説明

核医学診断装置

【課題】 被検体が体軸方向以外の方向に動いた場合であっても体動補正を行える核医学診断装置を提供する。
【解決手段】 再構成処理部6により作成された3次元の再構成データを収集投影データと同一の方向に投影して2次元の推定投影データを作成する推定データ作成部7と、この推定投影データと収集投影データとの誤差を算出する誤差算出手段8Aと、算出された誤差を小さくするように収集投影データを補正するデータ補正手段8Cとを備え、再構成処理部6は、補正された収集投影データを再構成して新たな再構成データを作成する。制御部8は、この新たな再構成データに基づく放射性同位元素の分布画像を表示モニタ11に表示する。また、この新たな再構成データから新たな推定投影データを作成して、収集投影データを逐次補正することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体内のRI(Radioisotope;放射性同位元素)で標識された薬剤の分布を画像として描出する核医学診断装置に関し、特に、被検体の体動補正を有効に行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置やPET(Positron Emission Tomography)装置、あるいはこれら双方の機能を備えたSPECT/PET装置などの核医学診断装置が臨床に供され、注目を集めている。
【0003】
SPECT装置は、患者等の被検体に投与されたRIから放出されるガンマ線等の放射線を放射線検出器で検出して、被検体内におけるRIの分布画像を取得することにより、体内の病変部の画像や、血流量、脂肪酸代謝量などの機能分布画像を表示する装置である。また、PET装置は、複数の放射線検出器を備え、陽電子が電子と結合して消滅する際に互いに逆方向に放出される一対のガンマ線を同時検出してイメージングを行う装置である。
【0004】
このような核医学診断装置による検査は、被検体内のRIからの放射線を検出する検出器を被検体の体軸周りに回転させて行う。この検査においては、1回の投影における収集時間が長いことから、例えば20〜30分程度の検査時間が必要である。そのため、検査中に被検体が動いてしまうことが間々ある。このような被検体の動き(体動)は、画像の画質を劣化させる一要因であり、この体動が大きい場合などには再検査を要することもある。そのため、核医学診断装置においては、被検体に体動が生じた場合でも、その影響を補正して良好な画像を取得するためのデータ補正、いわゆる体動補正に関わる処理が重要性を持つ。
【0005】
被検体が体位を移動させた場合等については、次のような体動補正の手法が用いられている。まず、被検体に投与されたRIからの放射線を検出して複数の投影データを収集し、投影データを被検体の体軸方向に加算してライノグラムを作成する。次に、このライノグラム上において着目部位(画像取得対象の体内部位;心臓、肝臓など)を囲む所定領域の重心を算出し、放射線検出時の投影角度毎にこの重心の変化を求める。そして、この重心の変化が被検体の体位の移動によるものと仮定したうえで、重心の位置が一定になるように各投影データを体軸方向にシフトさせることにより、被検体の体軸方向における体動を補正する。
【0006】
しかし、この手法では、被検体の体軸方向における体動については補正できるが、体軸方向以外の方向に移動した場合、すなわち被検体の体動が体軸方向に直交する方向の成分を含んでいる場合については、補正を高精度で行えないという問題がある。また、当該手法では、着目部位の周りに上記の所定領域を設定する必要があるため、明瞭な画像を表示可能な着目部位にしか適用できない。そのような着目部位は現状では心臓に限られており、当該体動補正手法の適用範囲は大きく限定されたものとなっている。
【0007】
ところで、収集された投影データを再構成する前の前処理として回転中心補正を実行可能な核医学診断装置が広く利用されている(例えば特許文献1を参照)。この回転中心補正は、定期点検等において収集された回転中心の移動量の測定値(補正量)に基づいて投影データを補正する処理である。この移動量の測定値は、例えば次のようにして取得される。まず、放射線検出器の回転中心にポイントソース(点線源)を配置し、当該ポイントソースの複数の収集角度における投影データを放射線検出器により収集する。そして、各収集角度について、投影データの画像中心に対するポイントソースのズレを測定する。その測定結果を逆算することにより、実際の検査において収集される投影データの補正量が決定される。なお、核医学診断装置が放射線検出器を複数備えている場合には、各検出器毎に補正量を取得する。
