説明

来待石粉焼結体及びその製造方法

【課題】間伐材とともに、凝灰質砂岩の一種である来待石の採掘や加工の段階で大量に排出される端材や研削・研磨屑の有効利用を図りる。また、来待石の需要を喚起し林業分野の活性化に資することを目的とする。
【解決手段】礫混じり粘土或いは礫質土状の来待石粉体100重量部に対し水を10〜40重量部加えて混練した被覆材で、木材や木質廃材の塊を包み込み、乾燥後焼成して炭化体包含来待石粉焼結体を得る。この炭化体包含来待石粉焼結体は、水の浄化や漁礁などに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、来待石粉体と水との混練物を成形乾燥して焼成した来待石粉焼結体やその製造方法、半乾燥成形物を掘削した二次成形物を乾燥焼成した来待石粉焼結体やその製造方法、混練物中に木材等を埋設して成形乾燥して焼結した炭化体包含の来待石粉焼結体やその製造方法、更にはこれらの焼結体を用いた容器や置物、漁礁や藻礁、或いは水質浄化材等に関する。
【背景技術】
【0002】
石材は、製品になるのは極わずかであり、採掘や加工の段階で端材や研削・研磨屑が大量に発生する。現在では、製品が外国特に中国から輸入されることが多くなったが、国内で産出する石を使用している地域ではこれらの採掘屑や加工屑の処理は大きな問題になっている。
【0003】
このことは、凝灰質砂岩の一種である来待石の場合も同様であり、以前はその粉末を石州瓦の釉薬などに使用していたが現在ではその用途も殆どなくなってきている。更に、来待石には炭酸カルシウムに富んだ方解石が偏在するものがあり、これが経時変化を起こして石をボロボロにするので、折角採掘されても石材のまで廃棄される不良石材もかなりの割合(約70%)になる。
【0004】
そのため、多くの業者は、採掘屑や加工屑の処理をひきのばして自社の敷地内などに加工屑を保管することなどで対処しているが、抜本的な対策にはならず、加工屑を安価に大量処理する技術が希求されている。
【0005】
このような観点から、本発明者らは来待石加工屑や不良石材を粉末状にしこれを陶土として使用する技術を開発した(特許文献1)。まず、来待石加工屑などをクラッシャー等の破砕機で粉砕したりロスアンゼルスすり減り機で粉末化した後篩分けして粒径が0.85mm程度以下、或いは0.425mm程度以下の粉体とした。しかし、この粉体を水で混練したものは、陶土に要求される粘着力や保形性が劣り、陶土としては全く使い物にならなかった。
【0006】
そこで、特許文献1の発明では、この粉体を更に微粉砕したりカオリンや長石の粉末を20〜50%程度混合することにより、陶土化することに成功した。
【特許文献1】特開2003−327466号公報
【0007】
一方、林業の分野では、現在、間伐材の処理が大きな問題になっている。間伐材は、ログハウスや杭材などにも用いられるが、15cm、特に10cm以下の小経木はチップにする以外は殆ど用途がない。しかし、現在ではチップの需要も減少しており、また林業従事者の高齢化もあって、間伐材の多くが山に放置されている。ひどい所では間伐も十分に行われず、良材の生育が妨げられている。
【0008】
そこで、間伐材を漁礁に用いたり炭にして河川底に敷設するなど、各地で様々な用途開発の研究が行われている。しかし、漁礁の場合藻が生えやすいなどの利点はあるが船虫などに喰われて1年程度しか持たず、その維持保全に莫大な費用がかかる。また、河川底に敷設すると浮き上がって十分な目的を達成しないなど、いずれも決定打に欠けるものである。
【0009】
また、製材時に発生する樹皮や製材端材、おが屑、更には建築取り壊し時の建築廃材などの木質廃材が各地で大量に発生する。木質廃材は燃料に用いられる以外は焼却や埋め立てにより処理されてきたが、焼却制限や埋め立て地減少により従来型の処理が困難になってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、比較的軟らかい来待石でも、ボールミルによる微粉砕は時間とコストが掛かり、来待石加工屑を安価に大量処理すると言う目的は達し難い。一方、カオリンや長石の微粉末を混合したものは、カオリンや長石の微粉末を高割合で使用するのでその分だけコストがかかり、しかも加工屑処理の程度は低下する。
【0011】
従って、来待石加工屑の大量処理には、来待石粉末の陶土化以外に、粉末のまま利用する技術が必要となる。
【0012】
