説明

架橋成分

式(I)または(II)によって表される構造を有する架橋成分。式中、Arは、N基に対してメタ位に位置する、フッ素より嵩高い少なくとも1つの非フッ素置換基(R)を有するフッ素化フェニル基を含み、Wは電子求引基を含み、Lは連結基を含む。前記架橋成分はポリマー半導体層および光起電素子の製造において特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架橋成分に関する。特に、この架橋成分は、素子の製造において半導体層に使用できる。
【背景技術】
【0002】
高品質のポリマー半導体ヘテロ構造の開発は、ポリマー半導体素子の性能をさらに改善するために不可欠である。たとえば発光ダイオードにおいて、ヘテロ構造は、効率的な電荷キャリア注入および閉じ込め、ならびにそれらの再結合の制御、ならびに生成した励起子の運命にとっても重要である。しかし、この重要な目標は、ポリマー半導体の電荷キャリア輸送および励起子の特性を悪化させることなくポリマー半導体を架橋させるのに適した充分に一般的な架橋システムがなかったために、これまで妨げられてきた。
【0003】
酸触媒によるエポキシ開環もしくはオキセタン開環または環化付加反応等の特定の架橋化学反応を用いた種々の方法が提案されてきた。特定の架橋反応においては、光または熱の存在下に2つの官能基が相互に反応して架橋を生成する。
【0004】
しかし、これらの特定の架橋化学反応には、有利ではないと思われるいくつかの特徴がある。第1に、これらの反応では2つの反応成分が接触しなければならないので、2分子反応のための充分に高い局所濃度が実現するように、典型的には、典型的なポリマー繰り返し単位の10mol%を超えるほどの非常に高濃度の架橋成分が存在することが必要である。架橋剤成分の濃度がこのように高いと、ポリマーの望ましい形態学的特徴が変化する恐れがある。第2に、これらの架橋成分のかなりの割合が残念ながら取り残されて架橋を形成しない。それは架橋成分が活性を有している間に架橋の相手を見つけることができないためである。これらの架橋成分は引き続いて除去することができず、そのため電荷、特に電子、および励起子に対する電子的に顕著な濃度のトラップが生じる。
【0005】
これら2つの制限を克服するために、フッ素化フェニルアジドを用いる非特異的架橋化学反応の使用が提案されている(国際公開第2004/100282号)。フッ素化フェニルアジドは254nm(即ち深UV光)に曝露されると光分解されてニトレンを生じ、これが非活性化CH結合に挿入され得る。しかし、特に、架橋剤濃度が高い場合に、電子のトラップおよび励起子のクエンチによって性能がいくらか低下する。
【0006】
したがって、ポリマー半導体を架橋させるのに適すると考えられる改良された架橋成分に対する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/100282号
【特許文献2】国際公開第03/095586号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題の少なくとも1つに対処し、かつ改良された架橋成分を提供することを目的としている。特に、本発明による架橋成分はポリマー素子の電荷輸送層および発光層等のポリマー半導体層とともに用いるのに適すると考えられる。本発明の任意の態様による架橋成分は、それが架橋するポリマーまたはポリマー層の隣接層の特性を悪化させることなく、架橋機能を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様によれば、一般式I:
−Ar−W (I)
(式中、Arは、アジド基に対してメタ位に、フッ素より嵩高い(bulkier)非フッ素置換基を少なくとも1つ有するフッ素化フェニルアジド基を含み、Wは電子求引基を含む)
を有する架橋成分が提供される。
【0010】
特定の態様によれば、架橋成分は、4−アジド−2−R−6−R’−3,5−ジフルオロフェニル−1−W;4−アジド−2−R−3,5,6−トリフルオロフェニル−1−W;4−アジド−1−R−6−R’−3,5−ジフルオロフェニル−2−W;4−アジド−1−R’−6−R−3,5−ジフルオロフェニル−2−W;4−アジド−1−R−3,5,6−トリフルオロフェニル−2−W;および4−アジド−6−R−1,3,5−トリフルオロフェニル−2−W(ここで、各RおよびR’は同一または異なり、フッ素より嵩高い非フッ素置換基であり、Wは電子求引基を含む)からなる群から選択される。
【0011】
別の特定の態様によれば、架橋成分は、一般式II:
(N−Ar−W)−L (II)
(式中、各Arは同一または異なり、アジド基に対してメタ位に、フッ素より嵩高い少なくとも1つの非フッ素置換基を有するフッ素化フェニルアジド基を含み、Wは電子求引基を含み、Lは連結基を含み、nは2以上の整数である)
を有し得る。
【0012】
特に、架橋成分は、2個以上の単一の架橋成分が連結基によって連結された場合に一般式(II)を有し得る。
【0013】
Arは、任意の適当なフッ素化フェニルアジド基を含み得る。特定の態様によれば、Arは、置換されたフッ素化フェニルアジドを含み得る。特に、Arは、アジド基に対して少なくとも2つのオルト位に2つのフッ素原子を、およびアジド基に対してメタ位に、Fより嵩高い非フッ素置換基を少なくとも1つ有する置換されたフッ素化フェニルアジド基を含み得る。
【0014】
非フッ素置換基は任意の適当な置換基であり得る。たとえば、非フッ素置換基は、置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基およびシクロアルコキシ基からなる群から選択され得る。特に、非フッ素置換基は、置換または非置換のアルキル基であり得る。アルキル基は直鎖アルキル基または分岐アルキル基であり得る。アルキル基は炭素数1〜18のアルキル鎖長を有し得る。たとえば、アルキル基はメチル基、エチル基、イソプロピル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、またはそれらの分岐誘導体を含み得る。さらには特に、アルキル基はイソプロピルまたは第三級ブチルであり得る。
【0015】
特定の態様によれば、Wはアジド基に対してパラ位にあり得る。Wは本発明の目的に適した任意の適当な電子求引基を含み得る。たとえば、Wはスルホニル基またはカルボニル基を含み得る。たとえば、カルボニル基はケト、エステルまたはアミドの形態であり得る。特に、Wは、−CO−、−C(O)O−、−S(O)O−、−C(O)N−、およびS(O)N−からなる群から選択される電子求引基を含み得る。さらには特に、Wはエステル基、即ち−C(O)O−基を含み得る。
【0016】
Lは任意の適当な連結基を含み得る。Lは二価または多価の連結基を含み得る。特定の態様によれば、Lは、置換または非置換のアルキルジオキシ、アルキルトリオキシ、アルキルジアミド、アルキルトリアミドおよびジアルキルトリオキシからなる群から選択され得る連結基を含む。特に、Lは、エチレンジオキシ、エチレンジアミド、ジエチレントリオキシおよび1,3,5−トリオキシシクロヘキサンからなる群から選択され得る連結基を含む。
【0017】
特定の態様によれば、本発明による架橋成分は、
エチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−メチルベンズアミド)、
ドデシレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−メチルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゾエート)、
ジエチレンオキシビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゾエート)、
ジエチレンオキシビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)、および
ジエチレンオキシビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゾエート)
からなる群から選択され得る。
【0018】
本発明の第2の態様は、上述の架橋成分を含む溶液を提供する。溶液はポリマーまたはオリゴマーをさらに含み得る。任意の適当なポリマーまたはオリゴマーが本発明の目的のために使用され得る。特に、ポリマーまたはオリゴマーは、半導性のポリマーまたはオリゴマーであり得る。たとえば、ポリマーまたはオリゴマーは高分子量のポリマーまたはオリゴマーであり得る。特に、ポリマーまたはオリゴマーは約10000Da以上の分子量を有し得る。
【0019】
第3の態様によれば、
(a)ポリマーまたはオリゴマーと、架橋成分とを含む溶液を基板上に堆積して層を形成するステップと、
(b)層を硬化させて不溶性の架橋ポリマーを形成するステップと
を含む、ポリマー素子を形成する方法が提供される。
