説明

架橋剤および架橋剤を含むポリマー組成物ならびにその架橋成形体

【課題】新規水溶性架橋剤および配位子結合型架橋剤ならびにかかる架橋剤を含むカルボキシル基および/または配位子含有ポリマーラテックス組成物を提供する。
【解決手段】水溶性多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤または多塩基カルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤とかかる架橋剤を含有するカルボキシル基および/または配位子を含有するポリマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多塩基カルボン酸のアルミニウム有機金属化合物であって、アルミニウム原子を2個以上有し、複数のアルミニウム原子に配位子を結合して架橋する配位子結合型架橋剤と、係る架橋剤を含有する配位子含有ポリマー組成物およびその架橋成形体に関する。
さらに本発明は、多塩基ヒドロキシカルボン酸のアルミニウム有機金属化合物であって、アルミニウム原子に結合した水酸基を2個またはそれ以上有する水溶性カルボキシル基架橋剤であって、かつアルミニウム原子を2個以上有し、複数のアルミニウム原子に配位子を結合して架橋する水溶性配位子結合型架橋剤と、係る水溶性架橋剤を含有するカルボキシル基および/または配位子含有ポリマー組成物およびその架橋成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム手袋、指サック等の浸漬製品等は、安全衛生に対する関心の高まりから医療(院内感染、SARS感染予防など)、食品加工分野(O-157問題)および電子部品製造分野など各方面において広く使用されている。これらゴム手袋、指サック等の製造方法の1つとしてディップ成形法が挙げられる。ディップ成形法としては、木材、ガラス、陶磁、金属又はプラスチックなどから作られた型を予め凝固剤液に浸漬した後、天然ゴムラテックス組成物や合成ゴムラテックス組成物に浸漬するアノード凝着浸漬法や、型をラテックス組成物に浸漬した後、凝固液に浸漬するティーグ凝着浸漬法などが知られており、これらのディップ成形法により得られる成形物がディップ成形品である。
ディップ成形用ラテックスの代表的なものとして、天然ゴムラテックスがある。天然ゴムラテックス製品は、良好な物理的、化学的性質を有するが、製品に含有される天然タンパク質の溶出に伴い、使用者にアレルギー反応を起こす事例があり、タンパク質を含まない合成ゴムラテックスを使用する製品の生産が増加する傾向にある。
合成ゴムラテックスの代表例は、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBRゴム)などの合成ゴムラテックスであるが、燃焼排ガス中にアクリロニトリルに由来するシアン化水素等の有害物質が発生する可能性も指摘され、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)(特許文献1:特開2001−192918号)、カルボキシル基含有アイオノマー系エラストマー等の新たなラテックス原料も注目されている。
【0003】
ディップ成形品には、高度な物性が要求される。高度な物性を発現する為には、ポリマー間に架橋構造を導入する必要がある。
天然ゴムの場合には、イオウと、酸化亜鉛、加硫促進剤などを添加し、天然ゴム分子の二重結合間にイオウの共有結合を形成する。いわゆるイオウ加硫では、天然ゴムの場合には天然ゴム粒子内でも架橋構造が形成されると考えられており、優れた製品物性が発現される。
ジエン系カルボキシル化合成ゴムラテックスの場合にも、天然ゴムの場合と同様のイオウ加硫法が一般的に採用されている。しかし、添加される各薬品の役割は、天然ゴムラテックスの加硫の場合とはかなり異なる。すなわち、酸化亜鉛は、水と接触すると、水酸基が表面に生成し、この水酸基がラテックス粒子のカルボキシル基と反応し、(非特許文献1:P.H.Starmer、Plastics and Rubber Processing and Applications 、9(1988)209-214)、ペンダント半塩を形成し、さらに加熱乾燥過程を経過するとクラスターイオン架橋を形成すると考えられている。この亜鉛架橋により、引張り強度、伸び、硬さ等の表面的な測定物性は決定されており、この点はイオウ架橋が製品物性を決定している天然ゴムラテックスの場合との大きな相違点である。
