説明

架橋促進剤及び硫黄を用いないエラストマーゴム及びゴム製品

【課題】架橋促進剤及び硫黄を用いないエラストマーゴム及びゴム製品の提供
カルボキシル化アクリロニトリルポリブタジエンラテックスを従来用いられてきた硫黄及び架橋促進剤を用いることなく架橋してエラストマーの薄いフィルムを製造するための組成が開示されている。それによって、それぞれ天然ゴムのラテックスタンパク質及び加硫促進剤の存在により引き起こされる、接触することにより直ちに発症するI型の過敏症及び遅延して発症するIV型の過敏症の健康に関連する問題の可能性を減少させるものである。また、以下のとおり、ラテックス組成物を使用する手袋を製造するためのディッピング工程が開示される。
【解決手段】
カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックスをメタクリル酸と予め混合しておくか、又はこれに換えて自己架橋されたラテックスを用い、酸化亜鉛を添加し,pHを9〜10に調節し、全固相物質を18〜30重量%の範囲なるように水で希釈する;
手袋のフォーマを前記組成物中に浸漬してフォーマ上にラテックスの薄いフィルム層を形成し;手袋のフォーマ上の薄いラテックスのフィルムを乾燥させて手袋のフォーマ上のラテックスのフィルムを架橋させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックスにメタクリル酸を添加すること又は自己架橋性カルボキシル化アクリロニトリルラテックスを使用することにより得られる組成物をモールド又はフォーマの表面に沈積させ、架橋促進剤及び遊離状の硫黄を用いることなく、沈積物を架橋することにより得られる架橋されているゴム製のフィルムからなるエラストマーゴム手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム製医療用手袋などの浸漬したラテックス製造物の製造には、原料物質に天然ゴムラテックスが永年用いられてきた。このようにして製造された天然ゴム製のラテックスの医療用手袋は卓越した伸縮性及び血液に含まれ病原体が移動を阻止する障壁となることで知られている。
【0003】
天然ゴム手袋の製造方法では、架橋剤及び架橋を行う際の架橋促進剤となる化学物質として遊離している硫黄を天然ゴムラテックスに添加することが行われてきた。具体的には、手の形状であるモールド又はフォーマを、架橋剤及び架橋促進剤を添加した天然ゴムラテックス混合物中に1回又は数回浸して、モールド又はフォーマ表面に所望の厚さの層を堆積させる。所望の厚さとなったゴム手袋は、乾燥されて、加熱された温度条件下に架橋された。
架橋方法は天然ゴムフィルムに高度の伸縮性を付与するための基本となる工程である。
このようにして天然ゴムラテックスから製造された天然ゴム手袋は、優れた障壁性、機械的特性及び物理特性を有するものとなる。
【0004】
天然ゴムラテックス中にはタンパク質、脂質及び微量成分からなる5%以下の非ゴム成分を含んでいる。天然ゴムラテックスを病院内で使用することが増加するに伴って、その使用者に、タイプIの過敏症を増加させる結果となった。天然ゴムラテックス手袋に使用者に直接触れることにより引き起こされるタイプIの過敏症は、天然ゴム中に存在する残留抽出可能なラテックスたんぱく質により引き起こされる。直ちに発症する過敏症は手袋に触った後、2時間以内に引き起こされる、IgE(循環している血液中に抗体)の仲介によるアレルギー性の反応である。
【0005】
皮膚の表面には、ラテックスと接触した点を越えて入り混じった状態であるハイブス(hives)の中に見出すことができる。全身に引き起こされるアレルギー性の症状は、両眼に対するかゆみ、唇や舌に対する腫れ上がり、息切れ、めまい、腹部のいたみ、吐き気、極度の緊張状態及び稀には過敏症によるショック状態となる。
【0006】
天然ゴムラテックスたんぱく質により引き起こされる過敏症の症状が進んだ人は天然ゴムラテックス及び天然ゴムラテックスから製造された製品に対してこれ以上の接触することを避けるように忠告される。
ニトリルラテックス、カルボキシル化ニトリルラテックス、ポリクロロプレンラテックス又はポリブタジエンラテックスなどの合成ラテックスにはたんぱく質を含まない。
たんぱく質アレルギーが進んだ人には、ニトリルラテックス、カルボキシル化ニトリルラテックス、ポリクロロプレンラテックス又はポリブタジエンラテックスなどから製造される合成ラテックス製の手袋のみを使用することが勧められる。
【0007】
これらの合成ゴムラテックスにより製造される手袋は天然ゴムラテックスによる手袋と比較すると物理的な特性の点では等価又は良好であるとの評価を得ているものの、合成ゴムラテックスの手袋は天然ゴムラテックスによる手袋と比較すると、遮断特性の点で良好でないと言われている。
【0008】
合成ゴムによる医療用手袋の製造方法には、天然ゴムによる手袋の製造方法と同じ方法が採用される。
同一の手順により合成エラストマーラテックスの組成物からなる所望の厚さからなる薄いフィルムを、手の形をしたモールド又はフォーマーの表面に付着させ、乾燥させ、架橋する。このようにして得られた、薄いエラストマー手袋は所望の機械的及び物理的特性を有するところとなる。このことを目標として数々の合成ゴムエラストマー手袋が開発され、市場に登場した。カルボキシル化されたニトリルゴムは合成ゴム手袋を製造する際に最も普通に用いられている。
【0009】
天然ゴムラテックス及び合成ゴムラテックスから製造されたゴム製の手袋の製造方法には、架橋促進剤を用いた硫黄をベースとした架橋プロセスが用いられる。架橋促進剤は、具体的には、ジチオカルバメート、テトラメチルチウラムジサルファイド(TMTD)及びメルカプトベンゾチアゾール(MBT)などの硫黄化合物である。これらの架橋促進剤は架橋速度を促進させることができる。架橋促進剤を用いない場合には、硫黄のみを用いて加硫反応を行うことになる。この反応は140℃の高温下に数時間の処理を必要とし、反応はゆっくりと進むこととなる。
【0010】
工業的にゴム手袋を製造する際に架橋促進剤を積極的に用いた結果、前記以外の健康に問題を引き起こす結果となった。これらの架橋促進剤はアレルギー性の症状である接触皮膚炎である遅延型過敏症IVを引き起こす。遅延型過敏症IVは接触後24〜72時間経過した後に、引き起こされる。引き起こされる症状は一般的に手や腕の表面に見られ、通常点在する発疹、皮膚の赤化、時として皮膚のひび割れや水ぶくれをもたらす。
【0011】
