説明

格子形回路網のPCBを有するプラグ/ジャックシステム

【課題】プラグ/ジャックシステムにおけるクロストークを減少する格子形回路網を備えるプラグ/ジャックシステムを提供する。
【解決手段】補償ゾーンおよびクロストークゾーンを有するジャックを提供する。少なくとも1つのゾーンにおいて格子形回路網を用いる。前記格子形回路網は、前記ゾーンにおいてコンダクタとカップリングし、プラグ/ジャックシステムにおけるネットクロストークを減少させる。格子形回路網の周波数応答の傾きは、一次カップリングまたは直列LC回路カップリングの周波数応答の傾きとは異なる。多様な格子形回路網が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラグ/ジャックシステムに関する。より詳しくは、プラグ/ジャックシステムにおけるクロストークを減少する格子形回路網を備えるプラグ/ジャックシステムに関する。
【0002】
本発明は、2008年3月18日に出願した米国特許出願第12/050,550号および2007年3月20日に出願した米国仮特許出願第60/895,853号の優先権を主張する。その双方の全体が参照により、本明細書に組み込まれている。本発明は、2006年12月26日に特許となった"Electrical Plug/Jack System with Improved Crosstalk Compensation."と題された米国特許第7,153,168号の全体を参照により組み込んでいる。
【背景技術】
【0003】
通信業界において、データ伝送速度の絶え間ない増加に伴い、ジャックおよび/またはプラグにおける密集した平行導線間で容量性カップリングおよび誘導性カップリングに起因するクロストークの問題が増加してきている。クロストークパフォーマンスの改善されたモジュラープラグ/ジャックシステムは、要求の厳しい複数の規格に適合するように設計されている。多くのこれらの改善されたプラグ/ジャックシステムは、米国特許第5,997,358号に開示されている概念を含んでおり、その全体が本明細書に参照により組み込まれている。特に、最近のプラグ/ジャックシステムは、オフェンディングクロストーク(offending crosstalk)をキャンセルする所定のクロストーク補償の量を導入している。2つまたはそれ以上の補償ゾーンは、前記補償と前記クロストーク間の位相シフトを説明するために使用される。結果として、オフェンディングクロストークの大きさおよび位相は、前記補償によりオフセットされ、全体として等しい大きさであり逆位相となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7,153,168号明細書
【特許文献2】米国特許第5,997,358号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近の伝送速度は、米国特許第5,997,358号において開示されている技術の能力を超過している。したがって、改善された補償技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
多数のゾーンを有するプラグ/ジャックシステムが提供される。これらのゾーンは、接点ゾーンと、補償ゾーンと、クロストークゾーンと、を含む。接点ゾーンでは、プラグのプラグ接点は、ジャックばね接点のプラグ/ジャックインターフェースにおいて、ジャックのジャックばね接点と接続する。前記接点ゾーンは、プラグ/ジャックシステムにおけるクロストークを提供する。前記補償ゾーンは、プラグ/ジャックシステムにおけるクロストークを補償する補償信号を提供する。前記ジャックのクロストークゾーンは、付加的な遅延位相クロストークを追加する。ジャックばね接点に接続されているPCBは、前記クロストークゾーンを有する。前記補償ゾーンは、例えば、クロストークゾーンを有する前記PCB、前記プラグ/ジャックインターフェースとクロストークゾーンを有する前記PCBとの間に配置されたPCB、および/またはジャックばね接点を形成することにより提供されうる。補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおける導線は、前記ジャックばね接点に接続されている。少なくとも、補償ゾーンおよびクロストークゾーンの1つは、第1導線対および第2導線対間のカップリングを含み、格子形回路網の形となりうる。前記格子形回路網は、クロストーク回路素子および補償回路素子を具備し、それぞれは異なるカップリング率対周波数を有する。一構成において、前記格子形回路網は、第1導線対の第1導線と第2導線対の第1導線間の直列LC回路と、および前記第1導線対の第2導線と前記第2導線対の第2導線間の直列LC回路と、を具備する。前記格子形回路網は、また、前記第1導線対の第1導線と前記第2導線対の第2導線間のシャントキャパシタと、第1導線対の第2導線と前記第2導線対の第1導線間のシャントキャパシタとを具備する。配置された格子形回路網のゾーンにより、前記格子形回路網のカップリング周波数応答の傾きは、一次カップリング(例えば、純粋な容量結合など)のカップリング周波数応答の傾きよりも大きくまたは小さく設計される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明の一構成は、添付の図面を参照しながら以下に説明される。
【0008】
【図1A】プラグ/ジャック補償システムの簡略化したブロック図を示している。
【図1B】プラグ/ジャック補償システムの簡略化したブロック図を示している。
【図2】導線3,4,5,6のみを示した、図1Aおよび1Bの3つのゾーンのプラグおよびジャックシステムの図式モデルを示している。
【図3】(i)、(ii)、(iii)は、それぞれ補償ゾーンにおいて、容量結合のみ、相互誘導結合のみ、格子形回路網を有する回路図式モデルを示している。
【図4】(i)、(ii)、(iii)は、それぞれクロストークゾーンにおいて、容量結合および相互誘導結合、直列LC回路カップリング、格子形回路網を有する回路図式モデルを示している。
【図5A】クロストークゾーンにおいて動作している回路網の振幅特性のシミュレーションを示している。
【図5B】クロストークゾーンにおいて動作している回路網の位相シフトのシミュレーションを示している。
【図6A】補償ゾーンにおいて動作している格子形回路網および一次カップリングの振幅特性のシミュレーションを示している。
【図6B】補償ゾーンにおいて動作している格子形回路網および一次カップリングの位相シフトのシミュレーションを示している。
【図7A】補償ゾーンにおいて一次カップリングが使用される場合の種々の周波数におけるRJ45プラグおよびジャック3ゾーンシステムの簡略化したベクトルモデルを示している。
【図7B】補償ゾーンにおいて格子形回路網が使用される場合の種々の周波数におけるRJ45プラグおよびジャック3ゾーンシステムの簡略化したベクトルモデルを示している。
【図8A】クロストークゾーンにおいて一次カップリングが使用される場合の種々の周波数におけるRJ45プラグおよびジャック3ゾーンシステムの簡略化したベクトルモデルを示している。
