説明

柱梁の接合構造

【課題】鉄骨の梁と鉄筋コンクリート製の柱との位置関係を、長期間に渡り維持できる、柱梁の接合構造を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリート製の柱86に、支持鋼管10が柱86を囲んで設けられている。支持鋼管10の内周面10Nと柱86の外周面86Fとの間には隙間d1が設けられ、隙間d1にはグラウト材12が充填され、支持鋼管10を柱86に接合している。支持鋼管10の上には接合鋼管80が設けられ、接合鋼管80の内周面80Nと柱86の外周面86Fとの間には隙間d2が設けられ、接合鋼管80で覆われている外周面86Fにはコッター90が設けられている。隙間d2とコッター90にはグラウト材88が充填され、柱86に接合鋼管80を接合している。接合鋼管80には梁82が接合され、接合鋼管80と支持鋼管10の間には隙間Sが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨の梁を、鉄筋コンクリート製の柱に設けられた接合鋼管に接合する、柱梁の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨の梁と鉄筋コンクリート製の柱との接合は、柱に設けられた接合鋼管を用いてなされている。
このとき、図4に示すように、鉄筋コンクリート製の柱86に設けられた接合鋼管80の外周面80Fと、鉄骨の梁82の端面は溶接で接合されている。さらに、接合鋼管80の外周面80Fと梁82の端部は、プレート92でボルト接合されている。
【0003】
また、接合鋼管80と鉄筋コンクリート製の柱86の接合は、接合鋼管80の内周部80Nと、柱86の外周部86Fとの隙間d2にグラウト材88を充填し、グラウト材88で接着接合されている。このとき、グラウト材88の接着力を増すため、柱86の外周面86Fの接合鋼管80で覆われている範囲には、周状の溝部であるコッター90が設けられている。
【0004】
しかし、グラウト材88を充填した後に、梁82を接合鋼管80に溶接で接合する場合には、溶接時の加熱によりグラウト材88が劣化し、接着力が低下するおそれがある。また、地震により接合鋼管80が繰り返しの変形力を受け、接合鋼管80に変形が生じグラウト材88の接着力が低下するおそれもある。このような場合には、接合鋼管80が梁82を支持しきれなくなる場合がある。
【0005】
このため、柱と梁のより確実な接合方法として、いくつかの案がある(特許文献1、2参照)。
しかし、特許文献1は、図5に示すように、梁9と接合される接合リング2を、柱1に設けたリング10で支持する構成であり、リング10は柱1の外周部に溶接で接合されている。このため、柱1の表面は鉄製でなければならず、コンクリート製の柱には適用できない。
【0006】
また、特許文献2は、図6に示すように、梁22と接合される接合鋼管19が、支持プレート16に載置される構成である。支持プレート16は鋼管20に接合されており、鋼管20の一部は鉄筋コンクリート製の柱13に埋め込まれている。このため、新設の鉄筋コンクリート製の柱でないと鋼管20を埋め込むことができない。
【特許文献1】特開平5−214736号公報
【特許文献2】特開2002−235375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は係る事実を考慮し、溶接時の加熱によるグラウト材の劣化や地震による接合鋼管の変形等に関係なく、鉄骨の梁と鉄筋コンクリート製の柱との位置関係を、長期間に渡り維持できる、柱梁の接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明に係る柱梁の接合構造は、鉄骨の梁と鉄筋コンクリート製の柱とを接合鋼管を介して接合する柱梁の接合構造であって、前記柱の外周面に接合され、前記接合鋼管を支持する支持鋼管を有することを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明では、鉄筋コンクリート製の柱に設けられた接合鋼管が、支持鋼管で支持されている。
支持鋼管は、接合鋼管とは別の鋼管で形成され、鉄筋コンクリート製の柱の外周面に接合されている。また、支持鋼管は、接合鋼管や梁とは接合されていない。この結果、接合鋼管や梁が地震等の力を受けて変形しても、支持鋼管は影響を受けず、柱と支持鋼管の接合は安定して維持される。
【0010】
このため、例えば、梁との溶接時の加熱によるグラウトの劣化、接合鋼管の熱膨張、梁の引張等による接合鋼管の膨らみ、接合鋼管に回転力が繰り返し作用することによるグラウト部の損傷等により、柱と接合鋼管との接合力が低下し下方へ移動しようとしても、支持鋼管で支持されるため、接合鋼管と梁の位置関係を維持できる。
