説明

核膜を通した核酸の移動のための細胞輸送システムの使用

【課題】核輸送剤、核輸送剤を含む遺伝子移動システム、核輸送剤を用いて真核細胞の核中にDNAを輸送する方法並びに癌、ウィルス感染、神経系の疾患、移植片拒絶反応および単一遺伝子または多遺伝子性遺伝性疾患の治療のための遺伝子治療における核輸送剤を提供する。
【解決手段】2つのモジュールAおよびBから成り、モジュールAがDNAに特異的に結合し、2つ以上のDNA分子を含む複合体の形成を導かず、モジュールBが、この電荷のために、核輸送剤のDNAへの非特異的結合を媒介しない伸長核局在シグナルを含む、核輸送剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核輸送剤、核輸送剤を含む遺伝子輸送システム、DNAを真核細胞の核中に核輸送剤を用いて輸送する方法並びに、核輸送剤の、癌、ウィルス感染、神経系の疾患、移植片拒絶反応および単一遺伝子または多遺伝子性遺伝性疾患の治療のための遺伝子治療における使用に関する。
【0002】
核中への活性な輸送は、遺伝物質の意図された発現の前の期間においては分裂しないすべての細胞中への遺伝物質の輸送に必要である。核酸のための核輸送システムは、これが、ほとんどまたは全く分裂しない細胞中へのDNAの効率的な移動を促進するため、極めて重要である(Dowty et al., 1995, Wilke et al., 1996)。ほとんどの一次細胞(primary cell)は、この群に属する。一次細胞は、2つの理由により科学的に最も興味深い。第1に、生物から新たに単離した前述の細胞は、細胞のタイプの機能的な状態を、これに由来する細胞系よりもはるかに良好に反映する。第2に、これらは、遺伝子治療の標的細胞である。さらに、核輸送システムは、移動の開始と分析との間の期間中に分裂していなかった細胞が、移動した遺伝物質を発現することができるようにすることにより、確立された細胞系中へのDNA移動の効率を増大させる。
【0003】
遺伝物質は、核中で活性である。この中の輸送は、核膜が有糸分裂の過程で一時的に崩壊する際に、細胞分裂の間に同時に発生することができるか、またはこれは活発に生じなければならない。
【0004】
1)核タンパク質は、核中に、核局在シグナルによって輸送される。
核を包む二重膜は、孔を有する。ほとんどの分子は、拡散によりこれらの孔を通過することができない。核中に進入することができるためには、約50kDaよりも大きいタンパク質が、輸送機構により認識されなければならない核局在シグナル(nuclear localization signal;NLS)を必要とする。代表的に、十分なシグナルは、4〜8個のアミノ酸から成り、陽性のアミノ酸であるアルギニンおよびリシンに富んでおり、プロリンを含む。これは、発生において強力に保護され、従って哺乳類NLSはまた、酵母において機能的である。異種のNLSはまた、標的分子を核中に輸送するための手段として用いることができる。このために、NLSを、比較的無秩序な位置において細胞質タンパク質の配列中に導入することができるか、またはタンパク質、またはさらには金粒子に化学的に結合させることができる(Gorlich, 1998において論評された)。
【0005】
2)多くのウィルスは、細胞の核タンパク質輸送機構を、これらのDNAの核中への輸送のために用いる。
休止細胞に感染することができるHIVおよび他のレンチウィルスは、ウィルスタンパク質および細胞輸送機構を用いて、これらのDNAを核中に移動させる。Vpr中のNLSおよびHIV前統合複合体のマトリックスタンパク質(Gallay et al., 1996)は、分裂しない細胞の感染に必須である(Naldini et al., 1996)。ウィルスがいかにしてこれらのゲノムを核中に移動させるかについてほとんど知られていないが、NLSを含むウィルス構造タンパク質の補助はさらに、一般的な原理であり得る。これはまた、以下の観察により示唆されている:HSVカプシドタンパク質における特定の変異は、ウィルスDNAの核中への輸送を妨げる(Batterson et al., 1983)。アデノウィルスDNAは、崩壊したカプシドのヘキソンタンパク質と共に、核中に輸送される(Greber et al., 1993)。SV40 DNAの核中への輸送は、DNAと連結したままであるウィルスタンパク質(おそらくVp3)により媒介される(Nakanishi et al., 1996)。NLSを含む2種の細菌タンパク質は、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)T−DNAの植物核中への輸送の原因となる(Citovsky et al., 1994)。
【0006】
いくつかのウィルスが休止細胞に感染する能力のために、例えばHIV、アデノウィルスおよびヘルペスウィルスの突然変異体変種を、遺伝子治療方法の開発のためのDNA移動ビヒクルとして用いる。第1に、これは、ウィルス成分への免疫学的反応の危険を伴い(Friedmann, 1994, 1996)、第2に、ヘルパー細胞系は、比較的突然変異していないウィルスゲノムの放出を排除することができない系において用いられる。さらに、これらの系の取り扱いは、困難である。
核局在シグナルを含むペプチドまたはタンパク質によりトランスフェクション効率を高めることが推測されるいくつかの人工的系が、記載された。
【0007】
A)タンパク質