【0020】
ポリマーまたはオリゴマーおよび架橋成分は上述のものであり得る。
【0021】
本発明による方法で調製されるポリマー素子は、ポリマーLED素子、ポリマー導波LED素子、ポリマー分布ブラッグ反射器、ポリマーマイクロキャビティLED素子、ポリマーFET素子、ポリマー光検出器およびポリマー光起電素子であり得る。
【0022】
硬化ステップには任意の適当な硬化プロセスが使用できる。特に、架橋成分は、200nm〜400nmの範囲の波長を有する紫外線照射に対して感受性を有するものであり得る。したがって、硬化させるステップは、不活性雰囲気中で200nm〜400nmの範囲の波長を有するUV照射に層を曝露するステップを含み得る。
【0023】
架橋ポリマーは、非共役、部分共役、実質的共役、または完全共役であり得る。特定の態様によれば、架橋成分はポリマーまたはオリゴマーの主鎖の一部であってよく、またはポリマーまたはオリゴマーに側鎖として結合していてもよい。
【0024】
本発明による方法は架橋ポリマーをアニールするステップをさらに含み得る。アニールは任意の適当な温度で実施し得る。たとえば、アニールは適当な時間、90℃で実施し得る。
【0025】
本発明の第4の態様によれば、上述の方法によって得られるポリマー素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】架橋成分としてエチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)を、架橋密度7×1018cm−3で含む緑色PPV LED(四角形記号)の電流−電圧−輝度特性を、深紫外露光で、架橋成分がない対照素子(円形記号)と比較した図である。
【図2】架橋成分としてエチレンビス(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンスルホンアミド)を、架橋密度7×1018cm−3で含む緑色PPV LED(四角形記号)の電流−電圧−輝度特性を、深紫外露光で、架橋成分がない対照素子(円形記号)と比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
性能低下を引き起こす基本的な機構の1つは、π共役主鎖に対するニトレンの攻撃、および望ましくない四極子相互作用によって促進されるポリマーとフッ素化フェニルアジド環との間の分子間電荷移動によるものである。
【0028】
したがって、本発明は四極子相互作用を抑制する改良された架橋成分を提供する。特に、電子が豊富な有機半導体素子と電子が乏しいフルオロフェニルアジドとの間のπ−π相互作用が抑制され、架橋はアルキル側鎖においてより有利に許容される。本発明による架橋成分は高い光架橋効率を有し得る。特に、吸収係数、光速度および挿入収率はいかなる有意な程度にも悪影響を受けず、そのため光架橋プロセスは、半導体素子中の励起子、電子および正孔の存在とより両立し得るものとなる。したがって、本発明による架橋成分は、電荷輸送層および発光層等のポリマー素子の半導体層に使用できて、悪影響がより少ない。
【0029】
第1の態様によれば、本発明は一般式I:
−Ar−W (I)
(式中、Arは、アジド基に対してメタ位に、フッ素より嵩高い非フッ素置換基を少なくとも1つ有するフッ素化フェニルアジド基を含み、Wは電子求引基を含む)
を有する架橋成分を提供する。
【0030】
架橋成分は単一のフッ素化フェニルアジド架橋成分であり得る。特に、式(I)を有する架橋成分は、4−アジド−2−R−6−R’−3,5−ジフルオロフェニル−1−W;4−アジド−2−R−3,5,6−トリフルオロフェニル−1−W;4−アジド−1−R−6−R’−3,5−ジフルオロフェニル−2−W;4−アジド−1−R’−6−R−3,5−ジフルオロフェニル−2−W;4−アジド−1−R−3,5,6−トリフルオロフェニル−2−W;および4−アジド−6−R−1,3,5−トリフルオロフェニル−2−W(ここで、各々のRおよびR’は同一または異なり、フッ素より嵩高い非フッ素置換基であり、Wは電子求引基を含む)からなる群から選択される。
【0031】
別の特定の態様によれば、架橋成分は一般式II:
(N−Ar−W)−L (II)
(式中、各々のArは同一または異なり、アジド基に対してメタ位に、フッ素より嵩高い非フッ素置換基を少なくとも1つ有するフッ素化フェニルアジド基を含み、Wは電子求引基を含み、Lは連結基を含み、nは2以上の整数である)
を有し得る。
【0032】
特定の態様によれば、nはLに含まれる連結基の価数を満足し得る。
【0033】
特に、2つ以上の単一の架橋成分は任意の適当な連結基によって連結されて式(II)を有する架橋成分を形成し得る。特に、2つ以上の架橋成分は、LによってWを介して連結され得る。
【0034】
Arは任意の適当なフッ素化フェニルアジド基を含み得る。本発明の目的のため、フッ素化フェニルアジド基は少なくとも1つのフッ素原子によって置換されたフェニルアジド基と定義される。特にいくつかの実施形態においては、フッ素原子はアジドに対してオルト位である任意の位置に位置し得る。特に、Arはアジド基に対して少なくとも2つのオルト位に2つのフッ素原子を有し、かつ、アジド基に対してメタ位に、Fよりも嵩高い非フッ素置換基を少なくとも1つ有する置換されたフッ素化フェニルアジド基を含み得る。特定の態様によれば、Arは3,5−ジフルオロフェニルアジド、3,5,6−トリフルオロフェニルアジド、または2,3,5−トリフルオロフェニルアジドを含み得る。Arは、アジド基に対してパラ位に位置する電子求引基をさらに含み得る。特定の態様によれば、Arは、置換された3,5−ジフルオロフェニル−2Wアジド基、3,5,6−トリフルオロフェニル−2W、アジド基または1,5,6−トリフルオロフェニル−2Wアジド基を含み得る。
【0035】
Arは、フッ素より嵩高い非フッ素置換基を少なくとも1つ有する。たとえば、Arは、1つまたは2つの非フッ素置換基を有する。特定の態様によれば、Arはフッ素化フェニルアジドを含み、アジド基に対してメタ位において1つの非フッ素置換基で置換され得る。さらには特に、Arはフッ素化フェニルアジドを含み、アジド基に対して各々のメタ位において2つの非フッ素置換基で置換され得る。2つの非フッ素置換基の各々は同一でも互いに異なっていてもよい。
【0036】
フッ素より嵩高い(bulkier)非フッ素置換基は、フッ素原子を含まず、フッ素原子よりも大きなファンデルワールス半径を有するか、これと同じことであるがフッ素原子よりも大きなファンデルワールス体積を有する化学基である置換基であると定義され得る。フッ素のファンデルワールス半径は約1.5オングストロームであることが認められている。
【0037】
本発明の目的のため、任意の適当な非フッ素置換基が使用できる。たとえば、非フッ素置換基は置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、およびシクロアルコキシ基からなる群から選択され得る。特に、非フッ素置換基の適当な選択としては、非フッ素置換基が電子求引基と干渉しないように選択することが含まれる。
【0038】
特に、非フッ素置換基は、置換または非置換のアルキル基であり得る。アルキル基は直鎖または分岐のアルキル基であり得る。アルキル基は炭素数1〜18のアルキル鎖長を有し得る。たとえば、アルキル基は、メチル基、エチル基、イソプロピル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ヘキシル基、オクチル基またはそれらの分岐誘導体を含み得る。特定の実施形態によれば、アルキル基は直鎖アルキル基である。アルキル基の直鎖はより容易に溶液に可溶化し、ポリマー側鎖の架橋をさらに促進し得る。さらには特に、アルキル基はイソプロピルまたは第三級ブチルであり得る。
【0039】
特定の態様によれば、非フッ素置換基は置換または非置換のシクロアルキル基であり得る。本発明の目的のため、任意の適当なシクロアルキルが使用できる。たとえば、シクロアルキル基はシクロヘキシルおよびシクロペンチルを含み得る。
【0040】
特定の態様によれば、非フッ素置換基は置換または非置換のアルコキシ基またはシクロアルコキシ基であり得る。本発明の目的のため、任意の適当なアルコキシまたはシクロアルコキシが使用できる。たとえば、アルコキシ基はメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ヘキソキシ、オキシトキシおよびそれらの分岐誘導体を含み得る。たとえば、シクロアルコキシはシクロヘキソキシを含み得る。
【0041】
非フッ素置換基は、トリフルオロメチル等のフッ素化置換基のようには誘起性電子求引効果を引き起こさない。これは、本発明による非フッ素置換基は、架橋成分が誘起的に電子をAr環に供与し、それにより最高占有分子軌道(HOMO)および最低空分子軌道(LUMO)の両方のエネルギーレベルを増大させることを可能にするからである。このことは、架橋成分による電子のトラッピングおよび励起子のトラッピング、またはその半導性ポリマーとの相互作用を低減させるために特に有利である。
