説明

杭穴掘削装置

【課題】 地盤に杭穴を掘削する杭穴掘削装置には杭穴の傾斜状況を知る好適な手段が設置されていないために杭穴の掘削作業中に掘削している杭穴が鉛直方向に正しく掘削されているか、あるいは鉛直方向から傾斜しているかをリアルタイムに確認することができず、その結果杭穴が斜めに形成されるという問題がある。
【解決手段】 掘削バケットを支持する支持部材に加速度センサを設けることにより、掘削バケットを支持する部材が傾いた際に発生する加速度を検出し、その加速度の値から傾斜角度検出手段によりケリーバの傾斜角を算出する。ケリーバの傾斜角度をリアルタイムに検出することにより掘削穴が傾斜したことを直ちに知ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造成杭用あるいは既成杭用の杭穴を掘削する際に掘削バケットの傾斜角を検出することにより、形成されている杭穴の傾きを判定しつつ掘削を行う杭穴掘削装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤に杭穴を掘削し、この杭穴に杭を立設する方法として、現場に杭を造成する方法とすでに杭の形状に形成されている杭を杭穴に立設する方法とがある。
【0003】
現場造成杭は、掘削装置を用いて杭穴を掘削し、この杭穴に鉄筋およびトレミー管を挿入した上からコンクリートを打つことにより杭を形成する。一方、既成杭は、形成済みの杭を掘削した穴に打ち込む方法あるいは先端部をねじ加工されている杭を地盤にねじ込む方法により、杭を設置する方法である。いずれの方法であっても地盤に杭用の穴を掘削する必要がある。
【0004】
杭穴は、予めボーリング調査により把握した地盤の状況から、N値が所定の値以上の硬さの地層を杭穴の支持層と定め、少なくともこの支持層に到達するまでの深さの杭穴を掘削する必要がある。造成杭を形成するための杭穴もしくは既成杭を立設するための杭穴は正しく鉛直方向に形成する必要があり、この杭穴が鉛直方向から曲がった場合には再度杭穴の掘削をやり直さなければならず、多大な費用が発生するという不具合がある。
【0005】
杭穴が鉛直方向から曲がってしまう原因は、地盤中に岩などの掘削不能な障害物に当ることや、地盤中にある固い地層が傾斜していることにより次第に掘削バケットが曲がることが考えられる。現状では掘削している杭穴が鉛直方向から傾いていることを知る好適な手段がないために、杭穴の掘削が完了した後に掘削した杭穴が鉛直方向から傾いているのが分かるのが実態である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように杭穴掘削装置に杭穴の傾斜状況を知る好適な手段が設置されていないために杭穴の掘削作業中に掘削している杭穴が鉛直方向に正しく掘削されているか、あるいは鉛直方向から傾斜しているかをリアルタイムに確認することができない。
【0007】
杭穴が鉛直方向を維持できずに傾斜して掘削されると、杭穴を再掘削することが必要となり多大な追加の費用が発生することになる。本発明は、上記の問題を鑑み、杭穴掘削装置の掘削作業中に掘削している杭穴の傾斜角度をリアルタイムに検出することができる杭穴掘削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の解決手段の杭穴掘削装置は、地盤を掘削する掘削バケットを備え、前記掘削バケットを支持する支持部材に設けた加速度センサと、前記加速度センサの出力から前記掘削バケットの傾斜角を検出する傾斜角検出手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記の第1の解決手段によれば、杭穴掘削装置の掘削バケットを支持する支持部材に加速度センサを設けることにより、掘削バケットを支持する部材が傾いた際に発生する加速度を検出し、その加速度の値から傾斜角度検出手段により傾斜角を算出する。その結果傾斜角度はリアルタイムに検出することができるので、掘削中の杭穴が傾斜したことを直ちに知ることができる。
【0010】
本発明の第2の解決手段は、第1の解決手段の杭穴掘削装置であって、前記傾斜角検出手段は、前記掘削バケットの回転角周波数近傍の周波数のみ通過させるバンドパスフィルタを備えることを特徴としており、傾斜角を求めるのに必要な回転角周波数に関連する信号を加速度センサにより得られた出力信号から抽出する。
【0011】
