説明

核酸のトランスフェクション用のカチオン性脂質

本発明は、核酸と複合体を形成することができるカチオン性脂質、及び真核細胞のトランスフェクションのためのその使用に関する。本発明によるカチオン性脂質は一般式(I)及び(Ia)を有する:
[式中、
Eは、へテロアリールであり;R1及びR2は、H、-R7-NH2、-CH-NH-NH2、アルキルから選択され;R7は、アルキル、アルケニル、アリール、(C1-C20)アルキル-アリール-(C0-C20)アルキルから選択され;R3及びR4は、H、-R8-SH、-R8-NH-NH2、-R8-CO-R9又は-R8-NH2から選択され;R8は、アルキル、アルケニル、アリール、(C1-C20)アルキル-アリール-(C0-C20)アルキルから選択され;R9は、H、アルキルから選択され;R5及びR6は、H、アルキル、アルケニル、アリール、(C1-C20)アルキル-アリールから選択される]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸と複合体を形成し得るカチオン性脂質、及び真核細胞のトランスフェクションのためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスフェクションは、標的細胞中に外因性DNA分子を移入することからなる。一旦トランスフェクトされると、DNAは、所定の期間(一般には2〜3日)の間、多くの細胞によって細胞質中に維持される(一過性トランスフェクション)が、稀に細胞のゲノムに一体化される(安定的トランスフェクション)[この点の総説については、例えば:J. Gene Med. 2004, 6, S24-S35;Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 1448を参照]。この技法はまたRNAにも適用し得る。
【0003】
今や公知のように、細胞は、進化の過程の間に外因性DNAの侵入を妨害する機構(物理的障壁、例えば細胞膜、外来物質をすぐに根絶できる酵素カスケードに代表される細胞内防御系、など)が発達してきたので、天然にはDNAを取り込むことはできない。したがって、遺伝子移入に対する天然障壁を迂回するため、「化学的」ベクター(例えばリポソーム及びカチオン性脂質)、物理学的ベクター(例えばエレクトロポレーション及びマイクロインジェクション)及び「生物学的」ベクター(例えばウイルス)に基づく種々の方法が開発されてきた。
【0004】
トランスフェクションのための化学試薬の使用は、DEAE-デキストラン(DNAの負に荷電したリン酸基に強固に結合するカチオン性ポリマー)の発見に伴い、1965年に紹介された。これら大きなDNA含有粒子は、細胞の表面に付着し、エンドサイトーシスにより内在化される。技術的には単純であるが、この方法は、多くの細胞タイプについては然程効率的でなく、したがって精製されたDNA調製物のルーチンの生物学的活性アッセイについては然程信頼できない。
【0005】
カチオン性脂質(これは本来両親媒性分子である)は特に興味深い。この脂質化合物のカチオン性頭部は、核酸上の負に荷電したリン酸基と強固に結合する。脂質/DNA-RNA複合体は、細胞膜と組み合わさり、次いで融合し、そうして細胞中に内在化される。この方法は、多くの理由から、例えばDNAが種々の細胞タイプ中に効率的に放出されるので、非常に有利である。
【0006】
いくつかのグループが、チオール官能基で官能化したカチオン性脂質の使用を報告している。このカチオン性脂質は、DNA分子又はRNA分子と複合体化の後、中程度の酸化条件下(例えば、単純に大気中の酸素の存在下)でさえジスルフィド架橋の形成を生じて、DNA(又はRNA)ナノ粒子を安定化する[例えば、Behrら、J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 9227を参照]。一旦ナノ粒子が内在化されると、還元性の細胞内環境によりジスルフィド結合の切断が生じる結果、遺伝物質が放出される。更に、ジスルフィド結合は、細胞膜の貫通に寄与し、DNA/RNAの内在化を容易にするようである。
【0007】
しかし、依然として、良好な遺伝物質複合体化能及び内在化能を有し、加えて低い毒性により特徴付けられる新規分子について検索を継続する必要が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、本発明を、添付の図面にも言及しながら説明する。
図1は、PC3細胞におけるGFP発現のパーセンテージを種々のトランスフェクション剤の関数として示すグラフである。
したがって、第1の観点では、本発明は、式(I)の両親媒性化合物及びその医薬的に受容可能な塩に関する:
【0009】
【化1】