【図8B】クロストークゾーンにおいて格子形回路網が使用される場合の種々の周波数におけるRJ45プラグおよびジャック3ゾーンシステムの簡略化したベクトルモデルを示している。
【図9】クロストークゾーンにおける一次カップリングと格子形回路網とを比較しているプラグ/ジャックシステムでの近端クロストークのシミュレーションを示している。
【図10】補償ゾーンにおける一次カップリングと格子形回路網とを比較しているプラグ/ジャックシステムでの近端クロストークのシミュレーションを示している。
【図11A】クロストークゾーンにおいて格子形回路網を有する10 GbE RJ45ジャックにおける近端クロストークを示している。
【図11B】クロストークゾーンにおいて格子形回路網を有する10 GbE RJ45ジャックにおける遠端クロストークを示している。
【図12A】導線対間の正極および負極相互インダクタンスと、それぞれの構成におけるカップリング対周波数のシミュレーションを示している。
【図12B】導線対間の正極および負極相互インダクタンスと、それぞれの構成におけるカップリング対周波数のシミュレーションを示している。
【図12C】導線対間の正極および負極相互インダクタンスと、それぞれの構成におけるカップリング対周波数のシミュレーションを示している。
【図12D】導線対間の正極および負極相互インダクタンスと、それぞれの構成におけるカップリング対周波数のシミュレーションを示している。
【図12E】導線対間の正極および負極相互インダクタンスと、それぞれの構成におけるカップリング対周波数のシミュレーションを示している。
【図12F】導線対間の正極および負極相互インダクタンスと、それぞれの構成におけるカップリング対周波数のシミュレーションを示している。
【図13A】格子形回路網において正極および負極相互インダクタンスを使用している実施形態を示している。
【図13B】格子形回路網において正極および負極相互インダクタンスを使用している実施形態を示している。
【図13C】図13Aおよび図13Bにおけるそれぞれの構成における格子形回路網カップリング対周波数のシミュレーションを示している。
【図14A】格子形回路網において正極および負極相互インダクタンスを使用している他の実施形態を示している。
【図14B】格子形回路網において正極および負極相互インダクタンスを使用している他の実施形態を示している。
【図14C】図14Aおよび図14Bのそれぞれの構成における格子形回路網カップリング対周波数のシミュレーションを容量結合と比較して示している。
【図15】補償ゾーンにおいて負極相互インダクタンスを有し、クロストークゾーンにおいて正極相互インダクタンスを有する直列LC回路を備えるジャックを示している。
【図16】補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおいて負極または正極相互インダクタンスを有する格子形回路網を備えた種々のジャック構成を示している。
【図17】補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおいて負極または正極相互インダクタンスを有する格子形回路網を備えた種々のジャック構成を示している。
【図18】補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおいて負極または正極相互インダクタンスを有する格子形回路網を備えた種々のジャック構成を示している。
【図19】補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおいて負極または正極相互インダクタンスを有する格子形回路網を備えた種々のジャック構成を示している。
【図20】補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおいて負極または正極相互インダクタンスを有する並列共振回路を備えたジャックを示している。
【図21】補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおいて負極または正極相互インダクタンスを有する並列共振回路を備えたジャックを示している。
【図22】それぞれ異なる周波数特性を有するクロストークベクトルおよび補償ベクトルを備える2相(dual)格子形回路網を示している。
【図23】それぞれ異なる周波数特性を有するクロストークベクトルおよび補償ベクトルを備える2相(dual)格子形回路網を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
通信システムにおけるデータ伝送速度は、とどまることなく高速化されている。この高速化により、プラグ/ジャックシステムにおけるクロストークが増加する。したがって、種々の方法が、前記システムにおいてネット(net)クロストークを減少させるために使用されている。これらの方法の1つは、ジャックに、クロストークを補償する少なくとも1つのプリント基板(PCB)を備え、前記システムにおいて近端ネットクロストーク(NEXT:Near End CrossTalk)を減少させる。いくつかの実施形態によれば、プラグ/ジャックシステムにおけるネットのNEXTの減少は、遠端ネットクロストーク(FEXT:Far End CrossTalk)の減少にもつながる。
【0010】
通信システムで通常使用される1つのタイプの電気コネクタは、RJ45コネクタである。8線RJ45プラグ/ジャックシステムの標準ピン配置は、多数の導線対を有する。これらの多数の導線対は、中間対(導線4および5)をまたがるスプリット対(導線3および6)を含む。スプリット対により導かれる信号は、プラグおよびジャック双方の導線の物理的近接に起因して容量的および誘導的に中間対とカップリングしている。プラグ/ジャックインターフェースの近接においてジャックにより導かれる不測のカップリングが、クロストークである。この結合が発生するエリアは、これ以降、接点ゾーンと称する。
【0011】
前述の結合によるクロストークを補償するために、異なる導線対間の容量性および誘導性カップリングは、意図的に異なるゾーンに、前記プラグ/ジャックシステムの伝送路に沿って導かれる。図1Aおよび図1Bは、プラグ/ジャックシステムの異なる実施形態の断面図を示している。図1Aおよび1Bの双方において、ゾーンA(接点ゾーン)のジャックばね接点のプラグ/ジャックインターフェースにおいて、プラグのプラグ接点は、ジャックのジャックばね接点と接続する。前記ジャックばね接点は、前記プラグ/ジャックインターフェースからゾーンC(以下、クロストークゾーンと称する)を含んでいるPCBと接続するように延びている。前記PCBの導電トレース(conductive traces)は、前記ジャックばね接点と前記PCBに附属した圧接接続(IDCs)間に延びる。図1Aに示すように、ゾーンB(以降、補償ゾーンと称する)は、前記接点ゾーンと前記クロストークゾーンの間に配置されている。前記補償ゾーンは、PCBを使用して、またはジャックばね接点に附属した個別素子および/またはジャックばね接点の形状を変更することにより実現されうる。少なくともいくつかの実施形態におけるコネクタ内の前記PCBは、リジッドPCB、フレキシブルPCB、またはその2つの組み合わせであってよい。図1Bに示すように、前記補償ゾーン(ゾーンB')もまた、前記IDCを有する前記PCBに配置してもよい。ゾーンB'は、クロストークゾーン(ゾーンC)が接点ゾーンにあるより、接点ゾーンに電気的に近接している。