Kaneda et al. (1989)およびDzauおよびKaneda(1997, 米国特許第5,631,237号)には、センダイウィルス、リポソームおよびDNAの核輸送を支持することを意味する加えられたタンパク質に基づく遺伝子移動系が記載されている。このために、この群は、HMG−1(高移動度1群タンパク質)、DNAに結合するクロマチンの基本的非ヒストンタンパク質を用いた。HMG−1は、長い基本的領域を通してDNAに結合する。これは、核中に局在するが、既知のNLSを有しない。インビトロで、HMG−1タンパク質は、ベクターDNAとの複合体を形成する。精製されたHMG−1の生成は、費用がかかり、大きな労働力を要する。
【0008】
Mistry et al. (1997)は、HMG−1媒介核輸送に関する実験を記載している。この正の電荷のために、HMG−1は、DNAと複合するトランスフェクション試薬として、ここで細胞膜を通してのDNAの通過のために用いられる。効率は低い。Wako BioProducts (Richmond, VA, U.S.A)社は、核輸送を媒介するためのリポフェクション試薬のための添加剤としてのタンパク質HMG−1および−2を販売した(1997)。
【0009】
Fritz et al. (1996)は、仔ウシ胸腺ヒストンまたはSV40 NLSおよびヒトヒストンH1から成る組換えタンパク質を用いた同様の方法を繰り返した。これらのタンパク質は、共に、刊行物に示されたように、明らかにDNAとの大きい複合体を形成し、細胞膜の通過に適するが、核輸送には適さない。
【0010】
B)これらの簡単かつ比較的安価な生産のために、NLS配列を含む合成ペプチドが、同様に用いられた。
P. Alestromのグループ(Collas et al., 1996, Collas およびAlestrom, 1996, 1997a, b)は、SV40から複合体DNAまでのNLSペプチドを用いて、これを細胞により核中に輸送した。このDNA結合は、専ら、この機能のために必須であるNLSの正に帯電したアミノ酸により発生する。この結果、DNAがペプチドと複合している限りは、核輸送タンパク質のための実際のシグナルの遮蔽が発生する。蛍光標識したDNAのNLS依存性輸送は、これらを受精ゼブラフィッシュ卵の溶菌液中でインキュベートした際に、ウニ精子からインビトロで形成した単離された雄前核において観察することができる。細胞あたり≧100:1(NLSペプチド:ベクター)および≧1,000ベクターコピーの分子比において、ルシフェラーゼ発現の増大は、ベクターDNAを細胞の細胞質中にマイクロ注入した際に、ゼブラフィッシュの胚において観察することができる。(100ペプチド/ベクターおよび1,000の注入されたベクターにおいて、6倍の増加が、0ペプチドと比較して得られた。)高い密度により、場合によってはすべてのNLSがDNAに完全に形成するわけではなく、従って輸送機構にアクセス可能な部分が残る;これは、効果を完全に認識することができる理由であり得る(Sebastyen et al., 1998参照)。輸送機構は、おそらく2つのペプチド配列から構成されるシグナルを認識することができる。(Boulikas, 1993)。
【0011】
Sebastyen et al. (1998)は、数百ものSV40 NLSペプチドをDNA分子に共有結合させ、NLSは、DNAらせんの全長にわたり散乱した。この大規模な変更により、DNAは、もはや転写することができない。この記事において討議されているように、DNAは、立体的な理由により、すべてがDNAの負の帯電での相互作用により遮蔽されるわけではない多くのNLSペプチドが結合する際に、明らかに核中に輸送されるのみである。
【0012】
Gopal(米国特許第5,670,347号)は、DNA結合基本的領域、可撓性ヒンジ領域およびNLSからなるペプチドを記載している。DNA結合がまたこの場合においてアミノ酸正電荷により達成されるため、試薬は、細胞膜を通っての輸送と同時に作用することを意味するDNAと複合体を形成する。なぜNLS配列がDNAの結合に関与せず、従って核輸送タンパク質のための実際のシグナルが、ペプチドがこれに結合している限りはDNAにより再び同様に遮蔽されるかは、明らかでない。さらに、発生した複合体は、極めて大きくなることができ(Emi et al., 1997, Niidome et al., 1997, Wadhwa et al., 1997, Trubetskoy et al., 1998)、これは、核孔を通しての輸送を付与する(Lanford et al., 1986, Yoneda et al., 1987, 1992)。細胞膜を通してのDNAの通過(Sorgi et al., 1997, Hawley-Nelson et al., 1997参照)を支持するトランスフェクション試薬としてのポリカチオンペプチドの既知の機能を超える効果は、示されていない。
【0013】
Gerhard et al. (DE-OS 195 41 679)は、遺伝子輸送のためのNLSポリリシン抱合体を示唆している。陽イオン性ポリリシン、陽イオン性NLSおよびDNAから成る出現する複合体は、これがDNAに結合している限りは核輸送シグナルを遮蔽することは、この場合において真実である。
【0014】
