説明

案内ロールおよび溶融金属鍍金装置

【課題】慣性モーントの低減と軸部摩擦抵抗の低減とを両立できる溶融金属内で使用される案内ロールおよび溶融金属鍍金装置を提供することを目的とする。
【解決手段】案内ロール10は、搬送される帯状材を液状体中で案内するものであって、円筒体1と、円筒体1の中心部に配置された円柱体4とを具備し、且つ、案内ロール1の比重が、これが設置される前記液状体の比重と略同一である。また、前記液状体が溶融している金属、あるいは溶融している亜鉛または亜鉛合金等である。さらに、本発明の溶融金属鍍金装置は、溶融金属槽と、シンクロールと、サポートロールと、ワイピングロールと、を有し、前記サポートロールが案内ロール10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、案内ロールおよび溶融金属鍍金装置、特に、亜鉛または亜鉛合金等の溶融している金属を鋼帯等に鍍金する溶融金属鍍金装置に設置される案内ロール、および該案内ロールが設置された溶融金属鍍金装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融している金属(以下「溶融金属」と称す)を鋼帯(ストリップに同じ)に鍍金する溶融金属鍍金装置において、溶融金属中で鋼帯を案内する浴中ロール(以下「案内ロール」と称す)の周速と搬送されている鋼帯の速度とが一致しないことが原因で、鋼帯にスリ疵が発生するという問題があった。
このため、案内ロールの回転抵抗を小さくするため、案内ロール内を空洞にしたり、密度の小さい材質で製造したりしていた。すなわち、ロールの慣性モーメントを小さくすることによって、ライン速度の加減速時におけるロールの回転抵抗の低減を目的にしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−232566号公報(第5−6頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ロールの回転抵抗の要素としては、加減速時に作用する慣性モーメントの他に、軸部に作用する摩擦抵抗(以下「軸部摩擦抵抗」と称す)が大きな影響を示す。ロールの回転抵抗を低減するためには、慣性モーメントと軸部摩擦抵抗とを低減する必要がある。
このため、前記特許文献1に開示された中空ロールは、中空径が大きい程あるいは材質の密度が小さい程、慣性モーントは低減できるものの、溶融金属中では大きな浮力が働くため、中空径が大きい程あるいは材質の密度が小さい程、軸部摩擦抵抗が大きくなるという課題があった。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、慣性モーントの低減と軸部摩擦抵抗の低減とを両立できる案内ロールおよび溶融金属鍍金装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の案内ロールは、搬送される帯状材を液状体中で案内するものであって、
該案内ロールが円筒体と、該円筒体の中心部に配置された円柱体とを具備し、
且つ、該案内ロールの比重が、前記液状体の比重と略同一であることを特徴とする案内ロール。
(2)また、前記液状体が溶融している金属であることを特徴とする。
(3)また、前記溶融している金属が、亜鉛または亜鉛合金であることを特徴とする。
【0006】
(4)本発明の溶融金属鍍金装置は、溶融している金属を貯蔵する溶融金属槽と、
前記溶融している金属内に配置され、侵入した前記帯状材を前記溶融している金属外に引き上げる方向に方向変換するシンクロールと、
前記溶融している金属内に配置され、前記シンクロールによって方向変換された前記帯状体を案内するサポートロールと、
前記溶融している金属の上方に配置され、引き上げられた前記帯状体に付着した前記溶融している金属の一部を除去するワイピング装置と、
を有する帯状材に金属を鍍金する溶融金属鍍金装置であって、
前記サポートロールが前記(1)〜(3)の何れかに記載の案内ロールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
(i)したがって、本発明の案内ロールは、円筒体と該円筒体の中心部に配置された円柱体とを具備するから、慣性モーメントおよび比重のそれぞれを別個に所望の値に設定することができる。