【0012】
上述したように、クロストークは接点ゾーンにおいて意図せずに導かれる。補助クロストーク(supplemental crosstalk)は、クロストークゾーンにおいて意図的に追加される。前記補償ゾーンは、接点ゾーンおよびクロストークゾーンからの組み合わせたクロストークを補償する補償を導く(introduce)。以下においておよび米国特許第7,153,168号において徹底して説明されるように、クロストークゾーンにおけるクロストークの追加は、ジャック/プラグシステムに遅延位相クロストークを導くことにより、前記ジャックの補償ゾーンに、接点ゾーンにおけるクロストークをよりよく補償させる。図1Aまたは図1Bに示されている実施形態の両方とも使用してよいが、前記補償ゾーンでの補償の有効性は、接点ゾーンにおいて導かれる前記クロストークと補償ゾーンにおいて導かれる前記補償の間の位相遅延の減少のため、前記接点ゾーンへの近接度が増すに従って増加する。
【0013】
それぞれのゾーンでの前記カップリングは、導線間の回路網としてモデル化される。回路網は、結合された導線対間の回路を含む。それぞれの回路は、1または複数の回路素子を備えている。前記導線は、ジャックばね接点またはPCB上の導線トレースを含んでもよい。補償ゾーンおよびクロストークゾーンのそれぞれにおける前記容量性カップリングおよび誘導性カップリングは、お互いに平行に走る(run)PCBトレースまたは前記ジャックばね接点といった分散した要素により、またはジャックばね接点またはトレース間の個々の物理的コンポーネンツにより提供されうる。もし、前記容量性カップリングおよび誘導性カップリングが分散した要素により提供されるならば、前記セクションが分析される最大周波数の波長と比較して小さい限り、特定のセクションにおける前記カップリングは、集中要素(lumped elements)を含む回路としてモデル化されうる。一般に、前記セクションの物理的サイズは、このアプローチで使用する信号の波長の約1/20よりも小さい。例えば、もし純粋に分散した容量結合または純粋に分散した誘導結合が導線対間に存在する場合には、そのような結合(カップリング)は、前記導線対間へのシングルキャパシタまたはインダクタの使用によりそれぞれモデル化される。前記接点ゾーンは、図2に示すように、多数の一次カップリングとなり、分散した相互誘導結合と導線対間の分散した容量結合の組み合わせを含む。純粋な容量結合などの一次カップリングの大きさは、約20dB per decadeの周波数依存性を有する。前記集中要素(lumped-element)モデルは、プラグ/ジャックシステムの普通の動作周波数レンジに適切である。したがって、前記前記集中要素モデルが、本明細書で検討される種々の回路の回路素子を説明するために使用される。
【0014】
図2は、図1Aおよび図1Bの3ゾーンプラグ/ジャックシステム図式モデルを示している。明瞭性のために導線3,4,5,6のみを示す。前記3ゾーンのそれぞれは、補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおいて、回路網を含むブロックで示されている容量性および誘導性回路素子を含む。前記接点ゾーンは、プラグ線および接点からの容量結合および誘導結合(図1Aの112)と、プラグ/ジャックインターフェースから前記PCBから離れた前記ジャックばね接点の終端まで伸びているジャックばね接点に起因する容量結合(図1Aの114)と、前記プラグ/ジャックインターフェースからPCBへ伸びているジャックばね接点からの容量結合および誘導結合(図1Aの116)と、を有する。これらの要素は、導線3と4間ならびに導線6と5間の容量結合および相互誘導結合として示されている。キャパシタンスおよび相互インダクタンスのそれぞれの量は、2つの結合対(coupled pairs)間で異なりうる。同様のカップリングが、補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおける導線間で生じうる。
【0015】
図2の接点ゾーンに示されているカップリングは、一次カップリングである。補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおいて同様な一次カップリングの使用は、前記クロストークを減少させるいくつかの能力を提供しうるが、そのようなカップリングによるクロストークの減少は限界を有する。クロストークをより減少させる他の回路網を用いうる。特に多数の周波数に依存するカップリングを備えた格子形回路網が、補償カップリングおよびクロストークカップリングを提供するために補償ゾーンおよび/またはクロストークゾーンにおいて使用されうる。
【0016】
格子形回路網の一実施形態は、2つの導線対のセットと他の2つの導線対のセット間のシャントキャパシタンスとの間に、インダクタンスおよびキャパシタンスを直列に備える(すなわち、直列LC回路)。この格子形回路網の実施形態は、クロストーク構成における2つの直列LC回路(1つは導線対3−4間および他は導線対5−6間)および補償構成における2つのシャントキャパシタ(1つは導線対3−5間および他は導線対4−6間)としてモデル化される。前記格子形回路網は、前記補償ゾーンおよび前記クロストークゾーンのどちらかまたは両方において使用してもよい。
【0017】
格子形回路網を一次カップリングと比較すると : 前記格子形回路網の周波数応答の傾きは、調整可能であり、大きくしても小さくしてもよい。前記格子形回路網の位相シフトは、周波数とともに大きく変化する。前記格子形回路網の共振周波数は、望むように設計してよい。
【0018】
同様に、格子形回路網をクロストーク構成における直列LC回路のみと比較すると : 前記格子形回路網の周波数応答の傾きは、さらに自由に調整可能である。前記格子形回路網の位相シフトは、周波数とともに大きく変化する。前記格子形回路網において使用されている前記インダクタンスは、小さくてもよく、インダクタンスを提供する前記PCB上のトレースの物理的なレイアウトの大きさを減少させることを可能とする。格子形回路網の使用は、前記プラグ/ジャックシステムのクロストーク応答の周波数形状(shaping)を改善することを可能とする。
【0019】