ここで、クラスターイオン架橋とは、カルボキシル基がクラスターを形成し、亜鉛の2価のカチオンを、クラスターを形成しているカルボキシル基全体で中和している状態を言う。この構造の特徴から、ゴムが伸ばされると、架橋がずれることになり、ストレスを掛けると、短時間の間に応力緩和(クリープ)が起こり、長時間使用すると、永久歪が大きくなって、ゴムが伸びてしまう(非特許文献2:N.D.Zakharov、 Rubber Chem. and Tech、 Rubber Division Acs. Akron、US. Vol36、no3 568-574)。
一方、イオウは、ブタジエンに由来する二重結合間を共有結合で架橋するが、引張り強度、伸び、硬さ等の測定物性に対する影響は小さい。しかし、ゴム製品の耐久性、クリープ耐性、耐水性、耐溶媒性等、ゴム製品の重要な性質を支配しており、これがカルボキシル化合成ゴムラテックスにおいてもイオウ加硫法が多く採用されている理由である。
【0004】
以上のように、イオウ加硫はジエン系カルボキシル化合成ゴムラテックスにおいても重要な役割を果たしているが、一方においては金属と接触するとイオウが金属を酸化するため、電子部品製造分野においては、使用が控えられる傾向にある。
また、近年では、手袋などのディップ成形品に含まれる加硫促進剤に対する遅延型アレルギーに基づく接触皮膚炎の発症も増加傾向にあり、加硫促進剤を使用しないディップ成形品の開発が求められている。
さらには、食品分野においては、ゴム手袋から溶出する重金属である亜鉛溶出量の規制が強化される傾向にある。
ところで、イオウ、加硫促進剤を使用しない架橋法としては、本発明者等のアルミン酸塩等を使用する方法があるが(特許文献2:特許3635060号)、アルミニウムは3価のカチオンとして働くため、ゴム製品が硬くなる欠点がある。
また、特開2003−165814(特許文献3)には、含イオウ加硫剤、加硫促進剤、酸化亜鉛をいずれも実質的に含まないディップ成形用組成物が提案されているが、本発明者等の検討によると、この組成物を使用したディップ製品は、クリープ耐性、耐水性、耐溶剤性が低く、粘着性が強いという問題点がある。
【0005】
また、一般的に、カルボキシル基含有ジエン系ゴムラテックス組成物の架橋成形体は成形体膜同士の癒着を防止するために表面処理される。ここで、表面処理に使用する非粘着性表面処理剤としては、カチオン性のカルボキシル基封鎖剤が用いられるが、カルボキシル基封鎖剤で全てのカルボキシル基を封鎖すると、ラテックスの架橋が進みすぎて、ゴム的性質を失ってしまう。そこで、本発明者等は、成形体の表面のカルボキシル基を封鎖すれば、膜同士の癒着は防止できると考え、アルミン酸塩または水酸化アルミニウムゲル添加系で、製品のカルボキシル基封鎖剤による製品の表面処理を提案した(特許文献2:特許3635060号)が、アルミニウムが3価のカチオンとして作用するため、製品が硬くなり、アルミン酸塩または水酸化アルミニウムゲル添加量を制限される欠点があり、カルボキシル基封鎖剤表面処理では、効果が十分に発揮されなかった。
【0006】
また、本発明者は、カルボキシル基含有ポリマーの架橋剤として、アルミニウム原子に結合した水酸基を二個又はそれ以上含有するアルミニウム有機金属架橋剤について提案した(特許文献4:WO2008/001764)。
係るアルミニウム有機金属架橋剤は、イオウ、加硫促進剤、さらには酸化亜鉛を添加しなくてもカルボキシル基含有ジエン系ラテックスを効果的に架橋し、
耐久性、クリープ耐性、耐水性、耐溶剤性等、従来のイオウ加硫製品に匹敵する物性をもち、しかも、イオウ、含イオウ加硫物、加硫促進剤を含まない低アレルギー性架橋成形体、特に、ディップ製品を提供することができた。
【0007】
クエン酸は、中心のカルボキシル基と2つの末端カルボキシル基およびアルコール性水酸基からなる4つのドナーサイトを持つが、アルミニウムとクエン酸の配位体の構造はまだ未決定である。しかし、アルミニウム:クエン酸の等モル溶液では、Alはクエン酸の2つのカルボキシル基と水酸基に結合し、3つの6員環を形成するとされている。すなわち、モル比1:1からなる水溶性クエン酸アルミニウム塩は、[Al3(H-1Cit)3(OH)(H2O)]4-(構造1)の構造をとるとされている。一方、高pHでは、[Al3(H-1Cit)3(OH)(H2O)]4-から[Al3(H-1Cit)3(OH)47-に構造転換すると考えられている(非特許文献3:Timothy L. Feng et al. 、Inorganic Chem.、1990、29、408)。(構造2)
【0008】
また、水溶性アルミニウム塩とアルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩または水酸化物の水溶液あるいはアンモニウム塩の水溶液を反応させてアルミニウムヒドロゲルを得、乳酸で溶解して塩基性乳酸アルミニウムおよび乳酸アルミニウム結晶を製造する方法が開示されている(特許文献5:特開平9-2999)。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−192918号
