説明

核酸送達組成物および核酸送達法

陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む複合体が提供される。いくつかの実施形態において、複合体は、核酸を細胞へ送達するための手段として使用され得る。いくつかの実施形態において、複合体は、遺伝子治療の一部として使用され得る。陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む複合体を作製する方法もまた記載される。陽イオン性ポリマーと核酸とを含むポリプレックスを凝集する方法もまた提供される。本発明は、陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む組成物であって、上記陽イオン性ポリマー、上記核酸、および上記金属イオンは複合体を形成する、組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2008年11月26日に出願された米国特許出願第61/118,060号に優先権を主張し、前述の米国特許出願は、本明細書中で参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
特定の実施形態によると、本開示は、一般的に核酸送達に関連する。特に、いくつかの実施形態において、本開示は、陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む複合体を使用して、細胞に核酸を送達するための組成物および方法を提供する。
【0003】
遺伝子治療、つまり遺伝子発現の治療的操作は、多数の状態(遺伝性疾患および感染性疾患の両方、ならびに癌を含む)のための合理的な新しい処置の選択肢として提案されてきた。遺伝子治療はまた、損傷した組織の局所的な治癒を促進するために使用され得る。さらに最近では、遺伝子発現操作は、干渉RNAテクノロジーを通して成し遂げられてきた。それぞれのこれらの徴候は、特定の治療標的および別個の送達戦略を必要とする。
【0004】
治療に関する徴候のための遺伝物質の効率的な発現は、主に、依然として送達の問題のままである。DNAは、DNAが分解を回避し、標的細胞に入り、細胞質へと逃げ、そして発現のために細胞核に送達されることができる様式で、パッケージングされなければならない。同様の障壁の干渉RNAの細胞への送達を妨げる。
【0005】
現在、細胞への遺伝子導入は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターいずれかに主に頼っている。現在までの最も成功した遺伝子治療の戦略は、ウイルスベクターの使用を採用する。この背景において通例使用されるウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス、およびヘルペスウイルスである。しかし、これらベクターは、一般的に、免疫原性、細胞毒性、および変異誘発に関連する問題に苦しんでいる。
【0006】
非ウイルスベクターは、ウイルスベクターに対するより安全な代案であると典型的に考えられる。通例使用される非ウイルスベクターとしては、ポリマー、リポソーム、ペプチドおよび多糖類が挙げられる。これら物質はまた、RNAを基本とした治療剤(RNA−based therapeutics)を送達するために探求されている。残念ながら、遺伝子治療の背景における非ウイルスベクターの使用は、一般的に、非効率的であり、時に毒性である。例えば、最近の研究は、DNA送達に効果的であるこのポリマー/DNA複合体(例えば、ポリエチレンイミン/DNA)が高い毒性にしばしば苦しむことを明らかにしている。さらに、ペプチドまたは多糖類を含む、生物分解性ポリマーの遺伝子ベクターは、ウイルスベクターよりも毒性が少なく、インビボで十分に生物分解性であるが、それらは、遺伝子発現レベルおよび遺伝子発現持続性を制御(例えば、増進または減少)することがしばしばできない。分子医学において、これら治療法の現在の可能性を十分に利用するための、非毒性かつ効率的な核酸送達法の切迫した必要性が存在することが、十分に認識されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(概要)
本開示は、陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む複合体を提供する。いくつかの実施形態において、本開示の複合体は、核酸の細胞への送達のための手段として使用され得る。いくつかの実施形態において、本開示の複合体は、遺伝子治療の一部として使用され得る。陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む複合体を作製する方法もまた、記載される。さらに、陽イオン性ポリマーと核酸とを含むポリプレックス(polyplex)の凝集の方法もまた、提供される。
【0008】
本開示およびその開示の利点のより完全な理解のために、ここで、同封の図面と組み合わせて以下の説明に参照がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ポリエチレンイミン(PEI)およびTATの両方の細胞毒性試験を示すグラフである。
【図2】図2は、CaClの細胞毒性試験を示すグラフである。
【図3】図3は、PEI複合体(N/P 5,N/P 10)の粒子サイズおよびTAT−Ca複合体の粒子サイズに対するCaClの濃度の効果を示すグラフである。
【図4】図4は、PEI複合体(N/P 5,N/P 10)の電荷およびTAT−Ca複合体の電荷に対するCaClの濃度の効果を示すグラフである。
【図5】図5は、様々な濃度のCaClでのTATポリプレックス(polyplex)およびPEIポリプレックスの両方のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図6】図6は、0.3MのCaClを有するTAT複合体およびPEI複合体の両方、ならびに0.3MのCaClを有しないTAT複合体およびPEI複合体の両方のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図7】図7は、TAT−Ca複合体およびPEI複合体の両方のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図8】図8は、TAT複合体およびPEI複合体の両方に対するCaClの濃度の効果を示すグラフである。
【図9】図9は、ヘパリンの関数として、TAT複合体およびPEI複合体の両方の非パッケージングを示すグラフである。
【図10】図10は、TNBSアッセイの使用によって、TAT複合体およびPEI複合体の両方の凝集を示すグラフである。
【図11】図11は、A549細胞において、TAT−Ca複合体によって媒介されるルシフェラーゼ遺伝子のサイレンシング効率およびPEI siRNA(30nMのsiRNA)複合体によって媒介されるルシフェラーゼ遺伝子のサイレンシング効率を示すグラフである。
【図12】図12Aは、様々なCaCl濃度でのpDNA−CaCl複合体を示すゲル電気泳動研究である;1=0.1MのCaCl、2=0.2MのCaCl、3=0.3MのCaCl、4=0.4MのCaCl、5=0.5MのCaCl、6=0.6MのCaCl、7=0.7MのCaCl、8=0.8MのCaCl、9=0.9MのCaCl、10=1.0MのCaCl、11=3MのCaCl、12=5MのCaCl、13=7MのCaCl。図12Bは、様々なN/P比での0.3MのCaClを有するTAT−pDNA複合体を示すゲル電気泳動研究である。図12Cは、様々なN/P比でのTAT−pDNA複合体を示すゲル電気泳動研究である。図12Dは、様々なCaCl濃度でのTAT−CaCl複合体(N/P 25)を示すゲル電気泳動研究である;1=0mMのCaCl、2=62.5mMのCaCl、3=125mMのCaCl、4=250mMのCaCl、5=300mMのCaCl、7=400mMのCaCl、8=500mMのCaCl、および10=2MのCaCl。図12Eは、分枝PEI−pDNA複合体を示すゲル電気泳動研究である。図12Fは、直鎖PEI−pDNA複合体を示すゲル電気泳動研究である。
【図13】図13は、10%のFBS非存在下または10%のFBS存在下での、A549細胞におけるTAT複合体およびPEI複合体の両方のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図14】図14Aおよび図14Bは、血清の非存在下での、濃度の関数および時間の関数として粒子サイズの安定性を示すグラフである。
【図15A】図15Aは、様々な分子量におけるPLLによるpDNA(pGL3)の凝集を示すグラフである。
【図15B】図15Bは、様々な分子量におけるPEIによるpDNA(pGL3)の凝集を示すグラフである。
【図16】図16は、ポリアミンによるpDNA(pGL3)の凝集に対するCaClの濃度の効果を示すグラフである。
【図17A】図17Aは、pDNA/PLL複合体の遺伝子発現に対するCaClの濃度の効果を示すグラフである。
【図17B】図17Bは、pDNA/PEI複合体の遺伝子発現に対するCaClの濃度の効果を示すグラフである。
【図17C】図17Cは、pDNA/ポリアミンの遺伝子発現に対するCaClの濃度の効果を示すグラフである。
【図18A】図18Aは、細胞毒性アッセイの結果を示すグラフである。
【図18B】図18Bは、細胞毒性アッセイの結果を示すグラフである。
