維の収束化は好ましくはファシン、より好ましくは脳由来のファッシンによって収束化されたものを用いる。精製アクチンはローダミン−ファイロジンを用いてファイバーの安定化と蛍光標識を行うことができる。
【0017】
Ca2+活性型ミオシンとCa2+抑制ミオシンを用いてCa2+濃度により動きを制御できるmotility assayを実現することが可能である。この場合、Ca2+活性型ミオシンとCa2+抑制ミオシンを濃度勾配を作ってシリコン基盤に固定化する。カルシウムイオン濃度を高くするとCa2+活性型ミオシンの並んだ側に、カルシウムイオン濃度を低くするとCa2+抑制ミオシンの並んだ側にアクチン繊維が動く。
【0018】
さらに、アクチン繊維をマイクロアクチュエーターとして使用するには上記の方法を用いて、シリコン基板上に構築した溝の中で束化アクチンの繊維の運動を行わせる。その際、束化クチン繊維の進行方向端に、溝の深さと幅に応じた大きさの栓を置く。この栓は束化アクチン繊維に押されて運動しマイクロアクチュエータとして機能する。この例では出力は直線運動であるが、栓を加工し歯車を組み合わせることで、ピニオン−ラックの原理で出力を回転運動にしてもよい。
【0019】
アクチン繊維をスイッチングデバイスとして使用するには、上記のカルシウム濃度により動きを制御できるmotility assay系で、カルシウム濃度の変化(入力)に伴うアクチン繊維の運動(出力)を蛍光としてCCDカメラを用いて検出することにより行うことができる。
【0020】
以下に実施例を用いてこの出願の発明をさらに詳細に説明するが、下記実施例はこの出願の発明の一態様にすぎず、この出願の発明の実施が下記実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0021】
〔実施例1〕ガラス基板上3次元パターンでの束化アクチンのmotility assay
ガラス基板上に収束イオンビーム加工法を用いて3次元パターンを作成した。ガラス基盤を0.2重量%のコロジオン溶液で処理し、ニトロセルロースで被覆した。ミオシンHMMはウサギ骨格筋より精製したものを使用した。アクチンはニワトリ骨格筋より精製し、脳由来のファシン存在下でローダミン−ファロイジンを作用させ束化アクチン繊維として使用した。in vitro motility assayは定法に従い、蛍光顕微鏡(Zeiss Axiovert 100、対物レンズ×100、NA=1.3)により行った。この結果を図1に示す。束化アクチン繊維を3次元パターンに沿って運動させることができた。
〔実施例2〕シリコン基板上でのアクチンのmotility assay
アクチン−ミオシンを用いたin vitro motility assayをシリコン基板上で試みた。シリコン基板は半導体用単結晶シリコンを使用した。シリコン基板は酸化膜の除去処理を行ったものと未処理のものそれぞれについて、0.2%コロジオン溶液で1分間コロジオンを表面に被覆する処理を行ったものと未処理のもの、計4通りを使用した。ミオシンはウサギ骨格筋より調製した。アクチンはニワトリ骨格筋由来より調製し、ローダミン−ファロイジンで蛍光ラベルを施したものを使用した。in vitro motility assayは定法に従い、実施例1と同様に蛍光顕微鏡により行った。この結果、酸化膜の除去処理の如何にかかわらず、コロジオンで被覆された基板ではシリコン基板上でアクチンの動きを観察することができた。例えば、図2に示す通り、時間の経過とともにアクチン繊維が移動している様子が確認できた。
〔実施例3〕シリコン基板上での束化アクチンのmotility assay
上記実施例2の手法でシリコン基板上で脳由来ファシンで束化したアクチン繊維のmotility assayを行った。この結果、図3に示す通り、コロジオンで被覆されたシリコン基板上で束化アクチンの運動を観察することができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ガラス基板上での束化アクチンのmotility assayの顕微鏡写真である。矢じりは蛍光標識されたアクチン繊維を示す。
【図2】シリコン基板上でのアクチンのmotility assayの顕微鏡写真である。矢じりは蛍光標識されたアクチン繊維を示す。
【図3】シリコン基板上での束化アクチンのmotility assayの顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面にミオシンを担持し、その上に束化アクチンを積載したタンパク質構成体。
【請求項2】
基板がガラス製である請求項1記載のタンパク質構成体。
【請求項3】
基板表面をニトロセルロースで処理した後にミオシンが固定されてなる請求項2記載のタンパク質構成体の作成方法。
【請求項4】
基板がシリコン製である請求項1記載のタンパク質構成体。
【請求項5】
基板表面をニトロセルロースで処理した後にミオシンが固定されてなる請求項4記載のタンパク質構成体の作成方法。
【請求項6】
請求項1記載の基板表面を3次元パターン加工してなる束化アクチンを作動部とするマイクロアクチュエータ。
【請求項7】
基板がガラス製である請求項6記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項8】
基板がシリコン製である請求項6記載のマイクロアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225283(P2006−225283A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38287(P2005−38287)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】