【特許文献2】特許3635060号
【特許文献3】特開2003−165814号
【特許文献4】WO2008/001764
【特許文献5】特開平9-2999
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】P.H.Starmer、Plastics and Rubbe r Processing and Applications 、9(1988)209-214
【非特許文献2】N.D.Zakharov、 Rubber Chem. and Tech、 Rubber Division Acs. Akron、US. Vol36、 no3 568-574
【非特許文献3】Timothy L. Feng et al. 、Inorganic Chem. 、1990、29、408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、イオウ、加硫促進剤、酸化亜鉛を代替しうる水溶性架橋剤を発見することである。これら架橋剤を使用することにより、イオウ、含イオウ加硫物、加硫促進剤、酸化亜鉛等の固形添加物の分散工程を省略することができ、従来のイオウ加硫製品に匹敵する物性をもち、かつ、きわめてクリーンで、イオウ、含イオウ加硫物、加硫促進剤、酸化亜鉛を含まない低アレルギー性架橋成形体、特に、ディップ製品を提供することにある。
また、本発明は、ポリマーが含有する各種配位子を複数のアルミニウム原子に配位させて架橋する配位子結合型架橋剤を発見することである。係る架橋剤を使用することにより、多様なポリマーを比較的容易に架橋することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
多塩基カルボン酸近傍にヒドロキシル基を有する多塩基ヒドロキシカルボン酸は、誘起効果により相当する多塩基カルボン酸よりも高い酸性と水溶性を示す。係る多塩基ヒドロキシカルボン酸1モルと1モルのアルミニウム塩(具体的には塩化アルミニウム)が反応すると、カルボン酸のヒドロキシル基は脱プロトン化され易く、Alは2つのカルボキシル基と水酸基に結合し、さらに縮合して3つの6員環を形成するとされている。例えば、3塩基カルボン酸であるクエン酸とアルミニウム塩を等モル混合すると、水溶性クエン酸アルミニウム錯体([Al3(H-1Cit)3(OH)(H2O)]4-)(構造1)を形成するものと想定されている。しかし、この構造ではAlに結合する水酸基は1個であり、カルボキシル基を含有するポリマーに配合しても、カルボキシル基を架橋することはできない。
しかし、上記水溶性クエン酸アルミニウム錯体をpH9前後に調整してカルボキシル基含有ポリマーに配合すると、カルボキシル基を架橋することが明らかになった。高pHでは、[Al3(H-1Cit)3(OH)(H2O)]4-から[Al3(H-1Cit)3(OH)47-(構造2)に構造転換すると想定されており、この錯体はアルミニウムに結合した水酸基が4個あり、カルボキシル基の架橋剤になることが分かる。
クエン酸塩1モルに2モルのアルミニウム塩(具体的には塩化アルミニウム)を配合すると、アルミニウムは未だフリーに存在するカルボキシル基と反応し、生成した水溶性化合物は、カルボキシル基を架橋できる。
一方、クエン酸塩とアルミニウム塩のモル比を1:3にすると、生成物はカルボキシル基の架橋能力は維持しているが、水不溶性になった。上記配位構造を維持できなくなったためと考えている。
リンゴ酸、酒石酸は、2塩基ヒドロキシカルボン酸である。両カルボン酸をアルミニウム塩にカルボキシル基に対し等モル配合すると、クエン酸同様、アルミニウムにヒドロキシル基と2個のカルボキシル基が配位して水溶性アルミニウム錯体を形成し、高pH域では、カルボキシル基を架橋する。
一方、カルボン酸:アルミニウムのモル比を1:2にすると、生成物は架橋能力は維持しているが、水不溶性になった。
【0013】
次に、本発明者は、アルミニウム原子に結合した2以上の水酸基を有するアルミニウム有機金属架橋剤を添加したカルボキシ変性アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス(NBRラテックス)架橋成形体をTOF−SIMSで分析したところ、アルミニウム有機金属架橋剤を添加すると、ニトリルの分解ピークが明白に低下していた。これは、ニトリルの非共有電子対がアルミニウム原子に配位したためであると考えられる。多塩基カルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤には、アルミニウム原子が複数あるので、ニトリル基を介して架橋構造が形成された可能性がある。
