説明

杭と躯体の接合構造、杭と躯体の接合方法、プレキャストコンクリート部材、鋼管

【課題】杭と躯体における曲げモーメントの伝達を低減させるために、杭と躯体の間に小径部を設ける。その場合において、杭と躯体の間に大きな軸力が作用した際に、杭の小径部の下方に生じる破壊を防止する。
【解決手段】コンクリート造の杭30と躯体20の接合構造10は、杭30と躯体20との間に、その径が杭30の径に比べて小さくなるように形成された小径部40が介在されてなり、杭30は、その外周に沿って埋設された外部鉄筋かご30と、外部鉄筋かご30の内周側に埋設され小径部40の下方のコンクリートを囲繞する内部鉄筋かご50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造の杭と躯体との接合部における曲げ剛性を低下させた接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎躯体又は建物の躯体の下部に、杭が接合されてなる建物に水平力が作用すると、躯体と杭の接合部に大きな曲げ荷重が作用する。従来はこのような曲げ荷重に抵抗するべく、鉄筋を多数配筋する方法や杭の断面を大きくする方法を用いていたが、前者の方法では鉄筋量が増えるとともに配筋に手間がかかるという問題が、また、後者の方法では杭の断面が大きくなるため、コスト高になるという問題があった。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1には、躯体と杭とを間をあけて構築し、この躯体と杭との間を杭よりも断面が小さいコンクリート部材(以下、小径部という)を介して接合する方法が記載されている。かかる方法によれば、躯体と杭との接合部に作用する曲げ荷重を低下させるとともに、躯体と杭との接合部における鉄筋を減らし、配筋の手間を削減することができ、また、杭の断面を小さくし、コストを削減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−144904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、後に詳述するようにこのように躯体と杭との間に小径部を設けた場合、杭に大きな圧縮力が作用すると小径部の下部に楔状の破壊局面が形成され、杭を外側に向かって押し広げるように破壊が起こることを実験により見出した。
【0006】
本発明の目的は、杭と躯体との間に小径部を設ける場合に、杭の小径部の下方に生じる破壊を防止するとともに、小径部において軸力及びせん断力を伝達できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、コンクリート造の杭と躯体の接合構造であって、前記杭と前記躯体との間に、その径が杭の径に比べて小さくなるように形成された小径部が介在されてなり、前記杭は、その外周に沿うように埋設された外部鉄筋かごと、前記外部鉄筋かごの内周側に前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように埋設された杭内部拘束部材とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記の杭と躯体の接合構造において、前記小径部は、周囲を取り囲む小径部拘束部材を備えてもよい。
また、前記杭内部拘束部材は、前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように設けられたフープ筋を有してもよい。
【0009】
また、記杭内部拘束部材は、前記小径部の直径をDとした場合に、その上下方向の長さが(D/2)×(1/tan22.5°)以上であってもよい。
【0010】
また、本発明は、コンクリート造の杭と躯体の接合方法であって、前記杭と前記躯体との間に、その径が杭の径に比べて小さくなるように形成された小径部を介在させ、前記杭に、その外周に沿うように外部鉄筋かごを埋設し、前記杭における前記外部鉄筋かごの内周側に、前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように杭内部拘束部材を埋設しておくことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、外周に沿うように外部鉄筋かごが埋設されたコンクリート造の杭と躯体との間に、その径が杭の径に比べて小さくなるように形成された小径部が介在されてなる杭と躯体の接合構造を構築する際に用いられるプレキャストコンクリート部材であって、前記小径部を構成し、前記杭における前記外部鉄筋かごの内周側に前