説明

柱状杭造成装置および柱状杭造成方法

【課題】 吐出された固化材スラリーが直ちに、原地盤中に平面的に帯状に分散でき、貫入と引き抜きの1工程で、均質且つ所定の強度を有する柱状杭を造成することができる柱状杭造成装置および柱状杭造成方法を提供すること。
【解決手段】 中空攪拌軸1の先端側に両翼を有する掘削翼2を設け、掘削翼2の少なくとも一方の翼2aの直上又は直下に、中空攪拌軸1の側面から掘削翼2の先端に至る長さと所定高さを有するガイド板8を立設し、ガイド板8の裏側で且つ攪拌軸1に、地上の固化材スラリー供給手段に連通する固化材スラリー吐出口7を設けた柱状杭造成装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の基礎となる柱状杭を造成する際、固化材スラリーの原地盤土への分散性に優れる柱状杭造成装置および柱状杭造成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物、擁壁および工作物などを地盤上に構築する場合、これら構造物の基礎として、セメントスラリーを固化した柱状杭を地盤中に多数造成することがある。なお、このような柱状杭は、例えば直径600mm、最大改良深度8m程度で且つコンクリートパイルに近い一軸圧縮強度を有するため、土木分野の地盤改良を目的とした深層混合処理工法により造成される固化杭とは異なるものである。従来、これらの柱状杭を地盤中に多数造成する装置としては、図5に示す柱状杭造成装置が知られている。
【0003】
この柱状杭造成装置100は、中空攪拌軸101の先端側に両翼を有する掘削翼102を設け、掘削翼102の付け根106から軸中心で90度離れた攪拌軸の側面に、地上の固化材スラリー供給手段に連通する固化材スラリー吐出口103を設けたものである。なお、符号104は攪拌翼、105は共回り防止板である。この柱状杭造成装置100を用いて地盤に柱状杭を造成する場合、中空攪拌軸の先端を、施工する柱状杭の芯に合わせて攪拌軸を回転させて貫入しつつ、該固化材スラリー吐出口103から固化材スラリーを吐出し、攪拌翼104の回転により、原地盤土と攪拌混合させつつ柱状杭を造成するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、柱状杭造成装置100を用いた柱状杭の造成方法においては、固化材スラリーが吐出される場所が、攪拌軸と原地盤土の間であり、固化材スラリーの吐出口103が掘削翼102の付け根から軸中心で90度離れた位置でもあるため、吐出された固化材スラリーは、平面的に帯状に分散せず、スポット的な吐出となる。このため、固化材スラリーは、固化材スラリー吐出口103より上段の攪拌翼104により、水平方向に拡散され、且つ原地盤土との混合攪拌が行われることになる。このように、従来の柱状杭造成方法においては、均質で所定の強度を得るために、貫入と引き抜きの1工程を、通常2工程は行っていた。このため、貫入と引き抜きの1工程で、均質且つ所定の強度を有する柱状杭造成方法および当該方法を実施する柱状杭造成装置の開発が望まれていた。
【0005】
従って、本発明の目的は、吐出された固化材スラリーが直ちに、原地盤中に平面的に帯状に分散でき、貫入と引き抜きの1工程で、均質且つ所定の強度を有する柱状杭を造成することができる柱状杭造成装置および柱状杭造成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行った結果、掘削翼の少なくとも一方の翼の直上又は直下に、中空攪拌軸の側面から掘削翼の先端に至る長さと所定高さを有するガイド板を立設し、ガイド板の裏側で且つ攪拌軸に、地上の固化材スラリー供給手段に連通する固化材スラリー吐出口を設ければ、攪拌軸の回転により、ガイド板の裏側が空洞になるかあるいは動圧が弱い地盤となるため、吐出された固化材スラリーは平面的に帯状に分散し、攪拌軸の回転移動に伴い水平方向に広く均一に分散できることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、中空攪拌軸の先端側に両翼を有する掘削翼