【0042】
本発明の目的のため、Wは任意の適当な電子求引基を含み得る。たとえば、Wはスルホニル基またはカルボニル基を含み得る。カルボニル基はケト、エステルまたはアミドの形態であり得る。特に、Wは、−CO−、−C(O)O−、−S(O)O−、−C(O)N−、またはS(O)N−からなる群から選択される電子求引基を含み得る。さらには特に、Wはエステル基、即ち−C(O)O−基を含み得る。
【0043】
特定の態様によれば、Wはアジド基に対してパラ位にあり得る。
【0044】
本発明の目的のため、Lは任意の適当な連結基を含み得る。連結基は2つ以上の架橋成分が連結される際に必要であり得る。特に、2つ以上の架橋成分はWを介して連結され得る。
【0045】
Lは二価(即ちn=2の場合)または多価(即ちnが2より大きい場合)の連結基を含み得る。たとえば、Lは、(CH(式中、xは1〜5)、(CH−O−(CH(式中、xは1〜3)、またはシクロヘキサジイルセグメントを含み得る。特定の態様によれば、Lは、置換または非置換のアルキルジオキシ、アルキルトリオキシ、アルキルジアミド、アルキルトリアミドおよびジアルキルトリオキシからなる群から選択され得る連結基を含み得る。特に、Lはエチレンジオキシ、エチレンジアミド、ジエチレントリオキシ、および1,3,5−トリオキシシクロヘキサンからなる群から選択される連結基を含み得る。
【0046】
特定の態様によれば、本発明による架橋成分は、
エチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−メチルベンズアミド)、
ドデシレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−メチルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゾエート)、
ジエチレンオキシビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゾエート)、
ジエチレンオキシビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)、および
ジエチレンオキシビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゾエート)
からなる群から選択され得る。
【0047】
本発明の任意の態様による架橋成分は多くの用途を有し得る。たとえば、架橋成分は半導性ポリマーと混合され、またはポリマーの主鎖または側鎖の一部として、低濃度の架橋成分を有する架橋ポリマー製品を形成させるために使用され得る。低濃度の架橋成分は、ポリマー素子におけるポリマーの性能を実質的に低下させない。
【0048】
架橋成分は、連結基によって連結される2つの単一の架橋成分を含んでいてもよく、それにより、架橋すべきポリマーに溶液状態で混合されてポリマーとともに堆積して均一に分散した膜を形成する架橋可能な添加剤が得られる。露光に際して架橋可能な添加剤は2つのポリマー鎖を架橋する。
【0049】
特定の態様によれば、2つ以上の架橋成分は任意の適当な連結基で連結されて架橋可能な添加剤を生成し得る。連結基は上述のものであり得る。特に、2つの単一の架橋成分は置換または非置換のアルキルジオキシ、アルキルジアミドまたはジアルキルトリオキシ単位であり得る連結基によって連結され得る。さらには特に、連結基はエチレンジオキシ、エチレンジアミドまたはジエチレントリオキシ単位であり得る。
【0050】
架橋成分は、連結基によって連結される3つの単一の架橋成分を含んでいてもよく、それにより、架橋すべきポリマーマトリックスに溶液状態で混合されてポリマーとともに堆積して均一に分散した膜を形成する架橋可能な添加剤が得られる。露光に際して架橋可能な添加剤は3つのポリマー鎖を架橋する。
【0051】
たとえば、3つ以上の架橋成分は任意の適当な連結基で連結されて架橋可能な添加剤を生成し得る。連結基は上述のものであり得る。特に、3つの単一の架橋成分は置換または非置換のアルキルトリオキシまたはアルキルトリアミド単位であり得る連結基によって連結され得る。さらには特に、連結基は1,3,5−トリオキシシクロヘキサン単位であり得る。
【0052】
別の特定の態様によれば、架橋成分は、ポリマー鎖のモノマー単位の分画上のアルキル鎖に共有結合した1つのAr基を含み得る。露光に際して、Ar基は隣接するポリマー鎖に属するアルキル鎖に架橋する。このようにして、架橋成分の量は半分に減少し得る。これは、架橋成分の一端が既にポリマーのモノマー単位に結合しているからである。架橋成分が側鎖に結合しているので、ポリマーの光電子的特性に対する影響はさらに低減され得る。
【0053】
別の特定の態様によれば、架橋成分は、官能基に連結され得る1つのAr基を含み得る。官能基は、表面エネルギー改質剤または蛍光基であり得る。たとえば、官能基はアルキル鎖が炭素数4以上のアルキル鎖長を有するペルフルオロアルキル鎖または蛍光染料であり得る。架橋成分は次いでポリマーマトリックスと混合され、制御された表面張力または界面張力が得られる。露光の後、架橋成分は架橋されてポリマー鎖上に適切に固定される。
【0054】
本発明の任意の態様による架橋成分は、深紫外(UV)において狭い透過ウィンドウに吸収を有し得る。吸収は200〜400nmの範囲にあり得る。特に、範囲は200〜300nm、245〜275nm、250〜260nmであり得る。本発明の架橋成分の吸収は、任意の適当な方法によって測定され得る。たとえば、吸収は、UV可視吸収分光法によって測定され得る。
【0055】
架橋成分が上記の範囲に適当な吸収を有することが好ましい。これは、この範囲が多数の半導性ポリマーに共通する遷移ウィンドウに対応するためである。したがって、ポリマーの架橋およびイメージングが低い露光量において達成され得る。
【0056】
本発明の第2の態様は、本発明の任意の態様による架橋成分を含む溶液を提供する。溶液はポリマーまたはオリゴマーをさらに含み得る。架橋成分は溶液中でポリマーまたはオリゴマーと混合され、または架橋成分はポリマーまたはオリゴマーの主鎖または側鎖に結合し得る。
【0057】
本発明の目的のため、任意の適当なポリマーまたはオリゴマーが使用できる。ポリマーまたはオリゴマーは可溶で、架橋成分とともに溶液を形成し得る。ポリマーまたはオリゴマーは可溶化基を含み得る。たとえば、ポリマーまたはオリゴマーはアルキル、アルコキシアリール、シクロアルキル、アリールオキシまたはシクロアルキルオキシ基等の可溶化基を含み得る。
【0058】
ポリマーまたはオリゴマーは電導性、半導性、または絶縁性ポリマーであり得る。特に、ポリマーまたはオリゴマーは半導性ポリマーまたは半導性オリゴマーであり得る。たとえば、ポリマーまたはオリゴマーは高分子量ポリマーまたは高分子量オリゴマーであり得る。特に、ポリマーまたはオリゴマーは約10,000Da以上の分子量を有し得る。
【0059】
半導性ポリマーとは対照的に、電導性ポリマーは典型的には高度に(繰り返し単位に対して5mol%超)ドープされて電導状態となっている。結果として、電導性ポリマーは典型的には1018cm−3超の電荷キャリア濃度を有する。本発明の目的のため、電導性ポリマーは電導度10−5S/cm超を有するポリマーである。したがって、それらの電気特性は添加された不純物には本質的に影響されない。そのような電導性ポリマーは主として伝送路または電極接点として有用である。重要なことに、それらは多くの場合、可視光スペクトル、紫外スペクトルおよび深紫外スペクトルの領域の部分に大きく広がる透過ウィンドウを有し、光学パターニングプロセスにおけるあいまいさを増大させる。
【0060】
半導性ポリマーは典型的にはドープされていないか、本質的に低濃度(典型的には0.001mol%以下)でドープされている。電導性ポリマーとは対照的に、半導性ポリマーは典型的には1015cm−3未満の電荷キャリア濃度を有する。本発明の目的のため、半導性ポリマーは10−8S/cm超の電導度を有するポリマーである。これらのポリマーは重要なことに発光ダイオード(LED)、電界効果トランジスタ(FET)および光起電(PV)素子等の広範囲のポリマー素子技術の中核をなす。ポリマーは典型的には上で説明したように可視光−紫外領域においてかなり狭い透過ウィンドウを有する。ポリマーはまた、不純物レベルにずっと敏感な、重要かつ独特の輸送特性および光物理学的特性を有する。
【0061】
絶縁性ポリマーは典型的にはドープされていない。半導性ポリマーとは対照的に、絶縁性ポリマーは典型的には1013cm−3未満の電荷濃度を有する。本発明の目的のため、絶縁性ポリマーは10−8S/cm未満、好ましくは10−12S/cm未満の電導度を有するポリマーであり得る。そのような絶縁性ポリマーは主として電界効果トランジスタ(FET)等の広範囲のポリマー素子技術およびヘテロ構造のナノ構造の作製においてゲート誘電層またはゲート絶縁層として有用である。