【0010】
式中、
Eは、トリアジン、ピリミジン、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、フラン、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チオフェン、キノリン、キノリジン、プリン、イソキノリン、インドール、インダゾール、イソインドール、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、フェナジン、カルバゾール、キサンテン、フタラジン、キノキサリン、プテリジン、プリン、アクリジン、フェナントロリン、フェナントリジンから選択されるへテロアリールであり;
【0011】
R1及びR2は、同一か又は異なってH、-R7-NH2、-CH-NH-NH2、1〜10の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキルから選択されるが、同時にはHに等しくないか、又はそれらが結合する窒素原子と一緒になって五員又は六員の複素環式環を形成してもよく;R7は、2〜10の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキル、3〜10の炭素原子及び1〜5の二重結合を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル、アリール、又は(C1-C20)アルキル-アリール-(C0-C20)アルキルから選択され;
【0012】
R3及びR4は、同一か又は異なってH、-R8-SH、-R8-NH-NH2、-R8-CO-R9又は-R8-NH2から選択されるが、同時にはHに等しくなく;
R8は、2〜10の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキル、3〜10の炭素原子及び1〜5の二重結合を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル、アリール、又は(C1-C20)アルキル-アリール-(C0-C20)アルキルから選択され;
R9は、H又は1〜10の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキルから選択され;
【0013】
R5及びR6は、同一か又は異なってH、6〜20の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキル、6〜20の炭素原子及び1〜10の二重結合を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル、アリール、(C1-C20)アルキル-アリールから選択されるが、同時にはHに等しくない。
【0014】
好ましくは、Eは、トリアジン、ピリミジン、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、フラン、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、インドール、イソキノリン、フタラジンから選択される。
より好ましくは、Eは、トリアジン、ピリミジン、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、フタラジンから選択される。
なおより好ましくは、Eはトリアジン又はピリミジンから選択される。
【0015】
好ましくは、R1及びR2は、H、-R7-NH2、1〜6の炭素原子を有する直鎖アルキルから選択されるか、又はそれらが結合する窒素原子と一緒になって1,4-ジアザシクロヘキサン、1,3-ジアザシクロヘキサン、1,2-ジアザシクロヘキサン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリンから選択される複素環を形成する。より好ましくは、R1及びR2は、H、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、-R7-NH2から選択されるか、又は1,4-ジアザシクロヘキサン、1,3-ジアザシクロヘキサン若しくは1,2-ジアザシクロヘキサンを形成する。なおより好ましくは、R1及びR2は、H、-R7-NH2、メチルであるか、又は1,4-ジアザシクロヘキサンを形成する。
【0016】
好ましくは、R7は、2〜6の炭素原子を有する直鎖アルキル、ベンジル、(C1-C5)アルキル-アリール-(C0-C6)アルキルである。より好ましくは、R7は、エチル、プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、ベンジル、フェニル、(C1-C5)アルキル-アリール-(C0-C3)アルキルである。なおより好ましくは、R7はプロピル、ベンジル又はフェニルである。
【0017】
好ましくは、R3及びR4はH、-R8-SH、-R8-NH2から選択される。より好ましくは、R3及びR4は、H又は-R8-SHである。
好ましくは、R8は、2〜6の炭素原子を有する直鎖アルキル、ベンジル、(C1-C5)アルキル-アリール-(C0-C6)アルキルである。より好ましくは、R8は、エチル、プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、ベンジル、フェニル、(C1-C5)アルキル-アリール-(C0-C3)アルキルである。なおより好ましくは、R8は、エチル、ベンジル又はフェニルである。
好ましくは、R9は、1〜4の炭素原子を有する直鎖アルキル又はHである。より好ましくは、R9は、メチル、エチル、プロピルである。なおより好ましくは、R9はメチル又はHである。
【0018】
好ましくは、R5及びR6は、H、6〜14の炭素原子を有する直鎖アルキル、(C1-C4)アルキル-アリール、ベンジルから選択される。より好ましくは、R5及びR6は、H、n-ヘキシル、n-テトラデカノイル、フェニルである。
【0019】
式(I)の化合物は、任意に、1又はそれ以上の両親媒性分子とカップリングして、式(Ia)の二量体を生じていてもよい:
【化2】

(式中、R1、R2、R4、R5及びR6は上記のとおりである)。
【0020】
二量体化は、式(I)の化合物を核酸と複合体化後に、生理学的pHにて、中程度の酸化環境中、例えば 大気中の酸素の存在下で起こり得る。
この場合、二量体化を担う基は、R4の-SH、-NH-NH2、-CO-及びNH2の官能性であり、これらは、別の式(I)の分子のそれぞれ-SH、-CHO、-NH2及び-CO-官能性と反応する。
【0021】
2つの-SH基の間の反応は-S-S-ジスルフィド結合の形成に至り;-NH-NH2と-CHOとの間の反応はヒドラゾン-NHN=CH-を生じ、-NH2と-CO-との間の反応はエナミン-NH-C=C-を生じる。一旦二量体(Ia)と核酸との間の複合体が細胞中に貫入すると、還元性の内部環境によりジスルフィド、ヒドラゾン又はエナミンの切断が生じる結果、複合体の不安定化及び遺伝物質の放出を生じる。
或いは、式(Ia)の化合物は、以下のスキーム1に記載されるように合成され、次いで核酸と複合体化されてもよい。
【0022】
本発明の好ましい化合物は:
2-[4-(3-アミノ-プロピルアミノ)-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオール;
2-[4-(3-アミノ-プロピルアミノ)-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオールのジスルフィド二量体;
2-[4-(2-N-ピペラジニル)-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオール;
2-[4-(2-N-ピペラジニル)-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオールのジスルフィド二量体;
2-[4-(2-アミノ-プロピルアミノ)-6-ベンジルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオール;
2-[4-(2-アミノ-プロピルアミノ)-6-ヘキシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオール;
N-(3-アミノ-プロピル)-N'',N''-ジメチル-N'-テトラデシル-ベンゼン-1,3,5-トリアミンである。
【0023】
生理学的pHにて、式(I)及び(Ia)の化合物のアミノ基はプロトン化するので、これらは、負に荷電した核酸を縮合し、複合体を形成し得る。この複合体はまた、核酸ナノ粒子としても知られる。
このようなナノ粒子は、前記で詳細に説明したように、細胞内部に貫入して遺伝物質を遊離し得る (トランスフェクション)。
【0024】
しかし、第2の観点では、本発明はまた、1又はそれ以上の式(I)又は(Ia)の化合物と縮合した1又はそれ以上の核酸を含んでなる、核酸での真核細胞のインビボ及びインビトロトランスフェクションのためのナノ粒子に関する。
核酸はDNA及び/又はRNAである。好ましくは、DNAは、治療上活性な分子、例えばタンパク質をコードするプラスミドである。
【0025】
インビトロで、本発明のナノ粒子でトランスフェクトされる真核細胞は、一般には、微生物、例えばE. coliである。一旦トランスフェクトされると、微生物は、生物学的興味対象の分子(例えばタンパク質)の生産のために、当該分野で公知の技法を使用して培養される。
本発明のナノ粒子は、遺伝子治療用の医薬の製造のためにインビボで使用され、哺乳動物に局所的(例えば、筋肉内又は皮下に)及び全身的に投与される。この目的のためには、治療有効量のナノ粒子を含んでなる医薬製剤も製造され得る。
【0026】
本発明はまた、予め準備され前処理され予めパッケージングされた原料、並びにインビトロ及びインビボのトランスフェクション用の関連する使い捨ての材料を含んでなる、ナノ粒子の製造のためのキットを提供する。
したがって、キットは、適切な遺伝物質、式(I)及び/又は(Ia)の化合物、ナノ粒子をインビトロ及びインビボで調製、精製、適用するに有用である適切な緩衝液その他の試薬及び/又は材料を含んでなる。
【0027】
真核細胞のトランスフェクション用のナノ粒子は、核酸を式(I)の化合物と生理学的pHの適切な緩衝液中で複合体:式(I)の化合物/核酸の形成に必要な時間混合することにより製造される。環境が中程度に酸化性、例えば大気中の酸素の存在下である場合、核酸の複合体化の後、式(I)の化合物は二量体化してもよい。或いは、既に二量体形態である式(Ia)の化合物を使用してもよい。既に上記で説明したように、一旦ナノ粒子が内在化されると、還元性の細胞内環境により、二量体の切断が導かれ、結果的に複合体の不安定化及び遺伝物質の遊離が導かれる。
【0028】
式(I)及び(Ia)の化合物は、市販の試薬から出発して、以下のスキーム1に説明する合成手順に従って製造された。いずれにしても、これらは、本発明の範囲を逸脱することなく、任意の他の様式で、例えば固相合成技法を使用して合成されてもよい。
【0029】
【化3】