天然ゴムラテックスの手袋を使用することを止めて、ニトリルゴムラテックスの手袋に変更する場合に、ニトリルゴムラテックス中に過剰量の架橋促進剤が残渣として残されていると、I型の過敏症を避けることができるものの、IV型の過敏症を引き起こす結果となる。
【0012】
この結果、硫黄による架橋剤、又架橋促進剤の使用を排除して、合成ゴム手袋を製造する方法が求められている。硫黄による架橋剤を使用せず、架橋促進剤も使用することなく、カルボキシル化ニトリルゴムラテックスの場合には、硫黄及び架橋促進剤を使用せずに独自の方法により架橋を起こさせることが必要となる。この方法としては、酸化亜鉛を存在させることにより、共有結合による架橋と同様に、架橋に亜鉛イオンを、イオンの状態として利用するものである。この方法は困難な方法であるものの、現在必要とされている方法である。これが本発明の骨子ともなっている。
【0013】
米国特許第5,014,362号(特許文献1)は、酸化亜鉛及び硫黄を用いることによるカルボキシル化ニトリルゴムの架橋方法である。典型的なカルボキシル化ニトリルゴムは種々な割合により形成されるアクリロニトリル、ブタジエン及び有機酸からなるセグメントから成り立っている。硫黄及び架橋促進剤を用いることによりブタジエンのサブセグメント中に共有結合による架橋を形成することができる。また、カルボキシル化アクリロニトリル(有機酸)の部分には酸化亜鉛などの金属酸化物及び他の金属塩など用いることにより、イオン結合が生じさせることができる。亜鉛イオンによるイオン性の架橋を行う事によりゴムのフィルムの張力、破断力、耐摩擦力の増加に有効である。
架橋の機構が単にイオン結合に依存する場合には、油及び化学品に対する抵抗性は質的な信頼性が低い特性のゴム製品にあっては低下する結果となる。
【0014】
以上のことから、手袋などのカルボキシル化されたニトリルゴム製品にあっては、硫黄及び架橋促進剤による共有結合と、酸化亜鉛などの金属酸化物及び金属塩によるイオン性の架橋処理を組み合わせて用いることにより、効果的な架橋を得ることとすることが常識となっている。
しかしながら、架橋方法において、このような架橋促進剤を用いることは、IV型の遅延型の過敏症について新たな健康上の問題を作り出す結果となった。
【0015】
ゴムの強さは、有機過酸化物により重合反応を促進させるために、有機ジメタクリレート亜鉛及び/又はアルカリ性メタクリレート亜鉛をゴムに添加することにより、向上できることが広く知られるにいたった。
具体的には以下の通りである。ポリブタジエンとメタクリル酸を混合し、次で酸化亜鉛を混合して耐摩耗性に優れた組成物を得ることができる(特許文献2 特開昭53−125139号公報、特許文献3 特開昭52−121653号公報)、ジエン系ゴムとメタクリル酸、酸化亜鉛、有機過酸化物の混合物に、非重合性カルボン酸を添加することにより、天然ラテックスに比較して、引張り特性が良好な合成ポリマーを得ることができる(特許文献4 特開昭53−85842号公報)。メタクリル酸、酸化亜鉛及び過酸化物を用いることにより、イオン結合を存在させなくてもNBRの架橋を可能にする。
【0016】
硫黄硬化促進剤又は無酸化亜鉛(二価の亜鉛を含まず)の存在下に架橋することにより得られる剛性の高いゴム組成物であり、張力及び耐薬品性を有し、同時に従来の製品に比べて軟質である軟質ニトリルゴム製品を得ている(特許文献6 特許3517246号明細書、特表2000−503292号公報)。硫黄含有架橋促進剤はメルカプトベンゾチアゾール(MBT)と組み合わせたテトラメチルチウラムジスルフィドを用いている。この反応生成物である軟質ニトリルゴム中には硫黄を含有することなる。
【0017】
アクリルニトリルとブタジエンと不飽和カルボン酸とのコポリマーであるカルボキシル化ニトリルゴムには、亜鉛とカルボキシル基を存在させることにより、イオン結合を形成することができる。しかしながら、亜鉛を含む化合物による共有結合を形成することが難しく、そのため少ない添加量の硫黄を用いて硫黄の架橋を用いることに重点が置かれる。具体的には、特表2002−527632号公報(特許文献7)は、アクリルニトリルとブタジエンと不飽和カルボン酸とのコポリマーであるカルボキシル化ニトリルゴムを1乃至3phrの硫黄及び0.5phrの多価金属酸化物で架橋されている手袋について記載されている。
【0018】
米国特許6673871B2号明細書(特許文献8)では、手袋などのエラストマー製品に関し、硫黄を含む架橋剤や架橋促進剤を使用せずに、酸化亜鉛などからなる金属酸化物を架橋剤として用いて手袋などのエラストマー生成物を製造している。使用されるエラストマーはカルボキシル化されていないポリブタジエンが用いられ、100℃以下の温度、より詳細には85℃以下の温度で架橋される。対応する日本特許である特開2004−526063号公報(特許文献8)では、前記合成ポリマーを、架橋促進剤を使用せずに架橋している。より詳細には、硫黄を含まない条件下に架橋剤を用いて、酸化亜鉛などの金属酸化物からなり、硫黄置換を行うことができる85℃より高くならない温度で架橋を行っている。しかしながら、主として金属酸化物を用いて架橋を行うことを述べているものの実際には困難を伴うことを示していることが分かる。
【0019】
Andrew Kells and Bob Grobes 「Cross−linking in carboxylated nitrile rubber dipped films」 LATEX 24−25, January 2006,フランクフルト、ドイツ (非特許文献1)には、僅かな量の硫黄と共に、架橋促進剤であるテトラメチルチウラム(TMTD)、2、2’−ジチオ−ビス(ベンゾチアゾール)(MBTS)、N−シクロヘキシルベンゾチアゾールースルフィンアミド(CBS)及び亜鉛ジエチルチオカルバメート(ZDEC)及び必要とされる酸化亜鉛用いて、使用できる特性を有しているカルボキシル化ニトリルラテックスを得たことが示されている。一方で、硫黄及び硫黄をベースとした架橋促進剤を用いることなく耐久性があるカルボキシル化ニトリルラテックス手袋を得ることは困難であることが分かる。
自己架橋性の物質から手袋を製造する方法が試みられている一方、意図する手袋を製造するために必要な方法と同様に自己架橋性の作用については技術的な報文中には説明がなされていない。
自己架橋性ラテックスの技術説明については十分な成果が得られていないことが分かる。
【0020】