【0062】
溶液に含まれる架橋成分の量は架橋成分の用途に応じた任意の適当な量であり得る。架橋成分は、溶液中のポリマーまたはオリゴマーおよび架橋成分の全重量に対して0.05〜5mol%の範囲の量で存在し得る。特に、架橋成分は、溶液中のポリマーまたはオリゴマーおよび架橋成分の全モル数に対して0.05〜5mol%未満、0.05〜3mol%、0.1〜2mol%、0.1〜1mol%の範囲のレベルで溶液中に存在し得る。
【0063】
第2の態様による溶液はポリマー素子の製造において使用できる。
【0064】
第3の態様によれば、
(a)ポリマーまたはオリゴマーと、架橋成分とを含む溶液を基板上に堆積して層を形成するステップと、
(b)層を硬化させて不溶性の架橋ポリマーを形成するステップと
を含む、ポリマー素子を形成する方法が提供される。
【0065】
ポリマーまたはオリゴマーおよび架橋成分は上述のものであり得る。溶液は上述のものであり得る。特定の態様によれば、架橋成分を添加する前の溶液中のポリマーまたはオリゴマーの濃度は0.5〜2.5wt%であり得る。
【0066】
ポリマーまたはオリゴマーは、少なくとも部分的に共役し得る主鎖を含み得る。特に、ポリマーまたはオリゴマーの主鎖は、実質的にまたは完全に共役し得る。
【0067】
ポリマーまたはオリゴマーの構造に関しては、ポリマーまたはオリゴマーは、側鎖または主鎖に複数の飽和炭化水素セグメント(−CH−および−CH−)を含み得る。特に、ポリマーまたはオリゴマーは、複数の脂肪族水素を含み得る。ポリマーまたはオリゴマー中の炭化水素セグメントの重量分率は10〜100%であり得る。特に、半導性ポリマーについては、重量分率は10〜70%であり得る。
【0068】
本発明の方法は、堆積後にポリマー膜を架橋して、1つのプロセスサイクルで任意の所望の膜厚、たとえば約1nm〜約500nmを得る簡単な経路を提供する。本発明の方法においては、これは高濃度の電荷キャリアトラップまたは励起子トラップを導入することなく、多数の例で達成することができる。結果として、広範囲の実用的なポリマー−ポリマーヘテロ構造を構築し、それらをポリマー素子、特に発光ダイオード、光ダイオード、および電界効果トランジスタに有利に組み込むことが可能である。
【0069】
本発明の目的のため、任意の適当な堆積プロセスが使用できる。たとえば、堆積ステップは、基板上に溶液をスピンキャスト、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディップコート、またはフレキソ印刷することによって実施され得る。
【0070】
本発明の方法のため、任意の適当な基板が使用できる。基板の材料は、形成されるポリマー素子によって異なり得る。LEDおよび光ダイオード/光検出器については、基板はガラス上ITO、PET上ITOまたはSi上ITOの層を含み得る。FETについては、基板はガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリカーボネートの層を含み得る。基板は積層構造を含み得る。基板は複数の異なった層を含み得る。
【0071】
本発明の方法の硬化ステップには、任意の適当な硬化プロセスが使用できる。たとえば、硬化は電子線照射によって達成し得る。硬化を行う条件には、不活性雰囲気で層を短波長の照射に曝露することが含まれ得る。短波長照射は深紫外(UV)であり得る。深紫外照射の波長は200〜400nm、245〜370nm、250〜260nmの範囲であり得る。特に、UV照射は約254nmまたは約248nmであり得る。UV照射は任意の適当な光源から得られる。たとえば、UV照射は低圧水銀灯またはKrFエキシマレーザから得られる。
【0072】
特に、架橋成分は、200nm〜400nmの範囲に波長を有する紫外線照射に対して感受性を有し得る。したがって、硬化は、不活性雰囲気で200nm〜400nmの範囲に波長を有するUV照射に層を曝露することを含み得る。硬化が層をUV照射に曝露することを含む場合には、これは1〜100mW/cmの出力であり、露光時間は約0.1〜100秒の範囲であり得る。硬化すべき層に加えられるエネルギー線量は1〜100mJ/cmであり得る。特に、エネルギー線量は5〜20mJ/cmであり得る。
【0073】
堆積ステップの溶液がオリゴマーを含む場合、硬化ステップによりオリゴマーの重合および架橋が起こり、不溶性の架橋ポリマーが形成される。
【0074】
特定の態様によれば、本発明による特定の架橋成分は、溶液中でポリマーまたはオリゴマーと混合される。次いで架橋は、架橋反応が架橋成分とポリマーまたはオリゴマー単位との間の結合形成反応を含む機構で進行する。これは架橋成分それ自体の間の結合形成反応とは異なる。特に、硬化ステップの間、架橋成分は実質的に自己カップリングまたは自己重合をしない。
【0075】
硬化ステップの間、堆積ステップで形成された層は不溶性となり得る。この不溶性を達成するため、堆積ステップの間に形成された層が架橋条件に供される硬化ステップの間に充分な程度の架橋が起こらなければならない。硬化ステップにおいて必要な程度の架橋を達成するために堆積ステップにおいて堆積する溶液中に必要な架橋成分の特定範囲内の正確な量は、ポリマーの分子量分布特性によることになる。一般的には、ポリマーの分子量が高ければ必要な架橋剤の量は少なくなる。適切に必要な最小量はゲル分画実験によって決定することができる。実験は任意の適当な方法によって行い得る。たとえば、実験は国際公開第2004/100282号に記載されたステップによって行い得る。
【0076】
架橋ポリマーは非共役、部分共役、実質的共役、または完全共役であり得る。特定の態様によれば、架橋成分は、ポリマーまたはオリゴマーの主鎖の一部であってよく、ポリマーまたはオリゴマーに側鎖として結合していてもよい。
【0077】
硬化ステップで形成される硬化層の厚みは500nm以下の範囲であり得る。硬化ステップがUV照射への露光による場合、形成される不溶性層の厚みは、1回の適当なUV露光の後、500nmから数nmまでであり得る。必要な場合、最終厚みが500nmを超える層は、堆積および硬化処理を繰り返すことによって作製し得る。必要な最終膜厚は最終用途の応用に依存する。原理的には、本発明の方法によって作製され得る層の数には制限はない。
【0078】
硬化ステップにおいて形成される不溶性層の所望の厚みは層の機能にある程度依存し得る。層がポリマーLEDの注入中間層である場合には、好ましい厚みは5〜20nmの範囲であり得る。たとえば光ダイオードの場合のように層が電荷輸送層である場合には、厚みは10〜50nmの範囲であり得る。層が導波素子におけるクラッディング層である場合には、厚みは100〜400nmの範囲であり得る。層がFETにおけるチャネル層である場合には、厚みは20〜300nmの範囲であり得る。
【0079】
ステップ(i)において堆積される層は、ポリマーブレンドまたは複合材料であり得る。架橋は硬化したポリマーブレンドまたは複合材料の熱安定性を増大させるため、または最終硬化層の溶媒への溶解性に対する耐性を最適化するために有利に使用できる。
【0080】
層は硬化ステップにおいて硬化され、それにより層は不溶性になる。これは層が、したがってポリマーが、層が架橋前には溶解したであろういかなる溶媒にも完全に不溶性であることを意味する。上述のように、この結果を達成することは、問題となる特定の層に対する架橋の必要なレベルを達成することに依存する。一般に、硬化層は通常の有機溶媒には不溶性となる。さらに一般に、層は、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、ヒドロナフタレン等の芳香族炭化水素溶媒およびクロロホルムおよびクロロベンゼン等のハロゲン化溶媒に不溶性となる。これらの溶媒は、素子製造の間の引き続く加工において有用となる。
【0081】
不溶性を決定するための1つの特定の試験法は以下のように記述される。
− スピンコートまたはインクジェット印刷によって製膜し、次いで硬化処理する。
− 形状測定法、楕円偏光法、または干渉測定法によって膜厚を正確に測定し、これをdとする。
− 通常ポリマーを溶解する溶媒に膜を10秒浸漬(または現像)し、次いでブロー乾燥またはスピンオフする。
− 2回目の膜厚測定を行い、これをdとする。
【0082】
層が完全に「不溶性」である場合には、膜/層を浸漬した後の膜厚の減少はないはずである(即ちd/d=1.0)。しかし多くの場合、層は部分的に不溶性であることを必要とするのみである。保持された割合(d/d)が既知であると仮定すれば、素子の設計において任意の減少が可能であり得る。しかし一般には、d/dは0.4より大きいことが必要であり、好ましくは0.5より大きいことが有用である。
【0083】