【0011】
また、支持鋼管を先に柱に接合し、接合鋼管の接合時の位置決めに利用すれば、グラウト接合の施工性が向上する。このとき、梁との溶接作業も支持鋼管で位置決めをした状態で行うことができ、グラウトの劣化を防ぐことができる。
【0012】
さらに、接合鋼管をグラウト接着し、その後に梁との溶接接合を行う場合には、支持鋼管で接合鋼管が支持されているため、接合部のグラウト接着の劣化の許容範囲を広くとることができ、溶接接合時の加熱温度の管理が簡単になる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の柱梁の接合構造において、前記接合鋼管と前記支持鋼管との間には隙間が形成されていることを特徴としている。
これにより、接合鋼管と支持鋼管との接触をなくすことができる。この結果、接合鋼管との接触で生じる支持鋼管の接合部の損傷を防止できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の柱梁の接合構造において、前記支持鋼管が接合される前記柱の外周面、若しくは前記支持鋼管の内周面のいずれか一方には、接着剤又はグラウトが充填されるコッターが形成されていることを特徴としている。
請求項3に記載の発明では、支持鋼管が接合される柱の外周面、若しくは支持鋼管の内周面のいずれか一方にコッターが形成され、コッターに接着剤又はグラウトが充填されている。
これにより、支持鋼管は柱に強固に接合される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記構成としたので、溶接時の加熱によるグラウト材の劣化や地震による接合鋼管の変形等に関係なく、鉄骨梁と鉄筋コンクリート柱との位置関係を、長期間に渡り維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、鉄筋コンクリート製の柱86の所定位置に、筒状の支持鋼管10が柱86を囲んで設けられている。
支持鋼管10の内周面10Nと柱86の外周面86Fとの間には隙間d1が設けられ、隙間d1にはグラウト材12が充填され、支持鋼管10を柱86に接合している。
【0017】
支持鋼管10の上には、接合鋼管80が柱86を囲んで設けられている。接合鋼管80は、従来技術で説明したものと同じである。即ち、接合鋼管80の内周面80Nと柱86の外周面86Fとの間には隙間d2が設けられ、接合鋼管80で覆われている柱86の外周面86Fには、周状の溝部であるコッター90が設けられている。隙間d2とコッター90にはグラウト材88が充填され、柱86に接合鋼管80を接合している。
【0018】
接合鋼管80の外周面80Fには、鉄骨梁82が溶接84で接合されている。さらに、梁82は、プレート92で接合鋼管80にボルト接合されている。
また、接合鋼管80と支持鋼管10の間には隙間Sが設けられている。
【0019】
このように、支持鋼管10と接合鋼管80を別の鋼管で形成し、支持鋼管10と接合鋼管80を隙間Sを開けて柱86に接合することで、接合鋼管80が梁82から受ける圧縮力や引張力等の影響を、支持鋼管10は受けることがなく、柱86と支持鋼管10の接合は安定して維持される。
【0020】
これにより、例えば、グラウト材88を充填した後に梁82を溶接し、溶接接合時の加熱によりグラウト材88が劣化した場合や、地震により接合鋼管80が繰り返しの変形力を受け、接合鋼管80に変形が生じ、グラウト材88が変形した場合等により、接合鋼管80と柱86の間の接着力が低下しても、支持鋼管10で接合鋼管80を受けることができ、接合鋼管80と梁82の位置関係を維持できる。
【0021】
また、柱86を立てる前に支持鋼管10を所定位置に接合しておけば、接合鋼管80の接合時の位置決めに支持鋼管10を利用できる。これにより、グラウト材88の充填作業性が向上する。このとき、梁82と接合鋼管80の溶接接合84も、支持鋼管10で位置決めをした状態で作業を行うことができ、グラウト材88の劣化が防げる。
【0022】
さらに、支持鋼管10で接合鋼管80を支持した状態で、接合鋼管80をグラウト材88で接合し、その後に梁82の溶接接合84を行う場合には、グラウト材88の劣化の許容範囲を広くとることができ、溶接接合84時の加熱温度の管理が簡単になる。
【0023】
これにより、溶接接合84時の加熱によるグラウト材88の劣化や地震による接合鋼管80の変形等に関係なく、鉄骨梁82と鉄筋コンクリート柱86との位置関係を、長期間に渡り維持できる。
【0024】
ここに、グラウト材88には、例えば普通コンクリート、高強度コンクリート、高強度モルタル若しくは繊維入り高強度モルタルが考えられる。また、グラウト材88に替えて接着剤を充填してもよい。
