説明

枚葉シート上の塗布膜の加熱乾燥方法

【課題】硬化皮膜を設けた枚葉シートの色ムラを無くするため、膜厚ムラの発生を抑制した枚葉シート上に塗布液を塗布して形成した塗布膜の加熱乾燥方法を提供する。
【解決手段】枚葉シート16上に塗布液を塗布して形成した塗布膜を加熱乾燥する方法において、複数本の線径が10〜700μmの繊維19を略水平に張った上に塗布膜を形成した枚葉シート16を載せて加熱乾燥することを特徴とし、熱伝導率が低いアラミド繊維を用いて行うのが好ましく、より膜厚ムラがなく、色ムラのない硬化皮膜を設けた枚葉シート16が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枚葉シート上に塗布液を塗布して形成した塗布膜の加熱乾燥方法に関する。詳しくは、色ムラの無い硬化皮膜を形成した枚葉シートを得るための、枚葉シート上に塗布液を塗布して形成した塗布膜の加熱乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルム等の枚葉シート上に塗布液を塗布して塗布膜を形成し、加熱乾燥、硬化させて硬化皮膜とし、枚葉シートに耐候性、耐擦傷性などの機能が付与される。
均質な硬化皮膜を得るために、定盤上に配置した枚葉シートの表面に対して微小な間隔で対向させたダイヘッドに設けられたスリットから塗布液を押し出して塗布膜を形成するダイコート法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【0003】
この方法においては、通常、定盤に設けられた吸引孔および/または吸引溝から真空吸引して枚葉シートを動かないようにして塗布液が塗布される。枚葉シートの上下は定盤に設けられた孔からリフトピンを上下させて行われ、搬送は定盤と枚葉シートの間にロボットアームを差し込み、枚葉シートを持ち上げて行われる。
塗布膜が形成された枚葉シートは加熱乾燥設備に搬送され、ステンレス製の支持ピン上に載せられて加熱乾燥される。次いで枚葉シートは硬化設備に搬送され、紫外線などを照射して塗布膜を硬化させて枚葉シートに硬化皮膜を形成させる。
【0004】
このようにして得られる硬化皮膜は均質性に優れたものであるが、ある特定の照明下において膜厚ムラに由来する色ムラが見えることがあり、光学製品の高性能化に伴い、光学部材として使用される硬化皮膜を設けた枚葉シートについてもより色ムラのないものが望まれている。
【特許文献1】特開平11−254374
【特許文献2】特開2000−289664
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、硬化皮膜を設けた枚葉シートの色ムラを無くするため、膜厚ムラの発生を抑制した枚葉シート上に塗布液を塗布して形成した塗布膜の加熱乾燥方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、色ムラのない硬化皮膜を設けた枚葉シートについて鋭意検討した結果、枚葉シート上に塗布液を塗布して形成した塗布膜を加熱乾燥する際に、従来の支持ピン上に載せて加熱乾燥させる方法では、支持ピンの接触部と非接触部に温度差が生じ、それによって膜厚ムラが生じ、硬化皮膜を設けた枚葉シートに色ムラが生じること、複数本の線径が10〜700μmの繊維を略水平に張った上に塗布膜を形成した枚葉シートを載せて加熱乾燥することによって膜厚ムラの発生を抑制し、色ムラを防止できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、枚葉シート上に塗布液を塗布して形成した塗布膜を加熱乾燥する方法において、線径が10〜700μmの繊維を略水平に張った複数本の繊維の上に塗布膜を形成した枚葉シートを載せて加熱乾燥することを特徴とする枚葉シート上の塗布膜の乾燥方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によって、枚葉シート上に塗布液を塗布して形成した塗布膜の加熱乾燥時に生じる支持ピン部での膜厚ムラの発生を無くし、色ムラのない硬化皮膜を設けた枚葉シートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法において、枚葉シートおよび塗布液は製造する硬化皮膜に応じて適宜選択されるが、枚葉シートとしては、樹脂シートなどが挙げられる。