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように埋設されるべき杭内部拘束部材が一体化されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、外周に沿うように外部鉄筋かごが埋設されたコンクリート造の杭と躯体との間に、その径が杭の径に比べて小さくなるように形成された小径部が介在されてなる杭と躯体の接合構造において前記小径部を取り囲むように設けられるべき鋼管であって、前記杭における前記外部鉄筋かごの内周側に前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように埋設されるべき杭内部拘束部材が一体化されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、杭の小径部の下方のコンクリートを囲繞するように杭内部拘束部材が埋設されているため、小径部の下方に楔状の破壊局面が形成され、この楔状の部分が周囲のコンクリートを押し広げるような力が作用しても、杭内部拘束部材がこれに抵抗し、破壊が生じるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】圧縮実験で用いた試験体を示す図である。
【図2】試験体の破壊状況を示す図である。
【図3】杭に作用する応力を示す図である。
【図4】本実施形態の接合構造を示す鉛直断面図であり、(A)は鉛直断面図、(B)は(A)におけるI−I´断面図である。
【図5】小径部を取り囲む鋼管を省略した場合の接合構造を示す鉛直断面図である。
【図6】小径部の上下面を夫々躯体の下面及び杭の上面に接続した場合の接合構造を示す鉛直断面図である。
【図7】小径部よりも径が大きな内部鉄筋かごを用いた場合の接合構造を示す鉛直断面図である。
【図8】小径部よりも径が小さな内部鉄筋かごを用いた場合の接合構造を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本願発明者らは、建物の躯体と杭の間に小径部が介在してなる接合構造に圧縮力が作用した際の破壊状況を調べるため、上記の接合構造を模した試験体を用いて圧縮実験を行ったので説明する。
【0016】
図1は、本実験で用いた試験体110を示す図である。同図に示すように、本実験で用いた試験体110は、杭の上部を模した直径200mm(実物の約1/8スケール)、高さ300mmの円柱状のコンクリート部材(以下、杭部130という)と、杭部130の上部に一体に構築され、小径部を模した直径120mm、高さ25mmの円柱状のコンクリート部材(以下、小径部という)140とにより構成される。杭部130の上部40mm及び小径部140は設計強度48N/mmのコンクリートが用いられ、杭部130の残り部分は27N/mmのコンクリートが用いられている。
本実験では、この試験体110に上下の載荷台により荷重を作用させて、破壊状況を調べた。
【0017】
図2は、圧縮破壊した試験体を示す図である。同図に示すように、試験体110に圧縮荷重を作用させると、杭部130の小径部140の下部に相当する位置に楔状(逆円錐状)の破断面(図中、破線を付して示す)が生じ、この楔状の部分の周囲のコンクリートが剥がれ落ちて破壊した。なお、楔状の破断面は頂角が約45°であった。
【0018】
このように、本実験から、小径部を介して杭と躯体とが接合された接合部に圧縮荷重が作用すると、図3に示すように、杭30を構成するコンクリートにおいて小径部40の下部に頂角が約45°となるような逆円錐状の面において破断することがわかり、この逆円錐状の部分(以下、楔部という)の周囲のコンクリートには、この楔部を構成するコンクリートにより外側へ向かって押し広げられるような応力が作用すると考えられる。
【0019】
上記の実験結果をふまえ、本実施形態の躯体20と杭30との接合構造10は以下のような構成とした。
図4は、本実施形態の接合構造10を示す鉛直断面図であり、(A)は鉛直断面図、(B)は(A)におけるI−I´断面図である。同図に示すように、本実施形態の接合構造10は、建物の躯体20と、場所打ちコンクリート杭からなる杭30とを接合するための構造であり、杭30と躯体20との間に小径部40が介在してなる。小径部40は、躯体20及び杭30にその上部及び下部が夫々埋入されている。
【0020】
躯体20は、建物(不図示)の下部に一体に構築されており、建物から鉛直荷重及び水平力が作用する。躯体20は、鉄筋コンクリート造であり、建物の荷重が作用する。
【0021】
