説明

架橋ヒドロゲル

本発明は、ポリエチレンイミン、及び、少なくとも1種の水素結合ポリマーを含む、固体ポリマーゲル組成物とその製造方法を提供する。該組成物は、ポリエチレンイミン又は水素結合ポリマー単独よりも高い粘性を有し、かつ、ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーの混合後直ちに注入可能である。また、組織修復の方法は、約9.25%(w/w)〜約13.65%(w/w)のポリエチレンイミン、及び、約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)のポリビニルアルコールを混合し、注入可能である組成物を形成し、注入可能である組成物を哺乳類の体内の腔に注入し、組成物をインサイチュ凝固させることを含みうる。キットは、複数連式注入器を含み、少なくとも1つのバレルがポリエチレンイミンで充填され、別の少なくとも1つのバレルが少なくとも1種の水素結合ポリマーで充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願番号61/014,347(2007年12月17日出願):発明の名称「架橋ヒドロゲル」の利益を主張し、その内容は、参照によりここにその全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ヒト椎間板は、内部のゲル状の髄核物質を取り囲む外側又は周囲腱構造を含む。該椎間板の構造的完全性を失うと、これらの組織の脱水及び変性が生じ、椎間板の機能の損失につながる。
【0003】
前述の変性によりもたらされる慢性腰痛は、患者における共通した症状である。現在の治療は、ベッドでの療養から、脊椎固定術及び完全な椎間板の置換を含む高度の侵襲的な外科的手術にまで及ぶ。更に、髄核組織の置換又は補充によって、痛みを緩和させることができ、健康的な生理作用が脊椎に戻りうる。ここに記載される架橋ヒドロゲルは、髄核組織の当該置換又は補充において適用され、他の生体適用もされうる。
【0004】
単一ポリマーを含むポリマー組成物を調合し、固体を形成できるが、結果として生じる組成物は、本発明の一態様より一層高い全ポリマー濃度を有し、また注入できない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
本発明は、軟部組織の置換、補充、又は、修復、インプラント剛性構築物、足場及び/又は生体接着剤としての使用のための、すなわち椎体形成術における使用のための、結果として生じる凝固ポリマーゲル及びそれらの中間体並びにその形成方法に関する。
【0006】
本発明のひとつの態様は、ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーを含むポリマーゲル組成物を含むことができ、該組成物は、ポリエチレンイミン又は水素結合ポリマー単独よりも高い粘性を有する。ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーの双方は、混合前に室温又は手術室条件下で注入可能でありうるのに好適な粘性及び特性を有しうる。組成物は、ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーの混合後直ちに注入可能でもありうるが、その後、成形形態(moldable form)に凝固する。組成物は混合後注入可能でありうるが、その後、患者の体内でインサイチュ凝固しうる。水素結合ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリラート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及び、これらの組合せを含みうる。
【0007】
本発明の更なる態様は、約9.25%(w/w)〜約13.65%(w/w)のポリエチレンイミン、及び少なくとも1種の水素結合ポリマーを含むポリマーゲルを含むことができ、該組成物は、ポリエチレンイミン又は水素結合ポリマー単独よりも高い粘性を有する。ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーの双方は、混合後直ちに注入可能であるがその後成形形態に凝固するのに好適な粘性及び他の特性を、混合前に、有しうる。組成物は混合後注入可能でありうるが、その後、患者の体内でインサイチュ凝固しうる。
【0008】