Dr. Soren Buzs「Tailored synthetic dipping latices: New approach for thin soft and strong gloves and for accelerator−free dipping」LATEX 23−24, January 2008, Madrid, Spain(非特許文献2)には、NBRラテックス中に二者択一的な架橋処理方法には機能反応性基(R)による直接架橋処理及びNBRラテックスのカルボキシル基が酸化亜鉛による助けにより、形成されるイオン結合による架橋処理を含むこと、そして今後の技術の方向として、この方法は有望な方法であることを示している。
より詳細に述べれば、架橋方法はR結合によるポリマー鎖による直接共有結合及びカルボキシル基及び酸化亜鉛によるイオン結合からなる架橋方法の二つから実質的成り立っている。実験室の状況下では架橋温度は125℃から85℃に低下させることが可能となっている。
技術の方向性としては、ポリマー鎖により直接結合する共有結合に由来するR結合は、カルボキシル基及び亜鉛の作用によるイオン結合によりもたらされる高分子鎖による直接結合する共有結合に由来して形成されることが、技術の進むべき道であることを述べている。
不幸にして、共有結合において作用する機能性の基の説明及びその形成方法を明確にするアプローチには成功していない。
【0021】
特表2008−512626号公報(特許文献9)では、軟質相部分は、互いに独立して、共役ジエン;エチレン型不飽和モノカルボン酸;エチレン型不飽和ジカルボン酸、その無水物、モノエステルおよびモノアミド;(メタ)アクリルニトリル;スチレン;置換スチレン;α−メチルスチレン;(メタ)アクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステル;(メタ)アクリル酸のアミド;N−メチロールアミド基、およびそのエステルおよびエーテル誘導体を含むエチレン型不飽和化合物;およびそれらの混合物よりなる群に由来する構造単位を含有し、硬質相部分は、互いに独立して、エチレン型不飽和モノカルボン酸;不飽和ジカルボン酸、その無水物、モノエステルおよびモノアミド;(メタ)アクリルニトリル;スチレン;置換スチレン;α−メチルスチレン;(メタ)アクリル酸のC1〜C4のエステル;(メタ)アクリル酸のアミド;およびそれらの混合物よりなる群から選択されるモノマーに由来する構造単位を含有するラジカル乳化重合によって作られたポリマーラテックスについて述べている。
この発明では架橋を行う際に軟質部分を前記の結合手段により共有結合を形成し、これを利用していると考えられる。この発明では亜鉛イオンなどの金属成分を一切用いていない。
【0022】
特開2008−545814号公報(特許文献10)は、(a)乾燥ゴム100部当たり0.25〜1.5部の酸化亜鉛と、pHを約8.5以上にするためのアルカリと、安定剤と、グアニジン及びジチオカルバミン酸塩及び所望に応じてチアゾール化合物を含む群から選択される1つ以上の架橋促進剤とを含むカルボキシル化ニトリルブタジエン配合ゴム組成物を作成するステップと、(b)前記カルボキシル化ニトリルブタジエン配合ゴム組成物にフォーマを浸漬するステップと、(c)前記カルボキシル化ニトリルブタジエン配合ゴム組成物を硬化させ、前記エラストマー物品を形成するステップを含むエラストマー物品を作成する。
酸化亜鉛を用いて架橋をする。製品が望ましい程度の耐化学性を保有するようにするために、架橋促進剤の組合せが含まれている。架橋促進剤としてジチオカルバミン酸塩を用いる。より高い化学物質に対する抵抗を向上させるために、ジチオカルバメート架橋促進剤、ジフェニルグアニジン及びメルカプトベンゾチアゾール亜鉛の混合物を用いることにより、より高度な効果を得ることができる。このことはゴムの架橋には硫黄及び架橋促進剤を用いることとなり、このようにして製造された手袋にはIV型の過敏症を引き起こす問題を有していることとなる。
【0023】
米国特許第7005478号明細書(特許文献11)では、エラストマーからなる製品を得るに際し、カルボキシル基を有するエラストマーを、(a)カルボン酸またはその誘導体、(b)二価もしくは三価の金属を含む化合物及び(c)アミンもしくはアミノ化合物、(d)前記ベースポリマー中のカルボン酸基の少なくとも一部を中和する中和剤を含む状態で反応させることを述べている。この際に、架橋促進剤、チウラム、及びカルバメートを使用しない。ベースとなるポリマーには、天然ラテックスゴムおよび合成ラテックスポリマー(アクリロニトリルなど)、合成ブタジエンゴムおよびカルボキシル化ブタジエンゴムなどのブタジエンゴムなどを例示するがMMAなどを含有しない。またカルボキシル化されたアクリルニトリルを用いるものでもない。この方法では前記(c)アミンもしくはアミノ化合物を必須成分とする。アミン基又はアミノ基とカルボン酸誘導体と反応し、二価もしくは三価の金属と錯形成する。錯形成反応を利用する点で安定化することが困難となり、結果として安定した製品を得にくいことが指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許5014362号明細書
【特許文献2】特開昭53−125139号公報
【特許文献3】特開昭52−121653号公報
【特許文献4】開昭53−85842号公報
【特許文献5】特公平8−19264号公報
【特許文献6】特許文献6 特許3517246号明細書、特表2000−503292号公報
【特許文献7】特表2002−527632号公報
【特許文献8】米国特許6673871B2号明細書、特開2004−526063号公報
【特許文献9】特表2008−512626号公報
【特許文献10】特開2008−545814号公報
【特許文献11】米国特許第7005478号明細書
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Andrew Kells、BobGrobes「CROSSLINKING IN KARBOXYLATED NITRILE RUBBER DIPED FILMS」 LATEX 24−25 JANUARY 2006 Frankfurt,Germany
【非特許文献2】Dr.Soren Butz「TAILORED SYNTHETIC DIPPING LATICES: NEW APPROACH FOR THIN SOFTAND STORNG GLOVES AND FOR ACCELERATOR FREEDIPPING」 LATEX 23−24 JANUARY 2008 MADRID,Spain
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
