説明

条体の楔式クランプ

【課題】簡単な構造でしかも条体を差し込むだけで滑りが生じない強固な締結効率を達成できる引留め用又は接続用の楔式クランプを提供する。
【解決手段】条体を貫挿する貫通孔を有し、該貫通孔の軸線と直角の断面が、ロープにほぼ対応する曲率面と、それと180度対称部分に斜面を有する本体と、該本体の前記斜面と条体間に挿入される楔体とを有するクランプにおいて、前記楔体の条体に接触する面がV状溝となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロープで代表される条体の引留めや接続に好適な楔式クランプに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープ、緊張材などの条体の端部を引留めあるいは条体同士を直列状に接続する手段として「楔式クランプ」が知られており、この楔式クランプは、従来、大別すると、次の3種類のものがあった。
【0003】
1)図1(a)のように、楔片Aの条体4に対する接触面に軸線と交差する方向に走る歯形aを設けたもの。
2)楔片の条体に接触する面に摩擦増加材を付けたもの。
3)図1(b)のように、使用前に予め挿入工具(図示せず)により楔片Aを引留め具本体Bに押し込んでおくもの。これは架空送電線の引留めに多く採用されている。
【0004】
1)2)は直径が8mm程度までの小サイズの条体ではそれなりの性能が得られるが、直径が10mm以上ことに12〜18mmといった大きなサイズの条体に適用した場合に、100%の締結効率を満足できないという問題があり、また、2)は摩擦係数を上げるための部材を使用するので、その分コストが高くなる難点があった。
【0005】
3)は油圧工具などにより予め大きな荷重で楔片を押し込むので、その作業にかなりの時間を要して作業性が悪く、また、適正な押し込み力の管理が難しく、性能のばらつきが生じやすい問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、簡単な構造でしかも条体を差し込むだけで滑りが生じない強固な締結効率を達成できる条体の楔式クランプを提供することにある。
本発明において、「条体」とは、ロープ、ケーブル、緊張材などの線条の集合物のほか、鉄筋など棒状のものを含む概念である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、条体を貫挿する貫通孔を有し、該貫通孔の軸線と直角の断面が、ロープにほぼ対応する曲率面と、それと180度対称部分に斜面を有する本体と、該本体の前記斜面と条体間に挿入される楔体とを有するクランプにおいて、前記楔体の条体に接触する面がV状溝となっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本体と楔体との摩擦係数をμ1とし、楔体と条体との摩擦係数をμ2とした場合、μ2>μ1であれば条体に滑りが生じないが、本発明によれば、前記楔体の条体に接触する面がV状溝となっているため、楔体と条体との摩擦係数が、本体と楔体との摩擦係数の2倍を有することになり、μ2>μ1を十分に達成することができる。しかも、V状溝の壁面に接触できれば滑り止めを図れるので、一種類の楔体で条体の径がある範囲で異なっても前記性能を達成でき、構造も簡単で安価に実施できるというすぐれた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
前記本体は単一の貫通孔であり、貫通孔よりも先にヨーク状のブラケットを有している。
これによれば、係留部を固定物に連結することで、締結効率の高い引留めを行なうことができる。
【0010】
前記本体は、中間壁を介して上下に貫通孔を有し、それら貫通孔に
方向を逆にして楔体が内挿されている。
これによれば、ロープの接続を締結効率よく行なうことができる。
前記本体は楔体の後端を押圧する弾性部材を有している。
これによれば、楔体の初期位置を的確に設定することができる。
【実施例1】
【0011】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2ないし図4は本発明を引留め用クランプに適用した例を示している。
1は鋼などからなる本体であり、角筒状をなし、内部に条体(この例ではロープ)4を遊貫し得る貫通孔10を有しおり、端部には引留めのためのヨーク状のブラケット11を一体に有している。ブラケット11には接続用の穴110が設けられている。2は本体1に内挿された楔体であり、鋼などで作られている。
【0012】
前記本体1の貫通孔10を構成する底壁部には、条体4の外径に対応する曲率面を有する一定の深さの弧状溝13が軸線方向に形成されており、該弧状溝13と180度対称位置すなわち天壁部には、牽引力が作用する方向に前傾した斜面14が形成されており、これにより、貫通孔10は軸線方向後方に向かって断面積が拡大している。
なお、この実施例では本体外面も斜面となっているが、これに限定されるものではなく、底外面と平行であってもよい。
【0013】