【図18C】図18Cは、細胞毒性アッセイの結果を示すグラフである。
【図18D】図18Dは、細胞毒性アッセイの結果を示すグラフである。
【図18E】図18Eは、細胞毒性アッセイの結果を示すグラフである。
【図19A】図19Aは、siRNA送達の結果を示すグラフである。
【図19B】図19Bは、siRNA送達の結果を示すグラフである。
【図19C】図19Cは、siRNA送達の結果を示すグラフである。
【図19D】図19Dは、siRNA送達の結果を示すグラフである。
【図19E】図19Eは、siRNA送達の結果を示すグラフである。
【図19F】図19Fは、siRNA送達の結果を示すグラフである。
【図20】図20は、2日後のA549細胞における様々なCPP−Ca/pDNA(0.3M)の複合体およびPEI複合体のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図21】図21Aおよび図21Bは、10%のFBSの非存在下および10%のFBSの存在下における、経時的なCPP−Ca/pDNA(0.3M)の安定性を示すグラフである。
【図22】図22は、PEIおよびCPPの両方の細胞毒性試験を示すグラフである。
【図23A】図23Aは、異なる濃度のCaCl(75mM、150mM、300mM)でのCPP−Ca/pDNA複合体(Arg7/pGL3)のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図23B】図23Bは、異なる濃度のCaCl(75mM、150mM、300mM)でのCPP−Ca/pDNA複合体(Arg9/pGL3)のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図23C】図23Cは、異なる濃度のCaCl(75mM、150mM、300mM)でのCPP−Ca/pDNA複合体(Ahp/pGL3)のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図23D】図23Dは、異なる濃度のCaCl(75mM、150mM、300mM)でのCPP−Ca/pDNA複合体(Alp/pGL3)のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図24】図24は、N/P比およびCaClの濃度の両方を変動させた、TAT複合体のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図25A】図25Aは、N/P比およびCaClの濃度の両方を変動させた、TAT複合体のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図25B】図25Bは、N/P比およびCaClの濃度の両方を変動させた、TAT複合体のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図25C】図25Cは、N/P比およびCaClの濃度の両方を変動させた、TAT複合体のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図25D】図25Dは、N/P比およびCaClの濃度の両方を変動させた、TAT複合体のトランスフェクション効率を示すグラフである。
【図26】図26は、HeLa細胞において、TAT−Ca、Lipofectamine 2000およびLipofectamine RNAiMAX siRNA複合体(50nMのsiRNA)によって媒介されるGAPDH遺伝子サイレンシング効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、様々な改変および代替の形態の余地があるが、具体的な例示的実施形態は図で示され、そして以下でより詳細に記載される。しかしながら、具体的な例示的実施形態の記載は、本発明を開示された特定の形態に限定することを意図せず、しかし対照的に、本開示は、添付された特許請求の範囲によって部分的に例示される、全ての改変および全ての均等物を包含すべきであると理解されるべきである。
【0011】
(説明)
特定の実施形態によると、本開示は、一般的に核酸送達に関連する。特に、いくつかの実施形態において、本開示は、陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む複合体を使用して、細胞に核酸を送達するための組成物および方法を提供する。
【0012】
一つの実施形態において、本開示は、陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む複合体を提供する。いくつかの実施形態において、本開示の複合体は、核酸のための細胞への送達ビヒクルとして使用され得る。さらに、いくつかの実施形態においては、本開示の複合体は、遺伝子治療の一部として使用され得、そのなかで、宿主細胞は本開示の複合体をトランスフェクトされる。本開示の組成物および方法についての可能性のある多数の利点のうちの一つは、それらが、とりわけ、高い遺伝子発現および/または持続した遺伝子発現を提供し得、そして、通例使用される遺伝子ベクター(例えば、ポリエチレンイミン)と比較して最小の毒性を提示し得ることである。さらに、いくつかの実施形態において、本開示の方法および組成物は、通例使用される遺伝子ベクターと比較した場合、増進したトランスフェクション効率を提供し得る。
【0013】
前に記載されたように、本開示は、陽イオン性ポリマーを含む複合体を提供する。本開示の組成物において使用に適している陽イオン性ポリマーは、一般的に、陽性に荷電したペプチドであり、いくつかの実施形態において、高い相対的存在量の陽性に荷電したアミノ酸(例えば、リジンまたはアルギニン)を含むアミノ酸組成を有する。いくつかの実施形態において、本開示において使用に適している陽イオン性ポリマーは、約30%と約100%の間の陽イオン性アミノ酸を含み得る。上記陽イオン性ポリマーの正電荷が、陽イオン性ポリマーを核酸のうちの負に荷電したリン酸バックボーンと、非共有結合の静電気的相互作用を通して相互作用させると考えられる。そのような静電気的に結合した陽イオン性ポリマー−核酸複合体は、本明細書中で、「ポリプレックス」として言及される。いくつかの実施形態において、本開示における使用に適している陽イオン性ポリマーは、約5,000ダルトンより小さい分子量または約5,000ダルトンに等しい分子量を有するペプチドである。他の実施形態において、本開示における使用に適している陽イオン性ポリマーは、約15,000ダルトンより小さい分子量または約15,000ダルトンに等しい分子量を有するペプチドである。他の実施形態において、本開示における使用に適している陽イオン性ポリマーは、約10,000ダルトンより小さい分子量または約10,000ダルトンに等しい分子量を有するペプチドである。
【0014】
特定の実施形態において、上記陽イオン性ポリマーは、ポリプレックスの安定性を改善するためのドメイン、ポリプレックスのサイズを減少させるためのドメイン、そのポリプレックスに機能を付与するためのドメイン(例えば、ターゲッティング)、そのポリプレックスに機能を加えるためのドメイン(例えば、バイオイメージング)、または、当業者にとって明らかである同様の拡張物を含み得る、大きな構築物の一部である。例えば、特定の実施形態において、陽イオン性ポリマーは、上記複合体を目的の領域に標的化するように機能する標的化部分を含み得る。適している標的化部分の例としては、限定されないが、抗体フラグメント、ペプチド、アプタマー(aptimers)、および低分子が挙げられる。上記陽イオン性ポリマーが複合体を形成することが可能である限り、どのような標的化部分も適している。いくつかの実施形態において、上記標的化部分は、スペーサーを介して陽イオン性ポリマーに連結され得る。適しているスペーサーの例としては、PEG、反復親水性アミノ酸から形成されるペプチドなどが挙げられる。上記陽イオン性ポリマーが複合体の形成することが可能である限り、どのようなスペーサーも適している。いくつかの実施形態において、上記スペーサーは、標的化部分に連結され得る。
【0015】
特定の実施形態において、本開示における使用に適している陽イオン性ポリマーは、細胞透過ペプチド(cell penetrating peptide)(CPP)を含み得る。CPPは、非共有結合の相互作用を介して、そのペプチドと関連した核酸の細胞への取り込みを促進し得る短いペプチドである。本開示における使用に適しているCPPは、高い相対的存在量の陽性に荷電したアミノ酸を含むアミノ酸組成を典型的に有する。特定の実施形態において、本開示における使用に適している陽イオン性ポリマーがCPPを含むことが望ましい。なぜなら、CPPは、生物学上の細胞膜を迅速に横切ることがしばしばできるからである。いくつかの実施形態において、本開示における使用に適しているCPPは、約5,000ダルトンよりも小さい分子量または約5,000ダルトンに等しい分子量を有する。
【0016】
本開示における使用に適しているCPPのひとつの例は、以下で「HIV−1 TAT」として言及される、ヒト免疫不全ウイルス1(HIV−1)由来のトランスに活性化させる転写活性化因子(trans−activating transcriptional activator)(TAT)である。HIV−1 TATは、タンパク質形質導入ドメインおよび核局在配列を含むペプチドである。タンパク質形質導入ドメイン由来のペプチド配列は、酸性環境中でエンドソーム膜を選択的に溶解することができ、それは細胞質放出を導くと考えられる。さらに、HIV−1 TATペプチドの上記核局在配列は、その内因性の細胞質−核の輸送機構との相互作用に起因して核輸送を促進することが可能である。