【0008】
しかし、このような従来の回転中心補正は、投影データ収集後の前処理においてのみ実行されるので、被検体の体動に起因する一時的な回転中心のズレを補正するためには使用できない。それにより、従来の核医学診断装置では、体動が発生した場合における投影データのズレの影響により、高精度の検査を行うことが困難であった。
【0009】
【特許文献1】特開2001−59872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、被検体が体軸方向に動いた場合だけでなく、それ以外の方向に動いた場合であっても体動補正を好適に行うことが可能な核医学診断装置を提供することを目的としている。
【0011】
また、本発明は、着目部位の画像を明瞭に表示することができない場合であっても、被検体の体全体の変位に着目することによって体動補正を好適に行うことが可能な核医学診断装置を提供することを他の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被検体内に投与された放射性同位元素から放出される放射線を検出して2次元の投影データを収集するデータ収集手段と、当該収集された投影データを再構成して、前記被検体内を伝搬するときの前記放射線の減弱の影響を反映させた3次元の再構成データを作成する再構成処理手段と、を有し、当該作成された前記再構成データに基づく前記被検体内における前記放射性同位元素の分布画像を表示手段に表示させる核医学診断装置であって、前記再構成処理手段により得られた前記再構成データを前記投影データと同一の方向に投影して2次元の推定投影データを作成する推定データ作成手段と、当該作成された前記推定投影データと前記投影データとの誤差を算出する誤差算出手段と、当該算出された前記誤差を小さくするように前記投影データを補正するデータ補正手段と、を備え、前記再構成処理手段は、当該補正された前記投影データを再構成して新たな前記再構成データを作成し、前記表示手段は、当該新たな再構成データに基づく前記放射性同位元素の分布画像を表示することを特徴とする。
【0013】
また、上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の核医学診断装置であって、前記推定データ作成手段は、前記再構成処理手段により作成された前記新たな再構成データに基づいて新たな前記推定投影データを作成し、前記誤差算出手段は、当該新たな推定投影データと前記収集された投影データとの誤差を算出し、前記データ補正手段は、前記新たな推定投影データに対する前記誤差を小さくするように前記収集された投影データを補正する、ことにより、前記収集された投影データを逐次補正することを特徴とする。
【0014】
また、上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の核医学診断装置であって、前記誤差が所定値に入るように前記データ補正手段を制御する制御手段を更に備えていることを特徴とする。
【0015】
また、上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の核医学診断装置であって、前記誤差算出手段により算出された前記誤差が所定値以上である前記推定投影データと前記収集された投影データとのペアを選択するデータ選択手段を更に備え、前記データ補正手段が補正する前記投影データは、前記データ選択手段により選択されたペアの前記収集された投影データであることを特徴とする。
【0016】
また、上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の核医学診断装置であって、前記表示手段は、前記収集された投影データと前記推定投影データとを重畳させて表示し、当該重畳表示された前記投影データと前記推定投影データとのペアのうちから、所望の前記ペアを手動で選択するための選択操作手段を更に備え、データ補正手段が補正する前記投影データは、前記選択操作手段にて選択されたペアの前記収集された投影データであることを特徴とする。
【0017】