本発明の第3の解決手段は、第2の解決手段の杭穴掘削装置であって、前記傾斜角検出手段において、前記加速度センサの出力の振幅値から前記掘削バケットの傾斜角を求めることを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の解決手段は、第1の解決手段の杭穴掘削装置であって、前記加速度センサの出力は、無線伝送手段により傾斜角検出手段に伝送されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の杭穴掘削装置は、掘削バケットを支持する支持部材に加速度センサを備えて構成される杭穴掘削装置であり、杭穴の掘削時に非常に大きな振動および衝撃が高周期でかかるにも関わらず、前記加速度センサの出力の振幅値を検出することにより掘削バケットを支持する部材の傾きをリアルタイムに検出することが可能となる。
【0014】
掘削バケットを支持する部材の鉛直方向に対する傾斜角度が分かることは、とりもなおさず杭穴掘削装置が掘削している杭穴の傾斜角度が判明することであり、この傾斜角度を監視することにより、杭穴の再掘削による多大な追加の費用の発生を防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0015】
図をもって本発明の方法および装置について詳細に説明する。なお、本発明は本実施例によって限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明の実施例の杭穴掘削装置に用いられる掘削バケットおよび掘削バケットを駆動する駆動部などの要部を示す説明図であり、図2は、杭穴掘削装置の全体を示す外観図である。
【0017】
アースドリル工法と呼ばれる地盤に杭穴を掘削方法に用いられる杭穴掘削装置1は、図2に示すように伸長するブームの先端に吊り下げられたケリーバ3の先端に掘削バケット2を備えて構成される。掘削バケット2は、円筒形のバケット状の底面部に掘削用の掘削カッターを設けた構造であり、掘削バケット2を油圧モーター4でもって回転駆動することにより、地盤の土砂が掘削バケット2の内部に取り込まれる。掘削バケット2を連続して回転させることにより地盤を掘削し、掘削バケット2の内部に収容された土砂は、逐次地上に排出することで地盤の掘削作業を進められる。掘削バケット2を支持するケリーバ3は、杭穴掘削装置1のブーム先端に吊り下げられ、ケリーウインチ6により上下方向に移動可能に保持されている。
【0018】
掘削バケット2の底面部、掘削方向から見れば掘削バケット2の先端部に掘削用のカッターが設けられるとともに、掘削バケット2の側面部にサイドカッターが設けられており、掘削用カッターで杭穴の深度方向に掘削を行うと同時に、上記のサイドカッターにより所定の径の杭穴が形成される。
【0019】
アースドリル工法においては、最初に杭穴掘削装置1のケリーバ3を杭穴の中心位置に合わせ、掘削を開始する。次いで地表部に近い部分の杭穴を保護する表層ケーシングの建て込み予定深度まで掘削を行ったならば、表層ケーシングを建て込む。土質に適合した安定液を注入することで掘削した杭穴の崩落を防ぎながら杭の支持層まで掘り進み、その支持層に根入れ(支持層に掘削される所定深さの穴部)を形成して、杭穴の掘削作業が完了する。
【0020】
杭穴は所定の硬さの地層まで掘削を行って、その地層を杭穴の支持層とすることが必要であり、本実施例ではN値検出手段を備えることで杭穴の掘削作業中にN値をリアルタイムに知って杭穴の支持層まで到達したことを知る。
【0021】
図3は掘削バケット2を支持しているケリーバ3が鉛直方向に対して傾斜している状態を模式図でもって示す説明図である。掘削バケット2は、地盤中に存在する障害物のために掘削方向が曲げられることがある。また、地盤中にある固い地層が傾斜していることにより次第に掘削バケットが曲げられることがある。図3に示すようにケリーバ3の姿勢は鉛直方向に対して傾いており、その傾斜角度をθとする。
【0022】
加速度センサ7が図3および図4に示すようにケリーバ3の上端部に設けられる。加速度センサ7の加速度出力をケリーバ3の傾斜を測定するのに用いるためには、加速度センサ7の水平軸方向はケリーバ3の中心軸に対して正確に直交するように取り付けることが望ましいが、加速度センサ7の水平軸方向は、ケリーバ3の中心軸に対して正確に直交して取り付けられるとは限らない。そこで、図4に示すように加速度センサ7はケリーバ3の中心軸を鉛直方向に配置した際の水平方向に対してθの角度分傾いて取り付けられているとする。