Szoka(PCT 1993、請求項23〜27)は、NLSペプチドをDNAに、挿入剤を介して結合させている。ベクターおよびペプチドをプレインキュベートした後(1:300の比率)、リポフェクションの効率は、4〜5倍に増大する。この高度に正の電荷のために、用いられるSV40ペプチドは、DNAと複合することができる。DNAと陽イオン性ペプチドとの複合は、細胞膜を通しての通過の効率を改善することにより、増大したリポフェクション効率を生じる(Sorgi et al., 1997, Hawley-Nelson et al., 1997参照)。核輸送は、少なくとも大きい複合体が発生する際に、これによりむしろ損なわれる(上記参照)。用いられるNLSペプチドが、これらの電荷によりDNAに結合するため、核輸送機構による輸送シグナルの認識が損なわれる(上記参照)。例に記載された突然変異誘発挿入剤の使用は、適用性を制限する。Szokaは、またDNAに非共有結合的および非特異的に結合するが、前述のように、NLSペプチド自体がDNAに結合し、これを複合化するのを防止することができないトランスフェクションのための追加の分子を提案している。NLSペプチドとDNAとの直接的な関連の問題は、討議されていない。
【0015】
Hawley-Nelson et al.(米国特許第5,736,392号)は、同様の系を記載している。NLSペプチドを、直接、またはDNA結合分子との共有結合の後に、ベクターDNAと混合する。次に、生じた複合体を、リポフェクション(または他のトランスフェクション)に用いる。この系において、NLSを有しないポリカチオンペプチドの添加により、陽イオン性NLSの添加よりも、トランスフェクション効率が増大する。スペルミジンのNLSペプチドへの結合の結果、トランスフェクション効率がさらに増大する。従って、またこの場合において、増幅効果は単に、DNAを陽イオン性ペプチドを介して複合させることにより、説明される。NLSの存在によってトランスフェクション効率がさらには増大しないため、核輸送機構のための認識配列が、この場合同様に遮蔽されることが推測されるべきである。
【0016】
TIB Molbiol社(リーフレット、1998)は、選択された遺伝子の発現を特定的に抑制するための、C末端NLSペプチドを有するPNAオリゴヌクレオチドの輸送を記載している。NLSは、PNAオリゴヌクレオチドの核中への輸送の役割を有し、従ってこれらを次にこれらの標的配列とハイブリッド形成することができる。
現在まで、DNAの核中への輸送のための既知の剤は、効率が極めて低いという欠点を有する。この低い効率は、休止細胞をトランスフェクト可能にするのには不十分である。
【0017】
従って、本発明の下にある課題は、DNAの核中への効率的な輸送を促進し、従ってまた休止細胞または極めてゆっくりと分割している細胞だけが有用な程度にトランスフェクト可能になるようにする核輸送剤を提供することである。
【0018】
この課題は、2つのモジュールAおよびBから成り、モジュールAがDNAに特異的に結合し、非特異的結合による2つ以上のDNA分子を含む複合体の形成を生じず、モジュールBがDNAに非特異的に結合しない核局在シグナルまたは非NLSシグナルを含む核輸送剤により、解決される。本発明の好ましい核輸送剤は、配列をDNAと特異的に結合させ、および/またはDNA末端に特異的に結合するモジュールAを含む。特に好ましいのは、モジュールAが合成ペプチド、タンパク質またはペプチド核酸(PNA)である核輸送剤である。
【0019】
本発明の核輸送剤の他の態様において、モジュールBは、この電荷によってDNAと複合体を形成しない伸長核局在シグナル(extended nuclear localization signal)を含む。モジュールBが、ほぼ中性の正味電荷を有する伸長核局在シグナルを含む核輸送剤が好ましい。モジュールBが、核局在シグナルおよび側方の負に帯電したアミノ酸を含む伸長核局在シグナルを含む核輸送剤が、特に好ましい。NLS配列は、天然に存在するNLS配列と同一である必要はなく、またこれがNLSとして機能的である限りは、理論的考慮に基づくアミノ酸配列であることができる。さらに、モジュールBは、核局在シグナルまたは伸長核局在シグナルに直接属さないペプチド配列または非ペプチド成分を含むことができる。好ましいのは、核局在シグナルとモジュールAとの間の距離を増大する成分である。
【0020】
さらに、本発明は、本発明の核輸送剤および陽イオン性脂質、ペプチド、ポリアミンまたは陽イオン性重合体を含む、遺伝子輸送システムに関する。
さらに、本発明は、DNAを真核細胞、好ましくは一次細胞の核中に輸送する方法において、細胞が、輸送されるべきDNAおよび本発明の核輸送剤で当業者に知られている方法によりトランスフェクトされる、前記方法に関する。
他の態様は、本発明の核輸送剤の、特に癌、ウィルス感染、神経系の疾患、移植片拒絶反応および単一遺伝子または多遺伝子性遺伝性疾患の治療のための遺伝子治療における使用に関する。
【0021】
本発明において用いる「核局在シグナルのDNAへの非特異的結合」という表現は、核局在シグナルが核輸送機構に対して完全に認識可能であることを防止する関連を示す。
本発明において用いる「モジュールAのDNAへの特異的結合」という表現は、第1に、DNAヌクレオチドの配列が相互作用について決定的である配列特異的結合および第2にDNA一重または二重らせん末端により媒介されたDNAとの共有結合を示す。
【0022】
本発明において用いる「伸長核局在シグナル」という表現は、核局在シグナルが追加の側方のアミノ酸を有することを示す。好ましいのは、2〜40個、好ましくは4〜20個の追加の側方のアミノ酸を有する伸長核局在シグナルである。