ところで、来待石は有機物を含んでおり、石そのものを或いは粉末に水を加えて成型したものを焼成すると、焼成物は有機物が滅失して微細な連続多孔物質となる。この現象を利用して、本発明者らは、来待石破砕品や粉末の粒状成型品を焼成して濾材とするとに成功した(特願2004−180922号)。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明者らは、この粉末の粒状成型品の焼成にヒントを得て、来待石の粉末を陶土化することなく、来待石粉体をセメントと同様に水で混練して様々な条件で成形と乾燥及び焼成について実験を行い、本発明を完成させたものである。
【0014】
即ち、本発明の焼成品は、(1)来待石粉体と水との混練物を成形後乾燥し、これを焼成したもの、(2)半乾燥状態の成形物に任意形状の彫刻や掘り込み等の掘削細工を施した二次成形物を乾燥し、これを焼成したもの、(3)混練物中に木材等を埋設した後乾燥し、これを焼成したものに大別される。また、(4)混練物中にモミ殻やのこ屑その他の有機物小塊を混入したもの、(5)成形物に施紬して焼成したもの、(6)焼成時に、成形物の内部や周囲に炭などの炭素含有物を配置して焼成し燻し風の模様を表出するものも含まれる。
【0015】
成形は、通常は型に来待石粉体と水との混練物を流し込むことにより行われるが、手で丸めたりローラで延ばしたりしてその状態で乾燥することも含まれる。また、焼成は通常は離型後に行うが、ダンホールなど燃焼可能な素材の場合には、型と一緒に焼成してもよい。尚、混練物はセメントの場合と異なり乾燥することにより硬化するので、型は通水性素材のものが必要である。
【0016】
本発明の粉体は、礫混じり砂質粘土(礫混じり粘土)状のものである。ここに、粘土とは、粒子の大きさが5μm以下(土質学会の分類、以下同じ)のものを言う。またシルトは5〜75μm、細砂は75〜250μm、中砂は250〜850μm、粗砂は850μm〜2mm、細礫は2〜4.75mmのものを言う。そして、本発明の粉体は2.60mm以下の礫を5%以下含んでいるものを言う。これらの割合は、凡そ図4の曲線イ程度である。尚、礫混じりシルト質粘土は、礫混じり砂質粘土に比べてシルト質の割合が多く、より粘土に近いものである。本発明の場合、両者は同様に使用できる。
【0017】
この礫混じり粘土(或いは礫混じりシルト質粘土、以下同じ)状の来待石粉体は、粉体100重量部に対し水を10〜40重量部、より好ましくは20〜30重量部の割合で混練して使用する。混練方法は特に限定はないが、小型のコンクリートミキサーを使用すれば、簡単に少量の混練物が得られる。大量の場合にはより大型の混合機を用いればよい。
【0018】
図4の曲線ロの場合は、2.60mm以上の礫を15%以上含んでいるもので、土質学的に礫質土と言われるものである。この場合、塑性限界が高くなって成型不良になりやすい。そこで、水ガラスなどのバインダーを添加するとか、加圧成型する必要が生じる。尚、本発明で使用可能な礫の大きさは、実質的に5mm程度以下であり、それ以上だと成形品が脆くなる。
【0019】
礫混じり粘土状の場合このような難点がないので、本発明では主として礫混じり粘土状のものを使用するが、礫質粘土状粉体にバインダーを添加したり加圧成型して使用してもよい。尚、いずれの場合においても、水の移動性がよいため、水の偏在によるひび割れは、通常の粘土成型物に比べて非常に生じにくい。
【0020】
ところで、本発明で言う来待石とは、来待錆石のことである。来待錆石は、島根県に存在する宍道湖の南岸に広く分布する新第三紀中新世出雲層群下位層来待層を構成する凝灰質砂岩のことを言い、良質のものは、塊状凝灰質粗粒砂岩のうち特に淘汰の良い岩相の所に集中し、八束郡玉湯町から宍道町にかけての東西約10km、幅1〜2kmの範囲に存在する。この来待石は、石質が柔らかく採掘、加工が容易で、出雲石灯ろうは伝統工芸品に指定されている。
【0021】
この来待錆石は、多種多様な岩石片や結晶片、それらを埋める基質から構成されている。岩石片のサイズは径0.5mm〜1.0mmが多く、最大でも1.5mm程度である。岩石片や結晶片の占める割合が80%と多い。岩石片としては、安山岩、石英安山岩、流紋岩、花崩岩、多種類の凝灰岩などが確認されている。結晶片としては、斜長石、輝石、角閃石、黒雲母、不透明鉱物、火山ガラス、変質鉱物が確認されている。また、基質としては、変質によってできた沸石、緑泥石、炭酸塩鉱物が確認されている。