図3および図4は、それぞれ前記補償ゾーンおよび前記クロストークゾーンにおける回路網の種々の実施形態のための、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)回路モデル結線図を示している。上述のように、一実施形態において、図3および図4におけるそれぞれの回路網は、個々の回路素子として表されるトレース間のカップリングとともに、PCB上のトレースにより提供され得る。より詳しくは、図3(i)および図3(ii)は、補償ゾーンにおいて、導線3と5間および導線4と6間にそれぞれ、純粋な容量結合または純粋な相互誘導結合を使用した図面である。これらの結合(カップリング)のそれぞれは、それぞれの対の導線間のキャパシタ(Cc1とCc2)または相互インダクタ(Mc1とMc2)のどちらかの1つの要素によりモデル化される。図4(i)は、前記クロストークゾーンにおける導線3と4のカップリングおよび導線5と6をカップリングするキャパシタ(Cxt1とCxt2)および相互インダクタ(Mxt1とMxt2)の組み合わせを図示している。図4(ii)は、前記クロストークゾーンにおける導線3と4間および導線5と6間の直列インダクタ-キャパシタ(LC)回路を示している。
【0020】
図4(ii)におけるそれぞれの導線対間の前記直列LC回路は、導線対3と4間で自己インダクタンスLs1と直列であるキャパシタCs1を有する。同様に、Cs2は、導線対5と6間でLs2と直列である。直列LC回路は、共振周波数
【0021】
【数1】

【0022】
を有する。共振周波数よりも下の周波数において、前記直列LC回路により提供されるカップリングは、周波数の関数として増加する。前記共振周波数より上の周波数において、前記直列LC回路により提供されるカップリングは、周波数の関数として減少する。
【0023】
図3(iii)および図4(iii)は、それぞれ、前記補償ゾーンおよびクロストークゾーンにおける格子形回路網の実施形態を示している。図示されているように、前記格子形回路網は、シャントキャパシタンスとともに直列LC回路の対を備える。一直列LC回路(図3(iii)におけるL11とC11および図4(iii)におけるLx1とCx1)は、導線3と4間のクロストーク構成に接続される。他の直列LC回路(図3(iii)におけるL12とC12および図4(iii)におけるLx2とCx2)は、導線5と6間のクロストーク構成に接続される。さらに、一シャントキャパシタ(図3(iii)におけるC13および図4(iii)におけるCx3)は、導線3と5間の補償構成(compensation configuration)に接続される。他のシャントキャパシタ(図3(iii)におけるC14および図4(iii)におけるCx4)は、導線4と6間の補償構成に接続される。図3(iii)の一実施形態において、キャパシタC13とC14は、お互いに等しく、かつキャパシタC11とC12より大きいキャパシタンスを有する。前記キャパシタC11とC12もまた共に等しい。図4(iii)の一実施形態において、キャパシタCx3とCx4は、お互いに等しいが、キャパシタCx1とCx2より小さいキャパシタンスを有する。前記キャパシタCx1とCx2もまたお互いに等しい。図4(iii)に示されているように、格子形回路網は、前記クロストークゾーンにおいて実装してもよい。例えば図8Aに示されているように、前記接点ゾーンベクトルおよび前記クロストークゾーンベクトルが前記補償ゾーンベクトルに対してバランスが取れていない場合である。これは、接点ベクトルおよびクロストークベクトルの大きさが等しくない場合、および/または補償ベクトルと、前記接点ベクトルおよびクロストークベクトル間の位相差が等しくない場合に起こりうる。
【0024】
直列LC回路のみキャパシタンスおよびインダクタンスと、前記格子形回路網は、前記直列LC回路のみと、前記格子形回路網が、直列インダクタの存在により、低周波数(例えば、約100MHz以下)でのカップリングにおいては重要な役割をしないが、高周波数(例えば、約100MHz以上)ではだんだん重要な役割を果たすように設計しうる。一例として、図5Aおよび図5BにRJ45プラグ/ジャックシステムのクロストークゾーンにおける異なる回路網の応答を図示する。より具体的には、図5Aおよび図5Bは、それぞれ一次カップリング(キャパシタンスのみ)と、直列LC回路(図4(ii)に示すような)と、クロストークゾーンにおける格子形回路網(図4(iii)に示すような)での大きさと位相シフトを比較している。前記一次カップリングおよび前記直列LC回路のシミュレーションにおいて使用されている前記キャパシタンスは、1pFである。前記格子形回路網のシミュレーションにおいて使用されているそれぞれのクロストークキャパシタンス(すなわち、前記格子形回路網の直列LC回路における前記キャパシタンス)は、1pFであり、それぞれの補償キャパシタンス(すなわち、前記格子形回路網におけるシャントキャパシタンス)は、2pFである。前記直列LC回路および前記格子形回路網のシミュレーションにおいてそれぞれのインダクタンスは、20nHである。得られた前記キャパシタンスとインダクタンス値は、低周波数(約50MHz以下)のためのものである。前記プラグ/ジャックシステムの動作周波数レンジの特性は、図5Aおよび図5Bにおいて“注目するエリア”と題されたダッシュで囲われるとともに約200MHzから約500MHzまで広がっている領域に示されている。図5Aのグラフにおいて、前記一次カップリング応答は、注目するエリアにおいて、およそ20dB per decadeの傾きを有している。前記直列LC回路では、およそ1.1GHzにおいて共振する。共振より下において、前記直列LC回路の応答は、約25dB per decadeの傾きを有している。共振より下における前記格子形回路網の応答の傾き(約30dB per decade)は、前記直列LC回路の応答の傾きより大きい。
【0025】
クロストークゾーンにおける前記一次カップリングと、前記直列LC回路と、前記格子形回路網の位相シフトが周波数の関数として図5Bに示されている。前記注目するエリアにおける前記一次カップリングと前記直列LC回路の位相シフトは、おおよそ同じである。前記格子形回路網の位相シフトは、注目するエリア上の前記一次カップリングまたは前記直列LC回路の位相シフトのどちらよりも周波数とともに大きく変化する。前記一次カップリングまたは前記直列LC回路と格子形回路網との比較により示される大きさと位相シフトにおける差は、プラグ/ジャックシステムを補償する場合に利用することができる。これもまた図7および図8のベクトルダイアグラムを使用してさらに詳しく示されるとともに以下で詳細に説明される。
【0026】
RJ45プラグ/ジャックシステムの補償ゾーンにおいて動作している回路網の振幅特性および位相シフトは、それぞれ図6Aおよび図6Bに示されている。より具体的には、図6Aおよび図6Bは、格子形回路網(図3(iii)に示されている)および一次(容量性)カップリング(図3(i)に示されている)の振幅特性と位相シフトをそれぞれ例示している。図6Aおよび図6Bにおけるシミュレーションにおいて使用される回路素子の値は、格子形回路網のシミュレーションにおいて使用されるそれぞれのクロストークキャパシタンスが、2pFであり、それぞれの補償キャパシタンスが1pFであることを除き、図5Aおよび図5Bにおいて使用されるそれらと同じである。図6Aに示されている一次カップリング応答の大きさは、約20dB per decadeの傾きを有している。注目するエリアにおける格子形回路網応答の大きさは、一次カップリングのそれよりも小さく、注目するエリアの低い方の端において約20dB per decadeから、注目するエリアの高い方の端において約0dB per decade と変化する傾きを有している。図6Bにおいて示されるように、前記格子形回路網の位相シフトは、周波数とともに注目するエリア上の前記一次カップリングの位相シフトより大きく変化する。前記格子形回路網の大きさおよび位相シフトは、よりよくクロストークを補償するために、一次カップリングまたは直列LC回路より正確にあわせる(tailored)ことができる。