また、支持鋼管10と接合鋼管80の隙間Sは、隙間Sを小さくし、支持鋼管10と接合鋼管80が接触する位置としてもよい。
【0025】
(第2の実施の形態)
図2に示すように、鉄筋コンクリート柱86の所定位置には、筒状の支持鋼管20が柱86を囲んで設けられている。
支持鋼管20の内周面20Nと柱86の外周面86Fとの間には隙間d1が開けられ、支持鋼管20で覆われている柱86の外周面86Fには、周状の溝部であるコッター26が設けられている。隙間d1とコッター26にはグラウト材12が充填され、柱86に指示鋼管20を接合している。
【0026】
支持鋼管20の上には、接合鋼管80が設けられている。接合鋼管80は、第1の実施の形態と同じである。しかし、接合鋼管80と柱86の接合において、柱86の外周面86Fにコッター90が設けられていない点が異なる。
【0027】
また、接合鋼管22と支持鋼管20の間には隙間Sが設けられている。
このように、支持鋼管20で覆われた外周面86Fにコッター26を設けた構成とすることで、支持鋼管20をより強く柱86に接合することができる。これにより、接合鋼管80で覆われた外周面86Fにコッター90を設けなくても、支持鋼管20で接合鋼管80を受けることができ、第1の実施の形態と同じ作用、効果を得ることができる。
【0028】
なお、図2を用いて、支持鋼管20で覆われた柱86の外周面86Fにコッター26を設けた場合について説明したが、柱86の外周面86Fにはコッター26を設けず、支持鋼管20の内周面20Nに、図示しないコッターを設けた構成としてもよい。
【0029】
これにより、支持鋼管20を柱86に強く接合することができ、第1の実施の形態と同じ、作用、効果を得ることができる。
(第3の実施の形態)
【0030】
第3の実施の形態は、支持鋼管20を第2の実施の形態で説明した支持鋼管20とし、接合鋼管80を第1の実施の形態説明した接合鋼管80とした構成である。
即ち、図3に示すように、柱86の所定位置には、支持鋼管20が柱86を囲んで設けられている。支持鋼管20で覆われた柱86の外周面86Fにはコッター26が設けられている。
【0031】
支持鋼管10の上には、接合鋼管80が設けられている。接合鋼管80で覆われた柱86の外周面86Fにはコッター26が設けられている。
支持鋼管10と接合鋼管80の間には隙間Sが設けられている。
【0032】
このように、支持鋼管20と接合鋼管80の両方に、コッターを設ける構成とすることで、より柱86との接合強度を強くすることができ、第1の実施の形態で説明したと同じ作用、効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る柱梁の接合構造を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る柱梁の接合構造を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る柱梁の接合構造を示す図である。
【図4】従来の柱梁の接合構造を示す図である。
【図5】従来の柱梁の接合構造を示す図である。
【図6】従来の柱梁の接合構造を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10 支持鋼管
12 グラウト材
20 支持鋼管
20N 支持鋼管の内周面
26 コッター
82 梁
86 鉄筋コンクリート柱
80 接合鋼管
86F 柱の外周面
90 コッター
88 グラウト材
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨の梁と鉄筋コンクリート製の柱とを接合鋼管を介して接合する柱梁の接合構造であって、
前記柱の外周面に接合され、前記接合鋼管を支持する支持鋼管を有することを特徴とする柱梁の接合構造。
【請求項2】
前記接合鋼管と前記支持鋼管との間には隙間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の柱梁の接合構造。
【請求項3】
前記支持鋼管が接合される前記柱の外周面、若しくは前記支持鋼管の内周面の少なくとも一方には、接着剤又はグラウト材が充填されるコッターが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の柱梁の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−108631(P2009−108631A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283384(P2007−283384)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】