【0022】
これらの鉱物の中には粘土鉱物と言われるものが多く含まれており、このことが、来待錆石の粉砕物が粘土、陶土として使用できる大きな理由であると思われる。尚、来待錆石以外に、来待白石といわれるものがある。これは、年代的に古くて流紋岩系でモンモリロナイトに変質した部分が多く、本発明には使用できないものである。
【0023】
表1に分析値を示す(島根県発行「島根の地質」)ように、来待錆石には鉄が多く(Feとして6.13%)含まれている。そのため、本発明の陶土は焼成すると赤、茶〜黒系統色に呈色する。ただ、本発明の場合土木工事や漁礁などに使用するので、焼成物の色は問題にならない。表中、数値は重量パーセントを示す。また、表1からも明らかなように、来待錆石には7%程度の焼熱減量(Ig.loss)が含まれている。これは、古代の植物残滓であり、これが焼成時に消滅して微細孔を生じることになる。
【表1】

【0024】
来待石の粉体は、不良石材や端材、研削屑などをクラッシャー等の破砕機で粉砕して、また細かな研磨屑はそのままの状態で篩分け(2.65mm以下)して得られる。粒径の分布は、ほぼ図4(イ)の粒径加積曲線に類似する。
【0025】
この粉体100重量部に対して水10〜40重量部を加え、コンクリートミキサーで攪拌混合する。水が10〜20重量部の場合、混合物はパサパサして型に充填しにくいが、加圧型であれば、使用可能である。また30〜40重量部では水分が多くて乾燥に手間取るし粒径の大きな礫が沈降し易い難点がある。より好ましくは、20〜30重量部である。最も好ましいのは23〜26重量部前後である。混合時間は、量にもよるが10〜50分程度、より好ましくは30分前後である。
【0026】
礫質土の粒度分布を有する来待石粉体の場合も、同様に篩分け(5mm以下)して得られる。粒径の分布は、ほぼ図4(ロ)の粒径加積曲線に類似する。この場合には、100重量部に対し水を10〜40重量部、より好ましくは20〜30重量部の割合で用い混練したものを加圧成型して乾燥するか、或いは来待石粉体と水に更に水ガラス等のバインダーを添加して混練して成形した後乾燥し、次いで焼成する。
【0027】
本発明の焼成品のうち、前述した(1)の焼成品は最も簡単で且つ大量生産に向くものであり、水質浄化材や漁礁、藻礁、タイル、レンガ、ブロック等用途に合わせた様々な寸法のものが製造できる。また、この焼成品の破砕品や粉砕品は、水質浄化材や人工土壌として利用できる。
【0028】
前述した(2)の焼成品は、簡易な石材加工品とも言うべきもので、半乾燥状態の成形物に任意形状の彫刻や掘り込み等の掘削細工を施した二次成形物を乾燥し、これを焼成するものである。半乾燥状態とは、混練物が幾分硬化して自立できる程度になった状態を言う。この半乾燥成形物をスプーン等で掘り込んだりナイフ等で削ったりして壺や皿或いは植木鉢等の容器類の形を成形し(二次成形物)、これを乾燥焼成することにより、石製の容器類が簡単に得られる。容器類以外に、板状その他の半乾燥成形物を用い、これに彫刻を施して石製の置物を同様に簡単に得ることができる。これらの場合、施紬(5)や燻し(6)で更に変化を与えることができる。
【0029】
本発明の大きな特徴は、厚みのある前述の(1)の場合は勿論、彫刻や彫り込みで厚みや幅等がまちまちの(2)の場合も、焼成によるひび割れや変形は殆ど生じないことである。理由は後述する。
【0030】
これらの焼成品は、もともと来待石中に含まれている有機物が燃焼して空隙になるので、多孔であるとともに比重が水よりも小さくて(1以下)軽いが、前述の(4)の場合は更に軽く、比重が0.7に近いものも容易に得られる(のこ屑を13重量%混入時)。のこ屑等の有機物小塊は15%程度まで混入可能であるが、これらは、焼成時に一部は炭化して残るが、多くは炭酸ガスとなって消失する。従って、これにより得られたブロックは通常のセメント製品(比重約2)に比べて重さが1/3になり、ガーデニング等で女性が使用するのに最適なものである。また、タイルにすると滑らないし軽量で吸音性に優れたものが得られる。更に、非常に多孔であることから、水質浄化材や漁礁、藻礁として非常に優れたものが得られる。混練物中にモミ殻やのこ屑その他の有機物小塊を混入したもの、(5)成形物に施紬して焼成したもの、(6)焼成時に、成形物の内部や周囲に炭などの炭素含有物を配置して焼成し燻し風の模様を表出するものも含まれる。