小径部40は、円筒状の鋼管41と、この鋼管41内に打設されたコンクリート42とにより構成される。鋼管41の外周には、後述する杭30を構成する内部鉄筋かご50の上端が溶接接続されている。なお、鋼管41及び内部鉄筋かご50としては、これらを予め工場等において鋼管41に内部鉄筋かご50を溶接接続したものを製作し、現場に搬入して用いることができる。
【0022】
杭30は、地盤に円柱状に形成されたコンクリート32と、このコンクリート32の外周に沿うように埋設された円筒状に組まれた外部鉄筋かご31と、小径部40を構成する鋼管41に上端が溶接接続された内部鉄筋かご50と、により構成される。
【0023】
内部鉄筋かご50は、円周状に間隔をあけて配置された複数の縦筋51と、これら複数の縦筋51の外周を囲繞するように上下方向に間隔をあけて配置されたフープ筋52とにより構成される。内部鉄筋かご50は、上下方向の長さが、小径部40の直径を底辺とし、頂角が45°の二等辺三角形の高さよりも長くなるように形成されている。なお、この二等辺三角形の高さLは、小径部40の直径をDとした場合に、(D/2)×(1/tan22.5°)となる。杭30を構成するコンクリート32の上部及び小径部40を構成するコンクリート41には、上記の試験体110と同様に周囲に比べて設計基準強度が高いコンクリートが用いられている。なお、縦筋51は、フープ筋52を保持できればよく、鉄筋以外の鋼材を用いてもよいし、また、その本数は問わない。
【0024】
躯体20から小径部40に鉛直荷重が作用すると、杭30を構成するコンクリート32には、小径部40の下部の楔部から、その周囲の部分を押し広げるような応力が作用する。これに対して、本実施形態では、図4に示すように、コンクリート32の小径部40の下方に内部鉄筋かご50が埋設されているため、内部鉄筋かご50のフープ筋52がコンクリート32を拘束することにより、楔部から作用する力に対して抵抗する。さらに、上記の実験からわかるように、楔部は上下方向の長さが、小径部40の直径を底辺とし、頂角が45°の二等辺三角形の高さと略等しいが、上記のように内部鉄筋かご50がこの長さよりも長く形成されているため、確実にフープ筋52により楔部から作用する力に対して抵抗することができる。
【0025】
本実施形態によれば、杭30と躯体20との間に小径部40を介在させることにより、杭30と躯体20との接合構造10における曲げ剛性を低下させることができる。
【0026】
また、かかる構成の接合構造10に鉛直荷重が作用すると、杭30の小径部40の下方の楔部から、その周囲のコンクリートに外側へ向けて押し広げるような荷重が作用するが、本実施形態では杭30の小径部40の下方に円筒状に組まれた内部鉄筋かご50を埋設することとしたため、内部鉄筋かご50のフープ筋52がこの荷重に対して抵抗するため、破壊が防止され、鉛直耐力を確保でき、躯体20と杭30との間で十分なせん断力及び軸力の伝達が可能となる。
【0027】
なお、本実施形態では、小径部40の下方に縦筋51及びフープ52筋からなる内部鉄筋かご50を埋設する構成としたが、これに限らず、スパイラルフープを埋設することとしてもよい。また、内部鉄筋かごに代えてフープ状のFRP、鋼線、金網、スパイラル筋などを埋設することとしてもよい。
【0028】
また、本実施形態では、小径部40をコンクリート部材により構成したが、これに限らず、周囲を鋼管又はFRPなどの拘束部材により囲繞したコンクリート部材により構成してもよい。このようにコンクリート部材の周囲を拘束部材により囲繞することで、拘束効果によりコンクリート部材の圧縮強度を向上させることができる。また、本実施形態では、鋼管41に内部鉄筋かご50の上部を接続するものとしたが、これに限らず、内部鉄筋かご50を鋼管41と間隔をあけて別体として設けることとしてもよい。
【0029】
また、本実施形態では、杭30を構成するコンクリート32の上部及び小径部40を構成するコンクリート42として周囲に比べて設計基準強度が高いものが用いたが、これに限らず、周囲と同程度の設計基準強度のコンクリートを用いてもよい。この場合、杭30の上部を囲繞するように鋼管を設けるとよい。
また、本実施形態では、小径部40の周囲を鋼管41により囲繞するものとしたが、これに限らず、図5に示すように鋼管41を省略してもよい。
【0030】
また、本実施形態では、小径部40を構成するコンクリート42を現場打ちするものとしたが、PC部材を用いてもよい。かかる場合には、小径部40を構成するPC部材と内部鉄筋かご50とを予め一体に形成しておくことで、施工性を向上することができる。
【0031】
