説明

杭継手構造及び連結部材

【課題】杭の打設作業における回転トルクの伝達を簡便かつ確実に行うとともに、杭同士の連結部分の剛性を確保する。
【解決手段】下杭1aの受け口先端側の内径面に、軸心方向断面が円形状の受け部2を形成するとともに、この受け口の奥側の内径面に、受け部2と軸心方向に連続して、軸心方向断面が六角形の雌形伝達部3を形成する。その一方で、上杭1bの挿し口先端の外径面に、雌形伝達部3に係合する軸心方向断面が六角形の雄形伝達部5を形成するとともに、この挿し口の根元側の外径面に、雄形伝達部5と軸心方向に連続して、受け部2に係合する軸心方向が円形状の挿し込み部6を形成する。この下杭1aの受け口に、上杭1bの挿し口を挿し込むと、両伝達部3、5が係合して簡便かつ確実に回転トルクが伝達される。また、受け部2と挿し込み部6がともに円形状断面なので、曲げモーメントの方向に依存することなく、たわみを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建造物の建造に用いられる、管状体からなる基礎杭の杭継手構造、及び、この杭継手構造を採用した、杭打ち機用の連結部材に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の建造に用いられる基礎杭は、図8に示すように杭1の先端(下端)に掘削部18が設けられており、杭打ち機19の回転軸13の回転によって掘削部18をその軸心周りに回転させて打設作業を行う。そして、その打設深さに対応して、複数の杭1を順次連結しながらその打設作業を進める。この杭1同士の連結は、一方の杭(下杭1a)の受け口に、他方の杭(上杭1b)の挿し口を挿し込んで係合させ、この係合によって、杭打ち機19によって上杭1bに与えた回転トルクを下杭1aに伝達し、掘削部18による掘削をスムーズに行い得るようにしている。
【0003】
この回転トルクの伝達に際しては、両杭1a、1bの間に軸心周りの相対回転(滑り)が生じると、その伝達が確実になされず、作業効率が著しく低下する。このため、例えば図9に示すように、上杭1bに外周面の軸心方向断面が六角形の雄形伝達部5を、下杭1aに内周面の軸心方向断面が六角形の雌形伝達部3をそれぞれ形成し、それらを互いに挿し込んで両伝達部3、5を係合させることによって、両杭1a、1bの相対回転を防止している(下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4137683号公報
【0005】
また、この杭は図8に示した杭打ち機19で打設されるが、この打設に用いられる杭打ち機19の回転軸13(油圧モーター)と杭1は、連結部材12を介して連結される。その連結部分の構成を図9に示して説明する。この連結構造は、杭打ち機19の回転軸13を連結部材12に挿し込むとともに、回転軸13及び連結部材12に形成した固定溝15及び固定穴16に固定ピン17を設けて、この回転軸13と連結部材12を固定し、この連結部材12の杭受け部20に形成した係止片21に、杭1の先端部(上端部)に形成した突起22を当接させたものであって、回転軸13からの回転トルクをこの係止片21及び突起22を介して杭1に伝達し打設作業を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に係る連結構造にはいくつかの問題点がある。
第一に、両杭1a、1bの連結部分の全体を六角形等の非円形状に加工すると、その加工によって肉薄部分が生じる。この肉薄部分が生じることによって、構造体の強度に影響する断面係数が小さくなり、打設作業の際に連結部の破損が生じやすくなるという問題がある。
【0007】
第二に、特に受け口の先端側の内周面が六角形となっていると、その各先端部(六角形の各頂点)において応力集中が生じやすい。このため、この応力集中に起因して、クラック等の不具合が生じやすくなるという問題がある。
【0008】
