核医学診断装置、及び光子測定装置
【課題】広い範囲のエネルギーをもつガンマ線を検出することのできる核医学診断装置の提供
【解決手段】ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数積層させて構成する。
【解決手段】ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数積層させて構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核医学診断装置に係り、被検体の体内に放射性物質を投与し、特定の部位に集積して発するガンマ線等を捕らえて、病巣の位置等の画像化を行う核医学診断装置、及びコンプトンカメラのように核医学診断装置に用いるのに好適な光子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の核医学診断装置はコンプトンカメラを備え、このコンプトンカメラによって被検体から発せられるガンマ線等を検出し、該ガンマ線等の入射方向等を算出することにより、該被検体内の放射性物質の画像化を図っている。
【0003】
被検体からのガンマ線は、コンプトンカメラ内で、電子といわゆるコンプトン散乱を生じせしめるようになっている。すなわち、該ガンマ線が有するエネルギーの一部を電子に与えて弾き飛ばし、ガンマ線自身は電子に与えた分のエネルギーを失って散乱ガンマ線(散乱光子)となって散乱する。そして、弾き飛ばされた電子(反跳電子:荷電粒子)は周囲の分子を電離させながら跳び、その際に、電子とイオンを発生させるようになる。
【0004】
該電子(ドリフト電子)の飛跡に関する情報はいわゆる飛跡検出器と称される前段検出器によって検出され、また、散乱ガンマ線の散乱方向およびエネルギーに関する情報はいわゆる散乱ガンマ線検出器と称される後段検出器によって検出されるようになっている。
【0005】
そして、前段検出器と後段検出器からの情報に基づいて少なくともガンマ線入射方向等を算出し、これに基づいて被検体内の放射性物質を画像化するように構成されている。
【0006】
なお、前段検出器は特定の種類のガスが充填された空間を有して構成されたものとなっている。入射ガンマ線に効率良くコンプトン散乱を起こさせるようにするためである。
【0007】
このような構成のコンプトンカメラの詳細についてはたとえば下記特許文献1に開示がなされている。
【0008】
このようなコンプトンカメラは、放射線源からの放射線のコンプトン散乱あるいは電子陽電子対生成を利用し、それによって発生するエックス線あるいはガンマ線を計測することによって、該放射線源をイメージングする装置である。
【0009】
そして、コンプトンカメラを備える核医学診断装置は、たとえばポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置と比較した場合、放射性同位元素の種類を選ぶ必要はなく、また、ガンマカメラやシングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置と比較した場合、機械式コリメータを必要としない構成とすることができる長所を有している。
【0010】
このようなコンプトンカメラの詳細は、たとえば、下記特許文献2に開示がなされている。
【特許文献1】特開2001−13251号公報
【特許文献2】特開昭63−158490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のコンプトンカメラの検出の対象となるガンマ線のエネルギーは、そのガンマ線源である放射性物質によって異なっている。
【0012】
たとえば、ポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置の核種に用いられる放射性薬剤のガンマ線のエネルギーは511keVであり、シングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置の核種に用いられる放射性薬剤(たとえばテクネシウム)のガンマ線のエネルギーは140keVである。
【0013】
この場合、これらガンマ線のエネルギーの大小と、特許文献1のコンプトンカメラの前段検出器に充填されているガスの種類によっては、コンプトン散乱の確立等に大きく影響しガンマ線の入射方向の特定の精度に影響を与えることになる。
【0014】
このことは、前段検出器にいかなる種類のガスを充填させたとしても、特定エネルギー範囲のガンマ線を検出するに適したコンプトンカメラとして構成されることになる。そして、特許文献1のようなコンプトンカメラを備える核医学診断装置は、被検体に投与する核種に制限が付されることになる。
【0015】
また、特許文献2のコンプトンカメラは、被写体から放出されるガンマ線をコンプトン散乱させ少なくとも一回目のコンプトン散乱点における位置情報と、このコンプトン散乱によって生じる反跳電子の運動量の情報を検出する前段検出器と該コンプトン散乱によって散乱されたガンマ線に関する情報を検出する後段検出器とを備えるものであるが、これら各検出器は近接して配置されるとともに、それらの位置関係は常時固定されたものとして構成されたものであった。
【0016】
そして、特許文献2のようなコンプトンカメラは、その検出信号によって画像を再構成した場合に、さらなる高精細の画像が得られることが要望されていた。
【0017】
なお、コンプトンカメラは、核医学診断装置の他に、天体観測用としてエックス線やガンマ線を検出するものも知られているが、この場合におけるコンプトンカメラもその前段検出器と後段検出器は近接して配置されるとともに、それらの位置関係は常時固定されたものとなっている。
【0018】
本発明の目的は、広い範囲のエネルギーをもつガンマ線を検出することのできる核医学診断装置を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、高精細な画像を得ることができる光子測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願において開示される発明に係る核医学診断装置のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0021】
(1)本発明による核医学診断装置は、たとえば、ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数積層させて構成したことを特徴とする。
【0022】
(2)本発明による核医学診断装置は、たとえば、ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数平面的に並設させて構成したことを特徴とする。
【0023】
また、本願において開示される発明に係る光子測定装置のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0024】
(1)本発明による光子測定装置は、たとえば、被写体から放出される光子を反応させ少なくとも一回目の反応点における位置情報と該反応によって生じる荷電粒子の運動量の情報を検出する前段検出器と、
この前段検出器と機械的に分離され前記荷電粒子または該反応によって散乱された光子に関する情報を検出する後段検出器と、
前記前段検出器と後段検出器からの各情報から前記被写体内の光子源をイメージする画像再構成手段とを備え、
前段検出器と後段検出器との間の距離を可変し得る調節手段が備えられていることを特徴とする。
【0025】
(2)本発明による光子測定装置は、たとえば、(1)の構成を前提とし、前記前段検出器を被写体に対して近接あるいは密着させるようにした機構を備えたことを特徴とする。
【0026】
(3)本発明による光子測定装置は、たとえば、(1)の構成を前提とし、前記前段検出器を後段検出器と順向させた状態で被写体の周囲に回転させる機構を備えたことを特徴とする。
【0027】
(4)本発明による光子測定装置は、たとえば、(1)の構成を前提とし、前記後段検出器を前段検出器と順向させた状態で被写体の周囲に回転させる機構を備えたことを特徴とする。
【0028】
(5)本発明による光子測定装置は、たとえば、(3)の構成を前提とし、後段検出器は被検体の周囲を囲んだ環状体で構成されていることを特徴とする。
【0029】
(6)本発明による光子測定装置は、たとえば、(3)の構成を前提とし、前段検出器は被検体の周囲を囲んだ環状体で構成されていることを特徴とする。
【0030】
なお、本発明は以上の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【発明の効果】
【0031】
このように構成した核医学診断装置は、広い範囲のエネルギーをもつガンマ線を検出することができる。
【0032】
また、このように構成した光子測定装置は、高精細な画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は、本発明による核医学診断装置を示す構成図で、それに具備されるコンプトンカメラの一実施例を示す構成図である。
【0034】
図1において、コンプトンカメラ1は、飛跡検出器となる第1前段検出器10、第2前段検出器20がたとえば二段(二層)に設けられ、これら第1前段検出器10、第2前段検出器20と散乱ガンマ線検出器となる後段検出器30とで構成されている。
【0035】
図中において、診断を受ける被検体(図示せず)は、該コンプトンカメラ1の第1前段検出器10側に位置づけられ、該被検体内に投与された放射性薬剤から入射ガンマ線2が第1前段検出器10の側に指向されて放出されるようになっている。
【0036】
第1前段検出器10は入射ガンマ線2の入射方向側に順次ガスパッケージ10Aおよび検出器10Bが配置され、第2前段検出器20も入射ガンマ線2の入射方向側に順次ガスパッケージ20Aおよび検出器20Bが配置されている。
【0037】
第1前段検出器10および第2前段検出器20においてそれらのガスパッケージ10Aおよび20A、また検出器10Bおよび20Bは、それぞれ、たとえば同様の構成となっているが、第1前段検出器10のガスパッケージ10A内にはたとえばアルゴン系のガスが充填され、第2前段検出器20のガスパッケージ20A内にはゼノン系のガスが充填されていることに相異を有する。
【0038】
第1前段検出器10および第2前段検出器20にガスが充填されるのは、第1前段検出器10にさらには該第1前段検出器10を通過して第2前段検出器20に入射してくる入射ガンマ線2に該ガスの空間内でコンプトン散乱を生じせしめる確率を高め、これにより、効率的にガンマ線を検出するためである。また、これらのガスはたとえば高圧で封入され、これによりガスの電子密度が高められてコンプトン散乱の生じる確率を向上させている。
【0039】
第1前段検出器10のガスパッケージ10Aに充填されるアルゴン系のガスは比較的軽い元素から構成され、該第1前段検出器10に入射される入射ガンマ線2がたとえば200keV程度と比較的低いエネルギーを有している場合には、この入射ガンマ線2の測定にあっては該第1前段検出器10が適したものとして構成される。図1にあっては、第1前段検出器10に入射ガンマ線2が入射され、ガスパッケージ10A内で生じたコンプトン散乱によって、散乱ガンマ線3と反跳電子4が生じていることを示している。散乱ガンマ線3に関する情報は後段検出器30によって、反跳電子4に関する情報は第1前段検出器10の検出器10Bによって検出されるが、これらの詳細は後述する。
【0040】
この場合、第2前段検出器10に入射されてくる入射ガンマ線2がたとえば700keV程度と比較的高いエネルギーを有している場合には、ガンマ線によるコンプトン散乱電子はアルゴン系のガスが充填されているガスパッケージ10A内を突き抜ける確率が高くなる。このことは、アルゴン系の前記ガスの圧力を高くして封入させても同様である。
【0041】