さらに、カルボキシ未変性NBRに多塩基カルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤を配合したところ、加熱乾燥して形成したフィルムは、フィルムの伸びが抑制され、明らかに架橋構造の存在を示している。
また、ポリビニルアルコールに上記多塩基カルボン酸アルミニウム有機金属化合物または水溶性多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウムアルミニウム有機金属化合物を添加したところ、ポリビニルアルコールフィルムの耐熱水性が向上し、複数のアルミニウム原子に水酸基が配位して架橋構造を形成することが明らかになった。
以上の知見に基づいて本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 多塩基カルボン酸のアルミニウム有機金属化合物であって、アルミニウム原子を2個またはそれ以上有する配位子結合型架橋剤。
[2]多塩基ヒドロキシカルボン酸の水溶性アルミニウム有機金属化合物であって、アルミニウム原子に結合した水酸基を2個またはそれ以上有するカルボキシル基架橋剤であり、かつ、アルミニウム原子を2個またはそれ以上有する配位子結合型架橋剤。
[3] 配位子含有ポリマーと[1]記載の配位子結合型架橋剤とを含む、ポリマー組成物。
[4] 配位子および/またはカルボキシル基含有ポリマーと[2]記載の架橋剤とを含む、ポリマー組成物。
[5] [3]または[4]記載のポリマー組成物を架橋および成形してなる架橋成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、イオウ加硫並みの特性を付与することのできる新たな水溶性カルボキシル基架橋剤を提供する。さらに、配位子を含有するポリマーの新たな架橋剤を提供する。係る架橋剤を含有するポリマー組成物を利用すると、イオウ、加硫促進剤を含有しない低アレルギー性ディップ成形品を得ることができ、医療、食品分野、電子部品分野等で広く利用することができる。さらに、酸化亜鉛の添加をも不要とする。ことに、カルボキシ変性NBRラテックスに本架橋剤を使用すると、カルボキシル基の架橋とニトリル基を介する架橋が作用するので、そのディップ成形品は、天然ゴムディップ成形品に匹敵するフィットネス性を有する。また、紙加工分野、塗料分野等に新たな用途を開発することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の水溶性アルミニウム有機金属架橋剤の製造に使用する有機カルボン酸は、多塩基ヒドロキシカルボン酸またはその塩である。以下に、多塩基ヒドロキシカルボン酸を例示するが、本発明は係る酸に限定されるものではない。
ヒドロキシジカルボン酸としては、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸などがあり、糖酸の一種であるアルダル酸もヒドロキシジカルボン酸である。
ヒドロキシトリカルボン酸としては、クエン酸、イソクエン酸等がある。
上記多塩基ヒドロキシカルボン酸にカルボキシル基当量のアルミニウム塩を添加すると、水不溶性のアルミニウム有機金属架橋剤が製造できる。また、ヒドロキシル基を含有しない多塩基カルボン酸にアルミニウム塩を添加すると、水不溶性のアルミニウム有機金属架橋剤が製造できる。
【0018】
水溶性アルミニウム有機金属架橋剤の製造法にもいくつかの方法があるが、本発明は係る方法に限定されるものではない。
第一の方法は、アルミニウム金属石鹸の製造法に習い、多塩基ヒドロキシカルボン酸またはその塩と、水溶性アルミニウム塩を反応させる方法である。温度、濃度等の反応条件は、定法に従い、適宜選択する。水溶性を維持するために重要なことは、原料カルボン酸のカルボキシル基当量よりも1当量以上アルミニウム塩の添加比率を低く抑えることである。
第二の方法は、水溶性アルミニウム塩とアルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩または水酸化物の水溶液あるいはアンモニウム塩の水溶液を反応させてアルミニウムヒドロゲルを得、そのアルミニウムヒドロゲルを多塩基ヒドロキシカルボン酸で溶解する方法である。
さらに、アルミニウムアマルガムまたは金属アルミニウムと多塩基ヒドロキシカルボン酸を反応させる方法等もある(特許文献5)。
【0019】