硬化ステップの後、層は溶媒と接触させ得る。架橋ポリマーが等価の非架橋ポリマーであれば可溶性であったような溶媒に不溶性であるという事実は、層が接触する溶媒は通常の有機溶媒を含む広範囲の溶媒から選択し得るということを意味している。硬化ステップにおいて形成された架橋ポリマーは、この接触によっては溶解しないことになる。
【0084】
任意選択的に、硬化ステップの後で、層は適当な溶媒で洗浄され得る。そのような洗浄ステップは、層が硬化ステップにおいてパターン化された架橋に供される場合に含まれ得る。この中には、堆積ステップから得られた層の選択された領域のみを硬化ステップにおける硬化条件に曝露することが含まれるであろう。本発明の目的のため、選択された領域のみを露光する任意の適当なプロセスが使用できる。これは、たとえばマスクを通してUV照射に露光することによって達成され得る。露光領域にある材料は不溶化する一方、非露光領域にある材料は可溶性のままであろう。これにより、非露光領域にある材料を洗浄ステップで除去することが可能になる。
【0085】
任意選択的に、硬化ステップの後で、層は湿潤化学による適当な化学反応で化学的に改質され得る。そのような化学反応には芳香族スルホン化、アミノメチル化、または他の誘導体化反応が含まれ得る。
【0086】
スルホン化によって、ポリマー繰り返し単位の分画にSOH基が導入される。これは自己ドープ導電性ポリマー層を作製するために使用できる。この特定の反応は多様な条件下で、たとえば層をクロロスルホン酸の希薄クロロホルム溶液と−60℃で反応させることによって、実施し得る。
【0087】
有用であると考えられる別の反応は、架橋反応によって導入されるNH基のメチル化反応である。この反応により、水素原子がおそらくより安定なメチル基に置き換えられる。この特定の反応は、室温で層をヨウ化メチルと反応させ、次いでトリエチルアミンのクロロホルム−エタノール混合物溶液で洗浄することによって行われ得る。したがって、ポリマー層を不溶化した後、層のバルク特性および表面特性を変化させまたは調整するために多様な化学反応が実施され得る。
【0088】
本発明の方法によって形成された層の上にさらなる(第2の)層が堆積され得る。これに関し、硬化ステップの観点から、本発明による方法で形成された層は、さらなる(第2の)層を堆積するために用いたいかなる溶液にも不溶となる。
【0089】
任意選択的に、本発明による方法は、硬化ステップにおいて形成された不溶性ポリマーをアニールするステップをさらに含み得る。アニールは適当な条件下で行われ得る。アニールは適当な温度で行われ得る。特に、アニールは80〜200℃の範囲の温度で行われ得る。たとえば、アニールは90℃で行われ得る。特に、アニールは120〜200℃の範囲の温度で行われ得る。
【0090】
特定の態様によれば、半導性ポリマーは本発明による架橋成分から任意の適当な方法で形成され得る。たとえば、半導性ポリマーは光パターン化または光架橋され得る。特に、ポリマー溶液は適当な量の架橋成分とともに調製される。ポリマー溶液に加えるべき架橋成分の量はゲル保持曲線から選択され得る。
【0091】
ゲル保持曲線は、膜保持率と、膜における架橋成分とポリマーとの重量比(r)とのゲル曲線である。ゲル保持曲線は、rがたとえば0%、0.25%、0.5%、1%または2%である一連の溶液を調製することによって達成できる。次いで溶液を露光し、擦り傷を付け、現像し、同じ擦り傷の同じ場所で膜厚を再測定することによって、形状測定装置を用いて膜厚を測定する。現像された膜の厚みと最初の膜厚との比が膜保持率である。重量比に対する膜保持率のプロットがゲル保持曲線である。ゲル保持率が膜保持率ゼロから立ち上がる点がゲル点である。これは分子量無限大の第1のポリマー鎖の出現に対応する。その後、ゲル保持曲線は単分散ポリマーについては急速に上昇し、より幅広い分子量分布についてはより緩やかに上昇する。ゲル保持曲線から、所望の保持率および必要な架橋成分濃度が決定される。特定の態様によれば、多孔質膜を得るためには膜保持率は約60%以上であるべきである。
【0092】
次いで、架橋成分を含むポリマー溶液は、当業者に既知の方法によって基板上に堆積される。特に、ポリマー溶液はスピンキャストまたはインクジェット印刷され得る。堆積した膜は適当な条件下、適当な温度でアニールされ得る。たとえば、溶媒を除去し、架橋成分をアルキル鎖相中に再分配するために、膜は、窒素中、90℃で5分間アニールされ得る。
【0093】
膜は、グローブボックス中、254nmの深UVでフラッド露光により、またはマスクを通して、露光され得る。たとえば、照射線量は約300mJ/cmであり得る。次いで未露光材料または非架橋材料は溶媒で現像することによって除去される。たとえば、これはスピナー上で溶媒と短時間接触させて次に遠心除去すること、または基板を溶媒浴中に浸漬することによって行われ得る。このようにして、ポリマーLEDおよびポリマーFETの光パターン化が達成され得る。
【0094】
本発明の任意の態様による架橋成分は、特に0.1〜0.5mol%の範囲の量で用いる場合およびポリマーの分子量が充分に高い場合には、広範囲の共役ポリマー膜の光発光および電場発光に実質的に影響を及ぼさない。
【0095】
上述の架橋成分および方法は、バンドギャップが広い材料、特にたとえば国際公開第03/095586号に記載されたもの等の青色ELポリマーにさえも適合する。このプロセスは、他の方法ではこれらの特に感受性が高い材料の素子としての性能を減じたであろう励起子または電荷トラップを生じない。
【0096】
生成した架橋ポリマーは導電性、半導性、または絶縁性ポリマーであり得る。特に、架橋ポリマーは半導性ポリマーであり得る。
【0097】
架橋成分は、一般に、ポリマーの電荷輸送および発光特性等の特性に干渉する可能性のある脱離残基の欠点を有しない。特に、電子が多い有機半導体素子と電子が少ないフルオロフェニルアジドとの間のπ−π相互作用が抑制され、架橋はアルキル側鎖においてより有利に可能になる。
【0098】
共役ポリマーの固相状態での架橋効率は、本発明の第1の態様による架橋成分を用いると、予想されないほど高い。架橋成分の高い効率は、競合する寄生的な環拡大副反応を抑制する環上フッ素原子の存在によるものである。高い効率は、π共役主鎖に対するニトレンの攻撃および望ましくない四極子相互作用によって促進されるポリマーと架橋成分との間の分子間電荷移動を抑制する、環における非フッ素置換基の存在にも起因する。
【0099】
本発明の方法において形成されるポリマー素子は、光学素子であり得る。特に、素子はポリマー発光ダイオード(LED)等のポリマー発光素子、電界効果トランジスタ(FET)等のポリマートランジスタ、光検出器、光起電(PV)素子、導波素子、または分布ブラッグ反射器であり得る。特に、ポリマー素子は、ポリマー導波LED素子またはポリマーマイクロキャビティLED素子であり得る。
【0100】
ポリマーLED素子は、本発明の方法によって堆積された架橋空孔輸送ポリマー層によって作製し得る。素子には、発光ポリマー層および/または電子輸送ポリマー層および/または励起子ブロックポリマー層がさらに含まれ得る。
【0101】
本発明の方法の堆積ステップにおいて記述したように、さらなる層が堆積され得る。ポリマーLEDについては、たとえばアノード上に形成された空孔注入・電子ブロッキングポリマー層、これに続く発光ポリマー層、次いで電子注入・空孔ブロッキングおよび励起子ブロッキングポリマー層、これに続くカソードを含む構造が考えられ得る。有利には、発光層として適切なポリマーもパターン化され、フルカラーのディスプレイが得られる。さらに、発光層は架橋ポリマーブレンド膜であり得る。
【0102】
ポリマー導波LED素子は本発明の方法によって堆積された1つまたは複数の架橋ポリマークラッディング層によって作製し得る。素子は、本発明の方法によって任意選択的に堆積され得るコア発光層をさらに含み得る。導波素子は、隣接するクラッド層(または周囲)よりも高い屈折率を有するコア層(またはストリップ)によって特徴付けられる。コア層およびクラッド層はそれぞれ1つまたは複数の個別の層を含み得る。位相整合条件を満たす適切な波長の光は、全内部反射によってトラップされ、その高い屈折率によってコア層(またはストリップ)の中に導かれる。次いで、この光は素子の端部で発光するか、それが外部カップリングし得る別の領域に導くことができる。このようにして発光する光は高度に指向性で、また光ファイバーによくカップリングできる。
【0103】
ポリマー分布ブラッグ反射器は、本発明の方法によって堆積された高屈折率と低屈折率の交互の架橋ポリマーの多層を用いて作製し得る。ブラッグ反射器は、高屈折率(n)および低屈折率(n)の材料の四分の一波長の厚み(d、d)の複数の層を含む。ブラッグ条件(λ/2=n+n)を満たす波長の光は、この積層の内部で強く反射される。ブラッグ反射器を別のブラッグ反射器または鏡と連結して光学共振器を形成することができる。そのような共振器は波長セレクタとして重要な用途を有している。