また、本実施形態では、小径部40の上下を夫々躯体20及び杭30に埋め込むものとしたが、これに限らず、図6に示すように、小径部40の上下を夫々躯体20の下端及び杭30の上端に接続するものとしてもよい。また、小径部40の上下何れか一方のみを躯体20又は杭30に埋め込むこととしてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、小径部40と略同径な円筒状の内部鉄筋かご50を用いるものとしたが、これに限らず、図7に示すように、小径部40よりも大径の内部鉄筋かご50を用いてもよく、また、図8に示すように、小径部40よりも小径の内部鉄筋かご50を用いてもよい。要するに、内部鉄筋かご50を、杭30を構成するコンクリート32の小径部40の下方の少なくとも一部を囲むように埋設すれば、本実施形態と同様の効果が得られる。なお、小径部40と異なる径の内部鉄筋かご50を用いる場合には、その径が小径部40の径に近い方が、杭30の小径部40の下方の楔部から、その周囲のコンクリートに外側へ向けて押し広げるような荷重に確実に抵抗できる。
【符号の説明】
【0033】
10 接合構造
20 躯体
30 杭
31 外部鉄筋かご
32 コンクリート
40 小径部
41 鋼管
42 コンクリート
50 内部鉄筋かご
51 縦筋
52 フープ筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート造の杭と躯体の接合構造であって、
前記杭と前記躯体との間に、その径が杭の径に比べて小さくなるように形成された小径部が介在されてなり、
前記杭は、その外周に沿うように埋設された外部鉄筋かごと、前記外部鉄筋かごの内周側に前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように埋設された杭内部拘束部材とを備えることを特徴とする杭と躯体の接合構造。
【請求項2】
請求項1記載の接合構造であって、
前記小径部は、周囲を取り囲む小径部拘束部材を備えることを特徴とする杭と躯体の接合構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の接合構造であって、
前記杭内部拘束部材は、前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように設けられたフープ筋を有することを特徴とする杭と躯体の接合構造。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか1項に記載の接合構造であって、
前記杭内部拘束部材は、前記小径部の直径をDとした場合に、その上下方向の長さが(D/2)×(1/tan22.5°)以上であることを特徴とする杭と躯体の接合構造。
【請求項5】
コンクリート造の杭と躯体の接合方法であって、
前記杭と前記躯体との間に、その径が杭の径に比べて小さくなるように形成された小径部を介在させ、
前記杭に、その外周に沿うように外部鉄筋かごを埋設し、
前記杭における前記外部鉄筋かごの内周側に、前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように杭内部拘束部材を埋設しておくことを特徴とする杭と躯体の接合方法。
【請求項6】
外周に沿うように外部鉄筋かごが埋設されたコンクリート造の杭と躯体との間に、その径が杭の径に比べて小さくなるように形成された小径部が介在されてなる杭と躯体の接合構造を構築する際に用いられるプレキャストコンクリート部材であって、
前記小径部を構成し、前記杭における前記外部鉄筋かごの内周側に前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように埋設されるべき杭内部拘束部材が一体化されたことを特徴とするプレキャストコンクリート部材。
【請求項7】
外周に沿うように外部鉄筋かごが埋設されたコンクリート造の杭と躯体との間に、その径が杭の径に比べて小さくなるように形成された小径部が介在されてなる杭と躯体の接合構造において前記小径部を取り囲むように設けられるべき鋼管であって、
前記杭における前記外部鉄筋かごの内周側に前記小径部の下方の少なくとも一部のコンクリートを囲むように埋設されるべき杭内部拘束部材が一体化されたことを特徴とする鋼管。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57240(P2013−57240A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−273287(P2012−273287)
【出願日】平成24年12月14日(2012.12.14)
【分割の表示】特願2009−82362(P2009−82362)の分割
【原出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】