【0017】
陽イオン性ポリマーに加えて、本開示の複合体はまた、核酸を含む。本開示における使用に適している核酸は、細胞に送達するために有用である任意の核酸(例えば、生物活性の核酸(bioactive nucleic acid))であり得る。本明細書中で使用される用語「核酸」は、リボ核酸(RNA)のオリゴマーもしくはポリマー、またはデオキシボ核酸(DNA)のオリゴマーもしくはポリマー、あるいはその擬似物を表す。この用語は、天然に存在する核酸塩基と糖類と共有ヌクレオチド間(バックボーン)結合からなる核酸、および天然に存在しない同様に作用する部分を有する核酸を含む。そのような改変された核酸または置換された核酸は、望ましい特性(例えば、増進した細胞への取り込み、核酸標的に対する増進した親和性、およびヌクレアーゼ存在下における上昇した安定性)のために、ネイティブの形態よりもしばしば好ましい。いくつかの実施形態において、核酸は、周知の活性メカニズムを達成するために設計された構造を有し得、そして核酸には、限定されないが、siRNA、shRNA、miRNA、触媒RNA(リボザイム)、触媒DNA、アプタザイム(aptazyme)もしくはアプタマー結合リボザイム、調節可能リボザイム、触媒オリゴヌクレオチド、ヌクレオザイム(nucleozyme)、DNAザイム(DNAzyme)、RNA酵素、ミニザイム(minizyme)、リードザイム(leadzyme)、オリゴザイム(oligozyme)またはアンチセンス核酸が挙げられ得る。
【0018】
従って、送達されるべき核酸は、DNA分子もしくはRNA分子、またはそれらの任意の改変体もしくはそれらの任意の組み合わせであり得る。いくつかの実施形態において、上記核酸は、ホスホジエステル結合以外のヌクレオチド間結合(例えば、ホスホロチオエート結合、メチルホスホネート結合、メチルホスホジエステル結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホルアミデート結合、ホスホトリエステル結合またはリン酸エステル結合)を含み得、これにより上昇した安定性を生じる。オリゴヌクレオチドの安定性はまた、3’−デオキシチミジンまたは2’−置換されたヌクレオチド(例えば、アルキル基で置換)をオリゴヌクレオチドに合成中に組み込むことによって上昇し得、あるいはフェニルイソ尿素誘導体としてオリゴヌクレオチドを提供することによって上昇し得、あるいは他分子(例えば、アミノアクリジンまたはポリ−リジン)をオリゴヌクレオチドの3’末端に連結させることによって上昇し得る。RNAヌクレオチドの改変および/またはDNAヌクレオチドの改変は、上記オリゴヌクレオチドの至るところまたは上記オリゴヌクレオチドの選択された領域(例えば、5’末端および/または3’末端)において、存在し得る。上記核酸は、標準化学合成法、構成物質であるオリゴヌクレオチドのライゲーション、および上記オリゴヌクレオチドをコードしているDNAの転写を含む、当該分野おける公知の任意の方法によって作製され得る。例えば、上記オリゴヌクレオチドは、周知の技術である固相合成法を介して、簡便かつ慣習的に作製され得る。そのような合成のための装置は、例えば、Applied Biosystems(Foster City,Calif.)を含むいくつかの業者によって販売される。当該分野における公知のそのような合成のためのどのような他の手段も、付加的にまたは代替的に利用され得る。上記オリゴヌクレオチドはまた、適切なベクターにおける標的配列の全てまたは一部の発現によって、生成され得る。
【0019】
ひとつの実施形態において、上記核酸は、アンチセンス核酸配列であり得る。そのアンチセンス配列は、5’非翻訳配列の少なくとも一部、3’非翻訳配列の少なくとも一部、またはコードする配列の少なくとも一部に相補的である。そのようなアンチセンス核酸配列は、標的配列と特異的に相互作用(ハイブリッド形成)するための十分な長さでなければならないが、上記核酸が単一の塩基の差異を識別できないほど長くはない。例えば、特異性のために、上記核酸は、長さにおいて少なくとも6つのヌクレオチドである。阻害効率、特異性(交差反応性がないことを含む)などに依存して、より長い配列もまた使用され得る。配列の最大の長さは、その配列のハイブリダイゼーションの特異性の維持に依存し(その特異性は、物質のG−C含有量、融解温度(Tm)および他の因子に同様に依存する)、計算もしくは実験によって(例えば、“Current Protocols in Molecular Biology,”Volume I,Ausubel et al.,eds.John Wiley:New York NY,pp.2.10.1−2.10.16において記載される核酸分子のハイブリダイゼーションを検出するためのストリンジェントな条件)、またはフリーソフトウェアの利用(例えば、Osprey (Nucleic Acids Research 32(17):e133)もしくはEMBOSS(http://www.uk.embnet.org/Software/EMBOSS))によって容易に決定され得る。
【0020】
別の実施形態において、上記核酸は、阻害的RNA配列(例えば、siRNA、shRNA、miRNAなど)であり得る。阻害RNA分子の設計は、当該分野において周知であり、それら設計のための確立したパラメータが公開されている(Elbashir,et al.EMBO J.2001;20:6877−6888)。同様に、RNAi指向性遺伝子サイレンシング(RNAi−directed gene silencing)を使用する方法は、当該分野において公知であり慣習的に行われ、D.M.Dykxhoorn,et al.,Nature Reviews 4:457−67(2003)およびJ.Soutschek,et al.,Nature 432:173−78(2004)において記載された方法を含む。いくつかの実施形態において、2つのAAジヌクレオチド配列で始まる標的配列が好ましい。なぜなら、3’で突出しているUUジヌクレオチドを有するsiRNAが最も効果的だからである。siRNA設計において、一本鎖のG残基でリボヌクレアーゼによって切断されるsiRNAの可能性のために、突出部位においてG残基は避けることが推奨される。適しているsiRNAは、いくつかの方法(例えば、化学合成、インビトロでの転写、siRNA発現ベクター、およびPCR発現カセット)によって生成され得る。
【0021】
別の実施形態において、上記核酸は、リボザイムであり得る。リボザイムの設計および効力の試験は、当該分野において周知である(Tanaka et al.,Biosci Biotechnol Biochem.2001;65:1636−1644)。ハンマーヘッドリボザイムは、標的RNA中に5’ UH 3’(配列番号:1)配列(ここでHは、A、C、またはUであり得る)を必要とすること、ヘアピンリボザイムは5’ RYNGUC 3’(配列番号:2)配列(ここでRは、GまたはAであり得る;YはCまたはUであり得る;Nは任意の塩基を表す)を必要とすること、そしてDNA−酵素は5’ RY 3’(配列番号:3)配列(ここで、RはGまたはAであり得る;YはCまたはUであり得る)を必要とすることが、公知である。前記の設計パラメータに基づいて、当業者は、ハンマーヘッド、ヘアピン、またはDNAザイムのフォーマットのいずれかにおいて効果的なリボザイムを設計することができる。所定のリボザイムの相対的な活性を試験するために、共通の標的配列を含むRNA基質が使用され得る。
【0022】
陽イオン性ポリマーおよび核酸に加えて、本開示の複合体はまた、金属イオンを含む。一般的に、適している金属イオンは生物適合性であり、適している毒性レベルを有するべきである。特定の実施形態において、上記金属イオンは、複合体を形成するために、陽イオン性ポリマーと核酸とを含むポリプレックスを凝集することができる任意の金属イオンであり得る。適している金属イオンの例としては、二価の金属陽イオン(例えば、Mg2+、Mn2+、Ba2+、およびCa2+)が挙げられる。
【0023】
本開示の複合体において存在する金属イオンの量は、望ましい結果を達成するために調整され得る。例えば、上記金属イオンは、遺伝子発現を最大にする量(いくつかの適用において、遺伝子発現は金属イオン濃度の関数であり得る)、毒性を最小にする量、上記複合体のサイズを最小/凝集する量(より小さい複合体は、送達(例えば、遺伝子トランスフェクション)を改善する傾向がある)、かつ/または、上記核酸の送達能力を最適化する量(例えば、細胞へ一回送達されるとき上記核酸が陽イオン性ポリマーから外されることができるような濃度を使用すること)で存在し得る。いくつかの実施形態において、上記金属イオン濃度は、約20mMと約1000mMの間、好ましくは、約25mMと約600mMの間、そしてより好ましくは、約25mMと約250mMの間である。しかしながら、単一の金属イオンまたは金属イオンの混合物を用いた他の実施形態は、本開示の複合体をナノスケールの大きさまで凝集することができるより広い範囲の濃度を有し得、そのことは、細胞への核酸移動のために、効率的かつ/または低い毒性であり得る。
【0024】
本開示の複合体は、約500ナノメートル(nm)よりも小さい直径を一般的に有する。いくつかの実施形態において、本発明の複合体は、約30nm〜約150nmの直径を有する。いくつかの実施形態において、本開示の複合体が細胞へのそれの取り込みを促進するために150nmよりも小さい直径を有することが、特に望ましくあり得る。
