説明

架橋ポリエチレン管

【課題】耐圧性に優れ、しかも配管施工性や生産性の良好な架橋ポリエチレン管を提供する。
【解決手段】0.939〜0.946g/cmの密度を有する架橋ポリエチレン管であって、モデル配管を用いた配管施工性試験における鞘管への最大押し込み力を300N以下に抑え、かつ、耐圧耐久性を高めて熱間内圧クリープ試験における管の破壊時間を170時間以上とした架橋ポリエチレン管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形加工性、機械的特性に優れた水道用あるいは給湯用配管として好適に使用しうる架橋ポリエチレン管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、耐腐食性、施工性に優れたプラスチック配管材が給水・給湯用の配管として用いられており、特に耐圧性、高温度域での耐クリープ性に優れている架橋ポリエチレン管を用いることが主流となっている。中でも高密度ポリエチレンをベース樹脂とするシラン架橋ポリエチレン管は耐圧性に優れるため、より水圧が高い水道用配管への適用がなされるようになってきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、耐圧性を向上させるために密度の高いポリエチレンを原料ポリエチレンとして使用すると、得られた架橋ポリエチレン管が曲がりにくくなり、多少配管の施工がしにくくなるという問題があった。
【0004】
一方、シラン架橋ポリエチレン管の製造効率の向上という観点から、できるだけ押出機に負荷をかけずに製造ラインの速度を上げるために、メルトフローレート(MFR)の大きなポリエチレンをベース樹脂に選択することが好ましい。しかし、ベース樹脂であるポリエチレンのMFRが大きいほど架橋効率が悪くなり、耐圧性も損なわれることから、あまり大きなMFRを有するポリエチレンをベース樹脂として使用することができず、そのことが製造効率向上の妨げとなっていた。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、耐圧性に優れ、しかも配管施工性や生産性の良好な架橋ポリエチレン管を提供することを目的とするものである
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば下記の手段が提供される。
(1)0.939〜0.946g/cmの密度を有する架橋ポリエチレン管であって、モデル配管を用いた配管施工性試験における鞘管への最大押し込み力を300N以下に抑え、かつ、耐圧耐久性を高めて熱間内圧クリープ試験における管の破壊時間を170時間以上としたことを特徴とする架橋ポリエチレン管。
(2)前記管の密度を0.940〜0.946g/cmとし、前記破壊時間を500時間以上に高めたことを特徴とする(1)に記載の架橋ポリエチレン管。
(3)前記管の密度を0.944〜0.946g/cmとし、前記破壊時間が1000時間を超えるものとしたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の架橋ポリエチレン管。
(4)前記管の密度を調節して、前記モデル配管を用いた配管施工性試験における最大押し込み力で表される配管施工性と、前記熱間内圧クリープ試験における管の破壊時間で表される耐圧耐久性とを制御した(1)〜(3)のいずれか1項に記載の架橋ポリエチレン管。
(5)シングルサイト触媒で重合させたポリエチレンを架橋してなる(1)〜(4)のいずれか1項に記載の架橋ポリエチレン管。
(6)給水給湯パイプとして施設し用いることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の架橋ポリエチレン管。
【発明の効果】
【0007】
本発明の架橋ポリエチレン管は、配管施工性や生産性を低下させることなく、耐圧性に優れた架橋ポリエチレン管を提供することができ、水道用配管として好適に用いることができる。さらに、本発明のシラン変性ポリエチレン組成物により、生産性および製品特性を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の架橋ポリエチレン管におけるベース樹脂としては、シングルサイト触媒を用いて重合したポリエチレンが用いられる。シングルサイト触媒とは、活性点が均一のもので、次に示すメタロセン触媒に代表される。このメタロセン触媒は化1に示す(イ)〜(ホ)のように遷移金属(Ti、Zr、Hf、Ru、V、Cr等)が配位子としてシクロペンタジエニル等の不飽和の環状化合物をもつ構造の化合物である。
【0009】
【化1】

【0010】
助触媒としてトリメチルアルミニウムと水との化合物であるメチルアルモキサン(MAO)を用いても良い。
【0011】
シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンは、従来より使用されているマルチサイト触媒を用いて重合されたものに比べて結晶構造が均一で、結晶と結晶とを結ぶタイ分子が多く、機械的強度に優れている。したがって、シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンを使用すれば、従来より用いられているマルチサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンと同程度の密度のものを選択してもより優れた耐圧性を有する架橋ポリエチレン管を得ることができる。すなわち、配管施工性を低下させることなく、従来に比して優れた耐圧性の架橋ポリエチレン管を得ることができるのである。従来より使用されているマルチサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンは、ローポリマーと呼ばれる、短鎖分岐を多く含む低分子量成分を多く含んでいる。特に平均分子量が低いすなわちMFRの大きなポリエチレンにはこれが多い。このローポリマーの存在は架橋効率の低下の原因となり、所定の架橋度を得るためにより多くのシラン化合物やラジカル発生剤の添加が必要となる。一方、シングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンは、マルチサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンと比べると、架橋効率の低下の原因となるローポリマーが少なく、少ないシラン化合物とラジカル発生剤の添加で所定の架橋度を得ることができる。また、このことはシングルサイト触媒を用いて重合されたポリエチレンを用いた場合、より平均分子量の小さなすなわちMFRの大きなものをベース樹脂として選択することが可能とさせる。
【0012】
ポリエチレンの密度が高くなりすぎると、耐圧性能は向上するものの配管施工性が低下し、密度が低くなると配管施工性は向上するが、耐圧性能が低下する。また、MFRが高くなると生産性は向上するが、到達ゲル分率が低くなり、MFRが低くなれば目標ゲル分率への到達は容易になるが生産性が低下する。このような傾向を踏まえて、本発明においては、密度0.938〜0.950g/cm、MFR1.0〜7.0g/10分のポリエチレンが好適である。その理由はこの範囲内であれば耐圧性、配管施工性、生産性において必要な目標値をすべて満足することができるからであり、さらに好ましくは密度0.941〜0.947g/cm、MFR3.0〜6.0g/10分がよい。
【0013】
密度は、JIS K7112(プラスチックの密度と比重の測定方法)のD法(密度勾配管法)で試験温度23℃での測定値、MFRは、JIS K 7210(熱可塑性プラスチックの流れ試験法、試験温度190℃、試験荷重21.18N)に準じる方法にて測定した値である。
【0014】
ベース樹脂には、シングルサイト触媒を用いて重合した、上記の密度、MFRのポリエチレンを用いる。「JIS K 6922−1:1997附属書(規定)ポリエチレン成形材料」にあるように、ここでポリエチレンとは、エチレンの単独重合体、エチレンと5モル%以下の炭素数3以上のαオレフィン例えばブテンー1、ヘキセンー1、4―メチルペンテンー1、オクテンー1など、との共重合体、エチレンと官能基に炭素、酸素、および水素だけを有する1モル%以下の非オレフィン単量体との共重合体を含む。またこの他に、ベース樹脂の10重量%以下の範囲で、マルチサイト触媒で重合した高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン1種以上をブレンドしてもよい。
【0015】
本発明において温度上昇溶離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置を用いた測定は、市販の装置を用いて、次のように行われる。すなわち、J.Appl.Polym.Sci.,26,4217(1981)に記載されている原理に基づき、まず対象とするポリエチレンを140℃で完全に溶解し、140℃から0℃まで−1℃/分で冷却後、0℃で30分間保持した後測定を行う。測定は、段階的に昇温して、各温度において溶出した成分を分取していき、各温度毎の溶出成分について個別にゲルパーミエーションクロマトグラフの測定を行い、溶出温度毎の分子量分布プロファイルを得る。得られた溶出温度毎の分子量分布プロファイルを全て加算することで、そのポリエチレン全体の分子量分布プロファイルを得ることができる。そのデータより、ポリエチレン全体のNw(数平均分子量)およびMw(重量平均分子量)が求められる。前記溶出温度毎のあるいはポリエチレン全体の分子量分布を表す場合、一般にlogM(Mは分子量)とw(分子量Mの成分の重量の全体の重量に対する割合をw)との関係として表した積分表示、およびその曲線を微分した微分表示という形で表される。また同様に、溶出温度をある範囲に限定し、その温度範囲内における溶出分についても同様に表示することができる。
【0016】