本発明の更なる態様は、ポリエチレンイミン、及び約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)の水素結合ポリマーを含むポリマーゲルを含むことができ、該組成物は、ポリエチレンイミン又は少なくとも1種の水素結合ポリマー単独よりも高い粘性を有する。ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーの双方は、混合後直ちに注入可能であるが、その後成形形態に凝固、及び/又は、患者の体内でインサイチュ凝固しうるのに好適な粘性及び他の特性を、混合前に、有しうる。
【0009】
本発明の更なる態様は、ポリエチレンイミン、及び約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)のポリビニルアルコールを含む固体ポリマーゲルを含むことができ、該組成物は、ポリエチレンイミン又はポリビニルアルコール単独よりも高い粘性を有する。ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーの双方は、混合後直ちに注入可能であるが、その後成形形態に凝固、及び/又は、患者の体内でインサイチュ凝固しうるのに好適な粘性及び他の特性を、混合前に、有しうる。
【0010】
本発明の更なる態様は、約9.25%(w/w)〜約13.65%(w/w)のポリエチレンイミン、及び約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)のポリビニルアルコールを含む固体ポリマーゲル組成物を含むことができ、該組成物は、ポリエチレンイミン又はポリビニルアルコール単独よりも高い粘性を有する。組成物は、ポリエチレンイミン及びポリビニルアルコールの混合後直ちに注入可能でありうる。該組成物は、混合後注入可能でありうるが、その後、成形形態に凝固、及び/又は、患者の体内でインサイチュ凝固しうる。該組成物は、好ましくは、医療処置の間インプラントされるのに十分な時間、注入可能であり続けるが、その後インプラントされた後に比較的早くインサイチュ凝固する。
【0011】
本発明の別の態様において、固体ポリマーゲル組成物を形成するための方法であって、室温又は手術室条件下で注入可能であるのに適した粘性及び特性を有するポリエチレンイミンを用意し;室温又は手術室条件下で注入可能であるのに適した粘性及び特性を有する少なくとも1種の水素結合ポリマーを用意し;ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーを混合することを含む方法を提供し、ここで、混合された成分の粘性は、混合前のポリエチレンイミン又は少なくとも1種の水素結合ポリマーの粘性より大きく、ポリマーゲル組成物は、ポリエチレンイミンなしで使用される場合に、少なくとも1種の水素結合組成物が凝固するより低いポリマー含有量でポリマーゲル組成物が凝固する。
【0012】
本発明の別の態様は、約9.25%(w/w)〜約13.65%(w/w)のポリエチレンイミン、及び、約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)のポリビニルアルコールを混合し、注入可能である組成物を形成し、注入可能である組成物を哺乳類の体内の腔に注入し、組成物をインサイチュ凝固させる、組織修復の方法を含みうる。
【0013】
本発明の更に別の態様において、複数連式注入器を含むキットを提供し、ここで、バレルのひとつは、室温又は手術室条件下で注入可能であるのに十分な濃度のポリエチレンイミンで充填されることができ、バレルの少なくともひとつは、室温又は手術室条件下で注入可能であるのに十分な濃度の水素結合ポリマーで充填されうる。
【0014】
上記態様は、実際は単に解説及び例示するものであり、本発明の範囲を制限又は定義することを意図しない。
【0015】
上述の概要、及び、本出願の以下の好ましい態様の詳細な説明は、添付の図面と合わせて読まれる場合に、一層理解されるだろう。本明細書に記載された図面、実施例、及び、態様は、本発明の構造、特徴、及び、局面の解説及び実例のためのものであって、本発明の範囲を制限するものではないと、理解されるべきである。本出願は、示される配置及び手段そのものに制限されないと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】円柱体に成形されたサンプル組成物の圧縮試験データのグラフ表示である。
【図2】漸増するPEI含有量に関するサンプル組成物の圧縮モジュラスのグラフ表示である(成形時間:4時間)。
【図3】漸増するPEI含有量に関するサンプル組成物の圧縮モジュラスのグラフ表示である(成形時間:18時間)。
【図4】30分間成形されたサンプル組成物の密度測定対浸漬時間のグラフ表示である。