【0031】
次に、前述の(3)の焼成品は、以下に詳述するように、炭化体を包含した来待石粉焼結体が得られる。まず、木材や木質廃材について説明する。木材は炭の主体となるもので、間伐材利用の観点から間伐材を主として用いる。もっとも、間伐材に限ったことではなく、建築廃材のうち柱や垂木なども用いられる。木質廃材は、樹皮やおが屑、木材の破砕粉砕品などを言うが、その他本発明では籾殻や草(生草、枯れ草)なども含んだ観念である。そして、この木質廃材は塊として、或いは木材の周りに充填するようにして使用する。
【0032】
木質廃材の塊は、木材に代えて或いは木材とともに使用されるもので、木質廃材を袋などに充填したり成型して、或いはパイプに詰めて設置し被覆材を充填したのち該パイプを引き抜くことにより形成する。ただ、木質廃材は小片であることが多いので、焼成温度が高いと燃焼灰化する可能性がある。木材の場合は、このようなことはない。
【0033】
次に、本発明の炭化体を包含した来待石粉焼結体の製造方法について説明する。まず、紙管など透水性のある型枠の中心部に、木材や木質廃材の瑰などを収納し、その周り又は周りと上下部分に、来待石粉体を水で練った混練物を充填して乾燥し、ついで焼成する。この場合、問題が2つある。
【0034】
1つは、ひび割れの問題である。これは、木材のみを用いた場合、充填した混練物が乾燥する段階で中側への収縮が妨げられることに起因する。本発明の場合、ひび割れは焼結時に大きくなることもなく、また内部即ち炭の部分への水の浸透を良好にする働きもするが、見栄えが悪いため商品価値が低下する。ひび割れを防止するには、木材の周りにのこ屑や籾殻など目の細かな木質廃材を充填するとよい。これは、のこ屑や籾殻などの空気層が、来待石被覆材の乾燥による中側への収縮応力を吸収するためである。木材の周りに木質廃材を充填するには、例えば、型枠の中心部に設置したパイプ内に木材を収納し、この木材の周りであってパイプの内部に木質廃材を詰め込み、混練物を充填したのち該パイプを引き抜くことにより行う。
【0035】
もう一つは、木材や木質廃材の塊などを混練物で覆う場合、上下部分を覆うか否かの問題である。木材などの周囲上下を混練物で完全にシールすると、焼成時に木材などが蒸し焼きになり、完全な炭が得られる。これに対し上下を覆わず酸素が多い雰囲気中で焼成すると、木材が燃焼して灰になり、焼成物は単なる土管見たいになってしまう。貧酸素状態で焼成した場合、炭はある程度残るが、完全に残したければ、木材などの上下も混練物で覆うことが好ましい。
【0036】
木材などの上下を混練物で覆う場合、木材と混練物の間、即ち、木材の下部及び頭部にも木質廃材の層を設けるようにすると、混練物充填体の乾燥によるひび割れは完全に防止される。
【0037】
本発明の混練物は、セメントと異なり自己凝固能はなく、乾燥して焼成することにより固化する。従って、型枠は混練物充填体が乾燥できるように、紙管など透水性のあることが必要である。混練物充填体の補強のため、紙管の内側に予め金網を設置しておいてもよい。紙管の補強として胴廻り数カ所にバンド補強をしてもよい。型枠としては、金網やエキスパンドメタル、パンチングメタルなどを枠体で補強した2つ割りのものを使用することもできる。この場合、中に土嚢袋を入れた状態で混練物を充填する。尚、型枠は無底の方が脱型に便利である。無底の場合、型枠の下にシートやクラフト紙等を敷いておくとよい。
【0038】
次に、混練物充填体の乾燥及び焼成について説明する。乾燥や焼成に要する時間は、混練物充填体の容積や形状により大きく異なる。そこで、以下直径30cm、高さ50cmで表面に補強用の金網を設置したの俵型の混練物充填体の場合を例にとって述べる。この程度の大きさの混練物充填体の場合、型枠内で約1週間、型枠除去後1週間、金網除去後1週間の約3週間が必要である。金網除去後の1週間の乾燥工程は、炉内で50〜100℃、12時間程度の乾燥で代替えできる。
【0039】
次に、焼成温度について説明する。一般に、来待石粉体製粘土を陶器として焼成する場合、1100℃〜1180℃で焼成する。1100℃未満だと焼き締めが不十分で水がもれる所謂素焼き状となる。また1180℃以上だと溶融してへたりが生じる。より好ましい焼成温度は、1120℃〜1140℃である。この場合、微粒子が粒度の大きな砂を包み込んで溶融し、水漏れしない緻密な組織が得られる。もっとも、この場合も通気性は保持している。ただ、本発明の混練物充填体は、ある程度の水漏れは好ましくもある。そこで、950℃〜1180℃より好ましくは1000℃〜1120℃の温度で本焼き焼成する。