また、上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の核医学診断装置であって、前記表示手段は、前記データ補正手段により補正された前記投影データと、前記推定データ作成手段により作成された前記推定投影データとを重畳させて表示し、当該重畳表示された前記投影データを前記推定投影データの表示位置に合わせるように手動で移動させるための表示位置移動操作手段を更に備え、前記再構成手段は、前記表示位置移動操作手段による前記移動によって前記推定投影データとの誤差が調整された前記投影データを再構成して新たな前記再構成データを作成し、前記表示手段は、当該新たな前記再構成データに基づく前記放射性同位元素の分布画像を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の本発明の核医学診断装置によれば、推定データ作成手段が3次元の再構成データを投影データが収集されたと同一の方向に投影して2次元の推定投影データを作成し、誤差算出手段がこの推定投影データと投影データとの誤差を算出し、データ補正手段が当該誤差を小さくするように投影データの補正を行う。したがって、2次元の推定投影データに基づいて、被検体の体軸方向及びそれに直交する方向の体動補正を行うことが可能となる。
【0019】
また、この推定投影データに基づいて自動的に体動補正が行われるので、着目部位の画像を明瞭に表示することができない場合であっても体動補正を好適に行うことが可能である。
【0020】
請求項2に記載の本発明の核医学診断装置によれば、前回の補正結果に基づいて推定投影データを逐次作成し、この推定投影データとの誤差が小さくなるように投影データを逐次補正することができるので、体動補正の高精度化を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る核医学診断装置の好適な実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下、本発明に係る核医学診断装置の一例であるSPECT装置について説明する。なお、例えばPET装置やSPECT/PET装置等の核医学診断装置における本発明に係る構成及び処理は、以下に説明するSPECT装置と同様である。
【0022】
[核医学診断装置の構成]
図1に、本実施形態の核医学診断装置の概略構成を示す。同図に示す核医学診断装置1は、核医学検査(SPECT検査)において被検体内のRIから放出される放射線(ガンマ線)の2次元投影データを収集するための構成として、当該放射線を検出する2次元の検出器2A、2B、2C(まとめて「検出器2」と称することがある)と、これら各検出器2による検出結果から放射線の検出位置を計算する電気回路からなる位置計算部3と、位置計算部3による計算結果を受けて各検出器2による投影データとして収集するデータ収集部4とを有する。データ収集部4により収集された投影データ(収集投影データと略称することがある)は、前処理部5に送信される。ここで、検出器2、位置計算部3及びデータ収集部4は、本発明にいうデータ収集手段を構成している。
【0023】
検出器2A、2B、2Cは、被検体の体軸を中心として同軸状に配置されており、放射線が入射される入射面側には放射線を光信号に変換するシンチレータを備え、その背面側にはシンチレータからの光信号を増幅するとともに電気信号に変換する光電子増倍管を備えている。シンチレータの入射面には、放射線の入射方向を制限するための鉛製のコリメータが縦横に配置されている。検出器2は、モータ等を含んで構成される回転駆動装置によって被検体の体軸周りを回転駆動されながら、被検体内を伝搬した放射線の検出を行う。なお、本実施形態では検出器が3つ設けられているが、本発明に係る核医学診断装置はこれに限定されず、例えば1つあるいは2つの検出器を有する構成としてもよい。
【0024】
前処理部5は、本発明における前処理手段を構成するもので、被検体内部の画像を作成するための前処理として、データ収集部4により収集された収集投影データに対して各種の補正処理を施す。そのために、前処理部5には、放射線が被検体内を伝搬するときのコンプトン散乱に起因する減弱の影響を補正する散乱線補正を行う散乱性補正手段5Aと、各検出器2が上記回転駆動装置によって回転されるときの回転中心位置の移動に起因する投影データのズレを補正する回転中心補正を行う回転中心補正手段5Bと、収集された投影データの均一性を補正する均一性補正を行う均一性補正手段5Cとを含んでいる。これらの補正処理は、従来の手順にしたがって実行される。なお、前処理手段5は、これら補正手段のうち少なくともいずれかを備えていればよいが、検査を高精度に行うためにこれら全てを備えていることが好ましい。前処理部5による処理が施された収集投影データは、再構成部6及び制御部8に送信される。