【図5】30分間成形されたサンプル組成物の規格化質量対浸漬時間のグラフ表示である。
【図6】試験サンプル及びコントロールサンプルの代表DSCスキャンのグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書の中に記載される方法、実施例、及び、態様は、本発明の構造、特徴、及び、局面の解説及び実例のためのものであって、本発明の範囲を制限するものではないと、理解されるべきである。
【0018】
本発明のある例示的な態様は、組成物の個々のいずれかの成分よりも高い粘性を有する、結果として生じる固体ポリマーゲル組成物及びその形成方法を対象とする。ポリマーゲル組成物は、成分の混合後直ちに注入可能であり得るが、その後、成形形態に凝固、及び/又は、患者の体内でインサイチュ凝固できる。
【0019】
ヒドロゲルは、その高い含水量及び天然の生理学的組織の模倣能力に起因して、髄核の置換用、及び、体内の様々な他の部位での組織置換及び組織増強用の合成材料の開発に有益である。物理的架橋構造を開発することによって、多くの化学網状組織の形成で使用される毒性の架橋剤を含有させることを回避できるので、有益である。本発明の組成物は、改良された水素結合による高密度の物理的架橋網状組織を含みうる。
【0020】
改良された水素結合効果を生み出す多成分の組合せ、例えば本発明の組成物については、これまでに開示されておらず、更に、自発的に起こる改良された物理架橋によって所望の機械的特性及び弾性特性を有する固体ヒドロゲル構造を形成する2種の注入可能成分の使用は、これまでに開示されていない。
【0021】
本発明の態様は、一成分がPEI又は類似するカチオン性ポリマーを含む、注入可能である多成分系を含みうる。第二の成分は、親水性の、イオン結合ポリマー又は水素結合ポリマーの水溶液、例えば、制限されないが、PVA、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレン オキシド(PEO)(超分枝の変形を含む)、ポリビニル ピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリヒドロキシエチルメタクリラート(PHEMA)、ポリアクリル酸(PAA)、及び、ポリメタクリル酸(PMA)の水溶液を含みうる。例えば、99:1のポリビニルアルコール:ポリビニルピロリドンのような親水性成分(混合物又はコポリマー)の組合せも想定される。
【0022】
本発明の更なる態様は、約9.25%(w/w)〜約13.65%(w/w)のPEI、好ましくは約10.2%(w/w)〜約12.4%(w/w)のPEI、更に好ましくは約11.4%(w/w)〜約11.8%(w/w)のPEIを含み、そしてまた、約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)のPVA、好ましくは、約19.7%(w/w)〜約23.3%(w/w)のPVA、より好ましくは約22.1%(w/w)〜約22.6%(w/w)のPVAを含む、注入可能である多成分組成物である。
【0023】
第一級及び第二級アミン基、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)におけるそれらの基は、強力な水素結合を形成することが知られ、液体状態で非常によく会合する。ポリビニルアルコール(PVA)は、同様に水素結合を形成する。双方のポリマーとも水と混和でき、PEIがPVA水溶液と混合された場合に、単相の溶液が形成される。
【0024】
本発明の態様は、2種の成分のどちらか一方の単独よりも高い粘性を有する組成物を得るために混合する、2種類の低粘性成分から構成されうるポリマーゲルである。この相乗効果は、凝固したゲル、及び、2種の成分から形成されるゲルを安定化する物理的架橋網状組織における圧縮モジュラスの有意な増加で証明される。本願の一局面は、2種の成分の注入可能性、及び、個々の成分の混合直後の最終組成物の注入可能性に関する。これにより、組成物が、結果として生じるゲル調合物に凝固する前に、哺乳類の体内に注入されることが可能となる。本発明のポリマー組成物は、約5分から約32時間、好ましくは20分から16時間、更に好ましくは45分から8時間で、結果として生じるゲル調合物に凝固できる。本分野の通常の当業者であれば、ポリマー組成物は、手術の間に、注入可能であり続けることが好ましいと容易に理解することができるだろう。
【0025】