本発明において用いる「この電荷によってDNAと複合体を形成しない伸長核局在シグナル」という表現は、モジュールBが、これがDNAと非特異的に反応せず、従って核輸送機構について完全にアクセス可能なままであるように電荷が分布する核局在シグナルを含むことを示す。
【0023】
本発明において用いる「ほぼ中性の正味電荷」という表現は、核局在シグナルの伸長された部分が、負に帯電したアミノ酸を有して、実際の核局在シグナルの正電荷を埋め合わせ、従って3つ以下の正の余剰の電荷が伸長核局在シグナルの全体の領域において発生することを示す。
【0024】
本発明の核輸送剤は、これがDNAとの複合に至らないという利点を有する。核局在シグナルが、核輸送機構に自由にアクセス可能なままであることは、他の利点である。本発明の核輸送剤を用いる際の核輸送機構への核局在シグナルの核輸送およびアクセス可能性を損なう大きいDNA複合体を回避すると、DNAの核中への明らかに一層効率的な輸送に至る。
本発明において、DNA結合部分(モジュールA)も核局在シグナル(モジュールB)も、大きいDNA複合体の形成に至らない。
【0025】
モジュールA
モジュールAは、DNAに特異的に結合し、2つ以上のDNA分子との複合体の形成に至らない。モジュールAは、配列に特異的に結合するか(即ち、正の電荷のためのみに非特異的ではなく)またはDNA末端に共有結合する。
【0026】
モジュールAは、種々の長さのペプチドまたはタンパク質またはPNA配列(Nielson et al., 1991)または配列特異的様式で核酸に結合する他の物質であることができる。さらに、モジュールAは、DNAに特異的に結合する組換えタンパク質、例えばlacレプレッサーまたはこの高アフィニティー突然変異体である(Kolkhof, 1992, Fieck et al., 1992)か、またはDNA末端に特異的に配列に結合するレトロウィルスインテグラーゼ(LTR核配列を有する)(EllisonおよびBrown, 1994)であることができる。
【0027】
直線状DNAらせんの末端が、「自殺基質(suicid substrate)」である配列を有し、トポイソメラーゼによる開列を可能にするが、所属がない場合には、DNAらせんの末端への共有結合は、生物学的に、例えばポックスウィルスのトポイソメラーゼIにより媒介することができる(Shuman, 1994)。
【0028】
モジュールB
モジュールBは、DNAに非特異的に結合しない核局在シグナルまたは非NLSシグナルである。
本発明の非NLSシグナルの用語は、核局在シグナルではないシグナルを示すが、トランスフェクションについては、遺伝子治療またはDNAワクチン化は、DNAの細胞中への輸送または細胞内のDNAの輸送の役割を有する。
【0029】
以下は、非NLSシグナルに属する:DNA取り込み、例えば受容体媒介DNA取り込みを媒介することができる細胞表面構造のためのリガンド;例えばエンドソームからのDNAの早発の出口を促進するための、膜を不安定化するペプチド;細胞結合において媒介して構造を核への好ましい細胞内輸送に輸送するシグナル。
【0030】
核局在シグナルは、好ましくは、この電荷またはDNA結合モジュールAへの空間的配向のためにDNAと複合体を形成しない伸長核局在シグナル(前に定義したように)である。核局在シグナルは、合成的に生成することができるか、またはタンパク質の一部であることができる。
【0031】
本発明の核輸送剤において用いる核局在シグナルにおいて、これらの正電荷によりDNAに結合しないシグナル配列−側方配列を有する、および有しない−を用いて、ほとんどの核局在シグナルの必須の部分であるこれらの電荷が、核輸送機構のためのシグナルとして遮蔽されるようにする。
【0032】
核局在シグナルまたは非NLSシグナルに加えて、モジュールBは、核局在シグナルまたは伸長核局在シグナルの一部ではないペプチド配列および非ペプチド成分を含み得る。好ましくは、これらは、核局在シグナルの一層良好な立体的配置、特にDNA分子への増大した距離を可能にする。
【0033】
クラシックNLSの伸長配列は、ペプチドの正味の電荷を、側方の負に帯電したアミノ酸によりほとんど埋め合わせることができる場合には、良好に適合される。これらのアミノ酸は、タンパク質中のこれらの位置において天然に存在することができるか、または構造の考慮に基づいて導入されていることができる。本来的な意味で、負のアミノ酸は、多くのNLS核配列に隣接して位置する(Xiao et al., 1997)。最も完全に調査されたNLSであるSV40からのNLSについて、これらの側方の配列は、核輸送の効率を明らかに増大させることを示すことができる(RihsおよびPeters, 1989, Rihs et al., 1991, Chen et al., 1991, Jans et al., 1991, Xiao et al., 1997)。大きいタンパク質(IgM)は、これを、隣接する配列により伸長されたSV40 NLSに化学的に結合させた後であるが、これをSV40核NLSペプチドに結合させた後ではないときに、核中に輸送された(Yoneda et al., 1992)。
【0034】
NLSが、DNAに特異的に結合するタンパク質の一部である場合には、DNAにより遮蔽されるこれらの配列(単数または複数)に伴う危険は、比較的低い。しかし、一層高い効率のために、伸長されたNLS配列はまた、この場合において用いることができる。
