説明

果実酒およびその製造法

【課題】 酸化劣化が防止されるとともに、フレッシュな香りや味わいが維持された果実酒を提供する。
【解決手段】 容器に充填後の炭酸ガス濃度が300〜1,300ppm、溶存酸素が1.0ppm以下である果実酒。果実酒の製造工程において、炭酸ガスおよびその他のガスを、果実酒原液と接触し、酒類中の炭酸ガス濃度を300〜1,300ppmに維持しつつ、溶存酸素を1.0ppm以下に低下させた状態で容器に充填する。
【効果】 貯蔵後も、品質の劣化が抑制され、果実酒のフレッシュ感に満ちた味わいが維持される。特に、酸化防止剤を添加しないワインの製造において優れた効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実酒およびその製造方法に関し、より具体的には、品質の劣化が抑制され、果実酒のフレッシュ感に満ちた香りや味わいが維持される果実酒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実酒は、発酵終了後の製成工程および貯蔵中に成分の一部が変化することにより、その好ましい香りや味わいの特徴が減少すると同時に、好ましくない香りの発生や、褐変などの品質劣化を生ずることが知られている。特に、ワインにおいては、例えば、フルーティでフレッシュな、つくりたてのワインに特有の特徴が、長期の貯蔵中に徐々に減少するばかりでなく、容器に充填するまでの製成工程中にも刻々と失われる。さらに、貯蔵中に酸化臭(特にアルデヒド臭)と呼ばれる好ましくない香味等が発生して、品質を劣化させてしまう。
【0003】
こうした品質劣化をもたらす大きな要素のひとつが、酸化による劣化である。果実酒において酸化劣化の問題は古くから認識されており、その抑制方法として、亜硫酸塩やビタミンCなどの酸化防止剤の添加が伝統的に行われている。また、これらの酸化防止剤を添加しないことを特徴とする、いわゆる酸化防止剤無添加ワインあるいは、酸化防止剤の添加量を低減したワインにおいては、低温貯蔵や低温流通を行うか、あるいは、市場における製品滞留日数を短縮するといった対策により、酸化劣化の悪影響を極力抑える取り組みがなされている。
【0004】
酸化防止剤を添加する以外の方法によって、果実酒の酸化劣化を防止する別の試みとしては、飲料や酒類中の溶存酸素を低減する方法も従来から知られている。例えば、酒類において、発酵原液を膜式脱酸素装置により減圧脱気する方法(例えば、特許文献1参照)や、清酒中に不活性ガスを泡立てながら封入することにより、酸素を強制的に追い出す方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。予め酸素を低減した酒類や炭酸飲料等を容器に充填した後に、容器のヘッドスペース中の空気を、1種または複数の不活性ガスで置換することで、貯蔵後の品質劣化を低減する方法(例えば、特許文献3、4参照)や、溶存酸素濃度を1.1〜4.0ppmにする方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
上述の各種の方法は、果実酒中の酸素濃度を低下させることにより、酸化による品質劣化を防止するということにおいて一定の効果を有するものであり、酸化防止剤無添加ワインにおいては特に効果的である。
【0006】
しかしながら、これら従来の方法では、酸化劣化以外の果実酒の品質劣化を十分に改善することはできない。特に、フルーティでフレッシュな果実酒に特有の好ましい特徴を維持するという効果は期待できず、むしろ、酸化劣化防止の目的で行われる方法によって、フレッシュな香りや味わいという面が少なからず犠牲にされるという問題が存在している。具体的には、例えば、果実酒を減圧等によって機械的に脱気する方法には、除去したい酸素だけでなく水分、アルコール分、更には芳香成分も除去されてしまい、結果として香りや味わいのバランスが損なわれ、または、損なわれないまでも、果実酒原液がもつ風味が変化してしまうという問題がある。不活性ガス(通常は、窒素)を混合して溶存酸素を強制的に追い出す方法は、混合条件によっては多量のガスを必要とし、混合にも特別の装置や手間を要し、果実酒原液を強度に泡立てることによる品質劣化を招くおそれもある。また、溶存酸素量を十分に低減できる程度まで窒素ガス置換を行った結果、その弊害として、酸素以外の好ましい芳香やアルコール分、その他味わいに寄与するであろう成分まで窒素ガスに置換されてしまうという問題を有している。