樹脂としてはポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース樹脂などが例示される。また、樹脂シートとして、これら樹脂の積層シートも挙げられる。枚葉シートの厚みとしては、約0.8mm〜0.2mmのような薄い場合に、本発明は特に有効である。
【0010】
塗布液は塗布物および溶媒からなり、塗布物としては、耐候性、耐擦傷性、帯電防止性、反射防止性、アンチグレア性などの機能を付与する組成物が挙げられる。
これらは、通常、活性エネルギー性硬化性塗布物、熱硬化性塗布物であり、活性エネルギー線、または熱エネルギーによって硬化するものである。
塗布液は、活性エネルギー線または熱エネルギーで硬化する有機成分、機能を付与できる無機酸化物微粒子や有機系微粒子、光開始剤または熱開始剤を、必要に応じてレベリング剤(平滑剤)、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを含有し、さらにこれらの成分を溶解または分散させるための水または各種の有機溶剤を含有する。
塗布液の物性として、粘度が約0.1〜50mPa・s、表面張力は濡れ性の観点から枚葉シートの表面張力より低いものが好ましく、通常、約20〜40mN/mのものが使用される。
【0011】
例えば、耐擦傷性の硬化皮膜を形成するため、硬化性塗布物として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの(メタ)アクリロイルオキシ基を複数有する化合物など、酸化物微粒子として、酸化アンチモンのような金属酸化物、インジウム/スズの複合酸化物(ITO)、スズ/アンチモンの複合酸化物(ATO)、アンチモン/亜鉛の複合酸化物、リンでドープされた酸化スズなどが好ましく用いられる。また溶剤として、イソプロピルアルコールのようなアルコール類、3−メトキシ−1−プロパノールのようなアルコキシアルコール類など、レベリング剤として、シリコーンオイルなどが好ましく用いられる。
【0012】
枚葉シート上に塗布液を塗布する方法としては、均質な硬化皮膜が得られる点から、通常、定盤上に配置した枚葉シートの表面に対して微小な間隔で対向させたダイヘッドに設けられたスリットから塗布液を押し出して塗布液を塗布するダイコート法が好ましく用いられる。以下、ダイコート法を例に説明する。
【0013】
本発明の方法を図1〜図6を用いて説明する。図1は定盤の模式図であり、(A)は平面模式図、(B)は(A)のX-X線部の断面模式図である。図2は塗布方法を示すための断面模式図である。図3は枚葉シートの配置、取り出しを示すための断面模式図である。図4は区分けの例を示す平面模式図である。図5は真空吸着および真空破壊を説明する断面模式図である。図6は塗布膜を形成した枚葉シートを繊維上に載せる様子を示す模式図である。
【0014】
定盤(1)は御影石などの石製またはステンレスなどの金属製であり、定盤には、塗布時に枚葉シートが動かないように真空吸引して固定させるための吸着穴(2)および吸着溝(3)が設けられている。また、枚葉シートを定盤上に配置および/または取り出す際に、枚葉シートを持ち上げるためのリフトピンおよびそれを通す穴(4)が設けられている(図1)。吸着穴の大きさは、通常、約0.5〜5mmφであるが、これに限定されるものではない。吸着溝はこれら吸着穴を連結するように設けられている。また、リフトピンを通す穴の大きさは、通常、約6〜30mmφであるが、これに限定されるものではない。
【0015】
定盤(1)上に配置した枚葉シート(5)の表面に対して微小な間隔で対向させたダイヘッド(6)を移動させて、枚葉シートに塗布液を塗布し、塗布膜(7)を形成する(図2)。