非クラシックNLS、例えば大過剰の正の電荷を有しないかまたは輸送の従来の経路を介して核に達しないインフルエンザウィルス核タンパク質(Wang et al., 1997, Neumann et al., 1997)からのNLSもまた、用いることができる。
【0035】
ここで意図されるNLSの(不完全な)概観は、T. Boulikas (1993, 1996, 1997)により示されている。
最後に、核輸送機構自体の成分、例えばインポーチン(importin)αのインポーチンβ結合ドメイン(IBB)から採取した核輸送シグナルを、用いることができる。このドメインを介して、NLS結合タンパク質であるインポーチンαを、核輸送機構の残りに結合させる(Gorlich et al., 1996, Weiss et al., 1996)。
【0036】
他の好ましい態様において、PNAを介しての非NLSシグナル(モジュールAとして)を、在来のベクター配列に結合させる。PNAとベクターとの間の結合は、配列特異的である。これにより、このような非NLSシグナルの、これらを修正する必要なしに、ほとんどすべての従来の発現ベクターへの結合が可能になる。
PNAのDNAへの配列特異的結合について、ベクターのこれらのDNA配列のみを用い、PNAによる遮蔽は、DNAの意図された目的をほとんど損なわない。
【0037】
発現ベクターの場合において、特にほとんどの従来の発現ベクター(例えばアンピシリン耐性遺伝子のプロモーター)中に存在するプラスミド主鎖における配列を用いる。しかし、発現領域の非コードらせん中の結合もまた可能である。配列特異性結合の利点は、PNA−ペプチドハイブリッドのDNAへの簡単かつ迅速な結合である。例2は、例えば、PNA−ペプチドハイブリッドの二重らせんDNAへの簡単かつ迅速な結合反応(5分、65℃)を例示する。PNA部分と実際のシグナルとの間に、スペーサーが存在し得る。スペーサーは、シグナルのDNAへの距離を増大させる、例えば立体障害を減少させる作用を有し得る。スペーサーはまた、所定の破壊点を導入する、例えばDNAがエンドサイトーシスされた(endocytosed)細胞表面受容体に結合するエンドソーム環境においてリガンドの分離を可能にする作用を有し得る。
【0038】
初めて、本発明は、休止細胞または緩徐に分割する細胞を、その後の分析を可能にする百分率にトランスフェクト可能にする。動物またはヒトの体から新たに単離したほとんどの細胞(一次細胞)は、全く分裂しないかまたは、DNAが、これが、核に達して発現することができる前に、細胞膜を通して好首尾に輸送された後に不活性化される程度に、低く分裂する。現在、これにより、一次細胞が、これらが人工的に刺激されて培養中で増殖しない場合には、トランスフェクト不能になる。この不可避的な結果は、これらの細胞が、次にこれらの最初の状態から逸脱することである。一次細胞のトランスフェクションの方法により、体細胞の最初の状態下での遺伝物質の分析が可能になる。これは、遺伝子機構の調査および体細胞の内側のプロセスの研究のために、最高に重要である。
【0039】
一次細胞をトランスフェクト可能にする本発明の教示はまた、遺伝子治療のための完全に人工的な遺伝子移動系に対する必須の段階である。このような遺伝子移動系は、3つの機能的な成分を有しなければならない:1つの成分は、陽イオン性脂質および他の陽イオン性重合体が比較的適切であることが明らかになった、細胞膜を通してのDNAの通過のための成分である。これは、DNAを(通常非分裂)標的細胞の核中に移動させるための他の成分および、DNAのゲノム中への統合を媒介する第3の成分を有しなければならない。本発明において初めて、第2の成分として作用することができる有効な剤を記載する。遺伝子治療において用いることができる完全な人工的な遺伝子移動ビヒクルは、一層容易かつ一層安価に製造され、現在用いられているウィルス系よりも容易に取り扱われることが予測され、これは、これらの系の内在的な危険に曝されない。遺伝子治療方法は、例えば、癌、AIDSおよび種々の遺伝性疾患の治療のために提案され、薬において重要な役割を有する。
【0040】
本発明に従って記載する核輸送剤はまた、現在まで、細胞を、細胞膜を通ってのDNAの通過と分析との間の期間に分裂しないDNAの取り込みにアクセス可能にすることによりすでにトランスフェクト可能であった培養した細胞において、トランスフェクション効率を増大させる。これは、多くの確立された細胞系について、トランスフェクション効率の増大により、分析が促進され、必要とされる細胞物質の減少した量により一層低い費用が補助されるため、重要である。当然、このことはまた、一次細胞と確立された細胞系との間のすべての段階について真実である。
【0041】
以下の例は、本発明を例示し、この範囲を限定することを意図しない。
例1:PNA−ペプチドハイブリッド
NLS PNA核輸送剤を用いた。DNA二重らせんに侵入することができるPNA配列を用いた(Nielson et al., 1991, Nielson, 米国特許第5,539,082号)。
ほとんどすべての発現ベクターのプラスミド主鎖において、PNAとの高親和性会合のために良好に適合された2つの配列を、アンピシリン耐性遺伝子および複製の起源中に配置した。
【0042】
ペプチド成分として、用いたペプチドは:
【数1】