第三に、この受け口を六角形等の多角形状とすると、この連結部に曲げモーメントが作用した際の剛性について方向性が生じる。すなわち、この多角形の各辺に垂直方向に曲げモーメントが作用したときと、多角形の中心から各頂点方向に曲げモーメントが作用したときの杭1のたわみ量が異なることとなり、たわみ量の等方性が要求される杭1の特性として問題がある。
【0009】
また、上述の連結部材12を用いた杭打ち機19と杭1との連結においては、連結部材12に直接連結する杭1の先端に予め突起22を形成しておく必要がある。しかも、この突起22には回転軸13からの大きな回転トルクがかかるため、打設作業中に破損しないように、溶接等の確実かつ強固な固定手段を採用する必要がある。このため、この突起22の固定作業に起因して、作業コストが高くつく恐れがある。
【0010】
そこで、この発明は、杭の打設作業における回転トルクの伝達を簡便かつ確実に行うとともに、杭同士、及び杭打ち機と杭との連結部分の強度や剛性を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明は、管状体からなる一方の杭の受け口先端側の内径面に、軸心方向断面が円形状の受け部を形成し、前記受け口奥側の内径面に、前記受け部と軸心方向に連続して、軸心方向断面が非円形状の雌形伝達部を形成する一方で、管状体からなる他方の杭の挿し口先端側の外径面に、前記雌形伝達部に係合する雄形伝達部を形成し、前記挿し口根元側の外径面に、前記雄形伝達部と軸心方向に連続して、前記受け部に係合する挿し込み部を形成し、前記一方の杭に他方の杭を挿し込んで杭を埋設する際に、前記雌形伝達部と雄形伝達部の係合によって回転トルクの伝達がなされるようにする一方で、前記受け部と挿し込み部との係合によって、その部分において両杭が相対的に屈曲するのを防止するように杭継手構造を構成した。
【0012】
前記雌形伝達部及び雄形伝達部の軸心方向断面を非円形状として、両伝達部を係合させると、これらが互いに噛み合った状態となって、一方の杭を軸心周りに回転させた際に、その回転トルクが確実に他方の杭に伝達される。このため、両杭間に滑りが生じにくく、杭の打設作業を確実に行うことができる。
【0013】
さらに、前記受け部及び挿し込み部の軸心方向断面を円形状として等方性をもたせたことにより、杭に対していずれの方向から曲げモーメントが作用した場合でも、それによって生じるたわみを効果的に抑制することができる。また、受け口の先端において応力集中が生じにくいため、この受け口における破損を防止することもできる。
【0014】
また、この構成においては、前記雌形伝達部及び雄形伝達部の軸心方向断面の形状を、ともに多角形とするのが好ましい。
【0015】
このように多角形状に加工した両伝達部を係合させることで、両伝達部の多角形の角部が互いに噛み合うので、両伝達部間に滑りが生じにくい。このため、回転トルクの伝達ロスを極力抑えることができ、杭の打設作業をより確実に行うことができる。
【0016】
前記両伝達部は、雄形伝達部が雌形伝達部にちょうど嵌り込むようにしてもよいが、前記雄形伝達部の軸心径方向における最大外寸を、前記雌形伝達部の軸心径方向における最大外寸よりも小さくし、両杭の連結状態において一方の杭が他方の杭に対して軸心周りに所定角度相対回転し得るようにする一方で、前記雄形伝達部の軸心径方向における最大外寸を、前記雌形伝達部の軸心径方向における最小内寸よりも大きく設計するのが好ましい。
【0017】
前記雄形伝達部を雌形伝達部に係合させる(挿し込む)ためには、雄形伝達部の最大外寸を雌形伝達部の最大外寸よりもわずかに小さくする必要があるのは当然であるが、ここでいう、「所定角度相対回転し得るようにする」とは、係合した状態のまま両杭を軸心周りに相対回転した際に、若干がたつく程度の「遊び」を持たせるようにする、の意味である。
【0018】
このように遊びを持たせることにより、杭の打設作業において杭同士が相対的に多少屈曲しても、雄形伝達部の多角形角部の一部(角部の稜線の端部)が雌形伝達部の内面に点接触しにくくなる。このため、この点接触により前記内面に傷付きが生じるのを極力防止し得る。この遊びを持たせた場合でも、上杭を回転すると、雄形伝達部の多角形角部(稜線部)が雌形伝達部の内面に線接触して、回転トルクの伝達が確実になされる。このため、遊びに起因する不具合は発生しない。