【0016】
枚葉シート内に部分的に温度差があると膜厚差を生じるので、枚葉シートを塗布設備の環境温度と同様の温度に調節しておくのが良い。また、定盤上に多孔質シートを敷設し、多孔質シート上に枚葉シートを配置して行っても良い。
多孔質シートとしては、連続気泡を有する多孔質の樹脂製、金属製またはセラミックス製のものが挙げられるが、熱伝導率の小さい樹脂製、すなわち樹脂粉末の焼結多孔質成形体からなるシートが好ましく用いられる。樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。
また、多孔質シートの厚みは、特に限定されるものではないが、約0.1〜5.0mm、好ましくは0.3〜2.0mmである。
多孔質シートの気孔率は、約5〜50容積%、好ましくは約15〜35容積%である。
【0017】
多孔質シートには、定盤のリフトピンを通す穴の部分には穴を開けておく。一方、吸着穴および/または吸着溝の部分は、多孔質シートを介して枚葉シートを吸引することができるので、穴を開ける必要はない。
多孔質シートの大きさは、塗布する枚葉シートと同じ大きさかそれ以上にする。
また、多孔質シートの端面および塗布する枚葉シートより外側になる部分を、吸引漏れが発生し、吸着力が低下するのを防止するために、テープ等で塞ぐことが好ましい。
【0018】
枚葉シート(5)をロボットアーム(9)に載せて搬入し、モータ駆動によって上昇させたリフトピン(8)上に枚葉シートを置いた後、ロボットアームを引き抜く(図3)。次にリフトピンを下降させ、枚葉シートを定盤上に配置し、吸着穴および/または吸着溝を介して枚葉シートを真空吸引し、定盤に吸着固定する。
【0019】
定盤に設けられた吸着穴を介して枚葉シートを真空吸引する際に、配置された枚葉シートの中央部から周辺部方向に順に真空吸引するのが好ましい。このことによって、高さが1〜3mm程度のうねりや反りが生じた薄い枚葉シートでも、定盤に確実に吸着固定し、枚葉シートに皺が発生することを防ぐことができる。
中央部から周辺部方向への真空吸引は、連続的に行っても良いが、そのための設備が複雑になるので、通常、区分けした区分毎に順に行う。その区分に対応する位置にある吸着穴を介して真空吸引する。
区分けは、枚葉シートの大きさによって異なるが、中央部および周辺部の2区分、中央部、中間部および周辺部の3区分などである。図4、図5は中央部(13)、中間部(14)および周辺部(15)の3区分の例を示す。中央部と中間部、または中間部と周辺部を同時に真空吸引して2区分とすることもある。
電磁弁11を順に開いてそれぞれの区分を真空吸引する。
【0020】
具体的には、中央部、中間部の大きさおよび形状は、例えば、中央部と中間部の境界が、幅が約300mm〜700mmで長さが約500mm〜900mmで示される矩形、中間部と周辺部の境界が、幅が約500mm〜900mmで長さが約1000〜1400mmで示される矩形が採用される。なお、中央部の中心を枚葉シートの中心から塗布開始方向に100mm〜200mmの位置としても良い。
区分の形状は矩形に限られるものではなく、楕円状などでも良い。
【0021】
真空吸引は−100〜−90kPaの真空度で行われる。うねりや反りが大きすぎたり、数が多すぎたりして枚葉シートが吸着固定されずに、皺が発生するのを防ぐために、真空度が−80〜−60kPaに達しない場合には真空吸引する操作を停止する。なお、真空度はそれぞれの区分の真空ラインの数か所に真空度計を設置して測定する。
【0022】
枚葉シートを定盤に吸着固定した後、ダイヘッドを移動してスリットから塗布液を押し出して塗布液を枚葉シートに塗布する。塗布速度は、塗布液の性状などによって変わるが、通常、約50〜300mm/秒である。
【0023】
続いて真空破壊し、枚葉シートを定盤との吸着状態を解除し、リフトピンを上昇させて塗布膜を形成した枚葉シートを持ち上げ、枚葉シートと定盤の間にロボットアームを挿入して枚葉シートをロボットアームに載せて持ち上げて取り出す。