【0040】
強度が幾分劣るが通水性に優れる素焼きを得るには、本発明の混練物充填体を500℃〜950℃より好ましくは750℃〜800℃の温度で素焼き焼成するとよい。焼成温度は、本発明炭化体包含の来待石粉焼結体の用途等に応じて使い分けすればよい。ここに焼成温度とは、最高温度のことである。
【0041】
尚、本発明の混練物充填体は非常に厚みが大きいが、ひび割れせずに焼成できる。その理由は明らかでないが、砂やシルト分があるため収縮分を吸収するためではないかと推察される。
【0042】
本発明の場合、焼成は電気窯で行い、焼成時間は、被覆材充填体の肉厚や大きさ等にもよるが、最高温度に達するまでに10〜16時間をかけ、最高温度を数十分維持した後或いは直ちに電源を切って1〜2日間次第に降温する。電気窯に限らず、灯油やガス、薪などの燃料を使用する窯と当然に使用できる。単独窯の他に、登り窯や連続窯で焼成可能である。特に、煉瓦やタイルを工業的に焼成する場合には、大量生産に向く連続窯の使用が好ましい。
【発明の効果】
【0043】
以上詳述したように、本発明の来待石粉焼結体は、礫混じり砂質粘土や礫混じりシルト質粘土或いは礫質土の粒度分布を有する来待石粉体と水との混練物を成形後乾燥し、次いで焼成したものである。
【0044】
従って、
(1)来待石の加工時に発生する端材や研削屑、研磨屑更には不良石材を廃棄せずに有効利用ができる。
(2)本発明は、来待石加工屑の利用に止まらず、来待石原石自体を積極的に粉砕して使用することにより、産業として来待石の消費拡大を可能とする。
(3)篩分けした来待石粉体を水と混練し成形焼成するだけでよいから、設備さえあれば簡単に且つ大量に生産できる。
(4)陶土化の場合はコストや手間がかかるが、本発明の場合は成形乾燥するのでそのような難点も生じず、また大量に処理することが可能となる。
(5)比重が軽く多孔質であるので、水質浄化材や漁礁、藻礁、タイル、レンガ、ブロック等様々な用途に使用できる。
(6)混練物中に、モミ殻やのこ屑その他の有機物小塊を混入することにより、比重が非常に小さいものが得られる。
(7)焼成時に成形物の内部や周囲に炭などの炭素含有物を配置して焼成することにより、燻し風の模様を表出することができる。
(8)半乾燥状態の成形物に掘削細工を施した二次成形物を乾燥焼成することにより、来待石加工品とそっくりな容器類や置物類が簡単に得られる。この場合、施紬や燻しで更に変化を与えることができる。
(9)木材等を内部に埋設して焼成する場合、間伐材の有効利用が促進される。特に、炭焼きをせずに間伐材の炭化が可能になる。
(10)得られた炭化体を包含した来待石粉焼結体は、間伐材を炭化するとともに来待石粉末を多孔焼成物とし、炭と焼成物との相乗効果により、水質浄化はもとより、炭の欠点であった水に入れた場合の浮き上がりや泥への埋没や泥成分の吸着を防ぎ、強度を与えるなどの効果を生じる。また、炭は来待石粉体焼成物に比べ微細孔が格段に多く、微生物の住処としては理想的なものである。
(11)この炭化体を包含した来待石粉焼結体は、谷止材や川床材、河川護岸柵材、水質浄化材など利用されて水浄化の面から環境保護に役立つとともに、間伐材の利用促進の面からの環境保護にも役立つ、非常に有用な技術である。また、漁礁材料とすれば、木材のように短期間で浸食されたり木炭のように強度に劣ることがない、藻の発生も良好で且つ炭、来待石焼結体ともに微細孔を有することから微生物の恰好の住処となるなど、理想的なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
礫混じり砂質粘土の粒度分布を有する来待石粉体と水との混練物を成形して半乾燥状態とし、これに掘削細工を施して二次成形物とし、次いで乾燥、焼成する。また、透水性型枠内に木材とそれを取り巻く状態で木質廃材を収納し、周りと上下部分に来待石粉体を水で練った混練物を充填して、木材等を混練物中に埋設して混練物充填体とし、該混練物充填体を乾燥後焼成する。
【実施例1】
【0046】