【0030】
スキーム1に示されるように、式(I)の化合物は、市販の出発材料(30)及び(31)から出発して、3つの連続する芳香族求核性置換反応(i)、(ii)及び(iii)、並びに酸処理を含む最終工程(iv)により合成される。
【0031】
詳細には、0℃〜10℃、好ましくは約0℃の温度の適切な溶媒混合物中、例えば水とアセトン、THF(テトラヒドロフラン)、ベンゼン、ジオキサン、トルエン、アセトニトリル、好ましくは水とアセトン、THF又はベンゼン中の(30)の懸濁液に、適切な有機溶媒中、例えばアセトン、THF(テトラヒドロフラン)、ベンゼン、ジオキサン、トルエン、アセトニトリル、好ましくはアセトン、THF又はベンゼン中のアミン(31)の溶液を滴下して加える。
【0032】
次いで、無機塩基、例えばNaHCO3、NaOH、Na2CO3、好ましくはNaHCO3の水溶液を滴下して加える。得られた混合物を1〜24時間、好ましくは2〜12時間、好ましくは室温にて撹拌しながら放置する。
次いで、反応中間体(32)を当該分野において公知の任意の技法により、例えば有機溶媒中での抽出及び続くクロマトグラフィーカラムを用いる精製により精製する。
【0033】
精製後、中間体(32)を、0℃〜10℃、好ましくは約0℃の温度の溶媒混合物中、例えば水とアセトン、THF(テトラヒドロフラン)、ベンゼン、ジオキサン、トルエン、アセトニトリル、好ましくは水とアセトン、THF又はベンゼン中に懸濁する。次いで、この(32)の懸濁液に、適切な有機溶媒中、例えばアセトン、THF(テトラヒドロフラン)、ベンゼン、ジオキサン、トルエン、アセトニトリル、好ましくはアセトン、THF又はベンゼン中の(33)の溶液を滴下して加える。
【0034】
次いで、無機塩基、例えばNaHCO3、NaOH、Na2CO3、好ましくはNaHCO3の水溶液を滴下して加える。得られた混合物を、1〜24時間、好ましくは2〜12時間、25℃〜70℃、好ましくは約50℃の温度にて撹拌しながら放置する。
次いで、反応中間体(34)を当該分野において公知の任意の技法により、例えば有機溶媒中での抽出及び続くクロマトグラフィーカラムを用いる精製により精製する。
【0035】
スキーム1において、記号「PG」は「保護基」を意味する。R1及びR2が-R7-NH2、-CH-NH-NH2であるか、又はそれらが結合する窒素と一緒になって第2の窒素原子を含有する複素環式六員環を形成するとき、該複素環式環の第1級アミンとグアニジンと第2級アミンの1つは、工程(ii)の芳香族求核性置換の前に保護されなければならない。本発明において使用される保護基は、アミン及びグアニジンの保護用に当該領域で公知のものである。保護基は、例えば、tert-ブトキシカルボニル(Boc)基、カルボベンジルオキシ(Cbz)基から選択される。
【0036】
精製後、中間体(34)を、適切な有機溶媒中、例えばベンゼン、THF(テトラヒドロフラン)、ジオキサン、トルエン、アセトニトリル、好ましくはベンゼン又はTHF中に溶解する。この溶液に、化合物(35)を塩基、例えばDIPEA(ジイソプロピルエチルアミン)、トリエチルアミン、ピリジン、好ましくはDIPEAと共に加える。好ましくは、化合物(35)の塩酸塩、臭化水素酸塩又はヨウ化水素酸塩をこの反応に使用する。より好ましくは、(35)の塩酸塩。
【0037】
次いで、得られた混合物を、50℃〜150℃、好ましくは約120℃の温度にて、反応が完了するに必要な時間撹拌する。好ましくは、この反応は、揺動シェイカー中に配置された密栓バイアル中で行う。
次いで、三置換誘導体(trisubstitution derivative)(36)を当該分野において公知の任意の技法により、例えば有機溶媒中での抽出及び続くクロマトグラフィーカラムを用いる精製により精製する。
【0038】
中間体(36)を有機溶媒中、好ましくはジクロロメタン中に溶解し、同じ溶媒中の有機酸溶液を加える。使用する酸溶液は、好ましくは、ジクロロメタン中の20%トリフルオロ酢酸である。この混合物を、0.5〜3時間、好ましくは約1時間撹拌し続ける。次いで、溶媒を蒸発させ、生成物(I)を前記酸の塩として単離する。
【0039】
或いは、中間体(34)を化合物(37)(式中、R4は-R8-SH、-RS-NH-NH2、-R8-CO-R9又は-R8-NH2であり、R8及びR9は上記のとおりである)と反応させることにより、二量体(Ia)を得てもよい。この反応は、有機溶媒中、好ましくはアセトン中、(37)に関して過剰の(34)で、好ましくは(34)の塩酸塩、臭化水素酸塩又はヨウ化水素酸塩を用いて行う。
【0040】
その後、中間体(38)を、当該分野において公知の技法により、好ましくはカラムクロマトグラフィーにより精製し、次いで工程(iv)について上記したように酸処理に付する。二量体(Ia)を当該酸の塩として単離する。
【0041】
以下に、本発明の化合物の製造の幾つかの例を、非限定的な代表例として説明する。
【0042】
実験の部
TLCは、メルクシリカゲル(Merck silica gel)60 F254を使用して行う;フラッシュクロマトグラフィーは、シリカゲル60(60〜200μm、Merck)のカラムを使用して行われた。1H、13C及び19Fのスペクトルは、それぞれ400MHz及び250MHzで動作するBruker ARX 400又はBruker Ac 250L分光計で記録した。化学シフトは、1H及び13C原子核(δH=0.00)については内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を使用してppm(δ)で表す。一方、C6F6は、19F(δF=162.90)についての内部標準として使用した。質量スペクトルは、TSQ四重極質量分析計で記録した。赤外スペクトルは、パーキンエルマーシステム(Perkin Elmer System)2000 FT-IR(走査領域:15600cm-1;組合せ走査方向(combined scanning directions))を使用して獲得した。
【0043】
【化4】