真空破壊する際に枚葉シートの外周部に位置する吸着穴への空気流入量をそれ以外に位置する吸着穴への空気流入量よりも少なくして行い、真空破壊した後、時間を置かずに塗布膜を形成した枚葉シートをロボットアーム上に載せて持ち上げることが好ましい。このことによって、薄い枚葉シートの場合でも、塗布膜を形成した枚葉シートをリフトピンで持ち上げる際に、枚葉シートが撓み、ロボットアーム挿入時にロボットアームが枚葉シートの撓みと接触することを防止することができる。
接触すると枚葉シートの配置方向がずれ、ずれを修正するためにラインを停止する必要が生じて生産性が低下することがあり、また時には枚葉シートが破損することがある。なお、真空破壊した後、時間をおかずにとは、真空破壊直後〜約20秒以内を意図するもので、20秒以内であれば効果の発現に問題はない。
【0024】
真空破壊は電磁弁11を開放して真空ラインから吸引時とは逆に空気を流して行う(図5)。枚葉シートの全体に位置する各吸着穴へ一気に略同量の空気を流入させて真空破壊する方法では、枚葉シートをリフトピンで持ち上げた時に枚葉シートが中央部で下方に撓む傾向にある。特に、薄い枚葉シートの場合にその傾向が顕著になる。
一方、枚葉シートの外周部に位置する吸着穴への空気流入量をそれ外に位置する吸着穴への空気流入量よりも少なくして真空破壊する方法では、むしろ上方へ撓む傾向を示す。このことによって、ロボットアーム挿入時にロボットアームが枚葉シートの撓みと接触することを防止することができる。
【0025】
吸着穴は構造上の理由から必ずしも均一に配置されていないこと、使用する枚葉シートの大きさが変わることなどから、枚葉シートの外周部の範囲は変わるが、通常、端からの幅が約15〜200mm、好ましくは約50〜150mmの領域である。
【0026】
真空破壊する際の枚葉シートの外周部に位置する吸着穴への空気流入量をそれ以外に位置する吸着穴への空気流入量の80〜10%とする。枚葉シートの外周部に位置する吸着穴とそれ以外に位置する吸着穴へのラインで流量を制御するのが簡単であるが、上記したとおり、吸着穴は必ずしも均一に配置されていないこと、使用する枚葉シートの大きさが変わることから、外周部とそれ以外の区分毎に流量を制御するだけでは不十分なことが多く、通常、上方へ撓む傾向を示すように吸着穴毎に流量を制御するのが好ましい。
上方へ撓む傾向を示すようにテストを繰り返し、外周部の範囲、流量制御弁12の開閉度を決定する。なお、空気流入量は、ラインに空気を流し、流速計で吸着穴の流速を測定して外周部に位置する吸着穴とそれ以外に位置する吸着穴の流量割合とする。
【0027】
真空破壊してそのまま時間が経過すると、枚葉シートが中央部で下方に撓むようになるので、真空破壊した後、時間をおかずに連続してリフトピンを上昇させ、枚葉シートと定盤の間にロボットアームを挿入し、枚葉シートをロボットアーム上に載せて持ち上げて取り出す。取り出した塗布膜を形成した枚葉シートを次の乾燥設備、硬化設備に搬送する。
【0028】
乾燥は、加熱乾燥する前に、塗布膜を均質化するために予め常温で乾燥するのが好ましい。取り出した塗布膜を形成した枚葉シートを常温乾燥設備の支持ピン上に載せて、常温で約10秒〜300秒間、好ましくは30秒〜100秒間乾燥する。常温乾燥では枚葉シートと支持ピンの温度が略同一であるので、支持ピンで保持しても膜厚ムラは生じない。
【0029】
加熱乾燥設備では、複数の繊維を略水平に張った上に塗布液を塗布した枚葉シートを載せて乾燥する。
加熱乾燥設備には、図6に示す如く支持盤(17)が設けられ、その両端部に複数の支持ピン(18)が取り付けられ、対面する一組の支持ピン(18)の先端部に略水平に繊維(19)が張られている。常温乾燥設備から取り出された塗布膜が形成された枚葉シート(16)を複数の繊維(19)上に載せる。この枚葉シートの配置、取り出しはロボットアーム(20)の上下、出し入れによって行う。
