説明

栓ゲージ

【課題】 摩耗を抑えて測定精度を維持できる栓ゲージを提供する。
【解決手段】 測定する穴に挿入されるゲージ部11、12を有する栓ゲージ10において、ゲージ部11、12の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜20を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばワークに加工した穴等の測定に使用する栓ゲージの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ワークに加工した穴の内径等の測定する場合、加工した穴に挿入する栓ゲージが用いられる。
【0003】
この栓ゲージは、取っ手部とゲージ部を同軸上に有し、作業者が取っ手部を持ち、ゲージ部を加工した穴に挿入するようになっている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献2には、ゲージ部に空気抜き穴を形成し、ゲージ部のスムーズな挿入ができるようにした栓ゲージが開示されている。
【特許文献1】実開平2−601号公報
【特許文献2】実開昭58−103302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の栓ゲージにあっては、栓ゲージの摺接部が摩耗すると、測定精度が悪化するという問題点があった。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、摩耗を抑えて測定精度を維持できる栓ゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、測定する穴に挿入されるゲージ部を有する栓ゲージに適用する。
【0008】
そして、ゲージ部の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、栓ゲージは測定する穴に挿入されるゲージ部の表面に高硬度のDLCコーティング膜を形成する構造のため、摩擦係数が低い平滑なDLCコーティング膜によって栓ゲージの摺接部に働く摩擦力を低減し、ゲージ部を繰り返して測定する穴に挿入しても、ゲージ部が摩耗することが抑えられ、測定精度を維持できる。さらに、ゲージ部11、12を円滑に測定する穴に挿入することができるとともに、測定される相手側の部材を損傷することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1に示すように、円柱状の栓ゲージ10は、その両端部にゲージ部11、12を有し、各ゲージ部11、12が取っ手部13によって同軸上に連結されている。
【0012】
栓ゲージ10を用いてワークに加工した穴の内径等の測定する場合、作業者が取っ手部13を持ち、ゲージ部11、12を穴に挿入し、ゲージ部11、12と穴の間にできる隙間の大きさを確認するようになっている。
【0013】
そして本発明の要旨とするところであるが、ゲージ部11、12の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜20を形成する。DLCコーティング膜20の厚さは、例えば数μ程度以下の寸法である。
【0014】
DLCコーティング膜20は、アンバランスマグネトロンスパッタ法(以下、「UBMスパッタ法」と称する)によって形成される。
【0015】
スパッタの原理は、図3に示すように、アルゴン等の不活性ガスを導入した真空中でターゲット41を陰極として陽極の間でグロー放電させてプラズマを形成し、このプラズマ中のイオンをターゲット41に衝突させてターゲット41の原子を弾き飛ばし、この原子をターゲット41と対向して配置されたワーク(ケース11)21上に堆積させて皮膜を形成するようになっている。
【0016】
UBMスパッタ法は、スパッタ蒸発源40a〜40dにターゲット41の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する磁場42,43が配置されて、プラズマを形成しつつ強力な磁場42により発生する磁力線の一部がワーク21の近傍に達し、ワーク21にバイアス電圧を印加することによって、ターゲット材41を構成する物質がワーク21上に堆積される。
【0017】
図4は、UBMスパッタ装置50の基本構成を示す。真空チャンバ51に4つのスパッタ蒸発源40a〜40dが設けられ、その中央に配置された自公転式ワークテーブル56上にワーク21が置かれ、ワーク21にコーティングが行われる。スパッタ蒸発源40a〜40dには皮膜材料となる平板状ターゲットが取り付けられる。真空チャンバ51にはアルゴン等の不活性ガスとメタンガス等の炭化水素ガスが所定量充填される。
【0018】
スパッタ蒸発源40a,40cにはターゲットとしてグラファイトを使用し、スパッタ蒸発源40b,40dにはターゲットとして金属を使用する。
【0019】
DLCコーティング膜20は、図2に示すように、ステンレス製ワーク21の表面にニッケルメッキ層61を形成し、このニッケルメッキ層61の表面にボンド層62、中間層63、トップ層64が順に積層して形成される。
【0020】
図5は、上記DLCコーティング膜20を形成するのにあたって、ターゲット出力が変化する様子を示している。
【0021】
ボンド層62は、金属ターゲット40b,40dのみをスパッタして、金属膜として形成される。このボンド層62を形成するのにあたって、図5に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を100%とし、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を0%と一定にして、所定時間だけスパッタが行われる。
【0022】