【0019】
ただし、前記雄形伝達部の軸心径方向における最大外寸を小さくし過ぎると、雌形伝達部の内面と接触しなくなって回転トルクの伝達ができなくなるので、前記最大外寸は、雌形伝達部の軸心径方向における最小内寸よりも大きくする必要がある。
【0020】
また、前記雌形伝達部及び雄形伝達部の多角形を六角形とするのがより好ましい。
【0021】
この両伝達部の多角形角部(稜線部)には大きな回転トルクが負荷されるところ、例えば、三角形から五角形のように角数が少ないと、この一つの角あたりに負荷される回転トルクの大きさが大きくなりやすい。その結果、この角が欠ける等の不具合が生じ、回転トルクを確実に伝達できなくなることがある。
【0022】
その一方で、七角形以上のように角数が多くなり過ぎると、各角の内角が180度に次第に近づき、この角部(稜線部)の雌形伝達部の内径面への噛み込みの度合いが小さくなりやすい。その結果、両伝達部の間で空転が生じ、上記と同様に回転トルクの伝達ができなくなることがある。これらを考慮すると、両伝達部の軸心方向の断面形状は六角形とするのが最も適切である。
【0023】
また、前記両伝達部の軸心方向断面を六角形等の多角形状とする代わりに、円周の一部を少なくとも一枚の平面で切り落とした形状とすることもできる。
【0024】
この場合、両伝達部が前記平面を介して係合し、回転トルクの伝達がなされる。この平面の数及び配置は、負荷される回転トルクの大きさを考慮して適宜決めることができる。この形状とすることにより、前記両伝達部の軸心方向断面を六角形形状等とする場合と比較して、研削加工における加工量を少なくすることができ、加工コストの低減を図ることができる。
【0025】
また、上記の各構成においては、前記一方の杭に他方の杭を挿し込んだ状態において、両杭に介在する係止部材を設け、杭同士の抜け止めがなされるようにするのが好ましい。
【0026】
前記雌形伝達部及び雄形伝達部は、挿し込むだけで連結されるので、連結作業自体は非常に簡便であるが、杭に引き抜き力が作用した場合は、容易に抜けてしまう。そこで、前記係止部材を設けることで、杭を逆回転しつつ地上方向に後退させる場合でも、杭同士が抜けるのを確実に防止することができる。
【0027】
また、杭打ち機の回転軸の先端側に、杭の受け口奥側の内径面に形成した軸心方向断面が非円形形状の雌形伝達部に係合する雄形伝達部を形成し、前記雄形伝達部の根元側に、この雄形伝達部と軸心方向に連続して、杭の受け口先端側の内径面に形成した、軸心方向断面が円形状の受け部に係合する挿し込み部を形成し、前記先端側を杭の受け口に挿し込んで杭を埋設する際に、前記雌形伝達部と雄形伝達部の係合によって回転トルクの伝達がなされるようにする一方で、前記受け部と挿し込み部との係合によって、その部分において回転軸と杭が相対的に屈曲するのを防止するようにすることもできる。
【0028】
この回転軸の先端形状を上記のようにすることによって、杭打ち機と杭とを容易に連結できるとともに、杭同士の連結の場合と同様に、回転軸からの回転トルクをロスなく杭に伝達することができる。
【0029】
また、この杭打ち機の回転軸と杭の連結構造においては、前記雌形伝達部及び雄形伝達部を、軸心方向断面において、ともに六角形とすることができる。このようにすると、上述したように、回転トルクの伝達を一層確実に行うことができる。
【0030】
また、棒状の連結部材の一端側に、杭の受け口奥側の内径面に形成した軸心方向断面が非円形形状の雌形伝達部に係合する雄形伝達部を形成し、前記雄形伝達部の根元側に、この雄形伝達部と軸心方向に連続して、杭の受け口先端側の内径面に形成した、軸心方向断面が円形状の受け部に係合する挿し込み部を形成し、前記連結部材の他端側に、杭打ち機の回転軸に連結する連結部を形成し、前記一端側を杭の受け口に挿し込んで杭を埋設する際に、前記雌形伝達部と杭の雄形伝達部の係合によって回転トルクの伝達がなされるようにする一方で、前記受け部と挿込部との係合によって、その挿し込み部分において両杭が相対的に屈曲するのを防止するようにした杭打ち機と杭を連結する連結部材を構成することができる。