【0025】
本開示の複合体は、一般的に、非細胞毒性または最小限に細胞毒性である。特定の実施形態において、本開示の複合体は、約5mg/mlよりも大きいIC50(最大の半分を阻害する濃度)または約5mg/mlと等しいIC50(最大の半分を阻害する濃度)を有し得る。他の実施形態において、本開示の複合体は、約1mg/mlよりも大きいIC50(最大の半分を阻害する濃度)または約1mg/mlと等しいIC50(最大の半分を阻害する濃度)を有し得る。他の実施形態において、本開示の複合体は、約500μg/mlよりも大きいIC50(最大の半分を阻害する濃度)または約500μg/mlと等しいIC50(最大の半分を阻害する濃度)を有し得る。
【0026】
特定の実施形態において、本開示は方法を提供し、その方法は、核酸を陽イオン性ポリマーに加える工程;上記核酸および上記陽イオン性ポリマーにポリプレックスを形成させる工程;上記ポリプレックスに金属イオンを加える工程;上記金属イオンおよび上記ポリプレックスに複合体を形成させる工程を含み、ここで、上記複合体は陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む。
【0027】
特定の実施形態において、本開示は方法を提供し、その方法は、複合体を形成する陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む組成物を組織または細胞に導入する工程を含む。
【実施例】
【0028】
(実施例)
(実施例1)
材料。ホタルのルシフェラーゼをコードするプラスミドDNA(pGL3、4.8kbp)を、Promega(Madison,WI,USA)から得、E.coli(DH5α)(Invitrogen,Carlsbad,CA)に形質転換した。寒天培地のプレートから選ばれた形質転換したシングルコロニーを、プラスミドDNAの調製のために、LB Broth Base(Invitrogen)液体中で培養した。プラスミドDNA(「pDNA」)を、Plasmid Giga Kit(5)(Qiagen,Germantown,MD)を用いて、その製造者の説明書に従って精製した。全てのpDNAは、UV/Vis(A260/A280)による検査によって決定した場合に、1.8またはそれよりも高い純度レベルを有した。TATペプチド(RKKRRQRRR(配列番号:4);MW=1338.85Da)を、学内で合成した。Arginie7(Arg7)ペプチド、Arginine9(Arg9)ペプチド、Antennapediaヘプタペプチド(Ahp)ペプチド、Antennapediaリーダーペプチド(Alp)ペプチドを、π Proteomics(Huntsville,AL)から得た。分枝ポリエチレンイミン(PEI、25kDa)を、Aldrich(Milwaukee,WI)から得た。塩化カルシウム(CaCl・2HO)およびアガロース培地を、Fisher Scientific(Pittsburgh,PA)から購入した。Lipofectamine 2000およびLipofectamine RNAiMAXトランスフェクション試薬を(Invitrogen)から購入した。
【0029】
ヒトの肺癌細胞系A549細胞を、American Type Culture Collection(ATCC,Rockville,MD)から得た。細胞培養培地 (Ham’s F−12K Nutrient Mixture、L−グルタミンを含有したKaighnの改変型)を、Fisher Scientificを通して購入した。ウシ胎仔血清(FBS)を、Hycloneから購入した。ペニシリン−ストレプトマイシンを、MB Biomedical(LLC)から購入した。トリプシン−EDTAを、Gibcoを通して購入した。MTS試薬[テトラゾリウム化合物;3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウム,内部塩]を、Promegaから購入した。
【0030】
TAT−Ca/pDNA複合体およびTAT−Ca/siRNA複合体の調製。ナノサイズのTAT−Ca複合体の粒子を、10μLのpDNA(0.1μg/μL)または10μLのsiRNA(30−50nM)のいずれかを15μLのTAT溶液(1μg/μL)に迅速に加え攪拌することによって、合成した。この溶液に、既知のモル濃度(例えば、0.3M)の15μLのCaClを加え、激しいピペッティングによって混合し、引き続いて、使用する前に、室温または4℃で20分〜30分間インキュベートした。
【0031】
PEI/pDNA複合体の調製。ポリエチレンイミン−DNA複合体を、10μlのpDNA溶液(0.1μg/μL)を15μLのポリエチレンイミン(PEI)溶液(N/P比が5または10)に攪拌しながら滴下(drop−wise)して加えることによって、調製した。複合体を、15μLの適切なバッファー(例えば、ヌクレアーゼなしの水またはCaCl)を用いた1.7倍希釈前に、室温で20分〜30分間インキュベートした。複合体をそれぞれ個々の実験前に新たに調製した。
【0032】
サイズ測定およびゼータ電位測定。TATまたはPEIを含有する複合体を含む懸濁物を、0.1μg/μLの濃度のpDNAを用いて、前述のように調製した。光散乱分析が意図される全ての試料を、10mMのTrisバッファー(pH7.4)(任意の微量の粒子も取り除くために、0.22μm のフィルターを用いて前もって濾過した)を使用して調製した。粒子サイズを、動的光散乱(dynamic light scattering(DLS))によって測定し、その測定には、9000AT自己相関器と、532nmで作動する50mW HeNeレーザー(JDS Uniphase)と、EMI 9863光電子増倍管と、BI 200Mゴニオメーターとを備えたBrookhaven(Holtsville, NY)の器機を使用した。入射光から90°における光散乱を、キュムラント法(method of cumulants)を用いた自己相関関数にあてはめた。ゼータ電位測定値を、Brookhaven Zeta PALS器機を使用した光散乱の位相分析によって得た。上記試料の電気泳動移動度を、印加した電場の10サイクルの平均から決定した。複合体のゼータ電位を、Smoluchowski近似法による電気泳動移動度から決定した。
【0033】
アガロースゲル電気泳動アッセイ。上記のTAT−Ca/pDNA複合体および上記のPEI/DNA複合体のpDNA結合能を、アガロースゲル電気泳動によって分析した。1μgのルシフェラーゼレポーター遺伝子を含む、TAT−Ca/pDNA複合体およびPEI/DNA複合体を、様々なN/P比で、記載したように調製した。このN/P比とは、プラスミドDNA中のリン酸基(負電荷を表す)に対する陽イオン性ポリマー中のアミン基(陽電荷を表す)のモル比をいう。様々なN/P比のDNA複合体の溶液(すなわち、25μL)を、4μLの10×Tris−アセテート−EDTA (TAE)ゲルランニングバッファー(Promega)および4μLの100×SYBR Green溶液(Invitrogen)を加えることによって希釈した。6×DNAローディングバッファー(7μL)を、上記の複合体の溶液に加えた。その混合物は、SYBR Green色素でのDNAの標識を確実にするために、室温で40分間インキュベートさせた。その後、複合体を1%アガロース1×TAEゲルバッファーの個々のウェルに詰め、110Vで30分間の電気泳動に供した。同一体積の溶液で希釈された非複合型DNAをコントロールとして使用した。生じたDNA移動パターンを、AlphaImager(登録商標)Imaging System(Alpha Innotech,San Leandro,CA)を使用して明らかにした。
【0034】
細胞培養。ヒトの肺の上皮細胞系A549の培養を、American Type Culture Collectionによって提供されたプロトコールに従って行った。A549を、10v/v%のFBSおよび1v/v%のペニシリン/ストレプトマイシンを補充したF−12K中で、37℃で5%のCOを含む湿気のある空気(air atmosphere)中で増殖させた。
【0035】
インビトロでの細胞トランスフェクション研究。A549細胞をトリプシン処理し、計数し、そしておよそ80,000細胞/mLの濃度に希釈した。次に、0.1mLのその希釈液を、96ウェルプレートのそれぞれのウェルに加え、そして細胞を5%COインキュベーターの湿気のある空気中で、37℃で24時間インキュベートした。トランスフェクションの直前に、上記細胞を、PBSを用いて一度洗浄し、100μlの試料(80%の血清を含まない細胞培養培地に対して20%の複合体)をそれぞれのウェルに加えた。細胞を上記複合体とともに5時間インキュベートした。次に、トランスフェクション剤を吸引によって取り除き、100μlの新しい血清培地を加え、引き続いてさらにインキュベートした。Promega製のLuciferase Assay Systemを、製造者の推薦するプロトコールに従って使用して、遺伝子発現を決定した。発光量(light units)を、細胞抽出液中のタンパク質濃度に対して正規化した(タンパク質濃度をCoomassie PlusTM Protein Assay (Thermo Scientific)を用いて測定した)。トランスフェクションの結果を、細胞内タンパク質1mgあたりの相対発光量(Relative Light Units (RLU))として表した。
【0036】