中間層63は、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットを同時にスパッタし、ターゲット出力を次第に変化させて金属と炭素の傾斜組成膜として形成される。この中間層63を形成するのにあたって、図5に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を100%から一次的に減少させる一方、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を0%から一次的に増加させて、所定時間だけスパッタが行われる。
【0023】
トップ層64は、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットを同時にスパッタし、ターゲット出力を略一定にしてスパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲットとスパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲットのスパッタ率を所定範囲に保って、所定時間だけスパッタが行われる。
【0024】
このトップ層64を形成するのにあたって、図5に示すように、スパッタ蒸発源40b,40dの金属ターゲット出力を10%程度とし、スパッタ蒸発源40a,40cのグラファイトターゲット出力を90%程度と一定にして、トップ層64に含まれる金属の比率は3〜18%の範囲に設定する。さらに望ましくは、トップ層64に含まれる金属の比率を3〜12%の範囲に設定する。
【0025】
以上のように構成されて、次に作用について説明する。
【0026】
ステンレス製のワーク21の表面にニッケルメッキ層61を形成した後、金属の比率を100%にしたボンド層62を設けることにより、母材に対するDLCコーティング膜20の結合強度を高められる。
【0027】
金属の比率を100%にしたボンド層62上に金属の比率を次第に減らす金属と炭素の傾斜組成膜からなる中間層63を設け、中間層63の上に炭素を主成分とするトップ層64を設けることにより、DLCコーティング膜20におけるトップ層64の結合強度を高められる。
【0028】
トップ層64の金属の比率を3〜18%の範囲に設定することにより、トップ層64の密着性や靱性を高められ、高荷重によってワーク21が変形するような場合、割れや、剥離が生じることを防止できる。そして、トップ層64の硬度の低下を抑えられ、耐摩耗性を確保できる。
【0029】
図6にトップ層64に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示すように、金属の比率を3〜18%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を高められる。さらにトップ層64に含まれる金属の比率を3〜12%の範囲に設定することにより、トップ層64の靱性と硬度の両方を著しく高められる。
【0030】
これに対して従来は、トップ層に含まれる金属の比率が0%になっていたため、密着性や靱性が不足し、トップ層に割れや剥離が生じやすいという問題点があった。
【0031】
この結果、ワーク21の表面にDLCコーティング膜20を形成しても、DLCコーティング膜20の割れや剥離が生じることを回避し、実用化が可能となる。
【0032】
栓ゲージ10は、ゲージ部11、12の表面に高硬度のDLCコーティング膜20を形成する構造のため、ゲージ部11、12を繰り返して測定する穴に挿入しても、ゲージ部11、12が摩耗することが抑えられ、測定精度を維持できる。
【0033】
DLCコーティング膜20は摩擦係数が低い平滑な面を形成するため、ゲージ部11、12を円滑に測定する穴に挿入することができ、作業性を高められる。さらに、DLCコーティング膜20が測定される相手側の部材を損傷することを防止できる。
【0034】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、穴の径や他の寸法を測定に使用する栓ゲージに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態を示し、栓ゲージの側面図。
【図2】同じくDLCコーティング膜の断面図。
【図3】同じくスパッタ法の原理を示す説明図。
【図4】同じくUBMスパッタ装置の構成図。
【図5】同じくターゲット出力が変化する様子を示す特性図。
【図6】同じくトップ層に含まれる金属の比率と靱性及び硬度の関係を示す特性図。
【符号の説明】
【0037】
10 栓ゲージ
11 ゲージ部
12 ゲージ部
20 DLCコーティング膜
21 ワーク
40a〜40d スパッタ蒸発源
50 UBMスパッタ装置
61 メッキ層
62 ボンド層
63 中間層
64 トップ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定する穴に挿入されるゲージ部を有する栓ゲージにおいて、
前記ゲージ部の表面に炭素を主成分としたアモルファス構造体からなるDLCコーティング膜を形成したことを特徴とする栓ゲージ。
【請求項2】
前記表面にニッケルメッキ層を形成し、このニッケルメッキ層の表面に前記DLCコーティング膜を形成したことを特徴とする請求項1に記載の栓ゲージ。
【請求項3】
前記DLCコーティング膜は、前記表面に金属ターゲットのみをスパッタしてボンド層を形成し、このボンド層上に金属ターゲットとグラファイトターゲットを同時にスパッタしかつターゲット出力を次第に変化させることにより中間層を形成し、この中間層上に金属ターゲットとグラファイトターゲットを同時にスパッタしかつターゲット出力を略一定にすることにより金属の比率を3〜18%の範囲にしたトップ層を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の栓ゲージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−177908(P2006−177908A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374231(P2004−374231)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】