【0025】
再構成処理部6は、本発明の再構成処理手段を構成するもので、前処理部5によって前処理が施された2次元の投影データを受け、3次元逆投影法や3次元高速フーリエ変換(FFT)法などの公知の方法により当該投影データを再構成して3次元の再構成データを作成する処理を行う。また、再構成処理部6は、RIからの放射線が被検体内を伝搬するときに受ける強度の減弱作用を補正する減弱補正手段6Aを備えている。再構成処理部6により作成された再構成データは、推定データ作成部7及び制御部8に送信される。
【0026】
推定データ作成部7は、本発明の推定データ作成手段を構成するもので、再構成処理部6からの再構成データに基づいて2次元の推定投影データを作成する。推定投影データの作成方法は、3次元の再構成データを上記収集投影データと同様の投影方向にそれぞれ投影(加算や線積分など)することによって実行される。作成された推定投影データは、制御部8に送信される。なお、この推定投影データは、収集された投影データを補正して被検体の体動補正の補正量を推定するためのデータである。
【0027】
制御部8は、前処理部5から送信された収集投影データを記憶部9の収集投影データ記憶部9Aに保存する処理、推定データ作成部7から送信された推定投影データを記憶部9の推定投影データ記憶部9Bに保存する処理、及び、再構成処理部6から送信された再構成データを記憶部9の再構成データ記憶部9Cに保存する処理をそれぞれ実行する。記憶部9に保存されたこれらのデータは、制御部8によって適宜呼び出されて各種処理に供される。
【0028】
また、制御部8は、操作部10からの操作信号を受けて、その操作信号に応じた処理を核医学診断装置に実行させるための制御を行う。ここで、操作部10は、本発明の選択操作手段及び表示位置移動操作手段を構成するもので、キーボード、マウス、トラックボール、液晶ディスプレイ(LCD)等の操作パネルなど、任意の入力デバイスから構成される。
【0029】
更に、制御部8は、収集投影データや推定投影データ、あるいは再構成データに基づく被検体内におけるRIの分布画像などを表示モニタ11に表示させるための制御を実行する。制御部8は、複数のこれら投影データを同時に表示させることができる。特に、収集投影データと推定投影データを座標値等を合わせて合成することにより、これらを表示モニタ11上にて重畳して表示させることができる。このとき、オペレータが操作部10を操作すると、制御部8は、その操作信号に基づいて、重畳表示された収集投影データの表示位置を移動させるように表示モニタ11を制御することもできる。また、制御部8は、核医学診断装置1の操作画面や検査結果画面などの各種画面を表示モニタ11に表示させるための制御を行う。ここで、表示モニタ11は、本発明にいう表示手段を構成するもので、LCDやCRT等の表示装置によって構成される。
【0030】
また、制御部8は、記憶部9に保存された収集投影データと推定投影データとの誤差を算出する誤差算出手段8Aと、当該誤差が所定値以上であるか否か判断し、当該所定値以上と判断された収集投影データ及び推定投影データのペアを選択するデータ選択手段8Bと、この選択された収集投影データ及び推定投影データのペアのうち、収集投影データを推定投影データに合わせるように補正するデータ補正手段8Cとを備えている。誤差算出手段8Aにより算出される誤差は、例えば、収集投影データ及び推定投影データの2次元データとしての分散や標準偏差の値などについて算出される。また、下記の[数1]に示す数式を用いたNMSE(Normalized Mean Square Error)法によって、収集投影データと推定投影データとの偏差2乗誤差を求め、その値が最小となるような位置を推定することもできる。データ補正手段8Cによる補正処理としては、例えば最小二乗法等の公知の方法が用いられる。制御部8は、データ補正手段8Cによる収集投影データの補正量の情報を、記憶部9の補正量記憶部9Dに保存するようになっている。また、データ補正手段8Cは、後述のような回転中心補正を補正処理のなかで行うこともできる。なお、制御部8は、本発明にいう制御手段を構成している。
【0031】
【数1】

f(x、y)は基準となる画像、g(x、y)は処理に係る画像をそれぞれ表す。