第2前段検出器20のガスパッケージ20Aに充填されるゼノン系のガスは比較的重い元素から構成され、第1前段検出器10を突き抜けて入射されてくる入射ガンマ線2(たとえば700keV程度と比較的高いエネルギーを有している)の測定にあって該第2前段検出器20が適したものとして構成される。図1に対応して描かれた図2にあっては、第1前段検出器10を通過して第2前段検出器20に至るまで入射ガンマ線2が入射され、ガスパッケージ20A内で生じたコンプトン散乱によって、散乱ガンマ線3と反跳電子4が生じていることを示している。散乱ガンマ線3に関する情報は後段検出器30によって、反跳電子4に関する情報は第2前段検出器20の検出器20Bによって検出される。
【0042】
一般に、ゼノン系のように比較的重いガスはたとえばアルゴン系のガスと比べていわゆるドップラー・ブロードニングの影響が大きく、反跳電子4の直線性が低減し解像度の低下につながるが、本実施例のように、第2前段検出器20において、ゼノン系のように比較的重いガスを用い、比較的高いエネルギーの入射ガンマ線2を検出対象とすることによって該ドップラー・ブロードニングの影響を低減させる効果を有する。
【0043】
上述した実施例では、第1前段検出器10および第2前段検出器20によって前段検出器を構成したものである。しかし、以上の2つの前段検出器に限定されることはなく3つ以上の前段検出器を用意し、これらを多段(多層)に構成するようにしてもよい。そして、この場合、各前段検出器に充填させるガスは各前段検出器において異なったものであればよく、その種類もアルゴン系のガスあるいはゼノン系のガスに制限されることはない。
【0044】
このように構成することによって、前段検出器(複数の多段の前段検出器によって構成される)は、低エネルギーから高エネルギーに至る入射ガンマ線の検出に対応することができ、このような前段検出器を備えるコンプトンカメラにあって、広範囲のエネルギーの入射ガンマ線に対応できるようになる。
【0045】
図3は、図1および図2に示したコンプトンカメラ1の第1前段検出器10の検出器10Bおよび第2前段検出器20の検出器20Bの一実施例を示した平面図である。このため、図1および図2(さらには図5および図6も)に示した検出器10Bおよび検出器20Bは簡易的に描画した図となっている。
【0046】
図3において、半導体基板11の表面に、たとえばそのy方向に伸張するストリップ状の陰極12がx方向に複数並設されて形成されている。ここでy方向とx方向はたとえば互いに直交する方向となっている。
【0047】
これら各陰極12にはその伸張方向に沿ってたとえば円形の透孔13が同一ピッチで複数並設されて形成されている。
【0048】
各陰極12に形成された各透孔13はマトリックス状に配置され、各陰極12における一方の端部からのn(1、2、3、……)番目の透孔13は他の陰極における一方の端部からのn番目の透孔とともにx方向軸上に一致づけられて配置された状態となっている。
【0049】
そして、半導体基板11の表面であって、各陰極12に形成された各透孔13の中心部には該透孔13の径よりも小さな径を有する陽極14が形成されている。これら各陽極14は半導体基板11に形成されたスルーホール(図示せず)を通して該半導体基板11の裏面に形成された配線層15に電気的に接続されている。
【0050】
該配線層15は、半導体基板11の裏面において、そのx方向に伸張するストリップ状をなし、y方向に複数並設されて形成されている。
【0051】
前記各陰極12の一方の端部からのn番目の透孔13内に配置される陽極14は、それぞれ該一方の端部からn番目に配置される配線層15に接続されている。
【0052】
このように構成された検出器10B、20Bは、その平面における検出面において各陽極14を中心に配置させる領域であって隣接する他の領域と画される領域をピクセル(図3では3×4のピクセルを有することになる)と称した場合に、反跳電子4が入射されたピクセルと交叉する陰極12および配線層15から信号が出力され、該反跳電子4の位置情報等が得られるようになっている。
【0053】
ここで、前記陰極12、陽極14、および配線層15は、いわゆるフォトリソグラフィ技術による選択エッチング方法により形成され、マトリックス状に配置された各陽極14は、x方向およびy方向にそれぞれ隣接する他の陽極14との間が約400μmの間隔を有して形成されている。これにより、反跳電子4(荷電粒子)の飛跡をサブミリ間隔で測定することができる。
【0054】
なお、この検出器10B、20Bに関する詳細な機能および効果等は、たとえば、A new design of the gaseous imaging detector: Micro Pixel Chamber, Atsuhiko Ochi et al., Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 471(2001)264・267等の文献に記載がある。
【0055】
反跳電子4のエネルギーは数十〜数百keVであり、たとえガス中といえども数cm程度しか飛行できないことから、サブミリ間隔で該反跳電子4の飛跡を測定する必要があり、図1および図2に示すコンプトンカメラ1はこのような要求を満たした構成となっている。
【0056】
本来、コンプトンカメラ1によってガンマ線の画像を得るには該コンプトンカメラ1への入射ガンマ線2の入射方向を知ることが必要となり、この入射方向が判れば測定対象以外の大量の雑音ガンマ線を容易に除去でき、高範囲のエネルギーの単ガンマ線放射核種においても画像化を可能とする。
【0057】
そして、ガンマ線2の入射方向を知るためには、該ガンマ線2が量子として物質中の電子と散乱(コンプトン散乱)する過程において生じる反跳電子4および散乱ガンマ線3の方向およびエネルギーを測定し、再構成する必要がある。
【0058】
図4は、上述したコンプトンカメラ1を備える核医学診断装置の一実施例を模式的に示した構成図である。
【0059】
該コンプトンカメラ1は第1前段検出器10と第2前段検出器20からなる前段検出器と後段検出器30を備える。
【0060】
第1前段検出器10に入射される入射ガンマ線2は、物質中の電子とコンプトン散乱点CSPでコンプトン散乱し、反跳電子4はたとえば第1前段検出器10で捕らえられることになる。第1前段検出器10では前記コンプトン散乱点CSPの位置と反跳電子4のエネルギーが測定される。
【0061】
この場合の反跳電子4のエネルギーは数十〜数百keVと極めて小さいのが通常である。このため、従前のコンプトンカメラではコンプトン散乱点CSPの位置情報と反跳電子4のエネルギーは測定できるが、該反跳電子4の反跳方向の測定は困難であるという事情があったが、図3に示した検出器10B(10A)を備える本実施例のコンプトンカメラ1によれば該反跳電子4の反跳方向の測定も可能となっている。この理由については後述する。
【0062】
一方、散乱ガンマ線3は後段検出器30に入射され、該後段検出器30によってそのエネルギーと方向が測定される。
【0063】
第1前段検出器10を突き抜けた入射ガンマ線2にあっては上述した動作は第2前段検出器20においてもなされ、該第2前段検出器20はコンプトン散乱点の位置情報と反跳電子4のエネルギーおよび反跳方向の測定がなされるようになっている。
【0064】
第1前段検出器10、第2前段検出器20、および後段検出器30によって得られる各測定情報は情報収集装置41によって収集され、少なくとも、散乱ガンマ線の方向に対する入射ガンマ線2の仰角、および入射ガンマ線2の方向が演算されるようになっている。
【0065】
ここで、入射ガンマ線2の方向を算出するには該入射ガンマ線2の散乱ガンマ線3の方向に対する方位角をも決定する必要があるが、この方位角は反跳電子4の方向で決定される物理量となっている。従前のコンプトンカメラでは、上述したように反跳電子4の方向を得ることが困難だったため、入射ガンマ線2の入射方向は、図4に示す円錐(表面)CNの範囲でしか決定できなかったが、該反跳電子4の反跳方向の測定ができる本実施例のコンプトンカメラ1によれば前記範囲を大幅に狭めることができる。この理由も後述する。
【0066】
そして、前記情報収集装置41による演算情報に基づいて画像再構成装置42によって画像再構成がなされ、その画像が表示装置43に表示されるようになっている。
【0067】
図5は、コンプトンカメラ1のうち前段検出器10あるいは20において反跳電子4の方向に関する情報を得ることのできる理由を示す説明図である。図5においては第1前段検出器10および第2前段検出器20のうちのいずれか一方のみを示している。第1前段検出器10および第2前段検出器20はいずれも同様の動作がなされるからである。
【0068】
図5において、コンプトン散乱により散乱された反跳電子4が前段検出器10(20)のガス中を飛行する過程において、該ガスのガス分子を電離させ、新たなドリフト電子を発生させることになる。
【0069】
このドリフト電子は反跳電子4の飛行する軌跡5に沿って順次発生され、それぞれ検出器10B(20B)の検出面に落下するようになる。
【0070】
落下された各ドリフト電子は前記検出器10B(20B)の検出面の異なるピクセルにおいて検出され、該ピクセルの位置によって反跳電子4の飛跡を対応づけることができる。
【0071】
上述したように前記検出器10B(20B)は極めて微細加工されたものとして構成されていることから、前記ピクセルも微細に形成され、該反跳電子4の飛跡は高精度に検出できるようになる。
【0072】
このようにして反跳電子4の方向を検知でき、散乱ガンマ線3の方向に対する入射ガンマ線2の方位角を検知することができる。
【0073】
なお、図中では、前段検出器10(20)の周囲に後段検出器30が配置され(図5では前段検出器10(20)の下部のみを図示)、この後段検出器30によって散乱ガンマ線3の方向等が検出されるようになっている。このように入射ガンマ線2の方位角を検知することができることによって、該入射ガンマ線2の入射方向を一意に決定できることになる。
【0074】
また、反跳電子4と散乱ガンマ線2のなす角度を算出することもでき、この角度の算出によって、入射ガンマ線2の入射方向の特定を極めて狭い範囲に特定させることができる。図5は入射ガンマ線2の基点(矢印と反対側の端部)の範囲を円の一部(円弧)CPとして示し、入射方向の範囲が狭まっていることを示している。
【0075】
図6は、本発明による核医学診断装置に備えられるコンプトンカメラ1の他の実施例を示す構成図である。図1に示したコンプトンカメラ1と同一の部材を示す部分には同一の符号を示している。
【0076】
図1の場合と比較して異なる部分は、まず、第1前段検出器10と第2前段検出器20は平面的に並設させた構成としたことにある。そして、第1前段検出部10はガスパッケージ10Aと検出器10Bとを有するとともに該ガスパッケージ10A内にはたとえばアルゴン系のガスが充填されて構成され、第2前段検出部20はガスパッケージ20Aと検出器20Bとを有するとともに該ガスパッケージ20Aにはたとえばゼノン系のガスが充填されて構成されている。
【0077】
この場合、後段検出部30は、図1の場合のように第1前段検出部10と第2前段検出部20に対して共通に形成できないため、第1前段検出部10と第2前段検出部20にそれぞれ対応させて設けた構成としている。すなわち、第1前段検出部10に対する後段検出部30(図中30Aに示す)を設けるとともに第2前段検出部20に対する後段検出部30(図中30Bに示す)を設けるようにしている。この場合、後段検出部30Aおよび後段検出部30Bはそれぞれ別体にあるいは一体として形成するようにしてもよい。
【0078】
このように構成した場合でも、第1前段検出部10と後段検出部30Aとで比較的低いエネルギーを有するガンマ線を検出することができ、第2前段検出部20と後段検出部30Bとで比較的高いエネルギーを有するガンマ線を検出することができる。したがって、広い範囲のエネルギーをもつガンマ線を検出できる核医学診断装置を得ることができる。
【0079】
なお、上述した実施例において、並設される前段検出器は2つに限定されることはなく3つ以上であってもよく、また、核前段検出器のガスパッケージに充填されるガスは上述したガスの種類に限定されず、互いに異なっておればよい。
【0080】
上述した各実施例はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施例での効果を単独であるいは相乗して奏することができるからである。
【0081】