本アルミニウム有機金属架橋剤を使用するポリマーは、カルボキシル基または配位子を含有するポリマーである。配位子とは、錯体中で中心アルミニウム原子に直接結合している他の原子を全て配位原子と呼び、配位原子は必ず非共有電子対をもっている。このような配位原子を持つイオン、イオン性原子団、または分子を配位子という。配位原子になりやすいものは、N、P、O、S、Xである。
なお、カルボキシル基は配位子ではあるが、本発明の架橋剤のアルミニウム原子に結合した水酸基との反応性が強いので、特別に扱い、本発明では配位子から除外する。
【0020】
本アルミニウム有機金属架橋剤を使用するポリマーは、カルボキシル基または配位子を含有するポリマーであれば、ビニルポリマー系、ジエンポリマー系等の種類を問わない。ポリビニルアルコール、アクリル系、スチレン/ブタジエン系(SB系)、アクリロニトリル/ブタジエン系(NB系)などが挙げられる。
【0021】
本発明のポリマー組成物は、アルミニウム原子に結合した2個以上の水酸基を有する多塩基カルボン酸または多塩基ヒドロキシカルボン酸のアルミニウム有機金属架橋剤を含有する。架橋剤の含有量は、Al2O3換算で、0.1〜1.0部、好ましくは0.15〜0.5部である。
【0022】
また、上記ポリマー組成物は、粘着性を防止するために、疎水性物質を含有することができる。
疎水性物質としては、ワックス類、合成ワックス類、ポリオレフィン系ワックス類、低分子量ポリオレフィン、低密度ポリエチレン、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、石油樹脂、ロジンエステル類、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、アクリル系樹脂、メタクリル酸アルキル重合樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。
疎水性基含有カルボン酸またはその塩としては、ロジン類、強化ロジン、不均化ロジン、ダイマー酸、石油樹脂サイズ剤、アルケニルコハク酸、トール油脂肪酸、高級脂肪酸、二塩基酸または多塩基酸またはそれらの塩が挙げられる。なお、疎水性基含有カルボン酸としては、水溶性の塩として添加することが有効であるが、ロジンエステルの様にエマルジョン化されているものは、酸として添加できる。
また、カルボン酸のアルミニウム・ジ・ソープまたは各種疎水性基含有カルボン酸金属石鹸は、架橋成形体に耐水性、剥離性を付与し、製品の非粘着性化に寄与する。
なお、上記組成物には、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤などを適宜添加することができる。
【0023】
また、必要に応じて、酸化亜鉛、イオウ、加硫促進剤、等を含有することができる。
酸化亜鉛の添加量はラテックスの種類にもよるが、ラテックス100重量部あたり0.5〜2.0重量部が好ましく、1.0〜1.5重量部がより好ましい。
【0024】
上記ディップ成形用組成物を使用してディップ成形品を得るためには、例えば直接浸漬法、アノード凝着浸漬法、ティーグ浸漬法など従来公知のディップ成形法がいずれも適用される。ディップ成形品の形状は特に制限されないが、例えば、手袋等の形状が例示される。ディップ成形後、好ましくは100〜150℃で加熱することによって、有機金属架橋剤によるカルボキシル基含有ジエン系ゴムラテックスのカルボキシル基の架橋が達成される。すなわち、上記の各成分を混合して組成物を得、それを加熱することによって本発明の架橋成形体を製造することができる。
【0025】
なお、ゴムラテックス組成物の架橋成形体は成形体膜同士の癒着を防止するために、表面処理されたものであってもよい。表面処理に使用する非粘着性表面処理剤としては、カチオン性のカルボキシル基封鎖剤が好ましく、無機系では、三価以上のカチオン性金属イオン架橋剤(ポリ水酸化アルミニウム塩、水溶性アルミニウム塩、水溶性チタン化合物等)、カチオン性水酸化アルミニウムゾル(アルミナゾル)等の無機系化合物が有効であるが、本発明では、2価のジルコニウム化合物によっても非粘着性化する。本発明の有機アルミニウム金属架橋剤の効果が大きいためであると考えられる。
有機系表面処理剤としては、カチオン性石油樹脂、カチオン性アルキルケテンダイマーが有効である。
有機高分子系表面処理剤としては、第4級アンモニウム塩基を有するスチレン系表面サイズ剤、カチオン性エピクロルヒドリン系樹脂(ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミドアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミド尿素ホルムアルデヒド樹脂等)、ポリアミドエポキシ樹脂、およびキトサン第4級アンモニウム塩基を有するスチレン系表面サイズ剤、キトサン等のカチオン性ポリマーが有効である。