細胞毒性アッセイ(MTSアッセイ)。複合体の細胞毒性を、CellTiter 96(登録商標)Aqueous Cell Proliferation Assay (Promega)によって決定した。A549細胞を、トランスフェクション実験で記載したように増殖させた。細胞を、上記試料で約24時間処理した。次に、培地を取り除き、100μLの新しい培養培地と20μLのMTS試薬溶液との混合物で取り替えた。上記細胞を5%COインキュベーター中で37℃で3時間インキュベートした。次に、それぞれのウェルの吸光度を、マイクロタイタープレートリーダー(SpectraMax,M25,Molecular Devices Corp.,CA)を用いて490nmで測定し、細胞の生存能力を決定した。
【0037】
TAT/pDNA複合体およびPEI/pDNA複合体のSYBR Greenアッセイ。TATまたはPEIとの複合体形成(complexation)の後のpDNAの接近可能性の程度を、二本鎖DNA結合試薬SYBR Green(Invitrogen)によって評価した。手短に言えば、10μLのpDNA(0.1mg/mL)を、15μLのTAT溶液または15μLのPEI溶液と混合し、次に、15μLの脱イオン水または15μLの金属溶液を加えた。次に、複合体を使用前に30分間室温で形成させた。インキュベート後、120μLの脱イオン水および160μLの10×SYBR Green溶液を加えた。そして、次に、それぞれの試料のうち80μLを96ウェル細胞培養プレートの三連のウェルに加えた。そのプレートを、蛍光プレートリーダー(fluorescence plate reader)(SpectraMax M5;Ex.,250nm;Em,520nm)によって測定した。
【0038】
TAT/pDNA複合体およびPEI/pDNA複合体のTNBSアッセイ。pDNAとの複合体形成の後のTATの遊離アミン基の接近可能性の程度およびpDNAとの複合体形成の後のPEIの遊離アミン基の接近可能性の程度を、アッセイ試薬として2,4,6−トリニトロ−ベンゼンスルホン酸(TNBS)(Pierce)を用いた比色アッセイ(colorimetric assay)によって測定した。手短に言えば、10μLの複合体溶液を190μLの脱イオン水に加え、次に、0.1Mの炭酸水素ナトリウムバッファー(pH8.5)中の0.02%のTNBS溶液(200μL)を加えた。その溶液を迅速に混合した。37℃で2時間インキュベート後、80μLの試料を96ウェル細胞培養プレートの三連ウェルに加えた。335nmでの吸光度をプレートリーダー(plate reader)(SpectraMax M5)で決定した。
【0039】
(結果)
分枝PEIおよびCaClは細胞毒性(それぞれIC50が約35μg/mLおよび約0.21M)を誘導したのに対して、TATは細胞毒性効果の証拠を明らかにせず、細胞は高い生存能力を維持した(図1および図2)。
【0040】
TAT/pDNA複合体へのカルシウムの添加は、粒子サイズにおけるいくらかの増加を示したPEI/pDNA複合体と比較して、粒子サイズにおける実質的な減少を誘導した(図3)。
【0041】
CaClの濃度の上昇につれて、ゼータ電位のわずかな上昇を観測した。その値は11mV〜27mVで変動した(図4)。
【0042】
TATと複合体を形成したルシフェラーゼ遺伝子発現を、トランスフェクションの1日後、CaClの濃度を関数として、評価した。TAT複合体は、CaClの非存在下で高いトランスフェクション効率を有したPEIと比較して、0.3MのCaClにおいてより高い遺伝子発現レベルを示した(図5)。
【0043】
TAT−Ca/pDNA複合体によって誘導された遺伝子発現レベルは、トランスフェクション効率を有する分枝PEIと同様であり、はじめの4日間を通して上昇したが、PEI/pDNA複合体の遺伝子発現は、同じ期間中著しい減少を示した(図6)。
【0044】
上記遺伝子発現は、少なくとも10日間検出可能であり、TAT−Ca/pDNA複合体は、PEI/pDNA複合体と比較して、8日目および10日目においてより高い遺伝子発現レベルを維持した(図7)。
【0045】
TATと複合体を形成したpDNAの接近可能性は、CaClの濃度が350mM(ストック濃度)よりも高くなった場合に、上昇した。PEIについては、CaClの濃度が1000mMよりも高いと、上記色素に対するpDNAの接近可能性が上昇するようである(図8)
CaClを有するTATおよびPEI、ならびにCaClを有しないTATおよびPEIの異なる複合体の非パッケージングを、ヘパリンを用いた競合結合によって決定した。CaClを有する複合体は、より簡単にヘパリンによって置換された(図9)。
【0046】
TNBS比色アッセイ(colorimetric assay)を、異なるpDNA複合体の遊離アミン基の程度を決定するために、実行した。TAT複合体およびPEI複合体中の遊離アミン基は、CaClによって部分的に妨げられるようであった(図10)。
【0047】
TAT−Ca複合体は、A549細胞中におけるルシフェラーゼ発現サイレンシングのsiRNAサイレンシング(約80%のサイレンシング)を示し、PEI複合体と匹敵した(図11)。
【0048】
ゲル電気泳動の結果は、より低いN/P比およびより高いN/P比における蛍光の減少を示し、そのことは、TATおよびPEIがpDNAを完全に覆い保護することを示唆した。対照的に、CaClは、高い濃度(1M)でさえも、プラスミドDNAを凝集させる能力がないことを示した(図12)。
【0049】
血清は、TAT−Ca複合体によって媒介されるトランスフェクション効率を著しくは阻害しなかった。対照的に、PEI複合体は、10%のFBSの存在下で、トランスフェクション効率のわずかな減少を示した(図13)。
【0050】
CaClを有さないTAT/pDNA複合体によって、粒子は、1時間〜8日間の期間を通して10%FBSの非存在下(図14A)および10%FBSの存在下(図14B)で、いくらかの凝集挙動を示した。しかしながら、TAT−Ca/pDNA複合体は、血清を含まない10%のFBSの培養培地で同じ期間中、良好な安定性を示した。また一方で、PEI/pDNA複合体は、血清およびCaClの非存在下で8日間の期間を通して、安定したままであり、そのサイズを保持したが(図14A)、PEI−Ca/pDNAの粒子サイズは、同じ期間中に10%FBS存在下で減少を示した(図14B)
(実施例2)
材料。SYBR GreenをInvitrogen(Carlsbad,USA)から得た。ポリ−L−リジン(PLL)臭化水素酸塩(分子量は、1,000−5,000、1,500−8,000、4,000−15,000、15,000−30,000)、ポリ−L−アルギニン(PLA)塩酸塩(分子量は、5,000−15,000)、ポリ−L−ヒスチジン(PLH)塩酸塩(分子量5000以上)、サケ由来プロタミン、仔牛胸腺由来ヒストン、PEI 25KD 分枝、PEI 800 KおよびPEI 2000 K、硫酸マンガン一水和物,および塩化亜鉛を、Sigma−Aldrich(Saint Louis,USA)から購入した。ルシフェラーゼアッセイキットをPromega(Madison,USA)から購入した。TATペプチドを研究室で固相ペプチド合成法によって、調製した。塩化カルシウム、塩化ニッケル六水和物、硫酸ニッケル六水和物、MnCl、MnSO、MgCl、およびMgSO、塩化コバルト(II)、塩化銅(II)、塩化鉄(II)を、Fisherから得た。そうでないと言明しない限り、水とは、MilliQ超純水(抵抗>18 MΩ cm)を意味する。Coomassie PlusTM Protein Assayキットを、Pierce Biotechnology(IL)から得た。
【0051】
プラスミド。ホタルのルシフェラーゼ酵素をコードしているプラスミドDNA(pGL3、4.8kbp)を、Promega(Madison,WI,USA)から得た。プラスミドcDNA(pcDNA)を、E.coli(DH5α)中で増幅し、プラスミドGiga Kit(5)(Qiagen)を用いて精製し、そしてその濃度を260nmで光度計測により決定した。
【0052】
細胞培養。ヒトの肺の癌細胞系A549を、American Type Culture Cell(Manassas,VA)から購入した。それを、10%のウシ胎仔血清(FBS)および1%(v/v)のペニシリン/ストレプトマイシンを補充したF−12K培地(Kaighn改変型のHamのF−12培地)中で培養した。上記細胞を、95%の空気および5%のCOの湿気のある空気中で、単層として培養した。
【0053】
TAT/pDNA複合体およびポリアミン/pDNA複合体の調製。手短に言えば、15μlまたは22.5μlの水中のTATまたは水中のポリアミンを、10μlまたは15μlの水中のpDNA(0.1mg/ml)に加え、上下にピペッティングすることによって混合した。次に、15μlまたは22.5μlの水または水中の金属を加え、上下にピペッティングすることによって混合した。複合体を、短時間、微小遠心機(microcentrifuge)中でスピンダウンした。その複合体を、使用前に、30分間室温で形成させた。
【0054】