本発明を実施例2によって説明する。図1は実施例2の各溶出温度における溶出成分についての分子量分布を三次元的に表示したものである。また、各溶出温度とその温度における溶出量の関係をプロットしたものが図4である。溶出温度毎の分子量分布プロファイルを全て加算して得られたポリエチレン全体の分子量分布について、積分表示および微分表示したものが図4である。図4における積分分布曲線においては、logM=3.5のときのwが5%以下であり、かつlogM=4のときのwが20%以下であり、logM=5のときのwが50%以上である。また最大溶出量を示す温度TWmaxは、総溶出分を温度ごとにプロットした図7において、最大溶出量を示す温度である。本発明においてはこの温度が81〜105℃の温度範囲にあることが必要とされる。このようにして求めたTWmaxから、前記最大溶出量を示す温度TWmaxより30℃低い温度(TWmax−30)℃と前記TWmaxより15℃低い温度(TWmax−15)℃との間に溶出される総溶出分の分子量分布を求めることができる。その分子量分布を図8に示す。本発明においては、分子量分布の微分表示で少なくとも2個の極大点を有することが必要とされる。このうち最も小さい極大点分子量をM1T、最も大きい極大点分子量をM2Tとそれぞれした場合、
3<logM1T<4
4<logM2T<5.2である。
また本発明は、図8の前記(TWmax−30)℃と前記(TWmax−15)℃との間に溶出される総溶出分の分子量分布の積分表示において、logM=4のときのwが50%以下であることが必要とされる。
【0017】
ポリエチレンが温度上昇溶離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置を用いた測定において、(1)総溶出量の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比、Mw/Mnが2.5〜9.0であり、(2)総溶出量の分子量分布の積分表示、すなわちlogMとwの関係を示す曲線において(ここでMとは分子量、wは重量%)、以下の特性a〜d:
a.logM=3.5のときのwが5%以下であり、かつlogM=4のときのwが20%以下であり、logM=5のときのwが50%以上である;
b.最大溶出量を示す温度TWmaxが81℃〜105℃の範囲内にある;
c.前記最大溶出量を示す温度TWmaxより30℃低い温度(TWmax−30)℃と前記TWmaxより15℃低い温度(TWmax−15)℃との間に溶出される総溶出量の分子量分布の微分表示において少なくとも2個の極大点を有する;
d.前記極大点における最も小さい極大点分子量をM1T、最も大きい極大点分子量をM2Tとそれぞれした場合、
3<logM1T<4
4<logM2T<5.2
である架橋ポリエチレン管は耐圧性と生産性が優れた特性を示し、好適に使用できる。
【0018】
ポリエチレンが前記(TWmax−30)℃と前記(TWmax−15)℃との間に溶出される溶出分の分子量分布の積分表示において、logM=4のときのwが50%以下であることを満たすことを特徴とする架橋ポリエチレン管は耐圧性と生産性が優れており、特に好適に使用できる。
【0019】
本発明における架橋ポリエチレン管は、上記のポリエチレンを管状に成形し、シラン架橋法で架橋してなるものである。具体的には、一つの方法として、反応が可能な押出機等を用い、ベース樹脂にシラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒、また、必要に応じて酸化防止剤などの添加剤を配合し、押出機内で加熱しながら、溶融、混練、反応といった工程を経て、管状に押出し、管状に成形、冷却することで、シラン変性ポリエチレン組成物から成る成形管とし、その成形管に水の存在下で適当な熱を加えることでシラノール縮合反応を促進させる架橋処理を施すことで架橋ポリエチレン管を得ることができる。このような方法をシラン架橋ポリエチレン管の一段製造法と呼んでいる。また、もう一つの方法として、第一工程にて、反応が可能な押出機等を用い、ベース樹脂にシラン化合物とラジカル発生剤、また、必要に応じて酸化防止剤などの添加剤を配合し、ここではシラノール縮合触媒は配合せず、押出機等の反応機内で加熱しながら溶融、混練、反応といった工程を経て、ストランド状に押出し、これを冷却、カッティングすることで、ペレット状のシラン変性ポリエチレン組成物とし、第二工程にて、このシラン変性ポリエチレン組成物と、例えば別途工程で予め作製したポリエチレンをベース樹脂としたシラノール縮合触媒と必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を配合したマスターバッチと、を配合し、押出機内で加熱しながら溶融、混練の工程を経て、管状に押出し、管状に成形、冷却することで、シラン変性ポリエチレン組成物から成る成形管とし、その成形管に水の存在下で適当な熱を加えることでシラノール縮合反応を促進させる架橋処理を施すことで架橋ポリエチレン管を得ることができる。このような方法をシラン架橋ポリエチレン管の二段製造法と呼んでいる。