【0032】
データ収集部4、前処理部5、再構成処理部6、推定データ作成部7及び制御部8は、CPU等の演算制御手段が所定のコンピュータプログラムを実行することによって上述の動作を行う。また、記憶部9は、ハードディスクドライブ(HDD)等の書込/読出が可能な記憶装置から構成され、収集投影データ記憶部9A、推定投影データ記憶部9B、再構成データ記憶部9C及び補正量記憶部9Dは、このHDD等に設定されたディレクトリから構成されている。
【0033】
[核医学診断装置による処理手順]
以上のような構成を備えた本実施形態の核医学診断装置1により実行される体動補正処理の手順の一例について説明する。図2のフローチャートは、核医学診断装置1による処理手順の流れを示している。
【0034】
まず、検出器2、位置計算部3及びデータ収集部4が、通常の核医学検査(SPECT検査)と同様の処理を行い、被検体内のRIから放出される放射線を検出して投影データの収集を実行する(S01)。このとき、被検体の心臓や肝臓等の着目部位を含む領域について、例えば30スライスの投影データが収集される。収集された投影データ(収集投影データ)は、各スライス毎に関連付けられて記憶部9の収集投影データ記憶部9Aに保存されるとともに(S02)、前処理部5により上記前処理が施されて再構成処理部6に送信される(S03)。再構成処理部6は、前処理が施された収集投影データを再構成して、各スライスの再構成データを作成する(S04)。このとき、減弱補正も施される。
【0035】
図3は、この再構成処理を概念的に示す図である。符号100A、100B、100Cは、それぞれ、検出器2A、2B、2Cにより検出された放射線に基づく1スライスの収集投影データを示し、符号200は、これら収集投影データ100A、100B、100Cから3次元逆投影法等の手法で作成された再構成データ200を示している。なお、実際は、収集投影データ100A等は2次元の画像データとして得られ、再構成データは3次元の画像データとして得られるが、図3では、図示の簡略化のために、それぞれ1次元データ、2次元データで表されている(後述の図4についても同様)。
【0036】
推定データ作成部7は、図4に概念的に示すように、再構成処理部6から受けた再構成データ200を、収集投影データと同じ投影方向に投影(加算や線積分など)することにより、検出器2Aの投影方向に対応する推定投影データ300A、検出器2Bの投影方向に対応する推定投影データ300B、検出器2Cの投影方向に対応する推定投影データ300Cをそれぞれ作成する(S05)。これら推定投影データ300A、300B、300Cは、制御部8によって推定投影データ記憶部9Bに保存される(S06)。推定データ作成部7は、各スライスの再構成データについて当該作成処理を実行する。
【0037】
制御部8は、収集された各スライスの収集投影データと推定投影データとを記憶部9から読み出し、対応する収集投影データと推定投影データとのペアを表示モニタ11に重ねて表示させるとともに(S07)、誤差算出手段8Aにより、各ペアの収集投影データ及び推定投影データについて、分散値等の誤差を算出する(S08)。例えば、図5に示すように、図3及び図4に示した、検出器2Aの投影方向に対応する収集投影データ100A(点線)と推定投影データ300A(実線)とを重ねて表示させる。ここで、符号101Aは、投影データ100A中の着目部位を表し、符号301Aは、投影データ300A中の着目部位を表している。同様に、収集投影データ100Bと推定投影データ300B、収集投影データ100Cと推定投影データ300Cについても重畳表示される。
【0038】
データ選択手段8Bは、誤差算出手段8Aにより算出された誤差を、あらかじめ設定された所定値と比較して大小を判断する(S09)。全ての収集投影データと推定投影データのペアについて、誤差が当該所定値よりも小さいと判断された場合(S10;N)、制御部8は、それら収集投影データに基づく再構成データを検査結果、すなわち被検体内におけるRIの分布画像として表示モニタ11に表示させる(S20)。
【0039】