医療用手袋について述べた問題を克服する本発明が解決しようとする課題は、架橋反応に際して硫黄及び架橋促進剤を用いることなく、合成ラテックスを用いる新しい架橋方法を提供することにある。
したがって、この方法によれば、架橋促進剤によって引き起こされる遅延型のタイプ
IVの過敏症の発生も妨げることができる。それに加えて、天然ゴムを用いていないという理由により、天然ゴムにより引き起こされる、タイプIの過敏症の発症も妨げられる。
本発明で開示しているラテックス組成物は、自己架橋性のカルボキシル化ニトリルラテックス又は通常用いられているカルボキシル化ニトリルラテックスのいずれかであるベースラテックス、2価金属塩、pH調整剤、酸化防止剤及び着色剤を基本的に含むものであり、該ラテックス組成物を用いることにより前記の課題を解決することができる。使用されるラテックスが従来のカルボキシル化ニトリルラテックスである場合には、該ラテックスにメタクリル酸またはその派生物を予め混合する処理を行う必要がある。本組成のラテックスは、次いで、所望の物理的特性を有するフィルム及び手袋を供給するために高温で架橋処理される。
【0027】
カルボキシル化ニトリルラテックスとしては、ブタジエン、アクリロニトリル及びカルボン酸共重合体のエマルジョンから製造した共重合体の分散体を使用できる。ブタジエン部分の不飽和の残されている部分を有するカルボキシル化ニトリルラテックスに対しては、通常用いられている硫黄/架橋促進剤と酸化亜鉛の組み合わせを用いることにより架橋は形成できる。この場合には天然ゴムの架橋方法と同様である。本発明ではタイプIV型遅延型の過敏症の発症を伴う硫黄及び架橋促進剤を用いない。本発明では、カルボキシル化ニトリルラテックスの共有結合による架橋は、アクリル酸又はその誘導体の重合体と酸化亜鉛により行われる。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、課題について鋭意研究し、以下の処理を行うと、前記の課題を解決できることを見出した。
(1)カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンに、メタクリル酸及び酸化亜鉛を添加して、pHを9〜10に調節し、水を溶解させることにより固相物質を18〜30重量%濃度で含む組成物を得た後、組成物によりモールド又はフォーマ上に堆積層を形成させ、堆積層を架橋処理することにより、前記課題を解決できる物性を有する製品を得ることができることを見出した。
その際には、前記カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン中に予めメタクリル酸を添加しておくことにより、より簡単に自己架橋性を有するカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンを使用できる。前記と同じ段階を使用して得た、自己架橋性を有するカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンに対して、pHを9〜10に調節し、水を添加して、固相物質を18〜30重量%濃度で含む組成物を得た後、組成物をモールド又はフォーマ上に堆積層として形成させ、堆積層を架橋処理することにより前記課題を解決できる物性を有する製品を有利に得ることができることを見出した。
(2)本発明で採用されている硫黄を用いない架橋方法では、良好な物理的な特性を有するエラストマーゴムからなる薄いフィルムからなる手袋を得ることができる。従来の硫黄及び亜鉛化合物により架橋したエラストマーゴムからなる薄いフィルムからなる手袋に見られるのと同様な良好な物理的な特性を有している。この現象から見て、本発明の架橋処理は、亜鉛によるイオン結合の他に硫黄による共有結合に対応した、亜鉛化合物を中心にした共有結合が形成されているということがわかる。
(a)本発明のように、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンに、メタクリル酸及び酸化亜鉛を添加して、pHを9〜10に調節し、水に溶解させることにより固相物質を18〜30重量%濃度で含む組成物を得た後、組成物をモールド又はフォーマ上に堆積層として形成させ、堆積層を架橋処理することにより目的物質を得ることができる。
(b)前記の反応方法によって目的物質を確実に得るには、その製造方法において分散剤、抗酸化剤及び酸化チタンを添加することが有効であり、必要に応じて、着色剤及び消泡剤を添加することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンに、メタクリル酸及び酸化亜鉛を添加して、pHを9〜10に調節し、水に溶解させることにより固相物質を形成し、モールド又はフォーマの表面に水に溶解させ、固相物質を含んだ状態で乾燥させて、次に架橋を行い、新規な薄いフィルムから手袋を製造する方法を得ることができる。新規な薄いフィルムより製造した手袋の有利な点は、架橋に際して硫黄や架橋促進剤を用いていない処方による点にある。
【0030】
この手袋の特性は、通常の従来品と比較して、熱による老化抵抗性及び化学的性質に対する安定性などの化学的特性と同様に、伸縮性の挙動、張力、破壊時の伸長、引き裂き力、擬似爪引き裂き強度などの物理的な特性を比較して、同等又は良好な特性を有している。
その他の重要な有利な特徴は、天然ゴムの使用や架橋促進剤により引き起こされる遅延型過敏症IV及びI型の過敏症を引き起こす健康問題を排除できることに成功している点である。この種の健康問題の解決は従来品の手袋を用いることでは成功していない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明にしたがって得られるエラストマーゴムの薄いフィルムは以下の化学物質による組成物より製造される。
このラテックス組成物は、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンに、メタクリル酸及び酸化亜鉛を添加して、pHを9〜10に調節し、水を添加して固相物質を18〜30重量%濃度で含む組成物である。
【0032】
この組成物に用いられるカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックスを構成する成分の組成は、アクリロニトリル26〜30重量%、ブタジエン65〜58重量%及びメチルメタクリル酸6〜8重量%(合計100重量%)からなる。
この組成物及び組成物の成分比は一般的に広く知られている。組成物は各成分を乳化重合することにより製造される。