(ペプチド1;配列番号1)、または
【数2】

(ペプチド2;配列番号2)
のいずれかを含む。
【0043】
以下のPNA配列は、各ペプチドのN末端に位置する。
【数3】

(配列番号3)、または
【数4】

(配列番号4)、または
C)平均発現ベクター中に約30個の結合部位を有するペプチド−PNAハイ
ブリッド配列
【数5】

(配列番号5)(5kb)(G=アミノ酸グリシン)。
【0044】
水に可溶化されたベクターDNA5μgを、10μlの25μM NLS−PNA中で10分間60℃でインキュベートした。次に反応混合物を、RPMIで250μlに調整した。
60〜80%コンフルエントである5×10個のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、5mMのEDTAで分離し、15mlのPBS(50×gで10分間遠心分離した)で洗浄した。ペレットを、250μlのRPMIで再懸濁させ、予めインキュベートしたDNAと混合し、エレクトロポレーションキュベット(ギャップ幅0.4cm)に移送し、室温で10分間インキュベートした。エレクトロポレーション(210V、975μF、バイオラッドジーンパルサー(BioRad Gene Pulser))の後、キュベットを、37℃でさらに10分間インキュベートし、その後細胞を、予め加温した培地中に播種した。
【0045】
実験の開始と分析との間に分裂しなかった細胞をトランスフェクトしたことを明白に示すために、細胞を、記載された方法によりpMACS4.1(ヒトCD4のための発現ベクター)でトランスフェクトし、細胞分裂を、以下のようにして評価した:トランスフェクションの前に、細胞を、1μMのカルボキシフルオレセイン二酢酸スクシンイミドエステル(CFDA,SE)(Molecular Probes, Eugene, U.S.A.)中でインキュベートすることにより緑色蛍光で標識した。細胞の明るさは、細胞分裂により50%まで減少した。フローサイトメーター(FACSCalibur)を用いて、分裂しなかった細胞(100%緑色蛍光)が、トランスフェクトされた遺伝子(Cy5に結合した抗CD4抗体で染色した後の暗赤色蛍光)を発現したことを、単細胞レベルで決定した。
【0046】
例2:PNA−NLSの在来のベクター配列への迅速な結合
PNA−ペプチドハイブリッドを、二重らせんDNAに結合させた。
在来のベクター配列を、PNAを介してほとんど定量的に(>90%)NLS−ペプチドで5分以内に標識することができる。PNAを介しての熱不安定成分の結合を達成するために、37℃での1時間のインキュベーションが、DNAのほとんどを標識するために十分である(表1)。
【0047】
100ngの発現ベクターを、25μMの異なるPNA−ペプチドハイブリッドを有するTE(pH7.8)中で、65℃または37℃のいずれかで5分〜3時間インキュベートした。ここで用いたPNA配列
【数6】

(配列番号6)は、アンピシリン耐性遺伝子のプロモーターに結合する。
【0048】
C末端において、21個のアミノ酸のペプチド(ペプチド1)または27個のアミノ酸のペプチド(ペプチド2)または27個のアミノ酸が続く10個のAEEAユニットのスペーサー(Fmoc-AEEA-OH Spacer, PerSeptive Biosystems, Inc., Framingham, USA)(ペプチド3)のいずれかを位置させた。その後、結合アッセイを、制限エンドヌクレアーゼEarIと共にインキュベートした。制限DNAを、YOYO(Molecular Probes, Inc., Eugene, OR, USA)で染色し、アガロースゲル上で分離し、蛍光スキャナー(Image Plate Reader FLA 2000, 分析ソフトウェアL−プロセス、バージョン1.6、富士写真フィルム社、東京)で定量した。制限エンドヌクレアーゼEarIによるDNAの開裂を、PNA結合部位において阻害した。追加のEarI制限部位は、反応の内部制御として作用する。
【0049】
【表1】

表1:投入DNAの百分率として示すペプチド標識DNAの部分
【0050】
PNAのDNAへの結合反応は、簡単、強固および迅速である。結合は、ほとんど不可逆的であり、従って細胞輸送プロセスに適する。タンパク質と比較して、ペプチドおよびPNAは、比較的安価に合成することができ、比較的容易に、および比較的長時間貯蔵することができる。
【0051】
例3:PNA−NLSを用いたトランスフェクション
細胞系を分割するにあたり、トランスフェクトしたDNAの活性核輸送は、輸送していないDNAと比較して、一層迅速な発現を誘発した。トランスフェクトしたDNAが、細胞質中で十分長時間生存する場合には、核輸送剤を有するかまたは有しない迅速に分裂する細胞中のトランスフェクトしたDNAの発現速度は、少しずつ近似しなければならない。この理由は、細胞質中に残留するトランスフェクトしたDNAが、細胞分裂中に核に到達することができるという事実である。アフィジコリンを用いて、細胞の分裂活性およびトランスフェクション能力を、強力に低下させることができる。活性核輸送は、低下したトランスフェクション効率のこの効果を消失させる。
【0052】
エレクトロポレーションのために、水に溶解した5μgの直線化ベクター−DNAを、25μMのPNA−NLS
【数7】