【0027】
図7および図8は、3ゾーンプラグ/ジャックシステムのベクトルモデルを示している。前記接点ゾーン、前記補償ゾーン、および前記クロストークゾーンからの補償およびクロストークは、基準面(reference plane)(基準面は通常補償ゾーンの実効中心に位置する)からの位相差により分けられた周波数依存ベクトルのセットのように分析されてもよい。位相差は、カップリングの物理的距離に依存するとともに、信号の伝導する材料にも依存する。前記接点ゾーンは、大きさと位相を有する単一クロストークベクトルの形状に組み合わせ可能な多数のクロストークターム(terms)を含む。接点ゾーンからのクロストークおよびクロストークゾーンからのクロストークの双方は、補償ゾーンからの補償からの位相差を有する。3ゾーンからのベクトルは、周波数依存クロストークを計算するために合計してもよい。
【0028】
図7および図8のベクトルモデルは、一次カップリングを補償ゾーンおよびクロストークゾーンに実装された格子形回路網とそれぞれ比較する。異なる周波数においてベクトルの相対的な大きさが示されている。これらの図は相対的なベクトルの大きさを示しており、ベクトルの絶対的な大きさは、注目するエリアにおいて周波数とともに増加することに注意が必要である。図7および図8において、低周波数は、約50MHz以下の周波数を示し、中周波数は、約50MHzから200MHz間の周波数であり、高周波数は、約200MHz以上の周波数に関する。異なる周波数におけるベクトルの相対的な大きさが示されている。
【0029】
図7Aの補償ゾーンにおける一次カップリングの実装が、図7Bの補償ゾーンにおける格子形回路網の実装と比較されている。図7Aおよび図7Bのベクトルダイアグラムは、プラグ/ジャックシステムは、バランスしている、すなわち、接点ゾーンからの補償とクロストーク間およびクロストークゾーンからの補償とクロストーク間の位相角差は、同じであり、接点ゾーンにおけるクロストークは、クロストークゾーンにおけるクロストークと同一であると仮定する。前記クロストーク成分は、下向きのベクトル(図7Aにおける710,711,712,720,721,722および図7Bにおける750,751,752,760,761,762)により図7Aおよび図7Bに示されている。クロストークベクトルは、0°の周りで対称であり、図7Aでは角度φ1、φ2、φにより、図7Bでは角度φ、φ5、φにより示されている(前記補償ゾーンは、図7および図8の基準面にとられている)。前記角度は、補償ゾーンと接点およびクロストークゾーン間の位相差を示している。図7Aにおいて、接点ゾーンにおけるクロストークベクトル720,721,722の相対的な大きさは、それぞれ、Am1、Am2、Am3であり、クロストークゾーンにおけるクロストークベクトル710,711,712の相対的な大きさは、それぞれCm1、Cm2、Cm3である。同様に図7Bにおいて、接点ゾーン760,761,762におけるクロストークベクトルの相対的な大きさは、それぞれAm4、Am5、Am6であり、クロストークゾーンにおけるクロストークベクトル750,751,752の相対的な大きさは、Cm4、Cm5、Cm6,である。前記クロストークベクトルは、周波数とともに相対的な大きさおよび角度が増加する。したがって、図7Aでは、φ<φ<φであるとともに(Am1=Cm1)<(Am2=Cm2)<(Am3m3)であり、図7Bでは、φ<φ<φであるとともに(Am4=Cm4)<(Am5=Cm5)<(Am6m6)である。
【0030】
補償ゾーンにおける補償は、プラグ/ジャックシステムのクロストークの補償を提供している。前記補償ゾーンからの補償ベクトル(図7Aにおける730,731,732および図7Bにおける770,771,772)は、クロストークベクトルの合力(resultant)の極性と反対の極性を有する。前記合成ベクトル(図7Aにおける740,741,742および図7Bにおける780,781,782)は、クロストークと補償ベクトルの組み合わせである。したがって、前記合成ベクトルは、補償後のプラグ/ジャックシステムにおけるクロストークの残りを示している。クロストークベクトル対(図7Aにおける710と720、711と721、712と722および図7Bにおける750と760、751と761、752と762)の基準面からのそれぞれの角度は、図7Aおよび図7Bにおいて示されている周波数レンジ上の特定の周波数において同じである。それぞれの周波数におけるクロストークゾーンおよび接点ゾーンからのクロストークベクトル、すなわち、710と720、711と721、712と722、750と760、751と761、752と762のサインφ成分(すなわち図7Aおよび図7Bにおける水平成分)は、お互いにキャンセルし、コサインφ成分(すなわち、図7Aおよび図7Bにおける垂直成分)のみが残る。したがって、合成ベクトルは、補償ベクトルの上に重なる(すなわち、図7Aにおいて、740は730の上に重なり、741は731の上に重なり、742は732の上に重なり、図7Bにおいて、780は770の上に重なり、781は771の上に重なり、782は772の上に重なる)。図7Aにおいて、補償ベクトルおよびクロストークベクトルの大きさは、約20dB per decadeのレートで周波数とともに個々に増加する。前記補償ベクトルは、ロストークゾーンおよび接点ゾーンからのクロストークベクトルの組み合わせたコサインφ成分よりも増加するため、これは、合成ベクトルが相対的に周波数とともに急速に増加する原因となる。したがって、格子形回路網を使用せずに、前記プラグ/ジャックシステムのクロストークは、周波数の増加とともに大きく増加する。
【0031】
図7Bのベクトルダイアグラムは、補償ゾーンにおいて格子形回路網を使用するプラグ/ジャックシステムの例示である。図7Bにおけるベクトルは、図7Aのそれらと同様である。しかし、図7Bに示されているプラグ/ジャックシステムにおいて、前記補償ベクトル770,771,772は、20dB per decade以下のレートで周波数とともに増加する。すなわち、個々のクロストークベクトル750,751,760,761,752,762のそれ以下である。補償ベクトル770,771,772の増加は、個々のクロストークベクトル750と760,751と761,752と762の合成されたコサインφ成分における増加に、より適合する。前記合成ベクトルは、依然として位相シフトを有しないが、周波数とともに図7Aのジャックよりも少なく増加する。