以下、本発明を、図面に基づいて詳細に説明する。図1、本発明の炭化体包含来待石粉焼結体1の元となる混練物充填体7を製造する過程を示す説明図であり、図2は炭化体包含来待石粉焼結体1の頭部を除いた平面図である。まず、図1(a)に示すように、内径30cm高さ50cmの紙管2の底部に、来待石粉体を水で練った混練物3を約5cm厚で投入する。次に、紙管2の中心部に直径20cmのパイプ4設置し、その中に間伐材5(15cm径前後)とおが屑6を詰め込む。次いでパイプ4の廻りに混練物3を充填してパイプ4を引き抜き、間伐材5の頭部に厚み5cm程度におが屑6を置き、次いで全体を覆うように混練物3(厚み5cm)を打設(図1(b)して、図1(c)に示す混練物充填体7を得る。尚、図中符号8は混練物充填体7を保護するための金網である。
【0047】
混練物充填体7を焼成して得た炭化体包含来待石粉焼結体1においては、図2に示すように間伐材は炭化して木炭9となる。おが屑6は焼成温度によっては燃焼して焼失する。混練物充填体は焼き物状の焼結体10となる。そして、おが屑6があった部分が空隙11になり、この部分で焼結体10から浸透する空気中の湿気を捕獲、放出する湿気調節の役割を果たす。また、水中にあっては、焼結体10から浸透する水中の微生物に対する繁殖ゾーンとなり、木炭9と併せて微生物による水質浄化機能をもたらす。尚、図2は、図1(c)のX−X部分で切断した状態の平面図である。
【0048】
焼成は、電気炉によって図3に示す焼成パターンによって行った。ここで、初めの12時間は、乾燥工程である。そして、後の12時間で1120℃迄昇温し、その後電源を落として放冷した。上記の炭化体包含来待石粉焼結体1の寸法は、直径28cm、高さ49cmであった。従って、その焼成による収縮率は、約8.5%であった。尚、収縮率は大体10%前後である。
【0049】
炭化体包含来待石粉焼結体1を水中に設置した時に、焼結体10が崩れる可能性がないかを検討した。焼結体10の小片(10cm四方)を1日水浸、1日乾燥のパターンを30日間繰り返したが試験前と同時形を保ち、形崩れは無かった。
【実施例2】
【0050】
図5は、型枠の他の例を示す。この型枠20は、パンチングメタル21を枠体22で補強した2つ割りのものである。符号23は蝶板、24はストッパーである。この型枠20の場合、目か粗いので中に土嚢袋25を入れてから、前述の紙管2と同様に使用する。尚、紙管2の場合も型枠20の場合も、無底の方が脱型に便利である。無底の場合、型枠の下にシートやクラフト紙等を敷いておくとよい。
【実施例3】
【0051】
図6は、炭化体包含来待石粉焼結体の他の例を示すこの炭化体包含来待石粉焼結体30は、全体が直方体状で、その内部に木炭31を同じく直方体状に収納した形のものである。この炭化体包含来待石粉焼結体30は、川床や川岸などに敷設するときに便利である。
【実施例4】
【0052】
図7は、本発明の炭化体包含来待石粉焼結体1を谷川40の谷止め材41及び川床材42として使用した例を示す。これにより、谷川の腐葉土成分や濁りなどが除去され、浄化が成される。また図8は、河川43の河川護岸柵材44として使用した例を示す。この場合も河川水の浄化促進が期待される。
【実施例5】
【0053】
図9(a)は、礫まじり砂質粘土の粒度分布を有する来待石粉体100重量部に対し水を25重量部の割合で混練した後型(図示略)に入れて成形した半乾燥成形物50から、壺51の形を掘削形成した状態の断面図である。図中、ハッチング部分が掘削箇所である。この半乾燥の壺51を乾燥した後焼成するが、壺の壁面の厚みにバラつきがあっても、ひび割れしたり変形することはない。
【0054】
図9(b)は、この半乾燥の壺51が半乾燥の時点で、壺壁面52に木片53を挿通した状態を示す。この木片53は、焼成により消失し、その跡に木片53に応じた自然な孔があく。図は省略するが、このようにした孔を多数穿設することにより、明かりのほや等を形成することができる。
【実施例6】
【0055】
図10は、実施例5と同様の混練物を用いて板状に成形し、次いでその表面に彫刻54を施した半乾燥成形物55を示す。図10(a)は斜視図、(b)は図(a)におけるX−X線断面図である。尚、図10(b)中のハッチング部が分が掘削箇所である。
【実施例7】
【0056】
図示は省略するが、実施例5に用いた混練物を型に入れて乾燥のち焼成し、幅120cm、長さ200cm、厚み7cmを来待石粉焼結体を得た。同じく、幅60cm、長さ200cm、厚み7cmを来待石粉焼結体を得た。この焼結体を、ふとん籠の内部で石と金網の間に装着して、幅120cm、高さ60cm、長さ200cmの漁礁を得た。この漁礁を水深3mの海底に設置した。