次に、本発明による光子測定装置の一実施例として、被写体から放出される光子が前段検出器でコンプトン散乱を起こし該コンプトン散乱によって生じた散乱光子が後段検出器で吸収される現象を示すコンプトンカメラを核医学診断装置に適用させた場合として、図7を用いて説明をする。
【0082】
図7において、まず、被検体(被写体)50が光子測定装置60に対向して横臥されている。
【0083】
被検体50には放射性薬剤が投与され、その放射性薬剤(放射線源)からは該光子測定装置60に放射状に光子(入射ガンマ線)51が放出される。なお、放射性薬剤にはたとえば癌を患う被検体に投与された場合に癌細胞の活発な代謝によって特異的に集積する性質を有するものや、梗塞を患う被検体に投与された場合に血流量に応じて集積する性質を有するものがある。
【0084】
光子測定装置60には、被検体50から放出される前記光子51を入射させる前段検出器61を有する。該前段検出器61では前記光子51の入射によって1回目のコンプトン散乱(反応)が生じ、そのコンプトン散乱点Aから後述する後段検出器62へ散乱光子(荷電粒子)52が散乱されるとともに反跳電子eが発生するようになる。該前段検出器61は前記コンプトン散乱点Aの位置情報および前記反跳電子eの運動量に関する情報を検知し、その検知信号は情報収集装置63に入力されるようになっている。
【0085】
また、前段検出器61と順向して後段検出器62が配置され、この後段検出器62には前記散乱光子52が入射されるようになっている。該後段検出器62は前記散乱光子52の運動量に関する情報を検知し、その検知信号は前記情報収集装置63に入力されるようになっている。なお、この明細書では、被検体50の前方に前段検出器61と後段検出器62が順次配置されている状態であって、前段検出器61と後段検出器62の配置関係を上述のように”順向”と表現している。
【0086】
情報収集装置63では、前記前段検出器61からの検出信号と前記後段検出器62からの検出信号を統合させ、この統合された各信号を画像再構成装置64に送出させ、この画像再構成装置64によって再構成された放射線源に関する画像を表示装置65に表示させるようになっている。
【0087】
また、前記前段検出器61にはその前段検出器61の幾何学的配置を調整する機構、少なくとも該前段検出器61を被検体50に対する前記光子51の入射方向に沿った離間距離を可変できる方向(図中α方向)に位置を調整できる位置調整機構66が備えられている。
【0088】
さらに、前記後段検出器62にはその後段検出器62の幾何学的配置を調整する機構、少なくとも該後段検出器62を前段検出器61に対する前記散乱光子52の入射方向に沿った離間距離を可変できる方向(図中β方向)に位置を調整できる位置調整機構67が備えられている。
【0089】
位置調整機構66によって前段検出器61を図中α方向に位置の変更調整ができ、位置調整機構67によって後段検出器62を図中β方向に位置の変更調整ができるようになっており、これにより、互いに機械的に分離された前段検出器61と後段検出器62との間の距離Lを可変できるようになっている。
【0090】
この前段検出器61と後段検出器62の間の距離Lを可変することにより、前記表示装置65に表示される画像の画質が変化し、操作者にとって好都合な画質に設定することができる。一般には前段検出器61と後段検出器62の距離Lを大きくすれば、それに応じて画像の画質が向上し、いわゆるぼけの表示が抑止されるようになる。
【0091】
ここで、前段検出器61と後段検出器62の距離Lが大きくなれば画像の画質の向上がなされる理由を以下考察する。
【0092】
まず、図8(a)は、前段検出器61と後段検出器62がたとえば距離Lを隔てて配置されていることを示している。なお、図8(a)に示す前段検出器61と後段検出器62は、図7の場合と異なり、その配置関係が上下逆となっており、被検体50(図示せず)は図中上側に位置づけられることを考慮されたい。
【0093】
同図において、被検体内の放射線源Sから前段検出器61に入射する光子51がコンプトン散乱点Aで散乱された後に散乱光子52となって後段検出器62に入射し、吸収点Bで吸収されている。しかし、前段検出器61と後段検出器62の位置分解能を考慮した場合、被検体内の放射線源S’から前段検出器61に入射する光子51’がコンプトン散乱点A’で散乱された後に散乱光子52’となって後段検出器62に入射し、吸収点B’で吸収される結果が得られる。なお、散乱光子52(52’)は光子51(51’)に対してコンプトン散乱角θを有して散乱される。
【0094】
このことから、光子測定装置60は、前段検出器61および後段検出器62の位置分解能によって、散乱光子52に対して角度分解能Δθγを有し、また、入射光子51に対して角度分解能Δθ0を有することになる。
【0095】
そして、光子測定装置60では、散乱光子52の方向を基にして入射光子51の方向が算出(決定)されるので、角度分解能Δθγ が小さな値として得られれば、角度分解能Δθ0を小さい値にでき、測定精度を向上させることができる。
【0096】
図8(b)は、前記角度分解能Δθγ を決定づける散乱光子52、52’の部分を示した図であるとともに、同図のうち、その上方図では前段検出器61と後段検出器62との間の距離L’が比較的小さくなっていることを示し、
下方図では前段検出器61と後段検出器62との間の距離L”が比較的大きくなっていることを示している。これら各図はコンプトン散乱点A、A’および散乱光子の吸収点B、B’において条件を同じにするためそれぞれ同位置に示している。
【0097】
図8(c)は、散乱光子52、52’のベクトルを示しており、同図のうち、その上方図は前段検出器61と後段検出器62との間の距離L’が比較的小さくなっている場合に対応し、下方図は前段検出器61と後段検出器62との間の距離L”が比較的大きくなっている場合に対応している。そして、これら各図において各ベクトルはその基点となるコンプトン散乱点A、A’を一致づけて示している。
【0098】
この場合、各ベクトルの開き角である前記角度分解能Δθγ において、前段検出器61と後段検出器62との間の距離L”が比較的大きくなっている場合における角度分解能Δθ’’γ が前段検出器61と後段検出器62との間の距離L’が比較的小さくなっている場合における角度分解能Δθ’γ よりも小さくなっていることが明らかとなる。このことから、前段検出器61と後段検出器62の距離Lを大きくすることにより画像の画質の向上を図ることができる。
【0099】
図7に示した構成において、図9(a)に示すように、前段検出器61と後段検出器62との間を比較的大きな距離LLに設定した場合、散乱光子52における角度分解能が向上し、表示装置65における放射線源に関する画像の画質を向上させることができる。また、図9(b)に示すように、前段検出器61と後段検出器62との間を比較的小さな距離LSに設定した場合、散乱光子52の検出効率いわゆる感度が向上し、表示装置65における放射線源に関する画像を短時間撮影で映像させることができる。
【0100】
また、図7に示した構成によって、前段検出器61を被検体50に近接あるいは密着させて配置させることができる。これにより、被検体50とコンプトン散乱点Aとの距離を極めて小さくでき、光子測定装置60の空間分解能を向上させることができる。そして、被検体50と光子測定装置60との間の立体角を増大させ、幾何学的な検出効率を向上させることができるので、撮影時間の短縮、および画質の向上を図ることができる。
【0101】
この場合、前段検出器61を被検体50に近接あるいは密着させて配置させた状態で、該前段検出器61に対して後段検出器62の間の距離Lを可変させることで、空間分解能と検出効率の両者を加味した調整を達成でき、被写体50の状況あるいは撮影の目的に対応させた撮影ができるようになる。
【0102】
そして、たとえば、図9(c)に示すように、前段検出器61および後段検出器62を相対的な三次元的配置に調整できるように構成した場合、入射光子51のエネルギーの度合いに応じて、該前段検出器61および後段検出器62を適切な位置に配置させることができる。すなわち、図9(c)に示したようにした場合、対応して描いた図9(d)の場合と異なり、前方散乱した散乱光子52を選択的に取得でき、高精度な事象を高統計に収集できるようになり、結果的に、画像のぼけを抑制でき、高度な画質を得ることができる。この理由は、前段検出器61における散乱事象数は後段検出器62における散乱事象数に比べて一般的に多く、前段検出器61と後段検出器62のエネルギ分解能のエネルギ依存性から、入射する光子51の方向決定精度が前方散乱事象の方が高いからである。
【0103】
図10は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。図10では図7に示した情報収集装置63、画像再構成装置64、および表示装置65は省略して示している。
【0104】
図10において、被検体50のたとえば前方に前段検出器61および後段検出器62が順次配置されている。前段検出器61と後段検出器62はたとえば図示の状態では距離Lだけ離間されて配置されている。
【0105】
そして、前段検出器61は位置調整機構66によって被検体50の周辺を図中点線で示す軌道21O上に沿って移動するようになっている。この場合、前段検出器61の被検体50と対向する検出面はそのまま該被検体50と対向したまま移動し、結果として前記軌道上を自転しながら移動するようになっている。
【0106】
また、後段検出器62も位置調整機構67によって被検体50の周辺を図中点線で示す軌道22O上に沿って移動するようになっている。この場合も、後段検出器62の被検体50と対向する検出面はそのまま該被検体50とたとえば対向したまま移動し、結果として前記軌道上を自転しながら移動するようになっている。
【0107】
前段検出器61と後段検出器62の上述した移動においてそれら前段検出器61と後段検出器62は互いに対向したままとなっているが、該前段検出器61と後段検出器62は前記距離Lの間隔をそのまま維持するようにしてもよく、また、調整により可変させるようにしてもよい。
【0108】
このように構成した光子測定装置は前段検出器61と後段検出器62からなる検出器を被検体50の周りに回転させながら撮影を行うようになっている。このため、複数方向から各撮影ができ、計測される光子の計数を増加させることができるようになる。このことは統計誤差によって生じる画質の劣化を低減させる効果を奏する。そして、高精細な3次元画像を得ようとする場合において必要な等方的なデータを収集できるようになる。
【0109】
前段検出器61に対して外側に距離Lだけ離間されて配置される後段検出器62はその移動の軌跡22Oを単純な円軌道とすることができ、すなわち、被検体からの距離を一定とすることができる。これにより、画像再構成装置64における画像の再構成演算を簡単なものとすることができ、ひいては、データ処理の高速化を達成することができる。
【0110】
さらに、上述した構成とすることで、前段検出器61および後段検出器62の検出面での有効面積を小さく構成することができる。検出面の有効面積を小さくすることによって被検体との間の立体角の減少を、前段検出器61および後段検出器62の上述した移動によって補償できるからである。なお、前段検出器61および後段検出器62の検出面での有効面積を小さく構成することで、それら前段検出器61および後段検出器62の精密な移動を行うことができ、また、コストを低減させることができる。
【0111】
図11は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。図11においても図7に示した情報収集装置63、画像再構成装置64、および表示装置65を省略して示している。
【0112】
図11において、被検体50の前方に前段検出器61および後段検出器62が順次配置されている。前段検出器61と後段検出器62は距離Lだけ離間されて配置されている。
【0113】
この場合、前段検出器61の位置調整機構66は、たとえば該前段検出器61をその検出面と垂直方向に移動調整でき、後段検出器62の位置調整機構67は、たとえば該後段検出器62をその検出面と垂直方向に移動調整できるものとする。これにより、前段検出器61を被検体50に近接あるいは密着させて配置させたり、前段検出器61と後段検出器62との間の距離Lを任意に設定することができる。