得られる重合体のガラス転移温度(Tg)は、約−15℃〜−30℃の間の範囲である。市販品を購入して使用することができる。例えば、Polymer latex Gmbh社のPolymer Latex X−1138、Nantex Industry社のNantex635t、及びSynthomer社のSynthomer6322などを用いることができる。
【0033】
カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンにメタクリル酸を予め添加することにより、自己架橋性があるカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンを得られやすい状態とすることができる。
カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンとメタクリル酸はイオノマーの形態で後から添加される酸化亜鉛と反応させることができる。
必要とされるメタクリル酸は2〜8重量%の範囲にある。仮に、メタクリル酸を2〜8重量%の範囲を超えて8重量%以上添加された場合には、生成物中に未反応物として残る結果となる。
【0034】
カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンとメタクリル酸を前段階として混合しない場合には、これに替えて、自己架橋性のカルボキシル化アクリロニトリルポリブタジエンラテックス(Synthomer社製SXL−XNRRなど)を用いることにより上手にすすめることができる。また、Polymer Latex社のPure Pro
tectやShin Foong Company社のPolyac560から選んで使用することができる。
【0035】
0.5から3.0phrの酸化亜鉛を、カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン、メタクリル酸を予め混合した混合物、又は自己架橋されたカルボキシル化アクリロニトリルポリブタジエンラテックスに添加する。
【0036】
自己架橋されたカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス又はカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンとメタクリル酸を予め混合された混合物に酸化亜鉛を添加して、次に、pHを9〜10に調節する。pHを9〜10に調節するためにpH調整剤としてアルカリ物質を添加する。アルカリ物質としてはKOHが一般に広く用いられる。カルボキシル化アクリロニトリルブタジエン100重量%に対して、アルカリ物質を0.1〜2.0重量%添加する。
【0037】
酸化亜鉛を加えpHを9〜10に調整した自己架橋されたカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス、またはメタクリル酸を予め混合したカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス100phrに対して、約0.1から2.0重量%の分散剤を添加する。
【0038】
分散剤にはアニオン界面活性剤を用いることができる。具体的には、分散剤として、ナフタレンスルフォン酸多凝縮体のナトリウム塩、例えば、Tamol NN9104などを用いることができる。
【0039】
カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス100phrに対して0.1から1.5重量%の酸化防止剤をさらに添加する。酸化防止剤にはポリマー性ヒンダードフェノールによる、にごり防止型のWingstay Lを用いることができる。
【0040】
カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス100phrに対して酸化チタン0.2〜3.0重量%を、カルボキシル化されたアクリロニトリルブタジエンラテックス混合物に対して白色化剤又は色増進剤として添加する。必要であれば、混合物に色材を添加することができる。
色材には有機染料を用いることができる。
【0041】
最終的にラテックス組成物に水を添加して固相濃度を18〜30重量%に調節する。
【0042】
以下の表1に本発明で用いられる一般的なラテックス組成をまとめて示す。
【0043】
【表1】

【実施例1】
【0044】
自己架橋性カルボキシル化ニトリルラテックス(Synthomer社製による製品名Synthomer746−SXL)を、水酸化カリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、抗酸化剤、着色剤及び水からなり、表2に示される濃度の組成物として混合した。予め混合したラテックスを自己架橋性カルボキシル化ニトリルラテックスの替わりに使用する場合にはカルボキシル化アクリロニトリルブタジエン100重量%にメタクリル酸7重量%を予め混合したラテックスを使用する。
この組成のものを用いて硫黄及び架橋促進剤を含まないエラストマーの薄いフィルムを製造する。
【0045】
【表2】

【実施例2】
【0046】
手袋の製造工程
表2にしたがって得られた混合物からなるラテックスを用いて、以下に示されるディッピング法により薄いフィルム性の手袋を製造した。
【0047】
1.手袋用フォーマの調整
手袋用フォーマの洗浄から開始し、洗浄後の手袋用フォーマの表面に凝固剤を付着させ凝固剤によりコーティングする。次のディッピングを行うに先立って、手袋用フォーマの表面にラテックスが付着し易くするための処理である。
医療用手袋の製造に先立って手の形をしているモールド又はフォーマを洗浄水により洗浄して、ブラシにより汚れを除去し、冷水により水洗いを行い、乾燥させる。
乾燥後にディップを行うに際し、直接ディップするか、又は凝集剤に付着させてからディップするかは製造する製品の形式により定まることである。
直接ディップを行うに当たっては、意図する製品に用いる乾燥したフォーマを直接使用するように調整した本発明の組成のラテックス中に直接浸すことが行われる。
【0048】
2.手袋用フォーマの表面を凝固剤によりコーティングする工程
手袋製造に際しては、手の形をしているフォーマを選択し、凝集剤中に浸すことが行われる。凝集剤をディップする際には乾燥した手の形をしたフォーマを、カルシウムイオンを含む凝集剤タンク中に浸す。カルシウムイオンを含む水溶液を調整する際には、硝酸カルシウム又は塩化カルシウムを用いる。カルシウムイオンの濃度は、好ましくは5.0〜20.0重量%、より好ましくは8.0〜17.0重量%である。凝集剤の水溶液には手袋の製造に必要となる湿潤剤及び抗粘性剤であるステアリン酸亜鉛又はステアリン酸カルシウムが用いられる。湿潤剤及び抗粘性剤の使用量は湿潤させる度合及び抗粘性させる度合によって決定される。