【0007】
すなわち、酸化劣化しにくく、かつ、香りや味わいの点でも十分に満足できる果実酒、よりフレッシュな香りや味わいが維持された果実酒を提供するための技術が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開平6−141840号公報
【特許文献2】特開平9−224641号公報
【特許文献3】特開2000−14378号公報
【特許文献4】特開2005−47509号公報
【特許文献5】特開2000−308482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、酸化劣化が防止されるとともに、フレッシュな香りや味わいが維持された果実酒を提供することを課題とする。すなわち、本発明は、単に酸化による品質劣化を防止するだけでなく、果実酒特有のフレッシュでフルーティな香りや味わいを維持した状態で提供できる果実酒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するにあたり、発酵によって生成した微量な炭酸ガスが果実酒中に含まれることが果実酒のフレッシュな香りや味わいの維持に重要な役割を果たしていることに着目した。そして、鋭意検討の結果、炭酸ガス濃度が300〜1,300ppm、溶存酸素が1.0ppm以下である果実酒においては、酸化劣化が防止されるとともに、フレッシュな香りや味わいが良好に維持されることを見出した。さらに、特定の混合比率からなる炭酸ガスと不活性ガスを果実酒原液に接触し、果実酒原液中の炭酸ガス濃度を所定の範囲に維持しつつ、果実酒中の炭酸ガス濃度が300〜1,300ppm、溶存酸素が1.0ppm以下である状態で容器に充填することにより、酸化劣化が防止されるとともに、フレッシュな香りや味わいが維持された果実酒を安定的に製造できることを知り、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、
1)容器に充填後の炭酸ガス濃度が300〜1,300ppm、溶存酸素濃度が1.0ppm以下である果実酒。
2)炭酸ガスおよび不活性ガスを、果実酒原液に接触して得られる、上記1)記載の果実酒。
3)果実酒の製造工程において、炭酸ガスおよび不活性ガスを果実酒原液に接触し、果実酒原液中の炭酸ガス濃度が300〜1,300ppm、溶存酸素が1.0ppm以下である状態で容器に充填する、果実酒の製造方法。
4)果実酒原液と接触する全ガス中に占める炭酸ガスの割合が5〜80%である、上記3)記載の果実酒の製造方法。
5)果実酒原液を容器に充填するまでの間、果実酒原液中の炭酸ガス濃度を300〜1,300ppmに維持する、上記3)、4)記載の果実酒の製造方法。
6)容器に充填する際に、容器中の気体を、5〜80%の炭酸ガスを含むガスにより置換する、上記4)、5)記載の果実酒の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、酸化劣化が防止されるとともに、フレッシュでフルーティな香りや味わいが維持された、高品質の果実酒を提供することができる。
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(果実酒)
本発明における果実酒は、果実を原料として醸造したアルコール飲料であれば特に限定されないが、例えば、ブドウ、ナシ、モモ、ミカン、ビワ、リンゴ、マルメロ、ウメ、アンズ等の果実を醸造することにより得られるワイン、シードル等が挙げられる。特に好適な果実酒は、ブドウ酒等のワインである。ワインには、ブドウ果実またはブドウの果汁のみを発酵して醸造される所謂赤ワイン、白ワイン、ロゼワインの他に、ワインに濃縮果汁、薬草、香料、色素等を添加して得られ、ベルモットを代表とする混成ワイン等を含む。本発明は、任意の方法で製造されたワインに対し効果を奏する。すなわち、酸化防止剤を添加するワイン、酸化防止剤を添加しないワインのいずれも、本発明のワインに含まれ得るが、特に酸化防止剤無添加ワインにおいて、本発明は顕著な効果を示す。
【0015】
(果実酒原液)
本発明における果実酒原液とは、醸造後の果実酒をいう。具体的には、例えば、アルコール発酵終了後の果実酒、あるいは、前記果実酒をさらに遠心分離、珪藻土濾過、安定化処理、火入れ、仕上げ濾過、等の任意の工程に供した後の果実酒をいう。すなわち、本発明における果実酒原液とは、アルコール発酵終了後、容器に充填される前の果実酒であって、混合ガスと接触させる前の果実酒をいう。