【実施例8】
【0057】
同様に図示は省略するが、実施例5に用いた来待石粉体52%に、のこ屑13%、水34%を加えて混練した。得られた混練物をを型に入れて乾燥のち焼成し、幅40cm、高さ20cm、厚み10cmの来待石粉焼結体を得た。この来待石粉焼結体は、比重が0.71で非常に軽量なブロックが得られた。このブロックは、ガーデニングの仕切り等に良好に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(a)、(b)、(c)は、本発明の炭化体包含来待石粉焼結体の元となる被覆材充填体を製造する過程を示す説明図である。(実施例1)
【図2】は、図1(c)のX−Xせんで断面した状態の炭化体包含来待石粉焼結体の平面図である。(実施例1)
【図3】は、焼成パターンを示すグラフである。(実施例1)
【図4】は、本発明に使用した来待石粉体の粒径加積曲線を示すグラフである。
【図5】は、他の型枠を示す斜視図である。(実施例2)
【図6】は、炭化体包含来待石粉焼結体の他の例を示す斜視図である。(実施例3)
【図7】は、本発明の炭化体包含来待石粉焼結体の使用例を示す側面図である。(実施例4)
【図8】は、本発明の炭化体包含来待石粉焼結体の使用例を示す側面図である。(実施例4)
【図9】(a)は、本発明の他の来待石粉焼結体用の半乾燥成形物から、壺の形を掘削形成した状態の断面図である。(b)は、半乾燥の壺51の正面図である。(実施例5)
【図10】(a)は、表面に彫刻54を施した半乾燥成形物の斜視図、(b)は図(a)におけるX−X線断面図である。(実施例6)
【符号の説明】
【0059】
1 炭化体包含来待石粉焼結体
2 紙管
3 被覆材
4 パイプ
5 間伐材
6 おが屑
7 被覆材充填体
8 金網
9 木炭
10 焼結体
11 空隙
20 型枠
21 パンチングメタル
22 枠体
23 蝶板
24 ストッパー
30 炭化体包含来待石粉焼結体
31 木炭
40 谷川
41 谷止め材
42 川床材
43 河川
44 河川護岸柵材
50 半乾燥成形物
51 壺の半乾燥成形物
52 壺壁面
53 木片
54 彫刻
55 半乾燥成形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
礫混じり砂質粘土や礫混じりシルト質粘土或いは礫質土の粒度分布を有する来待石粉体と水との混練物を成形後乾燥し、次いで焼成したことを特徴とする来待石粉焼結体。
【請求項2】
半乾燥状態の成形物に任意形状の彫刻や掘り込み等の掘削細工を施した二次成形物を乾燥し、次いで焼成したものである請求項1記載の来待石粉焼結体。
【請求項3】
来待石粉体と水の混練物の中に、木材や木質廃材の塊、或いは木材と木質廃材の塊りを埋設した後乾燥し、次いで焼成したものである請求項1又は請求項2記載の来待石粉焼結体。
【請求項4】
混練物中に、モミ殻やのこ屑その他の有機物小塊を混入したものである、請求項1、請求項2又は請求項3記載の来待石粉焼結体。
【請求項5】
成形物に施紬して焼成したものである、請求項1、請求項2又は請求項3記載の来待石粉焼結体。
【請求項6】
請求項2又は請求項5の来待石粉焼結体からなる置物類又は容器類。
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4の来待石粉焼結体からなる、或いは該来待石粉焼結体を主要構造物として組み立てた漁礁又は藻礁。
【請求項8】
請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4の来待石粉焼結体からなる水質浄化材。
【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4の来待石粉焼結体を破砕或いは粉砕した粒状体や粉状体からなる水質浄化材又は人工土壌。
【請求項10】
請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4の来待石粉焼結体からなる谷止材、川床材又は河川護岸柵材。
【請求項11】
請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4の来待石粉焼結体からなるタイル、レンガ、ブロック等の建築資材又は造園資材。
【請求項12】