【0114】
さらに、前段検出器61は全体の形状として被検体50の周りの一部を被うように構成され、たとえば平板形状からなる3枚の検出器61a、61b、61cを用意し、検出器61bを真ん中に配置し、その両脇に検出器61a、61cをそれぞれ鈍角の開き角度を有して固定させて構成されたものとなっている。後段検出器62においても全体の形状として被検体50の周りの一部を被うように構成され、たとえば平板形状からなる3枚の検出器62a、62b、62cを用意し、検出器62bを真ん中に配置し、その両脇に検出器62a、62cをそれぞれ鈍角の開き角度を有して固定させて構成されたものとなっている。
【0115】
なお、前段検出器61および後段検出器62において、それぞれ、平板形状からなる複数の各検出器はそれぞれ別個のものを組み立てて構成したものではなく、製造の当初から一体として形成されたものであってもよい。
【0116】
このように構成された光子測定装置は、たとえ、前段検出器61および後段検出器62を被検体50の周りに移動できる構成としなくても、被検体50の周囲の大部分にわたって撮影ができることになり、幾何学的な検出効率を向上させることができる。
【0117】
図12は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図で、図11に対応した図となっている。
【0118】
図11と異なる構成は、後段検出器62にあっては複数の平板状の検出器62a、62b、62cで構成されているが、前段検出器61にあっては1つの平板状の検出器のみで構成されていることにある。
【0119】
この場合にあっても、後段検出器62は全体の形状として被検体50の周りの一部を被うように構成されていることから、被検体50の周囲の撮影においてその撮影範囲を拡大できることになり、幾何学的な検出効率を向上させることができる。
【0120】
図13は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図で、図11に対応した図となっている。
【0121】
図11の場合と比較して異なる構成は、前段検出器61にあっては複数の平板状の検出器61a、61b、61cで構成されているが、後段検出器62にあっては1つの平板状の検出器のみで構成されていることにある。
【0122】
この場合にあっても、前段検出器61は全体の形状として被検体50の周りの一部を被うように構成されていることから、被検体50の周囲の撮影においてその撮影範囲を拡大できることになり、幾何学的な検出効率を向上させることができる。
【0123】
図14は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図で、図13に対応した図となっている。
【0124】
図13の場合と比較して異なる構成は、後段検出器62が被検体50および前段検出器61をも被ってたとえば円環からなる環状体として構成されていることにある。
【0125】
このように構成した場合、後段検出器62はたとえば上述した実施例に備えられた移動調整機構67を備えることなく構成することができる。
【0126】
そして、この実施例の適用例としては、たとえば、従来知られている構成のポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置に、前段検出器61(必要であれば移動調整機構66も)を配置させ、該ポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置に従前から備えられている検出器素子を後段検出器62としてそのまま利用することができる。
【0127】
このように既存のポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置をいわゆるコンプトンカメラ化して構成することにより、やはり既存のSPECT用製剤を使用することができ、使用の対象となる放射性医薬品の種類が増大する効果を奏する。そして、既存の装置をそのまま適用して構成することから、開発コストを大幅に低減できるという効果を奏する。
【0128】
なお、図14にあっては、前段検出器61は、被検体50の周囲の被いを拡大させるために平板状の複数の検出器61a、61b、61cを備えたものとして構成したものであるが、このようにすることに限定はされず、たとえば、検出器61bのみで構成するようにしてもよい。
【0129】
図15は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図で、図13に対応した図となっている。
【0130】
図13の場合と比較して異なる構成は、後段検出器62を被検体50の周囲に回転して移動するガンマカメラとして構成したことにある。ここで、該ガンマカメラは機械式コリメータを取り外したものとして構成されている。
【0131】
このことから、この実施例で示す装置は、機械式コリメータを取り外した従前のシングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置に、前段検出器61を配置(必要であれば移動調整機構66も)させ、該シングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置に従前から備えられている検出器素子を後段検出器62としてそのまま利用することができる。
【0132】
このように既存のシングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置をいわゆるコンプトンカメラ化して構成することにより、やはり既存のPET用製剤を使用することができ、使用の対象となる放射性医薬品の種類が増大する効果を奏する。そして、既存の装置をそのまま適用して構成することから、開発コストを大幅に低減できるという効果を奏する。
【0133】
なお、図15にあっては、前段検出器61は、被検体50の周囲の被いを拡大させるために平板状の複数の検出器61a、61b、61cを備えたものとして構成したものであるが、このようにすることに限定はされず、たとえば、検出器61bのみで構成するようにしてもよい。
【0134】
上述した実施例では光子測定装置としてコンプトン散乱を利用したコンプトンカメラを用いたものを示したものである。しかし、コンプトン散乱(反応)の替わりに電子・陽電子対生成反応を利用した光子測定装置であってもよい。同様の効果が得られるからである。この場合、上述した散乱光子は電子または陽電子に置き換えたものとなる。
【0135】
また、上述した実施例では核医学診断装置に適用されたコンプトンカメラを示したものである。しかし、本発明はこのような核医学診断装置に限定されずたとえば実験室等で用いられるコンプトンカメラ、すなわち分子イメージング機器として構成するようにしてもよい。
【0136】
上述した各実施例はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施例での効果を単独であるいは相乗して奏することができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明による核医学診断装置に用いられるコンプトンカメラの一実施例を示す構成図で、比較的低いエネルギーのガンマ線を検出している態様を示した図となっている。
【図2】本発明による核医学診断装置に用いられるコンプトンカメラの一実施例を示す構成図で、比較的高いエネルギーのガンマ線を検出している態様を示した図となっている。
【図3】前記コンプトンカメラの前段検出器に備えられる検出器の一実施例を示す平面図である。
【図4】前記コンプトンカメラを用いた核医学診断装置の一実施例を示す概略説明図である。
【図5】本発明による核医学診断装置に用いられるコンプトンカメラの動作の一部を示す説明図である。
【図6】本発明による核医学診断装置に用いられるコンプトンカメラの他の実施例を示す構成図である。
【図7】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の一実施例を示す構成図である。
【図8】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置において前段検出器と後段検出器との間の距離Lを大きくすることの効果を示すための説明図である。
【図9】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の前段検出器と後段検出器の動作の各態様を示す説明図である。
【図10】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図11】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図12】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図13】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図14】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図15】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0138】
1……コンプトンカメラ、2……入射ガンマ線、3……散乱ガンマ線、4……反跳電子、5……軌跡(反跳電子の)、10……第1前段検出器、10A……ガスパッケージ、10B……検出器、20……第2前段検出器、20A……ガスパッケージ、20B……検出器、30……後段検出器、11……半導体基板、12……陰極、13……透孔、14……陽極、15……配線層、41……情報収集装置、42……画像再構成装置、43……表示装置
50……被検体、51……光子、52……散乱光子、60……光子測定装置、61……前段検出器、62……後段検出器、63……情報収集装置、64……画像再構成装置、65……表示装置、66、67……位置調整機構、21O……前段検出器の移動軌道、22O……後段検出器の移動軌道、A……コンプトン散乱点、B……散乱光子の吸収点、e……反跳電子。
【技術分野】
【0001】
本発明は核医学診断装置に係り、被検体の体内に放射性物質を投与し、特定の部位に集積して発するガンマ線等を捕らえて、病巣の位置等の画像化を行う核医学診断装置、及びコンプトンカメラのように核医学診断装置に用いるのに好適な光子測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の核医学診断装置はコンプトンカメラを備え、このコンプトンカメラによって被検体から発せられるガンマ線等を検出し、該ガンマ線等の入射方向等を算出することにより、該被検体内の放射性物質の画像化を図っている。
【0003】
被検体からのガンマ線は、コンプトンカメラ内で、電子といわゆるコンプトン散乱を生じせしめるようになっている。すなわち、該ガンマ線が有するエネルギーの一部を電子に与えて弾き飛ばし、ガンマ線自身は電子に与えた分のエネルギーを失って散乱ガンマ線(散乱光子)となって散乱する。そして、弾き飛ばされた電子(反跳電子:荷電粒子)は周囲の分子を電離させながら跳び、その際に、電子とイオンを発生させるようになる。
【0004】
該電子(ドリフト電子)の飛跡に関する情報はいわゆる飛跡検出器と称される前段検出器によって検出され、また、散乱ガンマ線の散乱方向およびエネルギーに関する情報はいわゆる散乱ガンマ線検出器と称される後段検出器によって検出されるようになっている。
【0005】
そして、前段検出器と後段検出器からの情報に基づいて少なくともガンマ線入射方向等を算出し、これに基づいて被検体内の放射性物質を画像化するように構成されている。
【0006】
なお、前段検出器は特定の種類のガスが充填された空間を有して構成されたものとなっている。入射ガンマ線に効率良くコンプトン散乱を起こさせるようにするためである。
【0007】
このような構成のコンプトンカメラの詳細についてはたとえば下記特許文献1に開示がなされている。
【0008】
このようなコンプトンカメラは、放射線源からの放射線のコンプトン散乱あるいは電子陽電子対生成を利用し、それによって発生するエックス線あるいはガンマ線を計測することによって、該放射線源をイメージングする装置である。