なお、加熱乾燥設備外で、支持盤に設けられた支持ピンに略水平に張られた複数の繊維上に塗布膜が形成された枚葉シートを載せ、支持盤をロボットアームで持ち上げ、加熱乾燥設備に搬入しても良い。
【0030】
使用する繊維は、太さに対して長さが極めて大きい細長い形状のものであって、溶融物を押し出し、引き伸ばしたもの、更にそれらを揃えて、撚りをかけた糸状のものなどが挙げられ、その素材は限定されない。
本発明においては、線径が約10〜700μm、好ましくは約50〜300μmのものが用いられる。約700μmを超えると色ムラが発生し易く、約10μm未満では強度の点から好ましくない。
繊維の例としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、テトラフロロエチレン繊維、炭素繊維、アルミナ繊維などの化学繊維、ステンレス鋼線などの金属繊維などが挙げられる。
尚、支持ピン(18)の先端に取り付けられる繊維は、総計で10〜700μmの範囲内であれば繊維は1本でも複数本を取り付け用いてもよい。
【0031】
引張試験における引張最大荷重(破断する荷重)が10N以上、単位変位を起こす荷重を勾配(耐変形性能を表す。)と表す時、勾配が5N/mm以上である繊維を用いるのが好ましい。
引張最大荷重および勾配は、繊維材質や線径などによって変わるが、例えば、線径が110μmのポリエチレン繊維、線径が60μmのアラミド繊維、線径が90μmのCr・Ni合金繊維などは、上記の引張最大荷重、勾配を満足し、線径が大きくなるほどより大きな引張最大荷重、勾配となる。
【0032】
熱伝導率が低く、強度が強い繊維が好ましく、線径が約50〜300μmのアラミド繊維が好ましく用いられる。
繊維は約10mm〜70mm、好ましくは約15mm〜35mmの間隔で張る。なお、ロボットアームを通過させる部分には、ロボットアームの幅に対応して約30mm〜60mmの間隔を空ける。
【0033】
加熱乾燥設備として熱風乾燥炉などを用い、約35℃〜100℃、好ましくは約40℃〜70℃で約10秒〜600秒間、好ましくは約100秒〜300秒間加熱乾燥する。
【0034】
続いて乾燥した塗布膜を硬化して硬化皮膜とする。塗布膜を形成するために用いた塗布物が、活性エネルギー性硬化性塗布物、熱硬化性塗布物によって、紫外線などの活性エネルギー線、または熱エネルギーを照射して硬化させる。
【0035】
このようにして得られる硬化皮膜を形成した枚葉シートには実用上問題となる色ムラは見られない。
硬化皮膜と枚葉シートの屈折率差が大きいと膜厚ムラ(支持材の接触部とその周辺部との膜厚差)による色ムラが見え易い。同じ膜厚ムラであっても屈折率差がない場合には実用上問題となる色ムラは見られなく、支持ピン上に載せて乾燥しても問題となることは少ないが、屈折率差がある場合には膜厚ムラを無くするために、本発明の方法で乾燥し、膜厚ムラを無くしないと色ムラを無くすることができない。
例えば、リンドープ酸化スズ微粒子を含み、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを硬化させて得られる皮膜(Sn皮膜と称する。)の屈折率は1.585となり、5酸化アンチモン微粒子を含み、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを硬化させて得られる皮膜(Sb皮膜と称する)の屈折率は1.558となる。アクリル樹脂(ポリメタクリレート)の屈折率は1.49でポリカーボネートの屈折率は1.586であり、アクリル樹脂からなる枚葉シートにSn皮膜またはSb皮膜を形成した場合、色ムラは見やすく、
ポリカーボネートからなる枚葉シートにSn皮膜を形成した場合、色ムラは見え難い。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
尚、本発明において引張最大荷重及び勾配の測定、得られた硬化皮膜の品質は以下に記載の方法で行った。
(1)引張最大荷重及び勾配の測定