【0104】
ポリマーマイクロキャビティLED素子は、本発明の方法によって堆積された1つまたは複数の架橋ポリマー分布ブラッグ反射器層によって作製し得る。素子はコア発光層をさらに含み得る。任意選択的に、コア発光層は本発明の方法によって堆積され得る。
【0105】
ポリマーFET素子は、本発明の方法によって堆積された架橋半導性ポリマー層によって作製し得る。素子は架橋絶縁ポリマー層をさらに含み得る。任意選択的に、絶縁ポリマー層は本発明の方法によって堆積され得る。この層が半導性層の前に堆積される場合は特にそうである。素子は、トップゲート、サイドゲートまたはボトムゲートの構成であり得る。ポリマーFETについては、たとえばソース電極およびドレイン電極の間の基板上に形成された電荷輸送半導性ポリマーおよびそれに続くゲート絶縁材として作用する絶縁ポリマーを含む構造が考えられる。この絶縁ポリマー層は、半導性ポリマーを架橋させた後で、半導性ポリマーを堆積させるために用いた同じ溶媒系から堆積させることができる。
【0106】
ポリマー光起電素子は、架橋ポリマーブレンドまたはポリマー複合材料を含む光反応性層によって作製され得る。
【0107】
本発明の第4の態様によれば、上述の方法によって得られるポリマー素子が提供される。素子は上述のものであり得る。上述の素子の任意のものにおいて、カソードとして好ましい材料には、バリウムおよびカルシウム等のアルカリ土類金属が含まれる。
【0108】
ここで本発明を一般的に記述したが、これは以下の例を参照することによって、より容易に理解されよう。これらの例は説明のために提供されるものであり、限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0109】
[例1−エチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−メチルベンズアミド)]
【化1】

典型的な調製においては、2,3,4,5−テトラフルオロ安息香酸(1)1.00g(5.15mmol)を無水THF(20mL)中で撹拌し、−78℃に冷却した。BuLi4.53mL(ヘキサン中2.5M、2.2当量)を滴加した。得られた懸濁液をさらに3時間、−78℃で撹拌した。無水THF(2mL)中のMEL(0.38mL、1.2当量)を滴加し、混合物をさらに0.5時間撹拌し、次いで室温に加温し、さらに20分撹拌して、白色懸濁液を得た。脱イオン水を滴加することによって反応を停止し、酸性にして酢酸エチル(3×30mL)で抽出した。抽出物を無水MgSOで脱水し、減圧で乾燥するまで蒸発させて6−メチル−2,3,4,5−テトラフルオロ安息香酸(2)を白色固体として得た(収率=56%)。(2)の0.9gをSOCl(5mL)および1滴のDMFと混合し、75℃で12時間加熱した。過剰のSOClを減圧で除去して(3)を帯黄色油として得て、さらに精製することなく用いた。エチレンジアミン66.1mg(1.1mmol)およびTEA0.4mLの乾燥DCM5mL中溶液に、(3)0.5g(2.2mmol)の乾燥DCM5mL中溶液を加えた。室温で10時間撹拌した後、反応混合物を塩水(10mL×3)で洗浄した。有機層をMgSO上で脱水し、溶媒を除去した後に(4)を白色固体として得た(収率=79%)。(4)0.21gおよびNaN0.31g(10当量)の混合溶媒(5mLのDMF、1.5mLのHO)中溶液を暗所で10時間、120℃に加熱した。室温に冷却した後、水10mLを加え、混合物をEA(3×15mL)で抽出した。抽出物をMgSO上で脱水し、溶媒を減圧で除去した。粗生成物をシリカゲル上のクロマトグラフィ(EA:DCM=1:2)でさらに精製して、(5)を白色固体として得た(収率73%)。
【0110】
[例2−ドデシレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−メチルベンゾエート)]
【化2】

典型的な調製においては、2,3,4,5−テトラフルオロ安息香酸1.00g(5.15mmol)を無水THF(20mL)中で撹拌し、−78℃に冷却した。BuLi4.53mL(ヘキサン中2.5M、2.2当量)を滴加した。得られた懸濁液をさらに3時間、−78℃で撹拌した。無水THF(2mL)中のMEL(0.38mL、1.2当量)を滴加し、混合物をさらに0.5時間撹拌した。次いで混合物を室温に加温し、さらに20分撹拌して、白色懸濁液を得た。脱イオン水を滴加することによって反応を停止し、酸性にして酢酸エチル(3×30mL)で抽出した。抽出物を無水MgSOで脱水し、減圧で乾燥するまで蒸発させて(2)を白色固体として得た(収率=56%)。(2)の0.9gをSOCl(5mL)および1滴のDMFと混合し、75℃で12時間加熱した。過剰のSOClを減圧で除去して(3)を帯黄色油として得て、さらに精製することなく用いた。1,12−ドデカンジオール(0.145g、0.61mmol)およびトリエチルアミン(0.16mL、1.2mmol)の無水ジクロロメタン(5mL)中溶液に、(3)(0.33g、1.4mmol、15mol%過剰)の無水ジクロロメタン(5mL)中溶液を加えた。混合物を室温で10時間撹拌し、次いで塩水(3×10mL)で洗浄し、MgSO上で脱水し、減圧で乾燥するまで蒸発させ、(4)を無色油として得た。これをカラムクロマトグラフィ(シリカゲル、溶出溶媒:ヘキサン:ジクロロメタン2:1)で精製した(収率=72%)。(4)(0.30g、0.51mmol)およびNaN(0.33g、5.1mmol)をDMF:水混合物(7mL:5mL)に溶解し、30時間、95℃に加熱した。水(10mL)を加え、混合物を酢酸エチル(20mL×3)で抽出し、MgSO上で脱水し、減圧で乾燥するまで蒸発させ、黄色粗生成物を得て、これをカラムクロマトグラフィ(シリカゲル、溶出溶媒:ヘキサン:ジクロロメタン2:1)で精製して、(5)を白色固体として得た(収率=65%)。
【0111】
[例3−エチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)]
【化3】

典型的な調製においては、塩化イソプロピル9.0mL(98.4mmol、2.1当量)を1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン5mL(46.6mmol)およびAlCl1.24g(9.3mmol、0.2当量)の混合物に滴加した。室温で1時間撹拌した後、脱イオン水10mLを加えた。混合物をエーテル(3×20mL)で抽出した。抽出物を無水MgSOで脱水し、減圧で乾燥するまで蒸発させて1−イソプロピル−2,3,4,5−テトラフルオロベンゼン(1)を淡黄色油として得た(収率=80.3%)。無水THF25mL中の(1)3.0g(15.6mmol)の溶液にn−BuLi11mL(17.6mmol、ヘキサン中1.6M、1.13当量)を−78℃で滴加した。得られた懸濁液を−78℃で4時間撹拌した。次いで得られた暗青色の混合物をドライアイス粉末100gに注ぎ、室温で1時間撹拌した。混合物を酸性にしてEA(3×30mL)で抽出した。有機層をMgSO上で脱水し、溶媒を減圧で除去した。粗生成物をヘキサンで洗浄して(2)を白色固体として得た(収率=59%)。(2)の1.5gおよびSOCl5mLの溶液(1滴のDMFを含む)を80℃で12時間加熱した。過剰のSOClを減圧で除去して(3)を帯黄色油として得た。これをさらに精製することなく次のステップに用いた。エチレングリコール0.127mL(2.31mmol、0.5当量)およびTEA0.646mL(4.63mmol)の乾燥DCM10mL中溶液に(3)1.18g(4.63mmol)の乾燥DCM10mL中溶液を滴加した。室温で48時間撹拌した後、反応混合物を塩水(3×30mL)で洗浄した。有機層をMgSO上で脱水し、溶媒を除去した。粗生成物をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(ヘキサン:DCM=3:1)でさらに精製して、(4)を無色油として得た(収率=85%)。(4)0.98gおよびNaN1.0g(10.4当量)の混合溶媒(35mのDMFL、5mLのHO)中溶液を暗所で7時間、90℃に加熱した。反応混合物を室温に冷却した後、水20mLを加え、混合物をEA(3×40mL)で抽出した。有機層をMgSO上で脱水し、溶媒を減圧で除去した。粗生成物をシリカゲル上のクロマトグラフィ(ヘキサン:DCM=3:1)でさらに精製して、(5)を無色油として得た(収率=73%)。
【0112】
[例4−ジエチレンオキシビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)]
例3と同様であるが、エチレングリコールの代わりにジエチレングリコールを用いた。生成物は白色固体であった(最終ステップにおける収率=90%)。
【0113】