礫まじり砂質粘土や礫混じりシルト質粘土の粒度分布を有する来待石粉体100重量部に対し水を10〜40重量部、より好ましくは20〜30重量部の割合で混練した後型に入れて又は型に入れないで成形して乾燥し、次いで焼成することを特徴とする来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項13】
礫質土の粒度分布を有する来待石粉体100重量部に対し水を10〜40重量部、より好ましくは20〜30重量部の割合で用い混練したものを加圧成型して乾燥するか、或いは来待石粉体と水に更にバインダーを添加して混練して成形した後乾燥し、次いで焼成することを特徴とする来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項14】
半乾燥状態の成形物に任意形状の彫刻や掘り込み等の掘削細工を施した二次成形物を乾燥し、次いで焼成するものである請求項12又は請求項13記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項15】
混練物中に、15重量%以下のモミ殻やのこ屑その他の有機物小塊を混入して成形、乾燥し、次いで焼成するものである請求項12、請求項13又は請求項14記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項16】
乾燥した成形物に紬を施して乾燥した後、焼成するものである請求項12、請求項13、請求項14又は請求項15記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項17】
来待石粉体と水の混練物の中に、木材又は木質廃材の塊り、或いは木材と木質廃材の塊りを組み合わせたものを埋設し、乾燥後焼成するものである請求項12、請求項13、請求項14、請求項15又は請求項16記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項18】
木質廃材は、成型したり袋などに充填した状態で収納又は埋設するか、或いはパイプに詰めて型内部に収納し混練物を充填したのち該パイプを引き抜くことにより塊とするものである、請求項17記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項19】
型枠の中心部に設置したパイプ内に木材を収納しその木材の周りでパイプの内部に木質廃材を詰め込み、来待石粉体と水の混練物を型枠内に充填したのち該パイプを引き抜くことにより、木材と木質廃材の塊の組み合わせを該混練物中に収納或いは埋設するものである、請求項17記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項20】
木質廃材の層を、木材の下部及び頭部に設けるものである請求項17、請求項18又は請求項19記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項21】
500℃〜950℃より好ましくは750℃〜800℃の温度で素焼き焼成するものである、請求項12、請求項13、請求項14、請求項15又は請求項16記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項22】
950℃〜1180℃より好ましくは1000℃〜1120℃の温度で本焼き焼成するものである、請求項12、請求項13、請求項14、請求項15、請求項16又は請求項17記載の来待石粉焼結体の製造方法。
【請求項23】
乾燥した成形物の内部や周囲に炭、タドン、豆炭、松根、モミ殻、松葉、稲藁などの炭素含有物を配置して950℃〜1180℃より好ましくは1000℃〜1120℃の温度で焼成するものである、請求項12、請求項13、請求項14、請求項15、請求項16又は請求項17記載の来待石粉焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−96646(P2006−96646A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366808(P2004−366808)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(501229849)
【出願人】(501249261)株式会社日本海技術コンサルタンツ (17)
【Fターム(参考)】