一方、当該所定値よりも誤差の大きな収集投影データと推定投影データのペアがある場合(S10;Y)、データ選択手段8Bは、その収集投影データ及び推定投影データを選択してデータ補正手段8Cに送る(S11)。ここで、当該所定値よりも誤差の大きな収集投影データ等を全て選択する代わりに、それらのうちの幾つかを選択するようにしてもよい。また、このような選択処理を自動的に実行する代わりに、オペレータが操作部10(選択操作手段)を操作することにより、所望のペアを選択するようにしてもよい。その場合、誤差の値を表示モニタ11に表示させ、オペレータは、その誤差の値を参照しながら当該選択処理を行うようにしてもよい。更に、この選択処理では複数のスライスの収集投影データ及び推定投影データのペアを選択することができる。
【0040】
このステップS11において選択された収集投影データと推定投影データのペアは、データの位置ズレ(誤差)の大きなスライスに相当するものである。したがって、上記所定値を適宜設定することにより、当該ペアを含むスライスは、被検体の体動に起因する誤差を有する部位の検査結果であると推定できる。
【0041】
データ補正手段8Cは、データ選択手段8Bにより選択された収集投影データと推定投影データのペアのうち、収集投影データを2次元的に(上下左右に)移動させながら推定投影データとの誤差を逐次求め、その誤差が最小となる収集投影データの位置を決定することで補正処理を行う(S12)。例えば、図5に示す収集投影データ100Aと推定投影データ300Aを補正する場合、点線表示の収集投影データ100Aを2次元的に移動させながら推定投影データ300Aとの誤差を逐次算出し、この誤差の値が最小となる収集投影データの位置を決定する。なお、「誤差最小」の位置を決定する代わりに、許容可能な誤差の値をあらかじめ設定しておき、当該誤差の設定値よりも誤差が小さくなるような収集投影データの位置を求めるようにしてもよい。ここで、データ補正手段8Cは、誤差の補正を施した収集投影データに対して、後述のような回転中心補正を行うこともできる。
【0042】
制御部8は、ステップS12における補正後の収集投影データの移動量つまり補正量を、当該収集投影データと関連付けて記憶部9の補正量記憶部9Dに保存するとともに(S13)、この補正後の収集投影データと推定投影データとを表示モニタ11に重ねて表示させる(S14)。ここで、補正後の誤差の値も一緒に表示するようにしてもよい。
【0043】
オペレータは、重ねて表示された補正後の収集投影データと推定投影データを見て更なる補正が必要と判断する場合、操作部10(表示位置移動操作手段)を操作し、収集投影データを推定投影データに合わせるように上下左右に移動させることにより、手動で誤差を調整することにより補正を行うことができる(S15)。
【0044】
制御部8は、補正された収集投影データを再構成処理部6に送信する。再構成処理部6は、この補正された収集投影データを再構成して新たな再構成データを作成する(S04)。推定データ作成部7は、この新たな再構成データに基づき、上記と同様の方法により新たな推定投影データを作成する(S05)。
【0045】
制御部8は、新たな推定投影データと元の収集投影データのペアを表示モニタ11に重ねて表示させるとともに(S07)、誤差算出手段8Aにより、当該ペアについての分散値等の誤差を算出する(S08)。データ選択手段8Bは、この誤差を、上記の所定値と比較して大小を判断する(S09)。
【0046】
データ補正手段8Cは、当該所定量よりも誤差が大きいと判断された新たな推定投影データと元の収集投影データのペアに対して補正処理を行う(S12)。このとき、データ補正手段8Cは、ステップS13において補正量記憶部9Dに保存された補正量を呼び出し、元の収集投影データを当該補正量だけ移動させたうえで今回の補正処理を実行する。そして、元の収集投影データの前回及び今回の補正量(移動量)の総和が算出され、補正量記憶部9Cに保存される(S13)。3回目以降の補正処理では、データ補正手段8Cは、前回までの補正量の総和に基づいて補正処理を実行するとともに、今回までの補正量の総和を補正量記憶部9Cに保存する。
【0047】
以上の処理を、ステップS10において「N」と判断されるまで反復し、そのときの再構成データに基づくRIの分布画像を表示モニタ11に表示させる(S20)。以上で、本実施形態の核医学診断装置1による体動補正処理を終了する。核医学診断装置1は、このような処理により、元の収集投影データを逐次補正するように構成されている。
【0048】
[作用効果]