【0044】
第1の芳香族求核性置換。一般手順。アセトン中のアミン(1.0mmol)溶液を、冷水(0℃、1ml)中のアセトン(4ml)中の2,4,6-トリクロロ-[1,3,5]トリアジン(1)(1mmol、184mg)の懸濁液に滴下して加える。その後、水(2ml)中のNaHCO3(1mmol、84mg)溶液を滴下して加え、反応物を室温にて2〜12時間の間で変化する時間撹拌しながら放置する。反応の進行をTLC(n-ヘキサン/酢酸エチル 9:1〜7:3)によりモニターし、アセトンを減圧下で除去し、水(1ml)を加え、有機相を酢酸エチル(3×1ml)及びクロロホルム(2×5ml)で抽出する。合わせた抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去し、粗製化合物をn-ヘキサン/酢酸エチルにおけるフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、第1の中間体を得る。
【0045】
【化5】

【0046】
(a)(4,6-ジクロロ-[1,3,5]トリアジン-2-イル)-テトラデシル-アミン(2)の合成。
試薬として1-テトラデシルアミン(213mg)を使用し、2時間反応させ、反応の進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 9:1を用いてモニターする。粗生成物を同じ溶媒混合物中で精製し、(2)を67%の収率(85%変換)で得る;RF = 0.35。
【0047】
【化6】

【0048】
(b)(4,6-ジクロロ-[1,3,5]トリアジン-2-イル)-ベンジル-アミン(3)の合成。試薬としてベンジルアミン(107mg)を使用し、10時間反応させ、反応の進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 8:2を使用してモニターする。粗生成物を同じ溶媒混合物中で精製し、(3)を78%の収率で得る。
【0049】
【化7】

【0050】
(c)(4,6-ジクロロ-[1,3,5]トリアジン-2-イル)-ヘキシル-アミン(4)の合成。試薬としてn-ヘキシルアミン(101mg)を使用し、12時間反応させ、その進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 9:1を使用してモニターする。粗生成物を同じ溶媒混合物中で精製し、(4)を86%の収率で得る。
【0051】
第2の芳香族求核性置換。一般手順。アセトン中のN-Bocモノ保護ジアミン(0.4mmol)溶液を、水(0℃、4ml)及びアセトン(1.5ml)中の(2)〜(4)(0.4 mmol)の懸濁液に滴下して加える。水(2.5ml)中のNaHCO3(0.4mmol、34mg)溶液を滴下して加え、反応物を、50℃にて2〜12時間の間で変化する時間、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら放置する。反応の進行をTLC(n-ヘキサン/酢酸エチル)によりモニターし、アセトンを減圧下で除去し、水(1ml)を加え、有機相を酢酸エチル(3×5ml)及びクロロホルム(2×2.5 ml)で抽出する。合わせた抽出物を硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で蒸発させ、粗製反応生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製する。
【0052】
【化8】

【0053】
(a)[3-(4-クロロ-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ)-プロピル]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(5)の合成。カルバミン酸の(3-アミノ-プロピル)-tert-ブチルエステル(70mg)の溶液から出発して、反応混合物を2時間マグネチックスターラーを使用して撹拌しながら放置し、その進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 7:3によりモニターする。粗生成物をn-ヘキサン/酢酸エチル 7:3中、最終画分については純粋な酢酸エチル中で精製して(5)を97%の収率で得る:RF = 0.35。
【0054】
【化9】

【0055】
(b)[3-(4-クロロ-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イル-ピペラジニル)]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(6)の合成。tert-ブチル ピペラジン-1-カルボキシレート(74mg)の溶液から出発して、反応混合物を2時間マグネチックスターラーを使用して撹拌しながら放置し、その進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 7:3によりモニターする。残存物をn-ヘキサン/酢酸エチル 7:3中で、最終画分については純粋な酢酸エチル中で精製して(6)を45%の収率で得る; RF = 0.35。
【0056】
【化10】

【0057】
(c)[3-(4-クロロ-6-ベンジルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ)-プロピル]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(7)の合成。カルバミン酸の(3-アミノ-プロピル)-tert-ブチルエステル(70mg)の溶液から出発して、反応混合物を24時間マグネチックスターラーを使用して撹拌しながら放置し、その進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 8:2によりモニターする。粗生成物をn-ヘキサン/酢酸エチル 7:3中で精製し、(7)を96%の収率で得る;RF = 0.35。
【0058】
【化11】

【0059】
(d)[3-(4-クロロ-6-ヘキシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ)-プロピル]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(8)の合成。カルバミン酸の(3-アミノ-プロピル)-tert-ブチルエステル(70mg)の溶液から出発して、反応混合物を24時間マグネチックスターラーを使用して撹拌しながら放置し、その進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 7:3によりモニターする。粗生成物を同じ溶出剤混合物を使用して精製し、(8)を90%の収率で得る;RF = 0.35。
【0060】
第3の求核性置換一般手順。ベンゼン(3ml)中の6-クロロ-2,4-ジアミノ-トリアジン誘導体(0.40mmol)溶液をバイアル中に入れる。アミン塩酸塩(0.80mmol)及びDIPEA(2.0mmol、258μl)を室温にて加える。バイアルを密栓し、120℃の揺動シェイカー中に入れる。TLC(n-ヘキサン/酢酸エチル)による検査の後、混合物を減圧下で残留物が得られるまで蒸発させる。残留物が、フラッシュクロマトグラフィーによる精製後、三置換誘導体の単離を可能にする。
【0061】
【化12】