【0031】
この連結部材を用いると、杭打ち機と杭との連結を簡便かつ確実に行うことができるので、打設作業の作業性が一層向上する。
【0032】
また、この連結部材の連結構造においては、杭同士の継手構造と同様に、連結部材の雄形伝達部を軸心方向断面において六角形とすることができる。このようにすると、上述したように、回転トルクの伝達を一層確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0033】
この発明では、連結する杭の内径面及び外径面に、軸心方向断面が非円形状の雌形伝達部又は雄形伝達部を形成し、両伝達部を係合させるとともに、軸心方向断面が円形状の受け部及び挿し込み部を互いに係合させる構成とした。このため、雌形伝達部と雄形伝達部の係合により、杭の打設作業における回転トルクの伝達を確実に行うことができるとともに、受け部と挿し込み部の係合により、杭同士の連結部分の強度や剛性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明に係る杭継手構造の第一の実施形態を示す分解斜視図
【図2】第一の実施形態において、両杭を連結した状態を示す図であって、(a)は側面断面図、(b)は(a)のA−A断面図
【図3】第一の実施形態に係る杭の全体を示す斜視図
【図4】この発明に係る杭継手構造の第二の実施形態を示す分解斜視図
【図5】第二の実施形態において、両杭を連結した状態を示す図であって、(a)は側面断面図、(b)は(a)のB−B断面図、(c)は正面断面図、(d)は(c)のC−C断面図
【図6】この発明に係る杭打ち機の連結部材の一実施形態を示す図であって、(a)は分解側面図、(b)は側面断面図
【図7】この発明に係る杭打ち機の回転軸と杭との連結構造の一実施形態を示す側面図
【図8】杭打ち機での杭打設作業を示す側面図
【図9】従来技術に係る杭継手構造の一実施形態を示す分解斜視図
【図10】従来技術に係る杭打ち機の連結部材の一実施形態を示す図であって、(a)は分解側面図、(b)は要部の側面断面図、(c)は(b)のD−D断面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
この発明に係る杭継手構造の第一の実施形態を図1乃至3に示す。
【0036】
この構成においては、管状体からなる一方の杭1(以下、「下杭1a」という。)の受け口先端側の内径面に、軸心方向断面が円形状の受け部2が形成されるとともに、この受け口の奥側の内径面に、受け部2と軸心方向に連続して、軸心方向断面が六角形の雌形伝達部3が形成されている。そして、この受け部2と雌形伝達部3との間は段差面4となっている。この受け部2、雌形伝達部3及び段差面4は、鋳造法により一体的に成形されているが、外形研削により加工することもできる。
【0037】
その一方で、同じく管状体からなる他方の杭1(以下、「上杭1b」という。)の挿し口先端側の外径面に、雌形伝達部3に係合する軸心方向断面が六角形の雄形伝達部5が形成されるとともに、この挿し口の根元側の外径面に、雄形伝達部5と軸心方向に連続して、受け部2に係合する軸心方向断面が円形状の挿し込み部6が形成されている。そして、この雄形伝達部5と挿し込み部6との間は段差面4となっている。この雄形伝達部5、挿し込み部6及び段差面4も受け口側と同様に、鋳造法により一体的に成形されているが、外形研削により加工することもできる。
【0038】
また、下杭1a及び上杭1bの双方には、両杭1a、1bを連結した際に、これらを抜け止めするためのボルト7を通すボルト孔8がそれぞれ形成されている。
【0039】