【0023】
本実施例では、加速度センサ7は無線通信手段により管理装置8に出力データが送信される。加速度センサ7はケリーバ3に取り付けられるが、ケリーバ3は回転の動きと上下移動の動きを備えるとともに激しい振動および衝撃を受ける結果、ケーブルなどの有線手段を用いずに管理装置8にデータを送信する構成としている。
【0024】
次にケリーバ3の傾斜角を検出する手順について説明する。図3および図4に示すようにケリーバ3の上端部に取り付けられている加速度センサ7は、ケリーバ3の回転軸中心から距離rの位置に取り付けられる。図3に示すようにケリーバ3が鉛直方向から角度θ傾いているとすると、加速度センサ7の出力yは重力加速度に係る成分と掘削バケット2の回転による遠心力に係る成分の和となり、次に示す(1)式で表される。
y=g・sin(θsinωt+θ)+rω・cos(θsinωt+θ) (1)
ここで、gは重力加速度、ωは回転速度、tは時間を示す。またθは、上述したように、ケリーバ3の中心軸を鉛直方向に配置した際の水平方向に対する加速度センサ7の傾き角度である。
【0025】
θとθとの角度の和が小さいならば、(1)式は次に示す(2)式で精度よく近似することができる。
y=(g・θ+rω)+g・θ・sinωt (2)
即ち、加速度センサ7の出力yは、第1項の(g・θ+rω)と、第2項の(g・θ・sinωt)との和で表される。
【0026】
図5に加速度センサ7の出力の変化を示すグラフを示す。掘削バケットの回転速度ωは必ずしも一定ではないが、掘削バケットが数回転する間の速度変化は僅かであると考えられるので、図5に示すように、加速度センサ7の出力yは、(g・θ+rω)の値を中心にして振幅g・θ、周期2π/ωで変動するとみなすことができる。
【0027】
図5における出力yの振幅は(2)式からg・θであるので、加速度センサの振幅をLとすると、傾斜角θは次に示す(A)式により求められる。
θ=L/g (A)
即ち加速度センサの出力の振幅の大きさを求めて、その値を重力加速度gで除すればよい。
【0028】
図5では掘削バケット2の回転角速度ωがほぼ一定であると仮定した場合の説明図であり、(g・θ+rω)の値はほぼ一定として示してある。掘削バケット2の回転角速度ωの値が変動する場合でも掘削バケット2の回転は比較的遅いために、ほぼ2分の1回転の間ではほぼ一定と仮定してよいので、ピークから次のピークまでの変動を振幅g・θと見なしてよい。
【0029】
図6は、加速度センサ7で得られた出力信号から杭穴の鉛直方向からの傾斜角を求める工程を示す流れ図である。加速度センサ7で得られたデータには、杭穴の掘削中に発生する各種の振動、即ち油圧モータ、コンプレッサー、バケットと土砂の接触による振動など多様な振動が混入し、そのままの状態では図5に示すような出力信号とはならない。そこで加速度センサ7のデータからケリーバ3の傾きを求めるために図4に示す回転周期2π/ωの信号を検出する。即ち、掘削バケットの回転角周波数近傍の周波数のみ通過させるバンドパスフィルタ81を通すことにより、図5に示すような周期運動をしていることを表す加速度データを抽出する。
【0030】
傾斜角検出手段82において、バンドパスフィルタ81の出力を増幅した上で加速度データの極値を検出し、その最大の極値と最小の極値とから加速度データの振幅を検出する。検出した振幅の値を用いて上述した(A)式によりケリーバ3の傾斜角即ち杭穴の傾斜角θが算出される。算出されたθの値を予め定められている杭穴の限界角度値と比較し、限界角度値を超えている場合には異常傾斜警告手段84によりケリーバ3が所定値以上の傾斜角度となっていること、即ち掘削中の杭穴が基準値以上に傾斜していることを警告する。警告方法としては、ブザー等の音による警告および表示装置86に異常が発生したことを示す表示灯などを設ける方法などが考えられる。
【0031】
地盤情報管理手段83は、傾斜角検出手段82の出力データおよび別途設けられているN値検出手段85により検出された地盤のN値の情報を合わせて記録管理する管理手段であり、杭穴の傾斜角情報およびN値情報は、表示装置86に表示することにより杭穴掘削装置が掘削している杭穴の情報をリアルタイムに操作作業者に分かりやすい形で提供することができる。
【0032】