を有するかまたは有しない10μlの最終容積において、10分間65℃でインキュベートした。他の手順は、例1に記載した通りであった。
【0053】
リポフェクションのために、水に溶解した3μgのベクター−DNAを、25μMのPNA−NLS(ペプチド3)を有するかまたは有しない10μlの最終容積において、10分間65℃でインキュベートした。リポフェクタミン(Life Technologies GmbH, Karlsruhe)でのトランスフェクションを、製造者の指示に従って実施した。
CHO細胞の分裂をほぼ阻害するために、細胞を、血清なしで24時間インキュベートし、続いて血清および20μg/mlのアフィジコリン(Sigma-Aldrich Chemie GmbH, Deisenhofen)を用いて12時間インキュベートした。リポフェクションのすべてのその後の段階を、20μg/mlのアフィジコリンの存在下で実施した。トランスフェクションの結果を、図1に示す。
【0054】
ほとんどの発現ベクター中に存在する配列と結合した2つの電気的に中性のNLSは、トランスフェクションの直後にトランスフェクトされた細胞の百分率を2倍にすることができるが、数個の細胞が分裂するのみである。アフィジコリンを用いた細胞分裂速度の減少により生じたトランスフェクション効率の低下を、このようにして消失させることができる。
【0055】
例4:配列特異的結合NLS−融合タンパク質
大腸菌lacレプレッサーの高親和性結合突然変異体を、配列特異性DNA結合タンパク質として用いた。この突然変異体は、lacオペレーター配列について10−15Mの結合定数を有する(Kolkhof, 1992)。高い親和性は、セリン61のロイシンへのアミノ酸置換により達成される。
【0056】
ここで用いる核輸送タンパク質は、最後の30個のC末端アミノ酸(位置331〜360)の欠失および位置330におけるロイシンのセリンへの置換を有する。これらの突然変異タンパク質は、ホモ四量体の代わりにホモ二量体を形成し、従って2つの部位の代わりに1つの単一DNA結合部位を含む。しかしまた、四量体を、本発明の核輸送剤として用いることができる。
【0057】
二量体変種は各々、N末端において1つのNLSについて伸長された:
【数8】

【数9】

(NLS配列は、太字で示し、それぞれ配列番号8および配列番号9に対応する。配列
【数10】

は、前に特定した大腸菌lacレプレッサーを示す。)
【0058】
NLS1は、SV40ウィルス大T抗原のNLSに対応する。NLS2は、SV40−NLSから成る中性の正味電荷を有するハイブリッドおよびポリオーマウィルスVP−2タンパク質からのNLSのN末端側方領域を示す。
lacオペレーター配列は、多くの発現ベクター中に見出すことができ、PCRプライマーの拡張として任意の配列に容易に接合することができる。
【0059】
例5:NLSを含むlacレプレッサー突然変異体のDNA結合
以下のlac−オペレーター配列を、結合アッセイに用いた。
天然に存在するオペレーター:
【数11】

