説明

桐材を用いた防火ドア

【課題】開閉時の操作性が良好な軽量な木製ドアであると共に、優れた防火性能が具備されている他、外観においても桐材における木目模様の美観を有した桐材を用いた防火ドアを提供する。
【解決手段】アルミハニカム2の上下左右側縁には、中空なアルミフレーム枠材3がシリコーン樹脂系接着剤によって取着され、更にまた、アルミハニカム2及びアルミフレーム枠材3を含んだ表裏主面には桐板4がシリコーン樹脂系接着剤によって接着サンドされてサンド構造体が形成され、続いて、サイド構造体の上下左右側縁にシリコーン樹脂系接着剤を塗布して上枠材5、下枠材6、右枠材8、左枠材7が取着される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火剤処理液を含浸した桐材を用い、防火性に優れた桐材を用いた防火ドアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高層建築物、デパート、ホテルなどの大勢の利用者が集積しやすい施設においては、一度火災が発生すると甚大な被害が予想されることから、消防法により防火ドアを備えることが義務づけられている。これにより、万一火災が発生した場合であっても延焼防止により、最小限の被害に止められるよう配慮されている。また、実際に火災が発生した場合には、その熱によって環境は数百度以上の温度となるため、防火ドアに求められる性能としては、遮炎性、遮煙性、遮熱性、耐熱性等が挙げられている。そこで、従来防火ドアとしては、金属製のものが広く普及している。
【0003】
一方、近年、木材を主体とした木製ドアが脚光を浴びている。これは、木製独特の木目模様の美観、熱伝導率が低いという素材的特徴、加工の容易さ等といった点が再評価されたためと考えられる他に、国土交通大臣の認定を受けることによって、耐火建築物・準耐火建築物の防火ドアとして使用できるようになったという背景も認められる。
【0004】
そこで、木製防火ドアに関する発明として、特開平7−293127号が挙げられる。当該発明は、ドアを構成する主要部材となる芯材に、歪が生じにくく比重の小さい難燃性の桐材を用い、木製防火ドアを軽量化すると共に、建物が火災にあった際に、木製防火ドアがその芯部まで完全燃焼し尽くしたり大きく歪んだりするのを防ぐものであり、上記芯材の表裏面には不燃紙を介して、化粧板をそれぞれ貼着し、上記不燃紙で木製防火ドアの耐火性を高めるようにしたものである。また、上記発明の特徴的な効果は、従来の金属製の防火ドアに比べ
断然軽量であることが挙げられる。ここで、防火ドアの外周囲に金属製枠を固定したものは、耐熱性の点では問題はないが、必然的に重いという欠点がある。特に、通常のドアは回転可能な蝶番を中心軸にして開閉するため、中心軸の回りの慣性モーメントの大小がドアの操作性に大きく影響している。即ち、ドアの慣性モーメントは、中心軸から質点までの距離の二乗に比例している。よって、ドアの外周面に重量物を固定するほど、ドアの開け閉めの際の操作性が悪化するという課題があった。
【特許文献1】特開平7−293127号
【0005】
一方、上記特開平7−293127号に係る発明に中で、芯材として選択された桐はゴマノハグサ科の落葉高木であり、その特徴は成長が早く、幹は高さ10mにも達するものである。また、桐材は比重が0.31と樹木の中で最も軽く、木目が美しく、材としての狂いが少ないことが特徴と考えられる。更に、充分に乾燥処理した桐材は伸縮率・収縮率が小さく、湿度の通過性や熱伝導率がきわめて小さいという特性を有しているため、古来からその用途としては箪笥、刀剣、掛け軸など高級貴重品を収納するための箱、琴・琵琶等の楽器、下駄等の日用品に至るまで広範囲な使用が成されている。ここで、桐材の熱伝導性と吸水性に係る独特な特徴は、桐の導管の構造に理由があることが研究によって判明している。即ち、普通の木材は導管が木の成長方向に形成されると共に互いに絡み合い干渉し合っている構造となっているが、これに対して桐は木の成長方向に対して垂直に連続した袋状の導管を形成していると共に導管同士の干渉がない独立した構造となっている。ここで、上記連続した袋状の導管内には空気や水分等が溜め込まれている。このような特殊な構造であるが故、桐材は一般の木材に比べ乾燥時間が約3倍程も要す結果となっている。また、桐材の熱伝導率は、0.063Kcal/mh°Cであって、パーティクルボードを構成するブナ、マカンバ、ミズナラ、ケヤキ等の通常汎用される木材の熱伝導率の0.117〜0.123Kcal/mh°Cに比べても大幅に低く、このことは桐材が熱を伝え難いことを示している。更に、桐材は耐火性にも優れており、その発火点は400°C以上といわれており、仮に着火した場合にも炭化することから、燃え難いという性質をもっている。