また、表面サイズ剤等として使用されるカチオン性高分子、例えばカチオン性スチレンアクリル共重合体系樹脂、カチオン性スチレンアクリルエマルジョン系樹脂、カチオン性アクリル共重合体系樹脂、カチオン性オレフィン・マレイン酸系樹脂、カチオン性ウレタン系樹脂、カチオン性長鎖アルキル含有ポリマー剥離剤等のカチオン性高分子は、カルボキシル基封鎖剤として機能する共に、剥離剤としても機能する。
さらに、アニオン性スチレンアクリル共重合体系樹脂、アニオン性スチレンアクリル系樹脂、アニオン性アクリル共重合体系樹脂、アニオン性オレフィン・マレイン酸系樹脂、アニオン性ウレタン系樹脂、アニオン性長鎖アルキル含有ポリマー剥離剤等のアニオン性高分子は、疎水性物質として、非粘着性化剤、剥離剤としても機能する。また、ロジン、ロジンエマルジョン、エステル化ロジンエマルジョン、アルケニルコハク酸塩、アルキルケテンダイマー等も非粘着性化効果を有する。
表面処理剤の使用濃度は特に制限されないが、例えば、0.1〜2.0%、好ましくは0.2〜1.0%の溶液が使用できる。
なお、表面処理は架橋成形体の両面に施すことが好ましい。
また、下記の表面処理液を用いることもできる。
【0026】
本発明の表面処理液は、オレフィン系不飽和モノマーを構成モノマーとして含む共重合体からなるアニオン性表面サイズ剤(オレフィン系表面サイズ剤)およびスチレン系不飽和モノマーを構成モノマーとして含む共重合体からなるアニオン性表面サイズ剤から選択される表面サイズ剤と、上記金属原子に結合した水酸基を二個又はそれ以上含有する有機金属架橋剤、カチオン性失活アミン系化合物および水溶性水素結合形成剤から選択される1種類以上の化合物を含む。
オレフィン系表面サイズ剤とは、オレフィン系不飽和モノマーを構成モノマーとして含む共重合体をいう。具体的には、疎水性不飽和モノマーである不飽和モノマーとカルボキシル基含有不飽和モノマーもしくはその塩を主構成要素とする共重合体である。
スチレン系表面サイズ剤とは、スチレン系不飽和モノマーを構成モノマーとして含む共重合体をいう。具体的には、スチレン系不飽和モノマーとカルボキシル基含有不飽和モノマーもしくはその塩を主構成要素とする共重合体である。
上記共重合されるカルボキシル基含有不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、シトラコン酸、フマール酸等が挙げられる。
カチオン性失活アミン系化合物としては、上記(b)で説明した耐水化剤または耐水性ポリマーを添加した、アニオン性もしくはノニオン性ポリビニルアルコール、アニオン性もしくはノニオン性ポリアクリルアミド、またはアニオン性もしくはノニオン性炭水化物が挙げられる。
水溶性水素結合形成剤としては、ポリビニルアルコール系、ポリアミド系、炭水化物系が挙げられる。
【実施例】
【0027】
[比較例1〜2]
[実施例1〜9]
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。
【0028】
(多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤の合成法:A1)
多塩基ヒドロキシカルボン酸と水溶性アルミニウム塩(塩化アルミニウム)を反応させて、多塩基ヒドロキシカルボン酸のアルミニウム石鹸を合成し、アルミニウム石鹸の水溶性、水不溶性の評価をした。
<使用多塩基ヒドロキシカルボン酸>
C:クエン酸(ヒドロキシトリカルボン酸)10%液
M:リンゴ酸(ヒドロキシジカルボン酸)10%液
T:酒石酸(ヒドロキシジカルボン酸)10%液
<水溶性アルミニウム塩>
Al:塩化アルミニウム6水塩 10%液
<多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤の合成>
水20gにAl2O3換算0.18gの塩化アルミニウム6水塩を添加し、60℃に加熱する。
次に、表1に示す必要量の上記多塩基ヒドロキシカルボン酸を添加した溶液に塩化アルミニウムの塩素イオンを中和する量の10%水酸化ナトリウムを添加した液を調製し、上記塩化アルミニウム水溶液に徐々に添加する。
添加終了後、30分間60℃に保持する。
反応終了後、25℃に冷却し、10%水酸化ナトリウムを添加して、pHを9.0〜9.5に調整した。
(多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤の合成法:A2)
<多塩基ヒドロキシカルボン酸とアルミニウムヒドロゲルとの反応による水溶性多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤の合成>