この雄形伝達部5の軸心径方向の最大外寸は、雌形伝達部3の軸心径方向の最大外寸よりも若干小さく成形されていて、両伝達部3、5の間には若干の隙間(遊び)が設けられている。その一方で、受け部2の内径は挿し込み部6の外径よりもわずかに大きく成形されていて、両部2、6の間にも隙間が設けられているが、その隙間の大きさは、両伝達部3、5の間の隙間の大きさよりも小さい。
【0040】
この下杭1aの受け口に、上杭1bの挿し口を挿し込むと、雌形伝達部3と雄形伝達部5が係合するとともに、受け部2と挿し込み部6が係合する。さらに、この挿し込み状態のまま、ボルト孔8にボルト7を設け、ワッシャー9及びナット10で固定する。これにより、両杭1a、1bの抜け止めがなされる。このボルト7による抜け止めは、後述する両杭1a、1b間の遊びが妨げられないように、ボルト7の太さに対してボルト孔8の内径を大きめにして、両杭1a、1bが軸心周りに若干相対回転し得るようにしている。
【0041】
この両杭1a、1bの挿し込み状態において、両杭1a、1bに曲げモーメントが作用して屈曲が生じても、両伝達部3、5の間に設けた遊びにより、雄形伝達部5の六角形の角部5aの一部(角部の稜線の端部)が雌形伝達部3の内面に点接触しにくい。このため、この点接触により前記内面に傷付きが生じるのを極力防止し得る。
【0042】
そして、さらに大きな曲げモーメントが作用すると、両伝達部3、5の間の遊びを確保した状態のまま、受け部2と挿し込み部6とが当接する。すると、この当接により、それ以上両杭1a、1bが屈曲するのが防止される。この結果、上記と同様に、雄形伝達部5の角部5aの一部が雌形伝達部3の内面に点接触しにくくなって、前記内面への傷付きを極力防止し得る。また、この受け部2等の軸心方向断面が円形状のため、曲げモーメントの作用する方向に依存することなく、たわみ抑制効果を発揮する。
【0043】
このように遊びを持たせた場合でも、図2(b)に示すように、上杭1bが回転すると、雄形伝達部5の六角形の稜線部5bが雌形伝達部3の内面に線接触して、回転トルクの伝達が確実になされる。このため、遊びに起因して滑りの発生等の回転トルクのロスは生じない。また、上杭1bには、杭打ち機19によって回転トルクとともに下方への押し込み力が負荷され、この押し込み力が両伝達部3、5の段差面4、4を介して下杭1aに作用して、杭1の打設がなされる。
【0044】
この発明に係る杭継手構造の第二の実施形態を図4及び5に示す。
【0045】
この構成においては、下杭1aの受け口先端側の内径面には、軸心方向断面が円形状の受け部2が形成されるとともに、この受け口の奥側の内径面には、受け部2と軸心方向に連続して、軸心方向断面の形状が、円周の一部を対向する二枚の平面で切り落としてフラット部11とした雌形伝達部3が形成されている。そして、この受け部2と雌形伝達部3との間の一部に段差面4が形成されている。この受け部2、雌形伝達部3及び段差面4は、鋳造法により一体的に成形されている。
【0046】
その一方で、上杭1bの挿し口先端側の外径面に、雌形伝達部3に係合する軸心方向断面の形状が、円周の一部を対向する二枚の平面で切り落としてフラット部11とした雄形伝達部5が形成されるとともに、この挿し口の根元側の外径面に、雄形伝達部5と軸心方向に連続して、受け部2に係合する軸心方向断面が円形状の挿し込み部6が形成されている。そして、この雄形伝達部5と挿し込み部6との間の一部に段差面4が形成されている。この雄形伝達部5、挿し込み部6及び段差面4は、鋳造法により一体的に成形されている。
【0047】
この雄形伝達部5の軸心径方向の最大外寸と雌形伝達部3の軸心径方向の最大外寸、及び、受け部2の内径と挿し込み部6の外径はいずれもほぼ同寸法に成形されている。
【0048】
また、下杭1a及び上杭1bの双方には、両杭1a、1bを連結した際に、これらを抜け止めするためのボルト7を通すボルト孔8がそれぞれ形成されている。
【0049】