例えばPEIのような低粘性ポリマーと、例えばPVAのような水素結合可能なポリマーの組合せは、凝結挙動(setting behavior)を与えるために、改良された水素結合効果によってゲルを架橋し、安定化する。2種の粘性組成物の組合せが、弾力網状組織の形成をもたらすことは今までに示されていなかったため、このことは、驚くべき結果だった。PEIを添加することで、組成物の注入可能な性質を犠牲にすることなく、総ポリマー含有量を増加させることができる。多成分系は、注入の前、又は、注入プロセスの間、例えば、従来の静的ミキサーの使用によって、一緒に混合されうる。
【0026】
ポリマー成分を含む材料は、医療処置の直前又はその間に容易にポリマーを混合できるように、別々の容器の中でキットとして提供されうる。ある態様において、ポリエチレンイミンは、室温又は手術室条件下で注入可能であるのに十分な濃度のポリエチレンイミンで充填された少なくとも1つの第一容器で提供でき、少なくとも1種の水素結合ポリマーは、室温又は手術室条件下で注入可能であるのに十分な濃度で少なくとも1種の水素結合ポリマーで充填された少なくとも1つの第二の容器で提供できる。複数連式注入器は、混合チャンバを含むことができ、すなわち、ポリマーを混ぜて該ポリマー注入でき、その後に凝固する組成物を形成する。ポリマーは、凝固ゲル組成物を形成するのに十分な濃度で、複数連式注入器の別々のバレルで提供される。
【0027】
PVAのみを含有するポリマーゲルは、PVA/PEIゲルと同等の全ポリマー濃度で、一般的形態の水素結合相互作用の結果としてより低い圧縮モジュラスを示し、自立膜に成形不可能である。これに比べて、PVA/PEIゲルは、高密度の網状組織の形成に起因する改良された機械的特性を示し、高密度の網状組織が形成されることは、2種の成分の混合物から予測される粘性よりも大きな、混合後の急速な粘性の増加、並びに、固体ゲルに成形される凝結(すなわち凝固)挙動及び能力から明らかである(PVAのみを含有するポリマーとは異なる)。
【0028】
本発明の組成物は、軟部組織の置換、補完、修復として使用可能であり、すなわち、椎体形成術において使用されうる。軟部組織での適用には、椎間板修復(例えば、髄核置換、線維輪の修正)、膝半月板修復、すなわち、いずれかの部位の関節再建手術系を含む。美容整形及び再建手術(例えば、組織増生)のための使用、及び、補正手術を補助するための接着障壁として、すなわち部分的に組成物単独の使用も想定される。そのほかの使用は、(例えば、間充織幹細胞のような)細胞のための足場、(例えば、骨形態形成タンパク質のような)成長因子の取り込み、及び、薬物送達における使用を含む。
【実施例】
【0029】
実施例及び実験
以下の実施例及び実験では、ここに記載される凝固ゲル組成物のいくつかの特性について記載するが、凝固ゲル組成物のいくつかの構造、特徴、及び局面を説明し、解説するのに役立てることのみを意図し、かつ、記載される配置、組成、特性又は特徴そのものに本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0030】
<例1> 組成物の調製
例1では、本発明の組成物のひとつの調合例を示す。表1に参照されるように、PEIをPVAの水溶液と水と混合した。
[表1]PEI/PVA組成

【0031】
PEI(提供されたまま使用;シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)カタログ#408727;バッチ#09529KD;Mn:10kDa)をPVA水溶液と水と混合することによって、組成物を調製した。使用されるPVAのグレードは、モウィオール(Mowiol)28-99 (クラレイスペシャルティーズヨーロッパ(Kuraray Specialties Europe), 99.0-99.8%の加水分解度;Mw:145kDa)だった。PEIとPVAを混合する前に、2種のポリマーは、粘性であったが、流動性があり、すなわち、注入可能であった。ここに記載される注入可能である混合物は、室温及び/又は手術室条件(一般的に室温よりも涼しい)で、約1 mm〜約5 mmの直径の開口を通って流れうる。
【0032】
成分の混合物を75℃の水浴中で維持した。成分を混合して、2種の成分のいずれか単独より増加した、すなわち、高い粘性を有する硬いゲル又はペーストを作り出した。それぞれの成分は注入可能であり、PVA溶液及びPEI溶液を2つの注入器を用いて混合した。混合チャンバを備えた複数連式注入器を使用することもできる。混合直後に、混合物の粘性は著しく増加し、熱が組成物から放散され、混合物は半透明になった。次いで、このペーストを、それが固まっていない状態で、機械試験のときまで密閉された円柱体状の型に移した。サンプルが凝固するまで、混合物の粘性は絶えず増加した。様々なサンプル組成物を上記のように製造し、型に入れて、最低15分間から最高32時間まで任意の時間の範囲内で様々な時間、インキュベートした。サンプル組成物を、円柱体に形成した完全なゲルとして型から外した。