水20gにAl2O3換算0.18gの塩化アルミニウム6水塩を添加する。
次に、撹拌しながら7%炭酸水素ナトリウム液をpHが6.5になるまで徐々に添加し、アルミニウムヒドロゲルを形成する。
30分放置後、室温で多塩基ヒドロキシカルボン酸の所定量を添加し、15分間撹拌する。
次に、撹拌を続けながら、徐々に温度を60℃に加熱し、30分間保持して、アルミニウムヒドロゲルを溶解する。溶解後、室温まで冷却し、10%水酸化ナトリウム液を添加して、pHを9.0〜9.5に調整した。
(多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤の合成法:A3)
アルミニウムヒドロゲルをろ過洗浄してから多塩基ヒドロキシカルボン酸を添加し、上記同様にアルミニウムヒドロゲルを溶解させた。
<ラテックス調整液の調整>
(使用ラテックス)
・カルボキシ変性NBRラテックス LX550L (日本ゼオン製)
・水酸化カリウム ラテックス調製液のpHが9.5近辺の範囲に入るように、添加量を調整した。最終ラテックス調整液のラテックス濃度は、30%とした。
(配合薬品)
・サイズ補強剤、ペルトールPB603MS(東邦化学工業社製)を1.0部添加した。
(添加架橋剤)
・表1に示す多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤をAl2O3換算0.3部になるように添加した。
<ディップ成形品の製造>
凝固液として濃度30%の硝酸カルシウム・4水塩水溶液を調製し、80℃で予備乾燥しておいたサンドブラストをかけた試験管を5秒間浸漬し、引き上げた後、水平にして回転下にヘヤードライヤーで乾燥させた。引き続き、上記組成のディップ成形組成物に試験管を10秒間浸漬し、引き上げた後、熱風乾燥機で乾燥(80℃×3分)させた。次にその試験管を40℃の温水に3分間浸漬して洗浄した後、95℃で3分、120℃で15分間加熱処理して試験管の表面に固形皮膜物を得た。最後にこの固形皮膜物を試験管から剥がし、ディップ成形品を得た。
【0029】
(試験項目)
・多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤の水溶性
・引張り強さ
・着用フィットネス性
結果を表1に示す。
【0030】
(評価)
多塩基ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基の全てにアルミニウムを結合させた比較例1〜2は水不溶性であったが、多塩基ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基当量よりも、1当量以上アルミニウム塩の添加量を少なくした多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤は、水溶性であった。
また、係る多塩基ヒドロキシカルボン酸アルミニウム有機金属架橋剤を添加したカルボキシル化NBRは十分な強度が発現し、本化合物が架橋剤であることが証明された。
さらに、着用フィットネス性も極めて良好であった。
【0031】
【表1】






【0032】
[実施例10]
<フマール酸アルミニウム有機金属架橋剤の合成>
水20gにAl2O3換算0.18gの塩化アルミニウム6水塩を添加し、60℃に加熱する。
次に、テトラヒドロキシフマール酸アルミニウムを生成する量のフマール酸ナトリウムを添加した溶液に塩化アルミニウムの塩素イオンを中和する量の10%水酸化ナトリウムを添加した液を調製し、上記塩化アルミニウム水溶液に徐々に添加する。
添加終了後、30分間60℃に保持する。
反応終了後、25℃に冷却し、10%水酸化ナトリウムを添加して、pHを9.3に調整した。
<ラテックス調整液の調整>
(使用ラテックス)
・NBRラテックス LX550L (日本ゼオン社製)
・水酸化カリウム ラテックス調製液のpHが9.5近辺の範囲に入るように、添加量を調整した。最終ラテックス調整液のラテックス濃度は、30%とした。
(添加架橋剤)
・フマール酸テトラヒドロキシアルミニウム有機金属架橋剤をAl2O3換算0.35部になるように添加した。
<架橋フィルムの形成>
上記ラテックス調整液をフィルム厚0.2mmになるようにシャーレに入れ、減圧下で乾燥し、120℃で60分間加熱処理した。
また、架橋剤未添加のラテックスフィルムを同様にして調整した。
<TOF−SIMSの測定>
上記2サンプルをアルバック・ファイ社製TOF−SIMSで放出イオンスペクトルを測定した。負イオン検出で、架橋剤未添加試料ではCNのピークが50,000カウントに達したが、フマール酸テトラヒドロキシアルミニウム有機金属架橋剤を添加した試料では、2,000カウントを示すに過ぎなかった。