インストロン社製インストロン型万能試験機を用い、JIS(日本工業規格)K7166「プラスチック−引張特性の試験方法」に準じ,試験片である繊維をつかみ間距離を50mmとし、繊維の固定にはインストロン社製PNEUMATIC SIDE ACTION GRIPSを用い,試験速度20mm/minの条件で,荷重−伸び曲線を測定し,この荷重−伸び曲線を用いて引張最大荷重(破断時荷重)と勾配を測定し求めた。
(2)硬化皮膜の厚さ:
膜厚測定装置〔米国Filmetrics社のF−20〕を用いて測定した。
(3)色ムラの検査:
黒マット板(スミペックス(登録商標)MT967、住友化学製)の上に硬化皮膜を形成した枚葉シートを載せ、3波長蛍光灯(3波長蛍光ランプ ライフルック(登録商標)N-HG(昼白色) FL40SSEX-N/37-HG、NEC社製)で照らし、目視で色ムラの有無を検査した。3波長蛍光灯は、人間の目が色を良く感じる反応(色覚反応)の強い青(波長450nm)・緑(波長540nm)・赤(波長610nm)の3波長域に光を集中させたものであり、演色性が高く、色ムラが見え易くなる。
検査結果を以下に分類して表す。
A:支持材との接触部を起点にした色ムラは見られない。
B:支持材との接触部を起点にして実用上問題がない程度の僅かな色ムラが見られる。
C:支持材との接触部を起点にした色ムラが見られる。
D:支持材との接触部を起点にした色ムラがはっきり見られる。
【0037】
参考例1
(枚葉シートの作製)
ポリカーボネート(住友ダウ(株)製 カリバー 301−10、屈折率1.585)を、40mmφ一軸押出機を用いて溶融混練し、またアクリル樹脂(住友化学(株)製スミペックス MH)を、20mmφ一軸押出機を用いて溶融混練し、両者をフィードブロックを介して一方の表層がアクリル樹脂となるように2層化し、次いでT型ダイを介して押し出し、ポリシングロールに両面が完全に接するようにして冷却して、厚さ0.5mmの2層の樹脂シートを得た。この際、アクリル樹脂層の厚さは70μmとした。この樹脂シートを1140mm×1650mmの大きさに切断し、枚葉シートを得た。
【0038】
参考例2
(塗布液の作製)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〔新中村化学工業(株)の“NKエステルA−DPH”〕28部、光重合開始剤〔チバスペシャリティーケミカルズ(株)のIRGACURE 184〕1部、5酸化アンチモン微粒子ゾル〔触媒化成工業(株)のELCOM−4514;固形分濃度20%〕8部、1−メトキシ−2−プロパノール32部、イソブチルアルコール32部及びシリコーンオイル〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)の“SH28PA”〕0.045部を混合して塗布液を作製した。
【0039】
実施例1
参考例1で作製した枚葉シートを搬送コンベア上にアクリル樹脂層を上面にして配置し、コンベアで搬送しながら、上面および下面側共に搬送方向に約150mm間隔で6列に洗浄ノズルを配置し(上面側4列には2流体ノズル((株)いけうち製、打力2×10−1N)を合計80個、2列にはスプレーノズル((株)いけうち製)を合計14個、下面側は6列共にスプレーノズルを合計42個)、約30℃の純水によって洗浄を行った。その後、さらに上面および下面側共に6列目の洗浄ノズルから300mmの位置に合計7個のスプレーノズル((株)いけうち製)を1列配置し、純水によってリンス洗浄を行った。その後、上下にエアーナイフ((株)竹綱製作所製)にて、水切りした。その後、除電装置((株)キーエンス製)によって除電を行った。
【0040】
その後、コンベアで温調装置に搬送し、約30℃に上昇した枚葉シートを、約3℃の冷風で枚葉シートを冷却して塗布設備の環境温度(21〜25℃)に調整した。
【0041】
次に温度調節したシートをロボットアームで保持し、21〜25℃、45〜65%RH制御された塗布設備内の御影石製の定盤に設けたリフトピン上に置いた。次いでリフトピンを下げ、シートを定盤に載置した。