ポリアミン/pDNA複合体のためのSYBR Greenアッセイ。ポリアミンとの複合体形成の後のpDNAの接近可能性の程度を、二本鎖DNA結合試薬SYBR Green(Invitrogen)によって評価した。手短に言うと、10μLのpDNA(0.1mg/mL)を、15μLのTAT溶液またはPEI溶液と混合し、次に、15μlの脱イオン水または金属溶液を加えた。上記複合体を、使用前に、30分間室温で形成させた。インキュベーション後、120μlの脱イオン水および160μlの10×SYBR Green溶液を加えた。次に、それぞれの試料のうち80μlを96ウェル細胞培養プレートの3連ウェルに加えた。そのプレートを、蛍光プレートリーダー(SpectraMax M5;Ex.,250nm;Em.,520nm)によって測定した。
【0055】
ポリアミン/pDNA複合体のためのTNBSアッセイ。pDNAとの複合体形成後のポリアミンの遊離アミン基の接近可能性の程度を、アッセイ試薬として2,4,6−トリニトロ−ベンゼンスルホン酸(TNBS)(Pierce)を用いた比色アッセイによって測定した。手短に言えば、10μlの複合体の溶液を190μlの脱イオン水に加え、次に、0.1Mの重炭酸ナトリウムバッファー(pH8.5)中の200μlのTNBS溶液(0.02%)を加えた。その溶液を迅速に混合した。37℃で2時間のインキュベーション後、試料のうち80μlを96ウェル細胞培養プレートの三連ウェルに加えた。335nmでの吸光度を、プレートリーダー(SpectraMax M5)で決定した。
【0056】
インビトロでの細胞トランスフェクション研究。A549細胞を、1ウェルあたりおよそ8,000細胞で96ウェルプレート上で培養し、湿気のある5%のCOインキュベーター中で37℃でインキュベートした。18時間〜24時間インキュベート後、培地を取り除き、血清を含まない細胞培養培地で一回洗浄した。次に、その細胞を100μlの試料(3つのウェルについて240μlの血清を含まない細胞培養培地を60μlの複合体に加えた)で処理した。5時間のトランスフェクション後、細胞を100μlの血清培地でさらに培養した。示した時間の後、細胞をPBSで一回洗浄し、1ウェルあたり40μlの溶解バッファーを使用して溶解した。20μlの細胞の溶解物を使用して、Promega製のルシフェラーゼアッセイキットによってルシフェラーゼ活性を測定した。50μlのルシフェラーゼアッセイ試薬を加えて、プレートリーダー(SpectraMax M5)によって蛍光の放出を測定した。別の20μlの細胞溶解物を用いて、合計の細胞内タンパク質濃度をCoomassie PlusTM Protein Assay kit(Pierce Biotechnology,IL)によって決定した。それぞれのウェルのルシフェラーゼ活性を、細胞溶解物のタンパク質1μgにおける相対発光量(RLU)に正規化した。
【0057】
細胞毒性アッセイ。複合体の細胞毒性を、Promega製のCellTiter 96(登録商標)Aqueous Cell Proliferation Assay キット(MTSアッセイ)によって決定した。A549細胞を1ウェルあたりおよそ8,000細胞で96ウェルプレート上で培養し、湿気のある5%のCOインキュベーター中で37℃で培養した。18時間〜24時間のインキュベート後、培地を取り除き、上記細胞を100μlの血清を含まない培地で洗浄した。細胞を上記試料で12時間〜24時間処理した。次に、血清を含まない培地を取り除き、100μlの新しい培養培地と20μlのMTS試薬溶液との混合液で取り替えた。上記細胞を、1時間〜4時間、37℃で5%のCOインキュベーター中でインキュベートした。細胞の生存能力を、プレートリーダー(SpectraMax M5)によって490nmでの吸光度の測定によって評価し、コントロール試料に対するインヒビターで処理した細胞のA490の比として表した。
【0058】
トランスフェクション効率。2日後のA549細胞における、異なるCPP(Antennapediaヘプタペプチド(AHp)、Antennapediaリーダーペプチド(ALp))の複合体およびPEIの複合体のトランスフェクション効率を、表1に示されるペプチドを使用して研究した。
【0059】
【表1】

(結果)
ポリアミンによるpDNAの凝集。異なる分子量のPLLおよびPEIによるpDNA(pGL3)の凝集を、図15Aおよび図15Bにおいて示す。PLLおよびPEIの最適のN/P比は、それぞれ2〜4および2.5〜10であった。
【0060】
ポリアミンによるpDNAの凝集に対するCaClの濃度の効果。CaClの濃度が93.8mMよりも高かった場合、PLL−1,000−5,000を用いたpDNA(pGL3)の凝集は減少した。別の3つのPLLについては、187.5mMのCaClの濃度から、pDNA(pGL3)の凝集が減少し始めた(図16)。
【0061】
pDNA/ポリアミンの遺伝子発現に対するCaClの濃度の効果。4つのタイプのPLL複合体は、その複合体において46.9mMのCaCl(CaClのストック濃度は125mM)あたりで最も高い遺伝子発現を示した(図17A)。PLA、プロタミン、ヒストンおよびPEI−800は、同様の結果を示した(図17Bおよび図17C)。しかしながら、PEI−2,000およびPEI 25KDの遺伝子発現は、CaClの濃度によって影響されなかった(図17B)。
【0062】
細胞毒性アッセイ。PEI−25KD、PLAおよびプロタミンは、A549細胞における細胞毒性を示した(図18Aおよび図18B)。IC50は、それぞれ、30μg/ml、201μg/ml、および890μg/mlであった。PLHは、その試験の条件では細胞毒性を示さなかった(図18B)。PEI−800およびPLL−1,000−5,000のIC50は、試験された最も高い濃度よりも高かった(図18Aおよび図18C)。400μg/mlの濃度におけるPLL−1,000−5,000およびCaClを有するその複合体およびCaClを有さないその複合体は、どんな細胞毒性も示さなかった(図18D)。単独の、またはその複合体中の46.9mMのCaClもまた、A549細胞において細胞毒性を示さなかった(図18Dおよび図18E)。A549細胞におけるインキュベート2日後の、CaCl(CPP−Ca)存在下での異なるタイプの細胞透過ペプチド(cell penetrating peptides)のトランスフェクション効率は、より高い遺伝子発現レベルを示した(図20)。
【0063】
(実施例3)
材料。ポリ−L−リジン(PLL)臭化水素酸塩(分子量1,000−5,000)、サケ由来プロタミンおよび分枝PEI 25KDを、Sigma-Aldrich(Saint Louis,USA)から購入した。ルシフェラーゼアッセイキットをPromega(Madison,USA)から購入した。TATペプチドを、研究室で固相ペプチド合成法によって調製した。塩化カルシウムをFisherから得た。そうでないと言明しない限り、水とは、MilliQ超純水(抵抗>18 MΩ cm)を意味する。Coomassie PlusTM Protein Assayキットを、Pierce Biotechnology(IL)から得た。21−ヌクレオチド長のルシフェラーゼsiRNA GL3およびネガティブコントロールsiRNAをAmbionから購入した。pGL3基本プラスミド(pGL3−basic plasmid)のホタルのルシフェラーゼ遺伝子、ウミシイタケのルシフェラーゼプラスミドpGL4.75および二重ルシフェラーゼレポーターアッセイシステムはPromega製だった。
【0064】
PEI/DNA(N/P=10)複合体の調製。手短に言えば、pGL3とpGL4.75との混合物を含む15μlの水中のpDNA(0.1mg/ml)(pGL3対pGL4.75の比は39対1である)を、22.5μlの水中のPEIに加え、上下にピペッティングすることによって混合した。そして、次に22.5μlの水を加え、上下にピペッティングすることによって混合した。複合体を、微小遠心機中で短時間スピンダウンし、使用前に、30分間室温でインキュベートした。
【0065】
ポリアミン/siRNA複合体の調製。手短に言えば、10μlの水中のsiRNAを15μlの水中のペプチドTATまたは15μlの水中の他のポリアミンに加え、上下にピペッティングすることによって混合した。そして、次に、35μlの水またはCaCl溶液を加え、上下にピペッティングすることによって混合した。複合体を、微小遠心機中で短時間スピンダウンし、使用前に、30分間室温でインキュベートした。siRNAを含む、ペプチドTAT、PEPおよびPLL_1,000−5,000のN/P比は、それぞれ30、10、および5だった。siRNAの凝集のためのプロタミンの濃度は、7.5μg/mlだった。複合体中のCaClの終濃度は、46.9mMだった。複合体中のsiRNA濃度は、50nMおよび250nMだった。
【0066】
コトランスフェクションのためのポリアミン/pGL3、pGL4.75およびsiRNA複合体の調製。手短に言えば、15μlのpGL3とpGL4.75とsiRNAとの水中の混合物(pGL3対pGL4.75の比は4対1)を、22.5μlの水中のペプチドTATまたは22.5μlの水中のポリアミンに加え、上下にピペッティングすることによって混合した。そして、次に、22.5μlの水またはCaCl溶液を加え、上下にピペッティングすることによって混合した。複合体を、微小遠心機中で短時間スピンダウンし、使用前に30分間室温でインキュベートした。siRNAを含む、ペプチドTAT、PEPおよびPLL 1,000−5,000のN/P比は、それぞれ30、10および4だった。siRNAの凝集のためのプロタミンの濃度は7.5μg/mlだった。複合体中のCaClの終濃度は、46.9mMだった。複合体中のsiRNA濃度は25nM、50nM、125nMおよび250nMだった。
【0067】