(ii)また、案内ロールの比重が液状体の比重と略同一であるから、かかる液状体に浸漬した際、軸受に作用する自重を限りなく0(ゼロ)にすることができる。なお、本発明における「略同一」とは、前記のように軸受に作用する自重が実質的に無視可能な程度であることを指す。
(iii)また、前記液状体が溶融している金属であるから、溶融金属装置における鍍金槽に設置されるサポートロール(コレクトロールに同じ)に好適である。
(iv)また、前記溶融している金属が亜鉛または亜鉛合金であるから、溶融亜鉛鍍金装置に設置されるサポートロール(コレクトロールに同じ)に好適である。
【0008】
(v)さらに、本発明の溶融金属鍍金装置は、溶融金属槽に配置されるサポートロールが前記(i)〜(iv)の何れかに記載の案内ロールであるから、慣性モーントの低減と軸部摩擦抵抗の低減とが両立され、帯状材にスリ疵が発生することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施の形態1]
(案内ロール)
図1は本発明の実施の形態1に係る案内ロールを模式的に説明する構成図である。図1において、案内ロール(以下「ロール」と称す)10は、円筒部1と、円筒部1の両端に設置された円盤部2と、円筒部1とは反対の方向に向けて円盤部2に設置された軸部3と、円筒部1の内部に収納されて円盤部2に設置された円柱部4とを有している。
したがって、円筒部1の外径および内径に加え、円柱部4の外径を選択することによって、慣性モーメント(定性的に「GD2(ジーデースクエア)に同じ)および密度のそれぞれを所望の値に設定することができる。また、円筒部1を低密度の材質で形成し、一方、円柱部4を高密度の材質で形成すれば、密度を一定の値に維持したままで、極めて低い慣性モーメントのロールを得ることができる。
【0010】
(案内ロールに作用するトルク)
図2は本発明の実施の形態1に係る案内ロールの使用状態を模式的に説明する側面図である。図2において、図示しない溶融した亜鉛中に無駆動のロール10が配置され、ロール10は、張力Tでもって引っ張られている鋼帯20を、点線で示される鋼帯20のパスラインよりも水平方向に一定量押し込むことにより案内している。
そうすると、ロール10(外径=D1、内径=D2、長さ=L)には、水平方向に下記押付力Fxが作用するから、これによって、押付力による駆動トルクTaが作用する。
押付力: Fx=2・T・sin(θ) ・・・・式(1)
駆動トルク:Ta=(D1/2)・ μ1・Fx ・・・・式(2)
=2・(D1/2)・ μ1・T・sin(θ) ・・・式(3)
ただし、μ1はロール10と鋼帯20との摩擦係数、θは鋼帯20のロール10への巻き付き角度の1/2であって、鋼帯20の押し込み量(インターメッシュ、「IM」と表示する)に対応している。
【0011】
また、案内ロール10には、その回転数(角速度に相当する)が変動する際、下記ロール慣性トルクTiが作用する。
慣性トルク: Ti=(GD2/374)・(dN/dt) ・・・・式(4)
GD2=(π/8)・ρ・(D14−D24)・L ・・・・式(5)
ただし、ρはロール10の材質の密度である。
【0012】
さらに、案内ロール10には、亜鉛の粘性による下記粘性抵抗トルクTn、および軸受部の摩擦による下記軸受摩擦抵抗トルクTfが作用する。
粘性抵抗トルク: Tn=4・π・η・ω・(D1/2)・2・L ・・式(6)
軸受摩擦抵抗トルク:Tf=μ3・(Fc/2)・(D3/2) ・・式(7)
ただし、ηは溶融亜鉛の粘性係数、ωはロール10の回転角速度、μ3は軸部3とこれを支える軸受との摩擦係数、D3は軸部3の外径、Fcは押付力Fxと、ロール10の溶融亜鉛中における重量(=大気中における自重−溶融金属中で作用する浮力、以下「浴中重量」と称する)Fyとの合力である。
【0013】
(案内ロールの回転可能条件)
スリ疵は前述のように、ロール10の周速と鋼帯20の搬送速度とが相違する場合に発生する。すなわち、搬送されている鋼帯20に当接して、ロール10が回転する以下の条件の場合にスリ疵は発生しない。
加減速時 :Ta>Ti+Tn+Tf ・・・・・式(8)