【0033】
液体状態から固体状態への転移は、全ポリマー濃度が32%未満であるPVA単独の組成物では、簡単に観測されない。32%超過のPVA単独ゲル組成物は、固まっていて(sat-up)、すなわち、溶液調合後直ちに凝固し、そして、通常圧下で流動できなかった(すなわち、注入不可能であった)。34%のPVA単独(Mowiol 28-99)の溶液は、攪拌も注入もできない一方で、34%のPVA/PEIの組合せの溶液(22.32%PVA/11.45%PEI:33.77%の総ポリマー含有量)は、安定した凝固ポリマー網状組織に成熟するまえに、長期間にわたって注入可能で固まっていない状態であった。この期間に、結果として生じる組成物をヒト体内に注入できる。次いで、組成物は、体内で凝固できる。
【0034】
<例2> 軸圧縮試験
例1に記載されるように22.32%PVA/11.45%PEI組成物を調合し、次いで1分当たり100%の歪み速度で35%歪みまで軸圧縮で試験した。表2の被検体1、2、及び3は、サンプル組成物の様々なサンプルを表す。PVA単独(濃度28%)のコントロール組成物も試験された。
【0035】
様々なPVA/PEIサンプル組成物は、低圧縮モジュラスの無定形のPVAゲル(成形後)と比較して、容易に凝固し、更に高い圧縮モジュラスを示した。
[表2]

【0036】
表2は、固まっていない状態から32時間凝固、すなわち、成熟させたサンプル組成物の機械試験データを示す。図1は、表2中の被検体の1つの代表曲線のグラフ表示である。サンプル組成物にローディング段階(図1に示される上部の曲線)、及び、アンローディング段階(図1に示される下部の曲線)で、軸圧縮/回復試験を受けさせた。ローディング段階は、サンプル組成物が圧縮された場合における歪みに対する圧力を表す。アンローディング段階は、荷重(すなわち圧力)がサンプル組成物から除かれた場合における、歪みに対する圧力を表す。重ね合わされたローディング及びアンローディング曲線は、「ヒステリシス」を表す。一般的に、高い弾性応答を備えるゲルでは、曲線間の小さな面積(すなわち「狭い(tight)」ヒステリシス)を生じる。一般的に、大きな曲線下面積は、弾性的に変形できず、圧縮後を回復できない組成物であることを表す。
【0037】
表2のサンプル組成物は、35%歪みが生じて、荷重が除かれた後に、それらの初期の高さに非常に近くまで直ちに回復することが観察された(例えば、有意な高差は観察されない)。サンプルの回復は、図1における狭いヒステリシスによって示された。ローディング及びアンローディングサイクルは非常に似ており、最小の塑性変形を示す。圧縮試験後に、これらの試験円柱体は、視覚的に欠陥、割れ目、又は破砕がなく、肉眼的変化がないことが、試験の結果としてサンプルで示された。
【0038】
<例3> 調合対照
漸増するPEI濃度の以下のサンプル組成物に、夫々4時間及び18時間で、例2に記載されたように圧縮試験を行った。各サンプル組成物を、3回調合し、次いで、試験手順に従った。
[表3]全組成(%w/w)

【0039】
図2は、4時間での各サンプル組成物の圧縮モジュラスのグラフ表示である。図3は、18時間での各サンプル組成物の圧縮モジュラスのグラフ表示である。図2及び図3における各データのバーの末端の直線は、サンプル組成物間の変動を表す。4時間での圧縮モジュラスは、PVAのみを含有するコントロール組成物と比較して、PEIも含むサンプル組成物で有意に高かった。圧縮モジュラスはまた、18時間で分析されたPVA/PEIサンプルで一層高い値だった。PEIを含有するゲルは、半透明(結晶化度を示す)であり、成形されうる一方で、PVAのみを含むコントロール組成物は透明であり、成形体の形を保持しない。ポリマーセグメントにおけるヒドロキシルは、隣接するポリマー鎖における他のヒドロキシルに結合するので、PVAヒドロゲルの結晶化度は、一般的に物理的架橋をもたらす。PEIとPVA溶液をブレンドすることによって示される結晶化度は、ゲル形成及び最終圧縮モジュラスの増加を促進する。
【0040】
<例4> 浸水調査