定盤は、幅2090mm、長さ3120mm、厚さ250mmであり、幅1300mmで長さ1650mmの領域に、1mm幅の吸着溝が約80mm間隔で格子状に配置され、その交点などに左右、上下対称に70個所の吸着穴が配置されている。また、14mmφのリフトピンを通す穴が36個(幅方向に6個×長さ方向に6個)配置されている。
なお、1140mm×1650mmの枚葉シートが配置される部分の外側はテープでシールした。
【0042】
枚葉シートに図4に示すような中央部、中間部および周辺部を設定した。中央部と中間部の境界は、幅が500mmで長さが700mmの矩形、中間部と周辺部の境界は、幅が750mmで長さが1250mmの矩形とした。なお、中央部の中心を枚葉シートの中心から塗布開始方向に150mmの位置とした。
なお、5秒間真空吸引して真空度が−70kPaに達しない場合は吸着固定されていないと判断し、真空吸引を停止するように設定した。
【0043】
中央部に対応する位置にある吸着穴を介して真空吸引し、2秒後に中間部に対応する位置にある吸着穴を介して真空吸引し、更に3秒後に周辺部に対応する位置にある吸着穴を介して真空吸引し、枚葉シートを定盤に吸着固定した。
吸着固定時の真空度は−95kPaであった。
【0044】
次にダイヘッドを移動させながら上記の参考例2で作製した塗布液を下記条件で塗布し、塗布膜を形成した。
塗布膜幅:1120mm、ダイリップクリアランス:100μm、塗布ギャップ(シートとダイリップ先端との距離):70μm、塗布速度190mm/s、目標塗布膜厚さ:約26μm
【0045】
塗布後、真空吸引を停止し、真空破壊し、時間を置かずに(約10秒以内)リフトピンを上昇させて枚葉シートを持ち上げ、枚葉シートと定盤との間にロボットアームを差し込み、枚葉シートを持ち上げ、ロボットアームの接触によって枚葉シートの配置方向がずれることなく塗布設備から取り出した。なお、定盤の吸着穴の内、枚葉シートの端から幅が100mmの外周部に位置する吸着穴については、吸着穴ごとに調節して外周部以外に位置する吸着穴に比べて空気流入量を少なくして枚葉シートが下方に撓まないように予めテストを繰り返して設定しておいた。なお、枚葉シートの外周部に位置する吸着穴への空気流入量は、個々の吸着穴で異なるが、それ以外に位置する吸着穴への空気流入量の約50〜30%になる。
【0046】
取り出した塗布膜を形成した枚葉シートを常温乾燥設備のステンレス製支持ピン上に載せ、21〜25℃、45〜65%RHの環境下に約30秒放置し、乾燥した。
【0047】
次に塗布膜を形成した枚葉シートを常温乾燥設備から取り出し、加熱乾燥設備に搬入した。加熱乾燥設備には、長さ1710mm×幅1480mmの支持盤が設けられ、その両端部にステンレス製支持ピン(2mmφ)が取り付けられ、その先端部に線径250μmのアラミド繊維(ケプラー(登録商標)K#30、東レ・デュポン社製、引っ張り試験における最大荷重:54N、勾配:13)が、長さ方向に約20mm間隔で46本が略水平に張られており、その上に塗布膜を形成した枚葉シートを載せた。
なお、ロボットアームを上下させる部分として内側の5か所に各々40mmの間隔を設けた。
温度が約45℃、風速が約1〜2m/sで、約180秒間乾燥した。乾燥した塗布膜を形成した枚葉シートをロボットアームにてアラミド繊維上から搬出し、コンベアに移載し硬化設備に搬送した。
【0048】
乾燥した塗布膜を形成した枚葉シートをロボットアームで持ち上げ、コンベアに載せ、紫外線照射装置に搬入し、高圧水銀ランプ(セン特殊光源(株)製)で、ピーク照度:約300mW/cm、積算エネルギー:約500mJ/cmを照射し、塗布膜を硬化し、硬化皮膜を形成した枚葉シートを得た。
色ムラが無く、外観も良好であり、品質の優れた硬化皮膜が形成した枚葉シートが得られた。
アラミド繊維との接触部を含めた周辺の膜厚を測定した結果を図7に示す。
接触部の平均膜厚と非接触の平均膜厚の差(△d)は約0.04μmであり、膜厚差は殆ど見られない。
【0049】
比較例1