【0020】
シラン変性ポリエチレン組成物のMFRが、成形管を成形する際、すなわち上記一段製造法や二段製造法の第二工程における生産性に大きく影響する。シラン変性ポリエチレン組成物は、シラン変性する前のベース樹脂であるポリエチレンよりも分子量が上がることで、そのMFRは低下する。管などを押出成形する場合、このシラン変性ポリエチレン組成物のMFRが0.01〜5.0g/10分の範囲内であることが望ましく、このMFR値はラジカル発生剤の配合量でも調節可能であるが、ベース樹脂とするシングルサイト触媒を用いて重合したポリエチレンのMFRにも好適な範囲があり、1.0〜7.0g/10分のものを用いるとよい。どちらの方法を採用するにしても架橋処理する方法としては、例えば、85〜95℃の温水槽に1〜24時間程度浸漬する方法や水蒸気に1〜24時間接触させる方法がある。
【0021】
シラン化合物、ラジカル発生剤等の配合量を調整して、得られる架橋ポリエチレン管のゲル分率が65%以上、好ましくは75%以上となるようにすると耐熱性及び耐圧特性の点で優れたパイプとなる。ここでゲル分率はJIS K 6787−1997 水道用架橋ポリエチレン管 附属書7(規定)水道用架橋ポリエチレン管のゲル分率試験方法に準じて測定した値である。
【0022】
シラン架橋法に用いられるシラン化合物は、後述するラジカル発生剤の存在下で前記ポリエチレンと反応し、一般式RR’SiY(式中、Rは例えばビニル基、アリル基などの不飽和炭化水素基、またはハイドロカーボンオキシ基、Yはメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基に代表されるアルコキシル基などの加水分解可能な有機基、R’はRまたはYと同様の置換基である)で表される。より具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランなどが挙げられる。シラン化合物の配合量は、ベース樹脂100重量部に対して0.2〜5重量部程度が好ましい。
【0023】
ラジカル発生剤としては、シラン架橋に用いられるものであれば特に限定されず、例えばジクミルパーオキサイド、ジ−(t−ブチルパーオキシ)−m−ジ−イソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシジイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシクメン、4,4’−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレリック酸n−ブチルエステル、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどの有機過酸化物、アゾビス−イソブチロニトリル、ジメチルアゾイソジブチレート等のアゾ化合物が挙げられる。ラジカル発生剤の配合割合は、ラジカル発生剤の種類や、ラジカル捕獲機能をもつ添加剤の存在量にも因るが、シラン化合物100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0024】
また、シラノール縮合触媒としては、シラン架橋に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート、ジオクチルスズジラウレート、スズ(II)オクテート、ナフテン酸スズ、カプリル酸亜鉛、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジイソプロピルチタネート等が挙げられる。シラノール縮合触媒の配合割合は、ベース樹脂100重量部に対して0.0005〜1重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0025】
本発明における樹脂組成物には以上の成分の他に酸化防止剤、難燃剤、架橋助剤、耐候剤、着色剤、充填剤、他の安定剤などの添加物を適量配合しても良い。酸化防止剤としては1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンやペンタエリスリチル−テトラキス[3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。酸化防止剤の配合量は、ベース樹脂100重量部に対して0.05〜0.6重量部、さらに0.1〜0.5重量部とすると好ましい
【実施例】
【0026】
本発明を実施例に基づきさらに説明する。
(実施例1)
(2段製造法で架橋PE管を製造する場合)
[シラン変性ポリエチレン組成物]
シングルサイト触媒を用いて重合した密度0.938g/cm、MFR2.1g/10分のポリエチレン100重量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.2重量部、ジクミルパーオキサイド0.11重量部(ビニルトリメトキシシラン100重量部に対して5.0重量部)を配合してタンブラーにて混合した混合物を反応ゾーン温度210℃、ストランドダイ温度(T1)223℃に設定した、スクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機にてストランド形状に押出し、冷却、カッティングを経て、シラン変性ポリエチレン組成物のペレット状コンパウンドを得た。