この核医学診断装置1によれば、収集された各スライスの収集投影データについて、3次元の再構成データを作成し、この再構成データを投影して2次元の推定投影データを作成し、この推定投影データに対するオリジナルの収集投影データの位置のズレ(誤差)が小さくなるように2次元的に補正を行うことができる。この誤差は、上述のように被検体の体動に起因するものと推定できる。当該補正処理は、誤差の大きなスライスに対して選択的に行われるので、スライスの並び方向、すなわち体軸方向に実行可能である。また、選択された各スライスのスライス面方向、すなわち体軸に直交する方向における補正も実行することができる。
【0049】
また、核医学診断装置1によれば、一旦補正がなされた収集投影データを再構成して新たな再構成データが作成され、この新たな再構成データを投影して新たな推定投影データが作成され、この新たな推定投影データと元の収集投影データとの誤差を更に小さくする補正を逐次実行するようになっている。したがって、誤差が十分に小さくなるまで補正を反復することができ、高精度の体動補正を実行することが可能となる。
【0050】
また、補正処理が自動的に実行されるように構成されているので(ステップS12参照)、心臓や肝臓等の着目部位の画像が明瞭に表示されない場合であっても、体動補正を好適に実行することができる。
【0051】
また、誤差算出手段8Aにより算出された誤差を表示モニタ11に表示させることにより、オペレータ自身による手動での補正を支援することができ、体動補正の高精度化を図ることができる。
【0052】
[回転中心補正について]
本発明に係る核医学診断装置1により実行可能な回転中心補正について説明する。この回転中心補正は、上述した体動補正の精度を向上させるとともに、核医学検査の精度を向上させる補正処理である。
【0053】
図2のフローチャートのステップS12における誤差補正処理は、推定投影データに合わせるように収集投影データを2次元的に移動させることにより行われる。そこで、定期点検時等に測定された回転中心の補正量、すなわち、前処理(ステップS03)における回転中心の補正量をΔx0、Δy0(回転中心補正は、検出器2の入射面における2次元のズレの補正である)とするとき、データ補正手段8Cは、逐次補正における第1回目のデータ補正において、収集投影データに対する2次元の誤差補正量ΔX1、ΔY1を、Δx0−ΔX1=Δx1、Δy0−ΔY1=Δy1に変更する。これにより、第1回目の誤差補正における補正量を考慮した回転中心の補正量Δx1、Δy1が取得される。
【0054】
第2回目以降のデータ補正時においても、同様の回転中心補正を逐次実行できる。すなわち、第N−1回目の誤差補正における補正量をΔx(N−1)、Δy(N−1)とすると(N≧2)、データ補正手段8Cは、第N回目の誤差補正ΔXN、ΔYNを施した収集投影データの回転中心補正量をΔx(N−1)−ΔXN=ΔxN、Δy(Nー1)−ΔYN=ΔyNに変更する。それにより、第N回目の誤差補正における補正量を考慮した回転中心の補正量ΔxN、ΔyNが取得される。
【0055】
このような回転中心補正を行うことにより、検査時に被検体の体動が生じた場合であっても回転中心補正を適宜実行することができ、また、本発明に係る体動補正処理の精度を更に向上させることができる。
【0056】
以上に詳述した内容は、本発明を実施するための一構成例に過ぎないものであり、したがって、本発明の要旨の範囲内において各種の変形を施すことは当然に可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る核医学診断装置の実施形態の概略構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る核医学診断装置の実施形態により実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る核医学診断装置の実施形態により実行される処理手順の一例を説明するための概略図である。
【図4】本発明に係る核医学診断装置の実施形態により実行される処理手順の一例を説明するための概略図である。
【図5】本発明に係る核医学診断装置の実施形態により実行される処理手順の一例を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1 核医学診断装置
2A、2B、2C 検出器
3 位置計算部
4 データ収集部
5 前処理部
5A 散乱線補正手段
5B 回転中心補正手段
5C 均一性補正手段
6 再構成処理部
6A 減弱補正手段
7 推定データ作成部
8 制御部
8A 誤差算出手段
8B データ選択手段
8C データ補正手段
9 記憶部