【0062】
(a)[3-[4-(2-メルカプト-エチルアミン)-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2- イルアミノ]-プロピル]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(9)の合成。
24時間混合した(5)(200mg)及び2-アミノ-エタンチオール塩酸塩(180mg)の溶液から、進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 1:1中でモニターし、酢酸エチル/メタノール 7:3中でクロマトグラフィーに付して、(9)を65%の収率で単離する; RF = 0.35。
【0063】
【化13】

【0064】
(b)ジスルフィド(10)の合成。24時間混合した(5)(200mg)及び2-(2-アミノ-エチルジスルファニル)-エチルアミン塩酸塩(90mg)又は対応するヨウ化水素酸塩(163mg)の溶液から、進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 1:1中でモニターし、酢酸エチル/メタノール 7:3中でクロマトグラフィーに付して、二量体(10)を10%の収率で単離する;RF = 0.35。
【0065】
【化14】

【0066】
(c)[3-[4-(2-メルカプト-エチルアミン)-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イル-ピペラジニル]]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(11)の合成。
24時間混合した(6)(204mg)の溶液から、進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 1:1中でモニターし、n-ヘキサン/酢酸エチル 1:1 + 酢酸エチル/メタノール 7:3中でクロマトグラフィーに付して、(11)を透明な油として61%の収率で単離し;RF = 0.35 (n-ヘキサン/酢酸エチル 1:1)、対応するジスルフィド(12)を黄色油として8%の収率で単離する;RF = 0.25 (n-ヘキサン/酢酸エチル 1:1)。
【0067】
【化15】

【0068】
(d)[3-[4-(2-メルカプト-エチルアミン)-6-ベンジルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-プロピル]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(13)の合成。12時間後の(7)(157mg)の溶液から、進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 4:6中でモニターし、n-ヘキサン/酢酸エチル 1:1中でクロマトグラフィーに付して、(13)を透明な油として60%の収率で単離する;RF = 0.35 (n-ヘキサン/酢酸エチル 1:1)。
【0069】
【化16】

【0070】
(e)[3-[4-(2-メルカプト-エチルアミン)-6-ヘキシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-プロピル]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(14)の合成。24時間後の(8)(155mg)の溶液から、進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 4:6中でモニターし、クロロホルム/メタノール 97:3中でクロマトグラフィーに付して、(14)を透明な油として79%の収率で単離する;RF = 0.35 (n-ヘキサン/酢酸エチル 4:6)。
【0071】
【化17】

【0072】
(f)[3-(4-ジメチルアミノ-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ)-プロピル]カルバミン酸のtert-ブチルエステル(15)の合成。24時間後の(5)(1.0mmol、500mg)及びジメチルアミン塩酸塩(50mg)の溶液から、進行をn-ヘキサン/酢酸エチル 3:7中でモニターし、同じ溶剤混合物中でクロマトグラフィーに付して、純粋な(15)を45%の収率で単離する;RF = 0.35。
【0073】
最終化合物の単離及び特徴付け。
方法A。一般手順。塩化メチレン(10ml)中の20%トリフルオロ酢酸溶液を、同じ溶媒(10ml)中のtert-ブチルカルバメート(9)〜(15)(0.16mmol)溶液に加え、室温にて1時間マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら反応を維持する。溶媒を減圧下で蒸発させて最終化合物をトリフルオロ酢酸塩として得る。
【0074】
【化18】

【0075】
(a)2-[4-(2-アミノ-プロピルアミノ)-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオールのトリフルオロ酢酸塩(16)の合成。
(9)(70mg)の溶液から出発して、化合物(16)を98%の収率で得る:1H NMR (D2O), δ: 3.65 + 3.55 + 3.43 (2H, m), 3.43 (2H, m), 3.31 (2H, m), 3.05 (2H, br t), 2.92 + 2.81 + 2.65 (2H, br s), 1.95 (2H, br t), 1.55 (2H, m), 1.75 - 1.20 (22H, br m), 0.85 (3H, br t, Me);1H NMR (MeOD), δ: 3.73 + 3.62 (2H, br t, J = 6.7 Hz), 3.52 (2H, br t, J = 6.2 Hz), 3.39 (2H, m), 3.03 (2H, br t, J = 7.4 Hz), 2.97 + 2.88 + 2.73 (2H, br t, J = 6.9 Hz), 1.98 (2H, br t, J = 7.4 及び 6.7 Hz), 1.60 (2H, m), 1.45 - 1.20 (22H, br m), 0.88 (3H, br t, J = 6.7 Hz, Me);1H NMR (DMSO-d6), δ: 8.4 - 8.0 (3H, br m, NH3), 7.9 - 7.5 (3H, br m, 3 x NH), 3.58 + 3.45 (2H, br t, J = 6.7 Hz), 3.30 (4H, br m), 2.82 (4H, br m), 1.80 (2H, br m), 1.45 (2H, br m), 1.35 - 1.15 (22H, br m), 0.84 (3H, br t, Me);19F NMR (DMSO-d6), δ: -74.05 (s, 3F);13C NMR (DMSO-d6), δ: 169.9 (CO), 158.8, 114.0, 55.8, 36.9, 36.8, 36.3, 36.2, 31.2, 28.9, 28.6, 26.6, 26.1, 22.0, 13.8; IR (顕微鏡): cm-1 3289 (s), 2926 (ss), 2855 (m), 1681 (SS), 1633 (SS), 1435 (m), 1338 (m), 1203 (m), 1139 (m), 1029 (m), 840 (m), 800 (m), 787 (m), 724 (m);Mass (EI, m/z, %): 438 (M+ + 1, 100), 409 (94), 349 (90), 335 (25), 323 (20), 297 (10), 255 (12), 227 (14), 153 (26), 111 (23), 55 (98)。
【0076】
【化19】

【0077】
(b)ジスルフィド(17)の合成。(10)(140mg)の溶液から出発して、化合物(17)を98%の収率で得る:RF = 0.35 (酢酸エチル/メタノール 1:1);1H NMR (CDCl3), δ: 6.0 - 4.0 (8H, ブロードシグナル, 8 x NH), 3.75 - 3.55 (4H, m, CH2), 3.50 - 3.30 (4H, m), 3.30 - 3.20 (4H, m), 3.05 - 2.80 (4H, m), 2.85 - 2.70 (4H, m), 1.75 - 1.60 (4H, m), 1.58 - 1.45 (4H, m), 1.38 - 1.17 (44H, br m), 0.88 (6H, t, J= 6.0 Hz, 2 x Me); Mass (EI, m/z, %):877 (M+ + 1, 12), 480 (8), 440 (80), 409 (100), 349 (68), 227 (50), 153 (38), 57 (18), 43 (15)。
【0078】
【化20】