長さ1710mm×幅1480mmの支持盤に、その長さ方向の両端部に各々11個、長さ方向の中央部に80mmの間隔を空けて長さ方向に各々12個、幅方向の両端部、中央部の各々6個の支持ピン(直径が2000μmφのSUS304製)が設けられ、その支持ピン上に塗布膜を形成した枚葉シートを載せて行った以外は実施例1と同様に行った。
得られた硬化皮膜が形成した枚葉シートには色ムラがはっきり見られ、品質が良好とは言い難いものであった。
支持ピンとの接触部を含めた周辺の膜厚を測定した結果を図7に示す。
接触部の平均膜厚(3.87μm)と非接触の平均膜厚(3.61μm)の差(△d)は約0.26μmであり、大きな膜厚差が生じている。
【0050】
実施例2〜8、比較例4
表1に示す繊維を用い、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
比較例2、3
表2に示す支持ピンを用い、比較例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】定盤の模式図である。(A)は平面模式図、(B)は断面模式図である。
【図2】本発明の塗布方法を示すための断面模式図である。
【図3】枚葉シートの配置、取り出しを示すための断面模式図である。
【図4】区分けの例を示す平面模式図である。
【図5】真空吸着および真空破壊を説明する断面模式図である。
【図6】塗布膜を形成した枚葉シートを繊維上に載せる様子を示す模式図である。
【図7】得られた硬化皮膜の膜厚の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 定盤
2 吸着穴
3 吸引溝
4 リフトピンの穴
5 枚葉シート
6 ダイヘッド
7 塗布膜
8 リフトピン
9 ロボットアーム
10 真空ライン
11 電磁弁
12 流量調節弁
13 中央部
14 中間部
15 周辺部
16 塗布膜が形成された枚葉シート
17 支持盤
18 支持ピン
19 繊維
20 ロボットアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枚葉シート上に塗布液を塗布して形成した塗布膜を加熱乾燥する方法において、線径が10〜700μmの繊維を略水平に張った複数本の繊維の上に塗布膜を形成した枚葉シートを載せて加熱乾燥することを特徴とする枚葉シート上の塗布膜の乾燥方法。
【請求項2】
繊維を10mm〜70mmの間隔で張って行うことを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項3】
繊維の熱伝導率が0.6W/m・K以下であることを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項4】
繊維の引張最大荷重が10N以上であることを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項5】
繊維の単位変位を起こす荷重を勾配と表す時、勾配が5N/mm以上であることを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項6】
繊維がアラミド繊維であることを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項7】
加熱乾燥を35℃〜100℃で10秒〜600秒間行うことを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項8】
塗布膜の形成をダイコート法で行うことを特徴とする請求項1記載の塗布膜の乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−133633(P2010−133633A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309501(P2008−309501)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】