この下杭1aの受け口に、上杭1bの挿し口を挿し込むと、雌形伝達部3と雄形伝達部5が係合するとともに、受け部2と挿し込み部6が係合する。そして、この挿し込み状態のまま、ボルト孔8にボルト7を設け、ワッシャー9及びナット10で固定する。これにより、両杭1a、1bの抜け止めがなされる。
【0050】
この両杭1a、1bの挿し込み状態において、両伝達部3、5の最大外寸、及び、受け部2の内径と挿し込み部6の外径はほぼ同寸法のため、両者はきっちりと隙間なく係合している。このため、第一の実施形態において説明したように、杭1a、1b同士を屈曲させる曲げモーメントが作用した際に、それによって生じるたわみを効果的に抑制することができる。この第二の実施形態では、両伝達部3、5の隙間が生じないようにしたが、第一の実施形態と同様に、両伝達部3、5の間に遊びを設けて、雌形伝達部3の内面に傷付きが生じにくくすることもできる。
【0051】
両伝達部3、5の形状以外については、第一及び第二の実施形態は同様の作用を奏するものなので、第一の実施形態における説明と重複する説明は省略する。
【0052】
この発明に係る杭打ち機19の連結部材12の一実施形態を図6に示す。
【0053】
この構成においては、棒状の連結部材12の一端側に、図3に示す杭1の受け口奥側の内径面に形成した軸心方向断面形状が六角形の雌形伝達部3に係合する雄形伝達部5が形成されるとともに、この雄形伝達部5の根元側に、雄形伝達部5と軸心方向に連続して、杭1の受け部2に係合する軸心方向断面が円形状の挿し込み部6が形成されている。そして、この雄形伝達部5と挿し込み部6との間は段差面4となっている。この雄形伝達部5、挿し込み部6及び段差面4は、鋳造法により一体的に成形されているが、外形研削により加工することもできる。
【0054】
その一方で、連結部材12の他端側の内面に、杭打ち機19の回転軸13に連結する連結部14が形成されている。この回転軸13及び連結部14には、固定溝15及び固定穴16がそれぞれ形成されており、この回転軸13を連結部材12に挿し込むとともに、この固定溝15及び固定穴16に固定ピン17を設けると、回転軸13と連結部材12が連結される。さらに、連結部材12の雄形伝達部5及び挿し込み部6を、杭1の受け口側に形成した雌形伝達部3及び受け部2に挿し込み、この連結部材12と杭1を連結する。この連結後、杭1及び連結部材12を貫通するボルト7を設け、ワッシャー9及びナット10で固定する。これにより、杭1と連結部材12の抜け止めがなされる。
【0055】
この発明に係る杭打ち機19の回転軸13と杭1との連結機構の一実施形態を図7に示す。
【0056】
この構成においては、図6に示した杭打ち機19の回転軸13の先端に、杭1の受け口奥側の内径面に形成した軸心方向断面形状が六角形の雌形伝達部3に係合する雄形伝達部5が形成されるとともに、この雄形伝達部5の根元側に、雄形伝達部5と軸心方向に連続して、杭1の受け部2に係合する軸心方向断面が円形状の挿し込み部6が形成されている。そして、この雄形伝達部5と挿し込み部6との間は段差面4となっている。この雄形伝達部5、挿し込み部6及び段差面4は、鋳造法により一体的に成形されているが、外形研削により加工することもできる。
このように、回転軸13と図6に示した連結部材12を一体化した構成とすることで、回転軸13への杭1の嵌め込みを一層容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
1 杭
1a 下杭
1b 上杭
2 受け部
3 雌形伝達部
4 段差面
5 雄形伝達部
6 挿し込み部
7 ボルト(係止部材)
8 ボルト孔
9 ワッシャー
10 ナット
11 フラット部
12 連結部材
13 回転軸
14 連結部
15 固定溝
16 固定孔
17 固定ピン
18 掘削部
19 杭打ち機
20 杭受け部
21 係止片
22 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状体からなる一方の杭(1)の受け口先端側の内径面に、軸心方向断面が円形状の受け部(2)を形成し、前記受け口奥側の内径面に、前記受け部(2)と軸心方向に連続して、軸心方向断面が非円形状の雌形伝達部(3)を形成する一方で、