[例5−側鎖の1%が4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエートで終端したポリマー]
鈴木カップリング法によって、9,9−ジオクチルフルオレンの2,2’−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン)ジボロン酸エステル(Aと称する)を2,2’−ジブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン(Bと称する)および2,2’−ジブロモ−9−オクチル−9−ω−ヒドロキシオクチルフルオレン(B’と称する)と相対モル比99:1で共重合させる。250mLのフラスコにA1.50g、B+B’を合わせて0.999mol当量、および乳化剤としてPEG−PPG−PEG 4400 2.35mol当量を装入し、トルエン43mLを窒素で脱ガスした。テトラキス−(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(0.014当量)を脱ガスしたトルエン2mLに溶解して混合物に添加し、次いで迅速に撹拌しながら2M NaCO溶液8.04mL(6当量)を加えて、白色エマルジョンを得た。混合物を迅速に撹拌しながら窒素下に還流加熱した。3日後、ブロモベンゼン0.04mL(0.2当量)を加えて反応を停止させ、さらに1時間撹拌しながら還流し、フェニルボロン酸0.06g(0.2当量)を加え、さらに1時間還流した。次いでポリマーをMeOH中に沈殿させ、精製した。架橋成分と結合させるため、ポリマーをクロロホルムに溶解し、4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピル安息香酸クロライドと反応させ、次いでMeOHによる沈殿とクロロホルムへの再溶解を繰り返すことによって精製した。
【0114】
[例6−エチレンビス(4−アジド−3,5−ジフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゾエート)]
【化4】

典型的な調製においては、アルゴンを満たした容器内で、塩化イソプロピル8.0mL(88mmol、10.5当量)を、1mLの1−ブロモ−3,4,5−トリフルオロベンゼン(8.4mmol)および0.22gのAlCl(1.6mmol、0.2当量)の混合物に滴加した。室温で2時間撹拌した後、脱イオン水10mLを加えた。混合物をエーテル(3×20mL)で抽出した。抽出物を無水MgSOで脱水し、減圧で乾燥するまで蒸発させて1−ブロモ−3,4,5−トリフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゼン(1)を淡黄色油として得た。100mLの無水THF中の(1)7.38g(25.0mmol)の溶液にn−BuLi25mL(50mmol、シクロヘキサン中2.0M、2.0当量)を−78℃で滴加した。得られた懸濁液を−78℃で2時間撹拌した。得られた混合物を乾燥二酸化炭素の流れに通し、室温で1夜撹拌した。混合物を50mLの5%HClで酸性にして真空下でTHFを除去した。粗生成物をDCM(4×50mL)で抽出した。有機層を真空下で濃縮し、NaOH(300mL中5g、3×50mL)で抽出した。水層を10%HCl(50mL)で酸性にした。白色沈殿をDCMで抽出した。この有機層を脱イオン水(1×50mL)で洗浄した。DCMを真空下で除去して白色固体を得た。白色固体を温脱イオン水(2×50mL)で洗浄して濾過した。精製した固体をDCMに溶解し、NaSO上で脱水し、溶媒を減圧で除去して3,4,5−トリフルオロ−2,6−ジイソプロピル安息香酸(2)を白色結晶として得た(6.25g、収率=96%)。乾燥アルゴンを満たした容器内で、7.38gの(2)および24mLのSOClの溶液を90℃で8時間還流した。過剰のSOClを減圧で除去して(3)を黄色油として得た。これを乾燥クロロホルムに溶解し、次にクロロホルムおよび微量の塩化チオニルを除去した。乾燥アルゴンを満たした容器内で、エチレングリコール0.28mL(0.31g、5.0mmol、0.4当量)および4.2mLのTEA(30mmol)の溶液に(3)を3.37g(12.0mmol)加えた。120℃で16時間撹拌した後、反応混合物を室温に冷却し、DCMに溶解した。溶液を5%HCl(30mL、30分撹拌)で、次いで水で洗浄した。有機層をNaSO上で脱水し、溶媒を減圧で除去した。粗生成物をシリカゲル上のクロマトグラフィ(ヘキサン:DCM=3:1)でさらに精製して、(4)を無色油として得た(収率=30%)。0.98gの(4)および1.0g(10.4当量)のNaNの溶液をDMSO(35mL)に溶解し、暗所で24時間、90℃に加熱した。反応混合物を室温に冷却した後、水20mLを加え、混合物をEA(3×40mL)で抽出した。有機層をNaSO上で脱水し、溶媒を減圧で除去した。粗生成物をシリカゲル上のクロマトグラフィ(ヘキサン:DCM=3:1)でさらに精製して、(5)を得た。
【0115】
[例7−ジエチレンオキシビス(4−アジド−3,5−ジフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゾエート)]
例6と同様であるが、エチレングリコールの代わりにジエチレングリコールを用いた。
【0116】
[例8−エチレンビス(4−アジド−3,5−ジフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゾエート)]
【化5】

典型的な調製においては、アルゴンを満たした容器内で、n−ブチルリチウム5.00mL(10mmol、2当量)を1−ブロモ−3,4,5−トリフルオロベンゼン0.60mL(5mmol)および乾燥テトラヒドロフラン20mLの混合物に−78℃で滴加した。−78℃で1時間撹拌した後、テトラヒドロフラン20mLで希釈したヨードヘキサン1.48mL(10mmol、2当量)を混合物に滴加した。−78℃でさらに16時間撹拌した後、脱イオン水10mLを加えた。混合物をジクロロメタン(3×20mL)で抽出した。抽出物を塩水(2×10mL)で洗浄し、無水MgSOで脱水し、減圧で乾燥するまで蒸発させて1−ブロモ−3,4,5−トリフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゼン(1)を淡黄色油として得た。20mLの無水THF中の(1)1.9g(5.0mmol)の溶液に5mLのn−BuLi(10mmol、シクロヘキサン中2.0M、2.0当量)を−78℃で滴加した。得られた懸濁液を−78℃で2時間撹拌した。得られた混合物を乾燥二酸化炭素の流れに通し、室温で1夜撹拌した。混合物を5%HCl20mLで酸性にして真空下でTHFを除去した。粗生成物をDCM(3×20mL)で抽出した。有機層を合わせて塩水(2×20mL)で洗浄した。DCMを真空下で除去して淡黄色油を得た。淡黄色油をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィ(DCM:ヘキサン=1:1)で精製した。溶媒を減圧で除去して3,4,5−トリフルオロ−2,6−ジヘキシル安息香酸(2)を淡黄色油として得た。乾燥アルゴンを満たした容器内で、1.72gの(2)および24mLのSOClの溶液を90℃で8時間還流した。過剰のSOClを減圧で除去して(3)を得た。これを乾燥クロロホルムに溶解し、次にクロロホルムおよび微量の塩化チオニルを除去した。乾燥アルゴンを満たした容器内で、エチレングリコール0.28mL(0.31g、5.0mmol、0.4当量)および4.2mLのTEA(30mmol)の溶液に(3)を4.35g(12.0mmol)加えた。120℃で16時間撹拌した後、反応混合物を室温に冷却し、DCMに溶解した。溶液を5%HCl(30mL、30分撹拌)で、次いで脱イオン水(2×50mL)で洗浄した。有機層をNaSO上で脱水し、溶媒を減圧で除去した。粗生成物をシリカゲル上のクロマトグラフィ(ヘキサン:DCM=3:1)でさらに精製して、(4)を得た。1gの(4)および0.91g(10当量)のNaNの溶液をDMSO(35mL)に溶解し、暗所で24時間、90℃に加熱した。反応混合物を室温に冷却した後、水20mLを加え、混合物をEA(3×40mL)で抽出した。有機層をNaSO上で脱水し、溶媒を減圧で除去した。粗生成物をシリカゲル上のクロマトグラフィ(ヘキサン:DCM=3:1)でさらに精製して、(5)を得た。
【0117】
[例9−ジエチレンオキシビス(4−アジド−3,5−ジフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゾエート)]
例8と同様であるが、エチレングリコールの代わりにジエチレングリコールを用いた。
【0118】
[例10−比較例]