【0006】
更に、本発明者らは、桐材の不燃化に対する研究において、含水率を9%以下に十分乾燥させた桐材を減圧条件下で防火薬剤に浸漬した後、防火薬剤に浸漬したまま所定圧毎に段階的に加圧を行なう方法によって、桐材に対する防火薬剤の含浸作用が極めて有効に改善され不燃性が付与されると共に桐材としての美観溢れる木肌を維持した桐材が得られるとの知見を得ている。具体的に、その防火性桐材は、桐材を乾燥して含水率9%以下と成した後、当該桐材を液温40〜70°Cの耐火剤溶液中に減圧下30〜40torrで6〜12時間浸漬し、次に常圧に戻し、その後所定圧力毎に段階的に圧力を付与し最高10気圧まで加圧した状態で6〜12時間浸漬して、続いて上記桐材を上記耐火剤液から取り出し、常温で20〜30日間乾燥させ、更にまた50〜80°Cで6〜12時間乾燥して、含水率を18%以下となしたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景技術の項に記載の特開平7−293127号に関する木製防火ドアは、桐の小片木や桐の間伐材を寄せ集めてなる集成材や桐の板材をドアの芯材に用い、当該芯材の表裏面にノンアスベストの無機シート等の不燃紙を介して化粧板を貼着したものとされている。また、このようにして製作された木製防火ドアは、高さ2,100mm×幅900〜950mm×厚さ40〜43mmの通常の大きさのもので、その重量を36kg程度まで軽量化することができると記載されているが、未だ過重量でありドアの開閉の際の操作性が悪いという課題がある。更に、上記木製防火ドアは防火ドアとしての防火性能についても満足される域には至っていないとの課題がある。そこで、本発明は上記従来技術の課題等に鑑みる共に、上記記載の本発明者らの桐材の不燃化に対する継続的研究に基く種々の知見から成されたものであり、その目的とするところは、開閉時の操作性が良好な軽量な木製ドアであると共に、優れた防火性能が具備されている他、外観においても桐材における木目模様の美観を有した桐材を用いた防火ドアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかして、本発明は、上記の目的を達成するため、下記に記載の構成より成る。
【0009】
即ち、本発明に係る桐材を用いた防火ドアは、上下方向及び横方向に区画された複数の小室を形成するハニカム構造からなる芯材の上下左右側縁に中空なアルミフレーム枠材を取着し、次に上記芯材及び枠材を含んだ表裏主面を桐板により接着サンドし、更に当該接着サンドされた構造体の上下左右側縁に桐の枠材を取着したことを第一の要旨とする。
【0010】
ここで、上記本発明に係る桐材を用いた防火ドアにおいて、ハニカム構造からなる芯材とアルミフレーム枠材との取着、上記芯材及び枠材を含んだ表裏主面と桐板との接着、及び接着サンドされた構造体と桐の枠材との取着が、シリコーン樹脂系接着剤によって接着されたものとすることができる。
【0011】
更に、上記本発明に係る桐材を用いた防火ドアにおいて、桐板及び桐の枠材を、含水率を9%以下に十分乾燥させた桐材を減圧条件下で防火薬剤に浸漬した後、防火薬剤に浸漬したまま所定圧毎に段階的に加圧を行なう方法によって製造された桐板及び桐の枠材とすることができる。
【0012】