定常速度時:Ta>Tn+Tf ・・・・・式(9)
【0014】
図3は、本発明の実施の形態1に係る案内ロールの回転可能領域を張力TとインターメッシュIMとの関係で示す回転性比較図である。すなわち、図中、右下がりの曲線の上方の領域においては、駆動トルクTaが回転抵抗トルクよりも大きいから前述の回転可能条件が満足される。
たとえば張力が同じとき、インターメッシュIMが大きい程(巻き付き角度が大きいに同じ)、押付力Fxが増して、駆動トルクTaも大きくなって、ロール10は回転し易く、スリ疵は発生し難くなる。一方、インターメッシュIMが同じときは、張力が大きくなる程、駆動トルクTaも大きくなって、ロール10は回転し易く、スリ疵は発生し難くなる。
【0015】
(実施例)
表1は、本発明の実施の形態1に係る案内ロールの実施例の諸元を示している。すなわち、本発明の案内ロールC、Dは、中空ロールであって、内径および円柱体(「鉄芯」と称している)が、案内ロールCは120mmおよび80.13mm、案内ロールDは、150mmおよび120.5mmである。また、比較ロールAは中実ロール、比較ロールBは、鉄芯を具備しない中空ロールである。
【0016】
【表1】

【0017】
(実施例)
図4は、表1に示す実施例について、(a)はGD2、(b)は浴中重量を示す比較図である。
図4の(a)において、ロールA〜DのGD2は、いずれも、23kgf・m2 程度であるのに対し、図4の(b)において、浴中重量が大幅に相違している。すなわち、中空ロールBは浴中重量がマイナスになっているから、ロール10には浮き上がろうとする力が作用している。
また、鉄芯ロールCとDとは、GD2が22.73kgf・m2と22.04kgf・m2で、浴中重量が−0.07kgfと−0.07kgfである。すなわち、両者は、同じ浴中重量であるが、鉄芯外径が大きい鉄芯ロールDの方がGD2が小さくなっている。
【0018】
(実施例の回転可能領域)
図5および図6は、表1に示す実施例についての回転可能領域を示す回転性比較図であって、図5は加減速時、図6は鋼帯が一定速度で搬送されている時である。
図5において、比較ロールである中実ロールA、中空ロールB、本発明の鉄芯ロールC、および鉄芯ロールDの順番に、回転可能領域が拡大している。すなわち、本発明の鉄芯ロールC、Dは、浴中重量がほとんどゼロ(Fy=0に準じる)であるから、式(7)中の合力Fcの値が小さくなり、軸受摩擦抵抗トルクTfの値が小さくなっている。
このため、比較的小さな張力あるいは比較的小さなインターメッシュIMでもって、ロール10は回転可能になっている。また、回転不良領域では鋼帯速度とロール速度との間に速度差が生じ、鋼帯にスリ疵が発生することとなるが、本発明の鉄芯ロールC、Dはこの回転不良領域が比較ロールA、Bよりも狭く、スリ疵対策として有効であることがわかる。
【0019】
図6において、鋼帯20が一定速度で搬送されている時、本発明の鉄芯ロールCおよび鉄芯ロールDは、僅かのインターメッシュIMでもって、回転可能になっている。
なお、鉄芯ロールCに比較して鉄芯ロールDの方が回転加工領域が広いのは、後者の方が前者よりも、GD2が小さいためである。
したがって、鉄芯ロールとしては、浴中重量をゼロ(0)としつつ、鉄芯外径を大きく、円筒部内径を大きく(円筒部肉厚を薄く)することが好ましいことが分かる。
【0020】
[実施の形態2]
(溶融金属鍍金装置)
図7は本発明の実施の形態2に係る溶融金属鍍金装置を模式的に説明する構成図である。図1において、溶融金属鍍金装置100は、溶融している亜鉛または亜鉛合金(以下「溶融亜鉛」と称す)Mを貯蔵する溶融金属槽90と、溶融亜鉛Mに下端部が浸漬し、溶融金属Mに侵入する前の鋼帯20を包囲して鋼帯20の酸化を防止するスナウト30と、溶融亜鉛M内に配置され、侵入した鋼帯20を溶融金属Mの外に引き上げる方向に方向変換するシンクロール40と、溶融亜鉛M内に配置され、シンクロール40によって方向変換された鋼帯20を案内する一対のサポートロール(コレクトロールに同じ)50と、溶融金属Mの上方に配置され、引き上げられた鋼帯20に付着している余剰の溶融金属Mを除去するワイピングノズル60(ワイピング装置に同じ)と、を有している。