短期間の調査(例えば14日間;n=3)として、22.32%PVA/11.45%PEI組成物を、30分間成形し、一般的な局所的軟部組織環境に対応する、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液、又は、脊椎における椎間板の浸透圧(0.1 MPa)に対応する、デキストラン水溶液(20%w/w)に浸漬させた。サンプルゲル組成物は、水の吸収で、質量が増加し、密度が減少することが分かった。図4は、経時的なサンプル組成物の密度を表す。デキストラン浸漬組成物は、密度の初めの下降の後、開始密度の0.01 g/ml以内にまで回復することができた。しかしながら、PBS浸漬組成物は、密度の初めの下降の後、その密度にまで回復することはできなかった。
【0041】
図5は、経時的な組成物の正規化質量を示す。デキストラン−浸漬組成物は、経時的に安定化を保つ正規化質量を示した一方で、PBS浸漬組成物は、経時的に質量が減った。図4及び図5におけるデータは、デキストランに浸漬された組成物がPBSに浸漬した組成物よりも安定していることを示した。
【0042】
<例5> 代替調合物
PEI及びポリエチレンオキシド(PEO)の組成物は、PEIとPEO(Fluka#: 81280; Mn=10kDa)とを混合することで製造された。PEIは、1:1の質量比で33%のPEO溶液と混合された。混合物は、PEI又はPEO成分単独よりも高い粘性の不透明の溶液の調合物となった。結果として生じる組成物は、PEOとPEIとを混合することで凝固した。
【0043】
<例6> 熱量測定法
示差走査熱量測定法(DSC)は、PVAのみで形成されたゲル組成物(すなわちPEIを含まない)(「コントロールサンプル」)と、PVA/PEIゲル組成物(「試験サンプル」)のサンプルの結晶化温度とを比較するために行った。この調査で示されたように、結晶化温度は、PEIの添加で増加することが分かった。
[表4]組成*

* 組成物割合は、w/wに基づいて、PVA対水の定数比を維持するために選択された。
【0044】
試験サンプルのDSCは、90℃をやや上回る吸熱を示し、一方コントロールサンプルは、75〜85℃の範囲で吸熱を示した(図6を参照のこと)。より大きな吸熱に加えてより高い結晶化温度は、より安定したゲルの指標である。従って、PVAにPEIを添加することは、それが「溶解」しにくい結晶網状組織を形成するという点で、好ましい。ゲル組成物が「溶解」すると、結晶網状組織中の結合が壊れる。PVA/PEI試験サンプルは、高い圧縮モジュラス及びより高い吸熱を示す、安定したゲル組成物である。
【0045】
上述したことから明らかな態様の中で、上記の態様は効果的に達成される。なぜなら、本発明の精神と範囲から逸脱しない限りは、上記形成方法の遂行及び結果として生じる組成物において、一定の変更を行うことができ、上記に含まれる全ての材料は、限定的な意味ではなく例示として解釈されるものとすることを意図する。
【0046】
ここに表された態様は、ここに記載された本発明の全ての一般的及び特定の特徴、並びに、言語上それらの行間にあると言われるかもしれない、本発明の範囲の全記述に及ぶことが意図されることも理解すべきである。特に前記態様において、単数形で列挙される態様、構成要素又は成分は当該構成要素の適合性のある混合物を含むことが意図されると理解されるべきである。
【0047】
当然のことながら、本分野における当業者は、広範な本発明のそれらの概念から逸脱することなく、上記の態様に変更することができる。従って、本発明は、開示された特定の実施例に制限されることはなく、添付の請求の範囲によって定義されるような本発明の精神及び範囲の中での変更に及ぶことが意図されると理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合前に注入可能であるポリエチレンイミン、及び、混合前に注入可能である少なくとも1種の水素結合ポリマーを含む、固体ポリマーゲル組成物であって、
ポリエチレンイミン又は水素結合ポリマー単独よりも高い粘性を有し、かつ、
ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーの混合後直ちに注入可能である、組成物。
【請求項2】
水素結合ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリラート、ポリアクリル酸、及び、ポリメタクリル酸からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