【0049】
3.ラテックス組成物を凝固剤によりコーティングされた手袋用フォーマの表面に供給する工程
一度、手袋用フォーマを浸し、凝固剤で付着させた後に、50〜70℃の温度条件下に乾燥又部分的に乾燥させて、本発明の処方として使用するために調製した化合物のラテックスを収容しているタンク内に浸した。手袋用フォーマを特定の時間、浸してフォーマに適切にコートし、手袋の厚さが厚くなりすぎないようにする。ラテックスタンク内にフォーマを浸す時間は、ラテックス混合物による全固相の含有量(TSC)及び要求されるコーティングの厚さにより変化する。時間は1から20秒、好ましくは12から17秒の間に変化する。
【0050】
4.複数回にわたる表面処理
ラテックス組成物によりコートされたフォーマを80〜120℃で、20〜70秒間(時間は温度に依存して定まる)乾燥させる。複数回にわたり浸すことが必要な場合には、乾燥された又は部分的に乾燥されたラテックスをコートされたフォーマを、同じ組成でありラテックスを満たした、前記と相違するその他のタンク中に浸した。
複数回にわたり浸す場合には、混合されているラテックスの固相の濃度は少なくして手袋の最終的な厚さを所期の厚さの範囲に合致するようにする。複数回にわたりコートされたフォーマは110℃で30秒間にわたり乾燥される。
【0051】
5.水洗工程
部分的に乾燥している状態のラテックスによりコートされたフォーマを、30〜70℃の加温された水を張った水洗タンク内で90〜140秒間にわたり水洗した。
【0052】
6.ビーディング(袖巻き加工)する工程。
水洗工程が完了したところで、手袋フォーマの表面にコートされたラテックスフィルムをビーディング(袖巻き加工)する。
【0053】
7.炉内乾燥
手袋フォーマを80〜120℃、250〜300秒間の温度条件下に乾燥させた。
【0054】
8.架橋工程
乾燥されたラテックスをコートしたフォーマを120〜150℃で20〜30秒間の条件下に架橋した。
通常の架橋方法において採用されている硫黄や架橋促進剤を含まない処方による自己架橋されているラテックスに対して高温条件下の硬化処理を行うことは、所望の物理的特性を達成させようとする場合には基本的に必要とされることである。
【0055】
9.後段の水洗工程及び化学品除去工程
架橋されているラテックスフィルムにより覆われている手袋フォーマを水洗して残っている化学物質を取り除くことが行われる。後段の水洗工程は30〜80℃の水を張った他のタンク内で60〜80秒間の条件下行われる。この工程は2回行われる。
【0056】
10.表面処理工程
ラテックスフィルムを乾燥後、養生させ、所望により他のタンク内の高分子化合物溶液中に浸して、他のラテックスをコーティングする。ゴム製品が手袋である場合には、高分子化合物のフィルムをラテックス手袋の表面にコートすることにより手袋の表面を処理することができる。ラテックス手袋に対する処理を向上させるために塩素化処理を行うことができる。この塩素化処理は乾燥状態のオンライン処理であり、ラテックスフィルムは養生処理される。オンラインによる塩素化処理は、フォーマ上のコートされた乾燥しているラテックスフィルムを塩素溶液により充たされているタンク内に浸して手袋の外表面を処理する。塩素化処理により手袋のべたつきを特に減少させることができ、手袋の状態を良好にする。塩素化されたラテックスの手袋によりコートされたフォーマの表面は洗浄されて、乾燥される。
【実施例3】
【0057】
実施例3及び比較例を以下に示す。
自己架橋化されたカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス(製品名 Synthomer Co.,のSynthomer SCL−XNBR746) を用いて表2の処方にしたがって、医療用手袋を製造した。
この手袋を通常用いられているカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス(製品名 Synthomer Co.,のSynthomer 6322)にZnO(1.5重量%)及び硫黄(1.0重量%)の組成物を用いて手袋を製造し、両者の手袋を比較した。酸化亜鉛、分散剤、pH調整剤及び抗酸化剤及びこれらの含有量については実施例に示された場合と同様である。固相の重量は30重量%であった。実施例2を用いて手袋の製品(製品名,Chemax)を組成物より製造した。
【実施例4】
【0058】
本発明による製品と比較例の製品(Chemax)による成分分析の対比結果を表3に示した。
ゴム手袋中の試験片の成分分析(10の成分:C,H,N,O,S,Zn,Ca,Cl,Na及びK)についてCHNO分析機(CE InstrumentsのEA1110)及びICP−AESシステムを用いて行った。
ZnとCaの定量分析は、各蒸発残留物試料の約0.1gを精秤後、白金坩堝に入れ、混合融剤(NaCO:Na=2:1)2gで溶融し、塩酸(HCl:HO 30mlにより抽出した後、100mlに希釈し、吸光分析装置を用いて定量分析を行った。Clは、各蒸発残留物試料の約1gを精秤後、白金坩堝に入れ、エシェカ合剤で融解後、純水100mlで抽出した水溶液を、吸光度分析装置を用いて定量分析した。一方、硫黄は、同水溶液をICP発光分析装置を用いて定量分析を行った。
【0059】
【表3】

【0060】
硫黄の含有量
本発明によれば、硫黄の含有量は未検出であった。Chemaxでは1.10phrであった。
本発明によれば、硫黄の含有量は検出の水準に達していなかった。
【0061】
亜鉛の含有量
本発明によれば、亜鉛の含有量は0.76であり少量であった。従来品では1.15であった。本発明品では、亜鉛の含有量は従来品と比較して少ない。亜鉛の含有量は少なく、危険と思われる性質は減少している。
【実施例5】
【0062】
アセトン可溶成分の比較
ゴム製品中の軽質成分(未反応率、未加硫NBR)量:JISK6299(ゴム溶剤抽出物の定量方法に準拠し、アセトン溶媒で24時間ソックスレー抽出して算出した。アセトン抽出物の定性分析は赤外線吸収(FT−IR)分光分析装置を用いて行った。
FT−IRの測定装置は、島津製作所製IRP Prestage−21/FTIR−8400S型を用いた。測定方法はATR法(ダイヤモンドセルを使用)、積算回数は40回であった。