発光層を上記例3によるエチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)(図1)または国際公開第2004/100282号によって調製されたエチレンビス(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンスルホンアミド)(図2)によって架橋した、フェニル置換ポリ(p−フェニレンビニレン)緑色発光ポリマーを用いた発光ダイオードを作製した。素子の構造には、7×1018cm−2の同じ架橋剤濃度の、厚み50nmのポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホン酸塩)層、厚み80nmのフェニル置換ポリ(p−フェニレンビニレン)でスピンコートした酸化インジウムスズガラスが含まれていた。窒素グローブボックス中で2分間、波長254nmで線量300mJ/cmになるように、膜を深紫外に露光した。次いで30nm厚のCaカソードおよび引き続いて120nm厚のAlキャッピング層を蒸着することによってダイオードを完成した。図中の白印は輝度を表し、図中の黒印は電流を表す。比較のために対照として用いた架橋成分を含まない素子についてのデータは丸印で示す。架橋成分を含む素子についてのデータは四角印で示す。
【0119】
データは、架橋成分としてエチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)を用いた素子の電場発光効率に変化がない(図1の挿入図参照)が、エチレンビス(4−アジド−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンスルホンアミド)が架橋成分である場合には電場発光効率が半分に減少している(図2の挿入図参照)ことを明確に示している。両方の場合において、電流密度は架橋成分がないダイオードから実質的に変化していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
−Ar−W (I)
(式中、Arは、アジド基に対してメタ位に、フッ素より嵩高い少なくとも1つの非フッ素置換基を有するフッ素化フェニルアジド基を含み、Wは電子求引基を含む)
を有する架橋成分。
【請求項2】
前記架橋成分が、(i)4−アジド−2−R−6−R’−3,5−ジフルオロフェニル−1−W、
(ii)4−アジド−2−R−3,5,6−トリフルオロフェニル−1−W、
(iii)4−アジド−1−R−6−R’−3,5−ジフルオロフェニル−2−W、
(iv)4−アジド−1−R’−6−R−3,5−ジフルオロフェニル−2−W、
(v)4−アジド−1−R−3,5,6−トリフルオロフェニル−2−W、および
(vi)4−アジド−6−R−1,3,5−トリフルオロフェニル−2−W
(ここで、各RおよびR’は同一または異なり、フッ素より嵩高い非フッ素置換基であり、Wが電子求引基を含む)からなる群から選択される請求項1に記載の架橋成分。
【請求項3】
一般式II:
(N−Ar−W)−L (II)
(式中、各々のArは同一または異なり、アジド基に対してメタ位に、フッ素より嵩高い少なくとも1つの非フッ素置換基を有するフッ素化フェニルアジド基を含み、Wは電子求引基を含み、Lは連結基を含み、nは2以上の整数である)
を有する請求項1または2に記載の架橋成分。
【請求項4】
前記少なくとも1つの非フッ素置換基が、置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基およびシクロアルコキシ基からなる群から選択される請求項1から3のいずれかに記載の架橋成分。
【請求項5】
前記アルキル基が炭素数1〜18のアルキル鎖長を有する請求項4に記載の架橋成分。
【請求項6】
前記アルキル基が直鎖または分岐のアルキル基である請求項4または5に記載の架橋成分。
【請求項7】
前記アルキル基が、メチル、エチル、イソプロピル、第二級ブチル、第三級ブチル、ヘキシル、オクチル、またはそれらの分岐誘導体である請求項4〜6のいずれかに記載の架橋成分。
【請求項8】
Wがアジド基に対してパラ位にある請求項1〜7のいずれかに記載の架橋成分。
【請求項9】
Wがスルホニル基またはカルボニル基を含む請求項1〜8のいずれかに記載の架橋成分。
【請求項10】
Wが、−CO−、−C(O)O−、−S(O)O−、−C(O)N−、および−S(O)N−からなる群から選択される電子求引基を含む請求項9に記載の架橋成分。
【請求項11】
Lが、置換または非置換の、アルキルジオキシ、アルキルトリオキシ、アルキルジアミド、アルキルトリアミドおよびジアルキルトリオキシからなる群から選択される二価または多価の連結基を含む請求項3〜10のいずれかに記載の架橋成分。
【請求項12】
Lが、エチレンジオキシ、エチレンジアミド、ジエチレントリオキシおよび1,3,5−トリオキシシクロヘキサンからなる群から選択される請求項11に記載の架橋成分。
【請求項13】
前記架橋成分が、
エチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−メチルベンズアミド)、
ドデシレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−メチルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゾエート)、
エチレンビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゾエート)、
ジエチレンオキシビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジイソプロピルベンゾエート)、
ジエチレンオキシビス(4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート)、
ジエチレンオキシビス(4−アジド−3,5−トリフルオロ−2,6−ジヘキシルベンゾエート)、および
4−アジド−2,3,5−トリフルオロ−6−イソプロピルベンゾエート
からなる群から選択される請求項1〜12のいずれかに記載の架橋成分。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の架橋成分を含む溶液。
【請求項15】
ポリマーまたはオリゴマーをさらに含む請求項14に記載の溶液。
【請求項16】
前記ポリマーまたはオリゴマーが半導性ポリマーまたは半導性オリゴマーである請求項15に記載の溶液。
【請求項17】
(a)ポリマーまたはオリゴマーと、請求項1〜13のいずれかに記載の架橋成分とを含む溶液を基板上に堆積させて層を形成するステップと、
(b)(a)で形成された前記層を硬化させて不溶性の架橋ポリマーを形成するステップと
を含むポリマー素子の形成方法。
【請求項18】
前記架橋成分が、200nm〜400nmの範囲の波長を有する紫外線照射に対して感受性を有し、前記硬化させるステップが、不活性雰囲気中で200nm〜400nmの範囲の波長を有するUV照射に層を曝露するステップを含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記架橋ポリマーが非共役、部分共役、実質的共役または完全共役である請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記架橋成分が、前記ポリマーまたはオリゴマーの主鎖の一部であるか、前記ポリマーまたはオリゴマーに側鎖として結合している請求項17〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記架橋ポリマーをアニールするステップをさらに含む請求項17〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記ポリマー素子が、ポリマーLED素子、ポリマー導波LED素子、ポリマー分布ブラッグ反射器、ポリマーマイクロキャビティLED素子、ポリマーFET素子、ポリマー光検出器およびポリマー光起電素子からなる群から選択される請求項17〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
請求項17〜21のいずれかに記載の方法によって得られるポリマー素子。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−512986(P2013−512986A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541976(P2012−541976)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000454
【国際公開番号】WO2011/068482
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(507335687)ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール (28)
【Fターム(参考)】