そして、一対のサポートロールの一方または両方が、実施の形態1に示す案内ロール10によって形成されている。
【0021】
したがって、前述のように、案内ロール10は、僅かのインターメッシュIMでもって、ロール10は回転可能になっているから、鋼帯20のサイズや鋼種が変動しても、回転可能であって、スリ疵の発生を防止することができる。
たとえば、鋼帯の張力が3000kgfの場合、加減速時に、従来の案内ロールでは15.5mm程度の押し込み量(インターメッシュIMに相当する)を必要としていたのが、本発明の案内ロールでは13.5mm程度に減少している。さらに、一定の搬送速度の時には、従来の案内ロールでは14mm程度の押し込み量(インターメッシュIMに相当する)を必要としていたのが、本発明の案内ロールでは0.4mm程度に大幅に減少している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は以上であるから、慣性モーメントおよび比重のそれぞれを別個に所望の値に設定することができるから、各種案内ロールとして、また、溶融金属に浸漬された際、軸受に作用する自重が実質的に無視可能になるから、各種溶融金属を鍍金する溶融亜鉛鍍金装置として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1に係る案内ロールを模式的に説明する構成図。
【図2】図1に示す案内ロールの使用状態を模式的に説明する側面図。
【図3】図1に示す案内ロールの回転可能領域を張力TとインターメッシュIMとの関係で示す回転性比較図。
【図4】実施例について、GD2と浴中重量とを示す比較図。
【図5】実施例について、回転可能領域を示す回転性比較図(加減速時)。
【図6】実施例について、回転可能領域を示す回転性比較図(一定速度)。
【図7】本発明の実施の形態2に係る溶融金属鍍金装置を模式的に説明する構成図。
【符号の説明】
【0024】
1 円筒部
2 円盤部
3 軸部
4 円柱部
10 案内ロール
20 鋼帯
30 スナウト
40 シンクロール
50 サポートロール(コレクトロール)
60 ワイピングノズル
90 溶融金属槽
100 溶融金属鍍金装置
Fx 押付力
Fy 浴中重力
Fc 合力
IM インターメッシュ
T 張力
Ta 駆動トルク
Ti ロール慣性トルク
Tn 粘性抵抗トルク
Tf 軸受摩擦抵抗トルク
A 中実ロール(比較ロール)
B 中空ロール(比較ロール)
C 鉄芯ロール(本発明ロール)
D 鉄芯ロール(本発明ロール)
M 溶融亜鉛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される帯状材を液状体中で案内する案内ロールであって、
該案内ロールが円筒体と、該円筒体の中心部に配置された円柱体とを具備し、
且つ、該案内ロールの比重が、前記液状体の比重と略同一であることを特徴とする案内ロール。
【請求項2】
前記液状体が溶融している金属であることを特徴とする請求項1記載の案内ロール。
【請求項3】
前記溶融している金属が、亜鉛または亜鉛合金であることを特徴とする請求項2記載の案内ロール。
【請求項4】
溶融している金属を貯蔵する溶融金属槽と、
前記溶融している金属内に配置され、侵入した前記帯状材を前記溶融している金属外に引き上げる方向に方向変換するシンクロールと、
前記溶融している金属内に配置され、前記シンクロールによって方向変換された前記帯状体を案内するサポートロールと、
前記溶融している金属の上方に配置され、引き上げられた前記帯状体に付着した前記溶融している金属の一部を除去するワイピング装置と、
を有する帯状材に金属を鍍金する溶融金属鍍金装置であって、
前記サポートロールが請求項1乃至3の何れかに記載の案内ロールであることを特徴とする溶融金属鍍金装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−270244(P2007−270244A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96866(P2006−96866)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】