【0009】
そして、コンプトンカメラを備える核医学診断装置は、たとえばポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置と比較した場合、放射性同位元素の種類を選ぶ必要はなく、また、ガンマカメラやシングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置と比較した場合、機械式コリメータを必要としない構成とすることができる長所を有している。
【0010】
このようなコンプトンカメラの詳細は、たとえば、下記特許文献2に開示がなされている。
【特許文献1】特開2001−13251号公報
【特許文献2】特開昭63−158490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のコンプトンカメラの検出の対象となるガンマ線のエネルギーは、そのガンマ線源である放射性物質によって異なっている。
【0012】
たとえば、ポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置の核種に用いられる放射性薬剤のガンマ線のエネルギーは511keVであり、シングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置の核種に用いられる放射性薬剤(たとえばテクネシウム)のガンマ線のエネルギーは140keVである。
【0013】
この場合、これらガンマ線のエネルギーの大小と、特許文献1のコンプトンカメラの前段検出器に充填されているガスの種類によっては、コンプトン散乱の確立等に大きく影響しガンマ線の入射方向の特定の精度に影響を与えることになる。
【0014】
このことは、前段検出器にいかなる種類のガスを充填させたとしても、特定エネルギー範囲のガンマ線を検出するに適したコンプトンカメラとして構成されることになる。そして、特許文献1のようなコンプトンカメラを備える核医学診断装置は、被検体に投与する核種に制限が付されることになる。
【0015】
また、特許文献2のコンプトンカメラは、被写体から放出されるガンマ線をコンプトン散乱させ少なくとも一回目のコンプトン散乱点における位置情報と、このコンプトン散乱によって生じる反跳電子の運動量の情報を検出する前段検出器と該コンプトン散乱によって散乱されたガンマ線に関する情報を検出する後段検出器とを備えるものであるが、これら各検出器は近接して配置されるとともに、それらの位置関係は常時固定されたものとして構成されたものであった。
【0016】
そして、特許文献2のようなコンプトンカメラは、その検出信号によって画像を再構成した場合に、さらなる高精細の画像が得られることが要望されていた。
【0017】
なお、コンプトンカメラは、核医学診断装置の他に、天体観測用としてエックス線やガンマ線を検出するものも知られているが、この場合におけるコンプトンカメラもその前段検出器と後段検出器は近接して配置されるとともに、それらの位置関係は常時固定されたものとなっている。
【0018】
本発明の目的は、広い範囲のエネルギーをもつガンマ線を検出することのできる核医学診断装置を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、高精細な画像を得ることができる光子測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本願において開示される発明に係る核医学診断装置のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0021】
(1)本発明による核医学診断装置は、たとえば、ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数積層させて構成したことを特徴とする。
【0022】
(2)本発明による核医学診断装置は、たとえば、ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数平面的に並設させて構成したことを特徴とする。
【0023】
また、本願において開示される発明に係る光子測定装置のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0024】
(1)本発明による光子測定装置は、たとえば、被写体から放出される光子を反応させ少なくとも一回目の反応点における位置情報と該反応によって生じる荷電粒子の運動量の情報を検出する前段検出器と、
この前段検出器と機械的に分離され前記荷電粒子または該反応によって散乱された光子に関する情報を検出する後段検出器と、
前記前段検出器と後段検出器からの各情報から前記被写体内の光子源をイメージする画像再構成手段とを備え、
前段検出器と後段検出器との間の距離を可変し得る調節手段が備えられていることを特徴とする。
【0025】
(2)本発明による光子測定装置は、たとえば、(1)の構成を前提とし、前記前段検出器を被写体に対して近接あるいは密着させるようにした機構を備えたことを特徴とする。
【0026】
(3)本発明による光子測定装置は、たとえば、(1)の構成を前提とし、前記前段検出器を後段検出器と順向させた状態で被写体の周囲に回転させる機構を備えたことを特徴とする。
【0027】
(4)本発明による光子測定装置は、たとえば、(1)の構成を前提とし、前記後段検出器を前段検出器と順向させた状態で被写体の周囲に回転させる機構を備えたことを特徴とする。
【0028】
(5)本発明による光子測定装置は、たとえば、(3)の構成を前提とし、後段検出器は被検体の周囲を囲んだ環状体で構成されていることを特徴とする。
【0029】
(6)本発明による光子測定装置は、たとえば、(3)の構成を前提とし、前段検出器は被検体の周囲を囲んだ環状体で構成されていることを特徴とする。
【0030】
なお、本発明は以上の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【発明の効果】
【0031】
このように構成した核医学診断装置は、広い範囲のエネルギーをもつガンマ線を検出することができる。
【0032】
また、このように構成した光子測定装置は、高精細な画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は、本発明による核医学診断装置を示す構成図で、それに具備されるコンプトンカメラの一実施例を示す構成図である。
【0034】
図1において、コンプトンカメラ1は、飛跡検出器となる第1前段検出器10、第2前段検出器20がたとえば二段(二層)に設けられ、これら第1前段検出器10、第2前段検出器20と散乱ガンマ線検出器となる後段検出器30とで構成されている。
【0035】
図中において、診断を受ける被検体(図示せず)は、該コンプトンカメラ1の第1前段検出器10側に位置づけられ、該被検体内に投与された放射性薬剤から入射ガンマ線2が第1前段検出器10の側に指向されて放出されるようになっている。
【0036】
第1前段検出器10は入射ガンマ線2の入射方向側に順次ガスパッケージ10Aおよび検出器10Bが配置され、第2前段検出器20も入射ガンマ線2の入射方向側に順次ガスパッケージ20Aおよび検出器20Bが配置されている。
【0037】
第1前段検出器10および第2前段検出器20においてそれらのガスパッケージ10Aおよび20A、また検出器10Bおよび20Bは、それぞれ、たとえば同様の構成となっているが、第1前段検出器10のガスパッケージ10A内にはたとえばアルゴン系のガスが充填され、第2前段検出器20のガスパッケージ20A内にはゼノン系のガスが充填されていることに相異を有する。
【0038】
第1前段検出器10および第2前段検出器20にガスが充填されるのは、第1前段検出器10にさらには該第1前段検出器10を通過して第2前段検出器20に入射してくる入射ガンマ線2に該ガスの空間内でコンプトン散乱を生じせしめる確率を高め、これにより、効率的にガンマ線を検出するためである。また、これらのガスはたとえば高圧で封入され、これによりガスの電子密度が高められてコンプトン散乱の生じる確率を向上させている。
【0039】
第1前段検出器10のガスパッケージ10Aに充填されるアルゴン系のガスは比較的軽い元素から構成され、該第1前段検出器10に入射される入射ガンマ線2がたとえば200keV程度と比較的低いエネルギーを有している場合には、この入射ガンマ線2の測定にあっては該第1前段検出器10が適したものとして構成される。図1にあっては、第1前段検出器10に入射ガンマ線2が入射され、ガスパッケージ10A内で生じたコンプトン散乱によって、散乱ガンマ線3と反跳電子4が生じていることを示している。散乱ガンマ線3に関する情報は後段検出器30によって、反跳電子4に関する情報は第1前段検出器10の検出器10Bによって検出されるが、これらの詳細は後述する。
【0040】
この場合、第2前段検出器10に入射されてくる入射ガンマ線2がたとえば700keV程度と比較的高いエネルギーを有している場合には、ガンマ線によるコンプトン散乱電子はアルゴン系のガスが充填されているガスパッケージ10A内を突き抜ける確率が高くなる。このことは、アルゴン系の前記ガスの圧力を高くして封入させても同様である。
【0041】
第2前段検出器20のガスパッケージ20Aに充填されるゼノン系のガスは比較的重い元素から構成され、第1前段検出器10を突き抜けて入射されてくる入射ガンマ線2(たとえば700keV程度と比較的高いエネルギーを有している)の測定にあって該第2前段検出器20が適したものとして構成される。図1に対応して描かれた図2にあっては、第1前段検出器10を通過して第2前段検出器20に至るまで入射ガンマ線2が入射され、ガスパッケージ20A内で生じたコンプトン散乱によって、散乱ガンマ線3と反跳電子4が生じていることを示している。散乱ガンマ線3に関する情報は後段検出器30によって、反跳電子4に関する情報は第2前段検出器20の検出器20Bによって検出される。
【0042】
一般に、ゼノン系のように比較的重いガスはたとえばアルゴン系のガスと比べていわゆるドップラー・ブロードニングの影響が大きく、反跳電子4の直線性が低減し解像度の低下につながるが、本実施例のように、第2前段検出器20において、ゼノン系のように比較的重いガスを用い、比較的高いエネルギーの入射ガンマ線2を検出対象とすることによって該ドップラー・ブロードニングの影響を低減させる効果を有する。
【0043】
上述した実施例では、第1前段検出器10および第2前段検出器20によって前段検出器を構成したものである。しかし、以上の2つの前段検出器に限定されることはなく3つ以上の前段検出器を用意し、これらを多段(多層)に構成するようにしてもよい。そして、この場合、各前段検出器に充填させるガスは各前段検出器において異なったものであればよく、その種類もアルゴン系のガスあるいはゼノン系のガスに制限されることはない。
【0044】
このように構成することによって、前段検出器(複数の多段の前段検出器によって構成される)は、低エネルギーから高エネルギーに至る入射ガンマ線の検出に対応することができ、このような前段検出器を備えるコンプトンカメラにあって、広範囲のエネルギーの入射ガンマ線に対応できるようになる。
【0045】
図3は、図1および図2に示したコンプトンカメラ1の第1前段検出器10の検出器10Bおよび第2前段検出器20の検出器20Bの一実施例を示した平面図である。このため、図1および図2(さらには図5および図6も)に示した検出器10Bおよび検出器20Bは簡易的に描画した図となっている。
【0046】
図3において、半導体基板11の表面に、たとえばそのy方向に伸張するストリップ状の陰極12がx方向に複数並設されて形成されている。ここでy方向とx方向はたとえば互いに直交する方向となっている。
【0047】
これら各陰極12にはその伸張方向に沿ってたとえば円形の透孔13が同一ピッチで複数並設されて形成されている。
【0048】
各陰極12に形成された各透孔13はマトリックス状に配置され、各陰極12における一方の端部からのn(1、2、3、……)番目の透孔13は他の陰極における一方の端部からのn番目の透孔とともにx方向軸上に一致づけられて配置された状態となっている。