【0032】
クロストークゾーンにおいて一次カップリングが実施されているRJ45プラグおよびジャック3ゾーンシステムでの異なる周波数における簡易ベクトルモデルが、図8Aに示されており、クロストークゾーンにおいて格子形回路網が実施されているベクトルモデルが、図8Bに示されている。図7Aおよび図7Bのベクトルダイアグラムと異なり、図8Aおよび図8Bのベクトルダイアグラムは、プラグ/ジャックシステムは、バランスしていないものと仮定する。接点ゾーンからの補償およびクロストーク間の位相角差と、クロストークゾーンからの補償およびクロストーク間の位相角差は、同じではない。図8Aの角度(θ)により示されるように、補償からのクロストークゾーンクロストークの位相シフトは、補償からの接点ゾーンクロストークの位相シフトより小さい(すなわち、θ>θ、θ>θ、θ>θ)。図8Aにおいて接点ゾーンにおけるクロストークもクロストークゾーンにおけるクロストークも同一の大きさではない。接点ゾーンにおけるクロストークの大きさは、クロストークゾーンにおけるクロストークの大きさより大きい(すなわち、An1>Cn1、An2>Cn2、An3>Cn3)。
【0033】
図8Aにおいて、図7Aと同様に、個々のクロストークベクトル810,811,812,820,821,822の大きさは、約20dB per decadeのレートで周波数とともに増加する(すなわち、An3>An2>An1およびCn3>Cn2>Cn1)。補償ベクトル830,831,832の大きさもまた約20dB per decadeのレートで周波数に対応して増加する。不均衡状態のため、合成ベクトル840,841,842は、補償ベクトル830,831,832の上に重ならない。したがって、前記合成ベクトル840,841,842は、クロストークベクトル810と820,811と821、812と822の位相不一致が増加するため、周波数の増加とともに大きさおよび位相遅延が増加する。
【0034】
図8Bに示されているように、クロストークゾーンにおいて格子形回路網を使用することは、合成ベクトルの相対的な大きさを減少させる。図8Aとは異なり、図8Bのプラグ/ジャックシステムは、効果的にバランスされている。つまり、接点ゾーンに導かれた(introduced)クロストークベクトル860,861,862およびクロストークゾーンに導かれたクロストークベクトル850,851,852は、補償ゾーンに関しては同じ相対的な大きさおよび位相差を有する(すなわち、An4=Cn4、An5=Cn5、An6=Cn6)ということである。図8Bに示されているように、周波数が増加するとともに、格子形回路網によるクロストークゾーンにおけるクロストークベクトル850,851,852の相対的な大きさは、図8Aに示す一次カップリングによるクロストークゾーンにおけるクロストークベクトル810,811,812の相対的な大きさよりも大きいレートで増加する。クロストークゾーンに格子形回路網が実施されているプラグ/ジャックシステムにおける合成ベクトル880,882,882の相対的な大きさは、したがって周波数とともに、クロストークゾーンに一次カップリングが実施されているプラグ/ジャックシステムより少なく増加する。
【0035】
図9において、クロストークゾーンに実施された一次カップリングと格子形回路網のSPICEシミュレーションが、NEXT-Limit(ANSI/TIA/EIA-568B.2-1規格)と比較されている。シミュレーションにおいて、およそ100MHz以下では、クロストークゾーン910に格子形回路網を備えるプラグ/ジャックシステムのNEXTと、クロストークゾーン920に一次カップリングを備えるプラグ/ジャックシステムのNEXTは、ほぼ同じである。およそ100MHzから220MHzの間は、クロストークゾーン910に格子形回路網を備えるプラグ/ジャックシステムのNEXTは、クロストークゾーン920に一次カップリングを備えるプラグ/ジャックシステムのNEXTよりわずかに大きい。およそ250MHzから1GHzの間は、クロストークゾーン910に格子形回路網を備えるプラグ/ジャックシステムのNEXTは、クロストークゾーン920に一次カップリングを有するプラグ/ジャックシステムのNEXTよりかなり小さい。特に、格子形回路網910を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTと、一次カップリング920を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXT間の差は、500MHz付近で15−20dB増加する。格子形回路網910および一次カップリング920を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTの両方とも、400MHz以下の周波数でのNEXT-Limit930以下である。400MHz以上では、一次カップリング920を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTは、NEXT-Limit930を超えるが、格子形回路網910を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTは、NEXT-Limit930の下にとどまる。プラグ/ジャックシステムの通常の使用レンジにおいて、RJ45ジャックのバンド幅およびNEXTマージン(プラグ/ジャックシステムにおけるNEXTとNEXT-Limitの差)の両方とも、クロストークゾーンに格子形回路網を使用することにより、一次カップリングを超えて改善される。
【0036】
補償ゾーンに実装された一次カップリングと格子形回路網のSPICEシミュレーションが、図10においてNEXT-Limitと比較されている。図9のシミュレーションと同様に、補償ゾーン1010に格子形回路網を備えているプラグ/ジャックシステムのNEXTと、補償ゾーン1020に一次カップリングを備えているプラグ/ジャックシステムのNEXTは、およそ100MHz以下においてほとんど同一である。約100MHzから200MHzの間では、補償ゾーン1010に格子形回路網を備えているプラグ/ジャックシステムのNEXTは、補償ゾーン1020に一次カップリングを備えているプラグ/ジャックシステムのNEXTより大きい。約200MHzから600MHzの間では、補償ゾーン1010に格子形回路網を備えているプラグ/ジャックシステムのNEXTは、補償ゾーン1020に一次カップリングを備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTよりかなり小さい。特に、格子形回路網1010を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTと一次カップリング1020を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTとの間の差は、約500MHzにおいて23−24dB増加する。約400MHz以下の周波数においては、格子形回路網1010および一次カップリング1020を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTの両方とも、NEXT-Limit1030以下である。400MHz以上では、一次カップリング1020を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTは、NEXT-Limit1030を超えるが、格子形回路網1010を備えたプラグ/ジャックシステムのNEXTは、NEXT-Limit1030の下にとどまる。上述したように、プラグ/ジャックシステムの通常の使用レンジにおいて、RJ45ジャックのバンド幅と、NEXTマージン(プラグ/ジャックシステムのNEXTとNEXT-Limitの間の差)の両方とも、補償ゾーンに格子形回路網を使用することにより一次カップリングを超えて改善される。