[触媒マスターバッチ]
上記と同様のポリエチレン100重量部に対して、ジブチルスズジラウレートを1重量部(最終的にベース樹脂100重量部に対して0.05重量部となる量)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを5重量部配合して、ストランドダイ温度(T2)200℃に設定した、スクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機にてストランド形状に押出し、冷却、カッティングを経て、ペレット状の酸化防止剤およびシラノール縮合触媒マスターバッチを作製した。
[架橋ポリエチレン管の作製]
得られたシラン変性ポリエチレン組成物と触媒マスターバッチとを95重量部:5重量部の割合でタンブラーにて混合し、パイプダイ温度(T3)223℃に設定した、スクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機にて管状に押出し、真空成形、冷却を経て、内径10mm、肉厚1.5mmの成形管を得た。得られた成形管を95℃の温水に24時間浸漬し、実施例1の架橋ポリエチレン管を作製した。
【0027】
(実施例2〜5、7)(比較例1〜6)
表1に示すポリエチレンをベース樹脂として、実 施例1と同様の手順で得られたシラングラフトポリエチレンと触媒マスターバッチとを実施例1と同様の割合で混合して、架橋ポリエチレン管を作製した。
【0028】
(1段製造法で架橋ポリエチレン管を製造する場合)
(実施例6)
[触媒マスターバッチ]
シングルサイト触媒を用いて重合した、密度0.941g/cm、MFR3.5g/10分のポリエチレン100重量部に対して、ジブチルスズジラウレートを1重量部、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを5重量部配合して、スクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機にて、加熱しながら溶融、混練を経て、温度(T2)200℃に設定したストランドダイからストランド形状に押出し、冷却、カッティングを行って、ペレット状の酸化防止剤および触媒マスターバッチを作製した。
[架橋ポリエチレン管の作製]
上記と同様のポリエチレン100重量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.6重量部、ジクミルパーオキサイド0.13重量部(ビニルトリメトキシシラン100重量部に対して5重量部)を配合してタンブラーにて混合した混合物をスクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機にて、反応ゾーン温度を210℃に設定し、加熱しながら溶融、混練、反応を経て、温度(T3)222℃に設定したパイプダイから管状に押出し、真空成形、冷却を経て、内径10mm、肉厚1.5mmの成形管を得た。得られた成形管を95℃の温水に24時間浸漬し、実施例6の架橋ポリエチレン管を作製した。
【0029】
表1に、ベース樹脂のポリエチレンの密度、MFR、およびシラン変性後のMFRを示す。密度は、JIS K7112(プラスチックの密度と比重の測定方法)のD法(密度勾配管法)により試験温度23℃で測定した値、MFRは、JIS K 7210(熱可塑性プラスチックの流れ試験法、試験温度190℃、試験荷重21.18N)に準じる方法にて測定した値である。なお、表1のゲル分率の測定方法はJIS K 6787−1997水道用架橋ポリエチレン管 附属書7(規定)水道用架橋ポリエチレン管のゲル分率試験方法に準じて測定する値である。また温度上昇溶離分別とゲルパーミエーションクロマトグラフを組み合わせたクロス分別装置は三菱化学製クロス分別クロマトグラフCFCT105Aを用いて、各温度での溶出成分の分子量分布を測定した。測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
カラム構成:Shodex AD−806M/S(昭和電工(株))
GPC測定温度:140℃
溶媒:オルト−ジクロロベンゼン
流速:1.0ml/分
試料濃度:0.4g/100ml(酸化防止剤のBHTを0.1%含む)
注入量:0.5ml検出器:赤外検出(3.42μ)
溶出温度:29フラクション
0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,49,52,55,58,61,64,67,70,73,76,79,82,85,88,91,95,100,120,140℃
コーティング:プレカラムへのコーティング条件は次のとおり