その結果、操作作業者は異常傾斜警告手段84に加えて、N値の値が急激に変化したことなどをいち早く知ることが可能となり、掘削している杭穴の状況を的確に把握できることにより、杭穴が傾斜することによる費用の発生を未然に防止することが可能となる。
【0033】
傾斜角およびN値は表示装置86にリアルタイムに表示されるとともに、地盤情報管理手段83に記録・保管される。これにより、杭穴掘削装置の操作作業者は、掘削作業中のケリーバ3の傾き具合をリアルタイムに把握することができるとともに、掘削した杭穴の傾きおよびN値の情報がデータとして記録されるので、作業の経過状況や地盤の状況を示す技術資料が得られる。
【0034】
本発明の杭穴掘削装置は、加速度センサを設けて、その出力信号から掘削中の杭穴の鉛直方向からの傾きを知ることを可能にしたものであり、その構成は簡潔であるとともに、振動および衝撃に強いという特徴を有する。その結果掘削作業において、信頼性の高い杭穴の鉛直方向からの傾斜角の値をリアルタイムにかつ高い信頼性をもって得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
従来の杭穴掘削装置にケリーバの傾斜角を正確に測定できる傾斜角の検出手段を備えていないために杭穴の掘削作業中に掘削している杭穴が鉛直方向に正しく掘削されているか、あるいは傾斜しているかリアルタイムに確認することができない。杭穴が鉛直方向を維持できずに傾斜して掘削されると、杭穴の再掘削が必要となり多大な追加の費用が発生することになる。
【0036】
本発明の杭穴掘削装置は、掘削バケットを支持する支持部材に加速度センサを設けることにより、掘削バケットを支持する部材が傾いた際に発生する加速度を検出し、その加速度の値から傾斜角度検出手段により傾斜角を算出する。その結果傾斜角度はリアルタイムに検出することができるので、掘削穴が傾斜したことを直ちに知ることが可能となる。したがって、不良の杭穴を掘削することがないために高い生産性を確保することが可能となり、産業への寄与が大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】 本実施例の杭穴掘削装置の要部を示す説明図である。
【図2】 本実施例の杭穴掘削装置の全体を示す外観図である。
【図3】 加速度センサとケリーバの傾斜角との関係を示す説明図である。
【図4】 加速度センサの取り付け状態を示す説明図である。
【図5】 加速度センサの出力の様子を示す説明図である。
【図6】 傾斜角を検出する流れを示す説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 杭穴掘削装置
2 掘削バケット
3 ケリーバ
4 油圧モーター
5 ケリーバ支持台
6 ケリーウインチ
7 加速度センサ
8 管理装置
81 バンドパスフィルタ
82 傾斜角検出手段
83 地盤情報管理手段
84 異常傾斜警告手段
85 N値検出手段
86 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を掘削する掘削バケットを備えた杭穴掘削装置において、前記掘削バケットを支持する支持部材に設けた加速度センサと、前記加速度センサの出力から前記掘削バケットの傾斜角を検出する傾斜角検出手段とを備えたことを特徴とする杭穴掘削装置。
【請求項2】
前記傾斜角検出手段は、前記掘削バケットの回転角周波数近傍の周波数のみ通過させるバンドパスフィルタを備えることを特徴とする請求項1に記載の杭穴掘削装置。
【請求項3】
前記傾斜角検出手段において、前記加速度センサの出力の振幅値から前記掘削バケットの傾斜角を求めることを特徴とする請求項2に記載の杭穴掘削装置。
【請求項4】
前記加速度センサの出力は、無線伝送手段により傾斜角検出手段に伝送されることを特徴とする請求項1に記載の杭穴掘削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−255764(P2008−255764A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122846(P2007−122846)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(592073754)明和機械株式会社 (2)
【出願人】(591174911)
【Fターム(参考)】