を設け、該掘削翼の少なくとも一方の翼の直上又は直下に、該中空攪拌軸の側面から該掘削翼の先端に至る長さと所定高さを有するガイド板を立設し、該ガイド板の裏側で且つ該攪拌軸に、地上の固化材スラリー供給手段に連通する固化材スラリー吐出口を設けたことを特徴とする柱状杭造成装置を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、中空攪拌軸の先端側に付設される両翼を有する掘削翼の少なくとも一方の翼の直上又は直下に、該中空攪拌軸の周面から該掘削翼の先端に至る長さと所定高さを有するガイド板を立設し、該ガイド板の裏側で且つ該攪拌軸に、地上の固化材スラリー供給手段に連通する固化材スラリー吐出口を設けた柱状杭の造成装置を用い、該中空攪拌軸の先端を、施工する柱状杭の芯に合わせて攪拌軸を回転させ、貫入の際、該固化材スラリー吐出口から固化材スラリーを吐出しながら攪拌翼を回転し、原地盤土と攪拌混合しながら柱状杭を造成することを特徴とする柱状杭造成方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、吐出された固化材スラリーが直ちに、原地盤中に平面的に帯状に分散でき、貫入と引き抜きの1工程で、均質且つ所定の強度を有する柱状杭を造成することができる。このため、当該工法を実施する時間が、従来の工法に比べて、概ね半分にすることができ、工期の短縮が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態における柱状杭造成装置を図1〜図3を参照して説明する。図1は本実施の形態における柱状杭造成装置の一部の正面図、図2は図1の掘削翼近傍を拡大した概略斜視図、図3は固化材スラリーが吐出し平面状に拡散する状態を示す概略平面図をそれぞれ示す。なお、本明細書中、裏面とは回転方向の反対側を言う。また、図2および図4中、掘削翼2は簡略のため矩形断面の水平翼で示しているが、実際は回転方向に下り傾斜状として、掘削効率を高めている。
【0011】
柱状杭造成装置10は、中空攪拌軸1の先端側に両翼2a、2bを有する掘削翼2を設け、掘削翼2の一方の翼2aの直上に、中空攪拌軸1の側面から掘削翼2の先端に至る長さと所定高さhを有するガイド板8を立設し、ガイド板8の裏側で且つ攪拌軸1に、地上の固化材スラリー供給手段(不図示)に連通する固化材スラリー吐出口7を設けたものである。
【0012】
また、攪拌軸1には、掘削翼2の上方側に、上方に向けて順に、共回り防止板5、両翼を有する攪拌翼4、共回り防止板5および両翼を有する攪拌翼4を付設している。攪拌翼4の進行方向に対する取付角度αとしては、20〜90度で適宜決定されるが、本例では20度である。共回り防止板5は、攪拌軸と同期で回転するものではなく、原地盤土と固化材の混合により形成されるだまが、上下の攪拌翼4、4間で共回り、混合攪拌を妨げることを防止するものであり、上下の攪拌翼4、4のそれぞれの攪拌を縁切りするものである。
【0013】
柱状杭造成装置10において、ガイド板8は、長尺状の板状物であり、長手方向の一端は攪拌軸1に接合され、短手方向(上下方向)の下端が一方の掘削翼2aの上面に接合されたものである。ガイド板8の長手方向の長さは、一方の掘削翼2aの翼の長さと同じとすることが、掘削翼2a長さに相当する空洞部又は動圧の弱い部分9(以下、単に「空洞部」と言う。)を形成でき、径方向の全体に亘り均質な強度の柱状杭を造成することができる点で好ましい。また、ガイド板8の短手方向の高さhとしては、固化材スラリーの吐出量により適宜決定されるが、固化材スラリー吐出口7の径より大きいものであり、具体的には、30〜80mm程度である。ガイド板8の短手方向の高さhが低すぎると、設計量の固化材スラリーを空洞部9に入れ込むことができず、また、高さhが高すぎると掘削抵抗が高くなり好ましくない。
【0014】