水素結合ポリマーが、ポリビニルアルコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ポリエチレンイミンの含量が、約9.25%(w/w)〜約13.65%(w/w)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ポリエチレンイミンの含量が、約10.2%(w/w)〜約12.4%(w/w)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ポリエチレンイミンの含量が、約11.4%(w/w)〜約11.8%(w/w)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ポリビニルアルコールの含量が、約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)である、請求項3に記載の組成物。
【請求項8】
ポリビニルアルコールの含量が、約19.7%(w/w)〜約23.3%(w/w)である、請求項3に記載の組成物。
【請求項9】
ポリビニルアルコールの含量が、約22.1%(w/w)〜約22.6%(w/w)である、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
約9.25%(w/w)〜約13.65%(w/w)のポリエチレンイミン、及び、約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)のポリビニルアルコールを含む、固体ポリマーゲル組成物であって、
ポリエチレンイミン又はポリビニルアルコール成分単独よりも高い粘性を有し、かつ、
ポリエチレンイミン及びポリビニルアルコールの混合後直ちに注入可能である、組成物。
【請求項11】
凝固ポリマーゲル組成物を形成するためのキットであって、
室温又は手術室条件下で注入可能であるのに十分な濃度のポリエチレンイミンで充填された、少なくとも1つの第一容器、及び
室温又は手術室条件下で注入可能であるのに十分な濃度の少なくとも1種の水素結合ポリマーで充填された、少なくとも1つの第二容器、を含み、
ポリエチレンイミン及び少なくとも1種の水素結合ポリマーを混合して結果として生じる組成物が一定時間注入可能であり、その後成形形態に凝固するのに十分な濃度及び量で、第一及び第二容器中に、ポリエチレンイミン及び水素結合ポリマーが満たされる、キット。
【請求項12】
更に、複数連式注入器を含み、
第一容器が、複数連式注入器のバレルのひとつであり、
第二容器が、複数連式注入器の別のバレルのひとつである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
水素結合ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリラート、ポリアクリル酸、及び、ポリメタクリル酸からなる群から選択される、請求項11に記載のキット。
【請求項14】
水素結合ポリマーが、ポリビニルアルコールである、請求項11に記載のキット。
【請求項15】
ポリエチレンイミンの含量が、約9.25%(w/w)〜約13.65%(w/w)である、請求項11に記載のキット。
【請求項16】
ポリエチレンイミンの含量が、約10.2%(w/w)〜約12.4%(w/w)である、請求項11に記載のキット。
【請求項17】
ポリエチレンイミンの含量が、約11.4%(w/w)〜約11.8%(w/w)である、請求項11に記載のキット。
【請求項18】
ポリビニルアルコールの含量が、約18.02%(w/w)〜約26.62%(w/w)である、請求項14に記載のキット。
【請求項19】
ポリビニルアルコールの含量が、約19.7%(w/w)〜約23.3%(w/w)である、請求項14に記載のキット。
【請求項20】
ポリビニルアルコールの含量が、約22.1%(w/w)〜約22.6%(w/w)である、請求項14に記載のキット。
【請求項21】
一定時間が、最大約4時間である、請求項11に記載のキット。
【請求項22】
一定時間が、30分間未満である、請求項11に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−506753(P2011−506753A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539706(P2010−539706)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/086997
【国際公開番号】WO2009/079507
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(505377463)ジンテス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【出願人】(510167970)ドレクセル ユニヴァーシティー (2)
【Fターム(参考)】