ゴム試料の膨潤試験はアセトン可溶成分を除去したゴム試料をJISK6310法に準拠し、トルエン溶媒中に浸漬し、常温で72時間後ゴム試料の重量増加(一般に加硫状態を簡便に評価する方法として、加硫ゴムの良溶媒中に浸漬すると、加硫ゴムのような架橋ポリマーではこれが網目の弾力で抑えられて膨潤平衡に達し、加硫ゴムの加硫密度が良溶媒中の平衡膨潤比率と逆比例の関係にある)を測定し、各ゴム試料の重量膨潤比率を算出し、加硫ゴムの架橋密度とした。
本発明のアセトン可溶成分は15%であり、従来品のChemaxのアセトン可溶成分は7.2%であった。本発明の重量膨潤比率は332%、従来品のV−710(KLT−C)の重量膨潤比率は286%であった。
アセトン可溶成分の赤外線分析結果は、未反応のニトリルブタジエンが見られた。本発明の場合には、1700cm−1付近にカルボン酸基の吸収ピークがあった。
【実施例6】
【0063】
本発明のカルボキシル化ニトリルラテックス手袋及び従来品のカルボキシル化ニトリルラテックス手袋の引張試験をASTM−6319−00試験法により測定した。
手袋については150℃で硬化させた。試料となる手袋を24時間、湿度50%及び温度23℃の条件下に熟成保持した。手袋については70℃の条件下に7日間熟成保持した。
本発明の手袋で硬化させない手袋及び硬化させた手袋、及び硫黄及び架橋促進剤を用いた手袋に関して硬化させない手袋及び硬化させた手袋についての物理的試験の結果を表4及び5に示した。
【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
本発明により製造された手袋の張力は、従来の硫黄及び架橋促進剤を用いた架橋方法による手袋の張力に匹敵する。本発明の手袋の伸びは、従来品の手袋の伸びよりも高い。
全体としては、本発明により製造された手袋は、従来の硫黄及び架橋促進剤を用いた架橋方法により製造した手袋に比較して熟成を行ったときの特性は良好である。
【0067】
ラテックスの組成について再度説明する。
自己架橋されたカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンラテックス又はカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンをメタクリル酸に予め混合して得られるラテックスをpH9からpH10に調整し、固相を18重量%から30重量%となるように水分調整された組成物を得ることができる。
【0068】
表2による処方による前記の段階により得られる手袋は以下の有利な点を有している。
利点1
即時型のI型の過敏症に対して防御ができること。
本発明の製品は天然ゴムラテックスを使用しないという理由により有効となる。
天然ゴムラテックスはラテックスたんぱく質の存在により誘導されるI型の過敏症の原因となるものである。
利点2
遅延型のIV型の過敏症タイプに対して防御ができること。
遅延型のIV型の過敏症タイプはチウラム、ジチオカルバメート及びメルカプトベンゾチアゾールを含む化合物を含有する架橋促進剤の製造工程における使用により引き起こされる。本発明では架橋工程で、これらの硫黄及び硫黄を含有する架橋促進剤を使用しないので、遅延型のIV型の過敏症タイプを引き起こすことはない。
利点3
良好な物理的及び化学的特性を有していること。
表2にしたがって得られるラテックスの処方によれば、良好なフィルム特性を有している。
その結果、大変薄いフィルムであり、良好な障壁となる特性を可能とする。手袋の特性は以下に示す。従来品の手袋に比較して薄いことがわかる(表6)。
【0069】
物理的特性は以下の表7に示す。本発明の張力及び破断するときの伸びについて従来品より高い結果を示している。
ディメンションは以下の通りである。薄い手袋を得ることができたことがわかる。
【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
皮膚感作試験(リピート・インサルト・パッチ・テスト)
実施例1では架橋剤に硫黄及び架橋促進剤を用いていないけれども、本発明の製品が皮膚と接触したときに遅延型のIV型の過敏症に対する免疫応答性を引き出さないことに対する潜在能力を評価する、皮膚感作試験を行った。遅延型のIV型の過敏症は、従来の架橋方法で用いられる架橋促進剤などの化学物質により主として引き起こされる。この試験に採用された方法では,CFRタイトル21中、50、56及び312による。
この試験の目的は、閉塞性パッチテスト条件のもとで繰り返し手袋サンプルを貼り付けるテストを行い、手袋の刺激性及び/又は感作性の潜在力を測定することである。男性35人及び女性185人、合計220人による結果である。
試験は二つのフェーズにより行われた。誘導フェーズにおいて、およそ1インチ四方の手袋のフィルムを直接3M社製の閉塞性医療用テープの表面に置いた。パッチは各々の被験者の背部に肩甲と腰の間で貼付された。試験は毎月曜日、水曜日及び金曜日に9個のテスト品が貼付されるまで繰り返し行われた。貼付後、24時間経過後にパッチは取り除かれた。火曜日と木曜日にパッチが取り除かれた後、24時間の休息が与えられ、毎土曜日に取り除かれた後には、48時間の休息が与えられた。次回のパッチ貼付の直前には、被験者はテスト施設に戻り、訓練を受けた試験者がパッチ添付部位の状態についてスコアをつけた。
誘導フェーズテストの終了時、テスト品をとりはずし、その後約2週間はそれ以上の試験を行わなかった。チャレンジフェーズは、この休止期間の後に開始した。チャレンジパッチは新しい試験部位に貼付された。取り除いた時点での試験部位の状態について24時間及び72時間にスコアをつけた。全被験者は、最後のチャレンジパッチの読み取りの後に起こった遅延した皮膚の反応について、すべてを報告するように指示された。
以下のスコアの基準にしたがって、皮膚反応の強さにスコアをつけた。


【0073】
表8は220人の被験者により行われた試験の結果を要約したものである。
被験者全員が病気の所見を示さなかった。数人の被験者(合計6名)について試験の終了まで継続しなかった。実施例1にしたがって製造した手袋は、臨床的に重要な皮膚刺激を誘導せず、又被験者において誘導された接触性皮膚炎の証拠は一切示さなかった。したがって、これらの結果はFDAの低皮膚刺激性の表示の要求事項に合致するものである。
【0074】
【表8】

【0075】
結論