ガイド板8の設置形態としては、攪拌軸1の回転により、ガイド板8の裏側に空洞部9が形成されるような形態であれば、特に制限されず、鉛直板であっても、やや前方に下り傾斜の傾斜板であってもよい。また、図4に示すように、ガイド板8aは鉛直板81と、該鉛直板81の上端から後方へ延びる天板82とからなる逆L字断面であってもよい。ガイド板8aによれば、ガイド板8aの裏側により確実に空洞部9を形成することができる。また、ガイド板8aにおいても同様に、鉛直板81は前方にやや下り傾斜していてもよく、また逆L字断面を維持したまま、全体が同様に傾斜していてもよい。
【0015】
また、ガイド板8、8aは、掘削翼の両翼に形成されていてもよい(不図示)。すなわち、例えば、図2において、一方の翼2aとは反対方向に延びる他方の翼2bの直上に更に、第2ガイド板を設け、該第2ガイド板の裏側で且つ該攪拌軸に、固化材スラリー吐出口7とは反対方向に向く第2固化材スラリー吐出口を設けてもよい。このように、固化材スラリー吐出口を攪拌軸の両側にそれぞれ設けることにより、例えば一方の固化材スラリー吐出口7が詰まっても、他方の固化材スラリー吐出口で施工を続行できる点で好ましい。
【0016】
図1〜図4に示す本実施の形態における柱状杭造成装置10においては、ガイド板8、8aの設置場所は、掘削翼2、2aの直上であったが、本発明においては、これに限定されず、掘削翼2、2aの直下であってもよい。この場合、同様にガイド板の裏側で且つ攪拌軸に、地上の固化材スラリー供給手段に連通する固化材スラリー吐出口を設けることとなる。掘削翼2、2aの直下のガイド板も同様に、一方の掘削翼又は両掘削翼に設置され、更に、掘削翼2、2aの直上のガイド板との併設であってもよい。
【0017】
固化材スラリー吐出口7は、ガイド板8の裏側で且つ攪拌軸1に付設され、地上の公知の固化材スラリー供給手段に連通する。固化材スラリー吐出口7と固化材スラリー供給手段との連通方法としては、特に制限されず、攪拌軸1の側面に形成された穴と攪拌軸の中空部が連通し、該中空部を固化材スラリーが流れる方法、あるいは、固化材スラリー供給供給配管を攪拌軸の中空部に配設し、固化材スラリー供給供給配管の一端を攪拌軸1の穴に嵌め込み、他端を固化材スラリー供給手段に接続する方法などが挙げられる。なお、固化材スラリー吐出口7には、公知の逆止弁を設けることが、原地盤土が攪拌軸内に逆流することがない点で好ましい。
【0018】
固化材スラリーとしては、特に制限されず、公知のセメントスラリーが使用できる。また、固化材スラリー供給手段としては、例えば固化材スラリー貯槽と送液ポンプを備えるものであり、本発明の柱状杭造成装置10においては、固化材スラリーを従来の方法に比べて、低圧で供給することができる。
【0019】
次に、柱状杭造成装置10を用いて柱状杭を造成する方法について説明する。柱状杭造成装置10の中空攪拌軸1の先端を、施工する柱状杭の芯に合わせて攪拌軸1を回転させ、貫入の際、固化材スラリー吐出口7から固化材スラリーを吐出しながら攪拌翼4を回転し、原地盤土と攪拌混合しながら柱状杭を造成する。
【0020】
この柱状杭造成方法によれば、図3に示すように、攪拌軸1の回転(矢印X方向)により、ガイド板8の裏側が空洞になるかあるいは動圧が弱い地盤となるため、吐出された固化材スラリーは吐出と同時に平面的に帯状に分散し、攪拌軸1の回転移動に伴い水平方向に広く均一に分散できる。図3中、符号Yで示した幅で径方向に広がる部分が帯状の分散状態を示し、上方の半円部分の黒く塗りつぶした部分が水平方向に広く均一に分散した状態を示す。その後、均一に広く分散した固化材スラリーは攪拌翼4により、更に原地盤土と攪拌混合される。そして、攪拌軸の引き抜きにより、原地盤土と固化材スラリーは更に混合されるため、貫入と引き抜きの1工程で高品質の柱状杭を造成することができる。
【0021】
この柱状杭造成方法で得られた柱状杭の杭配置形態としては、特に制限されず、接円配置形態およびラップ配置形態などが挙げられる。また、柱状杭の一軸圧縮強度としては、通常1〜5MN/mであり、土木分野の地盤改良で実施される深層混合処理工法で得られる0.1〜0.5MN/mの固化処理杭とは大きく異なる。また、柱状杭の用途としては、建築物、擁壁および工作物などの基礎が挙げられる。
【0022】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0023】