9A 収集投影データ記憶部
9B 推定投影データ記憶部
9C 再構成データ記憶部
10 操作部
11 表示モニタ
100A、100B、100C 収集投影データ
200 再構成データ
300A、300B、300C 推定投影データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に投与された放射性同位元素から放出される放射線を検出して2次元の投影データを収集するデータ収集手段と、
当該収集された投影データを再構成して、前記被検体内を伝搬するときの前記放射線の減弱の影響を反映させた3次元の再構成データを作成する再構成処理手段と、
を有し、当該作成された前記再構成データに基づく前記被検体内における前記放射性同位元素の分布画像を表示手段に表示させる核医学診断装置であって、
前記再構成処理手段により得られた前記再構成データを前記投影データと同一の方向に投影して2次元の推定投影データを作成する推定データ作成手段と、
当該作成された前記推定投影データと前記投影データとの誤差を算出する誤差算出手段と、
当該算出された前記誤差を小さくするように前記投影データを補正するデータ補正手段と、
を備え、前記再構成処理手段は、当該補正された前記投影データを再構成して新たな前記再構成データを作成し、前記表示手段は、当該新たな再構成データに基づく前記放射性同位元素の分布画像を表示することを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
前記推定データ作成手段は、前記再構成処理手段により作成された前記新たな再構成データに基づいて新たな前記推定投影データを作成し、
前記誤差算出手段は、当該新たな推定投影データと前記収集された投影データとの誤差を算出し、
前記データ補正手段は、前記新たな推定投影データに対する前記誤差を小さくするように前記収集された投影データを補正する、
ことにより、前記収集された投影データを逐次補正することを特徴とする請求項1に記載の核医学診断装置。
【請求項3】
前記誤差を所定値よりも小さくするように前記データ補正手段を制御する制御手段を更に備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の核医学診断装置。
【請求項4】
前記誤差算出手段により算出された前記誤差が所定値以上である前記推定投影データと前記収集された投影データとのペアを選択するデータ選択手段を更に備え、
前記データ補正手段が補正する前記投影データは、前記データ選択手段により選択されたペアの前記収集された投影データであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の核医学診断装置。
【請求項5】
前記表示手段は、前記収集された投影データと前記推定投影データとを重畳させて表示し、
当該重畳表示された前記投影データと前記推定投影データとのペアのうちから、所望の前記ペアを手動で選択するための選択操作手段を更に備え、
データ補正手段が補正する前記投影データは、前記選択操作手段にて選択されたペアの前記収集された投影データであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の核医学診断装置。
【請求項6】
前記表示手段は、前記データ補正手段により補正された前記投影データと、前記推定データ作成手段により作成された前記推定投影データとを重畳させて表示し、
当該重畳表示された前記投影データを前記推定投影データの表示位置に合わせるように手動で移動させるための表示位置移動操作手段を更に備え、
前記再構成手段は、前記表示位置移動操作手段による前記移動によって前記推定投影データとの誤差が調整された前記投影データを再構成して新たな前記再構成データを作成し、前記表示手段は、当該新たな前記再構成データに基づく前記放射性同位元素の分布画像を表示することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の核医学診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−250842(P2006−250842A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70428(P2005−70428)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】