【0016】
(ガス)
本発明の果実酒の製造にとって重要なガスのひとつは炭酸ガスである。また、本発明においては、炭酸ガスと不活性ガスを所定の比率で使用する。不活性ガスとは、化学的に反応性が乏しいガスをいい、窒素、あるいは、ヘリウム、アルゴン等の希ガス、または、これらの混合ガス等が挙げられる。通常使用されることが多い不活性ガスの例としては、安価な高純度窒素ガスが挙げられる。
【0017】
(本発明の果実酒中の炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度)
本発明の果実酒においては、容器に充填後の炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度が所定の範囲内であることが非常に重要である。具体的には、炭酸ガス濃度が300〜1,300ppm、好ましくは600〜1,200ppm、より好ましくは800〜1,000ppmであり、溶存酸素濃度が1.0ppm以下、好ましくは0.8ppm以下、より好ましくは0.5ppm以下である。果実酒に含まれる炭酸ガス濃度が300〜1,300ppmの範囲となる場合は、僅かな炭酸ガスの刺激が果実酒原液の持つフレッシュ感を増強し、よりフルーティさの感じられる味わいとなる。一方、炭酸ガス濃度が300ppmを下回る場合は、フレッシュ感が低下しフルーティさに欠ける味わいとなる。また、炭酸ガス濃度が1,300ppmを上回る場合は、本来の果実酒原液の風味からは、かけ離れたものとなってくる。なお、グラスに注いだ際に泡が発生する、いわゆる発泡性ワインは、アメリカのワインの分類において炭酸ガス濃度約4,000ppm以上のワインと定義されており(例えば、Amerine, Maynard A, Wine Production Technology In The United States, American Chemical Society, 1981.参照)、本発明の果実酒とは明らかに異なるものである。溶存酸素濃度が1.0ppm以下に保たれた果実酒は、長期保存の過程において、酸化による褐変などの品質劣化が起こりにくく、果実酒原液の持つ良好な風味が失われることなく保たれる。一方、溶存酸素濃度が1.0ppmを上回る場合は、保存温度にもよるが比較的短期間に酸化臭を生成し、フレッシュ感の失われた味わいとなる。
【0018】
(炭酸ガスと不活性ガスの混合比率)
本発明で果実酒原液と接触して使用するためのガスの組成は、果実酒原液中の炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度、更には処理する果実酒の温度や処理量、ガス吹き込み条件、果実酒の種類や目的とする商品品質設計等に応じて適宜微調整され得るが、果実酒原液と接触する全ガス中に占める炭酸ガスの割合が5〜80%、好ましくは15〜70%、より好ましくは30〜50%の範囲であることが好ましい。果実酒原液と接触する全ガス中に占める炭酸ガスの割合が5%を下回る場合、発酵終了直後本来含まれている炭酸ガスの減少が起こりフレッシュ感の低下を生じる。また、炭酸ガスの割合が80%を上回る場合、本来発酵直後の果実酒原液に含まれている以上に炭酸ガスの溶解が起こり刺激の強いぴりぴりとした味わいになってしまう。更に、溶存酸素濃度が1.0ppm以下にならず、その後の酸化劣化が進行しやすい品質となってしまう。
【0019】
前記の炭酸ガスの割合とは、すなわち、使用するガスを予め全て混合してガスを調製した上で、そのガスを果実酒原液と接触する場合においては、そのガスの配合比に等しい。また、使用するガス同士を予め全て混合せず、それぞれを、あるいは一部を別個に果実酒原液と接触する場合においては、最終的に混合される全てのガス量に対する炭酸ガスの割合である。
【0020】
なお、上記の好ましい範囲内において、果実酒原液として白ワインを用いる場合、混合する全ガス中に占める炭酸ガスの割合を比較的高目に設定することが好ましく、特にブドウ品種としてマスカット種、リースリング種、ソーヴィニヨン・ブラン種等を用いる場合、炭酸ガスの割合を高目に設定することにより、これらの品種のもつフルーティで華やかな香りを、引き立たせることができる。また、果実酒原液として赤ワインを用いる場合、炭酸ガスの比率を比較的低目に設定することが好ましい。溶存炭酸ガスの割合が高くなると赤ワインの特徴であるタンニンの渋みが刺激的になるため、溶存炭酸ガスの割合を低目に設定することで、フルーティで柔らかい味わいとなる。なお、アメリカ系ブドウ品種であるコンコード種、キャンベルアーリー種等を用いる場合には、これらの品種のもつフルーティで華やかな香りを引き立たせるために、炭酸ガスの割合を高目に設定することが好ましい。