コトランスフェクションのためのポリアミン/pGL3およびsiRNA複合体の調製。手短に言えば、15μlのpGL3とsiRNAとの水中の混合物を、22.5μlの水中のペプチドTATまたは22.5μlの水中のポリアミンに加え、上下にピペッティングすることによって混合した。そして、次に、22.5μlの水またはCaCl溶液を加え、上下にピペッティングすることによって混合した。複合体を、微小遠心機中で短時間スピンダウンし、使用前に30分間室温でインキュベートした。pGL3とsiRNAとを含む、ペプチドTAT、PEPおよびPLL_1,000−5,000のN/P比は、それぞれ30、10および4だった。複合体中のCaClの終濃度は、46.9mMだった。複合体中のsiRNA濃度は、25nM、50nM、125nMおよび250nMだった。
【0068】
pDNA複合体およびsiRNA複合体の個別のトランスフェクション。A549細胞を、1ウェルあたりおよそ8,000細胞で96ウェルプレート上で培養し、湿気のある5%のCOインキュベーター中で37℃でインキュベートした。18時間〜24時間のインキュベート後、培地を取り除き、血清を含まない細胞培養培地で一回洗浄した。次に、その細胞を100μlの試料(3つのウェルについて240μlの血清を含まない細胞培養培地を60μlのPEI/DNA複合体(N/P=10)に加えた)で処理した。4時間のトランスフェクション後、細胞を100μlの血清培地で20時間、さらに培養した。その培地を取り除き、血清を含まない細胞培養培地で再び洗浄した。次に、その細胞を、siRNA複合体(3つのウェルについて240μlの血清を含まない細胞培養培地を60μlのポリアミン/siRNA複合体に加えた)で5時間処理した。示した時間の後、細胞をPBSで一度洗浄し、1ウェルあたり40μlの受動的溶解バッファー(passive lysis buffer)を使用して溶解した。20μlの細胞溶解物を使用して、二重ルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)によってルシフェラーゼ活性を測定した。50μlのLAR II試薬を加えて、プレートリーダー(SpectraMax M5)によってホタルのルシフェラーゼの蛍光の放出を測定した。別の50μlのStop&GLO試薬を加えて、プレートリーダーによってウミシイタケのルシフェラーゼの蛍光の放出を測定した。別の20μlの細胞溶解物を用いて、合計の細胞内タンパク質濃度をCoomassie PlusTM Protein Assayキット(Pierce Biotechnology,IL)によって決定した。それぞれのウェルにおけるルシフェラーゼ活性を、細胞溶解物のタンパク質1μgにおける相対発光量(RLU)に正規化した。
【0069】
pGL3とpGL4.75とsiRNAとの複合体のコトランスフェクション。A549細胞を、1ウェルあたりおよそ8,000細胞で96ウェルプレート上で培養し、湿気のある5%のCOインキュベーター中で37℃でインキュベートした。18時間〜24時間のインキュベート後、培地を取り除き、血清を含まない細胞培養培地で一回洗浄した。次に、その細胞を100μlの試料(3つのウェルについて240μlの血清を含まない細胞培養培地を60μlの複合体に加えた)で処理した。5時間のトランスフェクション後、細胞を100μlの血清培地でさらに培養した。示した時間の後、細胞をPBSで一度洗浄し、1ウェルあたり40μlの溶解バッファーを使用して溶解した。示した時間の後、細胞をPBSで一回洗浄し、1ウェルあたり40μlの受動的溶解バッファーを使用して溶解した。ホタルのルシフェラーゼおよびウミシイタケのルシフェラーゼのルシフェラーゼ活性を、上述の方法によって測定した。
【0070】
pGL3とsiRNAとの複合体のコトランスフェクション。A549細胞を、1ウェルあたりおよそ8,000細胞で96ウェルプレート上で培養し、湿気のある5%のCOインキュベーター中で37℃でインキュベートした。18時間〜24時間のインキュベート後、培地を取り除き、血清を含まない細胞培養培地で一回洗浄した。次に、その細胞を100μlの試料(3つのウェルについて240μlの血清を含まない細胞培養培地を60μlの複合体に加えた)で処理した。5時間のトランスフェクション後、細胞を100μlの血清培地でさらに培養した。示した時間の後、細胞をPBSで一回洗浄し、1ウェルあたり40μlの溶解バッファーを使用して溶解した。示した時間の後、細胞をPBSで一回洗浄し、1ウェルあたり40μlの受動的溶解バッファーを使用して溶解した。ホタルのルシフェラーゼのルシフェラーゼ活性を、上述の方法によって測定した。
【0071】
(結果)
ホタルのルシフェラーゼ活性およびウミシイタケのルシフェラーゼ活性を、TATとsiRNAとの複合体またはPEIとsiRNAとの複合体のトランスフェクション後1日〜3日に測定した(図19A〜図19C)。ネガティブコントロールとしてのコントロールsiRNA(非特異性siRNA)は、ホタルのルシフェラーゼ活性を阻害しなかった。CaClの存在下において、siRNA(GL3)は、ホタルのルシフェラーゼ遺伝子発現についての特異的な阻害を示し、この遺伝子発現は、50nMのsiRNA(GL3)で、ウミシイタケのルシフェラーゼ(内部コントロール(internal control))と比較して75%阻害された。ウミシイタケのルシフェラーゼの発現は、siRNAの存在によって影響されず、このことは、阻害が標的遺伝子に特異的であることを示唆した。CaClがない場合、siRNA(GL3)は、ホタルのルシフェラーゼ遺伝子発現の特異的な抑制を示さなかった(図19A〜図19C)。
【0072】
CaCl存在下での、TATとsiRNAとpGL3とpGL4.75との複合体またはPEIとsiRNAとpGL3とpGL4.75との複合体のコトランスフェクションによって、同様の結果を得た。TAT複合体およびPEI複合体いずれも50nMのsiRNA(GL3)によって阻害効果は90%よりも大きい(図19Dおよび図19E)。
【0073】
CaCl存在下におけるTATおよびPEIによるsiRNAとpGL3との複合体のコトランスフェクションを実行した。90%よりも大きい阻害効果を、50nMのsiRNA(GL3)で得た(図19Fおよび図19G)。
【0074】
CaClを含まないCPP/pDNA複合体によって、粒子は、0時間〜1時間の期間中、10%のFBSの非存在下および10%のFBSの存在下でいくらかの凝集挙動を示した。しかしながら、CPP−Ca/pDNAの複合体は、血清を含まない培養培地および血清を含む培養培地において、同じ期間中、良好な安定性を示した(図21Aおよび図21B)。
【0075】
CPPペプチドは、最小の細胞毒性効果の証拠を明らかにした。Alpは、高濃度で非常に小さい細胞毒性を示し(IC50約2144μg/mL)、細胞は高い生存能力を維持し、一方で、分枝PEIポリマーは、多くの細胞死を誘導した(IC50 約35μg/mL)(図22)。
【0076】
CPPと複合体を形成したルシフェラーゼ遺伝子の発現を、CaClの濃度およびN/P比の関数として、トランスフェクションの1日後に評価した。CPP複合体は、75mMのCaClおよび150mMのCaClにおけるCPP複合体と比較して、300mMの添加されたCaCl(終濃度は約115mM)においてより高い遺伝子発現レベルを示した(図23a、図23b、図23cおよび図23d))。
【0077】
TATと複合体を形成したルシフェラーゼ遺伝子の発現を、CaClの濃度およびN/P比の関数として、トランスフェクションの1日後に評価した。TAT複合体は、75mMのCaClおよび150mMのCaClにおけるCPP複合体と比較して、300mMの添加されたCaClにおいてより高い遺伝子発現レベルを示した(図24)。
【0078】
TAT複合体、TAT複合体TAT複合体、およびTAT複合体を形成したルシフェラーゼ遺伝子の発現を、CaClの濃度およびN/P比の関数として、トランスフェクションの1日後に評価した。TAT、TAT3、TAT、およびTATの配列を、以下の表2に示す。
【0079】
【表2】

TAT複合体、TAT複合体およびTAT複合体は、150mMのCaClでより高い遺伝子発現レベルを示したが、しかしながら、TAT複合体は、300mMのCaClでより高い遺伝子発現レベルを明らかにした(図25A〜図25D)。
【0080】
TAT−Ca複合体は、Lipofectamine 2000およびLipofectamine RNAiMAX複合体と比較して、高いサイレンシング効率(約80%)でのsiRNA(GAPDH)のHeLa細胞への首尾よい送達を示した(図26)。
【0081】
従って、本発明は、記載された目的および利点、ならびに本発明に本来備わっている目的および利点に達成することに、十分に適合している。多数の変更が当業者によってなされ得るが、そのような変更は、添付された特許請求の範囲によって部分的に例示される本発明の意図の中に包含される。
【図12a)】

【図12b)】

【図12c)】

【図12d)】

【図12e)】