140℃から0℃へ、140分かけて冷却(−1℃/分)
分子量の換算 汎用較正曲線を使用し、ポリエチレンとして分子量に換算した。
【0030】
実施例2、実施例7、比較例6の分子量分布を温度および分子量で三次元に表示した立体図を図1〜3に示す。図4〜6にそれぞれ実施例2,実施例7、比較例6のポリエチレンの総溶出量の分子量分布の微分表示および積分表示を示す。Y軸は全体の割合で表示してあり、100倍すると重量分率(%)が得られる。図7に実施例2の溶出温度曲線を示す。図8〜10に実施例2、実施例7、比較例6のポリエチレンの最大溶出量を示す温度TWmaxより30℃低い温度(TWmax−30)℃とTWmaxより15℃低い温度(TWmax−15)℃との間に溶出される溶出分の分子量分布の微分表示および積分表示を示す。この場合もY軸は100倍すれば重量分率(%)が得られる。実施例2,実施例7、比較例6のMw/Mnを計算するともに、logM=3.5のときのwの値、logM=4のときのwの値、logM=5のときのwの値、最大溶出量を示す温度TWmax、最大溶出量を示す温度TWmaxより30℃低い温度(TWmax−30)℃と前記TWmaxより15℃低い温度(TWmax−15)℃との間に溶出される溶出分の分子量分布の微分表示の極大点における最も小さい極大点分子量M1T、最も大きい極大点分子量M2Tの対数値logM1T、logM2T、(TWmax−30)℃と(TWmax−15)℃との間に溶出される溶出分の分子量分布の積分表示において、logM=4のときのwの値を読み取った。その値を表2に示す。なお、シラン変性ポリエチレン組成物を調整する際に用いたビニルトリメトキシシランとジクミルパーオキサイドの配合量、および、ダイの設定温度(T1、T3)は表3に示す通りとした。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
架橋ポリエチレン管に対して以下に示す3項目で評価を行った。
(耐圧性)
JIS K 6787−1997 水道用架橋ポリエチレン管 付属書4(規定)水道用架橋ポリエチレン管の熱間内圧クリープ試験方法における試験温度95℃、円周応力4.6MPaにて試験を行い、管が破壊するまでの時間を測定した。目標値は170h以上、好ましくは500h以上である。
【0035】
(配管施工性)
高密度ポリエチレン製のサヤ管に、架橋ポリエチレン管を挿入する時の最大押し込み力を測定した。試験に用いたサヤ管は一般的なモデル配管で、内径が22mm、長さ15mで、曲げ半径450mm、曲げ角度90°の水平曲げ4ヶ所と、曲げ半径150mm、曲げ角度90°の立ち上げ曲げ1ヶ所を設けたものである。目標値は300N以下、好ましくは260N以下である。
【0036】
(生産性)
JIS K 6787−1997 水道用架橋ポリエチレン管 第6項.外観及び形状、第7項.寸法及びその許容差に適合する管が得られるための製造速度の最大値をm/分で表した。管のサイズは代表として呼び径10の場合について行った。目標値は9m/分、好ましくは10m/分以上である。これらの結果を表1に示す。
【0037】
実施例1〜実施例4は、架橋ポリエチレン管のベース樹脂として規定のポリエチレンを用いており、耐圧性能、配管施工性、生産性の全ての評価項目において、それぞれの目標値を上回った。
【0038】
実施例1〜実施例6は、本発明の(3を満たす架橋ポリエチレン管を作製した例である。耐圧性能、配管施工性、生産性の全ての評価項目において、それぞれの目標値を上回った。中でも実施例2、3はベース樹脂であるポリエチレンとして特に好ましい範囲の密度とMFRのもを使用しているため、耐圧性能、配管施工性、生産性の評価項目それぞれ全てにおいて、特に好ましい値を上回った。また、ベース樹脂の密度とMFRが同じである実施例5と実施例7を比較した場合、実施例7は(1のみを満たす架橋ポリエチレン管であるが、耐圧性能、配管施工性、生産性の評価項目それぞれ全てにおいて目標値を上回った。それよりも実施例5は、特に耐圧性と配管施工性に優れたものとなっていた。また、実施例2と実施例6は同じポリエチレンをベース樹脂として用い、実施例2は二段製造法、実施例6は一段製造法を用いて架橋ポリエチレン管を作製した例である。この両者の評価結果を比較すると、大きな差は無く、何れの方法を用いても、本発明は効果を発揮することがわかった。
【0039】
比較例1の架橋ポリエチレン管は、用いたポリエチレンの密度が小さかったので、耐圧性に劣るものであった。比較例2の架橋ポリエチレン管は、用いたポリエチレンの密度が大きく、配管加工性に劣るものであった。比較例3〜5の架橋ポリエチレン管は、ベース樹脂にマルチサイト触媒を用いて重合させたポリエチレンを使用して作製したものである。比較例3の架橋ポリエチレン管は、密度は実施例4とほぼ同等であるが、耐圧性に劣るものとなった。比較例4は比較例3の耐圧性の向上をはかってMFR値の低いポリエチレンをベース樹脂に選定した場合ものであるが、それによって生産性が低いものとなった。比較例5は生産性を確保できるようMFRを高く保ち、耐圧性が目標値をクリアできる最低密度のポリエチレンをベース樹脂に選定した場合のものであるが、配管施工性に劣るものとなった。これらの結果はマルチサイト触媒を用いて重合させたポリエチレンをベース樹脂にした架橋ポリエチレン管では、3つの性能を同時に満足できないことを示している。比較例6は実施例2に対して、密度、MFRにおいて、同じ値であるがマルチサイト触媒を用いて重合したポリエチレンをベース樹脂として用いた例であり、耐圧性が低いものとなった。