【0021】
(炭酸ガスと不活性ガスの混合方法)
炭酸ガスおよび不活性ガスの混合により得られるガス(以下、「混合ガス」という。)は、任意の方法で得ることができる。予め使用するガス同士を混合して混合ガスを調製する場合には、例えば、不活性ガスとして窒素ガスを用いる場合、Nガス流量計、COガス流量計付きガス混合器(東京計装社製)を用いて2種類のガスを混合し、混合ガスを得ることができる。
【0022】
また、使用するガス同士を予め混合するのではなく、それぞれのガスが別の配管を通じて、同時に、あるいは順次、果実酒原液と接触されるような装置を用いて混合を行うこともできる。その場合、予め混合したガスを用いる場合に比較して、部分的に各溶存ガスの濃度にムラを生じないよう、果実酒中の溶存ガス濃度を均一化するための何らかの手段を講じることが望ましい。
【0023】
ガスと果実酒原液との接触は、連続した流れの中で行うことが好ましい。連続した流れの典型例として、果実酒原液タンクからポンプ駆動で配管中を通過して加熱殺菌機や詰め機へと至る配管を用いる工程が挙げられる。必要に応じ、ガスを接触させた果実酒を一旦受けタンクに送るか、あるいはインラインの測定装置を用いて炭酸ガス濃度を確認することが、より好ましい。
【0024】
果実酒原液を容器に充填するまでの連続した流れの中において、ガスの接触箇所は任意の地点に設けることが可能であるが、果実酒原液が有する好ましい香りや味わいの特徴をできる限り維持したまま容器充填工程まで至るという観点からは、できるだけ流れの上流の、果実酒原液タンクの取り出し口に近い地点で接触を行うことが好ましい。連続した流れの中で、いったん達成した所定の溶存ガス濃度を容器充填まで維持できる場合は、ガスの接触工程は、原則的に工程上流の1箇所で行えば良い。一方、連続した流れの中の一部に開放系が存在するなど、所定の溶存ガス濃度を維持できないおそれがある場合には、所定の溶存ガス濃度を維持または直ちに回復させることを意図して、さらなるガス接触工程を追加的に設けることも好ましい。
【0025】
すなわち本発明においては、果実酒原液を得てから容器に充填するまでの間、果実酒原液中の溶存ガス比率、特には炭酸ガス濃度を一定濃度の範囲に維持しておくことが好ましい。このことにより、果実酒原液の状態により近い状態で、好ましい香りや味わいを維持したままの果実酒を製品化することができる。このような効果は、酸化防止を主目的とし、容器に充填された最終製品中の溶存ガス濃度のみを所定の濃度に合わせる従来の酸化防止剤無添加ワインの製造方法では得られないものであり、フレッシュでフルーティな香りや味わいを維持できない従来のワインの製造方法とは明らかに異なる。
【0026】
連続した処理の工程において、混合ガスの吹き込み圧は、果実酒中に封入することができる圧力であればよく、果実酒原液の処理量や処理速度に応じて任意に設定できる。例えば、0.5〜3.0kg/cmの範囲で、適宜選択することができる。
【0027】
混合ガスの温度による影響は、炭酸ガス溶解濃度と溶存酸素除去の効率に及ぼす影響に比べると軽微であるため、特に限定はされず、任意の温度で行うことができる。例えば、使用する果実酒原液の処理温度に応じて、−2〜35℃の範囲で適宜選択することができる。
【0028】
混合ガスの吹き込み部におけるガス通過部の粗さは、処理する果実酒原液の種類、量および連続した流れの中での接触に用いる機器の能力に応じて適宜選択することができるが、溶存酸素を除去効率の面から判断して、1〜100μmの孔径の範囲から選択するのが望ましい。
【0029】
本発明の連続した流れの中での接触に使用する機器は、果実酒原液と混合ガスとを効率よく接触できればよく、配管内の被処理物に微細ガス粒子を効率よく吹き込めればよく、微細ガスを発生できるガスドーザー(例えば、W.E.&Ware Co.Ltd.社製あるいは東京計装社製)が、デッドスペースが無く、物理的な駆動部も無いことから、サニタリー性を確保する上でもより好ましい。該ガスドーザーはハウジングと一つのエレメントで構成される器具で、取り扱いは容易である。目的とする混合ガスの注入量は、ガス流量計で適宜選択すればよい。本発明においてガスドーザーを通過する果実酒原液と混合ガスの接触比率は、炭酸ガスの残存効率、ひいては溶存酸素の除去効率に影響するため、具体的には果実酒原液および混合ガスの比率が、体積比にして1:0.5〜2の範囲で処理することが望ましい。この装置は、本発明に用いられる果実酒製造設備の配管部に、新たに混合ガスの接触部を付加するのみで安価に設置できる上、処理能力が大きく、更には相対的に少ない混合ガスの量で目的を達成できるため、その産業的価値は極めて大きい。