前記楔体2は所要の長さを有するブロック片からなり、幅方向両側は前記本体1の貫通孔10の左右側壁と平行な面20、20を有し、本体の斜面14に接触すべき上面には、軸線方向後方に下傾した斜面21が形成されている。
そして、楔体2の下面側中央部位には、条体4に接触する面がV状溝22が凹入形成されている。V状溝22の頂は中央線上にあり、頂部はこの例では裁頭水平状となっている。
【0014】
前記V状溝22は、下端の開口が条体4の直径よりも大きく、内部で条体4の左右方向2点と接触するように漸次幅が減少した形態をなしており、傾斜角はたとえば50〜70度の範囲から選ばれる。V状溝22は楔体2の全長にわたって同じ深さを有していることが好ましい。V状溝22の入口は角度が増していてもよい。
【0015】
3は楔体2の後端を押圧する弾性部材であり、本体1の端部に設けたスリット15を介して貫通孔10内に挿入され、楔体2の端部に形成した係止部23に先端が係合し、これにより楔体2の初期位置を的確に設定できるようになっている。
【実施例2】
【0016】
図6と7は本発明を複数の条体の接続用クランプに適用した例を示している。
この実施例においては、本体1は軸線方向と直角の断面において区画用の中間壁12を有しており、該中間壁12の上下に貫通孔10,10がそれぞれ設けられている。
【0017】
そして、中間壁12の上面と下面には、前記弧状溝13、13がそれぞれ形成され、それらと対向する側に斜面14、14がそれぞれ前傾方向を逆にして形成されている。
2つの楔体2,2は前記貫通孔10,10にそれぞれ逆向きに内挿されており、各楔体2,2は、実施例1と同じく斜面14に接触すべき斜面21と、条体4に接触すべきV状溝22を有している。
それらの詳細は実施例1の説明を援用する。
【0018】
本発明は上記のような構成からなるので、本体1に楔体2を挿入した状態で条体4を挿し込み、挿し込み方向と反対方向に牽引し、それにより楔体2を移動させて締付けるものであり、図5のように、V状溝22の角度を60度とし、本体1と楔体2間、楔体2と条体4間の摩擦係数をそれぞれμ1とし、垂直方向にWなる締付け荷重が作用した場合、本体1と楔体2間の摩擦力は、Wμ1となり、一方、楔体2と条体4間の摩擦力は、図5のように2Wμ1となる。
【0019】
前記のように、従来では、楔体と本体との摩擦係数μ1と、楔体と条体との摩擦係数をμ2とすると、歯形をつけたり摩擦増加材を介在させてμ2>μ1とし、条体の滑りを規制するようにしていたが、大きな条体サイズになると締結効率が低下していた。また、3)の方式は、μ2=μ1であるため、予めかなり大きな荷重で楔体を押し込み、摩擦力を補償していた。
【0020】
しかるに、本発明においては、前記したように、楔体2と条体4間の摩擦力が2Wμ1となり、楔体2と条体4間の摩擦係数は本体1と楔体2間の摩擦係数の2倍を有することと同じ効果となる。したがって、前記μ2>μ1を十分に満足させることができ、条体の径が大きくても、滑りを生じさせず100%の締結効率を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)(b)は従来の楔式クランプを示す断面図である。
【図2】本発明を引留めクランプに適用した実施例(実施例1)を示す平面図である。
【図3】実施例1の縦断側面図である。
【図4】図3のX−X線に沿う断面図である。
【図5】本発明の作用を示す説明図である。
【図6】本発明を接続用クランプに適用した実施例(実施例2)の縦断側面図である。
【図7】図6のY−Y線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 本体
2 楔体
3 弾性部材
4 条体
10 貫通孔
11 ブラケット
12 中間壁
13 弧状溝
14 斜面
21 斜面
22 V状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
条体を貫挿する貫通孔を有し、該貫通孔の軸線と直角の断面が、ロープにほぼ対応する曲率面と、それと180度対称部分に斜面を有する本体と、該本体の前記斜面と条体間に挿入される楔体とを有するクランプにおいて、前記楔体の条体に接触する面がV状溝となっていることを特徴とする条体の楔式クランプ。
【請求項2】
前記本体は単一の貫通孔であり、貫通孔よりも先にヨーク状のブラケットを有している請求項1に記載の条体の楔式クランプ。
【請求項3】
前記本体は、中間壁を介して上下に貫通孔を有し、それら貫通孔に
方向を逆にして楔体が内挿されている請求項1に記載の条体の楔式クランプ。
【請求項4】
前記本体は楔体の後端を押圧する弾性部材を有している請求項1又は2に記載の楔式クランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−245373(P2008−245373A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79882(P2007−79882)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】