【0079】
(c)2-[4-(2-N-ピペラジニル)-6-テトラデシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオールのトリフルオロ酢酸塩(18)の合成。(11)(74mg)の溶液から出発して、化合物(18)を98%の収率で得る:1H NMR (CD3OD), δ: 4.80 (4H, br m), 3.61 (2H, dt, J = 12.0及び6.0 Hz), 3.40 (2H, dt, J = 12.0及び6.5 Hz), 3.25 (4H, br m), 2.66 + 2.84 (2H, br t, J = 6.0 Hz), 1.61 (2H, br m), 1.40 - 1.20 (22H, br m), 0.84 (3H, br t, J = 6.2 Hz, Me); 19F NMR (CD3OD), δ: 74.23 (s, 3F, CF3); 13C NMR (CD3OD), δ: 164.4, 164.1, 163.8, 157.8 (CO), 118.3, 58.2, 46.0, 44.5, 42.2, 34.0, 32.2, 32.1, 32.0, 31.9, 31.8, 31.7, 31.6, 31.4, 30.8, 28.4, 25.0, 24.8, 14.8;Mass (EI, Itl/z, %): 568 (M+ + 1, 20), 452 (34), 383 (90), 323 (15), 282 (5), 213 (2), 179 (4), 95 (20), 69 (83), 45 (100)。
【0080】
【化21】

【0081】
(e)対応する二量体化合物(19)の合成。(12)(150mg)の溶液から出発して、化合物(19)を90%の収率で得る:1H NMR (CD3OD), δ: 4.15 (8H, br m), 3.78 (4H, t, J = 6.0 Hz), 3.40 (4H, dt, J = 6.5 Hz), 3.30 (8H, br m), 2.92 (4H, br t, J = 6.0 Hz), 1.61 (4H, br m), 1.40 - 1.20 (44H, br m), 0.90 (6H, br t, J = 6.2 Hz, 2 x Me); Mass (EI, m/z, %): 832 (240), 452 (30), 383 (100), 323 (15), 69 (18), 43 (45)。
【0082】
【化22】

【0083】
(e)2-[4-(2-アミノ-プロピルアミノ)-6-ベンジルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオールのトリフルオロ酢酸塩(20)の合成。
(13)(70mg)の溶液から出発して、化合物(20)を93%の収率で得る:1H NMR (D2O), δ: 7.4 - 7.1 (5H, brs, Ph), 4.61 (2H, m), 3.53 (2H, br m), 3.49 (2H, br m), 3.00 (2H, m, NH), 2.85 (2H, br m), 1.95 (2H, br m), 1.55 (2H, m) ; 13C NMR (CD3OD), δ: 164.9, 162.0, 161.2, 157.0 (q, COCF3), 130.0, 128.0, 117.1 (q, COCF3), 57.0, 46.0, 45.0, 42.0, 38.2, 31.5; Mass (EI, m/z, %): 334 (M+ + 1, 40), 317 (14), 303 (20), 290 (10), 257 (12), 230 (8), 115 (16), 91 (43), 69 (98), 45 (100)。
【0084】
【化23】

【0085】
(f)2-[4-(2-アミノ-プロピルアミノ)-6-ヘキシルアミノ-[1,3,5]トリアジン-2-イルアミノ]-エタンチオールのトリフルオロ酢酸塩(21)の合成。
(14)(68mg)の溶液から出発して、化合物(21)を92%の収率で得る:1H NMR (D2O), δ: 3.78 (2H, m), 3.52 (2H, br m), 3.42 (2H, br m), 3.05 (2H, NH), 2.92 (2H, br m), 1.98 (2H, br m), 1.62 (2H, m), 1.32 (6H, m), 0.9 (3H, m, Me); 13C NMR (CD3OD), δ: 165.0, 162.0, 161.3, 157.1 (q, COCF3), 117.3 (q, COCF3), 42.0, 41.3, 38.6, 38.1, 32.5, 30.0, 28.5, 28.2, 28.1, 23.6, 14.2; Mass (EI, m/z, %): 326 (M+ + 1, 100), 284 (22), 251 (21), 237 (38), 224 (16), 95 (16), 69 (85), 45 (20)。
【0086】
【化24】