【0037】
図11Aおよび図11Bは、クロストークゾーンにおいて一次カップリングを備えているプラグ/ジャックシステムおよびクロストークゾーンにおいて格子形回路網を使用しているプラグ/ジャックシステムにおけるそれぞれの近端クロストーク(NEXT)および遠端クロストーク(FEXT)の測定値を示している。両方のケースで、TIA568bにより規定された"middle plug"仕様のパフォーマンスレベルを有するRJ45プラグが使用されている。図11Aに示すように、約300MHzを超える周波数において、格子形回路網1120を使用しているジャックのNEXTパフォーマンスは、一次カップリング1110を使用しているジャックのNEXTパフォーマンスよりよい。約400MHzの周波数以下においては、格子形回路網1120および一次カップリング1110を有するジャックのNEXTパフォーマンスは、10G NEXTリクワイアメント1130より下であるが、約400MHz以上の周波数においては、格子形回路網1120を備えているジャックのNEXTパフォーマンスだけが、10G NEXTリクワイアメント1130より下である。図11Bにおいて、約500MHz以下の周波数においては格子形回路網1150を備えているジャックおよび一次カップリング1140を備えているジャックのFEXTパフォーマンスは、10G FEXTリクワイアメント1160(ANSI/TIA/EIA-568B.2-1規格)より下であるが、2MHz以上のすべての周波数において、格子形回路網1150を備えているジャックのFEXTパフォーマンスのほうが、一次カップリング1140を備えているジャックよりもよい。
【0038】
上で例示したそれらに加えて、他の回路網構成を使用してもよい。例えば、格子形回路網において自己インダクタンス素子といったインダクタをクロストーク回路素子として使用してもよい(例えば、導線3と4間および導線5と6間)。図12−図21は、他の使用しうる回路網を例示している。
【0039】
図12Aおよび図12Bは、導線対間のカップリングに負極および正極相互インダクタンスの使用を示している。これらの図の違いは、図12Aは負極相互インダクタンスおよび図12Bは正極相互インダクタンスとなるように、Lの接続が反対であるだけである。これらの図において、それぞれの導線対のカップリングは、インダクタと直列のキャパシタを含む。インダクタの相互インダクタンスMは、相互カップリング定数Kとともに変化する。Kは、0と1の間で変化する(すなわち、0<K<1)。図12Aおよび図12Bにおいて、それぞれのキャパシタは、1pFであり、それぞれのインダクタLs1、Ls2、Ls3、Ls4の自己インダクタンスLは、20nHである。図12Aにおけるそれぞれのインダクタのインダクタンスは、L=L=(1−K)*Lとなるように、L=Ls1+M=L+MおよびL=Ls2+M=L+Mのように変化する。ここで、
【0040】
【数2】

【0041】
である。したがって、K=0,M=0およびL=L=20nHの場合である。Kが1に近づくと、Mは−Lに近づき、それぞれのインダクタ(L+M)のインダクタンスは0になる。したがって、Kが1に近づくと、それぞれの導線対間の直列LC回路の応答は、理想的な容量結合のみのそれに近づく。同様に、図12Bにおけるインダクタは、M=K*LおよびL=L=(1+K)*Lのように変化する。したがって、Kが1に近づくと、MはLに近づき、L=L=2Lとなる。
【0042】
図12C−図12Fは、図12Aおよび図12Bに示した回路を使用したカップリングのシミュレーションである。より具体的には、図12Cは、図12Aの構成のシミュレーションであるが、図12Dは、図12Cのおよそ200MHzから500MHzの間の注目するエリアを拡大したものである。同様に、図12Eは、図12Bの構成のシミュレーションであり、図12Fは、図12Eにおける注目するエリアを拡大したものである。図12Cおよび図12Dに例示されるように、カップリングは、注目するエリア内ではすべての周波数において、負極相互インダクタンスの量が増加するにつれて減少する。図12Eおよび図12Fに例示されるように、カップリングは、注目するエリア内ではすべての周波数において、正極相互インダクタンスの量が増加するにつれて増加する。
【0043】
図13Aおよび図13Bは、格子形回路網において負極および正極相互インダクタンスの使用を示している。図13Aの格子形回路網は、負極相互インダクタンスを有しており、図13Bの格子形回路網は、正極相互インダクタンスを示している。図12Aおよび図12Bの直列LC回路のように、格子形回路網の直列LC回路におけるそれぞれのインダクタの自己インダクタンスは、20nHである。それぞれの直列LC回路におけるキャパシタンスは、1pFであり、それぞれのシャントキャパシタは、2pFのキャパシタンスを有する。図13Cは、負極相互インダクタンス(図13A)または正極相互インダクタンス(図13B)を使用している格子形回路網におけるカップリングを示しているシミュレーションである。図13Cに示しているように、200−500MHzの周波数レンジにおいて正極相互インダクタンスの使用は、負極相互インダクタンスを使用するよりも、カップリングの量を大きく減少させる。
【0044】
図14Aおよび図14Bは、負極および正極相互インダクタンスをそれぞれ有している格子形回路網を示している。図13Aおよび図13Bの直列LC回路におけるのと同じように、格子形回路網の直列LC回路におけるそれぞれのインダクタの自己インダクタンスは、20nHである。しかし、図13Aおよび図13Bの構成とは異なり、それぞれの直列LC回路のキャパシタンスは、2pFであり、それぞれのシャントキャパシタは、1pFのキャパシタンスを有する。図14Cは、負極相互インダクタンス(図14A)または正極相互インダクタンス(図14B)を使用している格子形回路網におけるカップリングを示しているシミュレーションである。図14Cに示すように、正極相互インダクタンスの使用は、200−500MHzの周波数レンジにおけるカップリングの量を、負極相互インダクタンスを使用するよりもおおきく増加させる。図13および図14のカップリングの量の差は、図間における直列LC回路キャパシタンスとシャントキャパシタンスの相対的な差の結果である。