(評価)
上記CN放出カウント数の減少は、ラテックスに由来するニトリル基の非共有電子対が、アルミニウム原子に配位した結果、CNの放出カウント数が減少したものと考えられる。
[実施例11]
(使用ラテックス)
実施例10のカルボキシル変性NBRに換えて、カルボキシル未変性NBRを使用し、架橋剤添加量をAl2O3換算0.5部にした以外は、実施例10と同様に試料を調整した。
NBRラテックス Nipol 1562(日本ゼオン社製)
(結果および評価)
カルボキシル未変性NBRであるにもかかわらず、フマール酸テトラヒドロキシアルミニウム有機金属架橋剤を添加したラテックス調整液は、1日で相分離を起こした。常温でもNBRと架橋剤が何らかの反応を起こしたためであると考えられる。
また、乾燥加熱したフィルムは、伸びが抑制され、ラテックスが架橋していることが分かった。
[実施例12]
NBRラテックスに換えて、ポリビニルアルコールを使用した。
(ポリビニルアルコール)
ゴーセサイズP−7100(日本合成化学工業社製)、ノニオン、鹸化度 98.5%。
上記ポリビニルアルコールを85℃〜90℃に加熱して、ポリビニルアルコール5%液を調整した。
(架橋剤)
実施例1で使用した水溶性クエン酸アルミニウム有機金属架橋剤と、実施例10,11で使用したフマール酸テトラヒドロキシアルミニウム有機金属架橋剤を使用した。
(調整液の調整)
上記ポリビニルアルコール5%液に、アルミニウム系架橋剤をAl2O3換算0.5部添加し、pHを8.3に調整した。
(乾燥、加熱フィルムの調整)
架橋剤未添加の試料を含めて3種のポリビニルアルコール調整液6gをシャーレに採り、95℃で10分乾燥し、120℃で15分加熱した。
(熱水抽出)
乾燥加熱フィルムに水60gを添加し、95℃で30分間フィルムの熱水抽出を行った。その後、110℃で30分加熱乾燥して秤量した。
(結果)
ポリビニルアルコールフィルムの抽出残渣
架橋剤未添加フィルム 71.4%
フマール酸系アルミニウム有機金属架橋剤添加フィルム 92.6%
クエン酸系水溶性アルミニウム有機金属架橋剤添加フィルム 89.7%
(評価)
アルミニウム有機金属架橋剤の添加により、ポリビニルアルコールフィルムの耐熱水性が向上している。アルミニウム有機金属架橋剤とポリビニルアルコールとの官能基同士の直接の化学反応は考えられないので、ポリビニルアルコールの水酸基がアルミニウム原子に配位し、2つのアルミニウム原子が存在するためポリビニルアルコール分子間に架橋構造が生成したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の成形用組成物を用いることにより、耐久性、フィットネス性、耐水性に優れ、剥離性を兼ね備えたディップ成形品を得ることができ、医療、食品加工分野および電子部品製造分野など各方面において広く使用されるゴム手袋等を得ることができるものである。
また、本発明は、ポリマーが含有する各種配位子を複数のアルミニウム原子に配位させて架橋する配位子結合型架橋剤を提供し、各種配位子を含有するポリマーを架橋することができる。
さらに、上記組成物を紙等に内添、含浸、塗工することにより、耐ブロッキング性、耐水性、耐久性に優れた紙製品等を得ることができる。









































【特許請求の範囲】
【請求項1】
多塩基カルボン酸のアルミニウム有機金属化合物であって、アルミニウム原子を2個またはそれ以上有する配位子結合型架橋剤。
【請求項2】
多塩基ヒドロキシカルボン酸の水溶性アルミニウム有機金属化合物であって、アルミニウム原子に結合した水酸基を2個またはそれ以上有するカルボキシル基架橋剤であり、かつ、アルミニウム原子を2個またはそれ以上有する配位子結合型架橋剤。
【請求項3】
配位子含有ポリマーと請求項1記載の配位子結合型架橋剤とを含む、ポリマー組成物。
【請求項4】
配位子および/またはカルボキシル基含有ポリマーと請求項2記載の架橋剤とを含む、ポリマー組成物。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載のポリマー組成物を架橋および成形してなる架橋成形体。






【公開番号】特開2010−209163(P2010−209163A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54378(P2009−54378)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(306021675)有限会社フォアロードリサーチ (3)
【Fターム(参考)】