【0049】
そして、半導体基板11の表面であって、各陰極12に形成された各透孔13の中心部には該透孔13の径よりも小さな径を有する陽極14が形成されている。これら各陽極14は半導体基板11に形成されたスルーホール(図示せず)を通して該半導体基板11の裏面に形成された配線層15に電気的に接続されている。
【0050】
該配線層15は、半導体基板11の裏面において、そのx方向に伸張するストリップ状をなし、y方向に複数並設されて形成されている。
【0051】
前記各陰極12の一方の端部からのn番目の透孔13内に配置される陽極14は、それぞれ該一方の端部からn番目に配置される配線層15に接続されている。
【0052】
このように構成された検出器10B、20Bは、その平面における検出面において各陽極14を中心に配置させる領域であって隣接する他の領域と画される領域をピクセル(図3では3×4のピクセルを有することになる)と称した場合に、反跳電子4が入射されたピクセルと交叉する陰極12および配線層15から信号が出力され、該反跳電子4の位置情報等が得られるようになっている。
【0053】
ここで、前記陰極12、陽極14、および配線層15は、いわゆるフォトリソグラフィ技術による選択エッチング方法により形成され、マトリックス状に配置された各陽極14は、x方向およびy方向にそれぞれ隣接する他の陽極14との間が約400μmの間隔を有して形成されている。これにより、反跳電子4(荷電粒子)の飛跡をサブミリ間隔で測定することができる。
【0054】
なお、この検出器10B、20Bに関する詳細な機能および効果等は、たとえば、A new design of the gaseous imaging detector: Micro Pixel Chamber, Atsuhiko Ochi et al., Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 471(2001)264・267等の文献に記載がある。
【0055】
反跳電子4のエネルギーは数十〜数百keVであり、たとえガス中といえども数cm程度しか飛行できないことから、サブミリ間隔で該反跳電子4の飛跡を測定する必要があり、図1および図2に示すコンプトンカメラ1はこのような要求を満たした構成となっている。
【0056】
本来、コンプトンカメラ1によってガンマ線の画像を得るには該コンプトンカメラ1への入射ガンマ線2の入射方向を知ることが必要となり、この入射方向が判れば測定対象以外の大量の雑音ガンマ線を容易に除去でき、高範囲のエネルギーの単ガンマ線放射核種においても画像化を可能とする。
【0057】
そして、ガンマ線2の入射方向を知るためには、該ガンマ線2が量子として物質中の電子と散乱(コンプトン散乱)する過程において生じる反跳電子4および散乱ガンマ線3の方向およびエネルギーを測定し、再構成する必要がある。
【0058】
図4は、上述したコンプトンカメラ1を備える核医学診断装置の一実施例を模式的に示した構成図である。
【0059】
該コンプトンカメラ1は第1前段検出器10と第2前段検出器20からなる前段検出器と後段検出器30を備える。
【0060】
第1前段検出器10に入射される入射ガンマ線2は、物質中の電子とコンプトン散乱点CSPでコンプトン散乱し、反跳電子4はたとえば第1前段検出器10で捕らえられることになる。第1前段検出器10では前記コンプトン散乱点CSPの位置と反跳電子4のエネルギーが測定される。
【0061】
この場合の反跳電子4のエネルギーは数十〜数百keVと極めて小さいのが通常である。このため、従前のコンプトンカメラではコンプトン散乱点CSPの位置情報と反跳電子4のエネルギーは測定できるが、該反跳電子4の反跳方向の測定は困難であるという事情があったが、図3に示した検出器10B(10A)を備える本実施例のコンプトンカメラ1によれば該反跳電子4の反跳方向の測定も可能となっている。この理由については後述する。
【0062】
一方、散乱ガンマ線3は後段検出器30に入射され、該後段検出器30によってそのエネルギーと方向が測定される。
【0063】
第1前段検出器10を突き抜けた入射ガンマ線2にあっては上述した動作は第2前段検出器20においてもなされ、該第2前段検出器20はコンプトン散乱点の位置情報と反跳電子4のエネルギーおよび反跳方向の測定がなされるようになっている。
【0064】
第1前段検出器10、第2前段検出器20、および後段検出器30によって得られる各測定情報は情報収集装置41によって収集され、少なくとも、散乱ガンマ線の方向に対する入射ガンマ線2の仰角、および入射ガンマ線2の方向が演算されるようになっている。
【0065】
ここで、入射ガンマ線2の方向を算出するには該入射ガンマ線2の散乱ガンマ線3の方向に対する方位角をも決定する必要があるが、この方位角は反跳電子4の方向で決定される物理量となっている。従前のコンプトンカメラでは、上述したように反跳電子4の方向を得ることが困難だったため、入射ガンマ線2の入射方向は、図4に示す円錐(表面)CNの範囲でしか決定できなかったが、該反跳電子4の反跳方向の測定ができる本実施例のコンプトンカメラ1によれば前記範囲を大幅に狭めることができる。この理由も後述する。
【0066】
そして、前記情報収集装置41による演算情報に基づいて画像再構成装置42によって画像再構成がなされ、その画像が表示装置43に表示されるようになっている。
【0067】
図5は、コンプトンカメラ1のうち前段検出器10あるいは20において反跳電子4の方向に関する情報を得ることのできる理由を示す説明図である。図5においては第1前段検出器10および第2前段検出器20のうちのいずれか一方のみを示している。第1前段検出器10および第2前段検出器20はいずれも同様の動作がなされるからである。
【0068】
図5において、コンプトン散乱により散乱された反跳電子4が前段検出器10(20)のガス中を飛行する過程において、該ガスのガス分子を電離させ、新たなドリフト電子を発生させることになる。
【0069】
このドリフト電子は反跳電子4の飛行する軌跡5に沿って順次発生され、それぞれ検出器10B(20B)の検出面に落下するようになる。
【0070】
落下された各ドリフト電子は前記検出器10B(20B)の検出面の異なるピクセルにおいて検出され、該ピクセルの位置によって反跳電子4の飛跡を対応づけることができる。
【0071】
上述したように前記検出器10B(20B)は極めて微細加工されたものとして構成されていることから、前記ピクセルも微細に形成され、該反跳電子4の飛跡は高精度に検出できるようになる。
【0072】
このようにして反跳電子4の方向を検知でき、散乱ガンマ線3の方向に対する入射ガンマ線2の方位角を検知することができる。
【0073】
なお、図中では、前段検出器10(20)の周囲に後段検出器30が配置され(図5では前段検出器10(20)の下部のみを図示)、この後段検出器30によって散乱ガンマ線3の方向等が検出されるようになっている。このように入射ガンマ線2の方位角を検知することができることによって、該入射ガンマ線2の入射方向を一意に決定できることになる。
【0074】
また、反跳電子4と散乱ガンマ線2のなす角度を算出することもでき、この角度の算出によって、入射ガンマ線2の入射方向の特定を極めて狭い範囲に特定させることができる。図5は入射ガンマ線2の基点(矢印と反対側の端部)の範囲を円の一部(円弧)CPとして示し、入射方向の範囲が狭まっていることを示している。
【0075】
図6は、本発明による核医学診断装置に備えられるコンプトンカメラ1の他の実施例を示す構成図である。図1に示したコンプトンカメラ1と同一の部材を示す部分には同一の符号を示している。
【0076】
図1の場合と比較して異なる部分は、まず、第1前段検出器10と第2前段検出器20は平面的に並設させた構成としたことにある。そして、第1前段検出部10はガスパッケージ10Aと検出器10Bとを有するとともに該ガスパッケージ10A内にはたとえばアルゴン系のガスが充填されて構成され、第2前段検出部20はガスパッケージ20Aと検出器20Bとを有するとともに該ガスパッケージ20Aにはたとえばゼノン系のガスが充填されて構成されている。
【0077】
この場合、後段検出部30は、図1の場合のように第1前段検出部10と第2前段検出部20に対して共通に形成できないため、第1前段検出部10と第2前段検出部20にそれぞれ対応させて設けた構成としている。すなわち、第1前段検出部10に対する後段検出部30(図中30Aに示す)を設けるとともに第2前段検出部20に対する後段検出部30(図中30Bに示す)を設けるようにしている。この場合、後段検出部30Aおよび後段検出部30Bはそれぞれ別体にあるいは一体として形成するようにしてもよい。
【0078】
このように構成した場合でも、第1前段検出部10と後段検出部30Aとで比較的低いエネルギーを有するガンマ線を検出することができ、第2前段検出部20と後段検出部30Bとで比較的高いエネルギーを有するガンマ線を検出することができる。したがって、広い範囲のエネルギーをもつガンマ線を検出できる核医学診断装置を得ることができる。
【0079】
なお、上述した実施例において、並設される前段検出器は2つに限定されることはなく3つ以上であってもよく、また、核前段検出器のガスパッケージに充填されるガスは上述したガスの種類に限定されず、互いに異なっておればよい。
【0080】
上述した各実施例はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施例での効果を単独であるいは相乗して奏することができるからである。
【0081】
次に、本発明による光子測定装置の一実施例として、被写体から放出される光子が前段検出器でコンプトン散乱を起こし該コンプトン散乱によって生じた散乱光子が後段検出器で吸収される現象を示すコンプトンカメラを核医学診断装置に適用させた場合として、図7を用いて説明をする。
【0082】
図7において、まず、被検体(被写体)50が光子測定装置60に対向して横臥されている。
【0083】
被検体50には放射性薬剤が投与され、その放射性薬剤(放射線源)からは該光子測定装置60に放射状に光子(入射ガンマ線)51が放出される。なお、放射性薬剤にはたとえば癌を患う被検体に投与された場合に癌細胞の活発な代謝によって特異的に集積する性質を有するものや、梗塞を患う被検体に投与された場合に血流量に応じて集積する性質を有するものがある。
【0084】
光子測定装置60には、被検体50から放出される前記光子51を入射させる前段検出器61を有する。該前段検出器61では前記光子51の入射によって1回目のコンプトン散乱(反応)が生じ、そのコンプトン散乱点Aから後述する後段検出器62へ散乱光子(荷電粒子)52が散乱されるとともに反跳電子eが発生するようになる。該前段検出器61は前記コンプトン散乱点Aの位置情報および前記反跳電子eの運動量に関する情報を検知し、その検知信号は情報収集装置63に入力されるようになっている。
【0085】
また、前段検出器61と順向して後段検出器62が配置され、この後段検出器62には前記散乱光子52が入射されるようになっている。該後段検出器62は前記散乱光子52の運動量に関する情報を検知し、その検知信号は前記情報収集装置63に入力されるようになっている。なお、この明細書では、被検体50の前方に前段検出器61と後段検出器62が順次配置されている状態であって、前段検出器61と後段検出器62の配置関係を上述のように”順向”と表現している。
【0086】
情報収集装置63では、前記前段検出器61からの検出信号と前記後段検出器62からの検出信号を統合させ、この統合された各信号を画像再構成装置64に送出させ、この画像再構成装置64によって再構成された放射線源に関する画像を表示装置65に表示させるようになっている。
【0087】
また、前記前段検出器61にはその前段検出器61の幾何学的配置を調整する機構、少なくとも該前段検出器61を被検体50に対する前記光子51の入射方向に沿った離間距離を可変できる方向(図中α方向)に位置を調整できる位置調整機構66が備えられている。
【0088】