【0040】
また、シラン変性ポリエチレン組成物は、シラン変性する前のベース樹脂であるポリエチレンよりも分子量が上がることで、そのMFRは低下する。その低下率を比較した場合、(3を満たす実施例1〜5においては、シラン変性ポリエチレン組成物のMFRとベース樹脂であるポリエチレンのMFRとの比が0.57〜0.81であり、それと比較して、実施例7および比較例3〜6においてはその比が0.06〜0.28であった。これからわかるように、シラン変性によるMFRの低下率が低く、シラン変性ポリエチレン組成物を押出成形して成形管を作製する際、押出スクリューにかかる負荷の低減、樹脂圧力の低減を図ることができることも本発明の効果である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例2の分子量分布を温度および分子量で三次元に表現した立体図。
【図2】実施例7の分子量分布を温度および分子量で三次元に表現した立体図。
【図3】比較例6の分子量分布を温度および分子量で三次元に表現した立体図。
【図4】実施例2のポリエチレンの総溶出量の分子量分布の微分表示および積分表示図。
【図5】実施例7のポリエチレンの総溶出量の分子量分布の微分表示および積分表示図。
【図6】比較例6のポリエチレンの総溶出量の分子量分布の微分表示および積分表示図。
【図7】実施例2の溶出温度曲線図。
【図8】実施例2のポリエチレンの最大溶出量を示す温度TWmaxより30℃低い温度(TWmax−30)℃とTWmaxより15℃低い温度(TWmax−15)℃との間に溶出される溶出分の分子量分布の微分表示および積分表示図。
【図9】実施例7のポリエチレンの最大溶出量を示す温度TWmaxより30℃低い温度(TWmax−30)℃とTWmaxより15℃低い温度(TWmax−15)℃との間に溶出される溶出分の分子量分布の微分表示および積分表示図。
【図10】比較例6のポリエチレンの最大溶出量を示す温度TWmaxより30℃低い温度(TWmax−30)℃とTWmaxより15℃低い温度(TWmax−15)℃との間に溶出される溶出分の分子量分布の微分表示および積分表示図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.939〜0.946g/cmの密度を有する架橋ポリエチレン管であって、モデル配管を用いた配管施工性試験における鞘管への最大押し込み力を300N以下に抑え、かつ、耐圧耐久性を高めて熱間内圧クリープ試験における管の破壊時間を170時間以上としたことを特徴とする架橋ポリエチレン管。
【請求項2】
前記管の密度を0.940〜0.946g/cmとし、前記破壊時間を500時間以上に高めたことを特徴とする請求項1に記載の架橋ポリエチレン管。
【請求項3】
前記管の密度を0.944〜0.946g/cmとし、前記破壊時間が1000時間を超えるものとしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の架橋ポリエチレン管。
【請求項4】
前記管の密度を調節して、前記モデル配管を用いた配管施工性試験における最大押し込み力で表される配管施工性と、前記熱間内圧クリープ試験における管の破壊時間で表される耐圧耐久性とを制御した請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋ポリエチレン管。
【請求項5】
シングルサイト触媒で重合させたポリエチレンを架橋してなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の架橋ポリエチレン管。
【請求項6】
給水給湯パイプとして施設し用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の架橋ポリエチレン管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−120764(P2007−120764A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319369(P2006−319369)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【分割の表示】特願平11−115539の分割
【原出願日】平成11年4月22日(1999.4.22)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】