【図12f)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む組成物であって、該陽イオン性ポリマー、該核酸、および該金属イオンは複合体を形成する、組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、前記陽イオン性ポリマーは約15,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、前記陽イオン性ポリマーは約10,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物であって、前記陽イオン性ポリマーは約5,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の組成物であって、前記陽イオン性ポリマーは細胞透過ペプチドである、組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物であって、前記陽イオン性ポリマーはHIV−1 TATペプチドである、組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物であって、前記金属イオンはカルシウムである、組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物であって、前記複合体は、約500ナノメートルより小さいサイズまたは約500ナノメートルと等しいサイズを有する、組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物であって、前記複合体は、約30ナノメートル〜約150ナノメートルの範囲内のサイズを有する、組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物であって、前記複合体は、約150ナノメートルより小さいサイズまたは約150ナノメートルと等しいサイズを有する、組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物であって、前記金属イオンは、約20ミリモル濃度〜約800ミリモル濃度の範囲内で存在する、組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の組成物であって、前記陽イオン性ポリマーは、約30%と約100%の間の陽イオン性アミノ酸を含むペプチドである、組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の組成物であって、前記核酸はRNAである、組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物であって、前記核酸はsiRNAである、組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の組成物であって、前記複合体は5mg/mlよりも大きいIC50を有する、組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の組成物であって、前記複合体は1mg/mlよりも大きいIC50を有する、組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の組成物であって、前記複合体は500μg/mlよりも大きいIC50を有する、組成物。
【請求項18】
核酸を陽イオン性ポリマーに加える工程;
該核酸および該陽イオン性ポリマーにポリプレックスを形成させる工程;
金属イオンを該ポリプレックスに加える工程;
該金属イオンおよび該ポリプレックスに複合体を形成させる工程
を包含する方法であって、該複合体は陽イオン性ポリマーと核酸と金属イオンとを含む、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは約15,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは約10,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは約5,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは細胞透過ペプチドである、方法。
【請求項23】
請求項18に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーはHIV−1 TATペプチドである、方法。
【請求項24】
請求項18に記載の方法であって、前記金属イオンはカルシウムである、方法。
【請求項25】
請求項18に記載の方法であって、前記複合体は、約500ナノメートルよりも小さいサイズまたは約500ナノメートルと等しいサイズを有する、方法。
【請求項26】
請求項18に記載の方法であって、前記複合体は、約30ナノメートル〜約150ナノメートルの範囲内のサイズを有する、方法。
【請求項27】
請求項18に記載の方法であって、前記複合体は、約150ナノメートルよりも小さいサイズまたは約150ナノメートルと等しいサイズを有する、方法。
【請求項28】
請求項18に記載の方法であって、前記金属イオンは、約20ミリモル濃度〜約800ミリモル濃度の範囲内で存在する、方法。
【請求項29】
請求項18に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは、約30%と約100%の間の陽イオン性アミノ酸を含むペプチドである、方法。
【請求項30】
請求項18に記載の方法であって、前記核酸はRNAである、方法。
【請求項31】
請求項18に記載の方法であって、前記核酸はsiRNAである、方法。
【請求項32】
請求項18に記載の方法であって、前記複合体は5mg/mlよりも大きいIC50を有する、方法。
【請求項33】
請求項18に記載の方法であって、前記複合体は1mg/mlよりも大きいIC50を有する、方法。
【請求項34】
請求項18に記載の方法であって、前記複合体は500μg/mlよりも大きいIC50を有する、方法。
【請求項35】
請求項1に記載の組成物を、組織または細胞に導入する工程を包含する、方法。
【請求項36】
陽イオン性ポリマーと核酸とを含むポリプレックスを提供する工程;および、該ポリプレックスを凝集し複合体を形成するために金属イオンを加える工程、
を包含する方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法であって、前記金属イオンは、20ミリモル濃度と800ミリモル濃度の間の濃度を有するカルシウムである、方法。
【請求項38】
請求項36に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは、約30%と約100%の間の陽イオン性アミノ酸を含むペプチドである、方法。
【請求項39】
請求項36に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは約15,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、方法。
【請求項40】
請求項36に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは約10,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、方法。
【請求項41】
請求項36に記載の方法であって、前記陽イオン性ポリマーは約5,000ダルトンまたはそれよりも小さい分子量を有する、方法。
【請求項42】
請求項36に記載の方法であって、前記核酸はRNAである、方法。
【請求項43】
請求項36に記載の方法であって、前記核酸はsiRNAである、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図18E】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図19D】
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【図19E】
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【図19F】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図23D】
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【図24】
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【図25A】
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【図25B】
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【図25C】
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【図25D】
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【図26】
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【公表番号】特表2012−509904(P2012−509904A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537734(P2011−537734)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/065886
【国際公開番号】WO2010/062941
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(508176441)ユニバーシティ・オブ・カンザス (9)
【Fターム(参考)】