さらに、前記後段検出器62にはその後段検出器62の幾何学的配置を調整する機構、少なくとも該後段検出器62を前段検出器61に対する前記散乱光子52の入射方向に沿った離間距離を可変できる方向(図中β方向)に位置を調整できる位置調整機構67が備えられている。
【0089】
位置調整機構66によって前段検出器61を図中α方向に位置の変更調整ができ、位置調整機構67によって後段検出器62を図中β方向に位置の変更調整ができるようになっており、これにより、互いに機械的に分離された前段検出器61と後段検出器62との間の距離Lを可変できるようになっている。
【0090】
この前段検出器61と後段検出器62の間の距離Lを可変することにより、前記表示装置65に表示される画像の画質が変化し、操作者にとって好都合な画質に設定することができる。一般には前段検出器61と後段検出器62の距離Lを大きくすれば、それに応じて画像の画質が向上し、いわゆるぼけの表示が抑止されるようになる。
【0091】
ここで、前段検出器61と後段検出器62の距離Lが大きくなれば画像の画質の向上がなされる理由を以下考察する。
【0092】
まず、図8(a)は、前段検出器61と後段検出器62がたとえば距離Lを隔てて配置されていることを示している。なお、図8(a)に示す前段検出器61と後段検出器62は、図7の場合と異なり、その配置関係が上下逆となっており、被検体50(図示せず)は図中上側に位置づけられることを考慮されたい。
【0093】
同図において、被検体内の放射線源Sから前段検出器61に入射する光子51がコンプトン散乱点Aで散乱された後に散乱光子52となって後段検出器62に入射し、吸収点Bで吸収されている。しかし、前段検出器61と後段検出器62の位置分解能を考慮した場合、被検体内の放射線源S’から前段検出器61に入射する光子51’がコンプトン散乱点A’で散乱された後に散乱光子52’となって後段検出器62に入射し、吸収点B’で吸収される結果が得られる。なお、散乱光子52(52’)は光子51(51’)に対してコンプトン散乱角θを有して散乱される。
【0094】
このことから、光子測定装置60は、前段検出器61および後段検出器62の位置分解能によって、散乱光子52に対して角度分解能Δθγを有し、また、入射光子51に対して角度分解能Δθ0を有することになる。
【0095】
そして、光子測定装置60では、散乱光子52の方向を基にして入射光子51の方向が算出(決定)されるので、角度分解能Δθγ が小さな値として得られれば、角度分解能Δθ0を小さい値にでき、測定精度を向上させることができる。
【0096】
図8(b)は、前記角度分解能Δθγ を決定づける散乱光子52、52’の部分を示した図であるとともに、同図のうち、その上方図では前段検出器61と後段検出器62との間の距離L’が比較的小さくなっていることを示し、
下方図では前段検出器61と後段検出器62との間の距離L”が比較的大きくなっていることを示している。これら各図はコンプトン散乱点A、A’および散乱光子の吸収点B、B’において条件を同じにするためそれぞれ同位置に示している。
【0097】
図8(c)は、散乱光子52、52’のベクトルを示しており、同図のうち、その上方図は前段検出器61と後段検出器62との間の距離L’が比較的小さくなっている場合に対応し、下方図は前段検出器61と後段検出器62との間の距離L”が比較的大きくなっている場合に対応している。そして、これら各図において各ベクトルはその基点となるコンプトン散乱点A、A’を一致づけて示している。
【0098】
この場合、各ベクトルの開き角である前記角度分解能Δθγ において、前段検出器61と後段検出器62との間の距離L”が比較的大きくなっている場合における角度分解能Δθ’’γ が前段検出器61と後段検出器62との間の距離L’が比較的小さくなっている場合における角度分解能Δθ’γ よりも小さくなっていることが明らかとなる。このことから、前段検出器61と後段検出器62の距離Lを大きくすることにより画像の画質の向上を図ることができる。
【0099】
図7に示した構成において、図9(a)に示すように、前段検出器61と後段検出器62との間を比較的大きな距離LLに設定した場合、散乱光子52における角度分解能が向上し、表示装置65における放射線源に関する画像の画質を向上させることができる。また、図9(b)に示すように、前段検出器61と後段検出器62との間を比較的小さな距離LSに設定した場合、散乱光子52の検出効率いわゆる感度が向上し、表示装置65における放射線源に関する画像を短時間撮影で映像させることができる。
【0100】
また、図7に示した構成によって、前段検出器61を被検体50に近接あるいは密着させて配置させることができる。これにより、被検体50とコンプトン散乱点Aとの距離を極めて小さくでき、光子測定装置60の空間分解能を向上させることができる。そして、被検体50と光子測定装置60との間の立体角を増大させ、幾何学的な検出効率を向上させることができるので、撮影時間の短縮、および画質の向上を図ることができる。
【0101】
この場合、前段検出器61を被検体50に近接あるいは密着させて配置させた状態で、該前段検出器61に対して後段検出器62の間の距離Lを可変させることで、空間分解能と検出効率の両者を加味した調整を達成でき、被写体50の状況あるいは撮影の目的に対応させた撮影ができるようになる。
【0102】
そして、たとえば、図9(c)に示すように、前段検出器61および後段検出器62を相対的な三次元的配置に調整できるように構成した場合、入射光子51のエネルギーの度合いに応じて、該前段検出器61および後段検出器62を適切な位置に配置させることができる。すなわち、図9(c)に示したようにした場合、対応して描いた図9(d)の場合と異なり、前方散乱した散乱光子52を選択的に取得でき、高精度な事象を高統計に収集できるようになり、結果的に、画像のぼけを抑制でき、高度な画質を得ることができる。この理由は、前段検出器61における散乱事象数は後段検出器62における散乱事象数に比べて一般的に多く、前段検出器61と後段検出器62のエネルギ分解能のエネルギ依存性から、入射する光子51の方向決定精度が前方散乱事象の方が高いからである。
【0103】
図10は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。図10では図7に示した情報収集装置63、画像再構成装置64、および表示装置65は省略して示している。
【0104】
図10において、被検体50のたとえば前方に前段検出器61および後段検出器62が順次配置されている。前段検出器61と後段検出器62はたとえば図示の状態では距離Lだけ離間されて配置されている。
【0105】
そして、前段検出器61は位置調整機構66によって被検体50の周辺を図中点線で示す軌道21O上に沿って移動するようになっている。この場合、前段検出器61の被検体50と対向する検出面はそのまま該被検体50と対向したまま移動し、結果として前記軌道上を自転しながら移動するようになっている。
【0106】
また、後段検出器62も位置調整機構67によって被検体50の周辺を図中点線で示す軌道22O上に沿って移動するようになっている。この場合も、後段検出器62の被検体50と対向する検出面はそのまま該被検体50とたとえば対向したまま移動し、結果として前記軌道上を自転しながら移動するようになっている。
【0107】
前段検出器61と後段検出器62の上述した移動においてそれら前段検出器61と後段検出器62は互いに対向したままとなっているが、該前段検出器61と後段検出器62は前記距離Lの間隔をそのまま維持するようにしてもよく、また、調整により可変させるようにしてもよい。
【0108】
このように構成した光子測定装置は前段検出器61と後段検出器62からなる検出器を被検体50の周りに回転させながら撮影を行うようになっている。このため、複数方向から各撮影ができ、計測される光子の計数を増加させることができるようになる。このことは統計誤差によって生じる画質の劣化を低減させる効果を奏する。そして、高精細な3次元画像を得ようとする場合において必要な等方的なデータを収集できるようになる。
【0109】
前段検出器61に対して外側に距離Lだけ離間されて配置される後段検出器62はその移動の軌跡22Oを単純な円軌道とすることができ、すなわち、被検体からの距離を一定とすることができる。これにより、画像再構成装置64における画像の再構成演算を簡単なものとすることができ、ひいては、データ処理の高速化を達成することができる。
【0110】
さらに、上述した構成とすることで、前段検出器61および後段検出器62の検出面での有効面積を小さく構成することができる。検出面の有効面積を小さくすることによって被検体との間の立体角の減少を、前段検出器61および後段検出器62の上述した移動によって補償できるからである。なお、前段検出器61および後段検出器62の検出面での有効面積を小さく構成することで、それら前段検出器61および後段検出器62の精密な移動を行うことができ、また、コストを低減させることができる。
【0111】
図11は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。図11においても図7に示した情報収集装置63、画像再構成装置64、および表示装置65を省略して示している。
【0112】
図11において、被検体50の前方に前段検出器61および後段検出器62が順次配置されている。前段検出器61と後段検出器62は距離Lだけ離間されて配置されている。
【0113】
この場合、前段検出器61の位置調整機構66は、たとえば該前段検出器61をその検出面と垂直方向に移動調整でき、後段検出器62の位置調整機構67は、たとえば該後段検出器62をその検出面と垂直方向に移動調整できるものとする。これにより、前段検出器61を被検体50に近接あるいは密着させて配置させたり、前段検出器61と後段検出器62との間の距離Lを任意に設定することができる。
【0114】
さらに、前段検出器61は全体の形状として被検体50の周りの一部を被うように構成され、たとえば平板形状からなる3枚の検出器61a、61b、61cを用意し、検出器61bを真ん中に配置し、その両脇に検出器61a、61cをそれぞれ鈍角の開き角度を有して固定させて構成されたものとなっている。後段検出器62においても全体の形状として被検体50の周りの一部を被うように構成され、たとえば平板形状からなる3枚の検出器62a、62b、62cを用意し、検出器62bを真ん中に配置し、その両脇に検出器62a、62cをそれぞれ鈍角の開き角度を有して固定させて構成されたものとなっている。
【0115】
なお、前段検出器61および後段検出器62において、それぞれ、平板形状からなる複数の各検出器はそれぞれ別個のものを組み立てて構成したものではなく、製造の当初から一体として形成されたものであってもよい。
【0116】
このように構成された光子測定装置は、たとえ、前段検出器61および後段検出器62を被検体50の周りに移動できる構成としなくても、被検体50の周囲の大部分にわたって撮影ができることになり、幾何学的な検出効率を向上させることができる。
【0117】
図12は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図で、図11に対応した図となっている。
【0118】
図11と異なる構成は、後段検出器62にあっては複数の平板状の検出器62a、62b、62cで構成されているが、前段検出器61にあっては1つの平板状の検出器のみで構成されていることにある。
【0119】
この場合にあっても、後段検出器62は全体の形状として被検体50の周りの一部を被うように構成されていることから、被検体50の周囲の撮影においてその撮影範囲を拡大できることになり、幾何学的な検出効率を向上させることができる。
【0120】
図13は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図で、図11に対応した図となっている。
【0121】
図11の場合と比較して異なる構成は、前段検出器61にあっては複数の平板状の検出器61a、61b、61cで構成されているが、後段検出器62にあっては1つの平板状の検出器のみで構成されていることにある。
【0122】
この場合にあっても、前段検出器61は全体の形状として被検体50の周りの一部を被うように構成されていることから、被検体50の周囲の撮影においてその撮影範囲を拡大できることになり、幾何学的な検出効率を向上させることができる。