続いて、上記本発明に係る桐材を用いた防火ドアにおいて、桐板及び桐の枠材を、桐材を乾燥して含水率9%以下と成した後、当該桐材を液温40〜70°Cの耐火剤溶液中に減圧下30〜40torrで6〜12時間浸漬し、次に常圧に戻し、その後所定圧力毎に段階的に圧力を付与し最高10気圧まで加圧した状態で6〜12時間浸漬して、続いて上記桐材を上記耐火剤液から取り出し、常温で20〜30日間乾燥させ、更にまた50〜80°Cで6〜12時間乾燥して、含水率を18%以下に調整することにより製造された桐板及び桐の枠材とすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る桐材を用いた木製防火ドアは、その構造体の芯材にハニカム構造体を採用したので、防火ドアの重量を格段に軽減化することができ、一般に普及しているスチール製の防火ドアに比較し、ドア開閉時の操作性が頗る向上するという効果がある。
【0014】
更に、本発明に係る桐材を用いた木製防火ドアでは、桐板を防火ドアの表裏面に接着したので、桐板特有の木目模様の美観を外観に呈し、観る者に暖かみと温もりを看取させるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。先ず、本発明に係る桐材を用いた木製防火ドアに使用される桐板及び桐の枠材は、特に不燃化処理を行っていない桐材であっても、不燃化処理を施した桐材であっても良い。この最良の形態においては、不燃化処理を施した桐材を使用する場合について説明するものとする。
(桐材の不燃化処理について)
含水率が9%以下となった桐材を、液温40〜70°Cのホウ酸及び水溶性ホウ酸塩並びに水溶性燐酸塩と水溶性アルカリ金属珪酸塩の混合水溶液からなる耐火剤溶液中に減圧下30〜40torrで6〜12時間浸漬する。続いて、上記桐材を耐火剤溶液中に浸漬したまま、常圧に戻した後、30〜60分の間隔をおいて2〜3気圧毎に段階的に圧力を付与し最高10気圧まで加圧した状態で6〜12時間浸漬する。更にその後、上記桐材を上記耐火剤液から取り出し、常温で20〜30日間乾燥させ、更に続いて50〜80°Cで6〜12時間乾燥させて、含水率を18%以下の桐材として不燃化処理を実施する。
【0016】
(桐材を用いた防火ドアの製造について)
次に、上記不燃化処理を実施した桐材を適宜に切削加工して、本発明に係る桐材を用いた防火ドアに使用される桐板及び桐の枠材を得ると共にアルミ製のハニカム構造体を芯材の所用寸法に切削加工する。続いて、当該芯材の上下左右側縁に中空なアルミフレーム枠材をシリコーン樹脂系接着剤によって接着して取着する。更に、上記芯材及び当該芯材に取着された枠材を含んだ表裏主面に桐板をシリコーン樹脂系接着剤によって接着サンドしてサンド構造体とする。そして更に、当該サンド構造体の上下左右側縁にシリコーン樹脂系接着剤を塗布して桐の枠材を取着してドアを製造する。
【実施例1】
【0017】
以下、実施例を参照して更に本発明について詳説するものとする。
【0018】
先ず、図3は本発明に係る桐材を用いた防火ドアの概要図である。図示のように、本発明に係る桐材を用いた防火ドア1は、表面側に桐板4が接着された芯材に、上枠材5、下枠材6、右枠材8、左枠材7からなる枠材が組みつけられものである。また、図中の符号9は当該桐材を用いた防火ドア1における、ドアノブ9を示しているが、特に限定されるものではない。なお、桐材を用いた防火ドア1は、高さ2300mm、横1000mm、厚さ44mmで、重量35kgである。
【0019】
続いて、図1及び図2は、本発明に係る桐材を用いた防火ドアの概要図のA−A断面図及びB−B断面図である。図示のように、本発明に係る桐材を用いた防火ドア1の芯材には、上下方向及び横方向に区画された複数の小室を形成するアルミハニカム2が使用されている。更に、このアルミハニカム2の上下左右側縁には、中空なアルミフレーム枠材3がシリコーン樹脂系接着剤によって取着され、更にまた、アルミハニカム2及びアルミフレーム枠材3を含んだ表裏主面には桐板4がシリコーン樹脂系接着剤によって接着サンドされてサンド構造体が形成され、続いて、上記サイド構造体の上下左右側縁にシリコーン樹脂系接着剤を塗布して上枠材5、下枠材6、右枠材8、左枠材7が取着されている。以上のようにして製造された本発明に係る桐材を用いた防火ドア1には、ドア枠が具備されて建屋内のドア嵌込み部に固定して据え付けられるようになる。また、その用途としては居室の出入口などに設けられる内装用ドアや、玄関及び勝手口などに設けられる外装用ドアとして採用することができる。
【0020】