図1および図2に示す装置形態であり、下記仕様の柱状杭造成装置を使用し、下記施工条件により貫入および引き抜きの1工程を行った。得られた柱状杭の一軸圧縮強度を測定した。測定は任意の数箇所について行った。その結果、いずれの箇所も3MN/mであり、均質で高い強度の柱状杭が得られた。
【0024】
(柱状杭造成装置および施工条件)
・攪拌軸数および回転数;単軸、30回/分前後
・攪拌方法;水平攪拌翼による1方向攪拌
・共回り防止機構;掘削翼と下方の攪拌翼の間と攪拌翼間に設置する2段機構
・攪拌翼の枚数;両翼攪拌翼を上下2段、両翼掘削翼1つ
・羽根切り回数;720回前後
・施工改良径および改良深度;径600mm、深度5000mm
・ガイド板;長さは一方の掘削翼の翼長さと同じ、高さは50mm
・ 貫入および引き抜き速度;0.5m/分
・ 固化材;固化材投入量350kg/cm、水/セメントは60%
・ 1回転当りの固化材吐出量;1.5リットル程度
【0025】
なお、ガイド板の設置を省略した以外は、実施例1と同様の条件である従来の柱状杭造成装置を用いた施工では、一軸圧縮強度3MN/mの柱状杭を得るためには2工程を実施する必要があった。このように、本発明の柱状杭造成方法によれば、高品質の柱状杭を従来の半分の工期で施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態における柱状杭造成装置の一部の正面図である。
【図2】図1の掘削翼近傍を拡大した概略斜視図である。
【図3】固化材スラリーが吐出し平面状に拡散する状態を示す概略平面図である。
【図4】他の実施の形態における柱状杭造成装置の掘削翼近傍を拡大した概略概略図である。
【図5】従来の柱状杭造成装置の先端部分の正面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 中空攪拌軸
2、102 両翼を有する掘削翼
2a 一方の翼
2b 他方の翼
4、104 攪拌翼
5、105 共回り防止板
7、103 固化材スラリー吐出口
8、8a ガイド板
10、10a、100 柱状杭造成装置
21 掘削ビット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空攪拌軸の先端側に両翼を有する掘削翼を設け、
該掘削翼の少なくとも一方の翼の直上又は直下に、該中空攪拌軸の側面から該掘削翼の先端に至る長さと所定高さを有するガイド板を立設し、
該ガイド板の裏側で且つ該攪拌軸に、地上の固化材スラリー供給手段に連通する固化材スラリー吐出口を設けたことを特徴とする柱状杭造成装置。
【請求項2】
該掘削翼の一方の翼とは反対方向に延びる他方の翼の直上又は直下に更に、第2ガイド板を設け、該第2ガイド板の裏側で且つ該攪拌軸に、該固化材スラリー吐出口とは反対方向に向く第2固化材スラリー吐出口を設けたことを特徴とする請求項1記載の柱状杭造成装置。
【請求項3】
中空攪拌軸の先端側に付設される両翼を有する掘削翼の少なくとも一方の翼の直上又は直下に、該中空攪拌軸の側面から該掘削翼の先端に至る長さと所定高さを有するガイド板を立設し、該ガイド板の裏側で且つ該攪拌軸に、地上の固化材スラリー供給手段に連通する固化材スラリー吐出口を設けた柱状杭の造成装置を用い、該中空攪拌軸の先端を、施工する柱状杭の芯に合わせて攪拌軸を回転させ、貫入の際、該固化材スラリー吐出口から固化材スラリーを吐出しながら攪拌翼を回転し、原地盤土と攪拌混合しながら柱状杭を造成することを特徴とする柱状杭造成方法。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−283438(P2006−283438A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106002(P2005−106002)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(502231096)株式会社サムシング (3)
【Fターム(参考)】