【0087】
(g)N-(3-アミノ-プロピル) -N'',N''-ジメチル-N'-テトラデシル-ベンゼン-1,3,5-トリアミンのトリフルオロ酢酸(22)の合成。(15)(81mg)の溶液から出発して、化合物(22)を得る:RF = 0.35 (n-ヘキサン/酢酸エチル 1:9);1H NMR (CDCl3), δ: 5.10 (1H, br S, NH), 4.90 (1H, br S, NH), 6.25 (1H, ブロードシグナル, NH), 3.45 (2H, dt, J = 6.0及び5.8 Hz, CH2), 3.33 (2H, m, J = 6.6及び6.0 Hz, CH2), 3.08 (6H, br s, 2 x Me), 2.78 2H, t, J = 6.6 Hz, CH2), 2,18 (2H, ブロードシグナル, NH2), 1.67 (2H, dt, J = 6.6及び6.4 Hz CH2), 1.52 (2H, m, CH2), 1.40 - 1.15 (22H, br m, 11 x CH2), 0.86 (3H, t, J = 6.6 Hz, Me)。
【0088】
細胞株培養トランスフェクション試験。
方法
グリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を含有するプラスミドベクターpEGFP-N1 (BD Biosciences)を、トランスフェクション試験に使用した。その性質に起因して、GFPは「受動」遺伝子発現をモニターするために有用なツールである:事実、この特別な系における蛍光検出は、細胞蛍光測定法又は顕微鏡観察により行われる。
【0089】
トランスフェクション試験は、細胞株PC3(ヒトアンドロゲン非依存性前立腺ガン腫)について、プラスミドpEGFP-N1を2.5μg及び5μgに等しい量で使用して行う。一般的な実験概要は、血清減少培養培地(reduced-serum culture medium)中、抗生物質の非存在下での4時間のトランスフェクションとされる。トランスフェクションの完了に際して、培養培地を通常の増殖培地と交換し、GFP発現の評価は、48時間後に細胞蛍光測定法により行う。
【0090】
結果
本研究の第1の段階で、本発明者らは、化合物(16)がPC3細胞のトランスフェクションを誘導する能力を立証することを望んだ。詳細には、本発明者らは、2.5μg及び5μgのpEGFP-N1プラスミドDNAの存在下で、3つの異なるチャージ比(charge ratio)(CR 1.5、3、6)を試験した。トランスフェクションの48時間後にフローサイトメトリーにより行ったGFP発現の評価は、無処理細胞(コントロール)及びプラスミド単独に曝露した細胞に対して、GFP陽性細胞(生存細胞及び合計細胞の両方共)の有意なパーセンテージの存在を明らかにした。パーセンテージは、有意な細胞毒性なしで、使用したプラスミドのチャージ比及び量の両方の関数として増加した(表1)。続いて、低い毒性を伴うトランスフェクト細胞の最高パーセンテージがチャージ比CR=6で得られたことを考慮すれば、本発明者らは、(16)の誘導体(化合物(22)、(17)、(18)、(20)、(21)、(19))がPC3細胞をトランスフェクトする能力を立証した。得られた結果は、化合物(17)((16)の二量体)がPC3細胞のトランスフェクションを誘導し得ることを明らかにした。しかし、(16)と比較すると、化合物(17)は、使用したプラスミドの量に依存して、より大きな毒性を示した(表2)。事実、pEGFP-N1の最低容量では、(等しい量のプラスミドを用いて)(16)で得られたパーセンテージと比較してより高いパーセンテージのトランスフェクト細胞が得られるが、最高用量では、生存トランスフェクト細胞のパーセンテージは(パラレルではないが)有意に減少し、増大した毒性が観察された(表1及び2)。しかし、興味深いことに、トランスフェクト細胞の合計のパーセンテージはプラスミドDNAの量の関数として増加したことが指摘される。反対に、化合物(22)(これは、同一の実験条件下で、化合物(17)での処理後に観察される毒性を同じパーセンテージで誘導した)は、PC3細胞の有意なトランスフェクションを誘導することができなかった(表2)。
【0091】
5μgのpEGFP-N1の存在下で行ったPC3細胞のトランスフェクションは、以下の4つの化合物:(18)、(19)、(20)及び(21)のいずれでも、GFPタンパク質を発現する生存細胞を有意なパーセンテージで得ることができなかったという事実を明らかにした。更に、過剰レベルの毒性を示さなかった化合物(20)を除いて、その他の3つの誘導体は、(16)、(22)及び(17)に関して有意により大きな細胞死亡率を引き起こした(表2)。
【0092】
一旦化合物(16)及び(17)のトランスフェクション効率が確立されると、本発明者らは、市販のカチオン性脂質であり、同様な実験で既に広く用いられているLipofectamine 2000 (Invitrogen)及びDOTAP (Roche)のトランスフェクション能力に関して2つの化合物の比較評価を行った。DOTAP及びLipofectamine 2000は、各製造業者により提供された指示書に従って使用した。
【0093】
得られた結果(表3、グラフ1)は、等量のプラスミドDNAの使用について、化合物(17)は、それ自体で、両方のプラスミド量にて、Lipofectamine 2000のものに匹敵する(しかし、より少ない程度の毒性で)トランスフェクション効率を誘導することができることが示された(表3)。一方、化合物(16)は、より高量のプラスミドDNAの存在下でのみ、Lipofectamine 2000のものに匹敵するトランスフェクション効率を誘導することができる(グラフ1;表3)。したがって、本発明者らは、DOTAPに関する化合物(16)及び(17)のトランスフェクション効率を評価した。表3及びグラフ1で報告したように、得られたデータは、DOTAPが、毒性は少ないが、試験した両方のプラスミドDNA量で、この2つの化合物に関して、より低いパーセンテージのトランスフェクションを与えることを明らかにした。
【0094】
最後に、表4は、チャージ比CR=6で(16)/pEGFP-N1複合体(5μg)の存在下での正常ヒト甲状腺細胞(636株)及び形質転換ヒト肝臓細胞(293株)のトランスフェクションから得られた予備データを示す。
【0095】
表1−種々の(16)/pEGFP-N1 チャージ比の関数としてのGFPを発現するPC3細胞のパーセンテージ。
【表1】

(*)コントロール(無処理細胞)に関するパーセンテージとして表されたデータ;(**)合計10,000イベントを超えるフローサイトメトリーにより評価した、GFPを発現する細胞のパーセンテージ。
【0096】
表2−一定のチャージ比(CR=6)での(16)の誘導体によるトランスフェクション後にGFPを発現するPC3細胞のパーセンテージ。
【表2】

(*)コントロール(無処理細胞)に関するパーセンテージとして表されたデータ;(**)合計10,000イベントを超えるフローサイトメトリーにより評価した、GFPを発現する細胞のパーセンテージ。
【0097】
表3−種々のトランスフェクション剤の関数としてのPC3細胞トランスフェクション効率の比較。
【表3】

(*)少なくとも3つの独立実験から得られたコントロール(無処理細胞)に関する平均パーセンテージとして表されたデータ;(**)少なくとも3つの独立実験から得られた、合計10,000イベントを超えるフローサイトメトリーにより評価した、GFPを発現する細胞のパーセンテージ。
【0098】
表4−チャージ比CR=6での(16)によるトランスフェクション後にGFPを発現する細胞のパーセンテージ。
【表4】