管状体からなる他方の杭(1)の挿し口先端側の外径面に、前記雌形伝達部(3)に係合する雄形伝達部(5)を形成し、前記挿し口根元側の外径面に、前記雄形伝達部(5)と軸心方向に連続して、前記受け部(2)に係合する挿し込み部(6)を形成し、
前記一方の杭(1)に他方の杭(1)を挿し込んで杭(1)を埋設する際に、前記雌形伝達部(3)と雄形伝達部(5)の係合によって回転トルクの伝達がなされるようにする一方で、前記受け部(2)と挿し込み部(6)との係合によって、その部分において両杭(1、1)が相対的に屈曲するのを防止するようにした杭継手構造。
【請求項2】
前記雌形伝達部(3)及び雄形伝達部(5)の軸心方向断面の形状が、ともに多角形である請求項1に記載の杭継手構造。
【請求項3】
前記雄形伝達部(5)の軸心径方向における最大外寸を、前記雌形伝達部(3)の軸心径方向における最大外寸よりも小さくし、両杭(1、1)の連結状態において一方の杭(1)が他方の杭(1)に対して軸心周りに所定角度相対回転し得るようにする一方で、前記雄形伝達部(5)の軸心径方向における最大外寸を、前記雌形伝達部(3)の軸心径方向における最小内寸よりも大きくした請求項2に記載の杭継手構造。
【請求項4】
前記多角形が六角形である請求項2又は3に記載の杭継手構造。
【請求項5】
前記雌形伝達部(3)及び雄形伝達部(5)の軸心方向断面の形状が、ともに円周の一部を少なくとも一枚の平面で切り落とした形状である請求項1に記載の杭継手構造。
【請求項6】
前記一方の杭(1)に他方の杭(1)を挿し込んだ状態において、両杭(1、1)に介在する係止部材(7)を設け、杭(1)同士の抜け止めがなされるようにした請求項1乃至5のいずれか一つに記載の杭継手構造。
【請求項7】
杭打ち機(19)の回転軸(13)の先端側に、杭(1)の受け口奥側の内径面に形成した軸心方向断面が非円形形状の雌形伝達部(3)に係合する雄形伝達部(5)を形成し、前記雄形伝達部(5)の根元側に、この雄形伝達部(5)と軸心方向に連続して、杭(1)の受け口先端側の内径面に形成した、軸心方向断面が円形状の受け部(2)に係合する挿し込み部(6)を形成し、
前記先端側を杭(1)の受け口に挿し込んで杭(1)を埋設する際に、前記雌形伝達部(3)と雄形伝達部(5)の係合によって回転トルクの伝達がなされるようにする一方で、前記受け部(2)と挿し込み部(6)との係合によって、その部分において回転軸(13)と杭(1)が相対的に屈曲するのを防止するようにした杭継手構造。
【請求項8】
前記雌形伝達部(3)及び雄形伝達部(5)の軸心方向断面が、ともに六角形である請求項7に記載の杭継手構造。
【請求項9】
棒状の連結部材(12)の一端側に、杭(1)の受け口奥側の内径面に形成した軸心方向断面が非円形形状の雌形伝達部(3)に係合する雄形伝達部(5)を形成し、前記雄形伝達部(5)の根元側に、この雄形伝達部(5)と軸心方向に連続して、杭(1)の受け口先端側の内径面に形成した、軸心方向断面が円形状の受け部(2)に係合する挿し込み部(6)を形成し、
前記連結部材(12)の他端側に、杭打ち機(19)の回転軸(13)に連結する連結部(14)を形成し、
前記一端側を杭(1)の受け口に挿し込んで杭(1)を埋設する際に、前記雄形伝達部(5)と杭(1)の雌形伝達部(3)の係合によって回転トルクの伝達がなされるようにする一方で、前記受け部(2)と挿し込み部(6)との係合によって、その挿し込み部分において両杭(1、1)が相対的に屈曲するのを防止するようにした杭打ち機(19)と杭(1)を連結する連結部材。
【請求項10】
前記雌形伝達部(3)及び雄形伝達部(5)の軸心方向断面が、ともに六角形である請求項9に記載の連結部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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