【0030】
更には、果実酒を充填する前の容器中の空気を不活性ガスで置換し、果実酒を容器に充填した後、打栓前に容器のヘッドスペースに不活性ガスを吹き込むことを行うと、該処理を行わない場合に比べて打栓後に溶存酸素濃度が増加するのをさらに抑制することができる。
【0031】
(容器)
本発明において、果実酒を充填する容器には特に制限はなく、ガラス瓶、缶、ペットボトル、ステンレス製タンク等、通常の液体充填用に用いられるものの中から、密栓可能なものを適宜選択できる。使用する栓も特に制限はなく、コルク栓あるいはスクリューキャップ等から適宜選択できる。ワインにおいては、コルク栓を使用した製品が多く存在する。本発明の果実酒は、発泡性ワインに比べて溶存する炭酸ガス濃度が低いため、容器ヘッドスペースの内圧が上昇することがなく、1気圧前後に維持される。このため、コルク栓を用いた場合でも、開栓時に果実酒が噴出することなく、軽量で、断熱性に優れたコルク栓を使用することができる。しかしながら、本発明においては、容器内部に一定配合比率・一定濃度のガスが溶解し、その状態が維持されることが重要であるため、スクリューキャップ等の密封性の高い栓を用いることがより好ましい。密封度が高くない容器に充填された果実酒においても、充填後時間が経過しない段階では本発明の効果は、一定期間保持され得るが、長期保存中にその効果は徐々に低減することが予測される。
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0033】
本発明の果実酒原液として、酸化防止剤を添加していないマスカット種の白ワインを用い、ガスドーザー(W.E.&Ware Co.Ltd.社製)中に混合ガスを導入し、混合ガスを前記白ワインに接触させた。導入する混合ガスの炭酸ガスと窒素ガスと比率は、ガス流量計(東京計装社製)で調整した。本発明の混合ガスは、炭酸ガス・窒素ガス混合比率、80:20、60:40、30:70、10:90、5:95のものを用い、比較例として、窒素ガス(0:100)を用いた。混合ガスのワインへの接触を行うガスドーザーのライン配管径は、1インチ、1ユニットを用い、混合ガスの流量を20リットル/分、ワインの流量を20リットル/分、ワインの温度を15℃に設定した。各混合ガスをワインに接触させ、受タンクで微量の炭酸ガスを溶解させると同時に酸素ガスと過剰な窒素ガスを揮散させた後、ワイン中の溶存炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度を測定した。表1にその結果を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すとおり、混合ガスを用いても、窒素ガスを用いた場合と同様に、ワインの溶存酸素濃度を1.0ppm以下に低減させることができ、かつ、溶存炭酸ガス濃度を最大1,300ppmまで高めることができた。なお、混合ガス接触前の溶存炭酸ガス濃度および溶存酸素濃度は、200ppm、8.2ppmであった。
【実施例2】
【0036】
果実酒原液として、酸化防止剤を添加していないマスカット種の白ワインを用い、異なる濃度の炭酸ガスを含む混合ガスを接触させて得られる本発明のワイン(本発明6−9)の保存試験を実施した。実施例1に記載の方法に準じ、前記白ワインに炭酸ガスと窒素ガス比率の異なる混合ガスを接触することで微量の炭酸ガスを溶解させ、かつ、溶存酸素濃度を1.0ppm以下まで低減させた。その後に、窒素ガス置換した180mlビンに当該ワインを充填し、キャップをした後、火入れ殺菌することにより、本発明のワインを得た。比較として、混合ガスに接触させていない果実酒原液を、本発明と同様に窒素ガス置換した180mlビンに充填し、キャップをした後、火入れ殺菌した白ワイン(比較例2)を用いた。保存後の各ワインに対し、20名のパネラーによる官能評価を行い、各ワインの保存状態を比較検討した。官能評価は比較例との相対評価をブラインドテストにより行い、「酸化臭および褐変化」、「フレッシュ感」、「フルーティ感」の3項目に関して行った。比較例2と比較して品質の良いものを1、同等のものを2、品質の悪いものを3として、各パネラーの各項目ごとの平均値を算出し、スコア合計から総合判定を行った。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示すとおり、本発明のワインは、従来のワインと比較して、保存後の風味の安定性が向上し、酸化防止剤を添加しなくてもフルーティでフレッシュな特徴が明らかに長持ちすることが分かった。