(*)コントロール(無処理細胞)に関するパーセンテージとして表されたデータ;(**)合計10,000イベントを超えるフローサイトメトリーにより評価した、GFPを発現する細胞のパーセンテージ。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、
Eは、トリアジン、ピリミジン、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、フラン、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チオフェン、キノリン、キノリジン、プリン、イソキノリン、インドール、インダゾール、イソインドール、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、フェナジン、カルバゾール、キサンテン、フタラジン、キノキサリン、プテリジン、プリン、アクリジン、フェナントロリン、フェナントリジンから選択されるへテロアリールであり;
R1及びR2は、同一か若しくは異なってH、-R7-NH2、-CH-NH-NH2、1〜10の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキルから選択されるが、同時にはHに等しくなく、又はそれらが結合する窒素原子と一緒になって五員若しくは六員の複素環式環を形成してもよく、R7は、2〜10の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキル、3〜10の炭素原子及び1〜5の二重結合を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル、アリール又は(C1-C20)アルキル-アリール-(C0-C20)アルキルから選択され;
R3及びR4は、同一か又は異なってH、-R8-SH、-R8-NH-NH2、-R8-CO-R9又は-R8-NH2から選択されるが、同時にはHに等しくなく、R8は、2〜10の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキル、3〜10の炭素原子及び1〜5の二重結合を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル、アリール又は(C1-C20)アルキル-アリール-(C0-C20)アルキルから選択され;R9は、H又は1〜10の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキルから選択され;
R5及びR6は、同一か又は異なってH、6〜20の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルキル、6〜20の炭素原子及び1〜10の二重結合を有する直鎖若しくは分枝鎖のアルケニル、アリール又は(C1-C20)アルキル-アリールから選択されるが、同時にはHに等しくない]
の化合物及びその医薬的に受容可能な塩。
【請求項2】
Eが、トリアジン、ピリミジン、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、フラン、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、インドール、イソキノリン、フタラジンから選択される請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Eが、トリアジン、ピリミジン、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、フタラジンから選択される請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
Eがトリアジン又はピリミジンである請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
R1及びR2が、H、-R7-NH2、1〜6の炭素原子を有する直鎖アルキルから選択されるか、又はそれらが結合する窒素原子と一緒になって1,4-ジアザシクロヘキサン、1,3-ジアザシクロヘキサン、1,2-ジアザシクロヘキサン、ピペリジン、ピロリジン、モルホリンから選択される複素環を形成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
R1及びR2が、H、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、-R7-NH2から選択されるか、又はそれらが結合する窒素と一緒になって1,4-ジアザシクロヘキサン、1,3-ジアザシクロヘキサン若しくは1,2-ジアザシクロヘキサンを形成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
R1及びR2が、H、-R7-NH2、メチルから選択されるか、又はそれらが結合する窒素と一緒になって1,4-ジアザシクロヘキサンを形成する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
R7が、2〜6の炭素原子を有する直鎖アルキル、ベンジル、(C1-C5)アルキル-アリール-(C0-C6)アルキルである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
R7が、エチル、プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、ベンジル、フェニル、(C1-C5)アルキル-アリール-(C0-C3)アルキルである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
R7が、プロピル、ベンジル又はフェニルである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
R3及びR4がH、-R8-SH、-R8-NH2から選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項12】
R3及びR4がH又は-R8-SHである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項13】
R8が2〜6の炭素原子を有する直鎖アルキル、ベンジル、(C1-C5)アルキル-アリール-(C0-C6)アルキルである、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項14】
R8がエチル、プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、ベンジル、フェニル、(C1-C5)アルキル-アリール-(C0-C3)アルキルである、請求項1〜13のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項15】
R8がエチル、ベンジル又はフェニルである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
R9が1〜4の炭素原子を有する直鎖アルキル又はHである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項17】
R9がメチル、エチル、プロピル、好ましくはメチル、又はHである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項18】
R5及びR6がH、6〜14の炭素原子を有する直鎖アルキル、(C1-C4)アルキル-アリール、ベンジルから選択される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項19】
R5及びR6がH、n-ヘキシル、n-テトラデカノイル、フェニルである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項20】
R3がHである場合に、二量体(Ia):
【化2】

の形態である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項21】

【化3】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項22】

【化4】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項23】

【化5】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項24】

【化6】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項25】

【化7】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項26】

【化8】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項27】

【化9】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項28】
請求項1〜25のいずれか1項に記載の式(I)及び/又は(Ia)の化合物の1又はそれ以上と縮合した1又はそれ以上の核酸を含んでなるナノ粒子。
【請求項29】
式(I)の化合物が二量体の形態である、請求項28に記載のナノ粒子。
【請求項30】
核酸がDNA及び/又はRNAである、請求項28又は29に記載のナノ粒子。
【請求項31】
DNAがプラスミドである、請求項30に記載のナノ粒子。
【請求項32】
プラスミドが治療上活性な分子、好ましくはタンパク質をコードする、請求項31に記載のナノ粒子。
【請求項33】
治療薬として使用するための請求項28〜32のいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項34】
請求項28〜32のいずれか1項に記載のナノ粒子の遺伝子治療薬の製造のための使用。
【請求項35】
真核細胞のインビボトランスフェクションのための請求項34に記載の使用。
【請求項36】
真核細胞のインビトロトランスフェクションのための請求項28〜32のいずれか1項に記載のナノ粒子の使用。
【請求項37】
生物学的に興味ある分子の製造用の微生物のトランスフェクションのための請求項36に記載の使用。
【請求項38】
治療有効量の請求項28〜32のいずれか1項に記載のナノ粒子を含んでなる医薬組成物。
【請求項39】
以下の工程
−核酸を式(I)及び/又は(Ia)の化合物と生理学的pHの適切な緩衝液中で混合する工程;
−核酸/式(I)及び/又は(Ia)の化合物の複合体を形成させる工程;
−中程度の酸化環境中で、式(I)の化合物を二量体化させる工程
を含んでなる、請求項28〜32のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項40】
前処理し予めパッケージした原料と使い捨て材料とを含んでなる、請求項28〜32のいずれか1項に記載のナノ粒子の製造用キット。
【請求項41】
遺伝物質と、式(I)及び/又は(Ia)の化合物と、緩衝液と、ナノ粒子を製造、精製及び適用するに有用なその他の試薬及び/又は材料とを含んでなる、請求項40に記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2008−530083(P2008−530083A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554745(P2007−554745)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【国際出願番号】PCT/IT2006/000072
【国際公開番号】WO2006/087752
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(501193001)ポリテクニコ ディ ミラノ (18)
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO−Italy
【Fターム(参考)】