一方、本発明に係る桐材を用いた防火ドアに使用される桐板及び桐の枠材に対して、特に不燃化処理を行っていない桐材を使用して防火ドアを製作した。この桐材を用いた防火ドアの片面にバーナーにより800°C前後の火炎を20分間照射し続け、その耐火性を検証したところ、非加熱側からの炎や煙の発生は全く観察されることがなく、更に3kの砂袋をドアに打倒する破壊試験においても破壊は観察されず、防火ドアとして良好な結果を得た。
【0021】
更に、本発明に係る桐材を用いた防火ドアに使用される桐板及び桐の枠材に対して、前記(桐材の不燃化処理について)において説明の不燃化処理を施した桐材を使用して防火ドアを製作した。この桐材を用いた防火ドアの片面にバーナーにより800°C前後の火炎を60分間照射し続け、その耐火性を検証したところ、非加熱側からの炎や煙の発生は全く観察されることがなく、更に3kgの砂袋をドアに打倒する破壊試験においても破壊は観察されず、防火ドアとして非常に良好な結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係る桐材を用いた防火ドアによれば、従来の木製防火ドアに比べ重量の低減が図られたことによって、ドア開閉時の操作性が良好に改善されたと共に、優れた防火性能が具備されている。更に、伝統的な和室空間においても桐材における木目模様の美観を有した木製防火ドアを提供することができるのであって、高層建築物、デパート、ホテルなどの大勢の利用者が集積しやすい施設は基より、公共施設の防火ドアとしても好適に採用され得て、その利用範囲は多彩である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る桐材を用いた防火ドアの概要図のA−A断面図。
【図2】本発明に係る桐材を用いた防火ドアの概要図のB−B断面図。
【図3】本発明に係る桐材を用いた防火ドアの概要図。
【符号の説明】
【0024】
1 本発明に係る桐材を用いた防火ドア
2 アルミハニカム
3 中空なアルミフレーム枠材
4 桐板
5 上枠材
6 下枠材
7 左枠材
8 右枠材
9 ドアノブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向及び横方向に区画された複数の小室を形成するハニカム構造からなる芯材の上下左右側縁に中空なアルミフレーム枠材を取着し、次に上記芯材及び枠材を含んだ表裏主面を桐板により接着サンドし、更に当該接着サンドされた構造体の上下左右側縁に桐の枠材を取着したことを特徴とする、桐材を用いた防火ドア。
【請求項2】
ハニカム構造からなる芯材とアルミフレーム枠材との取着、上記芯材及び枠材を含んだ表裏主面と桐板との接着、及び接着サンドされた構造体と桐の枠材との取着が、シリコーン樹脂系接着剤によって接着されたものであることを特徴とする、請求項1記載の桐材を用いた防火ドア。
【請求項3】
桐板及び桐の枠材を、含水率を9%以下に十分乾燥させた桐材を減圧条件下で防火薬剤に浸漬した後、防火薬剤に浸漬したまま所定圧毎に段階的に加圧を行なう方法によって製造された桐板及び桐の枠材としたものであることを特徴とする、請求項1乃至請求項2記載の桐材を用いた防火ドア。
【請求項4】
桐板及び桐の枠材を、桐材を乾燥して含水率9%以下と成した後、当該桐材を液温40〜70°Cの耐火剤溶液中に減圧下30〜40torrで6〜12時間浸漬し、次に常圧に戻し、その後所定圧力毎に段階的に圧力を付与し最高10気圧まで加圧した状態で6〜12時間浸漬して、続いて上記桐材を上記耐火剤液から取り出し、常温で20〜30日間乾燥させ、更にまた50〜80°Cで6〜12時間乾燥して、含水率を18%以下に調整することにより製造された桐板及び桐の枠材としたものであることを特徴とする、請求項1乃至請求項2記載の桐材を用いた防火ドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−174931(P2008−174931A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7781(P2007−7781)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(507017875)株式会社 有紀 (2)
【Fターム(参考)】