【0123】
図14は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図で、図13に対応した図となっている。
【0124】
図13の場合と比較して異なる構成は、後段検出器62が被検体50および前段検出器61をも被ってたとえば円環からなる環状体として構成されていることにある。
【0125】
このように構成した場合、後段検出器62はたとえば上述した実施例に備えられた移動調整機構67を備えることなく構成することができる。
【0126】
そして、この実施例の適用例としては、たとえば、従来知られている構成のポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置に、前段検出器61(必要であれば移動調整機構66も)を配置させ、該ポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置に従前から備えられている検出器素子を後段検出器62としてそのまま利用することができる。
【0127】
このように既存のポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)装置をいわゆるコンプトンカメラ化して構成することにより、やはり既存のSPECT用製剤を使用することができ、使用の対象となる放射性医薬品の種類が増大する効果を奏する。そして、既存の装置をそのまま適用して構成することから、開発コストを大幅に低減できるという効果を奏する。
【0128】
なお、図14にあっては、前段検出器61は、被検体50の周囲の被いを拡大させるために平板状の複数の検出器61a、61b、61cを備えたものとして構成したものであるが、このようにすることに限定はされず、たとえば、検出器61bのみで構成するようにしてもよい。
【0129】
図15は本発明による光子測定装置の他の実施例を示す構成図で、図13に対応した図となっている。
【0130】
図13の場合と比較して異なる構成は、後段検出器62を被検体50の周囲に回転して移動するガンマカメラとして構成したことにある。ここで、該ガンマカメラは機械式コリメータを取り外したものとして構成されている。
【0131】
このことから、この実施例で示す装置は、機械式コリメータを取り外した従前のシングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置に、前段検出器61を配置(必要であれば移動調整機構66も)させ、該シングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置に従前から備えられている検出器素子を後段検出器62としてそのまま利用することができる。
【0132】
このように既存のシングルフォトンエミッションCT(SPECT)装置をいわゆるコンプトンカメラ化して構成することにより、やはり既存のPET用製剤を使用することができ、使用の対象となる放射性医薬品の種類が増大する効果を奏する。そして、既存の装置をそのまま適用して構成することから、開発コストを大幅に低減できるという効果を奏する。
【0133】
なお、図15にあっては、前段検出器61は、被検体50の周囲の被いを拡大させるために平板状の複数の検出器61a、61b、61cを備えたものとして構成したものであるが、このようにすることに限定はされず、たとえば、検出器61bのみで構成するようにしてもよい。
【0134】
上述した実施例では光子測定装置としてコンプトン散乱を利用したコンプトンカメラを用いたものを示したものである。しかし、コンプトン散乱(反応)の替わりに電子・陽電子対生成反応を利用した光子測定装置であってもよい。同様の効果が得られるからである。この場合、上述した散乱光子は電子または陽電子に置き換えたものとなる。
【0135】
また、上述した実施例では核医学診断装置に適用されたコンプトンカメラを示したものである。しかし、本発明はこのような核医学診断装置に限定されずたとえば実験室等で用いられるコンプトンカメラ、すなわち分子イメージング機器として構成するようにしてもよい。
【0136】
上述した各実施例はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施例での効果を単独であるいは相乗して奏することができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明による核医学診断装置に用いられるコンプトンカメラの一実施例を示す構成図で、比較的低いエネルギーのガンマ線を検出している態様を示した図となっている。
【図2】本発明による核医学診断装置に用いられるコンプトンカメラの一実施例を示す構成図で、比較的高いエネルギーのガンマ線を検出している態様を示した図となっている。
【図3】前記コンプトンカメラの前段検出器に備えられる検出器の一実施例を示す平面図である。
【図4】前記コンプトンカメラを用いた核医学診断装置の一実施例を示す概略説明図である。
【図5】本発明による核医学診断装置に用いられるコンプトンカメラの動作の一部を示す説明図である。
【図6】本発明による核医学診断装置に用いられるコンプトンカメラの他の実施例を示す構成図である。
【図7】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の一実施例を示す構成図である。
【図8】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置において前段検出器と後段検出器との間の距離Lを大きくすることの効果を示すための説明図である。
【図9】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の前段検出器と後段検出器の動作の各態様を示す説明図である。
【図10】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図11】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図12】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図13】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図14】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【図15】本発明による核医学診断装置に適用させた光子測定装置の他の実施例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0138】
1……コンプトンカメラ、2……入射ガンマ線、3……散乱ガンマ線、4……反跳電子、5……軌跡(反跳電子の)、10……第1前段検出器、10A……ガスパッケージ、10B……検出器、20……第2前段検出器、20A……ガスパッケージ、20B……検出器、30……後段検出器、11……半導体基板、12……陰極、13……透孔、14……陽極、15……配線層、41……情報収集装置、42……画像再構成装置、43……表示装置
50……被検体、51……光子、52……散乱光子、60……光子測定装置、61……前段検出器、62……後段検出器、63……情報収集装置、64……画像再構成装置、65……表示装置、66、67……位置調整機構、21O……前段検出器の移動軌道、22O……後段検出器の移動軌道、A……コンプトン散乱点、B……散乱光子の吸収点、e……反跳電子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数積層させて構成したことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数平面的に並設させて構成したことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項3】
被写体から放出される光子を反応させ少なくとも一回目の反応点における位置情報と該反応によって生じる荷電粒子の運動量の情報を検出する前段検出器と、 この前段検出器と機械的に分離され前記荷電粒子または該反応によって散乱された光子に関する情報を検出する後段検出器と、
前記前段検出器と後段検出器からの各情報から前記被写体内の光子源をイメージする画像再構成手段とを備え、
前段検出器と後段検出器との間の距離を可変し得る調節手段が備えられていることを特徴とする光子測定装置。
【請求項4】
前記前段検出器を被写体に対して近接あるいは密着させるようにした機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の光子測定装置。
【請求項5】
前記前段検出器を後段検出器と順向させた状態で被写体の周囲に回転させる機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の光子測定装置。
【請求項6】
前記後段検出器を前段検出器と順向させた状態で被写体の周囲に回転させる機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の光子測定装置。
【請求項7】
後段検出器は被検体の周囲を囲んだ環状体で構成されていることを特徴とする請求項5に記載の光子測定装置。
【請求項8】
前段検出器は被検体の周囲を囲んだ環状体で構成されていることを特徴とする請求項5に記載の光子測定装置。
【請求項1】
ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数積層させて構成したことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
ガスが充填されこのガス中のコンプトン散乱によって生じる荷電粒子の情報を検知する前段検出器と、散乱光子の情報を検出する後段検出器とを備えるコンプトンカメラを備え、
ガスの種類を異ならしめた前記前段検出器を複数平面的に並設させて構成したことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項3】
被写体から放出される光子を反応させ少なくとも一回目の反応点における位置情報と該反応によって生じる荷電粒子の運動量の情報を検出する前段検出器と、 この前段検出器と機械的に分離され前記荷電粒子または該反応によって散乱された光子に関する情報を検出する後段検出器と、
前記前段検出器と後段検出器からの各情報から前記被写体内の光子源をイメージする画像再構成手段とを備え、
前段検出器と後段検出器との間の距離を可変し得る調節手段が備えられていることを特徴とする光子測定装置。
【請求項4】
前記前段検出器を被写体に対して近接あるいは密着させるようにした機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の光子測定装置。
【請求項5】
前記前段検出器を後段検出器と順向させた状態で被写体の周囲に回転させる機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の光子測定装置。
【請求項6】
前記後段検出器を前段検出器と順向させた状態で被写体の周囲に回転させる機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載の光子測定装置。
【請求項7】
後段検出器は被検体の周囲を囲んだ環状体で構成されていることを特徴とする請求項5に記載の光子測定装置。
【請求項8】
前段検出器は被検体の周囲を囲んだ環状体で構成されていることを特徴とする請求項5に記載の光子測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−232971(P2008−232971A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75978(P2007−75978)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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