【0045】
図15−図23は、負極または正極相互インダクタンスを使用する種々のマルチゾーン構成を示している。相互インダクタンスは、補償およびクロストークゾーンの1つまたは双方に実装してもよい。もし相互インダクタンスが、補償およびクロストークゾーンの双方に使用された場合には、相互インダクタンスは、双方のゾーンにおける負極または正極か、1つのゾーンにおける負極および他のゾーンにおける正極のどちらかでありうる。図15−図19は、補償ゾーンおよびクロストークゾーンに直列LC回路が使用されている3ゾーンジャックの実施形態の例示である。図20および図21は、補償ゾーンおよびクロストークゾーンにパラレル共振回路が使用されている3ゾーンジャックの実施形態の例示である。それぞれのパラレル共振回路は、インダクタおよびキャパシタの並列組み合わせを含んでいる。直列LC回路構成を備えた場合のように、パラレル共振回路は、補償ゾーンおよびクロストークゾーンの1つまたは双方でありえうるとともに、自己インダクタンスだけをしようしてもよいし、または、相互インダクタンスを含んでもよい。図20および図21の実施形態におけるそれぞれのパラレル共振回路におけるインダクタは、相互インダクタンスを含む。それぞれの導線対間のカップリングは、ブロッキングキャパシタに直列に接続されているパラレル共振回路を含む。通常、パラレル共振回路と直列LC回路の組み合わせは、ジャックの異なるゾーンにおいて使用してもよいし、または、同一のゾーンにおいて使用してもよい。図22および図23は、相互インダクタンスを備えている二重格子形回路網の例示である。図7および図8に示すとともに上述したように、それぞれの格子形回路網は、格子形回路網の構成と格子形回路網における個々の素子の値に従って、ベクトル(補償またはクロストーク)を提供する。前記二重格子形回路網は、二重格子形回路網ベクトルを提供する。前記二重格子形回路網ベクトルの相対的な大きさは、注目するエリアにおける格子形回路網ベクトルの相対的な大きさと反対の方向に周波数とともに変化する。したがって、例えば、もし特定の格子形回路網が、注目するエリアにおいて周波数の増加とともに相対的な大きさが増加するクロストークベクトルを提供する場合には、特定の二重格子形回路網は、相対的な大きさが周波数の増加とともに減少する二重クロストークベクトルを提供する。
【0046】
補償ゾーンおよび/またはクロストークゾーンにおいて格子形回路網の使用は、ジャックのクロストークパフォーマンスを向上可能にする。それぞれの格子形回路網は、1つまたは複数の直列LC回路および/または1つまたは複数のパラレル共振回路を含んでよい。格子形回路網のインダクタは、自己インダクタンスおよび/または相互インダクタンスを含んでもよい。前記格子形回路網は、PCB上のトレースや、別々の要素を使用することでおよび/またはジャックばね接点の形状により提供されうる。格子形回路網を有するPCBの材料特性は、高い透磁率の材料またはPCBにおける周波数依存性の材料を通じて改善されうる。それぞれの格子形回路網における回路は、種々のクロストークおよび補償構成により処理されうるとともに、前記回路における回路素子の値は、所望のジャック特性が提供されるように選択してよい。
【符号の説明】
【0047】
3,4,5,6 導線
710,711,712 クロストークゾーンにおけるクロストークベクトル
720,721,722 接点ゾーンにおけるクロストークベクトル
730,731,732 補償ゾーンにおける補償ベクトル
810,811,812 一次カップリングによるクロストークゾーンにおけるクロストークベクトル
850,851,852 格子形回路網によるクロストークゾーンに導かれたクロストークベクトル
860,861,862 接点ゾーンに導かれたクロストークベクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信システムにおけるプラグ−ジャックコンビネーションでの使用のためのジャックであって、前記ジャックは、
プラグ接点と電気的接続を形成するためのプラグインターフェース接点と、
第1導線対の導線と第2導線対の導線との間の、第1の大きさを有する第1カップリングを提供する第1構造と、前記第1導線対の前記導線と前記第2導線対の他方の導線との間の、第2の大きさを有する第2カップリングを提供する第2構造と、を具備する補償ゾーンと、
第3の大きさを有する第3カップリングを提供する近端クロストークゾーンと、
を具備し、
前記補償ゾーンは、前記ジャックの信号経路における、前記プラグインターフェース接点と、前記近端クロストークゾーンとの間に配置され、
前記第1カップリングと前記第2カップリングは、反対の極性を有し、
前記第1カップリングの極性は、補償を提供し、
前記第2カップリングの極性は、クロストークを提供し、
前記第1の大きさと前記第2の大きさとの比は、周波数によって変化すること特徴とするジャック。
【請求項2】
前記プラグインターフェース接点に接続された少なくとも1つのプリント回路基板をさらに具備し、
前記補償ゾーンと前記近端クロストークゾーンの少なくとも1つは、前記少なくとも1つのプリント回路基板上に形成されることを特徴とする請求項1に記載のジャック。
【請求項3】
前記ジャックの通常の動作周波数において、前記第1カップリングおよび前記第2カップリングのうちの一方の大きさは、前記第1補償カップリングおよび前記第2補償カップリングのうちの他方の大きさより大きいことを特徴とする請求項1に記載のジャック。
【請求項4】
大きい方の大きさ対小さい方の大きさの比率は、前記周波数が増加すると増加することを特徴とする請求項3に記載のジャック。
【請求項5】
前記第1構造と前記第2構造のうちの少なくとも1つは、インダクタおよびキャパシタの組み合わせを具備していることを特徴とする請求項1に記載のジャック。
【請求項6】
前記第1の大きさ対前記第2の大きさの比率は、前記周波数が増加すると増加することを特徴とする請求項1に記載のジャック。
【請求項7】
前記第1構造の機能は、前記第2構造の機能とは独立していることを特徴とする請求項1に記載のジャック。
【請求項8】
前記第1構造と前記第2構造は、格子回路網の一部を形成していることを特徴とする請求項1に記載のジャック。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−12501(P2013−12501A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−227750(P2012−227750)
【出願日】平成24年10月15日(2012.10.15)
【分割の表示】特願2009−554695(P2009−554695)の分割
【原出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(507202736)パンドウィット・コーポレーション (70)
【Fターム(参考)】