上記の結論が示すように、本発明で得られる手袋は、従来の硫黄及び架橋促進剤を用いる架橋された手袋と物理的特性については同等である。しかしながら、従来の手袋はIV型の過敏症を引き起こす原因となる架橋促進剤を含有する。本発明より得られる手袋は、これらの化学物質を用いていないし、皮膚反応を一切起こさないことが示された。これは人体に重要なレベルの安全性を保証するものである。残留する亜鉛物質は最小量にとどまっている。加えて、本発明の手袋は、いっそう優れた老化特性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル化されたニトリルラテックス、金属酸化物、pHを9〜10にするためのpH調整剤及び組成物中の全固相物質(TSC)濃度を18〜30重量%に調整する水からなり、硫黄及び架橋促進剤を含まないことを特徴とするエラストマーゴムを製造するための組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル化されたニトリルラテックスは、アクリロニトリル26〜30重量%、ブタジエン65〜58重量%及びカルボン酸6〜8重量%(全体100重量%)からなることを特徴とする請求項1記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル化アクリロニトリルブタジエンは、カルボキシル化されたニトリルブタジエン100重量%中に2から8重量%のメタクリル酸を予め混合されていることを特徴とする請求項1又は2記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル化ニトリルブタジエンは、自己架橋されているカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンであることを特徴とする請求項1又は2記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項5】
前記金属酸化物は2価金属酸化物であることを特徴とする請求項1記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項6】
前記2価金属酸化物は亜鉛酸化物、マグネシウム酸化物及びバリウム酸化物から選ばれる1又はそれ以上の混合物であることを特徴とする請求項5記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項7】
前記2価金属酸化物は亜鉛酸化物であることを特徴とする請求の範囲6記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項8】
前記亜鉛酸化物の含有量は0.5〜4pphrであることを特徴とする請求項7記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項9】
前記pH調整剤は、水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項10】
酸化チタニウム分散物を添加して含有していることを特徴とする請求項10記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項11】
酸化防止剤として,WingstayLを添加して含有することを特徴とする請求項1記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項12】
着色剤を添加して含有することを特徴とする請求項1記載のエラストマーゴムを製造する組成物。
【請求項13】
硫黄及び架橋促進剤を含まないエラストマーゴムの薄いフィルムからなる手袋を製造するための各製造工程が、以下の工程からなることを特徴とするエラストマーゴムの薄いフィルムの手袋の製造方法。
(a)モールド又はフォーマをCa2+イオンを8〜17重量%含む凝固剤溶液中に15秒間浸す工程、
(b)凝固剤が付着されたモールド又はフォーマを50〜70℃で乾燥させて、表面又は部分的に乾燥する工程、
(c)前工程で得た凝固剤が付着されたモールド又はフォーマを、請求項1記載のエラストマーゴムを製造する組成物中に1〜20秒間、30℃の温度条件下に浸す工程、
(d)前記エラストマーゴムを製造する組成物をその表面に付着させたモールド又はフォーマを80〜120℃で乾燥させる工程、
(e)前記工程で得られた硫黄及び架橋促進剤を含まないエラストマーゴムの薄いフィルムを、120〜150℃、20〜30分間処理して、架橋して硬化させる工程。
【請求項14】
モールド又はフォーマは手の形をしており、硫黄及び架橋促進剤を含まないエラストマーゴムの薄いフィルムの製造方法によって製造することを特徴とする請求項13記載のエラストマーゴムの薄いフィルムの手袋の製造方法。
【請求項15】
請求項14の記載にしたがって製造される手袋は、処方中に硫黄及び架橋促進剤を用いていないことを特徴とする手袋。
【請求項16】
請求項14の記載にしたがって製造される硫黄及び架橋促進剤を用いないエラストマーゴム手袋は、厚さが0.05〜0.15mmであることを特徴とする手袋。
【請求項17】
請求項14の記載にしたがって製造される、硫黄及び架橋促進剤を含まないエラストマー手袋は、引張応力が22〜26MPa及び破壊時の伸びは580〜620%であることを特徴とする手袋。
【請求項18】
請求項14の記載にしたがって、硫黄及び架橋促進剤を用いることなく、製造されたエラストマー手袋は、10〜15MPaの間のモデュラス係数が500%であることを特徴とする手袋。
【請求項19】
請求項14の記載にしたがって製造されるエラストマーゴム手袋は、形式IVの過敏症により作り出される促進因子を含まないことを特徴とする手袋。
【請求項20】
請求項13の記載により、硫黄及び架橋促進剤を用いることなく製造されたエラストマー手袋は、硫黄及び架橋促進剤を用いて製造した従来の手袋と比較して皮膚を刺激することが少ないことを特徴とする手袋。
【請求項21】
請求項13の記載にしたがって、硫黄及び架橋促進剤を用いることなく製造されたエラストマーゴムの手袋は、FDAによる低い皮膚炎潜在力の基準に合致していることを特徴とする手袋。

【公表番号】特表2013−508528(P2013−508528A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536725(P2012−536725)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【国際出願番号】PCT/MY2009/000201
【国際公開番号】WO2011/068394
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(510261050)
【Fターム(参考)】