【実施例3】
【0039】
果実酒原液として、酸化防止剤を添加したマスカット種の白ワインを用い、異なる濃度の炭酸ガスを含む混合ガスを接触させて得られる本発明のワイン(本発明10−13)の保存試験を実施した。実施例1に記載の方法に準じ、前記白ワインに炭酸ガスと窒素ガス比率の異なる混合ガスを接触することで微量の炭酸ガスを溶解させ、かつ、溶存酸素濃度を1.0ppm以下まで低減させた。その後に、窒素ガス置換した180mlビンに当該ワインを充填し、キャップをした後、火入れ殺菌することにより、本発明のワインを得た。比較として、混合ガスに接触させていない果実酒原液を、本発明と同様に窒素ガス置換した180mlビンに充填し、キャップをした後、火入れ殺菌した白ワイン(比較例3)を用いた。保存後の各ワインに対し、20名のパネラーによる官能評価を行い、各ワインの保存状態を比較検討した。官能評価は、実施例2と同様の方法で、酸化臭および褐変化、フレッシュ感、フルーティ感に関するスコアを算出後、すべてを平均化した。その結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示すとおり、本発明のワインは、従来のワインと比較して、8週間目、24週目のいずれも明らかに褐変の進行が遅くなっていることが分かった。更に、官能評価において本発明のワインは、従来のワインと比較して、8週間目、24週目のいずれもフルーティでフレッシュ感が保たれていることが分かった。
【実施例4】
【0042】
果実酒原液として、酸化防止剤を添加したマスカット種の白ワインを用い、異なる濃度の炭酸ガスを含む混合ガスを接触させて得られる本発明のワイン(本発明10−13)の保存試験を実施した。実施例1に記載の方法に準じ、前記白ワインに炭酸ガスと窒素ガス比率の異なる混合ガスを接触することで微量の炭酸ガスを溶解させ、かつ、溶存酸素濃度を1.0ppm以下まで低減させた。その後に、窒素ガス置換した180mlビンに当該ワインを充填し、キャップをした後、火入れ殺菌することにより、本発明のワインを得た。比較として、混合ガスに接触させていない果実酒原液を、本発明と同様に窒素ガス置換した180mlビンに充填し、キャップをした後、火入れ殺菌した白ワイン(比較例3)を用いた。保存後の各ワインに対し、20名のパネラーによる官能評価を行い、各ワインの保存状態を比較検討した。官能評価は、実施例2と同様の方法で、酸化臭および褐変化、フレッシュ感、フルーティ感に関するスコアを算出後、すべてを平均化した。その結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表4に示すとおり、本発明のワインは、従来のワインと比較して、12週間目、24週目のいずれも明らかに褐変の進行が遅くなっていることが分かった。更に、官能評価において本発明のワインは、従来のワインと比較して、12週間目、24週目のいずれもフルーティでフレッシュ感が保たれていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に充填後の炭酸ガス濃度が300〜1,300ppm、溶存酸素濃度が1.0ppm以下である果実酒。
【請求項2】
炭酸ガスおよび不活性ガスを、果実酒原液に接触して得られる、請求項1記載の果実酒。
【請求項3】
果実酒の製造工程において、炭酸ガスおよび不活性ガスを果実酒原液に接触し、果実酒中の炭酸ガス濃度が300〜1,300ppm、溶存酸素が1.0ppm以下である状態で容器に充填する、果実酒の製造方法。
【請求項4】
果実酒原液と接触する全ガス中に占める炭酸ガスの割合が5〜80%である、請求項3記載の果実酒の製造方法。
【請求項5】
果実酒原液を容器に充填するまでの間、果実酒中の炭酸ガス濃度を300〜1,300ppmに維持する、請求項3、4記載の果実酒の製造方法。
【請求項6】
容器に充填する際に、容器中の気体を、5〜80%の炭酸ガスを含むガスにより置換する、請求項4、5記載の果実酒の製造方法。