および完全にパリンドロームである(palindromic)のオペレーター配列:
【数12】

【0060】
長さ1kbの放射活性に標識したDNAフラグメント0.7ngを、長さ914bpおよび86bpのフラグメント中に制限ヌクレオチド鎖切断消化により開裂し、次に、それぞれ、lac−レプレッサーNLS−1−二量体またはNLS−2−二量体と共に室温で30分間インキュベートした。次に、フラグメントを、ポリアクリルアミドゲル上で分離した(図2)。lac−オペレーターを含む86bpフラグメントを、特異的結合により阻害する。非特異的結合の結果、lac−オペレーターを欠く914bp−フラグメントが阻害された。完全な特異的結合の場合において、非特異的結合は、ほとんど観察されなかった。
【0061】
さらなる実験は、安定な結合が、種々の条件を用いて、例えば細胞培養培地RPMI、150mMの塩化ナトリウムまたは10mMトリス/HCl(pH7.2)、10mMの塩化カリウムおよび3mMの酢酸マグネシウムから成る緩衝液において、両方の試験したオペレーター配列と共に達成されることを例証した。
【0062】
例6:lac−レプレッサー−NLSによるDNAの核輸送
約8μg(100pmol)のlac−レプレッサー−NLS−突然変異体を、長さ30bpの二重らせんDNA2μg(100pmol)と共にインキュベートし、両方の末端において蛍光染料Cy5で30分間室温で、10mMのトリス/HCl(pH7.2)、10mMのKCl、3mMの酢酸Mgおよび50μg/mlのBSAの合計容積300μl中で標識した。非結合DNAを、マイクロコンフィルター(Microcon-filter)(Amicon)を通しての遠心分離により分離した。次に、試料の緩衝液を、細胞注入緩衝液(76mMのKHPO、17mMのKHPO、14mMのNaHPO(pH7.2))に交換した。
【0063】
lac−レプレッサー突然変異体に結合したDNAおよびフルオレセイン標識したBSA(BSA−FITC)から成る混合物を、それぞれ50のNIH3T3細胞中に微量注入(microinjection)した(Femtotipsを有するEppendorf Transjektor 5246、直径0.5μm、注入の圧力55hPa、注入の時間0.5秒)。注入の10〜15分後に、細胞を、蛍光顕微鏡法により分析した(図3)。細胞質中への好首尾の注射に続いて、BSA−FITCは、細胞質中に独占的に存在する(1a、2aおよび3a)。lac−レプレッサー−NLS突然変異体への結合の結果、分析することができるほとんどすべての細胞において、細胞質中にDNAをほとんど残さずに、それぞれ15分以内(NLS1−二量体、2b)および10分以内(NLS2−二量体、3b)にDNAの核中への輸送が生じた。対照は、結合タンパク質を有しない標識したDNAが細胞質中に残留することを例証する(1b)。
【0064】
例7:lac−レプレッサー−NLSでのトランスフェクション
完全発現カセットおよび完全なパリンドロームであるlac−オペレーター配列が続くポリアデニル化配列を含む、長さ1.1kbの直線状DNA1μgを、50μlの等張0.5×RPMI(リポフェクションについて)または150mMNaCl(ポリエチレンイミンを用いたトランスフェクションについて)中で、30分間室温で、種々の濃度のlac−レプレッサータンパク質(それぞれ約2.5μg、0.3μgおよび0,15μgの二量体および5μg、0.6μgおよび0.3μgの四量体)と共にインキュベートした。試料を、リポフェクタミン(Life Technologies)またはポリエチレンイミン(PEI, ExGen 500, Fermentas)と、製造者の指示に従って複合させ、コンフルエントなNIH3T3細胞に加えた。結果を図4に示す。
【0065】
トランスフェクションの4時間後に決定されたトランスフェクション効率を、lac−レプレッサー−NLSにより、3〜4倍増大させることができる。ここに記載する例において、付着NIH3T3細胞を、トランスフェクションの前に集密的に培養し、細胞分裂の広範囲の阻害を生じさせた。トランスフェクションの4時間後、少数の細胞のみが分裂した。本例においていずれにしても限定された分裂速度が、トランスフェクションと関連するものとなった期間は、エンドサイトーシスにより取り込まれたトランスフェクトされたDNAが、これが発現されるべき核に輸送されることができる前に、エンドソームおよびその後陽イオン性トランスフェクション試薬との複合体を残さなければならないという事実により、さらに減少する。リポフェクタミン−DNA複合体は、おそらくポリエチレンイミンとのDNA複合体よりも顕著に長く存続し、リポフェクタミンを用いたlac−レプレッサー−NLSの比較的明らかでない効果を生じる。24時間後にほとんどの細胞が分裂した後、核輸送試薬を有するおよび有しないトランスフェクトされたDNAの発現速度は、次第に近似する。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】PNA−NLSを用いたトランスフェクションの結果を示す図である。
【図2】NLSを含むlacレプレッサー突然変異体のDNA結合の結果を示す図である。
【図3】lac−レプレッサー−NLSによるDNAの核輸送を示す細胞の蛍光顕微鏡による観察を示す図である。
【図4】lac−レプレッサー−NLSでのトランスフェクションの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核細胞の細胞質から核中に核酸を移動させるための核輸送剤において、2つのモジュールAおよびBから成り、モジュールAが、DNAに特異的に結合し、2つ以上のDNA分子を含む複合体の形成を導かず、モジュールBが、この電荷のために、核輸送剤のDNAへの非特異的結合を媒介しない伸長核局在シグナルを含む、核輸送剤。
【請求項2】
モジュールAが、配列をDNAと特異的に結合させる、請求項1に記載の核輸送剤。
【請求項3】
モジュールAが、DNA末端と特異的に結合する、請求項1に記載の核輸送剤。
【請求項4】
モジュールAが、ペプチド、タンパク質またはPNA(ペプチド核酸)である、請求項1〜3のいずれかに記載の核輸送剤。
【請求項5】
モジュールBが、ほぼ中性の正味電荷を有する伸長核局在シグナルを含む、請求項1に記載の核輸送剤。
【請求項6】
モジュールBが、核局在シグナルおよび側方の負に帯電したアミノ酸を含む伸長核局在シグナルを含む、請求項5に記載の核輸送剤。
【請求項7】
モジュールBが、核局在シグナルまたは伸長核局在シグナルに加えて、核局在シグナルに直接属さない追加のペプチド配列または非ペプチド成分を含む、請求項5〜6のいずれかに記載の核輸送剤。
【請求項8】
モジュールAがDNAと配列特異的な様式で結合するタンパク質であり、モジュールBが伸長されたNLSシグナルに加えて非NLSシグナルを含む、請求項1に記載の核輸送剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の核輸送剤および陽イオン性脂質、ペプチド、ポリアミンまたは陽イオン性重合体を含む、遺伝子輸送システム。
【請求項10】
DNAを真核細胞の核中に輸送する方法において、該細胞が、輸送されるべきDNAおよび請求項1〜8のいずれかに記載の核輸送剤でトランスフェクトされる、前記方法。
【請求項11】
真核細胞が、一次細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の核輸送剤を含む、医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の核輸送剤の、遺伝子治療のための医薬組成物の製造のための使用。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の核輸送剤の、癌、神経系の疾患、移植片拒絶反応および単一遺伝子または多遺伝子性遺伝性疾患の治療における遺伝子治療のための医薬組成物の製造のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−345867(P2006−345867A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203335(P2006−203335)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【分割の表示】特願2000−592436(P2000−592436)の分割
【原出願日】平成12年1月3日(2000.1.3)
【出願人】(503147734)アマクサ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (9)
【Fターム(参考)】